FC2ブログ
01 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.» 03

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[13] 第1章 同居人の留守 (13)(改)(『それっぽい』) 

「私が奢ってあげましょうか」
 どこか男を挑発するような顔つきなのに、この女の中にはアンバランスさが見て取れた。それが何なのか、今の真には興味がなかった。
「食事をする相手を探しているわけじゃない」
「ベッドを共にする相手?」

 真は思わず女を睨み付けた。
「どっちかというと抱き締めて可愛がってくれる相手よね」
 女のほうも挑戦的な目で真を見つめる。真が返事をしないままでいると、女はさらに続けた。
「心中するんじゃないかと人に思われるほど好きになった女がいたのに、今はあんなおっかない女と付き合っていて、しかも本当は留守をしている恋人が恋しくて仕方がないってわけでしょ」
「恋人ではない」
「あらそう? でも街ではすっかりそう思わせておいて放っているじゃない。雑誌にまで派手に書かれちゃって」
「単なる誤解だ」
「言い訳してないじゃない?」

 それはその通りだった。
 だがそれは妙な趣味を持っている連中への牽制と、そしてたまには同情や同族意識を引くためと、あの男が自分の『恋人』と思われていればある種類の人間たちに仕事上での威圧になるからでもあった。
 同居人のほうもわざとなのか、その噂を否定さえしない。あんな雑誌のインタビューであってもだ。

 真はライフル銃を田安に返して、放り出していた上着を取った。
 内ポケットから煙草を出してきて咥えると、女は何を思ったのかそれに火をつけてくれた。火をつけてもらう程度のことを拒否する理由もないので、そのまま新鮮なニコチンを吸い込む。
 ふと近くに来た女を見ると、何か特殊な気配を感じた。
 口で生意気を言うほどには敵意のないことを示したいような、そういう視線に思えた。

「まぁまぁ、上でバーボンでもどうだ?」
 面白そうにやり取りを見ていた田安が真と女を窘めて促した。
 真は煙草を咥えたままそれについて行き、女も後に続いた。
 地下から上る階段はバーのカウンターの裏の足元に出る。ちょっと見れば食品庫のような出入り口だった。真と女はカウンターの外側に廻り、背の高い椅子を間にひとつ空けて座った。

 倉庫のような造りで天井が高い店の中には、大きくはないがドラムセットとグランドピアノを置いて、他にベースや管楽器が多少持ち込まれても問題のないくらいの大きさのステージがあり、フロアには無秩序にテーブルが十ばかり散らばっている。カウンターはL字になっていてやはり十数人は座ることができた。

 バーはまだ開店前で、こういう店には似合わない明るい照明に包まれていたが、すぐに田安は灯りを落とした。瞬間に、どこか間が抜けたような白々しさは消え去り、空間が秘密めいた匂いを纏い、心の奥を吐き出したい気分を盛り上げてくれる。

「あまり意地悪を言わずに、素直に探偵さんに頼み事をしたほうがいいぞ」
 バーボンを、彼女の方には濃い目に、真には薄めに作って、田安はカウンターにグラスを並べ、すっとそれぞれのほうへ滑らせた。器用で、隙のない動きだ。

「もっと汚らしいトレンチコートでも着て、女好きで、ウィスキーはダブル、ニコチン臭くて、胃薬なんか飲んでる、それっぽい探偵でないと、頼みごとを言い出しにくいか」

 田安は時々、真があまりにも『探偵』ぽくないことをからかう。
 真はほとんど水に近いバーボンを半分くらい飲む。女はまだ黙っている。真は煙草に火をつけ、しばらく黙ってふかしていた。
 随分と間をおいてから、女が呟くように言う。

「別に、頼み事なんて」
 煙草の灰を灰皿に落としかけて真がふと女を見ると、女は少し肩を竦めるように視線をバーボンに落としていた。
「俺と話をしているときとは、もっと素直なのにな。それではまるで好きな子を苛める小学生だ」

 何を言うのよ、という顔で女が田安を睨んだ。田安はちょっと優しげに笑んで真に目配せを送った。
 怪しい老人だが、面倒見がいいところもある。
「この娘はこういう物言いしかできないが、まぁ悪気があってのことじゃない。お前さんに頼みがあるんだよ」

