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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【3月のSSもどき:桜・卒業・約束】4年後の桜 

注:一応18禁(BL)。例のごとくあまりエロくないシーンですが…

彩色みおさんのSSお題にまたまた懲りずに突撃→玉砕してしまいました(;_:)
うーん、短くならない……
でも、前回よりは短い?
前回はほとんど10000字近かったのですが、今回は6800。3000字も減っている!
書けば書くほど、推敲すれば推敲するほど長くなる私にとって、SSは未知かつ修羅の世界。
でも、とってもストーリー組み立ての鍛錬になるので、懲りずに頑張ってみようと思います。

ちなみにそのながーい2月のSSはこちら→Time to Say Goodbye
あまりの長さと、湧き出す続編のために、独立カテゴリになってしまったという。竜樹さんの素敵なイラスト、遠慮なくいただいてきまして、貼らせていただいております(*^_^*)
竜樹さんありがとうございます

次回は2000字減らして5000以下にして、その次は1000字減らして4000以下にして…いつかは2000字になるように鍛錬を積み重ねたいと思います。
でも、ちょっと情けない……
もう、あれこれ気になって、本当に、あれこれ書いてしまう……悪い癖です。
ということで、またまたSSじゃないのですが、一応頑張ったので、アップしちゃいます。
本当は、もっと長かった。でもバッサリ切って、やっとこの長さ。

さらにいささか頭が迷っていまして。
桜かぁ、卒業式より入学式のイメージ?
でも、確かに今年の開花予想は3月末だ……うーん、でも頭の中で桜が咲かない…どうしよう。
で、苦肉の策の桜ならぬ…です。

しかも、すっかりスポ根もの書きになりつつある。
それでは、仕方ないから長いSSもどきにつきやってやろうという奇特な方は、お付き合いただけますと有難いです。



【4年後の桜】

 武藤はいつも真正面から来た。しかもやたらと強かった。
 背も正木より10センチは高いし、体格も腕もひと回り大きい。
 正木とて全国大会に出場する選手の中で決して背が低い方ではないし、踏み込みで打つ面を得意技としていた。だが、それが武藤には通じなかった。
 鍔迫り合いになった時、審判が止めの合図を寄越すまでのしばらくの時間に、面金の向こうから武藤の目が正木を捕まえる。お互いの視線が面の縦金の僅かな隙間で絡まり合う。相手の体温と汗の臭い、呼吸が自分のものと区別がつかない。そのわずかの時間が、自分にとって最高の時間だったことに気が付いたのは、武藤が咲き散るアーモンドの花の下、正木に背中を向けた時だった。
 今考えてもなぜあんなことになったのか、どんな熱情が二人を捕まえてしまったのか、細かなところは思い出せない。
 武藤は東京の有名私立大学の理工学部、正木は関西の国立大の法学部だった。だが、お互いのことは小学生のころから知っていた。学校が同じになったこともなければ、近くに住んだこともない。それでも1年に何度か、練習試合や全国大会で顔を合わせた。言葉を交わしたこともなかったのに、お互いのことは誰よりも知っている、そんな気がしていた。

「K大の武藤がな、卒業試合やらんかって言って来よったんや」
 剣道部の同級生が声をかけてきたのは、大学の卒業式のリハーサルの最中だった。
「お前、知り合いだったのか?」
 正木は驚いた。武藤は無口な男で、愛想も悪い。優勝しても笑っている顔を見たことがない。もっとも、きりっと吊り上った眉と切れ長の目を細めるようにして、いつも相手を威嚇するように睨み付けているようなあの顔で親しく語りかけられても、楽しく会話ができるような気がしない。
「直接は知らんけど、あっちの剣道部に俺の高校時代の後輩がおるからな」
 へぇ、とだけ答えた。
「武藤の奴、こないだの学生大会でお前に優勝を掻っ攫われたのが悔しいんやろ」
 二人の力は五分五分だった。だから勝つことも負けることもある。次の試合でリベンジすればいいだけのことだ。
「ええでって言っといた。明日、来よるわ。予定、空けとけや」
 K大の卒業式は昨日終わっていた。武藤は神戸に住む親戚に卒業の挨拶をするために関西に来る予定で、そのついでに正木たちの大学に寄るのだと聞いた。
 そして、正木の大学の卒業式の前日、武藤は剣道部の仲間数人と一緒に、本当にやってきた。武藤は防具袋を肩にかけたまま、他の誰にも目も向けることなく、まっすぐに正木のところに大股に歩いてきた。剣道着以外の格好で会うことなどなかったからか、10センチほどの背丈の差がやたらと大きく思えた。
「よぉ」
「あぁ」
 挨拶はそれだけだった。

 大学の道場に案内し、親しく語り合う言葉も少ないまま、先鋒・中堅・大将と3対3の団体戦を始めた。正木と武藤はもちろん、いつものように大将同士だった。1:1で迎えた試合が始まるころには、当大学の有名人、正木貴博と互角に渡り合う関東の猛者を一目見ようと、噂を聞きつけた剣道部以外の学生たちも道場に集まっていた。
 周囲のざわめきの中、武藤は全く何にも動じることもなく、というよりも周囲には正木以外の誰もいないかのように、正木だけを見ている。正木もただ武藤を見つめ返していた。普段の武藤は、もっと闘志をむき出しにして威嚇するような、そして闘う前から獲物は完全に仕留めたとでもいうような自信に満ちた目で正木を見ていた。
 だが、今は恐ろしく静かな目をしている。
 手ぬぐいを頭に巻くとき、ほんのわずか相手の顔が見えなくなる時間を除いて、視線が外れることはなかった。厚い胴着の下で肌が汗ばみ、体温が上がっているのが分かる。これからの試合の行く末に奇妙に緊張していた。だが、面をつけ、竹刀を握って立ち上がった瞬間、裸足の足の裏に道場の板の軋みを捉えて身体が重く沈み、一方で心が浮き立つように跳ね上がるのを感じた。

 合図で四分が始まる。
 中段で構え、竹刀の先をわずかに触れ合わせたまま、通常の試合なら、審判からの注意があってもおかしくないほどの長い時間、二人は全く動かなかった。観客も息をするのも忘れているかのように静かだった。いや、もしもどれほど賑やかだったとしても、正木の耳には何も聞こえなかっただろう。周りからは止まっているように見えるであろう竹刀の先は、二人だけにしか分からない、厳しい練習と実践で培われた自信や勇気、強い相手に向かうときの緊張や恐怖、時に降ってくる啓示のような静けさ、剣道に人生と青春をかけてきた熱情、そういった諸々で微かに震え、まだ幼いころから互いに闘ってきた試合のひとつひとつの記憶をこの刹那に流し込んで、全て呑み込んで小さな火花を散らせていた。
 多分、たっぷり三分は過ぎていたはずだ。
 いきなり武藤が真正面から面を打ち込んできた。
 正木は待っていた。竹刀で払い、身体を右に捌いて、前に踏み込んでくる武藤の右胴を狙った。もちろん、武藤はそんなことはお見通しだ。素早く身体を移動させ、正木の竹刀を捌く。
 その瞬間から激しい打ち合いになった。道場に二人の打ち合う竹刀の音だけが高く響いた。一瞬の隙もお互いに与えなかった。武藤の気合いの声が道場の壁にぶち当たる。正木も答えた。汗が目の前で飛び散る。
 武藤が近づく。小さな鍔迫り合い。あの目が正木を捉える。正木の目も武藤を捉えた。

 その試合の勝敗はつかなかった。心の行方も決め所がなかった。
 どういう経緯で武藤の親戚が経営しているという三宮の店に辿り着いたのか、よく覚えていない。卒業試合と勝手に名づけられた対戦のあと、両校のメンバー同士は打ち解けたようで、無言のまま飲んでいる武藤と、周囲に一応は相槌を打っているものの静かな正木を除いて、完全に酔っぱらって大騒ぎになっていた。
 正木は手洗いに立った。
 個室だからいいようなものの、あの騒ぎはこの店にはそぐわないようだ。
 ほとんど満席の店内のオープンフロアの席を占めているのは、一癖も二癖もありそうな顔つきの男たちで、優雅に煙草あるいは葉巻を燻らせて、男同士で額を突き合わせるようにして秘密めいた会話を交わし、あるいはウィスキーグラスを傾けながら女性の露わな肩を抱き寄せている。
 一体、武藤の親戚ってどういう人物なんだ。
 いや、そんなことより、明日は卒業式だ。どの辺りで切り上げたらいいものかと考えながら、用を足して手洗いを出たところで、正木は驚いて足を止めた。

 武藤が壁に凭れて立っていた。視線が絡み合った瞬間には、正木の背中を何かが撫でていった。冷たくも熱くもある何かが、肌の上を這っているような不思議な感覚。皮膚の下が泡立つような気配。
「付き合え」
 武藤の低い声が正木の耳から体の中に這い込み、五感の全てを鋭くし、身体の内側からすべての肌を震えさせた。上着や荷物がどうとか、聞く暇もなかった。武藤は先に歩き始め、正木は一瞬ためらったものの、結局武藤について行った。
 北野坂を上がった小さな古いビルに武藤は入っていく。背中は問いかけを完全に受け付けていない。もっとも正木も聞く気はなかった。味気のないコンクリートの狭い階段を四階まで上がり、スラックスのポケットから取り出した鍵で緑の扉を開ける。
 玄関に入り、背中で扉が閉まった瞬間、武藤の大きな手が正木の顎を捕まえた。いきなり唇が塞がれる。そしてそのまま何の躊躇いもなく、僅かな時間をも惜しむように、舌が唇の間から滑り込んできた。
 予想外だったわけではなかった。試合の最中からこのことは始まっていたと思えた。いや、昨日、武藤が来ると聞かされた時から、こうなることは分かっていたような気がした。もっとも、もしもいきなり殴られても予想外ではなかった、と思ったかもしれない。妙なことに、何をされても構わない心境だった。
 窓には赤いカーテンが引かれていた。低いベッドの上の白いシーツも赤く染まっていた。そして正木の肌も赤く染められた。

 言葉一つもないまま、求められた喜悦に身体を開いた。
 自分でもどういう感情だったのかよく分からなかった。面金の向こうの武藤の目に捉えられた瞬間の快感、気合いの叫びに飛び散る汗や唾液の絡まり合う興奮、軽く触れる、あるいは強く痺れるほどに打ち合う竹刀の先から伝わる武藤の手の感触。厚い胴着の下の肌はいつも武藤の体温を感じていた。それがそのまま、今直接正木の肌に触れている。武藤の汗ばんだ掌が正木の肌を滑り降り、正木の最も敏感な部分に触れ、やがて更に熱い粘膜が正木を包み込む。武藤は、試合の最中と同じように容赦はなかった。激しく吸い、抑え込み、躊躇うことなく強く正木の身体を貫いた。
 正木の方にも疑問や躊躇いはなかった。それでも、さすがにこれまで経験のない痛みにはずり上がった。その瞬間だけ、正木は武藤の名前を叫んだ。止めてほしかったのか、少し時間か情けが欲しかったのか、あるいは武藤を求めてのことだったのか、自分でもよく分からない。
 武藤の押し殺すような喘ぎが身体の上から落ちてくる。武藤の腰が正木の身体を打ち据え、奥まで容赦なく突き進む。身体としての快楽はなかったのに、正木ははっきりと自分が武藤を求めていることを自覚した。腹の奥の方が、武藤の男を求めて締め付け、唸るように震えた。心というものが身体の内にあるのなら、それがそのまま武藤を銜え込み、ただ欲しくて欲しくてたまらなくて哭いた。
 自分の身体の上で跳ねるような武藤の動きを受けとめながら、ふと目を開けると、カーテンの色が青く変わっている。ネオンの色だったのかと、改めて気が付いた。武藤が唇の端を吊り上げるように笑ったような気がした。武藤の汗が正木の首筋に落ちてくる。正木は目を閉じ、武藤の首に腕を回し、引き寄せた。

