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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

NEWS 2013/2/23 更新情報 

更新情報を少し。

今週末に
小説談義をひとつ(中身は…NHKドラマ『ダイヤモンドの恋』、もしくは竹宮恵子さんの作品かも)
石紀行のお休み中おまけ→フランスの美しい村その2(サン・シル・ラポピーほか)
【死者の恋】(2)
の更新予定です。

週末に緊急の仕事が入らなければ、SSから派生した拓・宗輔シリーズ(いつのまにシリーズ?)も書こうかな。
あとは、【清明の雪】に登場した京都の志明院をご紹介するコーナーも考え中。

【海に落ちる雨】は毎日更新、の予定。
たまに飛びますが。
各回の後ろに、ちょっとミニ小説談義とか舞台裏とか、書いています。
タイトルの後ろカッコ内にトピックスの題を入れました。
そちらもお楽しみいただければ、幸いです。
あるいは、ご意見などもいただけると嬉しいです(^^)

では、お仕事と三味線、そして同窓会準備!に邁進します。

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Category: NEWS

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☂[11] 第1章 同居人の留守 (11)(改)(冒頭とは) 

*パパ(竹流)が留守にしているのでちょっとイライラしている?真。
しかしそのころ竹流は……(竹流視点に替わります)
もともとこの小説の冒頭は、このシーンでした。
したがって、今から読んでやろう!という人はここから読んでいただいても、差し支えありません(^^)



 くぐもった音がまたひとつ、頭の上を掠めていった。
 その音は既にいくつ続いたのか分からなくなっていた。
 何の音だろうと考える頭はもうなかった。銃声のようにも聞こえる。

 相手の人数も動きも読んでいたのに、どこからか意識が自分のいる世界から滑り落ちてしまい、今はただ何とか足の裏につく地面の感覚をせめて失わないようにと思うのが精一杯だった。
 誰か知った声が彼の名を呼んだようだった。
 しかし、それは頭の襞の間をすり抜けて、何の像も記憶の回路の中に結ばなかった。

 俺としたことが何という失態だろう。

 命からがら、などという場面はこれまでにも何度もあったが、それは堪らないスリルと快感と、それを乗り越える楽しみを与えてくれただけで、本当に死んでしまうかもしれないと思ったことはない。

 いや、俺はどこかで何かのきっかけを捜していたのか。
 死んでしまうかもしれないと思えるほどの刺激を、あるいは自分の何かが完全に変わってしまえるほどの何かを。

 去年の秋、即位したばかりのローマ教皇が一ヶ月の在位で亡くなり、彼、ジョルジョ・ヴォルテラが生まれた時の教皇から数えて正確には四代目の教皇が即位した。いや、この新しい教皇はそれを即位ではなく就任と言ったのだが、その人がポーランド人であると知った時から、彼はどこかで焦っていたのかもしれない。
 予言など信じてはいない。
 だが、子どもの時に誰かの心の中に植えつけられた迷信というものは、そんなはずはないと知った後でも、守らなくてはならない絶対のルールのように思える時があるのも事実だ。寝る前に神様にお祈りをしなかったら夢の中に悪魔が出てくる、靴下を穿いたまま寝たら怖い夢を見る、というような他愛のない迷信であっても。

 多分、お祈りをちゃんとしなかったんだな、彼は自分を嘲笑ってみた。こんな時に限って冷静になる自分が可笑しいと思った。
 それとももっと別の罪が彼をこの状況に追い込んだのかもしれない。
 首に手を掛けることもなく殺してしまった一人の男と、一人の女。
 それらの魂がこの千載一遇の機会に地獄から手を伸ばして、ついに彼の足を捕まえたのかもしれない。男は彼を呪うように、死の間際に彫っていた像に、殺人者の顔を写し取っていた。女は今も、彼が最も大事に思う人間の心の内に棲み付いて、時々その首を絞めようとしている。

 逃げることは屈辱だとも思わなかったし、真の祖父の長一郎がいつも言っていたように、かの織田信長も逃げ足は滅法速かったという。逃げるが勝ちという戦法は、彼自身最も好むやり方のひとつだった。
 だが、逃げている最中に意識が遠のいてくるなんてことは初めてだった。

 もっとも、朦朧としながらも身体は勝手に動いていた。
 だが、走っているのか歩いているのか、それほどのスピードさえ出ていないのか、本当のところは進んでいないのかさえわからない。既に夕方になっていたはずだが、この暗さは深い森が名残の太陽の光を遮っているからなのか、ただ時間の故に実際に闇になっていたからなのか、あるいは意識がまともでないからなのかも分からない。

 唯一感じるのは、肩から出血しているらしい拍動だけだった。
 このまま血を流していると本当に死んでしまうのかもしれない。

 誰かがもう一度、彼の名を呼んだ。それから、肩口の傷を何か布のようなもので気を失うほどにきつく縛った。部位が部位だけにそんなもので止血できるとも思わなかったが、その痛みで一瞬意識が鮮明になった。

