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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[19] 第2章 同居人の入院(6)(改)/ タイトルの出所 

 新宿二丁目の表通りを一本入り、路地を進むと、幅一メートル程の道の両脇に堅く閉ざされた扉が並ぶ。どこか秘密めいた匂いをさせていて、この界隈でも特殊な雰囲気を作っている。これをずっと奥の突き当りまで歩くと、やはり曖昧な明りを灯した看板を出している店があって、赤に白抜きで『葵』と染め抜かれてあった。
 空気は重たく湿度を増していて、看板の文字の輪郭もぼんやりと定まらない。真はしばらくの間、葵の文字を見つめていたが、やがて意を決した。

 重い木の扉を開けると、さっと薄暗い店内の複数の人間の目が真に集まった。それは一瞬で敵か味方かを見分ける目であって、決して客を迎え入れる目ではなかったが、よほど敏感でもない限りそんなことには気が付かないはずだった。
 店内には、それぞれが個室感覚のあるボックス席があって、あとは僅かなオープン席とカウンターだった。お互いの視線ができるだけ合わないような造りにも関わらず、その気配を感じるなどとは、真のほうが気が立っているからに違いなかった。
「いらっしゃいませ」
 真正面のカウンターの奥の『ママ』と目が合った。

 こざっぱりとした白いシャツにきっちりとネクタイを締めているのは、そのタイを外してみたいという欲望を男に抱かせるためだと聞いている。もちろん、この『ママ』は変化自在だ。相手に合わせてどんな姿にもなってくれる。細身の体を衣服で隠していても、滲み出る色気は消せない。女顔でもないし、化粧をしているわけでもないのに、唇は紅を引いたように艶めかしい。軽くウェーヴした髪は、額と耳に零れている。そして、意志のはっきりとした強い目。その目が、真を睨みながら、唇だけが客を迎えて微笑む。
 むっつりとした顔の黒服のバーテンがさっと真の上着を取ってくれようとするのを断って、真はママのところまでゆっくりと歩いた。

「殺気があるじゃない」
 以前会ったときに、お前は俺の恋敵だな、と言われた。当たらずとも遠からず、といったところだ。
「話がある」
『ママ』は怪訝な目でただ真を見た。
「竹流のことで」
 ようやく『ママ』の手が座るように促す。真はちょっと店内の気配に目を遣ったが、座らなかった。
「込み入った話か?」
「二人だけで話したい」
『ママ』は暫く真の顔を見つめていた。それから背後にある棚のキィボックスからひとつ鍵を取ると、真に手渡した。その手はお世辞にも細くてしなやかな柔らかな手とは言いがたい。せいぜい性別を思えば華奢という程度だった。
「二階、先に行ってろ」

 このバーの二階には個室が六つある。人に聞かれたくない密談の場として使われることが多いようだが、勿論、人に知られたくない性癖を持った大物が『そういう』目的でここを利用しているとも聞く。
 この店に雇われているのは、どの性別の格好をしていても男性で、それなりのものを出せば相手をしてくれるようだった。ちらりと聞いた噂では、そのサービスは決して他では望めないほどのもので、一度味わったら深みに嵌っていかざるを得ないという。要求される金額は口止め料も含んでいるのかと思うほどで、普通の稼ぎではとても手が出ない。それでも、それに見合うだけのサービスが受けられるというのだから、客足が途切れるはずもなかった。

 真は店の奥の階段に目を遣り、何かを訴えるようにもう一度『ママ』を見てから奥へ行った。
 真が階段を上り際に振り返ると、バーテンがすっと目を逸らしたのを感じた。バーテンは『ママ』を見つめ、何らかの、少なくとも現実になれば真にとっては有難くない指示を仰いだようだが、『ママ』は首を横に振ったように見えた。
 真は薄暗い階段を上がって、暗く赤い光にぼんやりと照らされた廊下を進んだ。手元の鍵を見て右の三番目の扉の前に立ち、鍵を開ける。中に入ると本当に狭い通路の脇に、半畳ばかりのガラス張りのシャワールームとトイレのドアが、その奥にコンパクトにベッドと小さなテーブルと二つの椅子が納まっている。それでいっぱいの空間だった。廊下と同じ赤い薄暗い光がぼんやりと満ちている。窓はなく、完全に防音されているようだった。
『ママ』を待つ間に上着の内ポケットから煙草を出した。落ち着かない気分で、このところ煙草が増えている。それを一番身近に見ているのは秘書の美和で、真の気配を敏感に察しているだろうと思われた。

