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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8月の転校生】(1) コックリさんのお告げ 

地味な1111Hit記念にウゾさんから頂きました『学園七不思議、夏だけにちょっと涼しくなるようなやつを』というリクエストにお応えしまして、【8月の転校生】をお送りいたします。
大海がホラー? どうせ大したことがないんだろう、とお思いのそこのあなた!
まさにその通り!
へなちょこ大海がお送りする、へなちょこホラー、なんちゃってホラー、実はホラ、なんてのをお送りいたします。
主人公は、某ええとこのお坊ちゃん・富山享志(たかし)。相川真の自称親友、いずれは義理の弟(真の妹と結婚する)、天然ボケ。真の親友を自称するなんて、天然ボケでなければできません。
その彼が遭遇したひと夏の経験……どうぞお楽しみください。

ちなみに、相川真ってだれ?って方でも、まったく関係なくお楽しみいただけます。
ホラー好きの方(ただし本格的ではないホラー)、コメディ好きの方、ちょっとミステリアスな少年好きの方、七不思議とか言われたら飛びついちゃう方、とりあえず野次馬でという方、どなたでもお越しくださいませ(*^_^*)

参考までに、相川真はメイン小説の主人公の片割れです。現在連載中の【海に落ちる雨】(執筆は終了)では27歳、新宿の調査事務所の所長。ちなみにこの小説は、かなり時代が古いので、実は彼の中学生時代は「蔦の絡まるチャペルで 祈りをささげた日~」なんて時代です。だから、コックリさん世代。





「しまった、例のシュミレーション表、教室に置き忘れてる」
 鞄を探っていたバスケット部の同級生、白鳥が声を上げた。
 当然、え~、勘弁してくれよという声が上がる。

 中高一貫教育のこの私立学園では、夏休みの始めの大会を最後に三年生は引退、なんてことはないのだが、他校とのバランスもあり、クラブの実質は秋から二年生に引き継がれる。
 二年生部員は全部で八人。富山享志は中学一年生からずっと級長を務めている一応学年でも優秀な生徒で、夏休みの終わりには次の部長に指名されることになっている。

 享志は戦前から有数の貿易会社であった富山グループ総裁の一粒種で、将来はもちろん、彼の厳格な父親が気を変えない限りは社長になることが決まっているし、母親も元華族の出身らしくいわゆる上流社会の空気も感じられる、ついでに成績も常にトップクラスで、天も気まぐれで二物も三物も与えてしまったのか、スポーツも大概のことは器用にこなす、顔もそんなには悪くない、恋愛相談でもクラス内のトラブルのことでも、富山君に言えば何とかしてくれる、百点満点で九十五点というのが、学園中の女子の評価だった。

 何故、五点足りないのか。
 女子の評価では、どことなく残念なのだという。
 すごくいい人なんだけど、というやつだ。

 だが、享志自身はそんな評価を全く気にしていない。そもそも、特別に女の子に興味があるわけではなく、今は級長としての責任ある立場と、クラブが面白くて仕方がなくて、少なくとも女の子と仲良くするよりも、男ばっかりで何かやっている方が楽しい、それだけのことだった。

「やっぱりお前に預けるんじゃなかったよ」
「もう一回、考える?」
「え~、筧先輩に明日見せろって言われたんだぞ。おっかない。お前、取りに行けよ」
「だって、教室開けてもらうの、面倒じゃないか」

 夏休みの前、三年生から、九月以降のメンバーをどう使うか、フォーメーションをどうするか、練習メニューはどうするか、シュミレーションをしておけと言われて、期末試験が終わってすぐにみんなであれこれ考えた。
 これはバスケ部の伝統で、物事を決める時は基本的に民主主義だ。
 最後に話したのは夏休み前の授業の最終日で、レポート用紙十枚にまとめたものを、そのまま教室に置いてきたらしい。

 夏休みの期間中は、教室のある校舎は基本的に施錠されている。開けてもらうには守衛のところに行って、理由を言って頼まなければならない。
 守衛は門の近くの詰所にいるのだが、難問は、この学園の広さだった。
 そこまで行くのも面倒くさい。

「エヴァーツ館の倉庫部屋の一番端の窓さ、いつも鍵、開いてるんだぜ」
 それは有名な話だった。諸先輩から申し送られている大事な情報のひとつだ。もちろん、施錠を怠っているわけではないだろうから、この情報を正しいものとしたい誰かが、常に気がついたら開けているのだろう。
 ちなみにエヴァーツというのはこの学園の創始者のひとりの名前で、校舎にはそれぞれ学園関係者の名前がついている。

「そりゃ、白鳥の責任だ」
「だって、終業式の後でもう一度話し合うって言ってたのに、誰だよ、怪談話に花咲かせて忘れたの。俺だけのせい?」
 白鳥がじっと享志を見る。

 丁度、新聞部が夏休み前特集号を組んでいて、学園の七不思議の連載を始めていた。七月号の話題が『逢魔が時の音楽室』だった。
 音楽室と言えば、ベートーヴェンの目が動くとか、いやそれはモーツァルトだろ、とか、いやバッハだとか、そんなありがちな話で盛り上がっていた。
 新聞部の取材によると、夏休みのような長い休みになると、寂しくなったピアノが勝手にショパンを奏でているとか、レコードが置かれていないプレーヤーが勝手にかかっているとか、その曲は『運命』であるとか、『魔王』であるとか、諸説あるらしい、とか、いや、もっと複数の人間が歌っているのが聞こえるとか。

 しかし、その中で最も信憑性が高いのが、逢魔が時にショパンが聞こえるというやつだ。誰かが少したどたどしく『別れの曲』を弾いている。たどたどしいのは、泣きながら弾いているからだとか。それは苛めにあって亡くなった生徒の霊がこの学校に迷い込んで弾いているのだと。
 そもそも、いったい誰に取材をしたというのだろう? しかも、最も信憑性が高いって何だ? 怪談に信憑性って?

 でさ、この音楽室の話には続きがあってさ、次回八月号をお楽しみにって。
 おい、八月は夏休みで休刊じゃないの?
 あれ?
 それもホラーの演出? いや、ホラー話じゃなくて、ホラ話じゃないのか?
 いや、俺、印刷室で見たよ。その原稿?
 発刊しないのに? それ自体ホラーだよ。
 などなど、話は止まらなかった。

「確かに、白鳥だけのせいじゃないかもな」
 級長はごく自然に、平等感覚を発揮する。もちろん、白鳥は確信犯だ。
「あ、じゃあさ、コックリさんに聞いてみようぜ」

 と、中学二年生、何でもノリで乗り切ってしまおうとする。
 そんなことをしている間に、守衛さんのところに行って、ちょっと嫌な顔をされるかもしれないけれど、鍵を開けてもらった方が早い、ということについては、誰も思い至らないらしい。

 昨日、コックリさんのやり方を巡ってもあれこれ揉めた。
 何を書くか? 鳥居マークと、五十音と、YesとNo? いや、コックリさんは日本のだから、はいといいえ、じゃないのか? いや、もともとは外国のtable turningとかいう占いらしいぜ、とか。いやでも、日本では狐の霊だろ? とか。あと男と女とか書くんじゃないの? などと言いつつ、とりあえず皆で作った紙が部室に残っていた。

 一人が十円玉を出してきたら、もう引き返せない感じになった。八人みんなで十円玉に指を乗せるのは難しいので、代表して何とか五人が乗せてみる。
 コックリさん、コックリさん、おいでください。
 

 そもそもコックリさんが流行り出したのは、ある漫画の影響だ。低俗な霊だから、むやみにやったら精神に異常をきたすとか、自殺した人もいたとか、新聞に載っていたこともあった。
 けど、基本的には潜在意識だろ、と思う。あるいはじっと同じ姿勢を強いられることによる筋肉の震えだ。

 とみやま。
 先に目が移動して、指が追いかけるのだ。みんなが集団暗示みたいなのにかかっている。
 頼むよ、級長、行ってくれ。本当は怖いんだ。

 そんな言葉が聞こえてきそうだ。ま、級長としては、頼られて悪い気はしない。しかも享志の父親の教育方針で、男子たるもの、いつでも他人様のために身を投げ出す覚悟でいなければならないと教えられてきた。
 しょうがないな、と思って、いつもそんな役割を引き受けている。

 で、もしかしたら、倉庫部屋の窓の鍵が今日はちゃんと締まっているかもしれない。大体、普通は夏休み前に施錠をチェックするだろ。その後は普通なら誰も校舎に入らないのだし。
 と思いながら、窓に手をかけた。

 がたん。
 どうしてこういう時に限って開いているかな。
 窓枠にかけた手に夕陽が落ちている。もう沈みかけた太陽が最後の光と熱を地上に届ける。そのまま闇になるかならないかの時。いわゆる逢魔が時だ。交通事故も多いと言われている。
 暗くなる前にさっさと行って来よう。
 享志は窓を開けて、身体を滑り込ませた。




さて、全3回でお送りいたします。
コックリさん、懐かしいですね。ある世代は一度は経験があるのでは?
訳の分からない宣託でも、言葉の意味をくっつけてしまう。
若いころは、そんな才能にも恵まれていた気がします。
コックリさんがお帰りになる前に10円玉から指を離したら、キツネ憑きになるとか、そんなはなしもありましたっけ?

これを書いている間、時計の時報が鳴る度に、どきっとしていた小心者の大海でした^^;
第2話『8月の転校生』、さっそく本日夕方、お目にかかります(^^)






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Category: (1)8月の転校生(完結)

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【8月の転校生】(2) 8月の転校生 

コックリさんで、夏休みの誰もいない校舎に忍び込むことが決定した富山享志(タカシ)・聖幹学園中学2年生、責任感溢れる?天然ボケの級長。
さて、時は奇しくも逢魔が時、無事に教室にたどり着けるのか?
そして、教室で彼を待ち受けるものは?





 倉庫部屋から音楽室まではまっすぐな廊下を通る。既に廊下は、足元が暗がりに沈んでいて、果たして自分の足がちゃんとくっついてきてくれているのか、いささか不安な気がした。深部感覚を確かめ、確かにそこにあるよな、と自分に念を押す。
 あれ、でも、戦争で脚を無くした人が、切断した足の感覚ってちゃんとあるのだとか言ってなかったっけ? って、もうどうでもいいよ。どうして今、そんなこと思い出すかな、俺。

 視線を廊下の東側に並ぶ窓の外へ向ける。まだ辛うじて夕闇がこの世界を覆い尽くす前のようだった。
 件の音楽室の前で享志は足を止めた。
 心頭を滅却すれば火もまた涼し。
 誰だっけ? 織田信長に焼き討ちされた時に、火の中で詠んだ歌。でも、やっぱり熱いよな。なんちゃって。
 って、なにも面白くない。怖いと思うから怖いのだ。暗闇ではシーツも幽霊に見える。

 いっそ、覗き込んじゃえ。
 音楽室の扉はもちろん閉まっている。大事なものが置かれている部屋は、長期の休み中はもちろん鍵がかかっている。扉には窓がある。覗き込んだら、真っ暗だった。ピアノがあるし、エレクトーンもある。真夏の光を嫌うだろうから、窓には厚いカーテンが引かれているのだ。

 ……ぽろん。
 って、ピアノの音が? ショパン? 『別れの曲』のできそこないみたいな曲。
 いや、頭の中でなっているだけだ。

 だから、暗闇では自分の足音がショパンの曲に聞こえるんだって! だからいっそ、頭の中で、じゃじゃじゃじゃーん、と大きな音を奏でてみる。
 それからちょっと身震いして、いや武者震いしてから、享志は大きな足音を立てて廊下を走った。足元に何かが絡みつくような気がする。上体が前のめりになる。こけるより先に、足を動かせ!

 教室は二階だった。一気に階段を駆け上がる。
 廊下側は東になるのでもう碧い薄闇だったが、階段室の高い窓からは、かろうじて夕陽の名残の光が見えていた。

 教室だ。
 思わず足元を確認してほっとする。足には何も絡まっていない。
 享志はがらり、と闇を打ち破るような大きな音を立てて扉を開けた。

 ……

 西側になる教室の窓からは夕陽が射していた。いや、さっき階段室で見た時は、既に太陽は沈みかけていて、もっと暗かったような気がしたが、確かに教室には光が射していた。
 そして、窓際の光がまっすぐに射し込む席に、一人の少年が座っていた。

 光にけぶるような明るい髪、オレンジに染まった頬、綺麗な首筋は肩までまっすぐに伸び、そのまま優雅なラインを描いて腕へと繋がっている。どちらかと言えば小柄で、まだ成長を躊躇っているような肩は、細く頼りなく見えた。この学園の制服がまだ少し浮いているように見えるのは、着慣れないからなのだろうか。

 享志が大きな音を立てて扉を開けた時、まだ彼は窓の外を見ていた。
 やがてゆっくりと、享志の方へ首を回す。

 頼む、目と鼻と口がついていますように!

 振り返ったのは、ぞっとするほどに綺麗な子だった。
 目は少し切れ長で、光の加減で色合いまでは分からない。まっすぐ通った鼻筋、薄くて赤く染められたような唇。顔だけを見ていると、一瞬女の子かと思ったが、制服は確かに男のもので、目が慣れてくるとその瞳はむしろ野生の山猫のように鋭い。山猫を実際に見たことはなかったけれど。

 享志はその目に釘付けになっていて、しばらく動けなかった。
「ここのクラスの人?」
 意外にも少年の方から話しかけてきた。鼓膜に触れるよりも早くに頭に直接響いてくるような透き通る声だった。まだ声変わりを迎えていないのかもしれない。

 享志は意表を突かれて、ただ頷いた。
 どう考えても見たことのない子だ。一学年が百五十人ほどしかいない学校なので、同じ学年ならクラスは違っても何となく分かる。下の学年ならいささか自信はないけれど、でもこんな綺麗な子がいたら、女子が放っておかないだろう。

「えっと……、君、転校生?」
 少年はもう一度窓の方へ視線を向けた。頷いたようにも見える。
「ここはいい学校だね」
「え、と、そうかな。ま、写真写りのいい学校だけどね」

 なにせ、校内のあちこちで撮られた季節の写真がポストカードになって、購買部で売られていて、カレンダーの写真にもなっている。区の指定樹木がいくつも構内にある。西洋風の校舎は何とかというちょっと有名なイギリスの建築家のデザインだ。古い石の建物で、クリスチャンスクールだけあって、礼拝堂兼講堂は特に気合が入っている。ステンドグラスはシンプルだが並んだ木のベンチに落ちる青や黄の光は幻想的としか言いようがない。パイプオルガンは日本でも有数の大きさのものだと聞いている。

「友だちを苛める人なんかいないんだろうね」
 幸いなことに、確かにそれはいない。多少の派閥的グループはあっても、上品だ。
 そもそも私立の学校で、いいとこの令息とお嬢さんが通っていて、しかも中学の入学試験はかなり難しい。新入生にはキリスト教の愛神愛隣の精神を徹底して教え込む。もちろん、押し付けがましくない範囲で。授業は大らかすぎる気がしなくもないけれど、教育方針は比較的大らかだ。

 この子、友だちに苛められていたんだろうか。
 そうか、きっと前の学校で苛められたりとかして、わけありで通えなくなって、で、転校してきたのだ。例外的に転入生を受け入れることもあるという話は聞いたことがある。あれ、帰国子女の場合だったっけ?

「学校を案内してくれる?」
 何かを思い切ったような歯切れのいい余韻を引いて、少年が言う。
「うん、もちろん」
 享志は力強く頷いた。

 そうだ、きっと辛いことがいっぱいあった子なんだろう。俺が力になってやらなけりゃ。
 急に級長精神を刺激された享志は、今が何時かとか、もう暗いから明日にしようよ、とかいうことは全く思い浮かばなかった。
「どこがいいかなぁ」
「じゃあ、君のとっておきの場所に連れて行って」

 とっておきの場所。
 それは礼拝堂と渡り廊下と、特別な時のための礼拝堂に囲まれた小さな中庭で、真ん中に大きな木が立っていた。名前は知らないがカエデの種類だと思われる。大きな星形の葉が特徴的で、享志はそれを『星の宿る木』と呼んでいた。
 別にすごいロマンチストのつもりはないけれど。

「この校舎を出るのにちょっと手間がいるけど」
 少しだけ少年は微笑んだように見えた。享志はちょっとドキドキした。
 いや、相手は男だからそれは妙な表現なのだが、他に言いようがない。少年は享志に近付いてくる。背は享志より頭半分くらい低かった。体つきは痩せ気味で、近くで見ると髪はやはり淡い色合いで、目は少し緑がかっている。

 享志は少しわくわくするような気持ちで少年を誘った。
「毎朝礼拝があるんだよ。八時半から。讃美歌って歌ったことある? 毎日だから、すぐ覚えるけどね。で、毎週、暗唱聖句があるんだ。言葉を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして主なるあなたの神を愛せよ、とかね」

「毎週木曜日は献金の日だけど、大抵、財布の中の小銭を入れるだけなんだ。イースターとクリスマス礼拝は素晴らしいよ。もっとも、僕もクリスチャンじゃないけれど」

「授業はゆっくりだから、全然問題ないと思うよ。ちょっとゆっくり過ぎるんだけどね。だって、古墳時代を出るだけで五月になっちゃったんだ。世界史はもっとひどい。五月はまだ四大文明だったからね」

 享志は何だか嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、とにかくしゃべり続けていた。振り返ると、享志と足音を重ねるようにして後ろをついてくる少年は、享志をまっすぐ見つめて微かに笑っているように見える。
 何だか初デートみたいだ。

 倉庫部屋の窓から抜け出すとき、手を貸そうと思ったら、少年は首を横に振り、するりと身も軽く窓を潜り抜けた。
 陽が落ちたのか、少しだけ涼しくなっていて、風が吹き抜けて行った。
 礼拝堂は敷地の中心にあるので、どの校舎からもそれほど離れていない。少し薄暗くなった芝生の道を歩く享志の影が、灯された外灯の下で長く伸びる。

「二学期から、さっきいた教室のクラスになるんだろう?」
「どうかな」
 少年は短く答える。声が風にさらわれていく。

「だったら嬉しいけど」
 礼拝堂の裏に抜ける道を歩きながら、享志はそう呟くように言って、自分でちょっと照れてしまった。だから、今度は少しの間黙ったまま歩く。
「中庭なんだけど、考え事をする時にいいんだ。木があって、葉が星の形をしていて、礼拝堂のステンドグラスが暗く沈んで見えて」
 ひとつきりの足音が芝生を踏む。
「こっちだよ」
 そう言って、振り返った時……
 少年の姿はどこにもなかった。
 あたりは突然、暗転したように暗くなり、熱気を含んだ八月の風が中庭の三角の空間に吹き込んだ。




実は、大海の通っていた学校がモデルの聖幹学園。
敷地は本当に妙に広くて、山の中。校舎は洋風の石造りで、年季と趣に溢れた学校でした。
大筋、享志が解説する通りの学校、毎朝の礼拝は暗唱聖句と讃美歌とお話。
でも、私は決して「いいとこの子」ではありません^^; ただの農民。

そして、学校にはなぜか七不思議ってのがありますよね。
うちにもあったような気がしますが、細かいことは覚えていません。
メインロッカー前の階段が、確か12段だったと思うけれど、夜中に13段になっているとか、そんな他愛のない話もあったような。

次回が最後です。『転校生、ふたたび』……はい、『七瀬、ふたたび』をもじりました。
って、古い??
若かりし日の多岐川由美さん……あれれ、また歳が……




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【8月の転校生】(3) 転校生、ふたたび 

最終回です。考えてみれば、1回でアップしても良かったような内容なのですが、ちょっと長いかなぁと思って切ったのに、結果的に勢いで立て続けにアップして、あまり意味はありませんでしたね。
ホラーって、一気に読んでもらわないと、あまり面白くないということが分かりました。
(あ、ホラーというほどのものではありませんでした。すみません)

最終回、少し落ちがついているでしょうか。ウゾさん、こんな感じでいかがでしょうか。
ちょっとだけ、逢魔が時に、8月の誰もいない教室に入る場合は、みなさん、お気を付け下さいね。
転校生があなたを待っているかもしれません。





「それ、『八月の転校生』だよ」
 享志が昨夜の顛末を話して聞かせると、さっきまで怒っていたクラブの同級生たちは真っ青になった。

 彼らが怒っていたのは、まずひとつに、享志が結局シュミレーション表を取ってくるのを忘れてしまったことだった。
 今朝、守衛のおじさんに鍵を開けてもらい、筧先輩にそれを見せて事なきを得たものの、昨日は待ち合わせた校門のところにいつまでたっても享志が現れなかったというので、怖くて取りに行かずに逃げたと思われていたようだった。
 言い訳なんて聞きたくないね、と言っていた連中が、ちょっと黙り込む。

 八月の転校生?
「何だよ、それ」
「だからさ、新聞部が『逢魔が時の音楽室』の続編を刷ってたんだ。休刊のはずの八月号の記事。俺、印刷室で見たって言ったろ。『八月の転校生』って言ってさ、音楽室から幻聴のようなショパンの『別れの曲』が聞こえて来たら……出るんだよ」
「出る?」

「それを聞いてしまった生徒のクラスの教室でさ、待ってるんだ。綺麗な男子生徒が。で、『ここのクラスの人?』って聞くんだ。それがさ、前の学校でいじめに遭って自殺した中学生の霊が、いや、失恋して自殺したんだったか、その辺は諸説あるみたいだけど、この学校に憧れてて、転校したいって思う気持ちが彷徨ってるんだって。その子はピアノが上手で、でも泣きながら弾いているから途切れ途切れなんだって」

「冗談だろ。だって、ちゃんと普通にしゃべってたし」
「でも消えたんだろ……それに、どうやってその子、教室に入ったんだよ。学校の子じゃないから、倉庫部屋の窓のことは知らないだろうし。そもそも夏休みの八月に転校生なんか来ないよ。足、ついてた?」

 そう言えば、微かに記憶をたどると、足音はずっと享志のものだけだった。外灯に伸びた影もひとつだった。重なっているだけと思っていたけれど……
 今更だが、ちょっと冷や汗が出てきた。

「それでさ、『学校を案内してくれる?』って聞くんだってさ」
 さーっと血の気が引く。
「……確かに、そう聞かれた」
 同級生たちもみな、さーっと青くなった。

「な、なんて答えたんだ?」
「もちろん、って。で、礼拝堂の裏の中庭に案内しようとしたところで消えたんだ」
 皆が申し合わせたようにほっと息をつく。
「それさ、断ったら呪われるんだって。良かったよ~。級長が呪われなくて」
 呪われたらどうなるんだ、と聞いたが、誰も知らなかった。だから『学園七不思議』なんてのはいい加減なものに違いない。


 そろそろお盆が近づいていた。
 クラブは一週間だけ休みになった。
 実はあの日から、クラブの部室の鍵が見当たらなかった。
 持っていたのは享志だったはずで、多分あの時教室かどこかで落としたのだ。スペアがあるから困らなかったのだが、明日からクラブが再開という日になって、今度はそのスペアキーが見当たらなくなった。

 享志はその連絡を受けて、これはコックリさんの呪いかもしれないと真面目に思いながら、夕方、学校へ走った。明日、部室に入れなかったら大変だ。二年生の失態ということになる。
 クラブを引き継ぐときにこれでは、大問題になるに違いない。

 今日は守衛さんに鍵を開けてもらおうと思ったのに、間合いの悪いことに見回りなのか、守衛室にいなかった。
 日が暮れてしまっては困ると思い、ええい、と思って、また倉庫部屋の窓からエヴァーツ館に忍び込んだ。
 逢魔が時までまだ時間はある。

 と思ったのに、音楽室からショパンが聞こえてくる。
 まじかよ~
 俺もう、頭おかしくなっちゃったのかも。
 もう見ちゃだめだ。何も聞こえない!

 とにかく目を瞑って走り抜け、一気に教室のある二階へ駆けあがった。
 ガラッと、気合いを入れて大きな音で扉を開ける。

 ……
 冗談でしょ。

 ……『彼』はそこにいた。

 夕陽にけぶる明るい髪、まっすぐ伸びた綺麗な首筋、まだ成長途中と思われる華奢な肩、背中はすっと伸ばされていて、バランスのいい肩から腕へのラインも、今日もやはり綺麗だった。
『彼』は振り返る。ふと惹きつけられるような印象的な顔立ちだ。夕陽でオレンジ色に染まった頬、野生の山猫のような光を宿した目、通った鼻筋と、きりっと結ばれた唇。

 違っていたのは、今回は席に座っていなくて立っていたことと、学園の制服を着ていないことくらいだ。ジーンズを穿いて、真っ白のシャツを着ている。そのシャツもオレンジに染まっていた。
「あ、あ、あの、え……と」
 享志はしどろもどろになった。

 彼の唇が少しだけ、開きかける。

 知ってる、知ってる。このクラスの人? って聞くんだよな。

 だが『彼』は、薄く開けられた唇をそのままに、何も言わなかった。そして、黙って享志を見ている。

 別バージョンがあるのか?
 このクラスの人? の質問は飛ばして、先に、学校を案内してくれる? って聞くのかな。
 とにかく断っちゃだめだ。

 だが、彼は相変わらず何も言わない。というよりも、どこか怯えたような顔で、あるいは何か言われたら飛びかからんとでもいうような追い詰められた野生動物のような目で、享志を見ている。あの時と同じ碧の目。いや、一方の目は光の加減なのか碧色に光り、もう一方の目は暗く沈んで見える。

 きっとこれは別バージョンだ。この『試験』に合格しないと呪われる! 
 先手必勝だ!

「が、が、がっ、学校を案内しようか?」


 彼の表情がわずかに変わった。いささかきょとんとしたような顔で、享志を見ている。
 改めてその顔を見ると、先日の『幽霊』とは少し顔つきが違うような気もする。綺麗なのは同じだけれど、何というのか、現実味のある顔だ。光に霞んでいるような感じではなく、しっかりと吊り上った形の眉も、顎のラインも、輪郭が明瞭に見える。
 でも、なんて印象的な顔なんだろう。綺麗、というより、惹きつけられる。

 その時、ぴたりとショパンが止んだ。
 音が聞こえている間は気にならなかったのに、止まった途端にはっと気が付いた。

 その瞬間、彼は何も言わずに、まるで猫がしなやかに身を翻すように、扉の所に突っ立ったままの享志の側をすり抜けた。そして、ほとんど足音も響かせずに野生の獣のような俊敏さで廊下を走り抜け、跳ぶようにくるりと階段の角を曲がって消えた。

 呆然と見送っていた享志は、ふと視界の隅で何かが光ったような気がして、教室の中を見た。すぐそばの机の上に、鍵が二つ乗っている。
 部室の鍵だ。あの時落としたものと、それから同級生が無くしたものと。
 享志はようやく我に返り、鍵を二つ引っ掴んで、階段のほうへ走った。
 

「お兄ちゃん、ベーゼンドルファーだよ。スタインウェイじゃなくて」
 微かに声が聞こえたような気がして、享志は階段の踊り場で足を止めた。女の子の幽霊も一緒なのか。……それは聞いてない。
 だが、享志が一階の廊下に降り、見回した時にはもう誰の姿も気配もなかった。
 やがて、どこかの扉が閉まるような音が、夕闇に響いた。


 八月に転校生は来ない。夏休みなのだから、当たり前だ。
 しかも学校を案内し損ねた。
 呪われるのだろうか? で、呪われたらどうなるんだよ! 新学期になったらさっそく新聞部に聞かないと。

 学園の七不思議とか怪談話とかいうのは、生徒が怪談好きな年齢であるために生まれてきたか、子どもが学校で悪さをしないようにするための抑止力に利用されているだけに違いない。
 そう思うものの、腑に落ちないまま、いささかびびっている級長・富山享志は、九月の始業式の後、院長に呼び出された。

 院長室の扉はいつも開け放たれているので、部屋に入る前からそこに『彼』の姿は見えていた。
 ほんと、呪われちゃったのかも……

 だが、享志の目は釘づけだった。咽喉がカラカラで顔が引きつるのに、足は前に向かって進んでいる。
『彼』は振り返り、享志を見て一瞬、あ、という顔をしたような気もしたが、一瞬の先には表情を殺してしまった。

 山猫の目。あれから享志は何となく動物図鑑を見ては、彼を思い出していた。
 やっぱり、どうしたわけかドキドキする。幽霊だとしても、綺麗な子だった。いや、そっちの趣味はないけれど。でも手を伸ばしたら、噛まれそうだ。もっとも、噛まれる程度の呪いなら、いっそ噛まれてもいいかと思う。

 などと馬鹿なことを考えていたら、爽やかな宝塚の男役スターのような印象の院長が、いつものように清々しい声で言った。
「あぁ、来たわね。紹介するわ。彼が君が編入するクラスの級長、富山享志くん。頼りになる男よ。富山くん、アメリカからの帰国子女で、この時期に編入になったの。困ることが多いだろうから、相談に乗ってあげて。相川真くん。級長、頼むわね」


 妹がいる? って、まずは聞かなくちゃ。
 しかもその子、ピアノ弾く? って。
 いないと言われたら、今度は女の子の転校生の幽霊を撃退する方法を、新聞部に聞いた方がいい。
 それから、鍵、どこで拾ったの? って。
 いや、拾ってくれて、ありがとう、だよな。

 ……ところで、もちろん、最初の『彼』も君だったんだ、よね?
 いや、やっぱりいいよ、それには答えないで!


【8月の転校生】了
 



やはり、大海のホラーもどきでは涼しくなりませんでしたね。
すみません^^;
しかも、天然くんにかかると、ホラーもコメディに化けてしまうらしく。

解説するのは野暮ですが、真の育ての親である伯父さんはこの院長の友人なのですね。
で、ひどいいじめにあってた真は、しばらくその伯父さんの仕事の都合で、カリフォルニアにいたんです。
で、戻ってくるときに、普通の学校は難しくて、このちょっと楽しげな?学園に編入したのです。
編入試験は、受けたと思うけれど。できたのかしら?
で、学校に行くことがまず勝負、という精神状態だったので、夏休みの間に一回見に行っておこうと。
だから守衛さんは、あちこち連れまわされて、いなかったのですね。
子供たち、結構自由にうろうろさせてもらっていて、妹まで。
院長と伯父さんも近くにいたと思うのですが、タカシくんはそれどころじゃなくて……^^;

しかし、幽霊はあんなにしゃべるのに、真はなぜしゃべらない?
本当に、この人は、言葉は苦手ですね。いえ、今はそうでもないのですが、この頃なんて、ほとんど1日なにも話さない日もあったのでは。

相川真くん、中学生の一時期、本当に怖いくらい『綺麗』と親友に思われていたようですが(他にも証言者あり)、それを過ぎると、ただの兄ちゃん。今や、ちょっとオッチャンになっています。
よく言いますよね、天才も20歳過ぎればただの人、いや、それじゃないか。
ロシア人も、なぜあの天使がそうなる?みたいな。

ともあれ、ウゾさんにご満足いただけたかどうか……
読んでくださった皆様に、ほんの少しでも涼をお届けできたかしら……(いや、涼しくならないって)


さて、ここしばらく真面目に小説もどきを更新しすぎたので、ちょっと他の記事を、と思うのですが、涼しい記事がないなぁ。海? カキ氷?
  
実は、長らく放置しているソ連旅行のその後。
当時の手記!!が見つかったので、生々しくレポートをお送りしようかと思ったりもしてます。
でも、ウゾくんの話、書かなくちゃ。
そして【海に落ちる雨】の続きと、並行して、【死と乙女】(夕さんリクエストの指揮者の話)もcoming soon!です。

読んでいただいて、本当にありがとうございましたm(__)m




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【図書館の手紙】(1)清明の候、君を想う 

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【8月の転校生】に続く第2弾、中学生の富山享志が語る学園の七不思議シリーズ(掌編)です。
いつの間にシリーズになったのか……本当に七つ続くのか……全て行き当たりばったりです。
今回はよくある、本の間に手紙を挟んで恋文をやり取りするという、今じゃあり得ないロマンティックな恋物語の不思議を紐解きます。

実は、季節はただ今『清明』なのです。
いえ、実は今年の二十四節気の『清明』は4月5日。
桜の記事に舞い上がっていて、記事を出す日を間違えちゃいました。
しかも、毎年3月に京都の山奥にある志明院に行くのですが、今年はちょっと遅れそうです。
せっかくなので、境内に数多植えられた石楠花の季節に訪れてみようと画策中。

そう、毎年1度、【清明の雪】を宣伝する日になりました(*^_^*)
志明院はその【清明の雪】にも登場する京都の最果てのお寺。
折しも、春なのに寒波の来る今日。
京都に降る春の雪を背景に、古寺に伝わる消える龍の謎、鈴を鳴らす不動明王の謎に触れてみませんか?
→→【清明の雪】を始めから読む

……それはさておき、こちらでは天然ボケの級長・亨志が活躍する(かな?)掌編をお送りいたします。
全3回、2週間以内に終了の予定。ぜひ、お楽しみください。
ちなみに、完全に独立したストーリーなので、初めてさんでも大丈夫です。よろしくお願いします。
(前回同様、中身は大したことがありません^^;)

≪登場人物≫
富山享志:私立幹学院に通う中学生。責任感は強いが、面倒なことを押し付けられやすい級長。
相川真:中学2年生で幹学院に編入した帰国子女。一人でいるのが平気な元苛められっ子。
杉下萌衣:クラスの図書委員の女の子。急性虫垂炎で入院して、図書館の謎を亨志に託す。
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Category: (2)図書館の手紙(完結)

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【図書館の手紙】(2)流るゝ川に言葉あり 

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【図書館の手紙】その2です。
実は、この物語、リアルには1967年だったのですね。昭和42年!!
気になったので、曜日と天気を調べちゃいました。なぜならイースターの日付がポイントだったので。そうしたら、その年のイースターは3月26日、天気は23日から26日までは晴れ。
(なんでも調べちゃえる、便利な世の中になりましたね。)

もちろん、あまり年代は気にせず読んでいただいていいのですけれど、思えば学生運動とかが盛んな頃に大学に行っていた世代の人たちなのですね。
私にとってはちょっとアニキ先生たちの世代。

さて、今回のポイントは……
「相川って、二語文以上の日本語が喋れたんだ!」
(あまりにもひどい……)

何だか、喋らないハリーと、美人じゃないハーマイオニーと、心が広いロン、みたいになってきた3人組……

*写真は、満開間近、我が家の枝垂れ桜、でした。(よく見たら、虫が食ってる……)
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Category: (2)図書館の手紙(完結)

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【図書館の手紙】(3)空行く雲に啓示あり 

【図書館の手紙】その(3)です。

図書館の本の間に挟まれている手紙。
それは『学院の七不思議』に語られる、結ばれなかった恋人たちの秘密の手紙だったのか?
20年も前に交わされたはずの手紙が、なぜまた図書館の本に挟まれているのか?
一方通行で、日付もばらばらの手紙の意味は?

(1)(2)を合わせても短いお話ですので、よろしければ始めから読んでやってくださいませ。
(1)清明の候、君を想う
(2)流るゝ川に言葉あり

≪登場人物≫
富山享志:私立幹学院に通う中学生。責任感は強いが、面倒なことを押し付けられやすい級長。
相川真:中学2年生で幹学院に編入した帰国子女。一人でいるのが平気な元苛められっ子。
杉下萌衣:クラスの図書委員の女の子。急性虫垂炎で入院して、図書館の謎を亨志に託す。
草加先生:学院の英語の先生。病気で入院中のおばあちゃん先生。詩人でもある。
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【図書館の手紙】(4)人の心に希望あり(完結) 

【図書館の手紙】その(4)、大団円です。

図書館の本の間に挟まれている手紙。
それは『学院の七不思議』に語られる、結ばれなかった恋人たちの秘密の手紙だったのか?
20年も前に交わされたはずの手紙が、なぜまた図書館の本に挟まれているのか?
一方通行で、日付もばらばらの手紙の意味は?
日曜日に限って早めに図書館に来る司書、イースターの礼拝にやって来た子ども。
彼らが謎のキーパーソンなのか?

