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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました(ウゾさんへ)】春・桜 

stella
Stella
Stella 2013/4月号 投稿作品



さて、掌編をお届けします。
もしskyさんからご許可をいただけましたら、月刊Stellaさんへ投稿しようかと思っております。
→skyさんからご許可いただき、無事にタグを貼りつけることができました(*^_^*)
よろしくお願いいたします。季刊くらいの参加にはなりまするが…

ウゾさんからご許可を頂き、ウゾさんのブログ名をタイトルに戴いた【百鬼夜行に遅刻しました】です。
→ウゾさんのブログへ
そして、主人公の名前が、もう勝手にウゾくんになってしまって、他の名前にしようとしてもどうしてもダメなんです~とウゾさんに謝ってはいたのですが、それでも何とか他の名前に変えようとしたけれど、やっぱりだめでした。
ここでもう一度謝ります。ウゾさん、もう『ウゾ』以外にはなりません!^^;^^;

ウゾさんのブログ名、本当に私のど真ん中直球で飛び込んできまして、妄想が走り始めてしまったのですね。
いやいや、いかん、ひとんちのブログ名だから…と思ったけれど、そこへもち姫さんのお写真を拝見してしまい……妄想は消えるどころかヒートアップしちゃいまして……

ごめんなさい、ウゾさん。
お気に召さなければ、もうすぐにでも抹消いたしますので、ご遠慮なさらずにおっしゃってくださいませ。

これは一応、ウゾさんのブログから漂う何かを一部お借りした二次小説という位置づけ、のつもり。
これまでだったら、妄想が走っても文字にするところまではいかなかったけれど、ブログというもののおかげで文字にする意欲が出て、一応形にすることができました。
ウゾさん始め、Stellaの管理人さん、お誘いくださった夕さんに感謝です。
あ、まだ管理人さんからのご許可をいただいていないので、一応タグはお預けです。

まるきり続くことを前提にしているような話運びですが……気にせずに、ひとまずお楽しみください。
ウゾさんのダメだし次第で消えることも……
約7500字。ウゾくんともち姫さんが大活躍のお伽噺のようなお話。
ファンタジーは書けない、書くまいと思っていたのですが…




【百鬼夜行に遅刻しました】

 しまった! また寝坊しちゃった!
 ウゾは急いで夜行用衣装に着替えて、タダスの森を飛び出した。
「うぞ、オハヨウ。また寝坊か」「寝坊か」「またか」「寝坊」「ネボウ」
 ダンゴ達は、キノコの苗床になっている木の葉の下からごそごそと音を立てながら、いつものようにハモって話しかけてくる。あいつらは害にもならないが何の役にも立たない。
 どうせなら、起こしてくれたらいいのに!
 ウゾは転がるように森を出ると、橋の下に潜った。水辺で遊んでいる五尺龍たちの力を借りたら、少しは早くゴショに着けるかもしれない。
 今日は三千六百五十回目の及第試験の追試日だった。
 つまり、三千六百四十九回、試験に落ちている。
 その理由は試験開始時間に間に合わないからだ。
 ウゾは早起きが苦手だ。というよりも、他の鬼とは違う特別な性質があって、普通の鬼が眠りについている時間帯にぐっすり眠れないのだ。だから寝る時間が遅くなってしまって、必然的に起きる時間も遅くなって、亥と子の刻の間の集合時間にはいつも間に合わない。

 しかし、その日、橋の下の川辺に五尺龍たちはいなかった。
 カモガワの水はいつものように、ニンゲンたちが川辺に灯したあかりを跳ね返してちらちらと揺れながら南へ下っていたが、いつもなら水の上で跳ねている龍たちの姿はなく、奇妙に静かだった。
 ウゾの姿は水面にははっきりとは映らない。でも、他の鬼とはちょっと違うところなのだが、少しだけ映るのだ。ウゾはカモガワの水を覗き込む。ウゾには角はないけれど、ニンゲンがよく絵に描いている普通の鬼に近い姿をしている。鬼、といっても、小鬼だ。
 もちろん、水面には、ニンゲンが描く絵みたいにくっきりとは映らない。ゆらゆらゆれる水の中のウゾの頭の上に、光虫がふわふわと漂っている。
 だめだ、だめだ、まだ一生懸命走ったら、ギリギリ何とか滑り込めるかもしれないのだから。

 さぁ、走るぞ、と思ったときだった。
 ウゾのとんがった耳がひくひくと動いた。
 しくしくと泣く声が聞こえる。声、というよりも震えのようなもので、はっきりと耳で聞こえるような音ではない。鬼のウゾだから聞こえる周波数だ。
 水音でかき消されて途切れ途切れにはなるのだが、確かに誰かが泣いている。

 あぁ、もう、構ってる場合じゃないんだ。もしかして、今ならまだ三千六百五十回目の追試に間に合うかもしれないのに!
 ……なのに、やっぱりウゾは足を止めてしまった。
 辺りを見回してみると、向こう岸に繋がるカメ石の上で、誰かがしゃがみこんで泣いていた。
 ニンゲン?
 おかっぱ頭で赤いスカート、ピンクのカーディガンを着ているから、女の子なのだろう。
 今日は四月の丑の日なのだ。だからもしもニンゲンに鬼の姿が見えてしまったら、そのニンゲンは死んでしまう。いや、ニンゲンの死期を決めているのは、鬼を見たかどうかということではないのだが、死期が近いニンゲンに引導を渡してしまうことになる。
 鬼にしてもニンゲンの死期に関与することを好んでいるわけではない。だから不用意に近づいてしまって、もしかしてそのニンゲンの『時』が迫っているのなら、鬼の姿がニンゲンに見えてしまうかもしれない。
 とは言え……
 ウゾはそろりと泣いている女の子に近付いた。
 背丈はウゾと同じくらいだから、ニンゲンならば五歳くらいだろうか。おかっぱの髪の毛は薄茶色で、光虫たちがその周りをふわふわと漂いながら行き過ぎている。
 ウゾが女の子と同じカメ石の上に立った途端、女の子はその気配を感じたのか、顔を上げた。

 わっ!
 ウゾの方がびっくりした。
 いやいや、こういうのは見慣れているのだから、びっくりする方が鬼として情けないのだが、やっぱりびっくりした。
 これじゃあ、女の子にはウゾは見えないだろう。もちろん声も出せない。耳だけは聞こえるようだ。そしてウゾに触れることもできる。そう、女の子はまっ白い顔をしていた。要するに、のっぺらぼうだった。
 つまり、女の子はもうニンゲンではないようだった。

 ウゾは困ってしまった。
 困ったのは、三千六百五十回目の追試を受けられないということではない。もうそのことはすっかり頭の中から消えてしまっていた。女の子を何とかしてあげなくちゃならない。女の子が泣いているのは、帰る先が分からないからだ。
 鬼の中にはのっぺらぼうなんてざらにいるのだが、年季の入ったのっぺらぼうはウゾにもすぐに見分けがつく。何故なら、完全なのっぺらぼうはキツネとかタヌキたちの化けた姿で、帰属のはっきりしない、多分もともとニンゲンだったのっぺらぼうの場合には、口だけは残っていることが多いからだ。
 女の子ののっぺらぼうぶりは、『新人』としか思えない。だって、目も鼻も口もないのだから。
 予想外の『時』を迎えた時に、五感のうちいくつかがこっちの世界とあっちの世界とでばらばらになってしまうことがある。だからあっちの世界に残してきたものを、ちゃんと回収しなければならないのだ。あっちの世界に何かを残したまま、『時』から七日以上が経ってしまうと、ウゾ達と同じように鬼になっていまう。鬼になったら、ニンゲンたちが言うところの『ゴクラク』までの道のりは気が遠くなるくらい、長いのだ。
 しかし、口のない状態では、女の子から情報を聞き出すことは難しい。

 困ったときにウゾがすることは決まっていた。
 ウゾは女の子の手を引っ張った。
「もち姫のところに行こう」
 女の子の手は何となく暖かだった。そして何となく懐かしかった。
 
 もち姫は『知っている』猫だ。知っているということは、『見える』以上だということだ。猫の場合は、ニンゲンよりも比較的見える率は高い。でも、知っている猫となると、そんなにたくさんはいないのだ。この町で『知っている』猫は、もち姫と、あともう数匹の猫たちだけだ。
 もち姫が住んでいる家は、カモガワをずっと遡ったところにあった。
 ウゾは女の子の手を引っ張って、うんとこ走った。鬼でも結構な時間がかかるところなのだが、女の子は半分あっちの世界に残っているから、重かった。
 だから、もち姫の家の竹垣の隙間をすり抜ける時も、女の子は引っかかってしまった。勢いで手を強く引っ張ったら、赤いスカートのポケットの切れ端が竹の隙間に絡まって千切れ、あっちの世界に残ってしまった。
 穴のあいたポケットから、ひらりと薄紅の花弁が零れ落ちた。

「あら、ウゾじゃないの。あなた、今日は三千六百五十回目の追試の日じゃなかったの」
 もち姫は縁側でいつものようにゆったりと真っ白な身体を横たえていて、金色と碧色の二つのとても綺麗な目でウゾを見た。
 もち姫はあっちの世界では少し身体の弱い猫だ。それはつまり、こっちの世界ではとても元気だということだ。もち姫はすぐに女の子に気が付いて、首を長く伸ばした。
 しばらく、もち姫は女の子の気配から何かを探っているように見えた。
「その子はどうしたの?」
「川で会ったんだ」
「まぁ、じゃあ、あなた、また試験を受けそこなったのね」
 もち姫はウゾのおせっかいのことを、とてもよく知っている。
「そうなんだ。でも放っておけなかったんだよ」
「でもいい加減試験に通らないと、百鬼夜行の本番に参加できないんじゃないの。このままでは、いつまでもこっちに残ってしまうわよ」
 そうなのだ。
 百鬼夜行には気が遠くなるくらいのルールがある。ニンゲンから見たら、鬼が並んでいい加減に歩いているように見えるかもしれないが、障害物、つまり多くはニンゲンや他の生き物との距離の取り方や、通ってはいけない場所、一方通行、止まってはいけない場所、などがあって、鬼によって、つまりもとの身体の形や、あっちの世界に残してきたものの状態やらによって、歩く順番やスピード、飛んでいい高さなどにも決まりがある。
 だから、本番の百鬼夜行に参加するためには、まず学校のようなものがあって、そこでしっかり勉強して、試験に合格しなければならないのだ。
 学校は『ゴショ』の中にある。『ゴショ』には昔ながらの辻や大通りがあるし、子の刻にはもうニンゲンはほとんど通らないので、半人前の鬼たちがまかり間違って気配を消すことを忘れていたとしても、問題になることは少ないから、勉強するにはとても好都合な場所なのだ。
 ウゾは何とか授業の単位を取り終えたのだが、ニンゲンの住む町中を練り歩く本番の百鬼夜行に参加するための試験にまだ通っていない。受けそこなった回数と試験は受けたけれど落っこちた回数の合計が、今のところ、三千六百四十九回、ということなのだ。そして今日、それが三千六百五十回になってしまったらしい。
「でも、今までの最高回数を誇った鬼が一万八百八回だっていうから、まだまだ僕は大丈夫だよ」
「ウゾ、でもね、いつかはちゃんとしなきゃだめよ。いつまでもこのままじゃね」
 鬼の時間はニンゲンの時間とは違うのだが、たいていの鬼は千回以内で試験に合格する。試験に合格したら百鬼夜行の本番に参加できる。参加すると少しずつ色んなことが分かっていくという。
 たとえば、自分がもともと何だったのか、どうしてすんなりとゴクラクに行けずに鬼になってしまったのか、あっちの世界に何を残してきてしまったのか。
 ウゾが普通の鬼が眠っている昼間に眠れない理由も、きっとあっちの世界に何か特別なものを残してきているからに違いないのだが、試験に通らないとその謎も解けないままなのだ。
 本番の百鬼夜行に百八回参加すると、魂魄は解放されて、ゴクラクへ行けるのだという。
 でも時々、ウゾは思う。
 僕は本当は知りたくないのかも……と。

「ね、もち姫、この子がどこの子だかわかるかなぁ?」
 もち姫はそっとため息をついた。
「口も目も鼻もないんじゃあね……」
 ウゾに手を引かれてここまでやって来る間、女の子は多分何が何だか分からなくてぽかーんとしていたのだろうが、ここに来てまたしくしくと泣きだした。声を出せないままで。
 確かに、目印になるものは何もない。口がないのでは名前も分からない。目がないのでは、女の子に案内してもらって知っている場所を探すこともできない。鼻もないので匂いも分からない。
 ウゾはもち姫の真似をして、ため息を零した。

 せめて服に目印でもあるといいのだけれど、名前が縫い込んであるわけでもない。
 ウゾはもち姫の家の庭をうろうろと歩き回り頭をひねった。
 その時、さっき女の子が隙間をすり抜けそこなって引っかかっていた竹垣が、ウゾの目に入った。そうだ、あんなスカートのポケットの切れ端をあっちの世界に残したら、またゴクラクに行けなくなってしまう。
 ウゾは赤い布きれを竹垣から引っ張った。

 その時、赤い布きれにはりついていた薄紅の花びらがひらりと落ちた。
 ウゾの足元の緑の草の上に、数枚の同じような花びらがいくつも落ちている。暗がりの中で、薄紅の灯りがともったように、ウゾの青い足を照らしている。
 ウゾは花びらをつまみあげて、じっくりと見つめた。女の子の赤いスカートのポケットに、この花びらがたくさん入っていたのだろう。
 匂いを嗅いでみると、ウゾにはその花弁がどんな花のものか、すぐにわかった。
 ナカラギの桜だ。
「あら、桜の匂いね」
 もち姫にもその微かな香りが届いたのかもしれない。
 そう言えば、ウゾともち姫は花の縁で知り合った。どちらも花が好きだった。杉の花を除いて。ウゾにはどんな一本でも、桜や梅の木々を見分けることができた。
 ナカラギの桜は、この街のカモガワ沿いにある植物園の脇、八百メートルの道に並んでいる桜だ。開花時期はほんの少しだけ、他の桜よりも遅い。
 これはそのナカラギの道の北の端の方にある、古い木の花びらだ。

 そこからはもち姫の出番だった。
 もち姫の招集で町中の猫たちが集った。知っている猫も、見える猫も、見えない猫も、みなが助けてくれた。そして、見えないけれど人間の言葉が読める不思議な能力を持った黒猫のナイトが、その看板を見つけてくれた。
 四月十五日午後九時、ナカラギの桜が途切れるあたり、キタヤマ通りでバイクに人がはねられたらしく目撃情報を求めている、と。僅かな血の跡とバイクのタイヤ痕が残っていたようだが、それらしい事故の届けはなく、音を聞いた、逃げていくバイクを見たという情報だけが数件、警察に寄せられていた。また、近くに住む五歳の女の子の行方がわからなくなっていて、警察は二つの出来事には関係があるかも知れないと思っているらしいのだ。

 ウゾは女の子をその場所に連れて行った。
 ナカラギの桜はもうほとんど散っていて、僅かに数本に名残の花が、暗闇の中で艶やかに浮かび上がって見えていた。淡い紅の花びらがウゾと女の子の周りで散った。女の子はもう泣いておらず、ウゾの手をしっかりと握りしめていた。
 そして、キタヤマ通りの事故現場に立った時、女の子は耳を少し動かした。
 車や人の作り出す音、風の音、水の音、それらを一生懸命に聞いているようだった。やがて、女の子はウゾの手をしっかりと握ったまま、走りだした。
 ウゾは女の子の手をしっかりと握った。やはり、とても懐かしい気持ちになった。
 猫たちも一緒に走った。
 あっちの世界の、女の子の身体のある場所に向かって。
 今日は四月二十二日、時は午後八時五十五分。


「ウゾ! お前は本当に、一体全体、試験を受ける気があるのか~!」
 百鬼夜行学校の一番おっかない教官、タタラが叫んだ。タタラはやたらと体が大きいので、大きな声を出すと空気の振動が半端なかった。元はミドロガイケの龍だったという話だが、龍がジョウブツできなくて鬼になるなんて話は聞いたこともない。多分、ただの噂話だ。とにかく、鬼が言うのもなんだけど、顔も大きさも声も、怖いのだ。
 ウゾは首を縮めた。
「いえいえ、ウゾはニンゲン助けをしていたのですから、ちょっと大目に見てあげましょうよ」
 この物わかりがよく優しい、パーフェクトのっぺらぼう女史は、鬼になる前はキツネだったらしい。
「いや、これでウゾは、この学校始まって以来、予定も含めて、二番目に追試回数の多い生徒になってしまったんだぞ~」
「でも、一番は一万八百八回だから、まだまだ……」
 ウゾが言いかけると、タタラが畳みかけた。
「その記録は特別なのだ! 三千を超えるなんぞ、普通ではありえん~!」
 振動が耳の鼓膜を破りそうだった。
 そう、一番の記録は断トツで、その伝説のつわものにはウゾも一度は会ってみたいものだと思っている。そして、二番手は昨日まではウゾともう一人が並んでいたのだが、今日ウゾがついに一歩前に出たのだ。
「まあまあ、タタラ先生、そのくらいにしてあげましょう。今日は新入生を紹介しなくては」
 パーフェクトのっぺらぼう女史がタタラの腕を優しく掴んだ。

 あれ!?
 ウゾは自分の目を疑う。
 そこには、ポケットを縫い付けた痕のある赤いスカートをはいた、そして顔にはちゃんと目と鼻と口の戻った、あの女の子が立っていた。女の子はウゾを見て、にっこりと笑った。
 その笑顔には何だかとっても暖かいものがあって、ウゾはちょっと嬉しくなった。
 いや、そんな感傷に浸っている場合ではない。
 間に合ったはずなのに。ちゃんとゴクラクに行ったんじゃなかったのか……
 パーフェクトのっぺらぼう女史が生徒たちに告げた。
「サクラちゃんは、七日の期限に間に合わなかったので、今日、私たちの仲間入りをしました。それに、あっちの世界でサクラちゃんを死なせてしまった犯人がまだ捕まっていないので、お母さんが苦しんでおられます。場合によっては逢魔が時の呪いを使いましょう。ウゾ、面倒をみてやってね」

 ウゾは時々鬼が怖くなる。
 自分も鬼なのだが、怖いのだ。
 鬼たちは許せないニンゲンがいると、時々容赦がない。
 逢魔が時の呪い。それは上級の鬼にだけ許された百鬼夜行だ。
 普通の百鬼夜行は深夜に行われる。ニンゲンが間違って見てしまったら命を吸い取られるというが、それも月に一度の百鬼夜行日だけだ。だが、逢魔の時に特別に行われる百鬼夜行は、夜行というには少し早い時間だが、まさに命を取りに行くものなのだ。
 鬼なのに、鬼が怖いのは何故なんだろう。
 ウゾにはまだまだ自分が分からない。

 サクラちゃんが嬉しそうにウゾに走り寄ってきた。サクラちゃんの目は茶色で大きくて、光が入っているみたいに輝いていた。
 サクラちゃんはウゾの手を握って、綺麗な声であの時はありがとうと言った。こんな素敵な声だったんだと思ったら、少しだけ、先にゴクラクへ行ってしまわないでいてくれてよかったと思った。一緒にもち姫のところに遊びに行くこともできると思うと、嬉しかった。
 でも……一度鬼になってしまったら、ゴクラクまでの道のりはちょっと遠いのだ。
「どうして鬼になってしまったの。間に合ったと思ったんだけど、時計が間違っていたのかなぁ」
「ううん。ウゾ君のおかげで目と鼻が戻ったら、お母さんに桜の花びらを届けるところだったことを思い出したの。それでおうちに寄り道していたら、間に合わなくなっちゃったの」
 サクラちゃんは病気のお母さんに桜の花を見せてあげたかったのだ。だからあの日、あんな時間に、ひとりでナカラギの道に行ったのだという。そしてポケットに桜の花びらをいっぱい詰め込んで家に帰る途中、バイクにはねられたのだ。
 サクラちゃんはすぐに『時』を迎えたわけではなかったようだ。サクラちゃんをはねたニンゲンは、サクラちゃんと目があって、顔を見られたと思ったのかもしれない。こんなに小さな子どもに顔を覚えていられるなんて、どうして思ったのだろう。そのニンゲンはサクラちゃんを近くの山へ連れて行って、殺してしまったのだ。
 パーフェクトのっぺらぼう女史の言うとおり、逢魔が時の呪いを使うに値する、ひどい話だとは思うけれど、それでもウゾの心の中には何かが引っかかる。
 
「ありがとう。お母さんに桜を見せてあげることができたのは、ウゾ君のおかげだよ」
 それでも、サクラちゃんにそう言ってもらえると、嬉しくなった。サクラちゃんにとってはゴクラク行きの簡単コースに間に合うことより、お母さんに桜を見せてあげることの方が大事だったのだ。
 お母さんは、やっと見つかったサクラちゃんのためにポケットを縫ってくれたそうだ。
「僕じゃなくて、もち姫と猫たちのおかげだよ」
 サクラちゃんは本当に花のように素敵に笑った。
 そうだ、後で一緒にもち姫に会いに行こう。もち姫に話を聞いてもらったら、きっとどんなことも乗り越えていけるような気がする。それに、たぶん僕より早く、さっさと試験に通ってしまうに違いないけれど、これからサクラちゃんと一緒に過ごす時間は、きっととっても素敵なものになるだろう。

 ふと風が吹いた。その風に乗って、サクラちゃんからは、あのナカラギの桜の匂いがした。

(【百鬼夜行に遅刻しました】了 2013/3/22)



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Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【迷探偵マコトの事件簿】(1)マコト、登場! 

真250kuroneko250

本編の主人公:真が猫になって大活躍?
どちらかというとしゃべるのが上手ではない真が、猫になったら結構饒舌だった??
数々の難事件(!?)に挑戦します。
暇つぶしにどうぞ。

【登場人物】
マコト:茶トラのツンデレ猫。冒険が大好き?? の割には、いつもひとりでマンションでお留守番。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。いつもマコトをおちょくって遊んでいるけれど、実は……


【迷探偵マコトの事件簿(1)マコト、尻尾を追う!】

あ、しっぽだ!
ひまだから、追いかけよっと!

くるくる、くるくる……ぐるぐる、ぐるぐる……

あれ? 目が回る。

あ、自分のしっぽだった!

う、タケルと目が合っちゃった……

もちろん、ぼく、知ってたよ~
ちょうど、おせなかの毛づくろいするところだったんだ。


……だって、タケルが遊んでくれないんだもん。



【迷探偵マコトの事件簿(2)マコト、謎の影を追う!】

あ、どうろを迷走するあやしいやつ!
追いかけるぞ!

ばしっ!(っと片手で押さえつけて……)
ひら~っ????

あれ?
もういっかい!
ばしっ!(片手)
ひら~っ????

今度こそ、ばしっ!(両手!)

・・・・・・

(やっぱり)ひら~っ~~~

え~~~~?
途方にくれて見上げた空。


あ、ちょうちょ。

あ、タケルと目が合っちゃった……

もちろん、ぼく、知ってたもん。

ちょうちょ、空でふわふわ、気持ちよさそうだね。

ぼく? 影ふみしてただけなんだ。


……だって、ひまだったんだもん。


・・・・・・


ねぇ、あそんで。



あまりにも、ばかげているけれど、いつか漫画にしたかった猫バージョンのおバカなマコトくん???
でも、画力がなく、私に漫画は無理だったので、ちょっと文字にしてみました。

もちろん、その1は、本編の冒頭で尻尾を追いかけていることと呼応しております(^^)
竹流は、ネコにはなっていなさそう。
「お前、何やってるんだ?」と呆れた顔で見ているに違いないです。

しょうもな!
と自分で思いつつ載せてみました^^;



*この掌編(?)はもともと【幻の猫】のおまけとして始まったものです。その1で尻尾を追いかけているのは、【幻の猫】の冒頭と呼応しています。


*初めてこのブログを訪れてくださった方へ

相川真は私の拙いメイン小説の主人公(の片割れ)です。27歳の現在は、新宿の調査事務所の所長ですが、【幻の猫】では18歳。家庭教師兼父親代わりの大和竹流(ジョルジョ・ヴォルテラ)と、彼の故郷イタリアに、入試頑張ったご褒美旅行に来ています。
でも、来てみたら、竹流は旧交を温めるのに忙しいし、時々一人で、言葉もわからないのに放り出されてしまう。
しかも、真は霊感坊や。ただし中途半端な霊感なので、お化けとも意志疎通困難。
シエナの街で、尻尾しか見えない黒猫を追いかけて行ったら、どうやら少女のお化けに出会ったようです。

よろしければぜひ、お読みくださいませ(^^)




Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(2)…(・・? 

真250kuroneko250

これ、何だかやめられなくなってしまいました^^;
akoさんから頂いたコメントからさらに広がった妄想作品。
前回同様、極めてしょーもないのですが、何故か続いていく……


登場人物
マコト:ツンデレ猫。イメージでは茶トラ。もしかするとキジトラ。
タケル:その飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。

さぁ、今日のマコトはどんな事件を解決するのでしょうか!?
タケルのお土産編、お楽しみください(*^。^*)



【迷探偵マコトの事件簿その3:マコト、呪いの尻尾に挑む!】

タケル、おそいなぁ。
ぼく、ひとりでおるすばん、キライ……つまんないんだもん。

……あ、かえってきた~(=^・^=)
でも、ぼく、あかちゃんじゃないから、うれしそうにおでむかえなんかしないんだ。

クールに言うの。
あ、お帰り、おそかったんだね。
あれ、それなに?

タケルが赤いふわふわのしっぽみたいなのを買ってきた。
しっぽには棒がついてるよ。
それに、マタタビのにおいがする~~
ふわふわ、ってタケルがぼくのお鼻のまえでくるくるする。

き、きになる……
あぁ、だめだ! だめだ!
ぼく、おこってるんだもんね。
タケルとあそんでなんてあげないもん。

ふりふり。
くるくる。
ほら、おいで、って。

ば、ばかにしないでよね。
ぼく、もう子どもじゃないんだからね。
それにそんなので、ぼくを放っておいたことをごまかそうなんて、甘いんだもんね。

ふりふり、ふるふる、こちょこちょ、……
ふん、知らないもんね。

ふりふり、ふるふる、くるくる、……
あぁ、もう、そんなへんなしっぽであたまをさわんないでよ。

こんどはソファのかげから、ふりふり……
あ、かくれた!
また、ふりふり……
ぼくはおもわずたたかうじゅんび。

あ、あやうく手を出すところだった。
ぼく、もうおやすみするんだ。ばいばい。

……でも。
うぅ。
マタタビ、いいにおいだなぁ……

ちらっ。

いやいや。
しらんぷりっ!

……
あ、あきらめてタケルがねたよ。

よし!
さっそく赤いしっぽのちょうさだ!

これはしっぽなのか?
しっぽではないのか?

どうして赤いの?

ちょん。
あ、かってにうごくよ?
あれ? うごかないよ?
う~ん、あなどりがたいやつだ!

えい、えい、えい!
このやろう!
こうしてやる、こうしてやる!

う~む。
つかみどころのないやつだ。
テキもなかなかやるな。

ちょっとうしろ足で立ち上がって、
ダ~イブ!っと。

わ、すべっちゃった。
いてて。

あ、タケルと目があっちゃった……

えーっと……しんだふり、しとこ。


それ、きっと、のろいのしっぽだよ。
ぼくとしたことが、まりょくでおどらされちゃった……



【迷探偵マコトの事件簿その4:マコト、新たな敵に挑む!】

タケル、おそいなぁ。
やっぱり、ぼく、つまんない。
あ、かえってきた。

あれ、またへんのものを買ってきたの?

…………

……それ、あたらしいネコ?


なんだよ、そいつ。
うごかないし。
しゃべらないし。
においもしないし。
ミルクものまないし。
ねこまんまもたべないし。

なにより、ぜんぜんかわいくないし。


なのに、なんだって、そいつといっしょにねるの?
なんで、よしよしとかするの?

……いいもん。
ぼく、ひとりでねるもんね。
もう子どもじゃないもん。

おやすみ。
べー、だ。


……
しーん。


みみをぴんとのばしてみる。
……
しーん。


タケル、ねたかな?


そーっと。
ぬきあし。さしあし。しのびあし。

つかまえたぞ。
えい、こいつっ!
まえあしでけりっ!

ちょっと、のいてよ。
そこ、ぼくのばしょなんだから。

くいっとおして、っと。
くいくい……

ふぅ。
やっと、すきまに入れた!


……よかった。やっぱりここがいや。
ねよっと。

……あ、タケルと目が合っちゃった。


だって、タケル、こんなにゃんも言わないやつ、つまんないでしょ。
あったかくないし。
においもないし。
ごはんもたべないし。
ぼく、タケルがさびしいかなぁと思って、来てあげただけだもんね。


……あたま、なでないでよ。
ぼく、もう、子どもじゃないんだからね。

でも、ま、いいか!


ぼく、もうねるね。
おやすみ。


……ちょっとだけ、しあわせ。



にゃんた



さて、このくだらない企画、続くのか? 続かないのか?
それはミステリーですね(^^)

ちなみに、この、ぬいぐるみを押しのけて間に入って寝る、というのは出典?があります。
実は私、パンダが大好きで、PCを持って初めてお気に入り登録したサイトは、中国にあるパンダ幼稚園のサイト。

ある日、たまたまテレビを見ていたら、その幼稚園を新庄剛志さん(元タイガース、そしてメジャーから戻った後は日ハム)が訪問して、パンダの飼育を手伝うという番組をやっていました。

パンダにも色々いて、1匹、まだ幼稚園に入りたてで、みんなとうまくやっていけない子がいたのです。
新庄パパ、赤ちゃんパンダたちと一緒に生活し、そのはみだしっこのことをいつも一番気にかけていた。
でも、それでもなかなかこの子だけは懐いてくれない。
他の赤ちゃんパンダたちはもう新庄パパ大好き!でいつも一緒に遊んでいる。
そしてある夜。
赤ちゃんパンダたちはみんな新庄パパのまわりで群がって、固まって寝ている。
はみだしっこパンダは、一番遠いところで寝ていたのですが……

みんなが寝静まったのを確認し、のっそり起きたと思ったら……
新庄パパにくっついている他のパンダをくいくい、くいくい、と押しのけて、自分が新庄パパの真横に!

新庄パパは萌えまくり。
もちろん、大海も萌えまくり。

それからは、はみだしっこパンダくん、新庄パパにくっついて遊ぶようになり、そのうちみんなにも打ち解けていったのです。 
もう別れのシーンでは、ぼろぼろ泣いていた大海でございました。

で、ちょっと使ってみました(^^)





お待たせいたしました。(って、待ってもらってるのかしら??)
次回はいよいよ、【幻の猫】最終回のアップですm(__)m

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(3) 

竹流
limeさんのイラストお礼第2弾!!
ついでに。まだちゃんと推敲していないのに、またまた載せてしまう……^^;
やっぱり、『竹流とマコト』と指名していただいたので、ちょっとシチュエーションは違うけれど、前回の『新たな敵=ネコのぬいぐるみ』編の別バージョンを。
これは、リア友と話していて、あ、そうだ、真はもっとブラックかも、と気が付いてこうなりました^^;

ちなみに、前作(1)(2)はこちらです(^^)
迷探偵マコトの事件簿(1)
迷探偵マコトの事件簿(2)


【迷探偵マコトの事件簿その5:マコト、新たな敵に挑む・ビヨンド】


タケル、遅いなぁ。
あ、帰ってきた。
(でも、この間変なネコ持って帰ってきたから、玄関お迎えになんか行かないもん)

え?
……また新しいネコ?

(ふて寝)
いいよ。別に興味ないし。
どうせ、また、その変な奴と寝るんでしょ。
僕、一人で寝るもんね。
お休み。

…………

…タケル、寝たかな?
……ちょっと様子、見に行ってこよ。

(そーっとベッドに登って…)
げ。こいつ、目開いたまま寝てる。

つんつん。
動かないなぁ。

つんつん。
タケルも動かないなぁ。

…………
(ちょっと辺りを見回して…って、誰もいるわけないか)
がしっと首根っこを咥えて。

ずるずる。
ぼてっ(ベッドから落とす)。
ずるずる。
はぁ、結構おっきい。

……ずるずる。
やっと玄関だ。

(三和土に)ぽいっ!
ついでに!
踏んづけてやる!
えい、えい!

がたん!?

?????

何の音?
こいつ?

逃げろっ!
(必死で走ってリビングに駆け込む!)
あ、ドア、閉めなくちゃ!
仕返しに来るかも!
(ドアには体当たりだよ!)

(しーん。音はしないね)
ほっ。


とりあえず、敵は片づけた。
……
別に僕、一人で寝れるんだけど。
……
きっとタケルが寂しいから、一緒に寝てやるか。


お布団に頭から潜って、と。
向き替えて、と。
ここでいいか。
タケル、寝てる?(そっと見る)

あ、タケルと目が合っちゃった。

え? あいつ?
僕知らないよ。

僕、ここ来たとき、もういなかったもん。
僕、意地悪もしてないよ。

ほんとだよ。

にこにこして頭、撫でないでよ。


でも、ここはやっぱり僕の場所。
うん、結構しあわせ…………………………多分ね。








Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】夏・朝顔(前篇) 

【百鬼夜行に遅刻しました】夏篇をお届けいたします。
この作品は、ウゾさん(→ブログ:百鬼夜行に遅刻しました)のブログタイトルからインスピレーションを得て、タイトルをまんま頂き、しかも主人公の名前にウゾくんを頂き、お人好しで優しい元気な小鬼になっていただきました。
1作で終わる予定が、大海の悪い癖で、謎を振りまいてしまいました。振りまくと収拾したくなるのも大海の癖で、続きができてしまいました。
花をテーマにしながら、春から始まり、最後は春で終わる予定です。
少しずつ、ウゾくんがなぜ百鬼夜行に遅刻してしまうのか、謎が解けていくといいなぁと思います。
1作目:【春・桜】はこちら

夏のテーマの花は朝顔です。俳句の季語では秋なのですが、やはり朝顔は夏休み前の花のイメージがあります。
今回、歴史ミステリーと銘打っておりましたが、ちょっと違う方向へ行ってしまいました。
いささか重めのテーマです。季節が季節ですから。
悩んで成長していく小鬼のウゾくんをお楽しみください。

そして今回、なんと遅刻仲間が……! まさか、あの子が……
実は少し長くなりまして、前後編でお送りいたします。
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 夏がやって来た。

 残念ながらウゾたち、鬼の百鬼夜行学校には夏休みはない。
 そもそも夏はかき入れ時だ。
 中には、ニンゲンのテレビ番組に出演するものもいる。夏によく放送されている『恐怖、今夜あなたの後ろに…!』みたいな番組にちょっと顔を出すのだ。

 もちろんニンゲンに出演を頼まれたわけではない。
 だから、当たり前のことだがニンゲンからは出演費が貰えるわけではない。
 学校が斡旋するバイトみたいなものだ。1回出ると、豪華トカゲとカエルの干物セット1週間分が貰える。
 最近、美味しいトカゲやカエルは少なくなっているから、結構人気の商品だ。

 ああいう番組のほとんどは、いわゆるヤラセなのだけれど、たまにはニンゲンに思い知らせておかなければというのが鬼界の理念みたいで、このチャンスにちらりと『ホンモノ』の気配を見せて釘を刺しておくのだ。
 放っておくとニンゲンは暴走するから、人智を超えたものがお前たちを見張っているぞ、と知らせておくのだという。
 もちろん、ウゾみたいな小鬼にその割のいいバイトが回ってくることはない。


 あぁ、また遅刻だぁ……

 ウゾはタダスの森に4本しかないというアキニレの木の下を住処にしている。ごそごそと地面から這い出て来て、アキニレの木に背中を預けたまま座って、ぼんやりとする。
 鬼だから暑いとか寒いとかはないはずなのだけれど、ウゾはやっぱりちょっと夏バテする。
 うだうだしているニンゲンの顔を見たり、盆地独特の熱気に干上がりそうな小川に足を踏み入れたり、何となく木々の葉っぱが元気がないのを見ると、気分だけでもばててしまうのだ。
 遅刻の言い訳をするのじゃぁないけれど。

「ウゾ、チコク」「マ・タ・カ」「チ・コ・ク」「チ・コ・ク」
 はやし立てるダンゴ達も、夏になるとなんとなくやる気がない。

 まぁ、いいや。二時間目に間に合ったら。
 既に長い夏の陽さえ沈んでいる。太陽が沈んでも、地面の温度が冷え切る前に次の太陽が昇ってくる。
 もちろん、この森の中はキョウトの町の中に比べたら、随分と気温も低いのだが、今年は湿気が半端ではない……らしい。
 あぁ、でも、サボってたらもち姫に怒られるかなぁ。
 
「ウゾくん、おはよっ」
 サクラちゃんが今日も迎えに来てくれる。
 サクラちゃんは例のナカラギの桜に住んでいる。そして、ただのクラスメートではなく、他の意味でもウゾの仲間になっていた。

 ウゾほどではないのだが、遅刻の常習者なのだ。
 なんか、寝過ごしちゃうのよね。というのか、夜って普通に眠いし、昼は寝れないよねぇ。これって昼夜逆転じゃないの。
 いや、昼夜逆転じゃないのだ、鬼としては。

 サクラちゃんのすごい所は、結構サバけているところだった。可憐な少女と思っていたら、とんでもなくスーパーな女の子だということが分かった。
 春のお花見では、新入生に対するいじめをあっさりと跳ね除けた。
 宴会中に髪の毛を切られて、サクラちゃんの方が切れたのだ。

 鬼の髪の毛には霊力が宿っているので、これを切ることは力を削ぐことになる。新入生の髪を切るのは、上下関係をはっきりさせるために、慣例として行っている、公認の苛めらしい。誰に公認かはよく分からないけれど。
 ウゾは自分がされた時のことを、もう忘れてしまっている。
 ところが、サクラちゃんは、怒った。
 髪は女のイノチなのよ! ふざけんじゃないわよ!

