FC2ブログ
02 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 04

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【石紀行番外編】フランス南西部・美しい村(4)サン・シル・ラポピー 

「フランスの美しい村」のひとつ、サン・シル・ラポピーへご案内いたします。
サン・シル・ラポピー
ロット川から100メートルほど登った崖上にある、13-14世紀に建てられたままの姿が残されている素朴な村です。最も高いところに城壁の名残があり、そこからの眺めはなかなか美しいのですが……

何となくさみしい村に見えてしまったのは、この場所がアクセスの悪い場所だからでしょうか。
あるいは、不便な田舎町にありがちの過疎化のためでしょうか。
通り村の家3
訪ねた季節が、花咲き乱れ緑あふれる…というシーズンではなかったのも一因かもしれません。
しかしガイドさんのお話によれば、村には空き家がたくさんあって、貸出をしているのだとか。
そこに、この村の美しい景観に惹かれて芸術家の人々が集まってきているようですが、それでも空いた家が少なくはなく、人が住まない家が荒れていく例に違わず、少し寂れた雰囲気が出ているのかもしれません。
村の家1
売家
古い村を保存するためには、外観を変えずに守り、中を新しくしていくのでしょうが、維持するための費用は住む人持ちでしょうから、大変な『心意気』が必要だと思います。
京都の町屋を始め、日本にも同じような場所がいくつもありますよね。イタリアの古い村々でも同じような光景を見ます。サンジミニャーノの塔に住む人が話していましたが『ここに住むことを誇りと思っている』、そういう気持ちがないと、ただ不便で(塔の場合は、エレベーターなんかつけられないので、頑張って狭くて暗い階段を毎日上がるわけで)古臭いばかり。むしろ、不便を楽しまなくてはならないし(もちろん楽しめる人が住んでいるわけですが)、その上お金もかかる!
……大変だなぁ、と思います。
城壁の上からの村の光景。
村の家2
しかし、この村にはものすごくいいものがあります。
小さなお店で発見。食べちゃったので写真がないのが申し訳ないけれど、この旅行のお土産の中で最も喜ばれたもの。それはどっぷりとボルドーのワインに浸かった干しブドウをチョコレートでコーティングしたお菓子。
そのワインの濃厚な香りがチョコレートでそのまま閉じ込められているわけです。ワインそのものが閉じ込められている、とも言えるけれど、そこに干しブドウの甘みも加わって、どうとも表現しがたい美味しさ(#^.^#)
よく似たようなお菓子はあるかもしれないけれど、まさに似て非なるもの。
このお菓子を買うためだけに、もう一回あの村に行ってもいいと思えるくらいのものでした。
試食してあまりの感動に、母と私は店にあるこのお菓子、買い占めました^^;

で、結局何の話だったか……サン・シル・ラポピーの『ボルドーワインにどっぷり浸かった干しブドウチョコレートコーティング』
店の名前も忘れちゃったけど(フランサテムさんに尋ねてくださいませ(^^))、この村を訪ねたら、忘れずに大人買いしちゃってください。

スポンサーサイト



Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 2   

☂[16] 第2章 同居人の入院(3)(改)(BGM) 

「よぉ、やっと来たか」
 まるで軽い挨拶のように同居人、大和竹流は言った。
 だが、その言葉の調子とは不釣合いにも、頭も、肩から肘までも包帯で覆われている。顔色はお世辞にもいいとは言いがたかった。
 相変わらず同性から見ても一瞬言葉を飲み込むほどの綺麗な顔立ちをしている同居人は、こうして傷ついて、多少いつもより顔が腫れぼったい状態でも、いやむしろそれだけに余計に、凄絶な色気を増して見えた。

 だが、真は思わずその姿に息を呑んだ。
 同居人の声はいつもの軽口を叩いている時と変わらない響きだったにも関わらず、あの屈強でいかにも逞しげな体つきからは何かが失われて見えたからだった。

