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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

ようこそお越しくださいました(道先案内) 

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この記事は表紙として常にトップにあります。通常記事は次の記事からです。
こちらは、掲載している小説などのあらすじ・紹介リストです。
掌編から長編まで取り揃えています。
お時間がありましたら、ぜひ『続きを読む』をクリックして覗いてみてください(^^)
なお、左のカテゴリからクリックすると、物語を始めから読むことができます。

ねこ好きの方は……【迷探偵マコトの事件簿】で猫ブログ感を…
旅好きの方は……【石紀行】で巨石を巡る不思議な旅へ…
本格的な物語をという方は……【清明の雪】で京都ミステリーを…

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Category: 道先案内

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【旅2018・グランドサークル】旅行記予告編 

夕陽のグランドキャニオン
2018年9月、偶然にも日程の都合で羽田発にしていたアメリカ大旅行。本来なら台風で甚大な被害を受けた関西国際空港から出るつもりだったのですが、色々あって、仕事を始めてから○十年にして初めての大型夏休みを取ったので、3連休を駆使して平日休みを最低限に抑えて旅をしてきました。この日程では、私の希望の場所を全部巡るツアーは羽田発しかなかったのです。
憧れのグランドサークルツアーです。
旅行記は2017年のスペイン旅行があと2つ(石紀行入れたら3つ)残っているので、それが終わってからですが、まずはダイジェスト版を。でもダイジェスト版だけでも大旅行記。おかげさまで、まだ微妙な時差ボケ後遺症が残っていて、夕方から夜はもう異常に眠くて、ブログがお留守になっていて済みません(;_;) 折しも秋の週末はお仕事絡みのお出かけと三味線大会の練習で行ったり来たり。夜はますます眠いです(@_@)
グランドキャニオン1
グランドサークルとは? 検索して頂いたらすぐに出てくると思いますが、主としてアメリカ西部のユタ州・アリゾナ州にまたがる大きく円を描いた「大地球を感じるサークル」です。
以前、ニューメキシコ州のサンタフェからインディアンの居住区を巡った事がありましたが、その時から「いつかは」と思っていたものの、その旅の時に感じたことは「これは個人旅行で回るのは無理!」でした。1日に大阪/東京を往復するなんて移動は当たり前の旅になるのです。さすがにレンタカーなんて異国で運転したくないし(しかもすごい距離)、個人で交通機関をチャーターしたりキャニオンなどの入場予約をする手間と値段を考えても団体旅行しかないなぁと。
でも、私、団体のツアーに参加したのって、カンボジアに行ったときのみ。ドキドキしながら羽田の集合場所へ。
私は唯一の関西からの参加者だったので、皆さんはもう一旦集合して解散した後。でも、結果的に、最高の添乗員さんと、ユニークでちょっとスパルタな現地ガイドさん、職人気質の運転手さん、そして何よりツアーメンバーに恵まれて、ものすごく楽しい旅でした。
グランドキャニオン2
旅は、羽田→サンフランシスコ→フェニックスから入って、まずはグランドサークルの目玉、グランドキャニオンです。
トップに挙げた写真は、別の日に見に行ったグランドキャニオンの夕陽ですが、観光初日も最高のお天気に恵まれて、丁度雲の影も美しくて、光と影のコントラストがものすごく美しかったです。
しかし! たしかにすごいんですよ、グランドキャニオン。でも、デカすぎてもうすごさが分からないレベル(@_@) 100万円がすごい大金だって事は分かるけれど、10億円と言われたらもう大金かどうか分からないって、そういう感じ? 
セスナ
分からないついでに、遊覧飛行に参加してみました。参加するまで一番不安だったのはこの遊覧飛行。落ちるとか、エチケット袋必須とか、あれこれ前情報が多くてドキドキ。でも結果的にものすごく良かった。上空から見るとコロラド川がよく見えます。
セスナから見たグランドキャニオン
このか細いコロラド川がグランドキャニオンを作ったのですよ。キャニオン、というのは渓谷、即ち、水が削った地面に出来た底掘れ。雨になると怒濤のコロラド川の激流が作った渓谷。月からも見える地球の景色です。
ホースシューベント1
翌日はホースシューベントとアンテロープキャニオンへ。上はホースシューベントですが、コロラド川がくるっと回っていて、面白い形ですが……問題はこの立地(なんとなく気配が見えるでしょうか)。旅行記ではその辺りもじっくりご案内いたしますね(大海、びびっています)。
そして、アンテロープキャニオンです。今回の旅で最も期待していたのは、アンテロープキャニオンとアーチーズ国立公園。そのひとつであるアンテロープキャニオンにたどり着いて大感激。ここはナバホ族の管理下にあって、すごい砂地を乗り合いジープで入り口まで行くのですが、もう完全に気分はインディジョーンズです(o^^o)
アッパーアンテロープキャニオンPM1
実は、今回の旅でこのアンテロープには2回行ったのです。最初はこのツアーで、2回目はラスベガス滞在中に別の旅行会社の現地ツアーに参加したのです。なぜ2回も行ったのか? アンテロープキャニオンには、アッパーとローワーの2箇所があるのですが(正確には「エックス」という第3のキャニオンもあるそう)、日本からのツアーではアッパーアンテロープキャニオンにしか行かなかったのです。何があってもローワーに行きたいと思ったのと、運がよければアッパーのビームが見れるかも、と。
アッパーアンテロープキャニオンAM1
上の2枚の写真、大体同じような雰囲気の場所なのですが(同じかどうかはもうあまりにもよく似たところがあってよく分からない^^;)、上の方は午後2時頃、下の方は11時頃です。光の入り具合で、写真の暗さが違うのですね。それにちょっと立ち位置やカメラの位置を変えると暗さや形や色合いが変わる。目で見た印象では、そんなに違った印象ではなかったのですが、写真になってみると余計にはっきりしています。
アッパーアンテロープキャニオンPM2
そんなアンテロープキャニオンは、ある写真家が「素晴らしい場所がある」と発表してから有名になって、今ではすごい観光客が押し寄せる場所。上の方を見上げて写真を撮れば、人は写りませんが、回りにはすごい数の観光客がいるんですよ^^;
ミトンポイント1
次に訪れたのは、モニュメントバレー。西部劇でよく見る景色ですね。
この景色の中へ入っていくジープツアーがあって、ツアーのみんなで参加します。時間に応じてかなり奥まで行くことも出来るようですが、我々はとりあえず入門編?でしょうか。でもこの景色を見ていると、予想していたよりもずっとテンションが上がりました。
ウマの上の人
馬に乗ったおじさんがサービスで立ってくれます。なんかそれっぽい景色になりますね。
そして、この日の宿泊はこんな素敵な朝陽が見えるロッジでした。あれこれ失敗もあったのですが、それはまた本編で(o^^o)
モニュメントバレー、実はもう一度行って、ゆっくりしたいと思った場所です。
モニュメントバレー朝陽2
さて、その翌日はアーチーズ国立公園です。ちなみに、アンテロープキャニオンやモニュメントバレー、セドナは国立公園ではなく、特に前2者はインディアン居住区の中にあるため、観光は彼らのツアーに参加します。いわゆるアメリカ政府の定めた国立公園とは違うのですね。
国立公園では「あるがままの自然」を楽しむのが基本。グランドキャニオンではしばしば落雷があって山火事になるそうですが、それもまた自然の摂理。このままでは周囲の「被害が拡大して相当甚大」とならなければ、そのまま消火しないんですって。もちろん、ものを持ち込んだり、ものを持ち出したりしてはいけません。天気が悪かったら行くのは諦めてね(橋もないし、地面は川になるし、たまに鉄砲水で死んじゃうし)、というのは国立公園もインディアンの管理区域も同じ。
ウィンドウズセレクション1
アーチーズ国立公園は、グランドサークルでは一番端っこにあって、ツアーでは結構省略されることがあります。実は、ここが入っているというのでこのツアーを選択したのでした。
岩塩層、節理、砂岩層、複雑な地形に、風や水や様々の浸食が加わって、なんだか説明しにくいあれこれの結果、こんな独特の地形ができあがったわけですが、これが現場に立つと、写真以上に感動。すごい壮大な景色なんですよ。
ダブルアーチ2
あ、マッチ棒の役割になる人が上手く写っていませんね。でもね、本当にすごくすごくデカいんです。この景色、映画好きの人ならぴんときたかも! そう、私も大好きな『インディジョーンズ』の『失われたアーク』に登場したダブルアーチです。
でも、一番見たかったランドスケープアーチはツアーに組み込まれていなくて、残念。このアーチたち、次々と崩れて行っているので、一番細いところは1mしかないランドスケープアーチはあと何年もつのか……その前に再チャレンジしたい。
ブライスキャニオン2
アーチーズの翌日はブライスキャニオンです。ここは、欲を言えば夕陽と朝日を見たかったけれど、昼間でも十分に美しい。ここもキャニオン=峡谷ですから、水の勢いで削られた地形なのですね。
そう言えば、このツアーはそれぞれの場所で1-2時間程度ののハイキングがついていたのです。ただバスから降りて観光するのではなく、その場所を歩く、ってのが魅力。でも、恐ろしく暑かったので、ちょっと大変だったりしました(@_@)
ブライスキャニオン1
地層が見えますよね。
その後、ザイオン国立公園へ。アメリカ人に大人気のこの国立公園、ここまでずっと砂と岩ばかりで全く水気のなかった旅、この公園の水の音はもう本当に癒やしでしたね。日本人はやっぱり湿気がなくちゃ!? 
われわれが歩いた部分は歩きやすい道だったのですが、最奥部に行くとものすごい景色だそうですよ。川の中を歩いたり、岩登りがあったり、かなりしっかり装備をしていかなくてはならないそうで、最後まで行き着く人はなかなかいないのだと、か。
ザイオン1
ラスベガス入りの前にバレーオブファイヤーへ。
実はこのグランドサークルにはウェーヴと言って、抽選で1日限定20名しか入れない(しかも抽選に当たったとして、地図とGPSを渡されて個人的に頑張って行く。行き倒れそうな道のりらしい。「抽選にあたったとして、あなたに炎天下を10km歩く事が可能かどうか、もう一度自問自答してみてください」って申し込みの注意に書いてあるそうな)ところがあるのですが、そこはとても行けそうにないので、ちょっと雰囲が似たところの一つということで、このファイヤーウェーヴ(赤いウェーヴ)は楽しみにしていたのでした。
ファイアーウェーヴ1
あのすごいウェーヴには届きませんが、こちらもなかなかの景色でしたよ。
ファイアーウェーヴ2
炎天下で砂地を歩くところが多くて、なかなか大変でしたけれど。
そして、眠らない街・ラスベガスへ。2泊したのに、私、ラスベガスの滞在時間わずか14時間くらい? それもほぼ睡眠時間(眠らない町だけれど寝た)^^; なぜならば、夜中の3時半集合で真夜中に帰ってくるという弾丸現地ツアーに行ってしまったからなのですね。
どうしても見たかったアッパーアンテロープキャニオンのビームとローワーキャニオン。そしてトップの写真のグランドキャニオンの夕陽を見るツアー。
ビーム、感動でした。これは午前中の最後のほうしか見ることができないそうで、要するに天井部分が狭くなったアッパーキャニオンのほぼ真上から太陽の光が入り込む時間帯にしか見ることのできない、そういう景色なのですね。それ以外の時間は光が斜めに入るからビームにはならない。
アッパーアンテロープキャニオン@ビーム1
こちらもじっくりとレポートさせて頂く予定です(^^)/
アッパーアンテロープキャニオン@ビーム2
そして、アッパーと違って、天井部分が開いて足元が狭い形のローワーキャニオン。天井部分が開いているので、光が多く入るため、何より写真が美しい!
ローワーアンテロープキャニオン1
何かのコマーシャルでも使われていたそうですが、この景色は一見の価値ありです!
ローワーアンテロープキャニオン2
でも、ツアーのみんなと仲良くなっちゃってて、離脱して別の現地ツアーに参加するのがちょっと寂しかったくらい。本当に居心地のいいツアーだったのですよ(ツアー参加歴多数の皆さんに言わせると、そんなことは滅多にない、偶然にも特別に素敵なツアーでした。なにより添乗員さんのお人柄かな~)。案の定、現地ツアー(日本人ばかり)は、若いグループやカップルばかりで、しかもすごい人数で疲れちゃいました。でも景色は最高だった。
最後の日はセドナに行きました。ボルテックスに登る事は出来なかったのですが、たしかに癒やしの力が溢れているように思いました。登りの多いハイキングだけど、足取りが軽かった?とか疲れなかった?とか(たぶん思い込み?)。
それに、「私の水晶」との出会いもありましたよ。セドナ、またゆっくり行きたい。
ボルテックス
最後に。以前にサンタフェを訪れたときから、いつか出会うと思っていた私のカチーナ(インディアンの精霊たちの人形)。なかなかぴんとくるものがなかったのですが、今回、この旅の中でブルーコーンメイデン(青いトウモロコシの精霊、メイデン=少女の姿で表される)に出会い、おうちに来て頂きました。それにトラディショナルタイプのカチーナ(マザー=母なる精霊です)にも。
カチーナ
また改めてご紹介いたします。


