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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【奇跡を売る店】サンタクロース殺人事件(6) 

【奇跡を売る店】(6)、大団円です。
年内に終わった!! 喜びもひとしおです。
クリスマスを過ぎているけれど、お付き合いくださってありがとうございます。

これが年内最後の記事になります。1月末にブログを始めたので、このブログの1周年はあともう少し先ですが、こんな辺境ブログに遊びに来てくださって、本当に感謝申し上げます。
さっき見たら、コメントは1776、拍手は1818……暖かいメッセージもいっぱい下さって、本当にありがとうございます。皆様のお言葉が、書いている原動力だと、改めて感謝しながら、とても嬉しくなりました。
それに、皆様のブログを巡らせていただいて、色々教えていただくことも多くて、世界がちょっと広がった気がしています。今年1年本当にありがとうございました m(__)m

ちなみに
1776年はアメリカ独立の年、平賀源内がエレキテル(発電機)を発明した年。
1818年はなんと、12月25日にオーストリアのオーベルンドルフの聖ニコラウス教会で『きよしこの夜』が初演された年だそうです。
なんという偶然。

さて、
お正月は、マコトが皆さんに新年のご挨拶をします!
ん? 何?

あのね、ぼくね、タケルと一緒に北海道にいるんだよ!
雪だるまになったり
おみかん、転がしたり
お餅のお化けと闘ったり、いっぱい忙しいの。
それでね、それでね、スケトウダラとか、鮭とか、ホタテとか、イクラとか………・
それでね、あのね、宇宙人がね……・
(ちょっと仔猫が1匹、初めて尽くしで興奮しすぎているようです。では、で~んとタイトルコール!)
【迷探偵マコトの事件簿】マコトの冬休みとX-file、お楽しみに!

あ、その前に、本当の最終回をどうぞ^^;
ちなみに今日は(5)(6)と続けてアップしています。(5)から読んで下さいね(*^_^*)





 クリスマスイヴは忙しい一日になった。
 もちろん、夜は『ヴィーナスの溜息』は例のごとく満員御礼、クリスマスイベントのショウも熱が入っている。
 もっとも世間はただの平日の火曜日だ。にこをいつものように自転車の前に乗せて、堀川通りを南へ下る。
 朝の空気が一段と冷たい。
 結局、まだにこにクリスマスプレゼントを買っていない。ランドセルは正月に渡すことに決めた。クリスマスプレゼントは今日、笙子と一緒に母親が入院する病院に行く前に、付き合ってもらって買うことになっていた。

「よく考えたら、蓮さん、私から調査費を取ってませんよ」
 とは言え、調査らしい調査は何もしていないし、こういう「話を聞いてあげる」「サンタクロース(結果的には白骨死体)を一緒に掘り起こす」「母親と話をするのに立会人になる」に幾ら貰えばいいのか分からない。それは魁の残した調査費用表にも載っていないのだ。
 だから、その代りに、買い物に付き合ってもらうことにした。
 昨日、同じ道を自転車で走りながら、サンタさんに何をお願いするんだとにこに聞いたら、「れんには言わない」と冷たく言われただけだった。こっそりとお寺の奥さんにも聞いてもらってみたが、やはり何も言わなかったらしい。

「やっぱり、教えてくれてもいいんじゃないかな」
 蓮の前に座って、じっと堀川通りの車の流れを見つめたまま、にこはだんまりだ。
 無駄だなと思った。にこを引き取ってから、一度も蓮はにこの笑う顔を見たことがないし、蓮が話しかけても、たまに二語文程度の簡単な答えは返ってくるが、にこから話しかけてきたことはない。
 もしかしたら、いや、多分、俺はにこに嫌われているな、と思う。
 保育所に送り届けて、自転車に跨ってから、去り際にふと振り返った。
 その時、園庭の隅を保育士さんに手を引かれて向こうに歩きながら、にこもこちらを振り返っていた。蓮と目が合うと、びっくりしたような顔になって、すぐに、つん、と目を逸らしてしまった。

『奇跡屋』の扉を開けると、玉櫛婆さんがじろっと蓮を見た。
「お前、あの娘とできてんのかい」
 笙子が朝から来て待っているという。待ち合わせは昼過ぎだったはずだ。何か予定が変わったのだろうか。
「まさか。仕事の依頼だ」
 話を切り上げようとして、ふと婆さんを見る。
「ひとつ聞いてもいいか」
「ほお、お前が前置きなんかするとは、珍しいね」
「どうして親子石のひとつがこの店に残ってたんだ?」
「さあね。魁がいなくなってから覗きに行ったら、事務所の引き出しに残ってたのさ」
「勝手に事務所に入ったのか」
「私の店だよ。魁もお前もただの店子だ。偉そうに言うんじゃないね」
「魁おじさんが買ったものだろう。勝手に取り返して店に並べて置くなんて」
「馬鹿言っちゃいけないよ。引き出しの中に仕舞われたままじゃ、石は自分を持つべき相手と出会えないじゃないか」
 蓮はしばらくじっと玉櫛婆さんを見ていた。持つべき相手と出会う?
 魁は、誰かを待っていたのか。誰を?

 事務所に上がると、笙子が接客用のソファに座って、一所懸命に何かをやっていた。
「はい、後は蓮さんがやってください」
 それはラピスラズリの小さなルースだった。
 ルース、すなわち裸石だ。ラピスラズリは、単一の鉱物ではなく、鉱物学的には主としてラズライト、アウィン、ソーダライト、ノーゼライトが集合したものだ。美しい群青色はウルトラマリンと言われ、様々な国で聖なる石と大事にされてきた。笙子の手にあるのは、小さいとはいえ、金色のバイライトが美しく浮かび上がった石だった。
「どうしてにこの誕生日を知ってるんだ?」
 幸運の石とも言われるこの石は、九月の誕生石だった。

「お婆さんに聞きました」
「またバカ高い金額を請求されただろう」
「この間、石をもらったままになってから、こっちはタダみたいなもの?」
「天河石は君のものだ。石が決めた」
 笙子は蓮の話など聞いていない。
「じゃあ、後は自分で磨いてくださいね。蓮さん、お裁縫できます?」
「裁縫?」
 そんなことはしたことがない。
「ですよね」
 笙子が小さなバックから取り出したのは、京友禅の着物の端切れだった。赤い生地に細かな菊の花模様が描かれている。用意のいいことに裁縫道具一式持って来てある。
「私の言う通りに縫ってください」

 それから約一時間、蓮は小さなお守り袋を作るのに格闘した。もっとも、手先は比較的器用な方だと思うし、小児科医だったとはいえ、人間の皮膚や血管に糸針くらいはかけられるのだが、裁縫となると勝手が違っている。
「これ、母の古い着物の端切れなんです」
 いい子だと思った。もちろん、あれこれと計算高かったり、一方では不思議な発言をしてみたり、ギャップ萌えで世間を賑わせたりしているかもしれないが、若いのだから、まとまりのない所があって当然だ。
 舟の奴、今度会ったらきっちり話をしよう。ちゃんと好きな女ができたら、あいつもあんな喧嘩ばかりしているヒモ生活を辞めるかもしれない。……そう願いたい。