 ……ウゾはビビった。サクラちゃんは可憐な少女ではなく、逞しい少女だった。自分の道は自分で切り開く系なのだ。
 学校の成績は抜群で、技の習得も誰よりも早い。たとえば、花にシュリケンのように刃を忍ばせる術や、ヒタキのような小さな鳥を大きくする術も、先輩のウゾを追い越して完璧に身につけた。鬼についての情報も、あちこちで聞き込み、自分たちの将来をあれこれ考える、賢い女の子なのだが……
 ちょっと面白かったのは、サクラちゃんが切れた時、学校一怖い教官、前身はミドロガイケの龍だったという(みんな、疑っているけれど。だって、龍は鬼になんかならない。始めから鬼みたいなものだから)タタラが、目を丸くしてサクラちゃんを見ていたことだ。

 ちなみに、鬼になっても、ニンゲンの時と同じように、花見をする風習をそのまま引き継いでいる。
 ニンゲンたちを見下ろしながら、木の上で、正確には花の上で宴会をしているのだ。その日だけは、学校も休みだ。というより、花見は学校行事なのだ。
 ニンゲンには警告しておきたいが、花見の時に、不用意に桜の木の上を見上げたりしない方がいい。もしかして鬼が見えたら、ちょっと厄介なことになるかもしれないのだから。
 もっとも、夜の明かりの中で見上げる真っ白に浮かび上がる桜のさらに上にいる鬼たちが、簡単に見えるとは思えないが。

 もうひとつ、サクラちゃんの大胆なところは、たまに学校を平気でサボることだ。
 ウゾなんか、さすがにそこまでの勇気はない。遅刻して怒られながらも、行かなくて怒られるよりはいいに違いないと、さすがに思いきれない。
 もちろん、サクラちゃんを助けた時は、それどころじゃなかったのだけれど。

 で、サボる時はいつもこれだ。
「ね、もち姫のところに遊びに行こうよ!」
「で、でも、ガッコウ……」
「今日の授業は辻を曲がる時の角度についてでしょ。大丈夫、それ、この間、ツジドウロウに聞いたから、今度教えてあげる。それより、もち姫のところに行こう」
 ウゾはさすがに、こんなふうに確信犯にはなれない。

 ちなみに、ツジドウロウというのは、辻に置かれている灯篭のことだ。古い奴になると、たまにこっちの世界では生きているのがいる。毎日辻を通る鬼たちを見ているので、鬼の規則は分かっているらしい。
 サクラちゃんはどこかから灯油をちょっとだけ手に入れてくる。
「お、灯油やないか。最近は、もっぱらデンキやろ? これがまずくてさ」
 ツジドウロウは灯油を舐めながら、嬉しそうだったらしい。
「で、お嬢ちゃん、何が知りたいんや?」

 サクラちゃんがすごいのは、上手くギブアンドテイクを利用して、誰とでも、いつの間にか友だちになっているところだ。ウゾもあれこれ友だちは多い方なのだが、サクラちゃんの「ココロの掴み方」は特別だ。

 でも、もち姫のところに行こう、というのは魅惑的な言葉だ。
 ウゾだって、もち姫のところに行くのはとても楽しい。
 でも暑くなってきてからは、もち姫もしんどそうな時があるから、昼間は休んでいることも多い。本当ならウゾたちは眠っている時間だ。もちろん、ウゾはあまりよく眠れないのだが。
 ウゾたちが学校から帰る時間、太陽が昇り始める時間には、もち姫は幾らか忙しい。他の猫たちに色々と教えておかなければならないこともあるようだし、ウゾたちと遊んでばかりはいられないのだ。
 一番いいのは、ウゾたちが学校に行く時分、涼しい風が少し吹き始める時間帯だ。もち姫は一番気分が良さそうだし、他の猫たちも来ていない。

 だから、いっそウゾ達が学校を休んでしまえば、もち姫とゆっくり話ができる。
 もち姫はこの世(鬼の世界)とあの世(ニンゲンの世界)を行き来できる特別な「知っている猫」だから、沢山のことを分かっている。ウゾたちにもいろんなことを教えてくれるし、他の猫たちの先生でもある。

 でも何より、ウゾはもち姫と一緒にいることが楽しいのだ。別に話なんかしなくても。
 サクラちゃんは、知りたいことがいっぱいあって、もち姫に質問攻撃だ。もち姫は嫌がらずに答えてくれる。でも、本当にもち姫が忙しい時やしんどそうな時は、ちゃんとわかるみたいで、サクラちゃんも何も言わずにもち姫と一緒に縁側に座っているだけだ。
 そんなサクラちゃんを、ウゾも、多分もち姫も、結構好きなのだ。

 でもサクラちゃんだって、いつでもサボろうと考えているわけではない。女の子は結構合理的な考えを持っている。
「今日の授業は出とかないと! 元ニンゲン以外の鬼との付き合い方だよ。走ろう、ウゾくん」
「う……うん……」
 眠い。ゾンビになりそう。あ、そうだ、鬼なんだし、既にゾンビみたいなものだった。
 でも、サクラちゃんに手を引っ張られて走っているうちに、目が覚めてきた。
 そうなると、今度はウゾがサクラちゃんを引っ張ってあげる。そんなときのサクラちゃんは、ちょっとほっぺを赤くして、可愛らしい女の子に戻っている。


 学校の門を時間内に潜らなければ、ある一定時間は締め出される。
 ウゾたちはいつもギリギリか、遅れるかのどちらかだが、結構門番に融通をきかせてもらっている。
 タタラにばれたら、門番のグンソウも怒られると思うのだが、グンソウは表情を変えないまま、そっと門を押さえて数分くらいはウゾたちを待っていてくれる。

 百鬼夜行学校の門番兼用務員、グンソウは、いつも怖い顔をしている。
 鬼だから怖いのは当たり前なのだが、タタラのように怒鳴ったりもしないし、むしろ何も話さないので怖い、という印象なのだった。一度も表情を変えるのを見たことがない。
 兵隊さんみたいな恰好をしているので、グンソウと呼ばれているのだが、実は、正確に言うと、彼は鬼なのかどうかよく分からない。

 昔は百鬼夜行学校の生徒だったそうだが、ジョウブツする気持ちがないので、学校の門番になったのだという。
 もしかしたら、断トツ一番の遅刻最高回数、一万八百八回の記録の持ち主はグンソウではないかと思ったこともあるのだが、グンソウはもう随分始めのころからジョウブツはしないと決めていたそうで、そんな回数の遅刻をするほど試験は受けていないようだ。

 グンソウは鬼のような風体をしているが、どちらかというと、まだニンゲンに近い。
 ジョウブツしないままこの世に残ると、だんだん苦しくなっていくという。その苦しみはものすごいのだというけれど、それがいつその鬼の身に起こるのか、どんな苦しみなのか、誰も知らないらしい。
 そう、この世に未練があったり、上手くジョウブツできない者が鬼になるのだが、それでも最終的にジョウブツするために一生懸命やっている、それが鬼だ。
 だから、グンソウがなぜ、その苦しみのほうを選んで、ジョウブツを諦めたのか、ウゾはずっと疑問だった。

 今日も、グンソウは何も言わず、怖い顔のまま、ウゾたちをそっと通してくれるだろう。
 それに、サクラちゃんが来てから、少しだけグンソウの表情が柔らかくなった気がしていた。何か、懐かしいものを想うような顔をする時がある。そんなふうにウゾには思えるのだ。

 あれ。
 ウゾがいきなり足を止めると、サクラちゃんがつんのめってウゾの背中にぶつかってきた。
「ウゾくん、急に止まらないで」
「グンソウがいないよ」
 サクラちゃんも足を止めた。
「ホントだ」
 門はまだ開いていた。だが、グンソウがいない。

 授業よりも気になる。そういうところはサクラちゃんと波長が合う。
 門の内側を覗いてみたが、どこにもいない。用務員室も見に行ってみたが、やっぱりいない。今度は門の外に出てみたら、ウゾとサクラちゃんの背中で門が閉まってしまった。
 ウゾとサクラちゃんはゴショの中をあちこち探してみることにした。

 うろうろしていると、どこかから唸るような声が聞こえてきた。
 誰かが苦しんでいる。
 ウゾの耳が反応したということは、ニンゲンではない誰かだ。
 ウゾはサクラちゃんと目を合わせ、一緒に走った。

 その時、見たものを、ウゾもサクラちゃんも忘れられない。
 ゴショの隅っこにあるお茶室の脇で、グンソウが、地面をのたうちまわりながら、鬼としてかニンゲンとしてか、あるいはもうすっかり別の生きものとしてなのか、苦しみもがいて咽喉から絞り出すような声を上げ、血を吐いていた。
 もちろん、ニンゲンではないのだから、身体の中に赤い血が流れているわけではないのだが、身体の内側にある得体の知れないものを吐き出しているように見えた。
 苦しくて、辛くて、悲しくて、どうしようもないような姿だった。

「グンソウ!」
 ウゾとサクラちゃんはグンソウに駆け寄った。
 もしかして、いよいよジョウブツしない鬼の苦しみが始まってしまったのだろうか。
 グンソウは、鬼の形相をもっと鬼にして、真っ赤に血走った目で見えないものを見て、そこにないものを掴もうとしているように見えた。

 ウゾは本当はちょっと怖かった。でも、今はそれどころじゃない! 何とかしなくちゃ! 
「もち姫を呼んできて!」
 小鬼のウゾにはとてもグンソウを運ぶことはできない。サクラちゃんと力を合わせたとしても無理だ。
 サクラちゃんは、ウゾが言うが早いか、駈け出した。

「グンソウ! しっかりして!」
 グンソウは怖い顔をしているけれど、本当は優しい人だと思っていた。だって、ウゾたちのために門を押さえてくれているのだから。
 でもどうして! ちゃんとジョウブツしたら苦しまなくて済むのに! そりゃ、試験に合格するのは難しいけれど、それはウゾがチコクばっかりしているからで、普通の鬼なら千回以内で合格するのに。

 もち姫のいる場所は近くない。それに、もち姫の身体でここまで走ってくるのは大変だ。
 サクラちゃんが意外に力持ちだったとしても、あっちの世界にある身体は、ウゾたち鬼にとっては結構な重さだ。
 グンソウがばたんと身体を回転させ、うつ伏せになって、地面を引っ掻いている。正確には、地面の様なやわらかい土ではなくて、目に見えない何かもっと硬そうなものをひっかいているのだ。爪が剥がれ落ちて、血が噴き出している。
 鬼なのに! ニンゲンよりも強いはずなのに。
 それは血というよりも、グンソウの中のココロのようなものなのかも知れない。ウゾには見えないが、グンソウには見えている何かだ。グンソウは身体から吹き出す何かを見てはのたうち、泣き叫んでいる。

 どうしよう。
 もち姫、ボクはどうしたらいいの。
「グンソウ!」
 体に触れようとしたら、グンソウの腕がウゾを跳ね飛ばした。ウゾは転がって、何かに身体をぶつけた。

 転がったままふと見上げると、ぼんやりとした視界の中で蒼い光のようなものがいくつも見えた。
 ウゾがぶつかったのはお茶室の脇の垣根で、そこに絡まるように朝顔のつるが伸びていて、蒼い花を咲かせていた。
 いや、正確には、朝顔はもう萎れていた。
 夕闇の中で、蒼い光が消えていく。
 グンソウが苦しみ、叫びをあげている。

 僕には何もできない。誰か、グンソウを助けて。
 ウゾは涙を流して、大きな暗い空を見上げ、目を閉じた。





さて、小鬼のウゾくんにはどうすることもできない問題が起こっているようです。
後篇も、頑張るウゾくんを応援してあげてください。
今夜、日付が変わる頃に(変わってからかも?)、またお目にかかりましょう。

Stella、間に合うのかなぁ? 締め切りは過ぎていますが……
今夜続きをアップしてから考えます。
イラストレーター募集したくなってきちゃった。





Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】夏・朝顔(後篇) 

<お断り>現実の出来事をいささか脚色しており、そのものの内容ではありません。あくまでもひとつのフィクションとして読んでいただければ幸いです。

夏ですから、そういう季節になってしまいました。
文字に起こしてみたら、予想以上に辛い話になってしまったような気がします。
ただ、主人公は鬼たちですから、どうしても人の生き死にが関わってきて、楽しい話にはならないもので。
ファンタジーですが、一生懸命のウゾくんを、どうか見守ってやってください。

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「そこの小鬼、何か用なの」
 突然呼びかけられて、仰向きに倒れたまま目を開けると、頭の直ぐ上に垣根を背にしてものすごい美人が立っていた。ウゾは跳ね起きた。

 青白い衣は、いわゆる天女の羽衣とでも言うのだろうか。すらりと背が高く、髪はいわゆる緑の黒髪だ。艶やかに、この世界のかすかな光をも集めて、内側から光を放っている。瓜実顔に三日月のような眉、切れ長の目。
「誰?」
「失敬な小鬼だこと。今日はもうこんな時間だから眠るところだったのに。明日の朝のために、闇を渡る風と月の露から鋭気をもらわなければならないのだから。休まなければ、また明日、美しい姿を見せられないでしょう。毎朝、皆が私を待っているのよ」
「誰か知らないけど、この人を助けてあげて!」
 美人の自慢話を聞いている余裕なんてなかった。

「いちいち失敬な小鬼ね。何より、お前、学校はどうしたの?」
「だって、この人が……」
 美人はふ、と息を吐いた。甘い花の香りがした。いや、きっとニンゲンには分からないだろう。ウゾにはわかる。
「朝顔?」
「呼び捨てはないわね、小鬼。学校の子なら、タタラを呼んで来たらいいでしょうに」
 ウゾはちょっとびっくりした。
「タ、タタラを知ってるの?」
「ほ。鬼が誰でもタタラを知っているように、花はみな、タタラを知っているわよ」

 その時、叫び続けていたグンソウがこと切れたようにがくんと跳ねて、動かなくなった。
「グンソウ!」
 ウゾは転がるようにグンソウに駆け寄った。
「グンソウ、しっかりして!」

「心配する必要はないわ、小鬼。死にはしない。おや、もう死んでるんだったわね。つまり、それ以上死ぬことはないし、苦しみは終わることはない。気を失うことはあっても。そして、夢の中にまで悲しみは入り込んでくる」
「何で!」
 ウゾは泣きながら美人、つまり朝顔の精を見上げる。
「それはその男が選んだことだからよ」
「自分で苦しむことを選ぶなんて、そんなことあり得ないよ!」
「お前はまだ子どもね、小鬼。何もわかっちゃいない」

 そして不意に顔を上げる。
「そうね、では、なぞなぞをしようじゃないの」
「なぞなぞ?」
「お前が、私の満足する答えをくれたら、その男に束の間、良い夢を見させてあげましょうとも」
 ウゾは、動かなくなっても唸るように血の汗を流し続けるグンソウの手を握った。ウゾの手も、グンソウが身体の内側から流し続ける苦しみで、真っ赤に染まっていた。
 ウゾはキッと朝顔の精を睨んだ。
「いいよ」
 ふふ、と朝顔の精は笑った。腹が立つけど、すごい美人が笑うと、すごく綺麗だった。
 仄かな香りが辺りに漂う。

「ある時、農民から成りあがった天下人と、彼に仕える茶人がいた。今や天下人の自由にならないことはない。多くの家来を持ち、黄金の茶室を作り、極楽に見立てた華やかな花見の宴を開いた。そして夏が来て、おや、当時としては秋だったのかしらね、茶人の家の垣根にそれは美しい朝顔が幾多と咲いた。垣根を覆い尽くすほどの美しい花々は世間の評判になった。天下人はその朝顔が見たいと茶人に所望し、茶人は天下人を家に招いた。でも、茶人は垣根の朝顔を全て切り捨てていた。どうしてだと思う?」
「知らないよ。でも一生懸命咲いている花を切り捨てるなんて」

 朝顔の精は、風のように笑った。
「いい答えね、小鬼。茶人はね、垣根の全ての花を切り落し、たった一輪だけ残して、その一輪を茶室に飾ったのよ。この一輪の美しさを際立てるために、そしてこれこそが武士道と示すために。天下人は激怒した。茶人の示す武士道が理解できなかったからよ」
 ウゾは黙ったまま、傍に立つ朝顔の精を見上げていた。
「天下人は言うことをきかない茶人を、やがては死罪に処した。でも、最後まで、許しを乞うてくるようなら許すつもりだった。だが茶人は、己の武士道を貫いて果てた。この朝顔の話は、天下人の傲慢と茶人の心意気を示すものとして語り継がれている」
「花は同じように見えて、どの一輪も同じ色じゃないし、匂いだって違う。どの一輪を残すかなんて、どうしてその茶人に決められるの」

 その時、朝顔の精はふと微笑んだように見えた。
 朝顔の精は滑るようにグンソウの傍に寄り、そっと衣で彼に触れて呟く。
「付け薬では、根本のところを癒すことはできない。自ら救われたいと願わない限りは。けれど、今だけはしばらく良い夢を見させてあげようじゃないの。小鬼、お前の手柄よ」

 しばらくすると、グンソウの息が静まり、表情は、今まで見たことのないくらいに穏やかになった。ウゾの手に伝わってきた苦しみの霧が、少しだけ晴れるように薄らいでいく。見上げると、ちょっと怖いと思っていた朝顔の精の横顔が、優しい母親のような光を纏って見えていた。
「お前は、そのまま自分の正しいと信じたことを貫くといいわ。おや」

 朝顔の精が顔を上げる。ウゾは彼女の視線の先を追った。
 涙でぼんやりと煙った暗い空に、大きな身体が浮かんでいた。うねる様な身体は、低い空の月の光を照り返している。長い尾と、鱗と、鬣、そして長い髭。
 本当に龍なの?
 ……タタラ。
 ずん、と振動がウゾにも伝わる。降り立ったタタラは、全然龍には見えない、ただのでかい鬼だった。

「久しぶりね、タタラ」
「アオイか」
「生徒には門番のことを心配するより、自分の心配をするように教えることね」
タタラは一瞬ウゾを見たが、いつものように怒鳴ったりぶん殴ったりはしなかった。
「うちの学校の門番を探しに来たのだ」
「そう。少し眠り薬を振りかけておいてやったわ。少しの間だけ、昔の良い夢を見られるでしょう。この男には私の娘たちを慈しんでもらった借りもあったから。あら」
 朝顔の精は再び顔を上げる。

 ウゾが見上げると、巨大化したヒタキらしき鳥が、もち姫を抱いたサクラちゃんを運んでいる。
 そうか、デツカイゾ術だ。サクラちゃんはすごい。完全にマスターして、より強力になっている。ヒタキのような小さな鳥を、小鬼とあっちの世界の猫を運べるぐらい大きくできるなんて。
 ヒタキはちょっと眠そうで、まっすぐ飛んでいなかったけれど。
 鳥目だし。

「おや、もち姫じゃないの。千客万来とはこのことね」
 朝顔の精はもち姫を見るなりそう言って、それからタタラを見、改めてウゾを見た。
「そうなの、じゃあ、この小鬼は……」

「アオイさま、御無沙汰しております」
 もち姫がそう言いながら、するりとサクラちゃんの腕から降りた。
「そうね、もち姫。あなた、まだ姉さんの命令で息子の面倒を見ていたの」
「これが私の仕事ですから」
「あなたも苦労から解放されることはないわね。それが『知っている』猫の運命であり、喜びなのでしょうけれど。では、タタラ、もち姫、これにて失礼。お肌に悪いから、眠らなくては。明日出会う人を失望させるわけにはいかないの」
 朝顔の精は、垣根に伸びた蔓の先の蒼い蕾の中へするりと消えた。
 辺りに、ウゾと、多分もち姫だけが感じることのできる匂いが漂っていた。

 しばらく、誰も何も言わなかった。
 やがて、タタラともち姫が視線を合わせた。

 どういうこと? タタラともち姫も知り合いなの? もちろん、タタラのように力のある鬼が、特別な猫のことを知らないわけがないと思うけれど、交された視線は、もっと個人的で特別な印象があった。
「今日はウゾとサクラは病欠か。仕方がない。もち姫よ、宿題を届けてくれ」
 タタラの声は相変わらずでかくて、怖い。

 何のことか分からないウゾとサクラちゃんはぼんやりしたままだったが、もち姫は心得たように、眠るグンソウに近づいた。そしてグンソウの鼻のあたりに額を擦り付ける。もち姫の白い尻尾が微かに揺れている。触ってみて、と言われている気がして、ウゾはサクラちゃんと目を合わせた。
 二人で、そっともち姫の尻尾に触れる。
 その時、一度にたくさんの映像が、ウゾの頭の中に流れ込んできた。
 
 小さな家。竹垣に絡まる朝顔の蔓と瑞々しい緑の葉。青白い花が零れるように朝日の中で輝いている。花から落ちる露。もんぺ姿の優しい顔の女の人が、玄関から出てくる。足元に小さな女の子。サクラちゃんより少し小さいだろうか。
 お父ちゃん。舌っ足らずな声で呼びかけて、弾けるような笑顔を見せる。
 お父ちゃん、あさがお、きれいね。
 毎日、水をあげるんだよ。どの一つの花も、朝開いて、夕に萎むまでの短い時間、いっしょうけんめい咲いているのだからね。
 うん。
 蝉の声、庭の飛び石に跳ねる打ち水の音。

 しかし、やがて空は真っ暗になる。
 大きな爆音が響く。空が燃えている。燃える空の中を飛行機……いや、戦闘機が唸りを上げて飛んでいる。上空で何かが光る。あれは爆弾?
 地面が燃える。森の中に逃げ込んでいる兵隊たち。煤けた頬と涙と血。
 小屋の中。真っ暗で何も見えないが、何かがうごめいている。たくさんのニンゲンのようなもの。鬼よりも、ずっと苦しい姿をしている。暗闇の中で、紙をかしゃかしゃともみしだく音のように聞こえているのは、蛆が肉を食らう音だ。耳を塞いでも、目を塞いでも、そこには累々と死が積み上がっている。
 大きな暗い穴が見える。多くのニンゲンたちが見える。
 捕虜になるのは恥である。男は八つ裂きにされ、女は犯されて殺される。生きて恥を晒さぬように自決せよ。
 祈りの言葉を叫びながら、愛する家族の頸部に鉈を振り下ろす男。やがて残された男たちも、自らの手で焼夷弾を爆発させる。
 それでも命令を淡々と繰り返す声が聞こえている。自決せよ。
 振り返ると、後ろにあるのは黒く焦げた大地と積み上げられた死体と、そしてどす黒い何者かの影。
 裁判所だろうか。6月25日、すでに司令部は自決し壊滅していたにも拘らず、命令系統の崩壊した戦場で民間人に無益な自決を強いたのは大罪である。
 小さな女の子の死の上に、その女の子が愛した父や母の死が重なる光景が、心のうちを過ぎる。
 誰かが走っている。地面が揺れて、声が錯綜する。切れ切れの息。
 手に握られた一丁の拳銃。握りしめる手は真っ黒で震えていた。やがて揺れる視界の中で、真っ赤な閃光が煌めき、そのまま暗転した。

 暗転した闇の中に、青白く光るものがある。
 ぼんやりと光っていたものが、揺れながら形を成していく。
 朝顔の青白い花だ。重なるように小さな女の子の弾けるような笑顔。光の溢れた小さな庭。白い割烹着の裾が風に舞う。
 お父ちゃん。
 あさがお、咲いたよ。いーっぱい、咲いたよ。


 朝顔の精が、苦しい夢の上に、少しだけ温かい光の夢の雫を零してくれたのだ。
「これはまだ、ジョウブツしないと決めたものにとって苦しみの始まりに過ぎない。さて、後は自分たちで考えるといい。それが宿題だと伝えてくれ」
 動けないウゾとサクラちゃんの側で、タタラがもち姫に向かって言った。
 続いて、何かの術を、でっかくなったヒタキにかけた。するとヒタキの目が昼間のように開かれて、数度ばかり羽根を大きく振った。

 それからタタラは軽々とグンソウを抱き上げて、学校の方へ身体を向け、でかい声で独り言を言いながら歩き去って行った。
「病欠なら仕方がない。その代り、明日遅刻したら、おしり百ペンペンの刑だな」

 ……あれは痛いんだ。でも僕はともかく、サクラちゃんは女の子なのに可哀相だ。
 でも、もっとかわいそうなのは、グンソウだ。
 ウゾは唇を噛んだ。
 グンソウの見た景色は自分の罪の景色だった。上層部からの自決の命令を正しいと信じて、部下や民間人に命じたグンソウがどのくらいの罪になるのか、ウゾには分からない。戦場では、被害者になるだけではない、誰もがたった今、加害者にもなるかもしれない。
 それがグンソウの罪?
 でも戦争がなかったら、グンソウは優しいお父ちゃんだったはずなのに。たった一日で萎んでしまう朝顔の、どの一輪をも美しいと娘に伝えた、優しいお父ちゃんだったのに。
 それなのに、一体どこにグンソウの罪があったの?
 やむを得ず、あの時代に生まれてしまったこと?
 自分が許せないから、グンソウはジョウブツしないことにしたの?
 どんな苦しみを受けても、身体が消えるまで苦しみを絞り出すことになっても、それが毎日繰り返されても、どんなに痛くても、ひとりぼっちで哀しくても、ジョウブツしないで苦しみ続けることにしたの?

 ウゾはぎゅっともち姫の尻尾を握りしめた。
「ウゾ」
 拭っても拭っても涙が出てきた。
「サクラ」
 隣でサクラちゃんがわんわん泣いていた。

 そんなことを構っていないヒタキがひと声鳴いて、さっさと巣に帰りたいと訴えた。
「帰りましょうか。ヒタキも眠りにつく時間なのだから、もう巣に帰してやらなければ」
 もち姫を抱いたウゾとサクラちゃんは、ヒタキの足につかまって、一気に幾筋もの通りを越えた。ウゾとサクラちゃんの涙が、キョウトの町に雨を落とした。

 それでも、空を飛んでいる間に、少しだけ心が落ち着いてきた。
 どんなことが起こっても、時は流れて、人も猫もヒタキも、こうして生きているのだ。
 あ、ウゾは鬼だから死んじゃっているのだけれど、それでもある意味では生き続けていて、考え続け、答えを探しているのだ。

 キョウトのずっと北にあるもち姫の家にたどり着いたとき、サクラちゃんが、でっかいヒタキに向かって申し訳なさそうに言った。
「どうしよう。小さくする術を忘れちゃったんだけど」
 だが、言い終わらないうちに、ヒタキが急にキューン、と小さくなった。そして、あぁ疲れた、というように羽根をバタバタして、巣に戻っていた。
「心配しなくてもいいのよ。タタラはその辺、抜かりがないのだから。巣に戻るころにはまた鳥目に戻っているでしょうけれど」
 もち姫が囁いた。

 タタラとはどんな知り合いなの、と聞きかけたけれど、もち姫は朝顔の精とウゾのやり取りを聞きたがった。そしてウゾから朝顔の精のなぞなぞを聞いたもち姫は、そうなの、と言ったきり黙り込んだ。
「あの朝顔の精は何を言いたかったのかな」
「アオイさまはね、自分勝手なところもいっぱいあったけれど人間臭いあの天下人が好きだったのよ。武士道で切られちゃ、花はかなわないと言ってね。そうよ、ウゾ、大義名分のためとやらで、たとえもともと儚い小さな命のひとつであっても、切り捨ててしまうなどということを、花たちは認めないからなのよ。世界が焼け落ちて、瓦礫の山になっても、また花は咲くわ。でも、いま生きている花を、どんなに傷ついている花でも、切り落として良いということにはならない。それが花の言い分よ。人には人の言い分があるでしょうけれども」

「朝顔の精はその茶人のことを怒っているの?」
「いいえ、そうじゃないわ。その茶人もまた、命を懸けたのだから。それぞれの立場で懸命に生きたのだから。アオイさまは、そのことはちゃんとご存じなのよ。だから恨んだり批判したりされているわけではないの。花とはそういうものだから。でも、ウゾ、人も鬼も、きちんと運命を選ばなくてはならないわ。いつか必ず決断を下し、前に進まなければならない日が来るのよ。そして選んだことに対しては、自分で責任を取らなくちゃならないのよ」

 ウゾはサクラちゃんと視線を交わした。
 サクラちゃんは目を真っ赤にして、ウゾと目が合うとまたわんわん泣いた。
「もち姫はあの人と知り合い?」
「そうよ、古い知り合いなの。そして、彼女はあのグンソウのこともずっと知っていたのよ。だけど、花の精であっても、彼には何もしてあげることはできないの。彼が自ら選びとった運命だから。そう、せめてひと時の良い夢を零してあげることくらいしか」

 それからもち姫は少し遠くの空を見上げた。すでに辺りはすっぽりと闇に包まれている。少しの間降った雨は、もう止んでいた。
「グンソウは自分でジョウブツしないことに決めたんだね。でも、ボクにはやっぱりよく分からないよ。グンソウのせいじゃない、グンソウのせいじゃないのに」
「そうね、ウゾ、サクラ」
 もち姫はそれ以上は何も言葉を投げかけてこなかった。ウゾは、グンソウの手を握りしめていた自分の鬼の手をじっと見つめた。

 その時、サクラちゃんが突然泣き止んで、もち姫に尋ねた。
「私たちはグンソウに何かしてあげられないの?」
 もち姫は優しく微笑んだ。猫だから、誰も微笑んでいるとは思わなかったかもしれないけれど。
「何も。ただ、明日からもいつものように、校門で待ってくれているグンソウに挨拶をしてあげなさい。できれば、グンソウが門を押さえなくてもいい時間に、学校に行くようにしてね」

 そうだ、小鬼には何もできないけれど、でも、学校の帰りに、あのお茶室の垣根に咲く朝顔を一緒に見に行こうって誘ってみよう。
 帰りの時間なら、きっと朝顔はものすごく綺麗に咲いているだろうから。
 そして、いつかきっと、ボクはグンソウの悲しみを吸い取ってあげられるような、立派な鬼になってみせる。

 ウゾはぐっと拳を握りしめた。


【百鬼夜行に遅刻しました】夏・朝顔 了




辛い話になってしまったことをお詫びします。
時期が時期で、どんどんそんな話に。始めは千利休の朝顔話だったのですが、どんどん違う方向へ流れ……
多くは語りますまい。
楽しいファンタジーじゃなくなっててすみません。
気持ちが入ってしまって……

そして、ウゾくん自身のことについては、またまた謎が振りまかれましたね。
その答えは、多分、冬に。

(気を取り直して)秋は、雨月物語です。
今度は恋物語なので、ちょっとはましかな。でも悲恋だけど^^;

ウゾさん、ごめんなさい。書いているうちにこうなってしまいました……(/_;)


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Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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伝えたい想い/【百鬼夜行に遅刻しました】(夏)あとがきに代えて 

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(『風の谷のナウシカ』より)

ちょっと勢い余って書いてしまった【百鬼夜行に遅刻しました】夏物語。
気持ちが入りすぎて、文章が乱れ飛んでいて、後で微妙に恥ずかしくなったりもしていたので、あとがきを書きます。
はっきり言って、長いです。
面倒くさい方は、このあたりで引き返してくださいね^^;


実は、始めはウゾくんが、鬼になった戦国時代の誰かに会って……なんて話を考えていました。
エピソードに、千利休の朝顔の話を使うことは決めてあって、これをふくらます予定でしたので。

この朝顔エピソード、茶道を習っている時には、千利休は偉いことを言う人だと単純に感心していたのですが。
ふと、でも、大義のためとはいえ小さな命を散らすのは……、とかあれこれあらぬ方へ考えが転がってしまいまして。

秀吉って、天下人になっても感覚は所詮農民だったのですよね。泥臭い。
もちろん、あの場所まで知恵ひとつで登って行ったのはすごいことですが、私の中の秀吉像は、数年前の大河ドラマの『江』の岸谷五郎さん。
むかつくほどいやらしいおっさんなんだけど、単純で泥臭くて子供っぽい。
天下を取るような器じゃないはずなんだけど、あれよあれよと時が味方をしてしまった。
茶々=宮沢りえさんが、恨んで怨んで逆らいながらも魅かれて行ってしまう。
(その、秀吉=岸谷さんを憎んでいるぞ!と口で言いつつ目だけで誘う宮沢りえさんにドキドキしました……いやもう、この二人のためにあったと言っても過言ではないくらいの大河ドラマでした。無茶苦茶萌えました)。

で、朝顔エピソード。
農民ですからね、しかも感覚が子供ですからね、だからきっと、単純に、溢れんばかりに咲き誇る朝顔を見たかったんでしょうね。

千利休のほうがはるかに、政治家であり、武士であったと思います。
当時の茶の湯は、今のような単純に精神的なものではなかったはず。
お茶碗ひとつで国ひとつが買えるくらいだったと言います(そうしたのは実は下戸の信長、引き継いだのが利休)。
茶の湯に、国を動かす力があったのです。
だから、当時の二人(秀吉と利休)の関係を、現代の我々の視点から考えてはいけないと、つくづく思うのです。

あれこれ考えて、これこそ『是非もなし』だと思いました。
どちらが100%正しいわけでも、100%間違っているわけでもない。
秀吉も利休も、朝顔の美を認めていたことは確かなんでしょうね。
そして、朝顔の精は、そんな人間の営みなどは、もっと高い次元から見ていた、のかもしれません。

そう言えば、この『是非もなし』
信長が本能寺で、明智光秀の奇襲だと知った時に言い放った言葉として有名ですね。
是非もなし…やむを得ない…襲われて死ぬのもまた運命だ…人間五十年なんだから仕方がない、というような達観したニュアンス、と取られていることもあるようですが。
敦盛を好きで舞うくらいですからね、そういう思想が、とっさに言葉になったのでは、と?

この信長の言葉の前に、仕えていた者が「(襲ってきたけれど)どうしましょう」と聞いたのだとか。
これは信長の返事です。
『是非もなし』
信長ほどエキセントリックで、明確に日本の王になることを目指していた男が、ちょっと立ち寄っていた本能寺なんかで死んじゃうわけにはいかないのです。少なくともこの男はそう思ったはず。
「是非もないことだ、戦うにきまってるがや」
やられそうになって、火の中で敦盛なんて舞ってるものか、絶対最後まで足掻いて戦っていたはずだ。
信長にはやっぱりそんな男であって欲しい、そんな最後であってほしい大海でした。

話が逸れましたが(逸れすぎだって^^;)。
考えているうちに……
だんだんこの朝顔エピソード(武士道たるもの…的物語)が、信念を貫くためとはいえ、花は一生懸命咲いてるんだよなぁ、切っちゃうのもなぁ…という方向にずれ。
大義のために小さな命を犠牲にできるか、とかいう方向へずれ。
折しも、広島の原爆投下の日を迎え。
グンソウさんのように、戦争中のことを思い出したくない、語れない、でも今も苦しみ続けている、という人々もいるだろうと、想いを馳せ。
沖縄のひめゆりの塔記念館でお会いした、当時その一員だったおばあさんを思い出し。
淡々と語られた言葉が重くて。

私はその時、その人に言えなかったけれど、心の中で思っていた。
『その時代を生き延びて、今ここに生きていてくださって、ありがとう』って。
その時何があって、何をしたのだとしても、今、生きてここにいてくださってありがとう…と。


現実が重すぎて、小説には書けないことがいくつかあります。
戦争はそのひとつです。

でも、このたび、本当は書けない、書くまいと思っていたことを書いてしまったので、少しだけ言い訳をしたくなったのでした。


何かを書く時に、外してはならないこととして、自分の中にあるルールがあります。
それだけは守りながら、書いたつもりです。

ひとつは 100%の善もなければ、100%の悪もないということ。
ひとつは 過去の出来事について、現代の人間の感覚で判断・批判してはいけないということ。

だから、戦争については、当時を生き抜いた人々に対して、その人が何をしたのだとしても『断罪』する権利は、今の時代の自分にはないと思っています。
当時を生きていて、ただ被害者だった人にだけ、その権利があります。

自分が全く正しいと思う人間だけが石を投げろと、聖書にも書かれておりますが、私には自分が『全く正しい』という自信がありません。
ただ、そのことを深く考え、立ち向かうことは必要です。
過去をただ闇雲に批判するのではなく、そこから何を学び、これからどうするのかということだと思うのです。

戦争は、人間を被害者にもするし、加害者にもすると思うし、その両者は裏表の関係で、誰でもいつでもそのどちらにもなり得るのだ、そういう精神状態に人間を追い込むのが戦争という状態だということを覚えておかなければならないのだと思っています。
そして、犠牲になった人たちに対しては、時が遅くならないうちに、国として、あるいは人として、購ってさしあげなくてはならないのだと感じます。

だからこそ、何より、そのような状況(戦争)を作らないこと。
そこへ向かう理由を作らないこと。
そこに至ってしまったら、人間の精神はまともであり続けることはできないのですから。


卑近なことですが、車を運転する時、いつも思っています。
これは走る凶器だ。これに乗っている限りは、いつもで加害者になる可能性がある(最近は自転車も、のようですが)。被害者になることよりも、加害者になることの方が、本当は怖いのです。
でも……移動のためには、今はどうしても必要になってしまっています……(..)
事故は起こるものと考えて、障害物を前に勝手にブレーキがかかるようになってきています。
保険も、事故は起こるものだという前提で入らなければなりません。
そして何よりも、常に、自分が加害者になる可能性をちゃんと考えて、安全運転を心がけねばなりません。

車もそうなんですが、私の力では制御しきれないもの思うので、点検はしょっちゅう行っています。
でも、本当は、人間は自分の知恵で制御できないものを使ったり、持ったりしてはならないんでしょうね。
同じレベルで言うのも変ですが、原発、原爆、戦争、そして最近話題の出生前診断。
尊敬するある人が、最近元気がなくて、どうしたんですか、と尋ねたら。
「原発再稼動と出生前診断。(人類として)生きる希望が無くなって来たわ」と。

今、自己増殖し続ける科学を手にした人類は、自分たちで制御できないものを動かしている。
技術が自己増殖しているのであって、それを使う人間はそんなには賢くないのです。
もしも戦争が起こってしまったら、始まってしまったら、制御はできない……
そうならないように、知恵を絞らなければならないのだと……


そういう想いを、ちょっとウゾくんにぶつけてしまいました。


というわけで、本当はちょっと恥ずかしいのです。
心の中で、秘かに、一方では強く、思っている信念だったりするので。


そうそう……希望を無くしたと言っておられた方に、メッセージを送りました。
私がものすごく好きな『風の谷のナウシカ』の1シーン。
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戦争で人間が壊してしまった地球。巨大な菌類が森(腐海)を作り地表を覆っている。胞子には毒素があり、人はマスクなしにそこに入るとすぐに肺が腐ってしまう。海から吹く風に守られた『風の谷』でも、腐海の空気は入り込んでいて、老いた人は多かれ少なかれ肺や皮膚を病んでいる。この国の姫君・ナウシカはそんな人々の病を治せないかと、自ら腐海に入っては菌類の胞子を集めてきて、こうして研究しているのです。
そして気が付く。汚れているのは土と水だと。それが清浄であれば、菌類は毒素を吐き出さないのだと。

この物語、この先にいくらでも素晴らしいダイナミックなシーンがあるのですが、私はこのシーンが大好きです。
誰かの幸福を願い、そのために、地道に、真実に近づこうと知恵を絞る。
(これこそが科学であるべきだと、そう思いながら、日々お仕事に励んでいます)

そして、あるインディオのシャーマンの言葉を添えました。
『皆が薬草について教えてくれとやって来る。だが、誰一人として、森とともに生きる方法を教えてくれとは言ってこない』
皆、というのは我々、いわゆる文明国と言われている国に住む人間たちです。科学が行き詰まり、彼らに助けを求め、あるいは利潤を求め、薬草の知識を学ぼうと、シャーマンのところへ行くのです。
でも、我々に必要なのは、薬草の知識ではなく、この地球とどうやって生きていくか、そのことを学ぶことだと、彼はそう言っているのです。
だから、どんなに小さなことでも構わないので、一緒に森とともに生きる方法を考えましょう!と。
(明日から、森の中に住むというわけではありません^^;)



長々とお付き合いいただきありがとうございました。




最後に。
朝顔の精は、美人で気風のいい『極道の妻』をイメージしました。
サクラちゃんにはモデルがいます。『ハリー・ポッター』のハーマイオニーです。もっと子供にしてみました。
飛んでいるヒタキはフェニックス(『秘密の部屋』)のイメージです。和風ですけれど。

ちょっと重くなったけれど、『夏・朝顔』、それなりに楽しく書きました。
ウゾさん、ありがとうです。

次は『秋・菊花』です。今度はどんな花でしょうか。
また、涼しくなったらお目にかかりましょう。



Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(4) 

やっと雨が降りましたね!有難いです。
今日は24時間テレビ。O氏のドラマが楽しみな大海は、久しぶりにテレビをつけっ放しで待機中です。
今週は、雨が降った記念に?【海に落ちる雨】の続きをアップしていきます。
もちろん、【死と乙女】も進めます(^^)
お楽しみに!(とか言って、待ってくださっている方がいると嬉しいけれど……)

もうすぐ? 次のキリ番2222です。
踏んだ方、近い数字だった方、リクエストがございましたら、ぜひお願いします(^^)

さて、前出の記事
(→【雑記・生き物】どこかで見たような……)で触れた、孔雀と、ヤマネコならぬ豹。
コメントで頂いた、「逆にヤマネコが孔雀に襲われるかも」……に反応して、帰ってきました。
【迷探偵マコトの事件簿】

このシリーズは、本編の真と竹流の物語のパロディ版です。
相川真27歳、新宿の調査事務所の所長です。大和竹流は、真にとっては元家庭教師で、訳ありのイタリア人修復師です。
本編で進行中の【海に落ちる雨】では、真は色々あって、竹流のマンションに転がり込んでいます。
さて、年齢も9歳も違うので、いつも竹流に小僧扱いされている真ですが……
猫のマコトになっても、その関係性は変わらないみたいで……

その猫のマコトのお話、第6話です(^^)
さっそく、どうぞ!