 頼みがある人間がそういう物言いをするか、と真は思ったが、煙草の火をつけてくれた瞬間の視線は確かに嫌味ではなかった。
「頼みって事じゃないけど」
「言えよ」
 真が心して優しげな声で言ったからか、女はちょっと真と視線を合わせてから俯いた。

「志穂ちゃん」
 田安は促すように声を掛けてから、店の看板に明かりを灯しに表に出て行った。
 志穂という名前なのか、と妙に感慨深く思っていると、彼女は例のごとく勝気な表情で真を見つめた。

「あなたが付き合ってる女」
 真は彼女を見つめ返した。
「香野深雪が、誰の女か知ってるんでしょ」
「どういう意味だ?」
「澤田代議士。一応自民党だけど、半分無所属みたいな男」

 真は彼女の言いたいことを探るように、その勝気な瞳と形のよい扇情的とも言える厚めの唇を見つめていた。
「あの男のことを調べてるの」
「仕事か」
「まぁね。でも私が知りたいのは表に出てくる澤田のことじゃない。あの男の過去を知りたいの。というよりも、その過去と繋がっている今のあの男のこと。香野深雪はあなたに寝物語でも何か話さないの?」
「まさか。大体何の話だ?」
「あなた、澤田が提供しているって噂の、香野深雪の住まいになっているホテルに堂々と出入りしているじゃない? 澤田がそれを許してくれているなんて思ってるの?」

 いつの間にか田安がカウンターのうちに戻って彼らの会話を聞いていた。
 話が単なる仕事の依頼ではなく、自分の身に直接関わりのあることだったので、真の方も冷静に田安の気配を窺っていたわけではなかったが、何となく田安もこの会話の内容に興味を抱いているような気がした。
 田安はこの女の頼み事の内容は知らなかったのかもしれない。
 あの長い眉毛の向こうの目が注意深く何かを窺っているように思えた。

「もしもそうだとして、今更澤田代議士が俺をどうこうしようなんて思わないだろう。大体そういう気ならとっくに何か言ってきているはずだ」
「あなたの価値を知れば、別でしょうけど」
「俺の価値?」
 真は女を見つめ、それから思わず田安の方を見た。
 田安も黙って真を見ていた。だが、田安の表情からは相変わらず何も読み取れない。

 真はもう一度女のほうに視線を戻した。
「それで、君は澤田代議士をどうしようと言うんだ? 政治家としての失脚が目的か?」
「ただ本当のことを知りたいの」
「本当のこと? 仕事ではないのか」
「香野深雪に聞いてみて。澤田がどういう男か知ってるのかって」
「言っておくが、彼女は俺にそういうことは話さない。単に店の客というだけだ」

「じゃあ、あなたは彼女に一回いくら払ってるの?」
 真は今までそういう単純な話に思い至らなかったこと自体に、自分でも驚いた。

 深雪とこれほどに肌を合わせても、金銭的なやり取りをしたことはない。ましてや抱き合う場所についても、たまに深雪が面白がってラブホテルに行こうと言う時以外、真が財布を出す事もない。
「あんな怪しい女が単に好き嫌いであなたと寝ると思ってる? しかもあなたとのセックスがどんなに良くても、それだけで関係を続けることなんてあり得ないわよ」

 身体の相性がいいからだと思っていたが、確かに深雪に何かを確かめたことなど一度もなかった。
 だが、男と女の間のことだ。愛じゃなくても身体が離れられないようなことだってあると、この目の前の生意気な女に言ってやりたい気がした。
「彼女とのことは個人的なことだ。悪いが、そういうことなら頼まれても協力はできない。それに澤田代議士が俺に何かを要求してきたことも接触してきたこともない。筋違いだ」

 真は黙ったままの楢崎志穂の突き刺さるような視線を感じながら、薄いバーボンを口にした。
 薄いはずのバーボンが舌に突き刺さるような気がした。





以下、コラム畳んでいます。
-- 続きを読む --
スポンサーサイト



Category: ☂海に落ちる雨 第1節

tb 0 : cm 2   

☂[12] 第1章 同居人の留守 (12)(改) 

 長いと思われた一ヶ月の半分以上は過ぎようとしていた。

 あの日以来、何となく気恥ずかしいのと後ろめたいのとで、深雪にも会っていなかった。
 大体、たった一人の例外を除けば、他人と同じベッドにいて眠れたことのない真に、同居人が留守だからといって他の女性と夜を共にしたところで落ち着けるはずもなかった。
 そう思うと、左隣がどうとか言わずに、とにかく耐えるほうがましに思えた。