「何かを買ってただ渡すよりずっといいと思いませんか」
「どっちにしても、俺から何かを貰ってにこが喜ぶとは思えない」
「確かに、愛想の悪そうな子でしたね。でも、女の顔って、正直な気持ちが表れているとは限らないですよ。それに、蓮さんからじゃなくて、サンタクロースからの贈り物ですよね」
 それは重々承知している。
 それでも、何とか裏地もきちんとつけて、小さなお守り袋を縫い上げてみたら、もう昼前になっていた。笙子は細い革ひもを結わえて、小さなラピスラズリのビーズ玉で長さを調節できるようにしてくれた。
「これで首からかけておけるでしょ。後はしっかり石を磨いてあげてくださいね。心を籠めて、ですよ」
 瑠璃の深い青。
 ここに奇跡が宿るように。

 実は今日、ヒューストンに向けて出発するという出雲右京と昼食を一緒にする約束をしていた。幸い、場所は蓮の事務所のすぐそばの天婦羅屋だったので、笙子も誘った。
 笙子と出雲は初めまして、と挨拶を交わした。
 店でも会ったことはなかったようだ。
「学会って、こんな年末にあるんですか?」
「いや、学会自体は一月なんですよ。クリスマス休暇は妻と一緒に過ごすことにしていましてね。実は今日まで授業だったのでクリスマスにはギリギリなのです。時差のお蔭で助かりますけれどね」

 実は右京には事実婚となっているアメリカ人の奥さんがいる。仕事でNASAに行っていて知り合ったのだという。お互いの仕事のことを考えて、籍も入れず離れて住んでいる。それでよく続いているものだと思うが、右京にとっては丁度いい距離感らしい。定年したら、どこに住むか、二人で考えるのも楽しいようだ。目下の第一候補はマダガスカルらしい。
「さて、蓮くん、来年こそ一緒に行きましょう。ぜひともエイダに君を紹介したいんですよ」
 いい人ですね、と笙子が言った。
 蓮くんの恋人ですか、と右京が確認した。
 笙子はいいえ、と気持ちいいほどの即答ですっぱり否定した。確かにそうなのだが、照れもなく慌てるでもなく、そんなに気持ちよく否定しなくても、と蓮は苦笑いした。

 右京と別れてからはまず図書館に行き、古い新聞を確認した。
 それから河原町通りを二人で自転車を押しながら歩いた。急いでいるわけでもなかったし、気持ちがまとまる時間が必要だと思った。
「舟のことが好きなのか」
 今さらと思いながら聞いてみたが、笙子はしばらく前を見つめたままだった。
「蓮さんの方が優しいのにね」
「あいつが無茶苦茶なのは知っているだろう?」
「うん。でも、初めて会ったとき、危ない奴らに絡まれているところを助けてくれたの」
 ありがちな出会いの話だ。
「あいつは喧嘩がしたいだけなんだ」

 笙子はぼんやりとした声のまま、ちょっと蓮の弱点を突いた。
「蓮さんも、正直な気持ちを話せない人なんですね」
 そう言って、笙子はしれっとした顔で、今朝のにこと同じように、通りを行く車を見つめている。
 その後は蓮も黙っていた。
 昼間だけは少しだけ陽が暖かい。それでも建物の陰に入ると芯から凍りつくような寒さが昇ってくる。ポケットの中に忍ばせたラピスラズリをこっそり擦ってみると、何だか少しだけ暖かいような気がした。


 大学病院に入院している笙子の母親、安倍清埜、本名彩希子は、笙子によく似ていた。歳を取っても、病に伏していても、可愛らしい童女のような顔をしている。それでも、目を開けると厳しい表情を浮かべた。蓮を見たからなのかもしれない。一体、誰が娘と一緒にやって来たのかと思ったのだろう。
「見舞いになんか、いちいち来んでもええって言うたのに」
「うん。でも今日は大事な話があるん」
 そう言って笙子は蓮を紹介した。
「この人は探偵さん。釈迦堂探偵事務所の釈迦堂蓮さん」
「探偵?」
 彩希子は怪訝そうな顔をした。蓮もあれ、と思った。

 十五年前のことを忘れてしまっているのかもしれないが、釈迦堂探偵事務所を自ら探し当ててきたのなら、この名前は記憶に引っかかってもいい、珍しい名前のはずだ。
「お父さんを見つけてくれたんよ」
 彩希子はますます不可解という表情になった。それはそうだろう、彼女の夫は、自分たち親子を捨てて他の女のところに走ったことになっているのだから。
 だがすぐ先に、彩希子の顔は不思議な表情になった。ほっとしたような、そんな印象だった。
「お父さん、どこにおったん?」
「神社の土の中」
 はっとした顔になり、それからしばらく天井を見つめたまま、彼女は涙を流した。静かな深い涙だった。

「一緒にサンタクロースの衣装と、お酒の瓶が何本か埋まっていて、お父さんはその上にいたんや。私、お父さんがサンタクロースの衣装を埋めているところを見てしもうたんやね。小さかったし、サンタクロースの衣装のイメージだけが残ってて、だからお父さんがサンタクロースを殺しちゃったんだと思ったのかも。でもそれはもうひとつの怖い記憶を消すための混乱だったのかもしれへんと思う」
 笙子の声は思ったよりもしっかりとしていた。
「警察の人がね、十五年前に幼い女の子が何人か続けて殺されるという事件があって、犯人が捕まらないままになっているんだって教えてくれた。さっき、蓮さんと一緒に図書館に行って調べてきた。お父さんはもうほとんど骨だけになってたから、死因までははっきりとは分からへんけど、肋骨に幾つか傷があって、刺されたんだろうって。お母さん、私、お父さんが『笙子、逃げろ』って言った声を覚えてる」
 笙子の母親はほうと息をついた。

 長い沈黙の後、ゆっくりと言葉を選ぶようにしながら話し始めた。
「お酒をやめて欲しいって、何回も言ったんよ。離婚の話も何回も出た。お父さんはその度に止めるって言ったけれど、その時だけやった。それでもいつもは優しい人だったんよ。きっと、私が演奏会や家の行事やらで家を空けているのが、お父さんには不満で、寂しかったんやって、今になったらそう思うけど、あの頃の私には分からへんかったんやね。お酒飲んでるお父さんとは喧嘩にしかならんくって。おじいちゃんはお父さんが浮気してるって何度も私に言ったけど、それだけは信じられへんかった。けど、あの年、十二月の始めにお父さんがお酒の席で仕事相手の人に怪我をさせてしまって、会社を辞めることになって、いつもより深刻な離婚話になって……」

 蓮は笙子の様子を窺っていたが、笙子はピクリとも動かず、じっと話を聞いていた。そう決めていたのだろう。
「お父さん、本当にお酒を辞めるから、って、それからしばらく別々に暮らしてちゃんと仕事を見つけて、それから迎えに来るからって、そんな話になってたん」
 だから笙子はあの頃、よく母親の実家の方にいることになっていたのだろう。笙子の記憶は所々笙子なりの解釈が混じっていたけれど、大筋としては合っていたようだ。

