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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8月の転校生】(1) コックリさんのお告げ 

地味な1111Hit記念にウゾさんから頂きました『学園七不思議、夏だけにちょっと涼しくなるようなやつを』というリクエストにお応えしまして、【8月の転校生】をお送りいたします。
大海がホラー? どうせ大したことがないんだろう、とお思いのそこのあなた!
まさにその通り!
へなちょこ大海がお送りする、へなちょこホラー、なんちゃってホラー、実はホラ、なんてのをお送りいたします。
主人公は、某ええとこのお坊ちゃん・富山享志(たかし)。相川真の自称親友、いずれは義理の弟(真の妹と結婚する)、天然ボケ。真の親友を自称するなんて、天然ボケでなければできません。
その彼が遭遇したひと夏の経験……どうぞお楽しみください。

ちなみに、相川真ってだれ?って方でも、まったく関係なくお楽しみいただけます。
ホラー好きの方(ただし本格的ではないホラー)、コメディ好きの方、ちょっとミステリアスな少年好きの方、七不思議とか言われたら飛びついちゃう方、とりあえず野次馬でという方、どなたでもお越しくださいませ(*^_^*)

参考までに、相川真はメイン小説の主人公の片割れです。現在連載中の【海に落ちる雨】(執筆は終了)では27歳、新宿の調査事務所の所長。ちなみにこの小説は、かなり時代が古いので、実は彼の中学生時代は「蔦の絡まるチャペルで 祈りをささげた日~」なんて時代です。だから、コックリさん世代。





「しまった、例のシュミレーション表、教室に置き忘れてる」
 鞄を探っていたバスケット部の同級生、白鳥が声を上げた。
 当然、え~、勘弁してくれよという声が上がる。

 中高一貫教育のこの私立学園では、夏休みの始めの大会を最後に三年生は引退、なんてことはないのだが、他校とのバランスもあり、クラブの実質は秋から二年生に引き継がれる。
 二年生部員は全部で八人。富山享志は中学一年生からずっと級長を務めている一応学年でも優秀な生徒で、夏休みの終わりには次の部長に指名されることになっている。

 享志は戦前から有数の貿易会社であった富山グループ総裁の一粒種で、将来はもちろん、彼の厳格な父親が気を変えない限りは社長になることが決まっているし、母親も元華族の出身らしくいわゆる上流社会の空気も感じられる、ついでに成績も常にトップクラスで、天も気まぐれで二物も三物も与えてしまったのか、スポーツも大概のことは器用にこなす、顔もそんなには悪くない、恋愛相談でもクラス内のトラブルのことでも、富山君に言えば何とかしてくれる、百点満点で九十五点というのが、学園中の女子の評価だった。

 何故、五点足りないのか。
 女子の評価では、どことなく残念なのだという。
 すごくいい人なんだけど、というやつだ。

 だが、享志自身はそんな評価を全く気にしていない。そもそも、特別に女の子に興味があるわけではなく、今は級長としての責任ある立場と、クラブが面白くて仕方がなくて、少なくとも女の子と仲良くするよりも、男ばっかりで何かやっている方が楽しい、それだけのことだった。

「やっぱりお前に預けるんじゃなかったよ」
「もう一回、考える?」
「え~、筧先輩に明日見せろって言われたんだぞ。おっかない。お前、取りに行けよ」
「だって、教室開けてもらうの、面倒じゃないか」

 夏休みの前、三年生から、九月以降のメンバーをどう使うか、フォーメーションをどうするか、練習メニューはどうするか、シュミレーションをしておけと言われて、期末試験が終わってすぐにみんなであれこれ考えた。
 これはバスケ部の伝統で、物事を決める時は基本的に民主主義だ。
 最後に話したのは夏休み前の授業の最終日で、レポート用紙十枚にまとめたものを、そのまま教室に置いてきたらしい。

 夏休みの期間中は、教室のある校舎は基本的に施錠されている。開けてもらうには守衛のところに行って、理由を言って頼まなければならない。
 守衛は門の近くの詰所にいるのだが、難問は、この学園の広さだった。
 そこまで行くのも面倒くさい。

