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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【3月のSSもどき:桜・卒業・約束】4年後の桜 

注:一応18禁(BL)。例のごとくあまりエロくないシーンですが…

彩色みおさんのSSお題にまたまた懲りずに突撃→玉砕してしまいました(;_:)
うーん、短くならない……
でも、前回よりは短い?
前回はほとんど10000字近かったのですが、今回は6800。3000字も減っている!
書けば書くほど、推敲すれば推敲するほど長くなる私にとって、SSは未知かつ修羅の世界。
でも、とってもストーリー組み立ての鍛錬になるので、懲りずに頑張ってみようと思います。

ちなみにそのながーい2月のSSはこちら→Time to Say Goodbye
あまりの長さと、湧き出す続編のために、独立カテゴリになってしまったという。竜樹さんの素敵なイラスト、遠慮なくいただいてきまして、貼らせていただいております(*^_^*)
竜樹さんありがとうございます

次回は2000字減らして5000以下にして、その次は1000字減らして4000以下にして…いつかは2000字になるように鍛錬を積み重ねたいと思います。
でも、ちょっと情けない……
もう、あれこれ気になって、本当に、あれこれ書いてしまう……悪い癖です。
ということで、またまたSSじゃないのですが、一応頑張ったので、アップしちゃいます。
本当は、もっと長かった。でもバッサリ切って、やっとこの長さ。

さらにいささか頭が迷っていまして。
桜かぁ、卒業式より入学式のイメージ?
でも、確かに今年の開花予想は3月末だ……うーん、でも頭の中で桜が咲かない…どうしよう。
で、苦肉の策の桜ならぬ…です。

しかも、すっかりスポ根もの書きになりつつある。
それでは、仕方ないから長いSSもどきにつきやってやろうという奇特な方は、お付き合いただけますと有難いです。



【4年後の桜】

 武藤はいつも真正面から来た。しかもやたらと強かった。
 背も正木より10センチは高いし、体格も腕もひと回り大きい。
 正木とて全国大会に出場する選手の中で決して背が低い方ではないし、踏み込みで打つ面を得意技としていた。だが、それが武藤には通じなかった。
 鍔迫り合いになった時、審判が止めの合図を寄越すまでのしばらくの時間に、面金の向こうから武藤の目が正木を捕まえる。お互いの視線が面の縦金の僅かな隙間で絡まり合う。相手の体温と汗の臭い、呼吸が自分のものと区別がつかない。そのわずかの時間が、自分にとって最高の時間だったことに気が付いたのは、武藤が咲き散るアーモンドの花の下、正木に背中を向けた時だった。
 今考えてもなぜあんなことになったのか、どんな熱情が二人を捕まえてしまったのか、細かなところは思い出せない。
 武藤は東京の有名私立大学の理工学部、正木は関西の国立大の法学部だった。だが、お互いのことは小学生のころから知っていた。学校が同じになったこともなければ、近くに住んだこともない。それでも1年に何度か、練習試合や全国大会で顔を合わせた。言葉を交わしたこともなかったのに、お互いのことは誰よりも知っている、そんな気がしていた。

「K大の武藤がな、卒業試合やらんかって言って来よったんや」
 剣道部の同級生が声をかけてきたのは、大学の卒業式のリハーサルの最中だった。
「お前、知り合いだったのか?」
 正木は驚いた。武藤は無口な男で、愛想も悪い。優勝しても笑っている顔を見たことがない。もっとも、きりっと吊り上った眉と切れ長の目を細めるようにして、いつも相手を威嚇するように睨み付けているようなあの顔で親しく語りかけられても、楽しく会話ができるような気がしない。
「直接は知らんけど、あっちの剣道部に俺の高校時代の後輩がおるからな」
 へぇ、とだけ答えた。
「武藤の奴、こないだの学生大会でお前に優勝を掻っ攫われたのが悔しいんやろ」
 二人の力は五分五分だった。だから勝つことも負けることもある。次の試合でリベンジすればいいだけのことだ。
「ええでって言っといた。明日、来よるわ。予定、空けとけや」
 K大の卒業式は昨日終わっていた。武藤は神戸に住む親戚に卒業の挨拶をするために関西に来る予定で、そのついでに正木たちの大学に寄るのだと聞いた。
 そして、正木の大学の卒業式の前日、武藤は剣道部の仲間数人と一緒に、本当にやってきた。武藤は防具袋を肩にかけたまま、他の誰にも目も向けることなく、まっすぐに正木のところに大股に歩いてきた。剣道着以外の格好で会うことなどなかったからか、10センチほどの背丈の差がやたらと大きく思えた。
「よぉ」
「あぁ」
 挨拶はそれだけだった。

