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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(2) 天野が原・七夕の招待状 

天野川=天の川という川は、一級河川で、大阪府交野(かたの)市~枚方(ひらかた)市に本当にあります。
そしてかの七夕伝説の発祥地とも言われています。在原業平が歌を詠んでいたりもします。

時々、所用で出かける枚方。一号線が天野川と交わる交差点の名前は「天の川」。
ロマンチックだなぁと思い、この題名が先に降ってきたのですが、中身はなかった。
それがいつの間にか中身ができて、このたびちょっと書いてみることにしました。
さっそくのその(2)、ごゆっくりお楽しみください。
ちなみに、この(1)と(2)、どちらを先に読んでも全く問題のない内容です^^;





 緑の色が濃くなった葦などの背の高い草が、川面に覆いかぶさるように繁っている。川面はその陰から見え隠れし、流れのままに光を跳ね返し、時折、夏海の目を射た。
 七夕の日が晴れそうなのは珍しい。きっと明日結婚式を挙げる二人を、天が祝福しているのだろう。

 夏海は河原に降りて、水の上で煌めく光を追いかけた。この流れは十年前から変わらない。いや、二十年前、幼稚園の時、初めてゆうちゃんとさえちゃんに会った時から、何も変わらないままだ。

 交野の倉治に夏海の家があった。両親と歳の離れた弟、そして寝たきりだった祖母と一緒に住んでいた家は、父親の東京単身赴任、祖母の死、そして夏海の大学受験をきっかけに売りに出した。
 今はどんな人が住んでいるのか、何よりまだあの場所に家があるのかさえも分からない。見に行ってみたい気もしたが、足が向かなかった。

 足が向かない。
 そんな簡単な言葉では表現できない。

 そもそもこの天野が原に帰ってくることなど、考えもしなかった。
 もしもこの招待状が届かなかったら、この場所は思い出の隅っこに苦しさと悲しさと後悔と共に残るだけで、これから先、生きていかねばならない夏海の人生の中ではまるきり無関係な場所となったはずだった。

 いや、無関係ということはあり得ないのは分かっている。
 けれども忘れてしまいたい。
 アルバムも、押し入れの奥に仕舞われたまま、見返してみたこともない。
 それなのにどうして戻ってきてしまったのだろう。

 きっと、決着をつけたかったからなのだ。送られてきた点野家長男と仁和家長女の結婚式の招待状は、そろそろ思い切るようにと告げていたようだった。

 送り主は長女の叶恵が新婦となる仁和家だった。
 すごく仲が良かったという覚えはない。
 だが、合唱部のリーダーだった叶恵は姉御肌で、よく気が付き、人望もあって、勉強もできたし、高校生にしては可愛いというより美人という表現がぴったりの女の子だった。仁和家は母屋・分家が何軒もある地元でも大きな古い家だから、きっと立派な結婚式なのだろう。だから高校の合唱部の子はみな呼ばれたに違いない。

 そして、相手の点野家も、同じように母屋や分家が何軒かある、同じように大きな家だった。お似合いの、祝福された結婚だ。

 叶恵からはあらかじめメールがあった。

 夏海、元気してる? 十年ぶりでびっくりさせてごめんね。実は結婚することになったの。七月七日。大安じゃないのが親たちは気に入らないみたいなんだけど、七夕伝説発祥の地に相応しい日でしょ。しかも一年に一度しか会えない伝説の日に結婚なんて縁起でもないとも言われたけれど、ベタベタし過ぎて仕事をサボらないようにという戒めになるからいいんじゃないのって言ったら、それもそうだな、だって。久しぶりに夏海の顔を見たいし、遠くて悪いんだけど交通費持つから、きっと来て。あ、メルアドはみっちゃんに教えてもらったんだ。勝手してごめんね。

 みっちゃんというのは、夏海の従妹だった。同じ高校の合唱部の後輩で、茨木に住んでいる。大学が叶恵と同じ京都の大学だったから、交流があったのだろう。
 そのメールには、結婚する相手の名前は書かれていなかった。

 連絡有難う。叶恵のハートを射止めた人ってどんな人なんだろう。幸せになってね。

 迷いながら、出席するともしないとも分からない、曖昧な返事を返していた。
 招待状に叶恵の結婚相手の名前を見た時、夏海は息を飲み込んだ。
 そして何度も読み返し、ぎりぎりまで考えていた。

 叶恵は私たちのこと知ってたっけ? 

