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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【天の川で恋をして】(7) 天の川・かささぎの橋を越えて 

【天の川で恋をして】最終回です。少し長くなってしまいましたが、切るところがないので、このままお楽しみください。これで、すべての謎の始末がついているはずですが…(あ、まだ一つ残っているかも)
それにしましても、まだPCが恐ろしく不調です。写真の縮小化やアップができません…(・・?
したがって今日も文字ばっかり^^;
楽しい記事が書きたいのに…(;_:)





 聞かれたくない電話であるようなふりをして、叶恵とゆうちゃんの側を離れた夏海は、あの日のようにどこに行けばいいのか分からずに、見覚えのあるようで、ところどころすっかり姿を変えてしまった景色の中を歩いていた。

 団地や家は、東京と違って低く、天野川の川近くにはまだ広い畑も残り、東京よりもずっと広い空が見えていた。その間を比較的交通量の多い道路が縫うように走り、大きな道路脇では歩道も整備され、家も新しくなっていた。それでも、少し古い町の中へ入ると道路は車がすれ違えないほど細くなり、古い民家が入り組んで建っている。随分と古くからある何かの工場、営業しているのかどうかわからない寿司屋やお好み焼屋の看板、錆びて傾いたような道路標識。民家の脇に置かれた鉢には、紫陽花の小さな花弁が揺れる心を映すように、青とピンクの間を行き来している。

 ごめんねも、ありがとうも、ちゃんと叶恵に言えなかった。
 ゆうちゃんの目をちゃんと見て話すこともできなかった。
 何より、あの日、さえちゃんに言いたかった言葉を、この身体の内側に押し込めたまま、さえちゃんに伝えることができずに、今日まで来てしまった。

 私はやっぱり駄目な子だ。みっちゃんは、私がいつも笑っていたと言っていたけれど、本当に言いたいことを言えないから笑ってごまかしていただけだ。今日で、この十年にけりをつけるつもりだったのに、何ひとつ前に進めない。

 お前に必要なのは時間じゃない。
 先輩は知っていたんだ。私の本当に駄目なところを。

 十年前、さえちゃんの死を聞かされてから、怖くなってお葬式にも行けなかった。雨の中をうろうろしていたために熱が出ていたのをいいことに、さえちゃんをちゃんと送ってあげることもせずに、何日も学校を休んだ。
 一週間後に学校に行ったら、何事もなかったような日常が待っていた。
 まるで、さえちゃんは始めからいなかったような、そんな日常だった。

 みんな、あまりさえちゃんのことは話さなかった。そもそも、夏海以外に誰もさえちゃんと特に親しくしていたわけではなかったのだから、思い出を語られることもなく、たださえちゃんがいつも座っていた図書室の窓辺の席だけが、いつまでもやって来ない主を待ち焦がれて、静かに光の中で悲しんでいた。
 そしてそのまま、夏海が風邪をこじらせて一週間学校を休んでいただけで、その短い期間の授業のブランクがそのままさえちゃんのいた六年間だったかのように、追いついた授業のノートとその先へ続いていった新しい生活が記憶を上塗りしていった。

 ほんの少しだけ、色合いを変えた夏海の学校生活の意味を、誰も気が付かないままだったろう。
 夏海は合唱部には復帰したが、歌うことができなくなった。もともと伴奏を手伝っていたので、誰が言い出したのか分からないが、自然に夏海はピアノ伴奏の係になっていた。
 両親に、将来のことを考えて大きな英語の塾に行きたいと言って、週末には京都に通った。大学受験は東京の外大を目指すと言って、予備校にも通い始めた。
 三年生になっても、夏海とゆうちゃんは別々のクラスで、顔を合わせることも少なくなり、一緒に河原を歩くこともなくなった。

 忙しくなっていったのは夏海だけではなく、周囲の皆も同じだった。周囲の皆も、ゆうちゃんも、将来のために忙しくなり、さえちゃんの不在はもう、不在という事実さえ消えていくようだった。
 たまに、理由も分からず悲しくなり、泣いている時がある。
 だが、その次の日にはまた当たり前の日常が巡ってきた。さえちゃんがいなくても、夏海の毎日は続いていて、当たり前に学校に行き、当たり前に家に帰り、当たり前にお風呂にも入って、時々は家族と笑いながら外食もした。

