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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(1) 天野が原・雨の七夕 

予告しておりました乙女な話【天の川で恋をして】をスタートします。
と言っても、かなり短い話ですので、5回以内で終わる予定。
とか言って、【幻の猫】みたいになったら困るので、あえて何回とは書きません^^;

ところで、七夕って終わったんじゃないの?という方もおられるでしょう。
いえいえ、行事とは本来旧暦でするもの。
旧暦なら、今年の七夕は8月13日です。

ファンタジーでもミステリーでもありません。恋愛小説。
え? 大海が恋愛小説?
いえ、本人が一番驚いていますから、そのあたりはさらりと流してくださいませ。
幽霊が出てくるかどうかはわかりませんが、この話、実は下敷きになったホラー映画があります。
でも、その話はあとがきで。

本日はただのプロローグ。さらりと読み流していただければ幸いです。
特に捻ってありませんので、疑いを抱かず?お読みくださいませ。
なお、本来は1回でアップしてしまいたいお話なので、本日夜にはさっそく第2話が登場予定。
ちなみに、【海に落ちる雨】13章もアップされるやも??





「ほら、もう窓を閉めて。雨が入るから」
 少女はまだ諦めきれないように開け放した窓から外を見ていた。

 引っ越しのトラックはもうこの町を出て行ってしまっていた。雨が降り始めたら面倒だからと、早朝からやって来た引っ越し業者は、多くはない家財道具を一時間足らずで小さなトラックに詰め込んでしまった。
 祖父の軽自動車が少女とその母親を迎えに来たとき、雨は降り始めていた。

 両親が離婚し、少女は母の実家である丹波の山の中に引っ越すことになった。
 天野川よりもっと綺麗な川があって、山は緑豊かで、野菜は美味しいし、星がいっぱい見えるのよ、と母親は言った。でも、その場所には七夕の伝説はないだろう。

 数年前、幼稚園で演じた織姫様。あの時からすでに両親は上手くいっていなかったのに、父親は優しい顔で舞台の上の娘の晴れ姿をビデオに撮っていた。
 七夕の度に両親に手を繋がれてお参りした機物(はたもの)神社。参道の両脇に立てられた大きな笹に下げられた沢山の色とりどりの願い事。
 七夕の日にこの町を去ることになったのは偶然だが、それは巡り合わせだったのかもしれない。

 軽自動車に乗ってから、少女はずっと俯いていた。車は機物神社の傍を通った。短冊に願い事を書いてからこの町を出ようかと、母親が言った。
 少女はようやく顔を上げた。そして赤い短冊に願い事を書いた。

 お父さんとお母さんがなかなおりできますように。

 母親が見せてと言ったが、後ろに隠し、社務所の前に置かれた箱の中にそっと入れた。
 降り始めた雨で色とりどりの短冊が濡れていた。

 お金持ちになれますように。宝くじが当たりますように。おじいちゃんの病気が治りますように。お母さんが牛になりますように。仮面ライダーになりたい。アンパンマンのあんこになりたい。東大に合格できますように。世界が平和でありますように。髪の毛がこれ以上抜けませんように。阪神が何かの間違いで優勝しますように。彼と一生幸せに暮らせますように。
 少女にはどれが実現可能な願いで、どれが不可能な願いなのか、区別はつかなかった。

 母親と一緒に車に戻り、乗ろうとしたとき、足元に一枚の短冊が落ちていることに気が付いた。
 短冊の淡い碧色は晴れた空の色だった。そこに綺麗な字でまるで手紙のようにたくさんの言葉が書かれていた。少女にはもちろん、読めない文字がたくさん綴られていた。

 雨が少しだけ強くなった。
 今年もまた織姫様と彦星様は会えないのかしら。
「早く乗って」
 母親の声に急かされて思わずその碧い短冊を拾い上げ、そのまま車に乗り込んだ。

 短冊には吊るすための紙縒りも糸もついていなかった。神社に持っていく前に落としてしまったのだろうか。
 一度だけ、少女は前の席に座る母親に声をかけようかと思った。祖父でもよかった。神社に戻って、この短冊を神社の笹に吊るしてあげたかった。だが二人の重く悲しそうな気配に言葉を飲み込んだ。

 代わりに窓を開けて外を見た。降り落ちる雨と、濡れていく町。いつも友達と一緒に遊んだ天野川の川原。全てが雨の向こうに掻き消えていく。
 少女は何かに縋るように碧い短冊を握りしめた。

 一号線に入る交差点を曲がって、天野川が見えなくなってから、もう一度母親が窓を閉めるように言った。少女はようやく窓を閉め、視線を上げた。

 もしも、いつか交野と枚方に跨る天野が原と呼ばれるこの土地、七夕伝説の発祥の地に戻ってくる日があったら、今日書いた願い事がかなう日なのかもしれない。
 けれど、それはきっと叶わない方の願いなのだ。

 幼い心にもそのことだけははっきりと分かっていた。
 七夕に降る雨。今の暦では七月七日は梅雨の真っ最中だ。織姫と彦星は引き裂かれたまま、かささぎは雨の中で羽根を連ねて橋を作ってあげることもできず、同じようにどこかの木の陰で濡れているのだろう。





絵馬と違って、七夕の短冊に書かれている願い事は縦横無尽といいますか、それはないやろうと思うものがいっぱい。多分、書く人の年齢層の問題もあるのだろうけど、面白すぎる。
何か嫌なことがあったら、「七夕 願い事」で検索してみてください。
しばらく苦しいくらい笑えます。多分免疫力も上がり、いやなことも吹き飛ぶでしょう。
そのオリジナリティはここでそのまま頂いちゃうと、著作権に触れるのではないかと思うくらいです。
ここに載せたものは、小説に使えそうな範囲ですが、本当はこの10倍は面白いです。
それにしても、人の願いって、本当に何でもありだなぁ。




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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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【天の川で恋をして】(2) 天野が原・七夕の招待状 

天野川=天の川という川は、一級河川で、大阪府交野(かたの)市~枚方(ひらかた)市に本当にあります。
そしてかの七夕伝説の発祥地とも言われています。在原業平が歌を詠んでいたりもします。

時々、所用で出かける枚方。一号線が天野川と交わる交差点の名前は「天の川」。
ロマンチックだなぁと思い、この題名が先に降ってきたのですが、中身はなかった。
それがいつの間にか中身ができて、このたびちょっと書いてみることにしました。
さっそくのその(2)、ごゆっくりお楽しみください。
ちなみに、この(1)と(2)、どちらを先に読んでも全く問題のない内容です^^;





 緑の色が濃くなった葦などの背の高い草が、川面に覆いかぶさるように繁っている。川面はその陰から見え隠れし、流れのままに光を跳ね返し、時折、夏海の目を射た。
 七夕の日が晴れそうなのは珍しい。きっと明日結婚式を挙げる二人を、天が祝福しているのだろう。

 夏海は河原に降りて、水の上で煌めく光を追いかけた。この流れは十年前から変わらない。いや、二十年前、幼稚園の時、初めてゆうちゃんとさえちゃんに会った時から、何も変わらないままだ。

 交野の倉治に夏海の家があった。両親と歳の離れた弟、そして寝たきりだった祖母と一緒に住んでいた家は、父親の東京単身赴任、祖母の死、そして夏海の大学受験をきっかけに売りに出した。
 今はどんな人が住んでいるのか、何よりまだあの場所に家があるのかさえも分からない。見に行ってみたい気もしたが、足が向かなかった。

 足が向かない。
 そんな簡単な言葉では表現できない。

 そもそもこの天野が原に帰ってくることなど、考えもしなかった。
 もしもこの招待状が届かなかったら、この場所は思い出の隅っこに苦しさと悲しさと後悔と共に残るだけで、これから先、生きていかねばならない夏海の人生の中ではまるきり無関係な場所となったはずだった。

 いや、無関係ということはあり得ないのは分かっている。
 けれども忘れてしまいたい。
 アルバムも、押し入れの奥に仕舞われたまま、見返してみたこともない。
 それなのにどうして戻ってきてしまったのだろう。

 きっと、決着をつけたかったからなのだ。送られてきた点野家長男と仁和家長女の結婚式の招待状は、そろそろ思い切るようにと告げていたようだった。

 送り主は長女の叶恵が新婦となる仁和家だった。
 すごく仲が良かったという覚えはない。
 だが、合唱部のリーダーだった叶恵は姉御肌で、よく気が付き、人望もあって、勉強もできたし、高校生にしては可愛いというより美人という表現がぴったりの女の子だった。仁和家は母屋・分家が何軒もある地元でも大きな古い家だから、きっと立派な結婚式なのだろう。だから高校の合唱部の子はみな呼ばれたに違いない。

 そして、相手の点野家も、同じように母屋や分家が何軒かある、同じように大きな家だった。お似合いの、祝福された結婚だ。

 叶恵からはあらかじめメールがあった。

 夏海、元気してる? 十年ぶりでびっくりさせてごめんね。実は結婚することになったの。七月七日。大安じゃないのが親たちは気に入らないみたいなんだけど、七夕伝説発祥の地に相応しい日でしょ。しかも一年に一度しか会えない伝説の日に結婚なんて縁起でもないとも言われたけれど、ベタベタし過ぎて仕事をサボらないようにという戒めになるからいいんじゃないのって言ったら、それもそうだな、だって。久しぶりに夏海の顔を見たいし、遠くて悪いんだけど交通費持つから、きっと来て。あ、メルアドはみっちゃんに教えてもらったんだ。勝手してごめんね。

 みっちゃんというのは、夏海の従妹だった。同じ高校の合唱部の後輩で、茨木に住んでいる。大学が叶恵と同じ京都の大学だったから、交流があったのだろう。
 そのメールには、結婚する相手の名前は書かれていなかった。

 連絡有難う。叶恵のハートを射止めた人ってどんな人なんだろう。幸せになってね。

 迷いながら、出席するともしないとも分からない、曖昧な返事を返していた。
 招待状に叶恵の結婚相手の名前を見た時、夏海は息を飲み込んだ。
 そして何度も読み返し、ぎりぎりまで考えていた。

 叶恵は私たちのこと知ってたっけ? 

 最後にペンを握った時も欠席に丸をするつもりだったが、母親の目に留まった。さしたる理由もなく結婚式に呼ばれて断るのは、幸福に水を差すようでいけないというのだ。
 そろそろ思い切らなきゃだめだ。

 その時、携帯が震えた。受信したメールは、先日交際を申し込まれた会社の先輩からだった。

 今度の日曜日、空いてたら『図書館戦争』、見に行かないか?

 ちょっと岡田准一に似ていると言われている先輩は、それを自慢したりはしないが、ちょっとだけ気にしているようで、照れる様子が可笑しかった。
 まだ、返事をしていない。でも、遠からずイエスの返事をするような気がしていた。心に引っ掛かりさえなかったら、今すぐにでも映画の返事と一緒に、オーケーの返事をするのに。

 何かが背中を押した。夏海は目を閉じるようにして、出席に丸をした。

 裕道長男裕貴 信孝長女叶恵 の婚約相整い結婚式を挙げることになりました つきましては幾久しく……

 涙は零れなかった。ただ苦しかった。

 私はやっぱりひとりでは前に進めないよ。
 ゆうちゃん
 ……さえちゃん



「なつみぃ~」
 天野川の対岸は枚方市だった。
 今、夏海が立っているのは、機物神社、つまり織姫を祀る神社がある交野市倉治。
 そして対岸の枚方市香里団地の中山観音寺跡には、牽牛石と呼ばれる石がある。
 在原業平が歌に詠んでいたというのだから、それくらい古い時代、この伝説にあやかって、天野川を天の銀河に見立て、両岸に縁のものを配置した古代人のロマンにほろりとする。

 その対岸から、背中にリュックを背負ってマウンテンバイクに跨った背の高い男が、大きく手を振っていた。

 いつもグラウンドの反対側からでも聞こえていた彼の声は、十年たった今でも聞き違えることはなかった。
 合唱部の部室から見えていた白いユニフォームの眩しさ、白球が空高くかっ飛んでいく爽快さ、声を掛け合いながらその一球を追う汗の煌めき。

 目が合ったかと思ったら、彼は地面を蹴っていた。まるで夏海が逃げないようにと慌てるようにして、マウンテンバイクのペダルを漕いでいる。

 風が天野川を渡ってくる。
 ハンドルを握る、逞しく日焼けした腕。確か消防署に勤めていて、救急救命士の資格も取ったのだと聞いていた。

 逃げ出したかったのに、今、夏海は自分に向かって走ってくる彼の姿から目を離せなかった。きゅっと、小気味よくブレーキがかかり、タイヤが地面を擦る音が時間の流れを変える。
「帰ってきてくれたんだ。ありがとうな」

 あまりにも爽やかに、彼は言った。明るい、屈託のない性質は誰からも愛されていたから、きっと今も変わらないのだろう。
 その目を見ると、夏海は心臓が跳ねて、しどろもどろになってしまった。それでも、なつみ、と親しく呼びかけられた時点から、時は少しだけ巻き戻されていて、するりと子どもの頃からの呼びかけが口をついていた。

「ゆうちゃん、また背伸びたみたいね」
 彼はちょっとだけ、何を言い出すの、という顔をしたが、すぐにいつものあの最高の笑顔を見せた。

「毎日牛乳飲んでるからな、って、何言わせるかな。もう誰かに会った?」
 夏海は首を横に振った。会わなければならない誰かが思い浮かばなかった。連絡先が分かるのは、そもそも十年ぶりにメールをくれた明日の花嫁だけなのだ。

「よく分かったね。十年も会ってないのに」
「え? そんなに? いやぁ、すぐ分かったけどなぁ」
 十年前までは、ほとんど毎日顔を合わせていたのだ。時が隔てたものは大きいはずなのに、顔を見てしまえばその時間は吹き飛んでしまう。だが、招待状という現実が隔てた距離は遠い。

「ゆうちゃん、忙しいんじゃないの」
「うん、まぁ。今から明日の打ち合わせなんだ。あ、夏海、もちろん、二次会も来てくれるよな」
「え……」

 そこまでは考えていなかった。月曜日は元気に仕事をする自信がなくて、休みを取っていた。
 忙しい時に、と上司はちょっと嫌な顔をしたが、その代りお盆の当番を引き受けたら、あっさりと、もう数日休みを取ってもいいよと言いだした。
 泊めてくれる予定の従妹のみっちゃんが、せっかく休みなんだったらと、明後日の月曜日はユニバーサルスタジオに行こうと言い出した。美容師の彼女は月曜日が休みだ。

 ゆうちゃんが時計を見た。日焼けした腕に銀の腕時計は眩しかった。
「あ、いけね。行かなきゃ。また明日な、夏海。良かった、会えて。顔見たら、ほっとしたよ。二次会、絶対来てくれよ」
 ゆうちゃんは右手を上げて、マウンテンバイクのハンドルを握り、地面を蹴りかける。

 今、お祝いの言葉を言ってしまおう。そうしたら、今日のうちに泣いてしまえる。
「おめでとう」
「え? あ、うん」
 ちょっと戸惑ったような、照れたような顔をした明日の花婿は、もう一度右手を上げて、天野川の向こうへ走り去った。




Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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【天の川で恋をして】(3) 七夕の朝 

やってしまった…という気持ちです。
引っ張ってしまった。短く終わるつもりだったのに、最低でもあと3話ありそうです。
どうしてこうなるのかなぁ。筋を決めて、書き出したら長くなる。
やっぱりね、と思っている方々もいらっしゃるかと思いますが……^^;
取りあえず、華燭の宴の朝を迎えました。

始めから読んでくださる方は、左のカラムのカテゴリの【天の川で恋をして】をクリックしてくださいませね。
間違えて他のをクリックしたら、それもついでに読んでいただけると嬉しいけれど……長いです^^;
でも、おひとついかがですか?
さて、大海初の恋愛小説の行方は……(大海の行方は??)






