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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(6) 天野川・過去(1) 

ようやく、夏海の心の内側に入ることになりました。
過去に何があったのでしょうか。天野川の恋物語、いよいよクライマックスの一歩前。
過去の出来事は長めになってしまったのですが、章を切りたくなかったので、2回に分けました。
まずは、物語をお楽しみください。もしかしたら、明日まとめ読みした方がいいかも!
じれったくて、いらっとするかもしれませんので……^^;





「本当に行くの?」
 もういい加減にしてほしいと思ったが、ここで喧嘩をして、この旅行を取りやめにされたら大変だ。一泊分の着替えと最小限の必要なものをリュックに入れて、靴を履いてから答えた。
「お母さんには他人でも、私にとっては血の繋がったお父さんなんだから、お墓参りくらいいいでしょ」

 母親はまだ納得がいかないというように玄関から動かない。
 そもそも父親が亡くなったことを教えてくれなかったのは母親の勝手だ。離婚したのも両親の都合で、まったく身勝手の重ね塗りだと思った。

 丁度、あのことにタイムリミットが近づいているような気がしていたから、一週間前、父親の死を知らせる数年前の消印が押された葉書を箪笥の引き出しで見つけたのは、まさにあの人の導きだったのだと思えた。
 来てほしい、と言っている。天野川に来て、助けてほしいと言っている。

 七月七日が近付くと、毎年、妙な言い方になるかもしれないが、誰かが夢枕に立つのだ。
 小学生の頃は変な夢を見るなぁと思っていただけだった。怖いという気持ちはなく、これは一年に一度のイベントの日が、自分にとっても意味のある日、あの懐かしい天野が原を離れた日だったから、その日が近づくと気持ちが昂るのだと思っていた。

 霊感があるということについてはあまり自覚していなかったが、この数年で自分が見えている世界が少しだけ他の人が見えている世界と違うときがあるということに気が付いていた。
 そして、ある時から、たまに亡くなった人が見えることにも気が付いた。何かその人が残した強い想いが関係している物を手にした時に限るので、その辺を幽霊が歩いているのに出くわす、というわけではないのだが。

 この数年、その七月七日の幽霊は、だんだん姿がはっきりしてきていた。何かが言いたいのだと思ったが、言葉が聞こえるほど明確な霊能力があるわけでもない。
 だが、父親の死を知った日の夜中、ふと目を覚ますと、その人は黙って机の前に立っていた。
 真っ黒の長い髪、真っ黒の瞳、白い肌と悲しそうな顔。今やその人は影ではなく、明らかな実体だった。
 彼女は机の引き出しをじっと見つめていた。

 翌朝、引き出しを開けた。
 そうなんだ。これを返さなくちゃ。
 天野が原に戻らなくちゃ。それも七月七日でなければならない。

 七月七日は日曜日だ。幸い、翌日の月曜日は創立記念日で休みなのだ。これは何かの巡り合わせに違いない。
 七夕の夜七時に短冊のお祓いと祈願の神事がある。それに何としてでも間に合わなければ、何か大事なものを取りこぼしてしまう気がした。
 一年に一度の、織姫と彦星が愛を確かめ合うほんのわずかなチャンスを、私の手で壊すわけにはいかない。
 七月七日の早朝、靴ひもをしっかり結んでリュックを背負い、結果的には娘の放つ異様なほどの高貴なオーラのようなものに気圧された母親に送られて、バスに乗り込んだ。



 さえちゃん、こと御村紗瑛子はもともと京都のどこかに住んでいた子だった。
 幼稚園の時、一年間だけこの町にいて、それから一度は京都に戻って行った。それからまた小学校の五年生の時にこの天野が原に帰ってきた。

