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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(3) 七夕の朝 

やってしまった…という気持ちです。
引っ張ってしまった。短く終わるつもりだったのに、最低でもあと3話ありそうです。
どうしてこうなるのかなぁ。筋を決めて、書き出したら長くなる。
やっぱりね、と思っている方々もいらっしゃるかと思いますが……^^;
取りあえず、華燭の宴の朝を迎えました。

始めから読んでくださる方は、左のカラムのカテゴリの【天の川で恋をして】をクリックしてくださいませね。
間違えて他のをクリックしたら、それもついでに読んでいただけると嬉しいけれど……長いです^^;
でも、おひとついかがですか?
さて、大海初の恋愛小説の行方は……(大海の行方は??)






 ゆうちゃんが去った後の河原の草地から、昼間に照りつけた太陽の熱が上がってくる。風が凪ぐと一気に夏海の周囲の空気の温度が上がった。
 水の流れる音は聞こえないのに、通り過ぎていく車のエンジンの音だけが大きくなる。耳が遠くなって、つーんと鼻の奥が苦しくなった。

 なんか気持ち悪い。
 しゃがみこみかけた時、さっきゆうちゃんが手を振っていた対岸のその場所に、翻る碧いスカートの裾がふわりと浮かび上がって視界を横切った。スカートと白いブラウスと、長い髪。
 夏海は座り込んだ。

 ……さえちゃん!

 何か言いたくても、夏海の身体の真ん中の空洞に吸い込まれていくように、声が出てこなくなった。
 夏海の身体の中には、あの日からずっと空洞がある。
 真っ黒な空洞。そこに一番大事なものが落ちてしまって、覗き込んでも何も見えない。大事なものを拾い上げようとしても、形も分からないし、何が本当に大事だったのかも分からなくなっていた。

 きっと時間が経ったら忘れられる。
 ずっとそう思っていた。

 でも、忘れてしまったのは、その大事なものが何だったのかということだけで、大事なものを無くしてしまったというそのことは忘れていない。
 何かが欠けているのに、欠けている何かが分からないまま、ずっと「何かが足りない」という思いだけが空回りしていた。

 あの日から、一歩が踏み出せないまま、十年たっても私は同じ場所にいるみたいだ。

 東京の大学を受験すると決めた時、単身赴任中の父親は喜んだ。母親はこの町が好きだったから、しばらくの間渋い顔をしていた。もしかしたら音楽で身を立てるかも、なんて若者にありがちな野望を抱いていたらしい弟は、俺も一緒に行くと言い出した。
 結局、石津家は、夏海の祖母の死を見届けて、交野を離れた。

 そして夏海は東京の外大の学生になり、英語とフランス語を専攻した。大手ではないが堅実な仕事をしている貿易会社に就職し、紅茶や菓子を輸入する部門に配属された。
 夏海には覚えるべきことが山のようにあり、現場では毎日が充実していて、楽しく仕事をしている同僚や先輩たちを尊敬することができた。
 化粧の仕方を覚えて、自分で服も買うようになった。お洒落も買い物も、同僚に誘われて行く映画や舞台も、会社の飲み会も嫌いではなかった。
 
 私は少しずつ前に進んでいる。

 だが、ふと我に返る。
 一人になると夏海は誰かに話しかけている。

 違うの。本当はちっとも楽しくなんかない。お洒落なんかしなくてもいいし、新しい服だって欲しいわけじゃないの。流行の店でランチを食べても別に美味しいわけでもない。どんなに面白い映画だって、見終わった後は何も心に残っていない。

 時々、何もないのに涙が出てくる。
 高層ビルのエレベーターに一人で乗っている時でも、多くの人が行き来する駅のホームに立っている時でも、白熱した会議の途中でも、自分の部屋で一人、明日の仕事の調べものをしている時でも、不意にその時が訪れる。

 鬱病や慢性疲労症候群の簡易診断をやってみると、どれも当てはまるような気がするし、あてはまらないような気もする。
 だが、それ以外はごく普通に暮らしている。何かが足りないのは私だけじゃない。そういうふうに考える余裕だってある。頑張っているのも、時々辛いことがあるのも、泣けてくることがあるのも、本当の友達は今ここにいないと思うのも、私だけじゃない。

 夏海、あんたってさ、すごくちゃんとしてるのに、なんかすごく幼いとこあるよね。
 ある時、ふとしたことで喧嘩になった大学の友人に言われたことがある。

 君って、なんか、掴みどころないんだよな。他に好きな人いるの?
 二、三度デートした人にはそう言われて、すぐに自然消滅した。付き合ったというほどのことは何もない。

 時々聞かれる。
 楽しくないの? 何か不満?
 楽しくなくはない。不満なわけでもない。でも、ずっと心の底のところでは、やっぱり楽しくないのかもしれない。
 この間、『図書館戦争』を見た後、先輩にも言われた。
 楽しくないの?
 そんなことはないとすぐに否定した。
 あれから少しだけ、先輩からのメールは減っている。
 私が早く返事をしないからだ。誰だって、こんなふうに答えをお預けされたら、嫌になってしまうだろう。
 でも、この空回りする気持ちをうまく説明できない。