 ゆうちゃんが去った後の河原の草地から、昼間に照りつけた太陽の熱が上がってくる。風が凪ぐと一気に夏海の周囲の空気の温度が上がった。
 水の流れる音は聞こえないのに、通り過ぎていく車のエンジンの音だけが大きくなる。耳が遠くなって、つーんと鼻の奥が苦しくなった。

 なんか気持ち悪い。
 しゃがみこみかけた時、さっきゆうちゃんが手を振っていた対岸のその場所に、翻る碧いスカートの裾がふわりと浮かび上がって視界を横切った。スカートと白いブラウスと、長い髪。
 夏海は座り込んだ。

 ……さえちゃん!

 何か言いたくても、夏海の身体の真ん中の空洞に吸い込まれていくように、声が出てこなくなった。
 夏海の身体の中には、あの日からずっと空洞がある。
 真っ黒な空洞。そこに一番大事なものが落ちてしまって、覗き込んでも何も見えない。大事なものを拾い上げようとしても、形も分からないし、何が本当に大事だったのかも分からなくなっていた。

 きっと時間が経ったら忘れられる。
 ずっとそう思っていた。

 でも、忘れてしまったのは、その大事なものが何だったのかということだけで、大事なものを無くしてしまったというそのことは忘れていない。
 何かが欠けているのに、欠けている何かが分からないまま、ずっと「何かが足りない」という思いだけが空回りしていた。

 あの日から、一歩が踏み出せないまま、十年たっても私は同じ場所にいるみたいだ。

 東京の大学を受験すると決めた時、単身赴任中の父親は喜んだ。母親はこの町が好きだったから、しばらくの間渋い顔をしていた。もしかしたら音楽で身を立てるかも、なんて若者にありがちな野望を抱いていたらしい弟は、俺も一緒に行くと言い出した。
 結局、石津家は、夏海の祖母の死を見届けて、交野を離れた。

 そして夏海は東京の外大の学生になり、英語とフランス語を専攻した。大手ではないが堅実な仕事をしている貿易会社に就職し、紅茶や菓子を輸入する部門に配属された。
 夏海には覚えるべきことが山のようにあり、現場では毎日が充実していて、楽しく仕事をしている同僚や先輩たちを尊敬することができた。
 化粧の仕方を覚えて、自分で服も買うようになった。お洒落も買い物も、同僚に誘われて行く映画や舞台も、会社の飲み会も嫌いではなかった。
 
 私は少しずつ前に進んでいる。

 だが、ふと我に返る。
 一人になると夏海は誰かに話しかけている。

 違うの。本当はちっとも楽しくなんかない。お洒落なんかしなくてもいいし、新しい服だって欲しいわけじゃないの。流行の店でランチを食べても別に美味しいわけでもない。どんなに面白い映画だって、見終わった後は何も心に残っていない。

 時々、何もないのに涙が出てくる。
 高層ビルのエレベーターに一人で乗っている時でも、多くの人が行き来する駅のホームに立っている時でも、白熱した会議の途中でも、自分の部屋で一人、明日の仕事の調べものをしている時でも、不意にその時が訪れる。

 鬱病や慢性疲労症候群の簡易診断をやってみると、どれも当てはまるような気がするし、あてはまらないような気もする。
 だが、それ以外はごく普通に暮らしている。何かが足りないのは私だけじゃない。そういうふうに考える余裕だってある。頑張っているのも、時々辛いことがあるのも、泣けてくることがあるのも、本当の友達は今ここにいないと思うのも、私だけじゃない。

 夏海、あんたってさ、すごくちゃんとしてるのに、なんかすごく幼いとこあるよね。
 ある時、ふとしたことで喧嘩になった大学の友人に言われたことがある。

 君って、なんか、掴みどころないんだよな。他に好きな人いるの?
 二、三度デートした人にはそう言われて、すぐに自然消滅した。付き合ったというほどのことは何もない。

 時々聞かれる。
 楽しくないの? 何か不満?
 楽しくなくはない。不満なわけでもない。でも、ずっと心の底のところでは、やっぱり楽しくないのかもしれない。
 この間、『図書館戦争』を見た後、先輩にも言われた。
 楽しくないの?
 そんなことはないとすぐに否定した。
 あれから少しだけ、先輩からのメールは減っている。
 私が早く返事をしないからだ。誰だって、こんなふうに答えをお預けされたら、嫌になってしまうだろう。
 でも、この空回りする気持ちをうまく説明できない。


「振袖とか着たらいいのに。路の、貸そうか。着付けも髪の毛もやってあげるし」
 みっちゃんこと、従妹の路は修行中の美容師だ。
「いいよ。あんまり目立ちたくないし」

「友達の結婚式ってのはさ、男を並べて比べて、よりいいのを捕まえる千載一遇のチャンスなんだよ。こっちもその気で支度しなくちゃだめだよ。それに、数年もしたら、いいのが売れてしまって残ってない」
 かく言うみっちゃんは、この間、三人目の彼氏と別れたばかりだった。

「着物なんか着たら、気ばかり使わないといけないし」
「う~ん、じゃあ、せめて髪の毛と顔は私に預けなさい」

 夏海の顔は特別不美人でもないが、美人とは言い難い。そこそこ可愛い方だと思うこともあれば、今日はどうにもイマイチという日もあるし、時々自分で変な顔をしてみては、ブスだなぁと思うこともある。
 世間的には可もなく不可もなく、と言ったところなのかもしれない。自分の容姿にも顔にも、これと言って自信を持ったことはない。

 ところが、何年かぶりに晴れた七夕の朝、夏海はみっちゃんの魔法の手にかかり、見事な変身を遂げていた。弟子とは言え、魔法使いの腕映えは大したものだった。
「どう?」
 みっちゃんは何かを仕掛ける悪戯ミッキーのような顔をして、鏡の中の不安顔の夏海に向けて、どや顔をしてみせた。

 みっちゃんが化粧をしてくれて、肩までの中途半端な髪をふわふわにカールしてくれると、自分ではないような女性が鏡の中に現れた。

 いや、この顔はどこかで見たことがある……

「うん。こんな感じだった」
 満足そうにみっちゃんが言った。みっちゃんがしてくれた化粧は華やかで明るく、頬にさした紅も光を吸い込んだようで、アイシャドウもアイラインも、目元をくっきりと浮かび上がらせた。

「昔のなっちゃんはこんな感じだったよ」
 鏡の中のみっちゃんは満足そうだ。

「どういう意味?」
「う~んとね、何て言ったらいいのか、こんな感じ。美人じゃないけど、笑顔が素敵で、明るくて、おひさんみたいな感じかな。男はすぐには振り向かないけど、一緒にいたらなっちゃんを好きになる。女の子もね」

 そうだったっけ?
 今は自分の何にも自信がないし、心のどこかで笑ったらだめなんじゃないかと思っている。
 でも、みっちゃんの言うとおり、ずっと前、私はもっと笑ってたな。
 昔もやっぱり、自信なんて何もなかったけれど、それにたまには無理もしていたけれど。

 持ってきた服は地味だというのでみっちゃんに却下された。みっちゃんは自分の服の中からラメが織り込まれたように光る藤色のドレスを出してきた。
「肩、出し過ぎじゃない?」
「こういう時しか着れないじゃない」

 やり過ぎじゃないかなと不安になった。それでもみっちゃんが、なっちゃん、綺麗だよ、と言って送り出してくれた時、夏海はやっと顔を上げた。

 これはきっとチャンスなのだ。
 ゆうちゃんが他の人と結婚したら、きっとそこからが私のスタートなのだ。そのためにここに来たのだから。

 式場は、地元の旧家同士の結婚式らしく、由緒正しい結婚式場である太閤園、そして二次会は地元の枚方に点野家の親戚が最近開いたというレストランを貸し切っていると聞いていた。
 JR茨木駅から電車に乗り、流れていく景色を見つめる。
 天野川が流れ込む淀川を渡った時、夏海はドアのガラスに映る、少しだけ見慣れない自分自身を見つめて、ドアの手すりをぎゅっと握った。

 今日でもう、ゆうちゃんは永遠に私のものじゃなくなるのだから、私はこれきり、心の中でも夢の中でも、ゆうちゃんの彼女になることはない。
 だからもういいよね。これで許してくれるよね。さえちゃん。





結局……いつもの癖が抜けません。
あれこれ、説明してしまう→長くなる。
そこは読んでいる方にお任せ、ってしてしまえばいいのに、あれこれと設定してしまう、悪い癖ですね。
それでも、私にしては、ものすごく説明が少ないほうですけれど……

でも、とりあえず「変身して」結婚式場へ向かいました。
待っているのは「逆・卒業」か、それとも、ただ涙?
岡田准一似の先輩の出番は今後あるのか?(いや、ないな)

次回は、いよいよ『華燭の宴』です。
ちなみに、このお話のクライマックスというのか、筋立てのメインはそこではありません(^^)
だって、ほら、まだホラーじゃないでしょ^m^
って、でるのか、やっぱり。

あ、お絵かきエディタを使ったら、一番小さいのにしたのに、予定外にでかい^^;
すみません、いきなりこれを見た方。
ホラーではありません^^;
ゴーストバスターズでもありません^^;
いや、幽霊払いはあるのか^^;



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【天の川で恋をして】(4) 華燭の宴・転回 

リアル仕事が忙しくて、更新が遅くなっております。
週末はいいんだけど。そして予約投稿しておけばいいのに、記事を出すタイミングとかを、何だかうまくコントロールできなくて。
さて、【天の川】(4)をお届けいたします。少し長くなります。披露宴と二次会。
なんじゃ、それ、っておっしゃらないでね^^;





 うじうじしている自分は嫌い。
 いつもそう思うけれど、いつだって誰かの気持ちや視線を気にしている。振り切ってしまえばいいのに、どんどん抱えるものが増えて重くなっていく。私が気にしているほどには、他人は私を気にしていない。そんなことは知っているけれど。

 昔の私はもっと笑ってた?
 そうだったのかな。もうよく思い出せない。

 七夕の日に結婚式を挙げるカップルは何組かあるようだった。
 その中でも点野家と仁和家の式場は最も大きいものだった。どちらもやたらと親戚が多く、町会議員とか学校の先生とか、お寺のお坊さんとか、あれこれ地元の有力者と言われる人が連なっていたはずだ。

 結構面倒くさいんだよ。親戚の中のルールみたいなのが色々あって。大人はさぁ、集まって昔話や世間話で楽しそうだけど、子どもは小さいうちはいいけど、中学生にもなったら面倒くさいだけなんだ。
 ゆうちゃんはよくそんなことを言っていた。

 そう言えば、叶恵も同じようなことを言っていた。
 うちってイベント多いのよね。クリスマスとかバレンタインとか、そういうのならいいんだけど、法事とか誰それの還暦祝いとか、そういうの。顔を出さなきゃうるさいし。今時、どこにある、そんな家。

 そういう家同士なら、きっとお互いのことも分かり合うことができて、価値観とかも同じで、上手くやっていくことができるのだろう。

 ここまで来て、うじうじと考えるのは止そう。
 もう時計は巻き戻せないのだから。

 廊下の向こうに、友だちと話しているタキシード姿が見えた。
 すらりとした背丈は遠目にもかっこよくて、いつになくしゃんと背を伸ばして談笑する横顔が、光で真っ白に溶けていた。
 介添人に付き添われた真っ白のウェディングドレス姿の叶恵も見えた。彼女も女性にしては背が高いので、二人が並ぶとまるで芸能人のカップルみたいだ。

 夏海のいる場所からは遠くて、二人の表情は見えない。ただ、ほほえましい気配だけが伝わってくる。夏海は紅の絨毯に視線を落とす。

 二人が並んで近付いてきたら、笑わなくちゃ。
 私、こんなふうに着飾って、全然似合っていないんじゃないかな。浮いてないよね。
 急に自分が不安になったりもした。

 記名のための列の一番後ろのついた時も、夏海は何となく俯いたままだった。十年ぶりの高校時代の友人がいたとして、名前と顔を一致させる自信がなかった。
 隣の列には、花婿の関係者が並んでいる。

「ヒロタカ、歌うって? 昨日一緒に練習したんだろ? 式の前日に、よくやるよ」
「え? 二次会だろ? 披露宴で歌ったら、さすがに、親戚一同、引くんじゃないの?」
 ぼんやりとその名前に聞き覚えがあったような気がした。

 点野家の本家筋の男子は、みんな「裕」の字をつけられるのだとゆうちゃんが言っていた。
 何でも、明治時代に天皇家から受勲のあった人がいたとかで、その人の名前が裕文と言ったらしい。その後、因習として、男子が生まれたら本家の「長老」が名前を付けることになっているというのだが、そもそもやたらと親戚の多い家系で、バリエーションも尽きかけているのだとかなんと言っていたことがあった。

「確かに、お色直しで花婿が女装はまずいよな」
 あれ?
 不意に夏海は顔を上げた。

 ずっと、ゆうちゃんと呼んでいたけれど、よもや「ゆうき」の漢字を勘違いしていたことがあるだろうか。何度も読み返した招待状の新郎の名前、「裕道長男裕貴」……ヒロタカ。 
 お色直しで花婿が女装、花婿はヒロタカ?