 御村というのはさえちゃんの母親の実家の苗字で、京都のどこかの神社で陰陽道のお祓いをしている家だと聞いていた。
 さえちゃんの父親は御村家に養子に入った人で、妻の実家との関係はあまりうまくなかったようで、離婚も考えて一人でこの町にやって来た。さえちゃんとさえちゃんの母親は一度は京都の実家を出て父親と一緒にここに住んだものの、一年間で京都に戻った。
 父親が女を作っていただの、実は病気だっただの、さえちゃんの母親の実家が何か呪をかけていただの、嘘か本当か分からない噂話は色々あったが、誰も御村家の詳しい事情を知っていたものはなかった。

 その後、さえちゃんの母親は実家といろいろあって、結果的にこの天野が原に戻ってきた。
 長く別居状態であったものの離婚をしていたわけではないさえちゃんの両親は、しばらく一緒に住んでいたが、仲のいい夫婦だったという気配は感じられなかった。
 
 それからすぐに、さえちゃんの父親は亡くなってしまった。
 陰陽道の呪いだとかなんとか、町の人たちは噂していたが、当時の夏海には周囲の大人や他の同級生が騒いでいる理由がよく分からなかった。

 さえちゃんは、同性で子どもの夏海が言うのも変だが、すごく綺麗な子だった。
 幼稚園の時も、立っているだけで、誰もが一度は振り返るような子どもで、御村の家ことを誰も知らなかった時は、みんながちやほやしていた記憶がある。
 アーモンド形の黒い目と長いストレートの黒髪、表情は少し大人びていて、もしも梅田とかを歩いていたら、きっとお子さんをモデルにしませんかと声でもかかりそうな、そんな子だった。
 それがいつの間にか少しずつ、さえちゃんとさえちゃんの家族は周囲の世界から切り離されていった。

 夏海が通っていたのは近所のお寺が経営している幼稚園で、そこは朝のお勤めがあることを除けば、ごく普通の幼稚園だった。
 自分で言うのも何だけれど、幼稚園の時の写真を見たら、夏海だって、さえちゃんには全く敵わないものの、そこそこ可愛らしい女の子だった気がする。
 それは顔のつくりがどうというのではなく、いつも笑っていたからかもしれない。

 夏海ちゃんはいつも楽しそうね、とよく言われた。
 多分、本当に楽しかったのだ。世の中のことは何もかも、世界中が目新しいものばかりで、それは小学校に行っても、中学校に行っても、高校に行っても同じだった。

 ゆうちゃんは活発でごんたばかりしている、きわめてやんちゃな男の子だった。幼稚園では毎日何か悪戯をしていて、先生に追い回されていた。
 園長先生はいつも笑って見ていたが、一度だけ、ゆうちゃんが嘘をついた時だけは怒った。

 本当のことを言うと、ゆうちゃんだけが悪いわけではなかった。みんなで本堂で走り回っていて、何か壊してしまったのだ。なぜ本堂で走り回っていたのか、何を壊したのかはもう覚えていない。
 ゆうちゃんは、始めから壊れていたと言い訳をして、園長先生に怒られた。
 壊したことは仕方がないけれど、嘘はいけないと怒られたのだ。

 見つかった時には、一緒に悪戯をしていた子たちはみんな逃げてしまっていた。ゆうちゃんはこけてしまったさえちゃんを助けようとして、逃げ遅れたのだ。
 ゆうちゃんが怒られたのを見て、夏海は怖くなってしまった。
 でも、気がついた時、足が一歩前に出ていた。引っ込みがつかなくなっていた。
 
 ゆうちゃんがこわしたんじゃないよ。たけちゃんとふみくんが……。
 でも、なつみもきわちゃんもさえちゃんも、みんなが一緒にいた、という言葉までは続かなかった。言いつけたみたいで嫌になってしまったのだ。

 正義感ではなくて、ゆうちゃんだけが悪者になるのが何だか悔しかった。でも自分も悪かったとまでは言えなかった。大きな声で言ってから、涙が出てきた。
 誰が壊したのかを聞いているのじゃないよと、園長先生は言った。

 でも、それ以来、ゆうちゃんは夏海を気にしてくれるようになった。園長先生に言いつけたと、たけちゃんやふみくんにいじめられた時も、ゆうちゃんが助けてくれた。
 幼稚園児なので、いじめた方も苛められた方も、すぐに忘れてしまって、それからはたけちゃんやふみくんとも遊んでいた記憶があるけれど、昔のことで、その後彼らがどうしているのか、今は知らない。