「エヴァーツ館の倉庫部屋の一番端の窓さ、いつも鍵、開いてるんだぜ」
 それは有名な話だった。諸先輩から申し送られている大事な情報のひとつだ。もちろん、施錠を怠っているわけではないだろうから、この情報を正しいものとしたい誰かが、常に気がついたら開けているのだろう。
 ちなみにエヴァーツというのはこの学園の創始者のひとりの名前で、校舎にはそれぞれ学園関係者の名前がついている。

「そりゃ、白鳥の責任だ」
「だって、終業式の後でもう一度話し合うって言ってたのに、誰だよ、怪談話に花咲かせて忘れたの。俺だけのせい?」
 白鳥がじっと享志を見る。

 丁度、新聞部が夏休み前特集号を組んでいて、学園の七不思議の連載を始めていた。七月号の話題が『逢魔が時の音楽室』だった。
 音楽室と言えば、ベートーヴェンの目が動くとか、いやそれはモーツァルトだろ、とか、いやバッハだとか、そんなありがちな話で盛り上がっていた。
 新聞部の取材によると、夏休みのような長い休みになると、寂しくなったピアノが勝手にショパンを奏でているとか、レコードが置かれていないプレーヤーが勝手にかかっているとか、その曲は『運命』であるとか、『魔王』であるとか、諸説あるらしい、とか、いや、もっと複数の人間が歌っているのが聞こえるとか。

 しかし、その中で最も信憑性が高いのが、逢魔が時にショパンが聞こえるというやつだ。誰かが少したどたどしく『別れの曲』を弾いている。たどたどしいのは、泣きながら弾いているからだとか。それは苛めにあって亡くなった生徒の霊がこの学校に迷い込んで弾いているのだと。
 そもそも、いったい誰に取材をしたというのだろう? しかも、最も信憑性が高いって何だ? 怪談に信憑性って?

 でさ、この音楽室の話には続きがあってさ、次回八月号をお楽しみにって。
 おい、八月は夏休みで休刊じゃないの?
 あれ?
 それもホラーの演出? いや、ホラー話じゃなくて、ホラ話じゃないのか?
 いや、俺、印刷室で見たよ。その原稿?
 発刊しないのに? それ自体ホラーだよ。
 などなど、話は止まらなかった。

「確かに、白鳥だけのせいじゃないかもな」
 級長はごく自然に、平等感覚を発揮する。もちろん、白鳥は確信犯だ。
「あ、じゃあさ、コックリさんに聞いてみようぜ」

 と、中学二年生、何でもノリで乗り切ってしまおうとする。
 そんなことをしている間に、守衛さんのところに行って、ちょっと嫌な顔をされるかもしれないけれど、鍵を開けてもらった方が早い、ということについては、誰も思い至らないらしい。

 昨日、コックリさんのやり方を巡ってもあれこれ揉めた。
 何を書くか? 鳥居マークと、五十音と、YesとNo? いや、コックリさんは日本のだから、はいといいえ、じゃないのか? いや、もともとは外国のtable turningとかいう占いらしいぜ、とか。いやでも、日本では狐の霊だろ? とか。あと男と女とか書くんじゃないの? などと言いつつ、とりあえず皆で作った紙が部室に残っていた。

 一人が十円玉を出してきたら、もう引き返せない感じになった。八人みんなで十円玉に指を乗せるのは難しいので、代表して何とか五人が乗せてみる。
 コックリさん、コックリさん、おいでください。
 

 そもそもコックリさんが流行り出したのは、ある漫画の影響だ。低俗な霊だから、むやみにやったら精神に異常をきたすとか、自殺した人もいたとか、新聞に載っていたこともあった。
 けど、基本的には潜在意識だろ、と思う。あるいはじっと同じ姿勢を強いられることによる筋肉の震えだ。

 とみやま。
 先に目が移動して、指が追いかけるのだ。みんなが集団暗示みたいなのにかかっている。
 頼むよ、級長、行ってくれ。本当は怖いんだ。

 そんな言葉が聞こえてきそうだ。ま、級長としては、頼られて悪い気はしない。しかも享志の父親の教育方針で、男子たるもの、いつでも他人様のために身を投げ出す覚悟でいなければならないと教えられてきた。
 しょうがないな、と思って、いつもそんな役割を引き受けている。