 大学の道場に案内し、親しく語り合う言葉も少ないまま、先鋒・中堅・大将と3対3の団体戦を始めた。正木と武藤はもちろん、いつものように大将同士だった。1:1で迎えた試合が始まるころには、当大学の有名人、正木貴博と互角に渡り合う関東の猛者を一目見ようと、噂を聞きつけた剣道部以外の学生たちも道場に集まっていた。
 周囲のざわめきの中、武藤は全く何にも動じることもなく、というよりも周囲には正木以外の誰もいないかのように、正木だけを見ている。正木もただ武藤を見つめ返していた。普段の武藤は、もっと闘志をむき出しにして威嚇するような、そして闘う前から獲物は完全に仕留めたとでもいうような自信に満ちた目で正木を見ていた。
 だが、今は恐ろしく静かな目をしている。
 手ぬぐいを頭に巻くとき、ほんのわずか相手の顔が見えなくなる時間を除いて、視線が外れることはなかった。厚い胴着の下で肌が汗ばみ、体温が上がっているのが分かる。これからの試合の行く末に奇妙に緊張していた。だが、面をつけ、竹刀を握って立ち上がった瞬間、裸足の足の裏に道場の板の軋みを捉えて身体が重く沈み、一方で心が浮き立つように跳ね上がるのを感じた。

 合図で四分が始まる。
 中段で構え、竹刀の先をわずかに触れ合わせたまま、通常の試合なら、審判からの注意があってもおかしくないほどの長い時間、二人は全く動かなかった。観客も息をするのも忘れているかのように静かだった。いや、もしもどれほど賑やかだったとしても、正木の耳には何も聞こえなかっただろう。周りからは止まっているように見えるであろう竹刀の先は、二人だけにしか分からない、厳しい練習と実践で培われた自信や勇気、強い相手に向かうときの緊張や恐怖、時に降ってくる啓示のような静けさ、剣道に人生と青春をかけてきた熱情、そういった諸々で微かに震え、まだ幼いころから互いに闘ってきた試合のひとつひとつの記憶をこの刹那に流し込んで、全て呑み込んで小さな火花を散らせていた。
 多分、たっぷり三分は過ぎていたはずだ。
 いきなり武藤が真正面から面を打ち込んできた。
 正木は待っていた。竹刀で払い、身体を右に捌いて、前に踏み込んでくる武藤の右胴を狙った。もちろん、武藤はそんなことはお見通しだ。素早く身体を移動させ、正木の竹刀を捌く。
 その瞬間から激しい打ち合いになった。道場に二人の打ち合う竹刀の音だけが高く響いた。一瞬の隙もお互いに与えなかった。武藤の気合いの声が道場の壁にぶち当たる。正木も答えた。汗が目の前で飛び散る。
 武藤が近づく。小さな鍔迫り合い。あの目が正木を捉える。正木の目も武藤を捉えた。

 その試合の勝敗はつかなかった。心の行方も決め所がなかった。
 どういう経緯で武藤の親戚が経営しているという三宮の店に辿り着いたのか、よく覚えていない。卒業試合と勝手に名づけられた対戦のあと、両校のメンバー同士は打ち解けたようで、無言のまま飲んでいる武藤と、周囲に一応は相槌を打っているものの静かな正木を除いて、完全に酔っぱらって大騒ぎになっていた。
 正木は手洗いに立った。
 個室だからいいようなものの、あの騒ぎはこの店にはそぐわないようだ。
 ほとんど満席の店内のオープンフロアの席を占めているのは、一癖も二癖もありそうな顔つきの男たちで、優雅に煙草あるいは葉巻を燻らせて、男同士で額を突き合わせるようにして秘密めいた会話を交わし、あるいはウィスキーグラスを傾けながら女性の露わな肩を抱き寄せている。
 一体、武藤の親戚ってどういう人物なんだ。
 いや、そんなことより、明日は卒業式だ。どの辺りで切り上げたらいいものかと考えながら、用を足して手洗いを出たところで、正木は驚いて足を止めた。

