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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【掌編】センス/ 3333リクエスト 

先日、3333Hit記念にリクエストを頂戴しました。
(1)シリーズとは舞台設定も登場人物も、あらゆる意味で関係しない、1500字くらいのワン・アイデア・ショートショート by ポール・ブリッツさん
(2)【海に落ちる雨】と逆パターンで真(またはマコト)がひょっこりいなくなって焦る竹流。コミカルでもシリアスでも by limeさん

そこでまず、ポール・ブリッツさんから頂いたお題を書いてみました。
読んでいただいてわかるように、掌編って本当に苦手なんです。ポール・ブリッツさんのような、切れ味鋭いセンスあるショート・ショートは書けません^^; しかもワン・アイディアとも言えないような……
まずは、お読みいただけたら嬉しいです。





センス

 ふたりは向かい合って、赤く暗い部屋で三十七週間と三日を過ごした。
 ひとりは少し小さく、いつも不安だったので、時折誰かが部屋の外からそっと触れる音さえ聞き逃さないようにと思っていた。もうひとりは少し大きく、やはりいつも不安だったので、部屋の外からノックするような音が響くと身を縮めて耳を塞いだ。
 同じふかふかのベッドで眠っていたが、ふたりの間には少しだけ距離があった。それでも、時々互いの未完成の身体の一部が触れ合い、その時だけは不安が少し和らいだ。

 そしていよいよ、暗い部屋を出て、光の方へ進む日を迎えた。
 ふたりは初めて光を見た。
 ついにその時、光の中に投げ出されようという一瞬に、彼らに語りかける声があった。
「次の世界では、お前たちは見て、聞き、味わい、嗅ぎ、触れることによって世界を感じることになる。しかし、その感覚を受け取る脳には、そのすべてを一度に処理するだけの能力がない。そこで、望むならば何かひとつだけ特別に優れた感覚を授けることができるが、如何に」

 小さいひとりは、初めて見た光が怖かった。誰かが部屋の外から触れる音がもっともっと聞こえればと願った。そこで、優れた聴覚を望み、オレッキオと名付けられた。
 大きいひとりは、いつも部屋をノックする音が怖かった。今この先にある光は眩く、それをあまねく見ることができればと願った。そこで、優れた視覚を望み、オッキオーネと名付けられた。
「ただし、より優れたものを望めば、他のものを犠牲にしなくてはならないが、それでもよいか。ただありふれた五つの感覚を持つこともできるが、如何に」
 より優れた能力があれば、それによってより優れたものが手に入ると、ふたりとも信じて疑わなかった。

 オレッキオの優れた聴覚は、何キロメートルも離れた湖のそよぎ、吹き渡る風が揺らす花の囁き、熟した実が落ちて枯葉に触れるキスを聞き分けた。交響曲を奏でるひとつひとつの楽器の音色を聞き分け、その調和を楽しんだ。
 オッキオーネの優れた視覚は、昼間でも遥か天空の星を探し、海の底で光を跳ね返す小さな魚の鱗を見分け、暗闇の中でも生き物たちの放つ微かな光を見つけることができた。絵画の中の小さな色の違いを見分け、その共演を美しいと感じた。
 ふたりは、自分の能力こそがより優れていると信じて疑わず、また感じる世界があまりにも異なるために、同じ場所から生まれ出たにも関わらず、お互いのことをまるで理解できなくなり、離れていった。

 やがて成長したオレッキオの聴覚は研ぎ澄まされ、何キロメートルも離れたビルの中の諍いや陰謀の声を聞き、原子炉の底で大地を揺るがす不穏な音を聴き、やがて人の身体の内側で育つ醜い細胞のうごめく音さえも聞こえるようになった。音楽は調和を失い、ひとつひとつの楽器は自分自身を主張し、ただ煩い騒音が、起きても寝ても耳を震わせた。
 やはり成長したオッキオーネの視覚も研ぎ澄まされ、何キロメートルも先で起こった残酷な殺人を目撃し、空に昇って行く穢れた粒子までも網膜に写し取り、口にしようとする野菜や肉の中でうごめく細菌までも見えるようになった。絵画の中の色彩は、溶け合うことなくそれぞれが存在を主張し、寝ても起きても網膜を刺激した。

 そして、オレッキオはついに、もう何も聞きたくないと願い、優れた聴覚を誇った耳を自ら潰した。聴覚を選んだオレッキオの視覚は十分ではなく、足元の石ころさえ見分けることが難しかった。オレッキオは闇の世界に閉じ込められた。
 そして、オッキオーネも、もう何も見たくないと思い、優れた視覚を誇った目を自ら潰した。視覚を選んだオッキオーネの聴覚は十分ではなく、そばを通り抜ける車の音さえも聞き分けることが難しかった。オッキオーネもまた闇の世界に閉じ込められた。

 それでも、オレッキオの拙い視覚でも、オッキオーネの涙だけは微かに見えた。
 オッキオーネの拙い聴覚でも、オレッキオの嘆きの声だけは微かに聞こえた。
 暗闇を彷徨うふたりはやがて再び出会った。

 ふたりには鋭い聴覚も、鋭い視覚も残ってはいなかった。けれども、そっと指を伸ばせば、互いの涙に触れることができた。ふたりは手を握りしめ合い、お互いの背中を慰めるように抱きしめ合った。
 ふたりは、優れた聴覚も優れた視覚も失った今でも、そよぐ風が頬に触れる優しさを分かち合い、肌に落ちる光の温もりを確かめ合うことができることに気が付いた。
 そして不思議なことに、ふたりで触れ合っていれば、もう失ったと思っていた未来が感じられ、この世界に生れ落ちて初めて微笑み合った。





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双子ちゃんのお話、大海Versionというわけではありませんが、脳の処理能力って限界があるよなぁ、一生懸命見ている時は耳はお留守だし、目を閉じたらいろんな音がしっかり聞こえるし、というのが発想の原点。
あ、発想と言うほどの内容じゃありませんでしたね……
すみません、何しろ、書けば長編になる大海の掌編って、ほんとつまんないですよね^^;^^;
ついつい起承転結を守ってしまって、突き抜けた魅力もなく……

あ、はい。最後は触覚が残ったって感じでしょうか。そして、実は、未来を感じるシックスセンスも。
(って、解説するなって!^^;)
で、題名を考えていたら、「樅の木は残った」が頭から離れなくて「触覚は残った」にしそうになり……
(どうしてもおちょくりたい大阪人)
で、嗅覚と味覚はどうなったの?とか聞かないでくださいね^^;
(次は4つ子でチャレンジ?)

掌編って、書いてみて、毎回がっかりするのです。
本当に難しい。ポール・ブリッツさん始め、掌編を書きまくっている方々の頭の構造が羨ましいです。
さらに、最初あまりにも短くなっちゃって、少し膨らませたら1800字くらいになっちゃいました。
ポール・ブリッツさん、こんなので許していただけるでしょうか。

参考までに、
オレッキオはイタリア語の耳、オッキオーネも同じくイタリア語で大きな目、の意味です。

もうひとつ、別の赤ちゃんネタも考えていたのですが、オカルトチックになったのでやめました。
あと一つ、まったく別の話も思いついたので、それはまたいずれお目にかけたいと思います。
私の中の『ダーウィン』ネタ(例のNHKの番組)。

limeさんのリクエストも鋭意ねりねり中。
というのか、アイディアは出来上がっているので、また近日中に。
まずはマコトでチャレンジ(ってことは、真でも書くつもり??)。

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Category: その他の掌編

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