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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【奇跡を売る店】サンタクロース殺人事件(2) 

『サンタクロース殺人事件』の(2)をお送りいたします。
なかなか本筋に行きつけないのは、色んな登場人物たちを楽しんでいただこうという企画でもあるからですが……
クリスマスにふさわしい大団円にあと2回ほどでなるかしら?
まずはお楽しみください(*^_^*)





「あんたねぇ、そろそろ開き直って抱かれてやんなさいよ。あのセンセ、あんたに夢中なんだから」
 注文を伝えに蓮がカウンターに戻ると、クルクルの金髪に青いアイシャドウ、真っ赤な口紅のママが、わざとらしく口を尖らせた。カウンターの客の一人と、蓮とある客のことを話題にしていたのだろう。
 大柄な男だが、元々肌のきれいなママは、最近、化粧のノリを気にしている。歳を取ったのよ、いやんなるわ、と手入れには余念がないが、若い子を雇うたびにため息をついている。
「いつまでもお高くとまってちゃ、この厳しい世の中、渡って行けないわよ。売れるのは若いうちだけなんだからね。てか、あんた、もう相当の年増なのよ」

 ママがそんな話をしているのは、半分以上、冗談だ。そもそもこの店は男性が男性の相手を求めに来るような店ではない。
 だが、たまに紛れ込んでいる本気の客を牽制する意味もある。カウンターの端に座って、黙って飲んでいる客だ。職業を聞いたこともないが、ヤクザかもしれないと言われいて、蓮を狙っているとまことしやかな噂が流れていた。
 そもそも蓮はこの店のホール係だ。座って客の相手をしたり、ショウに出たり、俗にいうアフターのサービスをするようなことは、仕事の中に含まれていない。
 ママは、比較的良心的な値段のついた水割りを作って、厳つい笑顔を振りまきながら、カウンターの手前に座る客に相槌を求めた。

 客はゴロウちゃんと呼ばれている。国民的某アイドルグループの一人に似ているのでそう呼ばれいてる。出版社に勤めているサラリーマンで、週に三度はやって来る、明るい男だった。本物のホモセクシュアルだ。こちらも蓮にプライベートで会わないかと何度も言い寄ってきているが、どちらかというと挨拶代りに口説いているに過ぎない。
「そうや、オシャカちゃん、バージンなんてもう捨てちゃえ。下手に持ってるから、あれこれ周りが浮足立つんや。せやから、前から言うてるやろ。俺が相手したろ、て」
 この店で、一部の客や従業員は蓮のことをオシャカちゃんと呼ぶ。一度聞いたら忘れられない「釈迦堂」という苗字だからだ。

 釈迦堂蓮。この名前のお蔭で、もしかすると「寺に住んでいる」「お寺の家の子」というイメージが生まれたのかもしれない。
「馬鹿ね。センセに殺されるわよ」
 彼らがセンセと呼んでいるのは、国立大学の理学部、地球惑星科学講座の准教授、出雲右京だった。
 この店では、ぶっ飛んだ学問を研究しているということと、上品で紳士らしい立ち居振る舞いで人気だった。しかも、華族か宮家の縁戚か、かなりの上流の家系らしく、決して大仰な金の使い方はしないが、金離れは綺麗だ。花街にも政界にも顔がきくという出雲家の人間には、京都の裏でうごめく闇の顔たちも一目置いているらしいと聞いている。
 蓮は出雲に、こんな店に出入りしていて大学や家で何も言われないのかと聞いたことがある。出雲は世間ずれしているのか、意味が分からなかったようだった。

 出雲はしかし、店にやってきて、蓮をじっと見つめてはいるが、少なくとも蓮をベッドに誘うようなことはしない。
 その理由を、蓮はもう知っている。
 蓮には男と寝るつもりなどなかったが、もし誰かをどうしても選ばなければならないのなら、出雲ならば悪くはないと思っていた。ママには言っていないが、実はいささか滅入っていた日に、ままよと思ってホテルに誘われるままについて行ったことがある。
 事に及ぶのかと覚悟をしたら、出雲はやっと二人きりで話ができると喜んだ。