 それから彩希子は少しだけ表情を和ませた。
「サンタクロースには因縁があってね。笙子が生まれた年に、クリスマスに重なってこっちの演奏会があって、お父さんはせっかくサンタクロースの衣装を借りてきたのに残念がってて。笙子はまだ赤ちゃんだったのにね。で、その衣装で私と笙子を安倍の家まで迎えに来たんよ。そうしたら、おじいちゃんが無茶苦茶に怒って。おじいちゃんは、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって気持ちだったんでしょうね。うちは雅楽の伝承者の家系や、サンタクロースが何や、って。お父さんったら、意固地になって、毎年衣装を借りてきて、最後はついに買っちゃってた。笙子のためやって。本当に笙子のこと、大事やったんやって思う。いつも笙子を楽しませようと思ってたんよ。お酒には負けちゃったけど」

 蓮は彩希子に、叔父の探偵事務所に依頼に来た理由を尋ねた。
「いいえ、私は行ってませんけど」
 1999年12月18日、依頼者は安倍清埜。その依頼内容は書かれないまま、ノートの隅に石の絵が描いてあった。そして、その上から名前を消して、新しく安倍真伍の名前が書かれていたのだ。安倍真伍の依頼は、娘の夫の浮気を確認してほしいということだった。いや、正確には、そういう報告書を作ってくれということだった。
「そうですか、あれは父が……」
 彩希子はしばらく口を閉ざした。

「夫が失踪した時、私はしばらく訳が分からなくて、鬱のような状態になっていました。失踪なのか、何か事故に巻き込まれたのか、何もわからなくて、警察にも何度も行きました。気持ちもそぞろで、ふわふわしていて、演奏中に倒れたりして、演奏活動も幾つもキャンセルして。その時に父から、夫が水商売の女性と浮気をしていて一緒に姿を消したという、その報告書を受け取りました。こういうことやから、もう忘れてしまいなさい、と言われました。笙子もいるんやから、しっかりせんと、と」
「あなたは信じたのですか?」
 彩希子は少し微笑んだ。
「いいえ。信じてあげましたけれど。だって、夫にはそんな甲斐性はなかったと思います。ただ、父はそんな芝居を打つほどに、心配してくれていたんです。だから、信じたふりをしました。でも、私が信じなかった理由はそれだけではないのです」

 彩希子は身体を起こそうとした。笙子が慌てて助けようとする。細くやつれた身体だが、まだ気持ちはしっかりとしているように見えた。
 その引出しをあけて、と彩希子が言う。笙子は言われるままに床頭台の引き出しを開けた。
 そして、中から何かを包んでいる桜色の袱紗を取り出した。
 袱紗を開いて、蓮も笙子もあっと声を上げた。

 三つ目の天河石だ。
「これは……」
「その年の衣替えの季節に、夫の服を仕舞ってあった箪笥から見つけました。手紙が付いていたんです。手紙というよりも、何かの下書きみたいな感じで、その石を包んだ紙に書いてあった。必ず迎えに来るから、これを持っていてほしい。そうしたら、笙子と一緒に三人で、笙子の石を迎えに行こうって。意味はよく分からなかったんですけれど、大事なものだ、これはきっとあの人の本当の気持ちだと信じたんです」

「では、最初に叔父の事務所にやって来た12月18日の安倍清埜さんは……」
「清埜はもともと夫のペンネームだったんです。それを私が貰いました」
「ペンネーム?」
「学生の頃、あの人、詩を書いていたんですよ。上手ではなかったと思いますけれど。私たちが付き合うきっかけになったのは、熱烈なラブレターでした。歌の詩みたいな」
 蓮は笙子と顔を見合わせた。では、やって来たのは彩希子ではなく、笙子の父親、三澤正興のほうだったのだ。正興が三澤ではなく安倍と名乗った真意は分からない。ただ、自分と妻を結びつける名前を、魁に名乗ったのだろう。

 笙子はポケットから自分の天河石を取り出した。
「それは……」
 今度は彩希子が驚く番だった。
「蓮さんの事務所は、『奇跡屋』っていう石屋さんの二階にあるんよ。私、そこでこの石を貰ったん。これは私の石やって」
「三つ目の石は、お父さんが持っていました。持ったまま、土の中でじっと十五年間、眠っておられた。いや、土の中で、あなたたちに会いたいと闘っておられた。この石は親子石なんです。もとはひとつの石で、三つに割れた、もしくは割ったものだ。だから強い力で惹かれあうんです」

 笙子の父親は、酒ともサンタクロースやらの世俗とも縁を切って、静かに考え、仕事も探して、もう一度家族三人でやり直したいと思っていたのだろう。
 多分、その日、婆さんは何かの理由で魁に店番を頼んで留守をしていたのだ。年末で忙しい時期だ。十五年前と言えば、まだ婆さんは花街でも顔役だった。
 魁は三澤正興から身の上話を聞いて、石を託したに違いない。

 まず夫婦二人できちんとやり直しなさい。そして、三人で一緒にお嬢さんの石を迎えに来てください。それまで私がこのお嬢さんの石を預かりましょう。困ったらここに帰って来てもいいんですよ。私が、あるいはこの石があなたの支えになるから。
 叔父が言いそうなことは想像できた。石を渡してしまって終わりにするのではなく、繋がりを感じていてもらいたかったのだ。家族だけではなく、ここにも心配している誰かがいることを伝えたかったのだろう。その印として、依頼者の名前と石の絵を調査記録に残していた。叔父にはそれだけで十分だったのだ。

 だが、数か月後、笙子の祖父がやって来た。叔父は何か違和感を覚えたに違いない。だから、安倍清埜の依頼の上にわざわざ名前を書き替えた。
 この男を探して欲しい、という依頼ではなかったのだ。叔父は、娘の哀しみに終止符を打ってやりたいという安倍真伍の気持ちは汲んでやりたいと思った。だが違和感は消えなかったのだろう。三澤正興が、あの石を受け取って間もなく女と逃げるなんて信じられないと。

 依頼を受けたわけではないから行動を起こすことはできない。だから、その違和感を忘れないために、わざわざ消した跡を残したのだろう。
 もしもあの男の行方を捜すとしたら、それは叔父のするべきことの範囲を越えている。小説によく出てくるお節介な探偵ならそうするかもしれないが、よく知りもしない家族の事情を掘り返すことにもなりかねない。叔父は、現役刑事であった頃に、真実を突き止めようと越権行為をして、何度も痛い目にあってきていたのだ。
 だから、待っていたのだろう。いつか石が結び付けてくれる絆を。

「お母さん、私の知りたいことはひつとだけやねん」
 笙子がぴしっとした声で言った。
「お父さんのこと、愛してたん?」
 三澤彩希子はふと目を伏せた。
「嫌いやったら、とっくに別れてたよ。十五年も、三澤のままで待ってへんかった」
「そんなら、ええねん」
 笙子は頷いた。それだけでええねん、ともう一度確かめるように呟いて、そしてあっさりと立ち上がる。

「ほんなら、お母さん、私もうリハーサルに行かんと」
「『華恋』のか」
「知ってたん?」
「知ってたよ。笙子のことは何でも知ってる。笙の演奏家になって伝統を守って欲しいって気持ちは今でも強いけど、だから笙子に嫌われてもと思って厳しく教えてきたけど、最後は、笙子が一所懸命になれるものを選んで欲しいって思ってる」
 笙子は答えずにマフラーを巻いて、じゃあと言った。彩希子は頷いた。
 蓮を促して出ていきかけてから、ふと足を止める。
「明日、警察にお父さんとお父さんの石を迎えに行ってくる。お母さん、どうする?」
「一緒に行こう。外出できるか、聞いてみるね」



