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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨78] 第16章 任侠の男(1) / R15 

人物紹介も無事に終わったので、【海に落ちる雨】第3節のスタートです。

失踪した真の同居人・大和竹流。彼の行方を追いかけると、3年半前に政財界の大物を脅迫して自殺したという雑誌記者・新津圭一の事件に行きついた。その男は、真の恋人(?)・深雪と、以前不倫関係にあった。
真は竹流のマンションに戻り、竹流と一緒に姿を消していた寺崎昂司に会う。彼は怪我をしていたが、傷つけたのは楢崎志穂。彼女は新津の後輩で、寺崎が自分の「姉を殺した」と思っているようだった。
志穂に誘われ、ホテルでいくらかの情報を知らされた真は、いきなりヤクザに襲われる……
寺崎昂司は何かを探しに竹流のマンションに現れたのか。もしかすると、室井涼子が竹流から預かっていたというビデオ? ビデオには新津圭一の自殺が他殺であった証拠とともに、新津の娘・千惠子が受けた残酷な出来事が録画されていた。
竹流はどこにいるのか? 自らの意志で姿を消したのか、あるいは何か良くない外力によるのか。
いよいよ、物語は解決編へ移っていきます。
(超いい加減なあらすじ……ものすごい端折り方となっていますが、あまり気にしなくても大丈夫です。まるで、2時間ドラマの最後の30分だけで筋が分かる、みたいな世界に……)

さて、第3節から、ついにあの人が出てきます。
真の事務所の秘書・柏木美和の恋人、仁道組組長の息子・北条仁。
どうぞお楽しみください。





 気が付いたのは、鋭い痛みが胸に走ったからだった。
 目を開けたはずだが、視野に広がるのは、輪郭が溶け合った複雑な幾何学模様だけだった。状況を把握しようと頭が回転し始めたところを、いきなり後ろからぐいと引っ張られる。今度は後頭部と首が引き剥がされるような、受動的で激烈な痛みが走った。

 首を上げた形になると、突然、曖昧だった視界のど真ん中に男のでかい顔が現れて、真を覗き込んでいた。顎から左頬にかけて大きな傷があって、それが男の顔を余計にでかく見せている。

 自分がどういう格好しているのか、頭がまともに働くまでは分からなかった。
 どうやら後ろ手に縛られて、中途半端に上半身が吊り上げられているようだ。足と手の感覚を確かめ、あちこちの痛みはともかく、どこも削り落とされてはいないことを、一つ一つの指を動かしながら確認した。恐怖を飲み込むための手段だった。

 もっとも動かしていると思っているだけで、実際はどのくらい動いていたのかは分らない。しかも、なくなったはずの足の感触はちゃんとあるのだと聞いたことがある。そんなことを一瞬のうちに考えるとは、断末魔という状態だからだろうか。
 動かそうとした指は硬く、痺れているようだった。

「気が付いたか」
 左右の頬骨と顎の間に指が喰い込んできた。顎が外れそうなほど強い力だ。しゃべっているのは、真の頬を掴んでいる男ではなさそうだった。目の前の傷のある男は、ただにやにやと笑っている。
「俺の言うことが聞こえるか」

 返事をしないでいると、いきなり横面を張り倒された。
 返事をしたくなくて答えなかったのではなく、顎を抑え込まれた形でしゃべれるわけがなかった。体が浮いたと思った途端、そのまま落下し、身体の左半分に骨まで到達するほどの激烈な衝撃が来た。
 
 床に叩き付けられた大きな音は、振動となって鼓膜から骨にひびいた届いた。椅子か何かに縛り付けられているようで、転がったのは自分の身体だけではないように感じる。動けない分、床からの衝撃は反動となって余計に大きく響いた。
 幸い、その衝撃で多少は視野がはっきりしたような気がした。
 だが、身体は奇妙な痺れを伴っていて、思うようにならない。

「ちゃんと返事しないと聞こえねえんだよ」
 返事をするもしないも、頭は重くはっきりせず、声を出すこともできなかった。そのまま、身体はもう一度元の位置に戻される。

 真の前には、もう一人、男がいた。顔に傷はないが、浅黒い肌で、目だけが異様に光って見えている。もっとも、自分の目が色を認識できているか、今一つわからない。
「ちょっと聞きたいことがあるんだがな」
 目の前の男の口が動いていた。

「ビデオはどこにある? 絵も、だ」
「何の、ことだ」
 やっと声が出た。だが、自分の声かどうか分らないほど、擦れて頼りがない。
「俺は気が短いんだ。怒らせないでくれよな」

 体がしっかりしない。どこかがはっきりしてくると、別の部分が曖昧になり、頭痛が激しくなった。はっきりしてきたと思った視野も、単に輪郭が分るようになっただけで、目の前の男の顔は二重にぶれている。
 何か薬を仕込まれたのだろうと、頭の半分で考えていたが、考えはすぐにかき混ぜられて、前後関係はぐちゃぐちゃになる。理屈を並べることは不可能だった。

「あの男から、何か預かっているはずだな」
 こいつらは何を言っているのか。何しろ、真には理解できないことばかりだったので、取り敢えず、意識を落とさないためだけに答えた。
「知らない」

 声ががらがらと咽で嫌な痛みを伴っていた。首筋に冷たいものを感じる。視界の隅に何かが光っている。ナイフのようだった。
「あーあ、また傷が増えるねえ。あと何本くらい傷がついたら死んじゃうのかね」
 後ろからナイフを首に当てている男が、ねっとりとした楽しむような声で言った。

「首は後にしろ」
 目の前の男が命令口調で言い、それを受けて真の耳元に気味の悪い声と息がかかった。
 言葉はよく理解できなかったが、そのまま冷たい感触は胸から腹へと滑ってくる。殴られたのか、単に薬のせいか、十分に目が開けられなかった。

「痛いのは辛いねぇ。どこから切る? 指にする? 耳がいいかな? それとも鼻?」
 ひたひたと、ナイフは単語を追いかけるように身体の部分に触れていく。

「お前ら、誰に頼まれたんだ?」
 途端に、いきなり腹を蹴り上げられた。かわすのは勿論無理だが、腹に力を入れる隙さえなかった。
 一気に、吐き気が胃から食道まで上がってくる。

「誰がお前に質問することを許したんだ? え?」
 もう一度髪の毛を摑まれて、後ろへ引っ張られる。
「お前が喋らなくてもな、お前のこんな姿を見たら、ベラベラ喋る奴がいるかもなあ」
 いかにも汚らわしい息が顔に吐きかけられた。

 真は一瞬に頭がカッとなったような気がした。
「彼は、どこだ」
 今までになく、はっきりとした声が出た気がした。それを聞いて、目の前にいる傷のない男がいやらしく笑った。

「会いたい、会いたいって身体が言ってんだろう」
 傷のあるほうが、首の辺りでいやらしい息遣いをしているのがわかった。唐突に、男の持つナイフが真のスラックスのベルトを裂いた。体にその振動が伝わり、ぐらつく。

「毎日抱かれてやってたのか? さぞかし、寂しいんだろうなあ、ここは」
 何をくだらないこと言ってるんだ、と思った途端、前にいる男が、真の股間に手を突っ込んで、いきなり真のものをぐっと掴んだ。あまりの痛みに真は一瞬叫びを上げた。
 加減を分かってやっているのか、彼の出せる力の限界なのか、あともう少し力が加わっていたら睾丸が潰されている。男が満足そうに笑った。

「こいつは、痛いのもよぉく知ってるだろうなぁ」
 目の前の男は、真の性器を握る指先に力を入れながら、後ろの男に顎で何かを命じたように見えた。
 ナイフは刃を下にして、胸をゆっくり舐めるように降りていく。刃は臍から下にくると、皮膚をゆっくりと裂いていた。

 恐怖というわけではないはずだ。自分に言い聞かせたが、じっとりと冷たい汗が噴き出している。代わりに喉の奥はカラカラになっていた。
「突っ込まれるだけならこいつはいらねぇな。切り取っておいてやろうか。後ろの穴さえ使えたら十分だろう?」

 不意に背中に寒気が走った。こいつらは酔狂で本当にやってしまう人種だ。そう思うと、腹の奥から吐き気がこみ上げてきた。何より、縛られた状況では、事態を好転させるきっかけが掴めない。
「ビデオや絵のことなど聞いていない。彼から預かったものも、何もない」

 案の定、声が掠れて情けなかった。だが、少なくとも口を動かしているうちは、最低限、強がっていられることに気が付いた。

「おまえの使い道はひとつじゃないと言ったろう?」
「だから、そのようにすればいい。つまらないことを抜かしていないで、お前らを雇ったやつのところに連れて行け」
「おまえ、自分の立場が分っていないようだな」

 言葉が終わらないうちに、また椅子ごと吹っ飛ばされた。腹に食い込んできた堅い靴の勢いに、思わず嘔吐した。血のにおいがしていた。

「やくざにもな、そういう手合いは多いんだよ。お前の身体をそいつらに預けてやってもいいんだぜ。シャブ漬けにされて、さんざんマワサれて、死ぬまでケツの穴に突っ込まれるぜ。あるいはソ連行きの船にでも乗せてやるか。あっちの連中のものはでかいぞ」
「お前さんの身体じゃあ、半日もつかねぇ」

 ひーっとどちらかの男が笑った。多分、傷のない下品な男の方だろう。もっとも、どっちも下品であることには変わりはない。
 こいつらが、腹が立てば理由などなくても他人を痛めつけることは知っていた。
 頭はようやく回り始めてきたが、まだこの事態から抜け出すための妙案は浮かばない。

 試しに、椅子に縛り付けられたままの手首を捻ってみたが、案の定、余計に喰い込んでくるだけだった。時間を稼いだところで何もできないと気が付くと、身体のあらゆる汗腺が冷たい汗を搾り出した。だが、口は恐怖を認めることを拒否している。

 これが彼に繋がる近道なら、それもいいと、考えを切り替えようと思った。
 しかし、男たちは全ての事情を一気に放り出す残酷さを持っていた。

 髪の毛をつかまれて顔を上げさせられると、真正面に傷のあるほうの男の目があった。口は笑っているように見えたが、目には感情がなかった。

 狂っている、と真は思った。傷のないほうの男の顔はその向こうにあったが、残忍な目つきは同じだった。傷のある男はナイフの刃を舐めて、それで真の頬をぺたぺたと音を立てて叩いた。

 実際には、この男たちにとって、真が絵やビデオの在り処を知っていようといまいと、どうでもよかったのかもしれない。
 ふと身体が浮いたように感じた途端、腹に堅いものが食い込んできて、そのまま床に叩きつけられた。
 背中に亀の甲羅のようにへばりついていた堅い拘束から剥がされたが、手は後ろで縛られたままだった。

 身体を折り曲げることができるようになると、何とか自分自身を庇えるようになったが、男たちの攻撃も容易になった。
 傷のない男が、いかにも改造しましたというような安物の玩具のような拳銃を、傷のあるほうの男に投げて寄越した。傷のある男はひっひっとひきつった蛙のような笑い声をあげてシリンダーを回す。

 中から幾つかの薬莢を抜き出して床に捨てる音が、ひとつ、ひとつ、まさに真の耳の傍で、獲物をいたぶるのを面白がるように、時間をかけて響いた。
 三つ、音がゆっくりと響いた後で、傷のない男の声が頭の上から降ってきた。静かなのに、奥底に残酷な興奮を秘めた声だった。

「映画じゃないからな、上手く弾のないところに当たるとは限らない」
 こいつらは薬をやっている、と気が付いたのはそのときだった。いや、傷のない男の方は、もしかしたら素なのかもしれない。

 撃鉄の上がる音が、いやな尾を引いて頭の中に伝わってきた。傷のある男は、弾を半分捨てた拳銃を傷のない男に渡して、気味の悪い声を立てながら真の頭を仰向けにして床に押さえつけた。

 目の前に銃口があった。口の中に血の臭いが湧きあがってきた。ゆっくりと、傷のない男は拳銃を持ったまま下がっていき、一見冷淡なだけの焦点の定まらないような目で、何の躊躇いもなく引金を引いた。
 思わず目を閉じた。

 左耳元に激しい音と痛みが走った。
 ひーっという高く息を吸い込む音と共に、真の頭を押さえている手が揺れた。
「二分の一は分が悪いねぇ」

 そう言って、ひっひっとまだ笑っている。
 真は息を吐き出した。胸が激しく上下しているのがわかる。
 まだ頭の中には、耳をかすった銃弾の振動が残っている。

「次はどうかな」
 またシリンダーの回る音が聞こえた。
「今度は耳じゃなくて、足にするか? それとも手か」
「あそこにしちゃえ」
 興奮した男の息が頭のすぐ上から降ってきた。

 手。
 耳に飛び込んできた短い単語は、真の頭の中を突き抜けた。

 こいつらなのか。こんなふうに面白がって竹流の右手を抉った下衆どもは。
 思わずかっとなって頭の上を睨み付けた途端、傷のある男が面白そうに笑った。下品な笑いだった。
「いい目だこと」

 そう言うと、男はがっしりと押さえたままの真の鼻を舐めた。吐き気が上がってきた。身体は痺れていて、舌からさえも上手く逃げることができない。何か言ってやろうした唇にも、男の舌が触れ、卑猥な音をたてて舐め始めた。

「この下衆ども」
 何か言わなければ気を失いそうだったのだが、真の言葉は男たちを興奮させただけだった。
 足下に立っていた男がいきなり真のスラックスを膝まで下げた。それから、真の目の前でもう一度シリンダーを回す。
 目は真を見ている。両端の上がった唇を、舌が舐めている。真は息を飲み込んだ。

 六分の三が六分の二になったのだから、分はいいはずだと言い聞かせる。命さえ助かれば、耳が片方吹っ飛んでも、片腕か片足になっても、這ってでも彼の所に行きついてやる。

 傷のない男が一旦、銃を構える。銃口がこんなにでかいとは思わなかったと、真正面の暗い穴を見つめる。
 男はゆっくりと屈み、銃口を真の口に突っ込む。真は観念して目を閉じる。
 せめて気が紛れるかと、手首に食い込む縄を捻ってみるが、やはり何の効果もなかった。
 叫びだしそうになっていたのに、もう声が出ない。

 だが、ついに撃つのかと思っていたのに、何の動きもなかった。
 目を開けると、傷のある男の目と口が笑っている。傷のない方の男はゆっくりと真の口から銃口を引き抜き、中から一発の薬莢を取り出す。
 真の視線を確かめながら、薬莢を開けて、中から火薬を出して手の平に載せた。

 ひーっと、また頭の上の傷のある男が笑った。
「少しにしないと死んじゃうよ」
 始め、傷のない男は真の鼻から火薬を吸わせようとしたが、思い立ったように笑って、真の下着を下げた。
 頭の上の男は面白そうに笑い転げるような声を上げた。

 何をする気かと思っていると、頭の上の傷のある男は真の理解不能の頭を助けるように、いかにも楽しそうに言った。
「ヤクよりもよっぽど効くんだよぉ。尻の穴に塗ってやるってよ。興奮して自分からケツを振りたくなるぜ。でも、ちょっとやりすぎると、死んじゃうんだよ」

 息が吸えなかった。傷のある男は今度は真の腰を抑え、傷のない男が真の足を広げさせて、指で尻に触れようとした。
 その途端、痺れて動かないと思っていた足が、この断末魔にようやく気が付いたとでもいうように、いきなり麻痺から解放された。
 火事場の馬鹿力とはまさにこのことだ。何の計画もなかったが、足は見事に男の身体を蹴り上げた。

「野郎」
 最も、得策だったとは限らない。男たちの興奮の火に油を注いだ可能性が高かった。
 彼らは、何かのきっかけを待っていたとでも言うように爆発した。

 いきなり、みぞおちが裂けたのではないかと思うほどの痛みが喰い込んできた。
 意識が飛びそうになる。
 それから何度も、堅く勢いのある攻撃が腹や背中に突き刺さった。蹴られているのだろうとは思ったが、もう目を開けて相手を見ることもできなかった。

 そのうち意識が朦朧とし始めた。相手が頭を殴り始めたら終わりだな、と考えていたが、解決方法は見当たらなかった。
 耳に激痛が走った。それが最後に感じた痛みだった。

 その後は痛みというよりも、身体も意識も膨れ上がるような感じだった。致命傷にならない程度に殴られてゆっくりと死ぬのはあまり気分のいいものじゃないなと考えていた。鼻と口の奥で鉄の臭いがしていた。意識が芝居の舞台のようなものならば、まさに緞帳が下りようとしている時だった。

 その時、突然、頭の後ろのほうで、異質な大きな音が響いた。大きい、と思ったのは、床から直接その振動を感じたからかもしれない。

「何だ、てめえ」
 突然男の怒鳴り声と、慌しい足音がいくつか交錯した。床についた耳の奥で、再び鼓膜が悲鳴を上げた。痛みが戻ってくる。

「そのまま」
 どすの利いた重い声は、聞き覚えがあった。しかし、身体を動かすこともできず、頭の上で起こっている出来事を確かめる術がなかった。ヤクザが他に何人いたのかはよくわからなかったが、今彼らが誰しも硬直しているのを感じる。突然に訪れた静寂は、しばらくの間、続いた。

 意識が定まらないまま、視界を確保する術もなかった。
 助かったのか、状況が悪くなったのかを確認する間もなく、真は誰かに身体を抱き起こされた。
「こうもと、さん」

 何を言うべきか、頭は意味のない回転を繰り返したが、結局何も出てこなかった。
『河本』が真を縛っている縄を手際よく解いた。

 多少視界が得られるようになったとき、さっきホテルで見かけた若いチンピラが、『河本』の背後から、震える手で銃を構えているのが視界の隅に入った。震えているのは自分のほうだったかもしれないが、今ひとつはっきりしなかった。

 しかし、真が叫びかけた瞬間には、チンピラの手から銃が吹き飛んでいた。
 チンピラは衝撃で後ろへ倒れた。すぐに、捜査員らしきスーツ姿の男が何人か、ヤクザを取り押える。

 真はチンピラの銃を弾き飛ばした何かが飛び出してきた方へ、視線を向けた。
 口の中で、お父さん、と言ったかもしれないが、声にはなっていなかったはずだと思った。父の視線は、真に厳しく突き刺さるようで、どこか淡々として、そして寂しげにも見えた。

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Category: ☂海に落ちる雨 第3節

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【海に落ちる雨】登場人物紹介 

以前から予告しておりました、相川真シリーズの人物紹介のコーナーです。
レギュラー陣、そして【海に落ちる雨】の主要登場人物を挙げております。
ダイジェスト版と、ロングバージョンがあります。

お話を読んでいないわ、という方も、どんな人間たちが出ているのか、ちょっと覗いてみませんか(*^_^*)




このシリーズは、まだ少し迷いはあるものの、当初の予定通り古い時代の設定で書いています。
真の父親の立場とか物語の雰囲気とか、携帯電話があったらこわれてしまうので、そのままです。
違和感なく『津軽海峡冬景色』『わかって下さい』『アン・ドゥ・トロワ』なんかが流れている時代だったのですね。古き良き昭和の後半(?)かもしれません。
それもこれも、そもそも、息子の慎一の時代を現在に設定していたのです。でも、書き始めてずいぶん経ってしまって、今はもう息子の時代でさえ一昔前^^;

それでは、レギュラー陣からご紹介いたします。
主人公二人の長い解説は別のページにありますが、どちらかというと始章を読んでいただくと、かなりの情報がはいっております(*^_^*)
【海に落ちる雨】始章



【海に落ちる雨】(相川真シリーズ)人物紹介

ダイジェスト版

<レギュラー陣>
(この物語にあまり出てこないレギュラー陣も書いてあります。名前がしばしば登場するので…)

相川 真 27歳、新宿の調査事務所所長。あれこれあって、元家庭教師と同居中。
大和竹流 36歳、美術品の修復師。本名はジョルジョ・ヴォルテラ。真のもと家庭教師。
柏木美和 21歳、女子大生だが、真の事務所の共同経営者(本人は秘書と呼んでほしがる)。
北条 仁 37歳、真の事務所があるビルのオーナー。美和の恋人で、仁道組(ヤクザさん)次期組長?
高遠賢二 20歳、少年院上がりの青年、真の事務所に出入りしている。自称、真の弟子。
宝田三郎 23歳、ヤクザ志望だが気が弱い、真の事務所の掃除担当?
葛城 昇 竹流の仲間であり、ゲイバーの店長。
イワン・東道 竹流の仲間であり、ボクシングジム会長。
寺崎昂司 竹流の仲間の一人、逃し屋。現在、竹流失踪の鍵を握っていそうだが?
室井涼子 竹流の恋人の一人、ブティックを経営。
添島麻子 竹流の恋人の一人、刑事。
東海林珠恵 竹流の妻といってもいい女、祇園の芸妓。
井出幸之助 新聞記者、真をやたらと飲みに誘いに来る。
唐沢正顕 真の元上司。調査事務所を経営していたが、今は服役中。
三上司朗 唐沢の部下、真の先輩。事務所の爆破事故で下半身不随。
小松崎りぃさ 真のもと恋人(未満?)。自殺している。
高瀬 大和家の執事。竹流が絶大な信頼を寄せている。
名瀬 真の事務所を下請けに使っている弁護士。
斎藤 相川功(真の伯父)の親友で、循環器内科医。真の主治医でもある。
チェザーレ・ヴォルテラ 現ヴォルテラ家の当主。竹流の叔父。ゴッドファーザーですね。 

*真の親戚関係
相川(富山)葉子 真の従妹。真の親友と結婚している。
富山享志 真の自称親友。某貿易会社の御曹司。天然ボケ系。
相川 功 真の伯父、育ての親。脳外科医。失踪している。
相川武史 真の父親。某米国国家組織のスナイパー。
相川弘志 真の叔父。浦河で牧場を継いでいる。いかにも田舎のあんちゃん。
相川長一郎 真の祖父。剛健で頑固なじいちゃん。
相川奏重 真の祖母。そのじいちゃんを密かに尻に敷く、たくましき女性。民謡歌手でもある。

<【海に落ちる雨】登場人物>
澤田顕一郎 代議士。もと新聞記者。
香野深雪 真の恋人、銀座でバーを経営。
新津圭一 雑誌記者。深雪のもと恋人(不倫関係)。自殺と見せかけて殺されている。
田安隆三 ジャズバーの経営者。真に銃の扱いを教えるなど、怪しい面も。澤田の育ての親。第1節で水死体で発見される。
楢崎志穂 田安のところに出入りしていた雑誌記者。新津圭一の後輩。姉と慕う女性を探しているよう。
御蔵皐月 楢崎志穂の孤児院時代からの姉貴分。絵画の贋作者。竹流とも関係が。
『河本』/ 香月 内閣調査室長代理。真の父親・相川武史を知っているよう
江田島道比古 弥彦の村役人。美術愛好家で、フランスに留学していたこともある。
蓮生家 村上と荒川にそれぞれ屋敷がある古い名家。ロシア皇帝の末裔から色々預かり物をしていた?
 村上の下蓮生の前当主:ボケた爺さんで、子どもの頃に見た金髪の女の幻に苦しめられている。
 同現当主:いやらしいおっさん。
 荒川の上蓮生の当主:女性(千草)で、誇り高い女。実はロシア人女性の血を引いている。
村野耕治 既に死んでいるが、亡霊のような存在。澤田顕一郎の秘書だった。
村野 花 澤田の以前の恋人、村野耕治と結婚。
草薙謙二 村野耕治と花の息子。新宿のバー『シャッフルズ』のオーナー。
寺崎孝雄 寺崎昂司の父親で運送会社を経営している。主に美術品を運送する会社。
ビッグ・ジョー 六本木の外国人ヤクザの元締め。

このうち数人、まだ名前の出ていない人もいますが、存在はちらちらしているので、ここに載せました。
その他、名前が出てこない人、あまりにもワンシーンだけなので無視した人は多数おります。
あと一人、重要人物がいるのですが、この人はまたいずれ。

引き続き、ロングバージョンです。
特に相川家の面々の解説を見ると、物語の背景も含めて、確認できるかもしれません。
(でも結構長いので、適当に拾い読み・飛ばし読みしてくださいませ^^;)。
しかし、人物だけ並べたら、どんな話!?ということになりそうなラインアップですね……  




フルバージョン
(ロングバージョンです。お暇なときにどうぞ。)

相川 真
真250
生年月日:1952年11月17日(蠍座)。この物語の時点で27歳。出生地は東京だが、育ったのは北海道の浦河。中学からは東京(一時カリフォルニア (苛めのため避難))。
外見的特徴:父親は日本人(相川武史)、母親はドイツ人とのハーフだが、本人はあまり大柄ではない。痩せマッチョ系です。髪の毛は光に透けると茶色っぽく見える。目は右が碧色、左は黒。ちなみに血液型はAB型。
職業:もともと宇宙物理をやっていたが、事情があって大学を辞め、アルバイトで勤めていた調査事務所・所長の逮捕をきっかけに独立。現在、新宿で調査事務所を経営。事務所はある弁護士事務所の下請け的存在で、失踪人調査がメイン(犬猫も探す)だが、浮気調査も身元調査もすることはある。
特技:裸馬に乗れる、犬や馬と喋れる、もののけ・あやかしの類が見える、祖父の手ほどきで太棹三味線を弾く、星の名前をやたらと知っている。
趣味:強いて言えば、ランニング?  剣道(結婚してからはお寺に住んで、子どもに教えています)。疲れたら天文学・宇宙理論の本を読む。数字の羅列・謎の公式を見ると安心するらしい (無限を感じる?)。
嗜好:酒は基本的にほとんど飲めないが、同居人がうわばみのため、多少は付き合うようになった程度。煙草は好きでもないのに吸っている(北海道に帰ると全く吸わないようです)。
現在の生活状況:あれこれあって、元家庭教師・父親代わりの大和竹流のマンションに転がり込んでいる。基本的には色っぽい関係ではない。
作者のひとこと:とにかく私にも未だに分からない人。私が小学生の時にはもうそこにいた。何となく自分ともう切り離せない感じの人なのです。それなのに、昔イラストを描いていた頃にも、彼の絵はなかなか描けなくて……limeさんのイラストを頼りに……ありがとうございます、limeさん。
あ、そうそう。たまにネコになる?