 で、もしかしたら、倉庫部屋の窓の鍵が今日はちゃんと締まっているかもしれない。大体、普通は夏休み前に施錠をチェックするだろ。その後は普通なら誰も校舎に入らないのだし。
 と思いながら、窓に手をかけた。

 がたん。
 どうしてこういう時に限って開いているかな。
 窓枠にかけた手に夕陽が落ちている。もう沈みかけた太陽が最後の光と熱を地上に届ける。そのまま闇になるかならないかの時。いわゆる逢魔が時だ。交通事故も多いと言われている。
 暗くなる前にさっさと行って来よう。
 享志は窓を開けて、身体を滑り込ませた。




さて、全3回でお送りいたします。
コックリさん、懐かしいですね。ある世代は一度は経験があるのでは?
訳の分からない宣託でも、言葉の意味をくっつけてしまう。
若いころは、そんな才能にも恵まれていた気がします。
コックリさんがお帰りになる前に10円玉から指を離したら、キツネ憑きになるとか、そんなはなしもありましたっけ?

これを書いている間、時計の時報が鳴る度に、どきっとしていた小心者の大海でした^^;
第2話『8月の転校生』、さっそく本日夕方、お目にかかります(^^)






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Category: (1)8月の転校生(完結)

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【8月の転校生】(2) 8月の転校生 

コックリさんで、夏休みの誰もいない校舎に忍び込むことが決定した富山享志(タカシ)・聖幹学園中学2年生、責任感溢れる?天然ボケの級長。
さて、時は奇しくも逢魔が時、無事に教室にたどり着けるのか?
そして、教室で彼を待ち受けるものは?





 倉庫部屋から音楽室まではまっすぐな廊下を通る。既に廊下は、足元が暗がりに沈んでいて、果たして自分の足がちゃんとくっついてきてくれているのか、いささか不安な気がした。深部感覚を確かめ、確かにそこにあるよな、と自分に念を押す。
 あれ、でも、戦争で脚を無くした人が、切断した足の感覚ってちゃんとあるのだとか言ってなかったっけ? って、もうどうでもいいよ。どうして今、そんなこと思い出すかな、俺。

 視線を廊下の東側に並ぶ窓の外へ向ける。まだ辛うじて夕闇がこの世界を覆い尽くす前のようだった。
 件の音楽室の前で享志は足を止めた。
 心頭を滅却すれば火もまた涼し。
 誰だっけ? 織田信長に焼き討ちされた時に、火の中で詠んだ歌。でも、やっぱり熱いよな。なんちゃって。
 って、なにも面白くない。怖いと思うから怖いのだ。暗闇ではシーツも幽霊に見える。

 いっそ、覗き込んじゃえ。
 音楽室の扉はもちろん閉まっている。大事なものが置かれている部屋は、長期の休み中はもちろん鍵がかかっている。扉には窓がある。覗き込んだら、真っ暗だった。ピアノがあるし、エレクトーンもある。真夏の光を嫌うだろうから、窓には厚いカーテンが引かれているのだ。

 ……ぽろん。
 って、ピアノの音が? ショパン? 『別れの曲』のできそこないみたいな曲。
 いや、頭の中でなっているだけだ。

 だから、暗闇では自分の足音がショパンの曲に聞こえるんだって! だからいっそ、頭の中で、じゃじゃじゃじゃーん、と大きな音を奏でてみる。
 それからちょっと身震いして、いや武者震いしてから、享志は大きな足音を立てて廊下を走った。足元に何かが絡みつくような気がする。上体が前のめりになる。こけるより先に、足を動かせ!