 そのまま少しの間意識を失っていたようだった。正木の意識を振り戻したのは、武藤がライターを打った音だった。
 武藤は素っ裸のままベッド脇のソファに座り、テーブルの上に置かれた大きなクリスタルの灰皿の上で、何かの紙を燃やそうとしている瞬間だった。
 その紙に書かれた文字を見て、正木は飛び起きた。
「気でも違ったのか」
「もういらねぇからな」
 正木は武藤の手からその厚い紙を奪い取った。
 卒業証書。
 武藤は仕方がないというようにテーブルの上の煙草を取って、一本咥え、火をつけてひとつ吹かした。そして顎で自分の隣を示す。同じく素っ裸のまま正木は武藤の隣に座った。吸いつけた煙草を譲られて、正木は素直に受け取り、焼き捨てられることを免れた卒業証書をテーブルに置いて、武藤の身体を満たしたはずの煙を深く吸い込む。
 理由を聞くべきだった。だが、正木は武藤のことを何も知らない。ただ面金の向こうの目を知っているだけだ。熱く絡み付くあの視線と、そして試合の最中いつも感じていた体温が現実の肌の熱さだったということだけしか、知らない。
 武藤の滑らかな肌の上で、ネオンが赤と青のまだら模様を織っていた。

「警察官になるそうだな」
 聞かれて、正木は短く、あぁとだけ答えた。
「似合いそうだ。剣道のためか」
「いや。死んだ親父が警察官だった」
 ふん、と武藤が鼻の奥で音を鳴らした。
 正木が卒業証書を燃やそうとした訳を聞こうとした瞬間、まるでそれを遮るように、武藤がさっき正木を抱いた逞しい体をソファに預け、呟いた。
「桜が見てぇな」
 桜という言葉の前に、もう一つ、武藤の唇の奥で音が鳴った気がしたが、聞き取れなかった。さ……
「桜?」正木は煙草をもう一つ吹かした。「残念だが、桜には早い。沖縄か高知にでも行きゃ別だが」
 そうだな、と武藤が小さく呟き、頭の後ろに組んだ手を回して目を閉じる。いかついが、端正な顔をしている。微かに笑っているような唇の形のまま、閉じた睫毛が微かに震え、濡れているように見えた。
 ネオンの光のせいだったのかもしれない。
 だが、ただそれだけのことで、正木は唐突に湧き出した愛しさ、あるいは懐かしさのようなものを、どこへ持っていけばいいのかわからなくなった。
「見せてやろうか」
「まさか高知に行くのか」
「神戸市内」

 不思議そうな顔の武藤を連れて、真夜中のタクシーを拾い、深江まで走らせた。武藤は黙って外を見ている。三宮の街を離れ、幹線道路を外れると辺りは真っ暗で、海辺に近付くころには冷え込んだ外気がタクシーの中まで入り込んでくるようだった。武藤と正木は、後部座席で無言のまま、互いに反対の窓から外を見ていた。
 やがてタクシーが停まり、こんなところで降りてどうするのだという顔の運転手に金を払い、先に降りた武藤がタクシーの扉に手をかけたまま暫く動かないでいるのを感じて、正木は武藤の腰をつついた。
 タクシーが走り去った後、町はずれのまるで人気のない暗がりの中、二人は低い柵の向こうに白く淡く浮き上がる花の、幻のような色を見つめていた。
 風が強く吹き付けた。舞い散る花びらが、彼らのところまで届いた。武藤が掌に一枚を受ける。その花弁はしばらく武藤の掌の上に収まっていたが、すぐに風に流された。
「アーモンドの花だ。お袋が好きな花だった」
 正木はそう言いながら、ひょいと柵を乗り越えた。武藤もついてくる。
 しばらくの間、二人は桜よりも幾分か低いアーモンドの木々の下を、黙ったまま歩いた。二人の間にひらひらと花弁が落ち、あるいは風に舞いあがる。見上げると暗い空の下で、遠くの道路や橋の明かり、あるいは天からの何かの光を吸い込んで、木々に宿る灯りのように白い花の塊が揺れている。
「まるで桜だ」
 武藤が低い声で言い、一番大きなアーモンドの木の下でいきなり正木を引き寄せ、頭を肩に抱きよせた。
 首筋に、武藤のにおい、いつも面金の向こうから伝わってくる温度が漂い、正木はそれを吸い込んだ。冷え込んだ海辺の風の吹く中で、正木の身体には熱がこもった。
 武藤、と呼びかけた正木の唇を塞ぐように、武藤の唇が触れ、そのまま舌が縺れた。この武藤の舌の味は、もうずっと前から知っていたような気がした。
 舌がさらに奥へ入り込んでくると、正木の腰は震えた。それを知っているかのように、武藤の手が正木の尻を強く自分の方へ引き寄せ、二人は身体を密着させて舌を求め合った。
 正木の頬に何か冷たいものが触れていった。
 最後に桜が見たい、確かにあの時、武藤はそう言った。

 そして武藤は、正木を柵の内に残し、先に柵を越えた。
 正木が続いて柵を越えようとしたとき、武藤の手が正木を止めた。
「ここで別れようぜ」
「何を言っている?」
「お前がその柵を越えたら、俺はお前を連れ去りたくなる」
 正木は武藤の目を黙って見つめ返していた。闇の中で、武藤の目は光を吸い込んで揺れて見えた。
「いい思い出ができた。いや、クサい言い方をすりゃ、これまでもずっとお前は俺の青春の全てだった。今日、それを確かめることができた。無理やりで悪かったな」
 一度言葉を切って、武藤は目を逸らさないまま、続けた。
「ありがとうな」
 そしてそのまま正木に背を向け、歩き去ろうとする。
「待て、俺の言うことも聞けよ」
 愛の告白などする柄でもない。そもそも愛かどうかも分からない。だが何もかもこれからじゃないのか。せめて俺の気持ちくらい確かめろよ。
 訳が分からず正木は柵を越えて追いかけようとした。
「正木」
 背を向けたまま武藤が呼びかける。
「今はまだその柵を越えるな。追いかけてくる気があるなら、せめて四年後にしてくれ」
 正木は足を止めた。
「四年後?」
 武藤は背を向けたまま空を見上げる。
「もしよかったら、俺の卒業証書、預かっといてくれ。今度は本物の満開の桜の下で、お前の言葉を聞く。お前が、これからお前の属する世界に疑問を感じて捨てる気になっていたら、あるいは、もしかして気が変わっていなかったらな」
「気が変わる?」
 武藤が振り返った。その時、正木は初めて武藤の笑顔を見た。愛想のない厳つい顔に、意外にも笑顔は似合っていた。それに、こいつはこんなに言葉を話すのかと驚いてもいた。
「お前、俺に惚れてるだろ?」
 そう言った武藤の手から放り投げられた何かが、暗い空の中で光を放ち、正木の手元に収まった。
 あの部屋の鍵だ。
 そしてまだあっけにとられたままの正木を残して、武藤は笑い捨てるようにして背中をわずかに丸め、軽く手を挙げてそのまま歩き去った。
 惚れてるぞ。しかも小学生の時からだ。どうだ、びっくりしたか。一言も話したことがなかったのに、面金から覗くお前の目にぞっこんだったんだ。ちくしょう、振り返りやがれってんだ。四年後ってなんなんだ。答えろよ。俺のケツの童貞を奪っておいて、勝手に話を決めるなよ。
 心の中で正木は小さくなる武藤の背中に向かって叫んでいた。なのに、混乱し切羽詰った心は、声にならない。武藤の背中が、今は聞くなと告げていたからだ。
 正木は自分の手元に視線を落とした。
 見つめる掌の銀の鍵の上に白い光が揺れていた。その鍵の上に淡いピンクの花びらが落ちてくる。見上げると、白み始めた空から降り注ぐ恵みの雨のように、アーモンドの花弁が正木の視界いっぱいに降り注いだ。

 四年後……その時のその花は、今見上げている花よりも艶やかだろうか。
 正木は掌の鍵を、逃がさないように、淡いピンクの花ごと握りしめた。

                                了

アーモンド2
アーモンド1
アーモンド3



えーっと、一応、Happy End?のはず。
気持ちが伝わったので。
実はこれ、4年後も書いていたのです。それでまた10000字になりそうだったので、途中でバッサリしました。
というよりも、アーモンドのシーンはもともと4年後のシーンだった。危ない危ない。
無駄に長くなるところでした。

お察しの通り、武藤さんのご親戚は兵庫県神戸市の新神戸駅近くにある、さるお屋敷の筋の方……なのでしょう。
そして、なぜ4年後?
これは、もしかして続きを書く日が来れば、その時ということで。
反響があれば?書く気になるかもしれませぬ…^^;
いえいえ、決して、「読みたい」の一言を強要しているわけではないのです^^;^^;
そもそも前後篇にしてもいいようなお話だったので……
あとは、私のモチベーションをどなたか上げてくだされば…^^;^^;^^;^^;^^;

そうですね。単発なのに、伏線を張る癖が抜けないから、長くなるんですね。
反省を次回の肥やしにします(__)

さて、このラストのシーンの舞台は、神戸市東灘区の東洋ナッツの会社の敷地。
毎年3月末に、アーモンドフェスティバルが開催されています。
写真はその時に撮ったものです(^^)
比較のために、下は青森県弘前城の桜。毎年GWに津軽☆三味線大会に行くのですが、年によっては満開の桜にあたるのです。
でもやっぱり桜のほうがゴージャスなんですね…
4年後、正木と武藤が満開の桜の下で……(#^.^#)

桜1



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Category: その他の掌編

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【掌編】月へん(ちょっと純文学) 

実は、八少女夕さんのブログ(Scribo ergo sum)を何度か訪問させていただいていて、お勧めされていたStellaさん(星たちの集うskyの星畑)に投稿してみようかと思ったものの…
ちょっと描写(単語)がどうなのか、18Rとか18禁ではないのだけど、微妙なのかな、と躊躇いもあったりして。

ちょっとお伺いを立ててからにしようかとも思ったりしています。

実はこれは、もう10年以上も前に私が文章教室で書いた下手な掌編。
下手なりに、何だか懸命さが見えて、ちょっと懐かしくなりまして。
改行や単語を少し直しましたが、全体の雰囲気は変えたくなかったので、あえて大きな変更なく公開してしまいます。

これはお題があって、お題に対して書いたもの。
この時のお題は『月』。何だか、宮中のお歌の会みたい…^^;
彩色みおさんのSSでは、お題が3つもあって、ものすごく頭をひねります。
こちらはひとつ。さすがにひとつだと、私にしてはかなり短い6387字!
確か、原稿用紙10~15枚という指示だったような記憶が。
でも、登場人物の関係性が限定されていないという自由さと掴みどころのなさがあり、結局難しいのは同じですね。

以前に書きましたが、これが先生に『詰め込みすぎ』と言われた代物です。
もう少し、さらりと使えと。
もう、月、月、月…とやりすぎて、ちょっと下品だったらしいです^^;^^;
自分ながら、何だか一生懸命の作品で、ちょっと『自分で自分を褒めたい』世界だったんですけど…