「てことは、犯人はまだ捕まってへんて言うことやん」
 クリスマスイブの朝の新聞には、神社の境内から掘り出された白骨化した遺体のことが載っていた。もちろん、『ヴィーナスの溜息』でもちょっとした話題になった。
 笙子がわざわざライブの前に『ヴィーナスの溜息』に寄って、あの時はお騒がせしました、蓮さんのお蔭で事情が分かりました、と挨拶をして行ったのだ。

「そんで、これ、遺体の方が笙子ちゃんのお父ちゃんやったんでしょ? じゃあ、笙子ちゃんが見たサンタクロースは?」
「馬鹿ね、それは衣装だけだったのよ」
「じゃあ、笙子ちゃんのお父さん、何でサンタクロースの衣装を埋めてたわけ?」
「ただ酒を運ぶのに使ったんじゃないの。妻と子のためにもうお酒は絶つ、って決心したのよねぇ。愛よねぇ。私には絶対無理だけど」
「あんたの酒は陽気だからいいのよ。しかも、どんなに飲んでも、ざるみたいにこしてるだけじゃないのよ」

「でも、これは儀式なんじゃないの」
「儀式?」
「酒とか過去とか、あれこれ埋めて、自分を新しくする儀式よ。だから神社の境内で誓ったんだわ。なんか、分かるわぁ」
「笙子ちゃん、けなげやったわねぇ。今度うんとサービスしてあげよ」
「結局、それで犯人は? 笙子ちゃんのお父さんを殺して埋めた犯人。つまり、十五年前の幼女連続殺人事件の犯人? 笙子ちゃんのお父さんは笙子ちゃんを守ろうとして殺されちゃったんでしょ」
「こんなやつ、死刑よ、死刑。生きたまま埋めてやったらええわ」
「ちょっと、怖いこと言わんといて。クリスマスイブなんよ」
「十五年も経ってたら、もうお宮入り間違いないわよねぇ。時効がなくなったとはいえ……」

 多分、父はあの日も酔ってたんですよね。だから私を逃がすのに精一杯で、自分はやられちゃって。結果的に自分の掘っていた穴に埋められて。
 笙子は声の震えを押さえていたが、彼女の静かな怒りが蓮にも伝わって来た。

 話題はそれ以上長くは続かなかった。看板の灯りをつけた途端から、怒涛のような忙しさになった。蓮も全く立ち止まる時間がないくらいに、カウンターとテーブルを往復した。この日ばかりは、たまに客との会話にも参加しなければならなかったし、一、二杯の酒の相手もしなければならなかった。
 それでも、何となく、笙子のことは大丈夫だという気がした。彼女は結局打たれ強い、その力を秘めている気がする。

 結局、空回りして前に進めないのは俺だけか。

 事もあろうに、その日、舟がどうやらその手の相手の一人と『ヴィーナスの溜息』にやって来た。相手の男はきちんと上等のスーツを着ているが、目つきからは只者ではない。ヤクザの幹部といった風情だった。
 蓮は丁度カウンターに入っていた。
 わざとらしく身体を引っ付ける二人に、蓮は思わず水をぶっかけてやろうかと思った。それでも、海との会話のことは聞けそうになかった。

「これ、俺の兄ちゃんなんや」
 へぇ、と相手の男は低い声で相槌を打っただけだった。
「そういや、笙ちゃんからの依頼、無事に完了したみたいやん。どうせ蓮、ただ働きやったんやろ」
 舟はもうほとんど自力で座っているようには見えない。
「お前、ええ加減にせぇよ。どんだけ飲んでるんや」

「あら、珍しい、蓮の関西弁」
 ママが煙草を燻らせながら言う。
「うんにゃ。蓮はいつも関西弁やで」
「店では標準語しか聞いたことないわねぇ。それだけ、舟には心を許してる、ってことなんね」
「俺も、蓮には心を許してるんやぁ」
 ふにゃふにゃで舟が言う。いらっとして蓮は低い声で答えた。
「関係ない。従兄弟だからだ」
 海には言えても、俺には言えないことがあるくせに。

 あの日の朝、蓮は舟に叔父の描いた石のような三つの印を見せた。舟は直ぐにそれは天河石の親子石だと言った。
 これ、魁の石や。大きいのが魁、中くらいのが蓮兄ちゃん、で、少し小さいのが俺。でも、蓮兄ちゃん、あの頃、グレてたやん。一緒に住もうって魁が言ったのに、いややって断ったんやろ。ほんであの暴力和尚のいる寺に行っちゃって。せっかく魁が石を三人のためにって、置いてたのに。
 舟は父親のことを親父とかパパとか呼ばずに、魁とファーストネームで呼んでいる。魁がそう仕向けたようだ。

 グレてたって、小学生の時のことだ。自分にだけ親がいないのが気に入らなかった。それならいっそ、まるで関係のない場所に住みたいと思った。……ような記憶がある。もっとも、小学校三年生の自分が、そんなに大きなことを考えていたわけはなく、恐らくただその瞬間に何かが気に入らなくて、魁にあたっただけなのだ。
 しかも、その時、舟は三歳だ。何も覚えているわけがないくせに、まるで自分がその現場に言わせたように話すのが、ちょっとだけ蓮の気に障った。

「でも、石と俺のお蔭で一件落着。あとは、幼女連続殺人犯を捕まえなくちゃね~」
「石がどうした?」
 渋い声のヤクザだ。こんな騒音の中でも下から響いてくる。
「俺の親父ね、石屋の二階で探偵事務所してたわけ」
 あ、今はこの人が留守番探偵ね、と蓮を指す。
「探偵事務所に相談に来るやつって、ちょっとこことここがやられてるやん」
 舟は胸と頭を指した。
「で、たまに切羽詰った顔してる依頼者には、石をお守りや言うて渡しとったみたい。その石がねぇ、石屋の婆さんの念力ですごいパワーを発揮するんやなぁ。ドラゴンボールみたいやろ~」
 魁が本当に石の力を信じていたのかどうかは知らないが、少なくとも石の力を信じることで、人が前に向かって歩けるならば、それでいいと思っていたのだろう。

 舟はヤクザの腕に絡み付きながらしゃべっている。ヤクザはしょうがない奴だと言わんばかりに舟の身体を抱き止めている。
 どっちでもいいが、殴ってやりたいと蓮は思って、カウンターの内側で拳を握りしめていた。わざわざここに来て絡むな、と言いたい。

 その時、ポケットで携帯が震えた。
 少し時間が開いた時に裏で確認すると、海からだった。
< 昨日はごめんね。ちょっといらっとしてて。今日は急患で、朝までかかりそう。明日、会える? 和子ちゃんのことも相談しないとあかんし。
 舟のことを相談してくれと思ったが、蓮はいつものように短い返信を送った。
< 了解。じゃあ、明日、うんぷで。
 うんぷは、病院の近くにあって、いつも蓮と海が夕食兼飲みに行っていた店だ。運否天賦から取った店名らしい。同世代の若者がやっている。