大和 竹流/ ジョルジョ・ヴォルテラ
竹流330
生年月日:1943年4月23日(牡羊座)。この物語の時点で36歳。
背景:出身地はローマ。5歳の時に父親の双子の弟、チェザーレ・ヴォルテラに引き取られる。ヴォルテラというのは、教皇庁の広い意味での警護を請け負っている背後組織。その跡取り息子として育てられるが、16歳でローマを出奔。紆余曲折して、東京在住。詳しくは【海に落ちる雨】始章にて。
外見的特徴:180cmはある長身。髪は軽くウェーヴしたややくすんだ金、瞳は青と灰色の中間色。 血液型はB型。
職業:美術品の修復師。銀座でギャラリーとレストラン・バーを経営。若い頃はトレジャー・ハンター的なこともしていたよう。
特技:料理。とにかく食材にこだわる。5分で(というより見つめるだけで)女をその気にさせる。実はピアノが弾ける。年寄りに取り入ること(というより、単に腕に覚えのある年寄りと話すのが大好き)。人前で歌うことはほとんどないが、聞いた人によるとかなりの美声。
趣味:仕事が趣味と実益を兼ねている。背中に火傷を負うまでは、やたらと泳いでいた。ロッククライミングを楽しむ(これもトレジャーハンターとしての実益込み)。
嗜好:煙草は吸わない。旨いものの味が分からなくなるのが許せないから。酒はうわばみ。ついでに、恋人は複数いる模様。真は……息子? 飼い猫?
作者のひとこと:いつの間にか主人公の片割れに納まっている人。男前であらゆる意味でスマートな人だけど、心の中に鉛を抱えている、そういうところが美味しいのかもしれません。こちらもlimeさんのイラストをお借りしました(*^_^*) limeさんありがとうございますm(__)m

柏木 美和
この物語の時点で21歳。相川調査事務所の共同経営者。
本人は『秘書』と呼んで欲しがっているし、所長のことは『先生』と呼ぶ(何故ならハードボイルド的に格好いいから)。実際は女子大生で、将来の夢はジャーナリスト。
出身は山口県。家系は政治家を幾人か出している名家。屈託のなさは金銭的不自由をしたことがないからと思われる。童顔で、女子高生と言っても通る。気は強いが、涙もろいし、すぐ他人に同情してしまうところがある。意外に気が利く。でも、血液型は多分B型じゃないだろうか?
趣味はカメラ。中学・高校ではバスケットをしていた。
恋人は北条仁(ヤクザの跡取りで、16歳も年上)。相手の立場が立場だけに、将来には不安があるはずだが、若さの故にまだ現実味がない。所長=相川真に対しては恋とも、単なる興味とも思われる感情を抱いているが、多分生涯にわたって忘れられない存在で、そういう意味では恋だったかもしれないし、真の側からも同じだったのではないかと思う。
作者のひとこと:この子のお蔭で物語は進む。語り部として(インタヴュアーとして)最も重要な位置にいる。多分人間好きで何でも興味津々。自分たちが中学・高校時代にこうだったかな、という感覚で書いている。

北条 仁
この物語の時点で37歳。仁道組の次期組長。
生まれは満州で、両親の死で中国に取り残されていた。叔父の東吾が迎えに来てくれたのは、仁が9歳の頃。中国では金銭的・生命的危機はあったとしても、人間関係は恵まれていたようで、両親亡き後も中国人の養母に大事にされている。北条家はもともと華族だったが没落していて、東吾は闇市の元締めで這い上がった男。子どもを戦争で失い、甥の仁をとにかく大事にしていた。環境的には苦しい時代ながら、こうして大事にされてきた幼少時代が性格形成に大きく寄与したと思われる。
東吾の希望は仁が大学を出て堅気として生きていってくれることだったが、仁は24のとき覚悟を決めて、背中に彫物を入れた。
豪快で屈託のない面もあるが、他人に対してもかなり厳しい。しかし、イメージとしては江戸時代のめ組か大工の棟梁を想像してもらうとよさそう。義理と人情が大好き、他人の揉め事にやたらと首を突っ込みたがる、面倒見が妙にいい。ついでに両刀。多分、単純に人間とその営みが大好きなんだろうと思うし、セックスはその『大好き』の表現のひとつに過ぎないのかもしれない。でも意外に一途で、美和のことが本当に好き。実は純粋で曲がりのない性格なんだろうと思います。
特技は、芸能界からの誘いもあったというほどの歌。オールディーズ世代です。歌声は、外観の厳つさからは想像できない、甘い声なんじゃないかと思っています。
色恋ではないが、無理をしている男が大好き。 
今はまだ立場は安定していますが、それは父親の東吾が生きているから。今後父親の東吾が死んだら(実は抗争で殺される)、あまり明るい未来が待っているわけではない。
作者のひとこと:主人公にはならないけど、陰のドンはまさにこの人。主人公二人が時々ウザいので(ごめんなさい…)、すっきりしたい時にはいつも引っ張り出してくると、言いたいことを言ってくれるので、助かっている。私の言いたいことを誰よりもストレートに言ってくれる人。もしも自分のキャラで実際に会ってみたい人がいるとしたら、誰よりこの人。

高遠 賢二
この物語の時点で20歳くらい。少年院あがりで、生活のために工事現場で働いているが、このところ真の事務所に入り浸り。
父親は電気関係の企業の社長で、政治団体にも属しているようなお堅い金持ちだが、家庭内暴力で、できの悪かった次男の賢二を『躾』と称して殴り続けていたよう。母親は賢二を愛していたし大事に思っていたが、父親が捕まったり社会的に問題になるのは困る、と思っている気の弱い女性で、賢二を庇うことはなかった。賢二は中学生の時に父親を刺して少年院に入っている。
出所後の観察期間に、親元に帰りたくなくて相川真のところに行きたがったため、諸事情の結果、大和竹流のマンションに預けられていた。そこで初めて、自分を一人の人間として扱ってくれる大人の男に出会ったお蔭で、その後の人生は悪くなかったはず。真が自分を救い上げてくれたと思っているし、竹流のことは思い切り尊敬している(叩き起こされて大間に連れて行かれ、マグロを口に入れるまでは、ウザいオヤジだと思っていた)。
背が高く、真を見下ろすくらいだが、顔は比較的童顔。かっとなる面はあるが、根は優しく、一直線。捨て猫・犬を放っておけない。割と報われない恋をしてしまうタイプ。真が冤罪、というよりとち狂って殺人犯に間違えられて壊れてしまった姿を見て、何もできなかった自分が辛くて、本気で弁護士になる。
作者のひとこと:もうだめ、ということはない、と言ってくれるキャラだと思っている。真と竹流のマンションに居候していたわけで、おいしい位置に居ります。本当にあの二人が健全に?過ごしていたのか、私も教えて欲しいくらいです。

宝田 三郎
この物語の時点で23歳くらい。幼い時に両親に捨てられて、大阪の施設で育つ。しかもあまり環境のいい施設ではなかったようで、愛されたという記憶はない。大柄で横幅もありそうで、頭の回転は遅いほうだが、理解するとそのことをとても大事にする面がある。強くなりたいという一心で、ヤクザになろうと決めて上京したが、幸いというべきか、門を叩いたのが仁道組で、性格が向かないと不向きを指摘してもらった。その上、行き場がなかったため、め組の親分=仁のお蔭で相川調査事務所に雇われることになった。ちなみに給料を出しているのは真ではなく仁。
趣味は掃除? とにかくこの男のお蔭で事務所はいつも綺麗。将来は居酒屋とか食物屋をして、悩める少年少女のよき相談相手になるんじゃないかと思っている。これも真の影響かな。
作者のひとこと: いつの間にか調査事務所に「なくてはならない存在」になっています。いつも美和と真を心配しているのです。相川調査事務所にはこの人がいつもいて欲しい。掃除、という意味も含めて(多分、美和ちゃんはしない)。

葛城 昇
大和竹流の仲間の一人。ゲイバーの店長でもあり、本人もホモセクシュアルの人間。
いろいろ辛い過去はあるものの、竹流の仲間になってからは落ち着いているはず。この人の活躍、過去は本編でお楽しみください。実はかなり重要なキャラで、真に対しては嫉妬と一緒に、やっぱり守ってやらねばならないと思ってくれている節がある。仲間内では、情報担当かつメカに強いようです。バーは大物のその筋の性欲を満たしてくれるわけで、かなり儲かっているはず。
容姿は、細身のやや小柄だが意外に筋肉質、女顔ではないが目だけはちょっと色気が怖い感じではないかな、と思う。私の話では珍しく妖艶なタイプのはずだが、結構たくましい男でもある。

イワン・東道
大和竹流の仲間の一人。もとプロのボクサーで、今はジムを経営。無口で、言葉より手が出てしまうので、それを懸命に抑えているような剛直で融通のききにくいタイプのよう。仲間内では主に連絡係をしている。竹流に対しては、口には出さないが、俺がボスを守る、と思っている様子。

寺崎 昂司
竹流の仲間の一人、というよりも協力者の一人。裏稼業は逃がし屋で、表稼業は特にない。
身長はありそうだが、やや痩せ型(真がビッグ・ジョーという外国人ヤクザにさらわれた頃はいい身体をしていたと思います。真が竹流と区別がついていなかったくらいだし)、顔つきは一見精悍で豪快なイメージがあるが、性質は幼少期からの悪影響で随分複雑なはず。
竹流とは仲間というより親友、というイメージだが、昂司のほうは、やはり竹流はボスだと思っている面もある(それは竹流が拭い去れないオーラを持っているから…)。一緒につるんで遊んでいるし、お互い何でも許せると思っているが、女を挟んでは一時三角関係にあった。竹流はあっさりと身を引いているが(というより初めからそんなにその女性に興味があったのかどうか? 才能には興味があっただろうけど)、そのごたごたの中で竹流が昂司を庇って背中に火傷負ってしまい、罪の意識がある。
この先、「実は…」の二連発くらいがあります。お楽しみに。

東海林 珠恵
珠恵と書いて『たえ』と読みます。祇園の芸妓で、竹流にとっては妻といってもいいような女。
出会いは結構印象的で、永観堂の前。竹流曰く、理想の女がそのまま立っていて、夢を見ているのだと思ったらしい。その後、置屋の女将が竹流に惚れた、というので出入りを許していた関係で再会。
もっとも珠恵は芸妓の中でも少し年上で、若い娘たちに遠慮していたふうでもある。竹流のほうは、興味のない顔を装いつつも、雨が降り出して男衆が出ていると聞けば、さっさと傘を持って珠恵を迎えに行くという、十代の学生みたいなことをしている。すぐ口説いてすぐベッドに誘う性格の男にはあり得ないほど、回りくどい口説き方をしていたことからも、相当惚れていたと思われる(今もだけど)。将を得んとすれば、のことわざどおり、珠恵が面倒を見ていた和枝(万引きの常習犯で、もともと東海林家のお手伝いをしていた。色々と不幸な結婚生活を送っていて、ストレスからか病気のように万引きをしていた)に取り入り、和枝の料理の腕がいいと知って、教えてもらうという名目で和枝と珠恵が住んでいた古い町家に出入りしていて、女将に怒られたり、大概お子ちゃまな口説き方をしていた。
珠恵は一度結婚して離婚しており、その後もう一度結婚の申し込みがあったが(これはいい筋から)、女将が珠恵の将来を案じて大乗り気だというのを聞いて大慌てをした竹流が、女将のところへ飛んで行った次第で、その時、結婚を渋る理由を問い詰める女将に、珠恵が「好いた人がおるんどす」と答えているのを聞いて、たまらなくなって部屋に飛び込んでいったという。実はそれまで珠恵も竹流も気持ちを打ち明けたこともなかったし、ましてや手を握ったこともキスをしたこともなかったんですが、瞬間に見つめあった目と目で、もう気持ちはわかった、ってなわけで、竹流は畳に頭を擦り付けるようにして、女将に「この人を生涯不幸にはしない」と誓ったのでした(チャンチャン)。
女将は、竹流のことはもの凄く買っていたけど、珠恵の相手としては問題だと思っていたようで、結婚に向いている男じゃないと一言(その通り!)。結婚はできないが、生涯大事にすると断言した勢いで、竹流はその意志表示のために、借金で人手に渡っていた東海林家の家屋敷を買い戻して改築したという。ついでに、和枝の面倒も見ている。意地を示しちゃったんですね。恋する男は本当に馬鹿、という典型。
もともと一人で生きていくと決めていた人だけに、我慢強くて、基本姉御肌。折られてもそのまま倒れることはない人でしょう。もの静かで一見強くは見えないけど、この人がいないと本当に大和竹流は駄目になっちゃうかもしれない。まだまだ感情の奥深くは書けないけど、もしかして強い想いは舞に秘めて、墓場までもって行きそうな人。
因みに、そうやって告白してものにしちゃったほとんど同時進行で、真と精神的蜜月だったわけで、本当にこの男(竹流)は信用ならん。

室井 涼子
竹流の恋人の一人。竹流は以前、ジゴロよろしく、金持ちで才能のある(金持ちだけでは付き合っていない、つまり自分の仕事にプラスに働く女性と、仕事込みで寝てたわけ)複数の女性と関係を持っていたが、その頃から、多分打算無しで付き合っていた数少ない女性の一人。
大企業の社長のお嬢さんだが、家を出ていて、可愛がってくれていた祖父に金を出してもらって小さなブティックを経営していた(その後かなり成功)。竹流のマンションの上の階に住んでいる。いい意味でも悪い意味でも『女』という気がする。
高校時代の先輩と不倫関係にあって、もう十年単位で続いている。竹流と知り合った頃はその男の事で苦しいときで、火遊びにはちょうどいい相手が現れたというだけだった。それがいつの間にか、竹流に本気になっていて、不倫相手のほうは精神安定剤になってしまっている。男がいなければ生きていけない女だが、それは経済的な意味ではなく、精神的に恋愛が必要なのかも。
真にとっては、ずっと眩しい大人の女で、一度だけ抱かせてもらったことがあったものの、このとき涼子は自分の気持ちを確かめていたよう。今後色々あって、竹流とは関係が続かなくなるわけなんだけど、多分ずっと好きだったんだろうと思う。真が何を思って涼子と定期的に寝るようになったのかは、今後の展開ということで(つまり、真は結婚していたので、はっきり言って不倫)。

添島 麻子
竹流の恋人の一人。30にはなっているはず。現在警視庁捜査一課の刑事。以前はICPOに勤めていて、盗難美術品の担当だった。故に、大和竹流としてではなく、ジョルジョ・ヴォルテラとして見ているからか、妙な期待を抱くことはない。ヴォルテラの家がどういう家で、どれほど竹流が逃げても跡を継ぐ人間は彼しかいないこともよく知っている。そういう意味で、竹流にとっては気を使わなくてもいいし、全てを知っているという意味で付き合いやすい女なのかも。
仕事と男と、どっちをとるかと言われたら、多分仕事を取る。仕事好きで刑事の仕事に使命を感じているという面もあるけど、叶わない恋をしている自覚があるので、仕事を辞めて自分が駄目になりたくないという根性が一番かも。
妹は二人ともちょっと素っ頓狂。すぐ下の妹はあまり儲かっていない映画制作会社に勤めていて、時々仕事か遊びか、海外に行っては暫く帰ってこない。一番下の妹は大学生だが、社会勉強と言ってホステスのバイトをしている。お姉ちゃんのアドバイスはただひとつ、客と寝るな、だけらしいけど。

高瀬
下の名前まで考えていなかった。もともと大和高顕の執事だった。竹流が大和の屋敷を譲り受けたのは、半分詐欺か脅迫に近い理由だったが、その時に竹流は『家も金も要らないから、高瀬を寄こせ』と言ったらしい。この一言で、高瀬は一生竹流に付いて行くと決めたという。とにかく、竹流は誰を信じなくなっても高瀬だけは信じるだろうというほど、絶大な信頼を寄せている。ついでに、真と竹流の関係を、いちいち全部知っているのは高瀬だけではないと思う。その上、いつの間にかチェザーレ・ヴォルテラとも繋がっている様子。ちなみに大和一家は、今北欧に住んでいます。
寡黙なくせに、自分の仕事を邪魔されるのはまかりならん、という無言の圧力があって、真は大和邸に行くと、自分でコートも脱げない(そう、ご主人様および真様のコートを脱がすのは彼の仕事だから)。そういう扱いを受け慣れていない真は、最近は車を降りた瞬間に脱ぐことを覚えた。
高瀬の奥さんは、竹流のマンションへ週に3回、掃除と洗濯に来ている。世話焼きの明るいおばさん。でもさすがに執事の奥さんだけあって、外に向けては口が堅い。だから、多分二人の生活について何を知っていても、喋らないだろうなぁ。聞いてみたいけど。
この正反対の性格の夫婦の日常は…多分会話は一方的だろうけど、それなりに楽しいのかも。

井出 幸之助
新聞記者。真とは事務所開設以前からの知り合いで、真が新宿に来てから親しくなった。半分以上趣味で真を飲みに誘いに来る。天然パーマと痩せ型長身のお調子者だが、色々と辛い過去もないわけじゃないようで。ルックスはそのまま、大泉洋を想像していただいたらいいです。実は、この話はともかく、将来については重要な人物。

唐沢 正顕
年齢不詳、経歴も不詳。だいぶ年なんじゃないかと思うけど、年をとらないタイプの人間。
真が大学生の時からバイト~大学を中退してから勤務していた調査事務所の所長。
かなり胡散臭いおっさんで、戦争が体質に合っていたのか、大戦後はアメリカの特殊部隊にいたとか、傭兵をしていたとかいう話。実際に各国の偉いさんに知り合いがいる模様。
酒好き、女好き、ギャンブル好きで、ちゃらんぽらんに見えるが、そして多分本当にちゃらんぽらんなのかもしれないが、戦争というような場面では恐ろしい動物的本能で生き延びるような人間。恐らく物凄く頭の回転が速くて、ひとつの事から十くらいの可能性がぽんぽん出てくる。頼りにしてはいけないタイプの人間だが、調査事務所長としては優秀な仕事をしていた理由は、顔の広さと勢いとこの想像力の賜物。真にとっては、調査事務所の仕事、社会を渡り歩く知恵を伝授してくれたという意味では唯一無二の師匠だったのではないかと思う。趣味は大物相手の詐欺?
何故、自分の事務所を爆破したのかは未だ不明。世間的には保険金詐欺、ということになっている。今、刑務所に入っているが、結構刑務所ライフを楽しんでるんじゃないかと思う。何でも自分のペースにしてしまう人間。
作者のひとこと:色気のあるちゃらんぽらんなおっさんが書きたい、という私の欲求を満たしてくれる人。底が深くて、もっとその奥を知りたいと思って覗いたら、何もなかったっていうようなタイプだけど、書くのが楽しい。真へのアドバイスがいい加減で面白い、と思っていただけたら…

三上 司朗
40台前半ってところか。この人も年をとらないタイプの人間。施設で育った時から唐沢正彰の弟分で、母親は米軍人相手に売春をしていたため、子どもの頃から苛めにあっていたようだが、唐沢(こっちは軍の偉いさんの息子だったらしい)にいつも助けられていた。唐沢が日本を離れていた間に、窃盗や傷害で何度か警察・刑務所の御世話になっている。最終的に、日本に戻った唐沢が出所日に迎えに来て、調査事務所を始める際に手伝いに入った。
環境さえ良ければ結構感じよく人生を送れるタイプの人で、どんな状況になってもしぶとく頑張る人。唐沢が事務所を爆破した時に、2階の窓から吹き飛ばされ、脊髄損傷で下半身不随になった。唐沢を恨んでもよさそうだが、そこはこれまでの恩義を無しにはできない様子。
入院中に知り合った看護婦と結婚して、結構幸せにしている。唐沢が刑務所から出てきたら、金の無心にきそうだけど、どうするんだろう? 
真に対しては、本当に良い兄貴分。でも、自分の事を真に話す人ではないため、真は三上のことは分かっているようで分かっていない。下半身不随になってからは、せめて電話ででも真の力になってやろうとしてくれている(あまり動けないので、どこかで繋がっていたいと思っているのは三上のほうかもしれない)。
真のほうは、事務所の爆破事件の前、唐沢と三上がよく喧嘩をしていたことに気が付いていたのに、りぃさのことに夢中で構っていなかったため、結果的に唐沢を止めることができずに三上を半身不随にしてしまった責任の一端は自分にもあると思っている。そういうことを言うと、三上に自惚れるな、と言われるのは目に見えているので、言わないが。
作者のひとこと:唐沢―三上の関係は、竹流―真の関係の二重構造なんですね、全くそれぞれのタイプは違うんですが、関係性に類似があって、でも違う運命を辿るというか。


…以下、真の親族関係は、解説だけで物語のあらすじ状態です^^;
お暇なときに、相川一族の物語をお楽しみください(*^_^*)
特に、私の大好きな? 兄弟葛藤の原点がここに……


相川 武史/ アサクラタケシ
真の実父。相川長一郎の次男。
長一郎にとっては初恋の女性との間の初めての子どもで、幼少時には無茶苦茶可愛がられていたと思われる。
しかし武史自身は、腹違いの兄・功がいつも家族の中で遠慮がちにしているのを、幼心には気にしていた節があり、いつの間にか大のお兄ちゃん子になっていた。
屈託なく、素直で、豪胆な面があり、多少の無鉄砲と論争好きという、長一郎と芸者一家の娘の血を間違いなく存分に受け継いでいた。
兄が逃げるように浦河(北海道)を出て行ったため、追いかけるように勉強して兄と同じ大学に入学、以後兄と東京で下宿をしていた。この頃から、単なるお兄ちゃん子は複雑な感情を持つに至って、兄が下宿の看板娘静江に恋をしていることを知ってから、ライバル心からか、兄を取られたくなかったからか、自分のほうが先に静江に手を出してしまった。兄はあっさりと弟に静江を譲って下宿を出て行ってしまう。
兄がいなければバランスを取れなかった武史の恋心は直ぐに消え霞んでしまい、そこへ現れたのがドイツから来たハーフの女性。
恐らく一目惚れで、情熱的で燃え上がるような恋をした。駆け落ちして、大学も辞めて、一生懸命仕事をしていたらしい。子どもが生まれた途端に、彼女はドイツ人の祖父(東ドイツの大物)に見つかって連れ戻される。
とにかく彼女を連れ戻したい一心で、何よりも力のある相手に頼ってしまった。それが兄が下宿を出て行った後でルームシェアをしていたアメリカ人。実は米軍の将校で、CIAの高官の息子だったが、武史の勢いと語学力 (日本語は凄い北海道弁だったというが)と身体能力(剣道では東京随一との噂があった)に惚れ込んで、米国にずっと誘っていた。半分は騙されたような形でCIAに投降。
もともと父親=長一郎は熊を撃つため銃の許可証を持っているような人で、武史も子どもの頃からこっそり教えられていたと言いう経緯もあり、直ぐにCIAの1,2を争うスナイパーに成長した。戦後処理のやばい仕事をかなりこなしたと言われるが、詳しいことは分からない。ソ連での生活も長く、科学アカデミーに属していたし、実際宇宙開発のプロジェクトにもかんでいたという話もある(勿論軍事目的の)。
生きるのに必死だったが、ある時点までは真の母親のことを諦めていなかった。ある時、幸せに暮らす彼女を見てしまい、声を掛けることもなく話し合うこともなく、そのままになった。声をかけていれば変わっていたかもしれない、という可能性はあるが、『タラレバ』は通用しないのがこの世界。彼が息子=真に対してどう思っているのかはよく分からないが、ある年齢までは本当に思い出せないくらい、心も物理的距離も離れてしまっていたんじゃないかと思う。
それだけに、息子のことは『今更自分が出て行く立場ではない』という思いと、贖罪の気持ちと、ないわけじゃない愛情と、まかり間違っても自分と同じような(簡単に言うと人を殺すような、あるいはそれをやむを得ないとするような)仕事はして欲しくない、という気持ちと、色々。
作者のひとこと:この人は、多分、もともと凄く素直な人なのに、深みに嵌って抜けられなくなったという経歴。真にとっては、最後の最後まで葛藤の対象でしかなかった父親ですが……

相川 功
真の伯父であり、育ての親でもある。脳外科医だったが、その後失踪。
相川長一郎の長男で、母親を3歳で亡くしている。
どちらかというと、何もかもを腹違いの弟たちに讓ってきたような性質で、強く主張をするタイプではなかったが、堅実で実直で我慢強い、北海道の沿岸部の男っぽい性質を根っこに持っている人。
父親が後妻を貰って、それがいい人だったため、逆に居た堪れないような気持ちを抱いていたようで(義母の奏重は、功を長男として立てていて、筋を通す女だったし、愛情も十分にもらったはず)、北海道の空だけが心の慰めだったようで、宇宙好きが高じて東京の大学の工学部に入る。北海道を出たかったというのが前提にあったとは思うが、まさか弟が追いかけてくるとは思っていなかったはず。しかし、当時宇宙開発が軍事目的という側面に気が付いてから、医学部に転向し、脳外科医になった。
それでも宇宙ものが大好きで、ドラマも映画も漫画も一通り押さえていたし、これが真にものすごく影響したようである。器用な人で、宇宙船の模型やプラネタリウムを作っては、真が学校に行けないときの慰めになっていた。
大学時代の下宿の看板娘・静江に恋をしていたが、弟に横恋慕?されて身を引いた後、剣道部の同級生に告白されて付き合っていた。それが真の通っていた私学の院長(【8月の転校生】に登場)で、息子(甥)・真が登校拒否だったのでカリフォルニアの留学から戻った際に、彼女なら、と思って真を託した経緯がある。彼女とは結婚するつもりだったし、武史が息子を育てられないで放り出したとき、甥の母親になってくれないかとプロポーズしていたようだが、結局静江が武史に捨てられたショックで精神的に不安定になっていたのを知って、静江と結婚した。
兄の功のほうも、結局兄弟の葛藤から逃れられなかった節がある。
静江が育児ノイローゼで赤ん坊の首を絞めたり、オムツも替えずに放置したりするようになって(愛した男が他の女との間に作った子どもということは知っていたはず)、赤ん坊の真は直ぐに浦河の長一郎に引き取られることになった。その後暫くは夫婦らしい生活をしていたが、娘(葉子)が生まれて育児ノイローゼが再発、家に火をつけて娘と一緒に死のうとしてみたり、で結局施設に入所した。以後は男手ひとつで(ほとんど親戚預かりやら御手伝いを雇ってで)娘を育てた。
甥の真がおかしい?(コロボックルを紹介された…)と弟・弘志に言われて東京に引き取る時も、色々と葛藤があったと思われるが、結局真にはいい父親だったはず。それでも時々、姿を消してしまった弟・武史の面影を見つけては、複雑な気持ちになっていた気配はある。真のほうはそれをどこかで敏感に感じ取って、功が父・武史を許していないから、結局自分を捨てていったのだと思っていたようである。
真が14歳、葉子が12歳のとき、失踪した。武史と何か関わりがあるようだが、よく分からない。カリフォルニアに留学中、武史に随分と接触を試みていた形跡があり、失踪は帰国後半年ごろだった。実は殺されているんじゃないかと(武史の仕事に絡んで)思う。
作者のひとこと:兄と弟、というのは大好きな葛藤のテーマで、この昭和レトロ時代を背景に、女の取り合い?から子どもを挟んでの葛藤はたまらない。本当に色々思っていたんじゃないかと思う。真が功に作ってもらったプラネタリウムを、りぃさの家から帰ってきた時に灯す、というエピソードはお気に入り。宇宙を介して、真には本当に『父親』だった。