ここに出てくる詩は、本当に私が予備校の教科書で出会ったもの。
引用したのはその詩の一部なのですが、この部分を読んだとき、本当にS台の教室の中で鳥肌が立った。
貧しい海辺の家で、両親とも働いていて家を空けているのか、他に人の姿はなくて、飯を炊く匂いがしている。そこに赤ん坊が一人、小籠に座って、おそれを知らず、微笑んで海を見ている…という詩。
詩人は伊良子清白。詩は『安乗の稚児』
志摩の村で、僻地診療に生涯をかけ、往診に向かう途中亡くなられたという医師かつ詩人です。

私の掌編はともかく、この詩を紹介したかったので、ちょっと恥ずかしいけれど読んでいただけると幸いです。



【月へん】

 ご遺体からそれが出てきたのは、五月の祭の日だった。

 北原冬真は、祭の高揚感など全く届かない二階の教室で、周囲から『四季』と呼ばれているグループのメンバーと一緒に、終わる気配の見えない作業を続けていた。
 キャンパスの一番奥にある、古く堅い色をした棟は、一級河川に面している。この部屋に入った時間には、窓枠で切り取られた河川敷に、若い葉に目一杯の光を跳ね返した桜の木が並んでいるのが見えていた。今は同じ枠の中で、低く黒い山の影を背景にして、川向こうにある別の大学の荘厳な四角い影の中に、窓明かりがぽつぽつ浮かび始めている。

 硬質の台が並んだ広い教室には、『四季』のメンバーの他は、一組が残っているだけだった。彼らがいつも遅くまで作業をしているのは、丁寧で探究心が強いからだ。しかし、『四季』のメンバーが遅いのは、真面目にやっていないからだ。
 冬真は、切れ味の悪い鋏や、手袋の中の冷たい汗に苛つき始めていた。何より、遺体の顔が目に入る度に、胃の中がかき回されるような感じがする。鼻の形が似ている、などと誰かが言い出さないか、いつも気になっていた。

「ちょっと煙草、吸ってくるわ」
 茶髪でピアスをしている京谷通秋が突然、攝子とメスを置き、脱いだ手袋を裏返しに掴んで立ち上がった。京谷は開業医の息子で、ルックスは悪くないし、バンドでベースを弾いていて、隣接する看護学校の学生にも人気がある。しかし、どこか軽薄な感じがして、冬真にとっては苦手なタイプだった。京谷はついさっきまで億劫そうな表情で、台の上に重く横たわるご遺体の、ある部分を観察していた。

 一時間前に同じ事を言って出て行った蒲田嗣春は、まだ戻ってきていなかった。蒲田は明らかに体力勝負の学生で、テニス部の次期部長候補である。好感度は学年一だが、声が大きすぎてがさつな感じがする。
「ちょっと、冗談じゃないわ。もういい加減、終わらせましょうよ」
 きりっとした口元に、細長い目に長い睫を持った金原爛夏は、昨年の学生着物美人コンテストで優勝した、料亭のお嬢様だ。性格はきついし、女子の友人がいるようには見えない。金原はさっきまで、京谷の手元を直視できずにいたが、今度は彼を真っ直ぐに見て文句を言った。その瞳に熱っぽいものが浮かんでいる。
 偶然だが、名前に春夏秋冬が入っているので、『四季』と呼ばれているのだが、この作業が始まって一ヶ月、チームワークが発揮されたことなど一度もなかった。

 丁度そこに、蒲田がコンビニの袋を提げて戻ってきた。
「おう、ちょっと休憩しようや」
 爽やかに大声を上げて、すでに休憩は十分取ったはずの蒲田がメンバーを誘った。
 蒲田は解剖学教室の眼鏡をかけた女性助手に頼みこんでいる。彼女は迷惑そうな顔のままだったが、蒲田の勢いのある愛想の良さに負けて、研究室の電気ポットのお湯を、四つのカップラーメンのために分けてくれた。

 このままだと自分の頭もホルマリンで固定されそうだったので、休憩は悪くなかった。冬真は蒲田の後ろに続いて、教室の裏手から河川敷に沿った広場に出た。
 始めは反対していた金原も、蒲田の勢いには巻かれてしまったようだ。トイレに寄ると言った京谷の分もカップラーメンを持って、おとなしく後ろをついてきた。
 金原は、自分たちのご遺体が比較的若い筋肉質の男性であることに、羞恥と不満を感じているような気配があった。一人で解剖室に残されたくなかっただけなのかもしれない。

 薄暗い中に、石のベンチが二つ、少し離れて川に向かって並んでいる。蒲田がそのうちのひとつに座った。冬真は、等間隔の法則に従い別のベンチに座ろうとしたが、蒲田に手招きされて、彼の隣に座ることになった。
 気、きかせろよ。
 蒲田が冬真の腕を肘でこついて、小さな声で言った。
 金原は、戻ってきた京谷にカップラーメンを渡し、同じベンチに座る。冬真はちらりとその様子を盗み見た。薄暗闇の中で、彼女の頬がほんの少し赤く染まったように見えた。

「おい、三分過ぎてるぞ」
 蒲田の号令で、皆が蓋を開けてラーメンをすすり始めた。
「あー、うめぇ。何で解剖実習中のカップラーメンはこんなに美味いんだろ。この卵の黄色いの、実習が始まったら食えねぇって先輩が言ってたけど、ちっともそんなことねぇなぁ。お湯で膨らむと、確かに脂肪そっくりだよ」
 このデリカシーのない発言は、金原の微妙な女心に気が付いた男のものとは思えない。金原はさすがに蒲田を睨んだ。それでも四人とも、卵も残さず、スープまで飲みきった。

 口頭試問が近いので、ノルマまでは進めなくてはならないはずだが、教室に帰る気がしなくて、ベンチに座ったまま空を仰いだ。暗い空に薄黒い雲の輪郭が厚く押し付けられている。そのうち、蒲田が口頭試問の予行演習しようぜ、と言い出した。
 いつものように表情がはっきりしないままの京谷が、ラーメンを食べていた箸で、地面に骨の絵を描き始めた。骨に続いて、臓器、血管まで、あっという間に河川敷の電燈の下に、かなり精巧な人体の地図が広がった。京谷にそんな才能があるなんてのは驚きだった。

 ひとつひとつ声に出して、人間の身体の部分につけられた名前を挙げていく。そのうち、英語と日本語の名称を、地面に書いては消すようになった。
「鮨屋のネタが魚偏なのは当たり前として、何で人間の身体のパーツには月偏がついてるんだ?」
 恥ずかしくもでかい声で蒲田が言うのに、冷たい声で金原が答えた。
「馬鹿ね。月偏じゃなくて、人体の部分の場合は、にくづき、って言うのよ」

 いつの間にか、地面に描かれた古代の壁画のような人体の輪郭が、薄明かりに揺らめいている。見上げると黒い雲の上端に光の縁取りができていた。
「そう言えば、今日は満月よね」
 金原が言った途端に、雲の向こうから光の矢が飛び出した。思わず空から目を逸らすと、京谷が地面に男性器を描いているのが目に入った。それは、たった今天空を支配した新しい光と、人工の薄暗い電燈の明かりによって、幾重にも陰影を揺らめかせ、随分と生々しく見えた。
 あまりの事に、金原は呆然としていたが、さらに京谷はポケットから何かを取り出して、ペニスの絵の上に置いた。

 それは白く鈍い光を跳ね返す小さな球で、地球に落ちた天体の欠片のようだった。白濁した球は天の光を映して、輝き始めるように見えた。
 蒲田が屈んで、徐にその球を人差し指と親指で摘むように拾い上げ、すっかり姿を現した天の球体にかざした。ふたつの球体が三十八万キロメートルの距離を越えて重なり合う。
「これ、真珠か?」
 京谷が無表情のまま答えた。
「さっき、ご遺体から出てきたんだ」
「マジかよ。あそこから? ヤっちゃんが女を悦ばすのに入れるってやつかよ。そういや、背中にごっつい三日月型の傷があったな。やっぱり、ヤっちゃん?」
 冬真は思わず、蒲田の手から真珠をもぎ取った。
「何するんだ」
 真珠には熱があるようだった。
 冬真はその真珠を手掌に受けたまま、他の三人に背を向けた。
 なんて事なのだろう。よりにもよってあの男はこんなものを入れて、あの女を悦ばせていたのか。


 数度に渡る解剖学の口頭試問と筆記試験を無事に乗り越えて、『四季』のメンバーは無事に単位をもらって夏を迎えた。夏休み直前の日曜日、いち早く運転免許をとっていた蒲田が運転席に座り、『かね原』という屋号がついたワゴン車は、伊勢の安乗に向かっていた。
 解剖実習を終えたら行く、というあの日の約束が今日実行に移された。明らかにお節介な蒲田はともかく、京谷や金原が付き合っている理由はよくわからなかった。第一、実習中に『四季』のメンバーに友情が芽生えた気配など、感じなかった。
 夏の大会の前だったので、どうしても午前中はクラブに出るという蒲田の都合で出発は昼になり、安乗の漁港に着いた時は、既に陽が傾き始めていた。

 狭い村の中では、『三村咲月』という女性の住まいは直ぐに知れた。
 その家は、海辺に建つ掘建て小屋のように見えた。青く薄暗くなっていく海を背景に、黒いシルエットとなった小さな家の薄く開けられた窓からは、甘い香りを漂わせて、米を炊く蒸気が零れ出していた。
 玄関口で、いつものように大きな声で蒲田が呼びかけたが、返事はなかった。冬真は居心地悪く、蒲田の後ろに隠れるように立っていた。

 その時、家の脇に廻った金原があっと声を上げた。
 皆が脇に回って金原の視線の先を見ると、砂地の地面に直接、大人が両手で何とか抱えられるくらいの籠が置かれていた。
 金原が叫んだのは、籠の中に赤ん坊が見えたからだった。
『四季』のメンバーは暫く会話なく、白い着物に包まれた赤ん坊を見つめていた。赤ん坊といっても、もうそこそこ大きく、この世に生まれ出てから半年以上は経っているようだ。
 赤ん坊は彼らの気配を感じた様子もなく、一人で海に向かい、微笑んでいた。
 黄昏時の空の下、何と語り合っているのか、静謐とも思われる空気を纏い、時には空に向かってさし上げた自分の手をじっと見つめている。
 少し向こうの方で、座ったまま首を伸ばした犬が、四人を窺っていた。

「あの、うちに何か?」
 いつの間に戻ってきたのか、粗末な灰色のブラウスを着て、長靴に漁師用の黒いエプロンをつけたままの女性が、彼らの後ろから声をかけてきた。女性は振り返った四人の顔を順番に見つめ、それから確かめるように冬真に話しかけた。
「あなた、冬真くん?」

 三村咲月は彼らを家に招き入れ、何もないけど、と言ってお茶を出してくれた。
 彼女は若くはなく、もう四十になっているはずだった。咲月の傍らに置かれた籠の中の赤ん坊が彼女の子供なら、随分な高齢出産というわけだ。それに美人とは言いがたく、隣に学生着物美人コンテスト優勝者が座ると、みすぼらしいほどだった。
 咲月は『真珠』を受け取り、右の親指と人差し指で摘まんだ。その節くれ立った指は太く、指輪なんて似合わないだろうと思えた。
「そうなの、こんなものが」
 咲月は不思議そうに珠体を見つめ、真実の真珠は薬品でも変形しないって本当なのね、と呟き、それから微笑んだ。
 その顔は、あの赤ん坊の表情と同じだった。

