【石紀行】8.マルタ:カート・ラッツ

さて、マルタ島にご案内いたします。
マルタってどこ?という方もおられるかもしれません…って失礼ですよね。
かく言う私ですが、地中海のどこか、ということしか分かっていなくて、行くと決めてからしみじみ地図を見ました。シチリアの南、ローから見たらチュニジアの方が近い、という感じでしょうか。随分若いころに行ったシチリアを思い出すような、囲い込み農地、そしてマルタストーンの石切り場。
黄褐色の石灰岩(グロビゲリナ)が今回の主役。
上の写真はその囲い込み農場です。都市部はともかく、マルタはどこに行ってもこんな景色。
農地を低い石垣で囲んでいます。
問題の石にご案内する、その前に。
マルタ、いいところです。首都のヴァレッタには聖ヨハネ騎士団の美術館・博物館が立ち並び、海に囲まれた古い街並みも素敵。そして、マルタ島だけでなく、ゴゾ島にも点在している先史時代の巨石神殿。切り出した場所から神殿まで、数十トンの石をどのように運んだのか、いまだに謎とされています。
圧巻は、ハル・サフリエニ・ハイポジウムという地下神殿。
写真禁止のため、観光案内書やホームページなどから見ていただきたいですが、この第2層が素晴らしく、もう開いた口がふさがらない状態のままでした(言葉遣いが変だけど、まさにそういう感じ)。1902年に家を建てている時に地下から発見されたとか(ちなみに昔の人はよく、地下にゴミを捨てていて、自分ちの地下に何らかの空間があることは知っていたというケースが多い)で、入口は本当に普通の家みたいなところ(ナポリの地下遺跡の入り口も普通の家ですが)。後の時代には墳墓としていたようで、7000体の遺骨が発見されたそうです。そしてここは、明らかに地下の岩盤を削って造られた、まさに地下の神殿なのです。第2層の天井も壁も滑らかな丸いドーム状の空間、赤のオーカー、小さな声で囁いても神殿全体に声が広がるような石の反響を利用したマイクロフォン(司祭の祈りが神殿に響くようにしてあったのでしょうか)、機会があったらぜひ、訪れてください。
ちなみに、事前予約が必要で、ガイド付きツアーのみです。
人々も温和で優しいです。何より、マルタ語しか話さなかったタクシーの運転手さんも、わけのわからないところに行きたがる日本人を、よくぞ案内してくださりました。
そうなんです。
カート・ラッツに連れてって!
え?
マルタ(狭いのに)のタクシー運転手さんも知らないようなところに行きたがる、謎の日本人になってしまっておりました……
イムディーナという古い都市を通り過ぎ、ガタガタの道を走り、あちこち聞きながら連れて行って下さった……
すると、ありました!
延々とこの謎の景色が続く場所が……


石じゃなくて、これは地面じゃないの?って……はい、その通りです。
正直、自然の造形じゃないの?と言われても否定はできない。
でもこれは『古代の轍』ではないかと言われているのです。
石灰岩の台地に1.32~1.47mの幅で並行に走る溝が刻まれていて、深い所では75cmほどになっているところも。巨石神殿に石を運ぶ時についたものとされますが(ちなみに車輪はなかったはずの時代だとか?でも、先史時代のことについて私たちが知っていることって本当に僅か)……北アフリカやシチリアにも同じようなものがあるのだとか。
ここで山羊の放牧もされているようで……

また、散歩中の家族(おばあちゃん、お母さん、息子&娘の組み合わせ)に、あっちに石器時代の洞窟があるよと教えていただいて行ってみたら…


それにしても、この謎の轍。
フランスのカルナックの列石に匹敵する、『わけわからん』快感を与えてくれてます。
こういう場所に立って、古代の息吹を感じるとき、ものすごく幸せなんですよね……

この轍、ちょうど足ひとつ分くらいです。
皆さんには何に見えますか?
さて、いずれまた、マルタの巨石神殿へもご案内いたしますね。
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Category: 石の紀行文(写真つき)
におい(臭い/匂い)にまつわる話