 一度だけ、ゆうちゃんとどこかで話したような記憶がある。
 東京の大学を受けることに決めた、とそれだけ言ったような覚えがある。
 その時、ゆうちゃんはどんな顔をしていただろう。何か言っただろうか。夏海には記憶がなかった。
 ただ思い出したくないだけなのかもしれない。

 交野駅はどっちだったろう。
 このまま、京阪に乗って京都に出てしまえば、もしかして最終の新幹線に間に合うだろうか。荷物はみっちゃんに送ってもらったらいい。休みは返上して、明日から普通に働いて、先輩とも以前のような普通の関係に戻って話をしたらいい。
 そしてまた、ゆうちゃんのこともさえちゃんのことも、この天野川のことも、忘れてしまっても、きっと生きていける。

 夕陽の名残の温度を含んだ風が、頬に触れていった。懐かしい景色は徐々に色褪せていく。
 十年前のように馬鹿みたいに泣くことはできなかったけれど、目の奥が痛くて、鼻が詰まって息苦しかった。
 久しぶりに履いた高いヒールで痛む足が、こんなにも悲しい理由だと思った。




 この町を離れた時は五歳だった。
 それでも、この機物神社の七夕祭りの宵宮あるいは本宮のにぎわいを肌が覚えていた。
 薄闇に染まる空を背景に、高く掲げられた笹の葉に揺れる五色の短冊、提灯や星、天の川や笹を象った色紙の飾り、浴衣姿の子どもたち、母親の手を借りて願い事を書く小さな手、露店で売られている林檎飴やチョコレートの甘い匂い。
 風が吹くと一斉に重なり合うざわめきのような音楽を奏でる笹の葉は、高い空から何かを語りかけてくるようだ。

 できるだけ高いところにこの短冊を飾ってあげたい。
 夜になれば神事で笹のお祓いがあり、夜遅くには人々の願いは天の川に流される。それに乗せて天に還してあげよう。

 この町を離れた十年前のあの日、車に乗り込む時に拾ったこの短冊には、大事な人へのメッセージが綴られていた。昨夜、小さな穴をあけて紙縒りを通し、もう一度言葉をかみしめてみた。あの悲しそうな長い髪の七月七日の幽霊は、この短冊と一緒に天野川に戻り、今日、空の天の川に帰ることができればいいのだけれど。
 この十年間、父親がいない中で頑張ってこれたのはこの短冊のお蔭だったかもしれない。

 笹のできるだけ高い位置に短冊を結びつけようと背伸びをした。
 もう少し高い所に。
 そう思った時、誰かの手がすっと短冊に触れた。
「できるだけ上の方がいいですよね」
「すみません」

 短冊を受け取ったその人は、あまりにも古い紙を不思議に思ったのかもしれない。ふと、手を止めたと同時に、呼吸を飲み込んだように見えた。
「あの」
 その人は黙って短冊に書かれた文字を読んでいた。

 背の高い、スーツ姿の青年だった。優しそうな顔立ちと、短く刈り揃えられた髪、しっかりとした身体つきはスポーツマンのように見えた。
 その人の表情が少しずつ変わっていく。悲しさと喜びと、苦しさと愛しさと、そして命や想いの不思議を噛みしめたような、色々なものを全部取り込んだような顔だった。
「あの」
 呼びかけると、青年は顔を上げた。
「すみません。これを、どこで」
 その瞬間、この人はこの短冊の幽霊を知っているのだと分かった。
「十年前の今日、雨の日に、この近くで拾ったんです。丁度この町を離れる時で、車に乗り込もうとしていた時に」

 私はまだ五歳で、ここに書かれた文字を読むこともできず、ただ短冊の美しい碧い色が濡れていくのが悲しくて、文字も泣いているように見えて、拾い上げて今日まで大事に持っていた。七月七日が近づくと、誰かが悲しそうに立っている気配を感じていたけれど、自分が幼くてこの言葉の意味を十分に汲んであげることができなかった。その気配は、始めはちゃんとした姿ではなかったけれど、今年現れたその人は、髪の長いとても綺麗な人で、私は今年こそ、ここに返しに来なければならないのだと思った。
 そう告げると、青年はしばらくの間じっと短冊を見つめ、やがて顔を上げて微笑んだ。
「僕たち三人はこれを待っていたんだ。ありがとう」
 



 足が痛くなって、もう歩けなかった。
 駅に向かおうとしていたのか、そもそも駅がどこなのか、こんなヒールで歩けるのか、混乱した記憶と流れた時間の長さで変わっていた街並みが、夏海を混乱させていた。
 どこに帰ったらいいのか分からない。
 夏海は橋のたもとでしゃがみ込んだ。
 ヘッドライトを灯し始めた車の流れが夏海の視界の隅をかすめていく。