相川 弘志
真の叔父。相川長一郎の三男で、良くも悪くも両親の性質を全て受け継いだような田舎のあんちゃん。
浦河の牧場を、従兄弟たち3人で共同経営している。
実際の登場は少ないんですが、名前がやたらと出てくるので、合わせて紹介しておきます。
兄二人は浦河という田舎から東京大学(便利に使ってしまった)に出て行った、田舎の英雄だったわけで、歳が離れていたために、いちいち親戚からも近所の人からも学校でも『お兄ちゃんたちは…』と言われて育って、とにかく反抗しまくった。
豪快かつ繊細な面があって、多分ものすごく根の優しい人なんじゃないかと思う。赤ん坊の真が浦河に引き取られてきたときはまだ中学生で、目の色も髪の色も違う甥にかなり戸惑ったよう。とにかくこの子どもと接触するまいと、家を飛び出して、長一郎の兄のところに転がり込んでいた。
もっとも牧場の敷地内だったので、一人で遊んでいる甥をしばしば見かけていたわけで、本当は可愛いと思っていたらしい。弘志の感覚では、甥は日本人離れした外観ではみ出しもの、自分はできの悪いはみ出しもの、という同類感覚。高校のときは、無免許運転の友達の車で札幌まで遊びに行っては補導されるという、田舎の悪ガキそのものの生活だった。
ある時、真が疾走する馬の群れに巻き込まれたのを見て、危険を顧みず助けに行こうとしたが、結局馬たちのほうが一枚上手で、真には怪我ひとつなかった。それを見て感動したのか、急に真面目に勉強し始め北海道大学へ進学。田舎者だが結構ルックスは良かったと思うし、ラグビー部の花形で、女の子にはモテた。学年のマドンナとも付き合っていたし、かなり楽しいキャンパスライフを送っていたはず。
久しぶりに浦河に帰ると、父長一郎からぶっきらぼうに『真がお前の帰りをまっとった』と言われてちょっと可哀想になる。幼稚園・小学校前半の真にとっては唯一の頼れるお兄ちゃんだったわけで、弘志が札幌に出て行ってからは、それまで以上に一人ぼっちになっていたという。少し大きくなった甥は、多分本当に可愛かったはず。思わず札幌に遊びに来るか、と真を下宿に連れて行った、というエピソードが書きたいもののひとつ。
真は生まれて初めての都会に度肝を抜かれてパニックになっていて、大学のキャンパスでは弘志が結構人気者で忙しいのを見て寂しく思い、うろうろしていたら迷子になって、馬のにおいに引き寄せられて畜産部の厩舎へ行って、アイヌ人(そのときは本人は言わなかったけど)の女性に出会う。この人が弘志の嫁さんになったので、実はキューピッドは真だった。この女性、弘志を好きだったようだが、自分の出生の事で初めから全く諦めていた。弘志は強烈な人見知りの真が全く警戒せずに話しているのを見て、この女性に興味を持ったという経緯。後からアイヌ人と知ったけど、その時弘志が何の障害にも感じなかったのは、父親の影響でしょうか。子どもができたらどうするんだ、混血ということで子どもが苦しむぞ、と親戚に言われたとき、真を息子にする、と言ったとか何とか。結局は子どもが2人生まれるんですが。
真が『蕗の下の人(コロボックル)』を友だちだと紹介してきたので、こりゃやばい、と思って、功のところに行って、このままでは真がおかしくなる、と訴えて功に引き取らせた(その時まだ弘志は高校生)のもこの人。真が東京で馴染めなくて苛めにあっていると聞いて、俺が親になる、と思ったのもこの人。
とにかく、真にとっては大事な大事なお兄ちゃんだったわけです。
作者のひとこと:功・武史の兄弟葛藤からはみ子にされているようでいて、しっかり葛藤に参加している弘志さん。功は歳も距離も離れすぎていて、葛藤する対象としては実感がなかったかもしれないけど、武史に対してはかなり反発の気持ちがあったよう。何で息子を放り出したんだ、という一点でとにかく怒っている。実は私がある意味では最も気に入っているキャラの一人。『ひろし』という名前の人は『神』という私の謎の信念?に支えられているのかも。この人のテーマは、アイヌの人との結婚だったわけですが、ここには『願い』が込められている、つもり。真が混血、というのももの凄く影響していると思うし、長一郎が隔てなくアイヌ人と付き合っていたことも影響している。
超脇キャラなのに、気合が入ってしまった。

相川 葉子/ 富山 葉子
真の2歳年下の従妹。父は相川功、母は静江。
もっとも、静江は育児ノイローゼで家に火をつけたり、危険行為が多く、病院に入ってしまったため、赤ん坊の頃から親戚(母方)やお手伝いに預けられて、結構大人の顔色をうまく窺う子供に育っていたと思う。それが影響したのか、本当にうまく『お姫様』と演じていて、真と竹流という『騎士志向』の男どもを満足させることができたよう。
小学生3年生の時、初めて真に会って、実際自分の騎士だと思った(王子は別の人だしな)わけで、本当によく姫君の役割を果たしてくれました。兄が東京に来てくれて一緒に住むようになったとき、初めて同じ部屋で寝て、一人ぼっちじゃないと感動したわけで、それ以来兄にずっと恋をしていた。兄が変わり者で、ちょっと自閉症気味なのも分かっていたと思うが、真にとってもこの妹を守らねば、という気持ちが社会的適応を促した可能性が大きい。葉子が中学生になった頃の真は、「大人になる瞬間」にいたわけで、強烈なオーラがあったと思うが、うちの兄はどうなっちゃうの、とドキドキしていたようで、葉子の同級生も一緒になって入れあげていたという噂。
兄の親友、大企業社長の御曹司・富山享志と結婚したが、そもそもこの夫婦、北条仁に言わせると『お雛様』のような夫婦で(つまり生々しさがないってこと)、夫婦というより大親友の関係に近い。
兄に恋心を抱いていたが、大和竹流の存在で諦めたのは、本当の話。ついでに言うと、女友達は多いほうではない。親友はもしかすると大和竹流で、この親友関係、男と女の関係にはならないのに、真の死後も一生続いた。
音楽大学に進み、ピアノを専攻。職業としては役に立っていなかったが、実は先々享志と離婚(といいつつほとんど形だけ。しかも結局再婚する)してからは、ピアノの先生をする。この人が一時引き取っていた真の息子・慎一に与えた影響はもの凄く大きい。慎一がピアニスト(後、指揮者)になったのも、そもそも幼少期にこの人に育てられて、膝の上でいつもピアノを聞いていたことが影響したと思われます。
作者のひとこと:ちょっと特殊なムードの兄を持って、それが観賞対象としてぴか一だったら、という妄想を形にしました? それから、男が女に求めているのが『お姫様』というありえない理想で、女の子ってそれを知っているからお姫様を演出するに違いないというイメージ。結構素っ頓狂なところもあって、もしかして兄と家庭教師を引っ付けようとしていた疑いあり??

富山 享志
真の中学時代からの唯一の友人。享志は周りに『親友』と言いふらしている。
富山コーポレーションの御曹司で、いいとこの坊ちゃんの屈託のなさをよくも悪くも持ち合わせている。性格は完全に天然ボケで真っ直ぐで、嫌味なくらい嫌味がない単純バカ。成績もいいし、スポーツもできちゃうけど、多分器用貧乏な面がある。何でもできるけど飛びぬけることはないという。
中学生の時、院長室に呼ばれて、事情があって特別な転入なので(精神的に不安定という意味で)よろしく、と院長と功に挨拶されたとき、自分のほうをちらっと見ただけの真に完全に虜になった、という点は、思い切り自覚している(その前に幽霊と間違えていたけど)。一番眩しい時期の真に(その後は何とも言えないので)会ってしまったため、功の「よろしく頼みます」という言葉を一生守った馬鹿な男。恋でもあり、友情でもあり、いい意味での哀れみでもあり、とにかく『真は俺が守る』『真の妹も俺が守る』という英雄精神に溢れた人なんですね。葉子にプロポーズしたとき、『君を一生守る』じゃなくて『君たち兄妹を一生守る』と言った馬鹿な奴ですが(発想は単純で、友達は歳をとると一緒にいる理由がなくなることがあるけど、葉子と結婚すれば真とは兄弟なのでいつでも会う理由がある、という)、受けた葉子のほうも『君たち』の部分に納得して喜んで結婚したという変わり者なので、似たもの夫婦です。一男一女の父親になります。
現実には、従姉の小松崎りぃさとのっぴきならぬ関係になっていた時期があるなど、心のうちは多少複雑なはずなんですが、それがどうも複雑に見えない、なれない辺りが困りものです。
作者のひとこと:『これは恋』の具現。馬鹿馬鹿、って何回も書いてごめんなさい。作者的には一人は欲しいキャラでもあるけど(戦隊モノでは赤の役割)、何より、いい奴にも色々あるんだよ、とこの先多少面白くなるはずです。お楽しみに。
*『これは恋』:つまり『走れメロス』。友情は確かに尊いのかもしれないけど、友情だけで代わりに殺されちゃっても許容するのか、いくら信じててもちょっとなぁ、と納得いかなかった天邪鬼な学生時代。でもある時ふと思った。そうか、友情だと思うと胡散臭いけど、これは恋なんだ。恋なら命を懸けるのはありだ、と納得。思春期独特の感じで、友人だけど愛しい、愛しくて独占したくなる、他の友人と口なんてきいて欲しくない、とかいう感じ? これは恋愛じゃないけど、愛の一種で、身体の関係はなくてもエロティックで、でもそれ以上は望まないし、しない、っていう不思議な感覚。大人になるとそういうのは昇華されてしまうもの。享志の真に対する感覚はまさにこの思春期の友情=愛のようなものなんです。だから思い出すのは照れくさいんですね。でも一生涯、享志はこの気持ち=親友が大事だという気持ちを貫いたと思う。

名瀬弁護士
相川調査事務所の親分筋に当たる法律事務所の筆頭弁護士。そもそもは相川功の友人だった循環器内科医・斉藤の高校時代の親友。事務所自体が儲かっているところを見ると、企業の顧問弁護士も引き受けているようだが、本人の希望はあくまでも少年事件。その縁で、賢二と真の間を取り持ったことになる。
真が独立した後、事務所が立ち行けていたのは、名瀬の法律事務所の下請け仕事もしていたからだが、名瀬自身は真の失踪人調査の才能を買っていて(唐沢に推薦されていたのもあり)、真を一時雇ってくれていたこともある。真のほうがエリート集団に馴染めず、北条仁に口説かれて独立してしまった。
この人はちょっと謎。お堅い人のはずだが、何故か唐沢正彰を気に入っているらしい。

斎藤医師
相川功の医学生時代からの友人。現在は某企業の病院の循環器内科部長。真の不整脈の主治医でもある。功の失踪後、真と葉子の保護者の一人を自任していた人。ちょっと報われない恋をしていた事情で結婚が遅かったこともあり、子どもがいないため、真と葉子をかなり気にしていた気配がある。
この人は、実は先々重要なキャラなんですが、今はこの程度で。

相川 長一郎
真の祖父。真には多大な影響を与えている。しかも、「大和竹流の大親友」と言ってもいい存在。
相川の一族は、もともと北海道開拓時代に東北から移ってきたようで、浦河で馬を使って農耕をしていたが、その後牧場に転向。長一郎はやはり男ばかりの三人兄弟の次男で、ちょっと異端の息子だったよう。父親は『少年よ、大志を抱け』に感化されて、西洋文化にかぶれていたような人で、クリスチャンだった。長一郎はとにかく若い頃から歩き回るのが大好きで、馬を津軽まで売りに行っては、唄会に顔を出して当時名人といわれたボサマたちの三味線を生で聴いていた。ついでにアイヌ・マタギとの交流もあって、それらに傾倒してしまったため、一時父親と確執があって、旅に出てしまっていた。その旅先、金沢で芸妓の家の娘に一目惚れ、告白したところで、父親が倒れたという知らせで浦河に戻る。以後、兄弟で牧場経営に精を出している。
地元の娘と結婚して功が生まれたが、妻は病死。ずっと心の中で思い続けていた女性に、やはり会いたいと思い、金沢に行って、他の男との縁談がまとまっていた奏重を奪ってきてしまったという大恋愛を貫いている。
頑固で、心を許した人以外にはあまり打ち解けない。しかし懐に入ってしまうともの凄く大切にする。そこには年齢・民族は関係がなく、弘志がアイヌ人の女性と結婚したいといった時も、周囲のもの凄い反対の中、意地でも認めねばならないと思ったような人。自分の理想・信念が、周囲の声や感情(相手の文化を認めることはできても、結婚となるとわけが違う、という感情は絶対なかったとは言えないので)で曲げられることはよしとしなかった。
真はこの祖父の強い性質が、自分に受け継がれなかったことに、もの凄くコンプレックスを持っていたはずだが、子どもの頃尊敬する大人がいたということは、将来的には大きな糧になっていたはず。
男は強くあるべきだと剣道をやりまくっていた時期があり、実は恐ろしく強い。マタギと暮らしたりしていたこともあり、猟もできる。江差追分が十八番(他は唄わない)。太棹三味線を弾く(叩く)。歴史好きで、そもそも学校で教える歴史は西からの一方的な歴史で、そこには蝦夷の歴史がないと怒っている。しかし、それと仕事以外は何も興味がなく、何もできないだろうなぁ。
真の死後は山に引き籠ってしまう。かなり長生きしたようだが、死期が近かった竹流(ジョルジョ・ヴォルテラ)が訪ねていって、酒を酌み交わし、ただ何も語らず三味線を叩いている、それを竹流が聴いているシーンが書きたくてうずうずするのであった。
作者のひとこと:こうやって見ると、真は家族にすごく恵まれているなぁ、と改めて思いました。竹流はこの家族ごと、真を愛したのかもなぁ、と。いえ、弘志の娘(真の従妹)が言っていました。「相川の一族と大和竹流には運命を感じる」と。特に長一郎と竹流の友情は、本当に深かったんじゃないかと思うのです。

相川 奏重
相川長一郎の妻、真の祖母。
金沢の芸妓の家に生まれて、民謡を生業とする家に養女に出されているが、芸妓の母との交流はあったようで、一時は芸妓になろうと仕込みに入ったこともあった。長一郎と会ったのはまだ15か16くらいのとき。旅の空の長一郎は多分小汚い浮浪者に見えていたはずだが、旅の資金稼ぎに叩いていた三味線に一目惚れ、ならぬ一耳惚れをしていた、という説もある。
好きだと言われたものの、若すぎてどうしようもなく、一旦別れがきた後、もう戻らぬ人と諦めて別の男と結婚することになったところへ、長一郎が現れて、結局浦河へ嫁ぐ。花街から一転、牧場の女になったわけだが、それは苦労があったことと思います。しかし、やはり気風の良さと腹の据わりはただ者ではない女だったようで、最終的には男たちの世話から馬・牛の世話までバリバリにやっていたようです。
民謡はほぼプロで、盆踊りはいつも唄っていたし、町の人気者になっちゃってたという人。伴奏は、子どもの頃から真にさせていた。一途な恋を貫いた辺り、実は女の情念も立派に持った人でしょう。
それだけに、真の多感な思春期の正体不明の恋心?も見抜いていたし、狼狽えなかったすごい人。もしも真が実は…と打ち明けてきたら、駆け落ちさせるつもりだったでしょうか?

小松崎 りぃさ
富山享志の従姉。享志と葉子の結婚式で真と会い、関係を持つようになる。
いわゆるAVにも出ていた事がある、合法ドラッグの常用者で、自殺願望があった。もしかすると始めは本当に遊びのつもりだったのかもしれないが、いつからか『人間が地球に蔓延っているのは罪』、という信念で、死ぬことを考えるのが大好きになっている。真が事故で死に掛かったことがあるというのを聞いて、一緒に死ぬのに相応しい相手と思ったのかどうか、とにかく従妹の結婚と叶わぬ恋(かな、恋だよな)に喘いでいる真を死に誘いこむ女になっていた。結局、一人で自殺したが、その真相は本編(第4節)で。
絶対に、謎の女なんて書くものかという作者の信念を唯一曲げている女(村上春樹ちっくでどうも私好みではないんだけど)。

<【海に落ちる雨】登場人物>
ここからは、この物語に登場する人たちです。今後も絡むかどうかはわかりませんが。
なお、一部ネタバレがありますので、ご注意ください。


澤田 顕一郎
代議士。もともとブンヤだった。自分の取材で人を追い込んだという罪悪感から、ブンヤを捨ててしまったが、基本的な性質は極めてブンヤ向きだったことでしょう。政治家として頑張ってはいるものの、どこかで違和感を覚えているかもしれない。実は、真の父親・武史とは学生時代からの顔見知り。
出身は大分、妻は元某首相の縁戚の女性(息子を小さい時に亡くしたショックでほとんど郷里の山口に帰っている)。
両親が自殺した香野深雪にとっては足長おじさんだが、本当のことは言えないでいる。深雪は知っているかもしれないが。

香野 深雪
銀座のバーのママ。30台前半のはず。多分文句なしに綺麗な人でしょう。
新潟・糸魚川の老舗旅館の娘だったが、両親が収賄事件のあおりで自殺、新潟市内の施設で育っている。幼いときのトラウマで男に対して恐怖心があったはずで、新津圭一と知り合ったときは、それを乗り越えようとしていた辛い時期で、多分心からセックスを楽しんでいたとは思えない。それが、真と知り合ってから、身体が合っちゃったんでしょうかね…。これからこの人の物語が明らかになっていきます。

新津 圭一
雑誌記者。数年前、脅迫状を残して自殺した(実は殺された)。妻は事故の後遺症で長い間寝たきりで、香野深雪とは不倫の関係にあった。娘が一人いて千惠子というが、この子は幼女に対する性的虐待の犠牲者になってしまった。

田安 隆三
ジャズバーを経営している老人。実はその昔傭兵をしていて、唐沢とは古い知り合い。真に銃の扱いを教えたり、妙な面もあるが、基本的には真のことを心配している様子だった。澤田顕一郎の父親とは戦時中に上司と部下の関係で、生き残った自分が息子の顕一郎の面倒をみるという約束をしっかり守ってきた、妙に律儀な男。第1節で水死体で発見された。

楢崎 志穂
田安のところに出入りしていた雑誌記者。実は自分が香野深雪の妹であるとか、澤田顕一郎は両親の敵だとかわけの分からないことを言っていたが、結局は自分の出生もよく分からない孤児で、面倒をみてくれていた男に色々と吹き込まれていた。新津圭一を好きだったので、圭一をたらしこんだ(と志穂は思っている)香野深雪にはいい感情を抱いていない。

御蔵 皐月
楢崎志穂の孤児院時代からの姉貴分で、実際に母親は同じ。絵画の贋作家としての才能があり、特にフェルメールは得意としていた。寺崎昂司と大和竹流の両方と関係を持っていたが、本気で惚れていたのは大和竹流で、この男を何とか手に入れたいと思いながら、想いが叶わなかった。

『河本』/ 香月
本名は多分香月のほう。内閣調査室長代理で、いろんな後始末をさせられている立場の人間のよう。相川武史を知っていて、真の知らないところで色々と国同士の取引・駆け引きがある模様。真のことを気にしているが、それは多分アサクラタケシの息子を庇うことで、メリットが色々とある、という立場からの思い?
あるレールの上できちんと仕事をするタイプ。国を存続させるためには正しいレールが(正しい、というニュアンスには必要悪を含んでいる)必要と信じて疑わない。
何故か、微妙に気に入ってしまい、次作【星】にも登場……

江田島 道比古
弥彦の村役人。美術愛好家で、フランスに留学していたこともあるが、父親の死で田舎町に戻らなければならなかった。失われたフェルメールを見つけ出して、名前をあげたいと思っている野心家。かなり色々と事情があるらしい。修復師としての才能を持ち、何もかも恵まれて見える大和竹流にかなり嫉妬している気配もあり。

蓮生家
村上と荒川にそれぞれ屋敷がある古い名家。その昔は北前船で大もうけをしていた。日本海を挟んで大陸とも交易があった時代からの財産が、以前はごっそりあったようだが、今では落ちぶれた古い家。しかし日露戦争の後で、ロシア皇帝の末裔から色々預かり物をしていたというわけで、皇帝の血筋の女性を預かっていたという噂もあった。
村上の下蓮生の前当主は死に掛けのボケた爺さんで、子どもの頃に見た金髪の女の幻に苦しめられている。現当主はいやらしいおっさん。荒川の上蓮生の当主は女性(千草)で、誇り高い女。実はロシア人女性の血を引いている。

村野 耕治
既に死んでいるが、亡霊のような存在。死因は癌。以前、澤田顕一郎の秘書だった。もともとは澤田家と縁戚関係だが、確執があり、追われるように大分を出て、新潟の蓮生家の世話になっていたことがある。九州に戻って、澤田と同じ九州日報で働いていたが、密かに澤田への嫉妬心から刃を磨いていた様子。
村野耕治の父親は、戦時中の軍の阿片使用の民間協力者。相当の阿片・大麻を扱っており、息子の耕治も協力していた。戦後もそれをネタに日本国・米国・ソ連など大国幹部を強請っていた気配がある。
村野と澤田の物語は第5節でまた展開いたします。

村野 花
昔澤田の恋人だったが、仕事にかまけている澤田を待ちきれず、村野耕治と関係を持ち、結婚した女性。村野との間に子どもが一人、その後は財閥の大物と関係を持ち、子どもを作っている(それが楢崎志穂と御蔵皐月)。それをネタにこの財閥の大物を強請り尽くしていたらしい。強請りたかり夫婦だな。
かなり官能的で蠱惑的な女だったと思われる。
ついでに、自分の楽しみなのか、誰かへのあてつけなのか、残虐なビデオを作っていたらしい。

草薙 謙二
村野耕治と花の息子。とはいえ、本人はもう開き直っているため、出生についてはどうとも思っていない。新宿のバー『シャッフルズ』のオーナーで、他にも幾つか店を持っているよう。御蔵皐月の件で大和竹流と接触していたが、他にもいろいろ知っているよう。夜の世界を生きている人間、というイメージだが、行き場のない密入国者の子どもを引き取っていたり、奇妙な面もある。

寺崎 孝雄
寺崎昂司の父親で運送会社を経営している。主に美術品を運送する会社。裏稼業でとんでもないビデオを作っている(そのパートナーが村野花)。ビデオでは子どもを虐待するようなものや、死ぬまで人を痛めつけるようなものを作っているとんでもない男。その上、自分の息子までいたぶっていたというが…

ビッグ・ジョー
六本木の外国人ヤクザの元締め。その昔、麻薬密輸ルート欲しさに、大和竹流の持っている美術品輸入ルートに手を出そうと、深く考えもせずに相川真をさらって、結果として痛い目にあった。今も大和竹流にはいい感情を持っていないが、ビジネスはビジネス、というので、チェザーレ・ヴォルテラに協力している。

 

Category: ☆登場人物紹介・断片

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【雑記・旅】熊本・天文台のある宿 

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熊本旅行記その1は南阿蘇ルナ天文台さんです。
最近、1年に1度は星空を見る系の宿にチャレンジしてきたのですが、いつも曇りでした。
今年は初めて晴れたのです。
中秋の名月でしたが……^^;

ところで、日本には、いわゆる公開天文台というのが100以上あるそうです。
でも宿泊施設がある天文台というのは多くはないようです。
そして天体望遠鏡の口径ですが、一部100cm以上の大きな口径の望遠鏡があるところもありますが、およそ60cm前後くらいまでのものが多いようです。その中で、こちらの望遠鏡は82cm。
かなり口径も大きいのですね。


さて、上の写真はそのペンションの入り口のドア、かなりおしゃれです。
この取っ手、内側は左右で形が違うのです。色々なところにちょっとした遊びが。
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こちらはフロント。まさにお月見バージョンですね。
そしてこんな素敵なインテリアも。すべて星で統一されている感じです。
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こちらは小さな図書コーナー。椅子も手作り感あふれています。
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天文ガイドのバックナンバーが揃っています!
昔、中高生の頃、購読していた時のものもありました。ちょっと懐かしくてしばらく浸ってしまいました。
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また、こんな小さなサロンがレストラン横にあります。暖炉つき。
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そう言えば、以前、別の天文台付の宿に泊まったことがあるのですが、11月で無茶苦茶寒かったです。
そもそも星の綺麗なところ、しかも星が綺麗に見える季節と言えば、寒いですよね。
しかも、この系統の宿は暖房ばっちりなんてことはあまり期待しない方がいいようです。
ちなみに、毎年行っている高千穂の夜神楽なんて、11月(~2月ごろ)、開けっ放しの場所で一晩中神楽ですから、強烈です。でもその後の黒川温泉がものすごく幸せなんですよね。
それはともかく、この暖炉、見た目にあったかくていいですね。
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参考までに、泊まった棟はこんな感じ。本館にもお部屋があるのですが、今回はこの離れのような建物に泊まらせていただきました。