 一本吸い終わる頃にドアをノックされる。
「何の用だ。まさかわざわざ恋敵に改めて勝負を挑みに来たわけじゃあるまいな。それとも、あの雑誌を読んだ女の誰かに襲われたか」
 店での言葉遣いは幾らか中性的なのに、私生活では完全に男言葉を話している『ママ』は、入ってくるなり苛立ったようにそう言った。店での源氏名は葵と言ったが、私生活では葛城昇という立派な名前を持っている。
「竹流が何の仕事をしに行ったのか、教えてくれ」
 真はいきなり切り出した。
「仕事?」
「何処かに何かをかっぱらいに行ってたんじゃないのか」
「何の話だ」
 真が何時になく迫力のある気配を示したからか、葛城昇は胡散臭そうなものを見る目で真を見た。
「冗談ではなくあんたたちが泥棒集団なのは知っている。何処かに仕事に行ってたんじゃないのか」
 昇は真の座っているベッドの近くの椅子に座った。
「おい、もうちょっと丁寧な言葉で話せないのか。何を焦ってる?」

 真は暫く昇の顔を見つめていた。確かに、喧嘩を売る相手は彼ではなかった。それに、よく考えたら年上だし、幾ばくかの恩義もある相手だった。だが、今は構っていられなかった。
「竹流が仕事のときは、あんたたちは皆彼に付き合ってるんじゃないのか」
「まさか。全員で出掛けていくようなことはない。内容にもよるが、ほとんど数人だ。以前はあいつ、一人で出掛けていくこともあったが、俺たちがそれは辞めてくれるように言った。今は少なくとも二人では出て行っていると思うが」
「じゃあ、彼が誰と行ったのかも知らないのか。あんたたちの大事なボスだろう?」
「彼がどうかしたのか」
 そう聞かれて、初めて彼らが何も知らないことがはっきりした。真は別に隠す必要もないことだとは思っていたが、むしろ逆に彼らが知らないという事実に戸惑いを覚えた。
「何かあったんだな。一方的に聞いてないで訳を話せ」
 真が一瞬黙ってしまったので、昇が質問する側に廻った。

「今、病院だ」
「病院?」
「酷い暴行を受けたようで、一歩間違えたらあの世行きだったという話だ」
「どういうことだ」
 いきなり昇が真の胸ぐらを摑んだ。中世的なムードを纏っているが、その力は明らかに男のもので、か弱いどころか、鍛えられた筋肉の動きは艶やかに強い。
「こっちが聞きたい」
 すかさず真は答えた。昇は暫く真の目を見つめていたが、それから漸く真を離した。
「俺は何も聞いていない。高瀬の爺さんには聞いたのか」
 高瀬というのは大和邸の執事だった。真がその男と面識があることは昇も知っている。
「あの人が何か知っているのか」
「知っているかどうかは知らん。だが、あの人は竹流のことなら何でも知っている。国の大親分とも連絡を取り合っているくらいだからな」
「国の大親分?」
「ヴォルテラの大親分だ」
 真はしばらく昇の顔を見つめたままだった。唐突に出て来た大きな名前に、真が怯んだ気配を感じたのか、昇が鼻先で笑ったように見えた。
「その人が関係していることか」
「知るか。第一、大親分は俺たちの存在を疎ましく思ってる。大事な跡取り息子が、悪いお友達とつるんで家に帰って来ないとでも思っているんだろう。高瀬の爺さんが何を考えてるのかも俺たちは知らん。もっとも、あの爺さんは竹流が云うなと言えば、死んでも口を割らない。大体、彼は? 意識はあるのか? 何故本人に聞かない?」
「あいつが話すと思うか? 聞いても話をはぐらかす。しかも、まだ何か考えてる」
「考えてる?」昇はまだ真を睨みつけたままだった。「まだ手を引いていないということか?」
「分からない」
 真がやっと息をついたのを感じたのか、昇は表情を緩めた。
「酷いのか」
 昇はそれだけしか聞かなかったが、彼が何を聞いたのか真には十分伝わった。
「あぁ」
 真の方も短く答えるのが精一杯だった。とてもあの右手の事は昇に、彼の仲間の誰にも自分の口からは言えそうになかった。