予定以上に長くなってしまいました。
でもあと1回で終わると宣言したので、長いけれどアップします。
何時も長くてごめんなさい。
う~ん。何とかしなくちゃ。

≪登場人物≫
富山享志:私立幹学院に通う中学生。責任感は強いが、面倒なことを押し付けられやすい級長。
相川真:中学2年生で幹学院に編入した帰国子女。一人でいるのが平気な元苛められっ子。
杉下萌衣:クラスの図書委員の女の子。急性虫垂炎で入院して、図書館の謎を亨志に託す。
草加先生:学院の英語の先生。病気で入院中のおばあちゃん先生。詩人でもある。
ゆうじくん:イースターの礼拝にやって来た子ども。
廣原さん:図書館の司書。日曜日に早めに図書館にやって来る。
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Category: (2)図書館の手紙(完結)

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【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(1)始まりは露天風呂 

scribo ergo sumの八少女夕さん企画の【オリキャラのオフ会】、『島根県松江にて』、ついに開幕しています。
夕さん、さすが企画大臣、という楽しい企画、ありがとうございます。そしてサービス精神いっぱいの夕さんは、やはり露天風呂、外されませんよね。
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参加します!って名乗りを上げたものの、アップする段になって大事なお約束を忘れていたことに気が付きました。
そう、松江の観光名所をひとつ、入れなくちゃならないのです。でも私ったら、そもそもうちの高校生ハリポタトリオは何だってこんなところにこんな日に来てしまったのか? からスタートしちゃって、まだArtistas callejerosの4人組と出会った旅館から(正確には露天風呂から?)離れることができていません^^; 
ということで、プロローグですね。
何はともあれ、オッドアイの皆様から「御髪」を頂かなければならないのですよ!
そう、オッドアイ率が高いと聞いて、何とか絡みたい! と思ったので、こんなことになっちゃいました。高校生が会いに行ったら、気前よく御髪を1本、くださいませ。

なお、小説ブログ「DOOR」のlimeさんが参加を見合わされたのですが、キャラだけ勝手に引っ張り出しちゃいましたよ! だって、絡みたいんですもの。
よ、よかったかしら?(ドキドキ、limeさん、怒らないでね。)
春樹・リク・真300
(参考イラスト「バス停での出会い」左から、リク、真、春樹:著作権はlimeさんにあります。無断転用は固くお断りします)

なお、うちのキャラたちのオリジナルはこちらです⇒【学院七不思議シリーズ】



【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(1)始まりは露天風呂
~学院の8つ目の謎と闘え!~

「ね、『すごい美人』ってあの人のことじゃない?」
 美味しそうな海の幸・山の幸が並んだ座卓の向こうから、杉下が身を乗り出すようにして言った。食事処の隣の席には外国人二人と日本人二人、というかなり目立つ組み合わせのグループが座っている。日本人一人が女性で、他の三人は男性だ。そして、その紅一点が確かに『すごい美人』なのだ。
 流れるようなストレートの黒髪が浴衣の肩に落ちて、妖艶というのか、神秘というのか、思わずパンフレットに書いてあった露天風呂の光景を想像してしまった。
 僕も見惚れていたことは否定しないけど、と思いながら隣の席をもう一度ちらっと見たら、その『すごい美人』と目が合った。
 わ。どうしよう。
 と思ったら、『すごい美人』がにっこりと微笑んだ。

 ここは島根県玉造温泉の長楽園という高級旅館だ。
 たかだか高校生の僕たちがここにいるのには、のっぴきならない理由がある。僕たち、というのは、聖幹学院高等部二年生の『学院七不思議調査団』三人組だ。
 まずは、自分でも言うのもなんだけど、気のいい級長である僕、富山享志。そして、もうちょっとお洒落でもしたら可愛いはずの、眼鏡の似合う図書委員の杉下萌衣。最後の一人は、野生の山猫みたいに無愛想な僕の『親友(未満)』、相川真。
 もっとも『学院七不思議調査団』なんて、自分たちで命名したわけじゃなくて、いつの間にか新聞部に勝手に記事に書かれちゃっただけなんだけどね。

「もっと具体的に指示してくれなきゃわかんないよな。『すごい美人』とか『左右に異なる光を宿した瞳』とか『五百倍返しの正義貫く猫』とか、『マニア受けする可愛い三人姉妹』とか、曖昧すぎるよ」
 僕が言うと、杉下はきっぱりと首を横に振った。
「大丈夫よ。『神の見えざる手』が働くはずだから。だって、どう考えても高校生です~って私たちが、旅館に辿り着いた途端に『富山様ですね、お待ちしておりました』って案内されるなんて、これは下手なファンタジー小説か夢落ちに違いないわ。とにかく、古文書に書かれた指令通りに髪の毛を集めなくちゃ」
「そんな簡単に見つかるのかなぁ」

 大体、その古文書ってのが怪しすぎるんだよな。古文書の癖に『すごい美人』とか『マニア受けする』とか書いてあったんだから。古文書? いや、あれは『指令』か。
「そこは大丈夫。だって『左右に異なる光を宿した瞳』の持ち主の四分の一は既にここにいるし、それにどう見ても『すごい美人』はあそこにいるし」
 うん、それもそうかもね。杉下の言う通りだ。
 どんな事態になっても彼女は冷静で、的確な判断を下してくれるから安心するよ。いや、杉下だけじゃなくて、相川もこの展開に疑問を持っている様子もなくて、全く動揺していない。いや、彼の場合は動揺していても、外見からは分からないんだけどね。
 え? 僕はどうなのかって? そうだなぁ、まぁ、どんな展開でも相川と杉下が一緒にいたら、きっと楽しいと思うんだ。

 で、何だって僕たちがこんなところにいるのかというと、今僕たちの学院は、いつか映画で見た先負高校みたいに、時間のループに嵌まり込んでいるんだ。そう、僕らはもう何回も4月7日を繰り返していて、4月8日の始業式を迎えることができないんだ。でも、ループの中に嵌まり込んでいる僕たちの大多数は、そのことに気が付いていなかった。
 そのことに最初に気が付いたのは相川と杉下だった。

 何回目かの4月7日、入学式の後で休み時間にトイレに入ったら、相川が追いかけてきた。そして誰もいないのを確認すると、僕にそっと近づいて耳打ちしたんだ。
『級長、僕たちは時間を繰り返してる』
 ちょ、ちょっと距離が近いよ。僕はドキドキした。てか、何かニンニク臭くない?
 いや、これは絶好のチャンスかも。
『あ、あのさぁ、相川。もうそろそろ返事をくれてもいいんじゃないかな。ほ、ほら、親友になりたいから名前で呼び合おうって……え? 今なんて言ったの?』
『だから、時間を繰り返してるんだって。多分、杉下さんも気が付いてる。さっきすれ違った時、後で富山くんを連れて図書館に来てって言ってたから』
『と、時をかける少女、ってこと?』
『残念ながらラベンダーのにおいじゃなくて、ニンニクなんだけど』

 図書館に行ったら、床に大きな五芒星が描いてあって、杉下がその真ん中に座っていた。相川と僕を見ると、杉下は相川と目配せを交した。次の瞬間、彼女は五芒星の一角にそっと粉を吹きかけ、同時に相川が僕の腕を引っ張った。相川と僕は五芒星の中に飛び込んでいた。一瞬消えたように見えた五芒星の一角は、すぐに元の形に戻った。
 五芒星の中に入ってみると、外から見るよりもずっと広かった。しかもニンニクや唐辛子や胡椒、ヨモギ、それに見たこともないハーブらしきものがいっぱい敷き詰めてあって、かなりややこしい臭いがしていた。
『やっぱり、相川君も気が付いていたのね』
『五芒星か。考えたね。さっきの粉は胡椒とニンニクのブレンド? どうやら奴らは臭いもの、においのきついものは苦手のようだね。トイレの中だけは奴らの気配がないんだ。だから級長とも話ができた』
 相川ってそんなに長い文章が喋れたっけ? いや、感心するのはそこじゃないか。

『奴らって誰だよ?』
『それは分からない。でも学院に棲みついている『何か』よ。私たちを時間のループの中に閉じ込めようとしているの。実は昨日、というのか、昨日の今日というのか、図書室に来てみたら、この場所だけものすごいニンニクのにおいがしたのよ。で、これはもしかしてって思ってとにかく魔除けになりそうなものを持ってきて、五芒星を描いたわけ。で、今日の今日、ここにやって来たら、五芒星の真ん中にこの古文書みたいなのが落ちてたの』
 そう、その『古文書』っぽい巻物を広げると、いきなり陰陽師の話みたいに巻物が浮き上がって、声こそ聞こえなかったけれど、文字が光り始めたんだ。
 ……ニンニクの臭いと共に。
 内容はどこかからパクったんじゃないかと思うんだけどね。

「えっと、もう一回指令内容を確認しとくよ」
「さすが級長。確認は大事よね」
「違うよ。何だかまだ混乱してるんだ」
 こういう時に活躍するのは、相川のものすごい記憶力だ。一度見たものは、網膜に写真みたいに取り込まれちゃうんだって。
 相川は自分の出番だと気が付いたように、にらめっこをしていたのどくろから顔を上げた。
「おはよう、幹学院七不思議探偵団の諸君。今回の君たちの使命は、この学院を時間ループから救うことである。2015年4月8日の松江に往き、霊の宿りし髪の一筋を集めよ。左右に異なる光を宿した瞳の持ち主、四名の髪を束ね、性格はともかくすごい美人の髪の光る一筋で結べ。マニア受けする可愛い三姉妹と縁結び、五百倍返しの正義貫く猫に導かれて神籬を越え、御霊宿りし洞穴に納むべし」

 う~ん、やっぱり意味不明だ。しかも、古文書なのに『ループ』とか『マニア』とかって何だよ。しかも、締めくくりは、どこかからパクったとしか思えない台詞だったんだ。
「例によって君もしくは君の仲間が捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。なお、この古文書は自動的に消滅する」
 で、読み終わったら、本当に古文書もどきにぼって火がついたと思ったら、一瞬先には消えちゃったんだ。『殺されたら』って穏やかじゃないよね。
 でも、そんな具合だから、多分杉下の言う通り、超ご都合主義展開が待っているに違いない。

「問題は、どうやって『すごい美人』と四人の『左右に異なる光を宿した瞳』の持ち主の髪の毛を手に入れるかよね。四人のうち一人は相川君だとしても、あと三人もオッドアイの人間がこの松江に集まってるものかしら。しかも、『マニア受けする可愛い三姉妹』と縁を結ぶってどういう意味かなぁ」
「何よりも誰があの『すごい美人』に声かけるんだ?」
 僕が聞いたら、相川と杉下が同時に僕を見た。

 え? 僕? いや、それは無理だよ。
 すみません、その御髪、一本頂けますか? って? それって、変態じゃないか。
「女性はお風呂上りに髪を梳かすから、その櫛を狙ってもいいんだけれど……」
「あ、それいいね」
「何かあの人には通用しないような気がするのよね。コソ泥みたいな真似」
 相川は僕と杉下の会話には興味がないような表情で、隣の四人組をじっと見つめていた。

 翌朝。問題の4月8日。
 相川を誘ってもう一度露天風呂に行く。男女別の浴場もいいんだけど、朝の大きな露天風呂の解放感は何とも言えないよな。とにかく今日これからの作戦を考えなくちゃ。
 僕はちらっと相川を見る。相川は隣で大人しく湯船に浸かっている。
 夜は湯気のせいで、混浴露天風呂にやって来る人の姿形を確かめることなんてできない。いや、別に見たいってわけでもないんだけれど、じゃなくて、えっと女性に興味がないわけじゃないんだけれど、でも、何てのか、学生としての本分が……
 僕は結局相川から目を逸らした。
 華奢なのかと思ったら、結構しっかりした身体をしてるんだ。それもそうだ、毎日竹刀を振るっているっていうんだから。

 朝日が湯の面でキラキラとはねている。その光に照り返された相川の髪が、この世のものじゃないくらいに綺麗だった。
 う~ん、なんだかなぁ。僕ときたら、何をドキドキしてるんだか。いや、そんな趣味はないぞ、うん。
 と思ったら!
 なんと、一人で朝風呂に来たらしい『すごい美人』と目が合ってしまった。
 わわわ。
 僕は慌てて目を逸らして、今度は相川と目が合ってしまった。相川は何を狼狽えてるのと問いかけるような顔をしている。それからふと顔を上げて『すごい美人』の方を見た。
『すごい美人』はにっこりと微笑んですっと立ち上がった。
 僕は完璧にノックアウトされた。

 露天風呂から出て朝食会場に行く途中、ロビーで相川がふと足を止めた。
 相川が注目している先を見ると、一人の青年がソファに座って絵を描いている。時々コップの水に指先をつけて、その指先を筆代わりにしている。
 相川は何かが気になっているのか、じっと彼を見つめ、それからその青年の方へと歩き始めた。僕は慌てて後を追う。
 相川は青年の傍で立ち止まり、彼が描いている絵を覗き込んだ。
 青年は全く気が付いたようでもなく一心不乱に絵を描いている。その姿のほうが素晴らしく美しい絵のようだ。
 あれ? 
 僕も思わず絵を覗き込んだ。

 スケッチなのかな。でも、水彩色鉛筆でこんなに自由な色が生まれるなんて。まるで魔法だ。
 そうなんだ。そこに描かれていたのは、右目が碧、左目が黒。相川と全く同じ目の色をした、オッドアイのトラ縞の仔猫の絵だった。
「あ、『左右に異なる光を宿した瞳』の猫」
 思わず声を出してしまった。絵描きの彼が顔を上げる。
 へぇ、僕にとって『綺麗』と言えば相川のことだったけれど(これには賛否両論ありそうだけどね。その、普通の基準から言うと、相川は特に美形ってわけでもない。でもこっちをじっと見る山猫の目ってとっても綺麗だと思うんだ)、この絵描きさんは全くもって『美形』という言葉がぴったり当てはまる。

「この猫、どこかで見たのですか?」
「八重垣神社だけど」
 美形の絵描きさんは相川の問いかけに答えてから、少し不思議そうに自分の描いた猫と相川の顔を見比べた。うん、確かに見比べたくなる気持ちも分からなくない。
 とら猫と山猫? いや、そんなことじゃなくて、目の色が同じ。それに何となく雰囲気が似ている?

「リク」
 その時、フロントの方向から声がした。偉丈夫な女性と何だか情けないムードの男性が立っている。彼らは青年絵描きさんの方を見ていた。呼びかけられた青年絵描きさんは急いでスケッチの道具を仕舞った。そして、今描いたばかりの猫の絵をスケッチブックから千切ると、相川に差し出した。
「これ、あげる」
 そう言って立ち上がり、仲間の待つ方へ歩きかけてから急に立ち止まった。

「そう言えばどこかで会ったよね。……幻のバス停だったかな」
 相川を見たら、相変わらずの無表情で絵描きさんを見送っていた。
「知り合いだったの?」
「さぁ」
「でもさ、まさか四人の『左右に異なる光を宿した瞳』の持ち主のうち一人は猫ってことはないよね」
「かもね」

 朝食会場に行くと、ぶすっとした顔で杉下が待っていた。
「おそ~い。お腹すいちゃったよ」
「ごめん」「ごめん」
 僕と相川は同時に謝って、何となく顔を見合わせた。
 杉下はテーブルの上に観光パンフレットを置いていた。そしてその一ページを開いて、僕たちの前に差し出した。僕たちが露天風呂でのぼせている頃、勤勉な杉下は松江の観光情報誌を熟読していたようだ。

「八重垣神社よ」
「え?」
「縁結びって言うから出雲神社かなぁと思ったんだけれど、出雲市じゃない? で、調べてみたら松江市にも縁結びの神社があって、結構女性には人気なのよ。例の『マニア受けする可愛い三姉妹』と縁を結ぶ場所。三人も女性がいたら、絶対縁結び系の神社に行きたいって誰かが言うはず。それからね、神籬を越えたところに洞穴があるって、まさに神魂神社にそんなところがあるのよ。だから終着点はそことして、問題はどこで残り三人の『左右に異なる光を宿した瞳』の持ち主を探すかってことなんだけれど、オッドアイってやっぱり外国人に多いと思うの。ってことは、やっぱり外国人に会えそうな名所よね。松江城、宍道湖、堀川遊覧船、武家屋敷、小泉八雲記念館……でも外国人が喜ぶとしたら桜の名所かもしれないわね。『すごい美人』も外国人と一緒だったし、名所は押さえると思うのよ。ちょっと、富山くん、何デレデレしてるの?」

 露天風呂の彼女を思い浮かべて、ついつい目が宙を彷徨ってしまった。僕は慌てて咳払いをして、さっき手に入れた新しい情報を杉下に伝えた。
「でも、うち一人は猫かもしれないんだよね」
 相川が美形絵描きさんにもらった猫の絵を杉下に見せた。
「わ。びっくり。相川君そっくりね」
「猫だよ」

 それから僕たちはチェックアウトのために一旦部屋に戻った。
 時計代わりにテレビをつけたら、この時代に人気らしいヒーロー番組をやっていた。あまりの人気のために、平日にも毎朝、古いシリーズを再放送しているらしい。
 そして、今まさにクライマックスに差し掛かった画面から聞こえてきたのは……
『あなたには五百倍返しにゃ。それが私の流儀なんでにゃ』

 五百倍返し? 僕たちはテレビ画面にくぎ付けになった。
 そう、そこに映っているのは、まさに『正義貫く猫』とその相棒、真面目な顔なのに何となく笑っている風の不思議な男・満沢だった。そして、テロップには、にゃんと! じゃなくて、なんと!
「大人気の『半にゃらいだー3』の満沢とナオキが本日4月8日、松江にやって来る!」

 とにかく時間がないんだ。今日、4月8日中に、指令にあったことを果たさなくちゃ。
 いや、それとも、時間は永遠にあるのだろうか? このループから抜け出すことはできるのかな。



なんだか話をややこしくして墓穴を掘った感がなくもない……((+_+))
実は彼らが高校2年生というのは1968年なのです。そして筒井康隆さんの『時をかける少女』は1967年の作品。あの時代にあの作品。やっぱりいつまでも残る物語って、オリジナリティとセンスが半端ないのですね。

ところで……
皆さん、ご存知ですよね。『スパイ大作戦』……(一抹の不安が……あ、ミッションインポッシブルの方が知られてる? トム・クルーズだし)

ちなみに……
前書きのlimeさんのイラストに書かせていただいた掌編→『幻のバス停での出会い』掌編
コメキリ番10000を踏んでイラストリクエストをお願いしちゃったのでした(*^_^*) limeさん、その節はありがとうございます(*^_^*)(*^_^*)

Category: 番外編・オリキャラオフ会in松江

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【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(2)神の見えざる手 

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4月8日は過ぎてしまいましたが、オリキャラオフ会・ハリポタトリオ高校生編の第2話です。
本当は前後編で閉めたかったのですが、皆さんのエピソードを拾っていたら長くなってしまいました。
それにちょっと、私たちも「石倉六角堂」に寄ってみたかったのです。だって……以前夕さんが書いてくださった某雑誌のインタビュー記事に引っ掛けて、ちょっとお遊びをしてみたくなったのです。
→参考:その色鮮やかやかな、ひと口を -2

何はともあれ、この日の松江の町に居合わせたかったわぁ、と心から思う大海なのでした。
(だって、美形がいっぱい……(^^♪)


【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(2)神の見えざる手
~学院の8つ目の謎と闘え!~

 僕たちがチェックアウトしようとフロントに行くと、受付の女性が怪訝そうな顔をした。
「2泊3日で承っておりますが?」
 杉下と僕は顔を見合わせた。あれ? もう1泊するということ? つまり、指令を果たさずして松江を出るなってことなのか……。でも期限は4月8日、今日なんだよね?

 相川はあまり興味のないような顔で、旅館の入口の方を見つめている。
 そこには、ちょうど出かけようとしている4人組がいた。
 あ。『すごい美人』だ。と、今朝のことを思いだして僕は赤面してしまったが、なんと彼女が僕に気が付いて、にこっと笑いかけてくれた。
 あぁ。何だか今日はいいことがありそうな気が……

「あ、それから」
 受付の女性は営業用とは思えない爽やかな笑顔で追加した。
 僕は我に返る。美人に見惚れている場合じゃなかった。
「こちらの伝言をお預かりしておりますが」
 そう言って手渡された封筒を開けてみると、中に薄紫色の和紙が一枚入っていた。
 ……何も書いていない。

 これは例のふざけた指令の続きなのかもしれない。消えるとか浮き出るとか、そういう曖昧模糊としたのが好きな誰かが僕たちをからかっているとしか思えないのだ。
「蜜柑の汁で書いてあるとか」
 小学生の時、そんなのをやったなぁと思いながらつぶやいたら、ちらっと相川が僕を見た。えっと、ちょっと馬鹿にしてる? わけじゃないか。横顔が少し笑っているようにも見えた。その……嫌な感じじゃなくて。

「あるいは、水に浸したら字が出てくるとか」
 相川が追加する。
「これはやっぱり八重垣神社に行けってことよ」
 杉下の説明では、八重垣神社では、おみくじの紙にコインを乗せて沈めるという恋占いがあるのだそうだ。そのおみくじは薄紫色をしていて、水に浮かべたら文字が浮き出るのだという。

 そういうことなら早速神社に向かったほうがいいのかなぁと言いながら、地図と交通案内であれこれ確認すると、とにかく玉造温泉からは一旦松江に出なければならないようで、それなら先に松江城に行ってみうということになった。
 何よりもまず、オッドアイ探しだ。オッドアイは外国人なら結構いると聞いたから、外国人率が高そうな松江城は外せない。一人は猫としても……。
 でも、本当に猫ってことがあるのかなぁ?

 松江駅から松江城まではバスが出ている。ちょっと歩いてみる? なんて悠長な旅行気分を味わっている場合ではないのだけれど、当てもない人探し中なのだから、それもいいかもしれないなんて話になった。
 歩いている途中で、相川がいきなり足を止めた。僕と杉下が続いて立ち止まり振り返ると、相川はある和菓子屋の中を見つめていた。
 え? 彼の視線の先を追い掛けた僕も、驚いて相川を見た。
 ……まさか、そんなことがあるんだろうか?

「ね、ちょっと寄ってみない?」
 杉下の方は単純に和菓子に興味を惹かれただけかもしれない。それとも、彼女も客らしき男性の後ろ姿を見咎めたのかも。少しくすんだ金の髪といい、その長身のしっかりとした体つきといい、店の外からでも外国人であることは疑いようがなかったから。
 杉下はするっと僕らの脇をすり抜けるようにして和菓子屋の暖簾をくぐった。

 僕は相川を促して彼女の後を追った。
 和菓子屋の看板は「石倉六角堂」。中には客らしき金髪の外国人の他に、店の人と思われる男女がいて、その男性の方も明らかに日本人ではなかった。でも、どう見ても「菓子職人です~」って感じだけど……
 杉下が引き戸を開けた時、その金髪の外国人が振り返った。


 その少し前、「石倉六角堂」の和菓子職人・ルドヴィコはもう3回目にもなる質問を繰り返して、恋人(未満?)の怜子に咎められていた。
「本当にシニョール・ヴォルテラじゃないのですか?」
 ルドヴィコの手には「PREDENTIAL」というタイトルの雑誌が握りしめられている。
「えぇ。済みません。確かにその雑誌の人とは似ていると自分でも思いますが、期待に添えずに申し訳ありません」

 ルドヴィコは残念そうだった。できればこの雑誌にサインをしてもらいたかったのだ。
 その客が店にやって来た時、怜子が「あの雑誌の人が来た」と言って慌てて奥に戻ってきた。本人は3回目の否定をしたが、どこからどう見てもジョルジョ・ヴォルテラその人だ。何よりこんなそっくりの美形がこの世に2人もいるなんてことがルドヴィコには信じられない。

「済みません、私が最初に間違えちゃって」
 一緒になって謝る怜子にも、客は感じのいい笑みを見せた。
「いえ、それよりもすみません。店内に猫を連れて入らせてもらって。どうしてもこちらの和菓子を見たいと、こいつがうるさいので」

 タケル(名前まで一緒なんてことがあるんだろうか?)と名乗った「ジョルジョ・ヴォルテラ(和名、大和竹流)そっくりの」男性の腕の中で、にゃん、と茶虎の仔猫が鳴いた。仔猫は人間たちの会話などどこ吹く風、その視線はルドヴィコが作った『半にゃライダー』練りきりに釘付けだ。
「いいえ。今日はお城の『半にゃライダーショー』に持っていくので、ねこちゃん用和菓子も作っていたんですよ。ちょっと味見してみませんか?」

 ルドヴィコはまだ少し残念そうだったが、仕事のことになると自然と力が入るのか、すぐに気を取り直したようで、茶虎仔猫に新作・ねこ用和菓子の味見役を頼んだ。猫まっしぐら、を目指して力を入れて新作にチャレンジしたのだ。
 ねこ用和菓子皿に入れてもらったねこ用『半にゃライダー』練りきりを見て、最初はもったいなさそうにじっと見ていた仔猫だったが、くんくんと匂いを嗅ぐと、ものすごく嬉しそうな(多分)顔になってルドヴィコを見上げた。

 大男のルドヴィコが、「どうぞ」と言いながら小さい仔猫に最高の笑顔を見せたので、怜子は何だか自分も嬉しくなった。
 目の前のものすごい美形よりも、この笑顔の方が500倍も素敵。
 茶虎仔猫は最初は少し遠慮がちに舐めていたが、一口かじった後は、うまうま、と言いながら必死で食べ始めた。そして食べ終えると、ものすごく満足そうな顔をしてルドヴィコを見た。

「良かった。合格のようですね」
 ほっとした顔をするルドヴィコに撫でてもらって、茶虎仔猫はとても気持ちよさそうな顔をした。それを見てタケルが切り出した。
「この子はものすごく人見知りなのですが、あなた方のことは平気のようです。これから松江城の『半にゃライダーショー』に行かれるということですが、実は折り入ってお願いがあるのです」

 タケルは、自分はこれから出雲神社で仕事があるので、一緒に『半にゃライダーショー』に行ってやれないこと、ねこちゃん用観覧席のチケットは持っているのだが、一人で(一匹で)行かせるのは心配でどうしようかと迷っていたことを打ち明けた。そして、もし可能なら、お城にこの子をつれて行ってやってくれないかと頼んだ。
「そんな、お安いご用です。憧れのヴォルテラの御曹司のそっくりさんに出会えたというのも何かの巡り合わせですから。丁度、『半にゃライダー』の満沢さんやナオキくんたちに差し入れを持っていく予定でしたから」
 茶虎仔猫のオッドアイがキラキラ輝いていた。


 僕は何よりもまず相川の顔を見た。相川は呆然と目の前の男を見ている。男の方も、おや、という顔をしたが、それは僕たちのことを知っているという反応じゃなかった。
 背の高い外国人が松江の和菓子屋に二人もいる、という事態には驚くけれど、二人ともオッドアイの持ち主ではなかった。いや、そんなことはこの際もうどうでもいいんだ。
 この世界って、俗にいうパラレルワールドってやつなの? 僕たち、無事に元の世界に帰れるんだろうか?

「わ、これ、今朝テレビでやってた『半にゃライダー』の練りきり?」
 さすがに杉下は目ざとい。僕の一瞬の不安をかっ飛ばすような元気な声だった。もちろん彼女だって不安だと思うけれど、そうだよね、相川と杉下がいればきっと何もかも上手く行くはず!
 と、次の瞬間、僕は杉下の『半にゃライダー』という言葉に「にゃ」と答えた声に驚いた。

 足元に猫? しかも……まさかのオッドアイ! これって、朝、旅館のロビーで美形の絵描きさんが描いていた猫じゃないか。うわ、こんな偶然ってある?
 相川の顔を見て「おや」という顔をした背の高い金髪の外国人は、足元の猫の顔を見て、あ、そうか、と得心のいった顔になった。
「いや、失礼、どこかでお会いしたかと思ったのですが、うちの猫の目とあなたの目がそっくりなんですね」

 猫とそっくりってのもちょっとどうかと思うけれど、それはみんなが思っていることだったから仕方ないか。その、顔や目のそっくりさと言うよりも、オーラが……
 当の相川は男の顔と猫の顔を交互に見て、それから納得したのかどうかは分からないけれど、それ以上は何も言わなかった。でも、猫とそっくりと言われても特に気分を害したわけではないみたいだ。
 猫はじっと相川を見ていたが、やがてそっと相川の足元に纏わりついた。そう、前世に縁でもあるみたいに、あまりにも自然な感じで。
 相川はしゃがみ込んで、そっと猫の背中を撫でた。

 それにしても、この金髪外国人さん、見れば見るほど大和さんにそっくりだ。そんなことってある? 何だか訳が分かんなくなってきた。
 あぁでも、それよりもこの練りきり。ものすごくよくできている。和菓子ってまず目で楽しむってのは本当なんだなぁ。
 へぇ、半にゃライダーって3まであるのか。歴代の半にゃライダーたちと思われる猫たちの顔がそれぞれ和菓子になっているみたいだ。他に登場人物、満沢デザインやトカゲ怪人デザインなんてのもあるようだけれど、そちらは凝りに凝っていて本人たちに差し上げるものらしい。

「そうだ、味見してみませんか? 実は新作ほやほやなんですよ」
 杉下も僕も全く異論はなかった。相川はちょっと甘いものは苦手、という顔をしていたが、勧められて一口食べると、美味しいと思ったのか、意外にもひとつ平らげた。僕と杉下は3種類のライダーを片づけた。モモタロウと名付けられたのは、純粋な小豆の味が楽しめる和風。ペーターと名付けられたのは、チーズ風味なんだけれど、これがまた意外に和菓子にマッチしている。そしてナオキという名前の練りきりには500という文字まで付いていて、上品なチョコの味がしていた。どれもすごく美味しい。

 杉下は和菓子を頬張りながら情報収集にも余念がない。『半にゃライダー』は他国でも放映されていてかなり人気があること、松江城は外国からも沢山観光客がやって来ていること、特に今日は「お城まつり」をやっているのでたくさん人が集まっているだろうということ、などを確認すると、とにかくお城ね、と僕たちに頷いてみせた。


「すごい人気なんだね……」
 松江城の特設ステージに辿り着いて、杉下が感心したように呟いた。
 そうさ、いつの時代にもヒーロー番組は子どもたちに必要なんだ。そこからたくさんのものを学ぶ。思いやりとか、強い心とか、正義とか。しかもこの『半にゃライダー』は人生には笑いが必要だということも教えてくれるみたいだ。それと、動物と人間が心を通わせて想い合うってことも。

「あ、見て。さっきの猫ちゃん」
 ほんとだ。って、猫用観覧席まであるのか。う~ん、やっぱり不思議だらけだ。
 僕たちはショーを見るというよりも、観客席をガン見していた。いや、僕は本当はショーも気になるんだけれど……
 と、どっちつかずで舞台と観客席を半分ずつ見ていた僕の服の袖を、相川が引っ張った。

 彼の視線の先には、ちょっと気になる4人組の女性たちがいた。僕たちよりは年上だと思うけれど、女性ばかりの4人組で、中の一人の白とも言えるプラチナの髪が目を引いた。
 目の色は? 距離がありすぎてよく分からない。でも相川は何かを確信しているようだった。って、オッドアイ同士の勘? まさかね。それとも相川ってアフリカの人くらいの視力があるの?

「ね」
 今度は杉下が僕の服の袖を引っ張った。
「あっち。見て、白い猫を連れてる3人。よく似た感じでしょ。姉妹じゃないかな」
 本当だ。『マニア受けする』かどうかは分からないけれど、少なくとも結構可愛い感じ。

 何はともあれ、近づいて確かめようということになって、僕たちはまず4人組の女性を見失わないように追いかけた。彼らはショーを途中まで見ていたが、時計を気にしながらショー会場から離れていこうとしていた。3人姉妹らしき女性の方は、ショーをガン見していたし、猫連れだったから最後までショーを見ているだろうと相川が言ったのだ。
 僕らが4人の女性に追いついたのは駐車場だった。彼らは車に乗り込むところだった。

「本当に出雲神社はいいの?」
「だってここから結構遠いじゃない。時間はあるんだから、明日ゆっくり行こうよ。取り敢えず八重垣神社の『鏡の池』よ」
「で、今日は早めに玉造温泉に行って、温泉とお料理……楽しみだね」
 会話はそれぞれの扉が閉まる音で聞こえなくなった。

 八重垣神社、玉造温泉。いずれにしても僕たちとはまたどこかで接点があるかも知れないってことなんだ。
 運転席に座ったプラチナの髪の女性がエンジンをかけた。
 次の瞬間、安全確認をした彼女が僕らの方を見た。正確には相川の方を。
 あ、という顔をしたように見えたけれど、一瞬のことだった。
 確かに。左が明るいブルー、そして右が焦げ茶のオッドアイだ。彼女は何かを確かめるように、相川の方を気にしながら車をスタートさせた。

「運命の輪」
 杉下が呟いた。
「え?」
「なんかすごい力が働いている気がする。上手く言えないけど、輪っかがいっぱいくるくる回ってて、それぞれ別々の法則で動いているんだけれど、それが時々接触するの」
「いちいち追いかけなくても、輪っかはどこかで必ずすれ違う」
 相川が杉下の言葉を引き継いで呟いた。

「簡単に言うと、袖擦り合うも他生の縁?」
 僕がさらに続いたら、二人が僕を振り返った。えっと、また変なことを言ったかなぁ?
「そう、まさにそんな感じ。縁の国、出雲だもん」
 杉下がにこっと笑った。いつも真面目すぎる顔をしているけれど、笑うと眼鏡の奥の目が可愛いんだよなぁ。


 杉下の言葉はその後、誰か(出雲の神さま?)が何かを証明したいみたいに見事に現実となっていった。
 次の出会いは堀川巡り遊覧船の中だった。
 不思議なことにその頃には「指令をやり遂げなくちゃ!」というような追い込まれた気持ちはなくなっていた。何かに導かれているような不思議な感覚が強くなって来ていたんだ。ただ、それと同時に少し相川の顔色が悪いような気がして気にはなっていたんだけれど、話しかけてみたらいつも通りの無愛想な反応だったので、勝手に大丈夫かなと決めつけた。

 毒気を抜かれた僕たちがショーをやっている場所まで戻った時には、界隈はものすごい人で、とても人探しができる状況じゃなかった。遠くに猫ちゃん観覧席が見えている。猫たちはみんな一糸乱れぬ風で、舞台の「ナオキ」というヒーロー猫の動きを首の動きで追いかけている。
 あ、あれはさっきの「石倉六角堂」の人だ。帰るところなんだろうか。怜子さんと呼ばれていた女性の方が一人で先に帰るようだった。ルドヴィコと呼ばれていた大男のイタリア人は猫ちゃん観覧席に向かっている。

 僕たちは結局ショーを最後まで見て(結構面白かった)、3人姉妹が離れていく先を追い掛けた。天守閣から離れて堀川の方へ降りていく。
「遊覧船があるのよ」
 杉下の言う通りだった。3人姉妹は僕たちの随分前方でしばらく列に並んでいたけど、他に興味を覚えることがあったのか、列を離れていった。
 僕たちは一瞬追いかけるかどうか迷ったけど、実のところ彼らと「縁」があるのは八重垣神社と分かっていたので、そのまま列に並んでいた。

 僕たちの乗る屋形船は10人乗りだったけど、何故か5人だけを乗せて出発してしまった。先に乗り込んだ2人が外国人で、一人がかなりガタイのいい金髪の男性だったからだろうか。もう一人はプラチナというよりも白髪の髪の女性だったけれど、彼女は丁度影になる場所に座っていて、目の色までは確認できなかった。
 相川は気にしているのかいないのか、ほとんど黙ったまま流れゆく景色を見つめている。

「やっぱり一人は猫ってのは、何か合点がいかないよね」
 杉下がしみじみと呟く。
「うん。茶虎仔猫の毛って、今さらだけれどじっくり見るとかなり短いし細いよね。結ぶのは無理じゃないかなって気がするよ」
「髪の毛って霊が宿るって言うから、集めて束にして、そうしたら何かすごいパワーが生まれるのかなぁ。もっと文献を調べてきたらよかった……あ、見て。桜、きれいねぇ」

 本当だ。水辺の鳥も、花見をしているかのように桜の木の下を優雅にすべっていく。築城当時からほとんど変わらないという堀の姿を見ていると、時代を逆行する船に乗せられているような錯覚に襲われる。桜も、今と同じようにそこにあったんだろうか。あ、ソメイヨシノってそんな古い品種じゃなかったよな。じゃ、僕たちは「今」物凄くぜいたくな時間を漂っているんだ。
 桜の花びらが風に乗って白い髪に舞い降りた。金髪の男性がそっとその髪から桜の花びらを捕まえる。光の中で髪も桜の花びらも、光に溶けそうだった。
 恋人同士なのかなぁ。映画のシーンみたいだ。
 ま、でも。僕の「親友」だって、相当に絵になるけどね。

 遊覧船を降りる時。僕は足を滑らせそうになって、思ったよりも勢いをつけて船を飛び降りるような格好になってしまった。杉下の叫びで慌てて戻ってみると、白い髪の女性の上に杉下が乗っかかるような格好で一緒に倒れていた。
 杉下は小柄な方だし、女性とは言え外国人の体格は随分としっかりしていて、まるで杉下を抱きかかえているように見えたけれど、感心している場合じゃなかった。僕は直ぐに杉下を助け起こし、傍にいた相川が「ごめんなさい」と言いながら、白い髪の女性に手を差し伸べた。

 一瞬。二人はじっと見つめ合っていた。
 やがて女性は自然に、優雅に相川の手を取り、立ち上がった。
「すみません」
 僕が改めて謝ると、杉下と相川も一緒に頭を下げてくれた。
「気にするな。今日は特別な日だからな」
 
 特別な日。
 本当にその通りだ。すごく綺麗なお人形がふっと笑ったように見えた。ここにもまたすごい美人。ルビーとサファイアのオッドアイ、花柄の優しい色合いのワンピースが霞んでしまうくらいだった。
 次々に現れる「すごい美形」に「オッドアイ」。この町で一体何が起こっているんだろう?
「八重垣神社に行こうよ」
 僕は杉下の声で我に返った。


「それにしてもほんと、不思議な日。今日だけで3人もオッドアイの人に会うなんて。あ、猫も足したら4人。これってどのくらいの確率で起こることなのかしら」
 ルドヴィコと分かれて一人で八重垣神社にお参りに行くと、4人連れの女性たちに会って、店まで送ってもらった。その中の一人がまた綺麗なオッドアイだったのだ。
 朝、店に来た高校生、そしてルドヴィコの憧れの人のそっくりさんが連れていた猫、その後店にやって来た白髪の異国の美人。

 不思議なことが起こっているみたい。
 そう、何か大きな力が動いている。
 怜子は鏡の池で直ぐに近くで沈んだおみくじを思い出していた。
 神の見えざる手。それがいつか私たちをきっと結びつけてくれる。
 それも、そう遠くない未来に。




次回、最終回、八重垣神社と神魂神社に参ります。
そして最後はやっぱり宴会か!(*^_^*)
ハリポタトリオは無事に「ループ」を止めることができるのでしょうか?
お楽しみに!