 その時、アスファルトを擦るタイヤの音の中に、誰かが呼ぶ声が聞こえた。
 なつみっ。
 あの時、雨の中で聞いた声は、さえちゃんだったんだ。
 ごめんね、さえちゃん。あの時、もっと早くにさえちゃんを探していたら。
 夏海は両手で耳を塞いだ。
 ごめんね、さえちゃん。

「夏海」
 その時、奇妙なほどしっかりとした声が、頭のすぐ上から聞こえた。夢の声でも幻の声でもなく、確かに鼓膜に届く振動と同時に、耳を覆う夏海の両手を包み込んだのは、大きな暖かい手だった。
「夏海」
 顔を上げた時、周囲の景色に先に焦点が合った。
 歩道の橋の両側に笹の葉が立てられ、色とりどりの短冊が風に揺れている。
 そしてその真ん中に、ゆうちゃんの顔があった。真剣で優しい目だった。

「今日は、ちゃんと話を聞いて欲しいんだ」
 ゆうちゃんはそう言った。夏海は、化粧も剥げているし、気持ちもくちゃくちゃで、きっと今私はぶさいくだ、と思った。思ったけれど、どうすることもできなくて、ただ頷いた。

 ゆうちゃんは、足が痛いことにはすぐ気が付いてくれた。
「良かった。今日は荷物があったから、ツーリングバイクだったんだ」
 そう言って、ゆうちゃんはスーツの上着を脱いで、荷台のクッションにすると、夏海を支えるようにして立ち上がらせ、荷台に横座りにさせてくれた。そして自分は器用にバイクを支えながらサドルに跨る。
 くらりと揺れた時、すかさず、腰につかまって、と言う声が聞こえた。

 その時、ようやくここが逢合橋だと気が付いた。織姫と彦星が一年に一度出会い愛し合う場所という適当な伝説がくっついている橋だ。
 ゆうちゃんは川沿いの道をゆっくり、ツーリングバイクを漕いでいく。今年は蒸し暑くて息苦しいような七月の始めだが、こうしていると、吹き抜ける風が心地よかった。
 夏海はきゅっと、ゆうちゃんにしがみ付いた手に力を入れた。
 二人で、あるいは三人でよく川沿いを歩いたけれど、こんなふうにゆうちゃんの背中を感じたのは初めてだった。

 やがて、ゆうちゃんが軽くブレーキをかけ、ツーリングバイクが停まる。ゆうちゃんの片方の足が、地面を力強く支えていた。
 夏海は慌ててゆうちゃんから手を離そうとした。その時、ゆうちゃんの一方の手が、夏海に触れた。
「そのままで聞いて」
 夏海はゆうちゃんの腰に回した手を握り直した。ゆうちゃんがもう一度、夏海の手に重ねた手に力を入れた。
 向こう岸から風が渡ってくる。まるで誰かの想いを運んでくるようだった。

「中二の時、さえちゃんに、これからは先に夏海を送って欲しいって言われたんだ。俺、あんまり頭が回る方じゃなかったけれど、さすがにその意味は分かってた。さえちゃんも、さえちゃんのお母さんも周囲から色々言われてて可哀相だって、俺、何だか同情みたいな気持ちがあって。悩みとか、困っていることとか、色々聞いているうちに、俺もだんだん情が移ったってのか、それから何となく、手をつないだりキスしたりもするようになった」
 夏海は思わず手を離しそうになった。ゆうちゃんは、このまま聞いてと言うようにもう一度手に力を入れた。

「一度だけ、夏海にちゃんと説明した方がいいとか思ったんだ。けど、夏海は俺のこと友だちだって言ったろ? 夏海にそう言われてから、逆に自分の気持ちが分からなくなった。さえちゃんは頭がいいし、すぐに何か感じたみたいで、ゆうちゃんは優しいから私のこと可哀相だって思って付き合ってくれているんだよね、って。それから何となく、本当に自然に、前みたいに友だちに戻って行って、もう恋人同士みたいなことはしなくなった。それで良かったような、悲しいような、変な気持ちだった。夏海、俺、その時の自分の気持ちにはあんまり自信がない。さえちゃんのことが本当に好きだったような気もするし、本当はただの同情だったような気もするし」
 俺、何言ってんのかな、とゆうちゃんは呟いた。