 そうだ。あの時はさえちゃんが天野が原にいた一年間だった。
 確か、誰かがさえちゃんに何か意地悪なことを言ったのだ。お寺の幼稚園なのに、おんみょうじの子どもが来ているのはおかしいとか何とか、それから、呪いがどうのとか。
 どこからそんな難しいことを覚えてきたのか分からないが、ひどくさえちゃんが傷ついた顔をしていたのを思い出した。

 それから、夏海は何となく、さえちゃんを守るのが自分の義務のような気持ちになっていた。
 それはさえちゃんを庇ったゆうちゃんがかっこよかったからだ。さえちゃんは有難うも何も言わなかったけれど、夏海とゆうちゃんのことを信頼してくれているのが分かって、夏海は満足だった。

 それから、さえちゃんが京都に戻り、川ひとつ隔てて違う市に住んでいたゆうちゃんは、小学校・中学校とも夏海とは別の校区になった。それでもゆうちゃんが少年野球に夢中になるまでは、幼稚園のあったお寺の習字・そろばん教室に通っていたので、その帰りによく一緒に遊んでいた。

 小学校五年生の時、さえちゃんが京都から天野が原に戻ってきた。
 さえちゃんは前よりもっと綺麗な子になっていた。

 母親の実家のことで色々と噂の絶えないのは仕方がないのだろうが、全くそんなことに動じない凛とした顔立ちが綺麗で、苛めようにも苛められないムードを身にまとっていた。というよりも、周りの子たちは、苛めたら呪われると言って、近づかなかった。ある意味、その無視の仕方が十分に苛めだったのだろうが、さえちゃんはすっかり大人の対応のできるかっこいい女になっていた。
 つまり、周囲の雑音など無視していたのだ。少なくとも夏海にはそう見えていた。

 夏海は普段は他の子と遊んでいたが、習字とそろばんを習い始めたさえちゃんとは、お寺で会うようになった。学校でも自然に話すようになった。六年生になって、そろばんと習字は辞めて、新しく始まった英語の教室に顔を出すようになったときも、一緒に英語教室に替わった。

 少年野球に夢中で習字とそろばんは辞めてしまったけれど、ゆうちゃんは英語教室の帰りの時間には外で待っていてくれた。丁度野球の練習の終わる時間で帰り道だからと言っていたが、本当なのかどうかは知らない。
 いつもさえちゃんと夏海を家まで送ってくれた。

「どうしてさえちゃんと話すの? あの子の家、呪いの家なのに」
 よく他の友達に言われたが、夏海は別に、と言って態度を変えなかった。夏海とさえちゃんは二人とも大事な友達だと言っているゆうちゃんの手前、格好の悪いこと、つまり苛めるとか無視するとか、家のことで悪口を言うとか、そういう仲間に入るわけにはいかなかった。
 ゆうちゃんはきっと怒るだろうと思ったのだ。

 だからと言って夏海までもが苛められるというようなことは、幸い起こらなかった。その頃、夏海はピアノに一生懸命になっていて、英語も、ピアノも、学校以外にしなければならないことが多くあったので、正直なところ、もしかしていじめられても苛めに気が付かないほどに、小学生なりに忙しかったのだ。

「なっちゃんは友達がいっぱいいていいね」
 さえちゃんに見つめられながらそう言われると、ドキドキした。
「そんなことないよ。もちろん、さえちゃんも友達だよ」

 中学生で合唱部に入っていた夏海は、部活に多くの時間を取られるようになっていた。さえちゃんはクラブには入らず、いつも図書室で本を読んでいた。勉強はすごくよくできて、いつも一番だった。
 さえちゃんは夏海がいなくても一人で外を見つめていだが、夏海が話しかけると、笑ってくれた。その笑顔はやはり素敵だった。