 時間のつぶし方はそれほど難しいことではなかった。

 共同経営者の柏木美和は、恋人である北条仁がタイに出張しているので夜は暇だったらしく、彼女と必ずひっついてくる宝田三郎と、最近ほとんど事務所に入り浸るようになった元不良少年で少年院上がりの高遠賢二とが、真の心の内を知ってか知らずか、しばしば真の夕食に同伴した。
 時には北条の親爺さん、つまり任侠一家の親分が碁の相手をしてくれといって事務所に電話をかけてきて、食事を振舞われることもあった。

 その上、誰が何を言ったのか、たまには食事でもどうだといって、名瀬弁護士や、真の不整脈の主治医で、脳外科医の伯父の親友だった斎藤医師や、以前に勤めていた唐沢調査事務所の先輩の三上司朗までが電話をかけてきた。
 美和が言ったのかも知れないと思ったが、名瀬はともかく、斎藤や三上の連絡先を美和が知っているとは思いがたかった。そうなると考えられることはひとつだった。出掛ける前に同居人が知らせていったのだろう。妙な気の回し方に、有難いと思うより何となく腹が立ってきた。

 真は食い込むような重みを肩に受け止めて、前方を睨みつけていた。その視界の中央に、黒い人影が起き上がってくる。
 実際のスピードはかなりのものだったはずだが、集中すると、的が立ち上がる時間は、その何倍も引き伸ばされて感じる。
 ライフルを構えると指は勝手に反応した。ずん、と身体に、多分心臓の真ん中に重い振動が伝わってくる。
 弾丸は視界の中心を裂いて、そのまま的のど真ん中に突き刺さった。

 真は自分でもかなり動体視力がいいと思う時がある。おそらく、子どもの頃から祖父の手加減のない剣道の相手をさせられていたからで、いつからか、相手が打ち込んでくる瞬間には、その動きがスローモーションのように感じられるようになっていた。

「そりゃあ、お前さん、有難いと思うべきだろう」
 三度ばかり、お見事、というように両手を叩いてからイヤプロテクターを外し、火をつけたパイプを美味そうに燻らせて、ほとんど白髪の老人は面白そうに言った。

 真は今でもこの老人に初めて会ったときの事を鮮明に覚えている。
 真が大学を中退したとき雇ってくれたのは、ある縁があってそれまで時々バイトに行っていた調査事務所の唐沢所長だった。
 かなり胡散臭い男で、実際、自分の事務所に爆弾を仕掛けた保険金詐欺を企んで、今刑務所に入っている。

 この老人はその唐沢所長の古くからの知り合いらしく、胡散臭いといえば所長以上だったかもしれない。しかし、どこかに人懐こい気配を持っていて、風変わりな容貌にも関わらず人を惹きつけた。
 田安隆三という名前のこの老人は白髪を肩まで伸ばしていて、大概ニットの帽子を被っていた。
 白く長い眉毛は小さな鋭い目を隠して、そこに宿る細々とした複雑な人生の来し方を見せまいとする。この老人なりの基準で整えられた長めの顎鬚も、まるで口元の何かを隠すようだ。大柄ではなく、どこかすばしこそうな気配を醸し出していて、なぜか蜥蜴を思い起こさせる。
 いつもパイプを燻らせている風変わりな老人で、どういう経歴の人物か、今でも真にはよく解らなかった。

 初めて会ったとき、この年齢不詳の老人は真を値踏みするような目で上から下まで見つめ、アサクラタケシのねぇ、と呟いた。

 あの時、真の身体の芯は、思い出してはいけない記憶を引きずり出してきて震え始めた。
 久しぶりに意識を失うのではないかと思った。
 だが、それ以来、田安隆三は、真がただ一度尋ねたときを別にして、その男の名前を真の前であえて口にしたことはない。

 田安が経営しているジャズバーは東京湾の近くで、客の半分以上は外国人だった。田安はその店の二階に住んでいたが、そこは本とレコードと変な骨董のようなもので溢れた部屋で、田安は生活しているというよりもただそこに存在しているという感じだった。

