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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【奇跡を売る店】サンタクロース殺人事件(1) 

予告しておりました【クリスマス特別企画】第2弾、【奇跡を売る店】プロローグ掌編です。
プロローグと言っても、この先、本編が始まるのいつのことやら。
そもそも、波乱万丈な相川真の人生がちょっと可哀そうだという友人の言葉もあり、じゃあ、ハッピー版を書くよ、ってな話をして早3年以上。
その時に生まれた妄想、自分の小説の二次小説を書く、みたいなかんじで設定を作ったのです。
が、設定で遊んでいるうちに、頭の中ではまるで独立した物語に……

せっかくのクリスマス企画なので、チラ見していただこうと思いまして、大したストーリーではないのですが、色んな面白い登場人物たちをお楽しみに戴く企画にしました。
さて、今回はどんな『聖夜の贈りもの』でしょうか。
さっそく、クリスマスまであと1週間の京都の町にご案内いたしましょう。





 四条河原町から東へ百メートルも歩かないうちに、高瀬川の細く浅い流れに行き当たる。その手前を曲がり、やはり細い道を南へ下ると、両脇に小さな店が立ち並ぶ一角がある。天婦羅料理店、雑炊の店、焼き鳥屋、ペルー料理店、ブランド品を廉価で売る店、場違いなピンクサロンの賑やかなネオンもある。
 平日の昼過ぎならば決して人通りが多いわけではないこの道を、細い足をぴったりのジーンズに包み、短いダウンジャケットを着て、サングラスをかけたボブカットの女性が、ひとつひとつ、店の看板を確かめるように歩いていた。

 やがて、彼女は一軒の店の前で立ち止まる。
 目立つ看板は上がっていない。古い木の扉の上半分に暗いオレンジ色のガラスがはめ込まれ、大きな取っ手には小さな木札がぶら下がっていた。
 そこに、あまり綺麗とは言えない字で『奇跡、売ります』と書かれている。
 道に面しているのはその扉と、腰高窓だけだ。窓の向こう、通りから見えるところにディスプレイされているのは、バスケットボールほどの大きな紫水晶、その周りに色合いも多彩な石が幾つか置かれている。磨かれた丸く綺麗な石ではなく、原石のようなものばかりだ。

 彼女はじっとその腰高窓の中を見つめていた。それから徐にその店の上方、路に切り取られた空を見上げ、ダウンのポケットに突っ込んでいた手を出した。
 手に持っているのは小さな紙切れだった。
『釈迦堂探偵事務所』
 四条木屋町通りを下って細い路地、高瀬川側の二階、一階は石屋。
 石屋、が何を指すのか分からなかったが、歩いてきた中で石に関係する店はここだけだ。流行のパワーストーンを売る店だろうか。それならもう少し小奇麗にして、入りやすい雰囲気にすればいいのに。

 サングラスを外した女性は、格好には似合わない高校生と言ってもいい顔立ちで、化粧も薄く、口紅も淡い桜色だった。高校生ではないとしても、せいぜい二十歳を過ぎたばかりにしか見えない。
 看板も出ていないのでは確認もできない。
 彼女が惑っていると、いきなり店の扉が引き開けられた。
 顔を出したのは、小柄な老女だった。
 おとぎ話に出てくる悪い魔女のような顔つきだ。魔女にありがちな黒い頭巾の代わりに、紫の羽根がついた灰色の奇妙な帽子を被っている。唇は年甲斐もなく赤い。黒いロングドレスに、肩に纏った黒い毛糸のストールがマントのように大きく見える。

「店の前でぼーっと突っ立たれたら、営業妨害だよ」
 声まで魔女みたい、と彼女は思った。営業妨害も何も、そもそも客が入るような店構えではない。
 魔女は彼女を頭の先から足の先まで見る。そしてふん、と鼻で息を吐き出した。
「蓮なら留守だよ。バイトしてるオカマパブがクリスマスの飾りつけだってんで、今日は早々に出ていったのさ」
 彼女はまだ惑っていた。だから魔女はまた大袈裟にため息をついた。
「あんた、わざわざここまでやって来て、まだ迷ってるのかい」
 そう言って顎を動かした。彼女は突っ立ったままだ。魔女は呆れたようにもう一度顎を動かす。やっと、入れと言われているのだと気が付いて、彼女は操られるように中に入った。