 真のその顔をどう解釈したのか、竹流は更に例の軽口を続けた。
「川を渡るとお花畑があって、門のところにお袋が立っていて、お前はまだ来ちゃいけないと言うんで帰ってきたんだ」
 この馬鹿、張り倒してやろうか、という気持ちが顔に出たのかもしれない。
 竹流は真の顔を見て少し笑った。少なくとも何とか笑おうとした顔だった。

「でも俺の母親はまだ生きているみたいだけどな。……なんて顔してる?」
 添島刑事が真の隣で大袈裟に溜息をついた。
「死に損ないのくせにこの通りよ。減らず口というのか何というのか」
 それには反応せず、竹流はまた真の方へ話しかけた。
「再会の抱擁とキスくらいしてくれるのかと思ったのに」
「強がるのは辞めなさい。まだ熱があるでしょ。大体昨日集中治療室から出たところよ。個室に出たからってもう退院できる気でいるのね」

「お願いだから」竹流はやっと添島刑事の方を見た。「二人きりにしてくれよ」
「はいはい、キスでも抱擁でも十分して頂戴」
 添島刑事は少しばかり力を込めた声で真によろしくね、と言い残すと、そのまま一瞬肩を落としたような仕草を見せて病室を出て行った。
 真は彼女の後姿を見送りドアが閉まるのも見届けてから、竹流のほうを向き直った。

 さっきまで軽口を叩いていた同居人は、まともに真の顔を見つめていた。
 真も黙ったまましばらく竹流の顔を見つめ、それから徐に視線を逸らした。
 身体のうちに湧き出していた感情は、一切言葉になどならなかった。
 形のいい綺麗な唇の端は切れて腫れ上がっていた。その唇は何かを堪えているようで、真はそれをどう聞き出していいのかわからなかった。

「お前の飯の心配をしていたんだ。ちゃんと食ってたのか」
 そんなことは今どうでもいいだろうと、真は思った。だが、真のほうも、何から言葉を始めればいいのか分からなかった。
「日本にいたのか」
 真はようやくベッド脇の椅子に座った。
 言葉のない間合いを埋めるように、パイプ椅子の番いが軋む。
 竹流は低めにリクライニングを上げたベッドに、完全に身体を預けている。そんな姿ひとつとっても、この男には不釣合いだった。
「そうだ。よその国へ行くなんて言ってたか」

 血豆のように腫れ上がった部分を別にすると、唇にも血の色は薄かった。
 父方の血のせいか、西洋人にしてはそれほど白い肌色ではなかったが、今日ばかりは色素が抜け出したようにシーツの中に沈み込んでいる。寝巻きの襟からも、身体に巻かれている包帯が覗いていた。
 こんな顔色で無駄口を叩いては話をはぐらかしているのだろう。だから添島刑事は呆れ果てたような感じだったのだ。
 何よりも、熱だとか集中治療室だとか、この男には不釣合いなことばかりだ。真は殴りたいような気分と顔を見た安心とが一緒になった複雑な感情を飲み込んで、今度は、ただその顔を見ているしかない自分に腹がたってきた。

「びっくりしたろう」
 そう言われて真は思わず顔をしかめた。びっくりする、などという簡単な言葉で括っていいのかと思った。
「俺も、死ぬかもしれないと思って自分で驚いたよ。今まで一度だってそんなことを思ったことはないのにな。三日間ばかり意識がなかったそうだ」
 長く言葉を続けると最後のほうには声が擦れてくるのを聞くと、真は思わずそれを遮った。
「もう口をきくな」
 だが、それを無視して竹流は言葉を継ぐ。

「お前の事を考えていたら心電図のモニターの音がうるさくなってきて、半分の意識で会いたい会いたいと思っていたら、だんだんこっちの世界が近くなってきた」
 この男は思ってもみないことをこうやっていけしゃあしゃあと言って、これまでにどれほどの女を泣かせてきたのだろう。
 その複雑な感情を見透かすように、ふと竹流は真のほうに手を伸ばしてくる。
 右手も包帯に巻かれていた。

「手くらい握ってくれたらどうだ」

 何をこの、と思う意識の壁を突き抜けるように、真は何かに押されるように右手を差し出した。
 真が握った竹流の右手は、熱く湿ったように重かった。しかし、真の手を彼が握り返してくる気配はなかった。
 その手には、竹流の力ではどうすることもできないほどの重力が圧し掛かっているように思えた。