 クリスマスイブはショウが終わる十一時で開放してもらうことになっていたが、予定が変わったから最後までいると言うと、ママは抱きつかんばかりにして「助かるわ~」と言った。その代り、明日は早めに切り上げててもいいですか、と断っておく。
 店内に戻ったら、舟はいなかった。あのヤクザとクリスマスイブをいちゃついて過ごしてやがるのか、と思ったら腹が立ってきた。全く、女でも男でもお構いなしだ。
 だが何より、舟の言うこともやることも、ちゃんと理解できていない自分に最も苛ついていた。
 いや、何となく、分かっているのだ。それを舟が自分に言ってくれないことに苛ついていた。
 舟は、魁の行方を捜している。だから、危ない奴らに絡んでいっている。
 舟が蓮に何も言わないのは、蓮には和子がいるからだ。和子にもしも危険が及ぶとしたら、たまらないと思っているのだろう。

 店が終わって、例のごとく飲みに行く話になった。
 イベントの日に店がはけた後、この店の打ち上げの場所は決まっている。人の家のような店で、実際にママの兄弟分、いや姉妹分にあたる人の家兼店だった。人の家に上がり込むような感じで、昼まで飲むのも食べるのも、踊るのも歌うのも、寝るのも自由というところだ。
 誘われて、少しだけ顔を出そうと思ったが、和子に渡すラピスラズリがポケットの中に突っ込んだ手に触れた。
「済みません、今日は帰ります」
「あらぁ、誰かいい人と待ち合わせ?」
「ええ、サンタクロースの仕事があって」

 本当に和子が欲しいのは、誰か、自分を一番に考えてくれる誰かが傍にいることだということくらい、蓮にも分かっている。
 親に捨てられたのは、蓮も、和子も同じだった。
 だから、蓮は和子と一緒にいる。

 自転車を押しながら鴨川を渡ると、雪がちらついてきた。
 今年も暮れていく。新しい年が来たら、和子と一緒に初詣に行こう。
 どうせ和子は楽しいとか嬉しいとか言わないけれど。
 携帯が震える。
 コンクリートの橋の欄干に自転車を凭れかけさせて、冷たい指で確認する。
< 星が綺麗だな。
 蓮は空を見上げた。雲が少しかかっているが、切れ間に星があるのだろう。街は明るくて、多くの星は見えない。もしもどんなに遠くも小さなものも見えたら、この空は暗い所がないくらい星が瞬いているのだ。
 それでも、街の灯りにもかき消されずに瞬く数少ない星が、愛おしく思える。
 あの男が住んでいる大原の村では、多分もっと多くの星が見えるだろう。

< 見てるよ。
< 何してる?
 電話をかけようかと思った。だが、声を聞けば心配になる。顔も見たくなる。
 俺は、やっぱりどこか変だな。色々なものに捕らわれている。
< 橋を渡ってる。
< 早く帰れ。風邪ひくぞ。
 人はみんな不器用だ。上手く伝えられない心を持て余す。恋人でも、家族でも。

 すぐにもう一度、メールが来た。
< おやすみ。
 しばらくじっと白い画面に浮かぶ文字を見つめていた。何かもっと気の利いた言葉を言いたかったのに、何も出てこなかった。
< おやすみ。
 蓮はしばらく橋の欄干に冷たい身体を預け、鴨川の流れを見つめていた。
 粉雪がちらちらと川面へ落ちていく。
 笙子の歌声がまだ心に残っていた。

あたしには分からない言葉がある
愛とか恋とか、まるで異国の言葉のよう
ただあなたを想うと
この胸は苦しくて切なくて
どうしようもないのに
心の中には真っ白な別の世界があるように
充たされている




 朝起きたら、粗い木彫りの小さな仏が寺に届いていた。
 円空仏のように勢いのあるノミの跡だが、どこかに優しさが沁み込んでいた。
 そのノミの跡を指で触れるだけで心が落ち着いた。
 お前が必要だろうって、早朝に大原から届けに来たぞ。
 何が伝わるのだろうと蓮は思う。聖夜には魔法がかかっている。
 蓮はそれを笙子と彩希子に届けて、十五年も土の中で石を握りしめて、家族を待っていた三澤正興へのせめてもの供養にしてもらおうと思った。

 和子はいつものようにむすっとした顔のまま、首にラピスラズリの入ったお守り袋を下げて、自転車の前でヘルメットを持って蓮を待っている。
 蓮は今日も和子を自転車の前に乗せて、堀川通りを下る。

 年が明けて間もなく、『華恋』のメジャーデビューが報じられた。
 デビュー曲は『道』、そしてそのカップリングになっている新曲に、蓮は度肝を抜かれた。
『あたしは知っている』
 この曲には笙子の過去と共に、逃げ得は許さない、時効廃絶に伴い更なる捜査協力を求めるという警察からのメッセージがつけられて、話題を呼んだ。

「いやぁ、あの子、やっぱりぶっ飛んでるわねぇ」
「どこか不思議ちゃんだものねぇ」
「でも俄然、応援しちゃうわぁ」
『ヴィーナスの溜息』はまたもやその話題でもちきりだった。

 蓮はどいつもこいつも、と思わず悪態をつきながらも、笙子の決意は怖いくらい清々しいと思った。舟とあの子はどこか似ているのかもしれない。
 犯人が出てくるかどうか、笙子は囮になるつもりなのだ。もしかすると、その男は玉櫛婆さんのかけた石の呪いで、どこかでのたれ死んでいるかもしれないけれど。
 何もかもこれからだ。あの三つ揃った親子石の力が過去を打ち砕いて行くだろう。
 天河石、アマゾナイトの力、それは過去のトラウマを打ち砕き、前に進む道を示すこと。未来の希望を見せるホープストーンなのだから。

あたしは知っている
パパを殺したその男の顔を
あたしは知っている
パパがどれくらい
あたしを愛していてくれていたかを


【奇跡を売る店】サンタクロース殺人事件・了……または、続く
もう1話、エピローグに「真実」があるかもしれません。続きは『サンタクロースの棺』で。




さて、この物語、全く新しい登場人物たちでお送りいたしました。
クリスマス企画として、もっと短いお話(前後編)でお送りする予定が、あまりにもキャラたちが濃くて、長くなってしまいましたが、お楽しみ戴けましたでしょうか。

私の中では、真を幸せにする企画ではありますが、実際は真シリーズとは独立しております。
設定の一部(寺に住んでいるとか、両親がいないとか、叔父(真シリーズでは伯父)が失踪しているとか)は被っていますが、あまり関係ないとも言えます。蓮と舟は、足して2で割ったら真に近いけれど。

書きたい石はいっぱいありますが、またいずれ、ゆっくり石を語りましょう。
巨石ではなく、こちらは小さなパワーストーン。
でも、石の力を引き出すのは、自分自身なのですね。

この設定のプロローグとして書いたものですが、本編を書く予定は今のところありません。
でも、単発で登場するかもしれません。真シリーズがだんだん苦しいお話になっていくので。
ちなみにもともと考えていたお話は、にこと蓮の話。だから次の主人公はにこ、かも。
笙子と舟も、実はいいカップルなんじゃないかと思ったりしています。
あ、笙子は、きっと笙もやると思いますよ。
ロックと雅楽、それもまたいいじゃないか、と。

さて、笙子の名前と設定は、大昔のドラマ『不良少女と呼ばれて』から取りました。
リアルタイムでは見ていなかったのですが、大筋は知っていたので、ちょっと頭に残っていて。