「夏海、ありがとう。遠いとこ、ごめんね~」
 突然目の前に現れた花嫁は、夏海の記憶の中にある叶恵の十倍は綺麗だった。
 合唱部でてきぱきと男勝りに後輩を指導し、先輩に物申し、仲間をまとめ上げていた女傑ともいうべき叶恵は、今日はまさにお姫様だった。

 そして、隣に立っている新郎は。

 しばらく夏海は、活動しない頭のままで、タキシード姿の花婿の顔を見ていた。
 確かにゆうちゃんによく似ているが、ゆうちゃんではない。
 ゆうちゃんと同じように背が高くて、笑顔が素敵だけれど、少しばかり落ち着いた印象がある。

「君がなっちゃん?」
 新郎はなるほど、と頷き、何やら花嫁と目配せしている。

 夏海はしどろもどろに、今日はおめでとうございます、叶恵、綺麗だね、とありきたりの言葉を一生懸命頭の中から引きずり出していた。

 まだ、頭が働かない。
 どころか、披露宴の間中、夏海はぼんやりしていた。
 そもそも同学年の合唱部の子は、夏海以外には一人しか呼ばれていなかった。新郎側も新婦側も一番多いのは親戚筋で、友人はほとんど大学や職場絡みの人ばかりだった。

 どうして私、呼ばれたんだろう?
 あまりにも放心していて、友人代表というより親戚代表でゆうちゃんが立ち上がるまで、そこにゆうちゃんがいることにも気が付かないほどだった。

 ゆうちゃんはいつになくあがっているようだった。
「えーと。新郎・ヒロタカの従弟というより、無二の親友であり、弟分でもあるユウキです。ご存じのとおり、点野家はよく似た名前の人間がごろごろとおりまして、今回は親戚の中にも、僕が結婚するのかと勘違いした者が幾人もおります。親戚一同が集まることの多い点野家ですが、未だにヒロタカと僕を取り違えている者もおります。僕としましては、兄弟と言ってもいいヒロタカの結婚は自分のことのように嬉しくて、代わりにおめでとうと言われても、何の違和感もないのですが……」
 
 ゆうちゃんの名前、「裕」の字は使っているけれど、他の男子がみんな「ひろ」と読むのに、自分だけ「ゆう」なんだと言っていたことがあった。名前の由来とか、詳しく聞いたことはなかったし、仲のいい従兄がいることは知っていたけれど、そんなこと、いちいち覚えてなどいなかった。

 夏海は勘違いして一人泣いていた自分が馬鹿らしくなって、誰も自分の勘違いを知らないのに、恥ずかしくなった。

 叶恵が結婚する人はゆうちゃんじゃないんだ。

 挨拶を続けるゆうちゃんが何を言っているのか、もうよく分からなかった。
 視界がぼけている。自分でもよく分からなくなって、頭の中はぼわんとしたままだった。
 驚いたのと、馬鹿馬鹿しいのと、そして少しだけ嬉しいのと。

 ゆうちゃんじゃない。

 でも、やっぱり喜んじゃいけない。自分にチャンスがまだあるなんて、思っちゃだめだ。
 俯いたままでいると、ぽとんと、ハンカチを握りしめた手の甲に涙が落ちた。

 ゆうちゃんが好き。
 今でも、ずっとゆうちゃんが好き。

 夏海の時間は十年前から止まっている。




 二次会の会場までは、バスが貸切られいてた。大阪城の近くの披露宴会場から枚方の少し駅から離れたレストランまでのアクセスが悪いからだということだった。
 並んでいる新郎新婦と両家のご両親に挨拶をする時、改めて叶恵ががっしりと夏海の手を握り、絶対に二次会に来てね、と言うので、その勢いに巻かれるようにバスに乗り込んでいた。

「あぁ、やっとバカ騒ぎができるな。肩凝ったぁ」
「着いたらさっそく支度せんとあかんぞ」

 確かに、地元の有力者が多くいるお家同士の披露宴は、半分以上は親族の引き合わせの側面があって、挨拶も硬め、よくあるように新郎の友人の一部が馬鹿話をするとかスライドショーがあるとか、そんな楽しい要素はまるきりなかった。

「てか、ブーケトス、なかったよね」
「え、今どき、あれってくじ引きみたいに紐引っ張るんじゃなかったっけ?」
 バスの中は、幼稚園バスみたいに賑やかだった。

 披露宴の席で隣同士だった元合唱部の同級生は、夏海のような隅っこにいた部員ではなく、その後音楽部の声楽家に行ったという本格派で、披露宴では素晴らしい歌声を聞かせてくれた。
 それに比べると、夏海にはこれと言って何の特技もない。

 二次会の会場は、まだ新しいレストランで、簡単なパーティができるようにオープンな作りになっていた。天野川沿いの、畑と人家が入り混じるところに建っている。

 日曜日ということもあって、遠方から来た人のため、二次会は四時という早めのスタートだった。花嫁と花婿は大変だろうと思うが、バイタリティ溢れる叶恵は、明るいオレンジ色のドレスで、疲れた顔ひとつ見せずに、来客皆に挨拶をして回っている。

「え~、ようやく、無礼講の宴会の始まりです。紳士淑女諸君、適当にグラスを取って」
 新郎の友人代表の軽快なDJのような語りでパーティは始まった。
「それでは、点野ヒロタカくんと仁和カナエ、おっと、もう点野カナエさんでしたぁ。実は政略結婚かと思うくらい豪勢な組み合わせになりました二人の前途を思い切り祝っちゃいましょう! ちなみに政略結婚ではなく、ただのバカップルです! かんぱ~い」

 嵐のOne Love、大塚愛のさくらんぼ、ET-KINGの愛しい人へ、とお約束の歌が何曲かあり、漫才風やり取りがあり、まるでショーのような二次会は新郎新婦も企画参加しているらしく、かなりの気合を入れたと思われた。
 お決まりのスライドショーもあったが、何故かお笑い系にまとめられていた。
 そもそも結婚式のスライドショーは何故か、笑えるように、ついでに泣かせるように作ってある。
 
 誰の人生でもドラマになって、ヒーローとヒロインになれるのだという一生に一度の(たまに複数回の人もいるけれど)チャンスかもしれないが、今回の新しいカップルの場合は、生い立ちの映像からして豪勢だった。

 突然、スライドにゆうちゃんが登場する。

 ややこしい二人、とタイトルが付いた数枚のスライドは、誰が作ったのか、点野家の「長老」と思しき人物まで登場している。
 1985年、点野裕道長男誕生。
 長老の吹き出し。命名は裕貴(ヒロタカ)じゃあ~。
 1986年、点野裕嗣長男誕生。
 長老の吹き出し。命名は裕貴(ヒロタカ)じゃあ~。

 どうやらご高齢の長老はいささか物覚えが悪くなっていたらしい。
 先年、同じ名前を付けたことを忘れていたのだ。いやそれは、と周りが言い出すと、年を取ってぼけていると言われたのだと思って(大筋そう言うことだとは思うのだが)、長老は切れた。困った裕嗣は、息子の名前を届ける時、勝手に字を変えようと思ったものの、あれこれ姓名判断をした後だろうし何か祟ってはまずいと思い、勢いでそのまま「ゆうき」と読ませて届け出たらしい。
 だから、漢字で書かれた従兄弟の名前は、その父親の名前で区別するしかなかったということなのだ。
 ロシア人の名前なら、そういうことは易しいのだろうけれど。

 この話は点野家では語り草らしいが、学年が違うことと、ヒロタカのほうが中学から私学に行ったおかげで、点野家の外ではあまり問題にならなかったようだ。

 結果的に同じ名前を分け合ったいとこ同士は、妙に仲が良かったらしい。
 幼馴染のことでも、結構知らないことがあるのだと、夏海はぼんやり長老の顔を見ていたが、よく見ると伊藤博文だ。

 皆がスライドショーで盛り上がったところで、暗がりを背景に、突然色とりどりの光が交錯する。
 聞きなれた音楽がかかる。
 AKB48の『ヘビーローテーション』だ。

 短いスカートを穿いて登場したのは、なんと新郎の友人一同と、一部いとこ。
 まだぼーっとしていた夏海は、センターが新郎自身だとは気が付かなかった。その後ろに、変な鬘をつけて並んでいる、あまり見目がいいとは言いづらい女装軍団は、それでもよほど練習したのか、踊りは完璧だった。

 会場は大盛り上がりだった。
 I want you~、I need you~、I love you~では新郎が、司会者から差し出された一本の赤い薔薇の花を、一番前に座っている花嫁に駆け寄り、跪いて差し出す。花を受け取りながら、華やかに笑っている叶恵の横顔がまぶしかった。

 新郎が踊りの輪の中に戻っていくと、少しずつお互いを押すように移動しながら、女装軍団は会場を巡り始める。徐々に踊りが夏海に近付いてくる。
 会場中が揺れるような喝采と笑い、一緒に歌う声。

 その時。
 新郎が、斜め後ろでかなり気合の入った踊りを見せていた従弟を押し出し、踊りを追いかけていた司会者が、その背の高い踊り手に真っ白な薔薇のブーケを手渡した。
 そのまま、まるで踊りに押し付けられるように、ゆうちゃんが夏海の前にやって来る。

 夏海は驚いて立ち上がった。
 勢いにのまれたようなゆうちゃんの方も、あまり可愛くない女装と化粧で、手渡されたブーケを持ったまま、茫然としている。

 二度目のサビが巡ってくる。
 I want you~、I need you~
 はじかれたようにゆうちゃんが夏海の前に跪いた。
 I love you~は会場の大歓声で聞こえなかった。

 ……いや。

 夏海の心臓はぎゅっと掴まれて悲鳴を上げた。
 ……だめだよ。

 気がついた時、夏海の目からはぼろぼろと涙が零れ落ちていた。音楽はまさにヘビーローテンションしていた。泣き出した夏海に驚いたゆうちゃんが手を伸ばしてくる。
 ……いや!
 夏海はその手を振り払った。真っ白なブーケが床に転がった。ゆうちゃんが戸惑うように床に散った花びらを見ている。
「なつみっ!」
 叶恵の声と同時に、夏海は走り出していた。




あれ、なかなかくっつきませんね^^;
ハッピーエンドの予定なんですけれど。
夏海の気持ちは、いま、いわゆるジェットコースター現象です。
あがったり、下がったり。
結果的に今、下がってます…ね……




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【天の川で恋をして】(5) 天野川・想い 

第5回にしてようやく、主人公を書くことに慣れてきた気がしますが、そうすると終わりも近くなる。
真のように長年書いているキャラクターではないので、つかみどころがなくて、少し手探りでした。
今回、叶恵とヒロタカがいい奴カップルなのか、実は有難迷惑なのか、皆様の判定が??
従兄弟設定は気に入ったので、『ユウキとヒロタカ』でコメディ書こうかしら、と思ったりして。
それから、もしかして1111を踏んでくださった方、リクエストを受け付けるほどのネタもありませんが、何かしら記念を…(明日くらいかな?)。でも、2p漫画とかは無理よ^^;
もちろん、きっちりでなくても、周辺の方、お声をかけてくださいませ……
(唐辛子を切った手で鼻を触ってしまい、ちょっとつらい大海でした)





「ごめんね、夏海」
 トイレに逃げ込んだ夏海を、すかさず追いかけてきてくれたのは、今日の主役の叶恵だった。
 夏海は自分でも何をしてしまったのか、とりあえずとんでもないことをしてしまったことだけは分かって、パニックになっていた。
 叶恵の顔を見た途端、もっと悲しくなって涙が止まらなくなった。

 普通に、感情を大きく乱されることなく生活をしていた。
 東京での生活は嫌いでも好きでもなく、ただ人生は普通に、当たり前に流れていた。
 家族は、揉め事がないわけでもないけれど、どこの家庭にもある「よくある話」程度のことで、ドラマのような劇的な出来事はなにもなかった。大学時代は、合唱を続けることもなく、何となく変わったことをしてみたくて弓道部に入った。大会で団体入賞することはあったが、大きな人生の転機になることもなく、普通に部活を終えた。就職してからも、それなりに満足して仕事をしている。
 
 昔のことは思い出すことがあっても、心をかき乱されるような特別な出来事には繋がらなかった。静かに心の奥底に潜めて、誰にも、自分にも気が付かれないようにしまっておいた。
 今日、夏海は、多分高校生の時以来、初めて大きく心を揺さぶられていた。

「本当にごめん」
「なんで……叶恵が謝るの……」
 声が途切れ途切れになる。夏海は叶恵に聞こえないように、そっと鼻をすすりあげた。
「私、せっかくもらったブーケを……幸せに水を刺すようなことを……」

 叶恵はふうっと息をついて、夏海の肩を抱いた。
「そんなの、こっちが説明不足だったんだから、びっくりさせて、こっちこそごめん」
 ちょっと言い訳させてね、と言われて、叶恵は夏海をガーデンテラスの、誰もいないところへ誘った。木のベンチに並んで座る。
 叶恵のオレンジのドレスが、ガーデンライトに照らされて夏海の傍で煌めいていた。

「パーティの主役がいないとまずいよ。……それに、しらけさせちゃってごめん」
「大丈夫よ。ヒロタカとまっちゃん、あ、司会の子ね、ちゃんと仕切ってるから。何が起こっても、笑いに変える技があるのよ、あいつら。ま、ゆうちゃんはショックだったかもね」
 夏海はうなだれてしまった。
 気持ちを伝えるのは難しくて、言葉がひとつも出てこなかった。

「あのさ、夏海はどうして招待状が来たのかな、十年も会ってないのに、ってちょっと思ったでしょ。実はね、原因はゆうちゃんなのよ」
 夏海は俯いたまま、耳を疑って視線だけ上げた。
「ヒロタカとゆうちゃん、兄弟みたいな感じじゃない。大学の時も就職してからも、ヒロタカったら、合コンとかパーティとか結構仕切ってて、ゆうちゃんにもしょっちゅう女の子紹介してたのよ。ゆうちゃんって、あのルックスだし、ま、ヒロタカと違って頭脳派じゃなくて肉体派だけど、爽やかな感じで、女より野球って感じの硬派イメージも悪くないし、今は消防士でしょ。結構女の子にももてるし、告白されてもあんまり断ってる気配がないから、付き合った女の子は結構いるはずなのに、何故か一か月も持たないのよ。しかも告白した女の方からふってるんだよね。で、女の子に聞いたら、自分のこと好きじゃないみたいだし、大事にしてくれている感じがしないし、つまんないって」

