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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨28] 第3章 同居人の恋人たち(6)/本棚(3):信長コーナー 

調査事務所の共同経営者・美和とちょっといいムードの夜を過ごすのかと思ったら…
理由不明のまま不機嫌になった美和とはちょっと喧嘩モード。
そのまま翌日、竹流の入院先の病院へ行くと……




「今朝美和ちゃんが来て、えらい剣幕だったよ」
 真が病室に入るなり、竹流は面白そうに言った。
「美和ちゃんが来た?」
 今日の午前中は授業に出ると言っていたはずだった。
「お前相手に恋愛は無理だとか、女の気持ちが分かってないとか、ついでに俺がお前を過保護にしすぎてるからだとか、他人に渡す気がないなら先生が欲求不満にならないように毎日押し倒せとか、だから悪い女に捕まるんだとか」
 真は唖然と竹流の説明を聞いていた。
「そんなことを言いにわざわざ来たのか、あの娘は」
「よほど腹に据えかねたんだろう」

 真は料理の入ったタッパーを出した。今日ここに来る前に、竹流の銀座のレストランに寄ってシェフから受け取って来たものだった。ついでに、深い緑のガラスの小瓶も取り出す。
 一瞬で竹流が嬉しそうな顔をしたので、思わず渡しかけて引っ込めた。竹流は何て意地悪をするんだ、という顔で真を見た。
「おい、冗談だろう」
「舐めるだけの量にしては多そうだけど」
 竹流はふと楽しそうな顔をした。真をからかうときに見せる悪戯好きの子どもの顔だ。腫れが引いた竹流の顔は、いつもの整った綺麗な顔だった。少し面やつれて頬の肉が落ちたように思うが、額にかかる軽くウェーヴした絹のようなくすんだ金の髪も、見透かすような青灰色の目も以前のままだ。
「手が不自由なんで、口移しで飲ませてくれるんだな」
「馬鹿言え」
 真のほうも、一緒に住むようになった二年半の間に、このからかいをやり過ごすことを覚えた。
「じゃあ寄越せ。グラッパだろう。この間フィレンツェから送らせたんだ。オーナーとしては味見しとかないとな」
「それって、強い酒だろう。怪我が化膿するぞ」
「ちょっとだけじゃないか」

 言い合っているところに看護師が入ってきたらややこしいと思って、ミニチュアボトルを竹流に渡す。竹流は満足そうにその瓶を観賞していたが、ちょっと訴えるように真を見た。
 その綺麗な瞳の訴えかけるような色合いに、思わず真は反論するのも忘れて瓶を受け取り、蓋をひねって開けてやった。確かに、瓶の蓋をひねるような両手が必要な作業は、とても今は無理そうに思えた。
 竹流は開いた瓶を受け取って、その口から匂いをかいだ。真があっと思ったときには、もう飲み干している。
「さすがに、アンテノーリのグラッパだ」
 なにやら満足げに頷いて、竹流は空の瓶を真に渡した。
「で、珍しく昼間から来るなんて、どうしたんだ? お前のほうも美和ちゃんとの一件を俺に報告に来たわけじゃあるまい?」

 真はようやく椅子に座った。涼子はあれから来ている気配はない。竹流自身も随分身体が楽になったのか、身体を起こしている時間が長くなっているし、高熱が出なくなって、少しは歩いたりもしているようだった。怪我のせいでいくつかの不自由があることを別にすれば。
「昨日、マンションに電話があった」
「誰から?」
「あんたの仲間の誰かだ。心当たりはあるだろう」
 竹流は一瞬息を飲んだようだったが、真から視線は外さなかった。さすがに表情が変わったことを、真は見逃さなかった。もっとも、竹流のほうは、真にその変化を見透かされたことを隠し立てするような、怯んだ気配はなかった。低い、穏やかな声で問い返す。
「何か言っていたのか、そいつは」
「カタはついたからもう手を出すなと、そうあんたに伝えてくれと。あんたが生きてるのか、と聞いた」

「そうか」
 竹流は一言、短く言っただけだった。話を切り上げようとする気配が満ちているし、表情が硬い。この男がこういう顔をする時は、一切説明をする気はないし、何も聞くなというサインだということは分かっていた。だが、この状況で何も聞かないでいるという選択肢はない。
「話せ」
「何をだ」
 声まで硬くなっている。
「美和ちゃんが昨日ここに面会に来ていた男に関わるなと忠告されたらしい。それはあんたが言わせたのか。俺にあててか?」
 暫く黙っていた竹流が、ゆっくりとベッドから出た。真は思わず彼の身体を支えようとしたが、竹流はそれを手で制した。身体を起こすのは不自由ではなくなったのだろう。
「屋上に行こう」
 屋上には喫茶室があって、植え込みと背の高い柵に囲まれた庭がある。隣の棟の屋上にはテニスコートがあって、黄色いボールが跳ねているのが見える。今日は天気がいいのでサンルーム様になった喫茶室はほぼ満員で、屋上の庭のベンチがかろうじてひとつ空いているだけだった。
 彼らはそこに座って暫く黙っていた。

「これはお前には関わりのないことだ」
 随分間を置いてから竹流が言った。
「そんな怪我で、何ができる?」
「お前が首を突っ込まなくても助けてくれる連中はいる」
「そうか? みんな、あんたが助けを求めて来ないんで、イライラしてるみたいだったけど」
 竹流は苦笑いをした。
「昇のやつだな」
 真はそれには答えなかったが、代わりに言った。
「俺が、あんたの腕の代わりになれる」
「そんなことはしなくていい」竹流の返事は早かった。「お前が手を出すようなことは何もない。いや、どんなことであれ、俺のような者がすることにお前が関係する必要はない」
 何だよ、その言い分は、と思った。
「それで? あんたがこうやって酷い状態で帰ってくるのを、俺は心配して待ってるだけか。俺はあんたの女たちとは違う」
 真が思わず言ったのは本音だった。女たちがどうであっても、竹流がどう思っていようとも、同じような扱いをされるのは真っ平だった。それに、自分はもう子どもではない。いつまでもこの男に保護者の顔をされているのは幾らか気に食わない。

「心配などする必要はない。もうカタがついたと、そいつも言ってただろう」
「とてもそんなふうには聞こえなかった」
 竹流はそれには黙ってしまった。
 時折、自分たちをちらちらと見る周囲の人の視線を感じるが、それは単にこの同居人が目立つからか、それともあの雑誌の読者が何かを想像をしているからか、真には分からなかった。
「せめて、あんたをこんな目に遭わせた奴が誰か言え」
 真は自分で何をかっかしているのか、と思った。竹流は彼自身の右手を左の手で庇うように握り、暫くは黙っていた。その瞳は青い空の深みを吸い込んだように静かで、今は何の感情も読み取れない。

 真が今日医者に確認したところでは、その右手は相変わらず感覚も曖昧のようだった。全く動かないわけではないようだが、何よりも痛み刺激に対しても反応が鈍いと聞いた。少なくとも細かな作業ができるような手ではなかった。そのことを竹流自身は聞いているのかどうか、そしてそれについてどう考えているのか、竹流のほうからは何も言わないし、何よりその手が彼の仕事における自尊心も何もかもを支えていることを考えれば、真からは何も聞けそうになかった。
「そんなことを聞いてどうする」
「いいから話せ」
 竹流は真の顔を、綺麗な青灰色の目で見つめた。
「覚えていない」
「冗談だろ」
「本当だ。だからもう、首を突っ込むな」
「あんたがそうやって突っぱねても、誰も納得してない。それにもし」言葉を切った真の顔を、竹流が何かを断ち切るように鋭く見た。これ以上何も言うなという視線に逆らうように、真は竹流の目を見返し、低く重い声で続けた。「こんなことがローマの叔父さんに知れたら、あの人は相手をただじゃ済まさないぞ」

 さすがにそれには竹流は反応した。
「お前、それ以上余計なことを言うと、ここでその口を塞ぐぞ」
 真は竹流を見つめていた目を逸らさなかった。
「高瀬さんが留守をしてるのは、どうしてだ」
「知らん」
「あんたの命令でなくて彼が家を空けるものか。それとも叔父さんの用事か」
 真の言葉が終わらないうちに、竹流はその重い右の手を真の頬に押し当ててきた。
「本当に、口を塞ぐぞ」
 竹流が屋上に自分を連れてきたのが、話が煮詰まるのを避けたからだと分かった。
「脅したって無駄だ。だけどこれだけは言っておく。あんたが黙っていればいるほど、皆尚更追及する。誰かがまた怪我をするかもしれないぞ。俺たちが何も言わなくても、叔父さんの耳にだっていつ入るか知れない」
 竹流は右の手を下ろした。
「明日まで待ってやる。ちゃんと話せよ」
 真は捨て台詞のように言って立ち上がった。一瞬、周囲の視線が痛いように思ったが、気のせいにした。竹流はベンチに座ったまま立ち上がる気配はなかったが、真は彼を残して屋上を横切り、サンルームの喫茶店の扉を開けた。
 一瞬、振り返ろうかと思ったが、やめた。


 真が事務所に戻ると、美和が大学から戻ってきていた。彼女の機嫌が悪いのは、おろおろしている宝田の様子でわかった。
 荒らされた事務所の片付けは、今朝早めに事務所に来て宝田と一緒に済ませていた。それでも、早起きの宝田が事務所の入り口で大慌てをする時間には間に合わなかった。宝田は、今日は不運な日だと思っているだろう。
 その上、病院から戻ってきた真のほうも、美和に輪を掛けて機嫌が悪かった。それでも宝田は、美和より真のほうがまだ話しかけやすいと思ったのか、小声で、何かあったんすか、と尋ねてきた。真は首を横に振っただけだった。
 その時真の機嫌を損ねていたのは、勿論竹流が頑なに口を開かなかったことによるのだが、それだけではなかった。
 竹流はローマの叔父の名前が出た瞬間に顔色を変えた。
 それがどういう意味かはよく分かっていた。彼にとってその叔父がいかに重い存在であるかということだ。そしてその叔父にとっても、竹流は大事な跡取りだ。
 以前一度だけローマに連れて行かれたとき、あの男はヴァチカン寺院の礼拝堂で真に言った。
 今は君に預けますが、我々は彼を諦めることはできないのです。
 あの静かで穏やかな声は、今も耳の底に残っている。真の是非など確かめることのない声だった。

 ちょっとばかり鬱な気分に襲い掛かられていた時、突然よく通る声が耳に飛び込んできた。
「この微妙な雰囲気は何?」
 開けっ放しの事務所のドアから声を掛けたのは添島麻子刑事だった。
 何かのきっかけを待っていたかのように、美和が自分のデスクの上の書類をポンと勢いよくまとめ、叩くように置いて事務所を出て行こうとした。
「美和さん、どちらへ」
 宝田が困ったように声を掛ける。
「おしっこよ。ほっといて!」
 美和は立ち止まったが振り返りもしなかった。ちらりとドアのところの添島刑事を睨んで、そのまま事務所を出て行く。
「何も進展はありませんよ」
 真は添島刑事に声を掛けた。竹流から何か聞きだせと言われていた件だろうと思ったが、警察で勝手に調べてくれ、という気分だった。
「どうせあのトウヘンボク、話をはぐらかせてるんでしょ。それで、あの子とも進展なし?」
 添島刑事は出て行った美和の方を示した。宝田が注意深く女刑事の顔色を窺っている。
「何の話ですか」
「あら、今一緒にマンションに泊まってくれているんじゃないの?」
 それを聞いて宝田がびっくりしたような顔になる。
「え? どういうことっすか。美和さんと? でも美和さんには」
「そんな訳がないだろう」
 真が珍しくいらついた声で言ったからか、宝田はひるんでしまった。その宝田の顔を見て刑事が同情する。

「可哀想でしょ。そんな言い方しちゃ。あなたがイラついている訳は知れてるでしょうけど」
「イラついてる訳じゃありません」
 宝田はおろおろした気配を隠しもせず、真と添島刑事の会話を聞いている。
「そう? 私はてっきり澤田顕一郎のことかと思ってたけど」
 真は思わず手を止めて、添島刑事を見た。
「どういう意味です?」
「澤田顕一郎が内閣調査室に何か言ってきたみたいよ。それも、あなたの事で」
「何の話ですか」
「正確には、あなたじゃなくてあなたの叔父さん、じゃないわね、あなたが自分の戸籍をどのように理解しているかってことにもよるけど」
 真は、添島刑事の話している内容にどう返事をすればいいのか、判断できなかった。
「叔父にしても、日本のお偉いさん方に何も関わりはないと思いますけど」
 答えた声が上ずっていた。
「今まではそうね。でも、あなたが全部把握しているかどうかは知らないけど、彼は三つくらい肩書きを持っている」
 そうか、自分以外の他人がこんなにも自分の身上について知識を持っているなどということは、今まで考えたこともなかった。

「俺は叔父が何をしているかよく知りません。そのことで澤田顕一郎に絡まれても答えようがありません」
 添島刑事はちょっと肩をすくめた。
「ある人が、あなたがどう考えているのか気にしているのよ。それで私に行ってこいって」
「ある人?」
「澤田が聞いてきたからでしょうね。澤田は面白いことを知った。自分が世話をしている女の恋人が、アサクラタケシの息子で、父親と同じように大学時代から優秀な研究者になるかもしれないって一目置かれていて、アメリカに留学の話があって、その裏でアメリカの某国家組織が絡んでいたというような話を」
「何の話ですか」
 添島刑事はお邪魔するわね、と宝田に断って、部屋の中央の応接セットのソファに座り、脚を組んだ。
「エネルギーの研究をしてたでしょう。ちょっとマニアックな教授があなたを見込んでアメリカに留学させようとしていた」
「俺は三年足らずで大学を辞めたんですよ」
 半分馬鹿馬鹿しくなって真は呆れたように言った。

「嫌な予感がしたから? 向こうの国ではあなたを受け入れる準備ができていた。某工科大も、あるいはNASAも、ワシントンも。あなたが来たらCIAはアプローチするつもりだった。親子二代にわたって優秀な工作員を作るために。あの組織もいまや青田刈りに必死だというし、何も経済発展著しい快適な時代に、好き好んで命を差し出すような危険な仕事に就こうなんて若者はなかなかいないそうよ。で、あなたは知っていたんでしょ? だから大学を辞めた。それでこんなところでこんな仕事をしている」
 真はちらりと、おろおろしている宝田を見た。宝田は真と目が合うと、助けを求めるような顔つきになった。宝田がアルファベットの並ぶ話の内容を理解しているとは思いがたかったが、尋常でないことは分かっただろう。
「あなたの言い方だとまるで俺がやむを得ずこんな仕事をしているみたいですけど、俺は望んでこうしているんです。それから留学の話を断ったのは妹を一人にするわけにはいかなかったからで、そういう複雑な事情は俺の知ったことではなかった。……でも、つまり澤田代議士は、その下手なハードボイルド小説のような話を信じているということですか」
「そのようね」
「それに大体あり得ないでしょう。同居人ならともかく、俺はどう転んだって一般人です。彼らに何の得もない」
 添島刑事は肩までは届かない短いストレートヘアの前髪をかきあげた。
「あなた自身にあろうがなかろうが、どうでもいいのよ。この素敵なハードボイルドが本物だという前提で話をするなら、彼らが欲しかったのはあなたの父親を繋いでおく太い鎖、特別な身体能力を持った人間のDNAでしょうから。それに、もしもあなたとあなたの同居人が本当に特別な関係にあるのなら、もう一つ面白い釣りができる。ヴォルテラの大親分という」

 真は溜息をついた。添島刑事は何だってこんなことを、よりにもよってこんなところで話しているのだと思った。いや、あるいは真が竹流から何も聞き出せないでいることにいらついているのかもしれない。
「アメリカ人がイタリア人なんかに興味を持ちませんよ」
「どうかしら。あなたはヴォルテラの何を知ってるの? あのイタリア人がアメリカ国内のマフィアの弱みをどれだけ握って、どれほど恩義をかけているか、それどころかカソリックの総本山の裏の顔を全て引き受けている、それにあの男の勢力の一部は中東にある。アメリカ人が興味を持っているのはそれでしょうね」
「竹流は、今はローマに帰る気はない、でしょうけど」
 そう言ったのは精一杯の気持ちだった。
「それは彼の希望というだけよ。ヴォルテラの家は次代当主を定めたら、決して讓らないという特別な事情を持っている。チェザーレ・ヴォルテラという男は、もしその気になればあなたごと抱え込むわよ」
 真はしばらく添島刑事の顔をしみじみと見つめていた。あるいはこの女刑事は、真に警告しに来たのかもしれない。
「つまり、それが俺の値段というわけですか」
「値段?」
 添島刑事が怪訝そうに言ったので、真は首を横に振った。それは楢崎志穂が言った言葉で、この刑事には何の関係もないはずだった。
「それで、澤田顕一郎はあなた方の敵ですか、味方ですか」
 真は添島刑事の顔を見つめた。添島刑事はしばらく言葉を選んでいるように見えた。
「どうかしらね。ただ、澤田が何か特別なことを考えてるんじゃないかと思っている人もいるわ。私には分からないけど」
「あなたの仕事は? 澤田を見張ることですか。それとも、大和竹流を?」
「あなたを見張っているのかも知れないわよ」
「冗談でしょう」
「あなたと、香野深雪を」
 真は心のうちを捕まれたような気持ちで、添島刑事を見返した。



次回、第3章最終回です。本日のおまけは、本棚の一角。


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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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ソ連(2) 戦車の上からカーネーション 

ソ連
当時、もちろんデジタルの写真なんて思いもしなかった時代、そして旅行に持っていくフィルムの数も限られていて、今のように何枚も記録的に写真を撮ることもなかった時代、バカちょんのカメラでろくな写真はないのですが……発見したので、アップいたします。