迷探偵マコトの事件簿(6) マコト、豹になる
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僕、さっきタケルに怒られちゃったんだ。
でも僕のせいじゃないんだ。
だって、タケルがオンナを連れてきんだんだよ。

そのオンナったら。
あら、可愛い子ネコちゃんね、って、この僕の頭を撫でるんだ。
僕、可愛い子ネコちゃんじゃないもん。
がぶっ!

……
香水の匂いとか、嫌いなんだ。
だから噛んでやったら、タケルに怒られちゃったんだ。

何だよ。僕よりオンナが大事なんだ。
ふん。
もういいんだ。

……

……寝よ。

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目が覚めたら、僕はジャガーになってた。
わ、トラ縞じゃなくて文字通り、ヒョウ柄だよ。
手もおっきいし、からだもおっきい。

わ~、僕、おっきくなってる!
わ~、もうオトナなんだ。
もうタケルに怒られないんだ!
木にも登れるし、獲物だって自分で捕れるんだよ。

あ、さっそく見つけた! 孔雀だよ!
僕、初めて見たよ~
おっきいね~
あ、僕もおっきいんだった!

きっと捕まえられるよ。捕まえて食べてやる~
狙いを定めて……ジャンプっ!

……

あ、跳んだ! 木の上に行ったよ!
すごい長い尻尾。綺麗だね~
とか言ってる場合じゃないんだった!

よ~し。
僕、軽やかに木の上に登ったよ!
そろ~ッと近づいて、っと。

えいっ! わ、尾っぽ、捕まえた!
やった! タケル! 僕、やったよ!
(って、タケルに報告することでもないや。僕、一人で頑張れるもん)

あ、孔雀と目が合った……

……え、っと……睨まれた……?

え? 何だろ、このデ・ジャヴ。
この目、知ってるような……

DSCN1507_convert_20130824190738.jpg
あ、あ~~、尾っぽが手の下から抜けた……
あ~あ。
池の向こうに飛んで行っちゃった。
せっかく尻尾、捕まえたのに。

追いかけるぞ!
池を回って、走って行ったら……
あ、孔雀のやつ、オンナに色目使ってる。
うわ~、羽根、広げたらでっかい~。綺麗だな~。
なんて、感心している場合じゃなかった。

この隙に狙いを定めて。
ジャンプっ!
よし、羽根のはしっこ、捕まえた! やった! 食ってやる!

と思ったら!
うわっ!
孔雀、つえぇぇ~
結構、足、でかいよ~。僕もでっかくなったのに、足で押さえこまれちゃった!

な、何でだよ~
僕、強いはずなのに……ジャガーになったのに(;_:)
こ、この孔雀、つ、強い……

孔雀は僕に目もくれず、またオンナを追っかけ始めちゃった。
……しょんぼり。
僕はとぼとぼと孔雀に背を向けて歩き始めた。

せっかく、ジャガーになったのに……
獲物も捕れないんじゃ、餓えちゃうよ……

がお~っ!

何だよ、僕落ち込んでるんだから、うるさいってば。

がお~っ!!

あぁ、もう、うるさい!

と叫んだ途端、がしっと掴まれちゃった。
え~~!? なんで、なんで?
気がついたら僕、すごいでかいお化けみたいな、真っ黒のヒョウに襲い掛かられてた。

あれよあれよと首に噛みつかれて……
何するんだ! 放して!
あぁ、もうだめだ。僕……せっかくジャガーになったのに……

き~~~っツ!!

……え??
緑と青が混じったみたいな大きな羽根が僕の頭の上でバタバタ、まるで舞うみたいに、でもすごい勢いでデッカイ黒豹に襲い掛かっている。
これ孔雀? それとも、ダチョウの見間違い?

え?

DSCN1514_convert_20130824191040.jpg
僕と黒豹の間に、綺麗な大きな羽根が立ちはだかってた。
孔雀はすごい声で啼いて、黒豹を追っぱらってしまった……

あ、あの……
あ、ありがとう??

孔雀はちらっと僕を見る。
あ、やっぱりデジャヴ?
と思ったら、さっさとオンナのところへ戻っていった……

……

……

迪ォ繝槭さ繝茨シ狙convert_20130824193448
あれ?
手がちっさくなってる。
トラ縞だし。

トラ猫に戻っちゃったよ……
せっかくジャガーになったのに……
がっくり。

……もう、やめてよ。頭、撫でないで。
僕、どうせちっちゃくて、一人で何にもできない子なんだ。
でも、僕、怒ってるんだから。

……あれ、オンナは帰ったの?
もうタケルも寝るの?
いいよ、あっち行ってよ。どうせ僕なんて好きじゃないんでしょ。
結局、オンナの味方するんでしょ。


でも、あの孔雀、ちょっとだけタケルに似てたかも……

……

やっぱりココがいいや。タケルのとなり。

お休み……

次は、ライオンの夢を見よ……っと。
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【迷探偵マコトの事件簿(6)】 了


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さて、孔雀は孔雀明王として、古くから信仰の対象でもありました。
害虫を食うというところから、煩悩を食べる神聖な鳥と考えられていて、密教の明王のひとつとなりました。
竹流は菩薩のような人なんですけれどね、ちょっと厳しかったり、勝手をしていたり。
でも、いざという時は、助けに来るのだ!

ライオンの夢、ラストはちょっとだけ、ヘミングウェイをもじってみました(^^)
ライオンになったら、孔雀を取り押さえることができるのでしょうか。

【迷探偵マコト】また、不定期で登場します。……多分(*^_^*)
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limeさん、挿入画、載せさせていただきました。ありがとうございます(^^)





Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(5) 

Stellaタグ →Stella/2013/9月号
月刊Stella 2013/9月号参加 掌編小説
2223Hit記念 八少女夕さんリクエストにお応えして……


遶ケ豬√→迪ォ・狙convert_20130629112022
(イラストは小説ブログ「DOOR」のlimeさん。limeさん、重ね重ねありがとうございます(*^_^*))

掌編小説ですが、今回はいささか力が入ってしまいまして、少し力作(長さだけ^^;)になってしまいました。
「竹流が性懲りもなく犬を連れてきた」というのが頂いたお題。
以前、猫のぬいぐるみを2回にわたり持ち帰り、マコトの怒りを買っていたタケルですが、今回は本物の犬を連れてきたようで……さぁ、どうする、マコト。

連作掌編ですが、これまでのものを読まれていなくても、なんの問題もありません。
さらに、あまりブンガク的なものでもありませんので、気楽に気楽に、お楽しみくださいませ。
なお、かなり地の文を端折っておりますので、想像力を駆使してご自由な世界でお読みください。

参考までに、これまでのお話は→【迷探偵マコトの事件簿】(1)~(4)

<登場人物>
マコト:一人前になりきれない、でもオトナだと言い張るツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。
タケル:ちょっぴり(かなり?)Sなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。




【迷探偵マコトの事件簿その7.マコト、ちょっぴり切ない事件簿】

[Scene1] マコト、シュクテキに出会う

あ、タケルだ。お帰り!
……っと、ウカツにもお迎えに行くところだった。
ぼく、猫だもんね。それにちょっと大人になったから、もう嬉しがってお迎えなんかしないんだ!

知らん顔で寝とこ……ん? なんか、ニオイが……

ちらっ。(片目でチラ見カクニン……)

……?

……え?

え~~~~!?

ぼく、慌ててソファから飛び降りて、部屋の隅っこに逃げ込んだよ。
だって、タケルが、なんかでっかくて黒い化けものを持って帰って来たんだ!

う~~。

そいつ、なに?
何か、唸ってる?
何なの!? 睨んでる~~!

でも、タケルはそいつをヨシヨシしてるんだ。
そいつ、無茶苦茶目つきが悪いよ!
ね、タケル、そいつ、ぼくを狙ってるよ!

わん!

げっ!!
ぼくは慌てて逃げた!
タケルの後ろに回ったけど、そいつは追いかけてくる!
わ~~~、タケル、助けて~~

って、知らん顔ってどういうこと??

こ、こんな時に何だけど、こいつ、いわゆる犬ってやつ??
は、初めて見たよ~
時々、テレビで見る、ハンニン追っかけて捕まえる、あれ?
わ~、こ、こわいよ~~、追いかけてくる~~!!
ぼく、何もしてないよ~~~!

ぼくは必死で逃げ回んなくちゃならなかった……のに。
タケルったら、そいつを優しく抱き止めて、おフロに連れてった。
覗きに行ったら、綺麗に洗ってやってるんだ。
犬のやつ、ぼくに気が付いて、ギロって睨んだ~~!

その日から、ぼくと犬、いやシュクテキの戦いの日々が始まった!
タケルはいっつもそいつをヨシヨシって大事にするんだ。
サンポとかにもふたり(?)で行っちゃうし、ぼくは置いてけぼりだし。

夜も、タケルはそいつと寝るんだ。
なんだよ! あっち行けよ!

毛を逆立てて唸ったら、唸り返される。
飛びかかったら、捕まって、首を噛まれる。
ぼくはもがいて必死に逃げた!
タケル、ぼく、このままじゃ死んじゃうよ~

ついにぼくは切れて、そいつが寝てる時、胴体にジャンプして体当たり攻撃してやった!

と、思ったら!
わ~~~~~、追いかけてくる~~~~~!!!!!!!
怖い~~~~~~~~!!!!!!

あ……。

……う。

お、おもらししちゃった。

……

もう、子どもじゃないのに……
げっ。タケルが起きてきた。
ぼく、あわてておもらししたところを隠すべく、その上に座ってみたけど……

タケルに首根っこ、つままれちゃった。
……しゅん。
……ごめんなさい。

黒いお化け犬はまだ唸ってる。
タケルは犬の頭を優しくなでてやってる。
ぼくは首根っこ、掴まれたまま。

なんで、ぼくよりそのお化け犬、大事にするの?

ぼく、家出してやる。

……

……って、ぼく、自分でドアも開けられないんだった。

次の日。
タケルはそいつとサンポに出て行った。

……それで、タケルだけが帰ってきたんだ。


[Scene2] マコト、初めてのトモダチ

ぼく、ちょっと嬉しかった。
シュクテキがいなくなったんだもん。
タケルの横で寝れるしね。
あ、もう、おもらししないよ。

あ、タケルが帰ってきた。
……でも、お迎えは行かないもん。
ぼく、オトナなんだ。

……あれ?
また、変なニオイが……

ちらっ。

……

……

何だか、ずいぶんムードが違うけど、それも、やっぱり犬、だよね?

何だよ、また、別の犬、連れて帰ってきたの?

今度は、白、というよりちょっと茶色がかった汚い毛で、体に濃い茶色と、薄い茶色のブチのある、すごくおっきい犬。
タケルは、そいつをまたおフロで洗ってやって、それから毛をつくろってやって。
ごはん作ってやって。
何か、赤ちゃんのごはんみたいな、どろどろの。
それから、やっぱりヨシヨシしてやってる。

ぼくがいるのに。

……やっぱり、家出する~~~!
ぼくは玄関まで走ったけれど……あ、そうだった。
ぼく、自分でドアを開けられないんだった。
……家出もできないなんて。

……なんか、みじめ。

タケルが出かけてる間に、ぼくはそいつに唸ってみた。
でも、そいつは唸らないんだ。
チラって、ぼくを見て、それから寝ちゃった。

ぼく、そいつにちょん、って触ってみた。
でも、そいつはちらっと僕を見て、やっぱり寝ちゃった。

ぼく、そいつに飛びかかってみた。

わ、ぽわって、はねる。
ふかふかしてる!
ちょっとしょぼくれてて汚い毛だけど、あったかいよ。

そいつはちらっとぼくを見て、それからちょん、ってぼくの頭におっきな手を乗っけた。
ぼくはそいつのお腹の横に引っ付いてみた。
動いてる。
ふわんふわんだ。

今度は上に乗っかってみた。
わ、お腹が動いてる。
上がったり。
下がったり。
で、ぼくはその上でちょっと転がってみたり。

あ、落ちちゃった!

そいつはむくりと顔を上げてぼくをさがして。
それからぼくを見つけると、ちょっとほっとした顔をして……また寝ちゃった。

……
ぼくも眠くなっちゃった。
わぁ。タケルの横で寝てるみたいだね。

そいつはサンポに行かないんだ。
ほとんどずっと寝てるし、びょうきなのかな。
ごはんもあんまり食べないし。
ぼくのねこまんまの方がおいしいかもよ。
ちょっと分けてあげたけど……やっぱり、ねこのごはんはいらないみたい。

タケルはそいつのためにベッドを作ってやった。
ぼく、お手伝いしたよ。
タケルが木を切ってる上に乗っかって、押さえてあげたんだ!

タケルがいない間は、ぼくがそいつの毛づくろいをしてあげるんだ。
そのかわり、そいつはぼくをおっきな体の上に乗っけてくれる。
上がったり。
下がったり。

……上がったり。
……下がったり。

あ、落ちちゃった。

ぼくはよじ登る。
……上がったり。
……下がったり。

……下がったり。

……

上がったり……? しない?

……ね。
寝ちゃったの?

ぼくはそいつの顔を、おっきな身体の上からのぞいて見たんだけど……

……

……上がらないし、……下がらない!!

わ~~~~!!!!!
タケル、タケル、タケル、タケル!!!!!
どこ? どこ~~~!?!?
タケル~~、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!

……

……それから、ぼく、あんまり覚えてないんだ。
タケルが帰ってきて、全然動かないそいつを大事に抱っこして、どこかに連れてった。
ぼくは、いっぱい引っ掻いちゃったドアのキズを見てた。
だって、ぼく、自分でドアを開けられないんだ。

開けることができたら、初めてのトモダチといっしょにおサンポにも行けたのに。
開けることができたら……もっと早く、タケルを呼びに行けたのに……

そうしたら、ぼく、トモダチともっといっしょにいれたのに。

……ぼく、……ぼくね……
あのね、タケル……、あのね……


[Scene3] シュクテキ、再び

またタケルとふたりぼっちになったよ。
もちろん、ぼく、うれしいよ。
ねこまんまもおいしいし。
夜寝る時は、タケルの横であったかいし。

タケルは一回だけ、でっかいぬいぐるみ(もうぼくはだまされないんだ! ニオイがなくて、動かないのはぬいぐるみ!)の犬を持って帰って来た。
でも、なんか、やなんだ。

色もよく似てるけど。
においはしないし……
上がったり下がったりしないし!

がぶっ!
がぶ、がぶっ! しゅぴっ!
ぼくは、なんかやっぱりイヤんなっちゃって、引きちぎっちゃった。

タケルは帰ってきて、不思議そうな顔してぼろぼろのぬいぐるみを見てた。

……トモダチ、いなくなっちゃったのに。
それなのに、よく似たやつがいるのはヤなんだ。
だから今日は、ねこまんま食べて。
オフロ入って。
それから、タケルといっしょにテレビを見るんだ。

いつも最後は崖にいく番組をやってる。
これ、けっこう好きなんだ。
海が映るから。お魚がいっぱいいる海。

……あ。
思わずむくって頭を上げちゃった。

シュクテキだ!
ぼくは戦闘態勢に入った!

タケルがまた不思議そうにぼくを見る。

あ、そうだった。この箱の中には誰もいないんだった。
ニンゲンも、イヌも、ネコも。
海も本物じゃなくて、お魚も泳いでないんだった。

……なんだ。ホンモノのシュクテキじゃないんだ。

……

……シュクテキ、どうしてるのかな。
トモダチと同じように、動かなくなって、遠くに行っちゃったのかな。

……

ぼくはその日、シュクテキに追っかけられる夢を見たんだ。
ぼく、必死で逃げて……おもらししちゃった。

次の日、タケルがぼくを抱っこして、真っ赤なクルマに乗った。
わ~、ドライブだ~~!
ぼく、ドライブ、好きなんだ~

タケルはもういっこ、ナワバリ、じゃなくて家があるんだ。
おっきい家だよ。
木がいっぱいあって、近くに大きい水たまりもあるんだ。
風が気持ちいいんだよ。

あ、家が見えてきたね!
……何か、黒いものが走ってくるよ!

って……
そこに見えるは……

わん!

わ~~、タケル、タケル、タケル!!
シュクテキと目が合っちゃった!

わ~~~~!!!!

わん、わん、わんわん!!

わ~~~~~~!!!!!!!

わんわん!!!

わ~~~~~~~~!!!!!!!!

わんわん、わん、……う~、わんわん!!!!!!

わ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!

……

その夜。
ぼくは鬼ごっこに疲れて、タケルがベッドにやって来る前にばたんきゅーだった。

シュクテキ、パワーアップしてた。

ぼくだって。
……明日は、ぜったい負けないぞ。

……

……

ねぇ、タケル。
ぼくはきっと、タケルより先にここからいなくなっちゃうと思うんだ。

……そうしたら、タケルはさみしい?

……ぼくね、今ね、ちょっとだけさみしいんだ。

夢の中なら、また上がったり、下がったり、ぼく、落っこちたり……
トモダチといっしょに遊べるかな。

……タケルがぼくの頭を撫でてくれる。
それから、ちょっとぎゅうって……
タケルの手、おっきくて、あったかいね。


……ぼく、もう寝るね。
今日はトモダチの夢を見るんだ。

……それから。
明日はまた、シュクテキとたたかわなくちゃ!





マコトは知る由もありませんが、タケルはおそらく保健所に連れて行かれる犬をもらってきたのではないかと思われます。
最初の犬は、シェパード。もとの飼い主に虐待されて、ちょっと尖っている設定。
マコトとウマが合わなかったので、タケルはマンションではなく奥多摩にあるヤマト邸の方へ連れ帰っていました。ここでは、執事さんがいるので、面倒をみてくれています。
次の犬は、もう老犬で、もうすぐ死にそうなのに、先に飼い主(多分一人暮らしのお年寄り)に死なれちゃったセントバーナードという設定。もうあとわずかで寿命なのに、死に場所が保健所というのは憐れに思い、もらってきちゃった設定。

マコトの事件簿にしては、ちょっと重厚だったかも?
(大したことはないけど^^;)

あ、そうそう。なぜか最後は崖に行く番組、とは2時間ドラマのことです。
(って、分かりますよね……^^;)
タケルが2時間ドラマ好きという情報はありません。
多分、タケルはマコトが崖のシーンを好きらしいと思っているようです。
で、きっと、この2時間ドラマの刑事もので、警察犬としてシェパードが出てきていたのでしょう。

テレビの中のシェパードを見てシュクテキと勘違いして、で、ちょっと心配するマコト……
少し大人になったと思うのですが、いかがでしょうか(^^)

なお、時代がいささか古く、多分テレビはまだアナログだったのかもしれません。
だから、箱^^;


お楽しみいただけたなら幸いです(*^_^*)




Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(6) 

【迷探偵マコトの事件簿】その8.魚釣り編 海の事件簿
このシリーズも単なるシーンから始まり、一応(?)ストーリーっぽくなってきました。8作目です(^^)
遶ケ豬√→迪ォ・狙convert_20130629112022
(イラストは小説ブログ「DOOR」のlimeさん。limeさん、このイラスト、表紙にさせていただきますね(*^_^*)(*^_^*))

あまりにもリアル仕事が大変で、更新が滞っておりますが、掌編だけは書いてみました(*^_^*)
というよりも、ウゾさん(ブログ:百鬼夜行に遅刻しました)の記事のコメントにあった、「魚釣りをするバージョン」話題についつい反応していまい……
→→ウゾさんの関連記事

私が書いたということは、その後、ワトスン君も、limeさんちのナギ・ミツル兄弟も、魚釣りに行くかも??

*連作掌編ですが、これまでのものを読まれていなくても、なんの問題もありません。
 内容はあさ~く、なにより楽しむことを前提にしてありますので、気楽にお楽しみくださいませ。
 なお、ねこの一人称ですので、かなり地の文を端折っております。
 想像力を駆使してご自由な世界でお読みください。

<登場人物>
マコト:一人前になりきれない、でもオトナだと言い張るツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。
タケル:ちょっぴり(かなり?)Sなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。




【迷探偵マコトの事件簿その8.マコト、海の事件簿】


[Scene1] マコト、海釣りに行く

今日はタケルとお出かけなんだ~♪
……別に、喜んでるわけじゃないけどね。

でもね、あのね、ナイショだよ。
この頃、ちょっとだけタケルが優しいんだ。
ドライブにも連れて行ってくれるし。
もういっこのナワバリにもよく出かけるし。
もちろん、シュクテキと運動会、じゃなくて、たたかわなくちゃならないけど。
ぼくもだいぶコツを掴んだんだよ。
だから、たまにシュクテキのしっぽを踏んづけてやることもできるんだ!

でも今日はふたりきり。
海釣りに行くんだよ。
釣り、楽しいんだ。
ぼくもちょっとだけお手伝いするの。
タケルが釣り上げたさかなが逃げそうになったら、捕まえて押さえとくんだ。
ちゃんとご褒美に、ぴちぴちのおさかな、もらえるし。

海の風、気持ちいいね。
タケルはさっそくナワバリを確保して。
エサのミミズ、くっつけて。
海に投げ込んだ糸が、キラって太陽に光ったよ。
キラキラ。
キラキラ。
……綺麗だね。

ぼくはおさかなが釣れるまでの間、かげふみ遊び。
タケルからあんまり離れないようにして、遊ぶんだ。

……今日は、他にもおさかな釣ってる人がいるよ。

向こうにいるのは男の人。
ねこに取り囲まれてるね。
キジトラだけど白いとこが多いねこ、ぼくと同じ茶トラだけどお腹は白いねこ、まっ白なねこ、真っ黒のねこ、三毛猫。
5匹もいる!
ねこたち、すごい、ガンミしてる。
さかな、寄こせ~~~って感じ?
男の人、汗かいているよ。大変そうだね。
あ、キジトラしろねこと目が合っちゃった。
タケルの後ろにかくれよっと……

あっちには男の子のきょうだいかなぁ。
でも、釣竿を持ってるのはひとりだけ。
もうひとりは、なにしてるんだろ?
じ~っと海を見てる。
あ、その子が見てるところで、とつぜんおさかなが跳ねた!
……あ、また。
今度はもっと飛び上がった!
え? え?
ね、ね、タケル、見た?

……見てないね。

ま、いいか。
ぼく、タケルの側でまってる。

あ、糸がぴーんって。
わ~、おさかなだね!
青い空で、糸が光って、おさかなが飛んでくる!
わ~い。

タケルが始めにぼくにくれた!
あ、向こうの5匹のねこがいっせいにこっち見たよ!
早く食べよっと!

タケルはぼくのあたまを撫でて、それからまた釣りを再開。
ぼくは、おさかな、いっしょうけんめい食べるんだ。

……本当は生のおさかなよりも、タケルのねこまんまのほうが好きなんだけど。
タケルがくれたからね。
食べられるところだけ。

ふがふが。
はぐはぐ。
あ、ほね。
ぺっと出して。
ふがふが。
タケルが捕ってくれたおさかな、やっぱりおいしいね。

ん?
何か視線が……

ピンクのリボンを付けたまっ白な毛の長いねこが、こっち見てる。
すごくきれいな女の子。
目が合ったら、つーんと目をそらした。
なんだよ。

側には、白いパラソルをさした髪のながい女の人。
……にっこり笑って、タケルに話しかけた。


[Scene2] 海のおさかながいい

タケルはいつもよりずっと早く釣りをやめちゃった。
お片付けしてる。
……どこか行くの?
白いパラソルの女の人と、まっ白な毛長ねこ。
いっしょにお出かけするみたい。

ぼくもついて行く。
どこ行くの?(にゃぁ?)
タケルの横を歩いて、聞いてみたけど、女の人としゃべってて、ぼくのことは無視。

……

パラソルの女の人に抱っこされた白い毛長ねこが、ぼくを見下ろしてる。
……暑いなぁ。

……

海辺のとてもおしゃれなレストランにやって来た。
白いパラソルの女の人は、お店の人と知り合いみたい。
タケルはずっと楽しそうに女の人と話してる。
女の人の足元には、ピンクのリボンを首につけた白い毛長ねこ。
目が合ったら、またツン、と目を逸らされた。

なんだよ。
女って、分かりにくいんだから。

タケルと女の人のところにごはんが運ばれてくる。
すごくきれいにお皿にごはんが並んでる。
お店の人は、ぼくと白い毛長ねこにも、ねこ用のごはんをくれる。

……ねこのごはんなのに、お皿にきれいに並べてある。
みるくのソースがかかったおさかな。
ちらっと見たら、白い毛長ねこは少しずつゆっくり食べ始めてた。

……ぼくは……

見上げたら、タケルは女の人の話をいっしょうけんめい聞いてあげてる。
すごくかっこいい笑顔で。
白いパラソル女、くちびるが赤すぎ。
お酒の赤い色みたい。

ぼくは、ぼくのお皿を見る。
きれい盛り付けられたごはん。
白いミルクソースのかかったおさかな。
ぼくはちらっと白い毛長ねこを見て、それからちょっとだけミルクソースを舐めてみる。

……

白い毛長ねこは少しずつ舐めながら食べてる。上品に。
あんな食べ方、おいしいのかなぁ?
白いパラソル女はタケルのほうに乗り出して来てる。

……

……これ、やっぱり、おいしくない。

さっき、タケルがくれた、ぴちぴちのおさかなのほうがいいや。

……

……なんか、つまんない。

ぼくは、お店のドアが開いた瞬間、そのドアをすり抜けて外に出た。


[Scene3] うちに帰ろう

外は明るくて、ちょっと暑い。
ぼくはとぽとぽ歩いてた。
さっきの海の近くに戻ろうかな。
他のねこもいたし。

……でも、ぼく、ひとりでお出かけしたことないし。
ここ、知らないし。
車の道、熱くて、足の裏が焼けそう。

きーーーっつ!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

耳の中を裂くみたいな音!

ぼくは一瞬、頭が真っ白になった……

……

……

あれ?

何だか体が浮いてる……
空を飛んでる?
ぼく、死んじゃったのかなぁ?

あったかい……
トモダチの上に乗っかってるみたい……

……

……

誰かが何かを叫んでる。
知らない人の声。すごく怒ってる。
……それから、タケルの声?
死ぬときって、いろんな声が聞こえるんだなぁ……

……

……

あれ?

ぼくは頭をふった。
タケルが珍しく、大きな声で話してる。
クルマの中にいる人も何か叫んでる。
やっぱり怒ってるみたい……
でも、タケルも、すごく怒ってるみたい。

そのうち、車の中の人がキレて、ドアをばん!と閉めて走り去った。

ぼく、車にひかれ掛けたみたい……
でも、どうしてタケルは怒ってるんだろう??
ぼくが勝手に出て行ったから?

それからタケルは、白いパラソル女と、白い毛長ねこのいるお店にもどって。
もちろん、ぼくを連れて。

でも、何か話をして、お金払って、すぐにお店を出た。
白いパラソル女と、白い毛長ねこを残して。
……ぼくだけを連れて。

タケルは何にもぼくに言わない。
でも、いつもよりぎゅっと、強くぼくを抱き締めてて……

あの。
……ちょっと苦しいんだけど。

ぼくはもがいてみる。
そうしたら、タケルはよけいに強くぼくを抱き締める。

……苦しいんだけど。

……ま、いいか。

タケルは海の側に戻って、くるまのドアを開けて。

もう帰るの?

……うん、今日はぼくもおうちがいいな。
崖のところに行くテレビ番組、見ようよ。

車の窓から外を見たら、5匹のねこはまだ並んでじーっと一人の男の人を囲んでいる。
ふたりの男の子は並んで海に向かってる。
その子たちの真ん前の海から、急にさかなが飛び出してきて……
きらっと光って……陸の上で跳ねた!

ね、ね、タケル、見た?
あの子、釣竿、持ってないんだよ!

ぼくはタケルを見て話しかけてみたけど。
タケルは気が付かないままで……

くるまが動き出した。

ぼくはタケルの横顔を見て、それから助手席のシートに丸まった。

……クーラーの中で、おさかなが跳ねてるみたいな音が聞こえる。
おうち帰ったら、それ、ねこまんまにしてね。


タケルの手がそっとぼくの頭を撫でた。




マコトはぼーっと歩いていて、車に轢かれかけたのですね。
でも、車を運転していた人も、彼女とデート中で前を見ていなくて、ちょっと危ない運転をしていた。
マコトが出て行ったのを追いかけてきたタケルがそれを見ていて……
マコトに怒って怒鳴っている運転手に、「お前の運転が危ない!」と怒っていたようで。

ま、マコトは分かっていないかもしれませんね。

limeさんの「メロメロに可愛がられるマコト」まではいきませんが、結構可愛がられているみたい…?
でも、ブラックでSなタケルがやっぱりいいかも……^^;


お楽しみいただけたなら幸いです(*^_^*)

週末なのに、今週末は平日みたいに働いている……
もちろん、平日のお休みはないまま……
庭掃除もできないまま……

でも、来週末は、初めて大阪にやって来る光一くんのSHOCKと、B'Zのライヴ!
さ来週末は、出張で熊本なので、ついでに(やっと)夏休みを数日とりました(*^_^*)
佐賀の巨石パークと、装飾古墳、大分のストーンサークルや巨石群を見に行く予定。
それまで頑張るぞ!



Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(7) 

【迷探偵マコトの事件簿】その9.マコト、行方不明になる

*前出・三味線記事へのコメント、ありがとうございます(*^_^*)
本日、演奏に行ってきます。帰ってきたらお返事しますね!

3333Hit記念企画、リクエスト編です。limeさんから頂いたリクエスト。
【海に落ちる雨】と逆パターンで、マコトがいなくなって慌てるタケルです。
遶ケ豬√→迪ォ・狙convert_20130629112022
(イラストは小説ブログ「DOOR」のlimeさん)

連作掌編ですが、これまでのものを読まれていなくても、なんの問題もありません。
内容はあさ~く、なにより楽しむことを前提にしてありますので、気楽にお楽しみくださいませ。
ただし今回は、それなりに力作(!)のため、やや長くなっています。
内容がないので、すぐ読めますけれど^^;

なお、これまで一貫してマコトの一人称で書いてきましたが、今回のお題の関係上、タケル視点などが初めて出てきます。お楽しみください。
また、かなり地の文を端折っております。想像力を駆使してご自由な世界でお読みください。
また、途中、マコトの思い込み、ネコの浅知恵的発言がありますが、さらりと読み流してください。

<登場人物>
マコト:一人前になりきれない、でもオトナだと言い張るツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。
タケル:ちょっぴり(かなり?)Sなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。
オンナ:タケルの恋人のひとりらしい。
他、数名(お楽しみに!)



【迷探偵マコトの事件簿その9.マコト、行方不明になる】


[Scene1] ぼくにできること

タケルがびょうきなんだ。
なんかね、とおいトコロに宝さがしに行って、びょうきをもらって来ちゃったんだって。
それでね、うつったらいけないからって、ぼく、部屋から追い出されてるんだ。

ニンゲンのびょうきだから、ねこにはうつらないと思うのに……
だからイイガカリなんだ!
オンナが来て、タケルとふたりっきりでいたいから、ぼくを追い出すんだ。

でも……
いつもだったら、ちょっとくらいびょうきでも、タケルがぼくを中に入れてくれるのに……
きっととってもしんどいんだ。
ぼくは入れてもらえない部屋のドアの横で、ずっと丸まってる。

うん。ぼく、分かってるよ。
ぼくはごはんも作ってあげられないし。
おくすりの用意もしてあげられないし。
毛づくろい、じゃなくて、からだを拭いてあげることもできないし。

だから、ぼく、おとなしくまってるね。

……まってるね。

……

オンナが出てきた。
ぼくはちょっと顔を上げる。

オンナは食べ物とか飲み物とか持って部屋を出入りするとき、きっとぼくをにらむんだ。
あなたが入ったらタケルの病気がもっと悪くなるわって。
だからここでいい子にしてなさいね、って。
そう言って、ぼくの前に冷たいまんまのミルクを置いて行く。

ぼく、もうお子ちゃまじゃないから、ミルクなんていらない。
タケルのねこまんまがいいもん。
だから、タケルが元気になるの、まってる。

……

……つまんないな。

……早く元気にならないかな。

時々、部屋の中からタケルの咳とか、聞こえる。
ぼくは耳を立てて、それを聞く。
ちょっとしんどそうなんだ。
ごはんも、たくさん食べれないみたいで、オンナはため息をついて部屋から出てくる。

なかなかよくならないね。
……ぼく、何もできなくてごめんね。

……丸まって待ってるだけなんて。

あれ、オンナが部屋の中で怒ってる。
ケンカしたのかな。
あ、出てきた。
……すごい睨まれた!
帰るのかな。

そうだ!

ぼくは、帰っていくオンナの後について行って、ドアからすべり出た。

きっとおいしいもの食べたら、すぐなおっちゃうよ!
きっとオンナのごはんがおいしくないんだ。
だって、タケルのごはん、すごくおいしいんだもん。

ぼく、タケルが好きなもの知ってる!
ぼくが採ってきてあげるね。
ぼくはおさかなと海のにおいを追いかけて走った。

いつもタケルがお買いものに行くツキジは、すぐそこなんだ。

わ。
おさかな、並んでる!
一匹、ちょうだいね!

って、わ~~~~~!!
おじちゃんが追いかけてくる~~!
いつも、可愛いねこだねって言ってくれるじゃないか!

今度はあっちのお店で。
一匹、ください!

って、わ~~~~~~!!!!
今度は犬が追いかけてくる~~~!!

タケルがびょうきなんだから。
ね、おねがい! ……って言っても、通じないや……

とぼとぼ。
ぼくは海っぺりを歩く。
ぼく、釣竿持ってないし。
自分じゃおさかな、捕まえられないよ。

あ。
しっぽならどうかなぁ?
しっぽでおさかな、とれるかも。
ぼくは海の方におしりを向けて、水面へとしっぽを垂らしてみた。

……やっぱりぼくのしっぽじゃ、海には届かないや。もちろんおさかなにも。
もうちょっと伸ばしたら、届くかな。

よいしょ。
おしりをもうちょっと落として……

う~ん。
もうちょっと……かなぁ。
ぼくは振り返ってみた……

とたんに! ずりっ! ぐらりっ!

あれ!?
うわっ!?

……じゃぼん!!!!!
ぶくぶくぶく……

わ~~~~~~~~~、タケル、タケル、タケル!!!!!
あっぷ、あっぷ、あっぷ。
ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ。
ぼく、泳げないよ!

助け……て……
……ぶくぶくぶくぶく……
何か、まっ白になってきた……

タケル……

……

……待ってて。ぼく、おさかな持って帰るから……

きっと、帰る、から……


[Scene2] 捜索願い

やれやれ。すっかり怒らせてしまったな。
全く、女というのは困った生き物だ。
猫と私のどっちが大事なのって、それを聞くのは反則と言うものだ。
それは答えられるような問いではない。
まぁ、そんなことをわざわざ聞く女という生き物は、それで可愛いものなんだが。
しかも、女は時々、現実的で的を射たことを言う。
猫なんて、何の役にも立たないじゃない。
……それは確かに当たっている。
でも、ちょっとあの拗ねたような、怒ったような顔を見たいんだ。

まだ熱っぽくて体がだるいが、マコトの顔を見て、この間買ったねこじゃらしでちょっとおちょくってみたら、気分もよくなるかもしれない。
そう思って、何とか起き上がって、リビングの方を覗いて見た。

……
マコト?

呼びかけてみたが、返事がない。

マコト?
俺はまだぼんやりとした頭と、動きの鈍い身体でマンション中を探してみたが、マコトの姿がない!

何でだ。
あいつは一人で、いや一匹で出かけることなどできないはずだ。
まさか。誘拐された?

俺は慌てて彼女に電話を入れる。
何よ! 私があんな可愛くないちびねこ、さらったとでも言うの?
冗談じゃないわよ! 熱で、ついに頭がおかしくなったの??
がちゃん!!!!!

俺は勢いよく受話器を叩きつける音に我に返った。
それはそうだ。俺としたことが、何を血迷っているのだろう。
彼女を疑うなんて。

何かの拍子にドアから出ていってしまったんだろうか。
あいつ、怖がりだし、一人で、いや一匹で遠くに行くことはないだろう。
俺はとにかく玄関のドアを開けて、廊下を覗いて見たが、やはりマコトの姿はない。

いったい、どこに行ったんだ。
この間も車に轢かれかけたし、ちゃんと前を見ていないし、危機管理がなってないし。
それに、なによりまだ仔猫だし。

俺はふらつく身体で外に出た。
だが身体がまるきり言うことを利かない。
倒れそうになって、また我に返った。
駄目だ、どうしても今、自分ではどうすることもできない。

俺は部屋に戻って、もう一度、押し入れの中までひっくり返して探してみたが、やっぱりマコトはいない。
そのうち帰ってくるだろうか。
少しだけ玄関のドアを開けて待ってみることにした。

少し動いただけでクラクラする。
俺はソファに横になり、少し休んだ。
その短い眠りの間に、奇妙な夢を見た。
マコトがどこか暗い所に沈んでいく……
俺は、自分の叫び声で目を覚ます。

駄目だ、じっと待っているなんてできない。警察だ。じゃなくて。
俺は電話帳をめくった。
ペットさがし専門探偵社。
あった。
……オフィス天道。


[Scene3] オフィス・天道

香月、お前ね。
天道さんは俺とこの子をじっと見ていたが、やがて溜息と共に言った。
いや、俺はさ、お前が趣味のひとつも持ってくれて嬉しいよ。
けどさ、釣りってのは普通、魚を釣るもんだぜ。それが猫を釣ってきてどうするよ。

ちょっと前、天道さんが、女を作るか、あるいは趣味のひとつも持ったらどうかと言った。
女はちょっと今はいいやと思うから、趣味に釣りなんかどうかな、と思ったんだ。
ぼ~っと暇つぶしもできるし、俺にぴったりだという気がする。
でも、行ったら釣れなかったんだよな。
ボウズってのも悔しいし、釣れたことにして築地の市場で魚でも買って帰ろうと思ったら。

はい、確かに猫を釣ってきました。
溺れてたんで、持っていた網で掬い上げただけなんだけど。

飼い猫かなぁ。
野良猫かなぁ。
病院、行かなくていいかなぁ。
お腹すいてないかなぁ。

ライナスとチップは、びしょぬれで怯えている猫に興味津々だ。
猫は震えながら俺にしがみ付いている。
犬が怖いんだろうか。

その時、電話が鳴った。
はい。
天道さんが電話に出る。

猫ですか。とりあえず事務所に来てくだされば……え? 来れない?
とにかく特徴と、いなくなった状況を教えてください。
え? 今いなくなったところ?
あなたね、それはもうちょっと待ってみたらどうなんです?
待てない? いや猫だってね、色々と忙しいものなんですよ。
いや、うちも商売ですからね、どうしてもというなら、すぐに探しに行きますけれどね。
いやいや、そんな高額の代金をせしめるつもりはありません。
まぁ、何か事情がおありなんですね。わかりました。
特徴をどうぞ。
茶トラ、オス、目は左が黒っぽい茶色、右が碧、いわゆるオッドアイですね。
額にマクドナルドの印みたいなМ、尻尾は長くて端までしましま。
脚も端までしましま。耳にちょっとキズあり。犬にやられた、と。
歳は1歳くらい。いなくなった場所は築地の近く?

天道さんはちらりと俺と猫を見る。

あの、お客さん、今目の前にそれとよく似た猫がいますよ。
いや、極めてそのものみたいな猫が……
うちの従業員が築地の近くで溺れそうなのを助けた……ちょっと、お客さん??

