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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8月の転校生】(3) 転校生、ふたたび 

最終回です。考えてみれば、1回でアップしても良かったような内容なのですが、ちょっと長いかなぁと思って切ったのに、結果的に勢いで立て続けにアップして、あまり意味はありませんでしたね。
ホラーって、一気に読んでもらわないと、あまり面白くないということが分かりました。
(あ、ホラーというほどのものではありませんでした。すみません)

最終回、少し落ちがついているでしょうか。ウゾさん、こんな感じでいかがでしょうか。
ちょっとだけ、逢魔が時に、8月の誰もいない教室に入る場合は、みなさん、お気を付け下さいね。
転校生があなたを待っているかもしれません。





「それ、『八月の転校生』だよ」
 享志が昨夜の顛末を話して聞かせると、さっきまで怒っていたクラブの同級生たちは真っ青になった。

 彼らが怒っていたのは、まずひとつに、享志が結局シュミレーション表を取ってくるのを忘れてしまったことだった。
 今朝、守衛のおじさんに鍵を開けてもらい、筧先輩にそれを見せて事なきを得たものの、昨日は待ち合わせた校門のところにいつまでたっても享志が現れなかったというので、怖くて取りに行かずに逃げたと思われていたようだった。
 言い訳なんて聞きたくないね、と言っていた連中が、ちょっと黙り込む。

 八月の転校生?
「何だよ、それ」
「だからさ、新聞部が『逢魔が時の音楽室』の続編を刷ってたんだ。休刊のはずの八月号の記事。俺、印刷室で見たって言ったろ。『八月の転校生』って言ってさ、音楽室から幻聴のようなショパンの『別れの曲』が聞こえて来たら……出るんだよ」
「出る?」

「それを聞いてしまった生徒のクラスの教室でさ、待ってるんだ。綺麗な男子生徒が。で、『ここのクラスの人?』って聞くんだ。それがさ、前の学校でいじめに遭って自殺した中学生の霊が、いや、失恋して自殺したんだったか、その辺は諸説あるみたいだけど、この学校に憧れてて、転校したいって思う気持ちが彷徨ってるんだって。その子はピアノが上手で、でも泣きながら弾いているから途切れ途切れなんだって」

「冗談だろ。だって、ちゃんと普通にしゃべってたし」
「でも消えたんだろ……それに、どうやってその子、教室に入ったんだよ。学校の子じゃないから、倉庫部屋の窓のことは知らないだろうし。そもそも夏休みの八月に転校生なんか来ないよ。足、ついてた?」

 そう言えば、微かに記憶をたどると、足音はずっと享志のものだけだった。外灯に伸びた影もひとつだった。重なっているだけと思っていたけれど……
 今更だが、ちょっと冷や汗が出てきた。

「それでさ、『学校を案内してくれる?』って聞くんだってさ」
 さーっと血の気が引く。
「……確かに、そう聞かれた」
 同級生たちもみな、さーっと青くなった。

「な、なんて答えたんだ?」
「もちろん、って。で、礼拝堂の裏の中庭に案内しようとしたところで消えたんだ」
 皆が申し合わせたようにほっと息をつく。
「それさ、断ったら呪われるんだって。良かったよ~。級長が呪われなくて」
 呪われたらどうなるんだ、と聞いたが、誰も知らなかった。だから『学園七不思議』なんてのはいい加減なものに違いない。


 そろそろお盆が近づいていた。
 クラブは一週間だけ休みになった。
 実はあの日から、クラブの部室の鍵が見当たらなかった。
 持っていたのは享志だったはずで、多分あの時教室かどこかで落としたのだ。スペアがあるから困らなかったのだが、明日からクラブが再開という日になって、今度はそのスペアキーが見当たらなくなった。

 享志はその連絡を受けて、これはコックリさんの呪いかもしれないと真面目に思いながら、夕方、学校へ走った。明日、部室に入れなかったら大変だ。二年生の失態ということになる。
 クラブを引き継ぐときにこれでは、大問題になるに違いない。

 今日は守衛さんに鍵を開けてもらおうと思ったのに、間合いの悪いことに見回りなのか、守衛室にいなかった。
 日が暮れてしまっては困ると思い、ええい、と思って、また倉庫部屋の窓からエヴァーツ館に忍び込んだ。
 逢魔が時までまだ時間はある。

 と思ったのに、音楽室からショパンが聞こえてくる。
 まじかよ~
 俺もう、頭おかしくなっちゃったのかも。
 もう見ちゃだめだ。何も聞こえない!

