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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】夏・朝顔(前篇) 

【百鬼夜行に遅刻しました】夏篇をお届けいたします。
この作品は、ウゾさん(→ブログ:百鬼夜行に遅刻しました)のブログタイトルからインスピレーションを得て、タイトルをまんま頂き、しかも主人公の名前にウゾくんを頂き、お人好しで優しい元気な小鬼になっていただきました。
1作で終わる予定が、大海の悪い癖で、謎を振りまいてしまいました。振りまくと収拾したくなるのも大海の癖で、続きができてしまいました。
花をテーマにしながら、春から始まり、最後は春で終わる予定です。
少しずつ、ウゾくんがなぜ百鬼夜行に遅刻してしまうのか、謎が解けていくといいなぁと思います。
1作目:【春・桜】はこちら

夏のテーマの花は朝顔です。俳句の季語では秋なのですが、やはり朝顔は夏休み前の花のイメージがあります。
今回、歴史ミステリーと銘打っておりましたが、ちょっと違う方向へ行ってしまいました。
いささか重めのテーマです。季節が季節ですから。
悩んで成長していく小鬼のウゾくんをお楽しみください。

そして今回、なんと遅刻仲間が……! まさか、あの子が……
実は少し長くなりまして、前後編でお送りいたします。
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 夏がやって来た。

 残念ながらウゾたち、鬼の百鬼夜行学校には夏休みはない。
 そもそも夏はかき入れ時だ。
 中には、ニンゲンのテレビ番組に出演するものもいる。夏によく放送されている『恐怖、今夜あなたの後ろに…!』みたいな番組にちょっと顔を出すのだ。

 もちろんニンゲンに出演を頼まれたわけではない。
 だから、当たり前のことだがニンゲンからは出演費が貰えるわけではない。
 学校が斡旋するバイトみたいなものだ。1回出ると、豪華トカゲとカエルの干物セット1週間分が貰える。
 最近、美味しいトカゲやカエルは少なくなっているから、結構人気の商品だ。

 ああいう番組のほとんどは、いわゆるヤラセなのだけれど、たまにはニンゲンに思い知らせておかなければというのが鬼界の理念みたいで、このチャンスにちらりと『ホンモノ』の気配を見せて釘を刺しておくのだ。
 放っておくとニンゲンは暴走するから、人智を超えたものがお前たちを見張っているぞ、と知らせておくのだという。
 もちろん、ウゾみたいな小鬼にその割のいいバイトが回ってくることはない。


 あぁ、また遅刻だぁ……

 ウゾはタダスの森に4本しかないというアキニレの木の下を住処にしている。ごそごそと地面から這い出て来て、アキニレの木に背中を預けたまま座って、ぼんやりとする。
 鬼だから暑いとか寒いとかはないはずなのだけれど、ウゾはやっぱりちょっと夏バテする。
 うだうだしているニンゲンの顔を見たり、盆地独特の熱気に干上がりそうな小川に足を踏み入れたり、何となく木々の葉っぱが元気がないのを見ると、気分だけでもばててしまうのだ。
 遅刻の言い訳をするのじゃぁないけれど。

「ウゾ、チコク」「マ・タ・カ」「チ・コ・ク」「チ・コ・ク」
 はやし立てるダンゴ達も、夏になるとなんとなくやる気がない。

 まぁ、いいや。二時間目に間に合ったら。
 既に長い夏の陽さえ沈んでいる。太陽が沈んでも、地面の温度が冷え切る前に次の太陽が昇ってくる。
 もちろん、この森の中はキョウトの町の中に比べたら、随分と気温も低いのだが、今年は湿気が半端ではない……らしい。
 あぁ、でも、サボってたらもち姫に怒られるかなぁ。
 
「ウゾくん、おはよっ」
 サクラちゃんが今日も迎えに来てくれる。
 サクラちゃんは例のナカラギの桜に住んでいる。そして、ただのクラスメートではなく、他の意味でもウゾの仲間になっていた。

 ウゾほどではないのだが、遅刻の常習者なのだ。
 なんか、寝過ごしちゃうのよね。というのか、夜って普通に眠いし、昼は寝れないよねぇ。これって昼夜逆転じゃないの。
 いや、昼夜逆転じゃないのだ、鬼としては。