「さえちゃんが交通事故に遭う少し前、彼女と話したんだ。ゆうちゃんはずっとなっちゃんのことが好きだったんでしょ、気持ちってちゃんと言葉にしなきゃだめだよって、そう言われた。俺は何だかまたよく分からなくなって、夏海のこともさえちゃんのことも大事だという気持ちもあったし。でもひとつは友情で、ひとつは違う意味だってことも分かってた」

「ゆうちゃんは分かってないよ。さえちゃんはずっとゆうちゃんのこと好きで、もう一度やり直したいって、それが言えなくてつらかったんだよ」
 思わずさえちゃんの描いた絵を思い出した。詳細は記憶の彼方に消えているのに、さえちゃんの想いだけは鮮明に蘇る。
 私がちゃんと手紙を渡していたら、二人は恋人同士に戻って、幸せにやっていけたかもしれないのに。分かってないのは私だ。ひどいことをしたのは私だけだ。

「夏海、俺、さえちゃんの気持ちはちゃんと知ってた。知ってたけど、どうすることもできないことも分かってた。だから俺、代わりにちゃんとした大人になって、人のためになる仕事をして、それで夏海ともさえちゃんともきちんと話したいって思ったんだ。今になって思えば、そんな優柔不断なこと考えている時間はなかったんだよな」
 少しだけゆうちゃんの声が厳しくなる。それからしばらくの間、ゆうちゃんは暗くなり行く空を見上げていた。星の伝説が多く残るこの町だが、都会の明かりは空の天の川を消してしまう。
 それでも、この町を流れる地上の川は、人の思いを乗せて、やがては海へ流れ着く。

「なんかうまく言えないけど、俺、いつだって夏海に何か話したかったんだ。二人きりになったら、全然どうでもいいことばっかり話してたけど、それで良かったんだ。さえちゃんが亡くなった後も、しばらくの間は、夏海に何か言える状況じゃなかったけど、せめて、ずっと俺が傍にいるからって、そう伝えようと思った時、夏海から東京の大学を受けるって聞いて」
 ゆうちゃんの背中がふと大きく息をついた。

「あの時、止めればよかったなぁと思ったけど、俺もちょっと意地になったりもしてさ、素直に気持ちを伝えられなかった。それから、ヒロタカからいろんな女の子を紹介してもらったけど、どうしてもうまくいかなくて、というよりも上手くいくようにしようという気持ちがなかったんだ」
 夏海はいつのまにか自然に、そっと頭をゆうちゃんの背中に預けていた。

「なぁ、夏海、俺、消防士になって、それから救急隊勤務になった時、交通事故の現場に行くことがあったんだ。その時、家族を一度に亡くして一人だけ生き残った男性がいて、その時自分が何言って何したのか覚えていないんだけど、一年たってその人が区切りだからって事故現場に花を供えに来られたんだ。その後で、消防署にも寄ってくださって、お礼が言いたいって言われた。その人は淡々と話していたけれど、帰って行く背中は何ひとつまだ乗り越えてなんかいないって語っているようだった」
 広くて大きなゆうちゃんの背中は、今、言葉を吐き出しながら少しだけ震えているように感じた。

「その時思ったんだ。悲しみに区切りなんてないんだ。この人は一生この悲しさや苦しさを抱えていくんだって。それは忘れることも捨てることもできないもので、他人から見たら、早く忘れて立ち直って欲しいって言ってあげたいけれど、それは間違いだって。大事な人を失ったんだ。悲しいままで、そのままでいいんだ。他の人間は、苦しみや悲しみを抱えて生きていくその人を、そのまま見守っていたらいいんだ。そう思った」
 夏海はゆうちゃんの身体に回した手で、今ようやく、ゆうちゃんを抱き締めた。

 するとゆうちゃんが、そのままつかまってて、と言って、再びツーリングバイクを漕いで、街灯のある場所にまで移動した。そして、また器用に夏海を座らせたまま、自分はバイクを降り、胸ポケットから折りたたんだ紙を出し、広げて夏海の手に持たせた。そのまま、バイクと夏海を支えてくれている。
 街灯の柔らかい明かりの下で、褪せた碧い短冊に書かれた文字は、懐かしく優しい形をしていた。
 夏海は文字の上に指を添え、まるで指で読むようになぞった。

