FC2ブログ
07 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 09

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

ようこそお越しくださいました(道先案内) 

DSC_0125_convert_20130120073321_convert_20130630172621.jpg縺ォ繧・s縺歙convert_20130630173020
この記事は表紙として常にトップにあります。通常記事は次の記事からです。
こちらは、掲載している小説などのあらすじ・紹介リストです。
掌編から長編まで取り揃えています。
お時間がありましたら、ぜひ『続きを読む』をクリックして覗いてみてください(^^)
なお、左のカテゴリからクリックすると、物語を始めから読むことができます。

ねこ好きの方は……【迷探偵マコトの事件簿】で猫ブログ感を…
旅好きの方は……【石紀行】で巨石を巡る不思議な旅へ…
本格的な物語をという方は……【清明の雪】で京都ミステリーを…

-- 続きを読む --
スポンサーサイト

Category: 道先案内

tb 0 : cm 47   

【雪原の星月夜-2-】 第1章 月の船(2) 夫婦の問題 

【雪原の星月夜】2回目です。今回も長さは6200字あまり、偶然前回と同じくらいになりました。私のワンシーンに丁度いい長さなのかも? そして、今回は真の妻・舞が初登場です。今回は彼女自身の事も夫婦関係も、まだぼんやりとした輪郭しか描いていませんが、何となく雰囲気を掴んで頂けたら、と思います。
それにしても、ここから読み始めたら、真ってどんなに悪いやつ……って思われちゃうんだろうな。それでも、もう今更カッコイイ男に書き換えることはできませんし。

何というのか、壊れれば壊れるほど、深みにはまればはまるほど、そして穢れれば穢れるほど、透明になっていく。真というのはそういう人間かもなぁと、読み返してみて思っています。

ところで、舞はこう見えて結構料理は上手なんですよ。もちろんそれが理由で結婚したわけではありませんが、なぜか、真と一緒に住む相手は料理上手。竹流(料理は趣味。ついでにレストランのオーナー)、妹・葉子ちゃん(竹流が料理の先生)、そして嫁。
一方で美和ちゃん(事務所の自称・秘書)はかなり自己流(というよりも爆発系?)、ついでに珠恵(竹流の≒嫁)も自分で料理はしないなぁ(芸妓だし、料理よりも大事な事があるし、和枝さんがいるし)。

【真シリーズについて】
【雪原の星月夜】の登場人物紹介はこちら→【雪原の星月夜】(真シリーズ)登場人物紹介
万が一、前作【海に落ちる雨】に挑戦したいと考えてくださる方は→左のカラム・カテゴリから選択してくださいね。
【海に落ちる雨】部分読みも可能
【海に落ちる雨】始章:竹流と真の生い立ち
【海に落ちる雨-52-】第9章 若葉のころ:真の中学生の頃。
【海に落ちる雨-59-】第11章 再び、若葉のころ:真が高校生の頃。
『若葉のころ』には真の学生時代が登場、今回の物語で登場する母校の院長(校長)先生や灯妙寺も少し登場。



【雪原の星月夜・第1節】 第1章 月の船
(2) 夫婦の問題
 

 車に乗ったまま灯妙寺の古い門を潜ると、高々塀一枚の力ながら、突然に外界の喧騒から切り離される。
 十メートルほども進むと、十台ばかり車が停められるようになった野晒しの砂利敷きの駐車スペースがある。その隅の、高い木々に覆われた場所に真は車を停めた。今日は若住職の車も出ているし、住職の原付もなかった。来客の車もない。年末が近いだけに、誰も彼も忙しいのだろう。

 エンジンを止めた後も、真はまだしばらく車の中に座っていた。フロントガラスに枯葉が音もなく落ちて、一度何かを確かめるように留まり、やはり音のない風に煽られて舞い上がって消えた。
 どうにも靄が晴れないまま、真は煙草に火をつけた。
 一体、どういうことだろう。『宇宙力学論』は父の本ではなく、失踪した伯父の本だった。それにまさにあれは伯父の本だ。伯父が彼の本に入れていた印、丁寧に描かれたオリオン座の印は、そのマニアックなほどに正確な星の位置関係も含めて、確かに伯父の描いたものだった。

 伯父、相川功は、真が中学生の時に失踪している。そしてあの本は、伯父と一緒に消えてしまっていたはずだった。
 恐ろしくて確かめたことはなかったが、伯父は、真の父親の仕事のことで何か事件に巻き込まれて亡くなっているのではないかと、真は思っていた。
 伯父が死んだと思うことは救いでもあった。彼がこの世にいないと想像する悲しみよりも、生きているのに自分たちのところに帰ってきてくれないのなら、その方がずっと辛いからだった。
 少なくとも、功が生きていて日本国内にいたのなら、十五年も真や葉子に気配ひとつ見せないなんてことはないはずだ。

 伯父ではないとして、あの行旅死亡人、つまり身元不明の無縁死に至った人物が、同姓同名ではなく、本当に実父の相川武史である可能性があるだのだろうか。だが、彼が帰国しているという話は聞いていないし、もし本当に「相川武史」なら、前内閣調査室長代理の『河本』には本人確認が可能だ。
 真は、フロントガラスに遮られて行き場を失う紫煙をぼんやりと見つめていた。

 それにしても、『河本』は何故こんな回りくどい方法で真にこのことを知らせる必要があったのか。つまり、『河本』はそれが彼の知っている「相川武史」ではないことを確認済みなのだろう。
 もちろん、福嶋の言うとおり、単に釘を刺されたということは十分に考えられた。
『河本』は、真が「イタリアンマフィア」の跡継ぎ息子と別れて、少なくとも真っ当に結婚したことについて、彼なりに満足しているはずだった。それなのに、何を思って、裏社会の権力者の一人と言われる福嶋鋼三郎と会っているのか、もちろんただ会っているわけではないことまでも含めて、とんでもなく気に入らないということを真に示したいだけなのかもしれない。

 伯父の本のことは気になった。だが、『河本』がぶら下げた餌にほいほいと食いつくのは我慢がならないような気がした。
 真は煙草を消した。車のドアを開けた途端、身体に冷やりと外気が纏わりつく。
 踏みしめる砂利がたてる音も、心なしか硬い。後ろめたい思いがそうさせるのか、何となく母屋には近づき難く、敷地の隅を辿りながら離れへ足を向けた。

 新婚生活は相川の家で始めたが、妻の流産をきっかけに灯妙寺の離れに移り住んだ。
 家賃は入れているが格安で、半分居候のようなものだ。住職は、時々子供たちに剣道を教える手伝いをしてくれたらそれでいいと言っている。ここに住み始めてまだ三ヶ月と経っていないが、もともと灯妙寺は、真にとって東京で心から安心して過ごすことができる数少ない場所のひとつだった。

 今、真と妻の舞が借りて住んでいる離れは、真が高校生の頃には、北海道の祖父母が借りていて、東京に来るときはここを住まいにしていた処だ。真も妹の葉子もこの離れを気に入っていたし、あの頃の真は多分、これまでの一生のうちで最も幸福な時を過ごしていたはずだった。
 だが、あれから十年以上経ってここに移り住んでから、改めて、真は自分があの時ほどには幸福ではないことを思い知った。
 自分の心にも身体にも沁みついている明らかな喪失感が何に因るのかは、真自身が最もよく分かっていた。そしてこの漠然とした不安に、妻が気が付かないでいるわけがない。

 離れの建物は木造二階建てで、L字型の内に折れ込んだ部分を、大きな楡の木に靠れ掛かるように預けていた。
 一階には玄関から続く次の間、台所とダイニング、小さな居間が玄関から庭に面して続く縁側に並び、L字に曲がった向こうに小さな座敷兼茶室があった。手洗いは離れの脇にもあったが、風呂は母屋に続く本堂の裏手で、母屋の人たちと共用だった。
 二階には和室が二つ並んでいる。まるで昔の旅籠の続き部屋のようにあっさりとした何もない部屋で、そのひとつを夫婦は寝室にしていた。
 その部屋で、妻の傍らで、真はいつも夢を見ていた。失ってしまった手がそこにあって、背中から冷たい身体を抱きしめてくれる夢を。

 小さな庭は梅の林に向かい合っている。春を告げる梅の仄かな香りは、無骨な真にとってさえ、早春の一番の楽しみで、まだ蕾さえはっきりしないのに、今からもう待ち遠しく思えた。
 そのL字に包み込まれた小さな庭に面した縁側に、六つ年下の妻が所在なさそうに座っていた。

 時々、真は自分がこの女を愛していると思い、時には疑っていると思い、そしてまた時には憎んでいるようにも思った。もし憎んでいるのだとしても、彼女に原因があるわけではなかった。理由を説明しろと言われても、明瞭に言葉で表すことはできない。それに、真以上に、彼女の方が真を憎んでいるかも知れない。

 舞はこの寒空をまるで気にするようでもなく、素足に履いたつっかけを、組んだ足の先でぶらぶらさせていた。
 足首が見える丈の履き古したジーンズに、白い長袖のTシャツ、その上にダウンジャケットを羽織っただけの格好で、膝に頬杖をついた右手に煙草を持っている。子どもを流産してから、止めていた煙草をまた吸っているようだが、それはたいてい夫への抗議のためなのだ。

 舞は真に気が付いてちらっと視線を向けたが、興味がなさそうにまた梅の木の方を見る。
 少女の頃はきつい化粧をしていたから、随分と大人に見えていたが、化粧をしていない彼女は幼く見える。長かった髪を、子どもを亡くした病院を退院した時に切ってしまったので、一見したところ、高校生に戻ったようだ。だが、その中で目だけは相変わらず強い光を宿しているのだった。
 彼女の長い髪を、真は気に入っていたような気がする。少なくとも出会った頃はそうだった。彼女が真に何も告げずにその髪を切ってしまったことについて、真はいくらか腹を立てたような気もするし、一方で自分が何か言える立場ではないという疎外感も覚えていた。

 退院し新しい住まいにやって来た舞は、亡くした子どものためだけではなく、他にも何かを弔うように、切った髪の一部を小さな白い陶器の入れ物に入れて鏡台の隅に置いていた。それは骨壺のようだった。
 そんなことをするような可愛げのある女には思えないが、それは真への抗議の手段のひとつなのか、それを見るたびに、真はこの女を哀れにも思い、一方で背中が冷たくなるような気もした。真と妻の最初の子どもは、もう性別も分かっていたのに、この世に生まれてくることはできずに、病院からの廃棄物として捨てられたのだった。

「電話もかけずに済まない。昨夜は遅くなったんで、もう寝てるかと思って」
 声が傷んだ咽喉から掠れて零れた。舞は夫のいいわけが終わるのを待たずに言葉をかぶせてきた。
「ご飯は?」
 出会った頃の乱暴な言葉遣いはいくらか矯正されていたが、それでもずいぶん棘がある。もっとも、後ろめたい気持ちが、真の聴覚機能に影響しているだけかもしれない。だいたい、妻がもう寝てるかもしれないから気を遣って昨夜は家に帰らなかった、などといういいわけが通用するはずもない。