 何のことはない。蓮の母親の幼馴染で、父親と恋のさや当てをした関係だったという。だからそれを蓮に伝えたかっただけなのだ。
 あれこれ思い出があるようだが、みなまでは聞いていない。出雲は酒に弱く、すぐ寝てしまうのだ。
 本当は蓮のほうでも出雲に聞きたいことがあるのだが、その反面、聞きたくないことでもあった。
 蓮は両親の顔を覚えていない。父親は日本にいないし、母親は亡くなっている。自分をちゃんと育ててくれなかった親を、今のところまだ親とは認めていない。

「もうすぐクリスマスなんだから、クリスマスプレゼントにバージンを差し出すとか。でないと、この変態ゴロウに食われるわよ。あら、噂をすれば何とやら。いらっしゃい」
 開いた扉にママが声を掛ける。
 まさに、出雲が入ってきたのだ。やや痩せ気味で背が高い、ロマンスグレーというよりは純朴な研究者という印象。眼鏡をかけているが、それほど視力が悪いわけではないらしい。顔立ちはいわゆる濃いタイプで、目鼻もはっきりしているのだが、どうやら服装には時代がかった残念さが漂っているために、街を歩いているとちょっと変な人と思われている節がある。
 もちろん、出雲は気にしていない。

 蓮は目だけで微かに挨拶をする。出雲はいつものようにカウンターに座って、人のよさそうな笑顔で薄い水割りを注文している。
「あれ、センセ、いつからアメリカだっけ?」
「来週ですよ」
「おぉ、自由の国、アメリカ。男同士でも結婚できる州がある。羨ましい」
 ゴロウさんはもうかなり出来上がっている。
「センセ、どうせなら蓮を連れて行ったら?」
「もうプロポーズしたのですが、断られました」
 だいたい出雲の言い方に問題があるから、みなが誤解するのだと蓮は思っていた。出雲のプロポーズは文字通り、申し込む、というだけの意味だ。
「あら、やだ。そうなの? 蓮」
 たかがヒューストンに学会に行くだけなのだ。しかもたった二週間の旅程だ。大袈裟に過ぎる。蓮は、フロアから呼ばれたことをいいことに、カウンターを離れた。

 それからショウタイムが二回、客の出入りも賑やかになる。不況なのに、いや不況だからか、この店は賑やかだ。蓮はいつものように黙々と働いた。
 もともとコミュニケーションが得意な方ではなかった。だからホール係が精いっぱいだ。
 テレビで紹介されたこともあるこの店は、ショウのクオリティも大衆芸能並みに高くて、不況を謳われて長いうちにも客足も途絶えなかった。会計が明瞭であること、時にタロット占いと手相を見るのが得意のママが人生相談に答えてくれること、それに何より、相手に応じた接客の質が保たれていることもあるのだろう。おかげで給料も悪くない。

 生涯続けるつもりだったある仕事を辞めて途方に暮れていた時、人伝でここに雇ってもらった。ちゃんとした仕事が見つかるまでのバイト、ということだったが、いつの間にかもう一年近くになる。その間に、有難いことに、ママや店のオーナーは、蓮は戦力の一人として大事にしてくれるようになっていた。
 よく気が付く、と言われる。人を観察していると様々なことがわかる。ただそれだけのことだった。
 それに、蓮はもう一つ、辞めるに辞められない仕事を持っていた。辞められないのだが、こちらははっきり言って全く金を稼ぐあてのない仕事だった。だからこの店のバイトも辞められない。
 元の仕事は、続けていれば生活に困らない給料をもらえるはずだったが、戻る気はない。というよりも、色んな意味で戻ることはできないだろう。その仕事のことを知っているのは、この店ではママだけだった。始めはものすごく胡散臭い顔をされた。だが、今では蓮を認めてくれて、将来を心配してくれてさえいる。