 店の扉が閉まった途端に、外の音が一切シャットアウトされたので、突然異空間に入り込んだようだった。
 店の中は思った以上に広く感じた。照明が暗めなので、余計にそう思えたのかもしれない。肩ぐらいの高さまでの木製の棚が数列並んでいる。棚は棚板で細かく仕切られ、びっしりと、まさに隙間ないほどにびっしりと石が並んでいた。水晶は分かる。しかしほとんどは初めて見る石ばかりだった。色も形も様々だ。
 奥にカウンターがある。カウンターの向こうに窓があり、幾分か明るい。窓の向こうに柳の枝が見えていた。扉の真正面に当たる部分に階段がある。
 階段の上のほうで何かが動いたように見えたが、目の錯覚かもしれない。

 魔女は棚の間を滑るように歩いている。足音も聞こえない。
 やがて魔女は立ち止まり、棚の奥へ手を伸ばし、何かを手に掴んで彼女のところへ戻ってきた。何も話さないままの彼女の手を取り、その掌に何かを載せる。
 空の青と水の緑を混ぜたような色、ガラスのような質感の五百円玉ほどの大きさの石だ。丸みを帯びたいびつな台形で、形を整えられてはいないが表面は磨かれている。白い筋が幾本か、緑と青の色合いの中を走っている。
 彼女がじっと見つめていると、窓からの光によるのか、一瞬微かに、虹のような色合いが反射した。光は確かに虹色の幻影を走らせたが、すいっと闇に吸い込まれるように消えた。

 吸い込んだ闇を追いかけるように、彼女はもう一度階段のほうを見た。今一度、確かに何かがちらりと動いた。確かめに行くよりも、早くここを出た方がいいのかもしれない。
 もう一度石に視線を戻したが、虹はもう消えいている。元からの青と緑の狭間、そして白い筋だけだ。
「一万円だ。それで迷いが吹っ切れるなら安いもんだろう」
 魔女に睨まれて、彼女は何かに憑りつかれたように財布を出していた。なけなしの一万円札が一枚、顔を出した途端に、魔女にひったくられた。
「これでも負けといてやってるんだ。そいつは強力なパワーのある石だからね。さぁ、もうそれはあんたの石だ。蓮なら『ヴィーナスの溜息』だよ。溜息っていうより、鼻息って感じの店だけどね。さっさと行きな。全く、蓮の奴はカイの店をちゃんとやる気でやってるのかね」

 彼女は何だか分からないままに掌の石を握りしめ、魔女の視線に追い出されるように扉を開けた。
「お嬢さん、今日が『その日』だ。今日を逃すと、心配事は解消されずに真実は永遠に手に入らないよ」
 言葉が終わると同時に扉が閉まる音。
 占い師のようなことを言う、と彼女は思った。手を開いて、押し付けられた石を見る。あの一瞬の虹は何だったのだろう。今、通りに出て冬の昼下がり、明るく鋭い光の中に晒されても、石は沈黙している。
 というのか、私って騙されてない? じゃなくて、これってカツアゲ?
 財布が空になったのはまずい。今日はその『ヴィーナスの溜息』に仲間たちと一緒に行くつもりだったのだ。そこに行けば彼に会えることは知っていた。でも、できれば静かなところで話を聞いてもらいたかったのだ。

 やっぱり石を返して、お金を返してもらおう。
 そう思って振り返ると、真後ろに子どもが立っていた。
 痩せた女の子だ。赤いスカートに白いタイツ、暖かそうな白いセーターはスカートが隠れそうなくらいに長い。短い髪、目が大きくて、唇の色は寒さのためか赤いというよりも青黒く見える。それでも頬はピンク色だった。三歳か四歳くらいだろうか。くたくたになったバイキンマンのぬいぐるみを左手に抱いて、右手を彼女の方に差し伸ばしていた。
 その手には一万円が握られている。
 彼女は反応することさえも忘れいてた。突っ立っている彼女に、子どもはさらに力を入れて一万円を差し出す。ニコリともせず、無愛想で無表情な顔のままだった。

「あ……あの、ありがとう」
 代わりに石を返そうとしたら、女の子は首を強く横に振った。そのまま踵を返し、石屋の重い扉を押し開け、中に消える。勢いで扉が閉まった時、大きな木の取っ手にぶら下げられた木札がひっくり返った。
『二階 釈迦堂探偵事務所 この扉からお入りください』
 何となく扉の上の方に目をあげると、そこに店の名前があった。
『鉱石・奇石研究所 奇跡屋』
 今さらだが、怪しいことこの上ない。というのか、石を返さなくちゃ。