「脳溢血で倒れる前、あの人、時々鬱ぎ込んでて、ある日、私を悦ばせるんだって出掛けていって。帰ってきてから、幾夜も頑張ったのよ。私ももう長い間そういう悦びを感じたことなんてなかったけど、あの満月の夜は、きっと受精するって思った」
 生物の普通の営みを語るように、さらりと咲月は言った。
 四人を送り出して家の外に出たとき、咲月は冬真を呼び止め、天空の光をその両眼のうちに映して、海鳴りに負けじと思うのか、大きな声で言った。
「申し訳ないとは思ってないわ。でも、あなたが大学に受かったって聞いたとき、あの人、何も言わなかったけど、一人でこの浜に座って、海に向かってお酒を飲んでいた。海の上には満月が昇ってきて、あの人の影は光に浮かび上がる仏のようだった。あの人が、自分が死んだらあなたの入った大学に献体するって遺言を書いたのは、その日のことだった。まさか、本当に直ぐに仏になって、直接自分の息子の将来に役に立つとは思ってなかったでしょうけど」


「お前って、意外に苦労してたんだな。何も言わないし、いつも人を観察してるみたいで虫が好かなかったけど」
 珍しく、蒲田の声を耳障りに感じなかった。
『四季』のメンバーは誰が言い出したわけでもなく、季節順に浜に寝転んでいた。もうすっかり夜になっていて、彼らの足の伸びるずっと先の海から、月が昇ってきていた。
「しかも、世の中ってびっくりするような偶然があるのね」

 もっとも、冬真が小学生の時に愛人を作って家を出て行った父親の記憶は、あまり明確ではなかった。だから、実習が始まって、初めて黙祷をし、遺体の入った袋を開けたときも、直ぐには気が付かなかった。気が付いたのは、肩から背中の傷の瘢を見た時だった。その大きな三日月型の傷は、海に行ったときに岩場で足を滑らせた息子を助けようとして、背中から岩に落ちたときにできたものだった。
 それからは、遺体に自分と似た部分を探すようになっていた。
 父が亡くなったことを母は知っていたようだが、冬真には何も言わなかったのだ。母は安乗まで一人、葬式を『見に』行っていた。
 享年五十二、死因脳出血。
 母から聞きだした情報は、解剖学教室の台の上の遺体につけられた札のプロフィールと同じだった。

「ネアンダルタール人とクロマニヨン人の間には、ミッシングリンクがあるんだ」
 突然、京谷が言った。間の抜けた声で蒲田が聞き返す。
「ミッシングリンク? 何や、それ」
「それって、バンドのオリジナルで歌ってる曲? サビが『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか』ってやつでしょ」
 さすがに、金原は京谷の歌をよく知っていた。
「人類の祖先を辿ると、直接の先祖はクロマニヨン。でも、クロマニヨンの前には繋がらない。ネアンダルタールは遥か昔に分かれて別の道を行った遠い親戚。でも、クロマニヨンの前には誰もいない。クロマニヨンはどこから来たのか。人類はどこから来たのか。あの月か。だから月が懐かしいのか。だから僕らの身体には、たくさん月の欠片があるのか」

 はっきり言ってあまりいい歌とは思えなかったが、京谷はなかなかの美声の持ち主だった。海鳴りをバックに、ラップ調のその曲は大した盛り上がりもなく淡々と響いたが、古の太鼓の音が背中の大地から突き上げてくるような感じがした。
「そうか、それで月偏なんだな」
「だから、人体の場合は、にくづきだって」
 蒲田と金原のやり取りに、京谷が歌とは違ったトーンの、ぼそぼそとした声を被せた。
「でも、朧とか朦とか朗は、月偏なんだよな。ぼんやりとした感じとか澄んでいる感じとか、そういうのは。それと人体を表す漢字の部首が同じってのは、何だか不思議だよな」

 ふと、小さな頃に父に連れられて行った、海辺の村の光景を思い出した。
 月が光を落とす海に漂う白い影。それは天と海を繋ぎ、揺らめきながら浜辺に伸び、やがて海から上がってくる女性の姿に変わっていった。
「さっき、赤ん坊が籠の中で笑っているのを見たとき、あ、こいつは知ってるんだって思ったよ」
 京谷は妙なことを考えている奴だった。妙だけど、きっと何か真実に近いことを。
 冬真はちらりと京谷を見た。
 あれは本当に真珠だったんだろうか。京谷は、本当は何かを知っていたのかもしれない、と思った。

「私も。さっき赤ちゃん見たとき、予備校の教科書に載っていた詩を思い出したの。それって、私たちの大先輩の医者が書いたもので、しかもまさにこの安乗が舞台で。その詩を読んだとき、見たことのない景色に取り込まれていく感じがした」
 金原は、予備校のときいつも窓際の席に座っていた。あの頃からとても綺麗で、いつも冬真の視界の隅っこは彼女が占拠していた。この詩を、色気のない教科書で見たとき、思わず窓の方を見た冬真は、窓際で金原も同じように、夜の空の向こうにその景色を描いていることを感じた。
「稚児一人小籠に座り、微笑みて海に向かえり」
 冬真が歌うように呟くと、京谷の向こうの金原は寝転んだままふっと冬真の方を向いて微笑み、それから上半身を起こした。
「見て」
 金原の言葉に皆が起き上がり、彼女の手が指す方向を見た。
 遥か海には遠い故郷からのメッセージが、光の帯となって降り注ぎ、揺れさざめきながら、まっすぐ冬真たちの足元まで伸びてきていた。
 彼女の手は、遠い昔、海から現れた女性の手と同じ彼方を指していた。その人の指は節くれ立っていて、とても指輪など似合いそうになかったのに、そこには光のリングができていた。

 ねぇ、冬真くん、生物の営みには月の引力が必要なの。珊瑚も満月の夜に一斉に産卵するのよ。でも、どうしてその日が満月の夜だって分るのか、不思議でしょう。私たち女は月のサイクルを持っているのよ。
 そう、私たちはみんな、知っているのよ。

(【月へん】了)
……月偏、月の欠片(月片)、月についての掌編(月篇)……


参考までに、詩の全部ではありませんが一部を。

とある家に飯(いひ)蒸かへり
男もあらず女も出で行きて
稚児ひとり小籠に坐り
ほゝゑみて海に対へり

荒壁の小家一村
反響(こだま)する心と心
稚児ひとり恐怖(おそれ)をしらず
ほゝゑみて海に対へり

(伊良子清白『安乗の稚児』:岩波文庫『孔雀船』より一部抜粋)

*稚児について
実はこの詩に初めて出会ったとき、私は何の疑問もなく、これは籠の中に入るくらいだから、赤ちゃん、と思い込んでいました。この掌編を書いた時も、そう信じて疑っていなかったと思います。
今考えると、実はもうちょっと大きい幼児なのか?と思ったりもして。
ただ、赤ん坊が恐れも知らず、私たちには見えない何かを見て、それに向かって微笑んでいる姿をよく見かけるので、私の勘違い(あるいは勘違いではないかも)は満更悪くない、と思い、稚児=赤ん坊のままです。
清白先生が見られた稚児の年齢は……ま、想像ということで。
この詩で、まるで小さい子を放置しているみたいだけど、「反響する心と心」にとても深いものが込められているんですね。
自分の子供のころ、裕福ではなかったと思うし、両親はすごく働いていて、私は掘っ立て小屋みたいな事務所の小さい和室にほっとかれてて、よく三和土に落ちて頭打ってたけど…同じような世界の中にいたように思います。

Category: その他の掌編

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【掌編】センス/ 3333リクエスト 

先日、3333Hit記念にリクエストを頂戴しました。
(1)シリーズとは舞台設定も登場人物も、あらゆる意味で関係しない、1500字くらいのワン・アイデア・ショートショート by ポール・ブリッツさん
(2)【海に落ちる雨】と逆パターンで真(またはマコト)がひょっこりいなくなって焦る竹流。コミカルでもシリアスでも by limeさん

そこでまず、ポール・ブリッツさんから頂いたお題を書いてみました。
読んでいただいてわかるように、掌編って本当に苦手なんです。ポール・ブリッツさんのような、切れ味鋭いセンスあるショート・ショートは書けません^^; しかもワン・アイディアとも言えないような……
まずは、お読みいただけたら嬉しいです。





センス

 ふたりは向かい合って、赤く暗い部屋で三十七週間と三日を過ごした。
 ひとりは少し小さく、いつも不安だったので、時折誰かが部屋の外からそっと触れる音さえ聞き逃さないようにと思っていた。もうひとりは少し大きく、やはりいつも不安だったので、部屋の外からノックするような音が響くと身を縮めて耳を塞いだ。
 同じふかふかのベッドで眠っていたが、ふたりの間には少しだけ距離があった。それでも、時々互いの未完成の身体の一部が触れ合い、その時だけは不安が少し和らいだ。

 そしていよいよ、暗い部屋を出て、光の方へ進む日を迎えた。
 ふたりは初めて光を見た。
 ついにその時、光の中に投げ出されようという一瞬に、彼らに語りかける声があった。
「次の世界では、お前たちは見て、聞き、味わい、嗅ぎ、触れることによって世界を感じることになる。しかし、その感覚を受け取る脳には、そのすべてを一度に処理するだけの能力がない。そこで、望むならば何かひとつだけ特別に優れた感覚を授けることができるが、如何に」

 小さいひとりは、初めて見た光が怖かった。誰かが部屋の外から触れる音がもっともっと聞こえればと願った。そこで、優れた聴覚を望み、オレッキオと名付けられた。
 大きいひとりは、いつも部屋をノックする音が怖かった。今この先にある光は眩く、それをあまねく見ることができればと願った。そこで、優れた視覚を望み、オッキオーネと名付けられた。
「ただし、より優れたものを望めば、他のものを犠牲にしなくてはならないが、それでもよいか。ただありふれた五つの感覚を持つこともできるが、如何に」
 より優れた能力があれば、それによってより優れたものが手に入ると、ふたりとも信じて疑わなかった。

 オレッキオの優れた聴覚は、何キロメートルも離れた湖のそよぎ、吹き渡る風が揺らす花の囁き、熟した実が落ちて枯葉に触れるキスを聞き分けた。交響曲を奏でるひとつひとつの楽器の音色を聞き分け、その調和を楽しんだ。
 オッキオーネの優れた視覚は、昼間でも遥か天空の星を探し、海の底で光を跳ね返す小さな魚の鱗を見分け、暗闇の中でも生き物たちの放つ微かな光を見つけることができた。絵画の中の小さな色の違いを見分け、その共演を美しいと感じた。
 ふたりは、自分の能力こそがより優れていると信じて疑わず、また感じる世界があまりにも異なるために、同じ場所から生まれ出たにも関わらず、お互いのことをまるで理解できなくなり、離れていった。

 やがて成長したオレッキオの聴覚は研ぎ澄まされ、何キロメートルも離れたビルの中の諍いや陰謀の声を聞き、原子炉の底で大地を揺るがす不穏な音を聴き、やがて人の身体の内側で育つ醜い細胞のうごめく音さえも聞こえるようになった。音楽は調和を失い、ひとつひとつの楽器は自分自身を主張し、ただ煩い騒音が、起きても寝ても耳を震わせた。
 やはり成長したオッキオーネの視覚も研ぎ澄まされ、何キロメートルも先で起こった残酷な殺人を目撃し、空に昇って行く穢れた粒子までも網膜に写し取り、口にしようとする野菜や肉の中でうごめく細菌までも見えるようになった。絵画の中の色彩は、溶け合うことなくそれぞれが存在を主張し、寝ても起きても網膜を刺激した。