 叶恵はふふっと笑った。
「で、ヒロタカは探りを入れ始めたわけ。私とヒロタカはしょっちゅう一緒に遊んでたけど、本格的に付き合い始めたのって一年ほど前なのよ。その頃から、ヒロタカは自分が結婚するときにはユウキも一緒に結婚して、同じ名前でダブル結婚式がしたいとか、わけわかんないこと言ってて。ほんと、企画好きな奴でさ、最近の結婚式はありきたりでつまらん、とか何とか。でも、ゆうちゃんは一向に恋が実る気配がないしね。で、私らの方は事情があって式の日を決めちゃってから、あ、オメデタじゃないんだけどね、ある時、石津夏海って合唱部でお前と一緒だった子じゃないか、今どうしてるか知ってるかってヒロタカに聞かれたわけ」

 夏海は初めて叶恵の顔をまともに見た。
 化粧がはげたまま、変な顔をしているかもしれないと思ったが、すでに忘れていた。

「ゆうちゃんと夏海、仲良かったじゃない? 塾の帰りはいつも一緒だったし、よく考えたら、ゆうちゃん、家は反対方向だったのに、いつも夏海を送って行ってたんだよね。そうか、それか、と思い込んだらヒロタカはもう作戦開始してたわけ。ゆうちゃんに探りを入れていたら、ゆうちゃんが夏海の話するときだけ楽しそうだって気が付いたんだって、それだけのことだよ。私はみっちゃんに、夏海に今彼氏がいるのかどうかとか確認して、で、みっちゃんにどう思う? って聞いたら、あ~、それはあるある、どうでもいいけどくっつけちゃえって。あの子は男前の兄貴分ができるのが嬉しいとかわけ分かんないこと言って協力してくれたの。だからね、私たちの勝手だったんだ。計画しているうちに、勝手にもう絶対夏海はゆうちゃんのことが好きで、ゆうちゃんは夏海のことが好きで、って暗示にかかっちゃってて、自分たちが善良なるキューピッドだって思い込んでたかもね。ほんと、ゆうちゃんも、夏海も、迷惑だったよね」

 叶恵はちょっと大きくふうと息をついた。
「でもなぁ、みっちゃんも言ってたけど、お似合いのカップルだと思ったんだけどなぁ。というのか、本当のとこ、どう? ゆうちゃん、いいやつだと思うんだけど。優柔不断が玉にキズだけど、誠実ってのか」

 そう、ゆうちゃんはいい奴だった。
 言われたら断れない。
 小学校の時は校区が別だったので、学校でのことは夏海はよく知らないが、クラスの面倒な当番は結局ゆうちゃんがする羽目になっていたらしい。それも、押し付けられたりするのではなく、誰も手を挙げないので、ムカついて勢いで手を挙げてしまっていたのだという。中学生になると告白してくる女の子も出てきて、断りきれないゆうちゃんは野球に打ち込んだ。ゆうちゃんは野球が恋人なので告白しても無駄、というイメージが出来上がり、告白してきた女の子を断るという彼にとっての苦痛もしくは災難を避けて通ってきた。
 ただ一人の女の子を除いて。

「ごめんね。私……」
 叶恵にはお礼を言うべきだと思った。もっと謝るべきだとも思った。
 でも、声が引っかかって出てこない。

 その時、少し離れたところで辺りを見回している背の高い影が目に入った。夏海と叶恵に気が付くと、その影は走り寄ってきた。
 先に叶恵が立ち上がる。そして、立ち止まったゆうちゃんに頭を下げた。
 ゆうちゃんが困った顔をしている。
「ごめんね、ゆうちゃん」
「いいんだ。どうせヒロタカが言い出したんだろ」
 それは怒っている声ではなかった。ゆうちゃんは、座ったまま動けないでいる夏海に向き直った。

「夏海、ちょっと話したいんだ」
 夏海はぼやっとゆうちゃんの顔を見ていた。
 ゆうちゃんは昔から何も変わらない。曲がったことが嫌いで、ちょっと融通が利かない。でも優しくて、それが仇になって、時々空回りする。勉強ができた方ではなかったけれど、野球をやりたくて受験勉強を頑張っていた。

 夏海、あのさ。
 ずっと昔、ゆうちゃんが何かを言いかけた時、夏海は話をはぐらかした。
 一度は照れ臭くて。二度目は、友情を壊したくなくて。

 ずっと我慢していたことが零れてしまいそうになる。叶恵が夏海の肩にそっと手を置く。
「わたし……」
 もしかして、ゆうちゃんは本当に私を想ってくれていた? それとも、ただノリで、周りの勢いに合わせてブーケをくれようとしただけ?
 夏海は混乱していた。今、何かを打ち明けられても、自分でも思いがけないことを言ってしまいそうで怖かった。
 もしかして、本当にゆうちゃんが私を想ってくれていても、私は今、なんて返事をしたらいいのか分からない。

 ガーデンテラスには天野川を越え、田んぼを渡った風が吹いている。それは懐かしい匂いだった。ずっと昔、一緒に歩いた天野川の河原。叶恵が言う通り、塾の帰り、ゆうちゃんはわざわざ私の家まで遠回りしてくれた。一応夏海は女の子だからさ、とちょっと失礼なことを言って。

 次の言葉が出ないままで俯いてしまったとき、膝に置いたままのバッグの中で、携帯が震えた。夏海は何かに救われたように立ち上がった。
「ごめん」
 この場所から逃げ出す理由ができたことに夏海はほっとした。
 ゆうちゃんと叶恵から背を向け、少し離れたところでバッグに手を入れて、振動を探る。
 みんなにスマホに変えないの? と言われながらも、夏海は今もガラケーと言われる形の携帯を使っている。仕事の利便を考えてもスマホに変えた方がいいのは分かっているのだが、まだ何となく、新しいものに手を出せずにいた。

 先輩……
 電話をかけてきたのは、告白してくれたのに夏海が返事をそのままにしている、岡田准一似の会社の先輩だった。
『石津、今、いいか?』
 夏海ははい、と答えた。答えながら、少しずつゆうちゃんと叶恵から離れていく。
『いや、あのさ、本当は会って話した方がいいかって迷ってたんだけど』
 先輩は言葉を切り、しばらく沈黙していた。

 電話の向こうは賑やかだった。どこか、街の中にいるのだろうか。多くの人が行きかい、恋もたくさん生まれて、たくさん消えていく、毎日何かが生まれて次の瞬間には動いている、素敵だなと思ったものは次の日には目の前から消えている、そういうことが当たり前のあの街のどこかの中に、先輩はいる。
 そして今、夏海は、懐かしい風の匂いのする、まったく別の遠い場所にいる。恋は恋と気が付くまでにも時間がかかり、恋人たちが気が付かないまま通り過ぎようとすることもある。それでもその気持ちはずっとそこにとどまり、緩やかに大きな川にたどり着くまで静かに河原を歩く速度で心の中で育っていく。幼すぎて、解決する方法を間違えながら、苦しくて悲しい想いも巻き込みながら、風と共に吹き渡り、また舞い戻ってくる。

 東京の街の中にいる夏海と、この町にいる夏海は、まるで別の人間のように重ならない。
 いい先輩だった。仕事では厳しいけれど、部下思いで、いつでも相談に乗ってくれる。
 もしも、この町で生まれ育ったのでなければ、夏海には何の迷いもなかっただろう。
『明後日、職場で会って、普通に話したいから、今言っておこうと思ったんだ』
 はい、ともう一度夏海は答えた。
『その、この間さ、言ってただろ。もう少し時間が必要なんだって』

 夏海は涙をこらえていた。こらえながら歩き続け、ゆうちゃんからも遠ざかっていた。
 先輩とはあれから数度、デートらしきことはした。映画を見に行き、食事に行って、飲みに行ったり、ドライブもした。海外からの輸入雑貨を扱っている他の店をリサーチするという半分仕事がらみのようなデートも併せれば、もう少し回数は多くなる。

 横浜までドライブに行き、店を何軒か見て回り、食事をした後で、少しだけ港を見ながら話した。話の内容は仕事のことだったけれど、海の風が気持ちよくて、少し気分は酔っていた。
 先輩と不意に腕があたって、そのまま軽く抱き寄せられようとした。
 夏海は少しだけ身体を返すようにしてかわしてしまった。
 先輩は返事を急いでいるんじゃないんだ、ごめん、と言った。私は面倒くさい女だと夏海は思った。さっさと答えてしまったらよかったのに。どちらの答えでも。そうすれば、ただ前に進むだけだった。

 だから、この過去への旅が終わったら、先輩にイエスと言うつもりだった。ゆうちゃんが結婚するのだからと。これで何もかも、物事は収まるところへ収まる日が来たのだと、神様が前へ進めと言ってくれているのだと、そう思えたから。
 なのに、今、思いもかけないことが起こって、夏海は引っ掻き回されている。
『でも』
 電話を切ってしまいたかった。どんな否定の言葉も、今は聞きたくなかった。
『俺、お前に必要なのは時間じゃないと思う。だから、もう返事はいいよ。困らせてごめんな』

 気がついた時、夏海は何も言わずに電話を切っていた。
 あの街では、こんなふうに風は吹かない。
 夏海は電話を切った後も歩き続けていた。このまま背を向けて歩いていたら何もかも失ってしまうのは分かっていた。でも、今、自分に何ができるのだろう。

 なっちゃん、私ね、ゆうちゃんとやり直したいの。協力してくれるよね?

 ごめんね、さえちゃん。きっと、さえちゃんが怒ってるんだよね。
 川の流れる音が耳の中でこだましていた。



次回、過去の物語を紐解き、最終回に向かってお話が収束します。
大きな目から見たら、バカップルの誕生となるのでしょうね……
えーっと、大海がいじわる心をおこさなければ。
そうそう、今日の野菜ジュースは〇でした。皆様からの御意見で、レモンを加えてみました。



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【天の川で恋をして】(6) 天野川・過去(1) 

ようやく、夏海の心の内側に入ることになりました。
過去に何があったのでしょうか。天野川の恋物語、いよいよクライマックスの一歩前。
過去の出来事は長めになってしまったのですが、章を切りたくなかったので、2回に分けました。
まずは、物語をお楽しみください。もしかしたら、明日まとめ読みした方がいいかも!
じれったくて、いらっとするかもしれませんので……^^;





「本当に行くの?」
 もういい加減にしてほしいと思ったが、ここで喧嘩をして、この旅行を取りやめにされたら大変だ。一泊分の着替えと最小限の必要なものをリュックに入れて、靴を履いてから答えた。
「お母さんには他人でも、私にとっては血の繋がったお父さんなんだから、お墓参りくらいいいでしょ」

 母親はまだ納得がいかないというように玄関から動かない。
 そもそも父親が亡くなったことを教えてくれなかったのは母親の勝手だ。離婚したのも両親の都合で、まったく身勝手の重ね塗りだと思った。

 丁度、あのことにタイムリミットが近づいているような気がしていたから、一週間前、父親の死を知らせる数年前の消印が押された葉書を箪笥の引き出しで見つけたのは、まさにあの人の導きだったのだと思えた。
 来てほしい、と言っている。天野川に来て、助けてほしいと言っている。

 七月七日が近付くと、毎年、妙な言い方になるかもしれないが、誰かが夢枕に立つのだ。
 小学生の頃は変な夢を見るなぁと思っていただけだった。怖いという気持ちはなく、これは一年に一度のイベントの日が、自分にとっても意味のある日、あの懐かしい天野が原を離れた日だったから、その日が近づくと気持ちが昂るのだと思っていた。

 霊感があるということについてはあまり自覚していなかったが、この数年で自分が見えている世界が少しだけ他の人が見えている世界と違うときがあるということに気が付いていた。
 そして、ある時から、たまに亡くなった人が見えることにも気が付いた。何かその人が残した強い想いが関係している物を手にした時に限るので、その辺を幽霊が歩いているのに出くわす、というわけではないのだが。

 この数年、その七月七日の幽霊は、だんだん姿がはっきりしてきていた。何かが言いたいのだと思ったが、言葉が聞こえるほど明確な霊能力があるわけでもない。
 だが、父親の死を知った日の夜中、ふと目を覚ますと、その人は黙って机の前に立っていた。
 真っ黒の長い髪、真っ黒の瞳、白い肌と悲しそうな顔。今やその人は影ではなく、明らかな実体だった。
 彼女は机の引き出しをじっと見つめていた。

 翌朝、引き出しを開けた。
 そうなんだ。これを返さなくちゃ。
 天野が原に戻らなくちゃ。それも七月七日でなければならない。

 七月七日は日曜日だ。幸い、翌日の月曜日は創立記念日で休みなのだ。これは何かの巡り合わせに違いない。
 七夕の夜七時に短冊のお祓いと祈願の神事がある。それに何としてでも間に合わなければ、何か大事なものを取りこぼしてしまう気がした。
 一年に一度の、織姫と彦星が愛を確かめ合うほんのわずかなチャンスを、私の手で壊すわけにはいかない。
 七月七日の早朝、靴ひもをしっかり結んでリュックを背負い、結果的には娘の放つ異様なほどの高貴なオーラのようなものに気圧された母親に送られて、バスに乗り込んだ。



 さえちゃん、こと御村紗瑛子はもともと京都のどこかに住んでいた子だった。
 幼稚園の時、一年間だけこの町にいて、それから一度は京都に戻って行った。それからまた小学校の五年生の時にこの天野が原に帰ってきた。

 御村というのはさえちゃんの母親の実家の苗字で、京都のどこかの神社で陰陽道のお祓いをしている家だと聞いていた。
 さえちゃんの父親は御村家に養子に入った人で、妻の実家との関係はあまりうまくなかったようで、離婚も考えて一人でこの町にやって来た。さえちゃんとさえちゃんの母親は一度は京都の実家を出て父親と一緒にここに住んだものの、一年間で京都に戻った。
 父親が女を作っていただの、実は病気だっただの、さえちゃんの母親の実家が何か呪をかけていただの、嘘か本当か分からない噂話は色々あったが、誰も御村家の詳しい事情を知っていたものはなかった。

 その後、さえちゃんの母親は実家といろいろあって、結果的にこの天野が原に戻ってきた。
 長く別居状態であったものの離婚をしていたわけではないさえちゃんの両親は、しばらく一緒に住んでいたが、仲のいい夫婦だったという気配は感じられなかった。
 
