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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました(ウゾさんへ)】春・桜 

stella
Stella
Stella 2013/4月号 投稿作品



さて、掌編をお届けします。
もしskyさんからご許可をいただけましたら、月刊Stellaさんへ投稿しようかと思っております。
→skyさんからご許可いただき、無事にタグを貼りつけることができました(*^_^*)
よろしくお願いいたします。季刊くらいの参加にはなりまするが…

ウゾさんからご許可を頂き、ウゾさんのブログ名をタイトルに戴いた【百鬼夜行に遅刻しました】です。
→ウゾさんのブログへ
そして、主人公の名前が、もう勝手にウゾくんになってしまって、他の名前にしようとしてもどうしてもダメなんです~とウゾさんに謝ってはいたのですが、それでも何とか他の名前に変えようとしたけれど、やっぱりだめでした。
ここでもう一度謝ります。ウゾさん、もう『ウゾ』以外にはなりません!^^;^^;

ウゾさんのブログ名、本当に私のど真ん中直球で飛び込んできまして、妄想が走り始めてしまったのですね。
いやいや、いかん、ひとんちのブログ名だから…と思ったけれど、そこへもち姫さんのお写真を拝見してしまい……妄想は消えるどころかヒートアップしちゃいまして……

ごめんなさい、ウゾさん。
お気に召さなければ、もうすぐにでも抹消いたしますので、ご遠慮なさらずにおっしゃってくださいませ。

これは一応、ウゾさんのブログから漂う何かを一部お借りした二次小説という位置づけ、のつもり。
これまでだったら、妄想が走っても文字にするところまではいかなかったけれど、ブログというもののおかげで文字にする意欲が出て、一応形にすることができました。
ウゾさん始め、Stellaの管理人さん、お誘いくださった夕さんに感謝です。
あ、まだ管理人さんからのご許可をいただいていないので、一応タグはお預けです。

まるきり続くことを前提にしているような話運びですが……気にせずに、ひとまずお楽しみください。
ウゾさんのダメだし次第で消えることも……
約7500字。ウゾくんともち姫さんが大活躍のお伽噺のようなお話。
ファンタジーは書けない、書くまいと思っていたのですが…




【百鬼夜行に遅刻しました】

 しまった! また寝坊しちゃった!
 ウゾは急いで夜行用衣装に着替えて、タダスの森を飛び出した。
「うぞ、オハヨウ。また寝坊か」「寝坊か」「またか」「寝坊」「ネボウ」
 ダンゴ達は、キノコの苗床になっている木の葉の下からごそごそと音を立てながら、いつものようにハモって話しかけてくる。あいつらは害にもならないが何の役にも立たない。
 どうせなら、起こしてくれたらいいのに!
 ウゾは転がるように森を出ると、橋の下に潜った。水辺で遊んでいる五尺龍たちの力を借りたら、少しは早くゴショに着けるかもしれない。
 今日は三千六百五十回目の及第試験の追試日だった。
 つまり、三千六百四十九回、試験に落ちている。
 その理由は試験開始時間に間に合わないからだ。
 ウゾは早起きが苦手だ。というよりも、他の鬼とは違う特別な性質があって、普通の鬼が眠りについている時間帯にぐっすり眠れないのだ。だから寝る時間が遅くなってしまって、必然的に起きる時間も遅くなって、亥と子の刻の間の集合時間にはいつも間に合わない。

 しかし、その日、橋の下の川辺に五尺龍たちはいなかった。
 カモガワの水はいつものように、ニンゲンたちが川辺に灯したあかりを跳ね返してちらちらと揺れながら南へ下っていたが、いつもなら水の上で跳ねている龍たちの姿はなく、奇妙に静かだった。
 ウゾの姿は水面にははっきりとは映らない。でも、他の鬼とはちょっと違うところなのだが、少しだけ映るのだ。ウゾはカモガワの水を覗き込む。ウゾには角はないけれど、ニンゲンがよく絵に描いている普通の鬼に近い姿をしている。鬼、といっても、小鬼だ。
 もちろん、水面には、ニンゲンが描く絵みたいにくっきりとは映らない。ゆらゆらゆれる水の中のウゾの頭の上に、光虫がふわふわと漂っている。
 だめだ、だめだ、まだ一生懸命走ったら、ギリギリ何とか滑り込めるかもしれないのだから。