 舞が朝食のことを聞いたのは、別に朝帰りをした夫に腹を立てているからではないのだろう。もちろん、夫を気遣ったわけでもない。ただ食事を作るという手続きが必要かどうか、それを確かめただけなのだ。
「顔を見に戻っただけなんだ」
 その時、舞は少しだけ不満な顔をしたように見えた。いや、不満なのか不安なのか、それすらも区別がつかなくなっている。そもそも、もともと口数の少ない夫が、妻を思いやるような言葉をかける時、下心がないなどと言えるだろうか。

 真は、でも少しなら事務所に出るのが遅くなってもいいか、と呟くように付け加えた。そして、自分がこの女の前で時折饒舌になるのは(あくまでも自分勝手な基準で)、後ろめたさ以外の何ものでもないと思った。
 舞は無表情のまま突っかけを沓脱ぎ石に脱ぎ捨てて、家の中に入っていった。突っかけは、ひとつは表を向いていたが、ひとつは裏返しになりかけの中途で妙なバランスのまま転がった。真はそれを揃えて、縁側からそのまま家の中に上がりかけた。

 不意に、耳元に何かが触れたような気がして振り返る。
 空には残月が白く浮かんでいた。霞んでうら寂しい白みがかった朝の青の中に、輪郭を溶け込ませた月が、微かにその存在を記している。台所の奥からガスコンロが点いた音、そして水道の音が重なる。
 縁側と居間を仕切るガラス障子は開け放しになったままだった。真は炬燵に足を入れて、座卓の上の新聞を取り上げた。視線だけで記事をなぞっていきながら、文字のひとつひとつを全く理解していない自分に気が付いたが、そのまま字面を追い続けた。

 包丁を動かすリズミカルで小気味よい音が鼓膜を震わせている。
 舞はもともと新宿のある店を中心に番を張っていたような少女だったが、あの頃から意外に包丁遣いは上手かった。それを指摘したら、刃物を使い慣れてるって言いたいのかと怖い顔で反撃された。そんなつもりではなかったので、そういう考えもあるか、と思って感心していたら、ずっと男に飯を作ってやってたからだと吐き捨てるように言った。

 彼女の言う男というのは、一人目は育ての親、それから彼女を利用し孕ませて捨てたろくでもない男のことだ。どちらも彼女に性的な暴力を振るっていたと言っていい。
 真が彼女と初めて出会ったのは彼女がまだ十七の時で、実の親が彼女を探しているからだったが、その時から大人の女のような振る舞いをする一方で、非常に幼く、感情をコントロールできない面を表に出すこともあった。

 どこか自分に似ていると思ったが、その時から彼女には真に最も欠けているものが備わっていた。
 生きることへの執着だ。自分をぼろぼろにして捨てたといい気分になっている連中に、いつか復讐してやる、飄々と生き抜いている姿を見せて、必ずあいつらをみんな足下に踏みつけてやると、そう思っているのだ。

 やがて包丁の音が止む。その時、閉めずに放っていたガラス障子の向こうの高い空を、鳥が横切った。その影や羽音を認識できるほどに、あたりは清明で静かだった。
 静けさは、身体のうちに鉛のように降り積もった痛みや悲しみを増幅させる。
 つい数時間前まで、福嶋をこの身体のうちに受け入れて、一晩中喘がされていたなどとは、到底自分でも思えなかった。身体は生物とは思えない傷み方をしているはずなのに、意外にも頑丈な本質があるのか、冷静でさえいれば醜態を露呈することなく妻と同じ空間にいることができる。
 俺は多重人格の一歩手前だな、と思うが、あるいは人というのは誰しもそんな要素を持っているのかも知れない。

 味噌汁と白御飯、焼き魚と茄子の漬物、わけぎのぬた和えを並べながら、舞が尋ねた。
「風邪、引いたのか」
 真は思わず身体が強張ったような気がしたが、次の瞬間にはすでに平静だった。己の罪を隠そうとする時、人は臆病になるか、あるいは極めてずうずうしくなるのか、どちらかなのだろう。
「ひと晩中歩き回っていたからかな」
 言葉を発したときには、真自身もその言葉が事実であると思い込むほどに、声には震えがなかった。

 犯罪や調査に関わる仕事をしている男や、医療に携わっている男というのは便利な言い訳を持っている。依頼者や患者のプライバシーを守る義務がある故に、一晩帰らなくても家族に詳しい話をしなくても構わないという前提があるのだ。舞も、何も聞いてこなかったが、たぶん夫のことを信じているからではないだろう。

 再会したのは、思わぬきっかけからだったが、その時、いずれ夫婦となる二人にはそれぞれ異なった事情があった。俗っぽく言うと、夫婦の間には始めから距離があったのだ。その距離は、子どもが生まれると分かった時に、もしかしたら真の思い込みだったのかもしれないが、消えないまでも明らかに小さくなった気がした。
 傍目には、愛し合っている仲の良い夫婦に見えていたことだろう。

 舞は風邪薬を出してきて、水の入ったコップを添えて座卓に置いた。幾分乱暴に置かれたコップの中で、水が波を作った。
 真は礼を言って、風邪ではないだろうと知りつつも薬を飲んだ。座卓の上の食器を片付ける妻の手に、真と同じ結婚指輪が曖昧な光を跳ね返している。

 一体この世のどれほどの夫婦が、確かな愛情を持って結婚に踏み切るのだろう。自分自身を考えても、夫婦というものは何を礎に成り立っている関係なのか、ただ不安に思う。いや、夫婦だけではない。人と人は一体何を信じて繋がっていればいいのだろう。あれほどにまで確かだと思っていた絆でさえ、継ぎとめることができなかった。
 この女は俺と結婚して満足なんだろうか。そもそもどうして結婚を決心したのだろう。俺を愛しているわけではないのに。

 真は舞の手を摑んだ。舞は不思議そうな顔で真を見た。脳はまだアドレナリンを持て余しているのだ。真は唐突に舞の身体を抱き寄せ、床に押し倒しジーンズの上から大腿を弄った。唇を求めながらジーンズのホックを外そうとすると、舞が思い切りかぶりを振って抵抗した。
「何すんだよ」
 舞は、今でも時々、夫に対してどういう言葉で話しかけるべきか、迷っているように見えるが、こういう時は昔の素の自分が出てしまうのだろう。

 もちろんとげとげしい会話が日常というわけではない。それでも確かに愛し合っていると思える瞬間はこれまで幾つもあった。今でさえ、夫婦は時々お互いへの隠された愛情を思い出したような会話を交わすこともある。子どもができると分かった時に、真はこの女と夫婦になってよかったと確かに思っていた。
 子どもを失った夫婦は不幸であることは間違いないが、子どもの不在が夫婦の良し悪しを決めるものではない。子どもを持てなかった夫婦の縁や愛情が薄いわけでもないだろう。

 それでも、真は自分がこれまでに犯してきたとてつもない罪が、あるいは人殺しの血が、子どもの命と引き換えにされたのではないかと感じていた。己の心を押し隠してこの女を妻にしたことが審判されて、子どもの命を代償にされたのだとしたら、いや、あるいは真はあの失った記憶の断裂の間で、本当ならもうこの世から失われている存在であり、己の遺伝子を残すことなどあり得ないのかもしれない。

 全てを、失った子どものせいにするのは間違っている。だが、子どもを失ってから、舞とは夜の営みを一度としてしたことがなかった。何より、子どもを失うことで、後ろめたい思いを抱えることになった。どこかで、今なら引き返せるのではないかと思っている。その真の秘めた想いがあの子どもを殺したに違いない。
「寝不足で、ちょっと興奮気味なんだ。すまない」
 本当は謝ってしまわないほうが良かったのだろう。真が舞の身体を抱き起こすと、彼女はするりとその腕から逃れていった。

Category: ☆雪原の星月夜 第1節

tb 0 : cm 4   

【石紀行】46.和歌山新宮・ゴトビキ岩~熊野信仰発祥の地~ 

ゴトビキ岩8
ゴトビキ、というのはヒキガエルのこと。この岩の形がカエルに見える、といわれてみればそんな気もしますが、微妙? 上に乗っかった岩が見えると、確かにそう見えなくもないかな。
ここは和歌山県新宮市、神倉神社です。
この岩が初めて記録に登場するのは『日本書紀』。イワレビコ(磐余彦、のちの神武天皇)が東征中、もともとは難波から大和国に入ろうとしたのをナガスネビコの反撃にあい、その後、熊野から大和国に入った時の記述の中に出てくるのです。
「熊野の神邑に到り、即ち天磐盾に登る」……神邑は神倉山一帯の集落、そしてこの「天磐盾」こそゴトビキ岩で、即ち神武天皇が初めて紀伊半島に入った地ということなのです。現在では熊野三山のひとつ、熊野速玉神社の摂社ですが、御由緒では熊野の神が最初に降臨した場所がこのゴトビキ岩ということになっています。
つまり熊野信仰の発祥の地といっていいのですね。

まずは熊野速玉神社の神さまにご挨拶に伺いましょう。
熊野速玉神社1
以前、熊野に来たときは、余り時間が無くて本宮にしかお参りしなかった不埒な私でしたが、ようやく不義理の半分をお詫びできました。那智は子どもの頃行ったきりだから、こちらはまだ不義理中。
熊野速玉神社2
こちらにはご神木の梛の木(ナギ)があって、お守りにもナギの葉っぱの形を模してあったり、実が使われていたりします。そのナギの木がこちら。
ナギの木
(limeさん、お庭に植えたナギの木が育たなくて良かったかも^^; そういえば昔、「この木何の木、気になる木」で有名な木の苗を通販で売ってて、注意書きに「直径30メートルになります」って書いてあった……小さい字で。)