Category: 番外編・オリキャラオフ会in松江

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【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(3)君を忘れない 

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すっかり遅くなってしまいましたが、オリキャラオフ会・ハリポタトリオ高校生編の第3話です。
ちょっと長いのですが、これをさらに2話に分けて引き延ばすのは忍びなくて、一気に12000字です。いや、もうさっさと終わらせろよ、ってことですね。
しかも、なぜあっさりと引き下がれなかったのか、あれこれと拘っちゃいましたよ。下手するとこの倍の長さになりそうでしたので、ある程度端折らせていただきました。
一応、大団円、ということで、お楽しみください(*^_^*)

Special Thanks to:夕さん、ダメ子さん、けいさん、TOM-Fさん、サキさん、ふぉるてさん、cambrouseさん、limeさん


【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(3)君を忘れない
~学院の8つ目の謎と闘え!~


 松江駅まで戻るのに、どうせなら宍道湖を見ていこうということになって、僕たちはまた歩き始めた。途端に「あ」と杉下が声を上げる。
「この近くに、シジミ丼のお店があるんだ」
「シジミ丼! なんて素敵な響きなんだろ」
「さっき3つも饅頭を食べただろう」
「相川君、あれは饅頭じゃなくて、練りきり」
 美味しかったら饅頭でも練りきりでもどっちでもいいんだけれど、という男子の意見には、杉下は納得いかないようだ。

「僕らって、育ち盛りなんだよ。だいたい、饅頭、じゃなくて練りきり、食べたのって随分前じゃない? もうお昼だし」
 そう、遊覧船観光を一時間近くも楽しんでいたのだから。でも、いつの間にか、指令とかそっちのけで松江の町を楽しんでないか、僕ら?
 杉下は旅館でもらった地図を広げて場所を確認すると、すたすたと歩き始めた。僕は相川を促して後を追う。スナック、食事処、居酒屋などが本当に何気ない町並みの中に溶け込んで並んでいる地方都市の商店街に、目的の店、『蔵』は直ぐに見つかった。

 僕らは小さな中庭が見える座敷に案内された。座敷と言っても個室というわけではなくて、後ろの席の人の背中がぶつかりそうなくらいなんだけれど、そんなことは宍道湖名物シジミをふんだんに乗っけた丼を前にしては、どうでもいいことだった。
蔵のシジミ丼
「すっごいシジミ」
 杉下が思わず声を出したのも頷ける。丼鉢の中には、ご飯が全く見えないくらい、これでもかというようにシジミが犇めいている。同時に「いただきま~す!」と叫んで食べ始めた杉下と僕を横目でちらっと見た相川は、一度ふと中庭の方を見て、それからようやくシジミ汁のお椀を取り上げた。
 まぁね、北海道育ちの彼には、今さら「特別な料理」なんてないんだろうけれど。

 でもシジミ汁を口にした相川は、あ、という顔をした。僕と杉下は何となく顔を見合わせて、自分たちもシジミ汁のお椀を取り上げた。
「あ、美味しい。こういう汁ものを頂くと、日本人でよかったぁってしみじみ思うよね」
 その意見には僕も賛成。相川は、と思って見ると、返事はないけれど、珍しく穏やかな顔でシジミ汁を味わっていた。
 でも、やっぱりちょっと顔色が悪いかなぁ? いつもこんな顔だっけ? 無愛想なのはいつものことなんだけれど。

「シジミ汁で思い出したけど、新学期から食堂のメニュー、ずいぶん変わるんだってね」
「あれ? 杉下さんっていつもお弁当じゃなかったっけ?」
「うん。でも、たまには食堂に行くよ。それにメニューにはちょっと興味があるの。こんなには美味しくないけど、シジミ汁、結構好きだったんだけど」
「野菜とか魚とかの具だくさん味噌汁に替わるんだっけ。シジミ汁って、なんか二日酔いのサラリーマンのためのメニューみたいだかからかな」
「成長期の若者には栄養バランスが大事ってことね。あぁ、でもこんなに美味しいシジミ汁だったら、毎日食堂に行くのに」
「でも、僕たちがこのループから抜け出せなかったら、新学期は来ないし、新しいメニューには出会えないってことだ」
 唐突に相川が身も蓋もないことを言う。ほんとに、デリカシーとかないんだから。
 ま、事実だけど。
 

「やっぱり、このお札、怪しまれてない?」
 支払いを終えた後、ぽつりと杉下が言った。
「うん。僕らが持ってるお札、古いみたいだ」
「別の人が払ってるお金見たら、伊藤博文じゃなくて夏目漱石だったね」
 しみじみと時代が違うのだということを感じて、僕らは少し黙り込んだ。

 うじうじ考えても仕方がないので、気分転換にちょっと遠回りして宍道湖を見ていこうということになった。
「うわぁ。やっぱり大きいのね」
 当たり前だけれど、向こう岸は見えない。日本で七番目に大きい湖、海とは随分距離があるけれど、いくつかの川で繋がっているので、汽水湖ともなっている。大きな自然の力みたいなものを感じる。ここはその宍道湖の東の端っこに当たる場所だった。

「あ」
 珍しく相川が声を出した。
「何?」
「いや、何か光ったみたいな……というより、何か落ちて来て水しぶきが上がったみたいな……」
「ほんとに? 見間違いじゃないの?」
 湖には光が照りかえる。水面は凪いでいて静かだ。相川は黙ったまま湖面で跳ねる光を見つめている。それから自信がなさそうな顔で僕を見た。
 あれ? その表情、さっきの猫に似ている? って、そんなこと言ったら怒られそう。

 しばらく僕たちは言葉を交わさずに湖を見ていたけれど、事前に調べておいたバスの時間に遅れるわけにはいかないので、慌てて松江駅に引き返した。
 湖から離れる時、近くの公衆トイレの外に取り付けられた水道で身体を洗っている妙な格好の人を見かけた。
 仮装大会でもあったのかなぁ? でもって、湖に落ちた? あれ? 相川が見た水しぶきって……
 ま、何はともあれ無事でよかった。
 でも、一体どこから落ちたんだろう?


 八重垣神社。
「ご祭神はスサノオノミコトとクシナダヒメ。スサノオノミコトはヤマタノオロチを退治した後、クシナダヒメの両親の承諾を得て正式な結婚をしたの。それが現在の結婚の原型だったんだって」
「え? もともとは違ったの?」
「伝説なんかじゃ、それまではほとんど親の反対を押し切って駆け落ちとか略奪婚とか、ちゃんと結婚って形をとっていなかったのよ」
「駆け落ちに略奪婚! なんか古代ってエキセントリックだったんだなぁ」
 相川はやっぱり無表情。

 僕たちは社務所に行って百円を払っておみくじとなる薄紫色の和紙をもらった。相川は「僕はいいよ」って言ったけど、杉下が強引に三枚貰ってしまった。拝殿の左にある門をくぐって奥に進むと佐久佐女の森がある。木の根っこが網の目のように地面をはっている。やがて目的地の「鏡の池」に到着。
 そこには先客がいた。
 そう、まさに僕たちが会いたかった『マニア受けする』三姉妹だ。僕たちが近付いていくと、一瞬、不審者を見るような視線が向けられた。
 い、いや、決して怪しいものでは……

「こんにちは」
 声を掛けると、三人はきまりが悪そうな表情で池の面を見た。
 あ、そうか……恋占いの最中だもんね。変なタイミングで話しかけっちゃったかなぁ。何かその先に会話になりそうなことを探しながら、僕は彼らが浮かべたと思しきおみくじの和紙を見て、あ、と思った。さて、何と伝えたものか……
 逡巡していると、いきなり僕の脇から相川がボソッと言った。
「一円玉じゃ、なかなか沈まないと思いますよ」

 あ、言っちゃった。そう、彼女たちは何を思ったのか、十円玉とか百円玉ではなく、一円玉でチャレンジしていたのだ。これはまさにチャレンジだよね。
「やっぱりね。だから言ったじゃない」
「だって、もったいなから一円玉でいいって言ったの、ダメ美お姉ちゃんだよ」
「いいのよ。どうせ私たちは縁遠いんだから」
「だから五百円玉でしようって言ったのに」
「五百円玉はありえないよ」
「せめて五円玉……」
「だって、五円玉、財布になかったもの」
「やっぱり縁がないのよ、私たち。だって、もう一時間以上待ってるのに」

 口々に言いたいことを言い合っている。なんかいいなぁ。僕には兄弟がいないから、何となく羨ましかった。彼女たちの占いの紙に浮き出た文字は「金運にめぐまれる縁・北と東・吉」「信念をもて願いかなう・西と北・吉」「静かに待て運開く・南と東」と、それなりにいいことが書かれているものの、恋愛に関する言葉はない。
「じゃ、これどうぞ、使ってください」
 そう言って杉下が可愛い巾着から五円玉を出してきた。何だってそんなに五円玉があるの?
「お祖母ちゃんが数珠状にしてくれるんだもん」
 なんか、杉下のお祖母さんって雰囲気ありそう……

「でも、今さら、人からもらったお金を追加するなんて」
 次女って感じのちょっとかわいい子が(でも、多分年上だよね)遠慮がちに言った。
「金運にめぐまれる縁、ってそこに書いてあるからいいんじゃないでしょうか?」
「それにこちらにもメリットがあるんです。ぜひ、お願いします。多分これ、縁結びだから」
 杉下が追加した。あ、そうか。『マニア受けする三姉妹と縁を結ぶ』……指令にあったよね。なるほど、五円玉で縁結び、ってわけか。逆に、そんな程度でいいんだね……

 とか言っている間に、彼女たちの運命を占う和紙はいろんな方向へ動き始める。あっち行ったりこっち行ったり、これまで一時間の間にも随分彷徨ったのだそうだ。沈まないままで。
 すると、相川が五円玉三枚を杉下から受け取り、立て続けに見事なコントロールで三姉妹の占いの紙の上に五円玉を投げ重ねていった。
 紙は見事に沈んでいく。
 相川って、マジシャン?
 後からこそっと「すごいね、どんなコツがあるの」と聞いたら、「もうずいぶん経ってたから、紙は十分に水を吸っていたし、あとちょっとの刺激で沈むところだったんだ。だから特別なことは何もしていない」と事もなげに言ったけれど、いや、僕が言いたいのはコントロールのコツだよ。

「そう言えば、同じ旅館でしたよね?」
 あ、気が付いていたんだ。
「それだけじゃなくて、実はお城まつりの『半にゃライダーショー』の会場でもお見かけしました。あれ、そう言えばねこちゃんはどうされたんですか?」
「ヘブンは、あ、猫の名前ですけど、ねこちゃんファンの集いに参加してます。後で旅館まで送り届けてくださるそうで、しかも夜はナオキと満沢さんも同じ旅館に泊まられるそうですから、宴会になるかも……」

 そのうち彼女たちが興味津々で僕たちの占い用和紙を見た。あ、僕たちの占いが残ってるんだ。
 そんなガン見されたらやりにくいんだけど……と思いつつ、僕たちは注目を浴びながら、占いの紙を「鏡の池」に浮かべることになった。
 え? 結果はどうだったか? 杉下の紙には「開運のきざしあり」と出た。和紙は結構遠くへ行って、そこそこ時間が経ってから沈んだ。まぁ、高校生の紙がさっさと沈んだりしたら、それこそどうなのよって感じだと思うけれど。でも、僕のは「信念を持て、願い叶う」とあって、すぐ近くで、杉下のよりもかなり早くに沈んだ。

 えっと……相川の視線がちょっと怖い。
 実は、僕は彼の妹と仲がいいんだ。勉強を教えてあげたり、相談ごとに乗ったりしている。世間的に言うと、付き合っているということになるのかなぁ。噂は結構広まっているから、横で杉下が「ふ~ん」と意味深に僕の顔を見た。シスコンの兄貴に殴られないようにね、と言っている顔に見えた。

 で、問題の相川のは……
「あ、あれってイモリ!」
 本当だ。ちょっと季節が微妙だから出てこないのかと思ったのに、まさに相川の浮かべた紙の傍にやって来て、しばらくつついているように見えた。この池でイモリを見ることができたら、幸運が訪れるって話なんだ。
 浮き出た文字は「待ち人来る、大切にせよ」。
 彼は、誰を待っているんだろうか。ま、占いなんて、いいように解釈するだけなんだけれど。

「なんか、イモリが遊んでるみたいね」
 何が気になったのか、イモリが相川の紙を弄んでいるように見えた。そのせいかどうか、短い時間に紙はあっちいったりこっちいったりで、しかも驚いたことに、相当の短時間で沈んでいった。しかもかなり近いところで。
 相川は隣で無言。杉下も僕もあっけにとられていて、三姉妹は何か感心したように僕たちの方を見ていた。
 僕にはイモリが引きずり込んだように見えた。
 なんてのか、「こいつは誰にも渡さないぞ」的な外力をイモリに感じたのだ。考えすぎかな。

 夜の再会を約束して三姉妹とは別れた。
 杉下が気を取り直したように咳払いをして、あの「伝言の紙」を取り出した。今朝、ホテルのフロントで渡された紙だ。手触りも何もかも、さっき浮かべた紙と同じだった。
 杉下は僕たちの顔を見て、それから池に浮かべた。
 浮き出た文字は……ねこなわけないがや。
 な、なに? それだけ?

「どういう意味?」
「ねこのわけがない、ってことかな」
「あ、四人目のオッドアイのことかも。やっぱりそうか。じゃ、もう一人、オッドアイの人がいるってことかぁ。私たちが四人目は猫? なんて言ってたから、注意してくれたってわけ? なんか馬鹿にされてるみたいだけど」
「旅館再会率高そうだから、戻ってみる?」
 杉下と僕があれこれ計画を話し合っている時、相川がふら~っと僕らの傍を離れていった。杉下と僕は顔を見合わせ、慌てて後を追いかける。


「相川君、どこ行くの?」
 話しかけても返事がない。いつも通り無表情な感じで、ちょっと見たところいつもの相川なんだけど、意識がここにないみたいに見える。そう言えば、昼前から少し顔色が悪かったような気がしていたんだ。
「ね、バスの時間に遅れちゃうよ」
 それでも相川は僕たちの言葉を無視して歩いていく。
 神社の敷地を出て、集落の家々の間の細い道を、まるでよく知っている場所を歩いているようにすたすたと進んでいく。少し進むと道は農道のようになり、周囲の景色は畑や低い山並み、それに少し曇った空が手の届く場所のように見えた。
松江1
 杉下と僕はもう開き直っていた。僕たちの占いの紙に書かれた「吉」の方角は全て東。相川はその東の方向に向かっていた。道は車も通れないような道になり、やがて池の脇を通って、また少し集落の建物が見えてくる。杉下は冷静に地図を分析している。彼女は珍しく「地図の読める女」なんだ。男の僕の方が、むしろ勘に頼っている。
「神魂神社に向かってるのよ」
 距離にして約二キロメートル、二十分ほどで僕たちは問題の神社の入り口に立っていた。
松江2
 相川は立ち止まることなく参道の鳥居をくぐり、高い木々に覆われた階段を上っていく。僕たちは相川の後を黙ってついて鳥居をくぐった。口も利かないし、何かに憑りつかれているようにも見える相川だけど、ちゃんと手水舎で作法通り手と口をゆすいで身を清めた。


 神魂神社。かもす、って読む。本殿は現存する最古の大社造で国宝に指定されていて、伊弉冊大神(イザナミ)と伊弉諾大神(イザナギ)を祀る神社と言われているけれど、中世末期ごろからのことで、それ以前の祭神は不明だそうだ。
 この神社を造ったのは、大国主命に出雲大社祭祀をするようにと命じられた天穂日命と言われているけれど、『出雲風土記』にも『延喜式神名帳』にも神魂神社についての記載はないんだそうだ。隣にある出雲国造家の私的な斎場だったという説もあるし、もしかするともともとは土着の古い神様を祀る場所だったのかもしれない。

 観光スポットというわけでは無いようだけれど、その本殿は、いわゆる瑞垣に囲まれているわけではないので、すぐ傍に行って見ることができる。古い木で、よく朽ちることもなくここまでもっていたのだと思う。
 相川が作法通りにお参りをする傍で、僕たちも同じようにお参りをした。そう、少し相川の様子を心配しながら。
 横顔は白っぽく、唇だけが赤く見えている。耳にかかる髪が光で震えているようで、僕は思わず見とれてしまう。手の届かないものを遠くから見守っているような気持ちで、僕は手を合わせた。
 ずっと、友達でいれますように。

 その時、杉下が僕をこついた。
「何?」
「あのね、さっきからつけられてるのよ」
「え?」
 振り返りかけた僕を、杉下が鋭く制する。
「振り返っちゃダメ」
 僕は小声で確認する。
「どんな人か見たの?」
「ううん。何か視線を感じるんだけど……」

 と言っているうちに、相川が本殿を離れて境内の中をすたすたと歩いていく。見失っては事と、僕らはとにかく後を追いかけた。
 小さな社の奥に、不思議な場所がある。二本の木の間に竹と注連縄のようなものが渡してあって、結界を作っているように見えた。その中には、一段高くなった石の囲いの中に竹で編んだようなものがある。
「神籬だ」
「ひもろぎ?」
「うん。指令書にあったでしょ。神様が降りてくる場所」
「神籬を越えて、正義貫く猫に導かれて、洞穴に納める……」
 確かに指令書にはそう書いてあった。僕たちは顔を見合わせた。確かに奥の方に小さな洞穴がある。
「でも私たち、まだ納めるためのものを何も持っていないよ」

 杉下がそう言った途端だった。
 相川の身体が足元から崩れ落ちた。身体から力が抜けおちていく様子がスローモーションのように、僕の網膜に映っていた。
 僕が駆け寄ろうとしたその瞬間。
 僕たちの脇を突風が吹きぬけたみたいだった。大きな影が相川の方へ駆け寄り、彼を抱き止める。
「あ」
 思わず杉下が声を上げた。
 それは、「石倉六角堂」で会った、大和さんそっくりの金髪外国人だった。
 

 そして、四月八日夜。
 僕たちは玉造温泉に戻って、湯之助の宿・長楽園の宴会場にいる。一体何が何でここに至り、誰と誰が繋がってこうなってるのか、僕たちはほとんど訳が分からない。でも、何だか大盛り上がりなんだ。
 宴会場の金屏風の前には、大壺に活けられた桜の大きな枝。金屏風には、少し曇っていて見えにくかった月も、見事に写し取られている。

 注目すべきは、この宴会場にも猫用の席が設けられていることだ。一体どうなっちゃってるんだろう?
 最も態度のでかそうな目つきの悪い猫が、その席のボスのようだ。まるで牢名主のように見える。ああ見えて、意外にこの席を楽しんでいるのかもしれない。

 その中に「石倉六角堂」で出会った、相川そっくりの茶虎仔猫もいる。隣にいるのは『半にゃライダー』の役者猫・ナオキだ。やっぱりスターには風格がある。彼が被っているのはにゃんキャップ。スターであることを隠すためのお忍び用キャップだろうか。それに三人姉妹が連れていた白い猫。
 白い猫と茶虎仔猫は、番組スタッフから贈られたらしい半にゃライダーの半にゃ面を被らせてもらって、すっかりご満悦のようだ。
 友達ができて良かったな、と僕は茶虎仔猫を見つめる。その時、茶虎仔猫がこっちを見て「にゃん」と鳴いた。え、っと。まさかね、通じた?

 その傍にいるのは、今度医療系ドラマに主演するスター、『半にゃライダー』の満沢さん、こと、Dr.真田こみかど倫太郎さん。黙っていても笑っているような顔を変えることもなく、番組内では敵対する役の役者やスタッフと一緒に和やかに飲んでいる。
 あ、猫たちがナオキに連れられて満沢さんたちの方へ移動する。みんなにちゃんと紹介するってことかな。

 もちろん、ふてぶてしい猫はそのまま席に残っている。何故か残された彼のところへ、お酌をしに一人の男が寄っていったが、睨まれてすごすごと戻っていった。あの人、茶虎仔猫の絵をくれた美形画家さんの連れの人だ。
 お酌って……ミルクか何かな?

 三姉妹と杉下は何となく話が合うのか、合わないのか、割と仲良く話しているようだ。一番下の子が高校生で、僕たちと同い年っぽいから、話が合いやすいのかも。
「シジミ汁、美味しいね」
 何故か、地味にシジミ汁の話に花が咲いているようだ。

 そうそう、確かに、酒にシジミ汁って合うのかもね。いわゆる宍道湖七珍と言われる魚介類がふんだんに振る舞われていて、僕はもうお腹いっぱいになっていた。そう、特にこの季節はシジミとシラウオが旬で、抜群に美味しいんだって。
「うぅ、シジミ汁、飲み過ぎた」
「分かる。なんか、シジミの呪いみたいに『食ってくれ~』光線がでてるんだよね」
 相川はあまり食欲はないみたいだけれど、シジミ汁だけは美味そうに口にしていた。

 僕はまた宴会場を見回す。
 向かいに、お城で会った四人組の女性がいる。その中の一人は車を颯爽と運転していた、白髪に近いプラチナの髪の女性。オッドアイチームの一人で、敷香と名乗った。時々相川の方を見て、少し心配そうな顔をしてくれる。いい人なんだろうな。それにみんな仲が良さそうだ。

 その隣には、アメリカから来たと言っていた四人連れ。そのうちの一人と目が合って、僕は赤面して下を向いた。さっき露天風呂で見るともなしに見てしまった彼女のナイスバディを思い出してしまったのだ。それに今も、浴衣の袷から谷間がちょっと……
 ちらっと別の席の四人組の方を見ると、あの時僕に「ラッキーだぜ」サインをくれた稔さんが、もう一度僕に「俺たちほんとラッキーだよな」サインをくれた。

 アメリカからの四人連れの中に一人、男性がいる。日本人の女性の旦那さんらしいけれど、尻に敷かれている感じ。
 僕も結婚したら、あんな感じなのかな。鏡の池の占いでは、それはそんなに遠い先じゃないみたいな感じだったけれど。
 そうかぁ、葉子ちゃんと結婚したら、相川は僕の「お兄ちゃん」になるんだ。それも悪くないな。親友で義兄。うん、悪くない。って、気が早いか。まだ親友になってってプロポーズの返事ももらってないし。

 二組の四人組の中から女性二人が、妙に気が合ったみたいで、酒がものすごく進んでいる。あんなふうに、自然に友情を感じ合えるっていいなぁ。それに、女性って、やっぱり強いんだなぁ。あ、なにって、お酒だよ。
 それから、堀川巡り遊覧船で同舟だった、絵になるカップル。カップルなのかどうかわからないけれど、でも絶対、指輪を探しに行く映画とかに出ていそうなんだ。女性の方はオッドアイチームの一人になるわけだけれど、こちらもまた見事な白髪で、時折、ちらっともう一人の白髪女性を見る。オッドアイ同士、魅かれるものがあるのかも。
 あれ? 女性同士か。

 さらに、やや年配で上品な、でも時代がかった感じの異国の男女。どこか面差しが似ているから兄妹なのかな。静かに日本の風情を楽しんでいるようだ。あんなふうに歳を重ねられたらいいなぁ。
 そして、何と大収穫があった。もう一人、オッドアイの人がいたのだ。
 確かに「ねこなわけないがや」だよね。
 その人、言語は妙に訛っているのだけれど、日本語っぽいものを喋っている国籍不明なんだ。日本酒を飲んだら日本語が分かるようになったという話をしていたけれど、それってすごいなぁ。
 でも、いつかそんな時代が来るのかもしれない。いろんな国の人がちゃんと理解し合えるようなツールができて……でも酒の力となると、ちょっと怪しいけどね。

 美形の画家さんの隣にいるのは大柄で「かっこいい」という感じの女性。柔道でもやっていたのかな。すごくお酒が強そうだ。猫にお酌をしに行ってすごすごと戻ってきた男性も一緒に、何となく不思議な距離感で宴会を楽しんでいる。美形の画家さんは、小さなスケッチブックに何か描いている。
 なんか、ちょっと不思議だけれど、いい感じだなぁ。くっつかない三角関係、っていうのかな。
 で、僕らは? うん、多分、僕らだって結構いい感じの高校生トリオのはず。愛とか、そういうのにはまだ遠いけれど、恋したり、友情を感じ合ったり、そして仲間を思いやったり、そんな気持ちは沢山あるから。

 そして、湯上りの浴衣姿がまたたまらなく素敵な『すごい美人』の蝶子さんが、ふと相川の方を心配そうに見てから、僕に視線をくれた。
 ちゃんと守るのよ、と言われている気がした。
 僕は頷いて、そして手元にある髪の束を見つめた。四人のオッドアイを持つ人の神聖な髪。髪には霊力が宿るという。それを清められた和紙で包み、『すごい美人』の髪で結わえてあるのだ。
 問題は、ナオキに頼んで一緒にまた神魂神社に行って、あの神籬を越えて洞穴にこれを供えなければならないってことなんだけれど、どうやってナオキに頼めばいいんだろう?


 実は、僕たちを宴会に呼んでくれたのは蝶子さんだった。
 あの時、神魂神社で僕たちを、というのか相川を助けてくれたのは、茶虎仔猫の飼い主のタケルさんだった。なんか違和感があるけれど、相川の保護者である大和さんのそっくりさんだ。

 もしかして、僕らのことをつけて来ていたのかと思ったけれど、そういうわけじゃないみたいだった。
 神魂神社で僕らを見かけて声を掛けようとしたら、相川が急に倒れたんだって。彼は神社仏閣にある色々なものを修復する仕事をしていて(やっぱりこれって、おかしくない? 大和さんとあまりにも合致する要項が多いよ)、今日から出雲大社に行く予定だったみたい。今日は夕方から、出雲の方で打ち合わせと称した宴会があって、時間的に際どかったんだけれど、茶虎仔猫・マコト(こっちまで何で名前が一緒なんだ)をお城まつりの『半にゃライダーショー』に連れて行ってくれる人が見つかったので(「石倉六角堂」の人たちだね)、空いた時間を利用して、日本最古の大社造の本殿を見るために神魂神社にお参りに来たところだったんだって。

 本当のことを言うと、僕が相川を助けようと手を差し伸ばしたのに、彼が横から掻っ攫って行ったみたいな、変な気持ちだったんだ。
 そっくりな人にも僕は敵わないのかと、ちょっと悔しくて。
 でも、何はともあれ、意識を失っちゃった相川と僕たちを、松江の町まで車で連れて戻ってくれた。救急病院に行って、ただの脳貧血でしょうという診断を受けて、相川が気が付くまで付き合ってくれて、それから玉造温泉に送り届けてくれた。

 そこで、夜桜見物帰りの蝶子さんたちとばったり会ったんだ。
「あれ、どうしたの?」
 まさか向こうから声を掛けてくれるなんて。蝶子さんはタケルさんから事情を聞いて、すぐに旅館の人を呼んでくれた。
 タケルさんは、出雲の約束の時間には遅れたと思うけれど、明日は早朝から忙しいみたいで、旅館の入り口で茶虎仔猫と再会した時も、猫に向かって「明日夕方迎えに来るよ」と言って慌てて出ていった。
 猫はちょっとさびしそうに彼を見送っていたけれど、仲間ができたし、スターのナオキも一緒だったので、すぐに気を取り直したようで、ナオキ御一行様の看板を見て誇らしげに顔を上げた。

 蝶子さんはすぐにでも宴会に行きたかったに違いないのに、少しだけ僕らに付き合ってくれた。部屋まで僕らを送り届けてくれて、さらに旅館の人に布団を敷いてと頼んでくれたけれど、相川は大丈夫だから、と言った。
「ちょっと横になってた方がいいんじゃない?」
「いえ。本当にもう大丈夫です。それより、あなたに折り入ってお願いがあるんです」
「え? 私?」
 蝶子さんは僕らの事情を黙って聞いてくれた。もちろん、説明したのは杉下だ。一番理路整然と物事をまとめて話すことができるのは彼女だから。

 でも、この『すごい美人』が、まさかこの荒唐無稽な話を信じてくれるなんて、僕はその時全く思ってもいなかった。
「そうか。何だか妙なことが起こっていると思ったのよ。時代も、微妙に変だし」
 蝶子さんの理解と受け入れは無茶苦茶に早かった。宴会のメンバー、いつの間にか芋づる式に集まっているから、その中にオッドアイメンバーは沢山いるはずだし、私が頼んであげるわよ、とあっさりだった。
「だから、もちろん、あなたたちも参加よね?」
 まさか、単に宴会メンバーを増やしたいだけ、とも思われたけれど、こういうのを「渡りに船」って言うんだよね?

 宴会が始まるや否や、蝶子さんは僕らを連れてオッドアイチーム巡りをしてくれた。事情を説明しても、誰も「そんな馬鹿なことがあるか!」とは言わなかった。
 やっぱり、ここ自体がかなりおかしいんだな。そして、みんなおかしいと思っているってことなんだ。でも、少しの不安を抱えながらも、みんなこの時を楽しんでいる。
 そう、時々触れ合う不思議な『運命の輪』を。


 と、その時。また余興が始まったようだ。
 大道芸人メンバーが、各参加者から余興出演メンバーを募っている。稔さんが三味線を二丁、担いできて、相川を連れて行ってしまった。
 え? どうして相川が三味線弾けるって知ってるんだろ?
 太鼓役はさすがに素人には無理というので、旅館の仲居さんにお願いする。

 連れて行かれた踊りのメンバーは、大道芸人のヴィルさんとレネさん、アメリカから来たポールさん、猫に睨まれていた玉城さん、『半にゃライダー』キャスト・スタッフはみんなノリノリだ。手ぬぐいで頬かむりをして、鼻に五円玉で作った鼻当てをつけ(五円玉はもちろん、杉下の提供だ。どんなけ持ってるんだ?)、魚籠を腰に、ざるを頭に被って、中腰で尻を突き出しての登場となった。
 稔さんと相川の三味線が乗ってくると、踊りもノリノリになっていく。女性陣とにゃんこたちまで飛び入り参加だ。そしていつの間にか、三味線に重なるカラオケは、『半にゃライダー』のオープニングテーマ。相川と稔さんの三味線も、安来節からメドレー式に『半にゃライダー』テーマへ移っていた。

「きゃ~!」「きゃ~~!」
 はっと気が付くと、シジミ怪人に扮した小和田常務(あ、これは役名だった)が安来節の列に乱入、踊りに参加していたキャシーさんと洋子さんを人質に取ってしまった。
『半にゃライダー』ごっこの始まりだ。
 怪人の用心棒は、侍の被り物が似合うような似合わないようなヴィルさん。そこへ、にゃんこ親衛隊に囲まれたナオキが登場してシジミ怪人と闘う。

「シジミ怪人! お前の望みはなんだ!?」
 満沢さんが叫ぶ。
「全国の食堂の味噌汁を全てシジミ汁に替えてやるのさ! いーひっひ」
「なぜ味噌汁と共存できないんだ?」
「予算の都合だろう! とにかく、シジミはシジミ汁が一番なんだ!」

 あれ……?
 僕と杉下は顔を見合わせた。あ、僕はドジョウ掬いの恰好のままで、杉下はシジミ汁を口に運びかけたところで。
 どこかで聞いた話だ。
 僕たちの学校の食堂は、ずっとシジミ汁だったんだ。それが四月九日、つまり新学期から味噌汁になる(多分、シジミは入っていない)。
 相川の方を見たら、三味線を叩きながら、僕をじっと見つめていた。

 風が吹いたのか、地震のような地鳴りなったのか、一瞬視力が奪われたと思った後、ふと見ると、国籍不明のレイモンドさんと名乗った人と上品な感じの男女が消えていた。
 大きな風のようなものが宴会場を通り抜けていく。耳が引っ張られたみたいな気がする。
 その時だ。金屏風が巨大シジミになって、いきなり口を開けた。
 え? これ、なんかの演出? 撮影? 宴会の余興にしてはお金、掛け過ぎだよね。

「こっちにゃ!」
 その時、ナオキの声が聞こえた。杉下さんが弾かれたような顔をして、みんなから貰ったありがたい髪への、じゃなくて神への捧げものを掴んで、僕らのいる舞台の方へ走り寄って来た。僕は杉下さんと手を繋ぎ、相川の腕を取って、ナオキの声のするままに巨大シジミの中に飛び込んだ!