 サクラちゃんのすごい所は、結構サバけているところだった。可憐な少女と思っていたら、とんでもなくスーパーな女の子だということが分かった。
 春のお花見では、新入生に対するいじめをあっさりと跳ね除けた。
 宴会中に髪の毛を切られて、サクラちゃんの方が切れたのだ。

 鬼の髪の毛には霊力が宿っているので、これを切ることは力を削ぐことになる。新入生の髪を切るのは、上下関係をはっきりさせるために、慣例として行っている、公認の苛めらしい。誰に公認かはよく分からないけれど。
 ウゾは自分がされた時のことを、もう忘れてしまっている。
 ところが、サクラちゃんは、怒った。
 髪は女のイノチなのよ! ふざけんじゃないわよ!

 ……ウゾはビビった。サクラちゃんは可憐な少女ではなく、逞しい少女だった。自分の道は自分で切り開く系なのだ。
 学校の成績は抜群で、技の習得も誰よりも早い。たとえば、花にシュリケンのように刃を忍ばせる術や、ヒタキのような小さな鳥を大きくする術も、先輩のウゾを追い越して完璧に身につけた。鬼についての情報も、あちこちで聞き込み、自分たちの将来をあれこれ考える、賢い女の子なのだが……
 ちょっと面白かったのは、サクラちゃんが切れた時、学校一怖い教官、前身はミドロガイケの龍だったという(みんな、疑っているけれど。だって、龍は鬼になんかならない。始めから鬼みたいなものだから)タタラが、目を丸くしてサクラちゃんを見ていたことだ。

 ちなみに、鬼になっても、ニンゲンの時と同じように、花見をする風習をそのまま引き継いでいる。
 ニンゲンたちを見下ろしながら、木の上で、正確には花の上で宴会をしているのだ。その日だけは、学校も休みだ。というより、花見は学校行事なのだ。
 ニンゲンには警告しておきたいが、花見の時に、不用意に桜の木の上を見上げたりしない方がいい。もしかして鬼が見えたら、ちょっと厄介なことになるかもしれないのだから。
 もっとも、夜の明かりの中で見上げる真っ白に浮かび上がる桜のさらに上にいる鬼たちが、簡単に見えるとは思えないが。

 もうひとつ、サクラちゃんの大胆なところは、たまに学校を平気でサボることだ。
 ウゾなんか、さすがにそこまでの勇気はない。遅刻して怒られながらも、行かなくて怒られるよりはいいに違いないと、さすがに思いきれない。
 もちろん、サクラちゃんを助けた時は、それどころじゃなかったのだけれど。

 で、サボる時はいつもこれだ。
「ね、もち姫のところに遊びに行こうよ!」
「で、でも、ガッコウ……」
「今日の授業は辻を曲がる時の角度についてでしょ。大丈夫、それ、この間、ツジドウロウに聞いたから、今度教えてあげる。それより、もち姫のところに行こう」
 ウゾはさすがに、こんなふうに確信犯にはなれない。

 ちなみに、ツジドウロウというのは、辻に置かれている灯篭のことだ。古い奴になると、たまにこっちの世界では生きているのがいる。毎日辻を通る鬼たちを見ているので、鬼の規則は分かっているらしい。
 サクラちゃんはどこかから灯油をちょっとだけ手に入れてくる。
「お、灯油やないか。最近は、もっぱらデンキやろ? これがまずくてさ」
 ツジドウロウは灯油を舐めながら、嬉しそうだったらしい。
「で、お嬢ちゃん、何が知りたいんや?」

 サクラちゃんがすごいのは、上手くギブアンドテイクを利用して、誰とでも、いつの間にか友だちになっているところだ。ウゾもあれこれ友だちは多い方なのだが、サクラちゃんの「ココロの掴み方」は特別だ。

 でも、もち姫のところに行こう、というのは魅惑的な言葉だ。
 ウゾだって、もち姫のところに行くのはとても楽しい。
 でも暑くなってきてからは、もち姫もしんどそうな時があるから、昼間は休んでいることも多い。本当ならウゾたちは眠っている時間だ。もちろん、ウゾはあまりよく眠れないのだが。
 ウゾたちが学校から帰る時間、太陽が昇り始める時間には、もち姫は幾らか忙しい。他の猫たちに色々と教えておかなければならないこともあるようだし、ウゾたちと遊んでばかりはいられないのだ。
 一番いいのは、ウゾたちが学校に行く時分、涼しい風が少し吹き始める時間帯だ。もち姫は一番気分が良さそうだし、他の猫たちも来ていない。