 今彼らがいるのは、そのジャズバーの地下の部屋だった。田安のほかに女が一人、一緒にいる。

「それで、その食事の誘いが鬱陶しくて、ここに逃げてきたわけだな」

 確かにそういう側面はあった。人と食事を共にすることは、それが比較的よく知った相手でも気を使うものだった。名瀬弁護士はいい親爺のようだが、エリート街道を歩んできた人間で、気が置けない相手とは言いがたい。斎藤医師は伯父が失踪した後、真と葉子の保護者を自任していた一人で、昔から自分たちを知っているが、逆に知られていることで甘える相手にはならなかった。三上司朗は良い兄貴分だったが、事務所の爆破事故で下半身不随になり車椅子の生活を続けていて、ある部分では責任を感じている真にとって、彼が優しく接してくれればくれるほど罪悪感を覚える相手でもあった。ましてや、任侠の親分と楽しく食事というわけにはいかない。

「あら、じゃあ私と行きましょうよ」
 綺麗な脚を持った派手な顔つきの若い女は、その脚を見せ付けるような短いスカートをはいている。
 あまり手を入れているとは思えない短い髪と化粧気のない顔だが、もとの作りが派手なのか、十分男心をくすぐるタイプだった。目は化粧なしではっきりするほどに大きく、唇はたっぷりと水を含んでいるように艶やかに存在を主張しているが、小振りの輪郭の中に上手く納まっていた。
 声に尋常ではない色気があるのだが、態度が素っ気ないことが勿体なく感じられる。

 どういう関係かは知らないが、田安のところにしばしば出入りしている。週刊誌の記者だと聞いているが、本当かどうか確かめたこともない。楢崎という苗字だけは知っていたが、ここで会う以外に接点もなかった。もっとも、田安がこの地下室に出入りを許しているということは、それなりの事情があるはずだった。

 真は外したイヤプロテクターをカウンターの上に置いた。
 完全に法に触れていることは知っているが、ここに来て銃を撃っていると、その瞬間には何かを忘れていられた。

 真が小さい頃、唯一の友人だったアイヌ人の老人は、よく熊の話をしてくれた。
 彼らが熊を撃ち、熊に感謝し、それを食らい、その皮を取り、魂を天に返す儀式の全てが、真には生きることと思われた。銃を握るということはそういうことだと思っていた。
 実際に祖父の長一郎は猟銃の免許を持っていて、時には狩りもする。
 もともとマタギとも暮らしたことがあり、その腕前は相当なものだと聞かされたことがあるし、熊が人里に出てきた時にはいつも借り出されているのを知っている。
 だが、それはあくまでも特殊な事情のあることだ。

 感謝し食うためでもないのに、これで人を撃ったり殺したりするのはあり得ないことだと思っている。
 だが、撃った瞬間に自分の身体に響く重い振動は、時折それだけで生きていることを実感させる衝撃となった。

 そもそもこの怪しい老人が何故自分をこの地下室に誘い銃の扱いを教えたのか、真は未だに聞いたこともないし、聞いたとしても田安が答えるとは思えない。

『こういう世界をどう思う?』

 尋ねられたとき、真は理解したくないと答えた。今でもそれは変わらないが、この衝撃を感じている瞬間だけ、自分の血の中のある一部が熱くなるのを感じる。
 だが、これが父と繋がっているからだとは、まだ認められないでいる。

 教えて欲しいと言ったとき、田安は、知らないほうがいいこともあると思わないかと答えた。
 真が逡巡していると、田安はパイプの煙を吐き出して、静かに言った。

『アサクラタケシ。アメリカの国家が飼っているスナイパーだ。多分、世界中で数えても片手のうちに入る腕の持ち主だ。仕事をしくじったことは一度もない、冷徹に淡々と仕事をこなしている。俺はあの男の親分を知っているがな、あの男には感情の起伏がないのか、あるいは極めて平坦なのだと言っていたよ。だからアメリカはあの男を手離さない。極めて精巧で、これ以上を望めないほどの道具だからだ。万が一にも敵の手に落ちることがあってはならないから、最後まで飼い殺す気だ』

 田安はその時慈しむような目で真を見た。
『坊主、その男がお前の父親の相川武史かどうか、それはわからん。確かにお前さんはいい腕を持っている。だが、お前の祖父さんは猟銃を扱うだろう。それも半端じゃない腕と聞いたぞ。お前が引いているのはその血かもしれない。人間がひとつの動物として生きていくために必要とした道具を扱う腕だ』