 シンシアがカウンターに近付いてきたときが、「もうひとつの仕事」の依頼が舞い込んだ時だった。
「ちょっと、蓮、やっぱりあんたに話を聞いてもらった方がいいみたいよ、あの子」
「何なの、シンシア」
 ママが低い声で窘めるように尋ねる。
「殺人事件を目撃したんだって。それも十五年も前に」
「それって時効じゃないの?」
「あれ、今って、凶悪犯罪は時効って無くなったんじゃないの?」
 ゴロウちゃんが口を挟んでくる。後を引き取ったのは例のごとく出雲だ。
「そうですよ。2010年の4月27日に改正されたのです。それまでは、殺人罪の公訴時効、つまり犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると検察官が公訴を提起できなくなることですが、刑事訴訟法250条1号により、25年と定められていたのですね。ですから、そもそも15年前の殺人事件は、致死罪以外であれば、どちらにしてもまだ時効ではありませんね。ちなみに、2010年4月27日までに公訴時効が完成していない罪であれば、すべて新法が適用されます」

「センセ、かたいわよ」
 ママが出雲にダメ出しをする。
「いや、彼女が見たのはそもそも殺人現場ではなくて、死体遺棄現場でしょう。しかも、もし本当なら、探偵じゃなくて警察に行くべきです」
 さっきの話を一部耳にしていた蓮が訂正する。
「警察が15年も前の子どもの記憶を信用して、捜査をする可能性は低いでしょうね。某テレビ番組の暇な特捜でもない限り」
 右京という同じ名前の主人公が活躍している番組だ。ゴロウさんがそうやそうや、と頷いている。

「何でもいいけど、あの子、今日の昼間、あんたの事務所に行ったみたいよ」
「ええ~、じゃあ、何だかあたしがあんたの仕事の邪魔をしたみたいねぇ。本当ならあんた、事務所で寝てたはずなのに、あたしがめんどくさい飾りつけの仕事なんか押し付けちゃったから事務所、閉めてたんでしょ」
 そうなのだが、ちょっと嫌な予感がした。事務所は閉まっていると言えば閉まっているが、開いていると言えば開いているのだ。一階の胡散臭い店と扉を共有しているために、一階が開いていれば、店には入ることができる。
「何にしても、ここは釈迦堂探偵の出番というわけや」
 ゴロウさんがぽんと蓮の腕を叩いた。

 正確には、「釈迦堂探偵」は蓮ではない。釈迦堂探偵事務所は蓮の叔父、釈迦堂魁がやっていた事務所なのだが、今は蓮だけがその事務所で働いている。
 魁は失踪していて、現在行方が分からない。叔父が戻って来るまで蓮が店番をしている、そういう状況だった。いや、本来なら魁の息子が手伝ってくれたらいいのだが、彼にはそのつもりはさらさらないらしい。

 その時、『華恋』のリーダー、セクシーダイナマイト系ドラマーが、困った顔でおどおどした童顔のヴォーカリストを連れてカウンターに近付いてきた。
「はい、蓮、頼むわ。うちのヴォーカル、この通り不思議お嬢ちゃんだけど、今日はちょっと真剣みたい」
 そう言ってウィンクする。
 このバンドの売りは、この一見おどおどしたムードの童顔ヴォーカリストのギャップなのだ。そのことがよく分かっているリーダーを始めメンバーは、なんだかんだ言いつつこの不思議お嬢ちゃんを大事にしている。

 彼女のウィンクの意味はこうだ。
 笙子は蓮に気があるみたいだから、話を聞いてやってよ。クリスマス前なんやし。
 蓮は、こういう店の場面ではありがちな勘繰りには少しだけうんざりしたものの、笙子の気配はさっきから気になっていた。
「奥、開いてるわよ」
 ママが勧めたのは、ママが真剣な人生相談の際に使っている小部屋だった。タロット占いもする。タロット占いと人生相談の代金は最低三千円、というわけだ。たまに政財界のそこそこの人物がやって来るという噂もある。
 蓮も、自分の「もうひとつの仕事」の第二事務所的に、その部屋を時々使わせてもらっている。


 ヴォーカリストの名前は三澤笙子といった。家は、彼女の名前の通り、雅楽の演奏者の家系だった。笙子がロックをやっていることは、今のところ家族の誰も知らないのだという。
 だがグループは有名になりつつあった。メディアが目を付け始めている。笙子は二年生だが、グループの主要メンバーは四年生だ。進路を考えるのに遅すぎるくらいなのだ。そろそろ、答えを出す時が来ている。笙子自身も、自分の別の顔を選ぶか、このグループを選ぶか、選択を迫られているようだ。