 一度だけさえちゃんの家に呼ばれたことがあった。
 その時にはもうさえちゃんの父親は亡くなっていたが、家の周りで幽霊を見かけた人がいるとか、変な噂が流れていた。陰陽師の術で死んだ人を甦らせることができるのだとかなんとか、あるいは家には結界が張ってあって入ったら出られないとか、家の中には何か特別な部屋があって呪いとか悪魔封じとかの祈祷をしているのだとか、噂している同級生もいた。

 夏海はそんなことを信じていたわけではなかったが、それでもちょっと怖かった。
 さえちゃんの家は、古い貸家の平屋だったが、玄関は普通だった。迎えてくれたさえちゃんのお母さんは、思ったよりも歳を取って見えたが、呪いとか悪魔祓いをしているような人には見えなかった。

 居間に通され、さえちゃんの部屋も見せてもらった。本がたくさんあって、絵も描いているようで、夏海が見たことのない画材道具が、嫌味な程度でなく散らかっている、ごく普通の中学生の部屋だった。
 イーゼルに置かれた絵は風景画で、おとぎの国のように優しい色が踊っていた。ベッドカバーとかカーテンの色が、もっと大人の雰囲気なのかと思っていたら、可愛らしい花柄だったことにも、夏海はほっとした。

 小さな家には他に台所と洗面や風呂の水回りがある以外に、もう一つ部屋があった。きっちりとドアを閉じられたその部屋は、さえちゃんの母親の部屋だったのだろう。
 帰りにその部屋のドアが少しだけ開いていた。

 覗こうと思ったわけではない。何かお葬式の祭壇のようなものが見えた。そして暗い中に何かが光ったような気がして、夏海は慌てて目を逸らせた。
 部屋の中から、線香のような、あるいはお香のような匂いが流れ出していた。

 後から考えれば、彼女の夫の供養のための何かがあっただけなのだ。
 だが、夏海は少しだけ怖くなっていた。
 それでも、ゆうちゃんが相変わらず英語教室の帰りに二人を送ってくれることが続いていて、その不思議な関係性は変わることがなかった。
 三人で遠回りをして天野川の土手を歩くこともあった。話はクラブのこととか、さえちゃんの読んでいる本のこととか、試験の結果とか、他愛のないことばかりだった。

 だが、中学二年の時、小さな予兆のような変化があった。




微妙なところで切ってすみません。細かいことはまた今度。
でも、ようやく、話のムードが大海っぽくなってきたと思ってくださった方。
ありがとうございます(*^_^*)
あと2回です。


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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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NEWS 2013/7/22 あ。1111 

【天の川で恋をして】の第6章を書き終えて、ふとブログを開けて見たら、1111でした。
きっと、気が付かれずにスルーされてしまったんだろうな、と思いつつ(ちょっと寂しい(;_:))……
後はもう、近い人の自己申告制で……(って、諦めないのか?)

夏海が思ったより手ごわくて、過去の話が長くなり、第6章を2回に分けてアップします。
第7章が最終回です。本当です^_^;
第6章はしんどいけれど、最後はハッピーエンドです。そのはずです。
これが終わったら、【海に落ちる雨】の第13章、再開いたします。

ところで、500の記念の「指揮者が出てくる話」なのですが……
リクエストを下さったscribo ergo sumの八少女夕さんのご許可があれば、「ある指揮者の若かりし日(まだ指揮者じゃない)」にしようかと思いまして。
別の話を考えていたのですが、あまりにも落ちがなさ過ぎて、自分でも納得がいかず。いずれこれはこの若者が指揮者になるときによく似たシーンがあるので、お預けにしたいと(つまり、マーラーの五番)。
その「ある指揮者」とは真の息子の慎一です。慎一がまだウィーンの音楽学校の学生でピアノ科の生徒だったころの話(こっちこそ、年代的に蝶子に会っていそう)。
テーマ曲はシューベルトの『死と乙女』です。大体5~6回の中編なのですが(やっぱり、短編は苦手で…話がまとまらない)、いかがでしょうか??

Category: NEWS

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