 そして、オレッキオはついに、もう何も聞きたくないと願い、優れた聴覚を誇った耳を自ら潰した。聴覚を選んだオレッキオの視覚は十分ではなく、足元の石ころさえ見分けることが難しかった。オレッキオは闇の世界に閉じ込められた。
 そして、オッキオーネも、もう何も見たくないと思い、優れた視覚を誇った目を自ら潰した。視覚を選んだオッキオーネの聴覚は十分ではなく、そばを通り抜ける車の音さえも聞き分けることが難しかった。オッキオーネもまた闇の世界に閉じ込められた。

 それでも、オレッキオの拙い視覚でも、オッキオーネの涙だけは微かに見えた。
 オッキオーネの拙い聴覚でも、オレッキオの嘆きの声だけは微かに聞こえた。
 暗闇を彷徨うふたりはやがて再び出会った。

 ふたりには鋭い聴覚も、鋭い視覚も残ってはいなかった。けれども、そっと指を伸ばせば、互いの涙に触れることができた。ふたりは手を握りしめ合い、お互いの背中を慰めるように抱きしめ合った。
 ふたりは、優れた聴覚も優れた視覚も失った今でも、そよぐ風が頬に触れる優しさを分かち合い、肌に落ちる光の温もりを確かめ合うことができることに気が付いた。
 そして不思議なことに、ふたりで触れ合っていれば、もう失ったと思っていた未来が感じられ、この世界に生れ落ちて初めて微笑み合った。





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双子ちゃんのお話、大海Versionというわけではありませんが、脳の処理能力って限界があるよなぁ、一生懸命見ている時は耳はお留守だし、目を閉じたらいろんな音がしっかり聞こえるし、というのが発想の原点。
あ、発想と言うほどの内容じゃありませんでしたね……
すみません、何しろ、書けば長編になる大海の掌編って、ほんとつまんないですよね^^;^^;
ついつい起承転結を守ってしまって、突き抜けた魅力もなく……

あ、はい。最後は触覚が残ったって感じでしょうか。そして、実は、未来を感じるシックスセンスも。
(って、解説するなって!^^;)
で、題名を考えていたら、「樅の木は残った」が頭から離れなくて「触覚は残った」にしそうになり……
(どうしてもおちょくりたい大阪人)
で、嗅覚と味覚はどうなったの?とか聞かないでくださいね^^;
(次は4つ子でチャレンジ?)

掌編って、書いてみて、毎回がっかりするのです。
本当に難しい。ポール・ブリッツさん始め、掌編を書きまくっている方々の頭の構造が羨ましいです。
さらに、最初あまりにも短くなっちゃって、少し膨らませたら1800字くらいになっちゃいました。
ポール・ブリッツさん、こんなので許していただけるでしょうか。

参考までに、
オレッキオはイタリア語の耳、オッキオーネも同じくイタリア語で大きな目、の意味です。

もうひとつ、別の赤ちゃんネタも考えていたのですが、オカルトチックになったのでやめました。
あと一つ、まったく別の話も思いついたので、それはまたいずれお目にかけたいと思います。
私の中の『ダーウィン』ネタ(例のNHKの番組)。

limeさんのリクエストも鋭意ねりねり中。
というのか、アイディアは出来上がっているので、また近日中に。
まずはマコトでチャレンジ(ってことは、真でも書くつもり??)。

Category: その他の掌編

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【掌編】冬のプラネタリウム 

limeさんイラスト400

いつもお世話になっている小説ブログ「DOOR」のlimeさんの描かれたイラストに掌編を贈る、というのがトレンド?になっているみたいなので、流行には乗ってみようと、私もチャレンジしてみました(*^_^*)
limeさんの絵には想像力を掻き立てる何かがありますね(*^_^*)

掌編は苦手なのですけれど……^^;
書いてみたらやっぱり説明臭くて、皆様が書かれた、短いのにエッセンスをきゅっと詰め込んだような作品にはなっていませんが、よろしければご一読くださいませ。

この舞台の宿のモデルとしたお宿はこちらの記事でご紹介しています。
→→『熊本・天文台のある宿』
是非、一度お訪ねくださいませ。
あ、こんなことしている場合じゃない。書類準備をしなくちゃ!




【冬のプラネタリウム】

私は小さな箱のようなプラネタリウムの中にいる。
木造の二階建ての宿、小さなフロントの脇にある小さな扉。
押し開けてみると、二十席ほどしかない小さなプラネタリウムがあった。
深い茶色の木で組まれた部屋の中、隅にある黒くて小さな無骨な装置。
座ると軋む木の椅子に凭れて見上げると、頭の上には白い小さな天蓋。

今日は午後から雨になり、夕方には止んだものの、空にはまだ厚い雲が残っていた。
大きな天体望遠鏡で星空を見ることができる、というのがこの宿の売りだったが、今日ははずれだったようだ。
空を見ることができない日には、こうしてプラネタリウムでつくりものの空を見る。
今日の宿泊客は私以外にもう一組だけで、随分と歳を取った夫婦だった。
その夫婦が約束の時間に遅れているというので、私はひとり、ここに座って待っている。

よくあることだけれど、私は傷心旅行の最中だった。
私の失恋は失業と一緒にやって来た。もともとセットだったのだから仕方がない。
自分なりに年下の彼との将来を夢見て慎ましく暮らし、こつこつと貯金をしていたものも、尊敬できる部分を一生懸命に探しながら関係を築いてきた仕事仲間も、何だかすべてが馬鹿らしくなった。
かといって、命をどうこうするほどの絶望感も思い切りもなかった。

私は大丈夫。これまでの人生だって、それほどうまくいっていたわけではない。
ずっと一人で生きてきたのだし、心から甘えることのできる相手がいたわけでもない。
たまたまこの数年が順調だっただけで、元に戻っただけなのだ。
ただ、ぽつんとひとり、彼のものがなくなってしまった狭い部屋に座り、何もすることがない時間をテレビ番組と共に過ごしていると、訳もなく真っ白になってくる。
今日私には話をする人もいない。出かける場所もない。
仕事もないし、十年後も二十年後もこうして一人ぼっちかもしれない。
気が付いたら、涙が零れていた。

携帯が鳴ったのはその時だった。
私にはまるで無縁の市外局番からの電話だ。それがどんな町なのか、想像もできない番号。
間違い電話かいたずら電話に違いないと思ったけれど、私は電話に出た。
他に、今日はすることもなかったから。

雄大な山を望む遠い町から電話をくれたのは、星のコンシェルジュだった。
そうだった、別れる前、彼と旅行の約束をしていたのだ。
一緒に星空を見ようねと言って、天体望遠鏡のある宿の「星空を独り占め」というプランを選んだ。
……キャンセルするのを忘れていた。

あらかじめ、ご案内する星のご希望をお伺いしようと思いまして。
その声は、星の彼方から聞こえてくるような優しい声だった。
宿泊のキャンセルを言い出せず、私は星の説明を聞く。
この季節ですから、冬の大三角、アルデバラン、昴、そして銀河も美しく見えるでしょう。
気が付けば半時間、私は冬の星空を思い描きながら、星のコンシェルジュの声を聴いていた。

同行の友人が急に行けなくなったということにして、何かに縋るような気持ちで私はこの宿にやって来た。
でも生憎の雨。頭の上には、白く何もない丸い天井。
私は、固まった自分自身の心と同じように、こうして小さな部屋に閉じ込められ、幻を見る。
私は一人で待っている。
もう一組の宿泊客を? それともここに映し出される幻の星空を?
あるいは、失ってしまった何かが帰ってくることを?

目を閉じると、頭の上に広がるのは冷たい星空。
私の心はひとりその星空の下にうずくまっている。
ふと身体を起こし、あたりを見回せば、私を取り囲むのは冬の星々。
頭の上も、足元も、何もかも埋め尽くして、星が青白く、あるいは赤く、煌めいている。
空にはこんなに星があるのだ。
あの場所から見たら、私のいる場所、私の存在は何て小さいのだろう。

ふと気が付くと、私のすぐそばに痩せた人影が横たわっている。
まるで自分自身を庇うように身体を縮めて、何もかも拒否するように顔を背けている。
私はそっと手を伸ばし、その髪に、そしてその手に、触れる。
氷のように冷たい白い手は、とても生きているもののようには思えなかった。

これは私を拒否した彼? それとも私の失った愛? 私が落としてしまった未来?
あるいは、凍りついた私自身の心?
この幻の星空の中に埋もれて、世界から忘れられてしまった私と一緒にこのまま凍っていくの?

「有生さん、お待たせしてすみません」
電話と同じ、暖かい温度のある声が星空の彼方から聞こえてきた。
声は現実の振動となって、私の鼓膜を震わせた。
「行きましょう。ご案内します」
「あの、ご夫婦は?」
「お疲れなので、今日はもうお休みになるそうです」
「でもいったいどこへ?」
「晴れたんですよ」

背の高い星のコンシェルジュの声は、まるで彼自身がこれから初めて満天の星空を見る少年のように弾んでいた。
小さな暗い箱のようなプラネタリウムを出て、星の本を閉じ込めた図書室を横切り、小さな木の扉を開ける。
深く濃い色の木の螺旋階段を上ると、足元の木が軋む。息が真っ白になる。
アイアンの手すりを掴むと、氷のように冷たくて驚いて手を引っ込めると、そのはずみで足を滑らせてしまった。

「危ない」
星のコンシェルジュの手が、倒れそうな私の手を掴む。

私ははっとした。
……人の手というものは、何て暖かいのだろう。
その何気ない人の温もりが、掌から直接入り込み、私の血液の中を駆け巡る。
凍った細胞が息を吹き返す。
あのプラネタリウムで見た幻の中で、私自身の心のように冷たかった白い手とは全く違う温もり。

「すみません。僕が急がせてしまった。この空を一刻も早く見て頂きたくて」
彼が最後の扉を開けて、私を最上階に導いた。
私は一歩を踏み出す。

ドームの天井は宇宙に向かって開いている。
その中心で、誇らしげに天に向かう天体望遠鏡の無骨な影さえも、暖かく優しく心穏やかな闇の中に浮かんで見えていた。

私の頭の上いっぱいに広がるのは、閉じ込められた幻の星空ではなく、まさに今ここある現実の宇宙。
降り注ぐ満天の星々。横たわる銀河。
冬の大三角。どこか懐かしいオリオンの雄姿、彼の肩で赤く燃えるペテルギウス。そして青白く輝くシリウス、優しく白いプロキオン。ふり仰げば、サファイアのようなリゲル、牡牛の赤い目、大きなルビーのようなアルデバラン、天頂で煌めくぎょしゃ座のカペラ、ふたご座のカストルとポルックス。
星を繋げれば、冬の夜空にダイヤモンドが浮かぶ。アルデバランの北東には昴の小さな煌めきの集い。
星の囁く声まで聞こえてきそうな静寂の中、小さな星々で埋め尽くされた暗い空は、まっ白に光り輝いていた。

「さぁ、星への旅を始めましょう」




ちょっとクサかったかも^^;
こけかけて手を差し伸べてもらうって、恋愛の王道みたいですが……
決して、このコンシェルジュさんと「私」に恋が芽生えるわけではありません。
これは「袖擦り合うも他生の縁」→そのまんま「多少の縁程度」という世界に違いない(*^_^*)
しかも、女性の一人称で書くのって、生れて初めてかもしれません。

私がlimeさんの絵から受けた印象は「何かに閉じ込められた/閉じこもった世界」だったので、そこから外へ出ていくお話にしたかったんです。そうしたら、あの宿を思い出しました。
あぁ、この季節に南阿蘇に行きたいなぁ。
きっと素晴らしい星への旅が待っていることでしょう。