先日、記事(NEWS:マトリョーシカ)に書かせていただいた、月曜日の夜、モスクワで見た戦車の大集団、その時、戦車の上のカッコいい兵士さんに手を振った私たち(バカ丸出し!)に、なぜか投げていただいたカーネーション。
花瓶に4本のカーネーションがあります。
記憶があいまいですが(何せ20年以上前…)、確かこのうち3本は自分たちのために1本ずつ買ったもの。
何しろ殺風景でしたから、ちょっと心の癒しにと買ってみた。
花は駅の地下の露店みたいなところで結構売っていたりするのですね。
で、4本目が戦車の上から飛んできたカーネーション……(#^.^#)

これはホテルの一室です。
以前に書きましたが、両替したらルーブルの札束が返ってきた時代。
それでも、国内でのレートと、外国人に対するレートはずいぶん違ったと聞いています。
町を歩いていると、ドルを持っていないかと声をかけられること、複数回。
ちなみに英語は全く通じませんが、たまに日本語で話しかけてくる人がいたりする。
戦争の影響…だったんでしょうね。

そして、ホテルで過ごしていた夜……
夜中にドアをノックする音が……
やって来たのはホテルの従業員の女性。
何か、日本のものを分けてくれないかというのです。
当時、日本製のストッキングがお土産にものすごく喜ばれるとは聞いていて(今なら、ヒートテック?)、まさかと思っていくつか持って行っていたのですが、さっそく役立ち……さらに、私たちの使っていたウェストポーチとかを欲しがられたので、差し上げたりしました。

本当に、生活に必要なものがなかったのですね……


兵隊さんと言えば。

モスクワからレニングラード(現在はサンクトペテルブルグ)には夜行『赤い矢号』で行ったのですが、夜行のコンパートメントは4人(日本と同じように上下、向かい合わせのベッド)、私たちは3人だったので、もう一人、同室の方がいたのですが……

それがなんと、イケメンの若い兵士さん。
なぜか、ほとんど言葉は通じないのに大盛り上がり。
彼女の写真を見せてもらい、財布に日本語で何でもいいからサインしてくれと言うので、彼の名前をカタカナで書きました。あの財布…良かったんでしょうか……

そこへ車掌さん、登場。
例のごとくどってりとしたオジサン。
旅行前情報により、夜行列車の中で車掌さんがロシアンティーを売って小遣い稼ぎをしているとは聞いていたのですが、本当に売りに来られました。
もちろん、旅行のお決まりはこなさなければ、と購入。

取っ手をつけたグラスに熱いティーを注ぎ、ジャムを入れてくれる。
ここまではOKだったのですが……
そのまま飲もうとすると、『違う違う、お前らは間違っている!』とのゼスチャー。
何か、飲み方の作法が?と思ったら、いきなり、砂糖を複数個!!!!!……記憶は曖昧だけど、たしか5個くらい、飽和状態を超える量までグラスの中に放り込まれてしまったのです!!!
あぁ~~!! 私のロシアンティーがぁ~!!!

もちろん、飲め飲めとせかされて、飲むしかなかったのですが……
これまでの私の人生の中で、底にジャムと溶けない砂糖がどん!と堆積した紅茶を飲んだのは、あれが最初で最後です。

そして、イケメン兵士さん。
眠るときはうつ伏せで寝ておられました。可愛い寝顔、ごちそうさまでした(*^_^*)
友人は、やっぱり兵隊は腹を上向けて寝ないのよ…って、それ本当?

レーニン廟少年2赤の広場前
左から、レーニン廟の兵士さん、愛想よくモデルになってくれた未来のイケメン、赤の広場の兵隊さん。
他にも、一緒に写真を撮ってくれた人は多数。露店の綺麗なお姉さん、旅行中のカップル、タクシーやバスの運転手さん、街角の子供たち、迷い込んだ正教会の見張りのおじさん……みんな、ありがとうでした。
歩くボートをこぐ
そして、盗み撮り?
公園の湖畔を散歩中の兵士さんたち。なぜか、一人でボートに乗っている兵士さん。
休日も制服なんですね。ちなみに、兵士さんの横のボートの二人、男性二人に見えます。
同性同士でボートって、日本で見ると…って感じだけど、別に変なことはないみたいです。
それより、一人の兵士さんが気になります。


さて、まだまだ続くソ連の話題。
次回は郵便局と、ハイジャック事件?
記録(写真)より記憶に残る旅、とはまさにこの国からの最大の贈り物、だったかも。


Category: 旅(あの日、あの街で)

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NEWS 2013/4/17 更新情報 

更新情報です(#^.^#)

【海に落ちる雨】(連載中)
*ごめんなさい、18禁/18Rです…と言っても恋愛や性描写がメインの小説ではないので、流れ上のシーンばかりで、逆に期待はしないでください^^; うーん、でもこれって本当にどこからが18禁? そういうシーンは出てくるのですが、とりあえず出てくるだけなんですけれど……という程度です。
*相川真シリーズのメイン小説です。
*今週からは真面目にちょっとずつ、更新することにしました。でなければ、なかなか終わらない^^;ということに気が付きまして……
*もしかして、今からでもちょっと読もうかな、なんて思ってくださっている奇特な方がおられましたら、第2章の始めに第1章のあらすじが、第3章の始めに第2章のあらすじが載っています。大いにかっ飛ばしていただいて構いません^^;
*始章を独立カテゴリにして、完結マークを入れました。こちらは主人公二人、それぞれの生い立ちのようなものなので、独立した物語として読んでいただいても大丈夫なのです。特に大和竹流の方は、ヨーロッパ大河ドラマ風になっていますが、気にしないでくださいね^^;
【小説家になろう】さんに終了部分(始章、第1~2章)をアップしました。縦書きで読みたい!という方にはお勧めです。というより、絶対に読みやすいと思うのですよね……→(clickしてね)
*そして、記事の最後に『ちょっとコラム』付き。しばらく本棚紹介が続きそうです。

【死者の恋】(連載中)
*相川真シリーズのちょっと気楽な物語。調査事務所のお仕事の話ですが、よくよく金になってないなぁ…とも思う。嘘ばかりついていて大人なんか信じないという女子高生・詩津とヤケッパチでいつ死んでもいいと思っているロック歌手・嶺の物語としても読んでいただける…かな? 小道具は、詩津が岩木山でであったおばあさんの残した『骨の入った小瓶』です。
*まだタイトルの変更はありうるけど…未定です。まだこのタイトルの意味は出てきておりませんが…そのうちに(^^)
*これが終わったら、今度は高校生のかわいい真の話でも書こうかしら。26歳、あまり可愛くありません…

【Time to Say Goodbye】(連載中:あと1回で最終回)
*18禁/BLもどきです。SS連作の形になっています。
*プロとなったものの行き詰っているボクサー・拓(ひらく)と、ある事件がきっかけで痴呆となった母親を施設に預けたままの製菓会社社長・篠原宗輔(しゅうすけ)の物語。どちらも両親のことでは心に傷を持っているのですが……そして、アスペルガー症候群の少年・アラタ、やはり同じ症候群の宗輔の親友・ロボット博士のお茶の水博士じゃなくて斎田アトム。ちょっとお気楽に読んでいただけると思います、多分。BL風(あくまでも風)に抵抗がなければ……

【石紀行】
*先週は大阪・交野の磐船神社をアップしました。ちょっと不思議な石の世界、ぜひのぞいてみてください。
*今週はマルタのカート・ラッツをアップしました。正確には石ではない、と言われるかもしれませんが、かつてなく巨大な石と思っていただければ…そう、今回の石はなんと、石灰岩の地面です。古代の轍、という説も……
*このまま、マルタの巨石神殿をご紹介していきます。お楽しみに(^^)

【物語を遊ぼう】
*今回は、『つかず離れずが萌え』をテーマにお届致しました。ケースに選んだのはXファイルとスタートレック・ヴォイジャー。でも、無限の『つかず離れず』があると思うので、ぜひとも皆様のおすすめがお聞きしたいです(^^)
*そろそろやろうかな…というテーマは『小説をキャラで読むか、ストーリーで読むか』『私がBLを書けないわけ』……(^^)

【NEWS】
*単に更新情報とかを載せていく予定だったのに、何故かちょっと充実してきた?(かな?)
*雑感とか、庭の花のこととか、あれこれ。
*そんな中のbig newsは……満天星の記事に、akoさんが詩をつけてくださいました! ぜひ読んでくださいませ(akoの落書き帳)
*予定より長い記事が多くなっているので、今後はもう少し短い記事を書こうと思います…(;_:)
*ソ連物語第2弾、ヴェネツィアのアクア・アルタも近々登場。

【その他予定・予告】
*4-5月の目標は、【百鬼夜行に遅刻しました】夏編を書くことです(^^)
*皆さんのブログにお邪魔して、お話をじっくり読みたいけれど…なかなか時間がうまく使えません…でも少しずつ、拝読していっておりますので、またじわじわコメントなど書かせていただきたいと思います(^^)
*いつもコメントをくださる方々、ありがとうございます(^^) やっぱりうれしいものですね(*^_^*) 私の小説はブログで見るにはとっつきが悪すぎて、本当に申し訳ない感じがしていますが、もしかしておひとりでも読んでくださっている方がいてくださるのなら、大変うれしいな~頑張ろう、と思いながら……


では、今週もよろしくお願いいたします。
本日は三味線ボランティアでした(^^)

Category: NEWS

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[雨27] 第3章 同居人の恋人たち(5)/本棚紹介(2) 

「先生は誰かほかの人のことを思いながら、別の人を抱いたりできる?」
突然、美和に聞かれていささか困っている真。同居人が入院中で、心配した調査事務所の共同経営者=秘書の美和が、竹流のマンションに泊まり込んでいるのです。
まだまだいちゃいちゃシーン?は続きます。
でも、このふたり、恋人というより、兄妹なんですね……



 真は少しの間、返事をせずに黙って美和を見つめていた。ほんの少し目を伏せた美和は、いつになくしおらしく、愛しく思えた。
「北条さんと何かあったのか」
「別に何もないけど」強がって勢いよく言ってから、責めるように真を見る。「どうなの? 男ってそういうもの?」
「残念なことかもしれないけど、不可能な話じゃないだろうな」
 そう言われて考えてみれば、篁美沙子とはまだ自分が中途半端で、何がどうなっていくのか分からない中で付き合っていた。彼女との行為も、どこか子供っぽい手探りのような部分があって、そういう意味では一生懸命だったかもしれない。
 恋の激しさだけから言えば、多分傍から見れば小松崎りぃさと付き合っている時の真はピークだったろうと思うが、心の中はどうだっただろう。りぃさを想っていたのか、他の誰かを思っていたのか、ただ自分だけの事で精一杯だったのか。
 結局りぃさが自殺してしまったので、もう何も確かめることもできない。りぃさが何を思っていたのか、感じていたのかも分からないままだ。だが彼女の存在は、真自身の心のうちを抉り出すような結果になりそうだった。りぃさがもう少し生きていたら、真はその心とあの時、向かい合わなければならなかったはずだった。

 美沙子でさえ、別れるときに言ったのだ。
 あなたが未来を共有したいのは私じゃない、と。
 あの時、それ以外の部分では美沙子の不満を膨らませていた可能性は否定できないにしても、美沙子との行為の最中には、真は彼女に対してだけ熱くなっていたと思うのに。
 いや、それは言い訳だと真は思った。あの頃はきっと若くて、あまり余裕がなかっただけなのだろう。
本当はあの頃も、誰と寝ても真はいつも他の手を捜していた。それまで全く自覚はなかったが、あの手が自分を抱きとめてくれたとき、その行為の最中に別の誰かの手を求めなくてもいいということが、どれほど幸福で満たされた行為であるかを知った。

 結局、誰かと寝ていても、他の誰かを想っている。可能とか不可能とかではない。ただ、想っていて、捜しているのだ。
 私じゃない、と言った美沙子はそれが誰だと思ったのだろう。りぃさは、知っていただろうか。そして今、深雪はどう思っているだろう。
 駆け落ちしてくれる?
 深雪のあの言葉は、ただ真をからかっていたのだろうか。あるいは、澤田と何かのっぴきならない事態にでもなっているのだろうか。一体、深雪の想いはどこにあるのだろう。彼女は、真が誰を求めているか、感じているのだろうか。
 愛し合っていると信じている相手が、誰か他の人を思っている。それは身体を繋いだときに相手に伝わるものなのか。もしもそうなら、美沙子も、りぃさも、そして深雪もずっとそのことを知っていたのだろうか。

「北条さんに、他の男とデートしたり寝てもいいって言われたことがショックだったのか」
「うーん、ショックっていうのか、先生、それってどう思う?」
「ひとつには、北条さんは君を本当に好きなんだよ。でも君は彼より十六も年下だ。北条さんは何にだって自信のある人だろうけど、好きになった相手が堅気でしかもいいとこのお嬢さんだろう。先行き不安になるはずだ。しかも北条さん自身、先行きを考えたのなんて初めてなのかもしれない。ふたつめは、とは言っても北条さんの性質から言って、他の人と全く付き合わないってことはできないだろう。だから、君が他の人とデートでもしてくれたら気が楽かも知れないと思っている。本当にそうなったら、どう思うかは別の話だけど」
 美和は意外な顔をして真を見た。
「先生って、そんなふうに人の恋愛感情を読めるんだ」
「人のことは簡単な話だ」
「自分の事は難しい?」
「そういうものだろう?」
 美和はまた例のごとく表情を変えて、にっこり微笑んだ。
「私から見たところでは、先生は世界で一番大家さんを愛してる。でも、大家さんは保護者で何よりも男の人で、世間的に許されない感情だと思ってる。だから、ちゃんとした女の人と付き合ってない。深雪さんをそういう世界のプロだと思っていて、恋愛対象じゃなくてセックスの相手にしてる。普通の相手を恋愛対象にしたら、その人を傷つけることが分かったから。大家さんは」美和は一旦言葉を探すように、間を置いてから先を続けた。「先生よりもっと先生のことを愛してる。だけどあの人は大人だから、先生より多分もっと無理してる。女の人たちの事を大事にしてるけど、それは習性としてやってるだけのこと。だから他の女の人が先生を見る目は、ちょっと恐いでしょ。その人たちにとっても他人の恋愛感情は読めるからだよ」

 真は、呆気に取られて美和の唇が動くのを見ていた。
「それに、私は仁さんの意見には納得してる。人の恋愛事情は確かによく分かるのよ。先生たちは、一度も寝たことがないわけじゃないんでしょ。よく、男と女の関係は別れ際に分かるって言うけど、別れ際じゃなくても距離でわかるのよ。ふとした何気ない瞬間の身体と身体の距離。先生たちは全然気が付かれてないって思ってるかもしれないけど、本当に近いよ。一度エッチしちゃうと、相手との距離は何かの瞬間、不意に驚くほど近いんだよね」
 美和はそれだけ言って、くるんとまた表情を変えた。
「何ちゃって。分析してみました。ちょっと私の妄想が入ってるけど。仁さんの言うとおり、他人同士の距離を見ていると結構物語になるんだよね」
 真は思わず真実がこぼれそうになるのを、押し留めた。
「文章教室の先生が他人を観察して物語を作れって言うから、試してみたの。文章を書くトレーニングの第一、観察力と感性を磨く」
「文章教室?」
 そう言えば、美和はジャーナリズムを勉強していて、本人は将来写真家になりたいと言っている。澤田教一に憧れていると言っていた。文章教室は大学の勉強の一環なのだろう。
 だが、危ないなと思った。もしも美和の妄想が入っているにしても、文章教室のトレーニングにしても、竹流の感情はどうだか知らないが、ある面からすればかなり真実に近いかもしれない。
「驚かすな」
「あら? 驚くってことは結構いい線いってたってこと? それとも、ほとんどどんぴしゃ?」
 真は思わず美和の頬に手を伸ばした。叩くほどではなく、軽く彼女に触れる。これ以上その話を続けさせたくなかったせいもあるが、ただその一瞬、この可愛らしいものに触れたい気がしたのだ。
 美和はその真の手に自分の手を添えて、明るい、真剣な眼差しで真を見つめている。
 Tシャツを通して美和の乳房が胸に触れているのが分かる。形のいい、幼いほどの硬さだった。自分の身体が反応しているのは分かったが、いつもと違うのは欲情しているというよりも、愛おしい気持ちになっていたことだった。

 先生、不倫しよう。
 美和の唇が動くのを真はただ見ていた。無意識のうちに、美和の頬に触れた手は彼女のうなじに上がり、美和のほうからか真の方からか、唇が触れるところまで近づいた。
「先生と恋愛する人は大変」
 唇で相手の息がはっきりと感じられるところで、美和が囁く。
「どうして」
「大家さんと闘わないといけないから」
「君と恋愛する人も大変だ」
「どうして」
「北条さんに刺されるかもしれないから」
「やっぱり不倫だよね」
 それでも、その時はただの文章教室その一の感性を磨く、いわゆる妄想の域でしかなかった。お互い独身で結婚しているわけでもないが、ある意味不倫という言葉がぴったり当てはまるように思える。それは、感性と言葉の遊びのようなものだったかもしれない。

 やがて唇はゆっくりと相手を確かめ、美和の形のいい薄い上唇と、よく動く下唇を確かめ、そのまま可愛らしい妄想を話す舌を確かめていった。
「酒、飲んでたな」
「だって、もう二十歳すぎてるもん。飲んだっていいじゃない。それに先生が帰って来ないからだよ」
 会話と会話の間に舌を絡めるように口付ける。
「好きでもない男と寝るのは、楽しくないかもしれないぞ」
 美和は意外、という顔をした。
「私、先生のこと、好きよ」
 その美和のくるくるよく変わる表情を見ていると、ふいに安堵感が湧いてきた。自分は今まで女性とベッドを共にして、こんなふうに相手の顔を見つめたことがあっただろうか。相手を、その人としてきちんと見ていなかったかもしれない。心のうちのどこかで、自分の中の何かを否定していたから、相手を見ることができなかったのだろうか。