 さぁ、走るぞ、と思ったときだった。
 ウゾのとんがった耳がひくひくと動いた。
 しくしくと泣く声が聞こえる。声、というよりも震えのようなもので、はっきりと耳で聞こえるような音ではない。鬼のウゾだから聞こえる周波数だ。
 水音でかき消されて途切れ途切れにはなるのだが、確かに誰かが泣いている。

 あぁ、もう、構ってる場合じゃないんだ。もしかして、今ならまだ三千六百五十回目の追試に間に合うかもしれないのに!
 ……なのに、やっぱりウゾは足を止めてしまった。
 辺りを見回してみると、向こう岸に繋がるカメ石の上で、誰かがしゃがみこんで泣いていた。
 ニンゲン?
 おかっぱ頭で赤いスカート、ピンクのカーディガンを着ているから、女の子なのだろう。
 今日は四月の丑の日なのだ。だからもしもニンゲンに鬼の姿が見えてしまったら、そのニンゲンは死んでしまう。いや、ニンゲンの死期を決めているのは、鬼を見たかどうかということではないのだが、死期が近いニンゲンに引導を渡してしまうことになる。
 鬼にしてもニンゲンの死期に関与することを好んでいるわけではない。だから不用意に近づいてしまって、もしかしてそのニンゲンの『時』が迫っているのなら、鬼の姿がニンゲンに見えてしまうかもしれない。
 とは言え……
 ウゾはそろりと泣いている女の子に近付いた。
 背丈はウゾと同じくらいだから、ニンゲンならば五歳くらいだろうか。おかっぱの髪の毛は薄茶色で、光虫たちがその周りをふわふわと漂いながら行き過ぎている。
 ウゾが女の子と同じカメ石の上に立った途端、女の子はその気配を感じたのか、顔を上げた。

 わっ!
 ウゾの方がびっくりした。
 いやいや、こういうのは見慣れているのだから、びっくりする方が鬼として情けないのだが、やっぱりびっくりした。
 これじゃあ、女の子にはウゾは見えないだろう。もちろん声も出せない。耳だけは聞こえるようだ。そしてウゾに触れることもできる。そう、女の子はまっ白い顔をしていた。要するに、のっぺらぼうだった。
 つまり、女の子はもうニンゲンではないようだった。

 ウゾは困ってしまった。
 困ったのは、三千六百五十回目の追試を受けられないということではない。もうそのことはすっかり頭の中から消えてしまっていた。女の子を何とかしてあげなくちゃならない。女の子が泣いているのは、帰る先が分からないからだ。
 鬼の中にはのっぺらぼうなんてざらにいるのだが、年季の入ったのっぺらぼうはウゾにもすぐに見分けがつく。何故なら、完全なのっぺらぼうはキツネとかタヌキたちの化けた姿で、帰属のはっきりしない、多分もともとニンゲンだったのっぺらぼうの場合には、口だけは残っていることが多いからだ。
 女の子ののっぺらぼうぶりは、『新人』としか思えない。だって、目も鼻も口もないのだから。
 予想外の『時』を迎えた時に、五感のうちいくつかがこっちの世界とあっちの世界とでばらばらになってしまうことがある。だからあっちの世界に残してきたものを、ちゃんと回収しなければならないのだ。あっちの世界に何かを残したまま、『時』から七日以上が経ってしまうと、ウゾ達と同じように鬼になっていまう。鬼になったら、ニンゲンたちが言うところの『ゴクラク』までの道のりは気が遠くなるくらい、長いのだ。
 しかし、口のない状態では、女の子から情報を聞き出すことは難しい。

 困ったときにウゾがすることは決まっていた。
 ウゾは女の子の手を引っ張った。
「もち姫のところに行こう」
 女の子の手は何となく暖かだった。そして何となく懐かしかった。
 
 もち姫は『知っている』猫だ。知っているということは、『見える』以上だということだ。猫の場合は、ニンゲンよりも比較的見える率は高い。でも、知っている猫となると、そんなにたくさんはいないのだ。この町で『知っている』猫は、もち姫と、あともう数匹の猫たちだけだ。
 もち姫が住んでいる家は、カモガワをずっと遡ったところにあった。
 ウゾは女の子の手を引っ張って、うんとこ走った。鬼でも結構な時間がかかるところなのだが、女の子は半分あっちの世界に残っているから、重かった。
 だから、もち姫の家の竹垣の隙間をすり抜ける時も、女の子は引っかかってしまった。勢いで手を強く引っ張ったら、赤いスカートのポケットの切れ端が竹の隙間に絡まって千切れ、あっちの世界に残ってしまった。
 穴のあいたポケットから、ひらりと薄紅の花弁が零れ落ちた。