 雅楽の民間への普及は、一部の高名な演奏家のお蔭で幾分かは保たれている。だが、指導者は少なく、他の楽器奏者、舞楽の舞い手、さらに楽器や伝統的装束の製作者を含めた伝承が必要であるために、足並みがそろうというものでもないようだ。笙子の母親の家系が、鳳笙の楽家なのだと聞いている。そして笙子自身も、雅楽の少ない正統継承者としての将来を期待され、自身も大学に入るまでは、その期待に応えるものだと思っていた。
 クリスマスライブが終わったらグループとしての進退を決める、と『華連』のリーダーが言っていたらしい。人生のひとつの岐路というわけだ。

 小部屋にはエスニックな布が壁や窓、扉にデコレーションされていて、薄暗い赤っぽい照明をつけて香を焚くと、エキゾチックなムードが満点になる。三畳ほどの小部屋には、やはりアジアンテイストな布を掛けられた木のテーブルと二客の椅子、タロットや水晶などそれらしいアイテムをしまう木製の棚があるばかりで、他には何もないが、それだけでいっぱいの部屋だった。
 この部屋に入ると、何となく秘密の暴露をしてしまいたくなる人間の心理もちょっと分からないでもない。
 だが、蓮は例のごとく、蛍光灯をつけて部屋を明るくした。
 そうしてしまうと、薄い布地で色とりどりに光のイメージを変え妖しさを演出していたムードは吹き飛んで、なんだ、この程度のものかという現実がはっきりする。

 蓮と向かい合った笙子は俯いたままだった。
 蓮はあまり自分の方からあれこれ話しかける方ではない。黙って相手の話し始めるのを待っている。その沈黙が圧迫にならないから不思議だと、よく人に言われる。一方で見かけは平穏で平和主義者っぽいのに、内側では激昂しやすいという部分もある。怒りの形で爆発するというのではなく、感情が高ぶるのだ。
 だがこの一年、そのすべてを押し込めて暮らしてきた。

「事務所に来てくれたんだってね」
 笙子はまだ俯いているが、小さな声で答えた。
「シュウに聞いて……」
 思わぬ名前に蓮はしばし唖然とした。てっきり店の誰かが教えたのだと思っていた。いったい、この娘と舟にどんな関係があるというのだ。
「舟とは知り合いなのか」
「……」
 あのくそ馬鹿、あり得ないことではないと蓮は思った。

 釈迦堂舟。釈迦堂魁の息子で、蓮とは従兄弟同士ということになる。蓮よりも五つほど年下だ。まともな仕事をせずに、不穏な連中と付き合っている。
 舟が女に絡む場合に「お友達」はあり得ない。ついでに男に絡む時だって半分はそういうことだ。残りの半分は敵、つまり喧嘩相手だ。喧嘩と言っても可愛らしいものではない。しばしば命のやり取りになりかける。
「三澤さん」
「舟を怒らんといてください」
 そう言って顔を上げた童顔娘は、ほんの少しばかり女の表情を漂わせていた。
「いや、俺が舟に何かを言える立場じゃないんだ。怒ることはしないけれど……その、正直、君がつき合って幸せになれる相手とは思わないよ」
 笙子は答えなかった。
「舟のことは今度ゆっくり話そう」

 蓮は一度言葉を切った。笙子は黙ったままだった。
「君の殺人遺棄現場の目撃だけど、十五年も昔のことを、今になって急に調べてもらおうと思ったのには何か理由があるんじゃないの?」
 笙子は少し部屋を見回した。そしてふと肩を落とした。
 可愛らしい娘だと思う。世間知らずのお嬢様のイメージだ。それがマイクを持った途端に豹変するとなると、ちょっと興味深いと思う男は大勢いるだろう。
 やがて笙子は、石がポケットの中で鳴っていて、と言った。
 蓮はやはり嫌な予感が的中したと思った。
 笙子はジーンズのポケットから石を取り出す。

「天河石」
 蓮は呟いた。
「石の名前?」
「うん。アマゾナイトとも言われている。いくら請求された?」
「一万円」
 あの婆さん、と蓮が思う間もなく、笙子が先を続ける。
「あ、でも、すぐに、小さい女の子が追いかけてきて、お金を返してくれて……むしろ私の方が、この石を返さないと」

