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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【掌編】冬のプラネタリウム 

limeさんイラスト400

いつもお世話になっている小説ブログ「DOOR」のlimeさんの描かれたイラストに掌編を贈る、というのがトレンド?になっているみたいなので、流行には乗ってみようと、私もチャレンジしてみました(*^_^*)
limeさんの絵には想像力を掻き立てる何かがありますね(*^_^*)

掌編は苦手なのですけれど……^^;
書いてみたらやっぱり説明臭くて、皆様が書かれた、短いのにエッセンスをきゅっと詰め込んだような作品にはなっていませんが、よろしければご一読くださいませ。

この舞台の宿のモデルとしたお宿はこちらの記事でご紹介しています。
→→『熊本・天文台のある宿』
是非、一度お訪ねくださいませ。
あ、こんなことしている場合じゃない。書類準備をしなくちゃ!




【冬のプラネタリウム】

私は小さな箱のようなプラネタリウムの中にいる。
木造の二階建ての宿、小さなフロントの脇にある小さな扉。
押し開けてみると、二十席ほどしかない小さなプラネタリウムがあった。
深い茶色の木で組まれた部屋の中、隅にある黒くて小さな無骨な装置。
座ると軋む木の椅子に凭れて見上げると、頭の上には白い小さな天蓋。

今日は午後から雨になり、夕方には止んだものの、空にはまだ厚い雲が残っていた。
大きな天体望遠鏡で星空を見ることができる、というのがこの宿の売りだったが、今日ははずれだったようだ。
空を見ることができない日には、こうしてプラネタリウムでつくりものの空を見る。
今日の宿泊客は私以外にもう一組だけで、随分と歳を取った夫婦だった。
その夫婦が約束の時間に遅れているというので、私はひとり、ここに座って待っている。

よくあることだけれど、私は傷心旅行の最中だった。
私の失恋は失業と一緒にやって来た。もともとセットだったのだから仕方がない。
自分なりに年下の彼との将来を夢見て慎ましく暮らし、こつこつと貯金をしていたものも、尊敬できる部分を一生懸命に探しながら関係を築いてきた仕事仲間も、何だかすべてが馬鹿らしくなった。
かといって、命をどうこうするほどの絶望感も思い切りもなかった。

私は大丈夫。これまでの人生だって、それほどうまくいっていたわけではない。
ずっと一人で生きてきたのだし、心から甘えることのできる相手がいたわけでもない。
たまたまこの数年が順調だっただけで、元に戻っただけなのだ。
ただ、ぽつんとひとり、彼のものがなくなってしまった狭い部屋に座り、何もすることがない時間をテレビ番組と共に過ごしていると、訳もなく真っ白になってくる。
今日私には話をする人もいない。出かける場所もない。
仕事もないし、十年後も二十年後もこうして一人ぼっちかもしれない。
気が付いたら、涙が零れていた。

携帯が鳴ったのはその時だった。
私にはまるで無縁の市外局番からの電話だ。それがどんな町なのか、想像もできない番号。
間違い電話かいたずら電話に違いないと思ったけれど、私は電話に出た。
他に、今日はすることもなかったから。

雄大な山を望む遠い町から電話をくれたのは、星のコンシェルジュだった。
そうだった、別れる前、彼と旅行の約束をしていたのだ。
一緒に星空を見ようねと言って、天体望遠鏡のある宿の「星空を独り占め」というプランを選んだ。
……キャンセルするのを忘れていた。

あらかじめ、ご案内する星のご希望をお伺いしようと思いまして。
その声は、星の彼方から聞こえてくるような優しい声だった。
宿泊のキャンセルを言い出せず、私は星の説明を聞く。
この季節ですから、冬の大三角、アルデバラン、昴、そして銀河も美しく見えるでしょう。
気が付けば半時間、私は冬の星空を思い描きながら、星のコンシェルジュの声を聴いていた。

同行の友人が急に行けなくなったということにして、何かに縋るような気持ちで私はこの宿にやって来た。
でも生憎の雨。頭の上には、白く何もない丸い天井。
私は、固まった自分自身の心と同じように、こうして小さな部屋に閉じ込められ、幻を見る。
私は一人で待っている。
もう一組の宿泊客を? それともここに映し出される幻の星空を?
あるいは、失ってしまった何かが帰ってくることを?