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外には、こんな風にハンモックやブランコがあります。
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さて、いよいよ天文台へ。
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雨の日にはプラネタリウムがあって、そちらを楽しめるようにしてくださっています。
では、天文台へ登って行きます。
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こんなおしゃれな階段です。手すりにはアイアンのオブジェ。
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そして、この上には、この迫力ある望遠鏡があるのです。
毎日8時から、天体観測会があって、宿泊客は誰でも参加することができます。
でも、今回利用したのは、コズミックプランという宿泊プラン。
これは10時くらいからと、時間は遅めなのですが(天体観測会の後)、ほぼ貸切状態。
やはりこういうお宿ですから、子どもさんとかいっぱい来ておられるんですよね。
沢山の人がいて、子どもさんたちがいると、どうしても遠慮してしまうし、じっくり見ることはできないだろうなと思い、このプランを利用させていただきました。
50分間の貸切状態、大正解です。しかも、かなり延長してくださったりして。
星のコンシェルジュさんはとても親切な方で、宿泊前からお電話を頂いたりして、プランを立ててくださるのです。
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しかし! この日は中秋の名月。しかも満月。星を見るには最悪の環境ですが……でも晴れたのは良かった。
上はちょっとボケているけれど、中秋の名月。
望遠鏡では、クレーターまでもしっかり見せていただきました。
この大きな望遠鏡で見ると、まるで月の周りの「空気感」まで見えるような世界でした。
光自体がゆらゆらと揺れているのまで見えるんですね。
ちなみに、もうひとつ小さめの望遠鏡があって、月はそれで十分なのですけれど。
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それから、恒星をいくつか……まず、夏の大三角の3つの星を望遠鏡で見せていただきました。
望遠鏡で見ると、「ちょっと大きな光」程度なので、コンシェルジュさん曰く「みなさん、ちょっとがっかりされるんですよ」とか。
いやいや、光の色までくっきりですよ。
同じように光っているのに、こと座のベガは25光年、わし座のアルタイルは16光年、白鳥座のデネブは1411光年。
そういえば、真剣に距離を考えたら、織姫と彦星が1年に1度会うのは無理、なんて話もありましたね。
(それは夢のない話だけれど)

今回見せていただいた星で一番は、白鳥座のアルビレオ。
ガミラスとイスカンダルじゃありませんが、二重星なのですね。
肉眼では一つの星に見えるのですが、望遠鏡では、くっきりと赤っぽい星と青白い星、ふたつの星が並んで見えました。
宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」でサファイアとトパーズって言ってましたっけ。
アルビレオというのはアラビア語で「鳥のくちばし」ということ。
まさに白鳥座のくちばしにあたる部分の星です。
そういえば、星の名前って結構アラビア語由来のものがありますね。
冬のダイヤモンドのひとつ、おうし座のアルデバランもアラビア語由来でした。
砂漠の国では、きっと星が頼りなんですね。
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これがアルビレオ。「北天の宝石」です。

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星雲などを見たい場合には、やはり新月の夜を狙った方がいいようです。
星雲のひとつひとつの星の光は弱いので、月明りで掻き消えちゃうんですね。
月もなく、雲もなく、そんな日って、なかなか当たりませんけれど。

機会がありましたら、ぜひ、訪れてみてください。
阿蘇の雄大な景色にも感動しますし、それにペンションもいい感じです。
……天文台つきの宿泊施設は、大方、合宿所みたいな食事のところが多いのですけれど(それでも泊まるところと食べるところがあるだけいいのかも)、ここはちゃんと美味しいお食事でした(^^)

というわけで、熊本の旅・第1話『星空散歩』閉幕です。
お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
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Category: 旅(あの日、あの街で)

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NEWS 2013/9/25 ただいま・そして予告編 


九州から戻りました。同僚の急な入院で夏休みを早めに切り上げたので、本当はゆっくり旅行記などを書く予定が、少し先延ばしになりそうです。
というわけで、今日は予告編だけで長編になりそうですが、あれこれあれこれ旅の写真をちら見していただけたらと思います。

「また熊本?」というくらい、毎年熊本に行っています。
そんなに好きなのか? と言われそうですが……毎年の本来の目的地は宮崎県高千穂。
でも、高千穂に行くには、熊本経由が一番行きやすいのです。
で、ついでに熊本巡りをしているうちに、常連さんになっております(^^)
はい、正直言って、かなり好きです。
青森とどちらが? ……う~ん、それは決められない。
(そう、毎年行っている、熊本と青森。なぜそんな遠くに??)

まずは、冒頭の写真は今回のベストショット??
強い風の中だったので、なかなかうまく撮れず、でも曼珠沙華にとまる揚羽蝶、ちょっと素敵な1枚が撮れました。九州は曼珠沙華が満開(少し終わりかけ?)で、とても綺麗でした。

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そしてこちらは、白い曼珠沙華。白だけ集まったところもあれば、赤と白と入り混じったところも。
彼岸花、というので、少しあの世的イメージのある花ですが、赤白入り混じっていると、とたんに目出度く見えるから不思議。旅行記では曼珠沙華も赤白取り混ぜて、写真をお見せいたしますね。

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そして、意外に堪能したのが熊本城。
実はあまり期待をしていたわけではなかったのですが……天守閣含め建物の多くはオリジナルではありませんが、この気合の入った再建には感動しました。近くの美術館や建造物を合わせると、みっちり半日遊べます。
ちなみに古い櫓もありますし、都から離れた場所なのに登場人物は中央の政治にも関係の深い人物ばかりで、歴史も勉強できます。
特に、武者返しの石垣は素晴らしい。この城に陣を取った官軍に敗れた西郷隆盛が「官軍に負けたのではない、清正公に負けた」と言った、守り・攻撃の堅固さで屈指の城だったという熊本城。
こちらも中をあれこれご紹介しますね。

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ちなみに、噂の「熊本城おもてなし武将隊」見ちゃいましたよ。
7人中、黒田官兵衛、島津義弘、あま姫(加藤清正の娘)の3人。
本当に侮れない、ご当地ヒーローですね。
ちなみに、彼らは便乗組ではありません。「お・も・て・な・し」の前から、彼らの名前は「おもてなし武将隊」です。

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ご当地ヒーロー? と言えば、やはりくまもん。
こんなに熊本に行っているのに、くまもん自身には会えませんが、もう至る所にくまもん。
これは、ある美術館の喫茶室で食べた柚子チーズケーキ。
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自販機にも。
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某信用金庫の建物の壁にも。

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そして食べ物と言えば、この馬刺し。白いのはタテガミですね。コリコリしていておいしい。
馬さん好きの私としては微妙ですが……美味しいんです。
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そしてそして、なんとっても葡萄です。
実は、何気なく立ち寄ったJAの販売所。
どの葡萄も、びっくりするくらい甘くておいしい。これはシャインマスカット。
皮ごと食べられるというので、今大人気のマスカットです。
しかし……実は基本中の基本、ベリーAが異様に甘くておいしかった……

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さて、こちらは今回、9月19日に宿泊した、南阿蘇ルナ天文台さんです。
九州でも最大級の天体望遠鏡と、とても親切な星のコンシェルジュさんがいらっしゃるペンション。
食事もおいしかったし、とても楽しめました。

そう。今回、日程は動かせなかったので、本来、天体望遠鏡のある宿に泊まっても「満月じゃあね……」という日だったのですが、それはそれ。
なんといっても、中秋の名月の満月は、次は2021年だそうですから、しっかり見ておこう!
(ちょっと負け惜しみ)

実は、都会から離れた灯りのほとんどない場所に泊まって天体観測、というのにここ数年チャレンジし続けて、今年やっと晴れたのです。
月が明るすぎて本当に星はかき消されていたのですが、恒星をいくつか見ることができました。
しかも、もったいないくらいの望遠鏡で中秋の名月、クレーターをばっちり見ました。
50分間、貸切状態です。次回は新月の日に行くぞ!
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でも、この天体望遠鏡と中秋の名月(満月)とのツーショットも、ちょっと素敵だと思いませんか。


さぁ、そして、お待ちかね!(って、待ってくださる人がいるといいのですが^^;)
巨石紀行の予告編です。
当初、4か所の巨石群を見る予定でしたが、時期的にスズメバチに遭遇する可能性が高いというので、今回は3か所+道のすぐ脇にあるストーンサークルを見てきました。

いやもう、何がすごいって、蚊です!
夏に低い山にハイキングに行くときは蚊対策!と頭では分かっているのに、舐めてました。
恐ろしい蚊とのバトル。「止まったら刺される」というわけで歩き続け、払い続け……
今まで、石は大体11月に見に行くことが多かったので、うっかりしていました。
しかし、石は本当に素晴らしく、もう一歩進んでは感動、振り返ってはため息、という感じでした。

では、予告編、参ります。
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この道を行くと……(って、すごい道なんですけれど……ひとまわり2時間の行程)
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こんな巨石があるのは、佐賀大和の巨石パーク
この巨石だけではなく、17もの名前を冠した巨石が点在している、まさに巨石の庭。
いえいえ、庭とかパークというのは誤解を招くので、この際やめましょう。
みっちり、登山です。しかも真夏の気候、蚊との戦い。過酷な巨石巡りでした^^;
何しろ駐車場のおじさん、「本当に行く気?」という顔で見ておられましたから……
しかし、上の写真の巨石、「天の岩門」を見た時、来てよかったぁ、と思いました。
石紀行ではじっくり、石たちを紹介しますね。

そして第2の巨石群は、熊本市内から海に向かって半時間ほど。
竹林の向こう、階段の先にあるのは……
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拝ヶ石巨石群。いやもう、すごい蚊で……カメラを構えたら、ぶんぶん飛んでいるのが写りそうなくらいでした。
(蚊の記憶しかないのか^^;)
でも、これ、すごいパワーを感じる巨石です。
このあたり、磁気異常がみられるようですし。
近くには、夏目漱石が『草枕』で書いた「山路を登りながら、こう考えた」の山道などもあります(今回は時間の都合上、行けませんでしたが、今度、蚊のいない季節に行きたいです)。

そして第3の巨石群は、大分に飛びます。
八面山という、どこから見ても同じに見える?という山の中。
巨石が点在しています。
ここは車で回れるので、この季節には助かります……でも、目印がなくて、ちょっと山を求めてうろうろしちゃいましたけれど。
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箭山(ややま)権現石舞台です。
これ、ものすごい石です。じっくりじっくり、お見せいたしますね。

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そしてハイライトとも言うべき和与石
こちらもため息が出るような石です。

最後に。
大分の安心院にある佐田京石
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こちらは道路脇なので、苦も無く行きつけます。ストーンサークル?
謎に満ちた石たちの間で、かくれんぼができそうです……

ちなみに、安心院……なんて読むと思いますか?
「あんしんいん」と思いますよね。
「あじむ」なんです。
先にお見せした葡萄、この安心院のJA販売所で購入。

実はこの町には、鏝絵があるのです。
拙作【清明の雪】で、左官さんが身体の欠けた龍のために「鏝絵」風に漆喰で絵を描いてくれた…その鏝絵。
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こちら、まさに龍です。明治時代の作品。
職人の技を感じられる素晴らしい作品ですが、なによりも注文する家の人の願い、仕事や人となりを表すものであるところがいいのですね。
平成の作品もあって受け継がれていくのを感じられるし、ユーモアが感じられるものもあって……
この鏝絵の数々も紹介いたしますね。

鏝絵を見ていたら、ちょっと再び、拙作【清明の雪】を宣伝したくなっちゃいます(^^)
鏝絵だよ、鏝絵!と一人で舞い上がっていました……

ちなみに「うなぎえ」ではありません、「こてえ」です。
……って、解説用の看板に書かれていました^^;
うなぎは鰻。こては鏝。うん、確かにね^^;


では、旅行記数々、もう少しお待ちくださいね(*^_^*)
併せて……【死と乙女】の続き、そして【海に落ちる雨】は登場人物紹介コーナーです(*^_^*)

少し間が空くと、訪れてくださる方の数もずいぶん少なくなってしまいますが、それでも忘れずに訪問してくださる方々に、感謝いたしますm(__)m
沢山の人を惹きつける魅力的な記事をいっぱい書けたらいいのですが、結局自分のペースでしか進めないし、自分らしいものしか書けないのですね……
色んなブログさんを訪ねて、いっぱい勉強になります。
で、振り返って自分のブログを見てみると、石←地味(魅力的な写真とは言い難いですよね^^;)、小説←ブログ仕様ではない、……う~ん。でも、石(巨石)ファンが増えたら嬉しいなぁ(野望)。小説も、少しでも何かを感じてくださる人がいてくださったら嬉しいなぁと、地道に歩んでいます。

あれこれ、書きたいことはあるけれど、なかなか時間が追いつきません。
ゆっくり、重ねていけたらと思います。
今週から、仕事は目いっぱいの上、怒涛のように三味線の練習をしなくては……(・_・;)
では、とりあえず、ただいま!のご挨拶でした(*^_^*)

Category: 旅(あの日、あの街で)

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2013/9/18 明日から熊本入り 



前回も出した写真ですが、この木はジャカランダという、街路樹にもなる大木です。
日本でも、宮崎か鹿児島でたくさん植えられているところを見ることができるようですが、有名なのは南アフリカでしょうか。本当に花の時期は紫に染まっています。

が、我が家では5年ほど前に、数房咲いたきり、まるきり咲きません^^;
土壌、気候、植えてある場所のちょっとした問題で気に入らないのかもしれません。
そもそもこの木を庭に植えている家は、多分あまりないでしょうね…… 

いくつか憧れの木があります。
アーモンド、ジャカランダ、そして日本の木では梅。
実は我が家の庭に植えられても、大きくならないものばかり。
いつか大きく咲かせたい、でも私の手入れが悪いので、なかなか育たない木なのでした。


明日から熊本入りします。
前半は仕事がらみですが、まだプレゼンテーションの準備ができていなくて、今、あたふた。
それもこれも、同僚がぶっ倒れたので、仕事の埋め合わせをしているのと、自分も帯状疱疹の痛みが残っちゃって、時々ひどく痛んで息もできなくなり、物事がちゃっちゃと進まないからなのですが……
(休んで、ゆっくり風呂につかったら治る!と昨日言われたけど)

そうそう、故あって、最初に救急でかかったのは某小児科。
そこで抗ウィルス薬をもらったら、「1日5回ミルク時」と処方箋に書いてあって。
(この薬、1日5回飲まなければならないのです)
「あの……ミルク時?」
「あ、すみません。1日5回以上の場合は、どうしても印字されちゃうんです」
「わかりました! 頑張ってミルク時に飲みます」
……ま、小児科にかからざるを得なかった私も悪いけど。
翌日、普通に皮膚科に行ったら、1日5回の飲み方、という親切な紙をもらいました。
「3食後と3時と眠前。夜中に起きる必要はありません」
こちらは「座薬」を座って飲んだり、シートごと飲んじゃうような「まじめな老人」への対策ですね……

いつもコナ〇スポーツクラブのプログラムで、最後にインストラクターさんが言う言葉。
「頑張った自分に拍手!」
……いま、この心境。まだもうちょっと頑張らないと、拍手できないけれど。

熊本市内にいるのは数日なので、それ以外は山奥です。
3度目の正直、満天の星空付、天体望遠鏡つきオーベルジュにも泊まる予定。
これまで、常に曇りか雨で、観れなかったんですよ。
土星と金星の接近、そして何より中秋の名月、ですね!
テルテル坊主、作ろうっと!

後は、またまた巨石たちを訪ねてきますので、レポート、お楽しみに!!

山の中に入ってしまうのでネット環境は不明で、どのくらいご訪問できるか分かりませんが……
少しでも皆様の小説etc、拝読できればありがたいです。

Category: NEWS

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【雑記・あれこれ】 SHOCK・B'z・台風・帯状疱疹 

まさにあれこれの雑記の記事です。
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*写真は庭の秋明菊です。秋の花が少しずつ咲き始めています。
秋の花は控えめなものばかりですが、「花は野にあるように」とおっしゃった利休の言葉が最も心に沁みて感じられる花々が見られる季節です。


今日はまず、台風の被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
テレビの画面で見ていてもものすごいと思うけれど、これから浸水して泥の入り込んだ家や倒壊した家を片付けたりすることを考えると、本当に気が遠くなるだろうなと思います……

大きな災害がある度に、人間の小ささを考えてしまいます。
私たちは、人間の力を買いかぶっちゃいけない、と。
でも、自分の家にいるのに被害に遭うのって、本当に辛いですよね。
家は守ってくれるシェルターであるはずなのに、竜巻とか津波とか地震とかの前には、本当にどうしたらいいのか、という感じがします。

その台風の中、仕事に行かなければならない人、連休最終日なので何があっても帰らなければならない人も、本当に大変です。
これからまだ台風シーズン……祈りながら過ごします。




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*地味な花その2ですが、木漏れ日の中で白く輝いて見えますね。白のヤブランです。

そんな台風の中、15日は京セラドームでB'zのライヴがありました。
本当に、どうなの、と思うけれど、ドームの中にいる間は全く気配もなく、帰りの道はとんでもない状態でしたが、よく止まるJRも幸い止まっておらず、無事に神戸まで帰り着きました。

私はものすごいB'zのファンというわけではないのですが、ファンの友人が毎回誘ってくれるので、ライヴにはそこそこの回数お邪魔しております(^^)
そのたびに思うこと。

稲葉さんは化け物ですね。
本当にすごいヴォーカリストです。
私もそれなりにB'zのアルバムを聴いているのですけれど、サビ以外の部分の歌詞を覚えている曲は片手くらいだし、ほとんど知らない曲もたくさんあるんですが。
私はライヴでよく知らない曲の歌詞を聞き取るのは、曲のタイプによりますが結構大変なこともあるのですけれど、稲葉さんの声は、どんなハードな曲でもちゃんと聞き取れるんですよね。
ものすごい大音響のギター(松本さんですしね)、ベース、ドラムの中、稲葉さんの声が前に飛び出してきますから……
もうほとんど、稲葉浩志というひとつの楽器です。
ライヴであれほどに完璧な声を聴かせるヴォーカリストはなかなかいませんよね……きっと。
あの声のために、ホテルでは乾燥対策ですごい部屋になっているそうですし、生活もあの声のためにすごくストイックに送っておられるのだとか……

う~ん。本当に、気持ちのいい声です。
高音にするんと上がるあの瞬間、聴いているだけで無茶苦茶気持ちいいです。
クラシックとは違って、シャウト系であの気持ちの良い声。いったいどうなっているんでしょう。
今回は大好きな“Calling”はなかったけれど、十分楽しませていただきました。

あ、それから。
最近、稲葉さんのファッションが結構普通になりましたね。
昔、トラのパンツとか穿いておられたような…・・??




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*わが実家の畑。今はピーマンとか、オクラとか、茄子とか。
諸事情により数年後にはこの畑も宅地になってしまうのでしょう……名残惜しいので、時々写真に撮っています。


そして、14日は、大阪にようやくやって来てくれた、堂本光一さんのSHOCKを観てきました。
これまで、何度帝劇に足を運んだことか……福岡も一度行きました。
そして、ようやく大阪へ来てくれたのですね……
梅田芸術劇場の舞台は少し小さいんでしょうか、やや手狭な感じがしましたが。
席は1階の後ろの方だったのですが、フライイングの度にご尊顔を拝し奉り??、もう満足でした。

いえ、本当は、毎年、もう何回も観たし、そろそろいいかな、と思うのです。
思うのですが、もうすっかり親戚のおばちゃんの気分の私は、階段から落ちる光ちゃんが心配で、今日も無事かしらと、ついつい見に行ってしまうのでした。
今回は、初大阪ですから、一度は見に行っとかないと、と思いまして。

1000回公演を達成したSHOCK、ということは本番だけでも1000回以上、階段から落ちているというわけですよね。
(いささか勘違いがあるかもしれません…)
そうなんです。この舞台、踊りもなかなかハードなのですが(マイケル・ジャクソンの振付師・トラヴィス氏も振付けておられます)、階段落ちで有名でもあります。

階段は22段(大阪では21段に見えたけれど、数え間違いかしら)、そこから落ちるわけです。
本当に、身体張って演っておられるので、実はもうそろそろ、階段の段数減らしてもいいよとか、演出変えてもいいよとか思っちゃうんです……
落ちるたびに、観ている私も胸がバクバクしてしまうので、心臓に悪いです。
でも、頑張る光一さんを、ただただ怪我しないようにと祈りつつ、応援するのでした……

本当に、映画なら、身体張るっていっても何回かってことですよね。
でも舞台なら、毎回です。
一体どうなったら終わるのだろう、彼のこの挑戦は、と思うのですけれど。
彼自身が納得するまでは続くのでしょうね。
それならファンとしてはただ見守って、祈るしかないのです。
ボクサーを見ていてもいつも思うんですよね。とにかく御無事で……と。

ちなみに、一緒に行った友人は、今回ライバル役の内くんの大ファンで、既に3回目だと。
私は、屋良朝幸くん(今年の帝劇は彼がライバル役でした)の大ファンなので、今回は冷静に、光一くんだけを見つめておりました……(^^)
少し内容が変わったし、ライバル役の踊りも増えていて、内くんには大変だったと思うけれど、よく頑張っていましたね。
「内に屋良と同じダンステクニックは求めていません」by 光ちゃん……^^;
味わいはそれぞれ別物ですからね(*^_^*)

次回の舞台は、10月の屋良くんの『ソングライターズ』。
東京に行くので、ついでに国立科学博物館の『深海』、観てきますよ(^^)
国立博物館、実は年に一度は出張ついでに一人でぶらぶらしています。
ちなみに、国内外問わず、旅行に行ったら取り敢えず博物館は行ってみます。
国内なら、土地の神様にはお参りをします。




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*我が家のジャカランダ。花は一度咲いたきり、その後は葉っぱばかり眺めています。
もともと南国の大木。どうやらこのあたりの気候は気に入らないみたいで、なかなか咲きませんが、それでもいつかまた咲く日を夢見て……


さて、最後の話題は。
先週始めから背部痛で苦しんでおりました。
重い痛みが内側から湧き上がってくる感じです。
その後、ちょっと発疹ができていて、痛みもずいぶん限局してきて……
帯状疱疹ではないかと思われます。
と言っても、発疹は赤いだけで水疱もなくて、あんまり典型的ではないのですが。
痛みを伴う発疹など他にあまりありませんものね。
怪しいので、先回りして抗ウィルス薬を飲み始めています。
来週の出張までには何とかしなくちゃ。

時々、痛すぎて、息ができなくなります。
それにしても、1年に1度は、薬をがっつり飲まなければならない病気になるなぁ……
すっかり免疫が弱っているのでしょうね。
癌検診にもいかなければならない年ですし。
割と健康に生きてきたつもりなのですが、少し弱っているのかもしれません。

同僚も今日、気胸で入院しました。
皆様も、健康にはくれぐれもお気を付け下さい。

Category: あれこれ

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[雨77] 第15章 ビデオと女記者の事情(4) 

いよいよ第2節の最終話です。しかもこの第2節、「ちょっとそこで切らないで」というようなシーンで終わってしまいます。それなのに第3節をすぐに始めずに、人物紹介??と思われるかもしれませんが、次回は休憩を兼ねて人物の整理をいたします。
長すぎて、途中参加しにくいけれど気になるなぁ、なんて奇特な方(いらっしゃらないとは思うけれど)、人物紹介から入ってくださることも可能です。
何せこのお話、「人物」で動いていますから、人を追いかけていたら話がつながるという面がありまして。
よろしければ、次回の人物紹介、ご覧ください。

……と、その前に【死と乙女】の続きがあります。
……ちょっとだけ、マコトも書こうかな、と思っているところです。お題は『マコトのXファイル』^^;
……昨日、大阪にようやくやって来た光一くんのSHOCKを観てきまして、今日はこれからB'Zですので、いつになるかな?? 明日は仕事(休日出勤日)。木曜日から熊本入りします(*^_^*)
今週末は、やっとちょっとだけ落ち着いています。背部痛を除けば……

話は戻って。
ちなみに、事件に関わる主要登場人物は、実際に出てきたか名前だけかはともかく、ほぼ出そろっています。
2人だけ、まだ出ていない人もいますが……
うち一人が、【清明の雪】で存在を知らされていた、竹流の妻と言ってもいい女・珠恵(タエ)。祇園の芸妓さんです。ええ女ですが、竹流を尻に敷いているのに尻の重さを感じさせない、実は超やり手の女かもしれません。
もう一人は、真を最終的に事件の関係者へ導いてくれる闇世界の男・福嶋(おっさんです、はい^^;)。えーっと。この辺はもう完全に18禁です。と言っても、私の書く18禁、まるきり色気もなく、格闘シーンと同じノリで書いているだろうと言われても仕方がない感じです。よって期待は禁物(何の期待?)です。

さて、まずは第2節最終話、女記者・志穂の告白と、危機に陥る真の話、お楽しみください(*^_^*)






「始めはある大手の新聞社に勤めていたの。入社してほとんど直ぐにデスクと不倫関係になった。やり手で強引で、声が大きくて、周りをぐいぐい引っ張っていく男だった。数ヶ月だけど狂ったみたいにのめりこんじゃった。周りは私が一方的にデスクに入れあげて、男を狂わせようとしたと言った。クビになって、でも仕事を失ったことより、デスクと一緒にいられないことが苦しかった。だから、デスクが仕事場に借りているマンションで彼を待ち伏せして、彼を殺して私も死のうと思ったの。でも上手くいかなかった。所詮女の力で敵うわけでもなかったし、だから自殺した」

 志穂は言葉を切り、ひとつだけ思い切ったような息をついた。

「……はずだった。おじさんに助けられたの。おじさんは私を生かしてくれるために、いろんなことを教えてくれたのかもしれない。世の中には、こんなふうでも生きている人間がいる、それを知っていてくれ、と言われたわ。新津のいた雑誌社に紹介してくれたのもおじさんだった。困ったらいつでも俺をネタにしろって言ってた」

 志穂はほっとしたような顔をした。田安のことを思い出したからかも知れない。
「もっとも、そんなつもりはなかったけど。おじさんにも新津にも本当に感謝しているの。新津も、私が前に勤めていた新聞社を何故辞めたのか、事情は知っていたけど、それなら見返してやれって、だけど大事なのは丁寧な取材をして、偽りのない、そして間違いのない真摯な記事を書くことだ、もしもその記事に間違いがあれば、不当に誰かを追い込むことになるのだから、って。彼は、記者として根本的に大事なことをもう一度教えてくれた人なの。また不倫の恋をしてしまったけど、今度は、ただ報われたいというだけで相手も自分も追い込むようなことはしないと決めていた。苦しいことは同じだったけど」