切れちゃったよ、えらく慌ててたなぁ。
そう言いながら、天道さんが猫をまじまじと見る。
確かに、耳にちょっとキズがある。

香月、お前すごいな。予知能力でもあるのか?
この依頼が来ることが分かっていて、魚の代わりに猫を釣ってきたのか?

いやいやいや、幾らなんでもそれはないでしょう。
それを言うなら、偶然にしても、うちに電話をかけてきたその飼い主の方にびっくりしてください。千里眼ですかね。
それから、さかなの代わりに猫を釣ったとか、いちいち言わないでください。

俺はそう言いながら、ずぶ濡れの猫を拭いてやり、温かいミルクを作ってやった。
けれども、猫はミルクには見向きもせずに、ライナスとチップを避けるように窓際の棚に上がってしまう。

猫は窓から外を見ている。
寂しそうに。心配そうに。……不安そうに。

その時、猫の耳がぴんと立った。
いっしょに窓の外を覗き見ると、タクシーから一人の男が慌てたように飛び出してくるところだった。
背の高い金髪の外国人だ。

猫は瞬時に棚を飛び降り、ドアに走り寄り、がりがりと引っ掻きだした。
開かないと分かると、俺の方を見て、にゃあにゃあ鳴く。
開けてやったら、転がるように飛び出していった。

車に轢かれたら大変と追いかけていったら、丁度金髪外国人が階段を上ってくるところだった。

マコト!
金髪外人が叫ぶ。

猫は転がり落ちるように階段を降り、途中でジャンプして、金髪外人の腕に飛び込んだ。
お見事。
金髪外人は猫をぎゅうっと抱き締めて、その頭をしきりに撫でている。

途端に、猫は何を思ったのか、我に返ったように、金髪外人の手にがぶっと噛みついた。
それから、いったん腕から飛び降り、そしてちょっと唸って、最後はちょっとしょんぼりして、結局金髪外人の足にくっついた。

その時。
金髪外人がぐらりと傾いて、階段に倒れ込む。
俺は慌てて駆け寄った。
猫がにゃあにゃあと悲鳴のように鳴く。

大丈夫ですか?
わ、すごい熱だ。

すみません。病み上がりで、ちょっとまだフラフラで。
金髪外人は流暢な日本語を話した。
病み上がりって、まだ十分、病の最中に見える。
そりゃ、自分で探しに行けないわけだ。
天道さんが下りてきたので、彼を助けて、とりあえず猫と彼をオフィスに誘う。
ソファに横になってもらって、それからしばらく休んでもらった。

猫は尻尾を海に垂らして、こんな感じで。
状況を説明してみると、この猫は魚を釣ろうとしていたような気がしてきた。
もしかして、病気の飼い主に美味い魚でも食わせてやりたいとか、思ったのかなぁ。
……まさかね。

やがて、如何にも時代がかった「執事」という感じのむっつりとした顔の男が、猫と金髪外人を迎えに来た。
何もしていないからと天道さんは代金を受け取らなかった。

でも、次の日、擦り切れてぼろぼろで穴も開いていたオフィス天道のソファは、素晴らしいすわり心地の新品にとって代わり、俺にはピカピカの釣竿セットが届いた。
某アイドルグループのリーダーも釣りが趣味だというし、お魚と戯れすぎてブログ更新もままならないブロガーさんもいるくらいだから、釣りってこれからちょっとトレンディかもね。

あの猫も、もう少ししたら、自分一人で、いや一匹で出かけるようになるだろうな。
そうしたら、たまに一緒に海釣りもいいかもしれない。
あるいは、もしかして、猫探しを手伝ってくれるかもしれない!
……なわけないか。
猫だし。

というわけで、しばらく「趣味」は釣りってことにしておこうと思う。


[Epilogue] When You Wish Upon a Star

……だって。
ぼくとしたことが、テンパっちゃって、タケルの胸に飛び込んじゃった……
まるで月曜日の夜9時からやっているドラマみたいだよね。
だから、ぼく、照れ隠しに、タケルの手、噛んじゃった。
……怒ってる?
……怒ってない?
タケルはまだしんどそうだけど、おうち帰ったら、ぼくのねこまんまだけは作ってくれた。
それから、一緒にお布団で眠るの。

……ぼくはタケルの横で夢を見る。
古いレコードから、音楽が聞こえる。

星に願いをかけるとき 君が誰かなんてことは関係ないんだよ
だから星に願いをかけてごらん 心から願えばきっと叶うから

うん……ぼくがねこでも、願い事をしていいんだよね。
だからぼくは星に願いをかけてみる。
タケルが早く良くなりますように。
オンナがぼくを苛めませんように。
ぼく、早くおっきくなって、いつかタケルのお手伝いができるようになるね。

……いつかきっと、豹になるぞ!






limeさん、リクエストありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。

ペット捜し専門探偵社・オフィス天道についてはこちら→→オフィス天道
【凍える星】の物語はすごく悲しいことや苦しいことも含まれていますが、私はlimeさんの物語の中でも特別にいいなぁと思いました。構成も登場人物たちも、とても素晴らしいです。
まだ読まれていない方は是非に!

さて、どうせ変な秘境にトレジャーハンターに行っていて、熱出したんだろう。変な感染症じゃないのか、とか、それなのに、うろうろしていていいのか、とか、あれこれ思うのですけれど、自分じゃどうしようもないくらいしんどい、という設定に無理やり持って行ってしまいました。
ま、これはファンタジー(!!)ですから、細かいことは目を瞑ってくださいね!

読んでいただいて、ありがとうございます(*^_^*)

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】秋・菊(前篇) 

stella
Stella
Stella 2013/11月号 投稿作品

遅くなりました。すっかりスカイさんのお言葉に甘えさせていただき、遅ればせながら投稿いたします。
小鬼のウゾくんがジョウブツを目指して奮闘中。
鬼になってしまった魂がジョウブツするためには、百鬼夜行学校の試験に合格して、108回の本番の百鬼夜行をやり遂げなければならない。
でも、ウゾくんは遅刻ばかりで、試験にも合格できないし、鬼としては半人前。
ウゾくんが遅刻するのには、何かわけがあるようなのだけれど。
そんなウゾくんが、花にまつわる事件を解決しながら、自分のヒミツと本当のジョウブツを手に入れるまでの物語です。
さて、秋は菊。菊の物語をお届けいたします。

なお、本当は1回で載せたかったのですが、長くなってしまったので、前後編でお届けいたします。

物語の発祥地となったウゾさんのブログはこちら→【百鬼夜行に遅刻しました】→ウゾさんのブログへ


【百鬼夜行に遅刻しました】秋・菊(前篇)

 長く暑い夏が終わった。
 朝や夕方はすっかり涼しくなり、過ごしやすい季節だ。もっとも、鬼には暑いも寒いもないのだが、ウゾはやっぱりちょっとほっとする。雨が多くなると、心なしか身体が楽なのだ。もちろん、タイフウとかいうデッカイ雨は鬱陶しいのだけれど、少しの雨ならむしろ身体が満たされたようになる。
 かといって、ウゾの遅刻が減るわけでもない。
 例のごとく、今日もウゾは一時間目の始業時間には間に合わなかった。

 ダンゴたちは最近、小賢しくなった。
「ウゾ、チコク」「ウゾ、フラレタ」「サクラ、コナイネ」「ウゾ、チコク」……
 語彙が増えたのは大いに結構だが、言えるのはそれだけだ。
 そうなのだ。ダンゴたちも気が付いているように、最近サクラちゃんは迎えに来てくれない。しかも、学校にはウゾより遅れてくることが多い。何度かサクラちゃんちに迎えに行ってみたが、サクラちゃんはナカラギのサクラの家にはいないのだ。
 遅刻して学校にやって来るサクラちゃんは、何となくぼんやりとしている。一度声を掛けてみたが、返事は上の空だった。

 ウゾはそれ以降、何となく話しかけられないままでいる。
 教官たちは何かを知っているのか、サクラちゃんをそっとしておいてあげているように見える。
 それに何日か前からは、遅刻してきたうえに、早く帰ってしまっていたのだ。
 病気なのかな。鬼の病気なんて聞いたことはないけれど、女の子には色々とあるのかもしれない。
 でも、今日こそはもち姫のところに行ってみよう。サクラちゃんは、ウゾには言えないことでも、もち姫になら相談しているかもしれない。
 ただ、もち姫が女の子の秘密を、何でもウゾに教えてくれるとは思えないのだが。

「ウゾ、牛の刻参りの授業の後、ちょっと話があります」
 そう言ってきたのは、教官の一人、パーフェクトのっぺらぼう女史だ。
完全なのっぺらぼうだということは、元がニンゲンではないということなのだが、実際、前世はキツネだったという噂だ。ニンゲンがのっぺらぼうになった場合には、パーフェクトにはならないので、キツネだけのことはあると、皆が感心している。
 顔がないので、怒っているのかどうか、よく分からない。
 その日、ウゾは何か悪いことをしたのかとびくびくしながら授業を受けていた。

 丑の刻参りの授業は、キブネ神社のさらに奥の山の中で行われる。
 人を呪わば穴二つ、とはよく言ったもので、呪いをかけたニンゲンは鬼としては下等な部類に入れられる。下等な鬼とされたら、死後のジョウブツはかなり難しい。少なくともそのままでは百鬼夜行学校への入学は許可されないので、情状酌量の余地があるのか、サイバンがある。
 サイバンは厳しいと聞いているが、どんな仕組みで行われるのか、判定をするのが誰であるのか、ウゾのような小鬼は知る由もないし、上級の鬼たちでも多分知っていないのだと思う。そういう難しいケースに対応するのは、きっと閻魔大王のような絶対権力者みたいな鬼なのだろう。そして、ジョウブツが認められない鬼たちは、この世のどこかで闇として渦を巻いている。

 鬼になってから、丑の刻参りの授業を受けても遅いと思うかもしれないが、実は丑の刻参りの呪いは鬼に大きく関わっている。呪いが跳ね返って、無関係の鬼に襲いかかってくることがあるのだ。ジョウブツを求めない不遜さ、あるいは失われたジョウブツへの強い憧憬、いや、何よりも呪いそのもののどす黒い闇は、ジョウブツを求めて頑張っている鬼たちには恐ろしいものだ。万が一それに取り込まれたら、ジョウブツどころの話ではない。
 ウゾはこの授業が苦手だ。
 呪いとか、人の心の闇とか、そういうものが鬼のくせに怖いのだ。

 人の心にそういうものが潜んでいることは理解できる、ような気がする。
 でも、ウゾにはその闇を覗いて見る勇気がない。ウゾは綺麗なものが好きだったし、こうして鬼になってしまっているけれど、色々なことを抱えながらもジョウブツを目指して一生懸命頑張っている仲間たちの気持ちの中にも、その綺麗なものがあると思っている。
 ウゾだって、遅刻ばかりしているけれど、ジョウブツする気持ちは満々なのだ。ジョウブツを選ばなかったグンソウのような鬼にさえなれない鬼もいるけれど、グンソウの気持ちだって、ウゾにとっては綺麗な気持ちに見える。

 だが、呪うというのは特別なことだ。ウゾだって、嫌いな奴はいる。いなくなっちゃえと思うことだってあるけれど、呪う、ということは別のことだ。
 授業は主に、その呪いを被らないような防衛方法についてだった。
 簡単に言うと、まずは「その場所に近付かないこと」が大事なのだ。自ら危険な場所に行かないこと、そのためには「危険」の臭いを覚えることが大事で、その臭いを学ぶためにその場所に行ってみるというのが、授業の手始めだった。

 授業が終わって皆が解散になった後、相変わらず表情からは何も読み取れない(当たり前だ、顔のパーツが何もないのだから)パーフェクトのっぺらぼう女史が、ウゾを手招きした。
 理由を尋ねようとしたところ、パーフェクトのっぺらぼう女史が指を口に当てた。いや、口があったはずの場所にあてた。
 そして、そのままするするとキブネの森の中をさらに奥に進んでいく。ウゾが見送っていると、パーフェクトのっぺらぼう女史が立ち止まって振り返る。
 来なさい、ということだ。

 ウゾはちょっと嫌な気持ちだった。森に棲んでいるくせに、ウゾは暗い森の奥が苦手なのだ。
 仕方がないので、ウゾは、足元に変なものがいないか気にしながら、そろそろとついて行った。変なものを踏んでしまうと、いつまでも足が臭くなるのだ。鬼になってしまった虫とか、肉体よりももっと厄介なタマシイの鬼火の残りかすとか、そういうものがこんな深い森には漂っている。
 下ばかり見ていると、突然、ウゾは何かにぶつかって、鼻をうった。目の前にあるのは、のっぺらぼう女史ののっぺらな顔のほうだった。
「な、な、なん……」
 のっぺらぼう女史の真っ白な指がウゾの口に封印をする。
 その指がウゾの口を離れたかと思うと、すーっと動いて、森の奥を指差した。

 ウゾは大声を出しそうになった。いや、出したつもりだったのだが、出なかった。
 のっぺらぼう女史のクチナシ術が利いていたのだ。
 のっぺらぼう女史の白い指のずっと先で、ぼんやりと光が揺れていた。
 よく見ると、ろうそくの火だった。
 もちろん、妖怪図鑑によくあるように、頭の上に鉄輪を載せてろうそくを立てているわけではない。足元に置いてあるだけだ。だが、白い装束の女性がしていることは、噂に聞く丑の刻参りなのだ。
 女の人は、白い顔をしている。手に持っているのは金槌。そして五寸釘で木に打ち付けているのは、藁人形のようだ。

 鬼のウゾとて、噂に聞くばかりで丑の刻参り自体を見たのは初めてだった。
 だが、ウゾを最も驚かせたのは、その女の人のやっていることではなかった。
 のっぺらぼう女史の指が正確に指していたのは、丑の刻参りをしている女の人ではなかった。

 サクラちゃん!!

 ウゾは気を失いそうになってしまった。
 サクラちゃんは女の人が藁人形を打ち付けている木の近くに隠れるようにして、じっと女の人を見つめているのだ。とても悲しそうな瞳が、ここからでもわかる。
 女の人は藁人形を打ち終わった後も、しばらくじっと立ったまま打ち付けたところを見ていた。悲しそうな後姿だとウゾは思った。そして、その人をじっと見つめているサクラちゃんもとても悲しそうなのだ。
 
 その時、女の人が不意に力が抜けたようにその場に座り込んだ。
 サクラちゃんが思わずその人に走り寄りそうになったけれど、すぐに足を止めた。
 ニンゲンに鬼が見えてしまったら、そのニンゲンは死んでしまうことがある。それもあまり良くない死の形だ。だからサクラちゃんは、足を止めたのだろう。
 女の人は、しばらく、闇の中で白く揺らめくろうそくの炎の中でうずくまっていた。やがて静かに立ち上がり、傍に置いてあった杖を手にすると、それに縋るように立ち上がる。そして、ゆっくりとウゾとのっぺらぼう女史の方へ歩いてきた。

 ウゾは振り返った女の人を見て、何かを思い出しそうで思い出せなくて、そして何より、サクラちゃんと同じように悲しくなった。女の人は目がうつろで、頬がこそげたようにやつれていて、白い装束の中の身体も力なく、崩れていきそうに見えた。
 ぼんやりと女の人の進路に突っ立っているウゾの首根っこをつかまえて、のっぺらぼう女史がぽわーんと木の上に飛び上がる。
 
 幸い、女の人にはウゾたちの姿は見えなかったようだった。それどころか、女の人の目には何も映らなくなっているのかも知れない。
 ウゾの足下を、女の人は杖にすがるようにしながら、ゆっくりと歩き去っていく。
「ウゾ、行きましょう」
 どこへと質問する間もなく、のっぺらぼう女史がするすると地上近くまで降りて、さらに森の奥へ進んでいく。
 まだ行くの? と問いかける間もなく、のっぺらぼう女史の目的がサクラちゃんを追いかけることだと分かって、ウゾも慌てて後を追った。

 サクラちゃんは暗い森の中をすたすたと歩いて行き、やがて細い川の近くに出た。水の側で立ち止まり、やがてかがみこんでそっと手を合わせる。
 何に手を合わせているのだろう。
 暗がりの中で、白い花がゆらゆらと揺れていた。
 しばらくじっと祈った後で、サクラちゃんは自分の前にある花の葉っぱをそっと手に取った。
 闇の中でも、その白い花の匂いがウゾにはすぐ分かった。

 菊だ。サクラちゃんは葉っぱを手にして、何か呪文を掛けるかのようにじっと座り込んでいたが、そのうちに立ちあがり、水の流れに沿って道なき道を下って行く。のっぺらぼう女史はその後をつけていく。ウゾも遅れまいと一緒に後を追った。
 やがて細い水流は川になる。サクラちゃんはずんずんと進んでいく。
 キブネの森を抜け、やがて川が太い流れになると、街の灯りが見える。

 サクラちゃんは灯りが見え始めると、ニンゲンの目に触れないようにと少し宙に浮きながら、車の通りを南へ下って行った。
 その頃になって、ウゾはやっとクチナシの術を解いてもらった。
 のっぺらぼう女史に質問したいことはいっぱいあったが、サクラちゃんの行き先のほうが気になる。
 サクラちゃんは、棲み処であるナカラギのサクラも通り過ぎて、さらに進んでいく。大きな通りに面した大きな建物が見えて来たとき、サクラちゃんはふわっと飛び上がった。
 すごい。サクラちゃんは、鳥の術なんか使わなくてもあんなに高く上がれるんだ。
 優等生のサクラちゃんはいろんなことをいっぱい勉強していて、ウゾよりもずっと物知りだった。自分の力ではあんなに高く飛び上れないウゾは、のっぺらぼう女史の力で浮き上がってついて行く。

 サクラちゃんは、その大きな建物の上層階まで昇って行って、暗い窓の外でしばらく浮かんでいた。やがて、すうっと吸い込まれるように窓の中へ入っていく。
 のっぺらぼう女史につかまったままのウゾは、その窓の傍に寄って行き、中を見た。

 部屋の中にはベッドが見える。そして、そのベッドに横たわっているのは、さっきキブネの森の中で見た女の人だった。白くて色のない顔は、枕元の明かりに照らされてより一層白く見える。
 サクラちゃんはその人の側にじっと立っている。正確には浮かんでいる。
 やがて大事に掌に乗せている菊の葉っぱから、女の人の暗い唇の上にそっと雫を零した。



 ウゾは何回も何回もそのサクラちゃんの哀しそうな瞳を頭に思い描き、そしてやっぱりもち姫のところにいこうと決めた。
 のっぺらぼう女史は、昨夜あの後、ウゾに何も説明しなかった。ただ、サクラちゃんを守ってあげるようにと言った。
 守るって何をどうしたらいいんだろう?

「ねぇ、もち姫、サクラちゃんは何をしていたのかなぁ? もち姫はサクラちゃんから何か聞いていない?」
 もち姫はふうっと息をつく。
「ウゾ、お前は何でも私に頼ろうとするけれど、何故サクラに自分で聞かないの?」
 それは痛い所をつかれたような気がするけれど、サクラちゃんの哀しそうな瞳を見つめるのは辛いのだ。
「サクラだって、心細いんじゃないかしら。あなたが助けてあげなければ」
「でも、どうしたら? サクラちゃんは、その、何となく何も話してくれそうにないんだ」
 それに何より、避けられているような気もするのだ。話しかけても最近、返事をしてくれない。

「お前にはひとつ、特技があるじゃないの。どうしてそれを使わないの?」
 特技? そんなものあったっけ? 遅刻の才能くらい?
「それじゃあ、お前に大事な言葉を授けてあげるわ。これは扉を開く呪文よ」
「呪文?」
「ジゲンジシュジョウ フクジュカイムリョウ」
「ジゲン……?」
 もち姫もまたその呪文以外何も教えてくれなかった。ウゾはすごすごとタダスの杜に帰ってきた。棲み処であるアキニレにもたれかかり、ふうとため息をつく。

 もち姫は最近、ちょっと厳しいんじゃないかな、と思う。そうだ、あの朝顔の精に会ってからかもしれない。いや、そうじゃないんだ。甘やかしていたら、いつまでもウゾがジョウブツできないと思っているのかもしれない。
「ウゾ、チコク」「ウゾ、フラレタ」「サクラ、サクラ」「コナイ、コナイ」
 遅刻どころか、今日はウゾも学校をサボっている。
 鬼が言うことではないけれど、あの怖くて足を踏み入れたくないキブネの森の奥に、今日もサクラちゃんは行っているような気がする。
 丑の刻参りは7日間続けなければならないという噂だ。だから、あの女の人は少なくとも昨日が7日目でなければ、今日もあの森に行くはずだった。そして、サクラちゃんも女の人のことを心配して行くはずに違いない。
 のっぺらぼう女史に、今日も連れて行って、と言うわけにはいかないだろう。
 自分でなんとかしなくちゃ。それは分かっているのだけれど。

「チガウ、チガウ」「サクラ、サクラ」「ウゾ、サクラ、スキ」「コナイ、コナイ」「チガウ、チガウ」
 え?
 ウゾは思わず顔を上げる。ダンゴが変な単語を覚えた。
 好き?
 それはもちろん、大事な友だちだもの。サクラちゃんの哀しそうな顔を見たくないんだ。
「ダンゴ、なんかいい知恵ない?」
 ダンゴたちに期待しても仕方がないのだけれど。
「チガウ、チガウ」「キタ、サクラ」「キタ、キタ」「サクラ、サクラ」「チガウ~!」
 何だかダンゴたちの語彙が増えているし、それに、何だかごちゃごちゃになっている。
「キク、キク」
 聞く? 来た? サクラ? じゃなくて、キク? 菊?

 不意に、ウゾの鼻がヒクヒクと動く。そうだ、秋が来たんだ。菊の匂いがタダスの杜に漂っている。今日は風が強いので、色んな菊たちの香りが順番にウゾに挨拶をしにくる。
 今年も咲いたよ。今年も顔を見に来てよ。今年は娘がいるのよ。
 そうだ、匂い。そして花たちの言葉。ウゾには花たちと話せるという特技があった。そして花たちの匂いを、どの一輪のものであっても区別することができる。

 ウゾは立ち上がり、ふん、と肩に力を入れた。
 そして、思い切り風を吸い込むと、韋駄天のごとく走って、川を遡った。
 遅刻常習犯の脚力を生かしたら、キブネの山はそんなに遠くないはずだ。
 途中、あちこちから菊たちの匂いが香ってきた。秋の訪れだった。
 だが、今ウゾが探しているのは、ただ一つの菊だ。
 昨夜、サクラちゃんが祈っていた菊。

 目や耳の記憶をたどるよりも、ウゾにとっては一番頼りになるのが匂いだった。そして、その匂いは間違いなくウゾをあの菊のもとへと導いた。
 強い香りだ。どの菊よりも強く、甘く、香っている。
 それはその菊に、多くの記憶が詰め込まれているからだ。
 花の匂いさえあれば、ウゾは怖いものなんてないと思えた。

 確かにこの菊の匂いだ。
 ウゾは立ち止まる。そして、小さな流れの側に咲く菊にそっと触れた。
「ねぇ、教えて。サクラちゃんは何を願っていたの?」
 その菊は、いっそう芳醇な香りを放った。だが、何も答えてくれようとしない。
「サクラちゃんを助けたいんだ。お願いだよ、教えて」
 願いや想いが強い封印で閉じ込められているような、頑なな気配がする。こじ開けようとしても、花は優しく嫋やかでいて、犯そうとする力に対しては何も応えてくれないのだ。
 水を与えなければ咲くこともなく、何も告げることもない。

 水。
 サクラちゃんがそっと菊の葉から零していた雫。その雫はサクラちゃんの涙のように、女の人の唇に滴り、サクラちゃんの魂が女の人に囁きかけているようだった。
 僕はサクラちゃんの力になってあげたい。
 それなのに、のっぺらぼう女史ももち姫も何も教えてくれなかった。
 何も。
 何も?
 いや、もち姫は、教えてくれた。何だったっけ? 扉を開く呪文。
 ジ……

「ジゲンジシュジョウ フクジュカイムリョウ」
 口に出してみたその時、ウゾの唇から、文字が流れ出た。
 古い古い記憶。慈しみの心と、過ちと、願い。そして孤独の哀しみ。
 これって、誰の記憶だろう?
 優しく、甘く、そして悲しい。

「お前か、吾を呼ぶものは。この頃は、騒がしいものだ。いや、いつの世も、人というものは浅ましくも悲しく不老不死を求めてやって来る」
 ウゾは目を見張った。
 目の前に立っているのは、見目麗しい少年で、艶やかな肌と黒々とした髪には、夜の巷にざわめく微かな光が吸い込まれていくようだ。
 だが、その目は決して、周囲を顧みず無謀にも前に向かって突き進むような、若々しい力に満ちたものではなかった。それは老人の目だ。
「あ、あの……あなたは?」
「ほぉ。小鬼か。死者が吾に用事があるとは」
 そう言ってから、少年はじっとウゾの目を覗き見た。

「いや、お前はただの死者ではないようだ。しかし、今さら不老不死を求めても仕方のない身のようだというのに、吾を呼び出した訳とは」
「すみません。あの、昨日、女の子がここに来ていましたよね。ぼ、僕は、その……」
 少年は老いた目でウゾをじっと見つめている。ウゾはしどろもどろになった舌を一旦止めて、息を吸い込んだ。甘く悲しい菊の香りが鼻腔を満たす。
「その子はサクラちゃんというんですけど、今、何かとても苦しんでいて、その……」
 少年の目の色は変わらない。氷のように悲しい色のままだった。

 ウゾは一度口を開きかけて、留めた。何かを説明しようとしても上手く言えない。
 ……でも、これだけは確かなことだ。
「サクラちゃんは僕の大事な友だちなんだ。僕は、サクラちゃんが大好きなんだ。だから困っているのなら、助けてあげたい」
 ふわっと、菊の香りが甘くなった。それと同時に、少年の目が揺れたように見えた。
「なるほど。小鬼よ、あの娘の友であったか」
 少年はそっと自らの身体である葉を一枚手に取り、さらさらと幻の文字をその表に書き記した。

 慈眼視衆生 福寿海無量
 観音様はいつでも優しく思いやりの目を持って私たち衆生を見てくださる。観音様を一心に信じれば、福の集まること海の如く無量にある。

「ではまず、吾の話を聞くがよい。小鬼よ。これは法華経の八句の偈、その中の普門品の二句である。今より3000年も前の頃、周の穆王(ぼくおう)がよい馬を手に入れ方々を回っていたが、ある時、釈尊に出会った。釈尊は彼に国を授け、それと同時に国を治めるための法を授けた。それが八句の偈だ。吾は穆王の寵愛を受けた童子であった。しかしある時、誤って帝の御枕を跨いでしまったのだ。そのため、野獣の住む寂しいレッケン山に流罪とされることとなった。その時、帝が吾を憐れんで、この二句をそっと伝授してくださったのだ」
「3000年? あなたはとても若く見えます」
「1800年近くも前のこと、魏の文帝の使いにも同じことを言われた。しかし、小鬼、まずは吾の話を最後まで聞くが良い」
 ウゾはうん、と頷いた。本当はサクラちゃんのことが心配だった。
 花たちはいつも少しだけ回りくどいのだ。自分の物語を聞いて欲しいと思っている。
 でも、花たちもまた、この世に咲き出て散るまでの間、懸命の命を生きている。そして、自分の中で脈々と繋がっている命の連鎖、その記憶を、誰かに分かち合って欲しいと願っている。

「吾、当時の名を慈童と言ったが、恐ろしい山の中に流罪にされたことよりも、帝に会えないことを悲しく思っていた。悲しみのあまり、毎日枕を濡らし、その乾く間もなかったのだ。しかし、帝に言われた通り、授けられた偈を忘れないようにと菊の葉に書きつけ、毎朝唱えていた。またいつか、帝にお会いできる日を信じて」
 ウゾは少し身を乗り出した。
「小鬼よ、吾は知らなかったのだ。その使いがやって来るまで、1000年もの時が流れていたことを。吾の姿は何ひとつ変わることがなかったのだから、昨日今日のことと思っていた。吾が帝の御身を尋ねると、彼らはその時から何代も帝は変わり、今は魏の文帝の時代であると言った。文帝は、レッケン山より流れ出た水を飲んでいた人々の病気が治り、不老不死の長寿を保ったことを聞きつけた。彼らは文帝に召され、上流の様子を見に来て、吾を見出したのだ」

「それで、あなたはどうしたの?」
「吾は期せずして不老不死となり、1000年の時を生き延びてしまったことを知った。今もなお、死ぬることなくこの世にある。その上、吾の触れた菊の葉にたまった露が川に滲み入ると、流れる水がすべて天の甘露の霊薬になった。しかし、それからさらに2000年もの時が過ぎ、少しずつ霊力は衰えてきているようだ。何故なら、吾の心には悲しみが降り積もっていくからだ」
「哀しみが降り積もる……」
「慕う人のない世をいたずらに永らえて何の楽しみがあろうか。求める愛が叶わぬまま、時だけが過ぎていくのだ。不老不死とはすなわち、果てしない孤独ということなのだ」

 老いた目の少年は静かに語る。ウゾは今、言葉に引き込まれていた。
 自らを生きながら鬼に変えて釘を打ち付けていた女の人、その人が横たわっていたベッドのシーツの白さを思い出した。
「でもせめて、病がなければ、穏やかに過ごせるのに」
「小鬼よ、病には二通りある。一つは死に至る病、もう一つは死することのない病だ。あるいは、ひとつは心を殺す病、もうひとつは心の闇を乗り越えていくための病だ」
 そう言って、老いた少年は、件の二句を書きつけた葉をウゾに渡した。

「それを持っているが良い。吾が触れた故に、その葉から滴る水は霊水となろう。それをどのように使うか、それはお前に任せよう。お前が望めば、そこからは真に不老不死の水が零れるであろうし、あるいはまた別の望みを強く願えば、別の救いをもたらすこともできるであろう。小鬼よ、求めることだ。ただ泣き迷っているだけでは、本当の意味での救いは与えられず、吾のように死することもできず、ただ永遠に続く時間だけを友とせねばならぬ」
 ウゾは少年に言った。
「サクラちゃんのことを教えて」
「小鬼よ、それはお前が自ら聞くが良い。お前が本当に彼女を助けたいのなら」
 菊の記憶を持つ慈童はそう告げると、花に吸い込まれるようにして消えた。


「ウゾくん?」
 ウゾははっと顔を上げる。
「サクラちゃん」
 ウゾは真正面に立ったサクラちゃんを見つめた。サクラちゃんの目は昨日の夜と同じ、悲しい目だったけれど、今は驚きの方が大きいようだった。この哀しみと驚きの上に、今は穏やかな優しさを重ねてあげたかった。
「どうしてここに?」
「サクラちゃんが心配だったんだ。あの」
 ウゾは一度俯いた。そして、菊慈童に授けられた菊の葉をそっと両の手で包み込んだ。
 顔を上げた時、ウゾははっきりとした声で言った。
「サクラちゃん、僕は、その、遅刻ばっかりしていて、あ、今日なんかはさぼっちゃったりしているんだけど、そんなので頼りないかもしれないけれど、でも、サクラちゃんの力になりたいんだ」

 サクラちゃんはしばらく返事をしなかった。じっとウゾを見つめている。
 でもそのうち、サクラちゃんの大きな目に涙がいっぱい溜まって、ぽろぽろと流れ落ちた。

(後篇へ続く)




もともとかなり短かったものを書きなおして、長くなっています。ついでに内容も、大きく変えてしまいましたが、少しややこしくなってしまったかもしれません。
でも、ウゾくんやサクラちゃんの成長も見守ってやってください(*^_^*)
後篇、少しお待ちくださいね。
よろしくお願いいたします(^^)

それから、コメ返が遅くなっていてごめんなさい。ちょっとゴタゴタとパニックが続いていて、もう少しお時間を下さいませ。いつもありがとうございます m(__)m

Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】秋・菊(後篇) 

stella
Stella 2013/12月号 投稿作品

どうやら、タイトル通り、遅刻することが常連になっているこの作品(何の言い訳??)。
スカイさん、ご迷惑をおかけして、しかもご配慮いただき、ありがとうございました m(__)m
お待たせしました(待ってくださっていたと信じて!)、秋篇の後篇をお届けいたします。
すっかり12月号なのに、世間はクリスマス物語で溢れているのに、いまだに秋の菊。
でも、近所のお庭には菊が綺麗に咲いています^^;
……本当はクリスマスのお話も間に合わせたかったけれど、それはまたクリスマスに(できれば)。

前篇はこちらです→→【百鬼夜行に遅刻しました】秋・菊(前篇)
サクラちゃんがキブネの森に通っている。百鬼夜行学校の先生の一人・パーフェクトのっぺらぼう女子にそのことを教えられたウゾは、丑の刻参りをする女の人を見てしまいます。サクラちゃんは病に伏すその人のために、不老不死の霊水・菊の雫を運んであげているのですが……
人の生死を左右しようとすることは危険なことのはず。
そして、ウゾは、菊の雫を司る不老不死の菊慈童に会い、命を定める菊の霊水を授かります。
サクラちゃんと出会ったウゾ、果たしてどうする?






「ウゾくん……!」
 いつでもウゾよりも逞しくて、物知りで、努力家で、何だか頑張っちゃっているサクラちゃんだったけれど、その時、サクラちゃんは気持ちの糸が切れたみたいだった。ウゾに駆け寄り、抱きつくと、わっと泣き出した。
 ウゾはどうしたらいいのか分からず、少しの間何も言えなかった。でも、サクラちゃんの涙の重みを受け止めているうちに、助けてあげたいと心から思った。
 ちょっと恥ずかしいと思ったけれど、ウゾはサクラちゃんをぐっと抱き締めてあげた。

 しばらくするとサクラちゃんはようやく泣き止んで、ぐすんと鼻をすすりあげた。
「一緒に来て」
 サクラちゃんがそう言って、昨日と同じように菊の花に手を合わせた。それから葉を手折ろうとしたけれど、ウゾはそっと止めた。
「菊の葉は、もう僕が持っているから」
 サクラちゃんはウゾの掌の上の菊の葉、その菊の葉の上に溜まった雫を見つめていた。雫は、鬼にしか見えない光を映して、ウゾの掌の上でキラキラと転がっているように見えた。

「これ、どうしたの?」
「菊の精、じゃなくて、菊慈童に会ったんだ」
 サクラちゃんはびっくりしたような顔をした。
「……そうなの」
「彼と話した?」
「ううん。私は会ったことはないの。やっぱりウゾくんはすごいね。花たちとお話ができる」
 え、そうなのか、とウゾはサクラちゃんを見た。それは誰でもできることだと思っていた。特にサクラちゃんのような優秀な鬼なら。
 ウゾはサクラちゃんと一緒に川を下った。川を下って、昨日の大きな建物まで行って、それからあの女の人が眠っている部屋に壁抜け(今回の場合は正確には窓抜け)をして入っていった。


 サクラちゃんはじっと女の人を見つめて、それからポロリと涙をこぼした。
「私のお母さんなの」
「うん」
 ウゾは頷いた。
「病気なんだね。確か、サクラちゃんは病気のお母さんにナカラギのサクラの花びらを見せてあげたくて、それでバイクに轢かれちゃったんだよね」
 サクラちゃんは頷く。

「私、もしかしてお母さんの病気が治ったらいいのにって、そう思って、ずっと菊のことを調べていたの。お母さんの病気は治らないって、もうそんなに長くは生きられないんだって、それは知っていたんだけれど……病気で苦しそうなお母さんを見ていたら、治してあげたくて、少しでも苦しくないようにしてあげたくて、病気が治って少しでも長く生きて欲しくて。そうしたらあの菊が不老不死の雫を持つ菊だって、病気も治るかも知れないって、キブネの森の精が教えてくれたの」
「それで、お母さんに菊の葉の雫を運んであげていたんだね」

 ウゾはそっとサクラちゃんの手を握った。サクラちゃんもきゅっとウゾの手を握り返してきた。震えていたけれど、そして鬼の手だから決してあったかくはないはずだけれど、ウゾにはとても温かく感じられた。
「お母さんは犯人ものかもしれないっていうイリュウヒンを警察の人に見せられて、その中から何かを手に入れたみたいなの。それを使って……」
「丑の刻参りを始めたんだね」
 丑の刻参りには呪う相手の一部が必要だ。イリュウヒンが何かは分からないけれど、サクラちゃんのお母さんはそれが犯人のものに違いないと思ったのだ。

「毎日、お母さんの魂が抜け出して、あの山に行くの。もしかしてお母さんが闇の鬼になってしまったら……どうしたらいいのか分からなくて。先生かもち姫に相談しようと思ったけれど、それも怖くて。お母さんがしていることはいいことじゃないよね。お母さんが罰を受けるかもしれない、鬼にもなれなくて、ジョウブツもできなくて、私たちとは違う世界に行ってしまうかもしれないことが怖くて」
「今日は何日目?」
「7日目」
「じゃあ、まだぎりぎり間に合うよ」
 ウゾは掌の上の菊の葉を見つめた。

 呪いが成就される前に、お母さんを清めてあげて、そして魂が抜け出すことのないようにしてあげればいい。
でも、サクラちゃんのお母さんの、サクラちゃんを殺したハンニンへの恨みは消えることはないだろう。だから、生きている限り、また恨みはどんどん降り積もっていく。
 サクラちゃんは、お母さんの病気を治したくて、そして少しでも長生きをしてほしくて、呪いをかけたまま死んでしまったりしないようにと、一生懸命だったのだ。
 でも、このままなら……

「サクラちゃん、お母さんの命の時間は、きっとサクラちゃんには変えられないよ」
「……分かってる」
 僕が願えば、それが叶えられる。
 菊慈童はそう僕に言った。
 この菊の雫は霊水だ。菊の精が言いたかったのは、命を永らえるのも、命を終わらせるのも、この霊水の役割なのだということだったのだろう。
 僕が命を決めるのは正しくない。運命に逆らうようなことなのであれば、僕が決めるべきじゃない。でも、この菊の雫は、その人の運命を正しく決めてくれるはずだ。サクラちゃんが生きていてほしいと願う人の命であっても。

「私のお父さんは、私が生まれてすぐに交通事故で死んじゃったの。だからお母さんは一生懸命働いて、一人で私を育ててくれたの。少しでも私と一緒にいられるようにって、保育園の先生になって、時には夜も働いていて。お母さんが忙しかったり、他の子のことで一生懸命だったりして、寂しい時もあったけど、二人きりの時は、あったかい手で私の手を握ったまま、いつもいっぱいお話をしてくれた。優しい声だったよ。一緒にカモガワをお散歩したり、お花を探しに行ったりもしたの。でも、一生懸命働いて、一生懸命私や他の子どもの面倒も見て、頑張りすぎちゃったから病気で倒れちゃったの。それからすぐに私が殺されちゃって」

 サクラちゃんはさらりと言ったけれど、ウゾはちょっと背中がぞくっとした。
 そうだ、サクラちゃんは殺されたんだった。そして、ウゾだって、その犯人が憎いと思うお母さんの気持ちが分かるのだ。
 だって、サクラちゃんはこんなにも可愛い子なんだから。

 サクラちゃんはしばらく下を向いていたけれど、やがて顔を上げた。
「お母さんは、お父さんも私もいなくなって寂しいと思うけれど、でも、やっぱり元気になって欲しかった。長生きして、私の代わりに、お母さんを頼っているたくさんの子どもに、幸せを教えてあげて欲しかった」
 サクラちゃんの気持ちはとてもよく分かった。でも、お母さんの病気はあんまりよくないんだね、とウゾが聞いたら、サクラちゃんは何も言わずに涙を流して俯いてしまった。
 お母さんは、残り少ない命で犯人を捜すことも叶わないなら、鬼になって呪って死のうと思ったんだろう。でも、それはサクラちゃんのお母さんの心を追い詰めてしまうだけだ。

