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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(5) 天野川・想い 

第5回にしてようやく、主人公を書くことに慣れてきた気がしますが、そうすると終わりも近くなる。
真のように長年書いているキャラクターではないので、つかみどころがなくて、少し手探りでした。
今回、叶恵とヒロタカがいい奴カップルなのか、実は有難迷惑なのか、皆様の判定が??
従兄弟設定は気に入ったので、『ユウキとヒロタカ』でコメディ書こうかしら、と思ったりして。
それから、もしかして1111を踏んでくださった方、リクエストを受け付けるほどのネタもありませんが、何かしら記念を…(明日くらいかな?)。でも、2p漫画とかは無理よ^^;
もちろん、きっちりでなくても、周辺の方、お声をかけてくださいませ……
(唐辛子を切った手で鼻を触ってしまい、ちょっとつらい大海でした)





「ごめんね、夏海」
 トイレに逃げ込んだ夏海を、すかさず追いかけてきてくれたのは、今日の主役の叶恵だった。
 夏海は自分でも何をしてしまったのか、とりあえずとんでもないことをしてしまったことだけは分かって、パニックになっていた。
 叶恵の顔を見た途端、もっと悲しくなって涙が止まらなくなった。

 普通に、感情を大きく乱されることなく生活をしていた。
 東京での生活は嫌いでも好きでもなく、ただ人生は普通に、当たり前に流れていた。
 家族は、揉め事がないわけでもないけれど、どこの家庭にもある「よくある話」程度のことで、ドラマのような劇的な出来事はなにもなかった。大学時代は、合唱を続けることもなく、何となく変わったことをしてみたくて弓道部に入った。大会で団体入賞することはあったが、大きな人生の転機になることもなく、普通に部活を終えた。就職してからも、それなりに満足して仕事をしている。
 
 昔のことは思い出すことがあっても、心をかき乱されるような特別な出来事には繋がらなかった。静かに心の奥底に潜めて、誰にも、自分にも気が付かれないようにしまっておいた。
 今日、夏海は、多分高校生の時以来、初めて大きく心を揺さぶられていた。

「本当にごめん」
「なんで……叶恵が謝るの……」
 声が途切れ途切れになる。夏海は叶恵に聞こえないように、そっと鼻をすすりあげた。
「私、せっかくもらったブーケを……幸せに水を刺すようなことを……」

 叶恵はふうっと息をついて、夏海の肩を抱いた。
「そんなの、こっちが説明不足だったんだから、びっくりさせて、こっちこそごめん」
 ちょっと言い訳させてね、と言われて、叶恵は夏海をガーデンテラスの、誰もいないところへ誘った。木のベンチに並んで座る。
 叶恵のオレンジのドレスが、ガーデンライトに照らされて夏海の傍で煌めいていた。

「パーティの主役がいないとまずいよ。……それに、しらけさせちゃってごめん」
「大丈夫よ。ヒロタカとまっちゃん、あ、司会の子ね、ちゃんと仕切ってるから。何が起こっても、笑いに変える技があるのよ、あいつら。ま、ゆうちゃんはショックだったかもね」
 夏海はうなだれてしまった。
 気持ちを伝えるのは難しくて、言葉がひとつも出てこなかった。

「あのさ、夏海はどうして招待状が来たのかな、十年も会ってないのに、ってちょっと思ったでしょ。実はね、原因はゆうちゃんなのよ」
 夏海は俯いたまま、耳を疑って視線だけ上げた。
「ヒロタカとゆうちゃん、兄弟みたいな感じじゃない。大学の時も就職してからも、ヒロタカったら、合コンとかパーティとか結構仕切ってて、ゆうちゃんにもしょっちゅう女の子紹介してたのよ。ゆうちゃんって、あのルックスだし、ま、ヒロタカと違って頭脳派じゃなくて肉体派だけど、爽やかな感じで、女より野球って感じの硬派イメージも悪くないし、今は消防士でしょ。結構女の子にももてるし、告白されてもあんまり断ってる気配がないから、付き合った女の子は結構いるはずなのに、何故か一か月も持たないのよ。しかも告白した女の方からふってるんだよね。で、女の子に聞いたら、自分のこと好きじゃないみたいだし、大事にしてくれている感じがしないし、つまんないって」

 叶恵はふふっと笑った。
「で、ヒロタカは探りを入れ始めたわけ。私とヒロタカはしょっちゅう一緒に遊んでたけど、本格的に付き合い始めたのって一年ほど前なのよ。その頃から、ヒロタカは自分が結婚するときにはユウキも一緒に結婚して、同じ名前でダブル結婚式がしたいとか、わけわかんないこと言ってて。ほんと、企画好きな奴でさ、最近の結婚式はありきたりでつまらん、とか何とか。でも、ゆうちゃんは一向に恋が実る気配がないしね。で、私らの方は事情があって式の日を決めちゃってから、あ、オメデタじゃないんだけどね、ある時、石津夏海って合唱部でお前と一緒だった子じゃないか、今どうしてるか知ってるかってヒロタカに聞かれたわけ」