 昇は俯いて何かを考えていたが、随分間を置いて顔を上げた。
「ひとつだけ聞いておく。彼のためなら何でもできるか」
 真は頷いた。昇はにやっと笑った気がした。
「人も殺せるか?」
 しばらく、真は昇の顔を見つめていた。俺は彼のためなら本当に何でもするぞ、という顔だった。堅気のお前にそれだけの決心などないだろう、という言葉を準備している顔だ。
「多分」
 その問い掛けは何かの試験なのかとも思ったが、返事までにかかった時間はともかく、腹のうちでは答えることに躊躇いなどなかった。その気概だけは伝わったのか、昇が、本気か、というような視線を真に向けていた。少なくとも、真がそう答えるほどに、竹流の状況が好ましくないということは伝わっただろうと思った。
「上等だな」
 昇は女のものではない、繊細だが骨っぽい右手を差し出した。真は躊躇わずにその手を握り返した。更に握り返してきた昇の手の力は、真が怯むほどだった。友好的な握手とは言いかねたが、これが儀式ではなく裏切ることは決してできない契約の成立と感じた。
 昇は近いうちに事務所に連絡をすると約束した。
 先に出て行く真の背に、昇が話しかけた。
「どこの病院だ?」
 ふと振り返った真の目に映ったのは、男とも女ともつかないが彼を愛している者の目だった。
「G医大病院」
「そうか」
 真は扉を閉じてそれに凭れ、赤い曖昧な光に満たされた廊下で目を閉じた。
 今の昇のような目をする者があと何人いるのかと思った。少なくともそのうちの一人には今から話しに行かなければならなかった。
 店を出ると、ぱらぱらと雨が降り始めいていた。思わず新宿の空を路地から見上げると、あまりにも近い空から雨が湧き降るように見えた。





さて、新しい登場人物が出てきました。今後もしっかり絡みますのでお見知りおきを。
竹流の仕事仲間、ゲイバーの店長『葛城昇』です。
私の話の中では珍しい、妖艶な男です。
でも、なぜか私が書くと、男っぽくなってしまう。うーん……色気を書く鍛錬が……
【Time to Say Goodbye】の葛城拓とは関係ないのですが、実は、遠い親戚だったりして、とか思って勝手に楽しんでます。時代が全然違うので(多分40歳くらい違う)、どんな関係かしら…(^^)


以下、コラムです。この小説のタイトルの出所について……
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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NEWS 2013/3/10 更新情報 

ネットの海の隅っこで細々と物語を書いていて、時々いろんなブログを覗かせていただいて、それは結構素敵な体験となっています。
上手だなぁと思う書き手さんもいるし、わぁ、素敵だなぁと思う世界を作っておられる書き手さんもいるし、色々考えたり悩んだりされているのがすごく共感できる書き手さんもいるし。
みんなお話が好きなんだと思うと、すごく楽しくなります。
プロを目指している書き手さんの文章は本当に洗練されていて、一味違うし。
ただ好きで書いておられる書き手さんの世界は、自由でまた別の味わいもあるし。
あらゆる場所から物語の力を感じます。

ここは、現実のお仕事とか、趣味(かな?それ以上とも言えるけど)とか、それとは違う自分の想いを満たしてくれる場所だと思うので……ゆっくり、ここで楽しみながら、私も物語を紡いでいこうと思います。
でも、ほんとに、これって地道で孤独な作業でもあるのね。
大いに自己満足ではあるけれど、時々、ちょっとだけ誰かの気配を感じると嬉しいので、もう少し頑張っていようと思います。