 とにかく目を瞑って走り抜け、一気に教室のある二階へ駆けあがった。
 ガラッと、気合いを入れて大きな音で扉を開ける。

 ……
 冗談でしょ。

 ……『彼』はそこにいた。

 夕陽にけぶる明るい髪、まっすぐ伸びた綺麗な首筋、まだ成長途中と思われる華奢な肩、背中はすっと伸ばされていて、バランスのいい肩から腕へのラインも、今日もやはり綺麗だった。
『彼』は振り返る。ふと惹きつけられるような印象的な顔立ちだ。夕陽でオレンジ色に染まった頬、野生の山猫のような光を宿した目、通った鼻筋と、きりっと結ばれた唇。

 違っていたのは、今回は席に座っていなくて立っていたことと、学園の制服を着ていないことくらいだ。ジーンズを穿いて、真っ白のシャツを着ている。そのシャツもオレンジに染まっていた。
「あ、あ、あの、え……と」
 享志はしどろもどろになった。

 彼の唇が少しだけ、開きかける。

 知ってる、知ってる。このクラスの人? って聞くんだよな。

 だが『彼』は、薄く開けられた唇をそのままに、何も言わなかった。そして、黙って享志を見ている。

 別バージョンがあるのか?
 このクラスの人? の質問は飛ばして、先に、学校を案内してくれる? って聞くのかな。
 とにかく断っちゃだめだ。

 だが、彼は相変わらず何も言わない。というよりも、どこか怯えたような顔で、あるいは何か言われたら飛びかからんとでもいうような追い詰められた野生動物のような目で、享志を見ている。あの時と同じ碧の目。いや、一方の目は光の加減なのか碧色に光り、もう一方の目は暗く沈んで見える。

 きっとこれは別バージョンだ。この『試験』に合格しないと呪われる! 
 先手必勝だ!

「が、が、がっ、学校を案内しようか?」


 彼の表情がわずかに変わった。いささかきょとんとしたような顔で、享志を見ている。
 改めてその顔を見ると、先日の『幽霊』とは少し顔つきが違うような気もする。綺麗なのは同じだけれど、何というのか、現実味のある顔だ。光に霞んでいるような感じではなく、しっかりと吊り上った形の眉も、顎のラインも、輪郭が明瞭に見える。
 でも、なんて印象的な顔なんだろう。綺麗、というより、惹きつけられる。

 その時、ぴたりとショパンが止んだ。
 音が聞こえている間は気にならなかったのに、止まった途端にはっと気が付いた。

 その瞬間、彼は何も言わずに、まるで猫がしなやかに身を翻すように、扉の所に突っ立ったままの享志の側をすり抜けた。そして、ほとんど足音も響かせずに野生の獣のような俊敏さで廊下を走り抜け、跳ぶようにくるりと階段の角を曲がって消えた。

 呆然と見送っていた享志は、ふと視界の隅で何かが光ったような気がして、教室の中を見た。すぐそばの机の上に、鍵が二つ乗っている。
 部室の鍵だ。あの時落としたものと、それから同級生が無くしたものと。
 享志はようやく我に返り、鍵を二つ引っ掴んで、階段のほうへ走った。
 

「お兄ちゃん、ベーゼンドルファーだよ。スタインウェイじゃなくて」
 微かに声が聞こえたような気がして、享志は階段の踊り場で足を止めた。女の子の幽霊も一緒なのか。……それは聞いてない。
 だが、享志が一階の廊下に降り、見回した時にはもう誰の姿も気配もなかった。
 やがて、どこかの扉が閉まるような音が、夕闇に響いた。


 八月に転校生は来ない。夏休みなのだから、当たり前だ。
 しかも学校を案内し損ねた。
 呪われるのだろうか? で、呪われたらどうなるんだよ! 新学期になったらさっそく新聞部に聞かないと。