「手が、砕けるかと思った。とりあえず上げ下げはできるんだが、まだ感覚がない」
 真の手から竹流の手が滑り落ちるように抜けた。真は思わずそれを追いかけて握り締めた。

 竹流が何を言っているのか、半分わからなかった。
 だが、彼の右手の、意識のある人間の手とは違う異様な重みに、自分の魂のどこかを削り取られるような嫌な感触を覚えた。

 竹流は思わず弱音を吐いてしまったことに気が付いたように、急に話題を振り戻した。
「ちゃんと飯、食ってたか?」
 その右手を所有しているのは別の生き物のように、淡々といつものハイバリトンの良い声で竹流はまた同じことを尋ねた。真のほうも、その彼の右手を握っている自分の右手とは別の人格のように返事をした。
「あぁ。いいから、もう黙ってろ」

 しかし今、真の意識は、その意思を失っているような彼の右手の上に残っていた。
 真の手の中で竹流の右手は悲鳴のような拍動を続けながら、びくともせず、全くただの重い付属物のように彼の腕にくっついている。真の支えがなければ、その手は重力に逆らうことができなくなってしまうようだった。
 何かを話していないと闇に落ち込んでしまうかのように、竹流は息を苦しげに継ぎ、まだ何かを話そうとした。しかし、話の内容には核心から逃れようとするような奇妙な色合いがあって、添島刑事が言った意味も理解できた。

 しばらくして、ドアがノックされ、若い看護師が入ってきた。
 真は意識なく握ったままだった竹流の手を思わず離した。それに気が付いたのかどうか、真と視線が合うと看護師は微笑むように会釈した。
「ご家族の方ですか」
「いえ、あの」
 真が言いよどんだのを、竹流が先を続けた。
「同居人です。家族というより、ある意味ではもっと親密な」

 ちょっと同情したのが馬鹿らしくなるほどの減らず口だと真は思った。
 看護師は、あなたが噂の、というような明らかに興味本位の視線を真に向けた。あの雑誌の読者の一人なのだろう。
 だが、同居人がこんなふうに空元気を示すのは、どう考えてもあまりいい状況とはいい難い。真が黙ったまま竹流を見つめていると、竹流はその視線に気が付いているのかどうか、わざとらしくない程度の曖昧さで視線を避けている。
 竹流は渡された体温計を腋窩に挟んで、黙っていた。
 看護師はその間に脈を数えたり、患者の襟元を開けて聴診したりしていた。はだけた胸の筋肉は、僅かの期間に随分と落ちたように見えた。左の肩は包帯で覆われ、右胸には何かに強く圧迫されたような痣が残っている。
 体温計が音を立てたので、竹流はそれを左手で取り、表示をちらっと見て看護師に渡した。

「なかなか下がりませんね。解熱剤、持ってきましょうか」
「いえ、大丈夫です」
 看護師に答える声には、落ち着きと品がある。それはいつもと変わらなかった。
「じゃあ、氷枕、取り替えますね」
 看護婦は無駄のない動作で竹流の頭の下の氷枕を取り、それを持って一旦病室を出て行った。

 あの雑誌の件でも文句のひとつも言いたかったはずなのに、その傷ついた身体を見て、下がらない熱と聞かされては、彼の痩せ我慢に追い討ちをかける気にはなれなかった。
 真は話しかける次の言葉も出てこないまま座っていた。
 だが、そう間をおかずに、竹流はあっさりと冷めた声で言った。
「もう、仕事に戻れ。夕方、また寄ってくれ」

 さすがに傍にいてくれとは言ってくれないな、と思った。
 そう思った自分にまた驚いて、真はただ頷いて立ち上がり、それから布団を掛けなおしてやった。
「そうするよ」
 精一杯でそれだけ言って、真は戻ってきた看護師と入れ替わりに部屋を出た。





以下、コラム(BGMについて)、畳んでいます。
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第1節

tb 0 : cm 0