 教室は二階だった。一気に階段を駆け上がる。
 廊下側は東になるのでもう碧い薄闇だったが、階段室の高い窓からは、かろうじて夕陽の名残の光が見えていた。

 教室だ。
 思わず足元を確認してほっとする。足には何も絡まっていない。
 享志はがらり、と闇を打ち破るような大きな音を立てて扉を開けた。

 ……

 西側になる教室の窓からは夕陽が射していた。いや、さっき階段室で見た時は、既に太陽は沈みかけていて、もっと暗かったような気がしたが、確かに教室には光が射していた。
 そして、窓際の光がまっすぐに射し込む席に、一人の少年が座っていた。

 光にけぶるような明るい髪、オレンジに染まった頬、綺麗な首筋は肩までまっすぐに伸び、そのまま優雅なラインを描いて腕へと繋がっている。どちらかと言えば小柄で、まだ成長を躊躇っているような肩は、細く頼りなく見えた。この学園の制服がまだ少し浮いているように見えるのは、着慣れないからなのだろうか。

 享志が大きな音を立てて扉を開けた時、まだ彼は窓の外を見ていた。
 やがてゆっくりと、享志の方へ首を回す。

 頼む、目と鼻と口がついていますように!

 振り返ったのは、ぞっとするほどに綺麗な子だった。
 目は少し切れ長で、光の加減で色合いまでは分からない。まっすぐ通った鼻筋、薄くて赤く染められたような唇。顔だけを見ていると、一瞬女の子かと思ったが、制服は確かに男のもので、目が慣れてくるとその瞳はむしろ野生の山猫のように鋭い。山猫を実際に見たことはなかったけれど。

 享志はその目に釘付けになっていて、しばらく動けなかった。
「ここのクラスの人?」
 意外にも少年の方から話しかけてきた。鼓膜に触れるよりも早くに頭に直接響いてくるような透き通る声だった。まだ声変わりを迎えていないのかもしれない。

 享志は意表を突かれて、ただ頷いた。
 どう考えても見たことのない子だ。一学年が百五十人ほどしかいない学校なので、同じ学年ならクラスは違っても何となく分かる。下の学年ならいささか自信はないけれど、でもこんな綺麗な子がいたら、女子が放っておかないだろう。

「えっと……、君、転校生?」
 少年はもう一度窓の方へ視線を向けた。頷いたようにも見える。
「ここはいい学校だね」
「え、と、そうかな。ま、写真写りのいい学校だけどね」

 なにせ、校内のあちこちで撮られた季節の写真がポストカードになって、購買部で売られていて、カレンダーの写真にもなっている。区の指定樹木がいくつも構内にある。西洋風の校舎は何とかというちょっと有名なイギリスの建築家のデザインだ。古い石の建物で、クリスチャンスクールだけあって、礼拝堂兼講堂は特に気合が入っている。ステンドグラスはシンプルだが並んだ木のベンチに落ちる青や黄の光は幻想的としか言いようがない。パイプオルガンは日本でも有数の大きさのものだと聞いている。

「友だちを苛める人なんかいないんだろうね」
 幸いなことに、確かにそれはいない。多少の派閥的グループはあっても、上品だ。
 そもそも私立の学校で、いいとこの令息とお嬢さんが通っていて、しかも中学の入学試験はかなり難しい。新入生にはキリスト教の愛神愛隣の精神を徹底して教え込む。もちろん、押し付けがましくない範囲で。授業は大らかすぎる気がしなくもないけれど、教育方針は比較的大らかだ。

 この子、友だちに苛められていたんだろうか。
 そうか、きっと前の学校で苛められたりとかして、わけありで通えなくなって、で、転校してきたのだ。例外的に転入生を受け入れることもあるという話は聞いたことがある。あれ、帰国子女の場合だったっけ?

「学校を案内してくれる?」
 何かを思い切ったような歯切れのいい余韻を引いて、少年が言う。
「うん、もちろん」
 享志は力強く頷いた。

 そうだ、きっと辛いことがいっぱいあった子なんだろう。俺が力になってやらなけりゃ。
 急に級長精神を刺激された享志は、今が何時かとか、もう暗いから明日にしようよ、とかいうことは全く思い浮かばなかった。
「どこがいいかなぁ」
「じゃあ、君のとっておきの場所に連れて行って」