 だから、いっそウゾ達が学校を休んでしまえば、もち姫とゆっくり話ができる。
 もち姫はこの世(鬼の世界)とあの世(ニンゲンの世界)を行き来できる特別な「知っている猫」だから、沢山のことを分かっている。ウゾたちにもいろんなことを教えてくれるし、他の猫たちの先生でもある。

 でも何より、ウゾはもち姫と一緒にいることが楽しいのだ。別に話なんかしなくても。
 サクラちゃんは、知りたいことがいっぱいあって、もち姫に質問攻撃だ。もち姫は嫌がらずに答えてくれる。でも、本当にもち姫が忙しい時やしんどそうな時は、ちゃんとわかるみたいで、サクラちゃんも何も言わずにもち姫と一緒に縁側に座っているだけだ。
 そんなサクラちゃんを、ウゾも、多分もち姫も、結構好きなのだ。

 でもサクラちゃんだって、いつでもサボろうと考えているわけではない。女の子は結構合理的な考えを持っている。
「今日の授業は出とかないと! 元ニンゲン以外の鬼との付き合い方だよ。走ろう、ウゾくん」
「う……うん……」
 眠い。ゾンビになりそう。あ、そうだ、鬼なんだし、既にゾンビみたいなものだった。
 でも、サクラちゃんに手を引っ張られて走っているうちに、目が覚めてきた。
 そうなると、今度はウゾがサクラちゃんを引っ張ってあげる。そんなときのサクラちゃんは、ちょっとほっぺを赤くして、可愛らしい女の子に戻っている。


 学校の門を時間内に潜らなければ、ある一定時間は締め出される。
 ウゾたちはいつもギリギリか、遅れるかのどちらかだが、結構門番に融通をきかせてもらっている。
 タタラにばれたら、門番のグンソウも怒られると思うのだが、グンソウは表情を変えないまま、そっと門を押さえて数分くらいはウゾたちを待っていてくれる。

 百鬼夜行学校の門番兼用務員、グンソウは、いつも怖い顔をしている。
 鬼だから怖いのは当たり前なのだが、タタラのように怒鳴ったりもしないし、むしろ何も話さないので怖い、という印象なのだった。一度も表情を変えるのを見たことがない。
 兵隊さんみたいな恰好をしているので、グンソウと呼ばれているのだが、実は、正確に言うと、彼は鬼なのかどうかよく分からない。

 昔は百鬼夜行学校の生徒だったそうだが、ジョウブツする気持ちがないので、学校の門番になったのだという。
 もしかしたら、断トツ一番の遅刻最高回数、一万八百八回の記録の持ち主はグンソウではないかと思ったこともあるのだが、グンソウはもう随分始めのころからジョウブツはしないと決めていたそうで、そんな回数の遅刻をするほど試験は受けていないようだ。

 グンソウは鬼のような風体をしているが、どちらかというと、まだニンゲンに近い。
 ジョウブツしないままこの世に残ると、だんだん苦しくなっていくという。その苦しみはものすごいのだというけれど、それがいつその鬼の身に起こるのか、どんな苦しみなのか、誰も知らないらしい。
 そう、この世に未練があったり、上手くジョウブツできない者が鬼になるのだが、それでも最終的にジョウブツするために一生懸命やっている、それが鬼だ。
 だから、グンソウがなぜ、その苦しみのほうを選んで、ジョウブツを諦めたのか、ウゾはずっと疑問だった。

 今日も、グンソウは何も言わず、怖い顔のまま、ウゾたちをそっと通してくれるだろう。
 それに、サクラちゃんが来てから、少しだけグンソウの表情が柔らかくなった気がしていた。何か、懐かしいものを想うような顔をする時がある。そんなふうにウゾには思えるのだ。

 あれ。
 ウゾがいきなり足を止めると、サクラちゃんがつんのめってウゾの背中にぶつかってきた。
「ウゾくん、急に止まらないで」
「グンソウがいないよ」
 サクラちゃんも足を止めた。
「ホントだ」
 門はまだ開いていた。だが、グンソウがいない。