 最後にペンを握った時も欠席に丸をするつもりだったが、母親の目に留まった。さしたる理由もなく結婚式に呼ばれて断るのは、幸福に水を差すようでいけないというのだ。
 そろそろ思い切らなきゃだめだ。

 その時、携帯が震えた。受信したメールは、先日交際を申し込まれた会社の先輩からだった。

 今度の日曜日、空いてたら『図書館戦争』、見に行かないか?

 ちょっと岡田准一に似ていると言われている先輩は、それを自慢したりはしないが、ちょっとだけ気にしているようで、照れる様子が可笑しかった。
 まだ、返事をしていない。でも、遠からずイエスの返事をするような気がしていた。心に引っ掛かりさえなかったら、今すぐにでも映画の返事と一緒に、オーケーの返事をするのに。

 何かが背中を押した。夏海は目を閉じるようにして、出席に丸をした。

 裕道長男裕貴 信孝長女叶恵 の婚約相整い結婚式を挙げることになりました つきましては幾久しく……

 涙は零れなかった。ただ苦しかった。

 私はやっぱりひとりでは前に進めないよ。
 ゆうちゃん
 ……さえちゃん



「なつみぃ~」
 天野川の対岸は枚方市だった。
 今、夏海が立っているのは、機物神社、つまり織姫を祀る神社がある交野市倉治。
 そして対岸の枚方市香里団地の中山観音寺跡には、牽牛石と呼ばれる石がある。
 在原業平が歌に詠んでいたというのだから、それくらい古い時代、この伝説にあやかって、天野川を天の銀河に見立て、両岸に縁のものを配置した古代人のロマンにほろりとする。

 その対岸から、背中にリュックを背負ってマウンテンバイクに跨った背の高い男が、大きく手を振っていた。

 いつもグラウンドの反対側からでも聞こえていた彼の声は、十年たった今でも聞き違えることはなかった。
 合唱部の部室から見えていた白いユニフォームの眩しさ、白球が空高くかっ飛んでいく爽快さ、声を掛け合いながらその一球を追う汗の煌めき。

 目が合ったかと思ったら、彼は地面を蹴っていた。まるで夏海が逃げないようにと慌てるようにして、マウンテンバイクのペダルを漕いでいる。

 風が天野川を渡ってくる。
 ハンドルを握る、逞しく日焼けした腕。確か消防署に勤めていて、救急救命士の資格も取ったのだと聞いていた。

 逃げ出したかったのに、今、夏海は自分に向かって走ってくる彼の姿から目を離せなかった。きゅっと、小気味よくブレーキがかかり、タイヤが地面を擦る音が時間の流れを変える。
「帰ってきてくれたんだ。ありがとうな」

 あまりにも爽やかに、彼は言った。明るい、屈託のない性質は誰からも愛されていたから、きっと今も変わらないのだろう。
 その目を見ると、夏海は心臓が跳ねて、しどろもどろになってしまった。それでも、なつみ、と親しく呼びかけられた時点から、時は少しだけ巻き戻されていて、するりと子どもの頃からの呼びかけが口をついていた。

「ゆうちゃん、また背伸びたみたいね」
 彼はちょっとだけ、何を言い出すの、という顔をしたが、すぐにいつものあの最高の笑顔を見せた。

「毎日牛乳飲んでるからな、って、何言わせるかな。もう誰かに会った?」
 夏海は首を横に振った。会わなければならない誰かが思い浮かばなかった。連絡先が分かるのは、そもそも十年ぶりにメールをくれた明日の花嫁だけなのだ。