「あら、ウゾじゃないの。あなた、今日は三千六百五十回目の追試の日じゃなかったの」
 もち姫は縁側でいつものようにゆったりと真っ白な身体を横たえていて、金色と碧色の二つのとても綺麗な目でウゾを見た。
 もち姫はあっちの世界では少し身体の弱い猫だ。それはつまり、こっちの世界ではとても元気だということだ。もち姫はすぐに女の子に気が付いて、首を長く伸ばした。
 しばらく、もち姫は女の子の気配から何かを探っているように見えた。
「その子はどうしたの?」
「川で会ったんだ」
「まぁ、じゃあ、あなた、また試験を受けそこなったのね」
 もち姫はウゾのおせっかいのことを、とてもよく知っている。
「そうなんだ。でも放っておけなかったんだよ」
「でもいい加減試験に通らないと、百鬼夜行の本番に参加できないんじゃないの。このままでは、いつまでもこっちに残ってしまうわよ」
 そうなのだ。
 百鬼夜行には気が遠くなるくらいのルールがある。ニンゲンから見たら、鬼が並んでいい加減に歩いているように見えるかもしれないが、障害物、つまり多くはニンゲンや他の生き物との距離の取り方や、通ってはいけない場所、一方通行、止まってはいけない場所、などがあって、鬼によって、つまりもとの身体の形や、あっちの世界に残してきたものの状態やらによって、歩く順番やスピード、飛んでいい高さなどにも決まりがある。
 だから、本番の百鬼夜行に参加するためには、まず学校のようなものがあって、そこでしっかり勉強して、試験に合格しなければならないのだ。
 学校は『ゴショ』の中にある。『ゴショ』には昔ながらの辻や大通りがあるし、子の刻にはもうニンゲンはほとんど通らないので、半人前の鬼たちがまかり間違って気配を消すことを忘れていたとしても、問題になることは少ないから、勉強するにはとても好都合な場所なのだ。
 ウゾは何とか授業の単位を取り終えたのだが、ニンゲンの住む町中を練り歩く本番の百鬼夜行に参加するための試験にまだ通っていない。受けそこなった回数と試験は受けたけれど落っこちた回数の合計が、今のところ、三千六百四十九回、ということなのだ。そして今日、それが三千六百五十回になってしまったらしい。
「でも、今までの最高回数を誇った鬼が一万八百八回だっていうから、まだまだ僕は大丈夫だよ」
「ウゾ、でもね、いつかはちゃんとしなきゃだめよ。いつまでもこのままじゃね」
 鬼の時間はニンゲンの時間とは違うのだが、たいていの鬼は千回以内で試験に合格する。試験に合格したら百鬼夜行の本番に参加できる。参加すると少しずつ色んなことが分かっていくという。
 たとえば、自分がもともと何だったのか、どうしてすんなりとゴクラクに行けずに鬼になってしまったのか、あっちの世界に何を残してきてしまったのか。
 ウゾが普通の鬼が眠っている昼間に眠れない理由も、きっとあっちの世界に何か特別なものを残してきているからに違いないのだが、試験に通らないとその謎も解けないままなのだ。
 本番の百鬼夜行に百八回参加すると、魂魄は解放されて、ゴクラクへ行けるのだという。
 でも時々、ウゾは思う。
 僕は本当は知りたくないのかも……と。

「ね、もち姫、この子がどこの子だかわかるかなぁ?」
 もち姫はそっとため息をついた。
「口も目も鼻もないんじゃあね……」
 ウゾに手を引かれてここまでやって来る間、女の子は多分何が何だか分からなくてぽかーんとしていたのだろうが、ここに来てまたしくしくと泣きだした。声を出せないままで。
 確かに、目印になるものは何もない。口がないのでは名前も分からない。目がないのでは、女の子に案内してもらって知っている場所を探すこともできない。鼻もないので匂いも分からない。
 ウゾはもち姫の真似をして、ため息を零した。

 せめて服に目印でもあるといいのだけれど、名前が縫い込んであるわけでもない。
 ウゾはもち姫の家の庭をうろうろと歩き回り頭をひねった。
 その時、さっき女の子が隙間をすり抜けそこなって引っかかっていた竹垣が、ウゾの目に入った。そうだ、あんなスカートのポケットの切れ端をあっちの世界に残したら、またゴクラクに行けなくなってしまう。
 ウゾは赤い布きれを竹垣から引っ張った。