Category: イラストに物語を

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【掌編・桜(1)】さくら舞う 

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上のイラストは自由にお持ち帰りください、と書かれていたユズキさんの桜です。
桜とパンジーの絵:ユズキさんの『夢の時間』
遠慮なく、お持ち帰りさせていただきました。
そして、以前からいつか書こうと思っていた掌編のイメージを形にしてみました。

桜の木の下には死体が埋まっている、というのはありふれたテーマなのですが、ありふれた中にもオリジナリティが出たらいいなぁという試みでもあります。
実はこの地面から出た腕を掘り出すというシーン、今連載中の『海に落ちる雨』の第5節でも、全く違う形で出てきます。
でもオリジナルはこちらの方なのです。その時は、このシーンで掌編を書くことはないだろうな、と思っていたので、別の形で長編の中にシーンを埋め込んだのです。

でも、ユズキさんの桜の絵を見た時、あ、やっぱり書いてみようと思い、こうして形にしてみました。
少しは掌編に慣れてきたからかな。
ブログを始めて鍛えられたのは、掌編を書くこと、かも。
相変わらず難産なのですが。

テーマは……罪は許されるのか、あるいは罪の赦しはどういう形でやって来るのか、ということでしょうか。
あるいは、自然・生命というものは、人間が思う罪や罰といったこととはまるで違う次元にある、ということでしょうか。
時代のイメージは明治。あんまり深く考えないでください^^;

この桜のイラストはユズキさんがいくつか挙げられたうちのひとつ目です。
実は2つ目の桜のイラストには別のイメージを感じて、また他の掌編も書いてみました。
そちらはまた次回(*^_^*)
ユズキさん、素敵なイラスト、ありがとうございました(*^_^*)

では、『続きを読む』からどうぞ。

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Category: 桜の掌編集(恋愛)

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【掌編・桜(2)】桜の恋人(前篇) 

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ユズキさんの描かれた桜のイラストから起こした掌編その2です。
ユズキさんの趣のあるイラストをご覧になる方は是非、ブログをお訪ねください(*^_^*)
桜とパンジーの絵:ユズキさんの『夢の時間』
他にも、素敵なイラストが満載! 人物はもちろんですが、背景の美しさはまるでジブリの映画のワンシーンを見ているみたいです。

ユズキさんがアップされていた2つ目の桜は、1つ目の桜とはまたイメージが違っていて、とても華やかな感じ。
これがあるものに見えたので、こんな物語を書いてみました。
1作目とはまるきり違って、キラキラの桜です(^^)
頭の中でヘビーローテーションしていたテーマソングはこちら。
(野球の話じゃないし、地上のスポーツじゃないから土も蹴らないんですけれど^^;)

……実は、藤川さんには一度だけお会いしたことがあります。握手もしてもらっちゃいました(^^)

本当は短かく終わらせるつもりが、いじくっている間に時間が過ぎ、長くなり……
いつものことですけれど^^;
というわけで、まさかの前後編です。

そうそう、3月の怒涛の時期、日常業務に加えて、膨大な書類と人事異動でわけが分からん状態に陥っています。
ブログご訪問が間延びしていてすみません(T_T)
あぁ、早く落ち着きたいけれど、ますます混沌としていくこの頃なのでした(T_T)(T_T)
その上、以前眩暈でぶっ倒れた時のようにふらっとしたり、耳鳴りがしたり、う~ん、困りました(・_・;)
皆様もお忙しい時期、お身体お大事に!
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Category: 桜の掌編集(恋愛)

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【掌編・桜(2)】桜の恋人(後篇) 

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ユズキさんの描かれた桜のイラストから起こした掌編その2『桜の恋人』後篇です。

昨夜、最後のチェックの途中で寝落ちしてしまい^^; 朝起きて読んでみたら、あちこち気に入らず、ちょっと手直ししました。あぁ、仕事の原稿がぁ~~~(T_T)
でも、書きおえてみると、自分でうるうるしちゃいました^^;
いや、感極まったのではなく、疲れたからかも^^;^^;

前置きはさておき、『続きを読む』からどうぞ(*^_^*)

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Category: 桜の掌編集(恋愛)

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【limeさんのイラストに物語を】般若の面 

闊ャ闍・_convert_20140409200945
(イラストの著作権はlimeさんにあります)

limeさんがまたまた素敵なイラストをアップされていました。
→→limeさんのイラスト
本当はじっくり練った作品を挙げたかったのですけれど、神が降りてきました。
超短い、これぞSS? 何も言いますまい。お楽しみください。





愛しい人の生き血を吸って、闇の中に花が咲く。
闇を儚く淡い白に染めゆきながら、叶わぬ恋の成就を誰に願うのか。
そのあまりにも無垢な色でさえも、天幕のような闇を覆いきることは出来ぬというのに。
それでも、お前はただ命を限りに咲き尽くし、静かに終わりの時を待っている。

ではせめて、私はお前を弔おう。
お前の真白な魂を、ひとつたりとも逃さぬように、この手に抱こう。
お前のひと時の愉悦のために、この手を血に染めて、彼方の闇と闘おう。
お前がこの僅か七日の晴れ舞台のために、残りの三百と五十八日を静かに待ち続けたように、私もこれから迫り来るあらゆる試練を、耐え忍んで越えてゆこう。

お前が愛したこの世界を救うために……

(注:続きがあります!
-- 続きを読む --

Category: イラストに物語を

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【limeさんのイラストに物語を(2)】秘すれば花 

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(この絵の著作権は【小説ブログ「DOOR」】のlimeさんにあります)

今日は日曜日。ぼくは朝早く起きて、顔を洗って、タケルを起こして。
それからねこまんまを作ってもらって、食べて、うんちとおしっこも済ませて。
よし、準備は万端。

そう、ぼくね、最近お気に入りの番組があるんだ。
『半にゃライダー』
ぼくみたいに半人前のねこが、般若の面を被って、世界征服を企む悪の組織と闘うんだ!

わ~、タケル、始まるよ~
タケルはぼくに付き合ってくれるの。
……あれ?

「『半にゃライダー』の時間ですが、緊急特別番組をお送りいたします。『半にゃライダー』のモデルともなった能楽師・京極瑞月さんの兄、京極翔月さんは三年前、不審な死を遂げておられますが、この度新事実が判明したようです。奈良県の山深い村から実況中継でお送りいたします。なお、『半にゃライダー』はこのあと、十五分遅れて放送予定です」

え~~~。何だよ、つまんない。

テレビには、深い山の中、蛇行する道が映っている。
そして、桜を背景に学ラン姿で立つ少年。あ、ほんとだ。半にゃライダーのモデルの人だ。
大人しく待とうな、というようにタケルがぼくの頭を撫でた。
そして、緊急特別番組が始まった。




というわけで、limeさんの素敵なイラストに物語を、その2です。
出だしからマコトの登場となりましたが、これは【茜いろの森】のあかねさんと私のPCでは、「はんにゃ」と打ち込むと、最初に「半にゃ」と出てくる、というので、前回のSSに引っ掛けて遊んでしまいました(*^_^*)

さて、実はlimeさんの妖艶なる少年の学ラン姿を見て、最初に思いついた物語はこちらの方だったのです。
でも、お風呂でぼや~ん、と中身を練っていたら、多分、風呂場の天井辺りに住みついていたのでしょうか、関西の家には一家に一人はいる、座敷童「笑いの神」が降りて来ちゃったんですね。
で、あんなSSになってしまい……
でも、やっぱりこっちも放っておくのはかわいそうなので、【図書館…】は待たせて、先に書いちゃいました。

ちなみに、Rなシーンはありませんが、同性の恋愛が絡みます。
と言っても、BLというほどにはファンタジックな恋愛ではありません。
でも、苦手な人は、本文を飛ばして、最後に再登場するマコトに会いに行ってやってください。

お能……室町時代、為政者のスパイだったともお小姓だったとも言われる世阿弥ですからね、ありなのです。
【清明の雪】に登場する和紙職人さんの言葉を借りると。
「織田信長も三島由紀夫もそうだったというし、だいたいあちこちのお寺にゃ、いわゆる寺小姓というのがいたし、つい近年まで日本では衆道というのは恥ずかしいことでもなんでもなかった。お前さんの国辺りでも、アレキサンダー大王とやらも、ダ・ヴィンチやミケランジェロもそうだったというじゃないか、わしは驚かんが」
ってなことで、お許しあれ。

でも、コメント欄などを拝見すると、limeさんのイラストを見て、ちょっとこういう耽美な世界を思い描いたのは、私だけではなかったようで。
そしてちょっと設定が被っているのが、【scribo ergo sum】の夕さんが書かれた世界。
でも夕さんはさすが、ワールドワイドで設定が豊かで、そう来たかって感じで、淡々と書かれているのに耽美です。

また、先に述べましたように、『天河伝説殺人事件』の二次小説的な部分もあります。
物語の舞台は明記していませんが天川村です。神社のイメージもまんまです。
小説からは、お能の流派の設定を少し借りています。そして件の般若の面の名前、さらに舞台の上で次期宗家が亡くなるという点。
でも、他の登場人物や犯人などは、まるで違う世界です。
でも、私も物語の詳細を覚えていないところもあるので、何か粗相があるかもしれません。些細でもどんなネタバレも許せない人は、まず『天河伝説殺人事件』をぜひお読み(ご覧)ください。
映画は特に……榎木さんが素敵で……
あの映画、市川昆さんの映像美、やはりもう一回観ようっと。

では、お楽しみください。
limeさんのイラスト、やっぱり物語がわき出てきますね。
ありがとうございます(*^_^*)

そして、今回のBGMは安全地帯さんの『出逢い』。内容がまさに火曜サスペンス劇場ですから……

(2:00くらい~)この曲、大好きなんです。玉置さん、あれこれややこしい方のようですが、曲はほんとすごく胸に来ます。
あ、limeさんがピックアップされていた『二人静』はもう、まんま、物語に沿っているかもしれません……(*^_^*)
(テレビでなら『出逢い』、映画になったら『二人静』?)
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Category: イラストに物語を

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【掌編】D川の殺人事件~夕さんと乱歩に挑戦?~ 

八少女夕さんのブログ、scribo ergo sumでは50000Hitという大きな記念樹をうちたてられました!
長編から短編まで揃えた個性的な小説、そして多岐にわたる雑記、夕さんの世界の広さを感じる素晴らしいブログの大きな記念の数字に、まずは心からお祝い申し上げたいと思います!

さて、そのキリ番リクエスト?と思ったら、夕さんからの挑戦状?が届きましたね。
(詳しくはこちら→scribo ergo sum 【50000Hitのリクエスト】
何か普通に掌編を? とも思いましたが、やはり何か一つ捻りたい。
というわけで、折しも「その季節」がやってきて、気が付いてみたら日までどんぴしゃ。もう書くしかないな、と思い、無理矢理書き上げました。
書き上げてみたら、とてもお返事をいただくには申し訳ない出来だったので、とりあえずアップはしますが、夕さん、こちらはもう無視してください!
またもう少し洗練された作品をいずれ書きたいと思います……m(__)m

さて、タイトルにお約束の地名がないじゃないか、と思われますよね。
はい。ないんです。でもあるんです。
あ、もちろん、江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』をもじりました。内容は全く関係ありませんが……あれはまだ明智小五郎が素人探偵だった設定、しかも「私」に犯人と疑われてましたっけ? 
ともかくも、さらりと流していただければ幸いです^^;
いやこれ、だめですよね。駄作だなぁ。一応ミステリー……?