「ねぇ、先生」
「うん?」
 呼びかけられたとき、まだ真は美和の柔らかな唇の感触を味わっていた。
「私が今日あとをつけていった人って、大家さんの仲間じゃないよね?」
「仲間?」
 急に現実的な話題になったのと、美和の口から出た『仲間』という意味深な言葉に、真は我に返った。
「だって、大家さんって何か危ないお仕事してるでしょ」
「どうして?」
「あの添島っていう女刑事さん、何となく大家さんを見張ってる気がするし、それにいつか会ったゲイバーのママ、単なるその道の人には見えなかったもの」
 全く、これも妄想の一環なのかもしれないが、美和の感性には時々どきっとする。
「それに、あの男の人、何だかどっかで会った気がするんですよね」
 実は美和が一番気にしているのは、その男のことのようだった。
「でも、なんて言うのかなぁ、絶対この人に会ったっていう確信じゃなくて、何かそういう気がするだけで、この人のこと、何か知ってるような気がする感じ。あー、何だか気持ち悪い」
 わけの分からない言語になりながら美和が呟いて、暫くして、まあいいか、と言いながらまたくるっと表情を変えた。頭の中に湧き出したことを口に出さずには放っておけない、彼女の美徳でもあり悪徳でもあるように思える。

 自分からいい雰囲気を壊しておいて、美和は気を取り直したように真に身体を寄せてきた。とは言え、真のほうは一瞬盛り上がった気分が、少しばかり削がれたようになっていた。
 美和の話題が、竹流のところに訪ねてきたという男の事になったからだが、それと一緒に不意に、今日マンションにかかってきた二本の不可解な電話を思い出したのだ。
 考えてみれば、もしかして楢崎志穂の言うとおり、澤田の目的が深雪との関係を問いただすことではなくて、真自身のことだったとしても、このチャンスに自分の『愛人』を寝取った男を呼び出してちくちくいたぶってみたくなっただけかもしれない。澤田が寛容に間男を見逃してくれているなどと、どうして思っていたのだろう。たまたま今まで忙しくてそんな余裕がなかっただけかもしれない。
 それに、もう一本の電話。
 竹流のあの怪我の訳を知っている誰かが掛けてきた。
 そして、不意にあの重い右手を思い出した。本人は何も言わないし、あんなふうに誤魔化していつも通り振舞っているが、あの右手は。

 明日、医師に状況を確かめようと思っていると、美和が不意に真の下半身に触れてきた。びっくりして美和を見ると、美和はちょっとむっとした顔をした。
「先生なんて嫌い」
「何で」
 美和はぷい、と向きを変えてベッドの向こうの端に行ってしまった。さっきまで興奮していた何かが急に冷めたのは事実だが、嫌われるようなことなのだろうか。
「美和ちゃん」
「ちゃんつきで呼ばないで」
「何言ってるんだ」
 いつも『美和ちゃん』じゃないか、何が悪いんだと思った。若い女の子の瞬間に変わる感情に、どうもついていけない。
「深雪さんのところに行ったら。あの人とは、すごくいいんでしょ」
「何の話だ」
「先生は、年上でちょっと怪しくて危険な香りがして、セックスが上手な女が好きなんでしょ」
 どうやら他の事を考えていたのが悪かったらしい。とは言っても、先に話題を逸らしたのは美和のほうだ。
「先生は絶対に騙されてるんですからね。って言うか、何かに利用されようとしてるんですよ。あの人は絶対恐い女なのよ。でないと、さぶちゃんにつけられて何のリアクションも無いなんてあり得ない。さぶちゃんの顔見て、普通なら恐いはずよ」
「それは宝田君に失礼だろう」
 確かに宝田三郎は顔は恐いが、あんなに気が弱いのに、と思った。それに、あの事務所の惨状を見て、明日彼が大慌てするのを考えると申し訳ないような気がした。
「事実を言ってるんです。それに何だって挑戦状を叩きつけるみたいにタイピンを私のところに届けに来るのよ。私は先生の恋人じゃないし、そんな厭味をされる覚えはないわ。大家さんにならともかく」
「だから、それは誤解だ」
「嘘つき」
 一体何を怒られているのか分からないままだったが、どうしようもないので放っておくことにした。





さて本日のちょっとコラムは本棚の紹介その(2)です。
そして次回予定の【物語を遊ぼう】のプチ予告でもあります。
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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【石紀行】8.マルタ:カート・ラッツ 

マルタ1

さて、マルタ島にご案内いたします。
マルタってどこ?という方もおられるかもしれません…って失礼ですよね。
かく言う私ですが、地中海のどこか、ということしか分かっていなくて、行くと決めてからしみじみ地図を見ました。シチリアの南、ローから見たらチュニジアの方が近い、という感じでしょうか。随分若いころに行ったシチリアを思い出すような、囲い込み農地、そしてマルタストーンの石切り場。
黄褐色の石灰岩(グロビゲリナ)が今回の主役。

上の写真はその囲い込み農場です。都市部はともかく、マルタはどこに行ってもこんな景色。
農地を低い石垣で囲んでいます。

問題の石にご案内する、その前に。
マルタ、いいところです。首都のヴァレッタには聖ヨハネ騎士団の美術館・博物館が立ち並び、海に囲まれた古い街並みも素敵。そして、マルタ島だけでなく、ゴゾ島にも点在している先史時代の巨石神殿。切り出した場所から神殿まで、数十トンの石をどのように運んだのか、いまだに謎とされています。

圧巻は、ハル・サフリエニ・ハイポジウムという地下神殿。
写真禁止のため、観光案内書やホームページなどから見ていただきたいですが、この第2層が素晴らしく、もう開いた口がふさがらない状態のままでした(言葉遣いが変だけど、まさにそういう感じ)。1902年に家を建てている時に地下から発見されたとか(ちなみに昔の人はよく、地下にゴミを捨てていて、自分ちの地下に何らかの空間があることは知っていたというケースが多い)で、入口は本当に普通の家みたいなところ(ナポリの地下遺跡の入り口も普通の家ですが)。後の時代には墳墓としていたようで、7000体の遺骨が発見されたそうです。そしてここは、明らかに地下の岩盤を削って造られた、まさに地下の神殿なのです。第2層の天井も壁も滑らかな丸いドーム状の空間、赤のオーカー、小さな声で囁いても神殿全体に声が広がるような石の反響を利用したマイクロフォン(司祭の祈りが神殿に響くようにしてあったのでしょうか)、機会があったらぜひ、訪れてください。
ちなみに、事前予約が必要で、ガイド付きツアーのみです。

人々も温和で優しいです。何より、マルタ語しか話さなかったタクシーの運転手さんも、わけのわからないところに行きたがる日本人を、よくぞ案内してくださりました。
そうなんです。
カート・ラッツに連れてって!
え?
マルタ(狭いのに)のタクシー運転手さんも知らないようなところに行きたがる、謎の日本人になってしまっておりました……
イムディーナという古い都市を通り過ぎ、ガタガタの道を走り、あちこち聞きながら連れて行って下さった……
すると、ありました!
延々とこの謎の景色が続く場所が……
マルタ6
マルタ2

石じゃなくて、これは地面じゃないの?って……はい、その通りです。
正直、自然の造形じゃないの?と言われても否定はできない。
でもこれは『古代の轍』ではないかと言われているのです。
石灰岩の台地に1.32~1.47mの幅で並行に走る溝が刻まれていて、深い所では75cmほどになっているところも。巨石神殿に石を運ぶ時についたものとされますが(ちなみに車輪はなかったはずの時代だとか?でも、先史時代のことについて私たちが知っていることって本当に僅か)……北アフリカやシチリアにも同じようなものがあるのだとか。

ここで山羊の放牧もされているようで……
マルタ7
また、散歩中の家族(おばあちゃん、お母さん、息子&娘の組み合わせ)に、あっちに石器時代の洞窟があるよと教えていただいて行ってみたら…
マルタ4
マルタ5

それにしても、この謎の轍。
フランスのカルナックの列石に匹敵する、『わけわからん』快感を与えてくれてます。
こういう場所に立って、古代の息吹を感じるとき、ものすごく幸せなんですよね……
500
この轍、ちょうど足ひとつ分くらいです。

皆さんには何に見えますか?


さて、いずれまた、マルタの巨石神殿へもご案内いたしますね。

Category: 石の紀行文(写真つき)

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におい(臭い/匂い)にまつわる話 

ヴェネツィア

今日は今からボランティアに行くので、年休です(^^)

先日、写真を整理していたら、ずいぶん前にヴェネツィアに行った時の写真が出てきました。
どうやら没写真だったようで、別に保管されていたんですが……

こうして写真に撮ると、麗しいヴェネツィア……
この時(晩秋~冬)、高潮(Acqua Alta)のために、一番低いサンマルコ広場は午前中水没するんですね。
これも、水の都ならではの知恵。
だだっ広い広場に水を引き込むことで、町全体が水没しないように緩衝作用をしているということなんですが…

でも、店の中もホテルの中も、1階は水浸し。
板みたいなので土嚢代わりに水をシャットアウトしているみたいですが、はっきり言ってそれでは無理でしょう……と思うようなもの。
私たちが着いたのは午後だったので、水が引いた後だったのですが、お店では水の掻き出し作業中。
これを毎日やっているのですね……
無駄のような、ある意味、風物詩のような。
で、午前中また水没するから、長靴(ビニールカバー?)を買えと売りつけられ…

はい、翌日、本当に役に立ちました。
午前中に着いた観光客の人たちは大変困っておられました。
路地も膝まで水浸しで、歩けないのです。
広場と大きな通りには、板の歩道が置かれている(橋)んですが。

ヴェネツィアは二度目だったのですが、一度目は早春で、もちろん水没する時期ではないので、特に何事も感じなかったのですが……

そうなんです。
今日のお題?……臭いです。

正直なところ、かなりな臭いです。
ほぼどぶ川と言ってもいいのかもしれない…もちろん、気温なども影響するのでしょうけれど…
そもそも水浸しになるとき、町の地面自体が水没するわけで、残飯や犬や猫のうんちもしかり。
不運な場合はその中を歩かなければならないわけです…
(万が一、御飯中の方、ごめんなさい)
二日間の滞在中には慣れましたが、夜、ホテルのベランダから、潮の匂いとともに悪臭!?が爽やかな風となって吹き込む…みたいな。

Acqua Alta…見ものですが、臭いに敏感な人は辛いかも。

で、思ったんですが、写真って臭い/匂いがないから、この町のあの日のムードって、この美しい写真からは何もわからないなぁ、と。
匂い付消しゴムみたいに、その時のにおいも移って/写っていたら面白いのに。
ハリポタの世界の写真なら、においもついていそうですね。


においと言えば、どんなにおいが好きですか?

私は、実は世の中で最も好きなにおいが、野焼きのにおい。
懐かしいからなのか、よく分かりませんが、今でも野焼きのにおいを嗅ぐと、とっても幸せなんですよね……
親には変な奴、と言われていますが^^;

嗅覚は人間の五感の中で最も記憶と密接に結びついていると言われていますよね。
確かに、視覚や聴覚は、脳がこれまでの経験でアレンジして『像を結んでいる』、つまり脳の回路を通っている間に変換されている可能性があるけれど(よく、テレビ番組でやっている『錯覚』ですね)、嗅覚というのは古い感覚、つまり大脳皮質系をあまり介さない、原始的な脳の部分で感じているもの。
敬愛するカール・セーガン氏の言うところの『エデンの恐竜』(人間の脳の中には恐竜がいる…つまり、原始の脳が人間の脳の中にちゃんと残っているという話)ですね。

とすると、私の野焼きにおい好きは、最も記憶と強く結びついている…
幼少期の思い出のなせる業なのでしょうか。
ずっと忘れていた何か、感覚・感情など説明できないものも含めて、それを引き出すカギのようなものなのかもしれません。

となると、いつかまた、よく似た悪臭を嗅いだとき、美しいヴェネツィアのAcqua Alta、水没した世界で最も美しい広場と言われるサンマルコ広場を思い出すのでしょうか…
(ちなみに、私が世界で最も美しいと思っている広場は、シエナのカンポ広場。ヨーロッパ旅行歴が決して多いわけでもないのに、すでに3回も行っている…一度などは、シエナしか行かなかった旅も…)


ヴェネツィア水没写真、見つけたら、またいずれアップいたしますね。
なかなか見ものです。
でも、やっぱり、『臭いをお届けできないのは残念』。

Category: 旅(あの日、あの街で)

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【物語を遊ぼう】11.つかず離れずが萌え 

『つかず離れず』
この言葉ほど、書いている時にも読んでいる時にも萌えるものはありません。
言い換えれば、物語というのは、この『つかず離れず』で成り立っているといっても過言ではないかもしれませんね……手が届きそうで手が届かない、真実が分かりそうで分からない、そして人と人の間も理解できそうで理解できない、その狭間のようなものの中に、無限の物語があるのです。
今回は、この『つかず離れず』で私が萌えまくった二組のカップル(カップルではないとも言えるけど…それがまた萌え)をご紹介します(*^_^*)


究極の『つかず離れず』ケーススタディ(^^)

【ケース1】Xファイル:モルダーとスカリー

有名な海外ドラマですが、少し古いので一応解説。FBIの奇怪な現象を扱う部署、X-FILE課。そのメンバーは2人で、妹を地球外生命体に誘拐されたという過去を持つ変人のモルダーと、モルダーの見張り役として配属されたいかにもキャリアウーマンという印象のスカリー(でも実は大変敬虔な女性)。
始めはUFOだの謎の生命体だの信じていなかったスカリーだが、奇怪な事件に遭遇するたびに、暴走するモルダーを止めながらも、認めざるを得なくなっていく。

…そしてこの二人、恋人?ということにはなかなかならないのですが、ともに事件を解決していく(というよりも大概事件は解決していない? 振り返ったら変な生き物がまだ生きている…って感じの終わり方ばかり^^;)過程で、信じ合う存在、互いになくてはならない存在だと認識していくのですね。そう、単なる恋人とは少し違う、運命共同体の様な存在。そうこうしていると、スカリーが宇宙人に誘拐されたり、モルダーが行方不明になったり(もちろん宇宙人がらみ)、物理的にも距離があったり…(#^.^#)

でも、気が付いたらいつの間にか、ミレニアム(2000年のNEW YEAR)ではキスしてるし、でもそれまでそんな気配あったっけ? 本当はどうだったの、この二人? いつの間にキスするような関係だったの? みたいな萌え。とは言えその後も、あのキスは実は挨拶代りだったのかと思うくらい発展していないようにみえるし、謎に包まれたまま…
その後、宇宙人の介入でスカリーが妊娠するんだけどどうやら実際の相手はモルダーっぽかったり……そしてラスト、二人きりで逃避行しながら、何だかもう完全に運命を共にする世界へ……この件だけ取り上げると、いかにも『くっつきました』って聞こえますが、とにかく延々とつかず離れずだし、これからだって本当にどうなるのという感じで終わったのです。

恋人同士の域を遥かに超えている深い人間関係(危機的な環境下では恋に陥りやすいから?)、くっつかないまま長々と時間がかかり、くっついたように見えてもちょっと離れて見える…大好きな関係性です。
ちなみに私は、スキナーとドゲットが好きでした(*^_^*)

でも、こうやってあらすじにしちゃうとバカっぽいことに気が付きました。この話、番組を見ると、本当にそんなこともあるかも、と思えるのですが、私の解説能力では『宇宙人?誘拐?ちゃんちゃらおかしいわ』ってことにしか見えない^^; 実は宇宙人と取引しているのはアメリカの政府絡みという裏があって、このFBIの上司たちや政府関係者の胡散臭さがたまらないのですね……このドラマが『アメリカで受けた』のは、曰く、アメリカ国民が自分たちの政府は本当にこんなことをしてそう、と政府を懐疑的に思っているからだとか。確かに、一度エノラ・ゲイ(原爆を制作していたという区域)のそばを通ったことがあるのですが、何とも口では説明しがたい『あるかも』な雰囲気でした。一般人の知らないところで起こっているこわーい事実。

【ケース2】スタートレックヴォイジャー:ジェインウェイ艦長とチャコティ副長

スター・トレックシリーズ(正確には最初のシリーズ『宇宙大作戦』)はもう私の青春そのもの、みたいなドラマでして、スポック博士に乙女心を鷲掴みにされ、ドクター・マッコイの何でも治しちゃう(…って、まぁ、何してるわけでもなく治るのがすごい)技術にうっとりし、カーク船長を含めた、ちょっと中途半端な男三人の友情にほだされ……
でも、今回挙げさせていただくのは、スタートレック・ヴォイジャー。シリーズの中では唯一の女性艦長で、しかも通常の世界/次元から切り離され、宇宙の異次元ともいえる世界に入り込んでしまって、何とか地球に戻ろうとするんだけど異世界から戻る手段が分からないまま流離うという、ちょっと異色の話なのです。
噂では、最初のシリーズ・宇宙大作戦(カーク船長)の頃への回帰のために制作されたともいわれるこのシリーズ(つまり、宇宙大作戦は、地球から宇宙へ出て行った人類が新たなフロンティアを求めて旅するという話だったのが、新スタートレック、ディープスペースナインになって艦隊戦などが登場してきて、宇宙戦争ものみたいになったのが気に入らなかったスタッフがいたのかも)、本当にもう萌えどころ満載でした。

ジェインウェイ艦長はストイックでかっこいい女性艦長なんだけど、どこかに少し女性の弱さを持っている、でも普段はそんなことはおくびにも出さない。地球には夫が待っている。そして副長のチャコティ。インディアンの血を引く、もと反政府軍のメンバー。言わないけどね、時々ぶつかりながらも(結構好き勝手言っていたかな…)艦長を尊敬し、実はちょっといい雰囲気までいってるんだけど……しかも地球にいるジェインウェイ艦長の夫は、もう妻の宇宙船は行方不明で帰ってこないと聞かされていて他に女性ができていたりするんだけど(たまに次元が交錯するんですね…でも地球に帰還するまでは信じたくないのでしょう…というようなエピソードがあったと思うのですが、私の妄想?)……くっつきそうでくっつかない。