 にこ、また遊びに行っていたのか。あの婆さんには近づくなと言ってあるのに。
 あの石売りの婆さんは、子どもからも平気で金を巻き上げる。にこだって、お小遣いというほどのものは持っていないが、小銭やがらくたとは言え大事にしているものをかっぱらわれたことは、一度や二度ではないはずだ。
 やはり保育園は辞めさせようか。探偵事務所の近くということで選んだ保育園だったが、それは結局、あの石屋にも近いということだ。蓮やお寺の奥さんが迎えに行けない時には、いつの間にか婆さんのところで待つようになっていた。
 寺では大人しかいないし、一人で蓮を待っていても寂しいのではないかと思って保育園に行かせたが、園でも一人で遊んでいるという。病気のせいもあるが、あまり友だちとも打ち解けていないようだし、保育園は楽しいかと聞いても返事をしない。
 いや、にこはそもそも蓮にはほとんど口を利かない。
 本当の親でもないのだから。

「婆さんは何て?」
「これで迷いが吹っ切れるって」
「で、一万円請求されたわけだ」
「でも結果的には払ってないです」
「いいんだ。もうこれは君の手元にやって来た。だからこれは君の石だ」
 笙子は不思議そうな顔をした。何、と蓮が聞くと、石屋のお婆さんも同じことを言ったと答えた。
「どういう意味なんでしょうか」
「石が君を選んだんだ。だからこれは君の石だ。金のやり取りは終わっている。にこが君に金を返したのは彼女の勝手だから、気にしなくていい」
「石が私を選んだ?」

 蓮は石を取り上げた。蒼い、空の色とも森の色とも水の色ともつかない、翡翠よりもさらに透明度の高いガラスのような質感。かなり上質の天河石だ。
 あの店のどの棚にこの石があったか、蓮は思い出すことができた。
 石たちの囁く声も、聞き分けることができる。それは小さな声だが、微かに震えている。もちろん、石たちはいつも語りかけてくるわけではない。
 そして今、掌に載せた時、この石は何かを話しかけていた。蓮にではなく、笙子に言いたいことがあるのだ。

「別名アマゾナイト、長石族の中の微斜長石に属する天然石だ。実際にはアマゾンで川周辺では産出されていないけれど。ほら、見てごらん」
 蓮は蛍光灯に石をかざした。キラキラと光が虹色に輝く。笙子はあ、と声を上げた。
「これはシラー効果という現象だ。光を反射してキラキラと輝くアマゾナイトは良質なものなんだ。まだ形を整えてないのに、少し磨いただけでこんな光を跳ね返すのは、いいものだってことだよ」
「お詳しいんですね」

 それはそうだ。学生時代、蓮はあの店でバイトをしていたことがある。というよりも、叔父の魁の探偵事務所に遊びに来ていて、ついでに一階の石屋の店番を無理やりさせられていたというのが正解だ。
「石にはそれぞれ意味がある。この石は別名ホープストーンと呼ばれていて、心の曇りを吹き払って明るい希望をもたらしてくれる力がある。物事をマイナスに考えてしまうようなときには、この石が明るい方へ導いてくれるんだ。それに、心身のバランスを整えるという効果の中には、幼少期から思春期にかけてのトラウマを解決するという意味もある」
 笙子は蓮を見つめた。

 蓮は、この石の効果をもう一つ付け加えようとして、辞めた。
 この石は、環境が変わった時に、たとえば、恋愛が始まった時に、その行先を明るく照らしてくれるとも言われる。だが、舟が相手ではうまくは行かないだろう。期待は持たせたくない。
「もちろん、石が本当にパワーを持っているというわけじゃない。持った人間がどう考えるかということだ」
 蓮さんは優しい、と笙子は言った。誰と比べたのかは聞かなかった。
 それに蓮だって、優しいという言葉に見合うような人間ではないかもしれない。本当に優しい人間にはもっとやりようがあるものだ。うわべを取り繕うことは誰にだってできる。
 舟と蓮は表裏一体のような関係だ。切り離せない。