 ……まさかの、どこでもドア・シジミ版……?
 それとも、誰かが噂していた「龍王様の根の道」?
 そこはあの神魂神社の神籬の後ろの洞穴だった。というよりも、その時には僕たちはすでに洞穴の中の暗闇にいて、ぐらぐらに振り回され、何かに吸い込まれていっていた。
 シジミと神社が繋がっていたんだ……
 そして、もしかしたら、過去の僕たちの学院とも……
「またいっしょにあそぼうにゃ~!」
 最後に、茶虎仔猫マコトの声が聞こえたような気がした。


「それで、結局、食堂のシジミ汁はたった三日で復活したってわけ」
「予算の都合は?」
「うちの学院、島根県松江市にある学校と姉妹校になるんだから、きっと新しくパイプができるのよ。誰の口利きか、分からないけど」
「確かに、そうなれば食堂のメニューから松江の郷土料理を外すわけにはいかないものね」
「まさか、これって、シジミ汁の陰謀だったの?」
「え? シジミ汁が何をしたの?」
「メニューから外されるのが嫌で、学院をループの中に閉じ込めた。メニューから外される四月九日が来ないように。でも、復活が決まったので納得した……」
「えっと、夢を見てたんだよね。まさか、シジミ汁に意思があるなんて……」
「何言ってるの、富山くん。ここに戻って来た時、ドジョウ掬いの恰好だったじゃない」
「二枚目の指令書、どうして島根弁なのかと思ってたんだ」
「え~、シジミが手紙をくれたのかぁ~。しかも宍道湖のね。一通目は普通の文章だったよ」
「一通目もあんまり普通じゃなかったけどね。つまり、最初の指令書は頑張ってみたけれど、次までは緊張感が持たなかったという、小説によくありがちな『尻すぼみ』ってやつよ。気が緩んだら方言が出ちゃったのね」
 なんじゃそりゃ。

 そう、あの宴会の最中、シジミ版どこでもドアを介して、僕たちは突然、学院の食堂に戻ってきた。
 そして、食堂のメニューからシジミ汁が削除されているのを見て、僕たちはあの美味かったシジミ汁の味を思い出した。
 ダメもとで食堂係の先生(なんと小和田という名前なんだ)に掛け合ったら、僕たちの話を聞いてくれた。そこで、丁度姉妹校の話があってね、……なんてことになったのだ。

「そう言えば、八重垣神社で相川君、急に変な感じになったでしょ」
「うん。何かに呼ばれているような気がしたんだ。あの神籬の前に立った時、この場所を記憶して、よく頭の中に留めておくようにって、そういう声が聞こえた。多分、イメージがなければ、その場所に繋がらなかったんだと思う」
「シジミのどこでもドアが?」
 相川は少し微笑んだように見えた。
 そう言えば、あの人、大和さんに本当にそっくりだったね、と言いかけて僕は口を噤んだ。
 相川の恋占いのことも少し気になったけれど、あまり追求しないことにした。
 誰かを想っている。その気持ちは誰にも止められないから。

 でも、オッドアイの髪の毛は何の関係があったんだろ?
 そうか……『袖擦り合うも他生の縁』を繋いでくれたんだよね。やっぱり、人と人は胃袋(と温泉)で繋がっているのかもしれない。
 どこかから、茶虎仔猫の声が聞こえてきた。


 またいっしょにあそぼうにゃ~。

(オリキャラオフ会in 松江 了)



無事に閉幕いたしました、オリキャラオフ会。多分私がラストバッター、ですよね?
細かい点はもう無視してくださいませ。だって、真面目にプロットを立ててもいないし(あ、それはいつものことか)、辻褄が合わないところがそこかしこにあるに違いない。
えぇ、何だかわちゃわちゃと楽しかったということで、許してくださいませ。
いや、久しぶりに、行く先を考えずに「取りあえず書き始めて、次々にハチャメチャな展開にする」というリレー小説を思いだしました。皆様の書かれた部分に抵触しないように気を付けたつもりですが、何だか間違っていたらごめんなさい!

で、これは一体何の話だったんだ??
シジミの呪い?
だって、ループものですからね。うる星に倣えって感じです。
真ったら、シジミに憑りつかれてたのですね。リクの金魚といい勝負だ。
リクが今度、シジミに憑りつかれた少年の絵を描いていたら、それ、きっとこの時のスケッチに違いありません。
いや、もしかすると、イモリと化して見張りに来た某保護者に憑りつかれていたのか……
じゃ、リクがイモリに憑りつかれた少年の絵を描いていたら……(゜-゜)
でも、この鏡の池でイモリに出会えたら、ラッキーなんですって!

松江の『蔵』は以前に行ったことがあったのです。でも、松江の町自体の観光はせずに、レンタカーで通りかかってお昼ご飯を食べただけ……今度はぜひ神魂神社と八重垣神社に行ってみようかな。
風景は、Google mapから頂きました。
それから、よく考えたら、この旅行は「龍王様のツケ」で行けたんですね。ハリポタトリオ、ついつい財布を出しちゃいましたよ。でもまだ1万円札が福沢諭吉に変わっていることは気が付いていないかも。

「また一緒に遊ぼうぜ~」
チェッカーズのコンサートのラストは、いつもこの言葉でした。あぁ、本当に懐かしい。
夕さん、とても楽しい企画をありがとうございました!!

Category: 番外編・オリキャラオフ会in松江

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【オリキャラのオフ会】また一緒に遊ぼうにゃ~! 

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また一緒に遊ぼうにゃ~!
あの言葉からわずかに2か月。静まり返っていた水面に、新たな一石が投じられた!


この記事の最後の方に、皆様の作品ラインナップを載せております。
発表順となっておりますので、ぜひご覧ください!



みなしゃん、こんちにわ~(=^・^=)
ぼく、ホッカイドウのじいちゃんに、にくきゅうでおてがみを書いたの。
そうしたら、タケルがフシギそうにおてがみを見るんだ。
やっぱり、ニンゲンにはよめない……?
でも、じいちゃんはよめるかも!
……だめ?

だから、ぼく、ちょっとおべんきょうしました!
ほらね!
マコトの手紙
どうしてぼくが、じいちゃんにおてがみを書いたかというと……
あのね、ことしの夏、タケルはおしごとで、とおくに行っちゃうの。
でも、なんべ~のじゃんぐるだから、ネコはつれていけないんだって。
だって、じゃんぐるではいつでも食事のジカンだから……(TDL?)
(タケル註:なんべ~って、ぬ~べ~じゃないんだから。南米の遺跡調査の手伝いです)
だから、ぼく、おるすばんすることになったの。
でも、ぼく、ひとりぼっちで何日もマンションでおるすばんはできないもん。
それでね、タマのおうちとホッカイドウとどっちに行きたい? ってタケルに聞かれたの。
あ、タマって、ねこのなまえじゃないよ!

タマのおうちには、シュクテキがいるんだ。
でもね、あのね、シュクテキとぼく、さいきん、けっこう上手くやってるよ。
イノチガケでオニごっこもするけど、シュクテキのおなかのよこでねたりもするの。
トモダチみたいにふわふわじゃないけど、ぼく、がまんしてやってるの。
ぼく、ちょっとおっきくなったから、シュクテキはもうぼくをいじめられないんだ!
ぼくがかんだりキックしたりしなかったら、おこらないもん。
(タケル註:マコト、おまえ、ボクサーに相手にされていないんだよ。あ、ボクサーというのはマコト曰く「シュクテキ」(シェパード)の名前です。まぁでも、以前に比べたら、トムとジェリーさながらに、仲良くやっているようです)

だから、タマのおうちでもいいんだけど、やっぱりホッカイドウに行きたいんでしゅ……あ、行きたいです。
ホッカイドウ、夏はとってもすずしいんだって! ぼく、暑いのキライ。
あれ? タケル、それなぁに?
あ、おうまさん!
ね、ね、なに、かいてあるの? にくきゅう文字にホンヤクして!

オフ会

というわけで、オリキャラのオフ会第2弾、ついに解禁!
何と幹事はうちのマコト!(大丈夫か、マコトで? 数も数えられないのに……)

オリキャラのオフ会とは?
第1回 オリキャラのオフ会in松江
要するに、オリキャラが集まって「どんちゃん」しようというだけの企画。
前回、幹事をしてくださった八少女夕さん(あるいは蝶子?)の説明をお借りしますと。
「オリキャラのオフ会」は、同じ日に特定の場所にオリキャラたちを集めて、それぞれの方が、小説・マンガ・イラスト・詩などを書くという企画です。当日、そこにいるとわかっているキャラたちと勝手にすれ違ったり、交流したり、ドロドロのドラマを展開してもいいというコンセプト。
と言っても、誰が行くかわからないと、交流のしようもないでしょうから、参加してくださる方は、この記事のコメ欄に予め「うちはこのキャラが行くよ」と申し出てくださるといいかと思います。また、早く発表した方のキャラはそこにいるということですから、勝手にすれ違ったり、目撃したりしてくださいませ。」

今回も同じコンセプトですが、スケジュールを少しアレンジしています(*^_^*)

今回のオフ会会場は北海道
北海道浦河の牧場経営者・相川長一郎氏プレゼンツ、8月13日帯広の勝毎花火大会に皆で集うという企画です。
あれ? ホタテ怪人の陰謀じゃなかったのか、って?
いや、そんなに毎回、貝のお化けが出てくるのもちょっとね。
でも、もしかすると、ホタテ怪人の陰謀が潜んでいるかも?
とは言え、美味しいものはどっさり! 盆踊りに花火大会! 宴会の限界に挑戦?


ルールは?
★ このオリキャラを参加させるよ~という表明をしてください。
  前回参加された場合、前回と同じキャラでも、また違うキャラでも構いません。
  初めてさんで、うちのキャラ、みんなに知ってもらっていないわ~という場合
   →コメント欄で自己紹介をお願いします。
★ 自力で北海道に来てください。
  時空を超えても構いませんが、現地までの交通費は各自持ちでお願いします。
  なお、集合~花火大会の全ての費用は、牧場での労働により相殺されます。
★ 浦河の牧場には8月10日夜までにご参集ください。
★ 集合までに北海道の観光地、どこかひとつを巡って、お土産を持ってきてください。
  お土産は食べものである必要はありません。
★ 書いていただく部分・回数に特に制約はありませんが
  北海道観光名所をひとつ入れて、買い物をしてきてください(お土産)。
  (北海道、広いけれど、名所は……なので、結構誰かと会うかも?)
  牧場のお仕事・宴会、盆踊り・花火大会なども、よろしければぜひお書きください。
  (一緒に働いたら、思わぬ恋の花が咲くことも?)
  お友だちのオリキャラの誰かと一度は絡んでください。
  (絡みの内容は問いません。目撃でもドロドロでも可)
★ 発表の時期は7-8月あたりを目途に、と思いますが、特に締め切りは設けておりません。
★ 大海は8月20日前後に、マコトの夏休み日記を発表します。
★ 皆様の作品にはリンクして飛べるように、こちらの記事でまとめさせていただきます。


スケジュールは?
8月10日夜まで 北海道の観光地を最低1か所回ってお土産ゲット!
8月10日夜 ウェルカムパーティー
8月11日朝 牧場で働く
    夜 盆踊り大会の練習=前夜祭
8月12日朝 牧場で働く
    夜 盆踊り大会
8月13日朝~襟裳岬を観光して、いざ帯広の花火大会へ
     (バスチャーター済み!)
要するに、毎日宴会だってことね。
なお、この後も牧場で働いてくださっても大いに結構!


皆様のオリキャラ出席予定は?(参加表明順・敬称略)
★ 八少女夕さんのところから
 山口正志白石千絵【君との約束 — 北海道へ行こう】より)
 レオポルドマックス【森の詩 Cantum Silvae - 貴婦人の十字架】より)
  人物紹介はこちら→オリキャラのオフ会in北海道の設定です

★ limeさんのところから
 ミツルナギ『NAGI』-北海道へ行こう―】『凍える星』パロディ漫画:『NAGI』】より)

★ ふぉるてさんのところから
 レイモンドリーザ詩人【ARCANA~アルカナ~】より)
  人物紹介はこちら→ARCANA登場人物紹介
  合流スケジュールはこちら→北海道オリキャラオフ会 特設?ページ

★ TOM-Fさんのところから
 春日綾乃【あの日、星空の下で】より)
  人物紹介はこちら→オリキャラのオフ会に、また行きます(メンバー紹介)

★ けいさんのところから
 鏡成太郎鏡一太郎【夢叶】より)
  人物紹介はこちら→鏡家御一行様

★ サキさんのところから
 コトリ【254】より)とダンゴ【H1】【H1A】より)
  人物紹介はこちら→オリキャラのオフ会に、また参加しようと思います。
  もしかすると、シスカも?

★ あかねさんのところから
 幸生←もとはフォレストシンガーズの三沢幸生、パラレルワールドに住んでいるユキは大学生です。
 ポチ←美月さんというブログ友達の方から養子にいただいた、魔法使い犬です。

★ ポール・ブリッツさんのところから特別に
 黒衣の女ノイズ(連作ショートショート)より)
 →その存在にはマル秘情報が含まれるため、マコトが目撃するのみの登場。
 (ポールさん、すこしだけお借りします!)

★ かじぺたのもっとデンジャラス(そうかも)ゾーンから特別に
 かじぺたさん兄貴たち(エドワード1世様とアーサー様)
 →大勢の参加者の食事の面倒は奏重さん一人では大変!
  というわけで大海が勝手に特別招集!

大海のところからの出席予定は?
★ 幹事:茶トラ仔猫・マコト
  (迷探偵マコトの事件簿より)
★ 牧場主:相川長一郎、その妻・民謡歌手の相川奏重⇒お世話係
  (海に落ちる雨より:登場人物紹介をご覧ください)
  こちら、お世話係なので、特に絡まなくても大丈夫です。
  あ、でも、ソーラン節の指導は、かなり厳しいと思われます。
  (三味線→長一郎、唄→奏重、踊り→村民一同)
★ ハリポタトリオ:富山享志・杉下萌衣・相川真+大和竹流
  (学院七不思議シリーズより)
★ もしかすると、あの婆さんとかあの爺さんとか??


オリキャラオフ会第2弾 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!~
作品ラインナップ (準備記事含む/公開順)

 (オリキャラのオフ会)準備4コマ漫画&キャラの紹介(limeさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(前編)(けいさん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(パイロット国道)(サキさん)
 君との約束 — あの湖の青さのように(1)(八少女夕さん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(足寄国道)(サキさん)
 『背後霊』大海さんちのオリキャラオフ会/また一緒に遊ぼうにゃ~(あかねさん)
 (企画小説)オリキャラオフ会★前編:『能取岬と小悪魔ヒッチハイク』(limeさん)
 【浦河パラレル】(1)上野発夜行列車・パラレル札幌行 (大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.1(ふぉるてさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(後編)(けいさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(2)(夕さん)
 オリキャラオフ会★中編:『そして浦河の牧場へ』(limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.2(ふぉるてさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(3)(夕さん)
 牧神達の午後(サキさん)
 【浦河パラレル】(2)マコトの知床旅情(大海)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(前編)(TOM-Fさん)
 『花火の音は』(あかねさん)
 【浦河パラレル】(3)カムイミンタラの夕べ(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.3(ふぉるてさん)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(後編)(TOM-Fさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.4(ふぉるてさん)
 【浦河パラレル】(4)あの列車に乗って行こう (大海)
 (企画小説)オリキャラオフ会★後編:『いつかまた』 (limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.5(ふぉるてさん)
 オリキャラのオフ会『出逢ったことが奇跡。そして、また逢おう』(かじぺたさん)
 【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇)(大海)
 【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇)(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.6 (完結)(ふぉるてさん)
 いつかまた・・・(オリキャラオフ会)(サキさん)  
(特別番外)
 ノイズ(連作ショートショート)『ぱさ。』(ポール・ブリッツさん)


マコトが気にするお土産一覧
(親しみこめて、敬称略)
一太郎・成太郎→伏見の酒+日高の純米吟醸
正志→柳月 三方六セット
千絵→美瑛サイダー
レオポルド→マタンプシ(アイヌのハチマキ)
マックス→食われ熊
レイモンド・リーザ・詩人→ウニ(カニもついでに欲しいぞ~)
ナギ・ミツル→網走名物・マタタビカステラとマタタビ酒まんじゅう
ダンゴ・コトリ→クマ除けの鈴、清里じゃがいも焼酎(原酒5年)
幸生→大きな蕗の葉(コロボックルの傘)
綾乃→天然酵母パン
コンステレーションの親父さんから→日本酒「黒松剣菱」の一升瓶2本、届きました!
**漏れがあったらお知らせください!


Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(1)上野発夜行列車・パラレル札幌行 

北海道地図
(Google mapさんから地図をお借りしました)
皆さんの位置を書きこもうかと思いましたが、移動しておられるのと、画像に書きこむと字が小さくて読めないので、断念。取りあえず、今のところ、道東~道央に集中して皆さんがおられるので、うちは札幌から始めてみました。
あ、でもマコトは8月9日、タケルといっしょに朝の知床遊覧を楽しんでいるようです。
そして、友情出演をお願いしておりましたポールブリッツさん【クリスタルの断章】方黒衣の女さん、素敵な旅行記・お料理を中心にしたブログの管理人さんのかじぺたさん(ご本人)にも遊びに来ていただきました。ポールさん、かじぺたさん、ありがとうございます。
オリキャラオフ会in 松江では【松江ループ】だったので、今回は【浦河パラレル】といたしました。ついに、マコトと真の謎が解かれる日が来たのか?(え?)
最終的には、マコトの夏休みの日記が登場しますが、まずはハリポタトリオの何でも屋・享志による報告をどうぞ。
あ、ちらっと敷香の話題も出るよ!


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(1)上野発夜行列車・パラレル札幌行


「Boys be ambitious、かぁ。杉下さん、なんでGirlsはないのかって怒らないの?」
「馬鹿ね、時代が時代だったんだし、そもそも札幌農学校に女生徒がいたわけじゃないんだから仕方ないでしょ。未来に対してはあれこれ言うべきことはあるけれど、歴史に対しては、学ぶべきことはあっても文句を言える立場にはないはず。それよりも今、未来から文句を言われない歴史を作っていくことが重要じゃない?」
 さすが、杉下は前向きで言いたいことを言うけれど、至極もっともだ。

「で、何か分かった?」
 杉下が僕の方に向き直って聞いた。
「う~ん。大学の博物館って面白いなぁ、ってことくらい?」
 始めて大学と言う世界に入り込んで、少し感動していたのは事実だ。大学附属博物館には動物の剥製や鉱物・植物の標本が所狭しと並んでいて、研究のための場所という気配が沁み込んでいた。
「そんなことじゃないでしょ。相川君は?」
「別に」

 別に、と言った相川は、とても大学の敷地には見えない、公園のような周囲の景色を見回す。それから徐に僕と杉下の方を見て言った。
「でも、そっくりだけど、やっぱり叔父さんじゃないし」
「同姓同名で顔もそっくりで、しかも浦河、牧場、北海道大学、家族関係、アイヌ人の奥さん、全ての要素が重なっているのに、その人じゃないってことよね」

「それに、どう見ても時代が新しいよなぁ。あの四角いの、スマートフォンって言うんだって。まるで地球防衛軍みたいじゃない?」
 僕は通り過ぎていく学生が持っているものに視線を送って言った。学生は、歩きながら小さな本くらいの大きさのテレビみたいなのを見ている。危ないなぁ、前を見て歩けよ。って、年上に言うのもなんだけどさ。いや、時間差を考慮に入れたら、すごく年下なのかもしれない。

「そもそも、僕が知っている札幌駅でも北海道大学でもない」
 相川が呟く。思わず僕は唸った。
「やっぱりか~。今度はまさかのホタテじゃないよね?」
「学食でホタテは出ないよ。学生には高級すぎる食材じゃない?」

 昨夜、上野駅で夜行列車に乗った時は、確かに僕たちの知っている、僕たちが生活している時間と東京の街だった。でも、今朝目を覚ました時、電車の中の雰囲気は少し変わっていた。てことは、寝ている間に変な所へ来ちゃったわけだ。
「てことは、私って誰と手紙のやり取りをしてたんだろ」
「で、このチラシはどこから送られてきたんだろうね」
オフ会
 僕たちは北海道大学の敷地内にある、有名なクラーク博士の胸像の前に立っていた。
 有名、というと羊ケ丘展望台の、いかにも「大志を抱け」って感じに空の彼方を指差した像だけれど、ここにあるのは胸像だけ。それでも一番古いクラーク像で、その人の人となりを良く表しているという。「大志を抱け」という言葉は、本当に彼が言ったのかどうか、定かでは無いという説もあったようだけれど、色々な調査の結果、別れ際に「Boys, be ambitious like this old man.」と言ったというのは本当らしい。

 僕たち、というのは、私立幹学院の「学院七不思議探偵倶楽部」のメンバー。頭脳担当は杉下萌衣、そして直感担当は相川真、僕、富山享志は使い走り、じゃなくて、何でも屋だ。
 この「学院七不思議探偵」と言うのは、わが学院の新聞部が勝手に付けた名前だ。当学院に古くから伝わる七つの謎を解決するべく結成されたチーム、らしい。って、構成員はたったの三人。しかも僕たちが「謎を解くぞ~!」「お~!」と結成したわけでも何でもなく、何となく流れでこうなってしまった。

 そして今、僕たちは今「何故そこに鮭を咥えた熊の木彫りがあるのか」という謎に挑戦中だ。詳しいことは後日語るとして、今回僕たちはその謎解きのヒントを得るために北海道にやって来た……というわけではなくて。
 実は今回はいくつかの偶然が重なっての北海道旅行になったのだ。決して、学食でホタテの呪いに巻き込まれたわけでは無い……と思う(ちょっと自信がないけれど)。いや、ホタテはともかく、偶然なのか、必然なのか、それすらも分からない。

 まず一つは、将来北海道大学の受験を考えている杉下の大学見学。彼女は日本先住民の歴史にものすごく興味を抱いていて、東北から北海道の歴史を一生懸命勉強している。そのうち独学ではなく、その場所で直に学びたいという気持ちになっているのだ。もちろん、家族は彼女の北海道一人暮らしには大反対で、今回見学に行くというのもひと悶着。それが「富山くんと一緒に見に行ってくる」でOKが出たそうだ。

 僕としては逆に複雑だ。「あの人畜無害な頼りになる級長」という絶大なる信頼を、同級生の家族からも寄せられている……ということなんだけれど。
「ごめんね。でも富山くんと一緒ならって言うから、とにかく行ったことにしておいて」
 いや、そんな嘘、すぐにばれちゃうよ。

 実は彼女は自分でせっせとあちこちに手紙を書いて、北海道大学特任講師、つまり時々臨時で授業をするある夫婦と知り合っていた。旦那さんは浦河で競走馬の牧場を一族で経営している相川弘志さん。高校まではものすごい「やんちゃ」だったそうだが(補導歴あり、とか)、その後猛勉強して北海道大学農学部で畜産を学び、獣医学部に転向して獣医の資格も持っているそうだ。
 相川弘志さんの奥さんは農学部時代の同級生で、ずっと隠してきていたけれど、今はもうカミングアウトもしているアイヌ人だという。彼らの結婚にまつわるものすごい苦難は僕らの想像の外だったけれど、杉下はそれにいたく感動して、ずっと手紙のやり取りをするに至ったらしい。旅の本当の目的は、彼らに会うことなのだ。

 僕にとって渡りに舟だったのは、相川が僕にあるチラシを見せたことだった。
「自分の部屋に、もう一つの部屋が重なって見えることってある?」
 相川は時々かなり謎なことを言う。かなり、どころか、ほとんど意味不明のこともある。
「え? それって、え~っと」
 僕がどういう返事をしたものか、一生懸命頭を働かせているうちに、相川はふと我に返ったらしい。「ごめん、いいや」と言って話を引っ込め、自分の席に戻ってしまった。僕は手元に残ったチラシを持って彼の席に行った。

「これは?」
「別に」
 目を合わせようとしない。こうなると、いつもなら彼を懐柔するのは難しい。でも、チラシには懐柔方法が書いてあった。
「ね、これ、行こうっていう誘いだよね?」
 相川は返事をしなかったけれど、後は簡単だった。

 僕はその日のうちにチラシを見せて、父親に北海道の牧場でアルバイトをしてみたいと申し出た。母親は例のごとく、「家族で一緒に海外旅行の予定はどうするの、それに勉強をしなければならないのに」と大荒れだったけれど、父親は予想通り「社会勉強だ、行って来い」とあっさり承諾した。父親は僕に世間の現実を見せたいという気持ちが大いにあるのだ。
 丁度クラブは盆休み期間中だし、宿題はそれまでに全部終わらせるという恐ろしい条件はくっついてきたけれど、相川と杉下と一緒に旅ができるなんて、ちょっと素敵だ。

 実はこのチラシの出所は杉下だったらしい。つまり、まず杉下は手紙のやり取りをしている「相川弘志夫妻」にこのチラシをもらった。良かったら来ないか、丁度北海道大学の夏の特別公開講座で授業をするから、そのついでに大学を案内するよと。
 その時、杉下は、妙な符号に気が付いた。
「相川君、お祖父さんち、北海道で牧場を経営しているって言ってなかった?」
 そう言って、相川にこのチラシを見せたのだそうだ。

 奇妙なことが起こっている。
 相川が北海道に電話をしたら、相川のお祖父さんも叔父さんもそんな広告を出した記憶はないと言う。叔父さんは牧場を手伝っているし、獣医の資格も持っているけれど、北海道大学で講師なんてしていない。叔父さんの奥さんはアイヌ人だけれど、とてもカミングアウトなんてできる世間事情じゃない。

「なんか思い当たることないの?」
 杉下の追及で、相川はぽつりと言った。
「自分の部屋に重なって、もう一つ部屋があるんだ」
「え?」
 さすがの杉下もきょとんとした顔をした。
「見えるだけで、その部屋にいるわけじゃないんだ。家は同じような作りで、窓の位置も同じ。でも、少し机の配置とかベッドの位置は違う。それに、確かに人の気配がするんだ。姿は見えないけれど」
「えっと……それって、パラレルワールド、ってやつ?」
 僕が呟くと、杉下が真面目な顔で言った。
「そうかも」

 下手なSFみたいになってきた。
 でも、結局僕たちは杉下の大学見学に被せて、相川の見る幻と奇妙な重なる符号を示す「相川厩舎」の正体を確認するべく、北海道にやって来たのだ。そして、札幌にやって来る道中から、すでに別の世界に嵌まり込んじゃった、ってわけらしい。

「電車の中で、夜中に目が覚めちゃって、ふと頭の上を見たら本があったの。誰かが忘れていったのかなぁって途中まで読んだんだけど、これもロンドンの駅のあり得ないホームから魔法学校への列車が出ていくの」
「いや、でも、上野のホームは普通だったよ」
「じゃ、どこかで列車が変わっちゃったのかな。少し未来のパラレルワールドへ向かう列車に? 確かに、その本だって、上野で乗った時には絶対になかったもの」
「そう言えば」

 僕は思い出した。
 僕たちが乗っていたのは夜行列車のB寝台だ。上下二段で一つの個室に四人分の狭いベッドが入っていた。僕たちは三人だから、もう一人相部屋の人がいた。黒いワンピースを着た女の人だった。すぐにカーテンを引いてしまったので、顔は見ていない。
 僕は宿題の疲れがたまっていて、かなりぐっすり眠っていたけれど、夜中に一度だけ目を覚ました。何か不思議な音がしていたのだ。
 ぱさ。
 そんな感じの乾いた音だった。
 一定の時間を置いて、また聞こえる。
 ぱさ。
 僕は誰かが本をめくっている音だと思っていた。

「まさか、あの女の人が?」
「え、いくらなんでも、他人のベッドのカーテンめくってまで置いてかないでしょ」
「でも、あの人、どこで降りたんだろう? 朝にはもう、いなかったよね」
 相川は別に何も感じなかったそうだ。霊感の塊みたいな相川が何も感じないなら、少なくとも幽霊じゃないってことか。

 札幌駅まで僕たちを迎えに来てくれたのは、相川弘志さん本人だ。
 弘志さんの視線は、改札口を挟んだ向こうからも、明らかに相川を見ていた。挨拶を交わした後も何度も驚いたような顔で相川を見て、そんな偶然もあるべ、と呟いた。

 浦河というのは札幌から見ると、南に下って海岸線を襟裳岬の方へ降りていく途中にある。さっき確認したバスの時効表では、札幌からはバスで3時間半くらいだから、僕たち高校生でもアクセスできないわけではない。
 但し、今回はそもそも杉下の大学見学も兼ねていたので、公開特別講義の前に大学構内を案内してもらうことになった。もっとも、ここは来年度に杉下が受験希望の「北海道大学」じゃないみたいだけれど。

 それから、相川弘志さんの講義も受けさせてもらった。北海道の競走馬牧場の歴史をあらゆる方面からまとめた話を聞くのは初めてだし、歴史というのはこうしていくつもの町の記憶で成り立っているのだと感動した。
 うん、何はともあれ、悪い人じゃないみたいだ。何が起ころうとも、シジミの陰謀よりもましかもしれない。講義の後は、大通公園、時計台を回って、ある個人の女性の家を訪ねた後(この女性のことは後に分かったことがあるので、後日報告)、札幌駅に戻って女性を一人拾ってから、僕たちをサッポロビール園に連れて行ってくれた。
 あ、ご飯を食べさせてもらったからいい人だって言ってるわけじゃないんだけどね。

 煉瓦造りのサッポロビール園は、夏の観光シーズンと言うこともあってものすごい人だった。でも何だか、北海道に来た! って感じがしてきた。時代も次元も違うみたいだけれど。
「高校生に飲ませるわけにはいかないべ、残念だなぁ。しかも、オレもこの後運転だしなぁ」
 札幌駅で拾った女性は、そこそこ妙齢の女性で、犬を二匹連れていた。

 何でも例のチラシに応募した人数が予想外に多かったので、食事の世話などで助っ人として来てもらったのだという。弘志さん夫婦とは、ネットで知り合って親しくなった仲なのだとか。牧場経営で旅行なんて夢だという弘志さんたちは、かじぺたさんのブログの旅記事がとても楽しみなんだそうだ。かじぺたさんはどちらかと言うと沖縄方面派なんだけれど、今回は北海道旅行をものすごく楽しみにして来てくださったそうだ。
 彼女は飲む権利と資格があったのだけど、飲まない弘志さんに遠慮して飲まなかった。

 そういうわけで、僕たちは一緒にとにかく食った。羊の肉なんて臭くて食べられないと思ってたけれど、高級ジンギスカンだったのもあって、全く気にならなかった。但し、その後、浦河へ向かう車の中は相当に臭かった、と思うけれど、何だかみんなでもう一蓮托生気分になって、何もかも気にならなくなっていた。

「かじぺたと呼んでください」
「えっと、僕は富山享志と言います。で、こっちは杉下萌衣と相川真」
「ニックネームは? せっかく数日一緒に過ごすんだから」
「えっと……」
 普段、やっぱり杉下は「杉下さん」だし、相川は、たまに「まこと」って呼んでみることはあるけど無視されるから、大方「相川」かな。
「じゃ、こうしましょう。この旅行の間は、みんなお互いに下の名前で呼ぶこと。萌衣ちゃんに真くん、享志くん。その方が自然でしょ」
 かじぺたさんの意見に弘志さんも大賛成だった。

「犬は?」
「エドワード1世とアーサー」
「私、犬大好きなんですよ。うちには父の趣味で秋田犬がいるんですけれど、やっぱり外国の犬って可愛いですよね」
 杉下に秋田犬。何だか妙に……似合っている。杉下は結構小柄で可愛い感じだから、秋田犬、如何にも番犬って感じで頼もしいじゃないか。
「なかなか悪戯者だけれどね。日本犬はかしこいじゃない?」

「そう言や、かじぺたさんのお子さん、入籍したんだべ」
 弘志さんがそう言って、またビールが飲めないことを悔しがった。
「え~、入籍って、おめでたいじゃないですか! そんな忙しい時にいいんですか?」
「前から約束していたし、それにすごく個性豊かで面白そうなメンバーが集まるって聞いたから」
 などとあれこれ盛り上がりながら、浦河に着いたのはもう夜中近かった。疲れ果てていたので、もう何もしないでそのまま雑魚寝になった。

 翌朝、8月9日。
 日本列島酷暑の8月。それでも北海道は10度近く違う。天国だ。牧場を吹き抜ける気持ちのいい風で目を覚ました。
 とは言え、昨日のジンギスカンの臭いはまだ身体にも髪にもこびりついていた。
 朝風呂ついでに相川と僕は、エドワード1世とアーサーを洗う役を引き受けた。

 牧場には旅館みたいに大きな岩風呂があって、なんと相川一族の手作りなんだという。家族も多いし、しばしばこんなふうに牧場体験で泊まり客を受け入れているので、頑張って作ったのだとか。
 相川は犬たちを洗っている間、ものすごく楽しそうに見えた。その後、犬たちを引き取りに来たかじぺたさんに、まるきり自然のままの姿で犬を渡していたのはどうかと思うけれど、かじぺたさんも「ありがと~」って感じでごく自然だった。母は強し、だなぁ。
 僕はやっぱり隠すところは隠すとか考えると思うけれど、相川は基本、恥ずかしいとかいう感覚が薄いんだと知って、驚いたりもした。

「あいか……じゃなくて、真」
「何」
 身体を洗いながら僕をふり返る相川にドキッとする。
 出会った中学生の時のような少年らしさは随分失われているけれど、その分精悍な青年らしさが加わってきている。それでもまだどこかに残っている子どもっぽい表情が、時々見え隠れする。
 その少年と大人の間の危うい感じが、今彼の中で少し大きく揺らいでいる。犬たちと少しはしゃいだ後、急に不安そうな気配を見せた。いや、牧場に着いた時から、彼の困惑は大きくなっている気がする。

「背中流そうか」
「何で」
 えっと、何でって……その方が裸の付き合いって感じがして、友情が深まるような……。でもそこでその質問?
 あ、そう言えば、今「真」って呼んだら、普通に返事したよね。それはちょっと嬉しいかも。これから僕のことも、享志って呼んでくれたらいいんだけど。
「自分で洗える」
 そりゃそうかもしれないけれど。

 でも結果的に僕たちは背中を流し合った。彼の背中を流しながら僕は聞いた。
「その、どうなんだ?」
「何が?」
「牧場の感じ。君の牧場と似てる?」
 相川はしばらく黙っていた。それから少し肩を落としたように見えた。
「こんな風呂はなかったけど」一度言葉を切って、ゆっくりと言葉を吟味したように間を置いて続けた。「似ているなんてもんじゃない」

 朝食時、僕たちは相川厩舎の人たちときちんと挨拶を交わした。
 皆が一様に、相川、いや、真を見て驚いていた。かじぺたさんに言われた通り、名前で呼ぶようにしようと思うけど、まだちょっと照れるんだよね。
 真は不安そうな顔をし、少しだけ僕の後ろに隠れた。ってか、そんな三歳の子どもみたいなこと、するなよ。可愛いすぎるじゃないか。
 後で事情を話すよ、と弘志さんが言った。

 それにしても、こんな豪勢な朝ごはんってある? 何種類もあるパンに濃厚なヨーグルト、ジャムはブルーベリー、飛び切り新鮮な卵で作った目玉焼き、昨日肉詰めしたというソーセージ、茹でただけなのに甘くてドレッシングもマヨネーズもいらない数々の野菜。
 明日は和食だって。何だかすごく楽しみ。

 朝食の後は、釧路まで買い出しに行き(注文は済んでいるそうだ)、そこで猫を一匹預かるという。
 猫は飼い主と一緒に昨日から知床にいるらしい。今朝は知床遊覧をして(猫なのに?)、釧路までやって来るという。飼い主は今日、釧路から東京に戻って、明日の朝の便で南米に発つらしい。自分がいない間、猫をここに預けに来たのだ。

 買い出しにはもちろん、かじぺたさんが同行だ。かじぺたさんからは、何となく、静かな闘志を感じる。浦河にも漁港はあるけれど、そもそも水産業が主産業の町ではない。一方、釧路は日本でも有数の水揚げ量を誇る漁港だ。
 夕方には、京都から、お祖父さんの長一郎さんの大事な友人が、孫を連れてやって来るという。前夜祭で既に宴会に突入ってことみたいだ。

 犬に猫に、人間。それに牧場には沢山の競走馬と、数頭の道産子がいる。さらに羊と牛を数頭と、何十羽かの鶏も飼っている。ちなみに牧場には北海道犬にハスキー犬といった犬たちも多数いる。冬の体験宿泊者には犬ぞりも楽しませてくれるらしい。エドワード1世とアーサーはすでに犬たちと挨拶を交わしたようで、牧場を楽しそうに走り回っている。
 それにしても、釧路で猫を預かる? どこかで聞いたような話だ。そう、猫、と言えば、前回、松江で妙なループに嵌まり込んだときにも、猫が絡んでいた。