不倫はだめという意識(番組制作上の…)や上官と下官の恋(それはまぁ、有名な映画もありましたよね)という垣根がありながら、チャコティは途中から絶対艦長を女として見てると思うんだけど、あぁ、もうどうなの、どうせ地球には帰れないわよ、くっついちゃって!と思ういちファンを無視して、何故か全く別の女が登場。

実は、この異次元には『ボーグ』という全体意識の一部として生きている種族がいます。つまり個としての意識を捨てて、全体意識に同化され、集団のためだけに生きているわけですが(これは結構怖い話で、昆虫の世界、宗教の世界みたいな…)、その中のひとりにセブンという、元地球人で幼いころに両親と共にこのボーグに同化した女性が出てくるのです。色々あってこの女性はボーグから切り離され、大人になってから突然『個』として生きていく運命を背負わされる。でも『個』として生きてきたことがないので、人格自体が真っ白。ここで、人類・『個』としての彼女を教育したのが艦長なんですね。そしていつしかセブン(⇒人間としての名前はアニカ)とチャコティが恋に落ちる。

というよりもアニカは艦長なんですよね……教育を受けていく中でアニカの中に艦長の思い、思考過程や人柄までもが移っていく、チャコティは艦長の代わりにアニカを愛するようになったのか……
う~ん、でもファンはもう何だか不完全燃焼。セブンはいい子なんだけどね。


……こうして、実ったのか実ってないのか分からない、恋のような恋でないような二人のイライラするくらい長い関係。くっつかないのは寂しいけれど、くっつきすぎても欲しくない、いっそこのままの方が、と思ったりもする。このどっちなのか分からないうちが結構良かったりもする。
そんなところに萌えるのは、きっと私だけじゃないですよね。
もちろん、ハッピーエンドになってくれてもいいのですが、多くの場合、くっついたようなそうでもないようなまま終わっていく、製作者の心理は一体何なのでしょう??
(私が睨んだところでは、みんな、つかず離れず関係に萌えているから!のはず(^^))


長くなったので二つだけにしてみましたが…他にも今市子さんの漫画、『幻月楼奇譚』の鶴来升一郎と与三郎なんかも、いいなぁと思っているのですが。

皆さんのご存じのつかず離れずの萌え物語、ぜひ教えてください。

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【死者の恋】(4)信じない 

【死者の恋】(4)をお届けいたします。
本当は一貫して真視点にするつもりでしたが、書きたいことがちょっと分かりにくくなってしまうので、女子高生視点を入れていくことにしました。
とは言え、まだまだ始まったところなので、よろしければ今からでもお付き合いくださいm(__)m

岩木山で女子高生・詩津が出会った足の悪いおばあさん。
そのおばあさんが詩津に渡した袋の中に入っていたという骨の入った小瓶。
そのおばあさんに骨を返したいというので、その人を探す依頼を受けた調査事務所所長・相川真。
ちょっとばかり、妖などが見えちゃう人ですが、それはまぁ、おいといて。
だが、詩津は嘘ばかりついているようなのだ…
どこまでが嘘で、どこからが本当?






 小さいころから詩津には家に居場所がなかった。

 もちろん、親に愛されていなかったという強い証拠があるわけでもない。自分の部屋もあったし、学校に持っていくもので不足するものはなかったし、ピアノや習字といった習い事にも行かせてもらい、小学校の頃はぐずったら何でも買ってもらえた。特別な事情がない限り、学校参観の日には母親か父親、もしくは祖父母の誰かが来てくれた。中学校に入ると、自分で買いたいものは買えるくらいの小遣いももらっていた。
 父親は製鉄関係の会社の重役で、ほとんど家にいなかったが、たまの休みには自ら家族旅行の計画をして、色々なところへ連れて行ってくれた。母親の家系について言えば、詩津の曽祖父は大臣になる一歩手前で急死したという代議士だったそうで、一家には地方の議員が複数おり、詩津自身は会ったこともなかったが宮家に繋がる人もいるらしいという。母親自身も才媛で、有名女子高から大学に進み、家系から初めての女性政治家が出るかと思われていたらしいが、大学で知り合った父親との間に子どもができてしまい、卒業だけはしたものの、最後の年は出産の準備で、自分自身の将来を考える時間もなかったようだった。

 その時、生まれたのが兄の祐一だった。
 詩津が生まれたのはその三年後だ。
 きっと今だったら、そんな年まで病気が発覚しないというようなことはないのだろう。詩津が生まれた年、兄の祐一が重症の先天性複雑心奇形であることが分かった。もともと少し顔色の悪い子どもだと思われることはあったようだが、身体もそれなりに大きくなっていたし、ご飯もよく食べていて、まさかと思っていたのだという。だが三歳になって近所の子どもたちと遊ぶようになると、みんなについて行けなかったり、急に座り込むことが多くなり、心配になって病院に連れて行くと、チアノーゼがあることが分かった。身体の中の酸素が少ないというのだ。
 すぐに入院、カテーテル検査という運びになって、まだ三ヶ月になっていなかった詩津のことは親戚に預けたり、近所の家に預けたりしながら、両親は兄の検査・手術の入院のために時間を割かざるを得なくなった。正確には、父親は仕事の方に時間を割き、母親は兄のために時間を割き、そして詩津は祖父母と過ごす時間が長くなり、いつの間にか上手く両親に甘える方法が分からなくなっていた。

 もちろん、両親は両親なりに、詩津のために時間を作ろうとしてくれていたのだろうと思う。祐一も入院しっぱなしというわけでもなかったし、家族で旅行に行く時間も作ろうとしていた。決して、詩津のことを忘れていたわけではないのも分かっていた。
 祐一の病気は、完全に治るものではないと説明されていた。何回か手術をしていたが、それもいわゆる姑息的なもので、チアノーゼも完全には取れなかった。時々、不整脈や感染症で入院をした。歩けないとか、寝たきりというわけではなかったし、それなりに学校にも行っていたが、高校一年生の時に不登校になり、学校を辞めた。気難しくなり、無口になった。

 詩津は中学生になっていた。
 ある日、昔の写真を見ていて、ふと気が付いた。
 毎年正月には家族で写真を撮っていた。それが母親の実家の習慣で、父親はあまり乗り気ではなかったようだが、もしかして何らかの事情で祐一が次の写真を撮る時にはこの世にいないかもしれないという可能性を考えると、拒否はできなかったようだった。
 写真の中の家族は、誰も笑っていなかった。緊張した顔というのでもないし、澄ました顔というのでもない。皆の顔が暗い影を持っていて、別々の方向を見ているような気がした。毎年撮っているどの写真も同じだった。
 その家族写真が薄気味悪いと思った。
 きっとそういうことはありがちな事なのだろう。父親は家の外に女を作っていた。母親は何となく知っていたのかもしれなかった。

 普通だったら、そこでもっと傷ついたり、父親を激しく憎んだりするものかもしれないが、詩津は何も感じなかった。始めからみんな一人一人ばらばらで、たまたま同じ屋根の下に住んでいるだけで、分かり合っている家族という気はしなかった。
 小学生の時は、それでも両親に期待されていると思っていたし、兄の命がどこまで続くのか分からない状況では、この島田家における自分の役割は大きいはずだと、子どもなりに頑張ってもいた。母親と同じ中高一貫の女子高に入り、あるいは母が果たせなかった社会での役割を担うようになろうとも、ぼんやりと考えていた。
 突然何か事件が起こったというわけでもない。
 ずっと我慢していた思いが飽和状態になって、零れ出してしまったのかもしれない。
 そう、始めて嶺の歌を聞いたときに。
 そして、いつの間にか詩津は家族と過ごす時間を避けるようになった。

「頼むぜ~、詩津ちゃん……」
 詩津は短くした制服のスカートが風でめくれあがっているのも承知で、屋上に大の字で寝転がっていた。詩津の視界いっぱいに、くぐもった東京の空が裾を切り取られたドームのように広がっている。そのドームのど真ん中に、煙草を咥えたままの嶺の顔が現れた。
 覆いかぶさるような嶺の表情は、陰になってよく見えなかった。
 嶺が屋上の秘密の場所に来てくれることは、ある程度計算していた。いや、気まぐれな嶺を信じることはもちろんできないので、もし気が向いたら探しに来てくれるというだけのことで、探す気になってさえくれたら、詩津を見つけてくれる。つまりは、他にどこにも行く場所のない詩津の居場所はここだろうということを嶺だけは知っているということだ。

 そもそもこの場所を教えてくれたのは嶺だった。
 新宿東口から歩いて十分もかからない場所にあるビル、そのビルの中に嶺のバンドが出演しているライブハウスがあって、本来なら戸締り厳重でなければならない屋上へのドアが一か所だけ鍵が壊れていることを、嶺が教えてくれたのだ。
 ま、行き場所がないんなら、ここで泣いたら?
 もしかしたら嶺もここで一人で泣いている時があるのだろうか。そんなところに出くわしたい。そしてもしも嶺を慰めてあげることができたら、私は嶺の特別になれる?
 もちろん、嶺にそんなことは通じないのは知っていた。
 この屋上が秘密なのは、嶺がここで時々葉っぱを吸っていたり、誰にも邪魔されずに曲作りをする時に使っているからだった。そして、もしかしたら、バンドのメンバー以外で嶺がこの場所を好んでいることを知っているのは自分だけかもしれない、他のファンの女の子たちは知らないかもしれないということを、詩津は期待していた。

「俺の顔を潰さないでよ」
 面倒くさそうな声で言い捨てた嶺が隣に座る。煙草を咥えたまま、首の後ろを掻いている。この間まで伸ばしていた髪を、嶺はバッサリ切っていた。時々気まぐれでヘアスタイルや衣装を奇抜なものに変えるのが嶺は好きだ。神から啓示が来るのだという。
 嶺がちらりと詩津の制服姿を見たのを感じる。女と見たらやることしか考えていないはずの嶺だが、すぐに目を逸らした。横には小さな旅行鞄が投げ出してある。
 嶺は大きく空に向かって息を吐き出した。
「言ったろぉ。あの人には迷惑かけないでくれって」

 ばっかみたい。
 本当は声に出して言いたかったけれど、嶺に嫌われたくなかった。
 嶺がどうしてあのおっさん探偵に頭が上がらないのか、それが詩津には理解ができない。嶺は何だってできるし、怖いものがないと言っているのに、あのへっぽこ探偵だけは怖いとでもいうのだろうか。
「旅行鞄まで持って来てたんなら、何で行かねぇんだよ。電話かかってきちまったんだぜ。せっかくミドリちゃんと朝もゆっくりやろうとしてたのによ、萎えちまったよ」
 嶺の手がスカートの中に入ってくることを詩津は期待していた。それなのに、このごろ嶺はしてくれようとしない。
 いや、嶺と寝たのはたった一度なのだ。

 ファンの女の子はみんな嶺と寝たがっている。だから嶺はボランティアだと言って片っ端から女と寝ている。特別に奉仕をしたら嶺が寝てくれるというので、女の子たちは一生懸命嶺にプレゼントをする。
 あの時、詩津はライヴの後、控室の前で嶺を待っていた。もちろん、控室の前で待つ権利を手に入れるまでに、毎日のようにライブに行き、たくさんの贈り物をした。靴とか時計とか、サングラスとか、外国の特別な煙草とか、お小遣いの範囲でできることは何でもした。他の子たちが売春をしてもっと高価な贈り物をしていることは知っていたし、もしかして自分もそれくらいのことをしないと嶺の近くに行けないのかと思い始めた頃、購入したメンバーの一人の誕生日ライヴのチケットの裏に、下手な字で『あたり』と書いてあったのだ。
 多分、まったくの気まぐれだったのだろう。

 その日、順番待ちみたいに女の子が数人、部屋の前で待っていて、中から複雑な声が聞こえて来ていた。話をしたり抱きしめてもらったりするだけではないのだということは分かっていた。
 最後に詩津の番が来たとき、ドアを開けた嶺が何故か舌打ちした。
 それから嶺は一度部屋に引っ込んだ。
 こんな貧弱な女、抱けないと思われたのかもしれなかった。詩津は高校生になったばかりだったが、背も大きい方ではなく、痩せていて、胸も大きくなくて、まだ中学生のようにも見られていた。
 しばらくすると嶺は出てきて、顎でついて来いというようにした。
 あの日、嶺が何を思ったのかは分からない。惨めで凍えているような詩津の様子を見て、初めてだということに気が付いたのかもしれない。そういうのは面倒だと思っているのかもしれなかった。
 この非常口のドア、鍵壊れてんだぜ。
 嶺がそう言ってこの屋上に連れて来てくれた。
 夏休み前で蒸した日だった。嶺は相手の女の子が初めてだということを気にしている様子はなかった。緊張と興奮と感激で記憶が曖昧で、痛かったのか怖かったのかも覚えていない。

 それからも嶺と二人きりでご飯に行くことはあったし、プレゼントも受け取ってもらっていた。身の上話も少しした。たまに、嶺は私を愛してくれているから、大事に思ってくれてあれからは寝てくれないのだという錯覚に陥ることもあった。だが、多分錯覚なのだろう。
 あんまり良くなかったのだ。他の女の子みたいに。
 でも、たまに嶺が会ってくれるのは嬉しかった。嘘でも何でも、嶺を楽しませるような話をした。だから、ふとあの骨の入った小瓶のことを話したのだ。
 ちょっとばかり深刻な口調で。

「駅には行った」
 詩津はちょっと怒ったような口調で言ってみた。そう、上野駅までは行ったのだ。嶺の姿を探したが、見つけることはできなかった。あの探偵は電話をかけていた。
「嶺、一緒に行ってくれるんじゃなかったの」
「オレ、そんなこと言わねぇよ」
「だって、ライヴがないから丁度いいって言ったじゃん」
 そう言ったら、何だか泣きそうになってしまった。
 嶺がいい加減な男だということは知っている。一緒に行ってくれるはずなどないことも知っている。でも、他に誰を頼ったらいいのか分からない。あんなよく知らない男と一緒に夜行に乗って、もう一度岩木山になんか行きたくない。
 そう、兄のことも思い出したくない。
「お前がオレらのライブがあったら行かないんじゃないかと思っただけだ」
 はぁ、と嶺は息を吐いた。
「勘弁してよぉ。あの人には世話になってんだからさぁ」
「変だよ。だって、嶺、誰も信じないって言ったのに」

 嶺はしばらく黙って煙草をふかしていた。やがてコンクリートの床でもみ消すと、まだしばらく黙っていたが、重い声で言った。
「信じないけどさぁ、あの人は、まぁ、なんてのか、ちょっと違うんだ」
 どこが違うというのだろう。確かに、探偵というイメージからは程遠い、一見のところ、何かを研究している大学院生みたいに見える男だった。話を黙って聞いていてくれたし、時々嶺のことを心配そうに見ていた気がするし、たいていの大人のように、若者がいい加減で何も考えていないなどとは考えていないように見えた。
 そう、大人たちは嶺のことを悪く言う。
 でも、あの探偵は帰り際に嶺に言った。
 嶺、たまには飯でも行こう。それとも、たまにはライブのチケットを回せ。
 普通に、特に心配しているわけではないけれど、友だちだから、友だちがどうしているのかたまに知っておきたい、そういう感じに見えた。
 俺と飯なんて行ったら朝まで飲んじゃうよ。あんた飲めないしさ、ダーリンが心配すんだろ。それに、あんたロックなんて聴かないだろ。
 階段で振り向いてみたら、嶺がひらひらと手を振る後姿をあの探偵はずっと見送っていた。嶺のことを心配しているのだ。きっとそうなんだと思う。

 でも、結局大人は誰も私のことなんか分かってくれない。
 大人だけじゃない、友だちだって、家族だって、誰も私のことを信じないし、私も信じない。
 あなただけが世界と戦っているわけじゃないのよ。
 学校の先生は呆れたように言った。でも、私は闘っているのだ。
 世界と。
 私一人で。

「違わない。変な男と二人で旅行なんていやだよ。真面目そうな顔してても、女見たら厭らしいことするに決まってる」
「あの人、男の恋人と一緒に住んでるんだぜ。お前を襲ったりするかよ」
 ちょっとびっくりして嶺の顔を見る。嶺はまた、はぁ、とため息をついた。
 余計なことを言ってしまったというような顔だった。その嶺の顔は、どことなく真剣で、何かを思いつめているようにも見えた。
 そうだ、何となく、この思いつめた顔が兄に似ていると思った瞬間があった。大好きな嶺と、大嫌いな兄の間に共通点があるなどと思いたくなかった。
 詩津はすぐに頭を振った。そして大の字に寝転んだ姿勢から起き上がる。
「もうあの気持ち悪い骨、見たくないし」

 正直なところ、忘れたかったのだ。ただ、忘れるための心の余裕がなくて、捨てるための努力をする時間もなかった。嶺に話したのは、嶺の気を引きたかったのと、誰かに話して楽になりたかっただけだった。あの探偵の手に渡してしまったのだから、もうどうでもいい。あの探偵も、自分一人で何とかしてくれたらいいじゃない。
 事情を上手く説明できなかったのは確かだ。話を聞いても具体的なところが掴み切れなかったのだろう。何しろ、もう詩津はあれこれ話したくなかった。だから、詩津のいい加減な説明を聞いた嶺が、適当に解釈してあの探偵に説明したのだ。
 迷惑なばばぁ、と説明したのは嶺だ。迷惑だったのかどうか、詩津はもうよく覚えていないし、どうでもよくなっていた。
 だが、あの探偵がいささか困った顔をしたとき、嶺が言った。
 一緒に行ったほうがいいよなぁ。
 嶺も詩津の代わりに自分で説明して、相手にはうまく伝わっていないことを感じたのかもしれない。それはそうだ。詩津は沢山、嘘を交えて話した。記憶が混乱していたせいもあるけれど、思い出したくないことは適当に補った。
 そうしてくれたら助かる。
 探偵は答えた。
 詩津はてっきり嶺が一緒にいてくれるのだと思っていた。