 志穂の言葉が途切れ、しばらくの間、かすかなBGMだけが部屋のどこかから聞こえているだけだった。Fly me to the Moonのメロディを、哀しいほどに優しい管楽器の音がなぞっている。

「俺のことは、田安さんから聞いたのか。アサクラタケシという名前も」
「まさか。あの人はそんな人じゃないわ。おじさんのところには時々いかにも大物って感じの男たちが訪ねてきていた。そのうちの一人があなたを見かけて、アサクラタケシの息子か、っておじさんに聞いていたの。おじさんはすっとぼけていたけど。私は香野深雪と付き合っている男がどういう人間なのか興味があったから、その男と飲みながらアサクラタケシという人物のことを聞き出しただけ」
 真はアサクラタケシという名前が自分の心を乱さないようにと、無意識に感情にブロックをかけていた。

「おじさんはさすがに記者はしつこいって呆れていて、そのネタは使えないぞって私に言った。そんなつもりはないけど、あなたのことが気になるから知りたかったのって誤魔化したら、私があなたに好意を持っているんだって勘違いしたみたい。あなたと同居しているのは本物のマフィアより性質の悪いイタリアンマフィアの御曹司だから難しいぞって。ヴォルテラという名前は、ちょっと調べたら、どこまでが本当か嘘か全くわからない、どうにも手のつけようのない化け物みたいな組織だということがわかった。ただの記者が扱うネタじゃないってことも。でも、それであなたの値打ちがわかった。……おじさんにそう言ったら笑ってたけど」

 志穂は少し何かを思い出すような優しい顔をしたように見えた。
「でもおじさんは、澤田顕一郎の事は何も言ってなかったわ。自分との繋がりも。政治家として成功している男の育ての親が自分だってことを、誰かに知られちゃいけないと思っていたのかもしれないわね。おじさんはそういう人だった。だから、まさか澤田があんなに大胆な形で自分のお葬式をしてくれるなんて、考えもしていなかったでしょうね」

 澤田顕一郎は、半分は何かの目的のために、そして半分は田安への恩義に報いるために、あの葬式を出したのだ。その時点で、澤田は政治家としての自分の行く先については、覚悟を決めたのだろう。何より、澤田にとって田安は、幼いころ、戦後の混乱の中で自分を救い上げてくれた『父親』だったのだ。
 そしてあるいは、田安は楢崎志穂の親にもなろうとしていたのかもしれない。

 信じるならば、ここまでということはない。誰かを救うと決めたならば、ここまでで終わりということはない。田安は、だからこそ、自分が認めた相手にはあの地下の射撃場を見せたのだろう。そして、必要ならば自分を売れと、志穂にも澤田にも言ったのだろう。そして真には、お前は優しい人間だと、ただ繰り返してくれていた。
 澤田も志穂も、自分たちが受けた恩恵にはどうやって応えるかを知っている。
 だから俺は、どうしたってあの男を救い出さなくてはならない。

「さっきの、条件を聞かせてくれ」
「条件?」
「竹流の、居場所を知ることができるかもしれない、と」
 楢崎志穂は暫く真を黙って見つめていた。彼女の口は、声にならないまま、何かを話したように見えたが、そのまま彼女は目を伏せた。

「俺は寺崎さんの行方は残念ながら知らない。大体彼は逃がし屋だし、逃げる方法は色々と持っている。彼には会ったけど、どこへ行くかは聞いていない。他に、俺が君に教えてやれることはないかもしれないけど」
 新津圭一に恋をしていて、それが片恋で報われず辛いだけものと分かっていながら、その気持ちを処理しきれずに苦しんでいる志穂が、いくらか可哀相な気もしていた。だが、実際には志穂は、真が思うよりはずっと上手くその苦しみを浄化しているのかもしれない。

 志穂は言いかけたことを言わないまま、また俯いた。
 真が辛抱強く待つ決心をしたとき、志穂は急に顔を上げた。
「聞いておいて欲しいことがあるの」
 真は頷いた。

「私が、自分が香野深雪の妹だと思っていたように、皐月もそう思っていた」
「どういう意味だ?」
「皐月だけじゃなくて、もしかして他にもいるかもしれないけど」
「深雪の妹と思っている人間が、か?」
 志穂は頷いた。

「誰かが、いや、君たちを引き取った施設の経営者がそう言ったということか。何故、そんな必要がある?」
「香野深雪を見張るため? もしかして、澤田を見張るためかもしれない。澤田が、香野深雪とその妹の両親の犯罪を暴露する記事を書いたことも聞かされた。その男は、澤田にも記者としてのプライドも使命もあったわけだから、彼を責めるわけにはいかないけれど、と言った。そして、どんなふうに香野姉妹の両親が亡くなったか、私に話して聞かせた。同じことを聞いた皐月がどう思ったかは知らないけど、私は怖かった」

「怖い?」
「見たこともないはずなのに、鮮明にそのシーンが浮かぶの。だって、結局嘘だったわけでしょう? でも、知っている気がしたの。古い旅館の跡地に立ったとき、今はもう無くなってしまった建物の中で首を吊っている夫婦の姿が、目に焼きついているような気がした。何度も何度も聞かされて、自分の中で情景を作り上げていた」

 それはマインドコントロールだ。相手が子供なら容易いことだっただろう。その男は一体何を「試みて」いたのだろう。誰かの心が、ほんのちょっとしたことで手に入れることができる、という実験でもしていたのか。
 少なくとも、真は、志穂にも自分と同じような側頭葉の記憶の混乱があるのだと知った。たとえ映像や音がなく言葉だけであっても、繰り返されることで脳の中で現実化していく物語は、本来現実だったのか、全くの作り事なのか、もうわからなくなっている。

「その施設の経営者を、覚えているか」
「もう亡くなったけど。でも、あなたはその男を知っているでしょ」
「知っている?」
 思わず志穂を真正面から見つめる。
「まさか、村野耕治」
「そう、澤田顕一郎の秘書だった男。勿論、私たちの前でそういう名前を名乗っていたわけじゃないけど」
 志穂は一旦、言葉を切り、目を閉じた。

「あの日、まだあなたの同居人が怪我して戻ってくる前、おじさんの店であなたに香野深雪について聞いたでしょ。おじさんは私があなたのことを好きなんだと思っていたみたいだったから、何か聞き出せるかもしれないと思って誤解のまま放っていた。おじさんは私とあなたが仲良くなるきっかけを作ろうとしてくれてたみたいだから、あなたに頼みごとがあるんだって、そう言っておいたの。本当は、あなたが香野深雪と付き合っていることに興味を持ったのと、それから、皐月の恋人と同居している男だったから、偶然にしても出来過ぎだって、そう思ってただけなんだけど」
 
 少なくとも思慮深い女ではない。何かを思い立ったらすぐに行動に移してしまう。始末がつかないことをしてしまっても、その時には気がつかないタイプだ。だが、何かに一生懸命なのだろう。
 鏡に跳ね返された光が、いくつもの志穂と真の姿を万華鏡のように浮かび上がらせていた。

「私が香野深雪と澤田顕一郎の名前を出した時、おじさんは多分驚いたんだと思う。あの後、私に事情を聞いてきたから。おじさんは、確かに澤田が香野深雪には申し訳ないと思っていて、そのことで深雪に援助をしているけれど、彼らは愛人関係でも何でもないって、そう言った。私はおじさんに、私たちのいた施設の話をしたの。私が、その男が村野耕治じゃないかと気が付いたのは、澤田を調べ始めてからだった。その男は私に、自分も澤田の事を見張っているんだと言っていたけど、秘書だなんて言わなかった。だけど、私たちは、彼の言葉から澤田はとんでもない悪人だと思い込まされていたから、彼が澤田の悪事を暴くために近付いているんだと、そう解釈していた。そういう話をおじさんにしたの」

「その後で、田安さんは亡くなった」
「そう。だから、これは何だかとんでもないことじゃないかと、そう思い始めた」
「君は、大和竹流と接触していた、村野耕治の息子らしい男をつけていたんじゃないのか。それは田安さんの亡くなる前だ」

「皐月は三年半ほど前、もっと絵を勉強したいからソ連に行くことにしたって、日本を出て行った。どうしてフランスとかじゃなくてソ連なのか、不思議に思ったけど、後から考えてみたら、皐月は多分、大和竹流を追いかけて行ったんだと思う。実際にそこに大和竹流がいるからってことじゃなくて、彼の仕事を追いかけたっていうのか」

 志穂は真が意味を理解しているのかどうか確かめるように、一度真の顔を見た。真は小さく頷いた。
「居場所は教えてくれなかったけど、何度か電話をくれたの。どうして居場所を教えてくれないの、と言ったら、ちょっと揉めちゃったの、と言っていた。大和竹流と揉めたのかと聞いたら、それはちょっと言えないけど、そのうち戻るから心配しないでって話していた。彼女と連絡が取れなくなって、まさかと思って大和竹流を見張っていたの。最後の電話で皐月は妙なことを言っていた。『お父さん』の息子に会ったって。彼女は村野を信じていたし、信奉さえしていた気がするけど、何だかあの時は不安そうだった。私に、村野耕治をよく調べてくれないかって、そう言ったのよ。村野の息子の写真を送るから、その男のことも調べて欲しいって。だから、その『お父さん』の息子が大和竹流と接触しているのを知って驚いた。何が絡み合っているのか、全く見当がつかなかった」

 真は、心して優しく、志穂の腕を取った。
「君たちは、村野耕治に心理的に操られていただけだ。つまり心に傷があるように思い込まされて、それを利用されて、何かを、簡単言うとありもしない復讐をしなければならないような切迫した感情に追い込まれていただけだ。その男が何故そんなことをしていたのかは知らないけど、君たちはそんなものから逃げ出すべきだ。作られた、本物ではない記憶なんだから」

 志穂はしばらく真の顔をじっと見つめていた。
 志穂の心の内で何が動いているのか、決して真に対する好意でないことは確かだが、この女は真実と真実でないものの狭間で揺れ動き、そしてそれでも何が本当なのか知りたいと足掻いているような気がした。その根底には、おそらく新津圭一への尊敬と愛情があるのだろう。
 真実を突き止めることが記者の本質ならば、その対象が自分自身であっても、その信念を貫く限りは、求める真実からは逃れられない。
 
 だが、真は語りながら、自分自身は偽善者だと思っていた。
 他人に正論を語ることはたやすいものだ。自分は、作られた複雑な記憶に縛られているというのに。

「今考えても村野耕治のことはよくわからない。もしかして本当に私たち孤児を可愛そうに思ってくれている、優しい足長おじさんだったのかもしれない。でも、私にはなんだか、あの男は怖かった。子どものころはよく分からなかったけど、ふと何かの拍子に、石で作られた像か機械みたいに感じていた気がする。向こうから私たちに話しかけてくるけど、私たちの話は聞いていない、私たちの存在も感じていない、私たちは彼の作り上げた物語の中で、彼が決めたとおりに動いている人形みたいな感じ。戦争とか極限の体験をすると、人間ってそういうふうになるのかもしれないけど」

 志穂は小さく息をついた。この女は、本当は随分とまっとうな考えを持っているのだと思って、真は幾らかほっとした。
「条件を話してくれ。君が今、一番望んでいることは何だ?」

 志穂はまだ俯いたままだったが、やがて顔を上げた。初めて、本当の心の内を話そうとしている、そんな顔だった。
「皐月に会いたいと思ってる。寺崎昂司の言葉を全部信じることは出来ない。彼女が死んだとは思えない。それから、新津が、本当は何故殺されたのかを知りたい。自殺なんかじゃ絶対にないと思う」
「それが、条件か?」

 志穂はどう返事をしていいのか分からない顔になった。竹流の居場所がわかるかもしれないと言ったのは、もしかしてでまかせだったのかとも思ったが、真はただ縋るような気持ちで先を続けた。
「村野耕治の息子を探してみよう。君が協力してくれたら」
 だが、志穂は僅かに俯き、唇を噛み締めたように見えた。

「あなたにして欲しいことは、そういうことじゃない」
「じゃあ何を」
「絵が、何処にあるか、あなたは知ってるの?」
「絵?」
「皐月が描いていた絵の元になった絵」
 志穂はようやく顔を上げて真を見つめた。

「何故、そのことを?」
 真が尋ねると、志穂は再び俯き、長い間黙っていた。それから急に顔を上げ、漸くその言葉を言う決心がついたというように、きっぱりとした声で言った。
「逃げて」
「え?」
 何を言われたのか分からず、真はただ聞き返した。

 しかし突然、返事の代わりに、ソファの真正面の部屋の扉が勢いよく開いた。

 真が立ち上がった時には、にたにたと笑ったいかつい男が三人、部屋に入ってきていた。
 一人は髪の毛を金にした、まだ若い男で、震える手で黒い拳銃を構えていた。他の二人はそれよりは年かさで、黒いシャツに黒い上着を着たでかい男と、もう一人は一廻り小さめの体で、逆に全身白い服を着ていた。
 どう見ても、ヤクザにしか見えない。

「動くなよ。なんせ、こいつ初めて人間を狙うからなあ、震えちゃってどこに当るかわかんないんだよなあ」
 白いほうが言った。
 どこかで見たヤクザにも見えるが、新宿には暴力団事務所だけで二百はある。はっきりと組事務所ではないが、企業の看板をあげたものまで含めると、もう掴み切れない。見かけたような顔はその辺にごまんと転がっている。

「女と楽しんだ後に悪いがな、ちょっと付き合ってくれや」
 黒いほうが兄貴分のようだった。
「俺を見張っている連中がいるぞ」
 あまり上品な部類のヤクザではないのはピンときた。
「そうか、それは困ったなあ。じゃ、まあ、女に芝居させて出て行ってもらうか」

 ふと志穂を振り返ると、彼女は冷めた表情をしていた。
 そういうことだったのか、と気が付いたのはそのときだった。
 白いほうが志穂の腕を掴んで引っ張り、拳銃を持った若いチンピラに顎で何かを命じて、その手から拳銃を取って、弄ぶように自分で真に狙いをつけた。チンピラは志穂と一緒に部屋を出て行った。

 出て行きかけた志穂が、一瞬真を振り返ろうとしたように見えたが、男に促されてそのまま何も言わずにドアの向こうに姿を消した。
「彼女は仲間なのか」
「どうでもいいことだ。けど、あんたのお仲間には、納得してもらわないとな」

『河本』の車を思い出したが、真がこのホテルに入ったことは見届けただろうが、その後どうしたかは分らない。大体、こうなったからといって『河本』を頼るのは、今一つ情けない気がした。
「ゆっくり可愛がってやるか。使い物にならなくなる前に、女に突っ込めてよかったなあ」
 白いほうはかなり下品な男に思えた。黒いほうが白いほうを一瞬睨んで、それからゆっくりと真に近付いてきた。

「まあ、付き合えや。あんたの『彼氏』の行方について、ゆっくり話そうや」
 怖いと思っていたつもりはなかったが、腕を掴まれた瞬間、一瞬びくっとした。黒ずくめの男はその様子ににたりと笑った。真が怯えたと思って満足したようだった。
 地下に降りると、食品の運送用と思われるトラックが停まっていた。真が黒ずくめを振り返ると、いきなり頭の上から何か堅いものが降ってきて、床に叩きつけられた。
 反射的に起き上がろうとしたが、更に背中に重いものがのしかかってきて、そのまま意識は途切れた。


【海に落ちる雨】第2節 了




あらら。大変なところで終わってしまいましたね。
ココから先は乱闘・格闘入り混じった世界へ……
そう、いよいよあの人が登場します。調査事務所の秘書・美和の彼氏、北条仁。
第16節、しょっぱなから『任侠の男』ですよ。
そうそう、この話は丁度浅田次郎さんの『プリズンホテル』を読んだりしていたので、少しヤクザさんが美化されているように見えるかもしれません。しかし、この北条仁の人生もこの先は大変ですから、そういう一面的な見方はしないつもりで書いておりますし、読んでいただく時にも感じていただければ幸いです。
もっとも、表世界でも十分にあくどいことをしている人もいるでしょうから、悪人と善人はそもそも一人の人の中にも混在しているんでしょうね。

第3節の予告編です。章題は以下の通り。

16 任侠の男     ←仁さん登場
17 豪農の館の事情  ←仁と一緒に新潟へ
18 その道の先に   ←ここに二人の関係暴露あり
19 同居人の足跡
20 ローマから来た男
 ←チェザーレさん登場
21 わかって下さい(少し長い同居の経緯) ←回想部分
22 死んだ男の息子
 
どうぞお楽しみに。
ちなみに、私がどうしようかとためらっているシーンは、まだこの先なのです。
したがって、ここまでは普通の18禁やら15Rやらで済んでいると思います。
2人の関係暴露も、ある意味物語の流れの中では不自然ではないことだと思っているのですが。
でも、そういう関係を嫌う方もおられるので、そういう場合はかっ飛ばして読んでいただいても構いません。
人間関係の重さが伝わりにくくなって、ちょっと間の抜けた感じはするかもしれませんが、事件の解決には何の影響もありませんので…^^;
もっとも、この二人、BLっぽいラブラブとは全く違う、かなり魂燃焼型になっているので、色っぽい関係は期待しないでくださいませ。

では、次回登場は、人物紹介です(*^_^*)

Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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【雑記・本】 くまもん~セーガン博士の本再び 

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最近、本屋さんで、古いドラマのDVD+解説本全集とか、ブランドのちょっとしたグッズとか、プラモデルみたいなものとか(毎号組み立てていったら戦艦大和になるとか、プラネタリウムになるとか)、本風にして売っていますよね。
あれって、付録をメインにした本みたいなものなのかしら。

遠い昔、「科学」と「学習」という本を売っていて、付録に実験グッズやちょっとした化石が入っていたりして、毎月とても楽しみでした。
今みたいに通信販売もないし、ネット販売もないし、小学校の裏に毎月初めに売りに来るんですよね。
学校公認なのか、その時みんな学校の帰りに買いに行っていた。

それはともかく。
私はDVDシリーズで「Xファイル」と「鬼平犯科帳」を揃えました(*^_^*)

そして、時々手を出してしまうのがこれ。
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本屋さんで手に入るくまもんグッズ。
傘や親子バッグ、トートバッグ、文房具に続き、ランチボックスです。
いえ、私が持っていたのは、トートバッグだけだったのですが、このたび、そろそろ新しいランチボックスが欲しかったので、即買ってしまいました(*^_^*)
袋が大きめで、上に果物とかちょっとおやつとかを乗せられるのもいいです。
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くまもんは登録商標をしなかったとかで、誰でも使ってグッズを作れるようで、熊本県のあちこちで、その地域にしかないくまもんグッズが手に入ります。

でも、一番びっくりはこれ。
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熊本の県内でしか借りれないレンタカーです。
来週熊本に行くので、一瞬心惹かれましたが、これではちょっと道を走れない……^^;
レンタカーが全部これなら、いっそ思い切れるけれど。

それにしても、日本人は何でも「可愛く」キャラにしてしまいますね。
(子どもはキャラ化しないで欲しいけれど)
そして、それを楽しむのも上手です。
……でも、レンタカーはちょっと微妙。幼稚園バスじゃないんだし……^^;

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くまもんと一緒に登場したのは、先日ご紹介したカール・セーガン博士の遺作、アン・ドルーヤン女史(何人目かの奥さん^^;やはり科学者)との共著の本。

『はるかな記憶~人間に刻まれた進化の歩み~』
Shadows of Forgotten Ancestors


進化を辿りながら「ヒトとは何か」ということを語る本です。
この時代から今はもっと研究が進んでいて、新たに分かっていることも増えていますが、古いとは決めつけられない何かがこうした発見や歴史を語る本には潜んでいます。

竹流の愛読書のひとつがシュリーマンの「古代への情熱」。
何回読んでも感動する本です。
ダーウィンの進化論。今では間違っている部分も指摘することはできるけれど、それでも素晴らしい本です。
新しい情報ばかりが価値があるとは限らないんですよね。

私が中学生の時に出会った、生物の教科書に書いてあった言葉。

「個体発生は系統発生を繰り返す」

かつて受精卵だった私たちは、アメーバのような単細胞から始めたのです。
胎児が10か月の間にたどるのは、生命の数十億年の旅、なのですね。
だから途中に、ちょっと両生類っぽい時があったり、鳥っぽい時があったり。
この言葉に出会ったとき、「すごい、私という個体は40億年の記憶を繰り返して、この世に誕生したんだ!」と中学生ながら震えるような気持ちだったのを、昨日のことのように思い出します。
(ちょっと多感だった中学生の私……^^;)

さて、この本からも、ちょっと気になる個所を抜き出してみましょう。

鳥類の既知種のうちの90%以上が「一夫一妻制」を敷いていることが知られている。オオカミ、ジャッカル、コヨーテ、キツネ、ゾウ、トガリネズミ、ビーバー、コガタアンテロープなどについての数字ははっきりしないが、サルや類人猿では12パーセントの種に「一夫一妻制」が知られている。
しかし、オスが育児に関与し、その母親の面倒も見るという形式をとる多くの種では、一夫一妻制は他の雄を排除してしまうことを意味しない。オスが絶えずメスと性的交渉を持つ機会を狙っている一方で、メスもしばしばそういうオスを受け入れることがあるからだ。
生物学者が「混合婚姻戦略」とか「婚姻外交渉」とか呼んでいるものだ。DNAによって、一夫一妻制の鳥の夫婦が育てている若鳥を調べたところ、約40%が婚姻外の子どもであると同定された。ヒトでも同じようなものなのかもしれない。


大したことないな! 人類! サル系で12%だって!
でも、やっぱり大した奴らだよ、人類! 鳥もね! 誰の子でも「種の子ども」!

東北には夜這い民話がたくさんあって、特に祭りのときにはあちこちで、未婚者・既婚者関係なく、「よそ者」との一夜限りの恋の花咲くこともある(いや、咲きまくり)、で、子どもができちゃうこともある。
でも、誰の子どもだろうと、結婚している夫婦は、これを自分たちの子どもとして育てる。
ムラという閉鎖空間では、奇形や病気の遺伝子が濃く受け継がれるので、時々異分子を入れるというのが常識だったようで、異分子の子どもが生まれることは、歓迎しないかもしれないけれど、結構普通のことだったわけですね。
子どもが労働力、という時代でもありますし。

そう考えたら、今の「文明人」って、けっこう「コセイ」なぁ、と思ってしまうのでした。

次回は、アオサギの求愛シーンをご紹介。
「キライ」と「スキ」の二面性は、何もヒトだけではありません、というお話。

あ、落ちがなかったなぁ。

Category: 本(ご紹介・感想)

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[雨76] 第15章 ビデオと女記者の事情(3) 

この章は、最後に事態が動くまで、志穂とマコト、じゃない、真が会話を続けています。
(「まこと」と打ち込んだら、「真」より先に「マコト」に変換される……^^;)
なるほど、似た者同士が会話を続けると、物事が解決するよりも、ややこしくなるだけ、ということがよく分かりました。
この章が終われば、登場人物は雁首を揃えたことになります。もちろん、これまでは名前しか出ていない人が幾人かいるのですが、その人たちが実際に出てくることになります……
その最たる人がチェザーレ・ヴォルテラと北条仁、ですね。どちらも濃いキャラです。

でもまずは、志穂とマコトの、じゃない、真のかみ合わない会話をお楽しみください。





 真は澤田の言葉を思い出した。
 彼女の記憶がどこか飛んでいる、ということを澤田が話していた。両親の自殺からある時点までの過去の記憶が失われている、つまり逆行性健忘だと。

 真にも同じ傷がある。
 十九の秋、昴という馬の背に乗っていた時点から病院で目を覚ますまで、つまり崖から落ちたという記憶が完全に欠落していた。いや、あるいは東京にいた時点からかもしれない。なぜ浦河に帰ったのか、その時自分が何を感じ、何を思っていたのか、そのことに対する記憶が全くない。

 時々真は、自分が本当は死んでしまっていることを思い出したくないのではないかと思うことさえあった。
 そう、自分が幽霊であることに気が付いていないのかもしれず、もしかして今の自分は夢をみているのだけなのかもしれない。
 あの時真は自ら命を絶とうとしたのかもしれないし、その背景には恐ろしくて思い出したくない理由があるのかもしれない。

 失われた記憶の部分に、自分自身の本質、自分という人間の核があるのだとしたら、今の真は人格のどこか、存在のどこかを削り取られたままではないのか。そしてそれを知ること自体が恐ろしくて、思い出さないように記憶の引き出しに鍵を掛けている。

 自分の人格のどこかが削り取られている空虚感は、時に身体の芯に大きな負担をかける。しかも削り取られた理由は、明らかに負の力なのだ。
 思い出すことは、その負の力をまともに浴びることになる。

 今の自分を形作っている一部分を完全に否定するかもしれない。
 あるいは、一部ではなく全てを。思い出したら、今、自分が生きていること自体を否定することになるかもしれない。

「糸魚川か?」
「さぁ、そこまでは。でも、彼女は自分の両親のことをよく知りたいと思ったかもしれない。澤田のことも。彼女にそれを決心させたものは」
「新津圭一?」真は呟いてから否定した。「違う、新津千惠子か」

 志穂はどこか空虚に真を見つめていた。感情を精一杯抑えているのか、会話を紡ぎながらも何か他のことに気を取られているのか。真は、もしかして何かを知っているかもしれない志穂の関心を、何としても手放したくないと思っていた。

「同じ境遇の娘を見て」
 言いかけて、真はもう一度否定した。
 千惠子が同じ境遇である事なら、深雪は少なくとも三年半前、新津圭一が亡くなったときに分かっていたはずだ。もしその時でないとしても、始めに糸魚川に行って両親の自殺を確認した三年前には、既に知っていたはずだ。そのとき、彼女は、千惠子を預かって欲しいという竹流の申し出を断っている。

 何故今頃動き始めたのか。
 寺崎昂司は、新津千惠子が誘拐未遂に遭ったと言った。そして、新津圭一の死が他殺であるという証拠が出たといった。

「深雪は澤田に復讐しようとしているのか。まさか、本当に澤田が新津圭一を殺したと思っているんじゃないだろうな」
「そうかも知れないわね」
 曖昧に返事をする志穂に、真は幾分か焦ってきた。