 真は自分の手を見つめた。もしかして真もまた銃の扱いに関していい腕を持っているのだとして、こんな技能が何の役にも立たないことを分かっているし、それを万が一にも行使するような場面には出会いたくないと思っている。だが、これが父の生業なら、せめて何かを理解したいと願っているのだろうか。

 真は、自分はあの父親に捨てられたのだと改めて思った。
 それなのにその男を理解する必要がどこにあるのだろう。


-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第1節

tb 0 : cm 2   

【物語を遊ぼう】7.竹宮恵子『ジルベスターの星から』 

私の漫画遍歴はどちらかというと貧弱なのですが、その中で竹宮恵子さんには大きな影響を受けたような気がします。
もちろん、あの時代(!)ですから、萩尾望都さん池田理代子さんなど、そうそうたる大作家さんがおられて、どの作家さんにも強い影響を受けているのですが……
そもそも私たちの世代、日本の歴史は大河ドラマ、世界の歴史は漫画で学んだわけですし。

それはともかく、思えば、事の起こりは『キャンディ・キャンディ』ですよ!
私の『そう簡単に物事はうまくいかない感覚』の根源は。
なかよし、なんて可愛らしい少女漫画の本に連載されていて、目もおっきくてキラキラ、いかにも少女漫画という顔をしていながら、中身と言えば、相手役の男の子はすぐ死んじゃうわ、喧嘩しながらもやっと気持ちの通じあった恋人は他の女にもっていかれるわ(しかもその女も結局は悪い人間じゃないところがつらい、しかもラストのほうで!)、結果的には老人と思っていたあしながおじさんが結構若かったという下りで、ま、いずれくっつくんだろうと予測されて終わるわけだけど……
読んでいる小学生はやっぱりテリーとのHappy Endを望んでいたはずなのに!
……幼心にびっくりした展開だった。
ただ、あの時、物語って面白い、と思ったのも事実。やられた!って感覚かもしれません。

そして、さらに追い打ちをかけたのが、マジンガーZ(アニメですが)。
最終回、負けて終わってしまった。
あれはいったい何だったのだろう。最後の最後に正義が勝つとは限らない!って話?
しかも、続きで出てきた新しい主人公がどうにもいけすかない。

今でこそ仮面ライダーもロボットものも複雑で、敵も味方もそれぞれ事情があるってのは当たり前になってるけど、あの頃、ちょっと子供心に傷ついたりしました。
でも、あの頃、確かに暗いアニメは多かった。
キャシャーン、デビルマン、などなど。でもそれは設定の暗さであって、最終回にいきなり負けるのはどうかと思う。

さて、また脇道でしたが、竹宮恵子さんのこと
実は、握手してもらったことがある唯一の漫画家さんなんです。
サイン会に行って、登場人物のマスコットを作って持って行って、けなげなファンでした。
だれのマスコットだったか……それは私の大好きな漫画『変奏曲』のエドアルドくんだったはず。

一番好きな作品は、と聞かれたら、二つで迷うけれど…『変奏曲』『地球へ…』と一応答えている。
もちろん、本当に好きなんですけど…
でも、最も好きな作品は多分、だれも知らない、あるいは覚えていないかもしれない短編なのです。

『風と木の歌』であの当時、漫画界に嵐を巻き起こしたと言っても過言じゃない竹宮さんですが、実は竹宮さんの本領が発揮されるのはコメディじゃないかと今も思っている。
それは、しばらく漫画から離れていた私が、ものすごく久しぶりに竹宮さんの漫画を手に取って、本当に面白いと思ったのは『私を月まで連れてって!』で、これを読んだとき、これこそ竹宮恵子さんだわ、と思った。
ユーモアのセンスが抜群。こじゃれたユーモア。
もしかして、私の中で『変奏曲』も『地球へ…』も抜いたかも、と思いました。
これは本当におすすめ。

さて、私の愛する短編をご紹介します。
この間、アマゾンで検索しました。
もう売ってないんじゃないかと。
そうしたら短編集の中にありました。

『ジルベスターの星から』
ジルベスター(これは私の持っている古い本)

演劇部だった私は、実はこれを何とか舞台でやりたいと思った。
(しかし実現しなかった。宇宙戦艦ヤマトと赤川次郎さんの作品はやったんだけど…それにしてもなんて画期的な中学生だったんでしょうか! 30年ほど前? え? いやはや、自由な学校だった)
でも、この世界がとても愛しく思えて、そのまま大事においておくことにした。