 それからすぐに、さえちゃんの父親は亡くなってしまった。
 陰陽道の呪いだとかなんとか、町の人たちは噂していたが、当時の夏海には周囲の大人や他の同級生が騒いでいる理由がよく分からなかった。

 さえちゃんは、同性で子どもの夏海が言うのも変だが、すごく綺麗な子だった。
 幼稚園の時も、立っているだけで、誰もが一度は振り返るような子どもで、御村の家ことを誰も知らなかった時は、みんながちやほやしていた記憶がある。
 アーモンド形の黒い目と長いストレートの黒髪、表情は少し大人びていて、もしも梅田とかを歩いていたら、きっとお子さんをモデルにしませんかと声でもかかりそうな、そんな子だった。
 それがいつの間にか少しずつ、さえちゃんとさえちゃんの家族は周囲の世界から切り離されていった。

 夏海が通っていたのは近所のお寺が経営している幼稚園で、そこは朝のお勤めがあることを除けば、ごく普通の幼稚園だった。
 自分で言うのも何だけれど、幼稚園の時の写真を見たら、夏海だって、さえちゃんには全く敵わないものの、そこそこ可愛らしい女の子だった気がする。
 それは顔のつくりがどうというのではなく、いつも笑っていたからかもしれない。

 夏海ちゃんはいつも楽しそうね、とよく言われた。
 多分、本当に楽しかったのだ。世の中のことは何もかも、世界中が目新しいものばかりで、それは小学校に行っても、中学校に行っても、高校に行っても同じだった。

 ゆうちゃんは活発でごんたばかりしている、きわめてやんちゃな男の子だった。幼稚園では毎日何か悪戯をしていて、先生に追い回されていた。
 園長先生はいつも笑って見ていたが、一度だけ、ゆうちゃんが嘘をついた時だけは怒った。

 本当のことを言うと、ゆうちゃんだけが悪いわけではなかった。みんなで本堂で走り回っていて、何か壊してしまったのだ。なぜ本堂で走り回っていたのか、何を壊したのかはもう覚えていない。
 ゆうちゃんは、始めから壊れていたと言い訳をして、園長先生に怒られた。
 壊したことは仕方がないけれど、嘘はいけないと怒られたのだ。

 見つかった時には、一緒に悪戯をしていた子たちはみんな逃げてしまっていた。ゆうちゃんはこけてしまったさえちゃんを助けようとして、逃げ遅れたのだ。
 ゆうちゃんが怒られたのを見て、夏海は怖くなってしまった。
 でも、気がついた時、足が一歩前に出ていた。引っ込みがつかなくなっていた。
 
 ゆうちゃんがこわしたんじゃないよ。たけちゃんとふみくんが……。
 でも、なつみもきわちゃんもさえちゃんも、みんなが一緒にいた、という言葉までは続かなかった。言いつけたみたいで嫌になってしまったのだ。

 正義感ではなくて、ゆうちゃんだけが悪者になるのが何だか悔しかった。でも自分も悪かったとまでは言えなかった。大きな声で言ってから、涙が出てきた。
 誰が壊したのかを聞いているのじゃないよと、園長先生は言った。

 でも、それ以来、ゆうちゃんは夏海を気にしてくれるようになった。園長先生に言いつけたと、たけちゃんやふみくんにいじめられた時も、ゆうちゃんが助けてくれた。
 幼稚園児なので、いじめた方も苛められた方も、すぐに忘れてしまって、それからはたけちゃんやふみくんとも遊んでいた記憶があるけれど、昔のことで、その後彼らがどうしているのか、今は知らない。

 そうだ。あの時はさえちゃんが天野が原にいた一年間だった。
 確か、誰かがさえちゃんに何か意地悪なことを言ったのだ。お寺の幼稚園なのに、おんみょうじの子どもが来ているのはおかしいとか何とか、それから、呪いがどうのとか。
 どこからそんな難しいことを覚えてきたのか分からないが、ひどくさえちゃんが傷ついた顔をしていたのを思い出した。

 それから、夏海は何となく、さえちゃんを守るのが自分の義務のような気持ちになっていた。
 それはさえちゃんを庇ったゆうちゃんがかっこよかったからだ。さえちゃんは有難うも何も言わなかったけれど、夏海とゆうちゃんのことを信頼してくれているのが分かって、夏海は満足だった。

 それから、さえちゃんが京都に戻り、川ひとつ隔てて違う市に住んでいたゆうちゃんは、小学校・中学校とも夏海とは別の校区になった。それでもゆうちゃんが少年野球に夢中になるまでは、幼稚園のあったお寺の習字・そろばん教室に通っていたので、その帰りによく一緒に遊んでいた。

 小学校五年生の時、さえちゃんが京都から天野が原に戻ってきた。
 さえちゃんは前よりもっと綺麗な子になっていた。

 母親の実家のことで色々と噂の絶えないのは仕方がないのだろうが、全くそんなことに動じない凛とした顔立ちが綺麗で、苛めようにも苛められないムードを身にまとっていた。というよりも、周りの子たちは、苛めたら呪われると言って、近づかなかった。ある意味、その無視の仕方が十分に苛めだったのだろうが、さえちゃんはすっかり大人の対応のできるかっこいい女になっていた。
 つまり、周囲の雑音など無視していたのだ。少なくとも夏海にはそう見えていた。

 夏海は普段は他の子と遊んでいたが、習字とそろばんを習い始めたさえちゃんとは、お寺で会うようになった。学校でも自然に話すようになった。六年生になって、そろばんと習字は辞めて、新しく始まった英語の教室に顔を出すようになったときも、一緒に英語教室に替わった。

 少年野球に夢中で習字とそろばんは辞めてしまったけれど、ゆうちゃんは英語教室の帰りの時間には外で待っていてくれた。丁度野球の練習の終わる時間で帰り道だからと言っていたが、本当なのかどうかは知らない。
 いつもさえちゃんと夏海を家まで送ってくれた。

「どうしてさえちゃんと話すの? あの子の家、呪いの家なのに」
 よく他の友達に言われたが、夏海は別に、と言って態度を変えなかった。夏海とさえちゃんは二人とも大事な友達だと言っているゆうちゃんの手前、格好の悪いこと、つまり苛めるとか無視するとか、家のことで悪口を言うとか、そういう仲間に入るわけにはいかなかった。
 ゆうちゃんはきっと怒るだろうと思ったのだ。

 だからと言って夏海までもが苛められるというようなことは、幸い起こらなかった。その頃、夏海はピアノに一生懸命になっていて、英語も、ピアノも、学校以外にしなければならないことが多くあったので、正直なところ、もしかしていじめられても苛めに気が付かないほどに、小学生なりに忙しかったのだ。

「なっちゃんは友達がいっぱいいていいね」
 さえちゃんに見つめられながらそう言われると、ドキドキした。
「そんなことないよ。もちろん、さえちゃんも友達だよ」

 中学生で合唱部に入っていた夏海は、部活に多くの時間を取られるようになっていた。さえちゃんはクラブには入らず、いつも図書室で本を読んでいた。勉強はすごくよくできて、いつも一番だった。
 さえちゃんは夏海がいなくても一人で外を見つめていだが、夏海が話しかけると、笑ってくれた。その笑顔はやはり素敵だった。

 一度だけさえちゃんの家に呼ばれたことがあった。
 その時にはもうさえちゃんの父親は亡くなっていたが、家の周りで幽霊を見かけた人がいるとか、変な噂が流れていた。陰陽師の術で死んだ人を甦らせることができるのだとかなんとか、あるいは家には結界が張ってあって入ったら出られないとか、家の中には何か特別な部屋があって呪いとか悪魔封じとかの祈祷をしているのだとか、噂している同級生もいた。

 夏海はそんなことを信じていたわけではなかったが、それでもちょっと怖かった。
 さえちゃんの家は、古い貸家の平屋だったが、玄関は普通だった。迎えてくれたさえちゃんのお母さんは、思ったよりも歳を取って見えたが、呪いとか悪魔祓いをしているような人には見えなかった。

 居間に通され、さえちゃんの部屋も見せてもらった。本がたくさんあって、絵も描いているようで、夏海が見たことのない画材道具が、嫌味な程度でなく散らかっている、ごく普通の中学生の部屋だった。
 イーゼルに置かれた絵は風景画で、おとぎの国のように優しい色が踊っていた。ベッドカバーとかカーテンの色が、もっと大人の雰囲気なのかと思っていたら、可愛らしい花柄だったことにも、夏海はほっとした。

 小さな家には他に台所と洗面や風呂の水回りがある以外に、もう一つ部屋があった。きっちりとドアを閉じられたその部屋は、さえちゃんの母親の部屋だったのだろう。
 帰りにその部屋のドアが少しだけ開いていた。

 覗こうと思ったわけではない。何かお葬式の祭壇のようなものが見えた。そして暗い中に何かが光ったような気がして、夏海は慌てて目を逸らせた。
 部屋の中から、線香のような、あるいはお香のような匂いが流れ出していた。

 後から考えれば、彼女の夫の供養のための何かがあっただけなのだ。
 だが、夏海は少しだけ怖くなっていた。
 それでも、ゆうちゃんが相変わらず英語教室の帰りに二人を送ってくれることが続いていて、その不思議な関係性は変わることがなかった。
 三人で遠回りをして天野川の土手を歩くこともあった。話はクラブのこととか、さえちゃんの読んでいる本のこととか、試験の結果とか、他愛のないことばかりだった。

 だが、中学二年の時、小さな予兆のような変化があった。




微妙なところで切ってすみません。細かいことはまた今度。
でも、ようやく、話のムードが大海っぽくなってきたと思ってくださった方。
ありがとうございます(*^_^*)
あと2回です。


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【天の川で恋をして】(6) 天野川・過去(2) 

第6章の後半です。大きく、過去の物語が動きます。
そして、夏海の逡巡、心に押し込めていたものの正体が見えると思います。





 ある時、いつもならゆうちゃんは先にさえちゃんを送って、その後夏海を送ってくれていたのだが、その順番が逆になった。もちろん、その方がゆうちゃんの家まで遠回りにならなくて済むのだが、夏海には二人が少しだけ何か秘密を持ったように見えた。

 さえちゃんがある時、休み時間に呟くように言った。
 気持ちのいい風が吹く季節だった。
「なっちゃんは何でも持っていていいね」
「え?」
「お父さんもお母さんもいるし、弟もいるでしょ。クラブも楽しそうだし、ピアノも」
「でも、さえちゃんみたいに綺麗じゃないし、賢くもないよ」

 それは本音だった。さえちゃんはそうかな、というような顔で微笑んだ後、少し顔を曇らせて俯いてしまった。綺麗で何事にも動じないさえちゃんの、そんな顔は初めて見た。
「夏海はさえちゃんが友達でいてくれるのがすごく嬉しいよ」

 何だか脈絡もないのに、慌てて言った。さえちゃんを悲しませてはいけないと思った。中学生になって、夏海にもある程度さえちゃんの家の大変な事情が分かってきていたし、さえちゃんの家を怖がったりしたことへの申し訳なさもあった。

 不意にさえちゃんが夏海の顔を見て、尋ねたこともあった。
「ねぇ、なっちゃん、ゆうちゃんのこと、どう思ってるの?」
「どうって……幼馴染で、友だちだよ」
「そう、友だちなんだ」
 ふと視線を逸らせて、さえちゃんが大人っぽい顔で窓の外を見た。
 夏海はドキドキが止まらなくなった。

 その頃だったか、ゆうちゃんが一度だけ校門の前で夏海を待っていたことがあった。
 他校の制服を着たゆうちゃんは、その頃背が伸び始めていて、野球で真っ黒に焼けた顔は、ちょっと眩しいくらいだった。

 ゆうちゃんは何か言いかけては止まり、野球の話をして、また何か言いかけては止まり、試験の話をして、また何か言いかけて止まり、夏海の合唱部のことを聞いた。夏海の家が近づいたとき、最後の曲がり角の手前でゆうちゃんは立ち止まり、ようやく意を決したような顔をした。
「夏海、あのさ、俺」

 その顔を見た時、何かまずいことが起こっているような気がした。ゆうちゃんの目は真剣で、見つめているとどこか照れくさくなったりもした。
 それから、ゆうちゃんが何を言ったとしても、聞いてしまったら不安になるような気がした。何故だか、三人で歩く天野川の河原の色が変わり、崩れていくような音が聞こえた。

「あ、ゆうちゃん、いつもありがとうね。私、ゆうちゃんがずっと友だちでいてくれて嬉しいよ。でも、もう別に送ってくれなくても大丈夫だから。ゆうちゃん、クラブもあるし、勉強もしないとだめでしょ」
 私、なにを素っ頓狂なこと言っているんだろう、と思ったが、言ってしまってから訳が分からなくなった。
 じゃあ、ここでいいよ、と言って家に向かって走る。
 その日は夕食を食べられなかった。

 次の日、黒板にちょっとした落書きがあった。ゆうちゃんと夏海が並んで帰るのを見た誰かが、からかって書いたようだった。
 夏海が何かする前に、カタン、と席を立って、無表情のまま黒板の落書きを消したのはさえちゃんだった。皆が何かを恐れるようにさえちゃんを見ていた。

 ゆうちゃんは英語教室に迎えに来なくなった。夏海はさえちゃんと二人で帰るようになった。会話は少なくなっていた。
 中学二年生の秋、合唱コンクールの練習で帰りが遅くなる日が続いていた。その頃、夏海はゆうちゃんにもほとんど会うことがなかったし、さえちゃんとも教室で顔を合わせる程度になっていた。
 ピアノも、本格的にやるなら新しく上の先生にもつかなければならないと言われていたが、それはさすがに家の経済状況からは難しいと思っていた。英語を好きだったし、そっちを頑張ろうと思い始めた。

「ねぇ、なつみ、確か幼馴染の男子がいたでしょ」
 クラブの帰りに同級生にいきなり切り出された。
「ゆうちゃんのこと?」
「うん、名前は知らないけど、一中の子。御村さんと付き合ってるの? この間、葛葉で一緒に歩いてるのを見たんだ。他にも、見た子がいてさ。私ら、夏海の彼氏なんかと思ってたのに」
 夏海は一瞬に襲ってきた何かをお腹の底に押し込めた。
「え~、私ら中二だよ。まだ付き合うとか、ないもん。クラブのほうが大事だし」
 大人びたさえちゃんの顔を思い出した。