笙子の書いたぶっ飛びの新曲
「誰よりもあなたが知っているはず
 自分がしたことを」
何て感じの歌詞をくっつけようと思ったけれど、語呂が悪いし、パパへの愛で終わりたかったので端折りました。
でも、歌のBサビくらいにはこの言葉がついているんじゃないかな。

最後に登場した、名前も出てこない、大原に住む仏師こそ、竹流が原型になっている人物なのですが、今回はチラ見だけでした。多分、設定はこの人が一番、当の竹流に近い。ヴォルテラの御曹司の予定なので。
でも、結論が違う。
蓮とどんな関係って?
えーっと
隠すほどでもないので白状。

蓮は、自分がある女性と間違いを犯したので、海と自分は婚約を破棄したと思っている。
海は、蓮には好きな男がいるので、蓮と自分は婚約を破棄したと思っている。
(それに実は、海は結婚によって仕事をセーブしたくなかったんですね。今の距離が心地いいと思っています。)
で、その真実は……気持ちはものすごくあるけれど、エッチな関係ではないのです。
でも、蓮はあれこれ心配ごとが多すぎて(舟も和子もいるし、魁も探したい気持ちもある)……

天麩羅屋も実際にあります。あの頃は、ランチは500円だった……
ボリュームもあったけれど。
味噌汁が美味しかったなぁ。


では皆様、よいお年を!!
お読みくださいまして、本当にありがとうございます(*^_^*)

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Category: (1)サンタクロース殺人事件(完結)

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【奇跡を売る店】サンタクロース殺人事件(5) 

【奇跡を売る店】(5)です。
わはは~ 多分、笑ってますよね^^; 長くてびっくりなので、2回に切りました。
クリスマスの話を来年に持ち越したくないので、今日中に2話分ともアップしますが、ゆっくり冬休みにでもお楽しみくださいませ……^^;^^;
実は、下書き(というのか推敲前本体)を書き起こした後で、ワンシーン加えちゃったのです。
それは笙子たち『華蓮』のライブシーン。しかも、ちょっと歌詞を書いてみました。
詩は学校の授業以来書いたことがないので、ダメダメですが、笑って読んでくださいませ。
あんまりロックな曲じゃないのですけれど。まるで演歌??
こんなことをしているから、長くなってしまっているのですね。

お正月には【迷探偵マコトの事件簿】マコトの冬休み:マコト、初めての北海道~X-fileをお送りします(*^_^*)
タケルと一緒にスキーだよ\(^o^)/
こちらもお楽しみに。





どうしても決められない時
あたしはあたしの中にいる
本当のあたしに聞いてみるんだ
あたしはどうしたいの
でもあたしは答えない
答えを知らないんだ
誰も教えてはくれなかったから
それなら
あたしは答えを探しに行こう
だからあたしは
あたしだけが知っている道を行く

 きぃーんと腹に食いついてくるサウンドだ。
 ボーイッシュに髪を刈り上げたギタリストの絃は暴れるヴォーカルに見事に絡みつく。そのもがく様なヴォーカルとギターの闘いを支えているベースの音は、海鳴りのようにも聞こえる。ステージまで距離があるにもかかわらず、正統派美人ベーシストのくっきりとした顔立ちは人目を惹く。
 そしてドラムを叩いているのが、セクシーダイナマイト系のリーダーだった。確実なリズムだが、ヴォーカルの癖を読んで揺らぐときには心地よく揺らぐ。このグループの曲を全てアレンジしているのはキーボードの優等生風美女だった。蓮も最近知ったのだが、音大のピアノ科の学生で、国内のコンクールで入賞したこともあるのだという。

 そして、彼らをバックにして、まるで高校生のような幼い顔をした笙子が立っている。登場した時も、熱狂する聴衆に目を合わせまいとするかのように、視線をちょっと下に向けていた。それなのに、ドラムのスティックが鳴った瞬間、きっと目を上げた笙子に蓮はびくっとした。

 彼女の咽喉から迸る声は、胸のど真ん中に飛び込んできた。音がはっきりと聞こえる。リズムやメロディーもいいが、この自己主張が強そうなサウンドの波の中で、笙子の声は明瞭に聞き取れた。
 高音が確かな高さに一気に駆け上がる。その音を聴きたいと願うところに、一瞬で連れて行かれる感じだ。そして、その高みで、彼女と同じ景色を見る。
 技術と言うよりも、これは天性のものだと思った。もちろん、何らかのトレーニングはしているのだろうが、人を惹きつける力は、やはり特定の誰かに与えられた天賦のものだという気がする。

 それにしても、西田幾多郎か坂本龍馬みたいな歌だ。『道』というタイトルだと紹介されていた。
 歌詞はすべて笙子が書いているのだと聞いた。曲はそれぞれが持ち寄るらしい。
 蓮はふと、スタンディングで身体を揺らしながら熱狂する聴衆を見回した。若い男女ばかりだが、中に明らかに異質な連中が混じっている。
 いかにも業界人らしい連中だ。『華恋』を吟味している。いや、あるいは既に争奪戦なのかもしれない。
 オールスタンディングのライブハウスは満員だった。外の寒さなど全く入り込むすきまがないくらい、ここには熱がこもっている。
「あたしこの歌好き!」
 誰かが近くで叫んだ声が聞こえた。叫ばないと聞こえない。いや、叫んでも聞こえない。

 その時、一瞬、サビに移る前に、笙子が歌を止めた。
 歌詞を忘れたのかと思った。
 聴衆はあれ、という気配を見せた。
 だが、メンバーはそのまま、まるで促すように演奏を続けている。あるいはそういうアレンジだったのかと思った途端、笙子の声がいきなり高い所から振り下ろされるように胸に飛び込んできた。
 あたしだけが知っている道を行く
 後で、笙子に坂本龍馬のファンかどうか、聞いてみようと思った。

 それにしてもおかしなことになっている。
 蓮は隣に立っている海を見る。
 海の外観には特別目立つところはない。化粧気もないし、特別優れたところなどない。忙しくなってくると、私って不細工になってるよね、とよく彼女は言っているが、確かにいささか険しい顔をしていることがある。ただ、笑うと可愛らしい。
 海の目は笙子に釘づけだった。この店に入った時は、周囲を見回して、自分の服が地味だ、絶対浮いてるよねと心配していた海も、今ではもう何も気にならなくなっているようだ。

 海の向こうに舟が立っている。曲の合間に舟が海に何か囁いている。
 周囲のざわめきで蓮には聞こえない。この二人、こんなに仲が良かったか。
 確かに、蓮と海が付き合ってた頃、舟には紹介してあった。
 初めて会ったとき、可愛い子だね、と海は言った。可愛いなんてとんでもない。中学生の時には既に女を経験していた。男の方はいつが初めてだったのか知らない。

 笙子に連絡をして会って話したいことがあると言ったら、ライブに来て欲しいと言われた。しかも、舟を連れて来てほしいと言う。
 無理な注文だと思いながらも、朝、事務所で別れた舟に連絡をしたら、普段は滅多に電話に出ないやつなのに、珍しく出た。海ちゃんと一緒ならいいよ、と妙な提案をされた。
 海は忙しいから無理だろうと言ったが、一応連絡してみたら、海も珍しく二つ返事だった。
 問題なのはむしろ蓮のほうだった。この年末の忙しい時期、急に休みをくれと言って休めるだろうか。と思ったら、ママはあっさりOKしてくれた。

