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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【雑記・小説】キャラに関するバトン(マコトと真) 

バトン大臣・TOM-Fさんからのバトンを皆さんが受け取っておられたので、私も勝手に受け取らせていただきました(*^_^*)
今回のはかなりシンプルな内容ですが、わが永遠の主人公とあの謎のねこの共演と相成りました。
その前に、皆様のバトン回答はこちら
TOM-Fさんのバトン夕さんのバトンサキさんのバトン


キャラに関するバトン

1.まずは自己紹介をどうぞ。
美和 「またまたインタビュアーに抜擢されました、相川調査事務所の秘書、美和です。では、まず自己紹介。先生からどうぞ!」
「作者の大海が『真シリーズ』と銘打っている複数の物語の主人公を勤めています。私立探偵です。幽霊絡みの事件を解決する調査事務所と勘違いされていますが、本当は主に失踪人調査を請け負っています」
マコト 「こんちには。えっと、ねこのマコトでしゅ。ぼくのお仕事? タケルのねこまんまを食べることと……おるすばんです(ちょっとしょんぼり)」
「たける?」
「あのね、ぼくのかんぬしさんはタケルでしゅ」
「神主?(なんだろう、この不明なことを喋っている猫は……)」
「たぶん、飼い主のことではないかと……。そう言えば、先生の飼い主も大家さんだものね」
「……」
「ということは、二人とも(いや、ひとりと一匹?)タケルに飼われている、と」
(注:「先生」=真のこと。ハードボイルドに憧れて美和はこう呼ぶ。「大家さん」=大和竹流のこと。真は竹流のマンションに転がり込んでいるので、こう呼んでいる。)

2.好きな食べ物は?
「タケルのねこまんま!」
「特に、こだわりはありません」
「うっそ~! 先生の好きな食べ物は大家さんの作るごはん、全てです。ね?」
「……」
「ということは、二人とも(いや、ひとりと一匹?)タケルのねこまんま、ということで」
「????(俺が食っているのはねこまんまなのか?、このひともタケルのねこまんま食べてるの?)」

3.ご趣味は何ですか?
「(こそこそ)しゅみってなに?」
「ひまつぶしのこと」
「ひつまぶし?」
「いや、それは鰻の……」
「何をこそこそ喋ってるんですか。生放送ですよ! あのね、趣味っていうのは、空いた時間にする、義務ではない、大好きなこと、を言います。マコトくんは何をするのが好き?」
「えっと、しっぽおにごっこと、かげふみっこと、おみかんをころがすこと!」
「ねこらしくていいですね! はい、先生は?」
「趣味と言うほどでもないですが、三味線と剣道」
「そうなんですよね。こう見えて和のテイスト。剣道は灯妙寺というお寺で子どもたちにも教えています。三味線は民謡酒場で弾いています。あれ、何で私が宣伝を……」
「しゃみせん……」(以下、禁則事項。津軽はネコじゃないのですけれど)

4.意中の人はいますか?
「(こそこそ)いちゅうのひとってなに?」
「好きな人、この人と心に決めた人のこと」
「ほら、こそこそ喋らないで! マコトくんはいますか? 好きなねこちゃんとか」
「えっと、ぼくのうちゅうのひとは……あれ? うちゅうのひと? カッパずしのこまーしゃるに出てる!」
「いや、それじゃなくて。大好きなネコちゃんはいないの?」
「半にゃらいだー!」
「般若?」
「先生、知らないんですか。今や子供にも猫にも、一部の大人にも絶大なる人気の日曜朝のヒーロー番組ですよ。そっか。マコトくんは半にゃらいだーになりたいのね」
「うん! えっとね、にくきゅうでたっちできるテレビを買ってもらいました。タケルがね、買ってくれたの! えっと、大すきなねこは半にゃらいだーで、大すきな人はタケル!」
「はい、よくできました! 先生、続いて」
「え? いや、別に、意中の人はいないけど……」
「はぁ~~?? ねこちゃんでさえ、ちゃんと気持ちを打ち明けているのに、人間様たる先生がそんな態度ってどうかしら。ね、みなさん?」
「誰に向かって喋ってるんだよ」
「視聴者のみなさまです。先生は天邪鬼なので、私がお答えします。もちろん、先生の意中の人は、あの人です」
「……」
(注:半にゃライダー最新作もよろしく!)