「よく分かったね。十年も会ってないのに」
「え? そんなに? いやぁ、すぐ分かったけどなぁ」
 十年前までは、ほとんど毎日顔を合わせていたのだ。時が隔てたものは大きいはずなのに、顔を見てしまえばその時間は吹き飛んでしまう。だが、招待状という現実が隔てた距離は遠い。

「ゆうちゃん、忙しいんじゃないの」
「うん、まぁ。今から明日の打ち合わせなんだ。あ、夏海、もちろん、二次会も来てくれるよな」
「え……」

 そこまでは考えていなかった。月曜日は元気に仕事をする自信がなくて、休みを取っていた。
 忙しい時に、と上司はちょっと嫌な顔をしたが、その代りお盆の当番を引き受けたら、あっさりと、もう数日休みを取ってもいいよと言いだした。
 泊めてくれる予定の従妹のみっちゃんが、せっかく休みなんだったらと、明後日の月曜日はユニバーサルスタジオに行こうと言い出した。美容師の彼女は月曜日が休みだ。

 ゆうちゃんが時計を見た。日焼けした腕に銀の腕時計は眩しかった。
「あ、いけね。行かなきゃ。また明日な、夏海。良かった、会えて。顔見たら、ほっとしたよ。二次会、絶対来てくれよ」
 ゆうちゃんは右手を上げて、マウンテンバイクのハンドルを握り、地面を蹴りかける。

 今、お祝いの言葉を言ってしまおう。そうしたら、今日のうちに泣いてしまえる。
「おめでとう」
「え? あ、うん」
 ちょっと戸惑ったような、照れたような顔をした明日の花婿は、もう一度右手を上げて、天野川の向こうへ走り去った。




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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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【天の川で恋をして】(1) 天野が原・雨の七夕 

予告しておりました乙女な話【天の川で恋をして】をスタートします。
と言っても、かなり短い話ですので、5回以内で終わる予定。
とか言って、【幻の猫】みたいになったら困るので、あえて何回とは書きません^^;

ところで、七夕って終わったんじゃないの?という方もおられるでしょう。
いえいえ、行事とは本来旧暦でするもの。
旧暦なら、今年の七夕は8月13日です。

ファンタジーでもミステリーでもありません。恋愛小説。
え? 大海が恋愛小説?
いえ、本人が一番驚いていますから、そのあたりはさらりと流してくださいませ。
幽霊が出てくるかどうかはわかりませんが、この話、実は下敷きになったホラー映画があります。
でも、その話はあとがきで。

本日はただのプロローグ。さらりと読み流していただければ幸いです。
特に捻ってありませんので、疑いを抱かず?お読みくださいませ。
なお、本来は1回でアップしてしまいたいお話なので、本日夜にはさっそく第2話が登場予定。
ちなみに、【海に落ちる雨】13章もアップされるやも??





「ほら、もう窓を閉めて。雨が入るから」
 少女はまだ諦めきれないように開け放した窓から外を見ていた。

 引っ越しのトラックはもうこの町を出て行ってしまっていた。雨が降り始めたら面倒だからと、早朝からやって来た引っ越し業者は、多くはない家財道具を一時間足らずで小さなトラックに詰め込んでしまった。
 祖父の軽自動車が少女とその母親を迎えに来たとき、雨は降り始めていた。

 両親が離婚し、少女は母の実家である丹波の山の中に引っ越すことになった。
 天野川よりもっと綺麗な川があって、山は緑豊かで、野菜は美味しいし、星がいっぱい見えるのよ、と母親は言った。でも、その場所には七夕の伝説はないだろう。