目を閉じると、頭の上に広がるのは冷たい星空。
私の心はひとりその星空の下にうずくまっている。
ふと身体を起こし、あたりを見回せば、私を取り囲むのは冬の星々。
頭の上も、足元も、何もかも埋め尽くして、星が青白く、あるいは赤く、煌めいている。
空にはこんなに星があるのだ。
あの場所から見たら、私のいる場所、私の存在は何て小さいのだろう。

ふと気が付くと、私のすぐそばに痩せた人影が横たわっている。
まるで自分自身を庇うように身体を縮めて、何もかも拒否するように顔を背けている。
私はそっと手を伸ばし、その髪に、そしてその手に、触れる。
氷のように冷たい白い手は、とても生きているもののようには思えなかった。

これは私を拒否した彼? それとも私の失った愛? 私が落としてしまった未来?
あるいは、凍りついた私自身の心?
この幻の星空の中に埋もれて、世界から忘れられてしまった私と一緒にこのまま凍っていくの?

「有生さん、お待たせしてすみません」
電話と同じ、暖かい温度のある声が星空の彼方から聞こえてきた。
声は現実の振動となって、私の鼓膜を震わせた。
「行きましょう。ご案内します」
「あの、ご夫婦は?」
「お疲れなので、今日はもうお休みになるそうです」
「でもいったいどこへ?」
「晴れたんですよ」

背の高い星のコンシェルジュの声は、まるで彼自身がこれから初めて満天の星空を見る少年のように弾んでいた。
小さな暗い箱のようなプラネタリウムを出て、星の本を閉じ込めた図書室を横切り、小さな木の扉を開ける。
深く濃い色の木の螺旋階段を上ると、足元の木が軋む。息が真っ白になる。
アイアンの手すりを掴むと、氷のように冷たくて驚いて手を引っ込めると、そのはずみで足を滑らせてしまった。

「危ない」
星のコンシェルジュの手が、倒れそうな私の手を掴む。

私ははっとした。
……人の手というものは、何て暖かいのだろう。
その何気ない人の温もりが、掌から直接入り込み、私の血液の中を駆け巡る。
凍った細胞が息を吹き返す。
あのプラネタリウムで見た幻の中で、私自身の心のように冷たかった白い手とは全く違う温もり。

「すみません。僕が急がせてしまった。この空を一刻も早く見て頂きたくて」
彼が最後の扉を開けて、私を最上階に導いた。
私は一歩を踏み出す。

ドームの天井は宇宙に向かって開いている。
その中心で、誇らしげに天に向かう天体望遠鏡の無骨な影さえも、暖かく優しく心穏やかな闇の中に浮かんで見えていた。

私の頭の上いっぱいに広がるのは、閉じ込められた幻の星空ではなく、まさに今ここある現実の宇宙。
降り注ぐ満天の星々。横たわる銀河。
冬の大三角。どこか懐かしいオリオンの雄姿、彼の肩で赤く燃えるペテルギウス。そして青白く輝くシリウス、優しく白いプロキオン。ふり仰げば、サファイアのようなリゲル、牡牛の赤い目、大きなルビーのようなアルデバラン、天頂で煌めくぎょしゃ座のカペラ、ふたご座のカストルとポルックス。
星を繋げれば、冬の夜空にダイヤモンドが浮かぶ。アルデバランの北東には昴の小さな煌めきの集い。
星の囁く声まで聞こえてきそうな静寂の中、小さな星々で埋め尽くされた暗い空は、まっ白に光り輝いていた。

「さぁ、星への旅を始めましょう」




ちょっとクサかったかも^^;
こけかけて手を差し伸べてもらうって、恋愛の王道みたいですが……
決して、このコンシェルジュさんと「私」に恋が芽生えるわけではありません。
これは「袖擦り合うも他生の縁」→そのまんま「多少の縁程度」という世界に違いない(*^_^*)
しかも、女性の一人称で書くのって、生れて初めてかもしれません。

私がlimeさんの絵から受けた印象は「何かに閉じ込められた/閉じこもった世界」だったので、そこから外へ出ていくお話にしたかったんです。そうしたら、あの宿を思い出しました。
あぁ、この季節に南阿蘇に行きたいなぁ。
きっと素晴らしい星への旅が待っていることでしょう。
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Category: イラストに物語を

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