「逃がし屋失格だな。だが、この真下は国道でトラックの抜け道だ。運がよければ助かる」
 話している相手が誰なのか、思い出せないような感覚に陥った。
「昂司」しかし、声のほうは意識よりも先に相手の名を呼んでいた。「ここから早く離れろ」
「馬鹿言え。お前を置いて逃げられるわけがない」
 腹が立つほどに寺崎昂司の声がスローモーションで聞こえていた。

「この下が国道なら何とか逃げられる。もう俺のことは心配するな。それよりも、あの子を助けてやってくれ。何とか彼女の父親の汚名も晴らしてやって欲しい」
 彼の声は彼自身の中ではスムーズに響いていたが、実際にはどの程度相手に聞こえていたのか定かではなかった。しかも、知らないうちに自分が地面に尻をついていることに気が付いた。

「お前を置いていくわけにはいかない」
 彼の言葉など完全に無視をするように、もう一度寺崎昂司が言った。
「俺のことよりも、お前は彼女に償ってやらなけりゃならない」
 その言葉は昂司の耳に届いたのかどうか、定かではなかった。

 もう相手の顔もろくに見えていなかった。暗いのは自分の視力が保たれていないからかもしれない。
 しかし、昂司の手が一瞬揺らいだのを感じることはできた。
 昂司は彼を立ち上がらせると、勢いをつけるように彼の背中を押した。そのお蔭か、足は自動のゼンマイを巻かれたように森の斜面を駆け下り始めた。
 だが実際には駆け下りるほどのスピードではなかったのかもしれない。
 人の気配も銃声のような音も、背中の遥か彼方へ遠のいて行くように思った。

 あの馬鹿、引き付けているのか。

 再び意識ははっきりしなくなってきた。身体に当たっているはずの木々の枝の鞭のような感触にも痛みさえ感じない。たまに身体ごと木にぶつかるので、その痛みがかろうじてあと何歩かを継いでいた。もつれたような足の感触はもうよく分からなかった。
 肩はずきずきと拍動を続けていた。血はどんどん流れ去って、心臓が空っぽのまま拍動しているような錯覚に陥る。

 彼の記憶はどこか一部が曖昧になっていた。
 曖昧にせざるを得なかった。
 右手には全く感覚がなく、一体それをどこに置き忘れてきたのか、思い出そうにも思い出せない、思い出したくないような気がしていた。
 昂司はどうして俺を助けに来てくれたのだろう、どうして俺を逃がしてくれたのだろうと思った。いや、それが大和竹流が頼りにしている逃がし屋としての彼の仕事だからだ。

 一人で何とか話をつけるつもりだった。
 相手に容赦も理屈もないことは感じていたが、三年半前に救ってやれなかった少女に対する後ろめたさが今も燻り続けていた。

 その少女の何に固執しているのか、自分でも分からなかった。
 真が付き合っている香野深雪という女の、過去に持っている深い傷を知ったとき、彼は真の手を離してやる時が来たのだと思った。真が自然に女と愛し合い、自然に家庭を作り、その場所にあの少女の居場所もあるようにさえ思った。
 真には、本人も気が付いていない、他人の傷を癒す力があると思っていた。それがあの傷ついた女と少女のためのものだと言ってしまっていけないということはないはずだった。

 そうでもしてくれないと、俺はお前を奈落の底へ引きずり落としてしまう。

 感覚のない右手からも痛みと血が零れ落ちていく。
 その痛みが蘇ると、彼は自分の心をまた抑えられなくなった。

 いや、あれはお前のものだ。お前があの日、定められた運命の歯車に乗って、手に入れたものだ。みすみす手放すことはない。奈落の底までつき合わせたらいいのだ。

 彼は迷いながら、既に下がり始めた血圧で全く回らない頭を最大限に回転させているうちに、だんだん何も考えられなくなった。仲間たちの怒りが目に見えるような気がした。一人で行くなといつも言われていたのに、つい己を過信してしまった。

 いや、そうではない、ただ信じたかったのだ。彼が、己の心の闇を閉じ込めたあの小さな地下の礼拝堂の鍵を預けた男を、ただ救いたかったのだ。

 あんたは甘すぎる、世の中の人間が最後は善意であんたを迎えてくれると思っている。あんたはやっぱりお坊ちゃんなんだよ。だから俺たちがいるんだ、絶対に一人で勝手なことをするな。

 葛城昇の声が聞こえてくるようだ。
 不意に、一ヶ月くらいだと言った瞬間の、頼りなげな真の顔を思い出した。

 まいったな。真のやつ、一人で食っていけるんだろうか。

 そもそも真を甘やかして、一人で飯を食うという当たり前の習性を奪い取ったのは彼だった。
 そう思った瞬間、やはり俺はあれを手放したくないのだと、手放すことは半身を捥ぎ取られるようなものだと痛みと共に思い出したような気がした、

 その時、遠くのほうから地鳴りのような音が聞こえているように思った。
 トラックの音だろうか。真の顔を思い出した途端、運が舞い戻ったような気がした。
 そして次の瞬間、突然に足が空を踏み抜いた。

 意識は、突然の強烈な光とクラクションの音と、地面に叩きつけられた激しい痛みを最後にぷっつりと途切れた。


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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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