 まさかね。僕は勢いよく頭を振って、相川、じゃなくて真と、かじぺたさんと一緒に弘志さんの運転するバンに乗り込んだ。
 杉下、じゃなくて萌衣は、今日は牧場で弘志さんの奥さんやお母さんと宿泊客を迎える準備だ。料理だけではなく、布団や着るものの準備もあるし、盆踊りに参加してもらうための浴衣も必要だ。それに牧場でしてもらうための仕事の下準備もある。

 バンの中で、弘志さんが語ったのは、彼らが失った大事な人のことだった。
「君が、俺の甥にそっくりなんだべ。名前まで同じなんて、どうなっちまってるんだか。だから、みんな驚いてたんだ。あいつは十九の時、事故で死んじまった。昨日、札幌で訪ねた家、あったべ。あの人はあの時、あいつを搬送してくれたヘリのパイロットだ。あの日、いくらか天候が悪くて、なかなかヘリを出せなかった。力が及ばなくて、って、彼女のせいでもないのに唇を噛みしめて泣いてくれてなぁ」
 忙しくも楽しい時間、そして運命の針が静かに動く時間の始まりだった。

(その(2)につづく)


ハリポタトリオ、ハリポタを読む、って微妙な話だなぁ……
あ、「なぜそこに鮭を咥えた熊の木彫り」……実はあの頃、「何故か結構な確率で家にある意外なもの」の話をしている時、この北海道土産のクマの木彫りの話題になったことがあります。そう、北海道土産ってこれが主流だったのですよね。
マックスがお土産に持ってきてくれる食われ熊は、逆に熊が鮭に襲われている木彫りですが、なかなか良くできているモノが多いです。実際、でっかい鮭は迫力ありますものね。

あ。敷香も友情出演、ありがとうございました!!
このワールドでは亡くなっている真を帯広の病院まで搬送してくれたのは敷香だったのですね。
実は、真は19の秋、崖から落ちて生死の境を彷徨っています(事故・自殺説あり。本人は逆行性健忘で思い出せないのですが……このお話は【海に落ちる雨】の続編、【雪原の星月夜】で語られます)。
そして何かの拍子に「自分は本当はあの時死んじゃってたんじゃないか」と感じたりしています。
このお話は真がまだ高校生設定なので、19よりも若いけれど、この錯綜した時間軸の中では逆らえないものがあるのかも。

……といっても、これは楽しいオリキャラオフ会。
ちょっと悩みモードの真の気持ちも、結局宴会と花火でぶっ飛んでいくのかも!
宴会の準備は着々と進んでいます。さあ、皆様、こぞって浦河へ!
(って、私、浦河に住んでいる人みたいだ)

Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(2)マコトの知床旅情 

なかなかアップできなくてごめんなさい。でも鉄は熱いうちに打て。思ったりより長くなっちゃって、中途半端なのですが、幹事がさぼっていると問題がありそうなので、一応アップしようと思います。オフ会の2作目です。多分、こちらの事情はあと1作で、その先は皆様との宴会日記になると思われます。


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(2)マコトの知床旅情



8月8日
 タケルといっしょにしれとこにいきました。ぎょせんにのりました。タケルはつりをしました。ぼくは、ちっさいくまと、おっきいおさかなをみました。おっきいおさかなはおいしそうだったけど、ぼくよりずっと大きいので、ぼくがたべられちゃうかもしれません。でも、とってもたのしかったです。きょうはいるかほてるにとまります。

わ~、タケル~、くまさんだ~!! ちっさいね~
あ、もっとちっさいのがいる! 
おかあさんとこどものくま?
……べつにいいもん。ぼくはタケルといっしょだもん。
(明日までだけど)
あ、くまさん、おさかなとってるの?
わ~、あっち見て~! 水がおっこちてる!
おやま、おっきいね~
あ、あっちはおっきいおさかな! わ~、おしっぽがみっつも見えるね!
わ。とんだ! 
……むにゃむにゃ、にゃん。


 さて。
 俺は明日以降の打ち合わせのためのメールをいくつか送ると、パソコンを閉じた。明日、マコトを釧路まで連れて行って、弘志さんに預けたら、そのまま釧路空港から羽田へ飛び、成田へ移動する予定だ。そこから、まだまだ長旅になる。南米ペルーで新しく発見された遺跡の調査に同行することになっているのだ。
 マコトを連れていけたらいいのだが、さすがに南米のジャングルに箱入り猫を連れていくわけにはいかない。まかり間違って誰かのエサになったら大変だ。何しろ、ジャングルではいつでも食事の時間だから(って、東京ディズニーランドのジャングルクルーズで言っていたよな)。

 ここ、知床のいるかホテルはオホーツク海に面した宿で、部屋から海と知床連山が見えていた。しばらくマコトを放っておくことになるので、今日くらいは一緒に楽しく過ごそうと思ったのだ。
 今日、レンタカーでここにやって来て、漁船をチャーターし、一日ゆっくり海の上で時を過ごした。俺は久しぶりの釣りだ。マコトは船の上をあっちに行ったり、こっちに行ったり、ずいぶんと忙しそうだった。何かを見つけては、俺の方に向いてにゃあにゃあ言っていた。ヒグマの親子が崖を降りてきて、海辺でシャケを捕っていた。

 マコトに遠近感が分かるとは思えないので、もしかすると、小さくて可愛らしい生き物が動いていると思ったのかもしれない。でもな、マコト、あれは相当に凶暴なんだぞ。
 俺はそう教えてやって、また釣りに精を出した。カラフトマスとサーモンを釣り、船の上で早速捌いて、マコトにも分けてやった。マコトはいっしょうけんめい食べて、それから俺の方を見て「おいしいね、おいしいね」と言っていた(ような気がする)。
 羅臼の方に回ったら、イルカが泳いでいた。クジラも見ることができた。マコトは「おっきいおさかな~」と言いながら(多分)、くるくる回っていた。

 今、マコトは和室の隅っこに置かれたねこ用布団の上で丸まって眠っている。何やらむにゃむにゃ言っているのは、夢を見ているからなのかもしれない。今日は大興奮だったから、疲れたんだろう。
 それに、夢の中ではまだ、知床クルージングの続きなのかもしれない。

 お。マコトはまた「にくきゅう文字」で何かを書いている。
 最近、肉球にインクを付けてペタペタやるのがマイブームらしい。
 なになに? って、読めるわけはないんだが、何となく雰囲気が分かる。これはイルカのことかな。大きく肉球ラインが飛んでいる。
 マコト流夏休みの絵日記、といったところか。

 浦河の牧場では、俺と離れている間のマコトが寂しくないようにと、じいさんたちが大宴会を企画しているらしい。猫一匹のために? 夏の忙しい時に、本当に申し訳ない。
 いや、あのじいさんもきっと何かを吹っ切りたいのかもしれない。でも、じいさんが亡くした孫の代わりのようにマコトを可愛がってくれるのは、本当に有難い。
 いや、亡くした大事な者の代わりに、マコトを大事にしているのは俺の方か。
 それでも、今はもう身代わりというわけではなく、この一生懸命に生きている仔猫のことを、心から愛おしいと思っていた。


8月9日
 きょうはタケルといっしょにおクルマでくしろに行きました。とちゅうで、ましゅうこに行きました。ましゅうこはとっても青くてきれいでした。イキオクレル~ってとなりでちょっと年をとったお姉さんがさわいでいました。ましゅうこで、変わったおにいちゃんとおねえちゃんと、おとこの人かおんなの人か分からないひとに会いました。ペンダントがしゃべりました。ペンダントにさわってみたかったけど、にげちゃったです。
 それからくしろに行きました。くしろでおじちゃんがまっててくれました。おじちゃんといっしょに、おばちゃんもまっててくれました。それから、まえに会ったことのあるおにいちゃんがいました。おにいちゃんはぼくを見て「あ」と言いました。ぼくも「あ」と言いました。なんだかおもしろかったです。
 タケルとはちょっとだけ、ばいばいです。ぼく、おるすばんがんばれます。
 クルマの中で、ホッケを食べて、起きたらボクジョウでした! つづく。


 翌日。マコトと一緒に道の駅に行き、シャケとカニを買い込んで釧路へ向かった。
 途中、摩周湖を通る。
 布施明の「霧の摩周湖」以前にはほとんど名前を知られていない湖だったと言うが、何よりもロシアのバイカル湖に続く世界第2位の透明度を誇る湖として、晴れた日の美しさは類を見ない(近年ではその透明度も随分と落ちてしまったようだが、それでも二十メートルはあるそうだ)。

 そのブルーは「摩周ブルー」と言われ、展望台から見つめていると、引き込まれ包み込まれるような青だ。
「霧の摩周湖」に出会えるかどうかは季節にもよるが、夏は比較的霧の日が多いと言う。今日の天気予報は曇りだったので、晴れでも霧でもない、いささか中途半端な景色かと思いきや、俺たちが展望台に上がった時だけ、突然晴れ渡ったのだ。
「摩周ブルーだ」
 思わず呟いたら、隣でそこそこ妙齢の女性四人組が「いき遅れる~」と賑やかだった。申し訳ないが、すでに十分いき遅れて……こほん。

「レイ、なんてことするんだ! 異世界の天気を操作するなんて!」
「いや、俺は何も……」
「リーザが摩周ブルーを見たいって言うからでsu~、レイの力が暴走したでsu~」
「そ、そうなのか?」
 その時、耳に入ってきたのは、男女の複数の声だった。いや、それは少し奇妙な感じだったのだ。彼らは確かに別の言語で話している。そして、その声に重なるように、少しばかり訛った感じの日本語が重なる。

 彼ら、というのは少し奇妙な三人組だった。俺とほとんど同じ背丈くらいの男性と女性。ということはかなり大柄だ。男性の方は「その時はその時です。熊に出会ったらそれまでです」と書かれたTシャツを、女性の方は「おつとめごくろうさまです」と書かれたTシャツを着ている。もう一人は、まるでゴルフ場のキャディーのような日除けのついた帽子を被り、長袖の袢纏のようなものを来た、少し背丈の低い、一見のところ男性らしい人物だ。

 最近、日本は外国からの観光客で溢れている。最も多いのは中国や韓国からの旅行者だが、どうしてその国からわざわざ日本へ? というような外国人も多く見かける。もっとも、俺も外国人なので人のことは言えないのだが。
 で、その三人組の話している言語は、世界のかなりの国を回っている俺も聞いたことのないものだった。彼らは俺と目が合うと、はっとしたような顔をした。
「ハゾルカドス、俺たちのプライベートの会話まで翻訳しなくていい!」

 男性は右が緑、左が青のオッドアイだった。色は違うが、オッドアイというのが懐かしく、またどこか哀しくて、俺の心を締め付けた。
「綺麗な色ですね」
 話しかけてみた。
「えっと、はい」
「どうしてこんなに透明度が高いかご存知ですか?」

『摩周湖は注ぎ込む川もなければ、出ていく川もない閉鎖湖で、生活排水や不純物が運び込まれることがありません。ゆえに、プランクトンや粘土などの浮遊物が極めて少ないので、透明度が高いのであります。摩周湖の水源のほとんどは雨です。雨で増加した水は、自らの水圧で地下水となり、それが湧き出してまた、湖へと流れ込んでいるのであります』

 俺は男性の胸にあるペンダントに驚いた。翻訳機らしいということは何となく分かっていたが、どうやら観光ガイドブックの役割も果たすらしい。俺はとりあえず自己紹介をした。
「ヤマトタケルと言います。あ、こいつはマコト」
 マコトは挨拶をするように「にゃあ」と鳴いた。もっとも、マコトの興味は完璧に男性の胸のペンダントにロックオンされている。心なしか、ペンダントがあたふたと逃げ出したいような気配を見せている。気のせいか?

「あ、レイモンドです。こっちはリーザ、それから詩人」
「詩人?」
「いや、ニックネームです」
『ハゾルカドスです』
「え?」
「いや、あの、この翻訳機の名前です。勝手にしゃべるな。あ、これは翻訳するな! あ、いや、なんでもありません」

 俺はなるほど、と頷いておいたが、ハイテクにしても随分と進んでいる。まるで生きているかのような……と思った途端、マコトが手を、いや前足を伸ばしてペンダントにタッチしようとした。
 瞬間、びゅん、とペンダントが揺れた。マコトはびっくり目になって俺を見上げた。
「あ、これはその、時計の振り子のようなもので、時間が来ると揺れるんです」

 いや、まさにこれは「生きている」。新しいロボットみたいなものなのか。彼らは一体どこの国からやって来たのか。俺は、そして多分マコトも興味津々になっていた。
「これからどちらへ?」
「実は明日の夕方までに浦河という町に行かなくてはならないのですが、どうやって行こうかと算段していたところです」
 そう言ってレイモンドと名乗った男性が、あるチラシを開いた。

 さすがに俺も驚いた。それは、浦河の相川牧場の『助っ人募集』チラシだったのだ。
「まさかこれに参加を?」「にゃ?」
 何と、驚いた。一体、じいさん、このチラシをどこにばら撒いたんだ?
「いや、これは奇遇です。私はこの相川牧場に縁の者なのです。もし足を確保されていないのなら、私の車で今日のお泊りの辺りまでお送りしましょう。実は、私はマコトを預けるために3時に釧路でその相川牧場の人と待ち合わせているのです。ちょっとお待ちください」

 俺は弘志さんの携帯に電話をかけた。弘志さんは直ぐに電話に出てくれた。
「あぁ、タケルさんか。今? フィッシャーマンズワーフで買い物中だ」
 俺は事情を話した。弘志さんは、丁度明日、釧路に帰省していた牧場のスタッフが浦河に戻るので、釧路で待ち合わせが可能ならその人の車に便乗して浦河に来てはどうかと提案してくれた。釧路~阿寒の辺りは移動もそれほど困難ではないけれど、この辺りから浦河までは車でも四時間はかかる、何より交通が不便だから、と。

 俺はレイモンドたちにその言葉を伝え、ひとまず彼らと一緒にレストハウスに入り、摩周ブルーをモチーフにしたアイスクリームを楽しむことにした。
 詩人が「翻訳機ハゾルカドス」にこの土地の伝説はないのかと聞いた。

「ございますです。遠い昔、ある地方に激しい戦いが起こり、一人の老婆が殺された息子の忘れ形見の孫を連れて逃げました。老婆と孫は野山を彷徨い歩きましたが、いつの間にか老婆は連れていたはずの孫を見失ってしまったのでございます。悲しみにくれ、疲れ果てた老婆が摩周湖のほとりにたどり着き、カムイヌプリ(摩周岳)に一夜の宿を頼むと、カムイヌプリは『いつまでも休め』といたわりの声をかけ、老婆を島に変えたのでございます。それがあの島です」
 摩周湖の空はまた鼠色に曇って来ていた。湖の真ん中にぽつんと取り残されたような島。それがカムイシュ(老婆の神)だ。

「摩周湖に霧が多いのは、島に姿を変えた老婆が孫を思って泣くからだと言われている」
 俺は付け加えながら、傍らのマコトの頭を撫でていた。マコトは、そんな感傷はどこ吹く風、ただただ興味津々で翻訳機ハゾルカドスが喋るのをじっと見つめている。やはり気になって仕方がないらしい。

「霧の摩周湖にha、悲しい伝説があるのですne~」
 さすが詩人というニックネームが伊達ではないらしく、詩人はふぅと深い悲しみの溜息をついた。彼の長袖の袢纏の下に覗くTシャツの文字は「脱獄犯」だったけれど。

 霧の摩周湖の悲しい伝説。
 この湖を見るたびに、その伝説の老婆と同じように深い悲しみに包まれていた俺にも、こうしてマコトが現れ、ずっと傍にいてくれる。
 そして、今また不思議な縁に導かれた出会いがあったのだ。彼らが何者か、どんな国から来たのか、その不思議を噛みしめるのも悪くない。


「あいつは十九の時、事故で死んじまった」
 その話を聞いてからきっかり三分は黙り込んでいた真が、急に弘志さんに車を停めてほしいと言った。牧場に戻りたいというのだ。弘志さんは無言で車を脇に寄せた。真の気持ちを推し量っているのか、しばらく弘志さんも無言だった。歩いて戻るという真に、ここからだと歩いたら一時間以上かかるから、と弘志さんは引き返そうとしたけれど、真は断った。
「少し景色を見て歩きたいんです」

 道は一本しかないし、迷いようはない。それに、多分、真には土地勘がある。
 僕は弘志さんと真を交互に見詰め、それからかじぺたさんと目を合わせた。かじぺたさんは、そっとしておいてあげたほうがいいわよ、と言っているように見えた。
 結局、真を降ろして、弘志さんと僕とかじぺたさんは釧路漁港へ向かった。リアウィンドウの中で小さくなっていく真を見送っていると、僕も少し不安になったけど、でもこの土地に息づいている何かが彼を守ってくれると信じていた。

 そう、この出来事は全くの偶然なんかじゃない。僕は弘志さんとかじぺたさんに僕たちの事情を話した。
「じゃあ、君たちは過去から来たってこと?」
「僕たち、少なくとも皆さんが使っているスマホという蒲鉾板みたいな電話、今まで見たことがありません。杉下さん、じゃなくて萌衣が今朝、かじぺたさんにいくつか質問したでしょ」
「歴史のこと?」

「はい。共通する過去の大きな事件や出来事は一致しているから、全く違う世界ではなそうです。てことは、真は自分も十九になったら死んじゃうんじゃないかと思ってしまったかもしれない」
「そうか。それは気がつかんかった。迂闊だったべ」
 弘志さんがしまった、というように顔をしかめた。僕は、真のことも心配だったけど、今はとにかく、弘志さんとかじぺたさんが、少なくとも僕の突拍子もない言葉を信じてくれたことに感動した。

「いや、あの、過去から来たなんて簡単には信じてもらえないと思って、言わなかった僕たちが悪いんです。それに、さっき計算したら、今が2015年だとして、色々計算は合わないんですよ。つまり弘志さんも長一郎さんも、僕たちの元いた世界の続きなら、若すぎるというのか」
「じゃあ、時間だけじゃなくて内容もちょっと違うってことかもしれないわね。つまり彼が十九でどうこうなんて、分かりっこないってこと」

 僕たちはあまり自信がないままに会話を打ち切った。少なくとも、真の育った牧場は観光牧場的なことは一切していなかったというし、弘志さんが北大で講師をするなんてとても考えられないという。だから、僕は信じている。
 ここは時間も違うけれど、きっと僕たちの人生も別物だ。

 僕たちはあれこれ引っかかりながらも、色々な会話を重ね、釧路にたどり着いた。
 弘志さんは競走馬牧場の仕事について教えてくれた。
 朝、といっても、それはまだ夜中の続きのような四時には起き出して、夜間放牧させていた馬たちを集めて小屋に戻したり、逆に日中放牧する仔馬たちを小屋から出してやる。その間に寝藁の掃除をし、集牧した馬たちの手入れをして体調に問題がないかチェックする。午後からは、朝放牧した仔馬たちの体調チェック。セリに出す1歳馬たちのセリ馴致もある。夜は日中放牧している馬たちの夜飼い(夕食)。

「きつい仕事なんですね」
「そうだなぁ。そうかもしれねぇけど、それが当たり前だからなぁ」
「逃げ出したくなったことはないんですか?」
「あるある。オレは高校生のころ町さ行って悪さして、何度か補導されたこともあるべ」
 弘志さんは豪快に笑い飛ばした。
「けどなぁ、オレ達がいなきゃあいつらは生きていけねぇ。オレたちはあいつらがいなきゃ、生きていけねぇ。単純なことだ。支え合っているから、苦痛だなんて思ったこともねぇ」
 かじぺたさんが頷きながら微笑んだ。あいつら、というのは馬たちのことだ。

 僕は道の両脇に広がる森を見つめた。この土地を切り開いてきた先人がいる。そしてその子孫たちが精一杯生きている。馬たちもまたここへ連れてこられて、彼らと共に生きてきた。夏はこうして過ごしやすい素晴らしい場所だけれど、冬の厳しさは僕らの想像を超えているのだろう。
 それでも、一所懸命生きている。

 釧路に辿り着いたのは昼をとっくに回っていたので、とにかくお腹がすいてしまっていた。弘志さんの知り合いのお店に行って、いきなりの海鮮丼。うわ、真と萌衣にちょっと申し訳ない気がしたけれど、有難く頂く。今度は夜おいで、炉端焼きのいい店に連れて行ってやるから、と言われた。

 漁港や市場を回って、頼んであったという山のような食材を車に積み込んでいく。車にはクーラーボックスというよりも、ほとんど冷蔵庫のような入れ物がいっぱい。それがどんどん満杯になっていく。さんま、さけ、いか、かれい、などなど。夏なので少し種類が少ないけれど、帰りの道すがら、豚肉や鶏肉、それにこれぞ北海道というような野菜類が積み込まれると、車が重さで沈んでいくのに反比例するように、かじぺたさんの意気は上がっていくようだった。

「待ち合わせてるんだ」
 そう言って立ち寄った釧路フィッシャーマンズワーフで、真と萌衣にお土産を買った。萌衣にはアイヌの魔除けのペンダント、真には悩んだ結果、モモンガのぬいぐるみにした。「誘っているようで目を逸らしている」モモンガと目が合った時、あ、これ、真にそっくりじゃん、と思ってしまった。

 まだ買い物を続けているかじぺたさんと弘志さんに断って、トイレに行くと、入口の角のところで、出てきた人といきなりぶつかってしまった。
「わ、すみません!」
 叫ぶようにして顔を上げると……僕は思わず口を開けたまま固まってしまった。
「大和さん?」
 僕がぶつかってしまった長身の外国人は不思議そうな顔をした。
「あれ、どこかでお会いしましたか?」
「え……と、多分」

 僕の頭の中はフル回転だった。ここはパラレルワールド、でもこの人とはどこかで会ってる! どこだっけ? ……もしかして……松江?
 その時、僕は「大和さんそっくりのヤマトさん」の腕の中にいる茶色いものに気が付いた。
「あ」と僕が声を上げた時、その茶色いものも「あ」という顔をしたように見えた。

 いや、猫なんだから、まさかそんな顔をするわけはないんだけれど。耳鳴りが「また一緒に遊ぼうにゃ~」と唸っている。
 そう、弘志さんが待ち合わせていたのは、デジャヴ感満載のこの人とこの猫だった。
 うん、あの時の猫だ、間違いない。やっぱり、今度はシジミならぬホタテの呪いなのかもしれない。

 と、その時、店が並んだショッピングフロアの方から何やらざわめきが聞こえてきた。大和さんそっくりのヤマトさんが、あ、という顔をしていきなり僕に茶虎猫を預けて、走っていった。
 残された僕と茶虎猫はまた顔を見合わせた。

(つづく)

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(3)カムイミンタラの夕べ 

『カムイミンタラ』……神々の遊ぶ庭。北海道では大雪山あたりを指すとされます。でも、前回このタイトルを使った時にも書いたように思いますが、実はアイヌ語を直訳すると、そもそも神(ヒグマ)の遊ぶ庭=熊がいっぱい出没するところ、という意味であって、自然豊かな神のいる場所って暖かいイメージではないのですね。ヒグマが出るから注意しなさい、ということ。
そんな厳しい自然の中で生きている人々、そして競走馬たち。この土地でのオフ会にようこそ。
あ、今回ゲストにイソポイリワクをお迎えしました。【迷探偵マコトの事件簿】マコトのカムイミンタラに登場したコロボックルです。


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(3)カムイミンタラの夕べ



8月9日のにっきのつづき。
 くしろのふぃっしゃーまんずわーふで、ましゅうこからいっしょにおクルマにのって来たおにいちゃんとおねえちゃんとしじんさんは、かんこうつあーの人たちに、いべんとのしゅつえんしゃとまちがえられました。
 3人はケンとかツエをつかっておどったり、タテゴトというがっきでおんがくをやったりしました。つあーの人はぼくを見て、「いや~、ネコもでるん?」と言いました。だからぼくもお手伝いしました。くるくるまわったり、とんだりしました。おうたのオハヤシもしました。ヒロシおじちゃんは、「おおさかのおばちゃんたちにはサカラエン」と言っていました。
 おおさかのおばちゃんといっぱいシャシンをとりました。おばちゃんたちは、3人にワリバシにはさんだ紙をいっぱいあげました。ぼくももらいました。ホッケをかってもらいました。
 それから、タケルは何回もヒロシおじちゃんに「マコトをたのみます」と言いました。ぼく、だいじょうぶだよ。おるすばん、できます。


 真は景色を確かめるようにゆっくりと野塚国道を歩いていた。道は平たんでほとんど起伏も少ない。道の両脇には牧草地と低い笹の密集地、疎らな高い木と、その先に低い山が見えている。
 この道は襟裳を通らずに浦河から帯広や釧路の方面へ抜ける一本道なので、車もそれなりに通るが、それでも何台も連なってということはない。見渡す範囲に動くものはひとつもない時間がしばしばある。

 どこもかしこも見覚えのある景色だが、ほんの小さな符号の不一致はある。もちろん時代の違いもあるのだが、それだけではなく、微かな風の匂いや通り過ぎるだけの人間には分からない木々の表情に、見覚えのない部分を見出す。
 真は立ち止まり、後ろをふり返った。弘志たちが去っていった方向は、ここから見ると山の中になる。幾度となく、大伯父たちや祖父に連れられて通った道だ。

 でも、一人この道を歩いて何を確かめようというのか。そもそも、未来なんてどうして分かるんだ? それは自分の未来なのか、それとも別の誰かの未来なのか、どうやって確かめることができる?
 真はふと息をついて、改めて牧場へのアスファルトの国道を歩き始めた、その時。

 右手の低い笹の繁みがガサガサと音を立てた。
 いや、確かに音がしたと思ったが、風のせいなのか。立ち止まってしばらくじっと見ていると、その正体はすぐに分かった。
 久しぶりに見るコロボックルだった。

 まだ見えるなんて。
 そう思って、彼らがまだ見える自分にほっとした。
 国道の隅っこを歩きはじめると、笹の繁みもガサガサと揺れて、真の後をついてくる。真が立ち止まると向こうも止まる。真が歩きはじめると、また笹が揺れる。ゆっくり歩くとゆっくり、速く歩くと向こうもスピードを上げる。笹の繁みが切れて牧草地になりかかったところで、真は思い切りダッシュをした。

 コロボックルは……身を隠す笹の茂みから飛び出してしまったことにも気が付かず、必死で真に併走するように牧草地を走っていた。そして、何かの瞬間に真と目が合って、驚いたような顔をし、それから真を追い抜いて必死で牧草地を駆け抜けていった。
 真も足にはいささか自信があった。今度は真がコロボックルを追いかけ、いつの間にか牧場まで抜きつ抜かれつの競走になっていた。

 牧場の敷地までたどり着くと、そこからはコロボックルは入ってこなかった。
 放牧中の馬たちがゆったりとした仕草で頭を上げ、お帰り、とでもいうように真の方を見つめ、また頭を垂れて草を食み始めた。振り返ると、コロボックルは右手を上げて挨拶をして、元の道を戻っていった。
 送ってやったべ、もう迷子になるなよ、とでも言いたそうだった。
 俺は別に迷子になっていたわけじゃないけど、と思うとおかしかった。

 牧場に戻ると、馬たちの体調を確認しながらブラッシングをしていた長一郎が手を止めて、驚いたような顔をした。
「どうした? 一緒に行ったんじゃなかったのか」
「えぇ、あの、お手伝いをしてもいいですか?」
 それは助かる、と言って、長一郎は真のために作業衣と長靴を用意し、ブラシを持ってきてくれた。
 教えられなくてもやり方は分かっていた。長一郎も真に指示をしなかった。ウラボリ(蹄の裏の泥落とし)に糞拾い、寝藁の掃除も、従業員たちと一緒に黙々と行った。

 牧場は相川一族、つまり長一郎とその兄たち、さらにその息子たちが中心になって経営している。彼らはもう真と挨拶を済ませていたが、今日初めて会う古くからの従業員たちは、真を見て驚いたような顔をした。
 だが長一郎が何も言わないので、まるで当たり前のように真を受け入れた。真が教えられもしないのに、手際よく仕事をこなしていくことにも、時々不思議そうに顔を上げるものの、「君は誰?」などと野暮なことを聞かなかった。
 もう何年も一緒に働いているかのように、仕事の内容についての会話を言葉少なに交わすだけだ。そんな時にも長一郎がじっと自分を見守ってくれているのを感じた。

 ただ、馬たちの名前だけは別だ。真は幾頭か、自分が知っている馬たちと同じ名前の馬を見出したが、真を懐かしがってくれる馬はいなかった。
 やはりここは真の知っている牧場ではないのだ。
「乗ってみるべ?」
 牧場にはトレーニング用の馬場がある。真は驚いたものの、長一郎の真剣な表情を見て頷いた。
 自分を信じてくれているのだ。何より、騎乗できるなら、それだけでただ嬉しい。

 馬体のチェックを入念に行い、馬具をつける。この馬は真のことを馬鹿にしたり嫌がる様子はない。額に南十字座のような白い斑点があり『サザンクロス』という名前を与えられていた。
 調教師らしき男が、いくらなんでもそれはできない、馬にもその子にも良くないことだと止めたが、長一郎には確信があるように見えた。

 大人しい馬もいるが、そもそも競走馬は気の強い馬が多い。
 馬という生き物自体は、もともと群れを作る習性があり、みんなで楽しく走りたいと思っているという。他の馬よりも前に出たい、先を走りたい、と思っているわけでは無い。だから競走馬は馬という種の中でも特別だ。大人しく優しい性質では競走馬には向かない。競走馬になり一番になる馬とは、他の馬を出し抜いて一番で走りたい、と思うような馬だ。そういう性質は遺伝なのだ。だから良い競走馬を作るには血統が何よりも大事だ。

 だが、それだけではだめだ。一頭一頭の馬の性質を我がことのように理解するパートナーが必要なのだ。
 真は大人しく自分を背に乗せてくれた栗毛に軽くタッチをし、合図をした。
 途端にサザンクロスの馬体がしなやかに跳ねた。周囲で見ていた者たちは、真が振り落されると思っただろう。だが、実際には杞憂だった。真の身体は一瞬に反応した。

 サザンクロスは走るのが嬉しくて仕方がない、というように見えた。走り始めると興奮する、そういう性質の馬だ。真は注意深くサザンクロスを嗜めた。他の馬がいなくて良かったと思った。他の馬が走っていると、競争心を煽られて追い抜きたくて、脚に負担をかけてでも前に出ようとする馬もいるので、それをコントロールするのも調教師にとって大事なことだ。真の意志をサザンクロスは汲み取ってくれたように見えた。

 一周して戻ると、調教師が首を横に振った。
「全く、長さんも無茶だが」ふぅと息を吐く。「君は見習い生ではないのか」
 この人は、「長一郎の孫の真が十九で死んだ」後でここに来たということだった。
 長一郎はにこにこ笑って彼に何か話していた。真はサザンクロスをゆったりと歩かせた。調教師の目が驚いたように丸くなり、真をじっと見つめていた。

 七時前になって、弘志と享志、かじぺたさんが山のような食材を抱えて帰って来て、さっそく女性陣が料理の支度にかかった。釧路から浦河まで三時間半の距離を往復し、今日一日運転し通しだった弘志はさすがに疲れたような顔をしていたが、魚を捌くのは俺の仕事、とばかりに台所へ入っていった。
「あ」
 真は一緒に帰ってきた茶虎猫を見て、思わず声を出してしまった。萌衣も同じ反応だった。
「やっぱりそうなるよなぁ」
 享志が顛末を話した。

「え? じゃあ、あの人にそっくりのあの人にまた会ったんだ」
 萌衣が驚いたように言った。
「一緒に来なかったの?」
「南米で仕事だからってそのまま東京に帰ったよ。マコト、あ、猫の方のマコトを預けに来ただけなんだって」
 車内でホッケをもらったマコトはもうお腹がいっぱいなのか、それ以上は食べずに、彼なりに挨拶する相手がいるのか、家の中、牧場の中をうろうろしていた。

「うん。それだけじゃないんだ。明日からここにやって来るという三人組にも会ったんだけど、そのうちの一人が、なんと、松江で僕たちに髪の毛をくれたオッドアイのレイさんなんだ」
 享志の話では、彼らは今日は釧路湿原のサンセットカヌーに参加して、そのまま釧路に泊まるという。この牧場の従業員で釧路に帰省している人がいるらしく、明日、彼らの希望通り一緒に阿寒湖とオンネトーを観光しながらこっちに来る予定になっているらしい。

「で、俺に何でモモンガ?」
 享志がくれた釧路のお土産というモモンガのぬいぐるみについて、真は確認した。
「だって、似てるような気がして」
 隣で珍しく萌衣が爆笑だった。
「確かに似てるかも~。こういうの、この時代ではツンデレって言うんだって」

 長一郎が真を手招きする。今日からの夜の牧場の仕事は、盆休み前の従業員たちが引き受けているので、長一郎は久しぶりに深酒ができると喜んでいる。酒豪で簡単には酔わないと聞いているから、実はいつも他人以上に深酒なのかもしれないが。
 長一郎は隣の部屋に行って、楽器を持ってきた。
 太棹三味線だ。
「弾けるベ?」

 真はしばらく長一郎の顔を見つめたままだった。長一郎は三味線を真に手渡す。
 その竿を握った瞬間、自分の部屋に重なるもう一つの部屋の住人の気配が蘇った。パラレルワールドの部屋。この三味線はあの部屋にあったものだ。
 真は長一郎の前に座った。指摺りと撥を受け取り、三本の糸を爪弾くように音を確かめる。
 自分の三味線ではない。だが、自分に重なるもう一人の自分の手が感じられる。

「江差追分を頼む」
 真は頷いた。
 そもそもルーツ的には三味線伴奏で歌われていた追分も、明治時代には今の尺八伴奏が定着している。その哀愁たっぷりの尺八の伴奏を、三味線風にアレンジしたのは長一郎だった。長一郎は三味線を弾くが、唄うのは江差追分だけだ。それも、とてつもなく上手い。レコードを出さないかと誘われたこともあると聞いている。唄は妻の奏重の領分だと決めつけているようだ。
 真は目を閉じた。江差追分なら、祖父のために何度も弾いたことがある。

 三味線で尺八のように音を伸ばして鳴かせるのは容易なことではない。そもそもそういう構造ではない。管楽器独特の揺らぎのようなものは、同じ弦楽器でも絃を擦ることによって音を出すヴァイオリンやチェロのならばともかく、糸を叩くことによって音を出すタイプの楽器には想定されていない。だからさわりを思い切り利かせて、左手で糸を揺すって、三味線を泣かせるのだ。
 三味線は自分のものではない。だが、この唄は長一郎と真のものだ。
 それは疑いもなく、祖父が教えてくれた節、彼が唄う江差追分だった。

 ふと気が付くと、安堵と不安が入り混じったような顔で享志と萌衣が真を見つめていた。大丈夫だと言いたかったが、まだ自信はなかった。
 夕食の準備が整ったところへ、京都から客人が到着したと聞かされた。
 長一郎が親友だと言って紹介したのは、京都の宮大工の鏡一太郎と成太郎の、これもまたじいちゃんと孫、という組み合わせだった。

 再会の喜びを噛みしめあった後、長一郎が真を傍に引き寄せて言った。
「俺の孫だ」
 真も、もちろん享志も萌衣もびっくりした。いや、実際のところ一太郎も驚いたような顔をした。彼は親友の孫が亡くなったことを知っているのだろう。一方、孫の成太郎だけは事情を知らないらしく、同じ年くらいの三人組に嬉しそうな顔で挨拶をしてくれた。

 一太郎と長一郎が太鼓と三味線の競演を始めた。台所をかじぺたさんに任せた奏重が加わり、道南口説に始まり、日本全国北から南までの民謡の旅が始まった。
 それは不思議と穏やかな時間だった。
 音楽だけは、時間も次元も越えて人と人を繋いでいる。