 蓮、あんたは働き過ぎよ。
 確かに、普段のシフトでは蓮の休みは日曜日だ。にこと一緒にいる時間を作ってやろうと思ったのと、寺は日曜日が何かと忙しいので、手伝うためだった。日曜日は観光客は多いが、探偵事務所の依頼者は少ないし、丁度良かった。いや、にこは休みだと言っても、蓮を無視して一人遊びしているし、依頼者は日曜日でなくても少ないのが実情なのだが。
 この十二月、蓮は自ら休みを返上して働いていた。

 時々、うねる様な音の波の中で、海の身体が蓮に触れる。だが、こうしてすぐ側で身体が触れても、蓮はもう何とも思わなくなっている自分を感じる。学生時代はちょっと手や腕が触れるだけでドキドキしていた。海も同じなのか、婚約を解消してからの方が、現実の身体の距離はずっと近い。二人がよく通っている行きつけの飲み屋でも、皆が不思議がる。逆にベッドを共にすることがなくなってからのほうが、居心地は悪くないのだ。
 三人はステージから離れた扉の近くに立っていた。客席側は暗いので、笙子が自分たちに気が付いているかどうかは分からなかった。

「みんな、調子はどうだい?」
「絶好調!」
「まだまだ行けるかい?」
「どこまでも!」
 聴衆は声を揃えている。この掛け合いはお決まりらしい。
『華恋』のMCは笙子ではなく、正統派美人、ギタリストの夏菜が務めている。笙子は、歌うのはともかく、こんなところで器用に話すのは無理だということらしい。
「じゃあ次は、クリスマスにちなんで、恋の歌をお贈りするよ。と言っても、ちょっと切ない歌なんだ。だからクリスマスイヴには歌わないから、今日が今年の聞き納め。みんな、ラッキーだったね」

 皆が笑っている。だが、ギター一本のイントロが始まった瞬間、聴衆は静まり返る。俯いていた笙子が顔を上げた。
 その時、笙子の目は真っ直ぐに蓮たちのいる方向を見ていた気がする。
 見ていたのがそこではなくても、何かがすとん、と笙子の中で腑に落ちたというのか、変わったような気配があった。笙子は、始めてステージの前方へ歩いてきた。歩いてきて、まるで目の前の誰かに語りかけるように歌い始めた。

華やかに街の灯りが揺れる夜
誰かに呼び止められた気がして
ふと足を止める
振り返っても誰もいないことは
知っているのに
氷の上に落ちる雪は
そのまま氷になる
あなたに届かないこの心と同じ
あたしには分からない言葉がある
愛とか恋とか、まるで異国の言葉のよう
ただあなたを想うと
この胸は苦しくて切なくて
どうしようもないのに
心の中には真っ白な別の世界があるように
充たされている

 曲がサビに入る前に、ふいと舟が出ていった。海が気が付いて、一瞬ステージと蓮を見てから追いかけていく。
 蓮は歌詞に後ろ髪を引かれるような思いで、少し遅れてから二人の後を追った。
 ライブハウスのざわめきは扉一枚で非現実となる。狭くて暗い廊下には誰の影もないが、階段を上った先から街の灯りと賑わいが降ってくる。階段に二人の脚が、まるで寄り添うように見えいていた。
「後、頼むね、海ちゃん。やっぱり、あぁいうの、苦手なんや」
 蓮は階段の方へ歩きかけて足を止めた。

「舟くん、私、舟くんが来るって言うから、来たんよ」
「分かってる。ねぇ、海ちゃん。俺、今誰よりも信頼してるの、海ちゃんなんや。だから、蓮にも何も言わんといて。またいつか、自分から話すから」
 じゃあ、という舟の声と階段を上っていく足音が聞こえた。
 思わず、蓮は冷たい壁に背中を引っ付けていた。
 しばらく止まったままだった海の脚が階段を引き返してくる。

 海は蓮に気が付いてぴたりと足を止めた。
「何の話や」
「知らん」
「海」
 珍しく海は怒ったような顔をした。蓮もはっと言葉を呑み込んだ。
 婚約を解消してからはずっと、釈迦堂君、如月さんと苗字で呼び合っていた。始めは意識していたが、今では少し慣れてきたところだった。もっとも滅多に名前で呼びかけることはないから、蓮の心の中では、まだ海は海だった。
 恋人同士だった昔には戻らないよ、とでも言うように、海がはっきりと蓮に呼びかける。
「釈迦堂君はいつも、自分でいっぱいいっぱいやもんね。私も帰る」
 いつの間に、海と舟が個人的に会話を交わすようになっていたのだろう。しかも、蓮にも話せないような大事なことを分かち合う間柄だということなのか。

 蓮はライブハウスの中に戻る気がしなくて、そのまま冷たい廊下で立ちすくんでいた。ライブハウスの熱を持ち出していたから、身体はまだ火照っていた。それでも十二月の暮れの空気は残酷なまでに冷たい。
 このまま凍りつくかと思った頃に、熱狂していた聴衆が何人か出てきた。
「今日のショウコ、いつもに増してキンキンやったね」
「スカウトがいっぱい来とったからとちゃうん?」
「ショウコ、吹っ切れたみたいやな」
「そうそう、あの子、歌はすごいけど、あんまりステージの前の方に出てこんかったのに、ラストなんて、自分でカウント取っとったやん」
「やっぱり、メジャーになること、意識したんとちゃうん?」
「メジャーになるんかなぁ」
「なるんやろねぇ」
「なんか、京都以外の人間に知られんの、悔しいわ」
「何や、それ」
「誰にも知られたくない隠れ家的ランチのお店、みたいなもん?」
 いくつかの声が重なり合いながら、蓮の前を通り過ぎていった。

 キンキンの意味は不明だが、その理由は分かる。彼女はスカウトではなく、舟を意識していたのだ。そして、ファンらしい彼らの耳は、ちゃんと何かを聞き分けていたのだ。彼らの言葉は結構的を射ているのかもしれない。
 苦しくて切なくてどうしようもないのに、まっ白な別の世界があるように、充たされている
 笙子の歌詞の言葉に、蓮はどこか心の奥が震えるのを感じていた。


「舟、やっぱり帰っちゃったんですね」
「ごめん。約束通りじゃなくて」
 笙子はそんなことは分かっていたから、と言う顔をして、ポケットからあの天河石を出してきた。
 笙子の掌の上で、天河石は今はもう沈黙している。
「この石をポケットに入れてたら、気持ちが少し変わった感じがしました。昨日までは何だかこの石が怖くて、持っていられなかったんですけど」
 二人はライブが跳ねた後、寺町通りを四条までゆっくりと歩いていた。

 明日はもうクリスマスイヴだ。街は何かの予感と期待に震えながら、この寒さの中で色とりどりの光を灯している。通り過ぎていく人々に、それぞれたくさんの想いが詰め込まれているのだと思うと、その想いが明日、すべて満たされてあの空に昇って行けばいい、とふと願う。
「……追いかけられているような気がするって……」
「え?」
「私、何かに追いかけられているような気がするって言ってたでしょ」
「そうだったね」
「あれ、比喩じゃなかったんです」
 笙子は歩を緩めた蓮には気が付かずに歩いている。蓮は半歩だけ遅れながらついて行く。