ゴトビキ岩を祀る神倉神社は速玉神社から少し離れています。住宅地の中を進んでいって、小さな駐車場に車を停めると、結界のような小さな橋を渡ります。橋の脇には立て看板。
「高齢の方、足腰のバランスの悪い方、飲酒している方、小さい子どもを連れた方は絶対に登らないこと。」
「階段の端は絶対に歩かないこと。バランスを崩すと大怪我をしますので、必ず真ん中を通ってください。」
などなど。え~っと、高齢の方って、うちの母も入りますかね? そう言えば鳥居の近くのベンチに近所の人っぽい人たちが座っていて、むっちゃ心配そうに声をかけてくださいました。
神倉神社鳥居
鳥居から階段を見上げます。説明によると538段。かなり変形した階段なので、何段と言っても正しいのかどうかよく分からないんですが、源頼朝が寄進したという鎌倉造りの石段です。
神倉神社階段
「鳥居から見えてる部分がしんどいけれど、あのカーブ越えたら、たいしたことないから」と言われましたが……
地元の人っぽい、毎日登ってるよ風のおじちゃん(おじいちゃん?)たちが軽装でひょいひょい登る中、母と私はゆっくり。でものぼりながら思ったのは、これ登るのは這ってでも登れるとして、降りるの怖くない?ってことでした。
神倉神社階段2
写真の撮りようで大げさに見えるかも知れませんが、まさにこんな階段なのです。
神倉神社階段4
カーブを曲がったら確かに多少ましになりますが、いや、それでも十分気合いの要る階段が続きます。距離にしたら200メートルくらいだそうですが、ヒキガエルくんに会うのは骨が折れます。
たどり着いた
それでも、最後の方は「まだあるのかも」という不安を一気に払いのけて、無事にたどり着きました。鳥居を潜ると岩の脇を細い道があって、その先が開けて見えています。
ゴトビキ岩へ
これを見ると、ゴトビキ岩だけがぽつんとあるのではなく、そもそも山自体が岩だということが分かります。
ゴトビキ岩2
足元の岩盤となっている岩の方が大きいので、このアングルから見上げるとゴトビキ岩さえ小さく見える。でも、見上げても「ヒキガエル?」と首を傾げちゃいました。
それにしても見事な陽石。磐座は陽石(男性)と陰石(女性)の対になっていることがよくあるのですが、やはり、近くにある花の窟神社(次回ご案内)を陰石と見なして、こちらを陽石と見立てる説もあるようです。
ゴトビキ岩5
どんなアングルから写真に収めたらいいのか迷いながら撮っています。
ゴトビキ岩1
この見えている岩は高さ8メートル。
熊野灘を見下ろす
社殿の前から見下ろすと、新宮市の街とその向こうに熊野灘が見えています。やはり、海からこの岩が見えるのですね。噂によると、海から見たら後ろに那智の滝が見えるんだとか。海から見てみたい。
ゴトビキ岩4
アップでもう1枚。接写すると足場の関係で近すぎて上手く撮れないので、少し望遠で。別アングルから見上げると、実はこの岩の上にもうひとつ載っているのが見えます。
ゴトビキ岩7
2段構えの岩なのですね。上の高さは3メートル。でも全体像はよく分かりません。もう少しいいアングルで見たら、確かにヒキガエルかも。
ゴトビキ岩3
階段の脇からゴトビキ岩の手前の方へ引き返します。岩の裏手に近づこうと岩盤の上を歩いてみると。
ゴトビキ岩の後ろ
真ん中辺りに写っている木の右手になにやら薄暗い場所が。近づいてみると。
神の窟
自然の岩の祠がありました。ゴトビキ岩が陽石で、こちらが陰に当たる部分ともとれるように思いましたが、社殿がなかった昔には、ここが祈りを捧げる場所だったかもしれません。
神の窟2
奥の方に小さな真っ白い石が、依代として祀られていました。まさに神さまの窟です。
ゴトビキ岩の手前
岩盤を降りてきました。こうしてみるとたいしたことが無いように見えますが、これが結構(年配者には)足場の悪い岩登りです。
神倉神社の御祭神は天照大神とタカクラジ(高倉下命)。タカクラジは神武の戦いを助けた神ですが、そもそもは神武以前の大和を治めていたニギハヤヒの弟ということになっているようなので、実は寝返り組?

さて、問題はあの階段を下ることなのですが……地元の方とおぼしき参拝客が何人か登ってきておられたのですが、高齢の母を見て「帰りは女坂のほうへ回ったらいいよ」と。
あの一番きつい部分を回避するルートがあるようです。で、行ってみたら……階段ではなく山道です。一部はなだらかなのですが、一部滑り降りるようなところもあり、それはそれで結構な斜面なのでした。

実は、あのものすごい階段を駆け下りる火祭り(2月6日の「御燈祭」)があるのだそう。松明を持った白装束の「のぼり子」さんたちが、上の鳥居=神門から一気に石段を駆け下りる……らしいけれど、聞くだけでも恐ろしい。けが人、出ないのかなぁ。

次は『花の窟神社』と『獅子岩』を訪れます。
(訪問日:2018/06/22)

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 5   

【雪原の星月夜-1-】 第1章 月の船(1) 行旅死亡人 

いよいよ連載開始です。初っぱなから18Rにするべきかもしれない内容なので、ご注意ください(中身はたいしたことはありませんが、誰と誰、という辺りにはかなり問題が^^;)。
さて、【海に落ちる雨】のあらすじをうまく書けたらいいのですが、とても書けそうにないので、事件の内容については割愛します。

【海に落ちる雨】事件後の大事なポイントは……
先の事件の際に、大和竹流は修復師として「神の手」と言われた右の手を負傷しています。それだけではなく精神的にも肉体的にもかなり痛めつけれたので、表向きは穏やかにしていますが内心では荒れ狂っているはず。
【海に落ちる雨】のラストで、相川真は竹流=ジョルジョの叔父、チェザーレ・ヴォルテラに雇われて、竹流と一緒にローマに向かうことになりました。竹流はその時点では、集中治療室から出て間もなく、退院を止められながらも、チェザーレがどうしてもローマに連れて帰るというので、真はボディガードとして雇われたわけです。
チェザーレの計画の中では、そのままジョルジョをローマに留め置いて(もちろん、彼はヴォルテラ家次期当主ですから)、真を側近に雇い続けるつもりだったのですが、あれやこれやあって、結局二人して東京に戻ってきました。その間の出来事は、また外伝などで書くかも知れませんし、本文中にもたまに出てくるかも。
【海に落ちる雨】の事件前から竹流と真は同棲していたのですが(恋愛関係ではなく、真が生活落伍者?で、当時危ない女と付き合っていて心中しかねなかったので、竹流が面倒を見ていた……そのままずるずる居候、という状態)、東京に戻ってからも一緒に住んでいました。ただ、精神的に荒れていた竹流は、ちょっと暴力的になっていて、最終的に二人は同居を解消(もっとも真は殺されてもいいと思っていた)。

さて、相川調査事務所は、浮気調査もしますが、メインは失踪人調査です。下請けに使ってくれている名瀬弁護士事務所は企業の顧問弁護士なども請け負っている中堅事務所ですが、少年事件でも有名です。
今回の事件は、まさに相川調査事務所の真骨頂? 失踪事件の調査を頼まれたのですが、きな臭い連中の姿が見え隠れし、また真自身の過去にも関わりを示すような事実が重なり、素直に受けることが出来ません。
例のごとく、おっちゃんたち、大活躍。まずは、真の伯父・失踪している相川功の過去について、真の知らない事実が明らかに。また、真にとって味方なのか敵なのか分からないおっちゃん、真の実父と若い頃先輩後輩関係だったいかにも役人という香月(真には河本という偽名を使っていた)、前回の事件で真を使って邪魔者を消そうとしていたかも知れない裏社会の住人・福嶋鋼三郎、功の親友だった循環器内科医・斉藤宗彦、などなど。

タイトルはまだ仮題なのですが、もうこのまま行くかもしれません。「星月夜」というのは、星が月夜のように明るく瞬いている夜、のこと。クライマックスの舞台は真の故郷の浦河町~襟裳岬~阿寒湖。行方不明の若い女性童話作家を探す旅の行方は?

以前にも書きましたように、この物語にはいわゆる「本歌」があります。渡辺淳一『阿寒に果つ』……多分、あの時代、私にとっての「先輩・先生」たちの世代が経験した学生運動などが吹き荒れていた熱い時代、その残り香が感じられる物語ですが、今の世代の人たちにはどう映るのでしょうか。
ちなみに、このシリーズ自体にも本歌があって、それはアンデルセンの『人魚姫』と『源氏物語』を足して2で割った感じ?(え?)

最近何かと話題の文字数について。今回は6200字あまり。もう少し短くしてもいいのですが、私の文章の性格上、ワンシーンを途中で切るとかなり間抜けな内容になるので、とりあえずこのくらいでアップしていこうかなと思います。あ、でも、ワンシーンが短いときは短めにしてみます。
ちなみに短編の時はもっと長くても一気にアップしちゃっていますが……どうなのかなぁ。代わりに栞代わりのマーク入れてみたり。コメントを毎回丁寧にくださる人もいるので、それはもうまとめてでいいよ、って気持ちもあったり。



【雪原の星月夜・第1節】 第1章 月の船
(1) 行旅死亡人
 18R

 天井は重厚な深い茶色の木材が組み合わされていて、時代がかったシャンデリアの光を吸収して震えている。
 幾つもの丸い輪が揺れながら、網膜から無防備になった脳に侵入してくるときには、これが現実なのか、それとも夢なのか、もうまるで分からなくなっていた。それでも、この部屋に入り、始めに天井を見た瞬間には、まだ前頭葉はまともに働いていたはずだ。
 狂っているな、と真は思っていた。

 この部屋に入ったのは何時だったか、何度目なのか、この身体が受け止めている重みは一体何なのか、一瞬だけ自分の存在を実存として受け止める隙があると、脳の片隅で僅かの時間、考えていた。だが、それは本当に一瞬に過ぎない。
 自分の身体が快楽に異常に素直だと理解したのは、まだ中学生の時だったように思う。こうした行為が、愛とか恋とかとは別の次元で成立するのだということを、真は自分の身体で自然に受け入れてしまっていたのだろう。それでも、どこかの時点までは、常識から外れないように上手く制御できていたはずだった。

 十代の頃、思春期独特の肥大した自分自身を持て余していたにしても、自分に関わる事象はそれほど多くはなかった。十代の始め、都会で生活しなければならないという現実とどうしても折り合えず、毎日が戦いだった時も、状況が好転した十代の半ばからも、学校、勉強、剣道、数少ない友人、少しばかり複雑だった家族、付き合っていた女の子、つまり自分の抱えきれる事象はせいぜいそれくらいだったのだ。
 だから深くその中へ没入した。生きているということがそれだけで、時には重く苦しくさえあったが、同時に、若い身体には乗り越えるための内なる力も与えられていたはずだった。

 あの頃、意志や思想や理屈を全て超えたところにある何かに、真は恐ろしいほど素直に反応する自分を持て余していた。
 それはいつも極めて身近なところにあった。多くの十代の若者にとって、時にあの世とこの世の敷居が簡単に低くなってしまう瞬間があるのだろうが、真にはひどく低い時が長く続き、それは今、もうあれから十年以上の時を経ても変わっていないような気がした。
 死も、性的に興奮する身体も、全てが単純な細胞の営みのひとつとして、真には制御できなくなる時がある。そう、快楽に溺れるとき、真の身体はあの時の恍惚を、いつもなぞっていたのだろう。

 十九の秋、浦河の崖から落ちた、あの瞬間の恍惚。
 真の記憶にある暗い溝だった。時々、真はあの日までの自分自身と、そして帯広の病院で意識を取り戻して以降の自分自身が、本当に繋がった一人の人間なのか、わからなくなる。身体にも記憶にも、確かに深い亀裂があった。
 思い出せないのだ。逆行性健忘だと説明を受けた。その言葉の本当の意味が、今もまだ理解できない。思い出せないのは、思い出してしまったら、今ここにある自分が誰かの夢の中でのみ存在する幻なのだということを、認めざるを得なくなるからかもしれない。
 この世にしがみついたのには確かに理由があった。だがそれが失われている今、この世に存在している理由が、また分からなくなっている。

 こうして身体の奥深くに他人の重みを受け入れ、自分自身を痛めつけている時だけ、この身体がこの世に留まっていることを実感できる。
 その時、真は鍵を掛けたはずの記憶の引き出しの前に立っている。そのイメージに、真は恐ろしく興奮していた。握りしめていた右手を開くと、そこに鍵がある。もう少しでその引き出しを開けることができる。あたりは真っ白で何の音もなく、ただ明るい靄に包まれている。真以外の生きているものの気配はない。いや、真自身の息遣いさえ聞こえない。真は鍵をゆっくりと鍵穴に差し込もうとする。