 夏海は初めて叶恵の顔をまともに見た。
 化粧がはげたまま、変な顔をしているかもしれないと思ったが、すでに忘れていた。

「ゆうちゃんと夏海、仲良かったじゃない? 塾の帰りはいつも一緒だったし、よく考えたら、ゆうちゃん、家は反対方向だったのに、いつも夏海を送って行ってたんだよね。そうか、それか、と思い込んだらヒロタカはもう作戦開始してたわけ。ゆうちゃんに探りを入れていたら、ゆうちゃんが夏海の話するときだけ楽しそうだって気が付いたんだって、それだけのことだよ。私はみっちゃんに、夏海に今彼氏がいるのかどうかとか確認して、で、みっちゃんにどう思う? って聞いたら、あ~、それはあるある、どうでもいいけどくっつけちゃえって。あの子は男前の兄貴分ができるのが嬉しいとかわけ分かんないこと言って協力してくれたの。だからね、私たちの勝手だったんだ。計画しているうちに、勝手にもう絶対夏海はゆうちゃんのことが好きで、ゆうちゃんは夏海のことが好きで、って暗示にかかっちゃってて、自分たちが善良なるキューピッドだって思い込んでたかもね。ほんと、ゆうちゃんも、夏海も、迷惑だったよね」

 叶恵はちょっと大きくふうと息をついた。
「でもなぁ、みっちゃんも言ってたけど、お似合いのカップルだと思ったんだけどなぁ。というのか、本当のとこ、どう? ゆうちゃん、いいやつだと思うんだけど。優柔不断が玉にキズだけど、誠実ってのか」

 そう、ゆうちゃんはいい奴だった。
 言われたら断れない。
 小学校の時は校区が別だったので、学校でのことは夏海はよく知らないが、クラスの面倒な当番は結局ゆうちゃんがする羽目になっていたらしい。それも、押し付けられたりするのではなく、誰も手を挙げないので、ムカついて勢いで手を挙げてしまっていたのだという。中学生になると告白してくる女の子も出てきて、断りきれないゆうちゃんは野球に打ち込んだ。ゆうちゃんは野球が恋人なので告白しても無駄、というイメージが出来上がり、告白してきた女の子を断るという彼にとっての苦痛もしくは災難を避けて通ってきた。
 ただ一人の女の子を除いて。

「ごめんね。私……」
 叶恵にはお礼を言うべきだと思った。もっと謝るべきだとも思った。
 でも、声が引っかかって出てこない。

 その時、少し離れたところで辺りを見回している背の高い影が目に入った。夏海と叶恵に気が付くと、その影は走り寄ってきた。
 先に叶恵が立ち上がる。そして、立ち止まったゆうちゃんに頭を下げた。
 ゆうちゃんが困った顔をしている。
「ごめんね、ゆうちゃん」
「いいんだ。どうせヒロタカが言い出したんだろ」
 それは怒っている声ではなかった。ゆうちゃんは、座ったまま動けないでいる夏海に向き直った。

「夏海、ちょっと話したいんだ」
 夏海はぼやっとゆうちゃんの顔を見ていた。
 ゆうちゃんは昔から何も変わらない。曲がったことが嫌いで、ちょっと融通が利かない。でも優しくて、それが仇になって、時々空回りする。勉強ができた方ではなかったけれど、野球をやりたくて受験勉強を頑張っていた。

 夏海、あのさ。
 ずっと昔、ゆうちゃんが何かを言いかけた時、夏海は話をはぐらかした。
 一度は照れ臭くて。二度目は、友情を壊したくなくて。

 ずっと我慢していたことが零れてしまいそうになる。叶恵が夏海の肩にそっと手を置く。
「わたし……」
 もしかして、ゆうちゃんは本当に私を想ってくれていた? それとも、ただノリで、周りの勢いに合わせてブーケをくれようとしただけ?
 夏海は混乱していた。今、何かを打ち明けられても、自分でも思いがけないことを言ってしまいそうで怖かった。
 もしかして、本当にゆうちゃんが私を想ってくれていても、私は今、なんて返事をしたらいいのか分からない。

 ガーデンテラスには天野川を越え、田んぼを渡った風が吹いている。それは懐かしい匂いだった。ずっと昔、一緒に歩いた天野川の河原。叶恵が言う通り、塾の帰り、ゆうちゃんはわざわざ私の家まで遠回りしてくれた。一応夏海は女の子だからさ、とちょっと失礼なことを言って。