「祟るぞ」
 祟るって何よ。祟ったらいいじゃない。
 もうどうでもいい。
 なんで私が何かしたわけじゃないのに、私が悪いことになっているのだろう。
 もう一度、でかい溜息をついて、嶺が言った。
「行くか」
 詩津は訳が分からなくて嶺を見た。
「ライヴ、三日間ないしさ」
 詩津は不思議な気持ちで嶺を見つめていた。
 二人は新宿のビルの屋上にいた。空には星がたくさん瞬いているはずだが、よく見えなかった。代わりに地上の数多の光が、様々な方向から二人の上を行き交った。それでも二人のいるところは光が避けて通っているように見えた。

 兄は十九になっていて、もう三年ばかりほとんど外出をしなかったのに、ある時、岩木山に行きたいと言い出した。母は喜んだ。どこかに行きたいと兄の方から言ったことが嬉しかったのだ。父はいつものように、義務を遂行するために家族旅行を計画した。
 本当は詩津は行くつもりはなかったのだ。
 兄の部屋に朝食を持っていくのは詩津の仕事だった。嫌だったのに、それだけは何故か続けていた。惰性みたいなものだ。いつものように机の上にトレイを置いたとき、本が目に入った。
『二十歳のエチュード』
 紫色の表紙に白く綴られたエチュードの文字の中に、枯れ木と、零れたような絵具が染みのように広がっている。
 死ぬって決めて死ぬってのはどんな感じだろうね。
 背中に兄の声が覆いかぶさってきたような気がした。
 もう何年も兄とは口をきいていないし、兄の声も覚えていなかった。こんな澄んだ声をしていたっけ、と思って驚いた。
 そして、内容よりもその声が、詩津に旅行への同行を決めさせたのだ。

to be continued

二十歳のエチュード二十歳のエチュード2

古い、古い本です。
これをちょっと出してみたくて…
高校生の頃、大好きだった詩人の清岡卓行さんの後輩、20歳で自殺した原口統三さんの本。
これを読んでいたころ、私もそれなりに文学少女だったんでしょうか。
本を開くと、線だらけ、書きこみありで……その書き込みがまた、今読んだらわけが分からない^^;
あの頃と今の私は本当につながっているのかしら?と思うくらい…
召集され戦死するかもしれないと思いながら若い時代を生きていた人の感じ方、今の私たちは想像するしかないのですが……そして、終戦後間もなく『死ぬと決めて』自殺した一高生。
そう言えば、太宰治も死に至る病に取りつかれていて、過去の小説家たちが死んだ年齢を数え上げて、自分もそろそろなどと言い出し、5回も心中にチャレンジしてやっと実現した…
多分、自殺以外にも死ぬ理由がいっぱいあった時代……戦争にしても病気にしても。
これって、今の時代でもわかるって人もいるんでしょうか。
万が一分かるって言ったとしても、それはきっと時代背景の異なる中では違うものなんだろうな。
私は、やっぱり分からない…かな。今は……

ちなみに嶺が『男の恋人』と言っているのは、誤解です^^;



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Category: ★死者の恋(間もなく再開)

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[雨26] 第3章 同居人の恋人たち(4)/三国志泥人形 

今回から2回分、ベッドの上で美和ちゃんと会話しているだけの真…^^;(18禁なし)
でも、単なる『修学旅行の会話』です。
調査事務所の共同経営者同士(所長と秘書ともいう)、同僚以上、友達以上、でも兄妹未満、恋人未満。
これからたくさんしんどいこともあるけれど、美和ちゃんはいつでも真にとって恋人未満の大事な存在。
多分、真の死後もそれは同じことで……
お互い、結婚は別の人とするんですけれど。
さて、この会話の中で、真という人物を少し紐解いていっています……
会話メインですので、よろしければ楽しんでくださいませ。






「別に何もしないでしょ。いいじゃない」
「そういう問題ではない」
「どうして? やっぱり我慢できなくなっちゃいそう?」
「馬鹿なこと言ってないで、早くベッドで寝なさい」
「やだ」
 子供のように美和がまた膨れるので、真は大袈裟に溜息をついた。
「じゃあ、ここで寝ろ」
 そう言って、とりえずは自分が寝室のベッドで寝ることにした。

 週に二日はマンションに来て家事をしていってくれる高瀬登紀恵が、洗濯して畳んでいってくれた中で、無意識のうちに自分の寝巻きではなく竹流のシャツをひっかけて、いい加減にボタンを掛けると、真は後でソファと代わってやろうと思いながらベッドに潜り込んだ。
 潜り込んでから、ベッドの中に残っている微かな香りにほっとして、あの男の匂いに安心している飼い犬の気分になった。

 簡単には眠れるわけがなかった。美和がここに泊まるようになって、さすがに女の子をソファで寝かすわけにはいかず、自分が何日かソファで横になっていた。眠れなかったのは、他人が近くにいるからだけではなく、ベッドに横になれないからでもなかった。
 今も、美和の挑発よりも、隣に彼の気配のないことに堪えられなくなっているように思えた。寝返りを打つと、ベッドの窪みが変わって、身体を包み込むようにまとわりついてくる。
 まるで悪夢のようだ。
 もう幾日この寝苦しさと闘っているのだろう。涼子のように臆面もなく病院に泊まりこめる立場ならよかっただろうか。だが、彼女のように、ただ傷ついた男の傍にいるだけで満足することはできないだろう。焦っているのはあの男の傍にいることができないからではない。あの男がわけも話さず、一人で何かを抱えたままだからだ。

「先生」
 美和が居間と続きのドアから顔を出した。
「どうした?」
 真は思わず跳ね起きた。
「やっぱり一緒に寝ていい?」
 真はいい加減に着ていた竹流のシャツを調えた。真が返事をする前に、美和はもうベッドの近くまで来ていて、潜り込もうとしていた。
「知ってると思うけど、男はみんな狼だぞ」
 気の利いた言葉も言えず、真はとにかく慌ててそう言った。
「知ってる。すごくいい例が近くにいるから。でも先生は無害なんでしょ」
 自分の付き合っている男をそういうのもどうかと思うが、確かに北条仁はその代表格と言って間違いなさそうだ。いや、そんなことに感心している場合じゃない。
「じゃあ、これは知らなかったかもしれないが、無害そうな男が一番危ない。近所の優しいお兄さんが、幼女暴行の犯人として捕まえられることも多いだろう」

 真としては、慌てたとはいえ、目一杯説得力のあるつもりで言ったが、美和はちょっと考えてから笑い転げてしまった。
 真は仕方なく溜息をつき、真面目な声で言った。
「美和ちゃん、これは絶対良くない」
「そうかなぁ。私は単に一人で寝るのも淋しいと思うだけで。お兄ちゃんがいたらこんな感じかなぁと思っただけなのに」
 それはまさに殺し文句だった。自分がソファに移るという選択枝がぶっ飛んでしまって、真は仕方なく、そのかわり離れているようにと言って美和をベッドに入れてやった。
「ね、本当にいつも大家さんと一緒に寝てるの?」
「寝てるって、隣にいるだけだ」
「別に変だなんて言ってないわよ」
 美和はそう言ってちょっと深く布団に潜り込んだ。人が動く気配が妙に心地よい気分にさせる。眠れるかどうかは別の問題だが。

「香野深雪って澤田代議士の愛人なのかなぁ。澤田代議士って愛人がいるような人じゃないと思ってたけど」
 唐突に美和が話しかけてきた。内容が内容だけに真は驚いたが、あくまでも冷静に答えた。
「それはよくわからない。どこかの悪趣味な週刊誌ネタで、全く根拠もないんだろう。澤田を、知っているのか」
 美和が澤田について何か知識を持っているのかも知れないと思った。自分が見ないようにしてきた、世間が知っている当たり前の澤田の姿についてだ。
「うん。ずっと昔だけど、祖父の土地を売ることになって、その時色々と世話になったって言ってた。今ではその土地、新幹線が走ってるけど。その時父は選挙に出てて、澤田代議士が応援に来てくれてたみたい。私は握手して地方新聞に載ったの」
 何気なく聞いたのに、随分個人的な思い出話で真はさらに驚いた。
 半分は美和がやはり地方の実力者の血縁だということを確認したからだったが、意外なつながりだと思った。
「先生、あんまり関わらないほうがいいと思います。他に女の人なんていくらでもいるじゃない。何も深雪さんじゃなくても」
 急に真面目な声で美和が言った。
 それがそういうわけにもいかないのだ、と真は心の中で思っていた。深雪を身を焦がすほどに愛しているわけではないが、彼女の身体とは離れられないと思う。そう考えれば、自分は随分あさましい男だと思えた。

「ね、先生、初体験っていつ?」
 ついさっきまでしんみりとした調子で話していたのに、美和は唐突にどこかの悪趣味な雑誌のインタビューのような質問を投げかけてきた。
「お前、何だか話をそういう方向へ向けてないか?」
「知っててもいいでしょ。優秀な秘書としては」
 薄暗いフロアライトの灯りの中でも、美和の悪戯っぽい目が潤むように光って見えていた。多分、この娘は、すべてに対して大真面目なのだろう。冗談で何かを言っているわけではないのかもしれない。
「知らなくてもいいだろう」
「はーん、何かやましいことしてるんだ」
「してない」
 やましいといえば、やましい部分はある。だがそれは、美和に対してではなかった。
「年上の人?」
 少し間をおいて、美和が真摯な声で聞いてくる。女というのはこういう時、本気でなくとも演出して可愛らしさを装うことができる人種だ。だが、美和に関して言えば、もう慣れてしまったからなのか、少しも嫌な気がしないのが不思議だった。
 多分、美和には裏表がないからなのだろう。

「俺の話なんか追求しても面白くないぞ」
「うん。でも聞きたい。何か、修学旅行のときこうやって友達と布団潜ってエッチな話とかしたの、思い出すなぁ」
「修学旅行って、高校のか?」
 何てませてたんだ、と思って聞き返すと、美和はあっさりと答えた。
「中学だよ。高校生はだんだん体験に真実味が入ってくるから、皆でそんな話はしないのよ。中学生はまだちょっと夢物語じゃない? 先生も修学旅行の時、そうじゃなかった? 男ってやらしいからそんな話ばっかりしてたんでしょ」
「修学旅行は行ってないから知らないな」
「え?」美和が未確認生命体でも見たように、高い声を上げた。薄明かりの中で慣れてきた目は、相手の顔をほぼ認識できるようになっている。「どうして?」
「さぼったんだ。行きたくなくて」
「どうして?」
 どうして、を二度繰り返して、美和はびっくり一杯の顔を見せた。修学旅行って楽しいのにどうして、と問いかけている顔だった。
「人と一緒にいるのが苦痛だったからかな」
「中学も高校も?」
「中学のときは本当に熱を出した。もっとも熱が出ないかな、と期待してたけど。高校のときは本当にさぼった」
「小学校の時はさすがに行ったんだよね?」
「小学校は学校自体、ほとんど行ってない。行っても結局、保健室だった」
「どうして?」
 また、『どうして』が続いた。
「苛められててしょっちゅう気を失ってたからな、簡単に言うと登校拒否だ。中学の半分も」

 美和にこんなことを話しているのは不思議だが、緊張感から逃れられるのは悪くなかった。それから、この体験は当時から知っている人間は別にして、誰にも話したことがなかったのに、と思い至った。自称親友を宣言してくれていた、今では妹の夫になっている富山享志は、院長や功から聞かされて事情を知っていたかもしれないが、真自身の口から話したことはない。五年間付き合った篁美沙子との間でも、この件は話題になったことがない。それなのに、今自分は何だってこんなにもするりと、こんな話を五歳も年下の小娘に話しているのだろう。
「人生で一度も修学旅行に行ってないの? そんな人初めて見た」
 そう言ってから、美和は真剣な表情をした。
「でも、結構辛い過去、だよね? 変なこと聞いてごめんなさい」
 そうしんみりと言われると、急に愛おしい気分になった。
 美和の美徳は、こうして簡単に人に同感して、素直に謝ってくれたりする点だった。だからつい口が滑ってしまったのか、と思い、急に言い訳しておきたくなった。
 このままでは極めて不幸な、同情に値する傷を背負った悲しく情けない男になってしまう気がした。
「高校の時はそんなに不幸な学校生活ではなかったんだ。クラブもそれなりに楽しかったし、一人だけどお節介な友人がいたし、ただ人と一緒に寝泊りができなかっただけで」
「それでさぼったの?」
 真は返事をしなかった。一体何を話しているのかと自分でも思った。
「何かもったいないような、でも先生らしいような」
 美和はいつの間にか近くにいて、楽しげに笑った。
「それで不良家出少年少女の気持ちが分かるんだ。学校に行きたくない、親と話したくない、友だちも信じられない、自分自身のことも嫌になっちゃう……」美和はそれだけ呟いて、ふと真面目な顔になった。「どんな体験も役に立つのね」
 美和の感想はいかにも彼女らしくて前向きで気持ちがいい。

「でもどうして人と一緒に寝泊りができないの? 女の人とは一緒に夜を過ごすでしょ」
「緊張して眠れないのかな。自分でもよくわからない。女の人のところにも、泊まってくることはない」
 美和は意外という顔をして、ついに真のすぐ側まで寄ってきた。
「ふーん、じゃあエッチだけして帰るんだ。それは女にとっては極めて嫌な男よね」
 と言われても仕方がない。それから美和は意味深な顔をして真を見つめる。
「という事は、完全に大家さんは別格なわけね。大家さん、先生が無意識に引っ付いてくるって」
それから急に美和は何かに思い当たった顔をする。
「って、大家さんはそのこと、知らないの? つまり、先生が大家さんにだけは違うってこと」
 知っていれば、美和にマンションに泊まってもいいなどと言わなさそうに思える。それとも、知っていてわざとだろうか。
「知らないだろうな。でも、そういう言い方は変だろう」
「何で?」
「あいつは、俺が小学生の時からの知り合いで、単に今さら緊張感がないだけで」
「そういう話には聞こえなかったけど。でも、どうして大家さんにそう言わないの?」
「言っても仕方ないだろう? あいつを気分良くさせたって仕方ないし、それにそう言うと、自分は馬か犬並だって思うかもしれないし」
 美和は今度こそ真に完全に引っ付いていた。 
「先生、今の言い方はかなり難解よ。先生が大家さんにだけ安心してるって事が、大家さんを気分良くさせるってことでしょ。馬か犬並みってのは、先生が一緒に寝てて安心してるのは馬とか犬だけってことでしょ。つまり先生にとっては、最上級の大家さんへの褒め言葉と愛情と感謝ってことだよね。しかも先生は大家さんからの愛情を目一杯感じているわけだ。少なくとも、先生がそうだってことを大家さんが知ったら気分良く思うだろうなって感じるくらいに」
 一人解説が終わると、美和はにっこりと笑った。
「ずっと前、仁さんが言ってた。保護者とか同居人とか言ってるけど、あれは肌を合わせたことのない人間同士の距離じゃないって」
「何の話だ」
「何って、先生と大家さんの話に決まってるでしょ」
 真は溜息をこぼした。
「北条さんは、人間同士の感情を全部恋愛モードで量ってるからな」
「でも、当たらずとも遠からずよ」

 美和は完全に真に身体を引っ付けた状態で、というよりも身体を半分乗りかからないばかりの距離で、真に擦り寄っていた。化粧っけはもともとないので、普段の顔とそう変わらない、子供っぽい表情が随分愛しげに見える。
 思えば、年下の女の子とこうやってベッドの中で個人的な会話を交わしている状況など、今まで一度もなかった。付き合った女性は、今思ってみればことごとく年上だったし、会話よりもその行為ばかりに集中していた気がする。
「で、話をはぐらかしたでしょ。何時が初体験ですか? そういう学生時代なら結構奥手だった?」
 美和は屈託なく無邪気な表情を崩さなかった。
 はぐらかしたって、って自分ではぐれていってたんじゃないのか、と思った。どうやってこの話を切り上げさせようかとも思ったが、話が途切れるとまずいことになるかもしれないとも考える。
 こういうのが修学旅行の夜の会話というのなら、一生に一度くらいは味わっておいてもいいのかもしれないと、ふと変な気分になった。美和の魔力というと奇妙な表現だが、この娘は本当に不思議な力を持っている。もちろん、真にとって、ということなのかもしれない。
「十五の時かな」
「じゅうご? 先生こそ、ませてるじゃない」
「そうだ。だからあんまり近づくと恐いぞ」
「別に恐くないけど、意外。年上? どういう関係の人? その人とは何回くらいしたの?」
 矢継ぎ早に聞いてくるので適当に答えておくことにした。
「年上。知り合いの人の女。何回したかは覚えてないけど、片手のうち」
「他人の恋人と寝たの?」
「そうしろって言われたんだ」

 淡々と返事をしていた中に、ふと不思議な感覚が蘇った。
 その知り合いというのは、真がある事情で金が欲しくてモデルをしていた写真家だった。むしろその写真家のほうと数ヶ月、濃密な時を過ごした。ベッドを共にした回数よりも遥かに深い時間が、カメラの向こうと手前にあった。思い出すと妙な感覚が蘇る。
「懐かしい?」
「いや、別に」
 その女性に対して某かの感慨を持っていたという記憶はなかった。多分、向こうもそうだろう。
「男の人は初めての相手ってどうでもいいのかな」
「どうかな。人にもよるし、相手にもよるんじゃないかな」
 美和は真の顔のすぐ側でうつ伏せになって頬杖をついている。
「じゃあ、ちゃんと付き合った人は?」
 まったく、女の子はどうしてこういうことを知りたがるのだろう。
 そう思ったが、美和の単純で素直な興味の向け方にはまるきり厭味がない。
「高校のときの同級生かな」
「事務所開く前に付き合ってた人は違うの? 先生が体壊すくらいだったって」