 武藤が壁に凭れて立っていた。視線が絡み合った瞬間には、正木の背中を何かが撫でていった。冷たくも熱くもある何かが、肌の上を這っているような不思議な感覚。皮膚の下が泡立つような気配。
「付き合え」
 武藤の低い声が正木の耳から体の中に這い込み、五感の全てを鋭くし、身体の内側からすべての肌を震えさせた。上着や荷物がどうとか、聞く暇もなかった。武藤は先に歩き始め、正木は一瞬ためらったものの、結局武藤について行った。
 北野坂を上がった小さな古いビルに武藤は入っていく。背中は問いかけを完全に受け付けていない。もっとも正木も聞く気はなかった。味気のないコンクリートの狭い階段を四階まで上がり、スラックスのポケットから取り出した鍵で緑の扉を開ける。
 玄関に入り、背中で扉が閉まった瞬間、武藤の大きな手が正木の顎を捕まえた。いきなり唇が塞がれる。そしてそのまま何の躊躇いもなく、僅かな時間をも惜しむように、舌が唇の間から滑り込んできた。
 予想外だったわけではなかった。試合の最中からこのことは始まっていたと思えた。いや、昨日、武藤が来ると聞かされた時から、こうなることは分かっていたような気がした。もっとも、もしもいきなり殴られても予想外ではなかった、と思ったかもしれない。妙なことに、何をされても構わない心境だった。
 窓には赤いカーテンが引かれていた。低いベッドの上の白いシーツも赤く染まっていた。そして正木の肌も赤く染められた。

 言葉一つもないまま、求められた喜悦に身体を開いた。
 自分でもどういう感情だったのかよく分からなかった。面金の向こうの武藤の目に捉えられた瞬間の快感、気合いの叫びに飛び散る汗や唾液の絡まり合う興奮、軽く触れる、あるいは強く痺れるほどに打ち合う竹刀の先から伝わる武藤の手の感触。厚い胴着の下の肌はいつも武藤の体温を感じていた。それがそのまま、今直接正木の肌に触れている。武藤の汗ばんだ掌が正木の肌を滑り降り、正木の最も敏感な部分に触れ、やがて更に熱い粘膜が正木を包み込む。武藤は、試合の最中と同じように容赦はなかった。激しく吸い、抑え込み、躊躇うことなく強く正木の身体を貫いた。
 正木の方にも疑問や躊躇いはなかった。それでも、さすがにこれまで経験のない痛みにはずり上がった。その瞬間だけ、正木は武藤の名前を叫んだ。止めてほしかったのか、少し時間か情けが欲しかったのか、あるいは武藤を求めてのことだったのか、自分でもよく分からない。
 武藤の押し殺すような喘ぎが身体の上から落ちてくる。武藤の腰が正木の身体を打ち据え、奥まで容赦なく突き進む。身体としての快楽はなかったのに、正木ははっきりと自分が武藤を求めていることを自覚した。腹の奥の方が、武藤の男を求めて締め付け、唸るように震えた。心というものが身体の内にあるのなら、それがそのまま武藤を銜え込み、ただ欲しくて欲しくてたまらなくて哭いた。
 自分の身体の上で跳ねるような武藤の動きを受けとめながら、ふと目を開けると、カーテンの色が青く変わっている。ネオンの色だったのかと、改めて気が付いた。武藤が唇の端を吊り上げるように笑ったような気がした。武藤の汗が正木の首筋に落ちてくる。正木は目を閉じ、武藤の首に腕を回し、引き寄せた。

 そのまま少しの間意識を失っていたようだった。正木の意識を振り戻したのは、武藤がライターを打った音だった。
 武藤は素っ裸のままベッド脇のソファに座り、テーブルの上に置かれた大きなクリスタルの灰皿の上で、何かの紙を燃やそうとしている瞬間だった。
 その紙に書かれた文字を見て、正木は飛び起きた。
「気でも違ったのか」
「もういらねぇからな」
 正木は武藤の手からその厚い紙を奪い取った。
 卒業証書。
 武藤は仕方がないというようにテーブルの上の煙草を取って、一本咥え、火をつけてひとつ吹かした。そして顎で自分の隣を示す。同じく素っ裸のまま正木は武藤の隣に座った。吸いつけた煙草を譲られて、正木は素直に受け取り、焼き捨てられることを免れた卒業証書をテーブルに置いて、武藤の身体を満たしたはずの煙を深く吸い込む。
 理由を聞くべきだった。だが、正木は武藤のことを何も知らない。ただ面金の向こうの目を知っているだけだ。熱く絡み付くあの視線と、そして試合の最中いつも感じていた体温が現実の肌の熱さだったということだけしか、知らない。
 武藤の滑らかな肌の上で、ネオンが赤と青のまだら模様を織っていた。