 さえちゃんとゆうちゃんが本当に付き合っていたのかどうかはよく知らなかったけれど、もしそうだったとしても、それはきっと半年ばかりのことだろうと思う。
 受験勉強が本格化する中学三年生の夏休み以降、さえちゃんにもゆうちゃんにも塾で会うようになったが、何となく関係は前に戻っていて、また三人で天野川の河原を歩くようになった。
 ゆうちゃんは野球を続ける気なら最低でも四条畷か茨木の普通、と父親から言われて必死だった。さえちゃんは北野にだって行けると思うけれど、そして教師からは随分と説得されていたけれど、結局三人とも同じ高校を受けることに何となく決めていた。
 河原での会話は受験のことばかりになったけれど、夏海はかえってほっとしていた。

 そして、同じ高校に通うようになった。
 合唱部は中学以上に活動が活発だった。ゆうちゃんは野球部で相変わらず真っ黒だったが、将来のことを考え始めていた。体力と運動神経を生かせる仕事に、と思っていたようだった。さえちゃんは相変わらず集団に属することはなく、一人で図書室で本を読んでいた。成績は相変わらずトップだった。

 図書室からも、合唱部の練習場所になっている音楽室からも、グラウンドが見えた。
 白球を追いかけるゆうちゃんの声も聞こえていた。どの声がゆうちゃんなのか、夏海には簡単に聞き分けることができた。多分、さえちゃんも同じだっただろう。
 心なしか、さえちゃんが前よりずっと大人っぽくなったような気がして、時々顔をまともに見つめられなくなっていた。

「今日、部活が終わったら一緒に帰ってくれる? 図書室で待ってるから」
 久しぶりにさえちゃんから言われたのは、高校二年の五月の終わりのことだった。
 一年生の時は三人とも偶然同じクラスだった。二年生になり、今度は別々のクラスになったので、何となく目が合ったら一緒に帰る、などというチャンスはなくなっていた。

 何か話があるのだと思って、気になり始めると、声がでなくなった。
 学年の取りまとめ役だった叶恵がすぐに気が付いて、夏海、風邪ひいてるの? と聞いてきた。そうかも、と言ってクラブを早退した。

 図書室に入った時、グラウンドの見える窓際にさえちゃんの姿を見つけた。夕陽の中で野球部はまだ白球を追っていた。
 夕陽に照らされたさえちゃんの横顔は怖いくらいに綺麗だった。さえちゃんは窓の外を見つめていて、何故か泣いているように見えた。
「さえちゃん?」
 さえちゃんは大事なものから引き離されたくないとでも言うような、静かな躊躇いの時間を置いてから、夏海を振り返った。

 その時、さえちゃんから渡されたのは、京都の美術館で開催される、高校生美術コンクールの入賞作品展示会の招待状だった。
 すごいねぇ、入賞したの、と夏海が言うと、さえちゃんは俯いた。一緒に行こうと言ったら、さえちゃんは恥ずかしいから、と言った。じゃあ、誰か他の子と行こうかなと言うと、さえちゃんはじっと夏海の目を見たまま言った。
「なっちゃん、できれば一人で見に行ってほしいの」

 それは衝撃的な絵だった。
 入賞作品の筆頭に挙げられていたのは、白球を追う少年の横顔だった。青春の情熱をぶつけたような赤と青と黄、命をも懸けたような一瞬の迸り、汗と涙と、目の光。
 いつかさえちゃんの家で見た優しく柔らかい色遣いの絵ではなかった。
 その色の奥には、どこかで切れそうになる若い命を、必死で繋ぎとめている危うさと共に、見ている者を惹きつけて離さない痛みが潜んでいた。絵に描かれた心はさえちゃんのものだったが、その少年の一瞬を切り取った横顔は、明らかにゆうちゃんだった。
 いつも静かで、何も語らないさえちゃんの心が見えて、夏海はパニックになっていた。
 その夜、夏海はまた食事もできずにベッドに潜り込み、いつの間にか零れた涙が止まらなくなった。

 次の日、さえちゃんから電話がかかってきた。
「ごめんね、電話で。なっちゃんの顔を見て話す勇気がなかったの。なっちゃん、私、やっぱりゆうちゃんが好き。ゆうちゃんとやり直したいの。協力してくれるよね?」

 やり直したい、という言葉は、夏海には心に突き刺さる針のようだった。以前、ゆうちゃんとさえちゃんの間に何があったのかは分からない。それでも二人が夏海には言えない秘密を共有していることがたまらなかった。
 私だって、と思う気持ちが混乱して絡まった。
「ゆうちゃんは私と二人では会わないようにしてる気がするの。夏海が一緒でなきゃ。夏海は今でもゆうちゃんと何でも話せるでしょ。だからゆうちゃんに、私の気持ちを伝えてほしいの。なっちゃんは何でも持ってるじゃない。だから、ゆうちゃんは取らないで。でないと私、苦しくて死んじゃいそうなの」

 今まで通りに戻ったと思っていたのは夏海だけだったのだ。さえちゃんは本当に苦しそうだった。
 夏海はその時、迂闊にも言ってしまった。
「だめだよ、死ぬとか言っちゃ。大丈夫、私が何とか伝えてあげるから」
 口に出してしまった言葉は、取り戻すことができなかった。

 六月になってさえちゃんから手紙を預かった。そして上手く伝えてほしいと言われた。
 夏海はあれこれ理由をつけて、ゆうちゃんと二人きりになるチャンスを作らなかった。そもそもゆうちゃんはクラブが忙しそうだったし、それ以外にも将来のことを真剣に考えているようで、どこかに見学に行くのだとか、話を聞きに行くのだとかで、放課後も顔を合わせにくくなっていた。それに、期末テストも間近に迫っていた。
 廊下ですれ違っても、さえちゃんとも目を合わせられなかった。

 何度も預かった手紙を読んでしまいそうになった。でもさすがに、封を開けることはできなかった。あの苦しそうな絵とは違って、穏やかで優しいピンク色の封筒だった。表に宛名はなく、裏にも名前はなかった。
 一度だけ、ゆうちゃんが夏海の合唱部の練習が終わるのを待っていたことがある。

 天野川の河原を、自転車を押しながら、久しぶりに二人きりで歩いた。
 あのさ、夏海。
 ゆうちゃんはいつかのように、何かを言いかけては止まり、野球の話をして、何かを言いかけては止まり、ちょっと将来のことを話し始めて、それからしばらく沈黙してしまった。
 夏海は何だか怖くなった。ゆうちゃんは何かを話したいのだと思った。
 中学二年の時、さえちゃんと付き合ってたこと? もしかしたら、ゆうちゃんもさえちゃんのことが好き? それとも。

 どんなことをゆうちゃんが話しても、それは今までのことを壊してしまうような何かに思えた。それに、どんな話になっても、さえちゃんの手紙のことを話さなければならなくなってしまう。
 さえちゃんの悲しそうな声が耳から離れない。ゆうちゃんがさえちゃんを振ってくれたらと願う気持ちもある。でも、さえちゃんのあの絵に籠められた叫びのような想いは、夏海を苦しめる。さえちゃんの家は陰陽師の家で呪うこともできる、とみんなが話していたことを脈絡なく思い出した。そんなことは信じていないけれど、夏海にはない力をさえちゃんが持っているような気がした。

「夏海」
 意を決したようにゆうちゃんが立ち止まった時、夏海は反射的にさっきまで頭の中にもなかった言葉を口にしていた。
「あ、帰りに買い物頼まれてたんだ。ごめん、ゆうちゃん。ありがとう。またね」

 それから、夏海はクラブを休みがちになった。時々、お腹が痛いと言って学校に遅れて行くこともあった。休むまでできないのは小心だったからだ。
 そして、あの七月六日、機物神社の宵宮の夜。

 ゆうちゃんから電話がかかってきた。
「宵宮、行く? 俺さ、夏海に紹介したい奴がいるんだ」
 少しだけ気が遠くなった。クラブを休みがちになっているのをゆうちゃんは知っていたと思う。だから、きっと夏海を励ましてくれようといていたのだ。多分、友だちとして。そして、あの時、ゆうちゃんが言いかけた何かを聞こうとしなかったことに、少なくとも落胆しているのだと思えた。
 誰に何を紹介すると言うのだろう。

 もうこれ以上こんがらがるのはいや。
 夏海はさえちゃんに手紙を返すことに決めた。
 自分でゆうちゃんに渡してと、私もゆうちゃんのことが好きで、私の恋は実らないと思うけれど、それでもこれだけは許してと、ちゃんと言葉で言おう。
 雨が降り始めていた。今日は少し降りながらも持ちこたえるけれど明日は本格的に降ると、天気予報は言っていた。今年の七夕も雨なのだ。どうして新しい暦で七夕の日を決めてしまったのだろう。本当なら、真夏のもっと晴れた日が七夕だったはずなのに。

 夏海はさえちゃんから預かった手紙を握りしめて、機物神社のにぎわいを避けるように天野川の方へ歩いていた。
 なつみっ!
 その時、声が聞こえたような気がした。

 振り返ると、雨に濡れた道で車が行き交い、ヘッドライトが地面の照り返しで増幅して、夏海の目を射た。夏海は目に飛び込もうとした何かを避けるように腕をかざした。
 トラックが雨の地面を擦りつける音が、爆音のように耳元をかすめた。

 持ちこたえると言っていた雨は、本降りになっていた。
 びしょ濡れになった夏海は、ふらふらと天野川の河原を歩いていた。握りしめていたさえちゃんの手紙は濡れてくちゃくちゃになり、破れかかっていた。夏海は手を開き、しばらく何かの亡骸のような封筒を見つめていた。
 何かがダメになってしまった気がした。雨のせいだと思いながら、そのままその雨に隠れ、肩を震わせてしゃくりあげるように泣きながら、夏海は手紙を引き裂いた。
 引き裂いてしまってから、夏海は地面に座り込み、川の流れと雨の音で声が誰にも聞こえないと信じて、馬鹿みたいに大声を上げて泣いた。
 手紙は色を無くし、ばらばらになって天野川を流れていった。


 そして翌朝、雨の中にいたせいで熱を出してベッドに潜り込んでいた夏海に、思わぬ人から電話がかかってきた。
 さえちゃんのお母さんだった。
 さえちゃんは、昨日の夜、あの雨の中でトラックに轢かれて亡くなったのだと告げられた。




もしかして、映画を見た人がいたら、これが何のホラーを下敷きにしているか、気が付かれた方もいるかもしれませんが、何せ、14年も前の映画なので……
思い出しても怖い……(;_:)
さて、次回は最終回。
ユウキ! 男なら何とかしろ! と思いながら書いております(^^)




Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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【天の川で恋をして】(7) 天の川・かささぎの橋を越えて 

【天の川で恋をして】最終回です。少し長くなってしまいましたが、切るところがないので、このままお楽しみください。これで、すべての謎の始末がついているはずですが…(あ、まだ一つ残っているかも)
それにしましても、まだPCが恐ろしく不調です。写真の縮小化やアップができません…(・・?
したがって今日も文字ばっかり^^;
楽しい記事が書きたいのに…(;_:)





 聞かれたくない電話であるようなふりをして、叶恵とゆうちゃんの側を離れた夏海は、あの日のようにどこに行けばいいのか分からずに、見覚えのあるようで、ところどころすっかり姿を変えてしまった景色の中を歩いていた。

 団地や家は、東京と違って低く、天野川の川近くにはまだ広い畑も残り、東京よりもずっと広い空が見えていた。その間を比較的交通量の多い道路が縫うように走り、大きな道路脇では歩道も整備され、家も新しくなっていた。それでも、少し古い町の中へ入ると道路は車がすれ違えないほど細くなり、古い民家が入り組んで建っている。随分と古くからある何かの工場、営業しているのかどうかわからない寿司屋やお好み焼屋の看板、錆びて傾いたような道路標識。民家の脇に置かれた鉢には、紫陽花の小さな花弁が揺れる心を映すように、青とピンクの間を行き来している。

 ごめんねも、ありがとうも、ちゃんと叶恵に言えなかった。
 ゆうちゃんの目をちゃんと見て話すこともできなかった。
 何より、あの日、さえちゃんに言いたかった言葉を、この身体の内側に押し込めたまま、さえちゃんに伝えることができずに、今日まで来てしまった。

 私はやっぱり駄目な子だ。みっちゃんは、私がいつも笑っていたと言っていたけれど、本当に言いたいことを言えないから笑ってごまかしていただけだ。今日で、この十年にけりをつけるつもりだったのに、何ひとつ前に進めない。

 お前に必要なのは時間じゃない。
 先輩は知っていたんだ。私の本当に駄目なところを。

 十年前、さえちゃんの死を聞かされてから、怖くなってお葬式にも行けなかった。雨の中をうろうろしていたために熱が出ていたのをいいことに、さえちゃんをちゃんと送ってあげることもせずに、何日も学校を休んだ。
 一週間後に学校に行ったら、何事もなかったような日常が待っていた。
 まるで、さえちゃんは始めからいなかったような、そんな日常だった。

 みんな、あまりさえちゃんのことは話さなかった。そもそも、夏海以外に誰もさえちゃんと特に親しくしていたわけではなかったのだから、思い出を語られることもなく、たださえちゃんがいつも座っていた図書室の窓辺の席だけが、いつまでもやって来ない主を待ち焦がれて、静かに光の中で悲しんでいた。
 そしてそのまま、夏海が風邪をこじらせて一週間学校を休んでいただけで、その短い期間の授業のブランクがそのままさえちゃんのいた六年間だったかのように、追いついた授業のノートとその先へ続いていった新しい生活が記憶を上塗りしていった。

 ほんの少しだけ、色合いを変えた夏海の学校生活の意味を、誰も気が付かないままだったろう。
 夏海は合唱部には復帰したが、歌うことができなくなった。もともと伴奏を手伝っていたので、誰が言い出したのか分からないが、自然に夏海はピアノ伴奏の係になっていた。
 両親に、将来のことを考えて大きな英語の塾に行きたいと言って、週末には京都に通った。大学受験は東京の外大を目指すと言って、予備校にも通い始めた。
 三年生になっても、夏海とゆうちゃんは別々のクラスで、顔を合わせることも少なくなり、一緒に河原を歩くこともなくなった。