今日は今からボランティアに行くので、年休です(^^)
先日、写真を整理していたら、ずいぶん前にヴェネツィアに行った時の写真が出てきました。
どうやら没写真だったようで、別に保管されていたんですが……
こうして写真に撮ると、麗しいヴェネツィア……
この時(晩秋~冬)、高潮(Acqua Alta)のために、一番低いサンマルコ広場は午前中水没するんですね。
これも、水の都ならではの知恵。
だだっ広い広場に水を引き込むことで、町全体が水没しないように緩衝作用をしているということなんですが…
でも、店の中もホテルの中も、1階は水浸し。
板みたいなので土嚢代わりに水をシャットアウトしているみたいですが、はっきり言ってそれでは無理でしょう……と思うようなもの。
私たちが着いたのは午後だったので、水が引いた後だったのですが、お店では水の掻き出し作業中。
これを毎日やっているのですね……
無駄のような、ある意味、風物詩のような。
で、午前中また水没するから、長靴(ビニールカバー?)を買えと売りつけられ…
はい、翌日、本当に役に立ちました。
午前中に着いた観光客の人たちは大変困っておられました。
路地も膝まで水浸しで、歩けないのです。
広場と大きな通りには、板の歩道が置かれている(橋)んですが。
ヴェネツィアは二度目だったのですが、一度目は早春で、もちろん水没する時期ではないので、特に何事も感じなかったのですが……
そうなんです。
今日のお題?……臭いです。
正直なところ、かなりな臭いです。
ほぼどぶ川と言ってもいいのかもしれない…もちろん、気温なども影響するのでしょうけれど…
そもそも水浸しになるとき、町の地面自体が水没するわけで、残飯や犬や猫のうんちもしかり。
不運な場合はその中を歩かなければならないわけです…
(万が一、御飯中の方、ごめんなさい)
二日間の滞在中には慣れましたが、夜、ホテルのベランダから、潮の匂いとともに悪臭!?が爽やかな風となって吹き込む…みたいな。
Acqua Alta…見ものですが、臭いに敏感な人は辛いかも。
で、思ったんですが、写真って臭い/匂いがないから、この町のあの日のムードって、この美しい写真からは何もわからないなぁ、と。
匂い付消しゴムみたいに、その時のにおいも移って/写っていたら面白いのに。
ハリポタの世界の写真なら、においもついていそうですね。
においと言えば、どんなにおいが好きですか?
私は、実は世の中で最も好きなにおいが、野焼きのにおい。
懐かしいからなのか、よく分かりませんが、今でも野焼きのにおいを嗅ぐと、とっても幸せなんですよね……
親には変な奴、と言われていますが^^;
嗅覚は人間の五感の中で最も記憶と密接に結びついていると言われていますよね。
確かに、視覚や聴覚は、脳がこれまでの経験でアレンジして『像を結んでいる』、つまり脳の回路を通っている間に変換されている可能性があるけれど(よく、テレビ番組でやっている『錯覚』ですね)、嗅覚というのは古い感覚、つまり大脳皮質系をあまり介さない、原始的な脳の部分で感じているもの。
敬愛するカール・セーガン氏の言うところの『エデンの恐竜』(人間の脳の中には恐竜がいる…つまり、原始の脳が人間の脳の中にちゃんと残っているという話)ですね。
とすると、私の野焼きにおい好きは、最も記憶と強く結びついている…
幼少期の思い出のなせる業なのでしょうか。
ずっと忘れていた何か、感覚・感情など説明できないものも含めて、それを引き出すカギのようなものなのかもしれません。
となると、いつかまた、よく似た悪臭を嗅いだとき、美しいヴェネツィアのAcqua Alta、水没した世界で最も美しい広場と言われるサンマルコ広場を思い出すのでしょうか…
(ちなみに、私が世界で最も美しいと思っている広場は、シエナのカンポ広場。ヨーロッパ旅行歴が決して多いわけでもないのに、すでに3回も行っている…一度などは、シエナしか行かなかった旅も…)
ヴェネツィア水没写真、見つけたら、またいずれアップいたしますね。
なかなか見ものです。
でも、やっぱり、『臭いをお届けできないのは残念』。
Category: 旅(あの日、あの街で)
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