「警察官になるそうだな」
 聞かれて、正木は短く、あぁとだけ答えた。
「似合いそうだ。剣道のためか」
「いや。死んだ親父が警察官だった」
 ふん、と武藤が鼻の奥で音を鳴らした。
 正木が卒業証書を燃やそうとした訳を聞こうとした瞬間、まるでそれを遮るように、武藤がさっき正木を抱いた逞しい体をソファに預け、呟いた。
「桜が見てぇな」
 桜という言葉の前に、もう一つ、武藤の唇の奥で音が鳴った気がしたが、聞き取れなかった。さ……
「桜?」正木は煙草をもう一つ吹かした。「残念だが、桜には早い。沖縄か高知にでも行きゃ別だが」
 そうだな、と武藤が小さく呟き、頭の後ろに組んだ手を回して目を閉じる。いかついが、端正な顔をしている。微かに笑っているような唇の形のまま、閉じた睫毛が微かに震え、濡れているように見えた。
 ネオンの光のせいだったのかもしれない。
 だが、ただそれだけのことで、正木は唐突に湧き出した愛しさ、あるいは懐かしさのようなものを、どこへ持っていけばいいのかわからなくなった。
「見せてやろうか」
「まさか高知に行くのか」
「神戸市内」

 不思議そうな顔の武藤を連れて、真夜中のタクシーを拾い、深江まで走らせた。武藤は黙って外を見ている。三宮の街を離れ、幹線道路を外れると辺りは真っ暗で、海辺に近付くころには冷え込んだ外気がタクシーの中まで入り込んでくるようだった。武藤と正木は、後部座席で無言のまま、互いに反対の窓から外を見ていた。
 やがてタクシーが停まり、こんなところで降りてどうするのだという顔の運転手に金を払い、先に降りた武藤がタクシーの扉に手をかけたまま暫く動かないでいるのを感じて、正木は武藤の腰をつついた。
 タクシーが走り去った後、町はずれのまるで人気のない暗がりの中、二人は低い柵の向こうに白く淡く浮き上がる花の、幻のような色を見つめていた。
 風が強く吹き付けた。舞い散る花びらが、彼らのところまで届いた。武藤が掌に一枚を受ける。その花弁はしばらく武藤の掌の上に収まっていたが、すぐに風に流された。
「アーモンドの花だ。お袋が好きな花だった」
 正木はそう言いながら、ひょいと柵を乗り越えた。武藤もついてくる。
 しばらくの間、二人は桜よりも幾分か低いアーモンドの木々の下を、黙ったまま歩いた。二人の間にひらひらと花弁が落ち、あるいは風に舞いあがる。見上げると暗い空の下で、遠くの道路や橋の明かり、あるいは天からの何かの光を吸い込んで、木々に宿る灯りのように白い花の塊が揺れている。
「まるで桜だ」
 武藤が低い声で言い、一番大きなアーモンドの木の下でいきなり正木を引き寄せ、頭を肩に抱きよせた。
 首筋に、武藤のにおい、いつも面金の向こうから伝わってくる温度が漂い、正木はそれを吸い込んだ。冷え込んだ海辺の風の吹く中で、正木の身体には熱がこもった。
 武藤、と呼びかけた正木の唇を塞ぐように、武藤の唇が触れ、そのまま舌が縺れた。この武藤の舌の味は、もうずっと前から知っていたような気がした。
 舌がさらに奥へ入り込んでくると、正木の腰は震えた。それを知っているかのように、武藤の手が正木の尻を強く自分の方へ引き寄せ、二人は身体を密着させて舌を求め合った。
 正木の頬に何か冷たいものが触れていった。
 最後に桜が見たい、確かにあの時、武藤はそう言った。