 数年前、幼稚園で演じた織姫様。あの時からすでに両親は上手くいっていなかったのに、父親は優しい顔で舞台の上の娘の晴れ姿をビデオに撮っていた。
 七夕の度に両親に手を繋がれてお参りした機物(はたもの)神社。参道の両脇に立てられた大きな笹に下げられた沢山の色とりどりの願い事。
 七夕の日にこの町を去ることになったのは偶然だが、それは巡り合わせだったのかもしれない。

 軽自動車に乗ってから、少女はずっと俯いていた。車は機物神社の傍を通った。短冊に願い事を書いてからこの町を出ようかと、母親が言った。
 少女はようやく顔を上げた。そして赤い短冊に願い事を書いた。

 お父さんとお母さんがなかなおりできますように。

 母親が見せてと言ったが、後ろに隠し、社務所の前に置かれた箱の中にそっと入れた。
 降り始めた雨で色とりどりの短冊が濡れていた。

 お金持ちになれますように。宝くじが当たりますように。おじいちゃんの病気が治りますように。お母さんが牛になりますように。仮面ライダーになりたい。アンパンマンのあんこになりたい。東大に合格できますように。世界が平和でありますように。髪の毛がこれ以上抜けませんように。阪神が何かの間違いで優勝しますように。彼と一生幸せに暮らせますように。
 少女にはどれが実現可能な願いで、どれが不可能な願いなのか、区別はつかなかった。

 母親と一緒に車に戻り、乗ろうとしたとき、足元に一枚の短冊が落ちていることに気が付いた。
 短冊の淡い碧色は晴れた空の色だった。そこに綺麗な字でまるで手紙のようにたくさんの言葉が書かれていた。少女にはもちろん、読めない文字がたくさん綴られていた。

 雨が少しだけ強くなった。
 今年もまた織姫様と彦星様は会えないのかしら。
「早く乗って」
 母親の声に急かされて思わずその碧い短冊を拾い上げ、そのまま車に乗り込んだ。

 短冊には吊るすための紙縒りも糸もついていなかった。神社に持っていく前に落としてしまったのだろうか。
 一度だけ、少女は前の席に座る母親に声をかけようかと思った。祖父でもよかった。神社に戻って、この短冊を神社の笹に吊るしてあげたかった。だが二人の重く悲しそうな気配に言葉を飲み込んだ。

 代わりに窓を開けて外を見た。降り落ちる雨と、濡れていく町。いつも友達と一緒に遊んだ天野川の川原。全てが雨の向こうに掻き消えていく。
 少女は何かに縋るように碧い短冊を握りしめた。

 一号線に入る交差点を曲がって、天野川が見えなくなってから、もう一度母親が窓を閉めるように言った。少女はようやく窓を閉め、視線を上げた。

 もしも、いつか交野と枚方に跨る天野が原と呼ばれるこの土地、七夕伝説の発祥の地に戻ってくる日があったら、今日書いた願い事がかなう日なのかもしれない。
 けれど、それはきっと叶わない方の願いなのだ。

 幼い心にもそのことだけははっきりと分かっていた。
 七夕に降る雨。今の暦では七月七日は梅雨の真っ最中だ。織姫と彦星は引き裂かれたまま、かささぎは雨の中で羽根を連ねて橋を作ってあげることもできず、同じようにどこかの木の陰で濡れているのだろう。





絵馬と違って、七夕の短冊に書かれている願い事は縦横無尽といいますか、それはないやろうと思うものがいっぱい。多分、書く人の年齢層の問題もあるのだろうけど、面白すぎる。
何か嫌なことがあったら、「七夕 願い事」で検索してみてください。
しばらく苦しいくらい笑えます。多分免疫力も上がり、いやなことも吹き飛ぶでしょう。
そのオリジナリティはここでそのまま頂いちゃうと、著作権に触れるのではないかと思うくらいです。
ここに載せたものは、小説に使えそうな範囲ですが、本当はこの10倍は面白いです。
それにしても、人の願いって、本当に何でもありだなぁ。




Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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