 次の言葉が出ないままで俯いてしまったとき、膝に置いたままのバッグの中で、携帯が震えた。夏海は何かに救われたように立ち上がった。
「ごめん」
 この場所から逃げ出す理由ができたことに夏海はほっとした。
 ゆうちゃんと叶恵から背を向け、少し離れたところでバッグに手を入れて、振動を探る。
 みんなにスマホに変えないの? と言われながらも、夏海は今もガラケーと言われる形の携帯を使っている。仕事の利便を考えてもスマホに変えた方がいいのは分かっているのだが、まだ何となく、新しいものに手を出せずにいた。

 先輩……
 電話をかけてきたのは、告白してくれたのに夏海が返事をそのままにしている、岡田准一似の会社の先輩だった。
『石津、今、いいか?』
 夏海ははい、と答えた。答えながら、少しずつゆうちゃんと叶恵から離れていく。
『いや、あのさ、本当は会って話した方がいいかって迷ってたんだけど』
 先輩は言葉を切り、しばらく沈黙していた。

 電話の向こうは賑やかだった。どこか、街の中にいるのだろうか。多くの人が行きかい、恋もたくさん生まれて、たくさん消えていく、毎日何かが生まれて次の瞬間には動いている、素敵だなと思ったものは次の日には目の前から消えている、そういうことが当たり前のあの街のどこかの中に、先輩はいる。
 そして今、夏海は、懐かしい風の匂いのする、まったく別の遠い場所にいる。恋は恋と気が付くまでにも時間がかかり、恋人たちが気が付かないまま通り過ぎようとすることもある。それでもその気持ちはずっとそこにとどまり、緩やかに大きな川にたどり着くまで静かに河原を歩く速度で心の中で育っていく。幼すぎて、解決する方法を間違えながら、苦しくて悲しい想いも巻き込みながら、風と共に吹き渡り、また舞い戻ってくる。

 東京の街の中にいる夏海と、この町にいる夏海は、まるで別の人間のように重ならない。
 いい先輩だった。仕事では厳しいけれど、部下思いで、いつでも相談に乗ってくれる。
 もしも、この町で生まれ育ったのでなければ、夏海には何の迷いもなかっただろう。
『明後日、職場で会って、普通に話したいから、今言っておこうと思ったんだ』
 はい、ともう一度夏海は答えた。
『その、この間さ、言ってただろ。もう少し時間が必要なんだって』

 夏海は涙をこらえていた。こらえながら歩き続け、ゆうちゃんからも遠ざかっていた。
 先輩とはあれから数度、デートらしきことはした。映画を見に行き、食事に行って、飲みに行ったり、ドライブもした。海外からの輸入雑貨を扱っている他の店をリサーチするという半分仕事がらみのようなデートも併せれば、もう少し回数は多くなる。

 横浜までドライブに行き、店を何軒か見て回り、食事をした後で、少しだけ港を見ながら話した。話の内容は仕事のことだったけれど、海の風が気持ちよくて、少し気分は酔っていた。
 先輩と不意に腕があたって、そのまま軽く抱き寄せられようとした。
 夏海は少しだけ身体を返すようにしてかわしてしまった。
 先輩は返事を急いでいるんじゃないんだ、ごめん、と言った。私は面倒くさい女だと夏海は思った。さっさと答えてしまったらよかったのに。どちらの答えでも。そうすれば、ただ前に進むだけだった。

 だから、この過去への旅が終わったら、先輩にイエスと言うつもりだった。ゆうちゃんが結婚するのだからと。これで何もかも、物事は収まるところへ収まる日が来たのだと、神様が前へ進めと言ってくれているのだと、そう思えたから。
 なのに、今、思いもかけないことが起こって、夏海は引っ掻き回されている。
『でも』
 電話を切ってしまいたかった。どんな否定の言葉も、今は聞きたくなかった。
『俺、お前に必要なのは時間じゃないと思う。だから、もう返事はいいよ。困らせてごめんな』

 気がついた時、夏海は何も言わずに電話を切っていた。
 あの街では、こんなふうに風は吹かない。
 夏海は電話を切った後も歩き続けていた。このまま背を向けて歩いていたら何もかも失ってしまうのは分かっていた。でも、今、自分に何ができるのだろう。

 なっちゃん、私ね、ゆうちゃんとやり直したいの。協力してくれるよね?

 ごめんね、さえちゃん。きっと、さえちゃんが怒ってるんだよね。
 川の流れる音が耳の中でこだましていた。



次回、過去の物語を紐解き、最終回に向かってお話が収束します。
大きな目から見たら、バカップルの誕生となるのでしょうね……
えーっと、大海がいじわる心をおこさなければ。
そうそう、今日の野菜ジュースは〇でした。皆様からの御意見で、レモンを加えてみました。



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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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