8月10日
 きのう、じいちゃんのオトモダチがキョウトから来ました。ぼくははじめてタイコを見ました。大きな音だったのでびっくりしました。どんどん、っていうと、おへやがブルブルってなりました。じいちゃんとばあちゃんといちたろージイチャンが、ひいたり叩いたりうたったりしました。ぼくは、おはやしのおてつだいをしました。にゃ~、にゃんにゃんにゃん、にゃんにゃんにゃん(は~どっこいしょ~、どっこいしょ)♪
 いちたろージイチャンが「マコト、すごいぞ」とほめてくれました。そうでしょ? ぼくね、ここに来たら、いつもじいちゃんとれんしゅうしてるんだ。
 きょうは、しょっがっこーに行って、ぼんおどりのじゅんびをしました。せいたろーといちたろージイチャンがいっぱいはたらきました。ぼくもおてつだいしました。ろーぷをせいたろーのところまで持っていきました。せいたろーが「えらいぞ、マコト」と言ってくれました。タケル、ぼく、がんばったよ。


 今日はいよいよ募集した『助っ人』たちがやって来る。
 真は朝から牧場の仕事をひたすら手伝っていた。萌衣は人間の食事の準備もしていたが、馬の食事の準備も手伝ってくれた。享志はすっかり弘志に気に入られたのか、外回りにもついて行き、冬に向けて乾草の準備をする手伝いをしている。良質の乾草を作るためにはいい状態の牧草を選んで、今からロール状にして発酵させる準備をしなくてはならない。

 サザンクロスは真が近付くと「走ろう、走ろう」と合図をするようになった。まだだめだと窘めると、明らかにがっかりしたような顔になった。昨日京都からやって来た宮大工の家の成太郎がサザンクロスを気に入ってくれたようなので、ニンジンの準備を任せた。
「賢い馬やなぁ。ニンジンもよく食べるし」
 成太郎が言った。
「でもあっちの馬はニンジンが好きじゃないみたいやけど。馬にも色々好みがあるんかなぁ」
「うん。塩分が多めの食事を好む馬もいるし、甘い方が好きな馬もいる。だから、一頭一頭食事の内容は違うんだ。一番いい状態で、しかも栄養価の高いものをしっかりと食べてもらえるように工夫している。ここの調教師もすごくこだわる人が多い。こういうペレット状の配合飼料ができてからは、馬の体格はものすごくよくなったと思うけど、あんまり好きじゃない馬もいるし、夏は食欲が細っちゃう馬も多いから、気を付けなくちゃならないんだ」

「へぇ~、人間のアスリートと一緒やなぁ」
成太郎がそう言ってから、ええなぁと呟いた。
「なに?」
「うん、昨日何にも話さへんかったけど、馬のことになると一生懸命やなって、なんかええなぁって」
 成太郎は午後から、小学校で櫓を組む手伝いのために借りだされていった。

 夕方、小学校の方角から太鼓の音が聞こえてきた。真は馬たちのためにせっせと厩舎の掃除をしていた。踏みつけた牧草や汚れた水を口にすることを避けるために、掃除は最も大事な仕事のひとつだった。
 厩舎の辺りは平たんな土地だが、その先には丘陵地で起伏のあるなだらかな牧草地がうねるように連なっている。馬たちが顔を出す小さな窓の向こうに、夕焼けが広がっている。太鼓の音は身体の中で増幅するように響き、身体を巡る血液に乗って体温を上げていく。

 厩舎を出ても、音は風に乗って大きくなったり小さくなったりしながら続いていた。ソーラン節、北海盆歌、炭坑節、それにオリキャラオフ会音頭メドレー、どれも馴染み深い太鼓の調子だ。
 太鼓の音が止むと、夕闇がすとん、と落ちてきた。

 その時、どこからか風に乗って「まこと~」と自分を呼ぶ声が聞こえた。
 振り返ったが、誰もいない。あれ? と思うと、あの茶虎仔猫が走っていた。
『いそぽ~!』
 猫のマコトを追いかけていくと、なんと、昨日のコロボックルが現れて、マコトと手に手を取って(多分、そんな感じ)くるくる回って再会を喜んでいるようだった。
 そこへ犬三匹と、更にもう一匹猫が走り寄って来た。
 いや、これは幻か? 何となく、犬はともかく、もう一匹の猫は半透明に見える。

『しょうかいするにゃ。こっちは、エドワード兄貴とアーサー兄貴、それからまほう犬のポチ』
 茶虎猫は、もう一匹いる猫の方は紹介しなかった。というよりも、そのもう一匹の猫だけは、真にも曖昧な姿にしか見えていない。
「こんにちは。えっと」
 コロボックルや猫、犬に気をとられていた真は、人間の言葉が一瞬理解できなかった。あ、人間だ、と思って慌てて振り返ると、そこには小柄で細身の少年、いや青年が立っていた。蕗の葉っぱを持っている。

『いそぽにオミヤゲだよ』
 マコトがコロボックルに言った。コロボックルは蕗の葉っぱをもらってすごく嬉しそうだった。早速、葉っぱを持って、マコトや犬たちと一緒に牧場で鬼ごっこが始まった。幸生の足もとには、彼らを見守るように老いた猫が座っていた。
 やっぱり、猫がもう一匹いるようだ。

「牧場の方ですか?」
「いえ」違うと言いかけて、一太郎に孫だと紹介した長一郎の顔が浮かんだ。「あの、まぁ、そういう感じです」
「僕、三沢幸生と言います」
「相川真です」
「お手伝いしていいですか」
「もちろんです。でも、来られたばっかりで、別に今日から働かなくても……それに、もうウェルカムパーティが始まりますよ」

 幸生は人懐こい笑顔を見せた。
「君だって、行かなくていいの?」
「馬たちの夜飼いを半分するって約束したんです」
「夜飼い?」
「夜のご飯です」

 本当は人がいっぱい集まっているのが苦手なので、少しでも遅れて行きたくて引き受けた。厩舎の従業員は休みが少ないので、こんなふうに牧場でするパーティの時くらい一番から参加してもらいたかったのもあるけれど、どちらかというと、真が気楽な方を選んだというべきだ。
 結局パーティーが始まるまで、ついでに岩風呂に入る時間を計算に入れて、ということで手伝ってもらった。
 厩舎の掃除をしながら、幸生がコーラスをやっていることなどを話してくれた。それから猫や犬の話になった。この牧場に北海道犬やハスキー犬、オオカミ犬がいることを言うと、ぜひ紹介してくれということになり、二人で犬たちのところへ行くことにした。

 ふと気が付くと、後ろをもう一人、少年が付いてきている。
「あ、ナギ、君も犬たちに挨拶に行く?」
 幸生とナギは既に挨拶を交した後だったようだ。
「私たちも一緒に行ってもいい?」
 気が付くとナギ親衛隊のように、後ろに女性陣が付いてきていた。

 最初に声を掛けて来てくれたのは春日綾乃。フォトジャーナリストを目指してアメリカで勉強中だという彼女は文句なしの美人だ。
 その後ろについてくる二人の女性は、コトリとダンゴと名乗った。一人は少し年上の落ち着いた感じの女性で、もう一人は明るい笑顔を幸生と真に向けてくれた。何と女性二人でバイクでここまで来たのだという。
 真はコトリと目が合って、ちょっとドキリとした。
 それからもう一人、優しい風情の千絵という女性は看護師だった。四人はもうすっかり打ち解けているように見えた。

 パーティーの準備が整うまでの間に、女性たちはみな先に風呂を済ませている。今は異国から来た(とみられる)レオポルドとマックスの二人、それにどういうわけか道すがらこの会に参加するメンバーを集めて車を運転し続けて疲れた表情の山口正志も一緒に風呂に誘われたという。
 岩風呂は広いので男性が五人くらい一緒に入っても、走り回る犬や猫と一緒に入っても、特別問題はない。

 一瞬、二人は躊躇った。厩舎で藁と泥と、ついでに糞にもまみれていたので、風呂上がりの妙齢の女性たちに囲まれるという予想外の事態に慌てたのだ。ちらりとコトリを見ると、気にしないように、と目で合図を送られた。
 さらにその女性を追いかけるように、もう一人、ミツルという名前の少年がくっついてきている。彼の視線は千絵以外の三人の女性たちを行ったり来たりしている。女性を選り好みしているのかと思っていたが、最終的にはいつもナギと呼ばれた少年を気遣っているのが分かった。似ていないけれど、双子の兄弟なのだという。

 犬は全部で八頭。真が実際に牧場で飼っていた犬たちと、名前は同じでもやはり違っている。それでも犬たちは真にすぐに馴染んでくれていた。
 皆に犬たちを紹介する。北斗、ルナ、スバル、シリウス、アルデバラン……と名前を挙げていくと、綾乃が感心したような声をあげた。
「君が命名したの?」
「えぇ、その、僕というのか、僕の……」
 確かに、この名前は全て真がつけた。だがここにいる犬たちに名前を付けたのは、もう一人の真だ。

「私、高校時代は天文研究部にいたの。それに今、あっちの大学では天体物理学を勉強していて」
「本当に?」
「君も興味あるの?」
 留学までは考えていないが宇宙工学の研究をしたいと思っていると伝えると、綾乃がぜひ留学も考えなさいよと勧めてくれた。
 真は彼女の前向きな姿を美しいと思った。でも本当は、ここ浦河に戻って、調教師になることもまだ捨てきれていないのだ。宇宙への憧れと、馬たちへの敬愛の気持ちと、どちらも自分の中にある。そして今、その先の未来が果たして自分に与えられているのかどうか、その足元さえ危うく感じる。この女性なら、そんなものを蹴散らしていくだろうなと思うと、勇ましく頼もしく思えた。

 十九でこの浦河で亡くなったというもう一人の真のことは話せなかった。だが、馬たちと生きていくことも考えていると告げると、綾乃は頷いた。
「私は二足の草鞋を穿くつもりだけれど、さすがに調教師と宇宙工学は両立できないかぁ。馬は生き物だものね。こっちも百パーセントでかからなくちゃならないんだって、牧場の中を案内してもらって感じたの。当たり前のことだけれど、忘れそうになってる。生きるってすごいエネルギーだって」

 傍で静かに佇んでいたコトリが口を開いた。
「いいテーマが見つかりそうね。風景写真は素晴らしいし、自然の力や美しさをものすごく感じるけれど、もしかすると人やあるいは生き物たちがそこに命の輝きを放っているからすごいのかもしれないよ」
 何か重いものを心の内に抱えながら生きている、そのコトリの気配を真は自分と彼女の間の僅かの隙間に揺れる空気から感じ取った。

「もしよかったら、いつか真冬に来てください。雪の中で走る馬たちの白い息、季節なんて関係なく真っ暗で冷たい早朝から働く牧場の人たち、凍てつく冬を生き抜くために闘う生き物たち。ここは旅行しやすいいい季節は短いけれど、そうではない季節にこそ、人の営みを感じる時間が潜んでいます」
「それにこうして集まったメンバーたちのそれぞれの想い、厳しい冬を越えたからこそ短い夏にエネルギーをぶつける祭り、そうした中にあなただから撮ることができる景色があるのかも」

 幸生とナギ、それに引っ張り込まれたミツル、そしてダンゴと千絵は犬たちと打ち解けはじめていた。そこへ、コロボックルのイソポと分かれたマコトとアーサー、エドワードも戻って来たので、全員意気投合とでもいうように、十一匹と五人で大はしゃぎだ。
 その大はしゃぎは宴会に持ち込まれた。

 ウェルカムパーティーは自己紹介を兼ねた演芸大大会になっているようだ。
 夜放牧する馬たちの準備もあるし、従業員は交替で譲り合いながら、宴会に参加したり小屋に戻ったりしている。その賑やかな明かりを背に、夜飼いを続けていた真のところには、享志がやって来た。
「替わるよ」
「いいよ」
「替わる。成太郎さんが、もしかすると一緒に演りたいっていうんじゃないかな」
 真の手から馬たちのためのバケツを受け取った享志の手が、いつもよりもずっと逞しく感じた。

「あ、それはカンナカムイので、こっちがサクラサクので……」
「大丈夫、分かってるよ」
「級長は宴会にいた方がいいよ」
「級長じゃなくて、享志」
「あ、えっと、うん、享志」

「あのさ、真、俺は杞憂だと思うんだ。だって、犬も馬も、名前は一緒でも中身は違うだろ。さっきさ、長一郎さんが俺の孫の真は死んでしまったが、別の孫の真が帰ってきたって、一太郎さんに言ってたよ。一太郎さんは笑いながら『長さんがぼけちゃったんやないかって心配してた』って。真は確かにこの相川牧場の孫だ。でも、亡くなった人とは別の孫だ」
 真は享志にぽんと背中を押されて、皆の居る建物の方をふり返った。
 そこには、長一郎とコトリが立っていた。

(何だか終わらないぞ。予定外に続く)


次回は、コトリと真の会話に始まり、宴会の模様などを織り込み、皆様と絡ませて頂きます(^^)
盆踊りでは、即席コーラス隊が作られそうです。
え? まさか(やっぱり)あの人があの曲を……(^^)

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(4)あの列車に乗って行こう 

シーズン通して見るのが大変なのでドラマは滅多に見ないのですが、ちょっと合唱部ドラマに嵌っています。というよりも、そのうち一人がヒールでなかなかいい味を見せてくれている間、かなり面白かったのですが、先日彼女が「寝返って」しまったので、ちょっと残念。
誰も知らないと思いますが、昔「赤い靴」というバレエドラマがあって、まさにトゥシューズに画鋲、なんていうイジメに主人公が屈せず頑張るという話でした。「キャンディ☆キャンディ」でも、イライザとニールといういういじめっ子がいたからこそ、お話は盛り上がったものでした。あの緊迫感はヒールの存在あってこそ。あの頃、ヒールはヒールに徹してくれたのですが、最近はそうもいかないようで。
というわけで、大海がちょっと合唱ネタを使いたくなったために、盆踊りでは皆さんに歌っていただくことにしました。
その番組でTHE BLUE HEARTSのTRAINTRAINを歌っていたのですが、これは私の好きな曲10本に堂々ランクインする名曲。じゃ、即席オフ会合唱団にも無理矢理歌っていただこうと。でもこの合唱の裏には、何かありそうです。幸生だけが知っているようですが、黒幕は誰? 目的は何? その答えは次回、即席最終回にて。
今回はまだ「悩める真」に愛の手を、の巻です。
え? 真がコトリに恋? そして、マコトはナギとミツルは「漫才と手品」をしていると思っているようです。
マコトよ、それは漫才ではなく、多分、ミツルは真剣だ。


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(4)あの列車に乗って行こう



8月10日のにっきのつづき。
 それから、今日はいそぽにまた会えました! いっしょにたくさんあそびました。アーサーあにきとエドワードあにき、それにポチもいっしょです。とってもたのしかったです。
 うぇるかむぱーてぃーがはじまりました。さいしょにレイさんとリーザさんとしじんさん(ましゅうこで会ったひとたち。おなまえ、おぼえました)が、ふぃっしゃーまんずわーふでやったようなおんがくとおどりをやりました。ぼくもいっしょにやろうと言われたので、おてつだいしました。おおさかのオバチャンがいないので、こんどはわりばしにはさんだ紙はもらえませんでした。
 ぼくはやっぱり何回もぺんだんとをさわろうとしたけれど、にげちゃいます。でも、いつかきっとつかまえます。
 それから、ふたごのキョウダイがてじなとまんざいをしました。目玉がとんでいました。つぎは、へいかとはくしゃくが、みたこともないおどりをおどりました。うたもうたいました。ユキちゃんもうたいました。せいたろーとまこと(ぼくじゃない方のまこと)がたいことしゃみせんをしました。だんごさんとちえさんもおどりにくわわりました。かわいかったです。あやのさんがときどきしゃしんをとりました。ことりさんはにがてだからと言って、おどりませんでした。
 あさってのぼんおどりでソーランぶしをおどるだけじゃなくて、うらかわの人に何かお礼ができないかということになりました。ユキちゃんが、みんなでうたおうといいました。ユキちゃんはこーらすぶなので、しどうすることになりました。かじぺたさんとエドワードあにきとアーサーあにきもいっしょにしゅつえんすることになりました。
 それから、ミツルしゃんが「だめ~」と言ったけど、みんなでいっぱい目玉をつくることにしました。ナギしゃんがぼんおどりの時に、てじなでとばしてくれるそうです。


「いや、コトリさんを紹介しとこうと思うてな」
 長一郎が真にコトリを引き会わそうと連れてきた。実際には、宴会があまり得意ではないと見抜いたから、息抜きにと誘ったのだろう。何しろ、通常の酒豪の域を越えている長一郎は、少々飲んだところで周囲への気配りを失うことはない。もっともそれは人間に対してよりも馬に対しての方が大きいのだが。

「実はさっき、お話したんですよ」
 そう長一郎に言ってから、コトリは改めて真に向き直った。
「改めましてコトリ、いえ、サヤカです。よろしく」
 コトリが右手を差し出した。
 真は手を後ろに隠し、作業衣で手を擦った。汚い手だと思われるのが少しだけ恥ずかしかった。だが、コトリはその真の手を取って強く握りしめた。

「今はコトリって呼んで欲しいの。でも、何だか、君には本当の名前を言っておきたいような気がして」
 コトリは何か事情を聞いたのかもしれないと思った。包み込まれた手から伝わってきたのは、コトリ自身が経験してきた複雑で哀しい想いと、それでも懸命に生きていた人の真摯で強い命の力のようなものだった。
「あの……」
「もう大概のことには驚かないから、心配しないで。だって、どう見てもみょうちくりんな二人連れと出会って、それにまたここに来たらどう見ても次元を越えてきたとしか思えない三人組がいて、何となく小さい人やら黒い服の女性やら見えない猫の気配も感じるし、何でもありかと思い始めてるの。これはもしかすると、ここにやって来たみんなそれぞれに、何かを教えているんじゃないかって」

 真はコトリのことが少しだけ気になっていたことに改めて気が付いた。べたな言い方をすると、一目ぼれのようなものかもしれない。でもそれは恋愛とは少し違う感情だった。
 宴会場になっている建物の方から、「お~い、長さん」と一太郎が長一郎を呼んでいた。長一郎は真にみんなに挨拶をしなさい、ひと風呂浴びてからでいいから、と言い残して戻っていった。

「ね。すごい空だね」
 コトリが牧場を覆う天を見上げて言った。
「天気が良ければ、もっとすごい星空が見えるんだけど」
「うん。でも、この雲の向こうにその空が広がっているってちゃんと信じられる。目に見えなくても、感じる」
 コトリが一歩自分に近付いたような気がして、真は思わず一歩反対側に移動した。恥ずかしいと思ってしまった。

「長一郎さんから多少の事情は聞いたよ」
 そう言ってコトリがもう一度空を見上げた。
「私は親父さんから、あ、私を救ってくれたバイクショップの親父さんなんだけれど、浦河に行って、孫を失った大事な友人の様子を見て来てくれって言われて来たの。親父さんも本当の孫を失ったから、きっと心配だったんだと思う。それで、ここに来て、長一郎さんの顔を見て直ぐに分かった。悲しいことって簡単には乗り越えられないし、忘れられない。それでも今を生きている人間は前を見て歩いていかなくちゃならないんだって」

 コトリは「私を救ってくれた」と言ったけれど、そのいきさつは何も語らなかった。だから、しばらく二人で遠い空と、その空が包み込んでいる牧場を見ながら、夜間放牧中の馬たちの静かな気配を感じていた。
 やがて、コトリが「さぁ」と振り切ったような声を出した。
「じゃ、私はみんなのところに戻るね。君も早くおいで」
 宴会は苦手だけれど楽しそうにしているみんなを見るのは嫌いじゃないと言って、コトリは戻っていた。真はもうしばらく牧場の風に吹かれていたが、気を取り直して風呂に向かった。


 ひと風呂浴びて宴会場に行くと、成太郎が待ってましたとばかりに近付いてきた。一緒にやろうという。真は渡された三味線の糸合わせをして、成太郎と一緒に『道南口説』から始めた。牧場の従業員で唄の心得のある者が唄い始める。

 オイヤ 私しゃこの地の荒浜育ち
 声の悪いのは親譲りだよ 節の悪いのは師匠ないゆえに
 一つ唄いましょ はばかりながら

 その後は、一足早い『ソーラン節』の踊りの稽古、それに「scribo ergo sum 音頭」、「小説ブログ「DOOR」音頭」、「ちいさなほんだな音頭」、「Court Café BLOG音頭」、「Debris circus音頭」、「茜いろの森音頭」、「かじぺたのもっとデンジャラス(そうかも)ゾーン音頭」、「クリスタルの断章音頭」、「コーヒーにスプーン一杯のミステリーを音頭」、さらに「無人島音頭」、「曲がり角ドン節」まで誰でも知っている馴染み深い曲を一通り演奏した。

 もう盆踊りが始まったような賑わいだった。唄えるものは唄い、唄が苦手なものは机や茶碗を叩いて御囃子を入れる。誰も行儀悪いとは言わない。
 テーブルには弘志やかじぺたさんが釧路から運んできた魚介類に、近所の人たちが持ってきてくれた野菜類、そして皆がお土産に持ってきてくれた食材が、いくら大人数でもこんなには食べれない、というほどに並んでいる。
 かじぺたさんが豪快に料理をしてくれたようだ。奏重を始め、牧場の女性たちももちろん手伝っているのだが、かじぺたさんが今では台所を仕切っている様子。
 逆に牧場女性メンバーは、普段台所に縛り付けられていることが多いので、久しぶりに台所からは半解放されたのかと思いきや、すっかり宴会モードの男性陣に替わって、牧場の仕事を手分けしてやることになっている。女性陣はやはり逞しい。

 テーブルには一太郎の持ち込んだ酒や、神戸から送ってきてもらった酒、コトリとダンゴが持ってきてくれたじゃがいも焼酎、それに未成年には千絵が持ってきてくれた美瑛サイダーが並んでいる。
 さらにデザートには、正志が持ってきてくれた柳月の三方六セットと、ナギとミツルが持ってきてくれたマタタビカステラと饅頭。ナギはまだマコトが食べるものだと信じていて、マコトを追いかけては食べさせようとするのだが、マコトは逃げ回っている。むしろ、レイモンド・リーザ・詩人が持ってきてくれたウニに興味津々だ。

 コトリとダンゴが持ってきてくれた熊よけの鈴は、長一郎が新しいものが欲しいと思っていたところだったので、とても喜んだ。レオポルドが持ってきてくれたマタンプシは、盆踊りの時に使おうということになった。
 それからマックスが持ってきた食われ熊はちょっとした話題になった。
「あ!」
 見るなり萌衣が声をあげた。享志も頷いている。

 実は、学院の院長室には生徒たちがあちこちでお土産に買ってきたものが並べられている。その中にいかにも北海道土産です、という熊の木彫りがあったのだが、それが鮭を咥えている熊ではなく、鮭に噛みつかれている熊だったのだ。
 誰もこんなものを見たことがないというので話題になり、一体これはどこからやって来たのかという話になった。院長もよく知らないという。そのうち、院長秘書が北海道の「マシヒサモト」という人から送られてきたということを思い出した。
 しかし、北海道のお土産物屋に問い合わせてみても、熊が鮭を咥えているならともかく、逆はないという。そのうち、誰かが「それは面白い」と言いだし、そのアイディアで商品を作ろうと思うと言った。
(注:本来、真たちは1970年前後に中高時代を送っております)
「これ、どこで売っていたんですか?」
 萌衣がマックスから聞き取りを始めた。そんな時の萌衣は生き生きとしている。

 三味線を弾きながら真は時々隣で太鼓を叩く成太郎を見た。ほんのたまに、成太郎の太鼓に何かノスタルジアのような寂寥のようなものが混じるのを感じるからだ。真の視線に気が付くと、成太郎は一瞬虚を突かれたような顔をして、それから頷く。
 大丈夫だよ、と言っているように見える。
 真は三味線を弾きながら、もう一度、先ほど自己紹介を終えたメンバーを見渡した。

 一番楽しんでいるのは飛び入りだと言ってやって来た謎の二人組だ。しかも意外にも踊りも上手いし、声もいいし、全くの場違いなイメージにも拘らず、完全にこの場に馴染んでいる。人柄なのだろうと思った。特に、マックスと名乗った、少し地味目の男性は女性陣の受けがいいらしい。誰とでも打ち解ける様子は見ていて羨ましい。
 さらに驚いたことに、猫のマコトは結構お囃子が上手い。それを見て、謎の二人組のうち「陛下」と呼ばれているディランと名乗った一見厳めしい男が猫を傍に呼び寄せ、「そちに褒美を取らせよう」と話しかけている。

 マコトはきょとんとしていたが、目の前にサーモンを置いてもらうと、「え? いいの?」と何度も確かめるように「陛下」を見て、それから、かじぺたさんが連れてきた二匹のウェルシュコーギーと幸生さんが連れてきたポチを呼んできて、一緒に嬉しそうに食べ始めた。何とも律儀な猫だ。
 今度は、犬たちが「陛下」に粗相がないか確かめに来たかじぺたさんに、「陛下」が「そなた、うちの宮廷料理番として働く気はないか」とリクルートしている。かじぺたさんの料理がいたく気に入ったらしい。

「陛下」の向かいにはくるくる巻き毛が可愛い中学生のナギが座っている。彼は、女性陣の母性本能を刺激しまくっているらしく、誰彼なく「これ食べない?」と料理やお菓子を持ってくる。しかし、ナギの視線はほぼ「陛下」にロックオンされている。何かとても気になるらしい。いや、確かに気になる人ではあるのだが。

 ナギのところにやって来る女性陣に「ついでに」料理や菓子を分けてもらっているように見えるミツル。ナギの兄貴だと言っていたが、女性陣がやって来るたびにどぎまぎしている様子が初々しくておかしい。彼の一番のお気に入りは、ここで最も目を引く美人の綾乃だというのも直ぐに分かる。
 だが、じっとミツルを見ていると、もうひとつ気が付くことがある。彼が最も気にしているのは実は、その場の空気を全く読まない弟のことなのだ。何か心配して見守っているような、そんな感じだ。

 ミツルの視線を最も浴びている春日綾乃は、この場に馴染もうとさりげなく努力をしているようだが、そしてそれは大方は上手く行っているのだが、時折さびしそうな表情を浮かべる。真と目が合うと、完璧な笑顔を向けてくれるが、何かを迷い決めかねているようなミステリアスな雰囲気を纏っているのだ。それでも話しかけられると、誰とでもそつなく会話を紡いでいる。
 綾乃に気を遣っているのは、何と、享志もそうだ。確かにこれだけの美女なら気になるのは仕方がないのだが。

 おい、俺の妹に手を出しているくせに、殴るぞ。
 と、真がちょっと思っていることを享志は気が付いていないだろう。
 その享志と萌衣はいつものように気遣いを発揮している。あの二人はいつもそうだ。まるで自分たちは端から牧場の従業員とでもいうようにくるくるとよく働いて、あちこちにお酌に回ったり、食べものを運んだりしている。

 そこに、千絵という横浜の看護師が、職業柄なのか人柄なのか、すぐに立ち上がって手伝おうとするのだが、牧場の人たちも、享志と萌衣は従業員のように使っても、彼女のことは直ぐに「座って食べていなさい」と押し戻してしまう。彼女が少し申し訳なさそうにしている様子が微笑ましい。
 その彼女を「誰が見ても見つめすぎだろ」というくらいにガン見しているのが、同行者の山口正志だ。いや、いくら真が男女の仲のことには疎くても、これはあまりにも分かりやすすぎる。あれは絶対にポケットに指輪を忍ばせているに違いない。

 そしてコトリとダンゴ。ダンゴの方は誰にでも打ち解ける性質のようだし、強いかどうかは分からないがお酒もイケるようで、皆に話しかけながら周囲を楽しませてくれているようだ。皆で一緒にはしゃぐのが嫌いでは無いようだ。その様子をコトリが微笑ましいと言わんばかりに見つめている。まるで本当の姉妹のようだ。

 そして、デジャヴの塊のようなレイモンド。レイモンドは以前見た時は、相当に人見知りなイメージだったが、今日は仲間もいるからなのか、何とか周りに打ち解けようとしていて、それはかなり成功しているようだ。聞けば、釧路で大阪のオバチャンの洗礼を受け、それから開き直ったようだという。彼は、猫のマコトが狙っていると思われる胸元のペンダントをしきりに気にしている。
 開放的で力強そうなリーザはいかにも姉御という感じだ。しかも、一太郎・長一郎の酒豪ペアと張り合って、ものすごい勢いで飲んでいる。

「これは何という酒なのだ」
「京都の伏見というところで作られた酒だ。それからこっちは我々の友人が送ってくれた黒松剣菱という酒で……日本では米どころ、水どころの酒がやはり美味い」
 などと酒談義に花が咲いているが、三人とも全く顔色一つ変えずに飲み続けているのだ。
 一方、隣で出来上がっている「詩人」だが、竪琴を持たせるとまるきりしらふに戻って、なんと成太郎・真の演奏に合わせてくれた。

「民謡というのですka~、素晴らしい音楽でsu」
 何やら曲想が湧くのか、次々とアレンジで曲を生み出していく。それを聞くと真の方でも少しだけ煽られてしまって、ついついアドリブを多く入れるようになる。成太郎は真や詩人に合わせて、時に強く、時に慰めるように太鼓を叩く。
 本来なら民謡では、一番は唄、二番は太鼓、そして三味線は一番立場が下なのだが、成太郎は人を引き立てるのが上手い。

 そこに幸生が、即興の歌で参加する。民謡もすぐに覚えるし、みんながよく知っているポップスなんかも歌ってくれる。うん、いい声だなと思うと、演奏にも力が入る。民謡以外はあまり知らない真だが、萌衣が置いてあったキーボードで助けに入ってくれた。萌衣にピアノが弾けるなんて、初めて知った。
「陛下」が幸生に「余にも何か歌を教えてくれ」と言った。
 幸生は意味ありげにちらっと正志の方を見て、それからある提案をした。

「盆踊りの時に、浦河の人たちにお礼の意味も込めて、合唱をしませんか」
「合唱?」
「皆で声を合わせて歌うことです」
 マックスが説明した。
「ふむ、盆踊りというのはそのような儀式めいたことをする場なのか」
「いえ、この時代においては、儀式でなくても皆で声を合わせて楽しむために歌うのです」

 幸生がこれを歌おうと言って披露した曲は3曲。比較的知られた曲で、親しみやすいものばかりだという。
 とは言え、次元を超えてやって来たレオポルドとマックス、レイモンドとリーザと詩人たちには「馴染み」も何もない。だが、彼らは驚異の記憶力と藝術の才能を示した。享志と萌衣と真にとっては、知っている曲が1曲に、初耳2曲。だが、どちらもキャッチ―ですとんとハートに届いた。
 この選曲、何か意味があるのだろうか、と幸生を見ると、幸生がウィンクして「付き合ってくれよな」というような顔を見せた。何かあるんだな、と思った。

 そんな話が決まって、そろそろ今日のパーティーはお開きという時間になってから、成太郎が真に向かって言った。
「そろそろ、本気出す?」
 祖母の奏重と目が合った。いや、本当の祖母ではないのだが、視線が合ったのはまるきり不可抗力のようだった。成太郎が何でもついてくよ、という顔をしていた。奏重が立ち上がったので、皆が静まり返った。

 真はひとつ息をついて、掛け声と一緒にじょんがら節の前弾きを始めた。祖母の十八番なら小原節と思ったが、何となくこの場にはじょんがらが似合っているような気がしたのだ。
 じっと自分を見つめてくれている視線の中に、長一郎とコトリ、一太郎がいた。享志と萌衣がいた。今日知り合ったばかりの正志と千絵、ディランとマックス、ダンゴ、綾乃、ナギとミツル、幸生、レオポルド(は二度目だけれど)とリーザ、詩人、そして台所から戻ってきているかじぺたさん。皆が何かを訴えるような目で真を見ていた。それに、マコトやエドワード、アーサー、ポチまでもがご飯を中断してじっと見守っている。

 一の糸は情けを断ち切る、二の糸は表に出せない心の揺らぎ、そして三の糸はあらゆる人生の色彩を語る。真は長一郎を見つめ返した。
 それでも、これはあなたが教えてくれた音だ。糸を押さえ弾く指遣いも、撥を持つ手の形も、後撥と前撥の僅かなタイミングの取り方も、十六の泣かせ方も、ひとつひとつ、幼い真の手を取って教えてくれたものだ。
 コトリともう一度目が合った。
 イッショニガンバロウネ
 彼女の唇がそんなふうに動いたように見えた。

 そこに、まるでもう十年ほども一緒にやって来たかのように、成太郎の太鼓が重なる。奏重がゆったりと頭を下げる。拍手。「待ってました!」の掛け声。
 素晴らしい唄声を持つ奏重は、自分の伴奏は真にと譲らなかった。祖母が唄うと、真の三味線は自分を越えて、祖父母が出会った日本海に面した海岸線を辿って過去までも震わせた。ぴったりと寄り添いながら唄と三味線が上り詰めていくこの時間は、真にとってまるで自分の魂がどこか彼方へ浮き立っていくような感覚だった。


 皆が寝静まってから、真はこっそり寝床を抜け出した。
 牧場には従業員用の宿舎があったので、グループごとに部屋が準備されていたが、その日、すっかり打ち解けた皆は、部屋ごとに分かれるのは寂しいということで男女別に合宿のように大広間を使うことにした。
 他人と一緒に眠るというのは、真が最も苦手とすることのひとつだ。だが、ふと身体を起こして周囲で雑魚寝をしている面々を見ていると、不思議と穏やかな気持ちになった。

 この時代の人たちはみな自分用の携帯用の電話を持っている。真も萌衣も享志も、そんなふうに簡単に人と繋がるような機器は持っていない。廊下に出ると、昔から真が見知っている黒電話でもない、大きな白い電話機が台に置かれていた。紙で情報もやり取りできるという。
 まさか、と思って、勝手に申し訳ないと思ったが、受話器を取り、記憶の中にある数字を押した。ダイヤルを回す、という代物はもうほとんど見かけないらしい。

 繋がるとは思っていなかった。
「もしもし」
 明瞭な声だった。
「あ」
 相手が名乗る前に思わず意味不明の声をあげてしまう。相手はしばらく黙っていたが、いくらか笑いを押し込めたような声で言った。
「どこの誰のイタズラ電話かと思ったら、真か」
 これは俺の知っている男だろうか。それとも。

「寝てたのか?」
「いや、調べ物をしていた。お前、北海道じゃなかったのか」
「うん」
「北海道」といえば北海道だが、どうとも説明のしにくい場所にいる。
「あの……そっちは何年何月?」
「は?」
 大和竹流が意味不明というように聞き返した。そりゃそうだよな。
「2015年ってことはない、よな」
「何訳の分からないこと言ってるんだ。19xx年だよ。お前、電車を乗り間違えたのか。ウェルズのタイムマシンにでも乗っちまったか」

 竹流は冗談で聞いたのだろうが、真はそうかもしれないと思った。
「おじいちゃんとおばあちゃんは元気か?」
「……うん」
「……どうかしたのか?」
 何かを察したように優しい声で聞いてくる。その声がたまらなく懐かしくて愛しい気がして、真は少しだけ目を閉じた。
 帰れなくなるなんてことはないよな、きっと。享志も萌衣もいっしょなんだし。そう、ピンチになっても、あの二人がいればなんとかなる。そんな気がする。こうして電話だって通じるんだし。

 その時、不意に廊下の先に誰かの気配を感じて目を開けた。
 一瞬、黒っぽい影が見えたような気がした。女性? だが、ただの光の加減だったのかもしれない。
「寂しくなったら迎えに行ってやるから、電話してこい」
「馬鹿じゃないの」
「いや、もう寂しくてたまらなくなって電話してきたんだよな。俺の声が聞きたくて」
「んな訳ないだろ。ちょっと電話が通じるのか確認したかっただけだ。電話代、かかるから、もう切るよ」
「かけ直そうか」
「だからもういいって。……おやすみ」
「うん。おやすみ」
 それからしばらくどちらも電話を切らずに黙っていた。相手が先に切ってくれたらと思ったが、多分これは埒が明かない。真はもう一度振り切るように「じゃあ」と言って、電話を切った。