 イメージはいつもそこまでだった。咽喉が痛いのは喘いでいるからだと分かっていた。喘いでいる、という次元ではない。福嶋鋼三郎は、真が泣き叫んでいるという。真には記憶がないが、翌朝、いつもまともに声が出ないのは、福嶋の言うことが満更嘘ではないということなのだろう。
 朝、真はぼろぼろになっていた。何故殺してくれなかったのだろうといつも思っていた。その相手が福嶋なのかそうではないのかもよく分からない。呼吸はまともではなく、心臓の音も不規則であてにならなかった。天井にあるはずのシャンデリアの丸い灯りは網膜の上で揺れて、平衡感覚にまで影響し、胃が咽喉まで押し上げられたようになっていた。いや、視覚の異常ではなく、朝方になってもう一度深く沈められた福嶋の身体が、真の身体の中心を突きあがってきているからだった。

「兄さん」
 呼びかけられた時、確かに目を開けたつもりだったが、視野は僅かに明るくなっただけだった。
「ちょっと緩められんか。きつすぎるわ」
 福嶋の低い声は、その男の中心と接している深い部分から真の身体全体に伝播して、いつも真を狂わせた。緩めるどころか余計に相手を締め付ける。そして福嶋はその効果を分かっていて、わざと真を狂わせるような言葉を投げかけているのだろう。意識をすればするほど、相手を呑み込もうと締め付けてしまうのだ。

 福嶋が太い声で喘ぎ始める。そのまま身体の重みがのしかかってきた。厚い唇が真の鼻と薄めの唇を覆い尽くすようにして舌が絡み付いてくる。不快な臭いと何かとてつもない恐怖に身体を撫で回され、突き上げられ、探られていた。
 ふと、一瞬正気だと思った。正気のまま喘がされ、身体を開かれ、快楽に溺れていた。
 俺はやはり狂っている。意識がはっきりしてなお、たまらないほどの気持ちで相手にしがみついている。真は自分の手が福嶋のざらついた頬を弄っているのを視界の中に浮かべた。

 どこか頼る先を求めているのだ。その真の左手の薬指に、銀の指輪が暗い照明の中でゆらりと鈍い光を放っている。いつもなら指輪を外してこの部屋に入っていたのに、昨夜は何をとち狂っていたのかと考えていた。
 福嶋が真の手を取り、真の目を意地悪く見つめたまま、その指輪に厚い唇を押し当てた。
「二重の罪悪感やろ。わざと自分を追い込んでんのとちゃうんか」
 真は答えなかった。
 わしも年やな、と呟きながら福嶋がバスルームに消えた。一人きりで残されると、見上げる天井の焦げ茶色の板に映るシャンデリアは、いっそう異様にくっきりと輪郭を際立たせた。

 真はまだ硬いままの自分自身に手をやり、ゆっくりと扱いた。結婚指輪を見た瞬間に、恐ろしく興奮したような気がしたが、同時に急速に冷めたような気もした。だが、バスルームから水の音が伝わってくると、身体の中に燃え燻っている火がどうにも納まらなくなった。福嶋が戻ってくる前に、あともう一度だけ吐き出してしまいたかった。
 だが、一晩のうちに数え切れないほど達して疲れ果てた身体は、中途半端に快楽の行き着く先を探すだけで、昇りつめることはできなかった。

 福嶋はバスタオルを腰に巻きつけただけの姿で出てきたが、気が抜けたようになっている真を見て、呆れたような、蔑むような、あるいは哀れむような表情を一瞬浮かべた。何の意味も無い逢瀬でも、時を重ねるごとに同情や憐憫の気持ちが育っていくものなのだろうか。
 たとえば、夫婦の間でも。

 福嶋はサイドテーブルの煙草を取り上げ、銜えて火をつけると、魂が抜け出したままの真の唇に煙草を譲った。真は福嶋の指を添えられたまま煙をひとつ吸い込んで、そのまま煙草の替わりに触れた福嶋の唇を自分からも求めた。ついさっき自分自身が福嶋の口の中に放った残滓の味が絡みつく。真は福嶋の背中に腕を回してしがみつき、その背中に残る水滴の冷たさに震えた。
「嫁には仕事や、ゆうてるんか」
 真は答えなかった。福嶋がそんなことを聞いてくるとは思っていなかったので、答えを準備していなかったこともあるが、実際に、彼女に何か言い訳をしたのかどうか、思い出せなかったからだった。

 もっとも、夫が家の外で何をしているか、彼女が気にかけているのかどうかさえ、真には分からなかった。
「嫁とやるだけやったら満足でけへんのやろ。なぁ、兄さん、女は大事にしたらなあかん。せやけど、兄さんは狂いたいんや。もう今更、愛しい可愛いゆうてるような優しいセックスじゃ、何も感じんようになっとるんやろ」
 真はゆっくりと身体を起こし、福嶋の差し出した煙草を受け取った。
「いっぺん聞きたい、思てたんやけどな、なんで結婚なんてあほな真似したんや。あの男と別れたんは暴力に耐えられんかったんやとしても、あてつけに結婚したんやとしたら、相手も可哀相やろに」

 やはり真は答えなかった。別れたつもりはない、と言うべきだったのか、あるいは、ちゃんと妻を愛していると言うべきだったのか。少なくとも、福嶋は真と結婚した女がどういう夫婦関係を築いているか、知っているはずもなかった。
「まぁええわ。兄さんのプライベートに口を出すんはわしの主義に反するさかいな。ま、せやけど、そないに欲求不満なんやったら、わしがもっと適切な相手、世話したろか。安全で後腐れの無い、それでいて狂いまくっても構わん相手が必要やろ。わしもな、自分があんまりまともな人間やとは思てへんけど、セックスしながら相手を殴ったり、妙な道具使うたり縛り付けて犯すような変態ごっこは趣味とちゃうさかいな」

 福嶋の指が真の下顎を撫でた。
「今の兄さんがほんまに満足するんには、もっともっと無茶苦茶にされんとあかんのとちゃうんか。わしの言うてた通りやろ。それが兄さんの本性やて」
 真は福嶋の手から逃れて、煙草を二、三度吹かすと、直ぐに揉み消してベッドを出た。
 福嶋と寝た後はいつも起き上がれないほどになっていた。意志の力だけでどうにかできることなど多くはないということも、こうなってみて改めて思い知らされていた。それでも、真は崩れそうになる身体を何とか持ち上げていた。足の間を伝う粘液の感触に、一瞬叫びだしそうになったが、それも押さえ込んだ。意志はともかく、意地だけでも手離すまいと思っていた。

 熱めの湯温に設定したシャワーを浴びながら、真は壁に手をつき、腹の奥から込み上げてくる嘔気と闘った。身体の奥は既にとてつもなく汚らわしいはずなのに、もっと汚れなければ立っていられないような気がする時がある。何が不安なのか、不満なのかもよく分かっていない。分かりたくもなかった。
 意識が清明でいられる時間が、ある一定を超えると、あの引き出しを開けてしまうかもしれないと思っている。開けるときは終わりの時だ。だから、狂ってしまっていたい。

 真は、自分が舞の前では物分かりのいい夫を演じていることを知っていた。そしてまた、舞がそんな夫の秘密を何もかも知っているかもしれない、とも思っていた。具体的にではなくても、気配が分かっている、そういうことはあるに違いない。妻を愛おしいと思っていないわけではない。少なくともそう信じたい。
 だが、例えばゲイの男が自分の性癖を隠すために、それは他人の目からだけではなく自分の心からも隠すためかもしれないが、社会的には結婚という手続きを踏むのとは少し違っているような気がした。

 社会的になら隠すことは何もない。もう既に、周囲の人間たちは、真とあの男の間にあったことを知っていた。確かにひと時、狂うほどに求め合っていたし、ぼろぼろになって殺されてもいいと思い続けていた。他人の好奇の目など全く気にならなかった。
 真は何故自分が結婚という偽善を選んだのか、ある意味ではよく分かっていた。この結婚という事象に最も傷ついているのは真自身だった。少なくとも結婚という契約を結ぶに至る過程では、舞を愛しいと思っていたはずだが、彼女を愛しいと思うそのことで傷ついていた。その一方で、こうして時々会っては寝るような関係の相手が幾人かいる、そのことでも傷ついていた。
 だが、本当に傷ついている理由は、そのことではなかったのだ。

 もちろん偽善であり、卑怯でもあった。自分が卑怯者であることに傷つくほどには偽善者ではないからこそ、誰かに無茶苦茶にしてほしいと願っている。福嶋はそのことを知っているのだ。だが真がそう願えば願うほど、福嶋は言葉や態度とは裏腹に、優しい人間になっていく。もちろん、これは相対的な問題だった。真が傷つけて欲しいと願うほどには、福嶋は真を傷つけないというだけのことだ。決して、福嶋が本当に真に優しいというわけではない。

 部屋に戻ると、ガウンを着た福嶋が真をソファに誘った。
 真が無視をして着替えようとすると、福嶋は、もう今更急いで帰っても遅いやろ、と言った。真は結局言われるがままにソファに座り、スコッチを受け取った。福嶋は向かいのソファに大きな身体を預け、脚を組むとゆったりと煙草を吸った。
 真がスコッチをほんの少し、申し訳程度に口に含むのを見届けると、福嶋はテーブルに投げ出してあった大き目の茶封筒を、顎でさし示す。
 真は福嶋の顔を確かめ、訝しみながら茶封筒に手を伸ばした。

 定形外の茶封筒は厚みがあって、持ち上げた感触からは本だろうと思った。真は福嶋の顔を窺ったまま、封筒から本を出してみて、思わずその重みに震えた。
 ソ連の科学者が書いた『宇宙力学論』という古い本だった。
 福嶋は茶封筒の下に置かれた何かの記事のコピーも見るように促した。

 行旅死亡人。
 官報に載せられた身元不明の死亡者の欄には、ある男性の死亡報告が綴られていた。
 五十台後半、男性。自称、相川武史。職業、発見当時無職。死亡の状況、アパートの自室で餓死。所持品、作業用ズボン、作業用上衣、シャツ数枚、下着数枚、布団一式、本(訳本『宇宙力学論』)。

 わずか数行の中に押し込められた誰かの人生の終焉の報告には、明らかにあり得ない自称が貼り付けられていた。
 真は本の裏表紙をめくった。微かに震える指が支えた裏表紙の内側に、古い万年筆の青黒い跡。
 伯父は自分の本には小さな星座の印を入れていた。
「その本、見覚えあるんか」
 真は福嶋を睨んだ。
「何の真似ですか」