帰国後、時差ボケと日常業務と積み残しの仕事で手一杯で、コメントを残しに行けていなくて済みません(;_;)
でも、しっかり読ませて頂いています! またコメント書きに行きますね。あ~でも、再来週に新しい会(死生学の勉強会)を立ち上げるので、準備もあってばたばた。

せっかくの3連休なのに、1日は栗の渋皮煮を作るのに明け暮れ、三味線大会の練習もあって、さらに、今日はヴァレリー・アファナシエフ(1947年生まれ)のピアノコンサートに行ってきました。
いや~、美しいベートーヴェンでした。何しろ『悲愴』『月光』『テンペスト』『熱情』というすごいプログラムで、弾く方も大変だろうけれど、聴く方も覚悟しなくちゃ!と思っていたのですが、予想に反して、何とも心地よい、交感神経と副交感神経がほどよく揺らぐような何とも言えない時間でした。『悲愴』の第2楽章のあの有名なフレーズが美しい、と思ったのは当然として、『テンペスト』の第3楽章がもう泣きそうになるほど、光る水が流れるような美しさで、いや、まいりました。
若いピアニストももちろんよいのですけれど、こういう渋くも美しいピアノはやっぱり年の功なのかしら。スケールの美しさなんて、もう魂がふわ~っと浮き上がりそうなのですよ。
うちのピアニスト・慎一坊ちゃんのテーマでもある『熱情』はやっぱり私にとって最高のベートーヴェンのピアノソナタなのですけれど、いつも交感神経だけで突き抜けそうになるのに、今日は(たしかに交感神経>副交感神経だけど)なんか『熱情』の別の側面を見た感じがしました。
あ、この秋の芸術活動はまたまとめてご報告いたしますね! 何しろウィーンフィルが待っている(o^^o)(わくわくわくわく)

Category: アメリカ・グランドサークルの旅2018

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【お知らせ】60000Hitのリクエスト、受け付けます(^^) 