 忙しくなっていったのは夏海だけではなく、周囲の皆も同じだった。周囲の皆も、ゆうちゃんも、将来のために忙しくなり、さえちゃんの不在はもう、不在という事実さえ消えていくようだった。
 たまに、理由も分からず悲しくなり、泣いている時がある。
 だが、その次の日にはまた当たり前の日常が巡ってきた。さえちゃんがいなくても、夏海の毎日は続いていて、当たり前に学校に行き、当たり前に家に帰り、当たり前にお風呂にも入って、時々は家族と笑いながら外食もした。

 一度だけ、ゆうちゃんとどこかで話したような記憶がある。
 東京の大学を受けることに決めた、とそれだけ言ったような覚えがある。
 その時、ゆうちゃんはどんな顔をしていただろう。何か言っただろうか。夏海には記憶がなかった。
 ただ思い出したくないだけなのかもしれない。

 交野駅はどっちだったろう。
 このまま、京阪に乗って京都に出てしまえば、もしかして最終の新幹線に間に合うだろうか。荷物はみっちゃんに送ってもらったらいい。休みは返上して、明日から普通に働いて、先輩とも以前のような普通の関係に戻って話をしたらいい。
 そしてまた、ゆうちゃんのこともさえちゃんのことも、この天野川のことも、忘れてしまっても、きっと生きていける。

 夕陽の名残の温度を含んだ風が、頬に触れていった。懐かしい景色は徐々に色褪せていく。
 十年前のように馬鹿みたいに泣くことはできなかったけれど、目の奥が痛くて、鼻が詰まって息苦しかった。
 久しぶりに履いた高いヒールで痛む足が、こんなにも悲しい理由だと思った。




 この町を離れた時は五歳だった。
 それでも、この機物神社の七夕祭りの宵宮あるいは本宮のにぎわいを肌が覚えていた。
 薄闇に染まる空を背景に、高く掲げられた笹の葉に揺れる五色の短冊、提灯や星、天の川や笹を象った色紙の飾り、浴衣姿の子どもたち、母親の手を借りて願い事を書く小さな手、露店で売られている林檎飴やチョコレートの甘い匂い。
 風が吹くと一斉に重なり合うざわめきのような音楽を奏でる笹の葉は、高い空から何かを語りかけてくるようだ。

 できるだけ高いところにこの短冊を飾ってあげたい。
 夜になれば神事で笹のお祓いがあり、夜遅くには人々の願いは天の川に流される。それに乗せて天に還してあげよう。

 この町を離れた十年前のあの日、車に乗り込む時に拾ったこの短冊には、大事な人へのメッセージが綴られていた。昨夜、小さな穴をあけて紙縒りを通し、もう一度言葉をかみしめてみた。あの悲しそうな長い髪の七月七日の幽霊は、この短冊と一緒に天野川に戻り、今日、空の天の川に帰ることができればいいのだけれど。
 この十年間、父親がいない中で頑張ってこれたのはこの短冊のお蔭だったかもしれない。

 笹のできるだけ高い位置に短冊を結びつけようと背伸びをした。
 もう少し高い所に。
 そう思った時、誰かの手がすっと短冊に触れた。
「できるだけ上の方がいいですよね」
「すみません」

 短冊を受け取ったその人は、あまりにも古い紙を不思議に思ったのかもしれない。ふと、手を止めたと同時に、呼吸を飲み込んだように見えた。
「あの」
 その人は黙って短冊に書かれた文字を読んでいた。

 背の高い、スーツ姿の青年だった。優しそうな顔立ちと、短く刈り揃えられた髪、しっかりとした身体つきはスポーツマンのように見えた。
 その人の表情が少しずつ変わっていく。悲しさと喜びと、苦しさと愛しさと、そして命や想いの不思議を噛みしめたような、色々なものを全部取り込んだような顔だった。
「あの」
 呼びかけると、青年は顔を上げた。
「すみません。これを、どこで」
 その瞬間、この人はこの短冊の幽霊を知っているのだと分かった。
「十年前の今日、雨の日に、この近くで拾ったんです。丁度この町を離れる時で、車に乗り込もうとしていた時に」

 私はまだ五歳で、ここに書かれた文字を読むこともできず、ただ短冊の美しい碧い色が濡れていくのが悲しくて、文字も泣いているように見えて、拾い上げて今日まで大事に持っていた。七月七日が近づくと、誰かが悲しそうに立っている気配を感じていたけれど、自分が幼くてこの言葉の意味を十分に汲んであげることができなかった。その気配は、始めはちゃんとした姿ではなかったけれど、今年現れたその人は、髪の長いとても綺麗な人で、私は今年こそ、ここに返しに来なければならないのだと思った。
 そう告げると、青年はしばらくの間じっと短冊を見つめ、やがて顔を上げて微笑んだ。
「僕たち三人はこれを待っていたんだ。ありがとう」
 



 足が痛くなって、もう歩けなかった。
 駅に向かおうとしていたのか、そもそも駅がどこなのか、こんなヒールで歩けるのか、混乱した記憶と流れた時間の長さで変わっていた街並みが、夏海を混乱させていた。
 どこに帰ったらいいのか分からない。
 夏海は橋のたもとでしゃがみ込んだ。
 ヘッドライトを灯し始めた車の流れが夏海の視界の隅をかすめていく。

 その時、アスファルトを擦るタイヤの音の中に、誰かが呼ぶ声が聞こえた。
 なつみっ。
 あの時、雨の中で聞いた声は、さえちゃんだったんだ。
 ごめんね、さえちゃん。あの時、もっと早くにさえちゃんを探していたら。
 夏海は両手で耳を塞いだ。
 ごめんね、さえちゃん。

「夏海」
 その時、奇妙なほどしっかりとした声が、頭のすぐ上から聞こえた。夢の声でも幻の声でもなく、確かに鼓膜に届く振動と同時に、耳を覆う夏海の両手を包み込んだのは、大きな暖かい手だった。
「夏海」
 顔を上げた時、周囲の景色に先に焦点が合った。
 歩道の橋の両側に笹の葉が立てられ、色とりどりの短冊が風に揺れている。
 そしてその真ん中に、ゆうちゃんの顔があった。真剣で優しい目だった。

「今日は、ちゃんと話を聞いて欲しいんだ」
 ゆうちゃんはそう言った。夏海は、化粧も剥げているし、気持ちもくちゃくちゃで、きっと今私はぶさいくだ、と思った。思ったけれど、どうすることもできなくて、ただ頷いた。

 ゆうちゃんは、足が痛いことにはすぐ気が付いてくれた。
「良かった。今日は荷物があったから、ツーリングバイクだったんだ」
 そう言って、ゆうちゃんはスーツの上着を脱いで、荷台のクッションにすると、夏海を支えるようにして立ち上がらせ、荷台に横座りにさせてくれた。そして自分は器用にバイクを支えながらサドルに跨る。
 くらりと揺れた時、すかさず、腰につかまって、と言う声が聞こえた。

 その時、ようやくここが逢合橋だと気が付いた。織姫と彦星が一年に一度出会い愛し合う場所という適当な伝説がくっついている橋だ。
 ゆうちゃんは川沿いの道をゆっくり、ツーリングバイクを漕いでいく。今年は蒸し暑くて息苦しいような七月の始めだが、こうしていると、吹き抜ける風が心地よかった。
 夏海はきゅっと、ゆうちゃんにしがみ付いた手に力を入れた。
 二人で、あるいは三人でよく川沿いを歩いたけれど、こんなふうにゆうちゃんの背中を感じたのは初めてだった。

 やがて、ゆうちゃんが軽くブレーキをかけ、ツーリングバイクが停まる。ゆうちゃんの片方の足が、地面を力強く支えていた。
 夏海は慌ててゆうちゃんから手を離そうとした。その時、ゆうちゃんの一方の手が、夏海に触れた。
「そのままで聞いて」
 夏海はゆうちゃんの腰に回した手を握り直した。ゆうちゃんがもう一度、夏海の手に重ねた手に力を入れた。
 向こう岸から風が渡ってくる。まるで誰かの想いを運んでくるようだった。

「中二の時、さえちゃんに、これからは先に夏海を送って欲しいって言われたんだ。俺、あんまり頭が回る方じゃなかったけれど、さすがにその意味は分かってた。さえちゃんも、さえちゃんのお母さんも周囲から色々言われてて可哀相だって、俺、何だか同情みたいな気持ちがあって。悩みとか、困っていることとか、色々聞いているうちに、俺もだんだん情が移ったってのか、それから何となく、手をつないだりキスしたりもするようになった」
 夏海は思わず手を離しそうになった。ゆうちゃんは、このまま聞いてと言うようにもう一度手に力を入れた。

「一度だけ、夏海にちゃんと説明した方がいいとか思ったんだ。けど、夏海は俺のこと友だちだって言ったろ? 夏海にそう言われてから、逆に自分の気持ちが分からなくなった。さえちゃんは頭がいいし、すぐに何か感じたみたいで、ゆうちゃんは優しいから私のこと可哀相だって思って付き合ってくれているんだよね、って。それから何となく、本当に自然に、前みたいに友だちに戻って行って、もう恋人同士みたいなことはしなくなった。それで良かったような、悲しいような、変な気持ちだった。夏海、俺、その時の自分の気持ちにはあんまり自信がない。さえちゃんのことが本当に好きだったような気もするし、本当はただの同情だったような気もするし」
 俺、何言ってんのかな、とゆうちゃんは呟いた。

「さえちゃんが交通事故に遭う少し前、彼女と話したんだ。ゆうちゃんはずっとなっちゃんのことが好きだったんでしょ、気持ちってちゃんと言葉にしなきゃだめだよって、そう言われた。俺は何だかまたよく分からなくなって、夏海のこともさえちゃんのことも大事だという気持ちもあったし。でもひとつは友情で、ひとつは違う意味だってことも分かってた」

「ゆうちゃんは分かってないよ。さえちゃんはずっとゆうちゃんのこと好きで、もう一度やり直したいって、それが言えなくてつらかったんだよ」
 思わずさえちゃんの描いた絵を思い出した。詳細は記憶の彼方に消えているのに、さえちゃんの想いだけは鮮明に蘇る。
 私がちゃんと手紙を渡していたら、二人は恋人同士に戻って、幸せにやっていけたかもしれないのに。分かってないのは私だ。ひどいことをしたのは私だけだ。

「夏海、俺、さえちゃんの気持ちはちゃんと知ってた。知ってたけど、どうすることもできないことも分かってた。だから俺、代わりにちゃんとした大人になって、人のためになる仕事をして、それで夏海ともさえちゃんともきちんと話したいって思ったんだ。今になって思えば、そんな優柔不断なこと考えている時間はなかったんだよな」
 少しだけゆうちゃんの声が厳しくなる。それからしばらくの間、ゆうちゃんは暗くなり行く空を見上げていた。星の伝説が多く残るこの町だが、都会の明かりは空の天の川を消してしまう。
 それでも、この町を流れる地上の川は、人の思いを乗せて、やがては海へ流れ着く。

「なんかうまく言えないけど、俺、いつだって夏海に何か話したかったんだ。二人きりになったら、全然どうでもいいことばっかり話してたけど、それで良かったんだ。さえちゃんが亡くなった後も、しばらくの間は、夏海に何か言える状況じゃなかったけど、せめて、ずっと俺が傍にいるからって、そう伝えようと思った時、夏海から東京の大学を受けるって聞いて」
 ゆうちゃんの背中がふと大きく息をついた。

「あの時、止めればよかったなぁと思ったけど、俺もちょっと意地になったりもしてさ、素直に気持ちを伝えられなかった。それから、ヒロタカからいろんな女の子を紹介してもらったけど、どうしてもうまくいかなくて、というよりも上手くいくようにしようという気持ちがなかったんだ」
 夏海はいつのまにか自然に、そっと頭をゆうちゃんの背中に預けていた。

「なぁ、夏海、俺、消防士になって、それから救急隊勤務になった時、交通事故の現場に行くことがあったんだ。その時、家族を一度に亡くして一人だけ生き残った男性がいて、その時自分が何言って何したのか覚えていないんだけど、一年たってその人が区切りだからって事故現場に花を供えに来られたんだ。その後で、消防署にも寄ってくださって、お礼が言いたいって言われた。その人は淡々と話していたけれど、帰って行く背中は何ひとつまだ乗り越えてなんかいないって語っているようだった」
 広くて大きなゆうちゃんの背中は、今、言葉を吐き出しながら少しだけ震えているように感じた。

「その時思ったんだ。悲しみに区切りなんてないんだ。この人は一生この悲しさや苦しさを抱えていくんだって。それは忘れることも捨てることもできないもので、他人から見たら、早く忘れて立ち直って欲しいって言ってあげたいけれど、それは間違いだって。大事な人を失ったんだ。悲しいままで、そのままでいいんだ。他の人間は、苦しみや悲しみを抱えて生きていくその人を、そのまま見守っていたらいいんだ。そう思った」
 夏海はゆうちゃんの身体に回した手で、今ようやく、ゆうちゃんを抱き締めた。

 するとゆうちゃんが、そのままつかまってて、と言って、再びツーリングバイクを漕いで、街灯のある場所にまで移動した。そして、また器用に夏海を座らせたまま、自分はバイクを降り、胸ポケットから折りたたんだ紙を出し、広げて夏海の手に持たせた。そのまま、バイクと夏海を支えてくれている。
 街灯の柔らかい明かりの下で、褪せた碧い短冊に書かれた文字は、懐かしく優しい形をしていた。
 夏海は文字の上に指を添え、まるで指で読むようになぞった。

 涙が溢れてきて、止めることはできなかった。
 十年も前に書かれた文字は、夏海の涙で濃く浮かび上がり、ひとつひとつの言葉の意味を静かに優しく、しかし力強く語りかけていた。
「夏海に、さえちゃんを忘れることはできないし、俺もきっとそうだと思う。だけど、それを抱えたままだっていいじゃないかって思う。一人では苦しくて悲しくても、一緒なら、きっとたくさんのものを抱えたままでもやっていけると思う」

 ゆうちゃんは大きく息を吐いた。そしてこれまで以上にはっきりとした声で言った。
「だから、戻ってこいよ。天野が原に」



 その声に重なるように、突然キッというブレーキの音が聞こえた。
 少し行き過ぎて停まったのは、薄暗がりの中でもはっきりと分かる真っ赤なGT-Rだった。チカチカと点滅するハザードランプに、夏海もゆうちゃんも顔を上げる。
 後ろから来た車が、急ブレーキに苛立つようにクラクションを鳴らして行き過ぎた。

 窓が開く。
「おい、ユウキ! 忘れものだ!」
 ゆうちゃんの手元に、何かが飛んでくる。ゆうちゃんは片手で器用に受け止めた。
「ちょっと萎れ気味だけど、どうせすぐに新しいの、作ってあげるでしょ!」