 外に出て、いつものお気に入りの場所に座る。
 少しだけ小高く盛り上がった場所で、牧場の全体がほぼ見渡せる。風が吹き渡っていく。座った地面から伝わってくる土の温度と草の匂いが心地よい。
 少なくとも、電話はちゃんと元の場所に繋がっている。そして、真のお気に入りの場所も、ここにちゃんとある。

 気が付くと隣に茶虎猫が座っていた。真はマコトの背中を撫でた。マコトはちょっと真の方を見て、それからまるで一緒に牧場を見渡すように首をあげた。ぶるぶると空気を震わす馬たちの気配と微かな声。風が草を撫でいていく音。天空の雲の向こうの星の音。虫の声と、時折空を横切る鳥の気配。

「別に不安なわけでも、寂しいわけでもないんだ」
「にゃん?」
「もしも未来の自分の運命を知ったのだとしても、それで何かが変わるわけでもないし」
「にゃ?」
「生まれ変わったら、今度は猫がいいな」
「にゃ~」
「いや、何度生まれ変わっても、わしの孫に生まれてきてくれ。もっとも、それはもうずっと先のことだろうがな」
「え?」「にゃ?」
 気が付くと、長一郎が傍にやって来ていて、マコトを挟んで向こう側に座った。

「真も、いや、君ではない方の真だが、ここが好きだったべ」
「にゃ!」
「そうかそうか、お前もだったな、マコト」
 それにしても「まこと」だらけでややこしいや、と思った。
 それからしばらくの間、沈黙があった。どんな闇にも光の気配があると教えてくれたのはこの人だったか、アイヌのおじいちゃんだったか。

「僕のこと、一太郎さんに孫だって紹介したのはどうしてですか?」
「隣の世界からやって来たんだとしても、君はわしの孫だ。違うかな?」
「……」
「わしもこのことを考えてみた。少しずつわしの死んでしまった孫と君には違った部分があると分かってきた。わしの教えた『江差追分』を弾いてくれるが、じょんがらの曲調は少し違う。奏重があの子は真だけけれど、真ではないと言いよった。唄を合わせてみたらよく分かる、と。だから、似た部分よりも、違う部分が大事だと思った。のぅ、わしはこう思うんだ。君がここいるのは、与えられた命を先に繋ぐためだと。わしの孫のように十九で死んでしまうためではない。その先の世界を見るためだとな。だからこそ、君はやはりわしの孫なんだべ」
「にゃ!」
「もちろん、お前もだ、マコト」
 そう言ってから、大きな長一郎の手が真の頭に乗せられた。
「この浦河へよく帰って来てくれたべ、な、真」
「……うん」
「お前もな、マコト」
「にゃん!」
「さて、明日からはこき使うべ。早く寝ろ」

 長一郎がマコトを抱いて戻っていく後姿を真はしばらく見送っていた。いつの間にか、少し離れたとことにコロボックルが立っていた。夜の見回りかもしれない。
 フクロウの声が聞こえる。やがてコロボックルは、「おやすみ」というように右手を上げて、優しい穏やかな光を溜め込んだ漆黒の闇の中に消えていった。


8月11日
 おはようにゃ! あさごはんは、あやのちゃんが持ってきてくれたテンネンコウボぱんでした。ぼくもぎゅうにゅうといっしょに、ちょっとだけもらいました。とってもおいしかったです。だから、今日から、ぼくもみんなといっしょにイッショウケンメイはたらきます!
 でも、ボクジョウのひとが、「へいかをはたらかすわけにはいかない」と言いました。へいかははたらきたいと言いました。まっくすさんが「へいかのぶんもわたしがはたらきます」と言いました。こまったジイチャンは、「じゃあ、おびひろにつかいにいってくれないか」と言いました。
 まこととへいかと、それからなぎとぼくが、おびひろにいくことになりました。おびひろにあずけてあるおうまさんのちょうしが少しよくないから、ようすを見にいくのです。おびひろまでの車の中で、おうたのれんしゅうをしました。
 きのう、ユキちゃんがみんなに「がっしょうかだいきょく」をおしえました。ユキちゃんは「まさしさん、このぶぶんのソロをたのみます」と言いました。それからチエちゃんいがいのおんなの人をあつめて、うちあわせをしていました。何かあるのかにゃ? ぽちがニコニコしていました。ぼくもヒミツをおしえてほしいです。
 おうたは、このおおぞらへ~つばさをひろげ~、と、とれいんとれいんはしってゆけ、と、あ~いわずぼ~んとぅ~らぶゆ~、です。いいうただと、へいかが言いました。へいかはひくい声で、おうたがとってもじょうずです。
 なぎは車の中でも、目玉をつくっていました。ぼくもおてつだいをしています。にくきゅう目玉です。
 ぼく、ときどき、うきます。なんでかにゃ?
 だからぼくもうたう。

 ここはてんごくじゃないんだ かといってじごくでもない
 いいやつばかりじゃないけど わるいやつばかりでもない

 せかいじゅうにさだめられた どんなきねんびなんかより
 あなたがいきているきょうは どんなにすばらしいだろう
 
 とれいん とれいん はしってゆけ
 とれいん とれいん どこまでも

 つづくにゃ。
(何だかやっぱり終わらないにゃ。予想通り続くにゃ



マコトと真の会話。マコトの3つ目の台詞?「にゃ~」は「いや、これで猫も結構大変なんだにゃ」と言っていると思われます(*^_^*)
噛み合うような、噛み合わないようなメンバーが、少しずつ近づいていく感じがしますね。いや、もうあちこちで、色んなシーンが展開はしているのですが。
さて、陛下を牧場の仕事から遠ざけたわけではありません。実は、レオポルドに帯広のばんえい競馬の輓馬(ばんば)をぜひ、見て欲しかったのです。
ちなみにマコトは軽いので、ナギの隣にいるだけでも、勝手に浮いちゃうらしい(#^.^#)

そして、またまた電話のラブシーンを繰り広げるこのふたり。
なんだよ、もう、と呆れずに、見守ってやってください(#^.^#)

次回は、(たぶん)最終回。ミツルと萌衣が大接近? そして、QUEENの名曲に籠められた幸生の作戦とは?
オリキャラオフ会in北海道(5)『I Was Born To Love You』、お楽しみに!
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Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇) 

何ということか、終わらなかった。何はともあれ、あまりにも長すぎるので、前後編に分けました。盆踊りに熱が入ってしまった。残りはわずかなのですが、後日談を少し入れなきゃいけないので、今回は前篇ということで。
さっさと終わらせてStellaの原稿を書こうと思ったけれど、断念しました。サキさん、ごめんなさい!(もしかしたら土壇場で足掻くかも)
気になるのは、真が少しマコト化していることです……(=^・^=)


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇)



8月11日のにっきのつづき。
 おびひろにあずけてるおうまさんは、ばんばと言って、ものすごくものすごくおっきなおうまさんでした! おしりなんか、すっごい、ば~~ん!!!ってかんじで、ぼく、たべられそうになって、きをうしないそうになりました。
 とってもむかし、ホッカイドウではたけやぼくそうちをたがやすときに、かつやくしたおうまさんです。なぎとぼくはならんで、ぽか~ん、としていました。
 おうさまとまことは、ばけんをかいました。いっぱいあたったから、とうもろもろ~をかってかえることにしました。
 ちゅうしゃじょうにもどったら、くるまのまわりに人がいっぱい、いました。
 くるまのなかでは、目玉がいっぱいぷかぷかしていました。まことが「これはふうせんなんです」といっしょうけんめいおはなししました。ぼくのにくきゅう目玉もぷかぷか、ういていました! わ~い。なぎはてじながとってもじょうずです。
(タケル添削:馬は草食動物だから猫は食べないよ。マコト:そうなの? でもまちがえてのみこんじゃうかも!)


「なんと、素晴らしい馬だ。この堂々たる体躯は、牧場にいる馬たちとは全く違うではないか」
 パドックもレースも、馬たちのごく近くまで行って見ることができる。仕事をさせてもらえなくていささか不満そうだった陛下、ことレオポルドも、この魅力的な重量馬を身近で見て大喜びだった。いや、そもそもこの人は馬や人が大いに好きなのだろう。
「この馬たちは、いわゆる現代の競走馬とは全く種類が違います。重種馬で、体重も800から1200kgくらいあります。以前は農耕馬として北海道開拓時代に活躍していたのですが、戦後はモータリゼーションが進んでその数は減っていきました。昔から農耕馬のたちの『草ばんば』という競走は各地で行われていたのですが、今ではすっかり廃れていて、こんなふうに観光地化して何とか維持できているのはこの帯広競馬場くらいだとか」

 実際の真の時代とこの2015年でもまた事情は変わっているのだが、酪農専業農家が一頭だけこうした馬を飼育しているというのは、昔からよくあることだ。もっともそうした多くの馬は競馬に出すために飼育されているわけでは無く、一歳頃に市場に売りに出すことを目的としている。乳牛と違って、あまり質の良くない飼料を与えても問題はなく、現金化もしやすいというメリットがあるようだ。
 相川牧場はいわゆる酪農業というわけでは無く純粋な馬産農家だが、創業時からばんえい種を一頭育てていた。現在の馬が、偶然良い馬で、ばんえい競走馬となり得ると判断したため、一歳で売りには出さず、この帯広競馬場の傍の厩舎に預けているのだという。

 マコトとナギは馬たちに釘付けだ。家猫にしては珍しく競走馬を多く見ているマコトでも、この馬の迫力は目を奪われるだけのものがあるのだろう。目玉づくりを通してナギとはいつの間にか意気投合しているのか、ナギに大人しく抱かれている。
 すると、観光客が「かわいい~、一緒に写真撮ってもらってもいい?」と話しかけてくるのだ。つまり美少年と美猫、というマニア垂涎の構図、ということらしい。

「レースはばん馬が騎手と重量物を積載した鉄製のそりを曳いて、200メートルのコースを進みます。途中に障害が二か所。最初の障害は低くて大したことはありませんが、二つ目の障害は高くて、ここを重いそりを曳いて登るのは大変です。何度も停まったり、引き返して勢いをつけて再度やり直したり。普通の競馬と違って、そりの後ろがゴールラインを一番に越えた馬が勝ちです。賭けますか? 賞金は安いので、一攫千金はありませんけれど」
「おぉ、そうしよう。そなたはどの馬が強いかわかるのか」

「ばん馬はよく分かりません。速く走るかどうかは分かるけれど、障害を越える力があるかどうか、耐久力はどうか、それに騎手との相性、サラブレッドの競走馬よりも検討する要素が多すぎるし、八百長だってレース場に乱入する客もいるんです」
「八百長なのか!」
「さぁ、でも、鼻先は一番でゴールラインを切ったのに、そこで全く動かなくなる馬もいるんです。そうしているうちに他の馬が横をのろのろ歩いてゴールしてしまって、結局一番ビリになるなんてことも。ただ速く走ることを目的とするレースとは少し訳が違う」
「それは面白い。何とも人間臭いレースだ」

 走るコースの真横で馬たちを見ることができるというので、レオポルドは喜んで観覧席からコースの真横の地面に降りた。まさに、馬たちが重いそりを曳いて目の前を走っている……走っているというのか、歩いているというのか。
 レオポルドはさすがに今日はアイヌの衣装を着ることを躊躇っていたが(さすがに何となく浮いていることには気が付いたらしい)、かといって牧場で支給された作業衣はいまひとつだったらしく、結局女性陣があれこれアレンジして、往年のロックスターのような格好になってしまった。競馬を楽しみに来た観光客は何か特別な撮影でもあるのかと思ったらしく、テレビカメラの存在を確認している。

 確かにかなり見世物っぽいが、何かの撮影ではない。だが、後で車に帰った時はもっと驚いた。車に人だかりができていたのだ。中を見て仰天した。目玉がいっぱい浮いている。真は「これはお祭りに使う風船なんですよ」と周囲の人に説明したが、納得されていたかどうかは不明だ。マコトは大喜びしていた……ようだけれど。
 相川厩舎が預けていた馬は、結局、蹄鉄の具合が悪かっただけのようで、真たちの用事もすぐに済んでしまった。だから結果的にレオポルドと真、そしてナギは(マコトも?)、レースを楽しんで、結構な賞金を得た。

 そもそも真は競馬の予想をしたら結構読みが当たるのだが(もちろん、それは超能力ではなく、馬を見る目の問題だ。もっとも高校生の身分で馬券は買わない)、今日は何故か勘が冴え渡り、ことごとく予感が的中した。
 真は傍らに立つナギを見た。ナギも真を見上げた。何となく、お互いに波長が合う感じがした。
「ぼく、浮かすことしかできないけど」
 ナギが不明なことを言った。
「僕も、変なものが見える程度だけれど」
 真も不明なことを返した。それから二人で何となく微笑み合った。
 マコトがにゃあとナギの腕の中で鳴いた。ま、いいんじゃない? とでも言っているようだ。もっとも、通常の競馬ほどには配当金も大きくはないので、少し豪華な食事にありつけるかどうか、という程度だったのだが、彼らは大いに満足した。

 ナギはマタタビ何とかで一生懸命マコトを手なづけようとしていたが、成功しなかったようだ。でも、目玉作戦は成功している。いや、目玉については作戦ではなく、単なる結果論だったのかもしれない。もともとマコトは、レイモンドのペンダントを狙っていたようだが、今はナギの目玉に夢中らしい。
 レオポルドは馬主や騎手たちに話しかけ、馬のことをあれこれと聞いている。一国の王とは思えないほど気さくに誰にでも話しかけているが、やはりそのオーラは只者ではないことを語っている。生まれというのは、どういう環境に置かれても隠せないものらしい。
 それにしても、仕事をさせてもらえないと拗ねていたのが、ようやく機嫌が直ったようだ。

「なんだ」
「いえ、失礼かもしれませんが、楽しんでいただけて良かったと思って」
「余は、本当は『労働』がしたかったのだ」
「馬の糞を片づけたり、草を刈ったり、飼料を運んだり、それはやっぱりあなたのすることじゃないと、みんなそう感じたんだと思います」
「だが、世の中の人々がどのような仕事をしているのか、それを知り、体験することは国王として大事なことなのだ」
「でも、世の中の人は、あなたにそんなことを求めているわけじゃないんだと思います。あなたにはあなたの仕事がある」
 それはナンパじゃないけど、と真は心の中で付け足した。いや、一国の王にとって、それこそが大事なのかしれない。丈夫な跡継ぎを産んでもらう女性を探すことは、たやすいことではあるまい。
 レオポルドはしばらくじっと真を見ていたが、やがてばん馬たちのほうへ視線を戻した。

「ところで、そなた、馬を操るのが上手いな。いや、これはオヤジギャグではないぞ」
 真は始め理解できなかった。じっと考えてようやく何のことか分かったものの、一瞬迷った。笑うべきかどうか? レオポルドは昨日の宴会で「ダジャレ」「オヤジギャグ」なる単語を覚えたらしい。
「朝方、馬を走らせておったろう。見事であった。鞍がなくても乗れるのか」
「えぇ。でも、競走馬は鞍をつけるところからがトレーニングで、つまり鞍をつけられないような馬は競走馬にはなれません。だから、あれは反則です」
「そなた、グランドロンに来る気はないか? 聞けば、時空を彷徨っているという話ではないか。馬丁、いや、いずれは余の参謀になってくれるのもよい」
 彷徨っているつもりはない。必ず帰ると信じている。

「マックスさんはあなたの参謀ではないのですか?」
「あれはあれで一国の主なのだ」
 昨日はかじぺたさんをリクルートしていたし、女性陣にはことごとく声を掛けていたし、一体この人は何をしに来たんだろうと思った。でも、ここが真の知っている北海道ではないのだとしても、こうして皆がこの町に来てくれたことには、お互いに何かの縁があるのだろう。
「でも、僕にも仲間がいますから」
 レオポルドは今度はナギを見た。ナギがにこっと笑った。
「僕にもミツルがいるから」


8月12日
 おはようにゃ! きょうのあさごはんは、きのう、おびひろでかってきたとーもろもろこしのすーぷでした! よーぐるとはてづくりです。ぼく、とーもろもろはたべないけど、だんごちゃんが、ねこまんまをつくってくれました! わ~い。
 きのうはおっきいおうまさんを見にいったあと、ボクジョウにかえっていそぽとあそびました。えどわーどアニキとあーさーアニキとぽちもいっしょです。

 よるはみんなでおうたのおけいこをしました。ぼく、おうた、じょうずになりました。ゆきおしゃんはおしえるのがとってもじょうずです。そーらんぶしのおけいこもしました。ぼくもおどりました。
 それからあしたのぼんおどりのときにきていくユカタをじゅんびしました。おうさまが、きんいろがいいといいました。それをみて、ゆきおしゃんが、おうさまにへんなうたをおしえました。おうさまは、みんながよろこぶならと言って、おうたをおぼえました。
 お・れ! おうさま、すごいです!

 きょうはぼんおどり! わ~い。
 ばあちゃんとちさとちゃんとかじぺたさんは朝からタキダシのおてつだいに出かけました。ゆかたのじゅんびもしました。おうさまのきんきんきらきらゆかたもできあがりました。じいちゃんといちたろーじいちゃんと、せいたろーとまことは、たいことしゃみせんのウチワをしました。ぼくもオハヤシのおけいこをしました。
 おしごとがおわったら、みんないっしょにおふろに行きました。ぼくは行きません。ぬれるのきらいです。でも、おおうたはだいすき。
 いま~ とみとか~ めいよならば~
 いらないけど~ つばさがほしい~にゃ
 わ~い。でも、ぼく、さいきん、ときどきうきます。つばさがはえたのかにゃ?
 みつるしゃんが、とびそうになるぼくのしっぽをつかまえたので、まちがえてぱんちしちゃったこともありました。やっぱり、つばさがはえたにゃ!
(タケル添削:ウチワじゃなくて、打ち合わせ? マコト:ウチワワセ!) 


「よく考えたら、僕らここでは何歳よ? どうして20歳になってから来なかったんだろ~」
 と間抜けなことを抜かしている享志を放っておいて、真は幸生と萌衣と一緒に音響のセッティングを手伝いに行った。萌衣がキーボードで伴奏をすることになっていたので、幸生が起こした楽譜を二人で確認している。

 櫓にはすでに成太郎と一太郎、それに長一郎と奏重も上がっている。櫓の周りには四方に向かって提灯を釣ったワイヤーが伸びていて、広場の周囲に屋台が並んでいる。テーブルと椅子、それからもうひとつ、特設ステージがあって「我こそは」と思う者が芸を披露する。まだ挨拶も済んでいないのに、すでに出来上がっているような賑やかさだ。
 そしていよいよ開演。町長の挨拶などそこそこにして、今年の特別な祭りが始まった。珍しい客人が来ているというので、今年の参加者は特別に多い。何でも隣町からやって来た人たちも随分いるらしい。

 酔っぱらって踊り始めたら収拾がつかなくなるというので、ステージでの出しものが優先だ。皆が興味津々で「相川牧場の特別な客たち」の芸を見に集まっている。
 もちろん、トップバッターはレイモンド、リーザ、詩人の大道芸だ。リーザは既に飲んでいるはずだが、全くもって酔っぱらっているという気配がない。見事なナイフ捌きを見せて、一躍、町の老若男女のスターになっていた。おもちゃのナイフを使って、子どもたちのためにさっそく屋台風即席ナイフ投げ教室の始まりだ。

 それから、レオポルドが金色の浴衣を着てステージに上がると、みんな大盛り上がりだった。サンバのリズムが会場を謎の熱気の渦に巻き込んでいく。幸生の演出と指導は大したものだ。
 バックダンサーには、マックスとダンゴを中心とした厩舎のスタッフと、いつの間にリクルートしたのか、近所のおばちゃんたちの特別参加だ。マックスとダンゴは、人柄なのか、おばちゃん・おじちゃんたちの人気者になっている。ダンゴはともかく、マックスはまさか、こんな年齢層が高い人たちの相手をすることになるとは、と思っているかもしれないが、それはそれで結構楽しそうだ。
 バックダンサーにコトリと綾乃は加わっていないが、千絵とかじぺたさんは巻き込まれたようだ。千絵は練習の始めこそ少し恥ずかしそうだったが、踊り始めると、何てことはない、結構うまい。彼女が参加すると聞いたからか、正志も彼女を気遣いながらの参加だ。
 でも。目が泳いでいる。こんなことしてる場合じゃないんだよ! とでも言いたそうだ。

 周りを見ると、「マツケンが来てくれたんだべ~」と泣きだす老人までいる。勘違いでも、ちょっとぼけていたんだとしても、そう思えて幸せになってもらえるなんて、レオポルドも嬉しいだろうなと思った。何しろ、ステージから降りたとたん、レオポルドは老人たちに握手攻めになった。スターなのか、王なのか、何しろその凛々しく自信に満ちた姿がレオポルドらしくて微笑ましい。
 彼自身が仕事をするよりも、牧場のスタッフと意見を交換し話をするだけで皆に不思議な安心感を与えている、彼はそういう存在なのだ。

 それから、即席合唱団の登場となった。
 皆で並んでも、どうやらレオポルドの金色浴衣が目立ちすぎるようだ。ステージでは照明が当たるので余計にそう思える。羽織袴を身に付けた幸生が指揮者として登場した時も、ちょっと「しまった」という顔をしているのが可笑しかった。女性陣が上手く千絵を正志の隣に並ばせるのに成功していた。
 一礼をして顔を上げると、配られた歌詞カードを手に、いつの間にかみんなステージの周りに集まってくれていた。萌衣が幸生と目を合わせ、キーボードで前奏を弾きはじめた。

『翼をください』は有名すぎるほど有名なナンバーなので、意外にも『マツケンサンバ』に湧いていた年配の人々も、大きな声を合せて一緒に歌ってくれる。一番の歌詞の時点では、まだ恥ずかしそうに歌っていたメンバーも、その人々の様子を見て、二番に移った時には自然と目を見合わせて、自信を持って前を見つめた。
 今 富とか名誉ならば
 いらないけど 翼がほしい
 子供のとき夢見たこと
 今も同じ 夢に見ている

 たった二日間だけれど、協力し合って仕事をした。それぞれができることをし、できないことを補い合った。大自然の風を感じて、自分のちっぽけさを思った。心の中に持っていたグダグダは簡単には解決できないけれど、前を向こうと決めた。何より、気が付くと、仲間ができていた。
 ふと足元を見ると、何となく、マコトとエドワードI世、アーサーが浮いている。ポチはさすがに浮いている様子はないが、ちょっと慌てたような顔をして真を見た。ミツルが隣のナギをつつく。ナギは「あ」という顔をしたが、どうしようもなかったらしい。
 ま、世間は手品と思っているから、猫と犬が多少浮いていてもいいか。『翼をください』の演出だと思ってくれるに違いない。

 二曲目の『TRAIN TRAIN』からは会場を巻き込んでノリノリになった。既に謎の踊りを始めている人々もいる。「本当の声を聴かせておくれよ」と何となく皆が正志の顔を見るのだが、正志の方は次のソロで頭がいっぱいのようだ。隣の千絵のことを気にしているようだが、緊張とのバランスが取れないでいるらしい。
 彼は、自分が何故次の曲の冒頭のソロを任されたのか、よく分かっていないようだ。もちろん、営業ではカラオケ盛り上げ役などもしているようだし、鬱憤を晴らすのにたまにカラオケボックスでシャウトすることもあるというから、決して下手ではないのだが、もっと他に上手い人がいるじゃないか、何で俺が、とまでは頭が回っているのかどうか。他の事に気を取られていて、幸生の「お願いしますね、正志さんしかいないんですよ」という慇懃ながら、秘かな命令に逆らえなかった、というところだろうか。

 曲は途切れなくよどみなく、次の曲へ移っていくように編曲されていて、萌衣が冒頭の雷サウンドをキーボードで再現してみせると、いきなり正志の出番だった。
 くそ真面目すぎて、自分の気持ちに一生懸命過ぎて、千絵の気持ちが不安で、みんなの気持ちにまだ気が付いていない。いや、千絵は絶対にOKなのに、それを思う余裕もないらしい。でも、それが正志らしい。
 I was born to love you
 With every single beat of my heart
 Yes, I was born to take care of you
 Every single day of my life

「兄ちゃん、誰にプロポーズだべ」という会場の声に一気に曲が盛り上がった。もっとも、緊張しているのか、飲んでしまったからなのか、正志の耳には届いていなかったらしい。
 知らぬは本人ばかりなり、とはまさにこのことだ。でも、ポロポーズを前にした男の気持ちって、そんなものかもしれない。
 それでも、正志は大役を果たした。合唱は大盛り上がりのダンスに繋がり、曲の途中からは成太郎が櫓に駆けあがって、ドラムさながらに太鼓を打ち鳴らした。

 You are the one for me
 I am the man for you
 真はふと周囲のメンバーを見回した。そう、みんな誰かのために一生懸命に歌いながら、誰かを想っている。
 I wanna love you
 I love every little thing about you
 真は信じた。きっと帰れる。そして、生きていく。大事な人のために、この鼓動のひとつひとつを重ねながら。真は足元で一所懸命、にゃあにゃあ言っているマコトを抱き上げ、一緒に歌った。お前も、一人でお留守番、頑張ってるもんな。

 そのままリズムはソーラン節に重なっていく。真も成太郎を追いかけて櫓に上がった。成太郎が目で合図をくれる。アドリブのクィーンと民謡のコラボレーションだ。櫓上の太鼓と三味線のバトルに皆が大喝采をくれる。成太郎のリズムに合わせていたら、安心して三味線を叩くことができた。やがて奏重が櫓に上がると、村のスターの登場に一層の盛り上がりを見せた。北海盆歌から始まって、ソーラン節へ。

 ソーラン節の踊りは昔と随分違っていると真は思った。普段は札幌など街に出て行ってしまっている若者が帰って来て、ハードな踊りを披露する。その影響なのか、盆踊りもバージョンアップしたのかもしれない。それでも、メンバーたちは彼らに引けを取らないくらいに実に見事に踊っている。というよりも、みんな自分なりにアレンジしているようだ。多分、自然に個性が出てしまうのだろう。

 傍らでは成太郎が太鼓を叩きながら徐々にヒートアップしていくのが分かる。飛び散る汗も風に吹かれて一瞬で乾いていく。成太郎には何か抱えているものがあると、初めの日のセッションした時から分かっていた。何もかもが解決したりはしないだろう。でも、今日の成太郎には何を吹っ切ろうとする力強さを感じる。そしてそれは否応なしに人を惹きつける。
 まだまだ、自分にはそれだけのものがない。それでも今、この時にできることをここにぶつけようと思った。

 ナギの目玉が浮き始めた。手品だと皆に説明してあるが、みんな素面だったら、そんな言い訳が通じるとは思えない。でも、今日はマコトに倣って言ってみよう。
 ま、いいか!
 櫓の上から見ていると、皆の様子が微笑ましかった。

 マックスとダンゴは意気投合している。幸生とポチ、エドワードⅠ世とアーサーは見事なコラボで踊っている。マコトは一生懸命みんなを追いかけているように見える。時々浮いているけれど、まあ、いいか。ダンゴが千絵を誘い、時々正志をけしかけているのだが、どうやら伝わっていない。千絵が照れ隠しなのか、ナギの手を引っ張って踊りに加わった。ミツルが少し面白くない顔でその様子を見送っている。千絵がミツルを手招きしたが、ミツルは顔を伏せて答えなかった。

 そこへ、また珍客が登場した。くすんだ赤の袖の膨らんだ上着に灰色の胸当て、マントという妙ないでたちの男と、大きくデコルテの開いたアプリコット色のドレスを着た妙に色っぽい女性だ。レオポルド、マックスと何事か語り合ったと思ったら、周囲に「ドン引き」の気配が湧き出す。マックスに何か嫌疑でも持ち上がったのだろうか。やがて何か折り合いがついたのか、新参者も一緒に踊りの輪に参入した。
 ことに色っぽい女性は、町の人たちを大いに沸かせた。リーザとのダンスバトルは一週間ばかり語り草になることだろう。老人たちが鼻血を出さないか、子どもたちの教育上どうなのか、櫓の上から見ていても心配になるくらいだったが、その踊りは藝術的にも満点だった。
 アップテンポばかりでは疲れるので、と、時折バラードが混じると、詩人の竪琴が大活躍だった。皆の写真を撮りながら踊りの輪を外れていた綾乃が、レオポルドに誘われて輪の中に入ると、一層の盛り上がりを見せた。

 踊りの輪を見つめる人々もいる。その中に、真は黒衣の女性を見つけた。あの人、誰なんだろう? じっとずっと傍にいるような気がする。まるで事の成り行きを見守っているかのようだ。もう一度ふと顔を上げるともう姿は見えなくなっていた。
 そう言えば。ふと思い出した。
 札幌駅で待ち合わせたかじぺたさんのことだ。浦河に着いて車を降りようとしたら、かじぺたさんと犬たちが消えてしまっていたのだ。もっと驚いたことに、牧場に着くと、そこには既にかじぺたさんと犬たちが待っていた。あれは何だったのかな?
 うん、もう、ま、いいか!

 真は時々、長一郎に替わってもらって櫓を降り、皆の様子を見ながら広場を歩いた。唄はまだしも、踊るのは得意じゃない。享志を探すと、すでに村のスタッフの一員のようにして働いている。店番を頼まれたのか、いつの間にか焼きそばを焼いているのだ。全く、級長はどこに行っても級長だなと思うと、少しほっとした。
 コトリは踊りには加わらず、やはり踊らずに飲んでいるレイモンドと時々言葉を交わしながら、皆を見守っている。真と目が合うと、「座る?」というように隣の椅子を指した。
 真はレイモンドと会釈を交した。同じオッドアイ同士、というと変だが、二度目の異世界での邂逅ともなると、妙に親近感がある。

「踊らないんですか?」
「君こそ」
「あんまり得意じゃないので」
「でも三味線と唄は平気?」
「あれは、まぁ、習性みたいなものなんです」
「私も、歌はみんなと一緒に何かがしたいって思えたから参加したけれど、踊りは見ている方がいいかな」
 そう語り合っているところへ、レオポルドが近付いてきた。
「その方ら、座っている場合ではないぞ。このような時に踊らぬとは、かえって場を白けさせて良くないものだ。なに、旅の恥はかき捨てというではないか。余の命令だ。踊りなさい」

 だからと言って(手当たり次第に?)ナンパはどうかと思うよ、王様、と真は思ったが、彼の言うことは一理あるような気がした。もう二度と会えないかもしれない人たちだ。そしてもう二度と見ることのない、真の知らない浦河の記憶だ。
 真は立ち上がり、コトリに手を差しだした。
「踊っていただけますか」
 コトリは少し意表を突かれたような顔をしていたが、やがてそっと真の手に手を重ねて立ち上がった。
「喜んで」
 レオポルドはそれを見て、満足そうに踊りの輪に戻っていった。


「踊らないの?」
 ミツルはドキッとした。さっきまでみんなのためにキーボード演奏をしていた萌衣だ。茶虎猫を腕に抱いている。一生懸命踊りについて行こうとしてたが、誰かに蹴られそうなマコトを輪の中から救出したらしい。犬たちも踊り疲れたのか、幸生と一緒にテーブルに戻り、食べものをもらっている。
 レイモンドの胸のペンダントは、ついこの間までマコトのターゲットだったが、マコトは今度は目玉に夢中だ。代わりに、エドワードⅠ世とアーサーがじっとペンダントを注視している。ポチは少し大人びているようで、あるいは何か事情を察知しているのか、ペンダントのことは見て見ぬふりをしている。

「みんな、ナギと踊りたいみたいだし」
「そうなの?」
 そんなことはないんじゃない、というような響きが籠っていた。ミツルは顔を上げた。
「萌衣さんは踊らないんですか?」
「そんなに歳は違わないんだし、そもそもここじゃ一体自分がいくつなのか分からないし、萌衣、でいいよ。ね、綿菓子食べようか」
 子ども扱いなのか、と思ったが、萌衣は単に自分が食べたかったらしい。一つの綿菓子を二人で分け合ったら、甘くて暖かい気持ちになった。

「級長はまたあんなふうに人から頼まれて嫌とも言えずに焼きそばなんか焼いちゃってるし、相川君はここじゃ忙しそうだし、私もちょっと置いてけぼりな感じなの。あ、かじぺたさんに、ここにいる間は名前で呼びなさいって言われたんだ。享志と真、ね」
「恋人、とかじゃないんですか?」
「え? 誰が誰と?」
 萌衣はミツルを見て微笑んだ。
「級長、じゃなくて享志は、真の妹と付き合ってるの。真にはちゃんと彼女がいるよ」
「え? そうなんですか。そんなふうには見えないなぁ」
「うん、大事にしているのかどうかは不明だけれど」

「萌衣さん……萌衣は?」
「私? う~ん、今は誰かと付き合うとかよりも、もっと色んなことをして、色んなことを知りたいって思ってるの」
「でも三人、仲が良さそうですよね」
「うん、仲間だもの。信頼してる。ミツル君、じゃなくて、ミツルだって、ナギくんととても仲がいいじゃない。彼のこと、とても心配して見守ってるし。それと一緒かな」
「え? 僕は……ナギに腹立てたり、イライラするばっかりで。だってあいつ、天然すぎて勝手なことばっかりするのに、みんなナギがすることは何でも許しちゃうんだ」
「何か分かるなぁ~。うちも天然の妹がいて、時々イラッとするんだよね。でも、ナギくんを一番許して、一番心配してるのはミツルだよね。見てたら分かるし、みんなもちゃんと分かってるよ。なんてのか、みんな、ナギくんが可愛いから構うってのもあるけど、ミツルに、たまにはナギくんのことは置いといて、自分も楽しみなよって言いたいんじゃないかな。それに、ナギくんもミツルのこと大好きだからこそ、いつもミツルを追いかけてちゃいけないって、自分で何とかしようと思っているのかもね」

「真さんにもそう言われました。あ、そう言えば、萌衣はコロボックルがいるって信じる?」
「って、真が言ったの?」
「いや、あの、ナギの目玉1号がなくなって、捜したらコロボックルが遊んでたって。いや、そうナギが言ってて、えっと……真さんは、寂しい時に現れるって。残念ながら、僕は見えないんだけど」
「きっといるよ。寂しい時だけじゃなくて、幸せな時にだって現れるのかも」
 そう言うと、萌衣は立ち上がった。

「ね、踊ろうか」
「え? 僕は……」
「ミツルの歌、結構良かったよ。きっとリズム感、いいんだと思う。君自身は知らないだけで」
 萌衣はそう言って、マコトを膝から下ろして立ち上がった。
 ミツルはしばらく萌衣を見上げていたが、やがて自分は立ち上がり、逆にもう一度萌衣を座らせた。萌衣が「踊りたくないの?」とでもいうように心配そうにミツルを見上げると、その隣でマコトも心配そうにミツルを見上げていた。

「僕から誘わせてよ。……あの、僕と踊っていただけますか?」
 萌衣はにっこりと笑った。
「もちろん」
 テーブルの上では、マコトと並んで立っていたイソポが手に持っていた目玉1号をぽんと蹴った。マコトとイソポ、エドワードⅠ世とアーサー、ポチは目玉1号を追いかけながら会場を走り回った。頭上にはいくつもの目玉が浮いている。マコトが作った肉球目玉も浮いている。その様子を櫓の上から、一匹の猫が見守るように見下ろしていた。


8月12日のにっきのつづき(みだれたにくきゅうもじのなぞをとけ!?)
 あ~いわずぼ~んとぅ~らぶゆ~\(^o^)/
 ぼくまちがえて、なぎくんといっしょにぶどうジュースをのんじゃいました~。
 うぃずえぶりしんぐるびーと おぶまいは~~~と!
 しかも、おわらないにゃ~。まだつづくのだにゃ~~~(ばたんきゅ~)
(もうあきらめたにゃ。つづくにゃ。でも次回は本当に最終回だにゃ)
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Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

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オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇) 