「振袖とか着たらいいのに。路の、貸そうか。着付けも髪の毛もやってあげるし」
 みっちゃんこと、従妹の路は修行中の美容師だ。
「いいよ。あんまり目立ちたくないし」

「友達の結婚式ってのはさ、男を並べて比べて、よりいいのを捕まえる千載一遇のチャンスなんだよ。こっちもその気で支度しなくちゃだめだよ。それに、数年もしたら、いいのが売れてしまって残ってない」
 かく言うみっちゃんは、この間、三人目の彼氏と別れたばかりだった。

「着物なんか着たら、気ばかり使わないといけないし」
「う~ん、じゃあ、せめて髪の毛と顔は私に預けなさい」

 夏海の顔は特別不美人でもないが、美人とは言い難い。そこそこ可愛い方だと思うこともあれば、今日はどうにもイマイチという日もあるし、時々自分で変な顔をしてみては、ブスだなぁと思うこともある。
 世間的には可もなく不可もなく、と言ったところなのかもしれない。自分の容姿にも顔にも、これと言って自信を持ったことはない。

 ところが、何年かぶりに晴れた七夕の朝、夏海はみっちゃんの魔法の手にかかり、見事な変身を遂げていた。弟子とは言え、魔法使いの腕映えは大したものだった。
「どう?」
 みっちゃんは何かを仕掛ける悪戯ミッキーのような顔をして、鏡の中の不安顔の夏海に向けて、どや顔をしてみせた。

 みっちゃんが化粧をしてくれて、肩までの中途半端な髪をふわふわにカールしてくれると、自分ではないような女性が鏡の中に現れた。

 いや、この顔はどこかで見たことがある……

「うん。こんな感じだった」
 満足そうにみっちゃんが言った。みっちゃんがしてくれた化粧は華やかで明るく、頬にさした紅も光を吸い込んだようで、アイシャドウもアイラインも、目元をくっきりと浮かび上がらせた。

「昔のなっちゃんはこんな感じだったよ」
 鏡の中のみっちゃんは満足そうだ。

「どういう意味?」
「う~んとね、何て言ったらいいのか、こんな感じ。美人じゃないけど、笑顔が素敵で、明るくて、おひさんみたいな感じかな。男はすぐには振り向かないけど、一緒にいたらなっちゃんを好きになる。女の子もね」

 そうだったっけ?
 今は自分の何にも自信がないし、心のどこかで笑ったらだめなんじゃないかと思っている。
 でも、みっちゃんの言うとおり、ずっと前、私はもっと笑ってたな。
 昔もやっぱり、自信なんて何もなかったけれど、それにたまには無理もしていたけれど。

 持ってきた服は地味だというのでみっちゃんに却下された。みっちゃんは自分の服の中からラメが織り込まれたように光る藤色のドレスを出してきた。
「肩、出し過ぎじゃない?」
「こういう時しか着れないじゃない」

 やり過ぎじゃないかなと不安になった。それでもみっちゃんが、なっちゃん、綺麗だよ、と言って送り出してくれた時、夏海はやっと顔を上げた。

 これはきっとチャンスなのだ。
 ゆうちゃんが他の人と結婚したら、きっとそこからが私のスタートなのだ。そのためにここに来たのだから。

 式場は、地元の旧家同士の結婚式らしく、由緒正しい結婚式場である太閤園、そして二次会は地元の枚方に点野家の親戚が最近開いたというレストランを貸し切っていると聞いていた。
 JR茨木駅から電車に乗り、流れていく景色を見つめる。
 天野川が流れ込む淀川を渡った時、夏海はドアのガラスに映る、少しだけ見慣れない自分自身を見つめて、ドアの手すりをぎゅっと握った。

 今日でもう、ゆうちゃんは永遠に私のものじゃなくなるのだから、私はこれきり、心の中でも夢の中でも、ゆうちゃんの彼女になることはない。
 だからもういいよね。これで許してくれるよね。さえちゃん。





結局……いつもの癖が抜けません。
あれこれ、説明してしまう→長くなる。
そこは読んでいる方にお任せ、ってしてしまえばいいのに、あれこれと設定してしまう、悪い癖ですね。
それでも、私にしては、ものすごく説明が少ないほうですけれど……

でも、とりあえず「変身して」結婚式場へ向かいました。
待っているのは「逆・卒業」か、それとも、ただ涙?
岡田准一似の先輩の出番は今後あるのか?(いや、ないな)

次回は、いよいよ『華燭の宴』です。
ちなみに、このお話のクライマックスというのか、筋立てのメインはそこではありません(^^)
だって、ほら、まだホラーじゃないでしょ^m^
って、でるのか、やっぱり。

あ、お絵かきエディタを使ったら、一番小さいのにしたのに、予定外にでかい^^;
すみません、いきなりこれを見た方。
ホラーではありません^^;
ゴーストバスターズでもありません^^;
いや、幽霊払いはあるのか^^;



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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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