 扉に手を掛けたが、中から鍵が掛けられてしまったようで開かなかった。
 人通りが多くないとはいえ、あまりガチャガチャやっているのも恥ずかしくなって、彼女はすぐに諦めた。また今度、返しに来たらいいか。
 もう一度、掌の上の石を見つめる。
 奇石、だから奇跡なのか。だから、奇跡を売る? 何だかやっぱり騙されているみたいだ。
 彼女はジーンズのポケットに石を入れた。やはり虹は戻ってこない。でも……これはもしかするとクリスマスプレゼントなのかも。
 もっとも、この怪しい『奇跡を売る店』にはクリスマスらしいディスプレイもなければ、その暖かい聖なる光の気配もない。
 クリスマスまで一週間。騙されてみるのも悪くないかもしれない。




「あたしは幼稚園の時にはもう分かってたわ」
「なんや、やっぱりあんた、そんな頃からませとったんや」
「私は小学生の時かなぁ。男の子らが話してんの聞いて」
「あ~ら、私なんか、ピュアだったからぁ、高校生の時に初めて気が付いたのよぉ。あれはパパだったんだって」
「嘘や~、それ、ぜったい嘘。ソノコさんがピュアなんてありえへん」
「なんやと~。信じてくれ~」
「きゃ~、おっさんに戻ってる~」
「よっしゃ。罰として、水攻めじゃ~。あ、蓮、水持って来て」
 蓮は、今日は一層賑やかなテーブルを振り返った。最近よく来るようになった女子大生五人と、化粧はしているものの厳つい顔つきの大柄な『女』、それにかなり美人だけど声の低い『女』がテーブルを囲んでいる。

 この店は会計が明瞭で、高い酒は置いてあるのだが、あまり押し付けることをしない。飲みかたを選べば比較的安価なのと、お笑いとダンスを取り入れたショウが人気で健康オカマパブを謳っているのと、最近のオネエブームにあやかってなのか、興味津々の女性客も少なくない。女子大生でも、毎日は無理でも、月に一、二度遊びに来るのには問題がないはずだった。
 この店では、女性客は男性客とは違う意味で歓迎されている。女性はその気になれば金離れがいい。それに、特に若い女性は、化粧や洋服、アクセサリーと言ったファッション情報の発信源でもある。
 いわゆるゲイバーと言われる系統の店にもいくつかの種類があり、そこで働く男性にも色々な種類の人間がいるが、この店は客の性別が問題となるような店ではなかった。つまり、真剣に男同士の付き合いを求めているのだから女は来ないで、という種類の店ではない。

「え~、蓮くん、水じゃなくて酒」
 蓮はカウンターの中のママに合図をする。もちろん、持っていくのは水だ。ソノコさんの声が前半は太く、後半には高音になる。
「だ~め。あんたたち、大概にしときなさいよぉ。あたしがあんたたちのママなら、月に代わってお仕置きよ~」
「ふる~い!」
 蓮がテーブルにミネラルウォーターの瓶を置くと、女性五人組のリーダーが、あーあ、何で水なの、と文句を言った。もっとも、声は怒ってなどいない。髪の毛の一部をきついピンクに染め、目の吊り上がった、いわゆるセクシーダイナマイト系である。
 彼女らももう酒は潮時だと分かっている。とにかく騒ぎたいだけなのだ。
 それもそのはず、この五人組は今、京都ではちょっと話題の女子大生ロックバンド『華恋』のメンバーたちだった。彼らのスケジュールは明日からクリスマスイヴまでびっしり詰まっている。だから、今日は前夜祭で何が何でも盛り上がる、ということらしい。

「蓮くんって、何でホールなん? 見栄えはいいから、モテるんとちゃうん?」
「そうや、ちょっと座っていかへん?」
「だめよ~」
 大柄でどぎつい化粧をしたソノコさんが太い声で止めた。ソノコさんはこう見えてショウタイムの一番の人気者だ。お笑いもできるし、物まねのレパートリーは某ものまね芸人にも引けを取らない。それにダンスもできる。ダンスというより、格闘技だ。空手の有段者だった。
「うちの店では、あんたたちみたいな狼女から蓮を守るべし、って条例があるのよ~」
 女子大生たちは『狼女』に大うけだった。