「兄さんがその本に見覚えがあるようやったら、連絡してきてくれ、ゆうて伝言をことづかっとるんや」
「どういう意味ですか」
「死人の名前には驚くわな。せやけど、名前ひとつなら偶然かもしれへん。けど、もしも兄さんがその本にも見覚えがある言うんやったら、偶然が二つ重なっとる。それはもう偶然ではあり得へんわな」
「伝言って……」
「せや、香月からや。兄さんの事務所に直接言うたれ、ゆうたんやけどな、香月の嫌がらせや。兄さんがわしんとこに来てることを知っとる、ゆうんを兄さんに分からせたいんやろ。香月らしい、嫌味なやり方や」

 真はしばらくの間、その本の裏表紙を見つめ、福嶋には分からないようにそっと星の印を撫でると、そのままテーブルの上に戻し、固い声で言った。
「知らない、と河本さんに伝えてください」
「なんや、興味ないんか。仮にも親父と同じ名前を自称しとった人間の死亡記事やで」
「あの人がどこかで野垂れ死にしようが、俺には関係のないことです。河本さんがうちの事務所に正式に仕事を依頼されるのであれば、受けないでもありませんが」

 福嶋は例の豪快な笑いを見せた。
「そらそうや。調査事務所にタダ仕事を押し付けるんはタチが悪いて、香月には言うといたるわ」
 真はソファから立ち上がり、脱ぎ散らかしていた服を身に付けた。その様子を福嶋が黙って見つめている、その凍りつくようで熱い視線を背中にずっと感じていた。
 震えていることを、福嶋が見咎めただろうと思いながらも、もう継ぐべき言葉はなかった。

Category: ☆雪原の星月夜 第1節

tb 0 : cm 10   

【雪原の星月夜】(真シリーズ)登場人物紹介 

この頃少し小説のアップから遠のいていて、何ブログか分からなくなっていると反省。一体、いつになったら小説をアップするのだと思われているだろうなぁ(思ってもらえていたらいいなぁ)……あ、もちろん、そうそう待ってくださっている人はおらぬのですが。
それはともかく、自分でも少し小説気分を盛り上げようと思うので、【海に落ちる雨】の続き、【雪原の星月夜】をアップしようと思います。といっても、まだ途中なのですが、第1節は書き終えているので、これをちまちまアップしても1年はかかりそうですし、その間に続きが書けたらいいなぁ。

まずは久しぶりなので、登場人物紹介から。
人物紹介のロングバージョンについてはこちらで一度書いているので、ご参照ください。
【海に落ちる雨】登場人物紹介
【海に落ちる雨】を読んでいないわ、という方も、どんな人間たちが出ているのか、ちょっと覗いてみませんか(*^_^*) 

【雪原の星月夜】(今のところ、まだ仮題、なんだけれど。このシリーズ、タイトルは基本的に気象関係)では、【海に落ちる雨】からほぼ2年近く経っていて、状況は変わっていますし、何のことか分からない部分があっても、お話の中に答えが散りばめられているので、今回から途中参加可能です!
(あ、でも、ここから読んだら、なんて話だって思われるだろうなぁ……(;_;) 初っぱなから18禁に近いし。……いや、そもそもとんでもない話なので、もう今更ですね)
【海に落ちる雨】からどんな状況の変化があったかは、ここではあえて詳細は書かないことにしますが、ちらちらと片鱗が人物紹介中にあるかも?

この物語には、不思議な娘が出てきます。実は、本人は登場しないのですが、みなが彼女を探しているという。そして、以前にも少し書いたかも知れませんが、このお話、下敷きになった物語があるのです。
『阿寒に果つ』……古すぎて、誰も知らなかったりして(TOM-Fさんは知っていた……)
そして、主人公にとっても、自分の抜け落ちた記憶(逆行性健忘なんです)との対峙が待っています。人を探しながら、自分の過去を探していく、という物語なのかも。
クライマックスは、冬の襟裳岬で、主人公とあの人の「こんなところで何をしてる?」「そっちこそ」の会話かな?(え?)
美和ちゃんと仁の恋の行方、そして真の妻の登場(多分「え?」というタイプですね)、ついでに真が居候しているお寺の副住職(カッパ先生)と家出娘(幼稚園児のあかり。実は【奇跡を売る店】の和子(にこ)はここから派生しました)という、真にとって支えとなる人たちの存在も、お楽しみに(^^)

あ、始めにお断りを。このお話、思い切り昭和なんです。昭和と言っても『三丁目の~』ってほどの昔じゃなくて、昭和の後半、1980年頃。古き良き時代とは言いませんが、少し懐かしい時代にタイムスリップしてください。
えぇ、まだみんな、携帯もスマホも持っていません。




【雪原の星月夜】(相川真シリーズ)人物紹介

<レギュラー陣>
(この物語にあまり出てこないレギュラー陣も書いてあります。名前が時々登場するので…)
今回、主人公以外でメインで動くレギュラーは、北条仁と柏木美和、葛城昇、あたりかな。

相川 真 30歳、新宿の調査事務所所長。元家庭教師と同居していたが、あれこれあって同居を解消、現在は妻と白山にある灯妙寺の離れに住んでいる。19の時に崖から落ちて死にかかっていて、その時の記憶が一部抜け落ちている。今回の物語はその過去との対峙になるかも。
大和竹流 39歳、銀座のギャラリー・レストランのオーナー。美術品の修復師だったが手に大怪我を負い(【海に落ちる雨】)、現在は後進を育てている。本名はジョルジョ・ヴォルテラ(イタリア人)。真の元家庭教師。真との同居解消後、以前にも増して菩薩のように精神的ストイックな状況にあるようす。

柏木美和 24歳、某女子大大学院生、ジャーナリズムの勉強中。真の事務所の共同経営者(自称・秘書)。明るい元気娘だったが、今回は恋人の身辺問題で大波乱の幕開け。
北条 仁 40歳、真の事務所があるビルのオーナー。美和の恋人で、仁道組(ヤクザさん)次期組長……どころではない模様で、なにやら不穏な動きの中にいる。

高遠賢二 23歳、もともといいとこの坊ちゃんだったが父親を刺して少年院に入っていたことがある。真の事務所に出入りしていて、いつの間にか真が最も頼りにする存在に。自称、真の弟子。
宝田三郎 26歳、ヤクザ志望で仁の舎弟になりたがっているが、気が弱くて性格的に向かないと言われて断られ続け、今も真の調査事務所に勤めている。事務所の掃除担当? 天涯孤独だが、仲間想いの一面も。

葛城 昇 竹流のもと仲間で、ゲイバーの店長。同性愛者で、竹流のことをずっと想っていたが、現在はかなり危ない橋を渡っている模様。
イワン・東道 竹流もと仲間で、ボクシングジム会長。無愛想で厳つい男だが、竹流に深い恩義を感じていて、昇のことを弟のように思っている。

相川 舞 真の妻。過去に真の調査対象だったことがある不良娘(当時の言い方では「スケバン」ってやつですね)。世間的には悪妻と思われているが、実際のところは?(多分「良い妻」ではない)
室井涼子 竹流の恋人の一人だったが、今は関係を絶っている。一方、真にとっては初恋の相手であり、現在深い付き合いにある。ブティックを経営している。
東海林珠恵 竹流の妻といってもいい女、祇園の芸妓。

井出幸之助 新聞記者、真や美和にとっては飲み仲間。お調子者だが信念がある。
唐沢正顕 真の元上司。調査事務所を経営していたが、今は服役中。かなり危ないおっさん。
三上司朗 唐沢の部下、真の先輩。調査事務所の爆破事故で下半身不随となり車いす生活をしている。妻は看護師。

篁美沙子 真が高校~大学時代に付き合っていた彼女。ひとつ年上で、なかなかお似合いのカップルだったのに、若すぎて真がはっきりしなかったために、結局フラれた。
小松崎りぃさ 真が大学中退後、唐沢調査事務所に勤めていたときに付き合っていた女。精神的にかなり壊れていて、自殺している。

高瀬 大和家の執事。竹流が絶大な信頼を寄せている。
名瀬 真の事務所を下請けに使っている弁護士。少年事件で有名。
斎藤宗彦 相川功(真の伯父)の親友で、循環器内科医。真の主治医でもある。

『河本』/ 香月 もと内閣調査室長代理。前回の【海に落ちる雨】で失策があり、その地位を追われた。とは言え今も同様の下部機関の裏方。いかにもお役人だが、大学時代、真の父親・相川武史の後輩であり、慕っていた。
福嶋鋼三郎 もともと警察組織にいたようだが現在は裏社会のフィクサー的存在。【海に落ちる雨】で真の敵とも味方ともとれる行動をしているが、根は相当の悪人。自分の人生は先の戦争で終わったと思っている。
チェザーレ・ヴォルテラ 現ヴォルテラ家の当主。竹流の叔父。ヴァチカンに仕える家系のゴッドファーザー。 

*真の親戚関係
相川(富山)葉子 真の従妹(真が功に引き取られていたので、兄妹として育っている)。真の親友と結婚し、現在一女の母。ちょっと素っ頓狂なところのある不思議娘で、お兄ちゃんのお嫁さんになるのが夢だったけれど、「兄には竹流さんがいる」ので諦めたらしい?
富山享志 真の自称親友。某貿易会社の御曹司。天然ボケ系で「いい人」。彼が主人公の物語は【学園七不思議シリーズ】
相川 功 真の伯父、育ての親。脳外科医。失踪している。
相川武史 真の父親。某米国国家組織のスナイパー。息子とは親子の縁を切らざるを得ない状況にあり、滅多なことでは連絡を取り合うことはない。真は今も父親に対してはいい感情を抱いていない。
相川弘志 真の叔父。北海道・浦河で牧場を継いでいる。いかにも田舎のあんちゃん。妻はアイヌの女性。
相川長一郎 真の祖父。剛健で頑固なじいちゃん。兄弟で競走馬の牧場を経営している。
相川奏重 真の祖母。そのじいちゃんを密かに尻に敷く、たくましき女性。民謡歌手でもある。

<【雪原の星月夜】登場人物>
神路 月(昴) ティーン向けのカリスマ童話作家。モデルのような容姿で不思議な魅力がある。今回の物語は彼女の失踪から始まる。しかも、真の伯父・相川功と何らかの関係があるよう。
池内 暁 神路月の恋人。大東組の構成員でもある。真の事務所にまだ発刊されていない月の童話の本を送ってきた?
芝田音緒 神路月のマネージャーで、池内暁の従妹、かつ元恋人だった。大東組組長・大東松吉の孫でもある。月の失踪に関係しているのかどうか?
新庄龍和 大東組の若頭。かなりヤバい男。月を探しているよう。
古塚 警視庁・四課(当時)の刑事。本人もやくざみたいだが根っこは正義感が強く、もともと真の剣道の好敵手だった。

 まだまだ出てきますが、登場する度に追加していきます(^^)/


予告:【雪原の星月夜】 第1節

1.月の船
2.霧の港
3.プラネタリウム
4.君恋し
5.昴
6.暁闇
7.運命の輪
8.魂の帰る道



「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」
 竹流が耳元で囁くように歌う。震えるような吐息は、三十二音の言葉が語られる間に、天の海が凪いでいくように静かで穏やかなものに変わっていった。
「柿本人麻呂だったっけ」真は確かめ、自分の声が、うちに押し込んだ感情よりも遥かに穏やかであることに、不思議に安堵した。「日本の古代の人麻呂なんて名前の人が、宇宙を歌ってるってのは、やっぱり今考えても不思議な感じがする。宇宙は古代から変わりなくそこにあるのに、人はひとつの人生の中でどれほど大事なものを失っていくんだろう」
 十代の若者のようにセンチメンタルなことを言っていると考えて、真は自分で自分の言葉を貶める。それでも竹流の声は暖かく、柔らかく、真の汚れていないどこかを包み込むようだった。