「何だか思い出せそうで、思い出せなかったんです。私あの日、サンタクロースが埋められているのを見た日、何かに追いかけられているような気がしながら、早く家に着きたくて、近道しようと神社の境内を通ったんです。でも、誰かに確かに追いかけられていたと思う。今日、『道』を歌っている途中で、急に思い出したんです」
 あの、歌の途中で、急に止めた時か。
 笙子は立ち止まり、蓮を振り返った。
「逃げろ、笙子、って、お父さんが」
 蓮はしばらく笙子の顔を見つめていた。

 天河石は、一体何を笙子に見せたのだろう。
 いや、ただ笙子が、ここから抜け出すことを願ったのかもしれない。
 それからは無言で四条通を歩いた。風が四条河原町の角で舞っている。信号待ちの人たちも、皆が身体をゆするようにして寒さから逃れようとしている。
「警察から連絡がありました。あの遺体、父だったって」
 やがて青信号に、勢いよく人が流れ出す。蓮はポケットに手を突っ込んだ。手袋を持ってこなかったので、指の先まで凍るようだった。笙子はマフラーを押さえた。

『奇跡屋』の重い木の扉を開ける。玉櫛婆さんはもう店を閉めていていなかった。蓮は笙子を促して、二階の事務所に上がった。
「寒くてごめん」
「大丈夫。慣れてるから。うちも古い家だから、隙間風がすごくて」
 申し訳程度の電気ストーブをつけて、笙子を接客用のソファに座らせる。何となく気が引けたが、昨日自分と舟が寝ていたベッドから毛布を取ってきて膝掛けにしてもらった。
「歯型で分かったって。奇跡的に、お父さんがかかってた歯医者さん、もうおじいちゃん先生で、五年前に閉めた医院がカルテや写真ごとそのままだったそうです。蓮さんは、あれが父だと思っていた?」
「多分そうじゃないかと思っていた。ただ、お父さんは確かに穴を掘っていたんだよね」
「穴の中から、サンタクロースの衣装に包まれるようにしてお酒の瓶が何本か見つかったみたいです」
「お父さんはよくお酒を飲んだの?」
 笙子はしっかりと蓮を見つめて、頷いた。顔つきまで変わって見えると蓮は思った。いつもおどおどと人を窺っているように見えていたのに。

「不思議ですね。何も思い出せなかったのに、ちょっとしたものを見たり聞いたりすると、記憶が繋がっていくみたい。カラオケボックスに行った時も、飲みすぎちゃって、時々従業員の人と喧嘩になってた。家では、いつも優しかったけれど、お酒を飲むとちょっとわけが分からなくなってて。暴力と言うほどのことはなかったのかもしれませんけれど、結構乱暴になって。私には手を上げませんでしたけど、母は……」
 蓮は笙子の前に叔父の調査報告のページを開いて見せた。笙子はしばらくその依頼主の名前をじっと見つめていた。
「お母さんと、おじいちゃん?」
「君のお父さんがいなくなった最後のクリスマスイヴの夜、それは何年だったか分かる?」
「私が小学校に入る前の年やったから、1999年?」
「でも、ここに書かれた依頼の日付は2000年の3月になっている」
「どういうことですか?」
「もう君のお父さんが君たちの前から姿を消した後で、わざわざ依頼が来ている。そして叔父は、まるきり何も調査せずに報告書を書いている。君のお父さんが女を作って君たちを捨てたという報告書を。でも、叔父はちゃんと調べもしないで適当な報告書を作る、そんな人じゃないんだ」

 それは京都府警の刑事だったころから変わらない。人に馬鹿にされるくらい、くそまじめな人だった。だから出世とは縁遠く、重傷を負って辞めた時は警部補だった。
 それから、と蓮は言いながら、その報告書の前後のページを見せた。
 笙子はしばらく意味が分からなかったようだった。
 前のページは1999年12月18日、後ろのページは1999年12月28日。
「この依頼が初めて来たのは1999年12月18日と28日の間だ。それも多分、君のお母さんから。君のお母さんが何を依頼したのか、それを知っているのは彼女だけだよ」

 笙子はじっと黙ってそのページを見たまま、返事をしない。
「どの道を選ぶにしても、君はちゃんとお母さんと話をするべきじゃないのかな」
 笙子の家の事情は蓮には分からない。伝統を担う家の重みのようなもの、そしてそれを伝えようとする母親の切実な願い、道を選ぶときに惑う子どもの心も。それでも、笙子は選ばなければならないはずだった。
「君は本当は、僕に依頼に来るよりも、お母さんと話をしたかったんじゃないのかな。お母さんはきっと君よりも多くの事情を知っているはずだ。だけど君はきっかけが掴めなかった。もうずっとお母さんと話していないんだよね。昔のことだけじゃない、これからどうするのか、どうしたいのか、お母さんに言いたいし相談もしたい。そのお母さんが病気で、もしかするともう長くないかもしれない。今しかチャンスがない。だから、舟に話したんだ。違う?」

 笙子は顔を上げた。
「どうやって話したらいいのか分からない。だって、母は、私に笙の稽古をしてくれるだけで、厳しくて。今だって、病院に行っても会話にならないし。どうして練習しないんだって」
「お母さんも、きっかけが掴めなかったんだろうね。僕は、君のお母さんの笙を直接は聞いたことはないけれど、日本でも数少ない雅楽の演奏家だ。その人が継いでいこうとしたものが何かは、少しは分かるつもりだ。でも、お母さんだって、自分の気持ちを貫いて、君のお父さんと一緒になったんじゃなかったかな。君の今の迷いや気持ちは分かってもらえると思うけれど」

 本当は舟に頼みたかったのかもしれないが、舟は話をシャットダウンしてしまったのだろう。笙子が自分に気があることを知っていたからこそだとは思うが、それが舟の気まぐれなのか、優しさなのかは分からない。
 ふと、舟と海の会話を思い出した。
 二人は何か秘密を共有している。そのことが奇妙に胸をざわつかせる。
 笙子はやっと顔を上げた。
「私、本当は何て依頼をしたらよかったんでしょうか」
「お母さんのところに一緒に行ってもらえませんか、かな」








参考文献?

西田幾多郎:明治~昭和の哲学者。京都の『哲学の道』に碑があります。
『人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり』
(哲学の道はあの界隈に住んでいたころ、私の散歩道でした。
というよりもあの疏水沿いを散歩道にしたくて、界隈に住みました。)

坂本龍馬の句(これは辞世の句ではありません。辞世の句を詠む暇なかったもんね)
『世の中の 人は何とも 云はばいへ わがなすことは われのみぞ知る』
(確かにあなたはアスペルガー……でも実は、私は坂本龍馬友の会の隠れメンバー^^;です。
脱藩の道(複数説あり)も何度か歩きました……四国の山奥で行き倒れるかと思いました^^;)

ついでに吉田松陰、辞世の句
『身はたとえ 武蔵の野辺に くちぬとも 留め置かまし 大和魂』

もひとつついでに高杉晋作、辞世の句
『おもしろき こともなき世を おもしろく』
(後の人が下の句を「すみなすものは 心なりけり」と詠んだけれど、無い方がいいなぁ
……この余韻がいいのですね)


Category: (1)サンタクロース殺人事件(完結)

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