「そう言えば、蓮は何歳頃まで信じてたん?」
 このバンドで最も正統派美人と言えるベーシストが聞いてきた。目元に力があり、唇は薄く、何より華やかな顔立ちだ。
「何を?」
「サンタクロースやん」
 その話題だったのか、と蓮はちらりと最も目立たないメンバーを見た。
 さっきから少し気になっていたのだ。賑やかなグループの中で一人だけ大人しいのはいつものことなのだが、いつもより輪をかけて静かだ。俯いて、何か堪えているようにも見える。そして、どういうわけか今日はちらちらと蓮を見ているのだ。

「さぁ、うちは始めからサンタクロースなんか来なかったけど」
 蓮が答えると、ボーイッシュなギタリストが手を叩いた。
「あ、そうや。蓮くんちはお寺なんやっけ」
「あれ? 探偵事務所じゃなかったん?」
 蓮は曖昧な笑みを浮かべた。
「あぁ、ほんとに、蓮くんってなんか謎なんよね~。蓮くん、お坊さんになるん? イケメンの坊さんやなぁ」
「探偵の方がかっこいいやん」

 こうして話していると、普通の女子大生にも思えるが、格好は派手で、メイクも気張っている。一人を除いて。
 さっきから会話の主導権をソノコさんに譲っていた、美人ニューハーフ、テレビにも出たことのあるシンシアが、低くて通る声でこの話題をストップしてくれた。
「蓮はね、ミステリアスが売りなのよ。だから、はい、蓮に絡むのはおしまい」
 ありがとう、と目でシンシアに合図する。シンシアはクールな笑みを唇に浮かべる。男と分かっていても、彼女はやはり綺麗だ。

 それにしても、ここでは自分のプライベートをおおっぴらに話したことはないのだが、どこかからそんな噂が飛び交うようになったのだろう。確かに蓮は寺に住んでいるが、寺の跡取り息子でもないし、坊主になる予定はない。
 いや、寺の件は、苗字から勘ぐられただけかもしれない。
 もう一つの仕事の方は、隠しているわけではなく、むしろこの店が宣伝のための看板の役割を果たしてもくれているのだが、それでも誰も彼もが知っているという話ではない。

「じゃあショウちゃんは?」
 ソノコさんがだんまりのメンバーに気を使った。大騒ぎをしながらもソノコさんはよく周りを見ている。
「え……と、何?」
 ショウちゃん、と呼ばれた大人しい子は三澤笙子といった。顔はまるで女子高生だ。童顔で、幾分かおどおどした気配がある。短くボブに切った髪は、彼女に良く似合っていた。だが、このおどおどしたムードは、メンバーをバックにしてマイクを持った途端に豹変する。蓮は実際にパフォーマンスを見たことはないが、半端なくパンチのある歌声で、そのギャップに萌える男子学生が多くいるのだと聞いている。

「聞いてへんかったん? 何歳までサンタロースを信じてたかって話」
 笙子は一瞬、視線を踊らせた。そして、視線の矛先を蓮に固定すると、不意に何かを決心したかのように、はっきりとした声で答えた。
「私のサンタクロースは、私が六歳の時に殺されてんの」
 一瞬、場のムードが変わったのは言うまでもない。だが、例のごとく、ソノコさんが後を引き受けた。
「な、なんやと! 犯人はトナカイ?」
 とは言え、今回ばかりはあまり良いフォローではなかったようだ。馬鹿、とシンシアに肘でこつかれて、ソノコさんが頭をかく。だが笙子は真面目な顔で続けた。

「違う。知ってる人。私、殺されたサンタクロースが神社の裏に埋められるところを見たん」
「えーっと、で、その犯人は捕まったん?」
 笙子が少し不思議ちゃんであることを知っているメンバーは、適当に苦笑いをしながら話の行く末を探っている。
「ううん。捕まってへん」
「死体は? サンタクロースの死体。警察には知らせたん?」
 バンドのメンバーは適当に話を合わせているようにも見える。慣れているのだろう。
「ううん。死体もまだ見つかってへん。まだあそこに埋まってるん」
「笙子は犯人を見たってわけやろ? 目撃者って狙われるんとちがうん?」
「犯人は私を狙ったりせえへん。だって、私のお父さんやもの」






さて、始まりました。
と言っても、大した話ではありませんでして、内容も薄っぺらいので、気楽にお楽しみください。
謎解きも何もなく「な~んだ」ってな話なのですけれど。
クリスマスイブのマコトの掌編に被らないうちに終わります。
でも、聖夜に少し暖かくなっていただけたらいいなぁ。

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Category: (1)サンタクロース殺人事件(完結)

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