相変わらずの辺境ブログなので、なかなか大きな数には到達しませんが、地味に続けていけているのも、交流してくださる皆様のおかげです。ありがとうございます!
なかなか余裕がなくて、キリ番リクエスト受付をサボっていましたが(なんと500Hit記念の【死と乙女】がまだ後半をアップしていない(@_@))、今回は少し気合いを入れてやってみようと思います。よろしければリクエストくださいませ。

【60000Hitリクエスト】巨石の旅にご一緒しましょう!
・60000Hitから先着4名様
・ご自身のオリキャラ、もしくはご自身(複数可能)
・大海のオリキャラ(猫や物の怪含む)、もしくは大海本人(複数可能)
・観たい巨石:【石紀行】から選ぶ、もしくは何となく地名、おまかせでも可
以上をご指示ください。皆様のオリキャラ(もしくはご自身)を大海のオリキャラ(もしくは大海)が巨石の旅にエスコートします。ただし、猫をオーダーした場合、たどり着けない事もありますので、ご了承ください(^^)/
あ、できれば鍵コメは避けてくださいませね。

大海はしばらく旅に出ていますので(世界で最も大きい巨石、地球の大地を観に)、反応が遅れるかも知れません。ご了承ください。4名様を越えた場合にも、もしかするとお連れすることが出来るかも。
って、そんなにリクエストしてくださるかなぁ。ちょっとドキドキ(@_@) 

追記 2018-9-18
大海は今、夏休みでアメリカにいます。
グランドキャニオン、ホースシューベント、アッパーアンテロープキャニオン、モニュメントバレー、アーチーズと巡り、明日はブライスキャニオンです。その後、ザイオン、バレーオブファイヤー、さらに無理してロウワーアンテロープキャニオンに戻ってグランドキャニオンの夕陽を見て、最後にセドナに寄って帰ります。
毎日移動時間がすごくて、意外に運動量が少ない(^-^;
団体ツアーは人生二度めなので、ちょっと緊張しながら参加中。でも、毎日、巨大な岩や地球の大地に囲まれて超ハッピーです。帰ってからが恐ろしい。

文字の打ち込みがモバイルだと大変で、こそこそご訪問しつつもコメント残せなくてすみません‼
又帰ったらコメント残しに行きますね(^^)/
地球はでかい。

Category: NEWS

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【石紀行】48.スペイン・モンセラット~聖なる山から溢れるパワー~ 

モンセラット広場7
今回の石紀行はスペイン旅行記事から抜けておりましたモンセラットの聖山です。ノコギリ山という意味で、ワーグナーのオペラ『パルシファル』ではこの景色が背景になりました。また、ガウディはあのサグラダ・ファミリアのイメージをこの山から得たと言われています。
ここはバルセロナからすると北西に50kmの位置になります。
バルセロナからは色んな現地ツアーも出ているようですし、電車でも行くことが出来ます。私はバルセロナの南の街・タラゴナから入ったので、バルセロナに移動する途中に寄りました。今回の旅の中でバルセロナの街以上に気合いが入っていた場所のひとつです。時間節約のために車をチャーターしてタラゴナからコロニア・グエル教会に行き、その後、モンセラットに寄りました。
車からの景色
この車窓の景色、最初にこの山が見えた時、期待以上のパワーを感じました。いえ、私決してパワースポットにすごくこだわっているわけではないのですが、遠目からも「すごい」と分かる岩山、それがずっと続いているのです。
これって、一度同じような気持ちになったことがあったなぁと思いだしてみたら、万里の長城を初めて見たときでした。あの時も、バスの窓から長城が見えたと思ったら、いつまで経ってもどこまで行っても万里の長城。うわ、ほんとに万里だ、と思ったのですが、この山々もずっと手前からこの景色を堪能できるのですから。
車からの景色2
遠景から見えるこの山々の中に入っていき、山道を登っていきます。登りながら、この岩山が近づいてくると、気持ちが昂ぶってきました。なんか、これって芝居の幕が上がるのを待つような心境ですね。
霊山2
モンセラットに着くと、いきなり観光地の中に放りこまれる感じですが……駐車場も広くて、近くに駅もあります。この駅は登山鉄道の駅のようで、自力で来ようと思ったら、バルセロナから約1時間、鉄道に乗って、登山鉄道に乗り換えてまた20分ほど行くようですね。
モンセラット駅
あれ? なんか写真がすごい斜めってるのはなんででしょう。
この駅のさらに山手側にケーブルカーの乗り場がありました。トップの写真の広場はこの写真を撮った場所からすると右手の方になります。車チャーターの私は、男前の運転手さんと2時間後の待ち合わせの約束をして、もういきなりこの岩に近づきたくて、あまり何も考えずに吸い寄せられるようにケーブルカーの駅の方へ。
ケーブルカー
思った以上に混んでいて並ばなくてはならなかったのですが、よく考えてみたら、この日は日曜日だったのですね。不覚でした。2時間はあっという間なので、ツアーなどで行かれる場合には、曜日によっては目的をはっきりさせておいた方がいいかもしれません。
ケーブルカー2
これは多分、降りていくときに撮った写真ですが、このように真ん中ですれ違うようになっていました。こうしてみるとさほどでもないのですけれど、手前から山を見上げてみると結構な急斜面。約7分、標高972mの山頂まで行き着きます。
ケーブルカー3
上から見下ろすと、広場と教会のあたりはあんなにも小さい。
山の上から広場2
案内板によると、岩にいくつか名前がついているようでした。
案内板
案内板の左上の方の地形が下の写真。岩にものすごく表情があると思いませんか。何だか膝を抱え込んで座る人(カオナシ?)のように見えたり、寄り添う親子のように見えたり、魚のようであったり、白雪姫のこびとたちだったり、人面岩に見えたり、カエルに見えたり。
山の上の岩
ケーブルカーの山上駅から見下ろして広場の方を少し拡大してみると、本当に見事な景色ですね。
山の上から広場
山の上の方には遊歩道があって、いくつかコースがあるようでした。その先には、かつて修道士が住んでいたという祈祷庵があるよう。一部に少し上ってみましたが、ケーブルカーの時間もあるし、余り遊んでいると、教会に入る時間も無くなってしまいます。
山の上2
岩たちに少しでも近づいて、足元に踏みしめて、という目的は果たしたので、早々にケーブルカーの駅に戻りました。
また別のケーブルカーでは(下るのかも)、黒いマリアさまが発見された洞窟(サンタ・コパ)にも行くことが出来るようです。
モンセラット広場1
ケーブルカーから降りて修道院のある広場の方へ向かいます。こちらはベネディクト派の修道院で、後のユリウス2世(当時、ジュリアーノ・デラ・ロヴェーレ)も修道院長を務めたことがあるという由緒正しき修道院。でも、ナポレオンに破壊されて、現在の建物は19世紀から20世紀に再建されたものだとのこと。
こちらは黒いマリアさまで有名なのですが……
モンセラット広場5
例のごとく、大海はもうぼ~っと岩を眺めています。いやもう、いつまでいても、岩を眺めているだけで幸福感溢れる場所です。
モンセラット広場4
こんなに表情豊かな岩たちがあるでしょうか。ガウディがここからものすごいインスピレーションを受けたというのがよく分かります。これを観たら、サグラダ・ファミリアもやっぱり勝てないと思う大自然のものすごさ。いや、サグラダ・ファミリアは人為だからそれはそれですごいんですけれど。
モンセラット広場3
広場からケーブルカーで登った山を振り返ります。いや、すごい。
教会ファザード
アーチを潜って修道院のファザードを見上げて、ふと脇を見ると。
黒いマリアさまの行列
黒いマリアさまをお参りするための長蛇の列が。しかも、教会内の礼拝の時間は見学の列が止まるので、ますます動かない長蛇の列。結局お参りは諦めて、広場に戻って時間までぼ~っと岩を眺めてハッピーだった大海なのでした。
広場の上の岩
まるで生きているようですね。
広場の上の岩3
でこぼこ感もものすごく面白くて、ひとつとして同じ表情の岩はありません。アップにしてみたら、あの上の方の岩の方がでっかく突き出ていたり。ちょっとキノコみたい。
広場の上の岩4
いつまでも居たいけれど、タイムアップです。広場を降りて駐車場の方へ戻る途中に土産物屋さんがずら~~~っと並んでいます。ここに来ると、もう観光地そのものなのですけれど。
広場の上の岩6
時間が合わなくて聴けませんでしたが、少年合唱団が歌っているようですよ。
合唱団写真
名残惜しいのでもう1枚。いつまで観ていても飽きないこの景色。この空間にいること自体が幸せな場所なのでした。
モンセラット広場2
(訪問日:2017/7/16)