 美和は意外に物知りだと思った。多分北条仁が何か言ったのだろう。だが、事務所を開く前に付き合っていた女、小松崎りぃさのことは今でもきちんと解決できていないし、それだけに今ここで美和に話せることはなかった。
 真が黙っていると、何かを察したのか、美和は案の定、深追いをしてこなかった。好き勝手なことを言っているくせに、こういうところでは敏感に他人の感情を汲み取る。
「でも、先生って、高校生のときにちゃんと彼女がいたんだね。なんかちょっと意外だなぁ。どのくらい付き合ったの?」
 さらりと話題を戻した美和についていくように、真は答えた。
「五年、かな。俺は、ずっと変わらないって思ってたけど」
答えてから、これも一種の誘導尋問だな、と気が付いたが、小松崎りぃさの話よりはずっとましな話題だった。
「変わらないって、結婚したいと思ってたの?」
「したいと言うよりも、そうなっていくんだろうと思ってたんだ」
「どうして別れたの?」
「振られたんだ。別れる時はあっけないものだったな」
「どうせ先生が優柔不断だったんじゃないの? 結婚したいってハッキリ言わなかったんでしょ。女はやっぱり、他の男には目もくれるな、俺について来い、俺だけを見てろって言って欲しいときがあるわ。あんまりしょっちゅうだとむかつくかもしれないけど」
 美和の言うことは、かなりいい線をついていた。
「今でもその人の事、思い出す?」
「そうだな。たまには思い出すかな」
「一番エッチした回数多いのはその人?」
 何を聞くのやら、と思った。
「そりゃあ、まぁ、付き合った年数が長いからな」
「もしかしてまた会ったら、焼けぼっくいに火が、なんて事になりそう?」
「それは、向こうがないだろう」
「先生は? 今でもその人の事、好きなの?」
「それはどうかわからないけど、俺は別に嫌いになって別れたわけじゃないから」
 そう返事して真は美和のほうを見つめた。適当な質問をしているわけではなく、何か引っかかっているような、心配事でもあるような印象を受けたのだ。
「何かあったのか?」
 真が声のトーンを変えて聞くと、美和は一瞬黙り込み、それからふいと俯いた。
「別に」
 美和の一番の美徳は、隠し立てのできない素直な感情だった。一度言葉を切ったものの、美和は結局、しんみりと続けた。
「先生は誰かほかの人のことを思いながら、別の人を抱いたりできる?」





どうでもいい会話、次回も続きます(^^)
おまけは三国志人形。
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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NEWS 2013/4/13 地震/土鍋/にゃんた 

まずは今日の花…ミヤマツツジ。
沢山かたまって咲いているのをネットで見ると確かに美しいのですが…
ミヤマツツジ
こんな風に、森や山の中で1本だけ咲いているのを見るのが好き。
遠くの山のなかで咲いているのを見つけると、何だかほわんと嬉しい。
そこだけぽっと灯りがともったように赤い(濃いピンク)んですね。
同じ理由で、山桜も好きなんです。
白っぽい桜よりも、赤い葉が一緒に開く山桜が好き。
ちょっと桜餅みたいで(何で? う~ん、一度で二度おいしいから?)

それにしても、今朝の地震、びっくりしましたね!(関西限定ですが)
若いころ、神経過敏だったのか、ナマズ並みに地震で大揺れする前に目が覚めたりしていましたが…
今日は唐突なすごい揺れにびっくりして目が覚めて、次にエリアメールの警報音で二度びっくり。
二度目の阪神大震災!? と思ったけど……

揺れているカメラの映像とか見ると、自分が立っている足元がいかに不安定なものか、わかりますね。
プレートが潜り込んでいる上にあるんですものね、日本。
そう考えると、宇宙の中の地球だって、そのものが実はとても不安な場所にあるわけで…
いつまでも続かないかもしれない、という気持ちで心がけていかないといけないものですね。

で、朝から久しぶりにテレビをつけていたら…
『しっとこ』という番組で、日本大好き外国人(日本在住)の話をやっていました。
日本の漫画をイタリア語に翻訳しているイタリア人女性。
日本の土鍋を愛しすぎてプロの陶芸作家になったというメキシコ人。

イタリア人の翻訳家は「日本の漫画は感情の深さ、交流がきちんと書かれているから」と。
日本で翻訳スクールで講師もされている。
生徒は「(表現されている内容について)日本人でも気が付かない細かいところに気が付く先生だ」と。

メキシコ人の陶芸家は、この狭い日本の中で実に多種多様な焼き物がある、そんな国は日本しかないと。
土鍋が好きで好きで…と語りながら、顔が子供のようにキラキラ。
焼き物は難しい、なぜなら日本の食器は手に持って使うものが多いから、薄すぎると熱いものを入れた時持てなくなってしまうし、分厚く作りすぎると中に入っているものの熱さが分からなくて、食べた時にやけどする…と。
食器を持つ、ということを考えて作っておられるのだとか。

日本人のほうが日本を知らない、ということはよくあるけれど……
当たり前にそこにあると思っているもの、日本の古くからある良いものを見直さなくちゃ、なぜそれがよいと思えるのか、ちゃんと知っておかなくちゃと思ったりします。

たとえば、日本では西洋に追いつけ追い越せで、音楽の授業も西洋ものを中心にするようになってしまっていた。私が子供のころは、ピアノを習うというのが流行り始めたころで…
もちろん、私はクラシック大好きで、若杉弘さん(指揮者、ドレスデンやチューリッヒで音楽監督もされていた)の追っかけをしていたこともあるし、マーラーやブルックナーのCDはずらりと並んでいるし、スカラ座の前に2日間並んだことも、ウィーンの学友協会ホールに侵入してベーゼンドルファーを触っちゃったこともあるし、徹夜してカラヤンのチケットを取ったこともあるけれど……

なぜ子どもの頃、学校で三味線や鼓を教えてくれなかったんだろう!?
ただ、うちの祖母が踊りをやっていたので、日本の民謡は結構知っていた。
あの頃、民謡がブームで、民謡の節に合わせて踊る人が多かったのです。
大学生のころに南座に通うようになり(もちろん、貧乏なので、チケットは老人会の人に余ったのをもらったり、3階の最後列で鼻血出しながら見ていたり、ですが)、初めて和ものに触れまくって…やっと自分で三味線をしようというところに至った。
遠回りですが、今は本当に良かったと思う。
最近、小学校で和楽の授業を取り入れるところが増えてきたそうで、嬉しいです。
沖縄は、そういう意味では自分たちの音楽を大事にしておられる。
外国の人に、日本が古くから受け継いでいる音楽ってこんなのだって言えるようになりたい。

ということで、地震から始まった今日の雑感でした(*^_^*)

最後に、あんなに可愛かったうちのにゃんたの1メートル時代の雄々しき姿。
トラではありません。茶トラ猫です。
イヌではありません。遠くから見たら犬の大きさでしたけど。
京都に下宿していて、久しぶりに家に帰った時のこと。村の中の道を家に向かって歩いていたら、遠くに犬がいるなぁ……あれ、猫? あ、にゃんただ! 
するとにゃんたも私に気が付いて…走り寄ってきた!
あぁ、なんて感動的な再会!
腕の中に飛び込んできた(でっかい)にゃんた!

と思ったら、なぜかガブリ!!
思い切り腕を噛まれた……
う~ん、にゃんた、あれはなんだったの?

こんな雄々しい姿ですが、何度か死にかけてました。
肛門周囲膿瘍があって、しょっちゅう再発していたし、脱水になって死にかけて点滴に通ったことも。
今みたいに血管に点滴できない時代で、皮下に液を入れて、もみもみを何日もやりました。
足も悪かったし、テーブルとソファの間の隙間を何回も何回も跳べるかどうか計って(手で)…えいって飛んで…
落ちてたけど…
それでも一応ハンター。
時々、ハトやカモを取ってきて持って帰ってきた。
ねーねー、すごいでしょ!褒めて褒めて~って。

でも、ある時、薄暗い廊下に紐が落ちていて、拾ったら……
蛇だった!
う~ん、にゃんた、蛇はちょっと……
にゃんた
ワイルドだろう~?

Category: あれこれ

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NEWS 2013/4/12 実のひとつだに/山吹 

今日は利休梅と山吹。
利休梅2利休梅3
まずは利休梅から。
てっきり利休が好んだ花なのかと思ったら、日本にやって来たのは明治時代。
バラ科の落葉低木です。
この花のいけていないところは、冬はただののっぺらぼうの枯木。
春になったらいきなり葉と花がぼんっと開く感じなのですね。それはすごく素敵な春の景色です。
でも、花そのものは華やかというよりは比較的清楚な花なので、茶人が好み、いつの間にか、利休には何の関係もないのに、利休梅という名前に。

まるで北国みたいに一気に花咲いてしまった花たち。
今年の山吹は、咲くのが早すぎるような気がするけど……
山吹1
山吹2
上は、黄色の山吹。実はよく見かけるのは八重山吹ですが、うちの八重はまだ開いていませんでした。
この山吹は一重の山吹。実は結構探して手に入れた山吹。
八重のほうが人気があるのか、なかなか一重は売っていなくて、見つけた時はるんるんで購入。
一重のほうが何だか清楚で、凛として見えるから好きなのです。
下は白の山吹。でも実は、黄色の山吹(ヤマブキ属)とは属が違う(シロヤマブキ属)ので、別物なんです。
花弁の枚数も違いますし、この白のほうは実をつけます。

山吹は実をつけないと言われますが、属が違うので、実をつけるんですね。
実をつけると、後拾遺和歌集の兼明親王の歌『七重八重 花は咲けども 山吹の実の一つだに なきぞ悲しき』の歌が成立しないけど……^^;

さて、有名な故事。
室町時代の武将、太田道灌が越生で突然のにわか雨に遭って、農家で蓑を借りようと立ち寄った時、娘が出てきて一輪の山吹の花を差し出した。蓑を借りようとしたのに、花を渡された道灌は憤慨。
後でこの話を家臣にしたら、それは後拾遺和歌集の歌に掛けて、山の茅葺きの貧しい家で蓑(実の) ひとつも持っていない、ということを山吹の花に託して伝えたものだと聞かされる。
古歌を知らなかった事を恥じて、それ以後道灌は歌道に励んだといいます。

山吹は万葉集にも結構歌われていて、本当に古くから日本で愛されてきた花なんですね。


愛される、というと、今回のBOSSのコマーシャル、いいですねぇ。
「この惑星の住人は、誰もが、勝利者になれるわけではない。ただ…」
「この惑星には、愛されるという勝ち方もある」

どこかで読んだ話ですが、昔、高校野球を取材に来た外国人記者がある監督に質問をした。
『日本人はなぜ高校野球にそんなに一生懸命になるんだ』と。
球児とは縁も所縁もない大人までが熱狂しているのが滑稽に見えたらしい。
『高校野球というのは、負けることを学ぶ/知る場所だからだ』

必ず勝つとは限らない、勝ち上がれるのは1チームのみ、ほとんどが敗者になるのが分かっている、その中で自分の100%をぶつける球児たちの姿、その背景までも含めて日本人は愛しているのだと。
それを聞いた外国人記者は、全国を回って球児たちを取材するようになったのだとか。

もちろん、競技というのは何でも、勝ち残れるのはtop 1 だけですが…
確かに、高校野球はそれぞれの県を背負って?来ているからかもしれませんが、勝ち負け関係なく、スポットライトをきっちりあててますものね。
負けるにも美学があるということなんでしょうね(もちろん実際には、戦争となると話は複雑ですが)。
もともと『負けた者好き』の国民性もありますし(判官びいき)。
平家物語、源義経……
そう考えると、日本人ってやっぱり不思議な感性を持っているのかもしれませんね。
怨霊とか祟りを恐れて、それを祀ることによって怖さを封じ込めようとしたり…


横道に逸れたけれど、歌にまつわる故事。
むかしの人は、古歌や故事をよく学んでいましたよね。
イタリアでは小学生がダンテの神曲を必ず学ぶのだとか。
日本でも国語で古文はやってるんだけど、何だかすっかり忘れてしまったなぁ…
もう一度自分の足元を見つめなおすために、沢山の故事を学び直したいような気がしました。
……温故知新といいますし。


あ、akoさんが満天星の詩を書いてくださるかも…!?
よりたくさんの星に見える写真なども一緒に載せておきまする。
どうだん3
追記:本当に書いてくださいました(;_:)(*^_^*)……感激です!
ぜひ読んでください!4/13の記事です→(akoの落書き帳)
akoさん、本当にありがとうございます。
星の子、ぽこぽこ顔を出しそうで楽しい(*^_^*)

Category: ガーデニング・花

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NEWS 2013/4/10 満天星 

どうだん1

満天星……もうほとんど満開です。
庭には色々な木や花を植えていますが、それぞれの花が毎年ベストの状態とは限らなくて、気候や私の手入れの悪さなどが影響して、良い年も悪い年もあるのです。
ジャカランタなどは、数年前に初めて花をつけてから、また数年間、花を見ていません…
南国の花だけに、難しいのかもしれません。
花と付き合っていると、ちょっと我慢強くなります。

ここ数年、満天星躑躅は悪環境にもかかわらず(慣れた?)綺麗に咲いています。
今日、ブログにアップしてこの花を見ていただこうとカメラを構えてみました。

そして初めて、この花の名前『どうだん』の漢字が『満天星』であることを理解しました。
写真に切り取られた枠組みの中で、本当に花が満天の星に見えた。

当て字だけど、当て字にはちゃんと意味があるんですね。
最近、子供の名前が、読み方もわからないし、どうしてこの漢字? どうしてこの読み方?って思うことも多いけれど、それぞれ両親の一生懸命な思いが込められているんだろうなぁ。

むかしは、生れ出た途端、悪霊に連れて行かれないように、すぐに強そうな名前を付けたとか。
クマとか、シカ(逃げ足が速いから?)とか、トラとか。

あるいは、通称とは別に真実の名前を持っていて、『本当の名前は他人に知られてはいけない、魂を持って行かれるから』と言い伝えている民族もある。

花も、名前も知らないで育てることもあるけれど、名前を知っていると、その花と特別な関係にあるような気がして一所懸命育てようと思う。

名前、ってやっぱり魂のこもったもの、陰陽師的に言うと、『呪』なのですね。

さて、満天星。
秋の紅葉がものすごく美しい。特に寒い地域では紅葉の色が鮮やかで、燃えるようですね。
兵庫県の豊岡市安国寺の満天星の紅葉、ちょうど本堂では障子を開け放つと四角い額縁に…その中に真っ赤な満天星。まるで絵画のようです。

今はこんな風に、真っ白な花を咲かせています。
満天星2

Category: ガーデニング・花

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ソ連(1) マトリョーシカ 

マトリョーシカ

もしかすると、今ではもう珍しいものではないのかもしれませんが……
これは23年前(!)、私がソ連(当時)で購入したマトリョーシカです。
本棚に飾られているのですが、最近中まで開けてあげてなかったなぁと思って……(^^)

マトリョーシカと言えば、中は空洞になった木の人形が入れ子になっていて、どんどん小さいのが中から出てくる…ってやつですが…

分かりますか?
向かって左からゴルバチョフ、ブレジネフ、フルシチョフ、スターリン……そして最後にレーニン!
なぜか省略されている、アンドロポフとチェルネンコと、もう一人いましたね…短すぎて忘れちゃった。
今ならもっと沢山、なんでしょうね。
エリツィン、プーチン、メドヴェージェフ…もう一回プーチン!?
もしかすると、あんまり特徴ない人は省かれちゃったのかも?

これはモスクワの広場の市場のようなところで買いました。
当時、ソ連はちょうどペレストロイカ真っ最中だったけど、ソ連に行くためには、領事館にビザを申請するときに毎日の日程と宿泊先ホテルとか細々と書いて提出しなければならなくて……
ツアーではなかったので、結構大変だった記憶があります。
うーん、冒険家だったなぁ、昔の私。

びっくりしたのは、両替をしたら、日本円1万円に対して片手では持ちきれないほどのルーブルの札束が返ってきたこと(すごいデフレだった)。
札束の処理に困って買ったのが、このマトリョーシカでした。

もっとびっくりしたのは、月曜日の夜、赤の広場から地下鉄に乗って帰ろうと地下に降りたら、地響きが……
地震だ!と思って、地上に上がったら、どの通りにも戦車、戦車、戦車……!?

ペレストロイカで、比較的写真は自由に撮れるようになっていたのですが、さすがにこの日ばかりはフィルムを取り上げられている人がいました。よくもまぁ、カメラを構える勇気があったと思うけど…

後で聞くと、月曜日の夜は、モスクワ周囲のあちこちから赤の広場に向かって、演習で戦車を動かすのだとか(錆びないように?)……
ホテルに帰るために、郊外の駅で地下鉄を降りたら、まだ戦車の音が……
一体、どんなけ走ってるの!? 恐るべし、ソ連の軍事力!と思いつつも、何より戦車だらけで道路を渡れない……
戦車の上には運転席?コックピット?から顔を出している兵士さんたちが…しかもみんな男前。
どうすることもできなくて、また無謀なわが友人が『手を振ろう』(@_@)
何だかわからないので取りあえず手を振ってみたら……(^_^)/~

カーネーションを投げてくれた!?
何で?
今でも謎です。

ソ連は、アエロフロートの機体がぼろいのに、着地したのが分からないくらいパイロットの腕は抜群だった。
しかも税関は男前ばっかり。
(中に入ったら、貫録のあるおじちゃんばかり!? なぜ、あれがこれになる(?_?))
ロシアになって、どうなったんだろう?