「君は、他に何を知ってるんだ?」
「何って? 大和竹流の居場所とか、ってこと?」
 真は思わず跳ね起きて、志穂の腕を取った。
「どういう意味だ?」

 志穂は、初めて真が示した強い反応を見て、皮肉な笑いを浮かべた。
「やっぱり、彼があなたの本当の想い人ってわけなのかしら。誰よりも大事な人」
「どうだっていいことだ。君には関係がない」
「彼に会いたい?」

 それは真の身体の芯を、本当の意味で刺激する言葉だった。真は志穂を掴んでいる手に、知らず知らずのうちに力を入れていた。暫くにらみ合ってから、真は漸く口を開き、自分に確かめるように一語一語力を籠めて尋ねた。

「知っているのか?」
「さぁ。条件次第では、知ることができるかも」
 志穂は時折曖昧に視線を逸らした。その目の中には、どこかに恐怖があるような気がした。

 真はふと、マンションの前で志穂に会った時の事を思い出した。彼女は、尾行を気に掛け、それから時々、何かを気にしているような気配を見せていた。
「条件?」真は、志穂の言葉を注意深く繰り返した。「言ってくれ」

 志穂はまた皮肉を込めたような笑いを浮かべた。だが、それは彼女自身に対しても向けられているようで、どこか哀しげにも見えた。
「何でも聞く、って顔ね」
 真は答えなかった。

 志穂は真が掴んだ手を緩やかに振りほどくようにした。
 その時、真は志穂の手に一瞬視線を向け、思わず凝視した。

 志穂の細い綺麗な指の指紋の隙間、爪と指の間に、濃い茶色の何かが取れずにこびりついていた。
 ずっと、血の臭いが鼻についていた。てっきり、自分の鼻腔に残っている寺崎昂司のものだと思っていた。

 志穂が真の手を振りほどこうとしたが、真は離さなかった。
「マンションで、何を見張ってたんだ?」
 大体、今更志穂が竹流のマンションを見張る理由が分からない。
「手を離して」
「言えよ」

「寺崎昂司を追いかけてたのよ」
「何故」真はそこまで言ってから、志穂の恐怖の意味を解した。「寺崎さんを刺したのは、君か」
 志穂のほうも暫く真を睨んでいた。
「寺崎昂司に会ったの?」
「先に答えろ」
 真は強い声で言った。
「そうよ」
「何故」

 しばらく楢崎志穂は真を睨み付けたままだった。
「寺崎昂司が人殺しだから」
「人殺し?」
 真も暫く黙った。何より、志穂が寺崎昂司とどう繋がっているのか、理解できなかった。
「私は、ただ事実を彼に確かめただけ」
「事実?」
「手を離して」
 真は志穂の強い言葉に、思わず手を離した。
「寺崎昂司が、御蔵皐月を殺したのかどうかを知りたかった。皐月の死体は出ていないけど、行方が分からないから」

「みくらさつき?」
 聞いたことのない名前。真は確認するように志穂の顔を見つめていた。

「そうよ。香野深雪に会ったわ。彼女は、田安さんから手紙を受け取ったって言って、私に会いに来た。誤解があるようだから直接私に話して欲しいって、そう書いてあったそうよ。香野深雪は、放っておくつもりだったけど田安さんが死んでしまったので私に会う気になったって言っていた。糸魚川で自殺した旅館経営者の夫婦には女の子が二人いた。姉は施設に預けられて、その後幾つかの施設を転々として、澤田顕一郎というパトロンを得た。妹は両親が亡くなったとき、まだ赤ん坊で、直ぐにどこかに養女に出されていた。香野深雪は、自分に妹がいるとは知らなかったけど、三年前に糸魚川に行って両親の事を調べた時に、妹のことも聞いたそうよ。弥彦に貰われていったそうだって。だから、きっと幸せにしているだろうし、名乗るつもりはないし、自分に妹はいないと思っているって。だから、少なくともそれは私じゃない、って」

 真が聞いたとき、深雪はきっぱりと言った。
 いいえ、妹なんていないわ。私は親も知らないの。
 深雪は、自分の記憶にない、当時は赤ん坊だった妹の人生に、今さら一点の翳りもつけたくないと、割り切ったのだろう。

 そして、不意に思い出した。
 弥彦神社で出会った、美和が写真を撮ってもいいかと交渉していた、明るい赤の袴を着た巫女姿の女性。どこかで会ったような気がする、と美和には適当なことを言ったが、本当は深雪に似ている、と確かに思っていたのだ。

 だが、深雪の持つ深い海のような暗い色合いは、その女性からは感じることはなかった。その人は穏やかで暖かい北の日差しを思わせたので、あの時は他人の空似だろうと思っていた。
 もしも深雪が幸せであったなら、あんなふうに笑ったのだろうか。いや、人は同じ親から生まれたとしても、育った環境で表に現れる顔を変えてしまうのだ。

「私に糸魚川の事件を話したのは、私たちの保護者だった」
 やがて、志穂が重い声で語り始めた。
「私たち?」

「私と、御蔵皐月の保護者。私たちは施設で育ったの。経営難で施設が閉鎖されたとき、私たちは別の施設の経営者に引き取られた。他にも、色々な施設から子供が引き取られていた。彼は私たちをみんな養女や養子にして、全ての面倒を見てくれた。私たちの才能を見つけては伸ばして、社会に出て行けるようにしてくれた。皐月と私は前の施設からずっと姉妹のように育っていたし、本当に仲が良かったの。小さい頃体の弱かった私を、ひとつ年上の皐月はいつも庇って助けてくれていた。皐月には絵の才能があったの。私たちの保護者は、自分には代々受け継がれた、使いきれない財産があるのだけど、自分には子供がいないから、君たちに全て使うつもりだと言っていた。皐月は彼に勧められて、パリに留学して、本当に懸命に絵の勉強をしていた。人生を全うするためには、自分はいつか某かの人物になるのだと強く信じなければならない。それが彼女の口癖だった。私には彼女は眩しかった。綺麗で華やかで、気がきつくて、少し影があったけどそれも魅力的で、とても施設出身とは思えない気品と気高さがあって、私の自慢の姉だった。それでも絵なんて簡単に売れるものじゃない。そんな時、彼女の才能を買って、ある画廊が一週間ほど無償で彼女の絵の販売会をしてくれた。皐月は、その画廊の経営者にのぼせ上がってた」

「竹流のことか」
「そう。私は皐月が心配だった。耳に入ってくる噂は、女関係ではいいものはなかったし、裏で怪しい仕事をしているんじゃないかって、評判だったし。でも、皐月は私の言うことには耳も傾けてくれなかった。四年ほど前、皐月は彼と一緒に面白い仕事をしているんだって、それは楽しそうに話していた。でも、その時彼女は寺崎昂司とも付き合っていた。どういうつもりなのかって聞いたら、寺崎にはやってもらわないとならないことがあるからって」

「やってもらわないとならないこと?」
「皐月は、寺崎を何かに利用しようとしていた。大和竹流がどのくらいそのことを知っていたのか分からないけど、でも、大和竹流は皐月を責めなかったし、放っておいてくれた」

 それは葛城昇の言うとおり、竹流は単純に女に泣かれるのと、女を責めるのが嫌いだからだ、というだけの事なのだろう。
「寺崎さんは、そうじゃなかったということか」
「よく分からない。寺崎昂司が何を皐月に頼まれて、どうして皐月を裏切ったのか」

「裏切った?」
「そうよ。その時のことを寺崎昂司に聞いたけど、寺崎は皐月がとんでもないことをしようとしていた、ってそれだけだった。もしもこの事が大和竹流に知れたら、いくら女でも竹流は許さないだろうって。皐月をどうしたのかって聞いたら、もうこの世にいないって」

「寺崎さんが、その御蔵皐月を殺したというのを真に受けたのか」
 志穂は息をついた。
「寺崎昂司は、皐月の形見だといって、私にペンダントをくれた。私たちが二十歳になった時、二人ともきっと幸せになろうって、ううん、きっとやるべきことをやり遂げて、そうして幸せになろうって、プレゼントし合ったお揃いのペンダントだった。カッとしたの。何だか訳も分からず揉み合っていて、気が付いたら怪我をさせていた」

「何故そのままにしたんだ」
 志穂は声を高くした。
「寺崎昂司が大丈夫だから行けって。その時はそんな出血には見えなかったのよ。寺崎は時間を気にしていた。それで、あとをつけたら、あなたの同居人のマンションに入った。問い詰めようと思ってたのよ。でも、寺崎は出てこなかった。代わりに出てきたのはあなただった。あなたから血の臭いがした。寺崎昂司に会ったんでしょ」

 真は暫く志穂を見つめていた。彼女の話がどこまで本当か掴めなかった。
「それで、寺崎さんの事を放っておいて、俺をここに連れてきた理由は何だ? 誘惑するのが目的ではないだろう」
「あなたと寝たかったのは本当よ」
 志穂が敵意とも愛情とも取れる強い目で真を睨んでいた。もちろん、愛情のはずはない。

「香野深雪が姉ではないって分かったのなら、何故」
 志穂は俯いた。
「あの女は嫌いなの」
「新津圭一が彼女に惚れていたからか」

「新津を騙したのよ。あの女は、澤田に復讐するために新津を利用したんだわ」
「香野深雪が新津圭一を騙したとは限らない。新津圭一はやり手の記者だった。逆に彼が深雪を騙したかもしれない」
「香野深雪の肩を持つの」
「君の新津圭一への感情が一方的に過ぎると言ってるんだ。それに、二人は本当に愛し合っていたかもしれない。君は混乱しているんだ」

 志穂は今度こそ口をつぐんだ。真の言葉が突き刺さったように、視線を一瞬宙に浮かせて、それから俯いた。
「あなたって、酷い男ね」
 真は溜息をついた。
「女の気持ちを思い遣っている余裕が無いんだ。それは、自覚している」

 会話を繋いでいるうちに漸く落ち着いてきた気がした。
 真はシャワーを使い、志穂にもそうするように言った。冷静になってみると、自分たちの体から幾分か血の臭いがしている気がしたので、それは確かにまずいような気がしたからだ。

 志穂がシャワールームから出てくるまでの間に、真はリビングルームのソファに座り、やっと煙草を吸う余裕を見つけた。マンションで見たビデオが、多少は記憶の中から現実味を失っていることについては、楢崎志穂に感謝したい気持ちだった。

 一本吸い終わる頃に、志穂がベッドルームから出てきた。
 ふと志穂を見ると、彼女のほうも少し落ち着いたのか、いくらか穏やかな表情をしていた。真は志穂にソファに座るように促した。志穂は、珍しく大人しく真の隣に座った。

「ずっと聞きたかったんだけど」
 真が話しかけると、志穂は、淡々としてはいたが、それでも以前よりは打ち解けた表情で真を見た。
 肌を合わせると、男女は不思議と心を通わすことができるような気がする。もっとも、それは多分、男のほうの勝手な思い込みか、自惚れなのだろう。

「田安さんがどういう人なのか、君はどうやって知ったんだ? あの人が、あの地下の射撃場に他人を入れることなど、滅多になかったはずだ」
 志穂は厚くて扇情的でさえあるその唇を横に引き延ばすようにして、微かに笑った。
「じゃああなたは? 自分が田安のおじさんに選ばれた、すごく特別な人間だと思ってる?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
 志穂は両脚をソファに引き上げるようにして抱えた。さっき抱いた女の脚を改めて見て、その綺麗なことに驚く。

「私、死に損ないなの」
 真は言葉の意味を確かめるように志穂の顔を見た。志穂はソファの向かいの白い壁を見つめていた。

Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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[雨75] 第15章 ビデオと女記者の事情(2) 

少し間が空いてしまいましたが、第15章の(2)をお届けいたします。
プリンター(兼スキャナー)が壊れてしまって、ソ連の残り記事を書こうと思ったのにできません…残念。

竹流が隠そうとしていた(あるいは保管しようとしていた)ビデオは、新津圭一という雑誌記者の死が自殺ではなく他殺であるという証拠でもあったが、また別の犯罪の映像でもあった。竹流は、被害者を想い、動くことができなかったに違いない。だが、何か事情があって、竹流と寺崎昂司は犠牲者である少女を隠し、寺崎は新津の残したフロッピーを盗み出そうとした。
まだ、真実には届かない。
映像に衝撃を受けた真は、すっかり混乱してしまっていた。


楢崎志穂、全編中、最も分かりにくい女と、最も分かりにくい主人公の真のシーンです。
色気はないので、特に18禁にはしておりませんが、一部官能的な表現が使われておりますので、15歳未満の方はご遠慮ください。

では、続きをどうぞ。





 真が動かないままでいると、志穂は少し間を置いてから、寝室の電気を消し、真の側に寄った。灯りを消しても、壁際にフロアライトが残っていて、光の乱反射は艶めかしく情景を変えただけだった。

 その曖昧な明かりの中に立つ志穂の声と気配に現実味がないように思えるのは、彼女が自分と目を合わせないようにしているからだということに、今さらながら気が付いた。

 志穂は躊躇いがちに真の薄手のジャケットに手を掛け、脱がすようにした。
 誘われているのかどうか、あまり確信はなかった。しかし、志穂の手が再び真のスラックスのベルトに触れた瞬間、頭の中は真っ白になった。

 男の首に巻きついていた濃い色のベルト。ゆっくりと絞め上げて、肉に食い込んでいく。
 一気に込み上げてきた吐き気は、別の表現をとって真の体を締め上げた。

 一瞬、自分が彼女の首を絞めているのか、彼女が自分の首を絞めているのか分からなかった。
 万華鏡のように散らばる鏡の中に、数限りない自分と彼女と、あるいは自分でも彼女でもないものたちがばら撒かれ、脈絡もなく次元を折り重ねた。どこかに本当の自分がいるのか、あるいはそんなものはとっくに失われてしまったのか、分からなかった。

 いや、首を絞めていると思ったのこそ、幻だったかもしれない。
 その感覚は息ができないという現実の結果で、その理由は真が呼吸のタイミングを掴めないほど必死になって彼女と唇を吸い合っていたからだった。

 相手が誰かということも、確信が持てなくなっていた。
 多分どこかで、りぃさだと思っていた。

 乾いた細い指が、真の首に巻きつき、躊躇うこともなく絞めてくる。少女のままのような身体なのに、ねっとりと絡みつくように真の身体の一部を咥え込み包み込む、その同じ頭の下についた腕、か細いのに意外に力のある指が、赤い紐やベルトを彼女自身の一部のように支配し、真の首に絡みつく。
 下半身と上半身を同時に締め付けられる異様な快感。

 りぃさ。
 実際にその名前を呟いていたかもしれない。彼女の中はあまり濡れているようではなかったが、暖かく、狭く、真を締め付けて、どこかへ連れて行こうとする。

 だが、愛していたわけではなかった。狂うほどに求め合っていたのに、あれが愛だったとは思えなかった。愛が何かも分からなかった。好きだったかさえ、記憶がはっきりしない。たとえ結果はどうであれ、美沙子の事は好きだったという確信はあったのに、りぃさを思い出しても何も出てこない。
 一緒に死んでもいいと思っていたのに。

 あれは狂気だった。自分の中にある、死を喜んで受け入れようとする快楽に似た狂気。それを今日、あのビデオを見た時、目は見ることを拒否していたのに、どこかで異様な興奮が目覚めてくるのを感じていた。
 死体を吊り下げ、女になっていない少女を犯す男の欲望。吐き気のする悦楽と興奮。

 妹の結婚式のワンシーンがフラッシュバックのように浮かび上がる。
 この結婚にいかにも不満があるように、他人に思わせるな。二次会に出て、それから、気が向いたらマンションに来い。

 そう言って、涼子の身体を抱くように式場から出て行った男の後姿。
 くすんだ金の髪と穏やかな青灰色の瞳。
 自分をりぃさという狂気の具現に向かわせたきっかけが、その後姿だったということを、ずっと認められないでいた。

 あれはアッピア街道の石畳の彼方に見た影だ。まるで自分自身を見るように、哀しく穏やかな瞳で彼を見つめていた影。
 彼は影に問うた。
 主よ、どちらに行かれるのですか。
 もう一度、十字架に架けられるために、ローマに。

 ローマの教会の地下にある古い礼拝堂。小さな明り取りの窓、立ち並ぶ柱を浮かび上がらせる天の光。壁から降ろされた絵、その前で恍惚と絵を見上げている横顔。
 立ち竦んでいる真を振り返り、おいで、というように手を差し伸ばす。抱き寄せられるように一緒に石の床に座り、絵を見つめる。

 十字架から降ろされるイエス・キリスト。その手のひらに残る打ち込まれた杭の瘢。
 彼の右手。

 ふと抱き寄せてくれた右手を見ると、その手が掴んでいる真の白いシャツに、赤い血が滲んでいた。血は徐々にシャツを真っ赤に染め、恐怖に駆られて真が隣の男を見ると、もう彼には実体はなく、その影はさらさらと崩れて空気に散らばった。後には赤い血の背景が散らばるばかりで、その血の色はまた別の血に重なっていく。

 幼い少女を飲み込む黒い男の欲望。
 実際に血の臭いが鼻の中に充満しているような気がした。寺崎の血の臭いかも知れないし、別のものかもしれなかった。

「どうして泣くの」
 責めているような、慰めるような、あるいは何の感情も介さない声だった。
「ごめん」
「どうして謝るの」
 返事ができなかった。それからふと志穂の顔を見ると、泣いていたのは彼女の方だったのか、と思った。

 志穂は真を上から覗き込み、それからゆっくりと真の隣に身体を寄せた。
「小松崎りぃさ、って人の事を聞かせて」

 真は突然現実に戻された気がした。崩れていった竹流の幻や幼い少女の犠牲に比べたら、りぃさはよほど現実の、思い出してもまだ耐えられる対象だった。
 それは単に、失ってから流れた時の長さによっているのかもしれない。

「誰から聞いたんだ?」
「田安さんが言ってた。女に入れあげて身を滅ぼす男がいるけど、あれは女の自殺願望に引きずられて、自分もそうだと思い込んでいただけだって」

 真は返事をしなかった。志穂も暫く黙っていた。
 隣にいるのに、何故か志穂からはぬくもりを感じなかった。りぃさと繰り返し繰り返し求め合っていた時と同じだった。
「愛してたの?」
「よく分からない」真は今度は素直に答えて、問い返した。「君は? 新津圭一を愛していたのか?」

 志穂はその巻き返しに一瞬身じろぎしたようだったが、やがて小さな声で答えた。
「そうよ。尊敬していたの。いつもたてついてばっかりだったけど、心の奥では早く私の気持ちに気が付いて、って思ってた。でも、子供を愛していて、入院している奥さんのことも大事に思っている人だった。だから、自分の気持ちを抑えることもできた。それなのに、香野深雪と付き合うようになった。彼が香野深雪に深入りしていく様子をずっと側で見ていたわ。男が女にのめり込んで、身を滅ぼしていくのはこういうことなのかと思った」

「君が、あの記事を書いたんだろう? あの記事を読む限り、強請られていたと思われる何人かの政治家の顔が思い浮かぶ。澤田顕一郎を追い落とすためか。それが香野深雪にも影響すると思ったからか」

「澤田にとってあの女がどういう存在なのか、彼女に何かあれば彼がどうするかということには興味はあったわ。でも、追い落とすのが目的だったわけじゃない。それに、私が記事を書いた出版社は不渡りを出して倒産した。もう誰も新津の件には触れなくなった。でも、香野深雪は澤田を疑うと思った。あの女は両親の自殺以降、新潟には帰っていなかったはずだけど、自分の両親と同じように、首を括って新津が死んだ。自殺するはずじゃないと、彼女が信じていた男が。香野深雪が澤田を疑うかどうか、確信があったわけじゃないけど、彼女の中に澤田への疑惑が生まれてもおかしくないと思った。澤田顕一郎が何故自分を援助してくれるのか。案の定、彼女は糸魚川に行った。自分の両親を自殺に追い込んだのが、記者時代の澤田顕一郎の告発だと知ったはずよ」

 志穂が淡々と語る声が、次第に真を落ち着かせていった。
「君は田安さんと澤田の関係を知らなかったのか」
 志穂は少し躊躇っているような気配だった。真が志穂の顔を見ると、彼女は天井を見つめたままだったが、その目に少しだけ光るものがあったように見えた。

「澤田が田安さんの葬儀をすると知ったとき、正直びっくりした。田安さんは殺されたの?」
 今度は志穂のほうから真に尋ねた。
「そうだと思うけど、今度の件に関わっているのかどうかは分からない。新津圭一は、本当に澤田を脅迫していたのか?」
「誰を脅迫していたのかは分からない。だって、相手の名前はどこにも残っていなかったのよ。完全に抹消されていた。新津の残していたはずの手帳も、メモも、そういったものの一切が」

「だが君は、新津圭一が脅迫していた相手が澤田と、幾人かのそれらしい政治家ということにして告発した」
 志穂は答えなかった。
「もうひとつ、聞いてもいいか」
 彼女は全く動かなかったが、真は先を続けた。
「本当に、君は香野深雪の妹なのか」

「どうして聞くの?」
「君が、彼女と血が繋がっている気がしない」
 真の側で、志穂が咽の奥で笑ったような気がした。
「セックスしてみて分かったってこと?」
「馬鹿な」

 言葉では否定したが、確かにそういう一面はあったのかも知れない。
 志穂はむしろ、真に深雪ではなくりぃさを思い出させた。もちろん、ある女とある女に共通項があると思うのは、その女をよく分かっていないからに違いない。すっかり似た女などどこにもいないのだから。

 だが、自分にとって香野深雪という女が特異な存在であることだけはよく分かっていた。
 彼女ほど男としての真を昂ぶらせる女はいなかった。湿っぽく暖かく、彼女の中に入ると、自分の男としての何かが強く刺激され、全部をこの女の内に吐き出してしまいたい衝動に駆られる。
 女の体を生物の雌として感じ、子孫を残すために雄が持つ生殖行為という欲求の存在を、あるがままに受け入れられるような気がする。

 志穂はまた少し笑った。
「私もよく分からない」
「分からない?」
 志穂は身体を起こした。そのまま上から真を見下ろす。胸だけは豊かだったが、全体には痩せている。短い髪は抱き合った熱のためか、乱れて額に張り付いていた。志穂の頭の上、天井の鏡の中で、幾つもの彼女が重なり、散らばり、どれが現実なのか分からなくなる。

「どうして香野深雪の男ばかり好きになるのかしら。もしかして、やっぱり血が騒ぐのかしら、ってそう思ったけど」
「新津圭一はともかく、君は深雪と付き合っていると知って俺に近付いたんだろう? それは、好きになったとは言わない。そう思うように自分の気持ちを追い込んでいる。違うか?」

「じゃあ、あなたは? 小松崎りぃさの身代わりに香野深雪を好きになったの? それともやっぱり香野深雪とは身体だけの関係で、秘書の柏木美和が本当の恋人なの? でも彼女は北条仁の女でしょ。それとも、それはみんなまやかしで、あなたが本当に愛しているのは、全く別の人間?」

 真は暫く、志穂の顔を見つめていた。あなたの秘密はみんな知っているのよ、というような彼女の目には、真の心の奥にある複雑で重い塊を捻る力があるように思える。
 その目が、距離感を一切狂わせながら、視界いっぱいに散乱している。

「それなのに、あなたは他の女を、それぞれちゃんと愛しているって自分で思い込もうとしている。小松崎りぃさがどういう女だったかは知ってる。十代でAVに出ていた。麻薬を使ったり、ヤクザ絡みでも、何回も補導されている。それをあなたの妹の旦那の家が、名誉に関わるからって全て金を積んで握りつぶしていた。彼女はあなたの親友の従姉で、しかも不名誉な出生で、そのせいかどうか、いつも死にたがっていた。あなたが彼女と付き合ったのは、妹を取られた腹いせ? あなたの妹は本当は従妹で、あなたたちは結婚してもおかしくなかったわけでしょ。親友に讓って、いざ結婚ということになったら惜しくなったの? だから、あなたは自分の親友が困るようなことをしてみたかったの?」

 真は、この女は自分に対してどういう憎しみを抱いているのだろうと思った。
 葉子の事は、もう自分の中ではけりがついていた。りぃさの事をなかったことにしてしまえないのは、他の理由だろう。初めてりぃさと寝たのは、まさに葉子の結婚式の日だった。だが、それは葉子を妻に迎えた男への嫉妬ではない。

 妹のウェディングドレスのデザイナーが装っていた、控えめで艶やかな紫のドレス。他の誰かが着たら蓮っ葉で下品に見えるような危うい色合いが、彼女に纏われると上品で高貴にさえ見えた。その女の腰に優雅に腕を回した男の左手。薬指に光る銀の指輪に装飾された荊と紋章。

 あの指輪を外すのは、男が修復作業の際に大切な美術品を傷つけないようにするためだ。彼の手が女よりも大事に扱う絵画、障壁画、屏風絵、教会や寺院の装飾品。

 だが、あの夜。
 真が望んだからだが、彼は指輪を外した。

 これが気になるか?
 そう聞かれて、真は首を横に振った。嘘だった。あの指輪が何を意味しているかは知っていた。ヴォルテラの後継者である印。それは彼という人間を、この世でも天からでも、見分けがつくように区別するための印のように思えた。

 この女に何かを説明することなどできない。自分でも本当の答えを知らないのだから。だが、今特別に志穂に対して憎いとか鬱陶しいとかいうような感情は、湧いてこなかった。

「新津圭一のことを教えてくれ」
「新津圭一の何を?」
 真は目を閉じて、鏡に散らばる幾つもの自分と志穂と、それに連なる幾多の人の影を消し去った。
「どんな男だった?」

 少しの沈黙の後、いくらか離れたところから志穂の声が聞こえた。
「あんまり見栄えがいい男じゃなかった。背もそんなに高いわけじゃないし、太っていたわけでも痩せていたわけでもなかった。体だって、別に鍛えていたわけでもないし、どこにでもいるような人。目は少し茶色がかっていた。唇だけはちょっと色気があって、声が良かった。低くて、近くで囁かれると、いい気持ちになるような。記者としては」

 一旦、志穂が言葉を切った。真は目を閉じたまま待った。
「最高の男だった。真実を突き止めたいという強い意思を持っていた。同僚には優しかった。優しすぎるんじゃないかと思うくらい。女には」