・【石紀行】はもうひとつスペインを巡ります。アンテケラの古墳、お楽しみに。
・【スペイン旅行記】の次回はメスキータです。

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【雪原の星月夜-5-】 第2章 霧の港(1) 喪失 

【雪原の星月夜】5回目です。
『霧の港』というのは竹流の店で会員制のバーです。多分各ブースでは世の中が動くような秘密の会話が交わされていることでしょう。真は大東組の若頭・新庄に呼び出されて銀座にあるこの店に向かっているのですが、まだかなり時間が早いので、少し寄り道をしてしまったようです。寄り道をしたのは竹流の元恋人(のひとり)室井涼子のブティックです。
ちらりと予告していましたが、真は今、彼女と微妙な関係なのです。

相変わらず、まだあの人は出てきませんね……でも新宿から銀座に来たので、少し近づいたかしら。彼は今、築地?
本当は1回休憩して息子のお話にするつもりだったのですが、ちょっと事情があってこのまま第2章に入りました。事情というのは、やっぱり【死と乙女】の後半をアップしてからのほうがいいなぁと思ったので。

ところで、プチ予告です。
しばらくキリ番リクエストをしておりませんでしたが、60000Hitでは久しぶりにしようと思っています。
近づいたらまた記事として募集させて頂きますが、今回の趣向は「うちのオリキャラ(もしくは大海)があなたのオリキャラ(もしくはご自身)を巨石への旅にご案内します」です。ただし、エスコート役をネコや某寺の物の怪にしたら、迷子になったりして、たどり着けないかも?
相変わらず辺境中の辺境で、うちのペースだと、60000Hitになるのはまだ随分先になりそうですので、もう少しお待ちくださいませ(*^_^*)

【真シリーズについて】
【雪原の星月夜】の登場人物紹介はこちら→【雪原の星月夜】(真シリーズ)登場人物紹介
万が一、前作【海に落ちる雨】に挑戦したいと考えてくださる方は→左のカラム・カテゴリから選択してくださいね。
【海に落ちる雨】部分読みも可能
【海に落ちる雨】始章:竹流と真の生い立ち
【海に落ちる雨-52-】第9章 若葉のころ:真の中学生の頃。
【海に落ちる雨-59-】第11章 再び、若葉のころ:真が高校生の頃。
『若葉のころ』には真の学生時代が登場、今回の物語で登場する母校の院長(校長)先生や灯妙寺も少し登場。



【雪原の星月夜・第1節】 第2章 霧の港
(1) 喪失
 

 その日は案の定、夕方まで来客もなく、真は宝田を早めに休ませて、七時には事務所を出た。大東組の新圧に指定された時間までには、まだ少し間があった。

 銀座に出るのは久しぶりだった。
 クリスマスが近いためか、街は夜となってますます煌びやかに見える。どの店もまだ閉店の札を出しておらず、明りの灯った店内では客が買物を楽しんでいる。その華やかな空気にもかかわらず、真には全てが冷えて固まった絵のように思えた。透明な氷に閉じ込められた向こうにある世界は、光を内側に包み込んだまま、真が手を伸ばしても届かないものに映る。

 その一軒の前で真は足を止めた。銀座では小さいながら、上品でセンスのよい服をデザインして売るという店は、夜の世界の女性が、ファッションの相談も含めて愛用している店だった。店の明りはその女性たちのために夜中近くまで灯されていた。髪をアップにまとめ、その一部を肩に垂らした上品な立ち姿の女性が、いかにもどこかの店のママと思われる和服姿の女性と話していた。

 一瞬、店の女性の目が真のほうに向けられ、それから少し驚いたような顔になった。真は会釈も微笑みもせず、ただ目だけで合図を送ったような形になった。
 もしも同業者が真の素行を調べたら、あっさりと不貞行為が調査報告書に並べられることだろう。もしも舞が、夫の浮気に対して何か事を起こそうと思えば、それは簡単なことのはずだった。

「ここ、久しぶりね」
 半時間ほどで接客を終えた室井涼子が、以前待ち合わせに使ったこともあるプチホテルの一室を訪ねてきた。涼子はドア口でコートを脱ぎながら言った。
「あなた、銀座では会いたくないって言ってたのに」
 そんなことを言っただろうかと思いながら、真はそのまま涼子を抱きしめた。それともそう言っていたのは涼子のほうだったのかもしれない。涼子は真に抱かれたまま、その冷たい頬を真にくっつけて、少し驚いたように離れた。
「あなたのほうが冷たい」

 真は十歳ほども年上の女の、歳を経ても変わらない美しい顔を見つめた。
 涼子は、真が中学生の頃に初めて会ったときから、変わっていないように見えた。もちろん、その肌はとっくに若い女のものでなかったし、近くで見れば目元にも明らかに皺がある。それでもそんなものは涼子のマイナスにはなっていないように思えた。

 涼子とは月に一度ばかり会う。いつの間にか、どちらも何も言わないのに、月の始めになると、どちらかからほとんど無言に近い電話を仕事場に掛ける。それだけで十分だった。始めの数度だけ銀座で会ったが、それはお互いにあまり好ましい場所ではなかったため、近頃は涼子の車で少し遠くまで出かけることが多かった。
 このプチホテルの部屋は二人ともが何となく気に入っていた。部屋は狭く、アールデコ調の鏡と机が置かれていて、小振りのダブルベッドもアンティークなつくりだった。天井も高くないため、まるで包み込まれているような気持ちになる。窓のカーテンを開けたことはないが、カーテンは柔らかく淡いブラウンで、時々外の音の気配が伝わるのか、視界の隅で揺れていた。

「怒ってるんじゃないかって思ってたの」
 ベッドに一緒に座ると、涼子が真の顔を見て言った。
「どうして」
「この間、あなたを傷つけたから」
 しばらく真は何を言われているのか分からなかった。涼子のピアスの透明な光に惹かれるように、その耳に口づける。涼子の香水を嗅いだとき、二週間ほど前に会ったときのやり取りを思い出した。

「子どものこと?」
 涼子は頷いた。
「知らなかったの。あなた、何も言わないし、あなたとは月に一度会うだけで、他に接点もなかったし」
 真は涼子の肩を抱いていた手を離し、ベッドに深く座りなおした。
「怒るようなことじゃないよ」
「でも私が無神経だったのは確かだわ」

 仕事中の涼子が、真と視線が合っただけでここにやって来た理由がやっとわかった。いつもの涼子なら、真が自分の生活や仕事に差し障ることを許容しない雰囲気があったし、逆に真のプライベートにも踏みこむことはなかった。
 真はこのホテルに入ったとき、涼子が来るかどうか、むしろ来ないだろうとさえ思っていた。
「無神経だったのは俺のほうだ」
「それにあれは、何となくその時の気分で言っちゃっただけだから、もう忘れて」