 そして武藤は、正木を柵の内に残し、先に柵を越えた。
 正木が続いて柵を越えようとしたとき、武藤の手が正木を止めた。
「ここで別れようぜ」
「何を言っている?」
「お前がその柵を越えたら、俺はお前を連れ去りたくなる」
 正木は武藤の目を黙って見つめ返していた。闇の中で、武藤の目は光を吸い込んで揺れて見えた。
「いい思い出ができた。いや、クサい言い方をすりゃ、これまでもずっとお前は俺の青春の全てだった。今日、それを確かめることができた。無理やりで悪かったな」
 一度言葉を切って、武藤は目を逸らさないまま、続けた。
「ありがとうな」
 そしてそのまま正木に背を向け、歩き去ろうとする。
「待て、俺の言うことも聞けよ」
 愛の告白などする柄でもない。そもそも愛かどうかも分からない。だが何もかもこれからじゃないのか。せめて俺の気持ちくらい確かめろよ。
 訳が分からず正木は柵を越えて追いかけようとした。
「正木」
 背を向けたまま武藤が呼びかける。
「今はまだその柵を越えるな。追いかけてくる気があるなら、せめて四年後にしてくれ」
 正木は足を止めた。
「四年後?」
 武藤は背を向けたまま空を見上げる。
「もしよかったら、俺の卒業証書、預かっといてくれ。今度は本物の満開の桜の下で、お前の言葉を聞く。お前が、これからお前の属する世界に疑問を感じて捨てる気になっていたら、あるいは、もしかして気が変わっていなかったらな」
「気が変わる?」
 武藤が振り返った。その時、正木は初めて武藤の笑顔を見た。愛想のない厳つい顔に、意外にも笑顔は似合っていた。それに、こいつはこんなに言葉を話すのかと驚いてもいた。
「お前、俺に惚れてるだろ?」
 そう言った武藤の手から放り投げられた何かが、暗い空の中で光を放ち、正木の手元に収まった。
 あの部屋の鍵だ。
 そしてまだあっけにとられたままの正木を残して、武藤は笑い捨てるようにして背中をわずかに丸め、軽く手を挙げてそのまま歩き去った。
 惚れてるぞ。しかも小学生の時からだ。どうだ、びっくりしたか。一言も話したことがなかったのに、面金から覗くお前の目にぞっこんだったんだ。ちくしょう、振り返りやがれってんだ。四年後ってなんなんだ。答えろよ。俺のケツの童貞を奪っておいて、勝手に話を決めるなよ。
 心の中で正木は小さくなる武藤の背中に向かって叫んでいた。なのに、混乱し切羽詰った心は、声にならない。武藤の背中が、今は聞くなと告げていたからだ。
 正木は自分の手元に視線を落とした。
 見つめる掌の銀の鍵の上に白い光が揺れていた。その鍵の上に淡いピンクの花びらが落ちてくる。見上げると、白み始めた空から降り注ぐ恵みの雨のように、アーモンドの花弁が正木の視界いっぱいに降り注いだ。

 四年後……その時のその花は、今見上げている花よりも艶やかだろうか。
 正木は掌の鍵を、逃がさないように、淡いピンクの花ごと握りしめた。

                                了

アーモンド2
アーモンド1
アーモンド3



えーっと、一応、Happy End?のはず。
気持ちが伝わったので。
実はこれ、4年後も書いていたのです。それでまた10000字になりそうだったので、途中でバッサリしました。
というよりも、アーモンドのシーンはもともと4年後のシーンだった。危ない危ない。
無駄に長くなるところでした。

お察しの通り、武藤さんのご親戚は兵庫県神戸市の新神戸駅近くにある、さるお屋敷の筋の方……なのでしょう。
そして、なぜ4年後?
これは、もしかして続きを書く日が来れば、その時ということで。
反響があれば?書く気になるかもしれませぬ…^^;
いえいえ、決して、「読みたい」の一言を強要しているわけではないのです^^;^^;
そもそも前後篇にしてもいいようなお話だったので……
あとは、私のモチベーションをどなたか上げてくだされば…^^;^^;^^;^^;^^;

そうですね。単発なのに、伏線を張る癖が抜けないから、長くなるんですね。
反省を次回の肥やしにします(__)

さて、このラストのシーンの舞台は、神戸市東灘区の東洋ナッツの会社の敷地。
毎年3月末に、アーモンドフェスティバルが開催されています。
写真はその時に撮ったものです(^^)
比較のために、下は青森県弘前城の桜。毎年GWに津軽☆三味線大会に行くのですが、年によっては満開の桜にあたるのです。
でもやっぱり桜のほうがゴージャスなんですね…
4年後、正木と武藤が満開の桜の下で……(#^.^#)

桜1



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Category: その他の掌編

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