 やがて、笙子は息を吸い込んだ。
「蓮さん、一緒に行ってくれはりますか? サンタクロースが埋められた場所に」





色んな人物を紹介するのがひとつの目的だったので、ちょっと本来の筋から離れていますが、そんなに大した話ではないので、もうしばらくお付き合いください。謎、というほどのものは出てきませんので……
全体のムードがお伝えできたらいいなぁと思っています。
そう、石の不思議なパワーをお贈りできたら、と思うのです。
もちろん、私も正味パワーストーンなるものを信じているわけではないのですが、それは連の言うとおり、持つ者の問題だと思っています。

さて、いよいよ、埋められたサンタクロースを掘り起こしに行きましょう。
次回は長めかも。終わるかな?
↑終わるわけないやん! 


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Category: (1)サンタクロース殺人事件(完結)

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【雑記・小説】登場人物の声・妄想 

ブログのお友達のTOM-Fさん(Court Cafe BLOG)はいつも面白いバトンを見つけてこられます。
その中でご紹介くださった「メディアミックス妄想バトン」、自分の小説がアニメになったら……というのが面白いなぁと思ったのですが、なかなか内容が濃くて、とても私には無理そうだったので、諦めました(^^)

でも、もう20年?ほども言い続けていたこと、ですが、うちの登場人物のメインである相川真の声は、この人の歌声だと思っている人がいて、真の設定が少し動いても、これだけは変わらなかったなぁと思います。
イメージとしては、結婚したころ…でしょうか?

まずは、お聴きください。


季節はピッタリですが、クリスマスの楽しいシーズンにちょっと物悲しい曲ですみません。
この曲、時々無性に聴きたくなるんです。この曲の、孝蔵さんの声が大好きすぎて、曲の世界と声に浸るのです。
昔(多分、中学生の頃?)まだ音楽を聞くメディアはカセットテープしかなかったころ、親に怒られないように夜中にこっそりラジカセを布団の中に持ち込んで聴いていたものです。
(イヤホンとかヘッドホンとか、普通の家庭にはなかったのです)

村下孝蔵さん。1999年に脳出血で亡くなられたのですが、今でも地味にファンがあちこちに……
私もその一人。弟も好きで(孝蔵さんはギターが上手かったんですよね…・で、ギター小僧たちの憧れだったりもした)、一緒に何回かコンサートにも行きました。
あ、体型はかなりまるっこい人だったので、その辺りは絶対痩せ型の真とは全然違いますけれど、この丸っこいイメージは孝蔵さんの優しさにはピッタリ。
ヒットしたのは『初恋』くらいだったかもしれませんが、他にもアーチストがカバーしている曲がいくつかあります。

私のイチオシは実はあまり知られていない地味な曲……『夕焼けの町』
でも、この曲の中の「美しい」という言葉を聞くと、言葉って飾らないでストレートに言っちゃっていいんだな、それだけでこんなにも伝わるんだと思えます。言霊、って本当だと。
そう、孝蔵さんの歌は、言葉を本当に大事にしている。
難しいことは何も言っていないけれど、じわっと心に沁み込んできます。
ライブの音源があったらいいのですが、他にアップされていなかった……地味すぎて^^;

そして、この曲も大好きな曲……『踊り子』
これは音もいいですね。

最後に。
今年も色んなことがあって、日本はどうなるんだろうって思いながら、1年が暮れていきます。
でもこの曲を聴くとやっぱり心が慰められる。
この曲の似合う日本に、来年は少しでもなったらいいなぁ。
『この国に生まれてよかった』


歌う声と話す声は違うかもしれないので、何とも言えませんが……
真って、そう言えば、あまり歌わないけれど、唄うのは民謡だったりするんでした……
息子はピアニスト(のち、指揮者)。彼も歌う。彼が歌うのは……オペラの曲とカンツォーネ。
そう言えば、ひ孫はロック歌手だった。
妄想するのって、楽しいですね(*^_^*)


全然関係ないけれど。
今年、一番自分でツボに嵌ったこと。
北海道をレンタカーで走っている時、そうか、北海道では「県道」じゃなくて「道道」なんだ!と気が付いた瞬間。
しょうもなくて済みません^^;
あの六角形の看板に書かれた「道道」が何だか可愛くて。
道道

では、クリスマスの贈りもの。また明日

Category: 小説・バトン

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