 授業よりも気になる。そういうところはサクラちゃんと波長が合う。
 門の内側を覗いてみたが、どこにもいない。用務員室も見に行ってみたが、やっぱりいない。今度は門の外に出てみたら、ウゾとサクラちゃんの背中で門が閉まってしまった。
 ウゾとサクラちゃんはゴショの中をあちこち探してみることにした。

 うろうろしていると、どこかから唸るような声が聞こえてきた。
 誰かが苦しんでいる。
 ウゾの耳が反応したということは、ニンゲンではない誰かだ。
 ウゾはサクラちゃんと目を合わせ、一緒に走った。

 その時、見たものを、ウゾもサクラちゃんも忘れられない。
 ゴショの隅っこにあるお茶室の脇で、グンソウが、地面をのたうちまわりながら、鬼としてかニンゲンとしてか、あるいはもうすっかり別の生きものとしてなのか、苦しみもがいて咽喉から絞り出すような声を上げ、血を吐いていた。
 もちろん、ニンゲンではないのだから、身体の中に赤い血が流れているわけではないのだが、身体の内側にある得体の知れないものを吐き出しているように見えた。
 苦しくて、辛くて、悲しくて、どうしようもないような姿だった。

「グンソウ!」
 ウゾとサクラちゃんはグンソウに駆け寄った。
 もしかして、いよいよジョウブツしない鬼の苦しみが始まってしまったのだろうか。
 グンソウは、鬼の形相をもっと鬼にして、真っ赤に血走った目で見えないものを見て、そこにないものを掴もうとしているように見えた。

 ウゾは本当はちょっと怖かった。でも、今はそれどころじゃない! 何とかしなくちゃ! 
「もち姫を呼んできて!」
 小鬼のウゾにはとてもグンソウを運ぶことはできない。サクラちゃんと力を合わせたとしても無理だ。
 サクラちゃんは、ウゾが言うが早いか、駈け出した。

「グンソウ! しっかりして!」
 グンソウは怖い顔をしているけれど、本当は優しい人だと思っていた。だって、ウゾたちのために門を押さえてくれているのだから。
 でもどうして! ちゃんとジョウブツしたら苦しまなくて済むのに! そりゃ、試験に合格するのは難しいけれど、それはウゾがチコクばっかりしているからで、普通の鬼なら千回以内で合格するのに。

 もち姫のいる場所は近くない。それに、もち姫の身体でここまで走ってくるのは大変だ。
 サクラちゃんが意外に力持ちだったとしても、あっちの世界にある身体は、ウゾたち鬼にとっては結構な重さだ。
 グンソウがばたんと身体を回転させ、うつ伏せになって、地面を引っ掻いている。正確には、地面の様なやわらかい土ではなくて、目に見えない何かもっと硬そうなものをひっかいているのだ。爪が剥がれ落ちて、血が噴き出している。
 鬼なのに! ニンゲンよりも強いはずなのに。
 それは血というよりも、グンソウの中のココロのようなものなのかも知れない。ウゾには見えないが、グンソウには見えている何かだ。グンソウは身体から吹き出す何かを見てはのたうち、泣き叫んでいる。

 どうしよう。
 もち姫、ボクはどうしたらいいの。
「グンソウ!」
 体に触れようとしたら、グンソウの腕がウゾを跳ね飛ばした。ウゾは転がって、何かに身体をぶつけた。

 転がったままふと見上げると、ぼんやりとした視界の中で蒼い光のようなものがいくつも見えた。
 ウゾがぶつかったのはお茶室の脇の垣根で、そこに絡まるように朝顔のつるが伸びていて、蒼い花を咲かせていた。
 いや、正確には、朝顔はもう萎れていた。
 夕闇の中で、蒼い光が消えていく。
 グンソウが苦しみ、叫びをあげている。

 僕には何もできない。誰か、グンソウを助けて。
 ウゾは涙を流して、大きな暗い空を見上げ、目を閉じた。





さて、小鬼のウゾくんにはどうすることもできない問題が起こっているようです。
後篇も、頑張るウゾくんを応援してあげてください。
今夜、日付が変わる頃に(変わってからかも?)、またお目にかかりましょう。

Stella、間に合うのかなぁ? 締め切りは過ぎていますが……
今夜続きをアップしてから考えます。
イラストレーター募集したくなってきちゃった。





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Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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