 学園の七不思議とか怪談話とかいうのは、生徒が怪談好きな年齢であるために生まれてきたか、子どもが学校で悪さをしないようにするための抑止力に利用されているだけに違いない。
 そう思うものの、腑に落ちないまま、いささかびびっている級長・富山享志は、九月の始業式の後、院長に呼び出された。

 院長室の扉はいつも開け放たれているので、部屋に入る前からそこに『彼』の姿は見えていた。
 ほんと、呪われちゃったのかも……

 だが、享志の目は釘づけだった。咽喉がカラカラで顔が引きつるのに、足は前に向かって進んでいる。
『彼』は振り返り、享志を見て一瞬、あ、という顔をしたような気もしたが、一瞬の先には表情を殺してしまった。

 山猫の目。あれから享志は何となく動物図鑑を見ては、彼を思い出していた。
 やっぱり、どうしたわけかドキドキする。幽霊だとしても、綺麗な子だった。いや、そっちの趣味はないけれど。でも手を伸ばしたら、噛まれそうだ。もっとも、噛まれる程度の呪いなら、いっそ噛まれてもいいかと思う。

 などと馬鹿なことを考えていたら、爽やかな宝塚の男役スターのような印象の院長が、いつものように清々しい声で言った。
「あぁ、来たわね。紹介するわ。彼が君が編入するクラスの級長、富山享志くん。頼りになる男よ。富山くん、アメリカからの帰国子女で、この時期に編入になったの。困ることが多いだろうから、相談に乗ってあげて。相川真くん。級長、頼むわね」


 妹がいる? って、まずは聞かなくちゃ。
 しかもその子、ピアノ弾く? って。
 いないと言われたら、今度は女の子の転校生の幽霊を撃退する方法を、新聞部に聞いた方がいい。
 それから、鍵、どこで拾ったの? って。
 いや、拾ってくれて、ありがとう、だよな。

 ……ところで、もちろん、最初の『彼』も君だったんだ、よね?
 いや、やっぱりいいよ、それには答えないで!


【8月の転校生】了
 



やはり、大海のホラーもどきでは涼しくなりませんでしたね。
すみません^^;
しかも、天然くんにかかると、ホラーもコメディに化けてしまうらしく。

解説するのは野暮ですが、真の育ての親である伯父さんはこの院長の友人なのですね。
で、ひどいいじめにあってた真は、しばらくその伯父さんの仕事の都合で、カリフォルニアにいたんです。
で、戻ってくるときに、普通の学校は難しくて、このちょっと楽しげな?学園に編入したのです。
編入試験は、受けたと思うけれど。できたのかしら?
で、学校に行くことがまず勝負、という精神状態だったので、夏休みの間に一回見に行っておこうと。
だから守衛さんは、あちこち連れまわされて、いなかったのですね。
子供たち、結構自由にうろうろさせてもらっていて、妹まで。
院長と伯父さんも近くにいたと思うのですが、タカシくんはそれどころじゃなくて……^^;

しかし、幽霊はあんなにしゃべるのに、真はなぜしゃべらない?
本当に、この人は、言葉は苦手ですね。いえ、今はそうでもないのですが、この頃なんて、ほとんど1日なにも話さない日もあったのでは。

相川真くん、中学生の一時期、本当に怖いくらい『綺麗』と親友に思われていたようですが(他にも証言者あり)、それを過ぎると、ただの兄ちゃん。今や、ちょっとオッチャンになっています。
よく言いますよね、天才も20歳過ぎればただの人、いや、それじゃないか。
ロシア人も、なぜあの天使がそうなる?みたいな。

ともあれ、ウゾさんにご満足いただけたかどうか……
読んでくださった皆様に、ほんの少しでも涼をお届けできたかしら……(いや、涼しくならないって)


さて、ここしばらく真面目に小説もどきを更新しすぎたので、ちょっと他の記事を、と思うのですが、涼しい記事がないなぁ。海? カキ氷?
  
実は、長らく放置しているソ連旅行のその後。
当時の手記!!が見つかったので、生々しくレポートをお送りしようかと思ったりもしてます。
でも、ウゾくんの話、書かなくちゃ。
そして【海に落ちる雨】の続きと、並行して、【死と乙女】(夕さんリクエストの指揮者の話)もcoming soon!です。

読んでいただいて、本当にありがとうございましたm(__)m




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Category: (1)8月の転校生(完結)

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