ついに大団円の最終話をお送りいたします。オフ会に参加してくださった皆様、そして読んでくださった皆様、ありがとうございます!! 思ったよりもずっと長くなって、思ったよりもずっと難産な部分もあって、思ったよりもはるかに楽しく書かせていただきました。
Special Thanks to……八少女夕さん、limeさん、ふぉるてさん、TOM-Fさん、けいさん、サキさん、あかねさん、かじぺたさん、ポール・ブリッツさん。
参加して下さった全てのメンバーに大きな拍手です(*^_^*)
それでは、大海の最終話、おたのしみください。
アップしてからちまちま直したり書き加えたりしているので、読み返したらちょびっと変わっているかもしれません。って、読み返すほどの内容じゃないけど^^;


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇)



8月13日
 おはようにゃ! ちょっとだけキモチわるいにゃ。ナギちゃんとぼく、ふつつかよいだって言われました。でも、らいじょうぶら~。
 えっと、きょうは、みんなでえりもみさきにいきました。えりもみさきについたら、モリシンイチをうたいました。えりもの~はるはぁ~♪
 えりもみさきには、あざらしがいっぱいいました!
 あざらし、おいしい?(タケル註:お前には脂っこすぎるかな。マコト:ひかしぼ~! タケル:なんでそんな単語を知ってるんだ?)
 でもびゅんびゅんすごい風で、ぼく、ころんころん、ころがっちゃいました。だから、まことがぼくをうわぎの中にかくまってくれました。タケルのふくのなかみたいで、あったかかったです。ぼく、ちょっとだけタケルにあいたくなっちゃいました。
 でも、ぼく、だいじょうぶ。ひとりで、おるすばん、がんばります。みんながいるから、だいじょうぶだよ。
(タケル添削:ふつつかよい→二日酔いだよ。お前、北海道に行くと間違えて飲むこと多いなぁ。ダメだぞ。急性アルコール中毒は怖いんだからな! マコト:なめただけなんらよ。でもきをつけるにゃ)


 朝靄が牧草地を覆っている。馬たちの影が微かに見える。緩やかな風が海から流れてくる。真は朝露に湿った草地を踏みながら丘を登った。厩舎の周囲は平らに拓かれているが、その先は随分と起伏にとんだ地形となっているので、牧場の敷地を少し出ると景色は随分と印象が変わる。
 北海道の景色は、夏の一時期、人間に対して奇妙に優しくなるが、短い秋が過ぎると途端に素っ気なくなり、真冬にはまるきり人間を寄せ付けない。それでも、この大きな自然の中で、自然に巻き込まれながら、人々は生きている。自然に対して何かができるとは思っていない。ただその中で、大きなものに合わせながら、生きているのだ。

 東京に住むようになってから、この感覚を忘れていたかもしれないと真は思った。
 ふと顔を上げると、朝の光とも靄ともつかない白い景色の中に人影が見えた。自分が一番乗りだと思っていたので、少し残念だった。
 人影は、その遥かな大自然にカメラを向けている。綾乃だ。彼女は何かを探しているのだろう。何かを探している人の姿というものは神々しいものだと思った。綾乃は構えていたカメラを下ろし、遠くを見つめる。

 写真のことは分からないけれど、きっと、心の底から突き動かされるようにシャッターを切る瞬間というのは、そんなに何度もないのだろう。
 邪魔をしないように引き返そうとしたとき、綾乃が真に気が付いた。
「おはよう」
「おはようございます。早いですね」

「でも牧場の人たちは、私たちがまだ寝ている間にもう起き出して仕事を始めてるじゃない?」
 真は頷いた。
「もっとお役に立ちたかったのに、今日はもう仕事は終わりだし、ちょっと申し訳ない気持ち」
「そんなことないですよ。きっと、彼らは皆さんが来てくれて、非日常な数日が過ごせたことを喜んでいると思います」
「そうだと嬉しい。盆踊りの前にね、お風呂でコトリさんやダンゴさんと話していたんだ。人前で歌うのって苦手だな、って話になったんだけど、今回は誰かのためになら歌えるね、って。お世話になっているこの町の人たちへの感謝と、それから、あの二人のためなら」

 真は綾乃のカメラを見つめた。EOS Kiss Digitalと教えてもらった。真の時代にはない、フィルムが必要ではないカメラだ。
「いい写真が撮れましたか?」
「ううん、まだ。やっぱりこの自然には圧倒されちゃう。その中で生きている人たちが、短い夏の間に弾けようとするエネルギーにも。このフレームにこれをどうやって収めるんだろう、あるいは何を切り取るんだろうって、考えたらシャッターを切れなくなることもある。でも、だからこそ、この場所、この時は二度とないんだなぁって、自分がここに立っているこの時間を何とかして残したい、誰かに伝いたい、そんなふうに強く感じてる」

 それから、綾乃はじっと真の顔を見つめた。
「ね、昨日の夕方……」
 真も綾乃の顔を見つめ返した。
 その時、不意に不思議な感覚に襲われた。何か、自分でないものの思念、存在のようなものが流れ込んできたのだ。いや、あるいは自分自身の内側に湧き起こったのかもしれない。懐かしいような、悲しいような、それでいて穏やかで温かいような、不思議な感覚だった。

 綾乃は「ううん、何でもない」と言って、まるで名残を惜しむように牧草地を見つめた。何かを掴みとろうと前進する女性の横顔は綺麗だなと思った。
 享志の奴、見惚れていたけれど、ちょっと分からなくもない。ま、今回は葉子には内緒にしておいてやろう。
 今日は襟裳岬に行って、それから帯広だね、と綾乃が呟くように言った。

「襟裳岬って、森シンイチの歌でしか知らないわ。北国の岬を見るの初めてだから楽しみ」
「少なくとも、『何もない春』ってことはないです。春になると海の匂いが変わって、短い草が生え始めて、海風に耐えながら伸びていく。何より、突端に立つと、270度見回せる海が広がっている。それから、ゼニガタアザラシもいっぱい見ることができるし」
 綾乃がくすっと笑った。
「ここが好きなんだね」
 真は何だか赤くなってしまった。

「上手く言えないけど、来てよかった」
 真は頷いた。
「いつか、綾乃さんの写真が見たいです。綾乃さんが大切な人にこれを見せたかった、と思えるような写真」
「うん、いつかね」
 そう言ってから、綾乃はふと何かに気が付いたようだった。そして少し困ったような顔をし、それから困惑を振り切るように真を見て、力強い声で言った。
「そうだよね。いつかまた、きっと」


「おはようございます」
 幸生がまだ眠そうな目のままで、台所で朝ごはんの準備をする女性たちのところへやって来た。台所で早朝から働いているのは、いつもの通り、かじぺたさんと奏重と知里(弘志の妻)だ。
「あら、おはよう。昨日はご苦労様でした」
 奏重が返事をして、労うように幸生にコーヒーを淹れてくれた。

「すみません。本当に、力不足で……」
「いいの、いいの。男と女のことだから、何もかも思う通りにはいかないものよ」
「じゃ、やっぱり、昨日のは策略だったんですね?」
 かじぺたさんがニコニコしながら確認した。
「策略ってほどのことでもないんだけれどね。最高に素敵なお祝いをしてあげたいって、ある人から頼まれていたのよ。でも、プロポーズは一大事ですからね。正志さんにしても、意を決してプロポーズするつもりで北海道にやって来たのに、来てみたらこんなにみんなが仲良くなっちゃって、逆に二人きりになるチャンスがないなんて、まぁ、皮肉なことだけれど」
「じゃ、正志君もタイミングを逸しているわけなんですね」

「サクラまで用意しんだけど」
 知里も相槌をうつ。つまり、昨夜の「兄ちゃん、誰にプロポーズだべ」って掛け声はサクラ係の声だったのだが、緊張して歌っていた正志の耳には聞こえていなかったらしい。盆踊りの最中にプロポーズ、そして会場でみんなのサプライズ祝い、という運びだったのに、致し方ない。
「でも、旅が終わりに近づいてきて、追い詰められたらきっと行動に出ますよ。男なんだから」

「いやぁ、最近の男は選べない、言い出せない、自信がない、って感じですからね。やっぱり心配だなぁ」
 幸生は自分を棚に上げて頭を掻いた。
「まぁ、でも、運命ならば時が来るものですよ」
「そういえば、奏重さんも知里さんも大恋愛だったんですよね」
 かじぺたさんが今日のスープを作りながら、やはり笑顔で言った。

「私はただ、自分の出自のことで皆さまに迷惑をかけたってだけで」
 知里の言葉をぴしゃりと奏重が止めた。
「まぁ、何を言うの。あなたはうちの素晴らしい嫁ですよ。私はあなたを誇りに思っているわ」
 先住民族であるアイヌの歴史は決して明るいものではない。それでも弘志と知里は想いを貫いたのだ。そしてその背景には、自分たちも周囲の大反対を押し切って、駆け落ち同然に結ばれたという長一郎・奏重夫婦の歴史がある。

「奏重さんは金沢からこちらに嫁がれたんですよね」
「長一郎さんとは想いを確かめ合うこともなく、一度は別れたんですよ。お義父さまが倒れられて、あの人は浦河へ帰ってしまって、その後何年もお互いに連絡を取り合うこともなかったの。牧場のことではあれこれ大変だったと後から聞いています。私はもう諦めていて、別の方との縁談が決まっていた。そこへあの人が迎えに来てくれたんですよ。長一郎さんは一度結婚されて、その後、奥さんを亡くされていたんだけれど……このまま運命に従っていては、想いを残したまま生涯を送ることになると、意を決して金沢まで迎えに来てくださった。私も、たくさんの人に迷惑をかけたし、ここへ来た当初は、花街生まれの女に馬や男たちの面倒を見れるわけがないと、ずいぶん言われたものです」

「男と女には、ここぞという場面があるものですね。大丈夫、幸生さん、正志君と千絵さん、お似合いですもの。二人はきっと、少しくらい回り道してもちゃんと上手く行くと思いますよ」
 かじぺたさんがにっこり笑った。
「えぇ、後で私がこっそり正志さんに耳打ちしておきましょう。うちのスタッフの一人が、働き者でよく気が付く千絵さんをいたく気に入って、よければ牧場に残ってくれないかなんて言っている、とでも」
 奏重が力強く言った。幸生は、女はやっぱり怖いと思った。


 襟裳岬を回って、帯広の近くでジンギスカンを楽しみ、花火大会の会場に着いた時は既に十勝川河川敷近くの会場にはものすごい人が集まっていた。
 花火大会は6部構成になっていて、デジタルとアナログを組み合わせた素晴らしいショーだった。夜空にレーザー光線が光の演出を繰り出すが、もちろん、花火の素晴らしさには敵わない。独創的な花火師たちの特別な花火の紹介もあり、地元の小学生たちの企画花火があり、みんなのメッセージ付きの花火も上がった。

「さぁ、第5部では、メッセージと共に花火を贈ります。まずは、十勝市のKさん。お父さん、お母さん、結婚25周年おめでとう!」
 尺玉が夜空に上がる。一発ずつだけれど、誰かの想いが夜空に花と拓く。
「帯広市のFさん。今年定年退職になったお父さん、今日まで本当にご苦労様!」
 またひとつ、花火が上がる。皆の拍手が夜空に木霊する。
「和歌山から愛をこめて!」
 その声と一緒に打ち上げられたのは猫型花火だ。会場は特別な花火にどっと沸いた。あれって、駅長のたまだよね? という声が聞こえていた。
「東京都港区Tさんから、高校生トリオへ、さっさと帰ってこい!」
 ハリポタトリオと呼ばれていた三人の高校生は顔を見合わせる。その後、享志はぶっと噴き出した。萌衣は大受けで手を叩いている。真はむすっとしている。 
「帯広市のAさん。みっちゃん、結婚してくれ~!」
 尺玉が空で弾け、どっと観客席の一部で歓声が上がった。

 へぇ、こんなコーナーもあるんだね、と千絵が羨ましそうに正志に囁いた。
 正志は青ざめた顔をしていた。こんなコーナーがあるんだったら、もっと早くに教えてくれていたらよかったのに。しかも、牧場のスタッフの誰かが千絵に懸想しているだなんて!
 そう思った時だった。
「富良野市上田久美子さんから、正志君と千絵ちゃんに感謝をこめて! 幸せになってね!」
 正志は自分の聞き間違えではなかったかと思いながら、呆然と夜空に花咲く花火を見上げていた。隣にいる千絵も今のアナウンスを聞いたはずだ。でも彼女はただ空を、花火を見上げている。
 話しかけていいものか、まだ正志は迷っていた。
 メンバーたちは事情を知っていたのかいないのか、時々正志たちの方を気にしながら、口々に綺麗ね、綺麗ね、と言い合っている。彼らの目から見れば、千絵の横顔は明らかに正志に話しかけてもらうのを待っているというのに。

 そうこうしているうちに、花火大会はクライマックスに移っていった。
「勝舞花火2015、グランドフィナーレ、この一瞬を共に!」
 始まって2曲目で、ジョン・レノンの『イマジン』と共に夜空にハートが開いた。
 次々と夜空で花咲く花火。クライマックスに向けて会場中の空気が盛り上がっていく。この一瞬、一瞬、千絵や、ここにいるみなと過ごした時間、全てが花火となって夜空で炸裂する。そしてこの一瞬が消え去ってしまったら……何が残るのだろう。
 いや、心の中に開いた花火を消すことなんて、できない。
 正志はついに決心した。「今」でなくて、いつ言うんだ?
「千絵」
 正志は想いをこめて呼びかけた。

 ……
『風が吹いている』の曲に乗って勝舞花火名物の錦冠が夜空を黄金に染め上げる。
 その光の中へレオポルド、マックス、そして昨夜から突然現れたお堅い役人風と超絶色っぽい姉さんは、いくつものジェラルミンケースと大きな思い出を残して消えていった。
 マックスが姿を消す一瞬前、萌衣に「送ったから!」と言ったが、何のことか分からなかった。

「なんとなく、これからもずっと一緒にいるんだと思っていたわ」
 たった今、プロポーズを受けた千絵が呟くように言った。皆が同じ気持ちだった。花火が消え去った空に友を探すように、皆が残された大きな宇宙に瞬く星々を見上げていた。
 それでも、帰るべき場所がそれぞれにある限り、皆、その場所へ帰っていくのだ。

 帰りの渋滞には会場に集まった人々は辟易していただろうが、相川牧場のチャーターしたマイクロバスの中は祝いムードに満ち溢れていた。みんなで歌を歌ったり、あれこれ思い出を語り合ったりしていると、時間などあっという間だった。そう、たったの三日間だったのに、もう「思い出」と呼べるものがあるのだ。
 不思議と満たされた短い時間。それを夢に見ているのか、マコトは真の膝の上で丸まって眠っていた。本当は眠っていなくて、別れの時が近づいていることを感じて寂しくなっているのかもしれない。
 真はバスの窓から夜空を見上げた。

 この空は、あの東京に繋がっているのだろうか。自分の還るべき東京に。
 一抹の不安を感じた時、隣に座る享志の手が、真の膝の上のマコトにすっと伸びてきた。そのまま享志の手がマコトの茶虎の毛を撫でる。
「帰ろうな」
 真はしばらくじっと親友の横顔を見つめ、やがて小さく頷いた。
 マコトにはマコトの、待っている人がいるのだ。


 夜中に眠れなくて岩風呂に行くと、先客がいた。成太郎とレイモンドだ。何となく不思議な組み合わせになったな、と思いながら、真は彼らと挨拶を交した。
 身体を洗っていると、成太郎が背中を流してくれた。
「成太郎さん、ありがとうございます」
 真は改めて礼を言った。
「なんで、こっちこそ、ありがとう。色々吹っ切れなかったこともあったけど、今は、自分をしっかり持って前も向いていようって、そうしたらきっといつかいいことがある、そんな気持ちになれてるんだ。ありがとう」
 成太郎は力強くそう言ってくれた。

 岩風呂は夏の間は開け放って半露天になっている。冬はそれではとても耐えられないので、雪よけを設置できるようになっていた。今は、湯につかりながら満天の星空を見上げることができる。こうして宇宙を見上げていると、次元も時間も、簡単に飛び越えられそうな、そんな気がしてきた。
 そんな次元をお互いに超えて偶然二度も出会うことになったレイモンドとは、不思議な因縁から、また邂逅する時があるような気がしていた。

「俺も、実はいろいろ思い出せないことがあって、時々気持ちが折れそうになることがあったんだが、こうして何度か異次元に誘い込まれて、何だか色んなことが何とかなるような、そんな気持ちになってきている。それに、不思議なことにリーザや詩人とも、もっと絆が深まったような気がするから不思議だ」
「詩人3世さん?」
「そうそう、何で、急に3世何て言いだしたんだろう? 陛下はII世だと言っていたし、目玉は1世? あ、犬のエドワードも1世だっけ? 流行に乗ったってことかな」
「そう言えばリーザさんは、うちのじいちゃんと真のじいちゃんと、相当仲良くなったみたいですよね」
「あれは仲良くなったというのか、ただ呑兵衛同士というだけなのか……」
 レイモンドも相当に飲むが、どちらかというと静かに飲んでいる。リーザは騒ぐわけではないが、老人のうわばみ二人とは完全に意気投合してしまったようで、飲みながら往年の友人のように注ぎ合っていた。
「酒飲みは語り合わずとも分かり合えるんですよね、きっと」
 三人は顔を見合わせて微笑み合った。


 翌朝、目が覚めたら、レイモンドとリーザ、詩人は、あの不思議な翻訳機もろとも消えていた。長一郎がリーザのためにと用意していた一斗樽も忽然と姿を消していた。持ち帰ったのか、飲んでしまったのかは定かではない。
 コトリとダンゴはこのまま北海道をもう少し回ってから帰るそうだ。コトリと握手をして別れた時、少しだけ甘酸っぱい気持ちになった。
 綾乃も去っていった。美瑛にもう一度寄ってからニューヨークに帰るそうだ。いつかきっと写真を見せてもらうという約束は、しっかりと交わした握手で確かめ合った。

 幸生はポチを連れて、来た時と同じように飄々とした感じで去っていった。その後ろ姿を見送っていたら、その後ろを三毛猫がとことこ歩いてた。あ、やっぱり猫がいたんだ! 真がそう思った時、三毛猫は振り返り、まるで挨拶をするように頭を下げて、そしてすっと幸生の肩に飛び乗った。と思ったのだが、飛び乗った時、ふわりと消えた。

 そして、正志と千絵。本当に有難うと何度も言って、レンタカーに乗り込んだ。特に千絵は牧場の女性陣と随分と仲良くなっていたので、この牧場は第二の故郷になるような気がすると言った。
「あ、正志さん、うちのスタッフが千絵ちゃんのこと気に入って、ってのは嘘なのよ。ごめんなさい。でも、私たちはみんな、彼女をとても気に入っていて、家族のような気持ちになっている。幸せにしてあげてね」
 正志は一瞬「え~」という顔をしたが、次には唇をしっかりと引き結んで、力強く頷いた。

 それから、真はかじぺたさんと、ナギ、ミツルと一緒にミズナラのドングリを植えた。
「大きな木になって、どんぐりがたくさん生ったら、きっとまた、ここでみんなで集まろうよね!」
 かじぺたさんがそう言って、ナギ、ミツル、享志、萌衣、そして真を順番にしっかりと抱きしめてくれた。

 そして。
 いよいよ自分たちもこの牧場を去る時が来た。気がかりなのはひとり(?)ここに残るマコトのことだ。マコトは確かにミズナラのドングリを植える時、そこにいたのだが、気が付くと姿が見えなくなっていた。真は弘志に少し待ってもらって、猫を探した。
 皆で泊まっていた大広間に行くと、なんと、目玉1世がぷかぷかと浮いていた。

 あれ、ナギ、忘れていってる。大事そうにしていたのに。
 そう思ってふと見ると、広間の真ん中に紙が落ちている。真はそれを拾い上げた。
 ……
 まさかの肉球文字。
 でも、その下に、ミミズの這ったような文字で「訳」が書かれていた。

 ……ナギ、あんなに大事にしていたのに。でも、マコトのために自分は我慢したのだ。
 そこには、こんなふうに書いてあった。
 マコトへ。ひとりでおるすばん、えらいね。目玉1号をおいていきます。いっしょに遊んでやってね。また遊ぼうね。ミツル、ナギ。(ほんやく:はぞるかどす)
 レイモンドの翻訳機、肉球文字まで翻訳できるようになってたんだ。すごい進化だ。
 ものすごい視線を感じる。真は至近距離から手紙をじっとのぞきこんでいる目玉1号と目が合って、何となく頷き合った。

 うん、マコトを頼むよ。
 まぁ、乗りかかった舟さ、しょうがない。
 目玉1号がそう答えた気がした。

「真、行くよ」
 萌衣が呼びに来た。真は頷いた。
「マコトが心配? あ、ややこしいね。猫のマコト」
「うん。でも、きっと顔を見たらもっと心配になるし、連れて行きたくなっちゃうし、それが分かってるからマコトも出てこないんだ」
「また会えるよ。二度あることは三度あるから」
 それにそもそも、自分たちが無事に帰れるのかどうか、まだ確定したわけではない。
 ……ま、そうなったら、あの男が時空を超えてでも迎えに来てくれるかな。
 そう思った自分が可笑しかった。
 玄関で享志も待っていた。三人は顔を見合わせ、そして牧場の景色を見つめ、何となく三人で輪になって額を突き合わせるようにした。

「また、いつか」
「また、きっと」
「うん」
 弘志が運転するバンに乗って、夕陽にけぶる牧場をふり返ると、真のお気に入りのあの場所に人影が見えた。
 夕陽の中ではっきりとは分からなかったけれど、あの黒い服の女性だと思った。
 その傍らに、とても小さな猫の影が見えていた。
「また一緒に遊ぼうにゃ」
 真はその小さな影に向けてそっと呟いた。


「なんで?」
 上野駅に降り立った途端、そう言ったら、ぽかん、と頭をこつかれた。
「お前、それが早朝からわざわざ迎えに来てやった俺に対する言葉か? あんまり寂しそうな声で電話してくるから、心配してやっていたのに」
「俺、寂しそうな声なんて出してないよ」
「嘘つけ」
 そのやり取りを聞いていた享志と萌衣は、顔を見合わせて肩を竦めた。
「じゃ、真、大和さん、僕たちはここで」
 まるで邪魔しちゃ悪いとでも言うように申し合わせて走り去っていく。

 上野駅のホームの人混みに取り残された真は、しばらく迎えに来た男の後ろ姿をじっと見つめていた。男は真の手から取り上げた鞄を手に、人々の間を泳ぐようにすり抜けていく。金の髪がホームに届く朝の光に白く輝いていた。
 ここは間違いなく元の世界だ。服も髪型も、2015年の世界を見た後では、少しだけ古臭い。それにホームを見遣っても、誰一人、スマホなんて持っていない。
 真はさっきこつかれた自分の頭に触れた。
 男は、真がついてこないので、すぐに立ち止まった。人の波が彼を避けていく。ホームの上の真と男の間に、他に誰もいない、静かな距離が浮かび上がる。
 男は振り返って、呆れたように言った。
「おい、早く来い」
 って、あんたは旦那か、と思ったけれど、その声でようやく身体から六日分の緊張が解けて行き、魔法から解き放たれたように身体が自由になった。
 その真の傍らを、黒い帽子を被った黒い服の女性が、甘く優しい香りを残して通りすぎて行った。


 新学期が始まった日、三人は院長室に呼ばれた。院長の机の上には、なんと、あの謎の発端・「喰われ熊」が置かれている。夏休みの間に北海道から送られてきたというのだ。
「あなたたち、この『マスヒサモト』さんって知ってる?」
「いえ……」
 送り状を見て、萌衣がまず「あ」と言った。真も享志も続いて「あ」と言った。

『増久素』……漢字を見たのは初めてだった。『まっくす』! なんてややこしい。わざわざ漢字の当て字をすることなんて、なかったんじゃないか? ま、外国人が、当て字のハンコを作りたがるみたいなものかもしれないが。
 三人は顔を見合わせて笑った。なんだ、これ、ずっと学院にあった「なぜそこにあるのか分からない謎の熊」だったけれど、時間のループの中で彷徨っていて、今ここに居合わせたのだ。そう、これはマックスが送ってくれたものだったのだ。
 萌衣が「喰われ熊」にやたらと興味を示したので、別れ際に「送ったから」と言っていたのだ。
「あ~、なんかすっきりしたような、かえって謎が深まったような」
 そう言いながらも、三人は、時空を超えて繋がっている彼らを思いながら、爽やかな新学期を迎えた。


「まぁ、奏重さん、わざわざ来てくださったんですか?」
「長一郎さんが出かけているから、久しぶりに私も羽根を伸ばそうと思ったの」
「お忙しいんでしょう?」
「いつもと変わらないわよ」
 上田久美子は奏重を迎え入れて、お茶を淹れた。久美子は今、この富良野で小さなガーデンとカフェを経営している。
 奏重は久美子の亡くなった恋人の写真にまず手を合わせた。久美子は奏重の前に座ると、改めて頭を下げた。
 
「この間は、正志さんと千絵さんのために素敵な企画をしてくださってありがとうございました。幸生君にもすっかりお世話になって」
 実は、幸生は久美子の高校の後輩だったのだ。この企画を相談すると、力になりますよ、と言ってくれた。
「いいえ。あれはあなたのお手柄よ。あなたが思いついてくれたあのツアー、好評だったし、何よりも思わぬ出会いを私たちに届けてくれた。お礼を言わなければならないのは私の方よ。私ね、長一郎さんのあんなに幸せそうな顔は久しぶりに見た。真を失ってから、ずっと心から笑ったことがなかったんじゃないかと思うのよ。あれから、ようやく遠出をする気になったみたいで、久しぶりに京都で一太郎さんや神戸のお友達といっしょにゆっくりするみたいだから。働きづめだったのだから、少しは羽根を伸ばしてもらわないとね」

 長一郎本人は、京都競馬場に用事がある、いや、栗東(トレーニングセンター)にも用事がある、と出かける直前まで言っていた。素直に、友だちに会いたい、祇園で飲みたい、と言えばいいのにと奏重は思った。祇園には、彼らの昔なじみの芸妓・玉櫛がいるから、多分昔と同じように彼女にやり込められながら、三人で語り明かすのだろう。

 奏恵はあの不思議な日々のことを久美子に話した。
 久美子は目を丸くしながら聞いていた。そして、神様って本当にいるんですね、と呟いた。
「でも、正志君のプロポーズがツアー最終日のぎりぎりになってしまって、さすがに私たちもちょっと焦ったけれど、結果的にちゃんと皆でお祝いさせてもらえて本当に良かった。これで、私たちも、あなたと亮介くんに少しだけ恩返しができたわ」
 久美子は「恩返しなんて、こちらがすることなのに」と言いながら小さく首を横に振った。

 実は、久美子と亡くなった恋人との出会いも、相川厩舎だった。夏の期間、あの牧場で一緒にバイトをしていて、二人は恋に落ちたのだ。
「先日、二人から結婚式の招待状が届いたんです。横浜に行くのはまだ少し辛いけど、行って来ようと思います。亮介さんのご両親にもちゃんとご挨拶をしてきます」
「それがいいわ。そしてあなたも、また前を向いて、できれば新しい素敵な恋をしてほしい。亮介くんもきっとそれを願っているわ。彼はそういう人だった」
 久美子と奏重は、写真立ての笑顔の男性を見つめた。
 ガーデンを彩るハーブの匂いを運んで、風が窓から吹き込んできた。


8月31日
 なぎしゃんから、まいにちおてがみ、来ます。みつるしゃんもときどき、おてがみをくれます。なぎしゃんのおてがみをよんでいたら、めだまイチゴウがうきます。ときどき、いそぽがあそびに来てくれるから、いっしょにめだまイチゴウであそびます。いそぽに会えない日は、ぼくはひとりでボクジョウのみまわりをします。はすきーたちとおにごっこもします。
 ぼくはまいにち、ジイチャンといっしょにどんぐりにお水をあげます。
 ……みんながいるあいだは、とってもたのしかったです。みんなはかえっちゃったけど、でも、ぼく……へっちゃら。
 ぜんぜん、さびしくなんかないです。

「マコト!」
 風が声を運んでくる。マコトは耳をぴんと伸ばした。
「マコト!」
 マコトは転がしていた目玉1号を床に置いたまま、じいちゃんが作ってくれた猫タワーをよじ登って、窓際のカウンターから外を見た。
 金色の髪が牧草地を吹き渡る風に光っている。マコトが顔を出すと、その人は立ち止まり、笑顔になってもう一度名前を呼んだ。
 マコトはタワーを駆け下りた。そして部屋のドアの方へ走って行きかけて立ち止まり、少し考えるような顔をしてから、チェストの陰に隠れた。
 廊下を駆ける足音が大きくなってくる。扉が開く。マコトは頭を引っ込める。
「マコト? 隠れてるのか?」
 そう言いながら足音が近づいてくる。
「そうか、怒ってるんだな。悪かったよ。ほら、出ておいで」
 マコトの方へ手が伸びてくる。大きくて暖かくて優しい手。チェストの陰に隠れて、マコトはじっとその手を見つめる。そして……かぷっと噛みついた。
 噛みつかれた手は、そんなことはものともせずにマコトをつかまえて抱き上げ、髭面の頬を思い切りすり寄せた。
「ただいま、マコト」
「……みぃ」

 
 目玉1号はやれやれ、という顔をした。そしてふわりと浮き上がり、開け放たれた窓のほうへ漂っていく。そして「じゃ、俺は帰るぜ」というようにちらりと振り返り、渡世人のように向かい風を躱しながら牧場を横切っていった。
 牧場に、夏休み最後の日の夕陽が落ちようとしていた。
 草を食んでいた馬たちが顔を上げ、ご苦労さんというように目玉1号を見送った。
 僅かに地中から芽を出し始めていたミズナラの木の傍には、コロボックルが立っていて、目玉1号に大きく手を振った。
 目玉1号は一度不意に立ち止まった。いや、浮き止まった。そして夕陽を見つめ、シニカルに「ふん」と鼻息をつき、彼の帰りを待っているはずの主のところへの長い旅路についた。


8月31日のにっきのつづき。
 ……タケル、あのね、えっとね。……それからね。
 ぼく、まいにち、たのしかったよ。だからべつに、まってなんかなかったからね。
 それでね、えっとね。
 あのね…………おかえりなさい。
(マコトのなつやすみにっき。おしまい)


お疲れ様でした~~~
目玉1号、実はただの発泡スチロールなのに、えらい活躍でした。
ナギからはメールじゃなくてお手紙? だって、肉球文字を打ち込めるPCはなさそうだし。

あ、夕さん、勝手に「上田久美子さん」、お借りしました(この名前、私の小学校時代からのペンフレンドと1文字違いなんですよ)。しかも勝手に、千絵の病院で亡くなった久美子さんの恋人の名前を作っちゃいました。不都合があるようでしたら、お知らせくださいね!
「上田久美子、だれ?」って方はこちらをどうぞ→【君との約束 — 北海道へ行こう】(夕さん作品)

さて、全部で29話(ふぉるてさんちがもうひとつあるのかな? ということで、先にひとつ足しておきました)……思わぬ一大イベントになりました。
おかげで、今月のStella合併号記事を落としてしまいました。サキさん、本当にごめんなさい……(>_<)
そして、楽しいひと時を、皆様、本当にありがとうございました!!!
次回? それはもう……風に任せましょう。
でも、また北海道においでね!(だから、私は関西人だって……)

*勝毎花火大会2015はこちら→勝毎花火大会2015クライマックス
埼玉にいる時、一度連れて行ってあげるよと言われていて実現しなかったのは長岡の花火でしたが、やっぱりこんな感じで。
「○○さんから△△さんへ、日頃の感謝を込めて10号玉いっぱ~つ!」
いいなぁ~(*^_^*)

Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

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【オリキャラオフ会 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!】無事に閉幕~追記あり~ 

オリキャラオフ会第2弾 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!~
offkai.png
オフ会記念写真2
 limeさんのオフ会の記念集合写真イラスト・元記事
  →(企画小説)オリキャラオフ会★後編:『いつかまた』
 設定・参加予定者はこちら【オリキャラのオフ会】また一緒に遊ぼうにゃ~!


皆様の多大なるご支援の賜物で、ようやく大団円を迎えました!
ただPCの前に座っていただけなのに、皆様とご一緒に北海道を満喫したような不思議な満足感に浸っております。
こうして最後にもう一度ラインナップを眺めても、しみじみ、楽しかった~と言いたくなるような、そんな時間を頂きました。改めて感謝申し上げます。
本当はもっとじっくり絡みたかったメンバー、絡み切れなかった部分、もう少し書きたかったけれどというシーン、心残りもいっぱいあるのですけれど、さすがに体力の消耗が激しく(そう、何故か、体力消耗です)、これが限界。またいつの日にか、ゆっくり絡み合いたい(?)と思います!

そうそう、今回ふと思ったこと。人間様たちに囲まれていて、一生懸命ついていこうとしているけれど、マコトはやっぱりねこだなぁ~と、今更当たり前のことにしみじみ感じ入ったのでした。なんかね、盆踊りのシーンが浮かんで、人間がいっぱい踊ってて、マコトは足元で一生懸命真似してそうだけれど、ただ右往左往しているだけに見えるんだろうな~なんて。
みんなが帰った後、ひとりで目玉1号を転がしているマコトが、私の今回のツボです。
あ、去っていく、目玉1号改めモンジロウも……(*^_^*)

何はともあれ、ご参加いただきました皆様、出揃いました下記ラインナップ、そして集合写真(limeさんありがとう!)を眺めながら、過ぎゆく夏を御一緒に見送りましょう。
本当にありがとうございました!!


<追記>
にゃんと! サキさんがもう1作書いてくださいました!!
ラインナップの最後に加えさせていただいておりますので、ぜひともご覧くださいませ(*^_^*)
これで全30話になりました!! 本当に感激です(;_:)(^^)
あ、でも、サキさんにもご指摘いただきましたが、私、期限を切っていませんでしたので、もしかして今からまだ増えることもあるかも? もちろん、大歓迎です(*^_^*)
う~む。しょっちゅうやるのは無理だけれど、来年も夏にやりたいなぁ、なんて、ちょっと思ったりしていることは内緒です。

作品ラインナップ (準備記事含む/公開順)
皆様の作品のラインナップをご確認ください。万が一漏れていたら、お知らせくださいね!
(設定記事にもラインナップを載せておりますが、クリックは面倒なのでこちらにも)
 (オリキャラのオフ会)準備4コマ漫画&キャラの紹介(limeさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(前編)(けいさん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(パイロット国道)(サキさん)
 君との約束 — あの湖の青さのように(1)(八少女夕さん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(足寄国道)(サキさん)
 『背後霊』大海さんちのオリキャラオフ会/また一緒に遊ぼうにゃ~(あかねさん)
 (企画小説)オリキャラオフ会★前編:『能取岬と小悪魔ヒッチハイク』(limeさん)
 【浦河パラレル】(1)上野発夜行列車・パラレル札幌行 (大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.1(ふぉるてさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(後編)(けいさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(2)(夕さん)
 オリキャラオフ会★中編:『そして浦河の牧場へ』(limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.2(ふぉるてさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(3)(夕さん)
 牧神達の午後(サキさん)
 【浦河パラレル】(2)マコトの知床旅情(大海)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(前編)(TOM-Fさん)
 『花火の音は』(あかねさん)
 【浦河パラレル】(3)カムイミンタラの夕べ(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.3(ふぉるてさん)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(後編)(TOM-Fさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.4(ふぉるてさん)
 【浦河パラレル】(4)あの列車に乗って行こう (大海)
 (企画小説)オリキャラオフ会★後編:『いつかまた』 (limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.5(ふぉるてさん)
 オリキャラのオフ会『出逢ったことが奇跡。そして、また逢おう』(かじぺたさん)
 【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇)(大海)
 【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇)(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.6 (完結)(ふぉるてさん)
 いつかまた・・・(オリキャラオフ会)(サキさん) 
(特別番外)
 ノイズ(連作ショートショート)『ぱさ。』(ポール・ブリッツさん)


それでは皆様! また一緒に遊ぼうにゃ~!

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