「サクラちゃん、どうなっても、僕に任せてくれる?」
 サクラちゃんは黙ってウゾを見つめていた。悲しく、辛く、とても苦しい顔に見えたけれど、やがて目を伏せ、それから顔を上げた時には、いつものサクラちゃんの目だった。強くて、頑張り屋で、泣き虫だけれど自分にとても正直で、とても優しいサクラちゃんだった。
 サクラちゃんはウゾの目をしっかりと見て、それから、うんと頷いた。
「ウゾくんを信じる」
 
 ウゾはサクラちゃんに、今日は丑の刻参りに行くお母さんを見てもついて行かないようにと言った。
 サクラちゃんは少しの間考えていた。そして、俯いたままだったけれど、最後にはしっかりとした声で言った。
「ウゾくん、ごめんね。ウゾくんに任せるよ」
 サクラちゃんはギュッとウゾの手を握った。そして、まるでお母さんの手を離したくないとでも言うように、いつまでもウゾの手を離さなかった。
 本当だったらウゾは女の子にこんなふうに手を握られたら、照れてしまって手を離してしまうのだけど、今はサクラちゃんに、ぜったい僕が君を守ってあげるということを伝えたかった。だから、ウゾもギュッとサクラちゃんの手を握った。




 偉そうに、かっこいいことを言ったものの、ウゾは困ってしまった。
 もち姫の知恵を借りようと、こそこそともち姫の家まで行ってみたが、もち姫は縁側で眠っていた。ウゾは何度も声を掛けようと思ったけれど、何故か声が出なかった。
 そうだよね。
 もち姫は僕に一人で頑張れって、何度もそう言いたかったんだよね。
 でも……
 もち姫の家の竹垣の陰でウゾはふぅとため息をついて、足元を見た。

 あれ?
 ピンクの花びらが落ちている。この匂いは……
 ナカラギのサクラの花びらだ。
 どうしてこんな季節に?
 その時、ふと、ウゾは思い出した。初めてサクラちゃんに会ったとき、のっぺらぼうになりかかっていたサクラちゃんの手を引っ張ってここに来て、その時サクラちゃんのスカートのポケットから、ナカラギの桜の花びらがいっぱい零れ落ちたのだった。

 サクラちゃんは、病気のお母さんに桜の花びらを持って行ってあげたくて、そして事故に遭ったのだ。
 この桜の花びらは、サクラちゃんの魔法なのかも。サクラちゃんの気持ちが、この空間のどこかに花びらを残している。それとも、もち姫からの応援のメッセージ?
 ウゾは桜の花びらを拾い集め、ポケットにしまった。
 うん、もち姫、サクラちゃん、僕、やってみるよ。




 そしてその夜、丑の刻。
 それでもやっぱり、ウゾはびくびくしながら一人でキブネの森にやって来た。
 もちろん、学校はサボっている。パーフェクトのっぺらぼう女史が何かを察してくれているのか、学校からはこの数日の無断欠席について何も言ってこない。本当なら、使いの蛇がやってきて、サボった理由についてのレポートを108枚も提出させられるのだけれど。

 そのことは後で考えよう。
 ウゾはおっかなびっくり、つまり呪いを被らないようにしながら、足元の虫の鬼を踏まないようにしながら、そろそろと歩いている。
 キブネの森はタダスの杜よりも奥が深い。本当の闇の世界にもつながっているような気がする。この奥に入り込んでしまったら、抜け出せなくなることもあるのかもしれない。

 ウゾは木に凭れて、ふうっとため息をついた。
 サクラちゃんはちゃんと学校に行ったかな。一緒に行きたいというのを止めて、今日はちゃんと学校に行くほうがいいよ、と言ったら、黙って俯いていた。
 サクラちゃんは僕に任せると言ってくれた。だから、僕はそれに応えなくちゃ。何ができるかは分からないけれど、サクラちゃんのお母さんを救ってあげたい。
 でも、救う、なんてことは本当は簡単には言えない。僕はちょっとはやまってしまったかもしれない。サクラちゃんにかっこいい所を見せたかったし、それにこのままじゃいけないと思ったのだ。何だか分からないけれど、人を呪うなんてのは。

 その時、白い影がゆっくりとウゾの隠れる木のほうへ近づいてきた。ウゾは慌てて立ち上がる。
 サクラちゃんのお母さんだ。
 数日前に見た時は、もう少しニンゲンのような顔つきだった。でも今日は随分と違ってしまっている。誰かを呪うということは、そのニンゲンを人間ではなくしていくことなのかもしれない。
 もちろん、呪うには呪うだけの理由があるのだ。それは分かっているけれど。

 サクラちゃんのお母さんはゆっくりと大きな木に近付いて行く。木の前で立ち止まり、足元に灯りを置く。冷たい土を踏んでいる足には靴を履いていない。白くて消えてしまいそうな肌の色だった。
 どうしよう。
 ウゾは特別な方法があればそうしたかった。お母さんが鬼のウゾを見たら、お母さんはそれだけでも死期を早めてしまうかもしれない。サクラちゃんが、少しでも長く生きていてほしいと菊の雫に祈っていたお母さんの命を、ウゾが取り上げてしまうことになるかもしれないのだ。

 でも、今回ばかりは、もち姫も何も教えてくれそうになかった。ウゾにサクラちゃんのことを知らせたパーフェクトのっぺらぼう女史だって、ウゾの欠席については配慮してくれているのかもしれないが、このことに手を貸してくれる気配などない。ましてや、タタラになんか知られたら大変なことになりそうだ。
けれど、小鬼の知恵で何ができるだろう。
 風が木々の間から不穏な臭いを伴って吹き込んで、枯葉を舞い上げた。

 どうしよう。
 いつもなら、サクラちゃんがウゾの知恵袋だった。一緒に遅刻した時の言い訳だって、サクラちゃんの役割だった。サクラちゃんは好奇心旺盛で、何だって一生懸命勉強していた。そのサクラちゃんこそ、今一番苦しんでいるのだ。
 ウゾが思いを巡らしているしばらくの間、お母さんは木の前に立ったままだったけれど、やがて懐から藁で編んだ人形を取り出した。
 そして、人形を木に押し付けるようにして、藁の胸に釘を当て、手に持っていた木槌を振り上げた。

「待って!」
 もう妙案など考えている場合ではなかった。
 振り上げられた木槌は、お母さんの頭の上のほうでぴたりと止まった。
 風の音が急に止んだ。
「サクラちゃんのお母さん、サクラちゃんが悲しむようなことなしないで」
 その言葉に、お母さんはウゾを振り返った。その形相は、鬼のウゾよりもずっと鬼のようだった。

「吾を呼ぶものは誰だ」
 ウゾは足が竦んでしまっていた。それはサクラちゃんのお母さんの声とは思えなかった。サクラちゃんはお母さんは優しい声をしていたと言っていた。きっとサクラちゃんによく似た綺麗な声だったのだろう。
「ぼ、僕は……」
 ウゾは喉の奥に何かが引っかかってしまって、言葉を呑み込んだ。
「見られてしまったからには、お前を殺さなくてはならない」
 お母さんが闇に響くような声で言って、ウゾに向かって木槌を振り上げた。口が大きく裂けたように見えた。

 ウゾは咄嗟に叫んだ。
「だめだよ。僕はもう死んでるんだから、もう死なないんだ。お母さん、僕、サクラちゃんの友だちなんだ! サクラちゃんが僕にお母さんのことを頼んだんだ。だから僕は……!」
 ウゾは声を振り絞った。お母さんは、ウゾの言うことなど聞こえていないようだった。そのまま木槌を振り上げる。ウゾはその木槌を見上げて驚いた。

 呪いのかかった木槌は、鬼を裂き殺してしまいそうな刃に替わっていた。闇の中でもぞっとする光を吸い込んで光っている。
 もしかして、鬼でもやられちゃうのかも。
 そうだった。呪いがジョウブツしようと頑張っている鬼に降りかかることがあるって、そうなったらもうジョウブツできなくなってしまうんだって、この間の授業はそういうことだったじゃないか!
 だから呪いを被るようなところに行っちゃいけないって!

 あぁ、でも、呪いをかけた方はサイバンがあるんだって聞いたけれど、とばっちりで呪いを被っちゃった鬼はどうなるんだろう。
 ジョウブツもできなくなって、学校にも行けなくなって、サクラちゃんにも会えなくなって……!
 その時、ウゾの頭に大きな衝撃が加わった。
 ウゾは咄嗟にサクラちゃんのお母さんの手を掴んだ。

 ウゾは叫んでいた。
 お母さん! サクラちゃんのお母さん! 僕、それでも、どうなっても、サクラちゃんを悲しませたくないんだ!!!
 その時、ウゾは何かに吸い込まれていくような気がした。
 サクラちゃん……!
 もち姫……!
 ……それから、先生たち。
 あれ、どうして、タタラの顔が真っ先に浮かぶんだろ。
 意識がふわりと身体から一度抜け出しそうになった。


 急に、辺りは真っ白になった。
 ウゾは真っ白の中に引っ張り込まれていた。
 離れそうになった意識がウゾの身体の中に戻ってきたとき、ウゾは真っ白の中に立っていた。
 不思議と明るい真っ白。
 闇の光とはまるで違う、どこまでも白い明るさ。
 ここ、どこだろう?

『あなたはいったい誰なの?』
 いつの間にか、目の前に真っ白な着物を着た女の人が立っていた。顔ははっきりと見えなかったけれど、ウゾには分かった。
 サクラちゃんのお母さん。
『僕はウゾ。サクラちゃんの友だちなんだ』
『咲耶姫の友だち? なぜ、咲耶姫の友だちがこんなところに……。咲耶姫はどうしているの?』

 ここは、サクラちゃんのお母さんの心の中だ。まだ心の中にこんなに綺麗なまっ白な世界があったんだ。
ウゾはくっと背を伸ばした。
『サクラちゃんに約束したんだ。お母さん、サクラちゃんは毎日、お母さんの傍にいたんだよ。毎日、お母さんを心配して、お母さんの病院に通ってたんだ。そしてキブネの森にも。呪いを被るかもしれないのに、お母さんのことが心配で』
『咲耶姫は死んでしまって、いいえ、殺されてしまって、私はもう咲耶姫に会えないのに』
『でも、お母さんが人を呪うようなことをして、呪いのために闇の鬼になってしまったら、サクラちゃんはものすごく悲しむよ。お願い、サクラちゃんを悲しませないで』

『私の命はもう長くない。毎日のように警察にも行ったけれど、咲耶姫を殺した犯人は捕まりそうにもない。ちゃんと調べてもらえているのかも分からない。私には方法も時間もないの。犯人が憎い。咲耶姫を殺したのに、その誰かは生きているなんて。だから、呪い殺してやることに決めたの!』
 サクラちゃんのお母さんの白い顔が急に炎に巻かれたようになった。ウゾは慌ててお母さんの手を握った。その手も怒りのためか、赤く熱くなっていた。
『お母さん、サクラちゃんは、お母さんの病気が治って、長生きしてくれたらって。もしかして病気が治ったら、他の子どもたちに幸せを分けてあげて欲しいって、そう祈ってたんだよ。不老不死の霊水だという菊の葉から零れる水をとるために、おっかないキブネの森の奥に一人で来て、お母さんに届けてたんだ。それからこれ』

 ウゾはポケットに手を入れた。そして、お母さんの怒りと悲しみで熱くなった手を取って、ポケットの中から取り出したものを、そっとその掌に載せてあげた。
 お母さんの掌に、いっぱいのナカラギの桜の花びらが溢れた。花びらたちは掌からひらひらと舞い落ち、そして最後に、一番の桜色の花びらが残った。
『これがサクラちゃんの気持ちだよ』

 お母さんは動かなかった。最後の桜の花びらはお母さんの怒りを吸い込んで、少し濃いピンクに染まり、そのうちお母さんの炎のような手は、再び白くなっていた。
 お母さんはやはり動かないまま、掌に残ったナカラギの桜の花びらをじっと見つめていたが、やがてその上に涙をこぼし、強く握りしめた。桜の花びらはお母さんの涙を吸い込んで、元の優しい桜色に戻った。
『咲耶姫に会いたい。咲耶姫を抱き締めてあげたい』

 ウゾは、自分が覚えていないお母さんのことを思った。僕のお母さんも、僕のことをこんなふうに思ってくれているんだろうか。
 お母さんに会いたい。僕も、サクラちゃんも。でも。
『お母さん、サクラちゃんのことは僕に預けてください。サクラちゃんを殺してしまった犯人のことも。僕がきっと見つけ出して、訳を聞くから。もしもその人が後悔していないなら、僕が……』
 ウゾは言葉を飲み込んだ。僕に、決められることじゃない。でも。

『でも、もう遅いのよ。今日はもう7日目。私はこうして闇の鬼に取り込まれて、消えていこうとしている。呪いだけがこの世に残って、キブネの森の奥で渦を巻くわ。もう私は本当の鬼になってしまったの』
『そんなことはないはずだよ。今日はまだ7日目なんだ。今日、釘を打たなかったら』
『ごめんなさい。小鬼さん。あなたの名前を聞いていなかったわね』
『僕はウゾ。サクラちゃんの友だちだ』
 真っ白なお母さんは最後にウゾの手を握りしめて、ウゾの手にナカラギの最後の桜の花びらを残し、ふわりと消えた。


 途端に、ウゾは目の前の悪鬼と対面することになった。
 完全に鬼になってしまったサクラちゃんのお母さん、いや、サクラちゃんのお母さんだった呪いの鬼は、ウゾに刃を光らせる木槌の鉈を振り上げ、今まさにウゾの頭に振り下ろそうとしていた。
 その瞬間、ウゾは鬼の肩越しに、藁人形を見てしまった。
 木槌で打ち付ける前に、お母さんはもう藁人形に釘を突き立ててしまっていたのだ。藁人形は不安定な格好で、頭と足を逆さまにして、木に背中をつけたままぶら下がっていた。

 うわ、どうしよう!!
 サクラちゃん、もち姫、タタラ先生、……!!!!
 そうだ、何か呪文を!
 あぁ、思いつかない。断末魔って、鬼でもこんなふうにあれこれと走馬灯みたいにいろんな人の顔が思い浮かぶんだなぁ。それなのに、適切な呪文は思い浮かばない。
 って、悠長なことを考えている場合じゃないんだ!
 何かいい呪文はなかったっけ?
 呪文、じゅもん、ジュモン……!!

「ジゲンジシュジョウ フクジュカイムリョウ!!!!!」
 それしか覚えていない! もち姫が最後に教えてくれた呪文!

 その時、ぶわっと水があふれ出した。少なくともウゾにはそう感じられた。
 何が何だか分からないまま、ウゾは水に巻かれていた。水は、何とウゾのポケットの中から流れ出していた。ポケットから流れ出した水は、ウゾの周りを巡るように巻いて、大きな渦になった。そのまま目の前の呪いの鬼を巻き込んでいく。水は鬼の鼻や口の穴からものすごい勢いで入り込み、内側から鬼を膨張させた。
 鬼は、いや、呪いは、大きな渦巻きとなって闇の鬼の中で暴れまわり、鬼自身を破壊した。
 凄まじい力で、一瞬のことだった。
 鬼を突き破った水は鬼から溢れだし、呪いを世界中に撒き散らさんとして辺りを呑み込もうとしていた。

 ウゾは自分自身から迸る水に守られ、呆然とそれを見ていた。
 やばいんじゃないの!
 そう思ったが、全てが一瞬のことでなす術もなかった。

 その時、ウゾの目の前に小さな少年が現れた。
『ジゲンジシュジョウ フクジュカイムリョウ!!!!!』
 ウゾははっとした。そうだ、ぼうっとしている場合じゃない!
 自分もう一度呪文を叫んだ。
「ジゲンジシュジョウ フクジュカイムリョウ!!!!!」

 いや、これは呪文ではなく、この世の王だけに授けられるという法華経の八句の偈、その中の普門品の二句。周の穆王が釈尊から授かり、寵愛する童子が罪に問われて流罪となった時、哀れに思って授けた句だ。それを忘れないようにと童子が句を書きつけた菊の葉から零れる水が、霊水となり、不老不死の薬となった。
 観音様はいつでも優しく思いやりの目を持って私たち衆生を見てくださる。観音様を一心に信じれば、福の集まること海の如く無量にある!

 そして今。霊水はウゾのポケットの中の菊の葉から迸り出て、呪文と共に死を呑み込んでいく。
 ウゾは願いを込めた。
 この霊水は、ただ生を与えるだけではなく、ウゾが望めば死をもたらすことができる。菊慈童はそう言ったのだ。
 何故なら、生と死は裏と表、陰と陽、張り合わされて決して離れないものなのだから! 生きている者は、みんな死を抱えて生まれてきたのだから!
 お母さん、僕がきっとサクラちゃんを守るから!
 あなたは生きてこのまま闇の鬼になってはいけないんだ!




 ウゾは気を失っていた。
 ぼんやりと辺りにオレンジ色の灯りが揺れていた。
 影が見える。大きな影と、小さな影。それからより小さい影。
 これは夢? それとも。
『全く、学校をサボっているから、何をしているのかと思えば』
 これはタタラの声だ。

『お前は菊の精か。いや、確かその昔は慈童と言ったのではなかったか』
『さよう。吾も3000年も生きていると、あれこれと見聞きすることも多い。あなたはもしやミドロガイケに縁の者。そして、そうか、この小鬼は何やら懐かしい気を持っていると思ったが、やはりあの方に縁の者であったか』
 あの方? ミドロガイケ? やっぱり、龍なの、タタラ?
『それにしても、すごい力であった、慈童。お前は生も死も司るのか』
『それはこの菊の霊水の力。もっと言えば、釈迦が残した言葉に宿る霊力、人はこれを言霊とも言う。吾自身の力ではない。菊は長寿を与えもするが、時に死を司ることもできる。この小鬼が正しい判断をしたのだ。呪う闇の力に対して、本当の意味での死の審判を下したからこそ、菊はそれに応えた』

『小鬼に死の審判を委ねるなどと……!』
『いや、ミドロガイケの主、吾は感じることができる。人も鬼も定められた場所で、成すべきことを成さねばならぬ。あなたがどれほどこの小鬼のジョウブツを願っても、叶わないことがあるようだ。それをこの小鬼自身が証明してしまったのだ。かの呪文は、誰がどのように唱えたとしても霊力を発するものでもない』
『だが、お前も手を貸したであろう』

『ミドロガイケの主よ、吾はただ手を添えただけなのだ。何故なら、吾は愛する者の死も知らずただ悪戯に命を永らえ、知らされてもなお1800年も悲しみの時を生き続ける孤独の証に過ぎぬ。吾に関して言えば、菊の霊水は、死を与えてくれようともしなかったのだ。どれほど愛する者の傍に往きたいと願っても、叶わぬ夢であった。だが、この小鬼と共に呪文を唱えた時、吾に分かったことがある。吾が、愛する者の死に添うことも許されずこちらに残されたことには、何か意味があるのであろう。哀れにも不老不死を願うヒトというもの、病を内に抱えながら、すなわち死を内に抱えながら生きねばならぬヒトというものの苦しみ、それに添わねばならぬのが、吾やその小鬼のあるべき姿なのかもしれぬ』

 菊慈童の声はウゾの頭の中に香りを残している。ウゾは目を閉じたまま、その匂いを体中で嗅いでいた。
『では、ミドロガイケの主よ、また会うこともあるであろう。しかも、今日は懐かしい顔と再会した。確か、もち姫と言った、あの方の使いの君に』
 より小さなもう一つの影は、もち姫だったのか。
『菊慈童さま、姫さまはいつでもあなたを頼りにしておられましたよ』
 確かにもち姫の声だ。姫さまって?

『それは吾のほうだ。もしもあの方に今も会えるのなら、もち姫よ、吾の心も少しは癒されるのかもしれぬ。だが、それは今はよい。吾にはまだ仕事が残っているようだ。誰かこの仕事を継いでくれるものであれば、解放もされようが、それはまた誰かを同じ悲しみの中に取り込んでしまうことになるのであろう。愛するものを失う悲しみに寄り添うことこそが吾の仕事であるならば、吾は誰よりも長く、より深く、悲しまねばならぬのかもしれぬ。死とは何であるのか、生き永らえて3000年もの時を経た今も、吾には分からぬ。そして生とは何であるのか、それもまた分からぬ』
 ふわっと菊の匂いが消えた。
 同時に大きなため息が聞こえる。

『清狐は随分と余計なことをしてくれた。もち姫よ、お前は知っていたのか?』
『タタラ、清狐はウゾの力を試したかったのかもしれない。あなたがウゾの運命に逆らおうとしても、大きな力がそれを阻止しようとするわ』
 タタラは答えなかった。もち姫のあったかさがウゾの頬に触れた。
『タタラ、サクラのことは……』
『母親であろうとも、人の死を操作するのは罰則に値する』
『でもサクラの気持ちは、あなたには誰よりも分かるはず』

 タタラは何か言いかけたのか、大きく息を吸い込んだ。だが結局、言いかけた言葉を呑み込み、代わりにいつものように大きな声で言い放った。
『冬の間は、キョウト中の花の種、根の世話を命じよう。ウゾにもそう言っておいてくれ』
 そのまま、疾風が巻き起こり、今度はタタラの気配が消えた。
 もち姫がウゾの頬を舐める。ザラザラと温かい。
「ウゾ、行きましょう」
 ウゾの身体は何かから解放されたように自然に起き上がった。
 見回してみると、キブネの川の側だった。ウゾの側で白い菊の花が揺れ、そっと匂いを零した。


「もち姫、聞いたら答えてくれる? ……わけないね」
 ウゾはとぼとぼともち姫の後を追いかけながらつぶやいた。もち姫は何だか普通の猫みたいに、てくてくと一生懸命歩いている。
「何だかますますわからなくなっちゃった。答えにはたどり着ける?」
 ぴたりともち姫の足が止まる。
「ウゾ、答えがあると思う?」
 ウゾも足を止める。
「分からない。でも、僕、サクラちゃんのお母さんとの約束は守らなくちゃ」
 もち姫はじっとウゾを見つめていたけれど、やがて頷いた。

 もち姫の家にたどり着くと、縁側でサクラちゃんが待っていた。サクラちゃんはウゾともち姫の顔を見ると、じっと座ったまま、ぽろぽろと涙をこぼした。
 サクラちゃんが何も言わなくても、ウゾには何が起こったのか分かっていた。
 だからただサクラちゃんの側に行き、隣に座った。そして、ポケットからサクラちゃんのお母さんの憎しみも哀しみも、サクラちゃんへの愛情も、いっぱいいっぱいに閉じ込められた最後のナカラギの桜の花びらを取り出し、サクラちゃんの手を取って、その掌に載せてあげた。

 サクラちゃんは少しの間、花びらを見つめていたけれど、そのまま膝の上に置いたその手をそっと握りしめた。ウゾはサクラちゃんの手に手を重ねて、強く握ってあげた。
 もち姫もサクラちゃんの傍らに行って、ただじっと寄り添っていた。
 竹垣に、菊の花が揺れていた。

 小鬼よ、病には二通りある。一つは死に至る病、もう一つは死することのない病だ。あるいは、ひとつは心を殺す病、もうひとつは心の闇を乗り越えていくための病だ。
 死とは何であるのか、生き永らえて3000年もの時を経た今も、吾には分からぬ。そして生とは何であるのか、それもまた分からぬ。

 菊慈童の言葉が、匂いに乗ってウゾの身体を包み込んでいた。


連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】秋・菊(後篇) 了



さて、もう冬ですね。秋の話を冬にようやく終わらせていて、すみません。
幸い、正月の休みがありそうなので、今度はぜひ、普通に間に合いたい!!

いよいよサクラちゃんを殺してしまった犯人と対峙するウゾくん。
そしてウゾくん自身の出生の秘密も……ウゾくんに定められた運命とは。
運命に立ち向かうウゾくんと、それを見守る人、じゃなくて、鬼と猫と花たち。
実は、サクラちゃんにも秘密があります。そう、サクラちゃんの名前の漢字が出てきたので、何かを察した方もいるかもしれませんね。
(でも、サクラちゃんって、実はキラキラネームだったのね^^;)
ちなみに、清狐というのは、パーフェクトのっぺらぼう女史の名前です(^^)
読み方は普通に「せいこさん」? 狐だったんだけど^^;

しかも、菊慈童、そんな聖闘士星矢みたいなやつだったのか!
イメージは、お能のあの静の世界の人だったのに^^;
来年の秋には、この話は一応の完結を見ているはずですが、もう1回くらい登場してもらいたい、奥の深いキャラでした。
(でも、もう一つ秋の話を書くなら、やっぱり『菊花の契り』ですね。雨月物語。ちょっとホモちっくな話なので、今回は控えましたが。でもこの菊慈童も、よく考えたら……^^;)

さて、次回は冬篇。
冬に花を咲かせる植物にするべきところですが、タイトルは『忍冬(スイカズラ)』……花が咲くのは5~7月。でも、花の名前の由来は、常緑性で冬の間も葉を落とさないからつけられたのです。

お楽しみに(*^_^*)
読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【迷探偵マコトの事件簿】(8)あけましておめでとう! 


明けましておめでとうございます!
ブログを始めて1年足らず、何とか挫折せずに年を越すことができました。
地味なブログですが、訪れてくださる皆様方のお蔭さまと、ひとえに感謝申し上げます m(__)m
ありがとうございます!!!!

あと1か月ほどでブログも1歳になります。
またその時にお礼を申し上げなくちゃと思うのですけれど、ここはひとまず、目出度い寿ぎ。
馬は翔けると申しますので、今年、皆様方が心で温めておられる様々な計画が良き発展を遂げられることを、心から祈願いたします。
今年も、よろしくお願いいたします。

まだお年始のご訪問ができていませんので、また後程皆様にご挨拶にお伺いしたいと思います。
が、その前に、うちのマコトから新年のご挨拶です。
ちょっと舌足らずですが、練習したので、聴いてやってくださいませ(*^_^*)



みなしゃま、あけましておめれとーございます。
(タケル、ちゃんと言えたよ!)
(さっさと続きを言いなさい。練習したろ)
きゅうねんちゅうは、えーっと、おせわしました!
(ちがう! しましたじゃなくて、なりました!)
あ、おせわなりました!
(ちょっと一文字抜けてるけど、ま、いいか。はい、続き)
ことしも、えーっと、えーっと、いーっぱい、おせわしてください!
(よろしくおねがいします!)
よろしくおねがいします!

タケル、言えたよ! スキー、行こ!
(だめ、先に皆さんに近況報告しなさい)
スキー~~~!
(後で連れて行ってやるから)
はい。じゃ、キンチョーホウコクしましゅ!
(じゃなくて、キンキョウ! それじゃ蚊取線香だろ)
あ、キンキョウホウコク……しましゅ!……します!

迪ォ繝槭さ繝茨シ狙convert_20130824193448
(イラスト:limeさん:小説ブログ「DOOR」)

冬休み。タケルはちょっとだけお仕事がおやすみなの。
それでね、ぼくね、タケルの大シンユウのいるホッカイドウに来てるんだよ。
えっとね、タケルの大シンユウはすごいおっかないオジーちゃん。
めつきがシュクテキそっくりなんだ。
(今のところ、マコトはびびっています……タケル談)

それでね、それでね。
ここはヒタカコンニャク、じゃなくてサンミャクが見えるボクジョウです!
ボクジュウじゃないよ! 黒じゃなくて、白だから!
(マコト、面白くないよ。てか、お前、よくボクジュウ知ってたね
 え? テレビで見た? 顔に×とか描く? お前、いつの時代のテレビ見たの?)
今日は外野がうるさいでしゅ。……です。
あ、タケルがにらんでる……

とにかくね、ぜんぶまっ白なの!
朝はね、晴れたらキラキラなんだよ。くもってる日の方が多いけど。
でね、ふわっふわなの。
だからぼくみたいにちっさくても、歩いてたら……雪の中に沈んでくの。
ずぶずぶずぶ……って。

まわりが真っ白のような、青いような、キラキラに囲まれるみたいになってく。
マコト!っていつもタケルの声がするの。
だって、ぼく、まっ白の中に埋まっちゃうから、タケルには見えないの。
だから、タケルがぼくの小さい足跡をさがしてくれる。
さがして……ちょっとだけ掘って……
ばふっ! わは、タケルだ!
タケルに抱きついたら、真っ白になったぼくの頭を払ってくれる。

でね、ボクジュウ、じゃなくてボクジョウには、おっきいキョウリュウみたいな生き物がいっぱいいるの!
でも平気! ぼく、強いもん。
(嘘つけ。誰だ、目を回したのは。しかも、いい加減に覚えなさい。馬って教えたろ)
そう、お馬、えっとね、車くらい速く走るの。

そう言えば、今年は午年なんだって。
牛みたいな字なのに、ウマ? なんで?
馬さん、おめでとう!
(チガウの? 馬さんにおめでとう言うんじゃないの?)
でもね、おウマさん、すっごく優しいんだよ。
タケルがいないときは、ウマさんの小屋で遊ぶの。
おかーさんみたいに舐めてくれるよ。

それでね、ぼくね、タケルといっしょにお背中に乗っけてもらうの。
馬さんのお背中はすっごく高いから、すっごく遠くも見えるんだよ。
でも、ずっと向こうまで真っ白なんだ。
ほんとに真っ白。不思議な景色だね~
人間もねこも、とってもちっさくなった気がするの。
……ねこははじめっからちっさいけど……

あとね、犬もいっぱいいるの。
黒くてこわい犬(オオカミ犬のことかな、タケル談)と、白と黒のハンにゃ(にゃ?)みたいな犬(ハスキー犬のことらしい、タケル談)がいっぱい。
あと、でんわのコマーシャルに出てる犬もいるよ!
(でんわのコマーシャル? ……北海道犬のことかな? タケル談)

それからね、おうちの中ではね、こたつ!
こたつに、おみかんと、ねこ!
冬のひっすアイテムなんだって!
でも、ぼく、おみかんは食べないの。
でも、おみかん、ころころ、ころころ、ころころ……前足でキック!
上からばしっ! くるん! ころころ!
あ、遠くに行っちゃった……あ、タケルのシンユウのジーちゃんだ。
食べ物をそまつにしちゃいかん! って怒られるから、逃げよ。
ね、タケル、そまつにしちゃいかん、ってどういう意味?
(大事にしなさい、ってことだよ)
うん(ぼく、大事にころがしてるよ?)。

お昼にはおもちを焼くの。
おもちって、最初はぺっちゃんこなのに、アミの上で焼いたら……
おっきなお化けになるんだよ!
うぅ~~って唸ってたら、タケルが笑うの。
ぱん! ……あ、お化け、消えたよ??

それからね……あ、もうお山に行くんだって!
ぼくはタケルのスキージャケットの中に入れてもらうの。
わ~い、あったかい~
毎日、おうちの近くのふつうのお山みたいなところに行くの。
す~ってタケルが滑って、ぼくはちょっとだけ、顔を出すの。
風が冷たい~! でも、気持ちいい~~!
それで、もう一回お山の上に登るの。
もう一回すべるよ~
わ~い!
ぼくはもうちょっとだけたくさん顔を出す。
そうしたら、自分がスキーやってるみたいなんだよ。
かお、ちべたい~~~!

あ……!
うわ~っ!!!!
お顔、出し過ぎて、タケルのジャケットから飛び出ちゃった!
どすん!
ころんころんころん………
ぐるんぐるんぐるん~~~~~????

何にも見えない~
目が回る~
まくっらなような、まっしろなような……

ごつん! ごきっ!?
おみみ、つめたい~! ちんちんする~
がしゃがしゃがしゃ……掘ってる音??

ばふっ!!
明るくなった!
お空だ!
あ、タケルだ!
わーい。……っと、う、動けない……
からだが雪に埋まってる……
ぼく、ねこだるまになってる!
タケルが笑ってる~~
は、早く出して!

は~、ちめたかった!
それでまたタケルのジャケットの中にもどるの。

今日も疲れたね~
タケルのシンユウのおうちに帰って。
そうしたら、ごちそうが待ってるんだよ!!!!!!
スケトウダラ! ホタテ! カニ! イカ!
親子どんぶり! トリとタマゴじゃないよ! しゃけとイクラの親子どんぶり!
コンブだしのお料理もすご~くおいしいの! もちろん、ぼくはカニ汁!
たくさん食べた~。
はぁ~ お疲れちゃんです! ……もう寝るね。
(こら、ちゃんとあいさつを締めくくって。自分のことばっかり言ってないで)

あ、みなしゃま、ぼくは楽しくホッカイドウで冬休みしてました。
みなしゃまはいかがお過ごしでしたか。
まだまだ寒い日が続きますが、お体、お大事にしてください!
今年もとってもとってもよろしくおねがいしましゅ。
(よくできました。……というわけで、うちのマコトを、今年もよろしくお願いいたします。
 ちなみに、人間の方も、可愛がってやってください……マコトの飼い主のタケルでした。)

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(イラスト:limeさん:小説ブログ「DOOR」)

というわけで、今年もよろしくお願いいたします。
やっぱりねこに挨拶させると、ハチャメチャでしたね^^;
ご容赦ください。
皆様にとって、良き年でありますように。

さて、みなさん。ここから先はマコトの事件簿(10)マコトのX-file……何があったんでしょう?
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【迷探偵マコトの事件簿】(9)マコトのみのしろきん 

DSCN3076_convert_20140209220556.jpg
雪も陰に残るだけとなりました。
雪ウサギを作ってみようと思ったけれど、手が冷たくて(T_T)
子どもの頃は、平気だったのに、大人になると我慢が足りなくなるのかもしれません。

そんな、寒い夜、マコトの物語で少し温まって頂けたらと思います。
今日のお話は『マコトのみのしろきん(身代金)』……タケルとマコトの言葉を越えた交流をお楽しみください。
そう言えば、新美南吉さんはこれを『生存所属を異にしたものの魂の流通共鳴』と表現されていましたっけ。
DSCN3078_convert_20140209220621.jpg

書きながら、自分でちょっとうるうるしてしまいました。
いえ、自画自賛じゃなくて……マコトに感情移入しちゃって……なんでだろ??
最近忙しくて、疲れてるんだわ^^;
オリンピックでも見て、元気を出そうっと。

上村愛子さん、メダルを逃したけれど、素晴らしい滑りでしたね。
あんなふうにインタビューで答えられるのは、これまで頑張ってきた自分に胸を張れるからですね。
感動をありがとう!
そして、これから登場の皆さんも、頑張って!
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【迷探偵マコトの事件簿】(10)ぼくらの秘密基地 

宝来くんとマコト
【迷探偵マコトの事件簿】第12作目『ぼくらの秘密基地』をお届けいたします。
これまでもこの作品には、幾度かブログのお友達のところからゲストをお招きしていたのですが……
今回、ゲストに来ていただきましたのは、『だぶはち宝来文庫』のスーパーアイドル、宝来くんです。
『だぶはち宝来文庫』さんはファンタジー小説を書かれる大和かたるさんの広報ブログ。
その看板息子がダブル八割れラッキーにゃんこの宝来くんなのです。
ママさんの愛息子への優しい視線、面白すぎるお写真、絶妙の語りに癒されない日はありません。

その宝来文庫の宝来ママさんにラブコールを送ったところ、『迷探偵マコトの事件簿』への出演を快く受けて下さり、宝来くんとマコトの共演と相成りました。
宝来くん、ママさん、大和さん、ありがとうございます(*^_^*)

<登場人物>
マコト:まだまだ半人前のツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。いつも一人ぼっちでお留守番。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。お仕事は修復師兼ギャラリーのオーナー。
宝来くん:『だぶはち宝来文庫』の看板息子。頭の前後に八割れ模様を持つ大和かたる家の招き猫。
ママさん:宝来くんの飼い主(というより、まさにママ)。とっても優しい。


<参考文献>
*『アヤメさま、宝船に乗る』のポスター→→2013/12/30の記事
*NEccoSunさんの描かれた宝来くん像→→2014/2/2の記事
*布団基地→→2014/1/29の記事2013/12/9の記事

では、宝来くんを迎えての『迷探偵マコトの事件簿』、お楽しみください。
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【迷探偵マコトの事件簿】limeさんからイラストを頂きました! 

宝来くんとマコト400

先日アップした【迷探偵マコトの事件簿】(10)『ぼくらの秘密基地』にlimeさんが素敵なイラストを描いてくださいました。
『にゃんこ にゃんこ。』

宝来先輩とマコト、そして布団基地の素敵なイラストです。
宝来ママ(だぶはちの宝来文庫)も大海もとっても嬉しいツーショット(*^_^*)
宝来くんは(実はちょっとヘタレだけれど?)あくまでも先輩家ねこの威厳を保って凛々しく、マコトはその先輩を憧れの目で見上げている、そんな2人、いや2匹を優しく包む布団基地。

前回の作品で、宝来くんは始めとっても警戒していたのに、マコトが寂しそうで不安そうなのを見て、何とかしてくれようとしたのですよね。
マコトはそんな宝来くんをすっかり信頼しているのです。

というわけで。おまけ(*^_^*)



今日からタケルはまたちょっとだけお出かけなんだって。
でも、ぼくは平気!
(ほんとはちょっとだけ寂しいけれど)
宝来先輩のところで待ってるね!

わ~い! センパイ、来たよ~
ぼくは先輩に飛びつく。
先輩はちょっとだけため息。
またお前かぁ、って顔。
でも、最初だけなんだ。
きっと先輩もぼくが来て、うれしいはず! ……だよね?

センパイ、今日は何を教えてくれるの?
全く、お前はしょうがないなぁ。じゃ、今日は「かぷっと」を教えるぜ。
わ~い! ……で、かぷっと、ってなに?

宝来先輩はぼくの顔をじっと見て、もう一度ため息。

お前にはまだ無理かもしれないな…… 
どうして?
かぷっとには、どんな大きな相手にも怯まず、逆にどんな小さな相手でも気を抜かず、気持ちを込めて挑むという気概が必要なんだ……(遠い目)

そうなんだ……じゃ、ぼくにはまだ無理だね……
ぼくはちょっぴりがっかり。
でも優しい先輩はふっと目の前のキョロちゃんを見つめる。

仕方がないな。模範演技を見せてやるよ。
でもな、技ってのは教えてもらうんじゃなくて、盗むもんなんだ。おいらの背中をみて、学ぶんだぜ。

わぁ、すごい!
いつの間に箱にこんな穴が……
ほんとにカッコいいね!

ちなみに、これは相手がダンボールの場合のやり方なんだよ。
相手によっては、優しさも必要なんだぜ。

わぁ、それじゃ、ほんとに難しいんだねぇ……
でも、センパイ、いつかぼくも、きっと追いつくからね!


<用語解説・参考文献>
「かぷっと」=噛むこと。
かぷっとを侮るなかれ。この技術をすでに芸術の域まで高めている宝来くん。
「かぷっと」の応用編はこちらの記事を読んでね→『おいら、箱と野球する!?』

……タケルは今度は、家じゅうの色々なものに噛み痕を発見して、また「???」になるんでしょうね(*^_^*)

*ママさんのコメントを拝読して、「そうだ! かぷっとには優しさも必要だ」ということに気が付き、加筆いたしました(^^)……

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【8888Hitリクエスト第1弾】半にゃライダー危機一髪! 宿敵の魔の肉球迫る! 

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末広がり・8888Hitのリクエスト、今週から1つずつ消化していきます。
まずは、【scribo ergo sum】の八少女夕さんからのリクエスト、「半にゃライダー危機一髪! 宿敵の魔の肉球迫る!」です。


八少女夕さんは、本当に精力的に物語やエッセイを書いておられる、尊敬するブログのお友達。
もう私がここで敢えてご紹介する必要はありませんね(*^_^*)
夕さんの企画・scriviamo ! がいかに大変か、よく分かります。
発想力の豊かさと柔軟性と、そしてウィット。書くということに対する情熱と、他の人の作品をきちんと読み昇華する力。どれが欠けてもできない企画と思いました。
たった3つ書くのにこんなに足掻いている自分が悲しい((+_+))

さて、リクエストくださったタイトル。
これをどう料理できるか。
これを普通に書くと、できの悪い15分番組くらいのシナリオにはなるんだろうけれど、内容があまりにも陳腐になりすぎる。
そこで苦肉の策としてこのようにさせていただきました。


テーマは、生存所属を異にするものの魂の流通共鳴(またか!)
ちょっと新鮮な「あの人」の一人称、お楽しみください(*^_^*)

リクエストを下さった夕さん、ありがとうございます!!