それはさておき。

今週の更新情報です。
1週間に1回くらい、NEWSページを作ってみようと思います。

連載中
【海に落ちる雨】 (第4節~18禁/18R)
私のメイン小説:相川真シリーズの第2作目です。ものすごく長い話で、ミステリー要素あり、真の日常のあれこれあり、過去あり、大河ドラマみたいになっていますが、ゆっくり進めていきます。第5節まであり、全章数は始章と終章を除いても38あります。毎日更新のつもりですが、たまにリアル仕事が忙しいと飛びます。
各章の始めに、これまでのあらすじを入れていきますので、途中からでも、気が向かれましたら読んでみてください。
ただ今、第2章です。竹流がけがで入院中。少しばかり深刻な怪我です。
第1章のあらすじは、第2章(1)にあります。
毎回、最後にちょっと雑文、を載せています。

【死者の恋】 (18禁要素なし)
仮題のまま、突き進んでいます。相川真シリーズの中編(といって書き始めて、これまでどれほど長くなってきたか)。舞台は青森県です。推理小説ではありませんが、ミステリー要素と、そして高校生たちの切なくて一生懸命な気持ち、そこに老いた人/亡くなった人の想いが重なる結構素敵な物語(…の予定^^;)
ちょっと気持ちが乗って来たので、週に2回くらい更新できたらいいなぁ。
でも、年度末の怒涛の書類の山が~

短編、時々思い立ったら続編登場
【Time to Say Goodbye】 (BL,18禁あり)
彩色みおさん(BL作家に五里夢中!)が提供してくださるお題SSに勝手にお仲間に入れていただいて書き始めたら、ちょっとシリーズになってしましました。妄想がついつい走ってしまうもので。
高級菓子製造会社の青年社長とボクサーの若者の恋、のような恋でないような…てもやっぱり恋物語。
竜樹さん(萌えろ!不女子)が描いてくださったボクサーの拓(ヒラク)のイラスト付きです。
第3作目『炎の記憶・海の記憶』前篇をupしました。
もうBLというよりも、親子の物語になっていますが……たまにちょっとシーンあり。 
BLというには申し訳ないくらいあっさりですので、ERO度はあまり期待しないでください(;_:)

【3月のSS:桜・卒業・約束『4年目の桜』 (BL,18禁あり)
剣道の試合シーンが書きたかったばっかりに出来上がったSS。乗せられたら、アンサー篇のような続編を書くかも…

SSについて:短編が苦手な私にとっては、みなさんのお書きになるお話がとても刺激になり、勉強になっています。ありがとうございますm(__)m
とにかく、何が何でも起承転結を組み込む、というのが目標です!

気まぐれ連載
【石紀行】

今週は番外編・フランスの最終回・カルカッソンヌを予定しています。
ラスコーとルフィニャックは同時に出したいのですが、ルフィニャック(撮影禁止)のスライドを捜索中。
見つけたらやります。というわけで、来週は石紀行に戻ります。舞台はマルタ。古代の轍にご案内いたします。
大体1週間に1回くらい更新予定です。(多分週末)

【物語を遊ぼう】
物語の色んなことについての雑文。
次はNHKドラマ『ダイヤモンドの恋』を予定。
更年期に苦しむ人は必見のドラマだったんですが…もう一度見たい!
こちらも1週間に1回程度の不定期更新です。

連載終了もの:宣伝^^;
【清明の雪】 (18禁要素なし)
相川真シリーズの第1作目。京都の架空のお寺を舞台にした龍と水の伝説にまつわるお話。
長く京都に住んでいて、ある時『渇水』の話を聞いて出来上がった物語。
テーマは親子愛、かな。真と竹流の心の交流も、お楽しみいただければと思います。
この舞台裏、志明院の紀行文を今月末にup予定です。
毎年春にお参りに行くのですが、今年も行ってきます。
カテゴリからお入りください。あるいは、縦書きで読みたい!という方は【小説家になろう】を訪ねてみてください。
『清明の雪』
クリックしたら上のほうに、「縦書きで読む」というありがたいボタンが……
やっぱり小説は縦書きが読みやすいです。


よろしくお願いいたします。

Category: NEWS

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