「俺が、何であの店にそんな名前をつけたか、話したかな」
「いや」
「『天の海』、『月の船』、『星の林』……この歌を教えてくれたのは功さんだよ。日本の古代の歌人の歌だ、洒落てるだろうって。あの人が居なかったら、俺は深く人を信じることをやめてしまっていたかもしれないと、今でもそう思っている」
 竹流は今でも、真の伯父の功に心の底から感謝しているのだ。だから、功が息子として大事にしていた真のことを気に掛けているのだと、全ては功への恩義に報いるためだったと、そのように聞こえる言葉を、真は耳の中でしばらく持て余していた。そして、福嶋の事務所の奥にある彼の私室で手に取った、功の本の重さを思い出し、右の手をひとり、握りしめた。
 迷い苦しみながらも真を育ててくれた功の手は、いつも真の前に幾千万もの星々を映し出して見せてくれた。本の中にも、書斎の天井にも、不安で潰れそうになっていた心のうちにも、確かな軌跡を描いてくれた。
 功の『宇宙力学論』、あの本を福嶋のところに残してきたことを後悔した。意地を張るものでなかったのだ。本当なら頼み込んででも、あの本を受け取って来るべきだった。

 
またまた万葉集から歌を引っ張り出してきてテーマにしています。柿本人麻呂のこの歌、とても古代に詠まれた歌とは思えませんよね。いえ、そうではなく、古代から変わらず人々は宇宙を見てきたのですね。

・【清明の雪】のテーマとなった万葉集の歌は、
「旅びとの 宿りせむ野に 霜降らば 吾が子羽含め あま鶴群たづむら
でした。こちらは遣唐使の息子を想って母が詠んだ歌でした(^^)


こちらを週1でアップしながら、時々他の物語の始末もつけていきます。
まずは、マコトかな。それとも慎一かな。
あ、この度、もしかすると、竹流もマコトを飼うかも?(さみしいから? トニーは大和邸から離れそうにないし、半分野生化してるし)

Category: ☆登場人物紹介・断片

tb 0 : cm 10   

【石紀行】45.三重伊勢・夫婦岩~二見興玉神社の夏至祭~ 

夫婦岩
久しぶりの石紀行です。44が飛んでる?のですが、実は書きかけているのでそのまま現時点では欠番で置いておきます。そのうちまたアップしますね。それどころか、まだまだ沢山書けていない記事があるので、そちらも時間が出来たら書かなくちゃ。ただ順番に書いていたらいつになるか分からないので、記憶に新しい部分を先に書いてしまいましょう。

今回の巨石は、日本でも最も有名な巨石のひとつ、三重県伊勢市の二見ヶ浦にある夫婦岩です。
ある世代の関西の小学校の修学旅行は、伊勢と鈴鹿ってコースだったんですが(最近は結構バリエーションが増えているようですが)、それ以来行っていないなぁと思いながらたどり着いた二見ヶ浦。行っても、全然記憶は蘇りませんでした^^;
今回、夏至の旅にこちらを選んだのは、この夫婦岩を祀る二見興玉神社で行われる神事・夏至祭を見に行こうと思ったからです。
夏至の日には、夫婦岩の間から太陽が昇り、運が良ければ、富士山の影の上に重なる太陽が拝める。
しかし、日本の夏至といえば、梅雨の真っ只中。案の定、パンダ記事にも書きましたが、夏至の前日は警報も出る大雨だったのです。しかも翌日=夏至の日も雨は上がらないと聞いていたので、日の出を拝むのは諦めておりました。でも宿は予約しちゃったし、雨でも神事はあるというので、せめてそれだけでも見に行こうと二見ヶ浦へ。
興玉神社鳥居
二見興玉神社は海沿いの岩場に張り付くようにあります。神事の開始時間は3時半。日の出は4時41分。4時過ぎに宿のご主人が表玄関を開けてくださったので、宿から徒歩1分? の神社に向かいました。
夫婦岩夜明け前
そうなんです。警報が出ていたし、真夜中は雨が降っていたのですが、夜明け前に外に出たら雨は上がっていました。夜明け前の夫婦岩、不思議な世界です。まるでこの世とは少しずれているような。
興玉神社集う人々
拝殿とその前に集う人々。位置的には、拝殿の先に夫婦岩があります。
拝殿の前には思ったよりも沢山の人たちがいます。観光客よりも、神事に参加している人たちの方が多そうです。
興玉神社神事0
近づいていくと、海に入る前に、禊ぎの神事が行われていました。歌いながら、踊る? いや、体操? えっとこういうときは何と表現すればいいのか分かりませんが……。この歌がしばらく耳に残って頭の中でヘビーローテーションしておりました。
興玉神社神事1
確かに、この季節、海に水は冷たいので、いきなり海に入ったら危ないですよね。うん、準備体操はしっかりやっておいてもらわないと。去年などは雨も降っていて、かなり寒かったそうで、その中で海の中に入ってご来光を拝むのですからね。
このように男性はふんどし一丁、女性は白い装束です。
興玉神社神事3
神事が始まってから日の出まで1時間と少し、少しずつ空は明るくなっていますが、まだまだ薄暗い。少しずつ観光客も増えてきています。いくらかメディアの人たち、毎年写真を撮りに来ている人たちもいて、そんな人たちの会話を聞きながら、情報収集。そうか、やっぱりなかなか太陽を拝むのは難しいのですね。毎年来ていたら、4-5年に一度くらいは日の出が拝めるのかも。
海へ降りていく
いよいよ、海に降りていきます。相当の人数ですし、足元も危うそうですし、時間がかかります。
海へ降りていく2
夫婦岩も少しずつ姿がはっきりしてきました。神社の全体像も浮かび上がってきました。日の出の瞬間だけ、太陽が見えないかなぁって思ったりもしましたが、さすがにそれは甘かったですね。雨に当たらなかっただけでもヨシとしなくちゃ、ですよね。
夫婦岩夜明け直前
海へ皆さんが入っていきます。写真では分かりにくいと思いますが、一番岩に近いところでは、胸くらいまで水が来ているようです。
海の中で日の出を待つ2
かなり明るくなってきました。
丁度日の出時間です
ピント合わせ、カメラを向ける方向によって、明るさが随分変わってきますが、上の写真と下の写真はどちらもほぼ日の出時間くらいなのですが、残念、やはりご来光は拝めませんでした。でも、空がほんのり明るいし、何となく、太陽の気配も。
もう日は出たはず
あたりはすっかり明るくなってきました。もう太陽は昇ってしまったようです。
日の出はもう過ぎた
やがて、皆さん、海から上がって引き上げてこられました。きっと寒いだろうなぁ。
引き上げる
全員が上がってくるまで、また結構時間がかかります。先に上がった人たちも、待っている間寒いですよね。
日の出の後の神事0
海から上がった後の神事。やはり同じ歌に合わせて身体を動かします。
拝殿の方へ近づくと、茅の輪があります。
日の出の後の神事
そうそう、係?のおじさまの着ておられる半被の背中に、なかなか素敵な絵がありました。そうそう、そういう日の出を拝みたかったです。でもそれはまたの機会に、ですね。
本当はこんな日の出が見たかった
社務所に行くと、数年前?の素晴らしい日の出の写真が売られていました。まぁ、これは買っとかないと。
日の出の写真2
夫婦岩の間から昇る太陽、太陽の下半分に重なる三角が富士山です。やっぱりいつか見たい景色ですね。
カエル2
境内にはあちこちにカエルがいます。夫婦岩の近くのカエルは2匹の子どもを背中に乗せています。
朱印
この日の朱印は特別バージョン。
日本で夏至の太陽を見るのはなかなか困難なようですが、少なくともご来光の気配を感じることができたのは良かったかな。夏至と言えば巨石ファンのお正月です。この日、富士山に重なって昇る太陽は、見応えがあるでしょうね。あ、でも実際にはかなり遠いので、目で確認できるかしら。いつかきっと見たいなぁとおもうのでした。

おまけ。
神社まで徒歩1分のベストな立地の旅館・大石屋さん。
大石屋
ご飯にもカエルがいます。
ごはん
ついでにに、今回の旅で頂いたお守り一覧。横山大観のブックカバーをバッグに。二見興玉神社のお守りは夫婦セット。右の方に置いてあるのは熊野辺りの神社のもの。そして、葉っぱ? そう、これは熊野速玉大社のご神木、梛の木の葉っぱ、これを模したお守りには「なぎまもり」と(limeさんにぜひ差し上げたい!)。
お守り
最後にもう一度。君のおかげで、この日の朝、雨に当たらずに済んだのかも!?
てるてるぼうず

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 10   

【雑記・旅】和歌山にもパンダはいるんだよ!~アドベンチャーワールド~ 

結浜木の上6
上野動物園のシャンシャンフィーバーに湧く昨今(一部の盛り上がり?)、かくいう私も何度か観覧券申し込んでみましたが、当たりませんでした。その後、整理券に変わり、今なら2時間ばかり?並んだら見れる、ということになっていますが、さすがに今は並びに行く余裕も東京に行く予定もないので、シャンシャンに会えるのはいつのことか……大きくなったらタダの白黒の熊? もう可愛い盛りは過ぎようとしてる……のかなぁ……(って負け惜しみ)
うちにあるグッズで一番多いのは、ねこ系、そしてパンダ系です。初めてPCがネットに繋がったうん十年前、最初に登録したHPは中国のパンダ幼稚園のサイトでした。そういえば、初めてパンダを見たのは、上野動物園のカンカンとランランでした(いつの話だ……)。

それはともかく、勤続20年の記念休みをいただけることになったので、これまで憧れてきた「巨石ファンの正月・夏至の太陽を見る」という計画を実行に移すことにしました。
夏至祭に関しては、有名なのはイギリスのストーンヘンジ。世界中から巨石ファンが集まって、ストーンヘンジで日の出を待つ……憧れの景色です。さすがにイギリスまでは行けないから、せめて日本で夏至の太陽を見ようと計画してみたけれど。
先だってアップした短編の中にも書きましたが、日本でなぜ夏至がそんなに話題にならないかというと、夏至といっても梅雨の真っ只中。そもそも夏至というのは、日の光の恩恵の少ない地方で太陽の恵みを有り難く感じるということだけれど、日本の夏ってタダでさえ暑くってむしむししてて、特別に有り難いことはないという感じなのですよね。太陽を拝めるチャンスは少ないし。
それでも、「巨石の隙間から昇る太陽をみる!」いや「見れたらいいなぁ」と旅の計画を練ってみました。