半にゃライダーとは……limeさんのイラストに物語を書いた際に湧いて出た謎のヒーロー?
「はんにゃ」と打ち込んだら「般若」より先に「半にゃ」に変換されるという話題から生まれました。
詳しくはこちらを→【般若の面】【秘すれば花】 
【秘すれば花】の前書きに登場していますが、実は中身は全くない。
ただの番組名として登場しただけでした。これを如何に料理するか……

基礎知識は全く不要です。
猫と人間の心の交流?
独立した短編でもありますので、ぜひお楽しみください(*^_^*)


<登場人(猫)物>
マコト:まだまだ半人前の茶トラ猫。最近のお気に入りはヒーロー番組『半にゃライダー』。
タケル(語り手):ちょっぴりSなマコトの飼い主。『半にゃライダー』を一緒に見てやる優しいところも。

   
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【limeさんがマコトを描いてくださいました!】ぼくをモノレールに乗せて! 

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なんと、limeさんがマコト猫を描いてくださいました!!
事の発端は、【マコトが頑張って中継した姫路城公園のねこたち記事】に下さった八少女夕さんのこちらのコメント→『マコト、頑張ったね。きっとご褒美に、彩洋さん(とlimeさん?)がタケルとミニモノレールに乗せてくれるよ。(いい加減なことを言ってみる)』
超速攻でlimeさんが応えてくださるとは! それならば、私も速攻でマコトをモノレールに乗せてやりました!
あれ? このマコト猫は怒っているんじゃないか、って?
ちょっとだけ物語にお付き合いくださいませ。最後にもう一度登場するイラストで理由が分かります(^^)
DSCN4815_convert_20140614094343.jpg
ちなみに件のモノレールはこちら↑
「モノレール」と書いた屋根の下に停まっているのがミニモノレールです。
では、しばしお付き合いくださいませ。



「ママ、またあの猫だよ」
木のベンチに座っている小さな男の子が声を上げた。
でも、誰も答えない。
地面につかない足はぶらぶらと宙を彷徨っている。

隣には母親らしき女性が座っている。
男の子は母親の手を引っ張る。
でも母親は男の子を見ようとしない。
どこか遠くを見つめている。
男の子は悲しそうに母親を見つめ、やがてぴょこんと地面に降りた。

ここは小さな動物園。
大きな公園の真ん中に真っ白なお城があり、そのすみっこにある動物園だ。
男の子は一週間前に母親と一緒に東京からこの町にやって来た。
だから友だちもいない。
男の子は母親と一緒に毎日ここにやって来る。
でも、母親はずっとベンチに座ったままだ。
だから男の子はひとりで動物たちを見て回る。

ペンギンの小さなプール。
時々しか羽根を広げない孔雀。
オハヨーしか言わない白いオウム。
大きいキリンと小さいキリン。
でも小さい方が歳を取っている。
ライオンはこの時間はいつも裏の部屋に入ってしまっている。
シマウマの小屋は少し臭い。
サルたちはいつも忙しそうに動き回っている。
ホッキョクグマは檻の中をずっとぐるぐる回っている。
お気に入りは象の姫子の食事シーンだ。
ものすごくニンジンが好きみたいだ。
でも、ニンジンじゃなくて大きなパンを一気に食べてしまうところが好きだ。

動物園には観覧車やくるくる回るティーカップやブランコ、ゲームのコーナーもある。
本当は乗ってみたいけれど、男の子はおねだりをすることができない。
特に乗ってみたいのはモノレールだ。
1回150円。
でも値段よりも遥かに手の届かないものに思える。
だから、他の子どもたちがパパやママと一緒に乗りこんではしゃいでいる姿を、下でただ見つめている。

三日前から、男の子と同じように、一匹の猫がじっとモノレールを見ている。
茶色のしましまの猫で、長い尻尾もしましまだ。
近付くと逃げる。
あまり遠くまでは逃げないけれど、触らせてくれない。
時々、檻の中で動物や鳥が声を出すと、びっくりしたようにどこかに隠れる。
それからまたこっそり出てきて、じっとモノレールを見上げている。

きっとあのしましま猫もモノレールに乗りたいんだと男の子は思う。
でも、猫はお金を持っていない。
男の子もお金を持っていない。
一緒に乗ってくれる人もいない。

小さなモノレールに父親と一緒に座って楽しそうに笑っている子どもがいる。
父親は大きな体で照れ臭そうに小さなモノレールに乗っている。
下で手を振りながらカメラを構えているのは母親だろう。
男の子は自分の母親を振り返る。
母親はじっとベンチに座ったまま、やはり遠くを見つめたままだった。
傍を見ると、昨日よりも少しだけ近くにしましまの猫が寄ってきている。
猫はしょんぼりと足元を見ている。

「もう閉園ですよ」
モノレールが止まって、動物園の係の人に声を掛けられてから、男の子は母親と一緒にお祖母ちゃんの家に帰る。
しましま猫はいつの間にかいなくなってしまっていた。

次の日も、やっぱり男の子としましま猫はモノレールを見上げる。
男の子の母親は、今日もただベンチに座っている。
ちょっとだけ近くに行っても逃げなくなったしましま猫の目を見ると、片一方は黒くて、もう片一方は緑色だった。
猫の目は綺麗で、そして横顔は寂しそうだ。
「君もひとりぼっちなの?」
しましま猫は何も言わずにモノレールを見つめていた。
その時。

「マコト!」
男の子は思わず振り返った。
でも、走り寄ってくるのは、男の子が待っていた人ではなかった。
背が高くて金髪の、物語に出てくる王子様みたいな男の人だ。
王子様は男の子の近くまで走ってきて、しゃがみこんだ。
しゃがみ込んで、しましま猫の頭を撫でる。

ぷい。
しましま猫は知らん顔をする。
知らん顔をしてから、ちょっとだけ気にするように王子様を見る。
それからまた知らん顔。
「お城の仕事はやっと終わったよ。ごめんな。放っておいて」
しましま猫は聞いていないような顔で、モノレールを見上げる。

「モノレールか」
王子様が拗ねているしましま猫を抱き上げようとすると、しましま猫はちょっともがいて暴れ始める。
「よし、乗ろう」
突然王子様がそう言って、まだ暴れるしましま猫を抱いたまま、モノレール係のおじさんの方へ歩いて行く。

なんだ。しましま猫はひとりぼっちじゃなかったんだ。
男の子はちょっと裏切られたような気持ちになる。

ぼくはひとりぼっちなんだ。
どうしてママはパパと喧嘩しちゃったんだろう。
パパはどうしてママに出て行けって言っちゃったんだろう。
パパもママもどうして謝らなかったんだろう。
ぼくはやっぱりひとりぼっちなんだ。
しましま猫にも、モノレールに乗せてくれる人がいるのに。

王子様の足が止まって、男の子を振り返る。
「パパとママはどうしたんだい?」
男の子は突然話しかけられてびっくりする。
王子様の腕の中で、しましま猫もちょっと心配そうに男の子を見ている。
男の子は首を横に振る。
「君も乗るかい?」
男の子はもう一度首を横に振った。

モノレールには乗りたい。
でも、違うんだ。一緒に乗りたいのは……
男の子は俯き、ぽろっと涙をこぼした。
その時。

「マコト!」
男の子は涙を浮かべたまま振り返った。
王子さまみたいにはかっこよくなくて、ちょっと背も低くてビールでおなかも出ているけれど、大好きな人が走ってくる。
「パパ!」
ベンチの母親が立ち上がる。
それから、男の子の母親と父親は、お互いに何回もごめんねと言い合った。
ふたりは男の子にも何回も、寂しい思いをさせてごめんねと謝った。

男の子は青い空を見上げ、モノレールの一番前に乗った王子様としましま猫に手を振る。
王子様は無理矢理しましま猫の手を持って、振らせている。
しましま猫はちょっと迷惑そうだけれど、嬉しそうだ(たぶん)。

あのモノレールが一周回ったら、今度は僕がパパと一緒にモノレールに乗って、ママとしましま猫と王子様に手を振ろう。
それから、あの真っ白なお城と、真っ青なお空に向かって。

DSCN4742_convert_20140618010658.jpg
タケルは修復師ですから、姫路城(の中の宝物)の修復をちょっとお手伝いしていたようですね。
この人のことだから、きっと夜を徹してやっていたに違いない。
マコトはタケルのお仕事が終わるのを待っていたのですね。
(公園のねこに襲われなかったかしら? ……いや、何より、マコトは3日も一人じゃなくて一匹ではいられないはずなので、お話ということで目を瞑ってください)
そして、まさかの同じ名前の男の子も、「待っていた」のですね。
そしてマコトも、頑張って待っていたご褒美に、無事にタケルと一緒にミニモノレールに乗れたみたいです(*^_^*)
さっきまではこんな感じだったのですけれど……
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limeさん、夕さん、ありがとうございました!!

……しかし、このモノレール、大人が乗って大丈夫なんだろうか?

(追記)
夕さんのコメントを読んで気が付きました!
「手」じゃなくて「前足」でしたね。擬人化マコトを見ながらだったので、何の違和感もなく「手」でした^^;
書き直さずにそのままです(*^_^*)
実は、マコトバージョンもあります。
またまたお楽しみに(*^_^*)

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【迷探偵マコトの事件簿】ぼくをモノレールに乗せて!(2) 

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limeさんが描いてくださったマコトのイラストに寄せて書いた掌編・【ぼくをモノレールに乗せて!(1)】は「男の子バージョン」でしたが、今度は「マコトバージョン」で書いてみました。
視点が変わったのではなくて、取り残されるのがマコトに変わったわけですが、さて、タケルは迎えに来てくれるでしょうか。
白鷺城(姫路城)の公園内にある小さな動物園を舞台に、ちょっといじけいている小さなねこの物語、お楽しみください。
limeさん、イラスト、ありがとうございました(*^_^*)


【ぼくをモノレールに乗せて!(2)】

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青いお空の中に真っ白なお城。キラキラ光ってる。
ぼくは少し離れた公園から、高いお城を見上げてる。
お城よりも大きな鉄の塔みたいなのが見える。
さっきからちっとも変わらないみたいだけれど、ゆっくりゆっくり動いてる。
ここからだったら小さく見えるけれど、きっとものすごく大きいんだよね。
お城も、雲も、お空も。

タケルはずっとお城の中でお仕事してる。
タケルがあのお城からこっちを見ても、ぼくはちっさすぎて見えないね。

タケルは忙しいんだ。
ほんとはぼくをお城の中に連れて行ってくれたんだけれど、ねこはだめって言われて。
だからぼくはいい子でまってる。
ぼくはお城のそばの動物園に預けられた。
動物園の人はみんな優しいんだよ。
ばんしゅうべん?
最初はちょっと怒られてるみたいで怖かったけれど……
公園の中にはぼくより大きいねこさんもいっぱいいる。
でも、ねこさんたち、忙しそうだし。
……ぼく、やっぱりちょっとこわいし。

DSCN4803_convert_20140716235444.jpg
動物園の中には乗り物もいっぱいあるんだよ。
大きな黄色い丸いねこみたいな乗り物とか、小さい車に乗ってぐるぐる回るのとか。
あとね、お空を動く電車!
モノレールって言うんだって!
うんと高い所を走るんだよ。

……でも、モノレールに乗るためにはお金がいるんだ。
ぼく、お金持ってないし。
それに、ねこはたいていのものを持つことはできないんだもの。

……みんな、楽しそうだね。
モノレールから手をふってる。
あれに乗ったら、きっとものすごく、お空が近いね。
あれに乗ったら、タケルのいるお城がもっとよく見えるね。
もしかして、手をふったら、タケルからぼくが見えるかなぁ。

でも、だれもねこをモノレールに乗せてくれない。
それに、ねこがモノレールに乗るなんて、考えてもいないと思うんだ。

DSCN4816_convert_20140716235708.jpg
動物園の人は象の姫子さんにごはんをあげに行く。
ぼくはついていく。
姫子さんはにんじんが好き。
大きなお鼻で小さいにんじんをくるってつまみ上げて、ぱくん。
すごいねぇ。
あ、今度は大きいパンをまるのみ。
わぁ、ぼくもきっとひとくちで食べられちゃう。
(作者註:象は草食動物なので、ねこは食べません)

DSCN4791_convert_20140716235345.jpg
今度はしろくまさんのところに行く。
しろくまさんはオリの中をぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。
どうしてずっと歩いてるんだろう。
ほっきょくに帰ろうとおもっているのかなぁ。
でもね、あのね、きっとほっきょくはすごく遠いよ。

DSCN4804_convert_20140716235625.jpg
それから、キリンさんにごあいさつ。
キリンさんの首は、お城の鉄の塔よりも長いんだよ。
(作者註:それは遠近感の問題で、クレーンの方がはるかに大きいです)
キリンさんは忙しそうに、お庭と家を行ったり来たり。
それから遠くを見つめたり。
あれくらい首が長かったら、お城の中も見えるかなぁ。
それどころか、あふりかまで見えるのかも!
キリンさんは遠くを見ていて、あんまり、小さいねこにはきょうみがないみたい。

DSCN4783_convert_20140716235310.jpg
ピンクのトリもいっぱいいるよ。
あれ、首がないね。とれちゃったのかな?
もしかしてお化けになっちゃったの??
あ、動いたら首が伸びた!
なんだ、羽根の中にかくれんぼしてたんだね。
あ、ぼくを見て逃げて行っちゃった。
ぼくも羽根の中にかくれんぼしたいなぁ。
……でも、ねこのことはきらいみたい。

あ! ライオンだ!
かっこいいねぇ。ぼくも大きくなったらライオンになれるかなぁ。
だって、ライオンはねこなんだよね。
(作者註:ねこではなくて「ネコ科」です。ねこは大きくなってもライオンにはなりません)
あの、こんにちは。
がお~!!
わ! 怒られた!
何だよ。怒らなくてもいいのに。

いいもんね。ぼく、大きくなったらヒョウになるんだもん。
(作者註:ヒョウにもなりません)
ヒョウになったら……あのお城まであっという間に走っていけるね。
ねこはだめだけれど、ヒョウなら入れてくれるかも。
(作者註:ヒョウはもっと入れないと思います)

……動物園、もうあきちゃったな。
みんな小さいねこには興味がないみたいだし。
それに、みんなオリの中にいるし。
ぼく、シマシマ馬のいる柵の中には入れるんだけど、入ったらけられそうになったの。
ペンギンはぼくのことキライみたいだし、キバタンはおはよー!ってうるさいし、サルはずっと動き回っていて、見ていたら目が回るし。


あ、ママ、またあのねこだよ! しましまねこだ!

男の子がぼくを見つけて走ってきた。
またあの子だ。今日でもう3日目。
ぼくはあわてて逃げる。

……にんげんの子どもはあんまり好きじゃないんだ。
だって、オリの中にいないから、ぼくのこと追いかけてくるし。
ぼくのこと、いじめるにんげんもいるし。

それにぼく、しましまねこじゃなくて、マコトって名前があるもん。

ぼくはおとこの子が追いかけてこないことをカクニンして、それからおとこの子のママを見る。
おとこの子のママはいつも遠くを見て、悲しそうにぼんやりしてる。
おとこの子もママを見て、悲しそうな顔になる。

DSCN4814_convert_20140716235552.jpg
おとこの子はぼくのほうをちらっと見て、それからモノレールを見上げる。
ぼくも離れたところからモノレールを見上げる。
ぼくとおとこの子はちょっと離れて立って、毎日いっしょにモノレールを見上げる。

……きっと、あの子もモノレールに乗りたいんだね。
ぼくと同じように、モノレールに乗って遠くを見たいんだよ。
遠くにいる誰かを探したいのかもしれないね。

でも、ねこも子どももお金をもっていない。
……150円って、おさかな、何匹くらい分かな。
ねこの値段よりも高いや。

モノレールの一番前には、知らない子どもとその子のパパが並んで座っている。
ニコニコ笑って、下で写真をとっているママに手を振ってる。
ママといっしょに乗ってる子もいる。
みんなとっても楽しそう。
大好きなパパやママと一緒にモノレールに乗って、お空の中を走るって、どんな感じだろう!

……あのね、ぼくね、ほんとはタケルといっしょにモノレールに乗りたいんだ。
でも、タケルは忙しいんだ。
お城でお仕事してるんだもん。
だからぼく、お仕事おわるの、いい子で待ってるね。

おとこの子はうつむいて地面にすわりこんじゃった。
あの子だってきっと、ママやパパといっしょに乗りたいんだ。
だから、あの子とぼくはなかまなんだね。
いっしょに乗る人がいなくって、さびしい仲間なんだ。
……ちょっとだけ、よかった。
ぼくだけがひとりぼっちじゃないんだ。

マコト!

わ。ぼくを呼んでる!
もしかしてタケル??
でも、声がちがうよ。においも。
その時、おとこの子が立ちあがった。

パパ!

おとこの子は、大きな男のひとの方へ走っていく。
おとこの子のママも走ってくる。
……みんなうれしそう。

ぼくはひとりぼっちでモノレールを見上げる。
おとこの子はパパといっしょにモノレールに乗りにいっちゃった。
下から二人を見上げているママに向かって手をふっている。

……なんだ。
もう、モノレールに乗れない仲間じゃなくなっちゃったんだ。
ぼくは裏切られたような、おいてけぼりになったような気持ちだった。

……いいもん。
ぼく、ねこだから、へいき。
モノレールはにんげんの乗り物だものね。
だから、もういいんだ。
ひとりぼっちでも、モノレールに乗れなくても、ちゃんとタケルを待ってる。

……タケルは忙しんだもん。
だから、ぼく、怒ってないし。
動物園の人といっしょに、もう一回、姫子さんににんじんをあげにいかないといけないし。
そろそろフクロウさんも起きる頃だから、ぼく、ごあいさつしなくちゃいけないし。
だから、さびしくないもん。

……みんなが帰っていく。
もう動物園は、夜のお休みの時間になる。
モノレールも止まっちゃった。大きな黄色いねこも動かなくなっちゃった。
動物園の人がおいでって呼んでる。

……あのね、ぼく、タケルを待ってるの。
あの真っ白なお城の中にね、タケルがいるの。
いっしょうけんめい、お仕事してるの。
でも、暗くなったら、お城も見えなくなっちゃうね。

タケル、まだお仕事終わらないのかな。
あたりはどんどん暗くなっていく。
ぼく、もう3日も待ってるよ。
……ほんとは、モノレールになんか乗れなくてもいいんだ。
だから、早く迎えに来て……

マコト!

……………!!!!!!!!!!!!

マコト!!

……………(`^´)
ぼくはベンチの下に潜り込む。

ぼく、別に寂しくなんかなかったし。
それにぼく、今から、フクロウさんにごあいさつにいくし。
それに、姫子さんがぼくがいないと心配するかもしれないし。
ぼく、けっこう忙しくしてたんだ。
それに、それに、それに……

……おいで。


タケルの手。
……ぼくはかぷっと噛む。

お薬と鉄のサビと埃のにおいがする。

ぼくを抱き上げたタケルがパチン、って指をはじく。
突然、動物園に明かりがついた!

それから、タケルがぼくを抱いてモノレールの乗り口の階段を上った。

ぼく、ぼく、モノレールに乗ってもいいの?
ねこだけど、モノレールに乗れるの?
タケル、150円、はらってくれるの?
動物園の人がタケルと目を合わせて、それからぼくを見てにこにこ笑っている。

ぼくとタケルは並んでモノレールの一番前に座る。
しゅっぱつしんこう!
動物園の人の声がする。

そして……モノレールが動き出した。
今度は動物園の明かりがそっと消える。

わぁ…………

代わりに、お空にいっぱい、星の灯りがともった。


……あのね、モノレールは銀河の鉄道になったよ。
暗くてもうお城は見えなくなっていたけれど、タケルがここにいるからもういいの。
代わりに、お星さまがいっぱいいっぱい見えた。
ぼくとタケルはね、いっしょにお空を旅したの。

タケルはちょっと眠そうだった。
そうなんだ。
ぼくを早く迎えにくるために、お仕事、すごく頑張ってくれてたんだよね。


ちょっとだけ、怒っててごめんね。
あのね、タケル、えっとね。

……お仕事、ご苦労さま。





ちょっぴりいじけたマコト、宝来センパイ(【だぶはちの宝来文庫】)に教えてもらった「かぷっと」を上手く使えたのでしょうか。
そして……最後はちょっとクサすぎましたね。
明石海峡大橋のライトアップは普通の時間は白っぽいのですが、定時だけ色とりどりになるというので、橋の見えるレストランで定時に指を鳴らして「君のためにライトアップの色を変えてもらったんだ」って言ったらどうだろ(もちろん、告白のために)、なんて話をしていたのを思い出しました。
「動物園の人」、夜に勝手にモノレール動かして怒られるかもしれませんね。でも、マコトがずっとモノレールを見ていたのを知っていたのですね。超端役ですが、いい人のようです。
マコトは自分の値段を50円くらいと思っていたので(【マコトのみのしろきん】)、150円も出してモノレールに乗せてもらえるなんて思ってもみなかったみたいですが……(*^_^*)

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(12) トモダチのわすれもの 

『迷探偵マコトの事件簿』、事件を解決しているのではなく、いつも自分が事件を起こしているマコトですが、今回はお盆にちなんで亡き人を想う物語をお送りいたします。
登場人物は(いや、登場犬物かも)こちらをご参照ください→(5)ちょっと切ない事件簿
重要なアイテムとして登場するのはオニキス。石です。まるで『奇跡を売る店』シリーズのようですね。
オニキスオニキスペンダントトップ2
まっくろなオニキスが、こんなふうにアレンジされているものをイメージしています。

大事な人を想う時間となれば幸いです。

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったら豹になるつもり。飼い主のタケルがお仕事で忙しいので、いつもひとりでお留守番をしている。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。でも本当はとても優しい。
トモダチ:亡くなった老犬。飼い主が死んでしまって取り残され、最期を看取るためだけにタケルが引き取っていた。



【迷探偵マコトの事件簿】(12)トモダチのわすれもの

[SCENE1] ぼくの「おもいでだま」

タケルは今日もおでかけ。ぼくはひとりでおるすばん。
でもね、ぼくこの頃ちょっとだけだいじょうぶなんだ。
タケルにはないしょだよ。
あのね、ぼく、宝物があるの。

このあいだ、ベッドの下で見つけたんだ。
銀の籠みたいな飾りの中に、まっ黒な、まあるい玉。
ころころ転がしてみたら、ふしぎなことが起こったんだ!

とっても懐かしい匂いがするんだよ。
会ったことないけど、ママの匂いってこんなのかなぁ?
ねこまんまを作ってくれてるタケルの後ろ姿がうかんだりもするの。
いっしょに『半にゃライダー』見てるような気持ちになったり。
モノレールに、ぼくとタケルがならんで乗って、お空に手をふってるとこが見えたり。
センパイといっしょに布団基地にもぐっている感じがしたり。
それからね、トモダチにも会えたんだ!
トモダチのおっきなお背中の上で、ぼく、上がったり、下がったり、落っこちたり。

これ、まほうの玉なのかも。
ぼく、タケルにも見つからないように、こっそりベッドの足のすみっこに隠してるの。
だって、もしこれを見たら、タケルもきっとほしくなると思うんだ。
でも、これはきっと、がんばってひとりでおるすばんしてるぼくへの神さまからのプレゼントだよね。

とくにきれい好きのおばさんにはみつからないようにしなくちゃ。
捨てられちゃったら大変だもの。
だからいっぱい転がしたあとは、またこっそりベッドの足のすみっこに、おばさんにぜったい見えないようにかくしておくの。

ぼくは今日もころころ、まあるい黒い玉をころがしてみる。
ころころ、ころころ、ころころころころ。
ころころ、ころころころ、ころころ。
そうしたら、ぼく、さみしくないんだ。
ママの匂い……タケルの匂い……布団基地の匂い……トモダチの匂い……

トモダチ、今はお空にいるのかな。
ぼくは前足でまっくろの玉をなでてみる。
なでてみたら、あったかいトモダチを思い出すよ。
トモダチのせなかで、上がったり、下がったり、下がったり、上がったり……
ぼく、これ「おもいでだま」って呼んでるんだ。

……あれ?
ぼくはびっくりして飛びのいた。
今、何か見えたね?
ぼくはじっと「おもいでだま」を見て、それから辺りを見回す。
なにもいない。

……ぼくはゆっくり近づいて前足でちょんちょんしてみた。
「おもいでだま」は、周りを囲む銀のかざりできらきら、きらきら。
きっと光がはんしゃしたから、何か変なものが見えたんだね。

でも……
いっしゅん、おじいちゃんと小さい女の子が見えたんだ。
もしかして、おばけ?
それとも、うちゅうじん?
でも、カッパ寿司のこまーしゃるに出てるのとはちがって、ふつうのおじいちゃんと女の子だったから、うちゅうからきたのでも、立体ほろぐらむでもないよね。

と、その時。
とつぜん、おへやのドアが開いた。

わ!
ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。
おなかの下にかくして、知らん顔をする。

……タケルだ。
み、見つかったかな?
ぼく、おじいちゃんと女の子のおばけ?にびっくりしてて、タケルが帰ってきたの、気が付かなかったよ。

でも、時すでにおそし、だった。
タケルはぼくの首っこをつかまえて、抱き上げた。
ぼくは床を見下ろす。
床の上では「おもいでだま」がぽつん、と光っていた。
真ん中は黒く、まわりは銀できらきら。

……タケルに見つかっちゃった。ぼくの宝物。
ぼくはちらっとタケルを見る。
タケルは「おもいでだま」をつまみ上げる。不思議そうにそれを見つめて……ポケットにしまっちゃった!

ぼくはがっくり。
そうだよね、タケルだってやっぱり欲しいよね。
でも、ぼくの宝物だったのに……

それからタケルはぼくを車に乗っけた。車の後ろには釣り道具。
わぁ、海に行くんだね!
「おもいでだま」は取られちゃったけれど、海に行くのならいいや。
そのかわり、おさかないっぱいとってね!


[SCENE2] 大事な人が帰って来る日

でも、タケルは釣りに行く前に、花屋さんに寄って、お花を買った。
あれ? 海じゃないの? どこ行くの?
たどり着いたのは、海じゃなくて山。
四角い石がいっぱい並んでた。

いい匂いのする木を燃やしたにおい。
石の前には、お花とか、お菓子とか、おいてある。
タケルはバケツに水を入れる。
キラキラ、水が光ってバケツの中に落ちていく。
タケルはバケツを持って、たくさんの石の中のひとつに向かった。

ぼくはトコトコ、ついて行く。
タケルは石の周りの草を抜いたり、石のくぼみをきれいに水で洗ったりしておそうじをする。ぼくは小さな虫が飛んでいるのを見て追いかける。
マコト、おはかで虫をいじめちゃだめだ。
……おはか?
ぼくは言われた通り、虫を追いかけるのをやめて、タケルといっしょに草をぬくお手伝い。
それからタケルは、石のくぼみに水を入れて、お花を入れた。
きれいだね。
それから細いムラサキの棒に火をつける。けむりが風に流れる。
タケルは何も言わないで、じっと四角い石を見つめていた。
ぼくもよこに座って、タケルを見てから石を見上げる。
字が書いてある。ねこには読めないけれど、きっと大事なことが書いてあるんだね。

おぼん、なんだよ。
死んだ人が、帰って来てくれるんだ。だから、今日はお迎えに来たんだよ。
ふ~ん。
死んだ人って、お空に行っちゃって、もう帰ってこないのかと思ってた。

それからやっと海に行く!
海は「おもいでだま」の銀のキラキラよりももっとキラキラしてた。
風が吹いてる。太陽はとってもあつい。キラキラって海の上で光る。
いっぱいいっぱい光る。
海の上をお船がすべってく。
タケルはイスに座って、ぼうしをかぶって。でも今日はどうしたわけか釣りばりの先っちょにエサのミミズをつけないんだ。
エサがなくてもおさかながとれるのかなぁ。
タケルはエサの代わりに、ビンから水を海にこぼした。
おさかなが集まって来るのかな?
ビンには『田酒』って書いてあるよ。たんぼのおさけ?

いつも海に釣りに来たら、おさかなが釣れるまで、ぼくは待ってるの。
タケルからちょっとはなれたところで影ふみごっこ。
ぼくは自分のしっぽを追いかける。
それからトリさんの影を追いかける。
しっぽにも、トリさんにもぜんぜん追いつかない。
くるくる、くるくる。目が回ったらきゅうけい。

時々人が通りかかると、ぼくはあわててタケルのところへ飛んでもどる。
タケルのかげからそっと人が通り過ぎるのを確かめて、いなくなったらまたタケルからちょっとはなれて、くるくる、しゅわっ。くるくる、くるくる。
車の音が聞こえたら、またタケルのところへ飛んでもどる。
タケルのかげからそっと車の音が聞こえなくなるのを待つ。
海の音だけになったら、またタケルからちょっとはなれて、くるくる、くるくる。

でも今日は、タケルはつり針にエサをつけないで釣り糸をたれる。
それから、思い出したようにポケットからぼくの「おもいでだま」を出してくれた。
ぼくの前に置いてくれる。
わぁ、タケル、ありがとう!
ぼく、タケルが取っちゃったのかと思った。

だからぼく、今日は「おもいでだま」をころがす。
ころころ、ころころ、ころころころ。
海に落っこちないように、タケルから少し離れたところで、ころころころ。
人が通りかかったら、いそいで「おもいでだま」に乗っかって、見つからないようにかくす。
だって、だれかにとられちゃったらたいへんだもの。

ころころ。ころころ。ころころころ。
海の風がとっても気持ちいいけれど、ちょっと暑くなってくる。
タケルは釣りをしているというよりも、何か考えごとをしているみたい。
遠く遠く、海の向こうのほうを見てる。
ぼくはころころ、ころころ、ころころころ。

その時。

ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。

……


[SCENE3] 探しびと・探しもの

またあのおじいちゃんと女の子だ。
女の子は、おじいちゃんとつないでいた手をはなして、ぼくのほうへ走ってきた。
ぼくは目をまん丸にして女の子を見上げる。
白いワンピースとむぎわらぼうし。風とははんたいの方向に、スカートがひらひらゆれている。
女の子は近付いてきて、じっとぼくを見る。

そして、がっかりしておじいちゃんのことろへもどっていった。
ぼくはじっと様子をうかがう。
あの人たちも「おもいでだま」が欲しいんだ。
これはぼくのだから、だれにもあげない。
おじいちゃんと女の子がいっしょにちかづいてきた。
ぼくはもっとしっかり、「おもいでだま」にはりつく。

……もし、その玉を見せてもらえませんかの。
おじいちゃんがぼくに話しかけてきた。
ぼくは目を合わさないようにしてうずくまる。

……おじいちゃん、この子はねこだよ。フジマルじゃないよ。ぜんぜんちっさい。
……しかし、わしがフジマルにつくってやった玉とそっくりだ。もしかしたら、フジマルの玉かもしれない。
ちがうよ。これ、ぼくのだ! フジマルのじゃない。
だいたいフジマルって、だれだよ!

……もし、ちいさいねこさん、実はわれわれはフジマルとはぐれてしまっておるのです。われわれはフジマルを迎えに来たのだが、見つからない。われわれとフジマルを引き合わせてくれる目印は、わしがフジマルに作ってやったオニキスの玉だけなのですよ。もしかして、フジマルをご存じじゃありませんかね。

フジマルなんか知らない!
これ、ぼくのだ。ぼくが見つけた「おもいでだま」。
タケルがいない時も、これがあったら、ぼく、さみしくないんだ。
ころころ、ころがしたら、タケルが近くにいるみたいだし、会ったこともないけれどママの匂いがするし、それに布団基地とかトモダチのこととか思い出して、ぼく、さびしくてもがんばれるんだ。
だから、神様からぼくへのごほうびなんだ。
だから、これ、ぼくのなんだ。

……フジマルはまだこの世をさまよっておるのです。いつまでもフジマルが三途の川にやってこないので、われわれはこの世にフジマルを探しに来たのですが、そばにいたとしても目印がなければ魂を見つけることができない。われわれはお盆の間しかこの世に来ることはできない。だから、時間が限られているのです。

何のことか分からないよ!
あっち行って!
ぼくの「おもいでだま」、取らないで!

タケルは今日、おさかなをつかまえるつもりじゃなかったみたい。
少しの時間、海を見たかっただけなのかも。
いつもよりもずっと早くに釣りはおしまい。
お盆だからね、殺生はいけないんだ。ちょっと海にご挨拶をしにきただけだよ。今日はお前も、缶詰でいいかな。
うん、ぼく、カンヅメもきらいじゃないよ。

タケルが作ってくれたカンヅメのねこまんまを食べて、ぼくは「おもいでだま」をころころしてから、タケルを見上げた。
タケルは「おもいでだま」をつまみ上げて、ベッドの上のぼくのお気に入りの場所に置いてくれた。
ぼくは「おもいでだま」を抱いてねむる。
今日はトモダチの夢を見るんだ。

…………

あれ。ここはどこだろ。
ぼく、夢の中かなぁ。
知らないおうちだ。
……誰かいる。……おうちの中を歩いてる。
おばけ?
あ、そうか。夢の中だもんね。
ぼくはまっくらな家の中を歩きまわっている影の正体を見ようと、じっと目をこらした。
何か探してるみたい。
くんくんと鼻先を鳴らすような音がしている。

……!

トモダチだ!
ぼくを上に乗っけてくれてた大きなからだが見えた!
ぼくはあわてて隠れた。
なんでだろ。ぼく、何だか見つかっちゃいけない気がしたんだ。
トモダチはずっとくんくんと音を立てながら、何か探してる。
それから顔をあげて、悲しそうな顔をした。

トモダチはいっしょうけんめい、おへやの中で何かを探して。
それから家の外に出て行った。
お部屋の中に黒い大きなハコ。いい匂いの木の燃えカス。
そのハコの前に写真がかざってある。
トモダチと、あのおじいちゃんと女の子。
……ここはトモダチの家だったんだ。
今はもうだれも、住んでいないみたい。

写真の中のトモダチはくびわをしていて、そこにあの「おもいでだま」が埋め込まれていた。
ぼくはトモダチを追いかけて庭に出てみた。
トモダチはお庭にある小さな小屋の中に入って、ごそごそ、中を探している。
……犬小屋なんだね。そこには、下手くそな字でなまえが書いてあった。

……ぼくは目をさました。
どきどきしてた。
タケルはすやすやと眠っている。
お部屋はまっくらで、ぼく以外、だあれもいないみたいだった。
ぼく、「おもいでだま」をぎゅっとにぎりしめた。
トモダチ、これを探してるんだ。
トモダチの名前は、フジマルっていうんだ。

でもこれ、ぼくが見つけたんだから、ぼくんのだ。
ぼく、これがあったら、ひとりでおるすばん、がんばるもん。
だから、これ、……ぼくんのだ。

ぼくは「おもいでだま」をベッドの足のうらにかくした。
だれにも見つからないように。
ぼくがころころしなくなったので、タケルはちょっと不思議そうだったけれど、何も言わなかった。

それから毎日、ぼくは探しものをしているトモダチの夢をみた。
トモダチは探しものが見つからなくて、とても悲しそうだった。
でもぼくは、やっぱりこれ、返したくないんだ。

それから何日かたって、タケルはもう一度、石のいっぱいあるところに行った。
今日でお盆はおしまいだから、お見送りに行くんだって。
ぼくはとぽとぽついて行く。
……ねぇ、タケル。ここにはタケルのだいじな人がいるの?
タケルは何も言わないまま、帰りにまた海に連れて行ってくれた。


[SCENE4] あったかいキモチ

タケルはじっと海を見ている。
それから思い出したようにポケットから何か出して来て、ぼくの前においた。
あ。「おもいでだま」。
かくしてあったのに、持ってきちゃったの?
見つかったら、取られちゃう! 
ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。

周りを見たら、少しはなれたところでじっとぼくを見ているおじいちゃんと女の子と目が合っちゃった。
……やっぱり、あれ、フジマルのだよ!
女の子が言った。
ちがうもん! ぼくんだもん。……ぼくんのだ。
ぼくにポケットがあったら、うまく隠せるのに!
ぼくは「おもいでだま」を隠したおなかにきゅっと力を入れた。

……もし、ちいさいねこさん。われわれは今日でもうあの世へ帰らなければならないのです。もしフジマルに会ったら、われわれがずっと三途の川の向こうで待っていると、お伝えください。
ぼくは耳をふさいだ。

その時。ふいにタケルがぼくの頭をなでた。
……でも、俺にはまだお前がいるんだな、マコト。
タケルは遠く、海の向こうを見ている。
タケル、だれか大事な人をお見送りしたの?
その人はまた遠くへ帰っちゃったの?

ぼくをなでてくれるタケルの手があったかい。
ぼくはタケルといっしょに海を見る。キラキラ、キラキラ。
波は上がったり、下がったり、下がったり、上がったり。
まるでトモダチの背中みたいにぼくを運んでくれる。

……トモダチ、おじいちゃんと女の子が遠くに帰っちゃったら、ひとりぼっちなんだ。
ひとりぼっちで、ずっと探さないといけないんだ。
これがないと、おじいちゃんと女の子に会えないんだ……
ぼく、ぼく、トモダチの大事なものをとっちゃったんだ……
でも、ぼく……

……まだ間に合う?

ぼくはタケルに言った。
あのね、トモダチんちに行きたいんだ! それでね、ぼく、この「おもいでだま」をトモダチに返さなくちゃ! でないと、トモダチがね、だいじな人に会えなくなっちゃうんだ! ぼくのイジワルのせいで、トモダチが悲しんでるんだ! だから……!
今日でおぼんがおわっちゃうんだ!
トモダチの大事な人たちが、行っちゃうよ!

……でも、ぼく、ねこだから、タケルにうまく説明できない……

ぼくはいぬのまねをしてみたり、「おもいでだま」をころころしてみたり、あれこれやってみた。タケルはふしぎそうにぼくを見ていたけど、そのとき「おもいでだま」がきらって光ったんだ。
タケルはひかりの中をじっと見ていた。
そして、あ、という顔をして「おもいでだま」を拾い上げ、太陽にかざしてゆっくり回しながら何かを確かめると、ぼくを車に乗っけて走り始めた。

……そこは夢で見たとおりの家だった。
トモダチはひとりぼっちでさみしそうに家の庭にすわっていた。
タケルがぼくの前に「おもいでだま」を置いてくれた。
トモダチがぼくを見た。
……ごめんね。きっと怒ってるよね。
でも、ぼく、ちゃんとあやまって、これを返さなきゃ。

ぼくはころころと「おもいでだま」をころがして、トモダチの前に行った。
……あのね、ぼくね、えっとね……ぼく、ぼく……
ぼくはトモダチを見上げた。
……ほんとうにごめんなさい! これがあったから、ぼく、さみしくなかったんだ。だから、ぼくのものにしたかったの。言えなくて、かくしちゃってて、ごめんなさい!

……

おへんじがない。きっとトモダチ、怒っちゃってるんだ。
ぼく、わがまましてたんだもんね。

そのとき……

ぽん。
トモダチのおっきな手が、ぼくのちっちゃい頭にやさしく乗っけられた。
それから、その手は、そっと、とっても大事そうに「おもいでだま」の上に乗っけられた。

きらっ!!!
わぁ!
突然、「おもいでだま」から虹いろの光が飛び出した!
あたりは光色に染まって、太陽が落っこちてきたみたいだった。
フジマル!
ひかりの中からあの女の子が走ってくる! おじいちゃんもいっしょだ!
フジマル!
トモダチが立ち上がった。わん! って吠えて、大きなしっぽをせいいっぱい振った。

わん! わん、わん!
フジマル! フジマル!