 しばらくの間、二人とも黙り込んだ。もともと抱き合おうと思って涼子の店の前を通ったわけではなかったし、涼子のほうもすぐに店に戻るつもりのようだ。コートを脱いだだけで、上着を脱ぐ気配はなかった。
「誰から聞いたんだ」
「この間久しぶりに葉子ちゃんに会ったの。それで」

 真は何故か涼子にあの事を吐き出してしまいたい気持ちになった。腹の奥に隠してある何かを出し切ってしまうことはもちろんできない。だが僅かだけ、ここで涼子に打ち明けてもどれほどの罪になるというのだろうか。
 だが、真は決してそんなことはできない自分という人間を嫌と言うほど知っていた。
「あれは俺が悪かったんだ。それに、人に話すようなことでもないと思っていたし。気にさせてごめん」

 涼子は真の顔を見ないまま、少し笑ったようだった。哀しい、というよりは感情のない静かな笑いだった。
 女の表情には、表面からは全くわからない理由が潜んでいる事がある。真はそれを涼子から、竹流の恋人の一人として彼のマンションで初めて会ったときから今この瞬間に至るまで、教えられてきたのだ。

「どうしてあなたが謝るの。それに、私もあんなこと言うべきじゃなかった。単にセックスが気持ちよかったからそんな気分になったりしたのかもしれない。少し酔ってたし。でも何だか変よね。今まで愛していると思っていた男と寝て、確かにそういうことは頭を掠めなかったといえば嘘になるけど、一度もそんな気持ちになったことはなかった。つまり、ちょっと歳を取ってセンチメンタルになりやすくなってるだけなの。こういうことってタイムリミットがあるじゃない。それで何だか最近落ち着かなくなったり、一人で泣いてしまったり、更年期には早いけど、そういうのに近いのかもしれないわ。誤解しないでね。あなたを愛しているわけじゃないし、負担をかけるつもりもないの。あなたが嫌なら、いつでも、こういうことをやめてもいいんだし」

 真は返事をせずに手を組み、額をつけた。
 涼子は、真に対してやはり少し大人の女でいようとする。もちろん、涼子が真を愛していないというのは本当だろう。今でも涼子は、真の以前の同居人を愛している、その気配はいつでも、ベッドの中ででも伝わってきていた。
「別れるつもりはないよ。あなたのほうが嫌になったら身を引く」

 涼子はこういうものの言い方が嫌いだと言ったことがあった。物事の決定権を女に譲っているのは優しさだと誤解しているような言い方、悪者になりたくなくて自分からは別れないという男の厭らしさ、それが時々涼子の気に障るのだろうが、これまでもあまり幸福とは言いがたい、つまり未来を描けない恋しかしていない彼女は、それを自分の非だとわかっているだけに、たまらない気持ちになることがあるのだろう。

「あと一年もしたら私も四十になるの。きっとこれからも時々あんなふうに、セックスをしているときに子どもが欲しいって言い出すかも、それどころか、もしかしたら安全日だって嘘をつくかもしれない。そうしたらあなたは重荷に感じることになるわ。早くこういうタチの悪い年増女とは別れたほうがいいと思わないの」
 真はただ首を横に振った。

 真は涼子に対して後ろめたさを覚えていた。あの日、竹流と一緒にローマに発つ前日、涼子に何も告げずに東京を離れたことに対して、あるいはもっと根本的なことで、涼子の竹流への深くて苦しい想いを知りながら、その男を奪っていってしまったことに対してなのかもしれない。
 だが、涼子と別れられないのは、後ろめたさだけが理由ではなかった。今でも、涼子は真には手の届かない憧れの女性であり、ベッドの中でもこれほどに懸命に愛したいと願う相手はいなかった。ただ、心がついていっていないだけなのだ。そして真の全ての感情や想いを、涼子が何もかも感じとって知っているということを、語り合わなくても真にはわかっているような気がしていた。

「あなたの車が、今でも時々、マンションの駐車場に停まっている。朝まで」
 真はようやく顔を上げて涼子を見つめた。涼子の声は奇妙なほど優しくて綺麗だったが、顔には表情がなかった。
「それなのにあなたが私と寝るのは、私が可哀想だからなのよね。私も、あなたと別れたいのに、自分が可哀想で、それに身体を温めてくれる人が欲しくて、あなたに甘えてしまう。あなたは私が傷つけるようなことを言っても、黙って受け入れようとする。奥さんが流産したことは私に話すようなことじゃないんでしょうけど、あなたは顔色も変えず、何も不幸など感じていないような顔で同じようなペースで私と会う。私が子どもが欲しいって言ったとき、あなたは責めもせず、慌てる様子もなく、真剣に考えているような顔をした。葉子ちゃんは、あなたが子どもが生まれてくるのを待ち望んでいたって言ってたわ。何も言わないけど、葉子ちゃんの家に行って、姪っ子の寝顔を幸せそうな顔で見ていて、享志くんが聞いたら、女の子がいいって答えたって、あなたがそんなことを言うなんてちょっと驚いたって話していた」

 真はいきなり力任せに涼子を抱き寄せた。涼子は息を止め、しばらく固まっていた。それから急に腕の中で力を抜き、小さな声でごめんなさい、と言った。
 上手く涼子に伝えることはできない。あの日、涼子は安全日だと言っていた。それはただセックスの前に避妊具をつけなくてもいいという、いつものメッセージに過ぎないと思ってベッドに入った。もちろん避妊具を介して触れ合うよりもよかったし、涼子も直接真を受け入れるほうがずっと感じていることは、涼子に埋めた部分からいつでも確かに伝わってきていた。
 あの日、昂ぶりが最大限に達しそうになっている真の耳元で子どもが欲しいわと涼子が囁いたとき、真は実は驚きもしなかった。ただ一瞬だけ動きを止め、真にとっては誰よりも官能的で憧れ止まない女性の目を見つめ、激しくこの女を求め、そのまま涼子の中に自分自身を吐き出し、その後もずっと彼女の中に深く身体を沈めていた。

 結婚した当初、飲み屋かどこかで、子どもを作るにはこれまでのような中途半端な覚悟ではいけない、真剣にセックスをしないと駄目だ、射精した後も動かずに最後の一滴までも女に吸い尽くしてもらうようにするんだぞ、と子作りの秘訣を、子どもが七人いるという酔ったオヤジから説教を受けたことがあった。
 舞と抱き合っていたときにはそんなことを真剣に考えたことはなかったが、あの時涼子を抱きしめたまま離したくないと思い、ふとそのオヤジの言葉を思い出していた。

 子どもを失ったことが真の感情に影響していなかったのかどうか、それは今でもよくわからない。涼子に対する憐れみなのか、ただ生物の雄の本能として子孫をできるだけ沢山残そうというホルモンが働いただけだったのか。
「ちょっと情緒不安定なの。精神科にでも行ったほうがいいみたい」
 そう言うと、涼子はお店に戻らなくちゃ、と言って立ち上がった。

 出て行きかけて涼子は不意に立ち止まった。そしてやはり感情の読み取れない表情のままで振り返り、真の顔を見た。
「今でも会って、朝まで一緒にいるのは何故? 奥さんを裏切るのがわかっていて、どうして結婚なんかしたの?」
 真は答えなかった。答えるための言葉も、自分が本当は何をどのように感じているのかについての確かな心の内の声も、自分自身の中に用意されていなかった。

Category: ☆雪原の星月夜 第1節

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【雑記・音楽】3つの『夜曲』 

今日は、音楽の話題です。
クラシックに関係した物語を書いていますが、幼少期からクラシックに親しんできました、とはとても言えません。ヤマハ音楽教室→ピアノを習ってはいたのですが、家にはクラシックのレコードもカセットも1つもありませんでした。
じゃ、なにがあったのかと言うと……当時は祖母の世代の人たちが民謡をいくらかやっていた時代で(民謡ブームだったのですね)、記憶の中にある最初に見たレコードは「黒田節」。さらに、父がフランク永井のファンだったので、自慢じゃないですが、多分、フランク永井の歌はほとんど歌えます^^; カラオケの十八番は「君恋し」ですし。
やっぱり当時の時代を映した音楽と言えば、歌謡曲というジャンルだったような気がします。
ちなみに、自分で最初に買ったレコードは西城秀樹の「傷だらけのローラ」だった……