もともと私が最も波長が合う石のひとつ、尾道向島の岩屋巨石にターゲットを絞っていたら、実はこの巨石、東側は山側というのか本土側に向いていて、確かに巨石の割れ目から太陽は昇るけれど、感動的なシーンになるのかどうか?
しかも、それを見るためには巨石の西側に立たないといけないけれど、そこは崖。むしろ、巨石の隙間、瀬戸内海のほうに沈む太陽を冬至に見に行くのがいいだろうと計画変更。
しかも刑務所から脱走した受刑囚が潜んでいたのが、まさにこの向島の巨石のある山の脇だったりして(あ、もうとっくに捕まってましたが、あの瀬戸内海を泳いで渡ったのですね。いや、まぁ……大した距離じゃないにしても)。

日本で夏至祭と言えば? 検索してみたら二見興玉神社。そこで行き先を、伊勢にしました。
三重に行くなら、ついでに和歌山を回って、以前行こうとしていけなかったゴトビキ岩を見ておこうと伊勢・和歌山コースに決定。母のリクエストはわたらせ温泉。じゃ、シャンシャンの代わりに和歌山のパンダを見に行こう! と思ったら、何とアドベンチャーワールドの素敵な企画を発見しました!
ただし、この企画、1日1組というので、一番都合のいい金曜日は既に予約が入っていたため、夏至の日(木曜日)に、二見浦で日の出を見て、そのまま和歌山の山の中を突っ切って、お昼に白浜にたどり着く、強行軍になりました。
いや~、紀伊半島はなめちゃいけない、ってのは以前にも経験していたのですが、今回も東京に行く方がよっぽど早いわ、と思うような大旅行になりました。ほんとに、和歌山県って……(でも楽しい)。

しかも、夏至の前日は警報の出る大雨、夏至の日も大雨予報。まぁ、決めたからには行くしかないけれど、そもそも前日大雨の中、和歌山の海辺を走って行く予定は無理だろうと諦めて、京都回りで伊勢入り。
結果として下のような大強行軍になりました。
6月20日(大雨)京都国立近代美術館で「横山大観展」→滋賀・石山寺→伊勢・二見浦
6月21日(夏至~曇り・雨・曇り)4時には二見興玉神社の夏至祭に→7時出発→白浜・アドベンチャーワールド→わたらせ温泉
6月22日(曇り・晴れ)熊野速玉神社→神倉神社(ゴトビキ岩)→花窟神社→獅子岩→伊勢回りで帰路
最終日の旅の記録はまた、【石紀行】で。
てるてるぼうず
ちなみに、大雨警報の中、「君が最後の頼みの綱だ!」と車につけたてるてる坊主。
てるてる坊主的には「え? 俺? 大雨警報出てますけど?」だったと思うけれど、けっこう効果あったんじゃないかな。太陽は出なかったけれど、雨は上がってたし、何となく光は見えたし。

というわけで、こちらでは、まず、強行軍で行ってみた、和歌山アドベンチャーワールドの年寄りに優しいツアーのご紹介です。
(あれ、前書き長いなぁ)

【アドベンチャーワールドのプレミアム浪漫ツアー】
結浜木の上4
ネットでアドベンチャーワールドを検索していて見つけた『プレミアム浪漫ツアー』。
そもそも動物園やテーマパークのたぐいは子ども優先。大人が楽しみたくても、子どもがいたら子どもを優先です。でも、このツアー、1日1組、6人まで、参加者全員が半世紀以上生きてないと申し込みできないという、まさにプレミアムなツアー。大人だって、楽しみたいけれど、子どもがいたらやっぱり遠慮してしまいますものね。そんなおばちゃんの心をくすぐる素敵なツアーだったのです。
電話で申し込んだら、「海の生き物にしますか? 草食動物にしますか?」と聞かれたので、とりあえず、イルカにしました。カバにも惹かれたんだけれど。
料金は一人6000円。まぁ、年寄りのメリットは(使い道のない)金をいくばくか持ってるってことですからね!?

スケジュールは。
ツアー開始は12時15分。約1時間のツアーです。
・パンダとふれあい:『パンダラブ』で待ち合わせ→バックヤードに。林檎をあげて記念撮影。
・イルカとふれあい:イルカに触ったり、ちょっと芸をしてもらったり、そして餌をあげます。
・ペンギンとふれあい:ペンギンに餌。王様ペンギンに触らせてもらえます。

パンダラブのパンダたち
まずは、入り口の近くで参加証を受け取って、時間の少し前に『パンダラブ』へ。
大雨と地震の後の影響なのか、観光客はとても少なくて、かぶりつきでした。
(えっと、プチ被災した実家。旅行は無理かなぁと母に電話したら、「え?なんで?」という雰囲気。家に居ても仕方ないし、ってことだったらしいけれど、雨にも地震にも負けず、当然のごとく旅の準備をしていたらしい)
パンダラブ
パンダラブという施設には3頭のパンダたちが居ます。子供たちですね。今、1歳9ヶ月の結浜。それから3歳半の双子、桜浜と桃浜。こちらは2箇所の展示室があって、ガラスで区切られています。そもそもパンダというのは単独行動をする生き物なので、こうして1頭ずつ分かれた部屋にいるのですね。
でも! このパンダラブでは、パンダと私たちの間にはガラスはありません。しかもけっこう近い! 
パンダの居るところは少し斜めになっていて、これはパンダの習性を活かしてあるとのこと。パンダってご飯を食べるとき、座って食べていますよね。もともと野生のパンダが生活している場所でも、座って斜面に凭れて食べているそうで、こういう形になっているのだとか。私たちも見やすいですしね。パンダと私たちの間に手すりはあるけれど、手すりの手前は溝になっています。パンダ、時々、溝に降りています(落ちている?)。
パンダラブのこどもたち
展示室にいたのは一番小さい結浜と双子の片割れ・桜浜。
結浜、まだまだ子パンダです。パンダって見に行っても、結構寝てるってイメージだったのですが、ずっと動き回っていました。しかも、よく分からないのは、これって、こっち見てる? ポーズ取ってる? っていう格好をするのですよね。ちなみにパンダの視力は0.1くらいだそうで、その視力で「目が合ってる」ってことはなさそうなのですが……
結浜タイヤでポーズ
しばらくは、萌え萌えの大海が撮りまくった写真をお楽しみください。いや、もう、いつまで見てても、いつ撮っても、動画でも静止画でも、なんて可愛いんでしょう。惜しむらくは、もっと動画を撮っておけば良かったってこと。でもこの日はもう夏至祭で動画も結構撮っていたので、バッテリーが心配で(一応、いつももうひとつデジカメは持っているのですけれど)。
結浜は~い
こんなふうに、木の上でまるで「は~い」っていってるように手を上げてみたり。
結浜おっこちそう
落っこちかけてみたり。そう言えば、落っこちても、なんてことも無さそうですよね。結構高いところから落ちていたりしてますが。
結浜おしり
お尻も可愛いです。そう言えば、最近のパンダのぬいぐるみは、ちゃんとパンダの尻尾は白くなっていますね。大昔、パンダのぬいぐるみの尻尾、黒かったので、てっきり黒いんだと思っていたら、ある時王子動物園で白いことに気がついた、なんて過去がありましたが……パンダの尻尾って、尻尾というよりも尻穴隠しって感じがしますよね。
結浜木の上
木の上でさんざん愛想を振りまいた後、今度は隣の桜浜の方へ。この仕切りの近くは、下の溝の方へ降りるのに便利なのでしょうか。降りていきながら、まるで桜浜に呼びかけているようなシーンが撮れました。いや、別に呼びかけていたわけじゃ無いと思うのですが、絶妙なワンシーン。
ゆいひんとおうひん
柵のすぐしたがこんな風に溝みたいになっていて、ちょっとの間溝をうろうろ。ポーズを決めてみたり?
結浜下におりちゃった
降りたはいいけれど、どうやって上るんだろうとみていたら、割と直接的に「よいしょ」と上っていきました。
結浜のぼる
後ろ姿まで可愛い。汚れたお尻も可愛い。
結浜よっこいしょ
上りきったら、ちょっとポーズを決めて? ガラス越しだけれど、桜浜とのツーショットその2。
ゆいひんとおうひん2
ここで見られるように、となりでは桜浜はひたすら食っています。実は、結浜の写真を撮る前に桜浜の写真を撮って、それからまた桜浜のところに戻ったけれど、ほとんど何もポーズが変わっていなかった^^;
結浜木の上2
また木の上に登って、ポーズを決めて? 愛想を振りまいた結浜。
結浜木の上5
さすがに動き回って疲れたのか? 今度は木の上で寝ちゃいました。
結浜ねる
結浜が寝ちゃったので、桜浜のところに戻ります。
ずっと食べている桜浜。食べる姿をじっと見ていると、本当に上手に皮を剝いて食べているのですね。しかも、竹を1本食べ終わったら、2本ほど一緒に掴んで、においをかいで、気に入った方を食べ始める。ぽいって捨てた方は、大概もう食べないそうです。
桜浜たけたべる
周囲に散らばっているのは、剝いた竹の皮の残骸。飼育員の人たちは、この残骸を見たら美味しく食べてくれたんだなと安心するそう。なぜか、大事そうに竹を抱えてポーズをとる桜浜。双子のもう1頭、桃浜は今、バックヤードで待機中? そうそう、私たちに会うのを待ってくれているはずです。
桜浜竹大事
後で教えてもらったのですが、やっぱり竹は硬くて、あごが疲れるからか、右側で食べたら次は左で、というように、使うあごを交互に替えているそう。
桜浜右あごで食べる
まずは右あご。
桜浜左あごで食べる
それから左あご。
ずっと食べているのもそのはず、食べた分量の20%くらいしか吸収されないので、本当に食べ続けないとエネルギーを維持できないのですね。
こうしてみていると、3歳になった桜浜も、なんか可愛いぞ。というのか、パンダって、子どもも大人も可愛いじゃないですか。この仕草が本当に不思議と癒やしになります。

プレミアム浪漫ツアー
さて、そうこうしてパンダラブで萌え萌えな時間を過ごしていたら、係員のかたが呼びに来てくださいました。いよいよ『プレミアム浪漫ツアー』の始まりです!
さっそく建物の裏口へ。建物に入るときは、消毒液に浸したマットレスを踏んで靴を消毒します。
中に入ったら! もういきなり待ってくれています。
桃浜にあう
いや、待っているというのか、やっぱりひたすら食っています(^^) 桜浜の双子のきょうだい、桃浜です。日本と中国の友好を印象づける命名ですね。
パンダと私たちの距離は下の写真通り。赤い仕切りの向こうは、パンダの手が届いちゃうところです。
いくら可愛くても、やっぱり相手は熊。そもそも普通の熊だって、向こうも「ニンゲンに会いたくない」と思っている気弱な生き物ですが、突然でくわしたら、襲われてやられちゃうことも。手はでかいし、爪は結構鋭いし、ってことで、この距離を守って対面です。
パンダについての説明を聞きながら、いよいよ桃浜にリンゴをあげます。
桃浜りんごあげる
直接だとがりってやられちゃうかもなので(パンダに悪気はなくても)、こうして棒の先っちょにリンゴをつけてプレゼント。リンゴ、大好きです。桃浜はわりとすんなりと食べてくれるそうですが、展示室にいた桜浜はかなりマイペースで、なかなか食べてくれないこともあるそうです。
リンゴに気がついたら、「あ、リンゴだ」とばかりにぱくっ!
柵の横のスペースはガラス張りになっていて、こちらでは様子がよく見れます。お腹の上には剝いた竹の皮がいっぱい。本当に、すごい勢いで上手に皮を剝いて食べています。桃浜の耳は、お父さんの永明にそっくり。
桃浜おいしかった証拠
こんなに竹ばっかり食べているので、うんちもこんな色。においをかがせてもらえますが、まったく竹のにおいです。
ぱんだのうんち
ツアー案内係のスタッフの方がいっぱい写真を撮ってくださって、思い出の写真も沢山楽しめます(*^_^*)
ひとしきりのふれあいの後、桃浜にお別れを告げます。
桃浜いすにすわる
桃浜、ありがとう~(^^)/