写真は、当時、道路や橋、つまり軍事的に使える場所は決して撮ってはいけないと聞いていましたが、わりとそうでもなかった。赤の広場の見張りのお兄ちゃん(例にもれず、男前)とも一緒に写真を撮ってもらいました。
何せ、その時、私たちが話せたロシア語は一文だけ。
実は、まったくロシア語が話せなかったので、ひとつだけ覚えようということになって……
覚えたのがこれ→『私と一緒に写真を撮ってください』(ロシア語自体は忘れちゃった)
これは、ずいぶん役に立ちました。

ソ連の話、まだまだ面白い話があるけど、またの機会に……^^;

Category: 旅(あの日、あの街で)

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[雨25] 第3章 同居人の恋人たち(3) 

 滲んでぼやけたようなネオンの文字、時々車の方を鬱陶しそうに見る目、夜通しあらゆる種類の騒音が通りを横切る。それでもこの新宿の街は、人混みで吐き気に襲われるというどうしようもない真の病気を、多少改善させたという不思議な治癒力を持っている。あまりにも飽和状態に詰め込まれた雑多なもの、喜びも苦しみも成功も失墜も、あらゆる幸福も不幸も、そういう全てのものに触れすぎた結果、真の心の苦しみを脱感作させていったのかもしれない。どこまでも全てを飲み込み隠すような町が、真の中の何かを庇っているのかもしれなかった。
 今日両親の元に帰った中学生も、明日幸せになれるかどうか分からない。家族は一緒にいるだけで幸福とは言えないことは、この仕事を始めてよくわかった。自分のような人間は少数だと思っていたが、そうではないのだろう。

 車を隣のビルの地下駐車場に入れてドアを閉めた時、風でうるさいから閉めるようにと書かれた張り紙が、ばたばたと音を立てていた。地下駐車場は二十台ばかりの車が停められるようになっていて、時々通りを吹き抜ける風がここまで入り込む。だが今日の場合は階段室の戸が開いているからだった。
 夜間なので、この階段を上がってもビル自体の玄関が閉まっている。それでも安全性を考えれば、まったく防犯の意識がないと言える。真はその扉を閉め、車の通ってきた通路を上がり、表に出て隣のビルへ向かった。

 調査事務所が入っているビルの階段にも風が舞っていた。真はふと息をついて、一気に階段を駆け上がった。階段の蛍光灯は切れ掛かっていて、時々妙な音を立てている。遠くはない彼方でパトカーか救急車のサイレンが奇妙な振動を残している。
 階段を上がりきったところで、目の前の状況に一瞬足が止まった。
 薄暗い廊下の明かりの中で、事務所のドアが開いているのが目に入った。
 明かりがついているならば違和感もなかったが、明らかに事務所の中は暗がりだった。真は物音がないことだけを確認して、事務所の入り口の電気を手探りでつけた。

 全く見事に荒らされている。
 一度そういうことがあった後で、個人情報が入ったようなものは奥のセキュリティのついた部屋に入れるようになった。だが、それも無駄と分かると、今度は場所を変えて本当に大事なものは、三階の宝田が寝袋を持って転がり込んでいる住居兼事務所の空き部屋の奥に入れるようになった。竹流の仲間の誰かがセキュリティを入れてくれたらしく、万が一破られても証拠が残るようになっている。尤も、最高のセキュリティは『貴重なものがあるようには見えない』ということだ。汚らしく一見何もないように埃に埋もれている部屋だけに、誰も大事なものがあるとは思わないだろう。
 しかし、今日の相手はそういうものには興味を感じなかったようだった。

 随分とひっくり返されている。ふと見ると、留守番電話のテープを入れる部分が空きっぱなしでそのテープが消えていた。何もないのでそんなものでも持っていったのかもしれないが、いくつかのどうでもいいフロッピーや他のテープ類、ビデオも消えていることがわかった。
 その時、階段を上がってくる高い靴音が響いて、事務所の前で止まった。真が振り返ると、立っていたのは、田安の店に出入りしている楢崎志穂だった。

 志穂は部屋を見回していた。
「ひどいわねぇ。よくもまぁ、こんなに引っ掻き回したものだわ。何か盗られたの?」
 この間澤田と深雪のことを聞いて真の気分を害したことなど、彼女はもう忘れているのだろうか。真が返事をせずに視線を外すと、楢崎志穂のほうも視線を外した。
「そんな顔しないでよ。この間は悪かったわ」
 それから彼女はもう一度事務所の中をゆっくりと見回した。
「何しに来たんだ?」
「別に。あなたがいたら謝ろうかと思って通りかかったら、電気がついてたから」
「謝る?」
 気分は害したが、別に謝られるようなことでもないと思った。
「私が悪いことを言ったとは思ってないけど、あなたは気分が悪かったでしょうから。留守電のテープがないの?」
 志穂は真の側までやって来てデスクの上を覗き込んだ。

「他には?」
「美和が帰らない」
「あなたの秘書?」
「共同経営者だ」
「彼女ならあなたが居候しているマンションに帰ったわよ」
「どうして知っている?」
 深雪や澤田のことならともかく、一体何故この女が美和のことまで知ってるのかということを理解できず、真は彼女を見た。
「ある男をつけてたら、たまたま彼女も同じ男をつけてたのよ」
「男? 誰だ?」
「さぁ。あなたの秘書に聞いたら?」

 真はしばらく考えを巡らせたが、ようやく質問に思い至った。
「まだ澤田のことをどうかしようと思ってるのか」
「あの男は仇だから」
 真は思わず楢崎志穂の顔を無遠慮に見つめた。
「どういう意味だ?」
「だから、香野深雪にどういうつもりか聞いて欲しいって言ったでしょ」
「君の言っていることは訳がわからない」
「あなたが味方をしてくれるなら話すけど」
 真はわざとらしく息をついた。
「訳が分からないのに味方にはなれない」
「でも、澤田に呼び出されたんじゃないの?」
 ますます理解できない事態になって、真は黙って志穂の勝気な顔を見つめた。
「どうしてそんなことを知っている?」
「いいじゃない、どうでも」

 一瞬部屋の中が静寂になると、外の車の音や何かの騒音が耳についた。宴会帰りの集団の叫びらしいものに被さるようにパトカーのサイレンの音が近付き、そのままスピードを緩めずに遠ざかっていった。湿った空気が古い建物の鉄の窓枠のわずかな隙間から滑り込んでくるように感じる。
 真はまだ志穂を見つめたままだった。志穂の幾分か厚めの唇が、外のネオンの赤を跳ね返して僅かに意地悪く笑った気がした。
「怖い?」
「何がだ」
「澤田があなたをどうしたいと思っているのか。そりゃあ、愛人を寝取った男に優しい言葉は掛けてくれないでしょうから」
 そう言ってから真の顔を見て、志穂はくすくすと笑った。
「冗談よ。澤田がその気なら、とっくの昔にあなたを叩きのめしてるでしょうから。特別に教えといてあげるけど、彼は自分の愛人の恋人に興味を持ったんじゃなくて、あなたの素性に興味を持ったのよ。それがたまたま自分の愛人の恋人だった」

「素性?」
「あなたは、おめでたく自分のお父さんが脳外科医だと思っているんじゃないでしょ」
 真はさすがに息を飲み込んだ。何故この女がそんなことを話しているのだろう。自分には縁もゆかりもない女だ。
「一体、そんなことを探ってどうするつもりだ?」
「別に探ってなんかないわよ。でも、あなたも気を付けたほうがいい。あなたの知らないところで、あなたの値段はつけられてるのよ。誰かがそれをどう料理するか考えている、あなたの意思なんか何も関係ない。だから、私の味方をしてくれたほうが為になると思うわ」
「俺の、値段?」
「そう、あなたの値段も、あなたの同居人の値段も」
 真は思わず志穂につかみかかった。
「どういうことだ。同居人って、彼に何かした奴のことを知っているのか」
 志穂は心底驚いたような顔で真を見つめていた。暫く見つめ合ってから、志穂はようやく納得のいったような顔で俯いた。
「誰が何をしたのかは知らない。でも、彼の値段は特別に高いと思うわ。特に、あなたにとってはね。澤田に会って確かめたらいいわ」
 真はようやく志穂を摑んでいた手を離した。

 志穂はまだ少しの間真を見つめていたが、鼻だけで笑うと、じゃあ、と短く挨拶をして出て行った。荒らされた部屋に一人残されると、気分がますます滅入ってきた。
 もしも、澤田が深雪と寝ている男としての相川真に興味を抱いているのではなく、楢崎志穂の言ったとおり、相川真の血筋に興味を抱いているのなら、それはもっと性質が悪い話だと思えた。
 だが、冷静に考えると、もし澤田が竹流の怪我に何か関わっているのなら、澤田からの食事の誘いは願っても無いチャンスだった。

 真は派手に荒らされた事務所をもう一度見回した。床に散乱した紙や本、ファイル、開けられて中身を引っ掻き回された机やキャビネットの引き出し。元にあった位置がわからなくなっている紙類や本はともかく、机や椅子が壊された気配はなかった。
 事務所の片付けは明日にしようと思った。こんな夜中にこれを片付けるのは気が滅入る。宝田に伝言をしておかないと朝びっくりするだろうが、彼は今頃鼾をかいて眠っているだろうから、起こすのも可哀想な気がするので、彼の驚く分は仕方がないと思うことにした。
 結局真は宝田が慌てる顔を想像しながら、事務所に鍵だけを掛けてマンションに戻った。

 地下駐車場に車を停めて直接部屋に上がると、薄暗いリビングの隅で内線電話のランプが点滅していた。受話器を上げてコンシェルジェに事情を聞くと、真は部屋を飛び出してエレベーターでロビーに下りた。ロビーのソファで美和は背を向けて座っていた。向かいに回ると、思い切り膨れ面だった。
「遅くまでどこ行ってたんですか」
 真は思わず娘を持つ父親の心境になっていた。
「君を捜しに行ってた。遅いのはそっちだ」
 美和はどうして、という顔をした。真は、住人のプライバシーには興味なさそうな上品なコンシェルジェに軽く頭を下げて、美和を引っ張ってエレベーターホールに向かった。
「私だって遅くなることくらいあるわ。遊びに行く事だって。もう子供じゃないんだし」
 美和の言葉が終わるか終わらないかでエレベーターの扉が開いた。中に乗り込んで、ドアが閉まってから真は美和の顔を見ないまま言った。
「女の子が夜遅くまでふらふら遊び歩くんじゃない」
「父親みたいに私に指図しないでよ。それに私、遊び歩いてたんじゃないわ。ちゃんと話を聞いてから怒ってよ」

 確かに自分が美和に怒る筋合いではないな、と思った。その真の表情を見たからか、美和はちょっと楽しげな顔になった。
「何か、口うるさいお父さんと一緒にいるみたい。先生の妹さんって大変だったでしょうね。夜、友達と遊びにも行けない」
 エレベーターを降り、部屋に入っても、真は話すべき言葉を上手く探せなかった。美和が時々、半分楽しそうに自分を見ている視線を感じる。居間に入って上着を脱ぐと、ソファの背に投げ出した。真が言葉もなく座ると、美和はべったりと横に引っ付いてくる。
「落ち込んだの?」
「悪かった。俺が怒る筋合いじゃないし」
「ちゃんと話も聞いてないし」
 そう言って、美和は真の顔を覗き込み、本当に身体ごと引っ付いてきた。

 生活とか態度は滅茶苦茶のくせに、美和は勘の鋭さと素晴らしくよく回転する頭を持っている。そのくせ、しゃべっている内容にどこまで本気でどこから冗談なのか分からない部分がある。やはり葉子に似ているとは思えなかった。葉子も確かに賢くて勘の鋭いところがあったが、こういう鉄砲玉のようにしゃべるけたたましさはない。
「誰をつけてたんだ?」
「どうして知ってるの?」
「ちょっとな」
 説明しがたいところだ。
「本当はね、先生が病院に行くって出て行ってから、私も病院に行って、そのまま一緒にマンションに帰ろうと思って追いかけたの。でも、病院には先生も涼子さんもいなくて、知らない男の人が面会に来てた」
「知らない男?」
「うん。見たことのない人。あんまり大柄じゃなくて、一見老けた感じだったけど、肌の艶からは四十は超えてないかな。何を話しているのかは聞こえなかったけど、敵って感じじゃなかった。でも大家さんの話し方や態度を見ていると、親しい人って感じでもなかったし。それで後をつけたの」
 真は何気なくそういうことを話している美和を見つめた。
「どうしてそういう危ないことをするんだ」
「いいじゃない。無事に帰ってきたんだから」
 真が言い終わらないうちに美和が言葉を被せるように言った。不意に美和が驚くほど顔を近づけてきたので、真は思わずひるんだ。
「それが途中で見つかっちゃったの。で、下手に関わると危ないから絶対に関わるなって。先生にもそう伝えろって」
「その男が言ったのか」
 美和は頷いた。

 その話はそれまでだった。真は美和が風呂から上がってくるまで、居間のソファで煙草をふかしていた。
 澤田と竹流にはどこかに接点があったのだろうか。それとも深雪と? しかし、竹流の普段の態度から深雪と関わっている感じはなかった。竹流は真が深雪と付き合っているのは知っていたし、もしも何か危ない女ならそれなりの警告をしてきそうだ。では、やはり竹流と澤田に接点があったのだろうか。
 いや、そう言ったのはあの女、楢崎志穂だけだ。彼女の言葉を信じるなら、というだけで、まだ信じるべきかどうかさえわからない。踊らされては駄目だと思った。
 だが、澤田の秘書は事務所ではなく、このマンションに電話を掛けてきた。真の事務所ではなく、竹流のマンションに、だ。そこに真がいることを知っている。もっとも、考えてみれば全国誌で同居していることを話したわけだから、誰だって知っているといえば知っている。電話番号を調べることくらいは、その気になれば簡単な話だ。

 美和が考え事をしている真の向かいに座った。例のごとく短すぎるショートパンツだ。年寄りくさいが、腰が冷えるからもっと温かい格好をしなさいと言いたくなる。
「先生、私今日ソファで寝るね」
 考えてみれば、もう一部屋、賢二が以前ここに居候していたときに使っていた客間があるわけで、そこならベッドがないわけではない。しかし半階下になるような造りになっているその部屋は、ちょっと遠いところにあるようで、あまり普段は入ることもない。
「構わないから、ベッドで寝なさい」
「じゃあ、一緒に寝よ」
 真は、全くこの娘は、と思って美和を見つめた。






さて、ちょっとばかり秘書/共同経営者といちゃついているように見えますが、この二人はこれから先の生涯、男と女というよりも兄妹もしくはちょっとした運命共同体という形になっていきます。
ちなみにこの美和ちゃんは、そもそも私たち(友人たち含む)の学生時代、あれこれ興味津々だったころのイメージを形にしたようなもの。
時々、インタビュワーの役割も果たしてくれます。
だから真のことにも、あれこれ興味を持っちゃうのですね。

ちょっとしばらく、二人の気持ちの行き来をお楽しみくださいませ。

Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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【石紀行】7.交野:磐船神社(2) 

狭いお堂の中を巡るみたいな感じなのかと思っていたら、とんでもありません。
まさに岩場を降りたり登ったり。
所々川の水が流れる上を、岩と岩の間に木で橋が渡してあります。
ちなみにこの橋、かなり足場の悪いところに架かっており、斜めになっていたりで、結構怖いです。
いわふね4いわふね5
この岩に描かれた白い矢印に沿って行きます。広いところもありますが、狭いところもある。かなり体を捻って入り込みます。足がつくところの岩がつるつるになっていて(よく神社などで、撫でられた石の牛の頭とかがツルツルになっているのと同じことですね)滑ります。
いわふね16
上を見上げるとこんな風に空が見えるところも。そしてまた登ったり。
いわふね8いわふね6
下を見れば水の流れる不思議な空間があり、上を見れば、「これ、落ちないんでしょうか」というような岩が頭上にあったり。この岩の複雑な組み合わせ、阪神大震災の時にも崩れなかったということですが、長い時間の中で地震や川の増水などを経てがっちりと組み合わされ、もう崩れようがないバランスになっているのでしょうか。まさに石垣を組んであるようなもの……
いわふね9いわふね7
見上げるとこんなふうに空からの光が見えるところもあります。
いわふね10いわふね15
最後は登って、ようやく外に出ました。上から見ても岩がゴロゴロと川を塞いでいる感じに見えます。
水の力ってすごいものだと思います。この土地は生駒に続く峰になるのでしょうか、生駒の石と同じような質感、山の岩の重い質感が石から感じられます。
いわふね11
400
外の山の中にも岩が多くあり、大きな岩には名前が刻まれています。神様の名前です。
また天岩戸と書かれた岩もあります。(宮崎にもありますが^^;)
いわふね12
御祭神は天照大神の御孫神、日本の国の中心である大和の国(奈良県)に入るべく天の磐船に乗り天降られたといいます。太古は淀川が現在の枚方辺りまで入り江になっていて、大和に至るにはこの入り江から天野川を遡るのが便利だったということ。
大昔の日本の地形、今とはずいぶん違っていたんですね。
そしてその場所に、古の日本の基礎がある。

この岩窟巡りは、鳥居を潜り、階段を下りて深い過去へ遡るような暗い世界に入り、狭い道、危険な岩・橋を渡り、時に水を足元に感じ、時に広い場所に出て、また時々光射す天を見上げ、また登り、降り、そして最後に外の世界、現在へ戻ってくる。

日本の神様、日本人の祖の物語、紐解いていくと、どこに行きつくでしょうか。
私たちの祖先がどこから来たのか? それとも、どこへ行くのか?
『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』
(D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?)
ポール・ゴーギャンがタヒチで描いた絵(ボストン美術館蔵)の問いかけが、なぜか思い起こされました。


Category: 石の紀行文(写真つき)

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【石紀行】7.交野:磐船神社(1) 

400
大阪府交野市の磐船神社にご案内いたします。
お社とその後ろに巨大な岩、この岩がこの神社のご神体です。道路からも難なく見えるこの巨大な岩、実は覗き込んでみたら、この下方へも後方へも一枚岩で、ものすごく大きい。
いわふね15
横から覗き込んでみると、こういう感じです。
後ろから見ると下のような感じで、実はまったく全体像が見えません。
いわふね13

道路に沿うように神社があります。傍には天野川が流れていますが、流れは人工的に変えられているようですね。
(もしもこの川の流れが二筋になっていなかったら、岩窟めぐりは不可能でしょう…)
神社を行き過ぎて少し行くと、川沿いに駐車場のようになったところがあります。そこに愛車(チリテレ君)を停めて、いよいよ神社へ参りましょう。
いわふね1
入り口に立った時は、普通に土地の神様にお参りするという以上の感覚にはならない、小さな神社なのですが…
岩窟に入ると世界が一変します。
ちょっと言い方が悪いとは思いますが、まるでゴロゴロ転がった大小の岩の間を抜けるアドベンチャーワールド、ちょっと危険なアスレチックという感じなのです。
足の悪い方、お年寄り(70歳のうちの母は大丈夫だったけど)、危険行動に走りそうなお子さんはやめておいたほうがよさそう。
行くときには、汚れてもいい格好で、靴もよく考えて行きましょう!
(私は、中津川の教訓を生かし、最近は石を見に行くときは登山靴^^;)
ちなみに、雨の日、雨のすぐ後、川が増水している時は入れません。
いわふね14
この川の流れの先、岩が見えていますが、その先にまだまだ岩が…

要するに、川が流れていて、その上にゴロゴロと石が積み重なって、水である程度浸食されて隙間ができて、その隙間を抜けて、岩を登ったり下ったり。木の橋が架かっているところもあって、落ちたらかなりやばそうな感じですので、ちょっと高所恐怖症の私は、部分的に足がすくんじゃいました(そんなに高くはないのですが)。
しかも、かなり狭いところもあり、身体の向きを考えないと動きが取れにくかったり。浸食されて、かつ何度も人が通ったので石の表面がツルツルのところがあって、滑りやすいので、要注意です!