それはともかく、幼少の頃に両親が聴いていた音楽の中で、私が今もすごく好きな歌謡曲が幾つかあるのですが、そのうち最強の2つが、偶然「夜曲」なのです。実は歌謡曲というジャンルじゃないかも知れないけれど、歌声喫茶で歌われていた、という印象からはそういう括りでいいかなぁと。
(『続きを読む』に隠してあります。ぜひBGMに)

ひとつは『蘇州夜曲』。山口淑子(李香蘭)の歌ですね。
三味線で練習しておりますが、この哀愁漂う感傷は、やっぱり同じ弦の響きでも弓で弾くような楽器でなくちゃな(ヴィオラを弾く後輩とユニット組んでレパートリーにしてます)。とにかく、この歌が好きすぎて、生涯行くことないと思っていた中国に友人が留学したのをいいことに、すぐに押しかけて行って「蘇州に行きたい!」と叫んだ記憶が。
よく中国の歌だと勘違いされていますが、由緒正しい作詞・西条八十、作曲・服部良一の日本の歌。でもこの間、同年代の人と話していて、結構「知らない」って人がいて、ちょっとしょんぼり。いい歌なのに。

もうひとつは『北上夜曲』。もともとマヒナスターズ&多摩幸子が唄っていた、という記憶さえはっきりしないのですが、しかも、この曲に関してはレコードさえ家になかったのですが、いつから好きだったんだろう(これもいつかヴィオラ&三味線ユニットのレパートリーに入れる予定)。
ところが、この曲は実は昭和16年、まさに世の中軍歌一色の時代に、わずか17歳と18歳の青年が作詞作曲し、密かに歌い継がれて昭和30年代に大流行したという経緯があるのです。
この曲、6番まであるのですが、実は流行った当時、長いので4番5番が切られていて、なんで初恋の思い出を語りつつ、いきなり6番で「僕は生きるぞ」なんだ?ってことになるんですが、5番で彼女が亡くなっていたのですね。昔ってレコードの長さに制限があったので、しばしばこういう「謎の歌詞」が。

実は、「夜曲」を話題に選んだのには理由があります。
J:COMで松本清張原作の2時間ドラマを幾つかやっていた中に『黒の回廊』がありまして、ドラマの内容としては2時間ドラマあるあるで「なんでそれで殺しちゃうかなぁ」なんだけれど(主演:賀来千香子・船越英一郎)、クライマックスのアルハンブラ宮殿がかなり美しくて、ほ~となっているところに、『夜曲』が流れたのです。
実は初めて聞く曲で、恥ずかしながら歌手の方も知らなかったのですが、ひと目で、じゃなくて、ひと耳で惚れちゃいまして、探して見つけたので、嬉しくてご紹介します。
矢野真紀『夜曲』……ドラマのエンディングに流れると、やられちゃうなぁ。「どうして人は 想いが溢れてるの」の歌詞にちょっとやられました。 

そう言えば「夜曲」って、つまり「セレナーデ」。つまり、夜、恋人の部屋の窓辺に立って(階下から)、リュートとかギターとか弾きながら唄う恋の歌。
でも、ここにご紹介した「夜曲」は「セレナーデ」とは何となくイメージが違うのはなぜだろう? と思って、考えてみたら、そうか、なんか「水っぽい」んだ、と思い至りました。「水の蘇州」「北上河原」「岸辺」「目の前の川」って歌詞が川だらけだからって単純な発想ではないのですが、やっぱり日本の歌なんだなぁ。
それにこれはやっぱり「セレナーデ」じゃなくて「夜曲」なんだ。恋の歌と言うよりも、人生の歌。

でも、私、シューベルトの夜曲……いえ、こちらは「セレナーデ」ですが、大好きなんです。しかも、ドイツ語もいいんだけれど、日本語の歌詞が結構好き。「秘めやかに 闇を縫う 我が調べ」……美しい訳詞です。
好きなので、作中でも使ってみた→【死と乙女】(4)想い・セレナーデ
(でも、次は、慎一に『蘇州夜曲』を歌わせようかな。リクエストに日本の歌を、と言われて歌う。本当はアンパンマンマーチを歌わせたいけれど、残念、実は彼が日本にいるときにはまだその世代じゃなかったんですよね。放映開始と入れ違いくらいでローマに移っちゃったので。でもいつか歌わせちゃる、あの名曲。あ、孫の真でもいいか。そうだ、うれしいんだ、い~きる喜び

でも、『夜曲』って言えば、中島みゆきだろ? って思った方。はい、私もそう思います(^^)
(続きを読む、から『夜曲』をお楽しみください(^^)/)
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Category: 音楽

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【雪原の星月夜-4-】 第1章 月の船(4) 図書館の出逢い 

【雪原の星月夜】4回目です。
今回もまた、「物語の進行上必要だけれど、あまり面白くない回」になるような気もします。
でも、書いている時は、意外に楽しかったのです。なぜなら、このカリスマ女流作家の本のタイトルをずらっと並べてみたから。こういうの書く時って、結構楽しくありませんか。

さて、今回登場の女子高生たち、真の出身校の後輩になるわけですが、もともとこの学院は私の通っていた学校がモデルなんです。そして、ここに登場する女子高生は私の友人(たち)がモデルです。ここにアップしている作品の最初の読者でもありました。
美和ちゃんも仁も今回ちょっと辛い立場なので、清涼剤の役割を果たしてくれる人が必要だったのですね。
結構ハードな展開が多いこのシリーズ(昭和ですから)、清涼剤的立ち位置の登場人物が幾人か必要になるんです。今回は、多分、後輩女子高生たちと灯妙寺の人たちでしょうか。

今回は第1章の最終話です。でも、まだあの人は出てきませんね……夕さん曰く「ヒロインが出てこない」って……^^;
それなのに、次回はちょっと1回休憩になるかも。息子のお話が書けていたら、ですけれど。

【真シリーズについて】
【雪原の星月夜】の登場人物紹介はこちら→【雪原の星月夜】(真シリーズ)登場人物紹介
万が一、前作【海に落ちる雨】に挑戦したいと考えてくださる方は→左のカラム・カテゴリから選択してくださいね。
【海に落ちる雨】部分読みも可能
【海に落ちる雨】始章:竹流と真の生い立ち
【海に落ちる雨-52-】第9章 若葉のころ:真の中学生の頃。
【海に落ちる雨-59-】第11章 再び、若葉のころ:真が高校生の頃。
『若葉のころ』には真の学生時代が登場、今回の物語で登場する母校の院長(校長)先生や灯妙寺も少し登場。



【雪原の星月夜・第1節】 第1章 月の船
(4) 図書館の出逢い
 

 図書館の暖房は幾らか強すぎるような気がした。
 終戦直後に建てられた古い公会堂を改築した図書館は、窓ガラスの歪みまでもがレトロなムードを醸し出している。ただでさえ遠くを見通せない古いガラスが曇って、水滴を下枠に溜めていた。
 真はコートを脱ぎ、受付の若い女性に絵本のコーナーを聞いた。

 今日は封筒から本が出てくる確率も高いが、月に遭遇する確率も高い。封筒から出てきた本のタイトル『天の海 月に帰る船』、新圧が告げた大和竹流の所有するバーは会員制で『霧の港』という意味のイタリア語だったが、竹流はそのビルの上階にあるレストランの脇に、小さなカウンターだけのバーも作らせていた。そのバーの名前は『月の船』という。