さて、園内は結構広いので、年寄りツアーの醍醐味? 移動はカートです。しかもバックヤードを通っていくので、すいすいと次の現場、イルカさんのバックヤードプールに。
実は、このツアーは、年配の人で歩くのが大変な人たちにも楽しんでもらおうと企画されたそうです。いや、もう、ありがとうございます、ですよ。
雨がぱらぱら降っていましたので、イルカのプールにはカッパを着て行きます。
レインコート
ぱんだカッパ、あとで売店で購入してしまいました。まぁ、街中をこれで歩くのはちょっと、ですけれど。なにせ、耳がついていますからね……
イルカプールにはカメラを持ってあがることはできないので(結構みずみずしい場所ですから。それに落としたら大変)、カメラはスタッフのかたに預けます。あとでカメラを見たら、いっぱい撮ってくださっていました。
私たちの相手をしてくれるのは、バンドウイルカさん。
いるかのおなか
まずはイルカにタッチ。これまでにも一度イルカのひれに触ったことはあったのですが、お腹に触るのは初めて。ひれは硬いゴムみたいなのですが、お腹は、やっぱりゴムっぽいけれど、なんか「生き物」って感じのぬくもりみたいな、いや、水の生き物だから全然暖かみはないのですけれど。
さかなあげる
お礼に魚をあげます。結構でかくていいイワシですが、解凍イワシかな。
いるか鳴く2
手を叩いたら、鳴いてくれます。お礼にまたイワシをあげます。イワシは口の中にぽいって入れてあげるのだけれど、なんか向きが気に入らないのか、ちょっと吐き出して?向きを変えたりして飲み込みます。
いるかくるくる
次の芸は、人差し指を立てて、手を開いたり交差させたりします。そうすると、いるかはくるくる回転してくれます。もちろん、またお礼に魚をプレゼントします。
あくしゅ
最後に腕を上げてさっと振り下ろすと、イルカがさささっと上がってきてくれます。握手をしてお別れです。
イルカがセラピーに役に立ってくれるって、分かるなぁ。あのつぶらな瞳がなんとも言えないのですよね。短いけれど、素敵な癒やしの時間でした(*^_^*) バンドウイルカさん、ありがとう(^^)/

次に向かったのは、ペンギンの部屋。
当然ですが、寒いです。臭いと聞いていましたが、そして確かにちょっと臭いけれど、予想していたほどではありませんでした。この日巡った中で一番臭かったのは、なんといっても肉食動物のお部屋でしたから、ペンギンなんてたいしたことありません。
でも、寒い……(>_<)
なんとお客さんが見ているこんなお部屋に入れてくれるのです。「あの人たちなんであそこに入っているの?」と皆さん思っていただろうな。
ペンギンルーム
アドベンチャーワールドには8種類のペンギンが居るそうですが、入った途端「あ、餌だ!」と寄ってきたのは、ピンク矢印のジェンツーペンギン。
ペンギンサイズ
あ、でもよく見ると、イワトビペンギンが1匹混じっています(大きさ比べ図では赤矢印)。
えさくれ2
「はよくれ」とばかりに迫ってきます。こんなに沢山ペンギンがいるのですが、でも、寄ってきたのは10匹くらいだったかな。他のみんな我関せず、でしたよ。あまり、人に寄りたくないのかな。でも確かにあの数のペンギンがみんな寄ってきたら、怖すぎる……
えさくれ3
でも、ちょっとガン飛ばされている感じ? このジェンツーペンギン、よく見ると、大きいのとか小さいのとか入り交じっています。大きいのが大人で、小さいのが子どもってわけでもないのです。ちょっと分かりにくいですが、下の写真で目の周りの白いところが多いのが大人、少ないのが若いペンギン。
そう言えば、鳥って、子どもの方がサイズでかいとき、ないですか? なんかすごい迫力ある様子で餌をねだって、ねだられている親鳥の方が小さそうに見えたりして。
えさくれ
イワトビペンギンは、なにかのCMで有名になりましたよね。『ダーウィンが来た!』でやっていましたが、すごい岩場に住んでいるんですよね。
いわとびぺんぎん
ところでこういうところにいるペンギンはどうやって連れてこられているんでしょうか。何でも親が育児放棄したたまごとか、自然界では弱って死んじゃいそうなのを連れてきているのだとか。
その自然界といえば。
ペンギンのふるさと
こんなんです。すごい数のペンギン。でもこれも『ダーウィンが来た!』でやっていましたが、海に餌を取りに行った親鳥は、この中かからちゃんと自分の子どもを捜し当てることが出来るんですよね。また、つがいも自分の相手をちゃんと確認できるそうな。
ちなみに、毎年相手を変えないわけではないそうですが、その年は同じ相手とつがいになってるんだそうです。このペンギンの部屋でも色々な人間関係ならぬペンギン関係があって、毎年違う相手の場合もあれば、なぜか何年も同じ相手ってこともあるそうです。
おおさまぺんぎん
さて、こちらは大きさ比べ図の中の黄色いペンギン、皇帝ペンギンよりもちょっと小さい王様ペンギンです。実はペンギンって触ろうとすると逃げていくそうですが、このペンギンだけは、小さいときに親が育児放棄したために人間が育てたので、触らせてくれるそうです。ペンギンの個体の識別は、手じゃなくてひれに付けられた腕輪?みたなのに色つきのビーズみたいなのが3つくらいついていて、これで確認しているのだとか。
ひれは思ったよりも硬くて、背中は思ったよりも短い毛でつるっとした印象。触らせてはくれるけれど、こっちを向くのはいやだったみたい^^; スタッフさんが足で行く手を遮っていなかったら、さりげな~く逃げていきました。
3つ回って1時間ほどのツアー。予想通り、とっても楽しい充実した1時間でした(*^_^*) 大満足!

もう一度パンダ
レストランも予約しておいてくださって、そこまでカートで連れていってくださってツアーの全行程終了。
スタッフの皆様、ありがとうございました!
さらだ
こちらのレストラン、テーマパークだからなぁとあんまり期待していなかったけれど、なんと、かなり美味しい! 野菜はしゃきしゃきだし、写真にはないけれど、ステーキ(肉は和牛ではなさそうだったけれど)は柔らかくて、サイドも美味しかったし、しかもなぜかコメも結構美味しかったのです。テーマパークのレストランとは思えない満足度でした。
ぱんだぱふぇ
パンダポンチ(フルーツポンチ)も美味しくいただいて、すぐ側のイルカライブショー会場でライブを見て、その後、夕方のサファリツアーも予約していたので、それまでの時間、再びパンダのところへ。
でも、、まず向かったのは子パンダたちが居るパンダラブではなく、お父さんの永明とお母さんの良浜がいるブリーディングセンターへ。こちらはイルカのライブショー会場の近く。
和歌山パンダファミリー
実は、和歌山のパンダファミリーは大家族。家系図の右上が梅梅、そして左やや下が、和歌山の光源氏こと永明。梅梅と永明の間に出来た6頭のパンダは全て中国へ帰っていて、梅梅と別の雄パンダの間にてきた子ども・良浜(つまり永明の義理の娘?ん?パンダ的には関係ないよね)と永明の間に8頭。そのうち5頭が中国に帰っていて、今アドベンチャーワールドにいる子パンダは3頭。
いずれみんな繁殖相手を探すために中国に帰ることになります。日本ではペアの相手になるパンダが見つけられないからなんですね。
パンダって、そもそも単独行動する生き物。しかも発情期はたった3日間ほどで、しかもかなり相性の合う相手としか子作りをしないそうで、この永明と2頭のママパンダの繁殖力は、本国・中国からも注目されているそうです。
永明
和歌山のパンダ界の光源氏、永明(私が言ったんではなく、ネットに出てた)。人間でいうと齢70。ずっと竹食べてました(*^_^*)
何でも、かなりグルメで、お気に入りの竹しか食べないらしい。
でも、光源氏は女はいっぱい居たけれど、子どもは3人だけ。永明は嫁は2人?だけで、子どもが14人(頭)。全然、永明の方が男気がありそうじゃないですか。
良浜ねてる
そのベテランママパンダ・良浜。こちらはずっと寝てました。
ちなみに、今年も実は交尾が確認されているそうで、もしかしたら、来年辺り、もう1頭(もしくは2頭)産まれるかも!だそうですよ。
浜ファミリー
そして、中国に帰った11頭の和歌山生まれのパンダたちは浜家(浜ファミリー)として親しまれていて、さらに次の世代を12頭もつくっているんですって。
さて、サファリツアーを待つ間にまたまたパンダラブへ。
(ちなみに前半に挙げた写真の一部は、この2回目のパンダラブで撮ったものも混じっています)
結浜すわる2
今度は竹ではなく、笹をもらっていました。結浜も今度はご飯タイム。
結浜笹おいしい
笹もって嬉しそうな結浜。
結浜ポーズ取る2
かと思ったら、立ち上がって、またまたサービスポーズ? 絶対にこっちを意識しているよね、と思うのですが、実際どうなんでしょう。
結浜ポーズ取る
いや、ほんとに、いつまで見てても飽きません。
隣のお部屋では、桜浜も笹をむしゃむしゃ。お姉ちゃんは安定感ありますね。ちなみに、ツイッターで見ていたら、桜浜と桃浜、一緒にお部屋にいることもあるみたいですね。そう言えば、TVで『パンダフルライフ』見たときも、双子の雄パンダ、いっしょにいたなぁ。
桜浜笹食べる
さて、このあと、更にもうひとつ、ジープでサファリツアーにも出かけました。夕方、動物たちを檻に戻すお手伝い? そして、小屋の中にも入ってきました。このご報告は、またの機会に(*^_^*)
いや~、パンダ。
子パンダは文句なしに可愛いけれど、若者になって、親になっても、年寄りになっても可愛いですね。もっとも、可愛いと言ってもあくまで熊。そして好みがうるさい(ペアの相手とか、笹や竹とか)。
でも、本当に飽きないなぁ。この不思議なツートンカラーの熊、これからもずっと私たちをいやしてほしいですね(*^_^*)

おまけ。スマホに残っていた結浜があまりにも可愛いので。
ばんざ~い。
スマホ結浜2
呼んだ?
スマホ結浜1
おまけ2。おみやげ。
パンダグッズ

Category: 旅(あの日、あの街で)

tb 0 : cm 12