 とっておきの場所。
 それは礼拝堂と渡り廊下と、特別な時のための礼拝堂に囲まれた小さな中庭で、真ん中に大きな木が立っていた。名前は知らないがカエデの種類だと思われる。大きな星形の葉が特徴的で、享志はそれを『星の宿る木』と呼んでいた。
 別にすごいロマンチストのつもりはないけれど。

「この校舎を出るのにちょっと手間がいるけど」
 少しだけ少年は微笑んだように見えた。享志はちょっとドキドキした。
 いや、相手は男だからそれは妙な表現なのだが、他に言いようがない。少年は享志に近付いてくる。背は享志より頭半分くらい低かった。体つきは痩せ気味で、近くで見ると髪はやはり淡い色合いで、目は少し緑がかっている。

 享志は少しわくわくするような気持ちで少年を誘った。
「毎朝礼拝があるんだよ。八時半から。讃美歌って歌ったことある? 毎日だから、すぐ覚えるけどね。で、毎週、暗唱聖句があるんだ。言葉を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして主なるあなたの神を愛せよ、とかね」

「毎週木曜日は献金の日だけど、大抵、財布の中の小銭を入れるだけなんだ。イースターとクリスマス礼拝は素晴らしいよ。もっとも、僕もクリスチャンじゃないけれど」

「授業はゆっくりだから、全然問題ないと思うよ。ちょっとゆっくり過ぎるんだけどね。だって、古墳時代を出るだけで五月になっちゃったんだ。世界史はもっとひどい。五月はまだ四大文明だったからね」

 享志は何だか嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、とにかくしゃべり続けていた。振り返ると、享志と足音を重ねるようにして後ろをついてくる少年は、享志をまっすぐ見つめて微かに笑っているように見える。
 何だか初デートみたいだ。

 倉庫部屋の窓から抜け出すとき、手を貸そうと思ったら、少年は首を横に振り、するりと身も軽く窓を潜り抜けた。
 陽が落ちたのか、少しだけ涼しくなっていて、風が吹き抜けて行った。
 礼拝堂は敷地の中心にあるので、どの校舎からもそれほど離れていない。少し薄暗くなった芝生の道を歩く享志の影が、灯された外灯の下で長く伸びる。

「二学期から、さっきいた教室のクラスになるんだろう?」
「どうかな」
 少年は短く答える。声が風にさらわれていく。

「だったら嬉しいけど」
 礼拝堂の裏に抜ける道を歩きながら、享志はそう呟くように言って、自分でちょっと照れてしまった。だから、今度は少しの間黙ったまま歩く。
「中庭なんだけど、考え事をする時にいいんだ。木があって、葉が星の形をしていて、礼拝堂のステンドグラスが暗く沈んで見えて」
 ひとつきりの足音が芝生を踏む。
「こっちだよ」
 そう言って、振り返った時……
 少年の姿はどこにもなかった。
 あたりは突然、暗転したように暗くなり、熱気を含んだ八月の風が中庭の三角の空間に吹き込んだ。




実は、大海の通っていた学校がモデルの聖幹学園。
敷地は本当に妙に広くて、山の中。校舎は洋風の石造りで、年季と趣に溢れた学校でした。
大筋、享志が解説する通りの学校、毎朝の礼拝は暗唱聖句と讃美歌とお話。
でも、私は決して「いいとこの子」ではありません^^; ただの農民。

そして、学校にはなぜか七不思議ってのがありますよね。
うちにもあったような気がしますが、細かいことは覚えていません。
メインロッカー前の階段が、確か12段だったと思うけれど、夜中に13段になっているとか、そんな他愛のない話もあったような。

次回が最後です。『転校生、ふたたび』……はい、『七瀬、ふたたび』をもじりました。
って、古い??
若かりし日の多岐川由美さん……あれれ、また歳が……




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【8月の転校生】(3) 転校生、ふたたび 

最終回です。考えてみれば、1回でアップしても良かったような内容なのですが、ちょっと長いかなぁと思って切ったのに、結果的に勢いで立て続けにアップして、あまり意味はありませんでしたね。
ホラーって、一気に読んでもらわないと、あまり面白くないということが分かりました。
(あ、ホラーというほどのものではありませんでした。すみません)