 涙が溢れてきて、止めることはできなかった。
 十年も前に書かれた文字は、夏海の涙で濃く浮かび上がり、ひとつひとつの言葉の意味を静かに優しく、しかし力強く語りかけていた。
「夏海に、さえちゃんを忘れることはできないし、俺もきっとそうだと思う。だけど、それを抱えたままだっていいじゃないかって思う。一人では苦しくて悲しくても、一緒なら、きっとたくさんのものを抱えたままでもやっていけると思う」

 ゆうちゃんは大きく息を吐いた。そしてこれまで以上にはっきりとした声で言った。
「だから、戻ってこいよ。天野が原に」



 その声に重なるように、突然キッというブレーキの音が聞こえた。
 少し行き過ぎて停まったのは、薄暗がりの中でもはっきりと分かる真っ赤なGT-Rだった。チカチカと点滅するハザードランプに、夏海もゆうちゃんも顔を上げる。
 後ろから来た車が、急ブレーキに苛立つようにクラクションを鳴らして行き過ぎた。

 窓が開く。
「おい、ユウキ! 忘れものだ!」
 ゆうちゃんの手元に、何かが飛んでくる。ゆうちゃんは片手で器用に受け止めた。
「ちょっと萎れ気味だけど、どうせすぐに新しいの、作ってあげるでしょ!」

 窓から顔を見せたのは、今日の主役たちだった。花婿の顔の向こうから、覗き込むように花嫁が笑っている。
 彼らは、自分たちが企画したイベントは最後まで面倒を見ると決めているに違いない。
 ゆうちゃんの手の中に、真っ白のブーケがあった。花は部分的に散ったり萎れたりしているようだが、今日の諸々の出来事、あるいは十年以上前からの出来事をみんな吸い込んで、街灯の下ではより白く浮かび上がるようだった。

「ほら見ろ、機物神社か逢合橋だって言ったろう」
 根拠のない推理は、たまたま当たったらしい。いや、この二人なら、運など容易に引き付けてしまいそうだ。
「ヒロタカが絶対二人を探すってうるさくて。私たち、このまま関空なの。じゃあね、夏海、ゆうちゃん。来年の結婚式には呼んでね」
「いや、今年中かも知れないぞ」
 勝手なことをしゃべるだけしゃべって、今日の主役は手を振りながら走り去った。

「ほんとに、あいつら、バカップルすぎる。十年前に夏海を紹介しなくて良かったよ」
「え?」
「十年前の宵宮の日に、夏海に紹介したい奴がいるって言ったろう? ヒロタカだよ。ヒロタカには一度、夏海を紹介しておきたかったんだ。結果的に今になったけど、あの頃に紹介してたら、きっと引っ掻き回されてた」
 そう言いながらも、ゆうちゃんは嬉しそうに見えた。

 ゆうちゃんはしばらくじっと手に飛び込んできた白いブーケを見つめていたが、やがて、夏海にツーリングバイクから降りるように促した。夏海がゆうちゃんの前に立つと、彼は夏海の目をちょっとの間見つめ、やがて少し目を逸らして、いささかぶっきらぼうに夏海の手を取り、ブーケを握らせた。

 今宵、天の川にかささぎの橋が渡され、長い時に隔てられていた幼い恋と深い友情は、その橋を越えてようやくひとつになろうとしていた。




 なっちゃんと仲直りができますように。
 なっちゃん、ごめんね。たった一人の大事な友だちを試すようなことをしてしまったことを後悔しています。ゆうちゃんのことを苦しいくらいに好きだったけれど、あの手紙をなっちゃんに渡してから、私にとって、なっちゃんがもっと大事な人だと気が付きました。なっちゃんにはずっと笑っていて欲しい。
 だから、他には何も願いません。なっちゃんと、一瞬でも早く仲直りができますように。

 短冊の隅には、ピースをして思い切り笑う少女と、傍で静かに微笑む長い黒髪の少女の絵が添えられていた。


【天の川で恋をして】了





無事に、終了いたしました……良かった。7月中に終わって……
お付き合いくださいました皆様、ありがとうございました(^^)
さて、最後に残った謎。それはこれが何のホラーを下敷きにしてたのかということですね。
それは次回の後書きで(*^_^*)
併せて、この天野が原を発祥地とする、日本における七夕伝説をご紹介。
併せて、頭の中でヘビーローテーションしていたテーマソング(例のごとく、映画化するなら妄想^^;)もご紹介。




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Category: 天の川で恋をして(恋愛)

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