 その時、赤い布きれにはりついていた薄紅の花びらがひらりと落ちた。
 ウゾの足元の緑の草の上に、数枚の同じような花びらがいくつも落ちている。暗がりの中で、薄紅の灯りがともったように、ウゾの青い足を照らしている。
 ウゾは花びらをつまみあげて、じっくりと見つめた。女の子の赤いスカートのポケットに、この花びらがたくさん入っていたのだろう。
 匂いを嗅いでみると、ウゾにはその花弁がどんな花のものか、すぐにわかった。
 ナカラギの桜だ。
「あら、桜の匂いね」
 もち姫にもその微かな香りが届いたのかもしれない。
 そう言えば、ウゾともち姫は花の縁で知り合った。どちらも花が好きだった。杉の花を除いて。ウゾにはどんな一本でも、桜や梅の木々を見分けることができた。
 ナカラギの桜は、この街のカモガワ沿いにある植物園の脇、八百メートルの道に並んでいる桜だ。開花時期はほんの少しだけ、他の桜よりも遅い。
 これはそのナカラギの道の北の端の方にある、古い木の花びらだ。

 そこからはもち姫の出番だった。
 もち姫の招集で町中の猫たちが集った。知っている猫も、見える猫も、見えない猫も、みなが助けてくれた。そして、見えないけれど人間の言葉が読める不思議な能力を持った黒猫のナイトが、その看板を見つけてくれた。
 四月十五日午後九時、ナカラギの桜が途切れるあたり、キタヤマ通りでバイクに人がはねられたらしく目撃情報を求めている、と。僅かな血の跡とバイクのタイヤ痕が残っていたようだが、それらしい事故の届けはなく、音を聞いた、逃げていくバイクを見たという情報だけが数件、警察に寄せられていた。また、近くに住む五歳の女の子の行方がわからなくなっていて、警察は二つの出来事には関係があるかも知れないと思っているらしいのだ。

 ウゾは女の子をその場所に連れて行った。
 ナカラギの桜はもうほとんど散っていて、僅かに数本に名残の花が、暗闇の中で艶やかに浮かび上がって見えていた。淡い紅の花びらがウゾと女の子の周りで散った。女の子はもう泣いておらず、ウゾの手をしっかりと握りしめていた。
 そして、キタヤマ通りの事故現場に立った時、女の子は耳を少し動かした。
 車や人の作り出す音、風の音、水の音、それらを一生懸命に聞いているようだった。やがて、女の子はウゾの手をしっかりと握ったまま、走りだした。
 ウゾは女の子の手をしっかりと握った。やはり、とても懐かしい気持ちになった。
 猫たちも一緒に走った。
 あっちの世界の、女の子の身体のある場所に向かって。
 今日は四月二十二日、時は午後八時五十五分。


「ウゾ! お前は本当に、一体全体、試験を受ける気があるのか~!」
 百鬼夜行学校の一番おっかない教官、タタラが叫んだ。タタラはやたらと体が大きいので、大きな声を出すと空気の振動が半端なかった。元はミドロガイケの龍だったという話だが、龍がジョウブツできなくて鬼になるなんて話は聞いたこともない。多分、ただの噂話だ。とにかく、鬼が言うのもなんだけど、顔も大きさも声も、怖いのだ。
 ウゾは首を縮めた。
「いえいえ、ウゾはニンゲン助けをしていたのですから、ちょっと大目に見てあげましょうよ」
 この物わかりがよく優しい、パーフェクトのっぺらぼう女史は、鬼になる前はキツネだったらしい。
「いや、これでウゾは、この学校始まって以来、予定も含めて、二番目に追試回数の多い生徒になってしまったんだぞ~」
「でも、一番は一万八百八回だから、まだまだ……」
 ウゾが言いかけると、タタラが畳みかけた。
「その記録は特別なのだ! 三千を超えるなんぞ、普通ではありえん~!」
 振動が耳の鼓膜を破りそうだった。
 そう、一番の記録は断トツで、その伝説のつわものにはウゾも一度は会ってみたいものだと思っている。そして、二番手は昨日まではウゾともう一人が並んでいたのだが、今日ウゾがついに一歩前に出たのだ。
「まあまあ、タタラ先生、そのくらいにしてあげましょう。今日は新入生を紹介しなくては」
 パーフェクトのっぺらぼう女史がタタラの腕を優しく掴んだ。