 どこか記憶の隅に、古代の歌人が作った歌が引っかかったが、よく思い出せなかった。古代の歌とは思えない宇宙を描いた壮大な内容に、真は苦手だった国語に初めて興味を覚えた記憶がある。古代から人々は天を見上げ、星を数え、星座に物語を託し、命の行く先を求めてきたのだろう。
 竹流はギャラリーには『星の林』という名前をつけていたが、それもその歌に含まれていた言葉だったはずだ。

 その上、童話作家の名は『神路月』、彼女の本に絵を添えた画家の名前、アイヌ語で記された名前は、訳すと『月の貰い子』という意味だった。朝方に灯妙寺の家に戻った時に、何かに見つめられているような気がして振り返った空に、ぼんやりと浮かんでいた白い残月もまた、今日、真の回りに漂っている月の気配だった。

 絵本・童話のコーナーに行くと、その女流童話作家の本は子ども向けというよりも、やや年長、高校生くらいの年齢をターゲットにしているコーナーに並んでいた。本の傷み方を見ると、随分と貸し出されたことがわかる。
 真は背表紙を、肝心要の部分に追いついてしまうのが恐ろしいような気がして、やたらと時間をかけて読み下していった。
『消えたプレヤード』、『南のひとつ星』、『星のささやき』、『青の妖霊』、『かささぎの橋』、『後に続くもの』、『鬼宿の契り』。

 脳外科医になる道を選ぶ前、というよりも医学部に入る前、伯父の功は理学部で天文学を学んでいた。医師になってからもマニアックなほど宇宙に纏わる勉強を続けていたし、ドラマや映画、漫画やアニメまで好んで見ていた。
 小学五年生で東京の伯父に引き取られてから、登校拒否で学校に行けなかった真は、趣味とはいえないほどの彼の情熱を直ぐ傍らで分かち合ってきた。だから、肉眼で見分けられる星の名前を、その学問的名称も愛称も含めて、今でもほとんど正確に言うことができる。

 このタイトルの全てが、星や気象に関わるものであることは直ぐに理解できた。
『消えたプレヤード』というのは牡牛座プレアデス星団、すなわち昴にまつわる物語に由来している。プレアデス星団は肉眼では六つの星の集まりに見えるが、神話では天を担ぐアトラスの七人姉妹だとされている。つまりひとり欠けているのだ。その欠けた一人が消えたプレヤードというわけだった。
 『南のひとつ星』は南魚座のフォーマルハウト、秋の夜空のただひとつの一等星だ。『星のささやき』というのは、確かシベリアのどこかで氷点下五十度にもなると、大気の中で水分が結晶となって霧氷が発生するが、この時に微かな音がするのだと聞いた。その音のことを星のささやきと呼んでいる。

『妖霊星』は文字通り妖しい星、もともとは弱法師の当て字だと言われている。弱法師の物語は観世元雅作の能で、父子の誤解と贖罪の物語だった。『かささぎの橋』とは、織姫を船に乗せてくれない意地の悪い月の船人に代わり、かささぎが羽根を広げて織姫を向こう岸へ渡してやろうとした、その羽根が連なった橋のことをいう。
『後に続くもの』というのは、牡牛座の一等星アルデバランのことだ。この星がプレアデス星団の後から空に昇るためにそう呼ばれる。
 どの背表紙からも、ある独特の孤独感が滲み出ている。題名から受ける印象なのだろう。

 最後に残った『鬼宿の契り』という本を、真は書棚から抜き出した。
 鬼宿、というのは蟹座の甲羅にあたる四つの星の中国名で、かの国では最も縁起の悪い星とされている。人間が死ぬと、心をつかさどる魂(こん)は天に昇って神になるが、形、つまり肉体をつかさどる魄(はく)は地上に残って鬼と呼ばれる精霊になるという。もっとも、インドではお釈迦様が生まれた時に月がこの星の場所にあったので、めでたい星座とされていることからも、国によっても人によっても捉え方は色々なのだということだ。
 だが、『鬼宿』という言葉は、どう考えても明るい物語につけるタイトルには思えない。

 物語の舞台は真の想像とは違って、現代だった。主人公は女子高に通う女の子、恋の相手は毎朝の通学の電車で会う男子校の高校生。女子高生にとっては身近な物語であることが人気の理由なのかもしれないが、物語は、飛ばし読みをしている真の目の中で、直ぐに現実から遠ざかっていった。
 文字が描き出す世界が現実から遠ざかっていくと、逆に真の頭の中で、物語の風景が現実に近付いていった。

 主人公の女子高生は、勉強はそこそこ好きではないけど嫌いでもない、絵を描くのが好きだったので何となく美術部に入っているけれどそれほど熱心な部員でもない、おしゃれには少しばかり興味があるけれど、当然のことながらお金もないので、せいぜい雑誌の中で楽しむ程度、放課後の友だちとのおしゃべりが楽しくて、というような、どこにでもいそうな女の子だった。
 恋の相手は、同じ路線にある私立の有名高校の男の子で、野球部のエース、ハンサムで友達思い、性格も明るく、いかにも少女漫画に出てきそうな相手だった。

 だが、物語が半分まで進むと、男の子の家庭環境がかなり複雑で、母親の再婚相手である義父から暴力や性的な虐待まで受けていたことが分かる。主人公とこの男の子は急速に親しくなり、二人で親たちから逃げ出そうとする。主人公の家庭環境が特に複雑である描写はないが、思春期独特の反抗心はあったのだろう。
 だが、物語が後半になり、鬼宿の意味が明らかになった。

 主人公の少女は、死者だった。魂が離れたことに気が付かないままの魄、すなわち鬼だったのだ。少女の恋は、可愛らしい初恋などではなく、この世に対する妄執だった。少年はひとつの呪縛から逃れ、別の呪縛に絡め取られる。
 真は思わず本を閉じた。思春期の多感な少年少女がこれを読んで何を思うのか。そもそもその年齢の若者はこういうオカルトやら魂の物語が大好きなのだ。真がこれまでに関わってきた未成年の失踪者にも、当人曰わく「声なき声に導かれて」彷徨っていたような者もいた。この世界、この社会との関わりを切実に苦悶し、肉体に害を及ぼすほどに思いつめるのもまた、そういう年齢独特の心のあり方なのだろう。

 だが、一方で、彼らは一様に大人たちが思うよりも誠実で真剣で、何より聡明だった。決してオカルトに溺れているだけではないのだ。それは、この世界とこの先どのように付き合っていくのかを確認していく通過儀礼のようなものに違いない。
 真自身とて、その年齢の時には、同じような心情でいたし、正直なところ今でも、まだ現実との区別がつかない幻を垣間見る瞬間さえある。記憶の混乱なのだろうと思っているが、突き詰めて考えることで自分の足元が崩れてしまうような恐怖があった。
 年齢に関係なく、心の内というものは表に出すことが困難なものだ。

 小学生の時に東京に出てきてから、何度か精神科医や心理学者の診察を受けた事があった。彼らは真に絵を描かせたり、催眠療法に近いような方法を試したが、真はどこかでその方法を警戒し、恐らく彼らは上手く真の心の内を知ることはできなかったはずだった。
 大体、どう考えても下手糞な真の絵を見て、何がわかったというのだろう。ただその子どもが、かなり複雑な内面を抱えていることだけを知ったに違いない。

 何を抱えていようとも、少なくともこうして大人になり、社会で生活をしていけるようにはなる。本当に必要なものは、その複雑さを抱えた個を、そのまま受け入れてくれる別の個の存在なのだろう。
 女子高生のカリスマ童話作家であるという神路月。
 月というのは、本来、様々の神話では陰のイメージを持たされている。その作家はどうして自分にそんな名前をつけたのだろう。