 窓から顔を見せたのは、今日の主役たちだった。花婿の顔の向こうから、覗き込むように花嫁が笑っている。
 彼らは、自分たちが企画したイベントは最後まで面倒を見ると決めているに違いない。
 ゆうちゃんの手の中に、真っ白のブーケがあった。花は部分的に散ったり萎れたりしているようだが、今日の諸々の出来事、あるいは十年以上前からの出来事をみんな吸い込んで、街灯の下ではより白く浮かび上がるようだった。

「ほら見ろ、機物神社か逢合橋だって言ったろう」
 根拠のない推理は、たまたま当たったらしい。いや、この二人なら、運など容易に引き付けてしまいそうだ。
「ヒロタカが絶対二人を探すってうるさくて。私たち、このまま関空なの。じゃあね、夏海、ゆうちゃん。来年の結婚式には呼んでね」
「いや、今年中かも知れないぞ」
 勝手なことをしゃべるだけしゃべって、今日の主役は手を振りながら走り去った。

「ほんとに、あいつら、バカップルすぎる。十年前に夏海を紹介しなくて良かったよ」
「え?」
「十年前の宵宮の日に、夏海に紹介したい奴がいるって言ったろう? ヒロタカだよ。ヒロタカには一度、夏海を紹介しておきたかったんだ。結果的に今になったけど、あの頃に紹介してたら、きっと引っ掻き回されてた」
 そう言いながらも、ゆうちゃんは嬉しそうに見えた。

 ゆうちゃんはしばらくじっと手に飛び込んできた白いブーケを見つめていたが、やがて、夏海にツーリングバイクから降りるように促した。夏海がゆうちゃんの前に立つと、彼は夏海の目をちょっとの間見つめ、やがて少し目を逸らして、いささかぶっきらぼうに夏海の手を取り、ブーケを握らせた。

 今宵、天の川にかささぎの橋が渡され、長い時に隔てられていた幼い恋と深い友情は、その橋を越えてようやくひとつになろうとしていた。




 なっちゃんと仲直りができますように。
 なっちゃん、ごめんね。たった一人の大事な友だちを試すようなことをしてしまったことを後悔しています。ゆうちゃんのことを苦しいくらいに好きだったけれど、あの手紙をなっちゃんに渡してから、私にとって、なっちゃんがもっと大事な人だと気が付きました。なっちゃんにはずっと笑っていて欲しい。
 だから、他には何も願いません。なっちゃんと、一瞬でも早く仲直りができますように。

 短冊の隅には、ピースをして思い切り笑う少女と、傍で静かに微笑む長い黒髪の少女の絵が添えられていた。


【天の川で恋をして】了





無事に、終了いたしました……良かった。7月中に終わって……
お付き合いくださいました皆様、ありがとうございました(^^)
さて、最後に残った謎。それはこれが何のホラーを下敷きにしてたのかということですね。
それは次回の後書きで(*^_^*)
併せて、この天野が原を発祥地とする、日本における七夕伝説をご紹介。
併せて、頭の中でヘビーローテーションしていたテーマソング(例のごとく、映画化するなら妄想^^;)もご紹介。




Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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【天の川で恋をして】あとがき 

交野3
ようやく、最後の謎を解く時がやってきましたね。
まずは、このあとがきの構成を。
(1)下敷きになったホラー映画
(2)作品の舞台を巡る
(3)映画化されたら妄想:テーマソング(追記)



(1)下敷きになったホラー映画
さっそく、私の記憶の中に10年以上も居座っている某ホラー映画の、超いい加減(もしかしたら一部間違いもあるかも)ストーリーを。ちなみに、もともとは小説です。
(ちゃんとした筋を知りたい方は、ウィキってくださいね)

四国の某所。町に引っ越して何年もたっていた主人公・H子が故郷の田舎に帰ったとき、幼馴染のS子が16歳で亡くなったことを知る。もう一人の幼馴染・F也は、S子の恋人だったのだが、その死から立ち直れないでいる。
恋人を亡くした幼馴染、そしてもう一人の幼馴染→当然いいムード。
その時、不穏なうわさが。亡くなったS子の家は、死者の口寄せをする家柄で、S子はその跡取り、しかも口寄せの儀式の最中に亡くなったらしく、その母親は娘の死をいたく悲しんでいる。そして、禁断の甦りの儀式を行っていた。その儀式とは、四国の88か所めぐりを反対に廻る、いわゆる逆打ちを、亡くなった年齢の数だけ行うと、黄泉の国との結界が壊れて、死者が甦るというのだ。
もうすぐ16周目! 少しずつ亡くなったS子の気配が漂い始め、いい雰囲気になっているF也とH子の傍に……

はぁ。書いているだけで怖い。
『死国』という映画です。これ、かの『リング2』と2本立てでやってたんですね。
ちなみに私は絶対にホラー映画など見に行きません。
なのに、なぜか暇つぶしに職場の後輩(♂)と行く羽目になり、映画館へ。

何が怖かったのかというと。
そもそもこれは予想通り、S子が最後はゾンビのように甦るのですが、もうゾンビになっちゃったら怖いを通り越して笑える(ひきつった笑いだけど)んですよね。でもその「ちょっとずつ気配が」の怖さ。
ちなみに、亡くなったS子は長い髪、H子はショートカットです。
F也とH子が一緒に家の中にいる。二人は噂の真実を確かめようとしている。
F也は『逆打ち』について調べている。H子はお茶を淹れに台所へ。
F也はH子のいる台所に背を向けて、本に書かれている内容を読みながらH子に話しかけている。
H子はお茶を淹れながら返事をしている。
しばらくして。
F也の肩に手が載り、肩越しに一緒に本を覗き込む。F也は当然、H子だと思っていて話しかけている。

その時。はらりとF也の肩に長い髪が。

ぎょえ~(・_;)

もう恐ろしすぎる((+_+))
と思って、怖すぎた私は、取り敢えず後輩に話しかけようと隣を見た。
その時。

隣で後輩は固まっていました。
その後輩の固まった顔があまりにも怖かったので、映画館を見まわした私。

その時の映画館の光景が忘れられません。
映画館中が凍り付いていて、まるで私一人正気、みたいな世界。
そう、2重に怖かったのです……

このお話にいただいたのは、この三角関係と幼馴染という設定、そしてさえちゃんの家が少し複雑な家で、自由な夏海の環境を羨んでいる一面があるということ。
三角関係だけど、友情もあって、化けて出んでも…と思いつつ、書いておりました^^;


ちなみに逆打ちとは本来は、そんなためのものではありません。
いつも弘法大師様が前を歩いてくださっているというお遍路。
でも前を歩かれている弘法大師様には永遠にお会いすることができないと思った衛門三郎なる方が、弘法大師様にお会いしたいと思ってなさったことです。だから、死者に会える、という話にもなったのかもしれません。
一説には、順打ちの3倍の功徳があるとも言われますが、そもそも88か所めぐりは最後のほうがきついので、そのきつい側からまわるのでそのように言われるのかもしれません。
拙作の【清明の雪】でもこのエピソードを使わせていただいておりますm(__)m
【清明の雪】14.修行僧 逆打ち いつかあなたに会いたい


(2)作品の舞台を巡る
なぜか、昨日、所用でこの交野あたりに行ってまいりました。
7月7日は過ぎておりますので、まるきり日常の、何の変哲もない風景に変わっておりましたが、写真などをとってきましたので、ご覧ください。
交野2
機物(はたもの)神社です。ゆうちゃんが夏海を探して、始めにやってきて、霊感少女と会った場所。
七夕のお祭りのときの光景はYou Tubeでもアップされていますが、境内中に竹が飾られ、皆が短冊を結んでいる。でも普段は誰もいない、社務所にも人の気配のない、静かすぎる場所です。
知り合いの地元の方は、普段は誰も近寄らない、と。

この天野が原という場所、昔から風光明媚な場所で、平安貴族の狩りの場だったようで、在原業平も歌を詠んでいますね。伝説が生まれるにふさわしい場所のようです。
この神社の祭神は、機織りの女神様です。もともと機械技術を伝えた祖先を祭神としていましたようですが、戦国時代末期に織姫様、つまり棚機比売大神(あまのたなばたひめおおかみ)になったとか。
七夕伝説と言えば、発祥は中国ですね。渡来人が伝えた織姫・彦星の伝説・7月の収穫祭や風習などが融合して、現在の日本の七夕行事になったと考えられています。
で、この日本における七夕伝説の発祥の地が、交野市から枚方市に広がる交野が原だとされているのです。
交野1
ところで、日本起源の七夕伝説は、本家本元は、天女の羽衣伝説とそっくりです。そのものと言ってもいいのかもしれません。いったいどうなってこうなったのか、そもそも中国の七夕伝説にも数種類あるようですし、あれやこれや時代の中で変遷していったのでしょうね。

参考までに。
七夕伝説、日本版(というのか、混同版かも)
これは、いわゆる羽衣伝説ですね。
男が水浴びしている天女の羽衣をかっぱらってしまう。帰れなくなって困っている天女を嫁にして仲良く暮らす。男は羽衣を隠しておいたのだけど、数年して見つかってしまう。天女は天へ帰ってしまう。
男は天女に会いたいので、100足の草鞋(だったかな?藁?)を編んで天へ上る。実は99足で、早く会いたくなって1足足りないまま出かけてしまった。そのため、天にたどり着く手前で落っこちそうになる。
天女が助けてくれて、天女の父親に一緒に暮らす許可を貰う。でも、父親はこの男が気に入らないので、何とかしたいと思っている。天で瓜を育てる仕事を貰った男は、食べてはいけないと言われていたのに、のどが渇いてしまってつい瓜に手を出す。
瓜を割ったら、中から水があふれてきて大きな川になって、天女と離れ離れになる。あまりにも娘が悲しがるので、可哀相に思った父は年に一度だけ川に橋を掛けて会う事を許している。
という話。九州や沖縄のあたりにはこの形で伝説が残っていたようです。
(それにしても、男は一貫して天女LOVEだけど、天女の複雑な心理は何だろう。まるで、『こころ』における先生の嫁の心情が読めん、という感じだなぁ)

そもそも、昔は女性にとって、機織りの神様が大事な神様だったので、出発点は棚機津女(たなばたつめ)という神様を祀ることから来たようですね。そこに、豊作祈願や、「織物(これも作物からできる)が上手になりますように」信仰が合わさった模様。
で、中国から入ってきた織姫と牽牛の話もミックスされて、今に至る、ようです。


そして。最後のシーンで夏海とゆうちゃんが会っていた場所、逢合橋(あいあいばし)。
天野川にかかる橋、京阪交野駅からの徒歩範囲内にあります。伝説では織物神社の織姫と牽牛石(枚方市にある)の牽牛がこの橋で1年に1度会い、愛を確かめ合うと言われますが……普段はただの橋です。車道と、両脇に歩道が別々に橋になっていて、七夕の時には笹が飾られるようですが。
交野5
交野4
しかし、川沿いには歩道も整備されていて、それはそれでよい感じ。冒頭の花は、この歩道で見つけた花です。
夏海がゆうちゃんからもらったブーケの白のイメージ。
交野7
交野8
これは橋から見た天野川。向こうに第二京阪(高速道路)が見えています。
恋愛小説のラストシーンにしては、味気ない場所ですけれど、まぁ、それもありかな。
交野10
最後に、これは枚方市内の天野川。ちょうど交差点「天の川」の近くです。
こんなふうな河原を、三人が歩いていたのですね。
さらに、この先、天野川が淀川に合流するあたりに、かささぎ橋が本当にありまして。
もっとも、普通に、幹線道路の橋なので、情緒はないんですけれどね。
他にも、土地の名前にやたらと星がついているのも素敵ですよね。

たまたま所用で、1-2か月に1度は通るようになったこの地域の地名に魅かれて書いたこの小説。
思い起こせば、初めにあったのは地名だけでした。形になってよかった。
ちなみに、なんちゃってご当地小説なので、細かいところは目をつぶってやってください。
だいたい、書き終わってから、神社と橋を見に行ったという……

そうそう、あかねさんに鋭く指摘されましたが、登場人物の名字も、みなこの近くの地名です。
点野、仁和(仁和寺)、石津……ただ、これは正確には寝屋川の地名のよう。私は車で通るので、交差点の名前を見ているのですね。

でも、頭の中では、実はみっちゃんがゆうちゃんに横恋慕とか、あの霊感少女がゆうちゃんに恋をしてややこしいとか、ゆうちゃんは優柔不断だからあんなことやこんなことや、とか^^;
やっぱり、さえちゃんは、いざ二人がくっつくと、化けて出るとか。
月9のドラマみたいなことをあれこれ想像していた、実は意地悪な大海でした。

あ、それから。
さえちゃんは事故にあった日、機物神社に短冊を吊るしに来て、夏海を探していて、事故にあったんですね。
「一瞬でも早く」仲直りしたくて。
だから、夏海は、さえちゃんの声を最後に聞いていたのでしょうね。
雨の中で。
余計な解説でした。
(やっぱり、化けて出る?(・_;))

お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
そして、これから読んでくださるかもという皆様、よろしくお願いいたします(*^_^*)

実は、まともに女の子が主人公の話、初めて書いたかもしれません……



あ…
次回予告

せっかく乙女な話を書いたけれど、次回はまた男の子話で短いものを。
そう、1111記念のホラーな話(ホラ話ではありません)、ウゾさんからのリクエスト・学園の七不思議事件簿。
ウゾくんの話よりも先に頭で形になってしまったので、お先に失礼いたします。
また、夕さんリクエストの指揮者話も、先を越されてすみません。

【8月の転校生】
ね、ちょっと怖いでしょ。
舞台は、真が通っていた、聖・幹学園。語り部は真の自称親友・富山たかしくん(中学2年生)。
夏休みのある日、閉めてある教室に忘れてきたクラブの試合メンバー票を取りに行くことに。
逢魔の時、音楽室から歌が聞こえるとかいうこわーい話もあり、コックリさん!で行く人を決めたところ、あてられたのはたかしくん。さて、どうなる、たかし。
ちなみにこの人、超天然キャラです。


*家のネット環境が悪く、別のところで借りて記事作成^^;
 う~ん。何とかしてほしい。
 →一応、微妙に解決。WiFiからケーブル繋いで有線にしたら、立ち直っています。

追記に(3)のテーマソング話題を。
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