最終回、少し落ちがついているでしょうか。ウゾさん、こんな感じでいかがでしょうか。
ちょっとだけ、逢魔が時に、8月の誰もいない教室に入る場合は、みなさん、お気を付け下さいね。
転校生があなたを待っているかもしれません。





「それ、『八月の転校生』だよ」
 享志が昨夜の顛末を話して聞かせると、さっきまで怒っていたクラブの同級生たちは真っ青になった。

 彼らが怒っていたのは、まずひとつに、享志が結局シュミレーション表を取ってくるのを忘れてしまったことだった。
 今朝、守衛のおじさんに鍵を開けてもらい、筧先輩にそれを見せて事なきを得たものの、昨日は待ち合わせた校門のところにいつまでたっても享志が現れなかったというので、怖くて取りに行かずに逃げたと思われていたようだった。
 言い訳なんて聞きたくないね、と言っていた連中が、ちょっと黙り込む。

 八月の転校生?
「何だよ、それ」
「だからさ、新聞部が『逢魔が時の音楽室』の続編を刷ってたんだ。休刊のはずの八月号の記事。俺、印刷室で見たって言ったろ。『八月の転校生』って言ってさ、音楽室から幻聴のようなショパンの『別れの曲』が聞こえて来たら……出るんだよ」
「出る?」

「それを聞いてしまった生徒のクラスの教室でさ、待ってるんだ。綺麗な男子生徒が。で、『ここのクラスの人?』って聞くんだ。それがさ、前の学校でいじめに遭って自殺した中学生の霊が、いや、失恋して自殺したんだったか、その辺は諸説あるみたいだけど、この学校に憧れてて、転校したいって思う気持ちが彷徨ってるんだって。その子はピアノが上手で、でも泣きながら弾いているから途切れ途切れなんだって」

「冗談だろ。だって、ちゃんと普通にしゃべってたし」
「でも消えたんだろ……それに、どうやってその子、教室に入ったんだよ。学校の子じゃないから、倉庫部屋の窓のことは知らないだろうし。そもそも夏休みの八月に転校生なんか来ないよ。足、ついてた?」

 そう言えば、微かに記憶をたどると、足音はずっと享志のものだけだった。外灯に伸びた影もひとつだった。重なっているだけと思っていたけれど……
 今更だが、ちょっと冷や汗が出てきた。

「それでさ、『学校を案内してくれる?』って聞くんだってさ」
 さーっと血の気が引く。
「……確かに、そう聞かれた」
 同級生たちもみな、さーっと青くなった。

「な、なんて答えたんだ?」
「もちろん、って。で、礼拝堂の裏の中庭に案内しようとしたところで消えたんだ」
 皆が申し合わせたようにほっと息をつく。
「それさ、断ったら呪われるんだって。良かったよ~。級長が呪われなくて」
 呪われたらどうなるんだ、と聞いたが、誰も知らなかった。だから『学園七不思議』なんてのはいい加減なものに違いない。


 そろそろお盆が近づいていた。
 クラブは一週間だけ休みになった。
 実はあの日から、クラブの部室の鍵が見当たらなかった。
 持っていたのは享志だったはずで、多分あの時教室かどこかで落としたのだ。スペアがあるから困らなかったのだが、明日からクラブが再開という日になって、今度はそのスペアキーが見当たらなくなった。

 享志はその連絡を受けて、これはコックリさんの呪いかもしれないと真面目に思いながら、夕方、学校へ走った。明日、部室に入れなかったら大変だ。二年生の失態ということになる。
 クラブを引き継ぐときにこれでは、大問題になるに違いない。

 今日は守衛さんに鍵を開けてもらおうと思ったのに、間合いの悪いことに見回りなのか、守衛室にいなかった。
 日が暮れてしまっては困ると思い、ええい、と思って、また倉庫部屋の窓からエヴァーツ館に忍び込んだ。
 逢魔が時までまだ時間はある。

 と思ったのに、音楽室からショパンが聞こえてくる。
 まじかよ~
 俺もう、頭おかしくなっちゃったのかも。
 もう見ちゃだめだ。何も聞こえない!