 ふと誰かの視線を感じて顔を上げると、不信そうに真を見つめる制服の女の子がいた。
 確かに、もう三十にもなろうという男が、カリスマ童話作家の本を真剣に見ているというのは怪しいだろう。

 だが、何か気の利いた言葉で会話を始めて、その女の子から情報を引き出すような器用さが真にはない。この仕事に関わって既に十年は経過しているにも拘らず、調査事務所の人間とは思えない不器用さを、未だに真は克服できないでいる。
 ところが、実際にはこの手腕の乏しさが真にとってプラスに働いていることが少なくない。初めて会った相手は、真が調査事務所の人間だとは全く思いもしないだろうし、今でもまだ大学生に見られることもある風体からも、都会に慣れずに道に迷っている若者と間違われることもある。

 女子高生はしばらく顔を上げた真と視線を合わせていたが、後ろから近付いてきた別の女の子の気配に後ろを振り返った。その瞬間にようやく網膜に映っていたその子の制服が、正確な情報になって真の脳に入ってきた。
 真が通っていた私立の聖幹学院の制服だった。いや、制服そのものは随分と垢抜けてファッショナブルになっているように思ったが、襟についた、三つ葉のクローバーをモチーフにした学校の紋章はそのままだった。

 今度は二人の女の子の視線をまともに受ける結果になって、真は逆に視線を逸らすことができなくなった。幸いだったのは女の子達の屈託のなさだった。
「その本、借りられますか?」
 真は思わず自分の手元に視線を戻した。
「いえ、どうぞ」
 真は『鬼宿の契り』を先に現れた女の子に差し出した。

 それをきっかけに図書館の隅で囁きを交わすような会話が始まった。女子高生たちは、真のような年齢の男が、その本を取り上げて読んでいたことに興味を持っていたようだった。
「幹学院ですか」
 真が尋ねると、制服に興味を持っている怪しい男に思われたのか、一瞬女子高生の顔つきが微妙になったが、それに気が付いて真が困惑気味の顔をすると、一人がくるんと表情を変えた。
 真は出会ったばかりの頃の屈託のない美和の顔を重ねていた。

「いや、俺も卒業生なので……」
 そうなんだ、と二人組の女子高生は顔を見合わせたが、まだいくらか疑いを残しているようだった。
 さりげなく、何年の卒業、その時いた先生がまだ勤めているか、など当事者しか知らない情報交換をしてから、ようやく安心したのか、笑顔を見せてくれた。

 真が通っている頃から、学院では私服にしようという運動があって、もともと学生の主張を取り入れることに積極的な院長の方針で、その意見は何度も学生集会で話題になっていた。二人の女子高生の話では、結局、毎日服を選ぶのは面倒だという学生からの現実的意見で、私服化は実現しないままだという。その代わり、スカートやズボン、ブレザーとネクタイは制服で、ブラウスやコート、ちょっとした装飾品などは自由ということになったらしく、よく見ると二人の着ているブラウスは、どちらも白ながらデザインは全く違っていた。

 何となくその子たちと歩調を合わせるような気配で図書館を出て、別に親しくというわけでもなく少しの距離を置いたままで、両脇を高い欅の木に挟まれた歩道を歩いた。
 女子高生たちは真に興味を持っているものの、知らない男への警戒はそれなりに保ちつつ、今の学校の状況について、真の質問に答えてくれる。時には彼女たちの方から、昔の学校のことを聞いてくる。それを聞くと、十年以上も経って随分変わったところもあるのかと思いきや、大筋としてはあまり変わっていないように思えた。
 毎朝の礼拝、何故かイベントの多い校風、脱線が多くてなかなか進まない授業、それでも大学入試対策などの現実的な側面は随分改善されているようだった。

 二人の女子高生は、本名は名乗らなかったが、先に真と視線の合った方は「あゆ」と呼ばれていた。小説を読んだり音楽を聴いたりするのが好きそうで、二人の話は真をそっちのけで、時には真を巻き込んで途切れる気配はなかった。
 同じ高校生と言えども、真が近年接している問題を抱えた少年少女たちとは随分違う。いや、それはあくまでも表の問題なのかもしれない。
 妻の舞、それに真と妻が子どもを失うきっかけになったあの少女もまた、複雑な表の顔の後ろに素直で屈託のない一面を持っていた。子供はこの難しい時期を乗り越えて大人になっていく。全ての道にはそれぞれの意味があり、同じ道はひとつとしてないのだろう。

「でもどうしてこの本をご覧になってたんですか」
 質問されて、真は一瞬考えてから、妹からこの作家の『月に帰る船』という作品を借りてきて欲しいと頼まれたのだと返事をした。二人の女子高生は顔を見合わせた。
「それって、次作に考えてるっていう本のタイトルだよね。この『鬼宿の契り』の続編になるって話だったけど、まだ出版されていません。私たち、今度学年末発表会で『鬼宿の契り』の寸劇をするんですけど、学校の図書室の本は貸し出されてたから、区の図書館に来たんです」
 まだ出版されていない、という言葉を真は確認した。
 女子高生たちは不思議そうに真を見つめている。

「でも本当に出版されるのかなぁ」
 一人が呟く。風がきつく吹きつけて少女たちの白いマフラーの端を巻き込んでいった。
「どうして?」
「最後の『後に続くもの』が出てから結構経ってるんです。作家さん自身、半年位前に一度雑誌に出てから、どこにも出てこないし」
 ではあの本は何なのだろう。出版元まで確認しなかったが、ちゃんと本の体裁を整えていたから、てっきり出版された本だと思っていた。

「去年の文化祭の時に講演会に来たんだよね」
「来たって、その神路月って作家が、学院に?」
「はい。だってうちの卒業生ですし」
 真は女子高生たちの顔を思わず見つめ直した。
「卒業生? 幹学院の?」
「本名は神路あきら、あきらって昴っていう字なんです」

 これから塾だという二人の女子高生とは、欅の並木道の下で別れた。話は尽きないように笑いながら去っていく二人の後姿を、真は随分長い時間見送っていた。
 物語を最後まで読まなかったので分からないが、タイトルから察するに『鬼宿の契り』は明るい話とは思いがたい。それでも彼女たちの手にかかれば、物語はハッピーエンドに書き換えられてしまうのかもしれない。

 風は冷たく、枯葉が頬に当たるほどの近くを切っていった。耳元で、枯れた葉がまだ木の枝に繋がっていたときの記憶が囁かれたような気配がする。その気配は直ぐに、並木道の傍の信号が青に変わったことで、かき消された。
 真はコートのポケットに手を突っ込んだ。
 一体、何の縁故であの本は真の事務所に送られてきたのだろう。送り主の名前は池内暁、読みようによってはやはり『あきら』と読める。女性か男性かもわからない。

 とにかく事務所に戻ってあの本を確かめようと思った。
 事務所に戻ると、留守番をしていた宝田から、美和は気分が悪いと言ってマンションに戻ったと聞かされた。ここに閉じ籠っていると気分が悪くもなるだろう。周囲への迷惑を考えると大学にも行きにくくなっているはずだった。
 後で電話をしてやろうと思いながら、真は机の上に残された本を取り上げた。

 美和がゴッホの星月夜みたいだといった表紙を、もう一度見つめる。暗い藍の空に黄色の光を湛える星、その星に照らされ闇に浮かぶ黄金の雪原、雪原の中で鳴き交わす鶴の番。真は本の裏表紙をめくった。
 初版の日付は、未来の日付だった。そしてその下に続く発行者の名前は池内暁、この本を送ってきた人物の名前だった。

Category: ☆雪原の星月夜 第1節

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