今でも、読むと、そこはかとなく心が温かくなる。

放射能で汚染され、ドームの外には出られない未来の地球。
宇宙パイロットになる夢を持った少年、アロウのもとに幽霊のような少女とも少年ともつかない子ども(ジル)が現れる。それは遠い星、ジルベスターから送られてきたテレパシーが作った映像。
その辺境にある星は、汚染された地球から移民団が移り住んだ星なのです。
ジルはアロウに、ジルベスターがどんなに素敵な星か、どれほど夢のある場所か、そしてラベンダーの空がどれほどに美しいか、話して聞かせる。
時には意見が合わないこともあったけれど、語り合いながら夢を紡いでいったのです。
いつかジルベスターを見たい、その気持ちがアロウを動かし、優秀なパイロットになった彼は、周囲が進めるエリートへの道を断ってでも辺境の星ジルベスターへ行きたいと願う。
しかしある時、依頼していた調査の返事が返ってくる。
ジルベスターでは宇宙線の影響で子どもが育たず、10歳前後で死んでしまう、移民は失敗だったと。
ジルはそこにいるのになぜ。
どうしてもこのままにしておくことはできない。この目で確かめなくては。
アロウは、恋人を置いて、ついに辺境の土地、ジルベスターへ旅立った!
そこでアロウが見たものは、荒廃した灰色の土地、まったく人の姿もない枯れた土地、白い墓碑。
いったいジルはどこに……
そして、アロウの恋人、ヴェガの驚きの行動とは!

古い漫画なのでネタバレしてもいいのかしら。
でも、読んでほしいです。たった50Pに込められた本当に深く美しい物語。
短い中に出てくる登場人物の魅力的なこと、そして何より、描かれた世界の美しさ。
物語って、美しいことが大事なんだと思わせてくれる。
『美しい』って使い古された言葉だけど、ある時、村下孝蔵さんの故郷を歌った『夕焼けの町』を聞いて、あぁ『美しい』ってなんて素晴らしい言葉かと思った。
素直に使うと、そして心を込めて語ると、本当に伝わる言葉だと。
修飾語で飾り立てなくても、心を込めて、そのまま言えばいい。

背景に流れているリルケの詩が心に触れます。

だれがわたしにいえるだろう
わたしのいのちがどこまで届くかを……


竹宮恵子さんは、私にクラシック音楽の素晴らしさを、そしてロルカやリルケ、ヴェルレーヌの詩の美しさを教えてくださった漫画家さんです。
この切り取られた詩の数行が、本当に物語の中を泳ぐように流れている。

もしかしていつかチャンスがあれば、やっぱり私はこの物語を三次元の映像で見たいと思うのです。
映画? あるいは舞台? それとももっと違う何か。
いえ、やっぱり私の心の中の世界に置いておくほうがいいのかしら。
私が物語を語るとき、いつも支えにしているいくつかの作品のひとつ。

竹宮恵子さんのもう一つ、素晴らしい作品は『ロンド・カプリチオーソ』です。
スケートの話ですが、兄弟の葛藤がたまらなくて。
おかげさまで、拙作にはやたらと兄弟葛藤が出てくるようになってしまいました。
そしていつも私は、弟の才能や自由さに嫉妬して苦しみながらも弟を愛する兄貴の味方なんですよね…
またいつかご紹介します。

にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へにほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説へ



Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

tb 0 : cm 0   

【石紀行番外編】フランス南西部・美しい村(3)ロカマドゥール 

ロカマドゥールへご案内します。
崖にへばりついているような礼拝堂、ここから12世紀に聖アマドゥールのミイラ遺体が発見されたことから、聖地になりました。その後巡礼地としてにぎわうようになり、世界遺産に登録されている村。
ロカマドゥール
崖の上には城があり、中腹の崖にへばりついて教会(聖域)があり、下には町があります。
城から教会のある聖域までは、つづら折りの道があり、道が折れるところにはキリストの受難のレリーフがあります。
道
受難2受難1
聖域とされる場所は礼拝堂に囲まれているといった感じで、ここに最も有名な黒い聖母子が安置されています。木製とのこと。こちらでは船の航行の安全を祈ったり(ここで祈ったおかげで遭難を免れた、という年代が記されたレリーフがある)、また囚人の巡礼地でもあるようです。
教会1ファザード
黒い聖母子、何かの小説を思い出しますね。意味合いはともかくも、少し普通とは印象の違う聖母子像ですが、それだけに不思議な力に充ちているように見えます。
硬質な石の世界の中の木のぬくもり、なのかもしれません。
聖母
聖アマドゥールの遺体が見つかったのは聖域の上層。壁画が美しい。
壁画
そしてこの階段。
階段貝
下から216段ある階段…巡礼の方々は膝で登られるのですが…やはりハードな道ですね。
それにしてもわずかにカーブして登っている、美しい階段です。
何だか全く違うのに、京都の永観堂の裏手にある階段を思い出してしまいました。
永観堂の階段は龍が臥した姿を模したと言われますが、木のカーブはもう少し柔らかい感じ。
ここにあるような石造りの階段には、やはり弱さを拒むような厳しさを感じる。
けれどもそこに膝をつけて登っていくとき、もしかするとそこには、その人にしか分からない温度・温もりがあるのかもしれません。
階段にはホタテガイが……これは巡礼の道の印だそうです。
ナイフや
実はナイフでも有名な町だとか。これは下の町にあるナイフ屋さん。

町の造り自体が荘厳な印象のロカマドゥール。
フランス南西部にある美しい村の中で、聖地の魅力を存分に湛えた場所です。

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 2   

【石紀行番外編】フランス南西部・美しい村(2)ベナック城 

さて、少し考えさせられるお城へ行ってみたいと思います。
ベナック城です。

と言っても、何の城?って感じだと思うのですが、まずはご案内いたします。
これもフランサテムさんのガイドさんのお力をお借りして、見せていただいた世界。
お城の全景、とまではいきませんが、大体こんな感じ。中世風、いかつい城、要塞みたいなお城ですね。
ベナック城
敷地の中に教会があります。
おじいちゃん教会

中を覗いてみましょう。
台所だトイレ
これは実は台所。つまりダイニングですね。竈もしっかりある。
で、いつ敵が攻めてきても対応できるように、テーブルの横には剣が並んでいる。
落ち着いてご飯食べれませんね……

隣は、みなさん、想像しやすい空間ですよね。
いわゆるどっぽんですが、この城の下には川が流れているので、つまり下水道完備?
ちょっと落ち着く感じの空間でした^^;
って、並べるなって? ご尤もです。すみませんm(__)m

その下水道……いえいえ、美しい川が森や畑を縫うように流れています。
川の傍にはいくつも同じような中世の古いお城がある。
ながめ
けれども、今ではこうしたお城を『昔の姿のまま留める』ことは大変困難なことになっています。
富の配分はいつの世も不公平。だから世界中にはこんなお城の一つでも持って、改築して現代風にして住みやすく……と考えるような金持ちはいくらでもいるようです。
しかし、それはこの城の歴史的価値、この景観の中での存在意義を変えてしまうものになる。

実は裏に回ると、こんな感じなのです。
修理中
そう、地道に修理中です。
そしてこの城の主のおじいちゃんは城の隣に住んで、昔の姿を保ちつつ、補修はするけど改築はせず、『売れ』という声にも負けずに、心意気ひとつでこの城を守っているわけです。
ご自身は隣にある小さい家に住んでいる。
おじいちゃんの家
でももうかなりのご高齢とお聞きしました。おじいちゃんがいなくなったら、このお城は変わってしまうのでしょうか。それとも心意気を持った誰かが後を担ってくれるのでしょうか。

古いものを残すことはとても大切ですが、時は流れていく。
古いものを残すことは時には大きな負担になる。
金銭的にも、そして誰かの時間と人生を縛ったりもするかもしれない。
そうまでして残すべきなのか、そうまでして残すだけの余力が私たちにあるのかどうか。
レトロを愛する気持ちだけでは、どうすることもできない現実があるような気もする。

保存・保護、って言葉で言うのは簡単だけど、そこにかかる費用と人手を考えると、ちょっと唸ってしまいます。
残すって、なんなのだろう。
形あるものはいつかは壊れていくわけで……
修理しても修理しても、そのうち追いつかなくなっていくのかもしれない。

でもだから愛しいのかもしれませんね。
だから、おじいちゃんはせめて自分が生きているうちは、この城を精一杯愛したいと思っているのでしょうね。

おじいちゃんに乾杯

ジャンヌダルク
おかげで、このお城、映画監督には大人気のようです。

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 2