……わぁ、よかった。
お盆が終わる前にみんながまた会えて。トモダチがひとりぼっちじゃなくなって。
おじいちゃんと女の子と、トモダチはお互いを抱きしめあった。
それからぼくを振り返る。
……ねこさん、ありがとう。
……ううん。あのね……ぼく、いじわるしてて、ごめんなさい。
……なに、こうして無事にフジマルに会えたのだから、もういいんだよ。ちいさいねこさん、本当にありがとう。
そう言って、三人でいっしょに光の輪の中へ歩き始めた。
ぼくはじっとその背中を見送った。

ばいばい、トモダチ。ばいばい、ぼくの「おもいでだま」。

と、その時だった。
光の中から、ころころころころころ……
あれ、「おもいでだま」だ!
ころころころころ、「おもいでだま」は転がってきて、ぼくの前で止まった。
ぼくは返ってきた「おもいでだま」をじっと見つめる。

……ありがとう、小さいともだち。これ、だいじにしておくれね。
「おもいでだま」から、トモダチの声が聞こえたような気がした。

あのね、ぼく、分かったんだ。
さびしくてもがまんできるのは、またちゃんとタケルがぼくのところに帰って来てくれるって分かってるからなんだ。
またちゃんと会えるから、なんだね。
だからぼく、ちょっとくらいさびしくてもがまんする。

ぼくは時々窓からお空を見上げる。
あ、ほら、トモダチがいるよ! 真っ白な雲になって、ぼくを見てくれてるんだね。

それでもやっぱりさびしい時は、ぼくは「おもいでだま」をころがす。
ころころ、ころころ、ころころころ。
楽しいこと、幸せなこと、だいじな人へのキモチ、そんなのがいっぱいつまってる。だからころがすたびに、あったかい場面が転がり出してくる。
ママの匂い、トモダチの匂い、タケルの匂い、それからぼくとタケルがいっしょにいる時のキモチ、トモダチのあったかいキモチ。

……ころころ、ころころ。ちょん、ちょん。
……ころころ、ころころ、ころころころ。ちょん。
転がしてから手を乗っけてみたら、ぼくはちょっとだけ強くなった気がした。



オニキス。その漆黒の色は迷いのない信念の象徴。
辛い時、苦しい時もあきらめず、前に進むための忍耐力や意思の強さを与えてくれる石。

(『迷探偵マコトの事件簿』(12)トモダチのわすれもの 了)


註) 『田酒』:青森県のお酒。
少しずつ、マコトもオトナになっていっているんですね。

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【迷探偵マコトの事件簿】(13) マコト、練習中。 

霑ェ・ォ郢晄ァュ縺慕ケ晁肩・シ迢冂onvert_20130824193448_convert_20140414070547(イラスト:limeさん)
マコト、今度は何を始めたのかな?

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったら豹になるつもり。謎のヒーロー番組『半にゃライダー』に憧れている。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。でも本当はとても優しい。


【迷探偵マコトの事件簿】(13)マコト、練習中。

[SCENE1] まずはかっこよく

う~
う、う~~
うぅ~……
ぼくは手をつっぱって、おしりを下げる……うぅ~~
それから、前に出るいきおいで……にゃん!

あれ?
……もういちど。

手をつっぱって、おしりをさげて……うぅ~~
前に出る!……にゃお!

あれ?
……もういちど。

おしりをさげて……うぅ~~
前に!……にゃっ!!

だめだ……
ぼくはがっくり。

やっぱりかわいい声になっちゃう……
ぼく、がお~とか、ばお!とか、かっこよく吠えたいのに。
ちっともうまくいかないの。

しかたがないからテレビを見る。
ガラガラ声のおばちゃんが口の中に何かを放り込んだら、きゅうにいい声で「あぁ~~~♪」って歌いだした。



ぼくはタケルをふりかえった。

ね、あれ買って!

[SCENE2] キックは基本

来たな、かいじん!
ぼくはかいじんにたっくる!
あしをつかまえて……ねこきっく! ねこきっく! ねこきっく!

ふぅ。

でも、イスのあしじゃ、なんだかイマイチやっつけた気がしないなぁ。



ぼくはそ~っと、ソファでねちゃってるタケルのところにいって……
あしをつかまえて……
……ねこきっく! ねこきっく! ねこきっく!

わ! タケルが起きた! 

こ、このあいだ、ね、ねこのきもちってほんに書いてあったよね。
……あ、あ、あ、あいじょうひょうげんってやつ?
ふくざつな、ね、ねこごころにゃの……

か、かいじんだなんて、思ってないよ。

[SCENE3] 秘密兵器のがぷっとぉ!

来たな、かいじん!
こんどはにがさないぞ!
ぼくはがっしりつかまえて……

ぷっ!

あぁ、ちがうんだ。ぷって、おっきく噛みたいんだ!
今日は、宝来センパイに教えてもらった「かぷっと」じゃなくて「がぷっとぉ!」なんだ。

もういっかい!

がっしりつかまえて……

……かぷ。

……

口がつかれた……あごがおっきくあかない……

そうだ、きっと、だんぼーるばこのはしっこは、かみにくいんだ。
それにかいじんは四角くないもん。



ぼくはそ~っとおふとんで寝てるタケルのところに行って……
タケルの手をつかまえて……

がぷっとっ!!

……あ。

おもったより強くかんじゃった。

わ。かいじん、じゃなくて、タケルが起きた~~~
つかまった~~~~
わ~~~~~、ごめんなさい~~~

[SCENE4] 空も飛べるはず

きょうはイスとテーブルの間がいい感じ。
こねこのぼくにはちょっと遠いけれど、きょうはやれる気がする。

でもやっぱり遠いね。
ちょっと手をのばして。
ちょい。
きょりをはかって。

ちょい。
もういっかい、はかって。

……とおいなぁ。
ぜんじんみとうの大ジャンプだ。

もういっかい手をのばしてはかってみる。

……

おりんぴっくに出てたうちむらくんは言ってた!
イメージが大事だって!

そうだ。思いえがくんだ!
かいじんがむこうに逃げたと思えばいいんだ!

まて、かいじん!
ぼくはもういっかい下がって、おしりを引いて……

思いきって……じゃんぷ!



どてっ。

ころん。

……

……ひーろーになる道のりって、とおいんだね……


(『迷探偵マコトの事件簿』(13)マコト、練習中。 了)


そもそもこのお話、しょうもない頭休めが信条だったのに、最近複雑な話になっていたので、またまた初心に還って「しょうもなさ全開」で書いてみました。
それもなぜか昨日から、「吠える練習」をしているマコトが頭の中に陣どちゃって、書いて出してしまわないと、仕事にならない気がしまして^^;
しかも、自分で「かわいい声」とか言っている、結構、自意識過剰? ナルシスト?
ねこって、ナルシストだよね、うん。

最後のは、うちの猫がよくやっていたのですが、いつも落ちてました^^;
ちょっと後ろ足が弱かったからかもしれませんが……そんなに何回も測って、何で落ちる?
しかし、のど飴のコマーシャルを見たマコトに急に振り返って見つめられたタケル……なんだ?って思ったでしょうね。
しかも、のど飴なんてなめたら、余計に可愛い声になるだけかも。

でもね、マコト。
君の前に道はないけれど、君の後ろに道は出来るよ! きっとね。

面白かった~よりも、笑いながらしょうもな~~~って声を期待しちゃう大海でした(*^_^*)

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【迷探偵マコトの特別ファイル】『展覧会の絵』事件~limeさん、イラストありがとう!~ 

小説ブログ「DOOR」のlimeさんがマコトのイラストを描いてくださいました!
お礼の代わりに物語風ご紹介を書かせていただきました。
limeさんには本当にお世話になっております。遠まわしにこそこそお願いしちゃったりして。そんな私の遠まわしリクエストを汲んでくださって、こうしてlimeさんのおかげでマコトもすっかり人気ねこに??(気のせい……)
ではどうぞ、お楽しみくださいませ(*^_^*)

イラストありがとう!【マコトの展覧会の絵】
limeさん-マコト1
<登場人(猫)物>
マコト:ちょっとだけ有名になった?茶トラ猫。
タケル:マコトの飼い主。ギャラリーのオーナー。
来夢:高校生イラスト作家。

マコトひょうになる
金髪の人間など、今時珍しくはない。
だが、染めているわけでもなく、そもそも日本人ではないし、何よりも相当の美形となると、かなり珍しい。
おかげで、彼が校内に入ってから、何となく周囲は騒がしくなっていた。
高い窓から落ちる陽は、淡い色合いのシンプルな文様のステンドガラスに染められて、石造りの廊下に秋の気配を描いていた。

その景色に溶け込むように、金髪の外国人は1枚1枚の絵を楽しみながら歩いていた。
彼の足元を、シマシマ茶とら模様の仔猫が歩いている。しっぽを立てて、置いて行かれないように一生懸命について行く。
仔猫は仔猫なりに周りに興味を惹かれるものがあるのだろうが、ちょっと足を止めては、遅れてしまわないように慌てて小走りになったりしている。

ここは某私立学校の講堂脇廊下。文化祭のイベントのひとつで、在校生ながらイラスト作家として知られている長谷川来夢の絵画展が開催されていた。
今回のテーマは「ねこ」。写実的な猫や擬人化された猫、いろいろな種類の猫が自由な発想で描かれている。
今日は前夜祭で、特別に招待されたのは、絵のモデルとなった猫たちとその飼い主だけだった。

「こんにちは」
イラスト作家・来夢は金髪外人と小さな猫に声を掛けた。
「やぁ、すみません。少し早く着いてしまって」
「嬉しいです。来てくださって。マコトくんもいらっしゃい」
仔猫の方は手を伸ばされて、慌てて飼い主である金髪外人・タケルの後ろに隠れた。

「お気に召すと嬉しいのですけれど」
「いや、こうして擬人化していただくと、なるほど、こいつはこんなことを考えているかもしれないと想像しながら、本当に楽しく見せていただいています」
「私こそ、1日マコトくんに密着させていただいて、色んなシーンを見て、あれこれ想像して楽しませていただきました」
「これなんか、本当にそんな感じのことがありますよ」
タケルはにんじんを嫌がっているマコトのイラストを指した。
マコトねこまんま
それから何かを決めたように来夢を見つめた。
「今日ここに来て、あなたの作品を見ることができて良かった。今度私のギャラリーで、ぜひあなたのイラスト展をやらせてください」
来夢はちょっと驚いたような顔をしていたが、やがてはにかんだ笑みを浮かべた。
「ミサキリクさんと同じ場所でイラスト展なんて、夢のようです。でも、まさか叔母が何か言ったわけじゃありませんよね」

タケルは来夢の勘違いをほほえましく思ったようだった。
「長谷川さんの? 確かに彼女は迫力ある女性で信頼のおける優秀な仕事仲間だが……私は他人の目に頼ることはしないし、何よりも彼女は自分の可愛い姪のためとはいえ彼女のポリシーに反することはしないと思いますよ」
「そうでした。失礼なことを言ってごめんなさい。でも私の絵が大和さんの目に留まるなんて思わなくて」
「何を言うんです。自信を持ってください。な、マコト」

仔猫のマコトは自分よりもずっと高い所に絵が掛かっているので、見えないなぁと思っているのか、タケルのほうに向けてちょっと背伸びをしているように見えた。それがまるで『だっこ』のイラストに描かれた姿のままに見えて、タケルも来夢も顔を見合わせて笑った。

仔猫は気まずそうな顔をした。人間が自分のことをどのように話しているのか、わかっているように見えた。
拗ねたのか、ぷいと他所を見て、とことこと2人から離れていく。
ぼく、別に抱っこなんてしてほしくないもん、と言いたげだった。

「そうだ、どれか1枚貰ってください」
「とんでもない。買い取らせていただきますよ」
少しの間、差し上げる、いや、買う、との問答が続いたが、結局、1枚の絵を飼い主に寄贈するということに落ち着いた。
タケルはどの絵にするか、かなり迷っていた。来夢がいっそ全部、と言いかけた時、タケルのほうから言った。
「この迷うのが楽しいんですよね。おい、マコト、おいで。どれにする? やっぱり、この『だっこ』かなぁ。これ、いいなぁ」

来夢がマコトを見た時、マコトの顔の横にははっきりと吹き出しが見えた。
 ぼく、赤ちゃんじゃないし、『だっこ』なんて言わないもん!
マコトだっこ

蛇足ですが……
ミサキリク:limeさんの小説「RIKU」シリーズの主人公。美貌の新進気鋭の画家。
長谷川女史:同じく、「RIKU」シリーズに登場の、美術雑誌『グリッド』の凄腕編集長。
来夢ちゃんは長谷川女史の姪御さんという勝手な設定をつくっちゃいました(*^_^*)
そして、さらに勝手に、リクがタケルのギャラリーで展覧会をやったことにしちゃいました。
いや、絵になるかも。美貌の新進気鋭の画家と、美形のギャラリーのオーナー。
それだけで『グリッド』の売り上げが…・・・・(うにゃうにゃ)

タケル、マコトに「だっこ」って甘えて欲しそうですね。マコトはぷい、って感じですけれど。
甘えん坊だけれど、素直になれないマコトなのでした。
その辺りは真といっしょですね。いえ、真は……甘えん坊ではありませんが。
そして、ニンジンの絵のマコトの耳だけが、他の絵と違ってちょっと伏せ気味だから、鬼さんのツノに見えるんですよね。
これって、わざと? とても感じが出ていていいなぁと。

limeさん、ご紹介とお礼が遅くなって、本当にすみません!
いつも本当にありがとうございます!!!!!!!

*イラストの著作権は来夢さん、ではなくlimeさんにあります。無断転用はお断りいたします。

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(14) マコトのクリスマスプレゼント 

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(イラスト:limeさん。作中の「だっこ」のイラストもlimeさんが描いてくださいました(^^))
クリスマスにマコトから小さなプレゼントです。
お楽しみくださいませ(*^_^*)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。飼い主のタケルに甘えたいけれど、どうしても甘えられない。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。マコトが甘えてくれたらなぁと思っている。


【迷探偵マコトの事件簿】(14)マコトのクリスマスプレゼント

ぼくはそ~っと寝ているタケルの近くに行く。
ベッドのよこには、おっきな毛糸のくつ下がぶら下がっている。
それをちらっと見てから、ぼくはタケルの手にちょっとだけあたまをくっつける。
す……
す……
タケルの手がちょっとだけ動く。
うわ~
ぼくはあわててベッドから飛び降りた。


くりすます?
何だかよく分からないけれど、タケルはとっても忙しそう。
お仕事も忙しいし、それに、いっぱいプレゼントを用意しなくちゃいけないんだって。
とおくにいる家族とか、ホッカイドウにいるジィちゃんとか、女の人とか、おそうじのおばちゃんとか、お仕事のおともだちとか、いっぱいいっぱい。

ぼくもジィちゃんに、にくきゅう文字でおてがみかいたよ。
ジィちゃん、またお正月に行くから、シャケとスケトウダラとホタテ、よろしくね!
タケル、ちゃんとお手紙、送っといてね。
……ジィちゃん、にくきゅう文字、読めるかなぁ?

タケルが忙しいから、ぼくは「にくきゅうでタッチリモコン」でテレビをつける。
あのね、にんぎょうのお芝居をやってたの。
女の人が長い髪の毛を切って、お金をもらって、キラキラ光るクサリを買ったの。
で、今度は男の人がね、時計を売って、お金をもらって、くしを買ったの。
でね、男の人は女の人の短い髪を見て、びっくり。
ふたりはせっかく買ったプレゼントをどこかに仕舞っちゃった。
???

賢者の贈り物
「マコト、それは『けんじゃのおくりもの』だよ。プレゼントってのは、相手をおもう心がいちばん大切なんだ」
でもね、仕舞っちゃったよ?
くしもクサリもおいしくないのかなぁ?
「形じゃないんだ。あいてがよろこんでくれるかどうかなんだよ」

くりすますはだいじな人にプレゼントをするんだって。
ぼくもタケルにプレゼントする?
でも、ぼく、お金持ってないし。
毛も短いから、売れないし。

だいじなのはキモチ?
タケルは何が欲しいのかなぁ?
……

ぼくはいっしょうけんめい考える。
でもすぐ眠くなっちゃうから、すぐ忘れちゃう。


くりすますの前の日。
おばちゃんがきれいにおそうじして、タケルはにせものの木にいっぱい丸いのとかお星さまとか、きらきらとかぶら下げて、木の下にいっぱいプレゼントを置いた。
「マコト、できるだけ早く帰ってくるよ」
そう言って、タケルはおめかししてお出かけ。
パーティなんだって。

おばちゃんはぼくにねこまんまを作ってくれる。
「ほんとうに、あんなふうに人にばっかりプレゼントを用意して、自分は何にも欲しいって仰らないんだからね。でも、あの人は何でも持っているし、今さら欲しいものはないのかもしれないね」
うん。そうだね。
タケルが何をよろこぶのか、なんて分かんないよね。

マコトだっこ
……でも。
ぼくはちらっと壁にかかった絵を見る。
この間もらってきた『抱っこ』の絵。
いっつもタケルはこれを見て言うんだ。
お前もこんなふうに甘えてくれたらいいのになあ、って。

ぼく、タケルが寝てるときとか、あっち向いてるときだったら、ちょっと近づいてみたり、お布団のよこにちょびっとだけもぐりこんだりとかできるんだけれど、タケルが気がついたら逃げちゃう。
だからいつも寝る時は、タケルの足のよこらへんのお布団のうえ。

でも、ねこのカンヅメのこまーしゃるを見たら、灰色のねこが飼い主さんにすりすりして、とっても気持ちよさそうなんだ。
いいなぁ。
だから、ぼくもちょっとがんばってみることにしたの。
そうだよね。キモチが大切なんだもの。


……こんどこそ。
ぼくは寝ているタケルの手のよこに行く。
す……
すり……

もぞっ。
うわっ!
タケルが動いた。
ぼくはあわてて逃げる。
……あぁ、びっくりした。

ぼくはしばらく息をひそめて、じっと待つ。
タケルは眠っている。
柱時計の音がする。
くりすますの朝。
もう今日がきのうになっちゃう。

ぼくはもう一度ベッドによじ登って。
タケルのよこに行って。
す、す、すり……
もぞっ。
わ~、やっぱりむり~~~

タケルの手が動いて、ぼくのしっぽをつかみかけた。
ぼくはあわててじゃんぷ。
何かに爪が引っかかった。


あれ?
もぞもぞ。
ぼくはもがきながら引っかかりを外そうとした。

あれ~~
ぼそっ。
なんかにはまっちゃった。
落とし穴??
まっくらだよ。

ごそごそごそ。
……
ゆらゆらゆら。
……

なんか気持ちいいな。
ゆりかごみたい。
だっこしてもらったら、こんなかんじなのかなぁ?
……ま、いいか。ねちゃお。
「すりすり」はまたこんど、れんしゅうしよっと。


クリスマスの朝。
俺は伸びをして起き上がる。
夢の中で、何度も手にマコトのしっぽが触っていたような気がしたけれど、多分気のせいだな。
昨夜は少し飲み過ぎたようだ。

と思って、枕元の毛糸の大きな靴下を見たら……
あれ? 何だか、膨らんでいる?
まさか、本当にサンタクロースが来たのか?
って、幼稚園児じゃあるまいし、そんなわけないか。
二日酔いで、どこか頭のネジが緩んでいるのかもしれない。

と思って手を伸ばして靴下に触ったら。
がぶっ!!
いてっ!

なんだ、妖怪か怪獣のプレゼント?
俺は靴下の中を覗き込んだ。
にゃあ!

クリスマスの朝、プレゼントを待っていた靴下の中から、仔猫が飛び出した。
靴下とねこ

(『迷探偵マコトの事件簿』(14)マコトのクリスマスプレゼント 了)


最後のイラストはホームページ用イラスト素材無料配布サイト『素材大好き.com』さんからお借りしました。
飛び出てきたのはクロネコじゃなくてトラ猫だったけれど(*^_^*)
でもこれって、恋愛小説なら、「プレゼントはあ・た・し」ってやつですかね?
さて、マコトがタケルに「すりすり」できる日は来るのか??

皆様、素敵なクリスマスを!
次回は、マコトのお正月のご挨拶、例のごとくfrom HOKKAIDO、です。
ひつじ年に、まさかのジンギスカン??

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(15) マコトのカムイミンタラ(前篇) 

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(イラスト:limeさん)
お正月休み。今年もマコトはタケルと一緒に北海道のジィちゃんちです。
でも、今年はマコトに大冒険が待ち受けていました。
カムイミンタラ。「神々が遊ぶ庭」もしくは「ヒグマが沢山出るところ」? 
幸い冬なので、熊は冬眠中。でも、冬の森の中は危険がいっぱい。
小さなマコトの大きな冒険、お楽しみくださいませ(*^_^*)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。怖がりだけれど、一生懸命。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。
ジィちゃん:ジィちゃんだけど、タケルの親友。北海道の浦河で牧場を経営している。
アイヌのジィちゃん:ジィちゃんのオトモダチ。


【迷探偵マコトの事件簿】(15)マコトのカムイミンタラ(前篇)

[SCENE1] マコトの冬休み
今年もぼく、タケルといっしょにホッカイドウ。
ホッカイドウはすっごくあったかいよ。
……おへやの中はね。
でも、ぼく、おそとも大好き。
だから、ジィちゃんがお出かけするときはいっしょについて行くの。
ジィちゃんのおしごとはお馬さんのおせわ。
だからお休みはないの。

でもね、ジィちゃん、今日はオトモダチのところにお出かけなんだって。
ぼくもついて行っていいの?
って、ジィちゃんをじっと見てたら、おいでって!
やった。
ぼくとジィちゃん、去年、いっしょに宇宙人をやっつけてから仲よしなんだよ。
ジィちゃんのエサシオイワケに、ぼく、オハヤシもできるし。
う~、にゃんにゃん!

今日お出かけするのはちょっとだけお山の中なんだって。
雪にうもれちゃう!?
ジィちゃんは、足につける、たいらなカゴみたいなのを出してきた。
カンジキっていうんだって。
これをはいたら、雪の中にしずまないで歩けるの。
ねこ用はないのかなぁ。
ねこだって、歩いたらしずんじゃうのに。
ウマ用はあるんだって! じゃ、ねこにも作って!

ジィちゃんのオトモダチはアイヌみんぞく、なんだって。
ねこにも、ぼくみたいなトラもようとか、ミケとか、ブチとかいるみたいに、ニンゲンも少しずつチガウ……みたい。タケルはニホンジンじゃないし。
でもねこはねこだし、ニンゲンはニンゲンだよね!
なんかよくわからないから、そういうこと!

きょうはさむいけれど、雪が止んだので、キラキラできれい!
まっ白なぼくじょうに、いっぱいちっさい太陽がおちてきたみたい!
ぼくはジィちゃんの服の中に入れてもらって、しゅっぱつ!
お馬さんのおせなかは、とっても高いね。
でも、ぼく、もうなれたよ。コワくないもん。

ぼくはジィちゃんの服からカオを出して、お外を見る。
キラキラ、キラキラ、まっしろで目がいたくなっちゃった。
あ! 何かうごいたよ!
ぼくはジィちゃんを見る。
マコト、あれはエゾシカだべ。この世に生きるものはすべてカムイだ。神さまだ。かみ、というのは「まれなるもの」という意味だ。あの小さなシカも、このウマも、お前も、みんな「まれなるもの」だべ。
カムイ。
何だかふしぎなヒビキだね!

あれ、ジィちゃん、これなに?
ジィちゃんの服の中のぽけっとに、何か入ってる。
ぼくはごそごそとのぞいて見る。
わ。
ちいさいカンジキが4つ!
これどうしたの、ジィちゃん?
ぼくが首を出して、ジィちゃんのカオを見たら、ジィちゃんはいつものこわいカオのままだったけど、ちょっとテレたみたいにとおくを見た。
これ、ねこのカンジキだよね!
ぼくのカンジキ? ジィちゃん、ありがと!!

ジィちゃんのオトモダチは、クマだった!
宇宙人のつぎはクマ??
ぼくはびっくりしてジィちゃんの服の中にもぐりこむ。
それからそっとカオを出してみた。
わはは。
クマがわらった!
じゃなくて、クマみたいにおっきなヒトだった。おひげもすごいの。

ぼくはあったかいミルクをもらう。
ジィちゃんとオトモダチはおさけ。
ねこはおさけをのんじゃだめだよ。
ぼく、お正月にまちがえてビール飲んじゃったら、ソーランぶしをおどっちゃった!
イロリでは小さなお魚を焼いてくれる。
ぼくは冷めるのを待って、はぐはぐ。

ジィちゃんたちは、時々ぽつぽつとお話をする。
ぼくはおうちの中をたんけん。
おっきなお魚がくろくなってぶら下がってる。
おっきな目玉のついた、お布団みたいな服がかけてある。
アイヌのもようはマヨケなんだって。
アクマが入って来ないように、ソデとかエリにもようを描くの。
でも、これ、布団基地にしたらかっこいいだろうなぁ。

ジィちゃん、ぼく、お外に行ってみてもいい?
ジィちゃんとぼくはイシンデンシン。
ジィちゃんがトビラを開けてくれる。
わぁ。キラキラ。オトモダチの小屋のまわりは雪だらけ。
お馬さんがじっとぼくを見る。
とおくに行っちゃいけないよって。
うん。ぼく、ちょっと見回りに行ってくるね!
あれ、ジィちゃんが呼んでる。なんだろ?
だいじょうぶ。ぼく、すぐ帰って来るから。

[SCENE2] イソポイリワク
ジィちゃんのオトモダチのおうちのまわりにはひろ~い原っぱと、後ろには木がいっぱい生えてる。大きいねぇ。ボクジョウみたいに広いよ。
まっ白でキラキラ。木の上にもキラキラ。
お空はとっても青い!
白と青、とってもキラキラ。

あ、何かうごいた!
しっぽふさふさの茶色いの!
あ、むこうには白いまるいのがいるよ!
あ、こんどはエゾシカ!
青いお空をトリがとんでる。
トウキョウのトリよりおっきい!
白い雪はいっぱいキラキラ光る。
みんな、カムイ!
茶色いふさふさも、白いまるも、エゾシカも、お空のトリも。
ぼくも、ちっさい太陽のキラキラも、みんなカムイ!

わ~い!
っと!!!

ずぼっ……!!!!!

あれ~~~??????????????

ぼくはいっしゅんまっしろになった。
まっしろ? まっくら?
あたまをぶるぶる振ってみる。

穴に落っこちたみたい!
わぁ、どうしよう!
タケル~、どこ~~~!?
って、今日はタケル、いなかった……

上を見たら、丸いお空が見える。
ジャンプしてみる?
じゃ~んぷ!
どて。
あとちょっとだけど、届かないよ!!

よし、もういっかい。
じゃ~んぷ!
どて。
……だめだ。
でも、足の下が、なんだかぶよぶよしてる。
ぼくは下を見てみた。

え?

……

ぼくは目をぱちぱち。
ぼくの下の目玉もぱちぱち。

いっかい目をつぶって、開けてみる。
……やっぱり、いる!
ぼくの下の目玉も、いっかい閉じて、また開いた。
うわ。生きてる!

ぼくの毛はぜんぶ逆立っちゃった!
おひげはキンチョーしてぴーん。
ぼくの下のおひげは……けむくじゃら!
アイヌのオトモダチみたいだ!

おい。

だれかしゃべってる!!
ぼくは上を見る。丸いお空しか見えない。

おい。

わ~。げんちょう、とかいうやつ???

ハラの上ではねたら、いたいべ!

え?

……

あ、あの。もしもし。もしかして……しゃべったの?

しゃべるも何も、ハラの上ではねるんじゃないべ。ただでさえ、あちこち痛くてたまらんに。

……えっと。どうしてここで寝てるの?

寝てる? じょうだんじゃないべ。落っこちただ。オレとしたことが……

そう言ってから、小さいヒゲニンゲンはじっとぼくを見た。
わ。ぼく、おいしくないよ! たぶん!!

おまえ、ひまだべ?

ひま……? ぼく、いつもけっこう忙しいんだ! 今だって……!
え~っと。何してるんだっけ? え~っっと、見回り!

ちょっと頼まれてくれねぇか。
ヒゲニンゲンはぼくが忙しいのもムシして、しゃべりかける。
……そりゃ、まぁ。聞いてあげてもいいけど。

じつは、じっちゃが病気だで、医者を呼びに行くとこだったベ。けど、あなぼこに落っこちてしまって、足を痛めたらしい。おまえ、おらの代わりに医者さ、呼んできてくれんか。

ジィちゃんがびょうき! いしゃ! えっと、あ、ぼくのジィちゃんじゃなくて、君のジィちゃん?
ぼくはちょっとあたまがぐるぐる。
うん、ぼく、呼んできてあげてもいいけど、でも、どこに?
それより、どうやって穴からだっしゅつするの??

ヒゲニンゲンはせまい穴ぼこの中で、よっこらしょと起き上った。
ぼくと、ヒゲニンゲンでいっぱいいっぱいのあな。
わ。小さいニンゲンだ。でもおジィちゃんみたい。

おらはトシヨリじゃないべ。ま、いいさ。おらの肩に乗るべ。

そっか。きょうりょくしたら、できるね!
ぼくはヒゲニンゲンの肩の上に乗っかった。
ちょっとじゃんぷしたら、穴から出れそうだよ。
それで、ぼく、どこへ行ったらいいの?

この先に森が見えるベ。入口からまっすぐ行って、29本目の木を右に曲がって、18本目の木を左に曲がって、まっすぐ行ったら、切り株があるべ。その切り株から3本目の木にのぼったら、インサンケカムイがくるべ。

い、いんさん? け?

ちびすけ、急いで行ってくれ。おらはイソポイリワク。イソポイリワクのジィちゃんがびょうきだと言えば、すぐ村へ飛んでくれるべ。はよ行け。

い、いそぽ。い、い、いりわく!
ぼくは穴から飛び出した。雪の向こうに森が見える。
歩きかけたらずぼって、はまりそう。
えっと、そうだ、カンジキ!
え? でも、いそ……いそぽ、はどうするの?
ぼくは穴にもどった。

ね、いそ……いそぽ! だいじょうぶ?

穴の中から声がする。
おらはだいじょうぶだべ。はやく!

う、うん。
ぼくはいちもくさんにジィちゃんのいる小屋にもどった。
ジィちゃん、ぼくのカンジキ!
でもにゃあにゃあ鳴いても、家の中のジィちゃんには聞こえない。
どうしよう。

その時、お馬さんがひひ~ん!っておっきい声でさけんでくれた。
トビラが開く。
わぁ、ありがと!
ぼくはジィちゃんにいっしょうけんめい説明する。
あのね、ジィちゃん、穴に落ちてね、それで、穴の中にヒゲニンゲンがいて、それでオイシャさんを呼びに行くからね、ぼく、カンジキ、いるの!

ジィちゃんはよく分からなかったみたいだけれど、ぼくの足にカンジキを4つ、つけてくれた。
うん、ジィちゃんとぼく、イシンデンシンだもんね!
それから、アイヌのジィちゃんが、ぼくにちっさい首輪をくれた。
あ。お布団とおんなじ、もようがついてる。
アクマゲキタイのもようだ。もうひとりのジィちゃん、ありがと!
ジィちゃん、ぼく、シメイがあるんだ! だから、行ってくるね!

ぼくはカンジキでイッショウケンメイ歩いた。
うんと、これもけっこう歩きにくいんだね。
でも沈まない。
いそぽ。待っててね!

森の入り口についた時、空が暗くなり始めた。
いそがなくちゃ!
1、2、3、……、8、9、10、20、1、2、……
29本目だね。
あれ? 右だっけ? 左だっけ?
……左!
18本目。
1、2、3、……、10、18!
あれ? 切り株なんてないよ?

……お空は真っ暗になっていた……

(つづく)[マコトのカムイミンタラ(後篇)]


マコト……数は数えられないのでした。
暗くなってきた寒い北海道の森の中で、迷子になったようです!
アクマが出るかも!
後篇お楽しみに!!

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(15) マコトのカムイミンタラ(後篇) 

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(イラスト:limeさん)
お正月休み。今年もマコトはタケルと一緒に北海道のジィちゃんちです。
北海道の雪原で遊んでいて穴にはまったマコトは、コロボックルのイソポイリワクに出会います。
イソポのじいちゃんが病気! 動けないイソポの代わりにマコトは医者を呼びに森の中へ。
でも、数は数えられないし道に迷っていまいます。そして、空は暗くなってきました!
マコト、どうなる?
【マコトのカムイミンタラ(前篇)】

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。怖がりだけれど、一生懸命。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。
ジィちゃん:ジィちゃんだけど、タケルの親友。北海道の浦河で牧場を経営している。
アイヌのジィちゃん:ジィちゃんのオトモダチ。
イソポイリワク:コロボックル。ウサギの兄弟/仲間、という意味。


【迷探偵マコトの事件簿】(15)マコトのカムイミンタラ(後篇)

[SCENE3] マコト、たたかう
さっきまでちっさい太陽がいっぱい、まっしろの雪の上でキラキラしてたのに、お空が暗くなったら、キラキラも消えちゃった。
早くいかなくちゃ。
でも、前に進まない?
う~ん。
せんぷうきがお空から降ってきたみたい。

ぶわっ。
ころん。
わ! 吹き飛ばされちゃった!
ころんころんころん・……
わ~~~~

止まったと思ったら、雪まみれ。
ぼく、またねこダルマになりかけてる。
おひげがびゅんびゅん、いってる。
め、目が開けられない……
雪がいっぱい、ふってきた。
ナイフみたいに雪がつきささる。
びゅん、びゅん。
上からも、下からも、横からも。
あ、歩けないよ……

切り株、切り株、きりかぶ、きりきり……

ぼくはよろよろと一歩だけすすむ。
風がびゅん!!
ぼくはころがる。
ぼくの前はまっしろのまっくろで、何にも見えない。

きりかぶ、きりかぶ、いんさんけ……

昨日、タケルが言ってた。
ホッカイドウはまいなす30度になるんだって……
……まいなす30度ってなんだろ?
こおるんだって。
……こおるって、なに?
ぼく、寒いのか、あったかいのか、わかんなくなってきちゃった……

でも、がんばらなくちゃ。
いそぽが、雪のあなぼこの中でぼくをまってるんだ。
ぼく、きりかぶ、いんさんけ、さがさなくちゃ!
きりかぶ、いんさんけ、どこ……

でも、もう歩けない……
ジィちゃん! たすけて! 
タケル……どこ?
ぼくはころん、ってころがって……また雪まみれになっちゃった。

……あれ? なんか、まっしろだね。
でもなんとなくあったかい。
それに、タケルの声が聞こえるね。ぼくを呼んでる?
わぁ。シャケとイクラとスケトウダラとホッケがならんでる~
ぼく、お馬さんのおせなかに乗って、ゆらゆら~
お馬さん、どこに行くの?
ぼく、ちょっとあったかいよ……
おいでって、お空の上から声が聞こえる……タケルが呼んでるの?

って、そんなはずはない!
だって、ぼく、今は森の中できりかぶをさがしてるんだから!
シャケとイクラとスケトウダラ……は、タケルんとこに帰ってから食べるんだ!
だから、あれはタケルの声じゃなくて、アクマにちがいないんだ。
ぼくはマヨケを持ってるんだぞ! だまされないよ!
いそぽ、待っててね!

ぼくはぶわんぶわんと雪を払った。
いっぱいいっぱいぶるぶるした。
それから、ころんころんしたけど、もいっかい、立ち上がった!
空のせんぷうきにも、よこからふってくる雪にも負けない!
ぼくはお空を見上げた。
あんまり見えないけど、せんぷうきは強くなったり弱くなったりして、時々お空が見えた。

だいじょうぶ。ぼく、毎日、半にゃライダーになるれんしゅう、してたんだもん。
ぼく、前よりずっと強くなってるもん。
ぼくはさけんでみた!

にゃ~~~~~~ん!!!!(いんさんけかむい~~~!!!!)
せんぷうきがぜんぶかき回していく。
でもぼくは、もういっかい、さけぶ。

にゃ~~~~~~~んんん!!!!!(いそぽを助けて~~~!!!!!)

し~ん。

にゃ~~~~~~~んんんん・……

ぼくの声がお空ではねかえってる。いんさんけ……に聞こえないのかな。
ぼくはもういっかい叫ぶために、力をこめた。

ぶわっつ!!

その時、お空がきゅうにもっとまっくらになって、すっごく大きな黒い天井が降って来た。
わ! わわわ!!!!
何かにつかまっちゃった!!!

ぼくはよこから来る雪の中、お空にういていた。
ぼくのからだは、おっきい足につかまれてる。
って、わ~~~~。
見上げたら、からだは黒くて、おしっぽだけ白い。
でっかいトリ???
でっかいトリって、ねこ、食べる??????
わ~~~~、どうしよう!!!! ぼく、食べないで~~~~!!!
あとでぼくのシャケとホタテとスケトウダラと……分けてあげるから!!!

でっかいトリはぼくを木の上につれて行った。
足でグイと押さえて、くちばしでつつこうとする!

わ~~~~!! ぼく、おいしくないよ!! たしかに、ホッカイドウに来てからオイシイものばっかり食べてたから、前よりちょっとオイシイかもしれないけど! じゃなくて、ねこはおいしくないって『ねこのきもち』に書いてあったよ! たぶん、書いてあったと思うよ! それに、それに、それに、えっと、ぼく、ぼく、いそぽのジィちゃんがびょうきだから、きりかぶを探して、いん、いんさんけ、かむいに会わなくちゃならないんだから~~~!!!

でかいトリはぼくのくびわをじっと見て、それからもういっかい、ぼくをくわえた。
空に飛びあがる。
わ~、いったい、なんなの~~???
空はまだまっ白のようなまっくろなようなかんじだったけど、いつの間にか雪は消えてた。

ぽて。

あれ?
ぼくは、どこか高いところに落っことされた。
いて。
木のえだにひっかかる。
ひらひらって、よこから雪が流れてくる。
ぼくは落っこちないようにヒッシに木のえだにつかまった。

つるっ!
わ!!! 落っこちる!!

と。
何かがぼくのくびわをひっぱった。

ほう。このちびすけはアイヌのくびわをつけている。

声がする。ニンゲンの声とちがって、ぼくにもことばが分かる。
ぼくは目を見開いた。今度はちょっとまるっこいトリ……
丸っこいトリがしゃべった。

カムイチカップ、これはなんだ?

拾ったのだ。食おうと思ったが、お前の名前を叫んだから、お前の知り合いかと思って持ってきた。それに、この首輪が邪魔で、どうにも食えんのだ。

わ。後ろにさっきぼくを食べようとしたトリもいる。

ほう。君はわしの知り合いか? 会ったことはないが。

ぼくはぶんぶん、首をふった。

でも、ぼく、いそぽのトモダチなんだ。穴に落っこちたら、いそぽがいて、いそぽのジィちゃんがびょうきで、えっと、いそぽがいたから、ぼくは落っこちた穴から助かって、えっと、おいしゃさんをよぶから、森の中の29本目の木と18本目の木ときりかぶで、えっと、いん、いんさんけ……かむい!