【D川の殺人事件】

私は真っ暗な水底で、あの日の出来事を思い出していた。
一体何故あんなことになったのか、私は何故殺されたのか、今でもよく思い出せない。
私は殺されて沈められた。暗く不穏な水底で身体はばらばらになり、虚しい骸となった私の記憶は時の移ろいと共に徐々に薄れて行った。
……一体私が何をしたというのだろう。

あの当時、殺人の時効は15年。
だが、時間の感覚は既になかった。その15年がもう過ぎてしまっていたのかどうかさえ分からなくなっていた。
黒い水底の泥の中には、何か得体の知れないものが蠢いていた。
それが何であるかなんて、説明できない。コントロールできない衝動、不可解な熱、最も原始的な脳の部分に刻まれた不気味な遺伝子情報だ。

あの日。
街は夕刻から微熱を帯びていた。何十年に一度という祭りの日だったのだ。
夜はもう寒いほどの気候だったが、私はいつものように店の前に出て、賑やかで楽しげな客を出迎えていた。
時間と共に街を歩く人の数は増えていった。男も女も、老人も若者も、子どももいた。微熱は明らかな熱気に変わり、見慣れたネオンの明かりさえもかき消す人の波となってゆく。
……祭りの時間が始まっていた。

あの時、私はまだ自分の運命を知らなかった。
リオのカーニヴァルにも勝るほどの異常な興奮に包まれ、私の冷えた身体まで熱く火照っていた。
だが身体の内側では奇妙で不穏な何か得体の知れないものが膨れ上がってゆき……
そして、あの時間がやって来たのだ。

運命の時間。午後十時前。
……一体私の身に何が起こったのだろう。
私は突然の出来事に相手を確かめる余裕もなかった。気がついた時には、足は地面から離れ、もみくちゃにされながら運ばれ、やがて冷たく暗い水の底へと沈められ、水死体となった。

おそらく犯人たちは以前から私を狙っていたのだろう。私は彼らの視線にもっと敏感であるべきだった。だが、仕事柄、あの街で1日に何千人、時には何万人という人を見る中で、悪意のある顔だけを見分けることは難しい。
いや、あれは悪意ではなかったのかもしれない。
そう、祭りの衝動だ。
何故なら、凶行は隠れた場所ではなく、公衆の面前で行われたが、目撃者たちはそれが殺人事件だとは思っていなかったのだろうから。

警察はちゃんと捜査をしてくれていたのだろうか。
いや、彼らは私の亡骸を見つけることさえできなかった。死体がなければ殺人罪は適応されないだろう。
あぁそうだ。毎日あの場所をジョギングしていたあの若者なら、犯罪を目撃していたかもしれない。もしかすると、犯人の顔を見ていたかもしれない。

だがどうやって彼を捜せばいい? 彼の存在を警察に教えたらいい? この暗い場所でどれほど叫んでも、私の声が彼らに届くことはないだろう。
では、私はこのまま虚しく朽ちていくのか。
それではあまりにも悔しく悲しい。
せめて身体の一部でも、あの水面に届きさえすれば……

…………

 続きがあります)
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Category: その他の掌編

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【イラストに物語を】白狐の逆襲~limeさんのイラストに寄せて~ 

いつも素敵なイラストで物書きたちの妄想脳をくすぐる小説ブログ「Door」のlimeさん。
今回の作品はちょっぴり(?)お色気を醸しだす半人半狐がテーマです。
えぇ、私の書いたものは、ものすご~く、つまらない作品(とも言えない、お目汚し)です。
limeさん、ほんと、毎回ごめんなさい!(先にあやまっとこ)


その森には美しい白狐が棲むという。
遥か昔、宇宙から落ちた光。その光に森の奥深くまで誘い込まれた勇敢なる狩人は、光をそのまま束ねたような輝く尾を持つ白狐に出会った。
運命に導かれし二人の間に恋心が芽生え、やがて玉のように美しい姫たちが生まれた。
姫たちは成長し、森の奥で静かに時を待つ。
彼女たちの奇しき力を頼り、救いを求める声に応えるために……

limeさん狐

「先輩、やっぱり日曜朝のお子様時間帯に、このお色気キャラはまずいんじゃないすか? Rぎりぎりっすよ。てか、基本的にアウトじゃないすかね」
「いや、これでいいんだ。あの『半にゃライダー』に対抗する裏番組を任されたんだぞ。生半可なものでは太刀打ちできないだろ」
俺は尻込みする後輩に笑いかけてやった。
「いいか。コンセプトは、平日仕事で疲れたお父さんたちに、日曜朝の癒しの時を与えることなんだ。妻と子供にチャンネル権を奪われた父親が、目の保養ができるように、ってのが俺の狙いなんだよ」
「でも、子どもには見せられないじゃないすか。休日の朝となると、子どもは絶対見るでしょ」
「近頃のテレビ業界は過剰に気を遣いすぎなんだ。隠したって子どもはどこかでそういうものを見てしまうんだから、むしろこうやって、日曜日の朝から家族みんなで、ちょっぴりエッチなお色気たっぷりのヒロインアニメを観る方が健全だろう?」
「いや、絶対、企画会議のプレゼンで、一瞬にして却下されますって」

しかし、時代は新しいヒロインを待っていた!
映倫のハードルを妖しい狐目光線で破壊し、世間の母親たちの厳しい批判をものともせず、ついに……日曜の朝っぱらから世のお父さんたちに鋭気をお届けするちょっぴりエッチな新番組子どもたちに夢と希望の扉を開き、愛と友情とお色気の素晴らしさをお届けする新番組のスタートが決定!

大人気番組『半にゃライダー』の裏番として今春から放映予定の、ヒロインアニメ『プリンセス・クズキュア』。
奇しき力を持つ美しい母・白狐のクズノハが産み落とした、半人半狐の5人の姫たち、キュアセイリュウ、キュアスザク、キュアリクゴウ、キュアテンクウ、キュアビャッコ。絶望に閉ざされた世界を救い、夢と希望を取り戻すための、彼女たちの闘いが、今、始まる!


企画スタッフの責任者・安倍晴正は、プレゼンのために用意したイメージキャラクターの絵の前で静かな闘志を燃やしていた。
……猫に日曜朝8時のプラチナタイムを奪われたままにしておくものか。
そのために一千年の時を待っていたのだから。

そして、『半にゃライダー』と『プリンセス・クズキュア』の視聴率合戦の裏側で、猫と狐の熾烈な戦いの幕も切って落とされようとしていた……


ひたすら可愛さで押しまくるにゃんと、お色気まいっちんぐでハートを鷲掴みにするこんこんの戦い?
もしくは化け猫VS化け狐? でもどちらも、神様のお使いですしね(^^)
クズって「屑」じゃなくて「葛」ね……^^;
しかし、今の時代、テレビはモバイルでも見れるし、チャンネル権争いなんてあんまりしないのかもしれませんね……

狐と言えば、やっぱり安倍晴明の母君。いや、きっとウゾさん辺りがこれで来られるに違いないと思ったのですが、やっぱりそうですよね。発想が一緒だった(*^_^*)
でも……ファンタジックで素敵なイラストなのに、私の頭にはこの四角がプレゼンテーション用のスクリーンに見えてしまい……遊んじゃいました(..)
limeさん、5人の姫はきっとそれぞれ違う色の尾っぽなんですよ……(゜-゜)
えっと……タイトルからしてふざけてますね。本当は『白狐の覚醒』にしようかと思ったのですけれど。
あ~、お叱りは甘んじて受けます……(>_<)

@『半にゃらいだー』:日曜朝8時のヒーロー番組。半人前の猫が主人公。猫たちにも絶大な人気があり、高視聴率を叩きだしている。
@キュア戦士たちの名前は、安倍晴明が式神に使っている十二天将から取りました。ってことは、12人までいけるってことだな。え? プリンセスらしくない名前? そもそも『ふたりはプリキュア』が始まった時のコンセプトは、ヒロイン番組ではなく女の子が主人公のヒーロー番組だったんだとか(^^) う~ん、まぁ、こちらの狐さんの性別、いささか不明ではありますけれど、それに狐の葛の葉が産んだと伝説に語られる安倍晴明は男性ですが(多分?)、しかも5人も12人もおりませんが……やっぱりヒーロー番組の裏はヒロインでなくちゃ!
@今更ですが、イラストの著作権はlimeさんにあります。

Category: イラストに物語を

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【イラストに物語を】亡き少女に捧げるレクイエム 

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(イラスト:limeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用・転載はお断りいたします)

小説ブログ「DOOR」のlimeさんのお題・『またもや天使』にチャレンジしようと思ったのですが、皆さんがあまりにも素敵な掌編を書かれているのに、なぜかふざけたものしか思い浮かばなくて……考えても考えても笑いの方へ持っていきたくなってしまうので、これはもう、大阪人のDNAということで諦めました。
この脳内作品を文字にするかどうか悩んだのですが、limeさんにもお許しを頂いたので、さっそくoomi笑劇場へ……
あぁ、ほんとに、limeさん、ごめんなさい!!
(ぜったい怒られる……limeさんが怒らなくても、limeさんファンに怒られる……)
えっと、お口直しには、他のみなさまの素敵な掌編をお読みくださいね!(こそこそ)

・「続きを読む」以下もお楽しみください。


【亡き少女に捧げるレクイエム】


「おはようございます。Matamoyaテレビアナウンサーのミカエルです。本日の『日曜芸術館』は人気人形作家のガブリエル先生をお迎えして、先生の新しい作品を皆さんとご一緒に鑑賞したいと思います。先生、今回は蝋人形ですね。いつもの作風とは違いますが、聞くところによると、最近、愛するお孫さんを亡くされたとか」
 憔悴した姿を取り繕うこともなく、ガブリエルはうなずいた。
「彼女はまさに私の天使でした。あの子は外見が美しいだけではなかった。誰に対しても優しく、私のこともいつも心にかけていてくれました。そんな彼女をまるで生きている時のように蘇らせるのは蝋人形しかないと、そう思ったのです。私は深い悲しみを乗り越えるためにこの人形の製作に取りかかり、ようやく完成を見たのですが、見るごとに彼女の在りし日を思い出してしまって……」
 ガブリエルが言葉を詰まらせると、アナウンサーのミカエルも、そしてスタジオ中のスタッフや観覧席の視聴者も、涙を禁じ得なかった。
「皆さん、言葉は要りませんね。ご覧ください、この美しい少女を。人形とは思えない、お孫さんの魂の宿った姿を」
 少女の蝋人形は、まるで息をしているようだった。金の髪は虹色に光って見え、頬は微かに紅をまとい、唇は今にも言葉をこぼれさせそうだった。背景には、ガブリエルの作った人形を引き立てるように、緑の葉を繁らせた木のセット、そして天国で微笑む彼女を包む光のライトアップ。

 そこへどこからともなく、一羽の蝶が紛れ込んできて、ガブリエルの人形の側に近づいていった。天使となって天国に召された少女に生き写しの人形。その人形に、吸い寄せられるように近づいていく蝶。
 蝶がまるで何かを訴えるように羽をはためかせると、皆がその美しい光景に息をのんだ。
 やがて蝶は、ガブリエルがその人だと分かったかのように、まっすぐに彼の元へ近づいてきた。
「あぁ、蝶は魂を乗せているといいますもの。きっとお孫さんの魂が、先生に会いたくてこの世に舞い戻ってこられたのですわ」
 視聴者の一人の言葉に、スタジオは涙に包まれた。

 もしもここに、魂の声を聴く者があったなら、蝶に魂を乗せた少女の言葉を、彼女の死にうちひしがれて嘆くガブリエルに伝えることができただろうに……
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Category: イラストに物語を