 志穂がもう一度言葉を切り、真はふと目を開けた。志穂は真を見つめていた。
「仕事としては付き合っても、のめり込むような男には思えなかった。香野深雪だけがどうして違うのか、それはあなたの方がよく知ってるんじゃないの?」

 真はその問いには真摯に答えてやらなければならないような気がした。しかし、上手く言葉は見つかりそうになかった。
「深雪は哀しい海のようだから」
 思いつくままを言ったが、自分でも何を言っているのか分からなかった。

「海?」
「男は、自分が女から生まれ出てきたことを知っている。でも男には新しい生命を生み出す力はない。生命はずっと昔に海で形を作った。幾つもの原子、粒子、エネルギーが形を成し、生命になった。そういう記憶を誰もが遺伝子の奥に持っていて、脳の一番深いところに眠らせている。深雪を抱いていると、彼女の中の海に、そういう記憶が蘇る気がする。生物としての自分に返るような気がして、それがたまらない肉体の快感になって跳ね返る」

「それは、ただ香野深雪が名器の持ち主で、彼女の中に入ると気持ちいいって話を、美化して言ってるだけ?」
 真は何故か素直に答えた。
「そうかも知れない」
「あなたが、香野深雪を愛しているようには思えないもの」

 真は黙っていた。深雪を抱いているときだけに感じることのできる何かを、他のものに譬えることはできない。
「香野深雪に会いたい?」
 真は、ぼんやりとしていた頭に強く刺激を受けた。

「どういう意味だ? 彼女の居場所を知っているのか?」
「知らないけど、行きそうな所は見当がつく」
「どういうことだ?」
「彼女がようやく自分の記憶を辿り始めたとしたら?」
「記憶?」





もう少し会話は続きます。
あと2話分で、15章そして第2節が終わりです。
そうしたら、登場人物紹介が待っていますよ(*^_^*)

Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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【雑記・本】 科学は暗闇を照らす1本の蝋燭 



私がまだまだ若かりし頃、今みたいに科学番組は多くなくて、この番組を見た時は本当に衝撃でした。
カール・セーガン博士のCOSMOS……
宇宙、生命の起源、人類へ繋がる道……今ではありがちな内容ですが、あの頃は本当に科学的・知的好奇心を満たしてくれる唯一の番組だったかもしれません。

カール・セーガン博士は、「ホンモノ」の科学者さんたちからは宇宙のセールスマンと揶揄されていましたが、私は一般の人々に科学の面白さを宣伝して回ってくださった功績は大きいと思います。
ちなみに私、セーガン博士が京都に来られた時、講演を聞きに行きました(*^_^*)

博士の本は、今でも私の宝物で、いずれも何度も読んだ跡があります。
これは博士の晩年の本ですが(遺作は公私ともにパートナーであったアン・ドルーヤンとの共著)、日本語と英語のタイトルは結構違う印象。

日本語:人はなぜエセ科学に騙されるのか
英語:The Demon-Haunted World~Science as a Candle in the Dark~


邦題って、内容を端的に表しているとも言えるけれど、もうちょっとかっこよく言って欲しいと思ったりします。
この本では、科学する心=懐疑する精神と不思議さに驚嘆する感性があれば、とんでもないエセ科学話には惑わされないということが書いてあるのは確かなのだけれど、それにしても。

さて少し言葉を拾ってみます。

「権威者の言うことは信用するな」というのは、科学の偉大な戒律のひとつである。権威ある人物の意見が、目を覆うような間違いだったというケースはあまりにも多い。科学の世界では、権威があろうとなかろうと、何かを主張するからにはきちんとそれを証明しなければならない。

科学がいざなう先にあるのは、ありのままの世界であって、世界はこうあって欲しいという願望ではない。

科学が上手くゆくのは、エラー修正機能が組み込まれているからだ。科学には問うてはいけないことなど何もない。聞くのがはばかられるような微妙な問題もなければ、冒すべからざる神聖な真実もない。科学は、新しいアイディアに対して心を開くと同時に、どんなアイディアも疑いの目で厳しく調べ上げ、それによって価値あるものとそうでないものを選り分けていくのだ。ここでは頭の良さも人柄の良さも関係ない。誰であろうと、専門家の厳しい批判の前で自説を証明しなければならないのだ。

科学は精神性と矛盾しないばかりか、深いところでは精神性を生み出す源だ。人が空間と時間の中で自分の位置を認識する時、あるいは生命の複雑さや美しさや精妙さを理解する時、そこには喜びと謙遜の入り混じった感情が生まれる。


科学は決して特別なことではなく、日常生活におけるあらゆることに関わっています。
だからこそ、我々はもう少し疑い、検証し、確かめていく姿勢を忘れないようにしなければならないんですね。
私たちの生活を便利にしてくれている科学のありがたさはしみじみと感じつつも、これは本当にいいものか、よく問いかけてみないといけないのだと思うのです。


また機会があったら、少しずつ、言葉を拾っていきたいと思います。

おまけです。夏の色をお楽しみください。
まずは百日紅、三色。
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ハイビスカスと、ヘブンリーブルー(朝顔)。
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リアル仕事が忙しくて、ゆっくり推敲する間がなく、【死と乙女】と【海に落ちる雨】がちょっと遅れていますが、明日~明後日、またアップしてまいります(*^_^*)

Category: 本(ご紹介・感想)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(6) 

【迷探偵マコトの事件簿】その8.魚釣り編 海の事件簿
このシリーズも単なるシーンから始まり、一応(?)ストーリーっぽくなってきました。8作目です(^^)
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(イラストは小説ブログ「DOOR」のlimeさん。limeさん、このイラスト、表紙にさせていただきますね(*^_^*)(*^_^*))

あまりにもリアル仕事が大変で、更新が滞っておりますが、掌編だけは書いてみました(*^_^*)
というよりも、ウゾさん(ブログ:百鬼夜行に遅刻しました)の記事のコメントにあった、「魚釣りをするバージョン」話題についつい反応していまい……
→→ウゾさんの関連記事

私が書いたということは、その後、ワトスン君も、limeさんちのナギ・ミツル兄弟も、魚釣りに行くかも??

*連作掌編ですが、これまでのものを読まれていなくても、なんの問題もありません。
 内容はあさ~く、なにより楽しむことを前提にしてありますので、気楽にお楽しみくださいませ。
 なお、ねこの一人称ですので、かなり地の文を端折っております。
 想像力を駆使してご自由な世界でお読みください。

<登場人物>
マコト:一人前になりきれない、でもオトナだと言い張るツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。
タケル:ちょっぴり(かなり?)Sなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。




【迷探偵マコトの事件簿その8.マコト、海の事件簿】


[Scene1] マコト、海釣りに行く

今日はタケルとお出かけなんだ~♪
……別に、喜んでるわけじゃないけどね。

でもね、あのね、ナイショだよ。
この頃、ちょっとだけタケルが優しいんだ。
ドライブにも連れて行ってくれるし。
もういっこのナワバリにもよく出かけるし。
もちろん、シュクテキと運動会、じゃなくて、たたかわなくちゃならないけど。
ぼくもだいぶコツを掴んだんだよ。
だから、たまにシュクテキのしっぽを踏んづけてやることもできるんだ!

でも今日はふたりきり。
海釣りに行くんだよ。
釣り、楽しいんだ。
ぼくもちょっとだけお手伝いするの。
タケルが釣り上げたさかなが逃げそうになったら、捕まえて押さえとくんだ。
ちゃんとご褒美に、ぴちぴちのおさかな、もらえるし。

海の風、気持ちいいね。
タケルはさっそくナワバリを確保して。
エサのミミズ、くっつけて。
海に投げ込んだ糸が、キラって太陽に光ったよ。
キラキラ。
キラキラ。
……綺麗だね。

ぼくはおさかなが釣れるまでの間、かげふみ遊び。
タケルからあんまり離れないようにして、遊ぶんだ。

……今日は、他にもおさかな釣ってる人がいるよ。

向こうにいるのは男の人。
ねこに取り囲まれてるね。
キジトラだけど白いとこが多いねこ、ぼくと同じ茶トラだけどお腹は白いねこ、まっ白なねこ、真っ黒のねこ、三毛猫。
5匹もいる!
ねこたち、すごい、ガンミしてる。
さかな、寄こせ~~~って感じ?
男の人、汗かいているよ。大変そうだね。
あ、キジトラしろねこと目が合っちゃった。
タケルの後ろにかくれよっと……

あっちには男の子のきょうだいかなぁ。
でも、釣竿を持ってるのはひとりだけ。
もうひとりは、なにしてるんだろ?
じ~っと海を見てる。
あ、その子が見てるところで、とつぜんおさかなが跳ねた!
……あ、また。
今度はもっと飛び上がった!
え? え?
ね、ね、タケル、見た?

……見てないね。

ま、いいか。
ぼく、タケルの側でまってる。

あ、糸がぴーんって。
わ~、おさかなだね!
青い空で、糸が光って、おさかなが飛んでくる!
わ~い。

タケルが始めにぼくにくれた!
あ、向こうの5匹のねこがいっせいにこっち見たよ!
早く食べよっと!

タケルはぼくのあたまを撫でて、それからまた釣りを再開。
ぼくは、おさかな、いっしょうけんめい食べるんだ。

……本当は生のおさかなよりも、タケルのねこまんまのほうが好きなんだけど。
タケルがくれたからね。
食べられるところだけ。

ふがふが。
はぐはぐ。
あ、ほね。
ぺっと出して。
ふがふが。
タケルが捕ってくれたおさかな、やっぱりおいしいね。

ん?
何か視線が……

ピンクのリボンを付けたまっ白な毛の長いねこが、こっち見てる。
すごくきれいな女の子。
目が合ったら、つーんと目をそらした。
なんだよ。

側には、白いパラソルをさした髪のながい女の人。
……にっこり笑って、タケルに話しかけた。


[Scene2] 海のおさかながいい

タケルはいつもよりずっと早く釣りをやめちゃった。
お片付けしてる。
……どこか行くの?
白いパラソルの女の人と、まっ白な毛長ねこ。
いっしょにお出かけするみたい。

ぼくもついて行く。
どこ行くの?(にゃぁ?)
タケルの横を歩いて、聞いてみたけど、女の人としゃべってて、ぼくのことは無視。

……

パラソルの女の人に抱っこされた白い毛長ねこが、ぼくを見下ろしてる。
……暑いなぁ。

……

海辺のとてもおしゃれなレストランにやって来た。
白いパラソルの女の人は、お店の人と知り合いみたい。
タケルはずっと楽しそうに女の人と話してる。
女の人の足元には、ピンクのリボンを首につけた白い毛長ねこ。
目が合ったら、またツン、と目を逸らされた。

なんだよ。
女って、分かりにくいんだから。

タケルと女の人のところにごはんが運ばれてくる。
すごくきれいにお皿にごはんが並んでる。
お店の人は、ぼくと白い毛長ねこにも、ねこ用のごはんをくれる。

……ねこのごはんなのに、お皿にきれいに並べてある。
みるくのソースがかかったおさかな。
ちらっと見たら、白い毛長ねこは少しずつゆっくり食べ始めてた。

……ぼくは……

見上げたら、タケルは女の人の話をいっしょうけんめい聞いてあげてる。
すごくかっこいい笑顔で。
白いパラソル女、くちびるが赤すぎ。
お酒の赤い色みたい。

ぼくは、ぼくのお皿を見る。
きれい盛り付けられたごはん。
白いミルクソースのかかったおさかな。
ぼくはちらっと白い毛長ねこを見て、それからちょっとだけミルクソースを舐めてみる。

……

白い毛長ねこは少しずつ舐めながら食べてる。上品に。
あんな食べ方、おいしいのかなぁ?
白いパラソル女はタケルのほうに乗り出して来てる。

……

……これ、やっぱり、おいしくない。

さっき、タケルがくれた、ぴちぴちのおさかなのほうがいいや。

……

……なんか、つまんない。

ぼくは、お店のドアが開いた瞬間、そのドアをすり抜けて外に出た。


[Scene3] うちに帰ろう

外は明るくて、ちょっと暑い。
ぼくはとぽとぽ歩いてた。
さっきの海の近くに戻ろうかな。
他のねこもいたし。

……でも、ぼく、ひとりでお出かけしたことないし。
ここ、知らないし。
車の道、熱くて、足の裏が焼けそう。

きーーーっつ!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

耳の中を裂くみたいな音!

ぼくは一瞬、頭が真っ白になった……

……

……

あれ?

何だか体が浮いてる……
空を飛んでる?
ぼく、死んじゃったのかなぁ?

あったかい……
トモダチの上に乗っかってるみたい……

……

……

誰かが何かを叫んでる。
知らない人の声。すごく怒ってる。
……それから、タケルの声?
死ぬときって、いろんな声が聞こえるんだなぁ……

……

……

あれ?

ぼくは頭をふった。
タケルが珍しく、大きな声で話してる。
クルマの中にいる人も何か叫んでる。
やっぱり怒ってるみたい……
でも、タケルも、すごく怒ってるみたい。

そのうち、車の中の人がキレて、ドアをばん!と閉めて走り去った。

ぼく、車にひかれ掛けたみたい……
でも、どうしてタケルは怒ってるんだろう??
ぼくが勝手に出て行ったから?

それからタケルは、白いパラソル女と、白い毛長ねこのいるお店にもどって。
もちろん、ぼくを連れて。

でも、何か話をして、お金払って、すぐにお店を出た。
白いパラソル女と、白い毛長ねこを残して。
……ぼくだけを連れて。

タケルは何にもぼくに言わない。
でも、いつもよりぎゅっと、強くぼくを抱き締めてて……

あの。
……ちょっと苦しいんだけど。

ぼくはもがいてみる。
そうしたら、タケルはよけいに強くぼくを抱き締める。

……苦しいんだけど。

……ま、いいか。

タケルは海の側に戻って、くるまのドアを開けて。

もう帰るの?

……うん、今日はぼくもおうちがいいな。
崖のところに行くテレビ番組、見ようよ。

車の窓から外を見たら、5匹のねこはまだ並んでじーっと一人の男の人を囲んでいる。
ふたりの男の子は並んで海に向かってる。
その子たちの真ん前の海から、急にさかなが飛び出してきて……
きらっと光って……陸の上で跳ねた!

ね、ね、タケル、見た?
あの子、釣竿、持ってないんだよ!

ぼくはタケルを見て話しかけてみたけど。
タケルは気が付かないままで……

くるまが動き出した。

ぼくはタケルの横顔を見て、それから助手席のシートに丸まった。

……クーラーの中で、おさかなが跳ねてるみたいな音が聞こえる。
おうち帰ったら、それ、ねこまんまにしてね。


タケルの手がそっとぼくの頭を撫でた。




マコトはぼーっと歩いていて、車に轢かれかけたのですね。
でも、車を運転していた人も、彼女とデート中で前を見ていなくて、ちょっと危ない運転をしていた。
マコトが出て行ったのを追いかけてきたタケルがそれを見ていて……
マコトに怒って怒鳴っている運転手に、「お前の運転が危ない!」と怒っていたようで。

ま、マコトは分かっていないかもしれませんね。

limeさんの「メロメロに可愛がられるマコト」まではいきませんが、結構可愛がられているみたい…?
でも、ブラックでSなタケルがやっぱりいいかも……^^;


お楽しみいただけたなら幸いです(*^_^*)

週末なのに、今週末は平日みたいに働いている……
もちろん、平日のお休みはないまま……
庭掃除もできないまま……

でも、来週末は、初めて大阪にやって来る光一くんのSHOCKと、B'Zのライヴ!
さ来週末は、出張で熊本なので、ついでに(やっと)夏休みを数日とりました(*^_^*)
佐賀の巨石パークと、装飾古墳、大分のストーンサークルや巨石群を見に行く予定。
それまで頑張るぞ!



Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【猫の事件】迷探偵マコトの事件簿(5) 

Stellaタグ →Stella/2013/9月号
月刊Stella 2013/9月号参加 掌編小説
2223Hit記念 八少女夕さんリクエストにお応えして……


遶ケ豬√→迪ォ・狙convert_20130629112022
(イラストは小説ブログ「DOOR」のlimeさん。limeさん、重ね重ねありがとうございます(*^_^*))

掌編小説ですが、今回はいささか力が入ってしまいまして、少し力作(長さだけ^^;)になってしまいました。
「竹流が性懲りもなく犬を連れてきた」というのが頂いたお題。
以前、猫のぬいぐるみを2回にわたり持ち帰り、マコトの怒りを買っていたタケルですが、今回は本物の犬を連れてきたようで……さぁ、どうする、マコト。

連作掌編ですが、これまでのものを読まれていなくても、なんの問題もありません。
さらに、あまりブンガク的なものでもありませんので、気楽に気楽に、お楽しみくださいませ。
なお、かなり地の文を端折っておりますので、想像力を駆使してご自由な世界でお読みください。

参考までに、これまでのお話は→【迷探偵マコトの事件簿】(1)~(4)

<登場人物>
マコト:一人前になりきれない、でもオトナだと言い張るツンデレ猫。大きくなったら豹になるつもり。
タケル:ちょっぴり(かなり?)Sなマコトの飼い主。趣味はマコトをおちょくって遊ぶこと。




【迷探偵マコトの事件簿その7.マコト、ちょっぴり切ない事件簿】

[Scene1] マコト、シュクテキに出会う

あ、タケルだ。お帰り!
……っと、ウカツにもお迎えに行くところだった。
ぼく、猫だもんね。それにちょっと大人になったから、もう嬉しがってお迎えなんかしないんだ!

知らん顔で寝とこ……ん? なんか、ニオイが……

ちらっ。(片目でチラ見カクニン……)

……?

……え?

え~~~~!?

ぼく、慌ててソファから飛び降りて、部屋の隅っこに逃げ込んだよ。
だって、タケルが、なんかでっかくて黒い化けものを持って帰って来たんだ!

う~~。

そいつ、なに?
何か、唸ってる?
何なの!? 睨んでる~~!

でも、タケルはそいつをヨシヨシしてるんだ。
そいつ、無茶苦茶目つきが悪いよ!
ね、タケル、そいつ、ぼくを狙ってるよ!

わん!

げっ!!
ぼくは慌てて逃げた!
タケルの後ろに回ったけど、そいつは追いかけてくる!
わ~~~、タケル、助けて~~

って、知らん顔ってどういうこと??

こ、こんな時に何だけど、こいつ、いわゆる犬ってやつ??
は、初めて見たよ~
時々、テレビで見る、ハンニン追っかけて捕まえる、あれ?
わ~、こ、こわいよ~~、追いかけてくる~~!!
ぼく、何もしてないよ~~~!

ぼくは必死で逃げ回んなくちゃならなかった……のに。
タケルったら、そいつを優しく抱き止めて、おフロに連れてった。
覗きに行ったら、綺麗に洗ってやってるんだ。
犬のやつ、ぼくに気が付いて、ギロって睨んだ~~!

その日から、ぼくと犬、いやシュクテキの戦いの日々が始まった!
タケルはいっつもそいつをヨシヨシって大事にするんだ。
サンポとかにもふたり(?)で行っちゃうし、ぼくは置いてけぼりだし。

夜も、タケルはそいつと寝るんだ。
なんだよ! あっち行けよ!

毛を逆立てて唸ったら、唸り返される。
飛びかかったら、捕まって、首を噛まれる。
ぼくはもがいて必死に逃げた!
タケル、ぼく、このままじゃ死んじゃうよ~

ついにぼくは切れて、そいつが寝てる時、胴体にジャンプして体当たり攻撃してやった!

と、思ったら!
わ~~~~~、追いかけてくる~~~~~!!!!!!!
怖い~~~~~~~~!!!!!!

あ……。

……う。

お、おもらししちゃった。

……

もう、子どもじゃないのに……
げっ。タケルが起きてきた。
ぼく、あわてておもらししたところを隠すべく、その上に座ってみたけど……

タケルに首根っこ、つままれちゃった。
……しゅん。
……ごめんなさい。

黒いお化け犬はまだ唸ってる。
タケルは犬の頭を優しくなでてやってる。
ぼくは首根っこ、掴まれたまま。

なんで、ぼくよりそのお化け犬、大事にするの?

ぼく、家出してやる。

……

……って、ぼく、自分でドアも開けられないんだった。

次の日。
タケルはそいつとサンポに出て行った。

……それで、タケルだけが帰ってきたんだ。


[Scene2] マコト、初めてのトモダチ

ぼく、ちょっと嬉しかった。
シュクテキがいなくなったんだもん。
タケルの横で寝れるしね。
あ、もう、おもらししないよ。

あ、タケルが帰ってきた。
……でも、お迎えは行かないもん。
ぼく、オトナなんだ。

……あれ?
また、変なニオイが……

ちらっ。

……

……

何だか、ずいぶんムードが違うけど、それも、やっぱり犬、だよね?

何だよ、また、別の犬、連れて帰ってきたの?

今度は、白、というよりちょっと茶色がかった汚い毛で、体に濃い茶色と、薄い茶色のブチのある、すごくおっきい犬。
タケルは、そいつをまたおフロで洗ってやって、それから毛をつくろってやって。
ごはん作ってやって。
何か、赤ちゃんのごはんみたいな、どろどろの。
それから、やっぱりヨシヨシしてやってる。

ぼくがいるのに。

……やっぱり、家出する~~~!
ぼくは玄関まで走ったけれど……あ、そうだった。
ぼく、自分でドアを開けられないんだった。
……家出もできないなんて。

……なんか、みじめ。

タケルが出かけてる間に、ぼくはそいつに唸ってみた。
でも、そいつは唸らないんだ。
チラって、ぼくを見て、それから寝ちゃった。

ぼく、そいつにちょん、って触ってみた。
でも、そいつはちらっと僕を見て、やっぱり寝ちゃった。

ぼく、そいつに飛びかかってみた。

わ、ぽわって、はねる。
ふかふかしてる!
ちょっとしょぼくれてて汚い毛だけど、あったかいよ。

そいつはちらっとぼくを見て、それからちょん、ってぼくの頭におっきな手を乗っけた。
ぼくはそいつのお腹の横に引っ付いてみた。
動いてる。
ふわんふわんだ。

今度は上に乗っかってみた。
わ、お腹が動いてる。
上がったり。
下がったり。
で、ぼくはその上でちょっと転がってみたり。

あ、落ちちゃった!

そいつはむくりと顔を上げてぼくをさがして。
それからぼくを見つけると、ちょっとほっとした顔をして……また寝ちゃった。

……
ぼくも眠くなっちゃった。
わぁ。タケルの横で寝てるみたいだね。

そいつはサンポに行かないんだ。
ほとんどずっと寝てるし、びょうきなのかな。
ごはんもあんまり食べないし。
ぼくのねこまんまの方がおいしいかもよ。
ちょっと分けてあげたけど……やっぱり、ねこのごはんはいらないみたい。

タケルはそいつのためにベッドを作ってやった。
ぼく、お手伝いしたよ。
タケルが木を切ってる上に乗っかって、押さえてあげたんだ!

タケルがいない間は、ぼくがそいつの毛づくろいをしてあげるんだ。
そのかわり、そいつはぼくをおっきな体の上に乗っけてくれる。
上がったり。
下がったり。

……上がったり。
……下がったり。

あ、落ちちゃった。

ぼくはよじ登る。
……上がったり。
……下がったり。

……下がったり。

……

上がったり……? しない?

……ね。
寝ちゃったの?

ぼくはそいつの顔を、おっきな身体の上からのぞいて見たんだけど……

……

……上がらないし、……下がらない!!

わ~~~~!!!!!
タケル、タケル、タケル、タケル!!!!!
どこ? どこ~~~!?!?
タケル~~、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!

……

……それから、ぼく、あんまり覚えてないんだ。
タケルが帰ってきて、全然動かないそいつを大事に抱っこして、どこかに連れてった。
ぼくは、いっぱい引っ掻いちゃったドアのキズを見てた。
だって、ぼく、自分でドアを開けられないんだ。

開けることができたら、初めてのトモダチといっしょにおサンポにも行けたのに。
開けることができたら……もっと早く、タケルを呼びに行けたのに……

そうしたら、ぼく、トモダチともっといっしょにいれたのに。

……ぼく、……ぼくね……
あのね、タケル……、あのね……


[Scene3] シュクテキ、再び

またタケルとふたりぼっちになったよ。
もちろん、ぼく、うれしいよ。
ねこまんまもおいしいし。
夜寝る時は、タケルの横であったかいし。

タケルは一回だけ、でっかいぬいぐるみ(もうぼくはだまされないんだ! ニオイがなくて、動かないのはぬいぐるみ!)の犬を持って帰って来た。
でも、なんか、やなんだ。

色もよく似てるけど。
においはしないし……
上がったり下がったりしないし!

がぶっ!
がぶ、がぶっ! しゅぴっ!
ぼくは、なんかやっぱりイヤんなっちゃって、引きちぎっちゃった。

タケルは帰ってきて、不思議そうな顔してぼろぼろのぬいぐるみを見てた。

……トモダチ、いなくなっちゃったのに。
それなのに、よく似たやつがいるのはヤなんだ。
だから今日は、ねこまんま食べて。
オフロ入って。
それから、タケルといっしょにテレビを見るんだ。

いつも最後は崖にいく番組をやってる。
これ、けっこう好きなんだ。
海が映るから。お魚がいっぱいいる海。

……あ。
思わずむくって頭を上げちゃった。

シュクテキだ!
ぼくは戦闘態勢に入った!

タケルがまた不思議そうにぼくを見る。

あ、そうだった。この箱の中には誰もいないんだった。
ニンゲンも、イヌも、ネコも。
海も本物じゃなくて、お魚も泳いでないんだった。

……なんだ。ホンモノのシュクテキじゃないんだ。

……

……シュクテキ、どうしてるのかな。
トモダチと同じように、動かなくなって、遠くに行っちゃったのかな。

……

ぼくはその日、シュクテキに追っかけられる夢を見たんだ。
ぼく、必死で逃げて……おもらししちゃった。

次の日、タケルがぼくを抱っこして、真っ赤なクルマに乗った。
わ~、ドライブだ~~!
ぼく、ドライブ、好きなんだ~

タケルはもういっこ、ナワバリ、じゃなくて家があるんだ。
おっきい家だよ。
木がいっぱいあって、近くに大きい水たまりもあるんだ。
風が気持ちいいんだよ。

あ、家が見えてきたね!
……何か、黒いものが走ってくるよ!