ふむ。わしがそのインサンケカムイだが、いそぽ、というのはイソポイリワクのことようだな。なるほど、イソポイリワクのじっちゃが病気。では、ちびすけ、少し待っていなさい。

そう言って、いんさんけ……さんは羽根を広げて飛び立った。
わ、羽根を広げたら、さっきの尾っぽの白いトリさんに負けないくらいおっきい。
と、まだその尾っぽの白いトリは、後ろでぼくをナゴリオシソウにじっと見てる。

高まるキンチョー!
だって、さっき、ぼくを食べようとしたって言ったよね?
やっぱり、食べようと思ってるんだよね。
わ。寄らないで。
じっと見てる。
だから、もしかしたらいつもよりちょっとオイシイかもしれないけれど、多分、あんまりおいしくなくて、えっと……『ねこのきもち』に……

と思ったら、またいきなりお空が暗くなった。
まっくらになって、またせんぷうきが降りてきたみたい。
また雪が来るの????
つるっつ!!!
わ~、落っこちる! 

と思ったら、いきなりまた大きな足につかまえられてた。
今度はなに~~~???? 
ぼく、おいしくないって!!

ちびすけ、名はなんという?

すごく太くて大きな声がした。

[SCENE4] マコトの役割
よく見たら、お空が暗かったのは、大きなはねが広がっているからだった。
白い尾っぽのトリよりも、いんさんけ……さんよりも、ずっとずっとずっと大きい。
ぼくはその大きなトリの足につかまえられて……大空を飛んでいた!

遠くを見たら、まっ白でまっくらな空に切れ目ができて、キラキラがのぞいていた。
わ。太陽だ。お帰り!
ぼくはちょっとだけ、ほっとした。

ぼ、ぼく、マコト。タケルがつけたんだ。

マコト、私はコタンコロカムイだ。アイヌは私をそう呼ぶ。倭人は……私のことを何と言ったかな、そう、シマフクロウ。さっき私を呼びに来たのは私の使いで、インサンケカムイ。私と同じフクロウだ。お前を食べようとしたのはカムイチカップ、倭人の言葉ではオジロワシだ。

カムイなのに、ぼくを食べるの?

ほう。ちびすけ、カムイをどのようなものだと思っている?

えっと……マレナルモノ!

ほほう。分かっておるじゃないか。そう、生きているモノは皆がそれぞれ稀なるものだ。生きているから食うのだ。冬には食べ物が少ないから、小さな動物は我らの大切な生きる糧だ。命はそうやってつながっているのだ。食べることは善いとか悪いとかではない。必然なのだよ。生きるものはやがて死ぬ。それも必然なのだ。カムイには善いも悪いもないし、生も死もカムイのものでありアイヌ(ヒト)のものでもある。

じゃ、ぼく、食べられた方がよかったの?

さて、それもまた生命の理だ。マコト、ただこれだけは確かなことだ。天から下ろされた全てのものには役割がある。食うことも食われることも役割だ。そして、お前の役割は、今は食われることではないらしい。イソポイリワクのじいさんが病気だと聞いた。私がエポタラクルの居所を知っている。つれて行ってやろう。

えぽた、たらくる?

マコト、この森の奥深くにエポタラクルが住んでいる。エポタラクルは森と共に生き、森の薬を研究し、あちこちの村を移動しながら病人を助けている。それが彼の役割だ。彼は常に学ぶために他のコロボックルが近づかないような森の奥深くに分け入り、また皆を助けるために移動しているので、どこにいるのか分からない。だから他のコロボックルたちは彼を探す時は私を頼るのだ。私は森のことは何でも知っている。

ころ、ころ。こぼろっくる?

コロボックル。蕗の下の人、という意味だ。彼らは森の住人だ。さて、マコト、私たちはエポタラクルを見つけたようだ。

えぽたらくる、は、森と共に生きる人。いそぽと同じように髭もじゃのちっさいニンゲンだったけど、本当はこぼろっくる、じゃなくてコロボックルって言うんだって。
えぽたらくるはカバンにいっぱい草をつめ込んだ。それから、ぼくとえぽたらくるは大きなフクロウにつかまって、一気に森の上を飛んだ!

キラキラ。キラキラ。
キラキラの後ろには暗い森。
森にも原っぱにも、いいことも悪いこともいっぱい。
みんな、いっぱい生きてる。
食べたり、食べられたり。びょうきになったり、しんぱいしたり。
けんかしたり、ゆずりあったり、たすけあったり。
キラキラ。キラキラ。
ここがカムイミンタラなんだね。

あ。アイヌのジィちゃんのおうちが見える!
あれ。お馬さんがいない? どうしたんだろ。
あ。トビラのところにアイヌのジィちゃんがいる!

ね。ぼく、いそぽをたすけなくちゃ! あのおうちの近くで降ろして!

大きなフクロウはぼくを降ろすと、アイヌのジィちゃんとあいさつした。
じっとカオを見合わせて、大きなフクロウもアイヌのジィちゃんもうなずいた……みたいな気がしただけだけど。
それから、えぽたらくるをつれて、大きなフクロウは大きな羽音を立ててもう一度空に飛びあがった。
急いでね! いそぽのジィちゃんをよろしくね!

コタンコロカムイ、シマフクロウの神さまは村の守り神。
カムイにもヒトにも、みんなヤクワリがある!

ね。アイヌのジィちゃん! いそぽがうまってるんだ!
ぼくはにゃあにゃあ鳴いて、いそぽのいるあたりまでジィちゃんをつれて行った。
ジィちゃんは雪をほってくれる。
あのね、いそぽのいる場所は、ぼく、お空からすぐに分かったんだ。
どうして、って、そこだけキラキラがいっぱいになってたの!

ほって、ほって、ほったら!
いそぽの頭の上の天井がぽっかりと空いた!
わぁ、いそぽ!!

ジィちゃんは心配してお馬さんと一緒にぼくをさがしに行ってくれていた。
また雪が降り始めていた。
帰ってきたジィちゃんと、アイヌのジィちゃんと、いそぽとぼく。
いっしょに小屋の中であったまる。
ぼくはあったかいミルク。
ジィちゃんたちはおさけ。
いそぽの前にもおさけ。

ボクジョウに帰る時、ジィちゃんはお馬さんにぼくといそぽを乗っけて、少しだけ遠回りした。雪でいっぱいの原っぱを通って、となりの森に。
森に着いたら、いっぱいいっぱいいっぱい、ヒゲニンゲン、じゃなくて、コロボックルが出てきた。1、2、3、……、たくさん!!! ヒゲじゃないのもいる!
中からもこもこの毛皮のような服を着て、頭にも、もこもこをかぶったヒゲじゃないコロボックルが走り出てきた。
イソポイリワク!
いそぽが走りよる。あ、きっといそぽのお母さんだね。

あぁ、心配したさ。お前、足は大丈夫だべ。
おらは大丈夫さ。じっちゃは?
あぁ、大丈夫さ。今日はエポタラクルがここにいてくれるようだ。さぁ、今日はまた夜これから、吹雪くかもしれないから、はよ家さ入るだ。

みんな、ぼくに手をふる。
いそぽも、ぼくに手をふる。
ぼく……ジィちゃんの服の中からカオを出してじっと見る。
だって、手をふれないし、しっぽは服の中なんだもん。
いそぽが大きな声でさけぶ。

新しい日が来て、晴れたらあそぼう! 
うん! あたらしい日、晴れたら、あそぼう!

かえりみち。
お馬さんのはいた息が、雲にかくれそうになる太陽の光で、そのままキラキラってこおる。
ダイヤモンドダストって言うんだって。
きれいだね。
ちっさいぼくのはく息も、キラキラこおる。
……何も言わなかったけど、ジィちゃんは分かってくれてたのかなぁ。
ジィちゃんはぼくの頭を何回もなでてくれた。

[Epilogue] ぼく、がんばったよ
夜。お外は雪が降っていた。
ぼくはおなかいっぱい、シャケとスケトウダラとホタテを食べた。
それから、いつものようにタケルのお布団の足元で丸まる。
でも。
ぼくはむっくり起き上がって、タケルが眠っている頭のよこを通って、窓のそばに行く。
外はまっくらでまっ白。雪が降ってるんだね。
森の中はいま、どんなだろう。
アイヌのジィちゃんのおうちは雪にうまっていないかな。
今日はとっても寒いね。
いそぽたちのおうちの中はあったかいかなぁ。

と思ったら! むんず、とつかまえられた!
ぎゃ~~~~! また、ワシとかフクロウとか!
……じゃなくて、タケルだった。
ぼくはムダナテイコウをしてみたけれど、ムダナテイコウはやっぱりムダだった。

……でも。
今日は寒いから。
ぼくはお布団の中で、タケルのうでに頭を乗っけて、タケルにくっついた。
今日だけ、おまけだよ。
タケルが寒いから、ぼく、あったかくしてあげるだけだから。

……

ね、タケル……もう、ねちゃった?
……
あのね、タケル、ぼくね、今日ね……アイヌのジィちゃんちでね、穴にはまってね、それで、いそぽとね、すごくおっきいトリのカムイとね、えっと……ワシとフクロウ? あした、本で見せてね。
それからね、あたらしい日、晴れたらね、いそぽとあそんでもいい?
……あのね、それでね……

……

ぼく……きょうね、がんばったんだよ。

……タケルの手も、ジィちゃんとおんなじ。
ぼくの頭を何回もなでてくれた。

(マコトのカムイミンタラ、おしまい)




(作者註1)『ねこのきもち』にそんなことは書いてありません。
(作者註2)北海道の家の中はとっても暖かいので、タケルは別に湯たんぽがなくても大丈夫。
(作者註3)小さいフクロウは、大きなシマフクロウの使いと考えられています。
(作者註4)ジィちゃんたちに、イソポが見えていたのかどうかは謎です。お酒はお供え?
    でも、ジィちゃんにはみえるのかな。たぶんね。神は感じるもの。


マコト、大したことしてないかも? せいぜい一生懸命叫んだことくらいかしら?
でも、いつもピンチの時には、みみせんせい(アンパンマン)が、生徒を指導していますよね。
「みんなで声を揃えて…・・・・あ~んぱ~んま~~~ん!!!」
そう、人を呼ぶ。これ、救命ABCの第一(じゃなくてゼロ)です??
あれ? でも、叫んだら、マコトを食べようとしたオジロワシが来たんだった……^^;

ダイヤモンドダストと言えば、やっぱり朝の光の中のイメージなんですけれど、理屈上はマイナス10度以下になると吐く息もそのまま凍ってしまう。冬、ばんえい競馬の馬たちが走るときに吐き出す息のキラキラ……北海道で見たい景色のひとつです。

コロボックルは「蕗の下の人」という意味ですが、すごく小さいと思っていませんか?
北海道の蕗って、秋田の蕗程じゃないかもしれませんが、結構大きいんです。ってことは、コロボックルも、そんなに小さくはないのかも??(自論)

エポタラクル(アイヌ語で医者)のイメージは、インディアンのシャーマンです。ある本に書かれていた言葉。今、多くの西洋医学・薬学の研究者が彼らのところに来るそうです。
「多くの人間が薬草について教えて欲しいとやってくる。だが、誰一人として、森と共に生きる方法を教えてくれとは言ってこない」
何かを忘れていないか。マコトの足りない頭では意味は分からないけれど、懸命に生きるものは全てカムイなのかもしれません。

カント オロワ ヤクサクノ アランケプ シネプ カ イサム
真シリーズ【海に落ちる雨】の全編で流れているイメージは、このアイヌの言葉です。マコトもまた、そんなことを感じてくれていたのかもしれませんね。数はかぞえられないけど。
「天から役目なしに降ろされたものは、ひとつもない」

シマフクロウもオジロワシも絶滅危惧種。
カムイではあともうひとつ、サルロンカムイ、すなわちタンチョウがいます。
(ツルじゃないよ~。タンチョウは渡らないのです。鶴は渡り鳥)
真冬の朝早く、釧路でタンチョウを見に行ったことがありますが、素晴らしい光景でした。
人とカムイ、そしてどのような民族も共に生きていける地球でありますように。

マコトの冒険にお付き合いいただき、ありがとうございました。

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(16) マコトのねっとさーふぃん 

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(イラスト:limeさん)
1月の始まりがマコトなら、1月最終日もマコト。
このところ少し話が複雑になっていたので、久しぶりに「しょうもないモード」全開で、短いお話をお届けいたします。どうぞ気楽にお楽しみください。

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。本当はタケルに甘えたいけれど甘えられない。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】(16)マコトのねっとさーふぃん

あのね。
『半にゃライダー』見てる時、こまーしゃるでねこが飼い主の女の人にごろにゃんしてるのを見て、タケルがうらやましそうにするんだ。
ぼくは知らんぷり。
でも、タケルったらライムさんがくれた『抱っこ』の絵を見ては、またちらっとぼくを見るし。

ぼく、あんまり他のねこのこと知らないんだ。
ねこって、やっぱりごろにゃんするのがふつうなのかな……
タケルはもっとねこらしいねこが好きかな……
ねこってふつうはどんなふうにするんだろ……

そうだ! ぼく、ねこのけんきゅうしよっと。
ゆーちゅーぶでねこの動画をみて、おんなじようにしてみたら、ねこっぽいかも。

え~っと。
なになに……
「ねこは、飼い主がパソコンを見てたら、じぶんにかまって欲しくてモニターの前にすわる。」
「しんぶんを読んでいたら、ちょうど読んでいるところにねころぶ。」
……なるほど!
よし! ぼくもやってみよっと!

えっと。タケルはおしごとのおてがみを書いてるとこ。
じゃ、ぼく、ゆ~っくり近付いて、てがみの上にすわってみよっと。
ぬきあし……さしあし……しのびあし~っと。
遶ケ豬√→迪ォ・狙convert_20130627015942
わ! タケルがこっち見た!

……しっぱい。

もっかい、けんきゅうしよっと。
え~っと。ゆーちゅーぶで、『かわいいねこ』をけんさく。
……
わ、これ、いいなぁ。
ねこが、といれっとぺーぱーをぐるぐるぐる~~。

ぼくもやってみよっと。
あ、トイレのドアがあいた!
よし、行ってみよっと。
わ~、といれっとぺーぱーってあんなに高いとこにあるんだ。
じゃ~んぷっ!
……あ、ぎりぎりとどいた!

くるくるくるくるくる~~~~~
しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる~~~~~~

わ~~~~~~!!
おもしろい~~~~
くるくるくるくるくる~~~~~
わ~~~~、ねこってこんなんなんだ~~!!

あれ、あれあれあれ~~~~
ぐるぐるになっちゃった~~~
わわわ、しっぽに巻きついちゃった~!

がたっつ!
いてっ!

お~ほしさ~ま~き~らきら~~~☆☆
にゃはは~
☆がいっぱい飛んでる~☆☆☆
ぴよぴよぴよ~~~☆

って、トイレットペーパーがまるまま落ちてきちゃった!
あぁ、びっくりした~
あ、タケルが見てわらってる……
え~っと。
しらんぷり……

ふぅ。こんどは、かしこいねこのけんきゅうしよっと!
ゆーちゅーぶでけんさく。

あ。
これすごいね~。
ニンゲンのトイレでねこがうんちしてる~!
わ~、ぼくもやってみよっと。

えっと。べんきのはしっこに立って……
おしりをおまるの方に向けて……
う~ん、ときばって……

つるっ!
あ!!!!!

ぼちゃん。

……

……タケル、ごめんね。
タケルはぼくをお風呂につれて行ってくれて、ごしごし、ごしごし。
……ごめんね。
ぼく、お水キライだけど、このまんまじゃくさいもんね……

ごしごし、ごしごし。
……ごめんね。
ちらっとタケルを見たら……わらってた。

ドライヤーでかわかしてもらって、ぼく、ふわふわになったよ。
くんくん……あ、せっけんのにおいがする……
せっけんのにおい、ほんとはあんまりスキじゃないんだ。

でも。
せっけんのにおい、タケルのおふとんの中といっしょだ。
ぼくは、タケルの足の近くで丸まる。
それから、タケルがねむった後、ぼくはむっくり起きて、タケルのおふとんの中にもぐり込んだ。
……だって、さむいんだもん。

今日のぼくはふわふわ。
せっけんのにおいはあんまりねこっぽくなくて好きじゃないけど、今日のぼくはタケルのおふとんと同じにおいだから、タケルといっしょにいてもいいよね。

……わぁ、あったかいや。

あのね、タケル……ぼく、ねこらしくなくてもいいよね。
だって、やっぱりぼくにはむずかしいんだ。
だから、ごろにゃんもすりすりもできないけど……

……たまには、いっしょにねてもいいよね?




文中のイラストはlimeさん(小説ブログ「DOOR」)に頂きました。著作権はlimeさんにあります。無断の転用はお断りいたします。クリックすると大きくなります。

ネットであれこれ研究したものの、ずいぶんと勘違いもしているようですが、マコトは今日も一生懸命(^^)
でも、臭いお話でごめんなさい……
明日から2月ですが、今はタケルが買ってきたオニのお面に興味津々のようです……

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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(17) マコトの聖バレンタイン 

マコトのバレンタイン
(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用は固くお断りします)
limeさんが素敵なイラストを描いてくださいました。バレンタインのプレゼンターのマコトです。
limeさんは本当に才能豊かな、尊敬するブロガーさんです。小説はもちろんですが、イラストでもこうして少しコミカルなものから、深い世界観の溢れるイラスト、それに面白いショート漫画! いつも楽しませていただいております。
そして……このイラストを見れば、やっぱりバレンタインネタで一つ、書くしかないですよね!
いや、間に合ってよかったです!!

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。本当はタケルに甘えたいけれど甘えられない。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。
お手伝いのおばちゃん:タケルが雇っている、ちょっぴり豪快なおばちゃん。


【迷探偵マコトの事件簿】(17)マコトの聖バレンタイン

今日は2月14日。
お手伝いのおばちゃんが、今日はバレンタインだって言ってたよ!
それ、どんなおさかな

「バレンタインはね、女の子が男の子にチョコレートを渡して告白するのよ。でも、もともとはなんだったかしら? たしかキリスト教の……」
なんだ、おさかなじゃないんだ。

おばちゃんはタケルにチョコレート、渡すの?
「私のは義理チョコよ。旦那にも義理チョコだけどね」
おばちゃんは大きな声で笑った。
ふ~ん。で、チョコレートって、どんなおさかな

でも、ギリは知ってるよ!
ちょっとコワいおじちゃんたちが言ってる!
ギリとニンジョウのギリ、だよね!
ギリチョコ? コワいおさかな?

昨日から、ぼくのお気に入りのソファのすみっこは「コワいおさかな」が入っていると思われる、リボンのついたハコでいっぱい
それがこの数日でどんどん増えていくんだ。
ぼく、そこで丸まって寝たいのに……

でも、チョコレートってどんなおさかな、なのかな?
ちょっと開けちゃえ!

リボンの端っこをくわえて……
あ。このリボン、タケルのオンナと同じニオイがする……
う~、このやろう!
ぼくは引っ張ったリボンでぐるぐるになりながら、ハコのフタのはしっこをかじって、開けてみた。

……なに、この黒いの? おさかなじゃないね。
ちょっと なめてみよっと。
ぺろり、ぺろぺろ・……
??????

うえっ。ちっともウマくないや。
こんなまずいもの、タケルにあげるなんて……
これはきっと、くろいアクマの食べものにちがいない!
これを食べたら、タケルがアクマになっちゃうかもしれない!
(半にゃらいだーで、そんなの、あったよ)

えぇい。ぼく、半にゃらいだーのお面持ってるんだぞ!
このやろ、このやろ、このやろっ!
ぼくはコワいおさかな、じゃなくて、くろいアクマをハコから追い出した。
よし、ニンム完了!

あ、このハコ、ちょうどいいなぁ。
ゆーちゅーぶでね、ナベとかティッシュのハコとかにねこが入っててね、カワイイの。
ぼくもハコに入ったら、カワイイかも!

前足から入って……よいしょ。
あれ? ちょっと小さい?
うんしょ、と丸まって……ぎゅっと……
あれ? やっぱり、おしりだけはみ出しちゃう。それから、しっぽも……

う~ん。おしり、はみ出てるけど……、ま、いいか!
眠くなってきちゃった……
タケルが帰って来るまでねちゃお。


それにしても、女というのはどうしてこうもイベントが好きなんだろうか。いや、決して俺もサプライズは嫌いなわけじゃないし、友人、従業員、恋人、家族の誕生日には皆にプレゼントを贈るんだが、それを選ぶのも楽しみのひとつではある。
けれど、国中が騒ぐことでもないような気がする。いや、正直なところ、俺の商売にも御利益があるので、有難いと思わなければならないか。
でも、大体、こんなにたくさん貰ってもどうすることもできない。明日には知り合いの養護施設に持っていくのだけれど。

帰ってみたら、積み上げてあったチョコレートの箱の山が崩れていた。
え? マコト?
俺にとってはちょっとだけ大事な女がくれたチョコレートの箱をこじ開けて、その中にマコトが入っていた……いや、正確には頭と身体の半分は入っているが、おしりとしっぽははみ出ていた。
しかも、開ける時にリボンを引っ張ったらしく、そのリボンが身体に巻きついたままだった。

「こら、マコト!」
マコトはびくん、と頭を上げた。
「他人様が下さった心の籠ったプレゼントになんてことをするんだ!」
マコトはきょとん、として、それから俺が怒っていることを察したのか、跳ね上がるようにして逃げていった。
「食い物を粗末にしちゃいかん、って、じいちゃんも言ってたろ」

その日はちょっとだけ怒っていることにして、わざと目を合わさないようにしてやった。
まぁ、正直、チョコレートを全て食べる気もなかったのだが、やっぱり中身をくちゃくちゃにするのは善くない。甘えさせてはいけないと思い、わざと知らんぷりした。
マコトはそういうことには敏感なので、離れたところから時々俺の方を窺い、しょんぼりしている。
俺は、マコトが箱から放り出したチョコレートを拾い上げ、ブランディを傾けながら美味そうに食ってやった。うん、美味い。

翌日。俺はソファの上のチョコレートを段ボール箱詰めしてもらい、うちの執事に養護施設に届けてもらった。さて、仕事に出かけるか。
マコトはソファの陰から、そっと出かける俺を見送っていた。
しばらく、お灸をすえておくことにしよう。

しかし。
俺はマコトに背を向けてから、思わずにやけてしまった。
おしりははみ出していたけれど、箱に納まったマコトは妙に可愛かった。
しかも、リボンでぐるぐる巻き。
あれはもしかしたら、「プレゼントはあ・た・し」って奴だったのか? よりにもよって彼女からのプレゼントをどんぴしゃで開けたってことは……あいつなりのライバル心かも。
いや、にやけている場合じゃない。

それよりも、動画に撮っておかなったのは失敗だった。
ゆーちゅーぶに投稿し損ねてしまったな。


ぼくはしょんぼり。
タケルはぼくより、オンナのくれたくろいアクマのほうがいいんだ……
でも、ジイチャンも言ってたもんね……
ぼく、食べものをソマツにしちゃったね……

「おや、今日は何だか元気がないわね」
お手伝いのおばちゃんが買い物から帰ってきた。
うん。ぼくね、タケルに怒られちゃったの。

あ、いい匂いだね。わ、新しいニボシだ! ツキジのお店で買ってきたんだね。
……そうだ! おばちゃん! ぼくにそのニボシを1匹ください!
おばちゃんは「???」という顔をしていたけれど、ニボシの袋に向かってぼくがにゃあにゃあ言っていたら、そのうち、ぽんと手を叩いて、ニボシを1匹くれた。

ここのニボシ、おいしいんだよ。ニンゲンはこれをダシにするんだけれど、ぼくはちゃんとみんな食べるよ。食べもの、ソマツにしないもん。

でも、今日はぼく、ニボシを食べないでガマンすることにした。
ぼくはニボシをくわえて、タケルのお仕事机の上にとびのる。
それから、机の上にニボシをそっと置いて。
……だって、くろいアクマより、こっちのほうがずっとおいしいよね。
それから……にくきゅうで、ごめんねのたっち。

それからぼくは、おばちゃんにねこまんまをもらって、おなかがいっぱいになったら、ねこのドアからベランダに出た。
あ、雪だ。……今日はとっても寒いね。
……タケル、早く帰ってこないかな……

今日は寒いから……
特別にいっしょに寝てあげてもいいよ。


「ただいま」
帰って来ても、いつものことだが、マコトは迎えに出てこない。しかも今日はちょっとしょんぼりしているかもしれないし。
俺はプレゼントに、マコトの大すきな猫まんま用特注煮干しを買って帰ってきてやった。ま、よく考えたら、猫に怒るのも大人げないし。

マコトの姿が見えない。まさか、いじけて家出??
いや、もしかすると。俺はいじけている時のマコトがいつも隠れているベッドの下を覗き込んだ。
やっぱりここだ。マコトは、以前少しの間引き取っていて亡くなった大型犬のフジマルが残してくれた丸い玉を、大事に抱いて眠っていた。

……今日は無理矢理、ぎゅ~っとしてやって眠るか。

荷物を置きに仕事部屋に入ったら、机の上に煮干しが1匹、置いてあった。
何でこんなところに煮干しが?

マコトの奴……
……思わず口元が緩んでしまった。
俺は、硬いけれど抜群に美味い煮干しをかじりながら、1日の疲れを癒すべく寝室に向かった。



チョコレートが何かわからなくても、「義理」は知っているマコト^^;
チョコレートはマコトにとっては美味しくないけれど、じいちゃんの言葉「食べ物を粗末にしちゃいかん」を思いだして反省するマコト。
そしてタケルは、なんと、ゆーちゅーぶにマコトの動画アップを狙っているようですね(#^.^#)

猫さんや犬さんを飼っている皆様。
何でこんなところに○○が? という時、それは可愛い彼らからの愛のメッセージなのかも?
(時と場合とモノにもよりますが^^;)

最初に浮かんだのが、煮干しをつまみあげて不思議そうにしているタケル。
マコトにとっては目一杯最高のプレゼントだったようです。って、タケルが買ってくれてるんだけれど^^;
そして、「プレゼントはあ・た・し」も使ってみました。
皆様にも素敵な1日でありますように!
バレンタイン2
出張先でもらったバレンタインのプレゼント。左は高校生のお客さん(というのか……)手作りのクッキー。右は後輩がくれた昔ながらのマドレーヌ。
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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】番外編・桜の夢 

2015桜6
【迷探偵マコトの事件簿】、今回のゲスト主人公は、マコトではなく真のようです。
春の陽気に誘われて、何やら夢の世界に遊んでいるようです。これぞまさに「逍遥遊」の世界?

<登場人物>
真(俺):新宿で調査事務所を営む(多分)名探偵。
同居人(大和竹流):真を居候させている、もと家庭教師。
マコト(ぼく):茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもりだけど、タケルとお話もしたい。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】番外編・桜の夢

あれ?
明け方、何となく手で顔をこすって、その感触の違和感に一気に目が覚めた。

眠り始めはベッドの端っこにいるのだが、眠っている間にいつの間にか、温いところを探して、反対側の端っこで寝ている同居人にくっついていることがある。同居人はにやにやしながら、絶対に俺のことを愛してるだろ、というが、まさかそんなわけがない。これは動物の眠りの習性みたいなものなのだ。
で、そのくっついている状況が、かなり妙な感じだった。
同居人が俺をぎゅ~っと無理矢理抱き締めている。
しかも、にゃんとなく、……じゃなくて、なんとなく、俺、ちっさくないか?

くっきり目が覚めた俺は、自分の手を見た。

……

気を取り直して、もう一度じっくり手を見る。
指四本と、掌、それからその下にももうひとつ……って、これ、どう見ても人間の手じゃない。
つまり、にくきゅうって奴じゃないのか?
俺はとにかくベッドから抜け出そうともがいた……つもりだったが、同居人の手がますますぎゅーっと俺を捕まえていて、動けない。

「にゃ、にゃう~(おい、放せって)」

……にゃ?
……じゃなくて、え~っと。

多分ゆゆしき事態が起こっている、と思う。俺はもう一度じっと手を見つめた。それから足の方を見たら、しましまだった。正確には、茶色のしましまの毛むくじゃらだった。ついでに、しっぽもついている。
……茶色のしましまの。

俺は試しにしっぽを振ってみた。……動く。それから手で頭を撫でてみた。耳は頭の上の方に付いている。鼻の横からは髭が伸びていた。

そうこうしているうちに、同居人が目を覚ました。
「おはよう」
彼は俺に無理矢理キスをして、それからベッドから出て伸びをすると、そのまま洗面所に行ってしまった。

それだけ?
……あの、俺、どう見ても猫になってるんだけど、もうちょっと驚くとか、ないのか?

とは言え、騒いでも仕方がないので、俺はとりあえずベッドを飛び降りた。
ドアの隙間をすり抜けて、廊下からダイニングの方へ向かう。
多分、腹が減って糖分が足りないからシナプスの結合がおかしくなっているのだ。
あるいは、夕べちょっとだけ飲んだ酒がまわっているのか。
でも、腹が減っても、酒を飲んでも、DNAまでは変わらないよな……とは言え、ヒトとネコのゲノムは99%ほど同一に違いないから、ちょっとしたことですり替わるのかもしれない。

やがて同居人が、何やらキャッチ―で気持ちの昂る曲調の歌を鼻歌にしながら、朝食の用意を始めた。
まさかとは思うが……思った通り、俺の前に「ねこまんま」が差し出された。
冗談じゃない。
本日の焼き魚、海の香りのするわかめ入り味噌汁、鰹節をまぶしたお浸し、それにほかほかのご飯、そういうものを食わせろよ。

……
俺はちらっとねこまんまを見た。まぁ、だいたい「そういうもの」が入っているか。
胃の中に入ってしまえばみな同じ。だから、別にこれでもいいか。
俺は諦めてねこまんまを食った。
うまい。
……俺の同居人はねこまんまでも手を抜かないんだな、と妙なことを感心しながら有難く頂戴し、それからどうしようもないので、猫用トイレで用を足すと、ソファの上で丸まった。猫ともなると、やたらと眠いものらしい。

「半にゃライダー、見ないのか?」
そう言いながら同居人がテレビのスイッチを入れ、俺の頭を撫でた。
なんだ? 半にゃらいだーって?

さっき同居人が鼻歌で歌っていたのはこのテーマ曲らしい。
半人前の猫とその相棒が、世界征服を企む悪の組織と闘うヒーロー番組のようだ。
『次週、ついに半にゃライダー4がスタート。神社で飼われるヒデと禰宜の大国主水が強大な悪と戦う! お楽しみに!』

……結構、面白い。でも俺は何だか眠くなってきた。
「いい天気だな。約束通り、花見に行くか」
同居人はそう言って、車にバーベキューの道具と俺を乗せた。
俺たちは確かに夕べ、花見に行く約束をした。もちろん、人間の俺と同居人が、だ。
同居人は俺が猫になってることにちっとも動揺している様子はないし、何よりも気が付いていないのではないかという気もしてきた。
……ま、いいか。

奥多摩にある大和邸の近くに、あまり有名ではない公園があり、そこそこの数の桜が植えられている。執事の高瀬さんが一等席の場所取りをしておいてくれているはずだった。
同居人が知り合いから貰ったという、桜の花びらや葉っぱが漬けられた焼酎・桜酒もお供をする。
今日は絶好の花見日和だ。満開の桜と青い空、それに気持ちのいい風。
俺のために猫用のベッドも用意されている。

俺はくんくんと空の匂いをかぐ。桜って、匂いがあったっけ?
どうやら、バーベキューの匂いの方が魅力的だ。
俺は料理が出来上がるまで、猫用ベッドで眠って待つことにした。

……魚、焼けたら起こせよ……


わ~。あしたはお花見なんだって~。おはなみ、おはなみ~
で、お花見ってどんなおさかな? ……ちがうの? 
「サクラ、見に行くんだよ」
見るだけ? 食べないの?
サクラってどんなおさかな?

何だかよく分かんないけど、タケルといっしょにお出かけ、うれしいな。
でもね、ぼくがニンゲンだったら、タケルはもっと楽しいだろうなぁ。
いっしょにおさけ飲んだりもできるし、お話したり、それからキャッチボールもできるし(?)。
ぼくはねる前にお空を見た。あ、流れ星!
ニンゲンになれますように、ニンゲンになれますように、ニンゲンになれますように!
……間にあったかなぁ?

翌朝、起き上がったぼくはびっくりした!
わぁ、ニンゲンの手になってる~!!!
何より、ぼく、おっきくなってる!!!!
「おはよう。いい天気だ。約束通り、花見に行くか」
ほんとに、ほんとに? じゃあ、いっしょにお酒が飲めるね! お話もできるね! ぼく、バーベキューの用意のおてつだいもできるね!

ぼくは声を出してみた。
「おはよう(にゃん)」


これぞ、まさしく胡蝶の夢。果たして、真がマコトなのか、マコトが真なのか。この世はすべて、夢なのか……桜が見せた妖しい幻なのか。
何はともあれ、満開の桜に酔いしれる春のひと時、暫し世俗を去り、幽玄に遊ぶべし。




【参考文献】 『胡蝶の夢』

昔者荘周夢に胡蝶と為る。栩栩然として胡蝶なり。自ら喩しみて志に適えるかな。周たるを知らざるなり。 俄然として覚むれば、則ち蘧々然として周なり。知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを。周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂う。

(以前のこと、わたし荘周は夢の中で胡蝶となった。喜々として胡蝶になりきっていた。自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた。荘周であることは全く念頭になかった。はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか。ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない。荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ。しかし主体としての自分には変わりは無く、これが物の変化というものである。)

でも、もちろん、DNAが変化するわけではありませんよ、真?(゜-゜)
*『半にゃライダー4』予告の猫の名前をイザナギからヒデに変えちゃいました。主水に皆様が反応してくださったので……(*^_^*)

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【迷探偵マコトの事件簿】(18) マコトの歳時記~風薫る5月~ 

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(イラスト:limeさん)
本当は5月5日に間に合わせるつもりだったのに、少しだけ遅れてしまったけれど、5月のマコトをお届けします。
そう、マコトも男の子ですから、端午の節句にちょっぴりファンタジックな物語を(^^)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】(18)マコトの歳時記~風薫る5月~

おそとの風が気持ちよくなってきた~
ぼくはねこのドアからベランダに出て、風のにおいをかいでみる。
海のにおいがするよ。
それにね、つきじの方からときどき、おさかなのにおいもするの。
ぼくはベランダの手すりのむこうをのぞきこんで、くんくん。
あれ?

ぼくはふと、せのびをして下の方をみおろしてみた。
タケルがね、ぼくが落っこちないように、でもちょっとだけ遠くが見えるように、ねこのタワーを置いてくれてるの。
そのてっぺんから見たら、したのほうで、何かひらひらしてる。
くろいのと、あかいのと、あおいの。

わ~!! タケル~~~!!!

ぼくはあわててねこタワーを飛び下りて、ねこのドアから家の中にもどる。
タケルはおべんきょうの本を読んでいるとこ。
ぼくはソファの下から、にゃあにゃあ呼んでみた。

あのね、タケル、あのね! おさかなが下のお空でおよいでる~~!!

タケルはふしぎそうにぼくを見た。
ぼくがうしろをふり返りながらベランダに行くと、タケルがついてくる。
ぼくはねこのタワーにのぼって、てっぺんでにゃあにゃあ。
「あぁ、あれはこいのぼりだ。そうか、おまえも男の子だったな」

こいのぼり?
それ、おいしいの?

それでね! タケルはぼくにもこいのぼりを買ってくれたの!
わ~、ぺっちゃんこのひらひら~。目がおっきい~!
くんくん。
……においはないね。
かぷっと。
……おいしくないね。

「食べるものじゃないよ。これは男の子が元気に大きく育つようにって、おまじないみたいなものだから。よし、これでいい」
マンションのベランダだから、ちょっと小さいめなんだって。
ねこにはちょうどいいよね。

くろいのと、あかいのと、あおいの。
3匹ならんでひらひら~
てっぺんでカラカラカラ~ってかざぐるまが回ってる!
わ~いい! ぼくのこいのぼり~!!
おっきくなるおまじない~!

「ちまきは食べられないから、そうだ、せいくらべをしようか」
……せいくらべってなに?

タケルは今度はおしごとのえのぐを持ってきて、まっ白いカベにお絵かきをはじめた。
ちゃいろと白。ちゃいろと白。ちゃいろと白。
わ、耳! それから小さいあたま、おせなか、おしっぽ!
……これ、ぼく?

それからタケルはぼくを絵のよこに並ばせて、しっぽの長さをはかった。
それから、しっぽの絵の上に、数字を書いた。
「これは今日の日付。少し大きくなったら横に並んでみる。そうしたら、どのくらい大きくなったか分かるだろう?」

ぼくは毎日、こいのぼりを見上げる。
低いお空で風にひらひら~
ときどきツキジのおさかなのにおい。

夜中になったら、ぼくはそうっと起きて、ベッドから飛び降りる。
ぼくはまだちっさいから、ベッドのすみっこのおふとんにつかまりながら、だけど。
それから、リビングのカベに行って、昨日のぼくと並んでみる。
しっぽをまっすぐに伸ばして。
う~っと伸びてみて、後ろをふり返ってみる。

わ。
ぼく、昨日のぼくより、1ミリくらいおっきくなってるよね!
ぼくはとってもまんぞく。
1日に1ミリ。3日で3ミリ。365日で365ミリ。
そうしたら、ぼく、ヒョウになれるね!

ぼくはねこのドアからこっそり外に出てみる。
<やぁ、マコト、今夜も来たね!>
大きいお父さんのコイがぼくに呼びかける。
うん、ぼく、来たよ!
大きいお父さんがぼくを背中にのっけてくれる。

しゅっぱつしんこう~!
ぼくは、お星さまがいっぱいのお空にまいあがる。
お母さんのコイと、子どものコイもいっしょにお空をさんぽ。
わぁ、おそらにも、地上にもお星さまがいっぱい!
お空から見たら、海もキラキラ光ってる! おさかなが光ってる!

あのね、お父さん、ぼく、今日1ミリだけおっきくなってたよ!
365日くらいしたら、ぼく、ヒョウになってると思うんだ。
ヒョウになったら、もうお父さんのおせなかに乗れないけど、ぼくね、おっきくなってヒョウになったら、タケルをおせなかに乗っけてあげて、いっぱい走るんだ。

お父さんは<がんばれ!>というように、大きくしっぽを動かした。
ぼくも1ミリだけおっきくなったしっぽをふってみた。
おそらには風のにおい。
海からは、まほうみたいにキラキラがのぼってくる。
おおきな風はまあるいちきゅうをぐるっと回って、またぼくのところにかえってくる。

ぼくはいつの間にかすやすや………
ねる子は育つから、ぼく、いっしょうけんめいお休みするね。

かぜかおる5月。
ぼくはちきゅうみたいにまあるくなって眠る。
ヒョウになって、タケルをのっけて、地平線のずっと向こうまで走っていく夢をみながら。




イラストはlimeさん(小説ブログ「DOOR」)に頂きました。著作権はlimeさんにあります。無断の転用はお断りいたします。

ちょっとファンタジーな物語をお送りしてみました。
というのも、なぜか頭の中で「せいくらべ」の歌詞がぐるぐるしていまして。
猫ってどうやって背比べするのかな? なんて間の抜けたことを考えていたら、こんな話に。
えぇ、何の捻りもありません^^; 
ちなみに、猫の大きさは「体高」(前肢 肩付近の高さ)、「体長」(横から見て胸から尻まで)、「全長」(横から見て頭部の先端から尾の先端までの長さ)で測るようですが、なんか尻尾を測ってるのが可愛い気がして。
よく考えたら、尻尾だけ測っても何の役にも立ちそうにありませんが、ま、どうせ、昨日と比べて1ミリ伸びてるとか言っている(しかも、ちょっと背伸びしてるし)マコトには、体格測定なんて何の意味もありませんが^^;

参考歌詞:「せいくらべ」「365歩のマーチ」??
歌の通りなら、「3歩進んで、2歩下がる」……(マコト、ショックで寝込みそう)

ちなみに「せいくらべ」の2番って、壮大な歌詞だったんですね。

童謡って時々、最後まで聞いたらすごい歌詞ってのがありますよね。「ぞうさん」も2番まで聞いたら、あぁ、これってすごい親子愛の歌だったのね、と思うし。

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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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