神様の懐を巡るという心で、お参りする、そういう場所ですね。
ちなみに、この川は天野川といいます。天の川…なんだかロマンチックですね。
所用で時々枚方のこのあたりを通るのですが、『天の川で恋をして』…なんて小説を書こうかしら、と思ったくらい、名前だけでインスピレーションが刺激されるような…

この岩の下が岩窟めぐりの神所です。
いわふね2
ここを下りていきます。
いわふね3

長くなりそうなので、続きます(その2へ)。

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【石紀行番外編】世界遺産:フランス・カルカソンヌ 

さて、少し間が空いてしまいましたが、石紀行の番外編をお届けします。
フランスの城壁都市、世界遺産のカルカソンヌです。
全然関係ありませんが、こういう名前のゲームがあるんですね。しかも、まさしく都市を造るという。
むかし、シムシティというゲームがあったなぁと思い出していたんですが(古すぎる?^^;)、それ以来、ゲームには全く嵌ったことのない私には、まるで未知の世界……
街の全体像はどこでも見られると思いますので、割愛します(いつも大局は割愛^^;)。
でも、二重に城壁に囲まれた空からの写真は一見の価値あり。
守りが堅かったから、カール大帝も諦めたんでしょうね。

先に少し感想を。この町は、トゥールーズを拠点に旅をした、フランス南西部の美しい村々からすればずいぶん大味な印象。都市自体は大きく、近くに新市街があって、こじんまりとした旅をお望みの場合にはちょっとイメージに合わない町かもしれません。モン・サン・ミシェルに次ぐ世界遺産・観光都市というだけあって、人は沢山いるし…田舎好きの人には強くはお勧めしません。

しかし、世界遺産は世界遺産。
多分、夜、この城壁都市を外部から見たらすごくきれいなんだろうな…旅行案内とか見ていると…
カルカッソンヌ3
こんな汽車のような乗り物で、城壁の外を巡ることができます。
しかも、この汽車、優れもので、何か国語もヘッドホンで解説が聞けるようになっていて、日本語もありました。
外回りだけなのですが(3km)、歴史の解説もあり、よくできています。
カルカッソンヌ1
上は、城壁の外側からの景色。下は二重の城壁の間。
カルカッソンヌ2
城壁都市の中での見どころは、お城(コンタル城)と教会でしょうか。

お城からの眺めはなかなか良いです。でも、旅行案内書にありがちな写真よりも、最近は町の中のちょっとした景色を撮るほうが楽しい気がしています。
ただ、後で見て、どこの町だったか思い出せないこともあるのが難点。
必ず、目印になる写真も一緒に撮っておかないとなりませんね。
カルカッソンヌ8
カルカッソンヌ9
こうして町の屋根や、こっそり見える住まいの断片を見ていると、物語が生まれそうです。
八乙女夕さん(scribo ergo sum)の書かれる『大道芸人シリーズ』とか、こんな町のひとつひとつの小さな角で起こる物語が紡がれている……その光景を想像しながら写真を見つめちゃいます。

しかし、教会は素敵でした。
以前に、モン・サン・ミシェルのシンプルな、色を極力抑えた素敵なステンドグラスをお目にかけましたが、こちらはいかにもフランスの大きな教会の煌びやかなステンドグラス。
神様の世界を表すには、キラキラも必要不可欠。
【清明の雪】(拙作…すみません^^;)で竹流つぶやいていますが、そもそも仏教のお堂も極彩色のキラキラだったわけで、それは天国や極楽はたぐいまれなる美しさであるという人間の憧憬の気持ちが、この艶やかな色の中に込められているのですね。
足元、床に落ちた色彩の豊かなこと、これはもう言葉には尽くせません。
カルカッソンヌ5
カルカッソンヌ7
カルカッソンヌ6
カルカッソンヌ8

ついでに、お墓。城壁の外にあります。
カルカッソンヌ4
そう言えば、ヨーロッパに行くと、お墓って結構観光しますね。
(日本でお墓を観光すると言えば…変な感じだけど、高野山では結構お墓さがししたなぁ…徳川家康とか豊臣秀吉とか、別にそこに眠っておられるわけじゃないけど)
著名人のお墓を見たいからでもあるけれど(作曲家とか作家とか)、お墓のあり方が本当に『死者が住んでいる家』であり『死者と語り合うため』の場所みたいで…これは火葬と土葬の違いもあるのでしょうか。
日本では、私のお墓の前で泣かないでください~って歌詞がいかにもぴったりだけど、こういうお墓を見ると、そこにいらっしゃるって感じがすごくする。
お墓と言えば、ヴァチカンのヨハネパウロ2世のお墓詣りにも行きました。
そこは、その人と語りたい、という人々の気持ちがひしひしと伝わってくる場所でした。

Category: 石の紀行文(写真つき)

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NEWS 2013/4/7 台風クラブ 

桜も、北山杉も、百日紅も、モチノキも……根元から揺り動かされるような風です。
うちは海からの風が直接吹き込んでくるようなところに建っているので、雨が降らないままで潮風が運ばれてくると、木々が痛んでしまうので、心配。
何年か前の塩害を思い出します。

こんな風の日に思い出すと言えば『台風クラブ』。
…調べてみたら、1985年の作品でした(相米慎二監督)。
今朝、あまりにもシャッターががたがたいうので目を覚まして、ふと思い出した映画。
その時私は○歳で^^;したが、この映画にはかなり衝撃を受けたことだけ覚えていて、風の強い日にはしばしば思い出すのです。

台風襲来の日、学校に閉じ込められてしまった(担任:三浦/友一がいい加減な先生で…)生徒たちが一晩、学校で痴乱騒ぎをする。一方で東京にプチ家出をした生徒もいてナンパされたり…ラストで学校のグラウンドの木が倒れたり、素っ裸で踊ってたり…記憶の中にある場面は全て一見ハチャメチャなんだけど……
この思春期の危うい少年少女たちを描いた世界。鬱屈した日常を台風襲来という非日常の中で爆発させる……危うさと脆さと、そして若さゆえのしたたかさと。ついでに大人の身勝手さも。これがもし普通の日常の状況で描かれてたら、ちょっとついて行けない話だったかもしれないけれど、突然やってきて短い時間で去っていく台風という巨大で逆らえない何かと絡めて描かれたのが、本当にすごいなぁと。
大好きだったのですが、多分今放映されたらRとか禁とか言われそうな部分も多々あり…
でも、バービーボーイズの歌も良かったなぁ。

風の音を聞いたら、いつも思い出すので。


でも、近頃の災害は、日本の弱い所を狙ってくるような気がしてしまいます。一度災害に遭われた地域にまた襲ってくる…本当に、ニュースを見ていると心が痛みます。

今年はやっぱり変な気候ですよね。
せっかく満開になったうちの桜も一晩ですっかり、半分禿ちゃったみたいになり(いつもなら、4月の第2週くらいに一週間はだらだらと満開風景を楽しめる枝垂れなんですが)、山吹まで芽吹き始め、ついでにハナミズキのつぼみまで膨らみ始めている。
花の咲く時期の変化はちょっとしたことに過ぎないかもしれないけど、この季節に台風みたいな低気圧……

『台風クラブ』が公開された頃は「通り過ぎる」という印象の台風が、近年は随分しつこく感じる。
爪痕を残すという意味では、昔も今も同じなのだけど……
どうなるんだろう。
地上の一部分に立っている自分は、この風を感じてざわざわと不安になる。
地球規模で描かれた気象図を見ると、本当に地球は大きなひとつの球体で、風や雲がこんなに大きく渦巻いているのかと驚く。
対岸の火事は、他人に降りかかった不幸では済まないことが、身に染みる今日この頃。

はなみずき
庭のハナミズキ。もうつぼみが開き始め。この花、つぼみは本当に小さいのに、大きくなるのが不思議。
植物ってある意味、動物よりしたたかでたくましいと思える。
つぼみをあげよう…庭のハナミズキ…って、このつぼみ、もらってもあんまり嬉しくないかも^^;
どうだん
そして、併せて、ずいぶん早くに開き始めた満天星躑躅。
うーん、順番にゆっくり、咲いていってほしかった。一気に梅雨→夏になるのでしょうか?

Category: あれこれ

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NEWS 2013/4/6 はちみつ 

今日ははちみつ。
実は、私ははちみつ大好きっこでして。
やっぱり国産のが、味が濃くていいよなぁと思うんだけど……
難点は高い!ということ。

できるだけ、地方に行ったら、農協いえJA絡みのところで比較的安い、大瓶に詰め込まれた、いかにも地元っていう感じの一品を購入してくるようにはしていますが……

たまにストックがなくなってしまうと、近隣のお店で買うことに。
今回は、前回京都で扇子を手に入れた日、扇子屋さんの近く(河原町通りと烏丸通り、三条と四条に挟まれた区画)でみつけたはちみつ屋さんで購入したもの。
(物が高いだけに、えらくしゃれたお店でした。いつもJAに頼っている私には新鮮…しかし、あの界隈、しゃれたお店が増えましたね。錦市場の中にまで、しゃれたお店が進出…何だか、昔の錦が懐かしい)
ついでに、近所にある、蕎麦を使ったドーナツをメインで売っているお店で手に入れた蕎麦のはちみつ。
はちみつ

はちみつって不思議ですよね。
ミカンのはちみつはちゃんと柑橘類の味がするし、蓮華は蓮華(昔は家の前が田んぼだったので、よく蓮華の蜜を吸っていた…空腹のためではありません^^;)、アカシアはアカシア……それぞれの味がする。
ソバは本当に蕎麦の味なんですよ。
そして、旬かな、と思って購入したサクラ。
本当にサクラのあの(桜餅の!?)味がします。

そう考えたら、花の蜜には、その植物の匂いや味や色んなエッセンスが詰め込まれているんですね…
有難いことです。
先般書きましたが、桜の咲く前、一分咲くらいの『これから咲くぞ』という時が一番好き。
このぎゅっと詰め込まれた、ピンク(桜色)が濃縮されたような木の全体の色合いが好き。
サクラが、今から『桜』になるぞ、という時の迸るような色気と華やかさの一歩手前が好き。
はちみつにも、今度は逆に花を散らせた後の、実を結ぶための全てが、宝物の箱みたいに押し込められているんですね。

これ、蜂さんの努力を横取りしているわけですが、それ考えたら、値段はまぁ、仕方がないかなとも思うわけでして。
以前、はちみつ農家ではなく、趣味ではちみつ作っている人からもらったはちみつ、忘れられない味がしました。
何の花なのか、あるいは色々なものが入り混じっていたのかもしれませんが、甘くて、ちょっと苦くて、野の花の味がした。

皆さんは、どんな味の蜂蜜がお好きですか?

Category: NEWS

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【物語を遊ぼう】10.『鬼平犯科帳』追記:小説と映像 

前回記事を書いたとき、随分らりっていて?ちょっと混同して書いてしましました。
『鬼平犯科帳』
そもそも小説のことを書くつもりだったのに、たまたまテレビで『正月四日の客』を見てしまったので、引きずられてしまって、半分混同して番組のことを書いてしまったのですね。

ただ、このシリーズに関しては、小説とテレビ番組はもう、本当に切っても切れない…じゃありませんが、番組は小説を逸脱しないように作ってあって、派手なことは何もせず、淡々と語る姿勢を貫いているので、どちらの話をしても違和感がないのではないかと思ったりもします。少なくとも私の中では、ちょっと混乱するくらい、世界は重なっている。

もちろん、原点は池波正太郎先生の小説で、私が心酔しているのは、もともとはそちらなのですが、この番組はベストな役者を選んだと思います。きっちゃんの鬼平から、レギュラー陣、1回きりの盗賊や市井の人々まで。そしてベストな語り方をしてくれている。

実は私、多岐川/裕美さんが苦手だったのですが、『むかしの男』で小説のまんまの捨て台詞『あんな男、あなた様に比べたら塵芥も同然』(ちょっと言葉が違ったかも…すみません、私の頭の中ではこんな台詞。当たらずとも遠からずのはず)と、あの派手やかなお顔でぴしゃりと言い切られたとき、おぉ、なんとまさに久栄さんだわ、と感心しました。

…これは鬼平の奥さんは実は昔男に弄ばれて捨てられて、傷物の娘を誰も嫁にもらってくれないと嘆く久栄の父親に、鬼平が『よし、もらってやる』ということがあったのですね。で、その昔の男が盗賊になって現れて、鬼平との対峙で盗賊が『久栄を女にしたのは俺だ』って言うんだけど、鬼平は『本当に女にしたのは俺だよ』ってあっさり受け流し。で、ラストで、久栄さんが言ったのが、『ちりあくた』です。

いやはや、女って、怖いものなのですよ。ろくでもない男なんて、たとえ初めての男であっても、切り捨てごめんってことですね。やっぱり男の方が、『初めて』に幻想を抱いたりもするんですかね。よく『男は初めてにこだわり、女は最後にこだわる』と申しますし(18/禁^^;)。

さて、盗賊改めの密偵(イヌ)の中に、梶/芽衣子さん演じるおまさがいるのですが、おまさは鬼平が好きなんですね。鬼平は察しているけれど、身分も立場も違う、ましてや盗賊改めと密偵ですから、きっちり誤解のないように一線を引いている。おまさもそれが分かっていて、決してあるラインから出ない。

で、この久栄VSおまさのシーン(多岐川/裕美VS梶/芽衣子)はもう、女の私が見るからか緊迫感があって、小説以上に生々しく見えない火花が出ていて、すごい役者さんたちだわと思うのです。久栄さんは、女の勘でおまさの気持ちを知っている、でも知っていてどうこうなるものでもないので、凛とした態度で臨む。そこには上位にいる女の優越感や傲慢や横柄もちょっとあるんですね。だって『殿様は…』と鬼平のことを語る時、私は殿様のことをこんなに知っているし、愛しているのよってのが台詞ににじみ出ていて、それをさりげなく出しながら、一方では鬼平のために命がけで働いてくれている女への感謝も持っていて、優しく言葉をかける。おまさ役の梶さんも、色々分かっていて押さえて演技をしている。…この二人のシーンだけは、小説では出せない『女の戦い』みたいな気がして、映像の勝利かも、と思う。

えーっと、例に漏れず私は伊三次さんファン。でも、大滝の五郎蔵(おまさと結婚)さんも結構好き。何より、昔から、『理想の人は?』『(ためらいなく)長谷川平蔵』と答えてましたから……


余談ですが、フェリーニの『そして船は行く』という映画があります。第一次世界大戦前夜、偉大な歌手の葬儀のためにナポリから出航した豪華客船を舞台にした群像劇。漂流から救出された難民が詰め込まれている最下層のデッキ、上層にいる芸術家、オペラ歌手、貴族、亡命中の皇太子……そしてなぜか船底にいる不眠症のカバ……何だかわけのわからない作品なのですが、これがもう本当に驚くほど人の顔がいい。
確か、フェリーニはこの役者をそろえるのに、かなり気合の入ったオーディションをして、演技の上手い下手じゃなく(何より、演技がどうと言う映画ではなかったような…)、ただ『その当時(第一次世界大戦頃)の人々の顔をした役者』をそろえたのだとか。顔だけでいい、という荒業?だったらしいです。
役者の顔って、本当に大事ですよね。


で、こちら、鬼平の方は、顔だけで演技できなきゃ困るんですが、役者はよく選んでいると思う。だから、ここぞというときは大物の本当にすごい役者さんを使っているし、そうでなくても吟味した気配を感じる。
本当に原作を読んでいる人が違和感なく入れる番組を、よくぞ作ってくださったと思うわけで、これはひとえに製作者さんの池波作品への敬意、この世界を壊さないという繊細な配慮の賜物だったろうと思います。

同じことは、『剣客商売』にも言えるけれど、『鬼平』の方が上かな? 藤田まことさんはあの秋山小兵衛そのものに見えますけど。やっぱり藤田まことさんは、最高に雰囲気のある役者さんのおひとりです。
(関係ないけど、昔、京都の南座に『必殺』の舞台を見に行きました。第2部に藤田まこと歌謡ショーがあったんですが、必殺シリーズの歌もたくさん!で全て知っている自分らにびっくり。大盛り上がりでした)
『仕事人』は全く『仕掛人』から派生した別物だけど、これはこれで別物ってニュアンスを言葉から変えてしまってはっきりさせているので○。『仕掛人』梅安の小林/桂樹さんは良かったけど、映画の萬屋錦之介さんも良かったなぁ。あぁ、古い……


小説と映画/テレビ番組…って難しいですよね。原作のイメージを壊さないでという、原作ファンの声もあるし、たまには原作を越えちゃう映像もあるし。
でもこの話は、あまりにも遠大なテーマなので、またいずれ。

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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