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【イラストに物語を】亡き少女に捧げるレクイエム(2)~インフェルノ編~ 

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(イラスト:limeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用・転載はお断りいたします)

「猿もおだてりゃ……」の典型みたいに、続編をつぶやいたら、皆様から絶大なるご支持を頂きましたので(なわけないか!)、ついつい書いちゃいました。笑劇場第2幕(もう3幕目はないよ!)インフェルノ編、しばしお楽しみください(*^_^*)
もうすでに、イラストとは何の関係もなくなっている……(>_<)
第1幕はこちら→【亡き少女に捧げるレクイエム】



「して、人形作家のガブリエルよ、なんでもそちの作った人形はリアルで美しすぎるというので、ちまたでは評判であったらしいな」
「へぇへぇ、閻魔大王殿。それはもう、私の人形のファンもずいぶんとおりまして、某国の政治家から、有名企業の社長さんから、ほんとに可愛がって頂きまして……」
 ガブリエルは手もみをしながら閻魔大王に答えた。閻魔大王はガブリエルの手元を見て太い眉を吊り上げるようにして眉間に皺を寄せた。
「ずいぶん儲けたようだな」
「いや~、それほどでも……」

 あのMatamoyaテレビの『日曜芸術館』の放映により、人形作家ガブリエルの名前は国内だけでなく国外にまで知られるようになり、ガブリエルのところには金になる仕事が次々と舞い込むようになった。
 亡くなった私の妻の人形を、私の娘の人形を、私の猫の人形を、昔の恋人の人形を……。
 こうしてガブリエルは仕事を選ぶようになり、これまでのようにこつこつと安い仕事をするのが面倒くさくなり、いつの間にか大金持ち相手の仕事しかしなくなった。
 仕事を一つ終えると、どんと懐に金が入ってきた。そうなると、生活は自堕落となり、文字通り飲む・打つ・買う日々が続き、金がなくなったら仕事をして、また飲む・打つ・買う……ついには若い女のところで腹上死してしまった。

「酒の飲み過ぎで店の中で暴れ回り、従業員や客に大怪我を負わせたこともあったそうだな。それに、結果的に儲けた金をギャンブルと女で使い果たし、家のものに迷惑をかけ、あげくに腹上死とは……」
「しかし、私の人形は世界中のみなの慰めとなっておりましたし」
「迷惑をかけた家族のことはどう思っておるのじゃ」
「いや、家族といっても、私の可愛い孫娘が死んじまった後は、ずいぶんと昔に別れた女房についていった息子とその家族が残ってるだけで、あいつらだって私の金のおかげでいい思いもしたってわけでして」

 ガブリエルは自分の仕事がいかに素晴らしく、そのおかげでみんなが良い思いをしたのだと、ひたすらに語り続けた。閻魔大王はあごひげを撫でながら聞いていたが、やがて、ばん、と木槌を打ち鳴らした。
「さっきから聞いておると、お前は自慢ばかりしておるが、人に迷惑をかけたことについては何ら反省の気持ちがないではないか!」
 閻魔大王の側には裁判官と裁判員が並んでおり、そのうち一人の裁判官は巨大なそろばんを弾いていた。生前に行った善行と悪行の数を数えいてるのだ。皆がそれをのぞき込んで頷き合い、「有罪」「有罪」「有罪」……の札を上げた。
 閻魔大王はその札を数え、咆哮のような声で審判を下した。
「ガブリエルは有罪。地獄で反省してまいれ」
「え~? なんで私が……」


 じいちゃん、死んじまったかぁ~。
 しかも女のところで腹上死だって。ほんと、笑っちゃうよ。
 どうなるんか気になるし、閑だし、ちょっとサイバン、見に行こうっと!

 軽い気持ちで天国から様子を覗きに来たガブリエルの孫娘・ハレルヤは、傍聴席で裁判の成り行きをじっと聞いていた。

 あ~あ、あれがうちのじいちゃんかぁ。かっこ悪いな~。見てらんないよ。
 ふ~ん、あれからけっこう悪いことしてたんだんぁ。
 でもまぁ、しょせん悪行ったってたいしたことないし、小物感溢れてるけどね。

 閻魔大王に答えているガブリエルの必死の保身が可笑しくて、最初は笑っていたのだが、一生懸命に自分自身を弁護しているガブリエルがちょっと哀れで泣けてきた。

 この程度じゃ、そうそう地獄行きまではないよね。今地獄って混み合ってるらしいし。
 でも、じいちゃんたら、ちょっと態度が悪いなぁ。
 反省してます、とかしおらしく言ったら心証もいいのに。
 ま、天国に来たら、ちくちく苛めちゃおうっと。
 なんせ、私のほうが天国じゃパイセンだしね!

 ところが、審判はまさかの有罪。ハレルヤも「地獄行き」の決定には驚いて、思わず飛び出してしまった。
「ちょっと待ったあ~」
 閻魔大王と裁判官・審判員が皆、何事と顔を向けた。
「やだなぁ、えんまっち。こんな小物のじいさんなんて地獄に落としたら、けつの穴ちっさいって、笑われちゃうよ~」
 と、ハレルヤがいつものタメ口を叩くと、ごほん、と裁判官の一人が咳払いをした。
「それにさ、エロくってバカなじいちゃんだけど、こう見えて結構いいところもあるんだよ。ま、あたしの人形、服脱げかけってのはちょっとアウトなんだけど。でもさ、えんまっちだって、あの人形、気に入ったって言ってたじゃん。特にほら、この肩のところとか、胸のタ・ニ・マとか。厳つい顔に似合わず、結構好き者なんだからっ!」

 言い繕っているうちに墓穴を掘るということはよくある話だが、今度は閻魔大王がむっとした顔をした。
 もっとも、ハレルヤはそんな空気は読まない。
「娘よ、もう有罪と決まったのだ。ここはお前の来るところではない。次の審議があるから、出て行きなさい。我々は忙しいのだ」
 裁判官がさっさと追い出そうとしたので、ハレルヤは慌てた。
「あのさ、この人、ほんと、ダメじじいなんだよ。一人でなんもできないし、いくらなんでも地獄は可哀想だと思うんだよね。だから、じいちゃんを地獄に落とすんなら、あたしも付いてく!」

「おい、ハレルヤ」
 後ろから、ガブリエルがこそこそとハレルヤの服を引っ張った。ハレルヤの可愛らしい胸の谷間がちらっと裁判官の目に入った。
 ハレルヤはガブリエルの腕を押しやった。
「じいちゃんったら、引っ張ったら脱げるじゃん。大丈夫だって。ここは『孫娘よ、お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに心を打たれたぞ。お前に免じてガブリエルの地獄行きは免除してやろう』って話になるのが相場なんだから!」

 あ~、私って、結構いい女なのよね~。
 ハレルヤがそう思った途端、閻魔大王の声が裁判所内に響き渡った。
「孫娘・ハレルヤよ。お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに打たれたぞ!」


「で、なんだってあたしもいっしょに地獄なのよ! それなら共に地獄に落ちてやるがいい! だって! あ~、なんべん思い出しても腹立つ~。ちょっと、アオおにっち、熱ずぎるったら! 冬は42度くらい、夏は39度くらいにしてって言ったでしょ!」
「アネキこそ、もうちょっと苦しそうにしてもらわないと、バレちまいますぜ」
「あ、そうか! いい湯だな~じゃダメだったんだ! あ~、熱い~、苦しい~!!」
 ハレルヤは苦しむ演技を適当に続けてから、釜茹での五右衛門風呂から地獄の官吏・青鬼に向き直った。

「でもさ、うちのじいちゃん、役に立ってるっしょ。あれでも、生きてるときから世界一の人形作ってたんだから」
「ほんとに、ガブリエル先生の鬼からくり人形は、ホンモノと区別が付きませんや。えんま野郎にも区別がつかんでしょうな。おかげで、俺らも仕事をさぼることができるし、それに俺たちだって好きで人間を苛めてたわけじゃありませんからね。針はイタそうだし、釜茹では熱そうだし、汚物とか煮え湯を飲ませるのって、俺らも臭いし熱いんすよ。いや、ほんと、アネキに、あんたらには矜恃ってもんがないの! っていわれたときに、あっしら、目が覚めましたぜ。人間を責めるのもそろそろ飽きてましたしね、このまま閻魔大王に使われ続けるのも、いい加減癪ってもんでして」
「だっしょ~。あたしと付き合ってたら、絶対楽しいんだってば!」

 ガブリエルはせっせと鬼たちのからくり人形を作り続けていた。閻魔大王が地獄を覗いたときに、ちゃんと働いていると見せかけることができるように。おかげで、鬼たちは地獄に落ちた人間たちを責めるという終わりのない苦役から解放されて、余暇を過ごすことができるようになった。それほどにガブリエルの人形は完璧だったのだ。
 彼がやがて、かのお茶の水博士として転生し、世界的にも有名なロボットを作り出すことになるとはまだ誰も知らない。

「実はさ~、結構、天国って退屈だったんだよね~。だって、ぶりっこもいい加減、肩こるしさ。ほんと、ここ来て、良かったよ! アオおにっちとかアカおにっちと遊んでる方が楽しいじゃん。地獄良いとこ、一度はおいで~ってさぁ」
 釜茹で風呂で歌うといい感じに響いた。
「あ~、あたしっていい声だな~。アイドルデビューしよっかな。ね、どう思う?」
「いいんじゃないっすか。じゃ、俺、ヲタ芸、練習しますよ」

 あれから、ガブリエルと共に地獄に落とされたハレルヤだったが、今や地獄は彼女にとって巨大なアミューズメントパークだった。
 適度な温度に調節された五右衛門風呂は、地球の恩恵をそのまま生かした天然温泉。針地獄の針や刀は全部角が丸められ、上を歩いたら足裏マッサージとなり、実に健康的だ。ノコギリで身体を切られるという責め苦の場合は、鬼たちのマジックショーの腕を磨くために素晴らしい実地訓練になった。煮え湯や汚物を飲まされる責め苦の場合は、むろん、最近腕を上げたキイロおにっちシェフの作った極上スープだ。巨大な石などで押しつぶされる責め苦の場合は、ちょうどいい具合に重さが調節されて、指圧効果をもたらすでこぼこも付け加えられた。

 閻魔大王や裁判官が時々上の方から見張っているので、苦しそうにしなければならないのだが、その演技が一番上手くできた者にはヘルアカデミー賞が贈られて、地獄一の美男美女とハーレム状態の楽しい時間を過ごせることになった。鬼たちとは本物の鬼ごっこをすることもできて、コミュニケーションスキルのアップにも繋がったし、1年に1度の大会の商品もなかなか豪華だった。

「やっぱ、辛い環境も自分の力で変えて、楽しく生きなくちゃね!」
「アネキ、もう死んでますぜ!」
「あ、忘れてた! そうそう、とっくに死んでた!」
 青鬼とハレルヤが天を見上げるようにして大笑いをしている時、遙か彼方、空の雲の彼方から、閻魔大王が地獄の様子をのぞき込む気配があった。
「あ、アネキ、ヤバい! 熱いふり!」
 すかさずハレルヤは大げさな演技をした。
「うわ~、熱いよぅ~、お母ちゃ~ん!」
「いいっすね~、ヘルアカデミー賞にノミネートされますぜ!」

 まもなく、このとんでもない娘を地獄に落としてしまったことを後悔する日が来るとは、閻魔大王も未だ気がついていないに違いない。


余談ですが、ハレルヤはマタモヤと韻を踏んだつもり(^_^;)
……お粗末様でした(>_<)

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