 あれ!?
 ウゾは自分の目を疑う。
 そこには、ポケットを縫い付けた痕のある赤いスカートをはいた、そして顔にはちゃんと目と鼻と口の戻った、あの女の子が立っていた。女の子はウゾを見て、にっこりと笑った。
 その笑顔には何だかとっても暖かいものがあって、ウゾはちょっと嬉しくなった。
 いや、そんな感傷に浸っている場合ではない。
 間に合ったはずなのに。ちゃんとゴクラクに行ったんじゃなかったのか……
 パーフェクトのっぺらぼう女史が生徒たちに告げた。
「サクラちゃんは、七日の期限に間に合わなかったので、今日、私たちの仲間入りをしました。それに、あっちの世界でサクラちゃんを死なせてしまった犯人がまだ捕まっていないので、お母さんが苦しんでおられます。場合によっては逢魔が時の呪いを使いましょう。ウゾ、面倒をみてやってね」

 ウゾは時々鬼が怖くなる。
 自分も鬼なのだが、怖いのだ。
 鬼たちは許せないニンゲンがいると、時々容赦がない。
 逢魔が時の呪い。それは上級の鬼にだけ許された百鬼夜行だ。
 普通の百鬼夜行は深夜に行われる。ニンゲンが間違って見てしまったら命を吸い取られるというが、それも月に一度の百鬼夜行日だけだ。だが、逢魔の時に特別に行われる百鬼夜行は、夜行というには少し早い時間だが、まさに命を取りに行くものなのだ。
 鬼なのに、鬼が怖いのは何故なんだろう。
 ウゾにはまだまだ自分が分からない。

 サクラちゃんが嬉しそうにウゾに走り寄ってきた。サクラちゃんの目は茶色で大きくて、光が入っているみたいに輝いていた。
 サクラちゃんはウゾの手を握って、綺麗な声であの時はありがとうと言った。こんな素敵な声だったんだと思ったら、少しだけ、先にゴクラクへ行ってしまわないでいてくれてよかったと思った。一緒にもち姫のところに遊びに行くこともできると思うと、嬉しかった。
 でも……一度鬼になってしまったら、ゴクラクまでの道のりはちょっと遠いのだ。
「どうして鬼になってしまったの。間に合ったと思ったんだけど、時計が間違っていたのかなぁ」
「ううん。ウゾ君のおかげで目と鼻が戻ったら、お母さんに桜の花びらを届けるところだったことを思い出したの。それでおうちに寄り道していたら、間に合わなくなっちゃったの」
 サクラちゃんは病気のお母さんに桜の花を見せてあげたかったのだ。だからあの日、あんな時間に、ひとりでナカラギの道に行ったのだという。そしてポケットに桜の花びらをいっぱい詰め込んで家に帰る途中、バイクにはねられたのだ。
 サクラちゃんはすぐに『時』を迎えたわけではなかったようだ。サクラちゃんをはねたニンゲンは、サクラちゃんと目があって、顔を見られたと思ったのかもしれない。こんなに小さな子どもに顔を覚えていられるなんて、どうして思ったのだろう。そのニンゲンはサクラちゃんを近くの山へ連れて行って、殺してしまったのだ。
 パーフェクトのっぺらぼう女史の言うとおり、逢魔が時の呪いを使うに値する、ひどい話だとは思うけれど、それでもウゾの心の中には何かが引っかかる。
 
「ありがとう。お母さんに桜を見せてあげることができたのは、ウゾ君のおかげだよ」
 それでも、サクラちゃんにそう言ってもらえると、嬉しくなった。サクラちゃんにとってはゴクラク行きの簡単コースに間に合うことより、お母さんに桜を見せてあげることの方が大事だったのだ。
 お母さんは、やっと見つかったサクラちゃんのためにポケットを縫ってくれたそうだ。
「僕じゃなくて、もち姫と猫たちのおかげだよ」
 サクラちゃんは本当に花のように素敵に笑った。
 そうだ、後で一緒にもち姫に会いに行こう。もち姫に話を聞いてもらったら、きっとどんなことも乗り越えていけるような気がする。それに、たぶん僕より早く、さっさと試験に通ってしまうに違いないけれど、これからサクラちゃんと一緒に過ごす時間は、きっととっても素敵なものになるだろう。

 ふと風が吹いた。その風に乗って、サクラちゃんからは、あのナカラギの桜の匂いがした。

(【百鬼夜行に遅刻しました】了 2013/3/22)



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Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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