 とにかく目を瞑って走り抜け、一気に教室のある二階へ駆けあがった。
 ガラッと、気合いを入れて大きな音で扉を開ける。

 ……
 冗談でしょ。

 ……『彼』はそこにいた。

 夕陽にけぶる明るい髪、まっすぐ伸びた綺麗な首筋、まだ成長途中と思われる華奢な肩、背中はすっと伸ばされていて、バランスのいい肩から腕へのラインも、今日もやはり綺麗だった。
『彼』は振り返る。ふと惹きつけられるような印象的な顔立ちだ。夕陽でオレンジ色に染まった頬、野生の山猫のような光を宿した目、通った鼻筋と、きりっと結ばれた唇。

 違っていたのは、今回は席に座っていなくて立っていたことと、学園の制服を着ていないことくらいだ。ジーンズを穿いて、真っ白のシャツを着ている。そのシャツもオレンジに染まっていた。
「あ、あ、あの、え……と」
 享志はしどろもどろになった。

 彼の唇が少しだけ、開きかける。

 知ってる、知ってる。このクラスの人? って聞くんだよな。

 だが『彼』は、薄く開けられた唇をそのままに、何も言わなかった。そして、黙って享志を見ている。

 別バージョンがあるのか?
 このクラスの人? の質問は飛ばして、先に、学校を案内してくれる? って聞くのかな。
 とにかく断っちゃだめだ。

 だが、彼は相変わらず何も言わない。というよりも、どこか怯えたような顔で、あるいは何か言われたら飛びかからんとでもいうような追い詰められた野生動物のような目で、享志を見ている。あの時と同じ碧の目。いや、一方の目は光の加減なのか碧色に光り、もう一方の目は暗く沈んで見える。

 きっとこれは別バージョンだ。この『試験』に合格しないと呪われる! 
 先手必勝だ!

「が、が、がっ、学校を案内しようか?」


 彼の表情がわずかに変わった。いささかきょとんとしたような顔で、享志を見ている。
 改めてその顔を見ると、先日の『幽霊』とは少し顔つきが違うような気もする。綺麗なのは同じだけれど、何というのか、現実味のある顔だ。光に霞んでいるような感じではなく、しっかりと吊り上った形の眉も、顎のラインも、輪郭が明瞭に見える。
 でも、なんて印象的な顔なんだろう。綺麗、というより、惹きつけられる。

 その時、ぴたりとショパンが止んだ。
 音が聞こえている間は気にならなかったのに、止まった途端にはっと気が付いた。

 その瞬間、彼は何も言わずに、まるで猫がしなやかに身を翻すように、扉の所に突っ立ったままの享志の側をすり抜けた。そして、ほとんど足音も響かせずに野生の獣のような俊敏さで廊下を走り抜け、跳ぶようにくるりと階段の角を曲がって消えた。

 呆然と見送っていた享志は、ふと視界の隅で何かが光ったような気がして、教室の中を見た。すぐそばの机の上に、鍵が二つ乗っている。
 部室の鍵だ。あの時落としたものと、それから同級生が無くしたものと。
 享志はようやく我に返り、鍵を二つ引っ掴んで、階段のほうへ走った。
 

「お兄ちゃん、ベーゼンドルファーだよ。スタインウェイじゃなくて」
 微かに声が聞こえたような気がして、享志は階段の踊り場で足を止めた。女の子の幽霊も一緒なのか。……それは聞いてない。
 だが、享志が一階の廊下に降り、見回した時にはもう誰の姿も気配もなかった。
 やがて、どこかの扉が閉まるような音が、夕闇に響いた。


 八月に転校生は来ない。夏休みなのだから、当たり前だ。
 しかも学校を案内し損ねた。
 呪われるのだろうか? で、呪われたらどうなるんだよ! 新学期になったらさっそく新聞部に聞かないと。

 学園の七不思議とか怪談話とかいうのは、生徒が怪談好きな年齢であるために生まれてきたか、子どもが学校で悪さをしないようにするための抑止力に利用されているだけに違いない。
 そう思うものの、腑に落ちないまま、いささかびびっている級長・富山享志は、九月の始業式の後、院長に呼び出された。