って……
そこに見えるは……

わん!

わ~~、タケル、タケル、タケル!!
シュクテキと目が合っちゃった!

わ~~~~!!!!

わん、わん、わんわん!!

わ~~~~~~!!!!!!!

わんわん!!!

わ~~~~~~~~!!!!!!!!

わんわん、わん、……う~、わんわん!!!!!!

わ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!

……

その夜。
ぼくは鬼ごっこに疲れて、タケルがベッドにやって来る前にばたんきゅーだった。

シュクテキ、パワーアップしてた。

ぼくだって。
……明日は、ぜったい負けないぞ。

……

……

ねぇ、タケル。
ぼくはきっと、タケルより先にここからいなくなっちゃうと思うんだ。

……そうしたら、タケルはさみしい?

……ぼくね、今ね、ちょっとだけさみしいんだ。

夢の中なら、また上がったり、下がったり、ぼく、落っこちたり……
トモダチといっしょに遊べるかな。

……タケルがぼくの頭を撫でてくれる。
それから、ちょっとぎゅうって……
タケルの手、おっきくて、あったかいね。


……ぼく、もう寝るね。
今日はトモダチの夢を見るんだ。

……それから。
明日はまた、シュクテキとたたかわなくちゃ!





マコトは知る由もありませんが、タケルはおそらく保健所に連れて行かれる犬をもらってきたのではないかと思われます。
最初の犬は、シェパード。もとの飼い主に虐待されて、ちょっと尖っている設定。
マコトとウマが合わなかったので、タケルはマンションではなく奥多摩にあるヤマト邸の方へ連れ帰っていました。ここでは、執事さんがいるので、面倒をみてくれています。
次の犬は、もう老犬で、もうすぐ死にそうなのに、先に飼い主(多分一人暮らしのお年寄り)に死なれちゃったセントバーナードという設定。もうあとわずかで寿命なのに、死に場所が保健所というのは憐れに思い、もらってきちゃった設定。

マコトの事件簿にしては、ちょっと重厚だったかも?
(大したことはないけど^^;)

あ、そうそう。なぜか最後は崖に行く番組、とは2時間ドラマのことです。
(って、分かりますよね……^^;)
タケルが2時間ドラマ好きという情報はありません。
多分、タケルはマコトが崖のシーンを好きらしいと思っているようです。
で、きっと、この2時間ドラマの刑事もので、警察犬としてシェパードが出てきていたのでしょう。

テレビの中のシェパードを見てシュクテキと勘違いして、で、ちょっと心配するマコト……
少し大人になったと思うのですが、いかがでしょうか(^^)

なお、時代がいささか古く、多分テレビはまだアナログだったのかもしれません。
だから、箱^^;


お楽しみいただけたなら幸いです(*^_^*)




Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【雑記・あれこれ】身体を鍛える 



*本日は【海に落ちる雨(74)】もアップしています(*^_^*)

ついつい買ってしまった健康器具ってありませんか?
腹筋グッズ、足踏み(ステップ)グッズ、レッグ何とか、はたまたランニングマシーン。
きっと買った人は多いだろうけれど、実際に使っている人がどのくらいいるでしょうか。
かく言う私、腹筋グッズを買ってみたことがありますが、粗大ごみになっています。

最近は、結構夜遅くにランニングしている人を見かけますね。
神戸も、マラソン大会が始まってから、ランナーが増えたような気がします。
坂が多い神戸ですから、結構大変な道のりでもあります。

私は気持ちが軟弱なので、運動をするのは「時間を決めて」「場所を決めて」やらないと無理なんです。
基本は誰かと約束をすること。あるいは時間の決まったプログラムに参加すること。
そして、思い立ったら、とにかくその場所に行くために家を出てしまうこと。
家であれこれ考えていたら、絶対に行かないということが分かっているので……

昨年、足を捻挫して歩けなくなった時期があり、まだいささか要リハビリなので、筋トレのためジムに通っています。歳を取ると、なかなか治りません^^;
時間のやりくりも大変ですが……
捻挫するまでは、ボクシングジムに通っていましたが、今は休憩中。
早く復帰したいけど、グローブをつけて腕を上げているだけでしんどそう……
あんなに元気だったのに。

そう言えば、最近、ふくらはぎの運動のための画像を作りました。
でも、ふくらはぎの運動って、すごく地味。
楽しくないので、三味線の伴奏でも入れようかと思ったくらいです。
でも、単にかかとを上げるだけなので(負荷のかけ方は色々あるけれど)、仕事をしながらでもできる。

そう言えば、美脚の大御所の方は、家の中でもハイヒールで生活されているのだとか。
う~ん。

流行りのロングブレス。昨日某番組でやっていたお腹凹ませダイエット。
あれも、背後霊のように美木氏がいて、いつも耳元で葉っぱをかけてくれたらできるんでしょうけれど、なかなか。
あ、でも呼吸って大事ですね。


さて、あれこれ思いつつも、少し前に購入したのがこの2点。
これなら、置いてあってもインテリア程度で粗大ごみほどでもないし、結構気楽に遊べるし、というわけです。

まずはストレッチポール。
すごい肩こりなので、これに乗っているだけで背中が伸びていい感じです。
ただ、揺れ揺れなので、あんまりやっていると軽い船酔い状態に……
眩暈もちの私には時々危険な兆候が^^;

そして最近購入したバランスボール。
これが意外と曲者ですが、乗っているだけでもいいというので、しばらくの間ポチのように傍に置いておこうと思います。
効果は…??
1年後を乞うご期待^^;

あ、でも、今一番欲しいのは青竹かも。最近土踏まずが減っているような??


……当方の物語の登場人物たち。
真は、ランニングしています。走るのは好きそうです。
築地あたりを走っていたわけです。
息子の慎一もウィーンの街を走っている……^^;
ちなみに真は、牧場育ちなので、裸馬にも乗れてしまう、まるでモンゴルの子どもです。
竹流は、スイミングと(背中を火傷してからはちょっと…)、いわゆる岩のぼり。
時代が古いので、ボルダリングなんて格好いい奴じゃないけれど。
マンションの部屋には、それこそ体鍛え用のマシンが置いてあります。




Category: あれこれ

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[雨74] 第15章 ビデオと女記者の事情(1)/ 15R・18禁 

【海に落ちる雨】第2節を終わらせようと思っています。
第15章『ビデオと女記者の事情』を全4回でお送りいたします。
転がる玉のひとつである楢崎志穂。女記者ですが、水死体で発見された元傭兵・田安隆三のところに出入りしていて、政財界のお偉いさんを脅迫して自殺した雑誌記者・新津圭一の後輩でもあった。
真に近づいて時々顔を出しては物事を引っ掻き回しているように見えますが、彼女は実は誰かを探しているのです。女なりに使える武器は使いつつ、偉そうな口も利きつつ、でも実は不安と恐怖と、そして自分の中の善意にも翻弄される。この話の中で一番複雑でややこしい女かもしれません。この多面性は、幼い頃、自分の居場所がはっきりしないまま育ったからではないかと……
どういうややこしいことに真を巻き込むか、彼女は竹流の居場所を知っているのか、第15章、お楽しみください。

なお、ここから先は、トップページに載っている間、この物語を追記の形で畳ませていただきます。
(記事が古くなったら、カテゴリから入った後、読みやすいように、戻します)
15Rやら18禁が多くなるのと、展開が、一部の人には不快であったり、拒否の気持ちをもたらすものであったりするかもしれないため、そのまま誰の目にも触れるように晒すのはちょっと問題だと思うからです。
→トップページを外れたので、戻します(2013/10/14)。

その方向へ話が行くだろうということは、以前、真と新聞記者・井出との会話でも匂っていたこととは思いますし、ヘタレの大海ですから、精一杯でこの程度かという表現かもしれませんが、何とかついてきていただけると幸いです。いずれ、私を苦しめた本をご紹介いたします。
【天の川で恋をして】であるホラーを克服する試みをしたように、これも、世界のあちこちで起こっている、恐ろしく悲しく、そして腹の立つ(などという表現では語れませんが)出来事への怒りを何とかしようと書いていたものです。
最後の結末は多分、納得よりも不満になると思いますし、どうしたらどうなるのか、何かできることがあるのか、本当によく分かりません。

少しずつ、真は追い込まれていきます。でも最後に、きっと少しだけ彼には救いがあるはず。
それは、待ち望んでいた『言葉』かもしれません。
(まだまだ先ですけれど)
では、18歳以上の、大丈夫な方だけ、お進みください……


エルグレコ1




 ビデオの背には、白い帯に赤い文字でアルファベットのNとだけ書いてあった。涼子が帰ってから、真はしばらくその赤い無機質な文字を見つめていたが、躊躇っている場合ではないと思い直し、ビデオをデッキにセットした。

 始めの十分間ほど、ビデオは砂の嵐の状態だった。音量を上げてみたが、ザーッという音だけで、何かが細工されている気配もない。
 早送りしようとした途端に、映像は突然に下から上がってきて、やがて何かふわっとしたものが映し出された。薄暗い映像で、古い映画のフィルムのようだった。フィルムに細工してあるのか、そういう撮影条件なのかは、真には分からなかった。

 始めは何が映っているのか、はっきりしなかった。
 暫くして、そのふわっとしたものが風に揺れるカーテンだと分かった。白っぽく見えるのは、実際の色なのか、曖昧な明かりのためなのか、分からない。

 隠し撮り、という印象ではなかった。それは直ぐに映像の視点が変わったことで確認された。視点が変わったのは、風以外の力で大きくめくれたカーテンの向こうの窓から、大きな長い物体が入ってきた後だった。
 その物体は窓の下方から入ってきて、床にすべり落ちた。音はなかった。
 映像は、窓の方からその物体を見下ろす視点へと変わっていた。

 一瞬にして気分が悪くなった。
 始めに映し出されたのは、足だった。足はすらりとしたスラックスを履いていた。やがて、映像はゆっくりと体を舐め上がり、ベルトのない腰の部分、白っぽいシャツを身につけている胴、濃い色のネクタイ、そして首を順番に映し出した。

 首で暫く映像は止まっていた。その理由は直ぐに知れた。
 首には何かが巻きつけられていて、その部分をアップで映し出している。比較的濃い色でやや幅のあるそれは、どうやらベルトのようだった。
 その瞬間、目が見続けることを拒否したが、そういうわけにもいかなかった。
 この死体、もしくはこれから死体になろうとしている人間の顔を確かめなければならなかった。
 だが、映像は首の部分で長く止まっていた。

 代わりに、ガタガタという音が聞こえていて、アップの首に重なる影が行き来していた。それが、首を吊る場所の準備だということは、想像に難くなかった。
 やがて映像は顔を避けるように頭の上の方に回りこみ、重いものを引きずるような音と共に移動し、ずるずると空中を這い上がるように見えた。

 少なくとも、ビデオを撮影している者、死体を移動させている者、それに重さを考えると、男の力でも一人で意識の無い者や死体を吊り上げるのは難しそうに思えるので、あるいは他にも誰か共犯者が、つまり複数の人間がこの現場にいるのだ。

 再び映像は首に固定され、さっきとは異なり、体重がかかっていくのに合わせて、ぐんぐんとベルトの端が食い込んでいく様が、延々と続いた。
 そして、ついにガタン、という派手な音と共に、ブン、と映像がぶれ、男の顔が映し出された。
 真は思わず目を逸らしたが、見ないわけにもいかなかった。
 口を開け、見開いた目の持ち主には見覚えは無かった。いや、知っている人物であっても、それが即座に誰かなどとは分からなかっただろう。

 だが、真が震える指でビデオを止めようとした瞬間を遮るように、何かの音と同時に大きく映像が動いた。
 一瞬、自分が叫んだのかと思った。

 映像が捉えたのは、まだ幼い女の子だった。
 新津千惠子だ。
 会ったことも見たこともない少女だが、頭は勝手に理解を進めていた。こういうシチュエーションがどこにでも転がっているわけがない。この死体はやはり新津圭一なのだ。
 少女の目は、死体の目と同じほどに大きく見開かれ、飛び出しているように見えた。少女は動きもせず、叫んだまま凍りついていた。

 だが、この気分の悪いビデオはこれで終わりではなかった。
 太く大きな腕が少女のか細い腕を引っつかみ、床に引きずり倒すと、声も出ないまま口を大きく開けたままの顔を、ごつく毛の多い手が撫で回すようにした。
 少女が倒された床は、父親の死体のすぐ近くのようだった。時折、何かが揺れている影が、少女の小さな体に重なった。少女の濃い色のスカートがめくり上げられ、水玉のような模様が散った下着が下げられ、細い足が思い切り広げられた。恥毛も生えていないその部分が大映しになる。やがて太い指が、濡れるはずもないその部分にねじ込まれ、ちらりと少女の腕ほどもある男のいきり立ったものが映った時には、真はこみ上げてくる吐き気を止められなくなり、寝室を突っ切って、トイレに駆け込んでいた。

 最後にどこで何を食べたのか思い出せなかったが、ろくなものは胃袋に残っていなかった。ほとんど液体ばかりの胃液を吐き出し、そのままトイレの壁に背中をつけてヘタりこんだ。
 温度も、臭いも何も感じなかった。視界までぼやけているようだった。体はどんどん冷たくなり、自分も一緒に死体になっていくような気がした。
 目を閉じると、自分の息遣いが、さっきのビデオの中で興奮した男の息遣いと同じような気がして、さらに呼吸が苦しくなった。

 瞼の内側の景色の中では、迷子になっているような小さな自分自身の影が動いていた。一人で『蕗の下の人たち』と遊んでいて、いつの間にか辺りは真っ暗になっている。
 闇に対する恐怖はなかった。
 子供の頃、闇を怖がっていた真に、アイヌの老人は優しい声で語り聞かせた。

『完全な闇というものはない。耳を澄ませてごらん。遠くに聴こえるはずだ。あれは、カムイの声、森の守り神だ。お前が正しい行いをしている限りは、お前を守ってくれる。だからどんな闇の中にも、光が全くないということはない。木の影も、山の影も、心を澄ませてみれば分かるはずだ。その温度、湿り気、僅かな星の光をはね返した光、お前は五感の全てで感じることができる。だがひとつ、完全な闇のある場所がある。それは人間の心の中だ。人間の心が造り、育ててしまう。真に恐ろしいのはその闇なのだよ』

 だから、いつも夜を怖がることはなかった。時々、首の周りに巻きつく何かの気配で目を覚ますとき以外は、自分が正しくないとは思わずにいられた。
 小さな真の唯一信じられる友人であり師でもあったアイヌ人の老人は、日本語を話したはずだが、真に語りかけるとき、彼の部族の言葉を使っていたような気がする。あえて思い出そうとしても思い出せないのに、無意識のときは、頭の中で繰り返す言葉は彼が話していたアイヌの言葉そのままだった。そして、真は日本語という他の言語を介さなくても、それをそのまま理解していた。

 がさがさという音を耳にした時、鹿かリスか狐か、悪くてクマでもいるのだろうと思った。彼らは、真が気付かないふりをしてやる限りは、向こうも気付かないふりをしてくれた。だが、その日のそれは、気付かないふりをしても、放っておいてはくれなかった。一瞬に、闇が襲い掛かってきたのだと分かった。

 記憶はずっと曖昧だった。たった今、そのビデオを見るまで、自分にそんなことがあったことも忘れていた。
それから先の記憶はカットフィルムの重なりだけだった。複数の手、太い腕、時々遠くで嘶く馬たちの声、耳元の虫の声。
 その翌々日だったか、隣に住む祖父の兄弟がやって来て、ヒッピーのような若者が数人、辺りに潜んでいて、若い娘に乱暴をして捕まえられた、という話をしていった。

 真は意識の底に沈んでいたものを突きつけられたような気がした。あるいは、これも例の側頭葉の混乱で、他人の記憶や体験が、実際のことでもないのに浮かび上がっているだけなのか。その証拠に、体には実体験の感覚がない。真は、その娘が乱暴されているところを見ただけだったのかも知れない。明らかに、その場面を離れた場所に、自分の視点があるような気もする。

 それは、ビデオを撮影している誰かの視点だった。
 だんだんわけが分からなくなってきていた。
 このままでは狂う、と思った。それが、同居人がいないせいだということは分かっていた。他人や死者の記憶が、脳のどこかに映像を結ぶ。それなのに、この混乱を掬い取ってくれる親鳥がいない。
 気持ちの悪いものが胃の中に残っていて、まだ吐き足りないような気がする。
 何度か空えづきを繰り返したが、もう何も出てこなかった。

 洗面所から出て、ふらふらとオーディオ・ルームに戻った。頭の中にあるかろうじて冷静な部分が、あれは新津圭一の『自殺』が他殺だった証拠だと、必死で自分に説得していた。
 あのビデオを安全な場所に隠しておかなければならない。
 だが、戻った真を迎えたのは、更に残酷な場面だった。
 いつの間にかカラーがかかっていたのか、画面の中の血の色だけが浮き上がるように見える。男の黒くいきり立ったものは、不釣合いなサイズの犠牲者の赤く滲んだ肌の奥に捻じ込まれていた。

 真にできたのは、コンセントから電源を引き抜くことだけだった。
 ビデオを触るのも恐ろしかった。それに、今は身を隠している状況であることも、もはや頭の中からすり抜けてしまった。何より、この部屋自体が自分を押し潰していくように思えた。


 どうやって部屋を出て、マンションの敷地を出たのか、覚えていない。
 外はまだ午後の明るさは失われておらず、うす曇りの空から雨は落ちてきていなかったが、空気に含まれる蒸気の量は増幅し、肌に気持ち悪くまとわりついた。それが自分の外部にある空気なのか、自分自身の内の水のせいなのか、境界がよくわからなかった。

 警察に捕まろうが、竹流の敵に身を晒そうが、今度こそどうでもいい気がした。足は地についていなかったし、まだ気持ちが悪かった。冷や汗が出て、指の先には温度も痛覚も、何も残っていないようだった。
 マンションを出たところは、狭い二車線の通りで、その両脇に歩道がついている。歩道には槐の木と電信柱が、それぞれ一定の間隔で並んでいる。真は槐の植え込みに足を取られ、そのまま木に体を預けるように靠れ掛かった。

 視界の隅に、大きな黒い車が入ってきた。それが、『河本』のところの誰かが運転しているものだろうと、頭の隅の冷静な部分が分析しているのも分かっていた。黒い車は、一定間隔以上は近づいてこない。時々、他の車が脇を通っていく。もともと人通りの多い地区ではないが、急いで目的地へと向かう足音が時折通り過ぎていく。

 外界を認識しながらも、まだ胃の中は戦場のようだった。
もう自分は分裂しかかっているような感じがした。
 何かのきっかけで、またぐう、と胃に痛みが走った。こみ上げてくる嘔気を処理できず、真は暖かくさえ感じる槐の幹に手をついたまま、地面にしゃがみこんだ。

 不意に、右肩にふわり、と暖かいものが触れた。
「大丈夫?」
 聞き覚えのある声だった。真は苦痛の叫びを上げている鳩尾から左脇を押さえたまま、顔を上げた。
 その相手を認識するまでに、たっぷり数分はかかったような気がする。
 この女が偶然ここを通りかかったとは思えなかった。

「あなた、真っ青よ。大丈夫なの?」
 改めてそう言うと、楢崎志穂は真の腕を握った。既に、そのときには女にも自分にも実体と幻影の区別はつかなくなっていた。志穂はふっと顔を上げ、辺りを見回した。それから真を覗き込むようにした。
「立てる?」
 頷いたのかどうか自分でも分からないまま、志穂の腕にしがみつくように立ち上がった。

 少し歩いたのだと思うが、足には力が入っていなかったし、自分の足という感じがしなかった。志穂は路駐した軽自動車の助手席側に真を立たせて、ジーンズのポケットから鍵を出した。そのまま助手席のドアを開けると、真を押し込む。
 運転席に乗り込んだ志穂は、後ろを確認して直ぐに車を出した。

 真は、現実味のない自分の声を、自分自身から僅かに離れたところで聞いているような気がした。
「マンションを見張ってたのか?」
 志穂は真の質問には直接答えなかった。車は、直ぐに四車線の大通りに出た。
「まさか素で出てくる馬鹿がいるとは思わなかったわ」

 志穂は形のいい胸を強調するような黒いタンクトップにデニムの上着を着て、綺麗な脚をジーンズに隠していた。真は志穂の足を一瞬見て、顔を上げた。志穂はちらりとバックミラーを見た。
「あの後ろについてくるのは、知り合い? 撒いたほうがいいなら、そうするけど」
 真は振り返りもしなかった。
「いいんだ。放っといてくれ」
 もうそれが警察でも『河本』でも、いっそ竹流の敵でもいいと思っていた。もしも自分を付け狙っているなら、さっさと捕まえて彼のところへ連れて行ってくれ、と思った。

「あなたの護衛?」
 志穂が何かを確認しようとしたのか、そう尋ねた。真はそう言われて、ふと顔を上げて志穂を見た。そういう言い方はある意味、適切かもしれない。
 志穂はその後、黙って運転を続けていた。時々後ろをつけてくる白いカローラを確認している。真もカーブでサイドミラーに写る車を確かめて、確かにこういう目立たない車を使うのは『河本』だろうと確信していた。勝手にしてくれ、という気持ちだった。

 体の後ろの皮まで突き抜けそうな胃の痛みはまだ去ろうとしない。冷や汗が背中を這うのが分かると、真は思わず唸るように助手席の背に凭れた。
「病院に行かなくても大丈夫? そんな恵まれた立場じゃないかもしれないけど」
 真はただ首を横に振った。時々胃が痛むことくらいはある。
 だが、これで入院する破目にまでなったのは、りぃさが自殺する前だけだった。それ以後は、ずっと同居人が傍にいて、いつも体の心配をしてくれていたお蔭で、風邪も含めて病気の類にそれほど苦しめられた記憶がない。
 どんなに切羽詰ったことがあろうとも、あの手が守ってくれていたからだ。

 不意に、真の冷えた手に、乾いた手が重なった。
 志穂は何も言わなかった。その手の感触から、彼女の感情が伝わってくるわけでもなかった。まるで、それはなんでもないもの、この世に存在していない手が異次元から現れただけのようでもあった。
 どのくらいどこを走ったのか、少なくとも半時間は経過していたと思うが、時間の感覚さえ曖昧だった。志穂はやがて、車のスピードを落とし、左折すると、地下の駐車場へ入っていった。

 車を停めてから、随分と長い間をとって、志穂はエンジンを切った。真は思わず彼女の顔を窺ったが、志穂は無表情だった。
 促されて車を降りたとき、何となく新宿の近くなのだろうとは思ったが、確信はなかった。駐車場には十台ほど、昼間のせいか疎らに車が停まっていたが、大きな車ばかりで、ナンバーを隠すように板が立て掛けられている。

 結局、いわゆるラブホテルのようだが、自動ドアの建物の入り口はゆったりとして、高級感さえ漂っている。真が志穂の顔を見ると、志穂は既に当たり前のように歩き始めていた。
 受付は通らなかった。志穂はエレベーターに真を乗せると、三階のボタンを押し、三つ目の部屋に入った。部屋番号が穏やかに点灯していて、ここだと示している。部屋には鍵は掛かっていなかったし、志穂は鍵をかける気配もなかった。

 ラブホテル、というよりは、普通のシティホテルのような内装だった。ドアを開けて入ると、左手にはトイレらしいドアがあり、右手にクローゼット、その奥がテーブルとゆったりとしたブルーのソファ、その右には小振りだが上品なダイニングテーブルを挟んで二脚の椅子、マホガニー調の装飾棚に酒の瓶が並んでいる。窓には完全にブラインドが下りていたが、大きな窓で明り取りの役目を果たしていた。左には寝室に向かうと思われる扉がある。

 志穂はバッグをブルーのソファに投げ出して、真のほうを振り返りもせずに奥の扉に向かった。扉を開け、奥の部屋の電気をつけたようで、扉の隙間から向こうで光が乱反射しているのが見えた。
 志穂は半分だけ真を振り返った。その表情は見えなかったが、さっさと来るようにと言われている気がして、そのまま彼女の側に行った。

 光の乱反射、と思ったのは間違いではなかった。
 さすがに内装をみれば一目瞭然、ここはまさにそういうホテルのようだった。
 円型の大きなベッドを取り囲んでいるのは、細かく向きを変えてはめ込まれている鏡だった。幾つも幾つも、真自身と志穂の姿が分裂し、あるいは重なり、どれが実体か分からなくなる。

 一瞬、眩暈に襲われたような気がした。
 誘われるままにベッドに横になると、志穂は真のスラックスのベルトを緩めた。それから、寝室を出て行って、となりの部屋で何かごそごそと音を立てていたが、からんという音に水の注がれる音が重なり、やがて志穂は寝室に戻ってきて、真にコップを差し出した。

「飲める?」
 真は体を起こし、志穂からコップを受け取った。さすがに、胃に直接染みる液体は、二口で断念しなければならなかったが、冷や汗は引いていく気がした。
志穂は真からコップを受け取り、枕の上のサイドラックに置いた。
「ここは?」
「ラブホテル」
「そういう意味じゃなく」
「自分のホームグラウンドに、まだ知らない場所があるのは気に入らない?」

 志穂の声は高飛車な女のものにも思えるが、どこかに精一杯の背伸びのような気配が残されていた。
 彼女の説明では、隣のレストランからルームサービスが来るということで、高級感が売り物のホテルらしかった。真は寝室の真横にあるガラス張りのバスルームに目を向けた。
 高級なラブホテルの定義が分からない。ベッドとバスルームは、ありきたりのラブホテルの作りだった。
「少し眠ったら?」
 志穂の声が、現実のものではないように乾いて聞こえいていた。





ちなみに、子どもの犠牲に関しての描写をしつこくする予定はありません。
書いていても不快で腹が立つからです。
(あらゆる犯罪の中で、弱者をいたぶるものほど卑劣なものはないと思う……あれこれ書きたいけど、言葉が追いつかないのでやめておきます)
もちろん千恵子ちゃんには救いがあります。それは同じ犠牲を乗り越えようと闘っている人が、やがて彼女に手を差し伸べてくれるからです。
犠牲者の置かれた状況は、現実にはもっと厳しいものと思いますけれど、小説の中ではせめて……

Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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