 院長室の扉はいつも開け放たれているので、部屋に入る前からそこに『彼』の姿は見えていた。
 ほんと、呪われちゃったのかも……

 だが、享志の目は釘づけだった。咽喉がカラカラで顔が引きつるのに、足は前に向かって進んでいる。
『彼』は振り返り、享志を見て一瞬、あ、という顔をしたような気もしたが、一瞬の先には表情を殺してしまった。

 山猫の目。あれから享志は何となく動物図鑑を見ては、彼を思い出していた。
 やっぱり、どうしたわけかドキドキする。幽霊だとしても、綺麗な子だった。いや、そっちの趣味はないけれど。でも手を伸ばしたら、噛まれそうだ。もっとも、噛まれる程度の呪いなら、いっそ噛まれてもいいかと思う。

 などと馬鹿なことを考えていたら、爽やかな宝塚の男役スターのような印象の院長が、いつものように清々しい声で言った。
「あぁ、来たわね。紹介するわ。彼が君が編入するクラスの級長、富山享志くん。頼りになる男よ。富山くん、アメリカからの帰国子女で、この時期に編入になったの。困ることが多いだろうから、相談に乗ってあげて。相川真くん。級長、頼むわね」


 妹がいる? って、まずは聞かなくちゃ。
 しかもその子、ピアノ弾く? って。
 いないと言われたら、今度は女の子の転校生の幽霊を撃退する方法を、新聞部に聞いた方がいい。
 それから、鍵、どこで拾ったの? って。
 いや、拾ってくれて、ありがとう、だよな。

 ……ところで、もちろん、最初の『彼』も君だったんだ、よね?
 いや、やっぱりいいよ、それには答えないで!


【8月の転校生】了
 



やはり、大海のホラーもどきでは涼しくなりませんでしたね。
すみません^^;
しかも、天然くんにかかると、ホラーもコメディに化けてしまうらしく。

解説するのは野暮ですが、真の育ての親である伯父さんはこの院長の友人なのですね。
で、ひどいいじめにあってた真は、しばらくその伯父さんの仕事の都合で、カリフォルニアにいたんです。
で、戻ってくるときに、普通の学校は難しくて、このちょっと楽しげな?学園に編入したのです。
編入試験は、受けたと思うけれど。できたのかしら?
で、学校に行くことがまず勝負、という精神状態だったので、夏休みの間に一回見に行っておこうと。
だから守衛さんは、あちこち連れまわされて、いなかったのですね。
子供たち、結構自由にうろうろさせてもらっていて、妹まで。
院長と伯父さんも近くにいたと思うのですが、タカシくんはそれどころじゃなくて……^^;

しかし、幽霊はあんなにしゃべるのに、真はなぜしゃべらない?
本当に、この人は、言葉は苦手ですね。いえ、今はそうでもないのですが、この頃なんて、ほとんど1日なにも話さない日もあったのでは。

相川真くん、中学生の一時期、本当に怖いくらい『綺麗』と親友に思われていたようですが(他にも証言者あり)、それを過ぎると、ただの兄ちゃん。今や、ちょっとオッチャンになっています。
よく言いますよね、天才も20歳過ぎればただの人、いや、それじゃないか。
ロシア人も、なぜあの天使がそうなる?みたいな。

ともあれ、ウゾさんにご満足いただけたかどうか……
読んでくださった皆様に、ほんの少しでも涼をお届けできたかしら……(いや、涼しくならないって)


さて、ここしばらく真面目に小説もどきを更新しすぎたので、ちょっと他の記事を、と思うのですが、涼しい記事がないなぁ。海? カキ氷?
  
実は、長らく放置しているソ連旅行のその後。
当時の手記!!が見つかったので、生々しくレポートをお送りしようかと思ったりもしてます。
でも、ウゾくんの話、書かなくちゃ。
そして【海に落ちる雨】の続きと、並行して、【死と乙女】(夕さんリクエストの指揮者の話)もcoming soon!です。

読んでいただいて、本当にありがとうございましたm(__)m




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