5.パートナーのことをどう思いますか?
「ぱーとなーってなに?」
「つれ合い……うん、と、いっしょに仕事していたり、いっしょに暮していたり、心が通い合っている存在?」
「タケルのこと?」
「うん……君の飼い主がその人なら、そうかな(なんで同じ名前同士なんだ?)」
「でも、タケルはぼくのこと、ぱーとなーって思ってくれてるかなぁ……」
「……(なんだか気になる猫だ……気持ちが通じると言うのか……)」
「大丈夫よ。先生も君も、パートナーとは相思相愛だから! 私が保証しましょう!」
「あの……ぼく、かえるね(早くタケルに会いたくなっちゃった……)」
「あ、今日はありがとうね。これは出演料。半にゃライダーのモデルになった能楽師・京極瑞月さんのポスターと半にゃライダー変身用半にゃ面よ。これを被って、君もヒーローになってね!」
「わぁ、ありがと! タケル~、おめんとぽすたー、もらったよ~~~」
(注:京極瑞月について知りたい方はこちら→【秘すれば花】

6.バトンのご指名
「あ、時間、押してますよね。バトンはいつものように、どなたでも! ですね。さて、ここからはオフレコなので、先生、正直にどうぞ(と言いつつ、こっそり録画)」
「何を?」
「パートナーのことをどう思いますか? うん、野暮ってのは分かってるんだけどね、でも私にはちゃんと教えてくれてもいいんじゃないかなぁ」
「……ずっと一緒にいなくてもいい。そう思えるようになりたい」
「心が通じていれば一緒にいなくてもいいってこと?」
「それは多分、幻想だろうけれど」
「一緒にいても通じないこともあるものね。でも、物理的に一緒にいなくても、心はちゃんと向き合っていないとだめだよね」
「そうだな……」
「よし!(愛しい人を想う横顔、頂きました!) あ、皆さま。バトンですから、どなたか気が向いたら受け取ってやってくださいね(こそこそ)」
「誰に喋ってるんだ?」
「え? 独り言よ。ほほほ……」

というわけで、まだの方はぜひ、お持ち帰りくださいませ(*^_^*)
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Category: 小説・バトン

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NEWS 2014/8/24 世界最小のスイカ/災害のお見舞い/あれこれ悩む  

百日紅2014
この数年花が上手くつかなくなっていた百日紅ですが、今年はずいぶんと花が戻ってきました。
今日見たら、まだまだ蕾がついていたので、もう少し咲きそう。花が少ない8月には貴重な百日紅。
今年はしばらく花を楽しめそうです(*^_^*)
すいか
こちらはスイカ。実家でスイカの苗を持て余していたので、もらってきたものです。
弟が何を思ったかケース買いしてきたけれど、スイカはカラスが寄ってくるというのでみんなの嫌われもの。
で、うちの庭に植えてみたけれど、既にキュウリと茄子に栄養を取られた土ではだめだったみたいで、結果的に4cmくらいにしかなりませんでした。
でも、捨てるのももったいないので、割ってみた。
すいかハーフ
一応、スイカの形態をしている! 種は一人前の大きさでした。しかも瑞々しくて食べれそう。
ちいさいすいか
4分の1に切ったところ。スプーンはティースプーン。どんな小さいスイカ^^;
でも、食べてみたら、ちゃんとスイカの味がしていました。しかも結構甘いじゃありませんか。
そう言えば、実家でできたスイカも20cm以下の小さいスイカだったけれど、皮が薄くて甘くておいしかったです。

お天気が悪くて、庭の手入れが思うように進みません。終末しかできないのに。
今日は日本中あちこちでまた警報が出ていたようですね。こちら、神戸の片隅でも警報は出ていたのですけれど、家の周りはそれほどでもない感じでした。でも暑くて、とても動けない。
……ニュースで広島の土砂崩れの状況を見るたびに、本当に辛くなります。
自分が安心して過ごせるはずの家の中で災害のために亡くなるなんて、本当に気の毒でなりません。まだ見つかっていない方々が一刻も早く見つかりますように、と願うばかりですが、あの泥を見ると自然の力の恐ろしさに慄然とします。
そして、泥の中に混じる大きな石を見ると、とても心が痛みます。
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実は、私が愛している巨石たちも花崗岩が多い。砕けて土となったものがどんな性質のものかは、山に入ればよく分かります。とても雨の後には歩けないし、私も足を取られて大怪我をして、半年ほど足を引きずっていました。
あの石たちが人を傷つけたと思うと……

日本は災害大国。報道の扱いにもよるのでしょうけれど、これまでにも大小さまざまな災害に遭っている。
日本の災害史の本を読むと、どうして学校の歴史でこれを教えてくれなかったのかと思う。
でも、最近は確かにひとつひとつが大きくなっているような気がします。
あるいは、災害に対する日本人の危機感が追いつかなくなっているのか……

今日ある番組でどなたかが言っていました。
広島の某所の神社に「昔ここで蛇が暴れて、これを鎮めるために建てた」と書いてある。蛇というのは水のことで、近くの古い地形や歴史が分からなくても、神社の伝説などにも残っていることがある。そういうことに敏感になって、自分の住んでいる場所のことをよく知っておかなければならないだろう、と。
……中央集中権力の歴史を学んでいるだけではだめなんですね。
神楽問答
(高千穂の某村の夜神楽:神と人との問答)
そう、石たちは荒ぶる神、なのかもしれません。いつもは静かに沈黙しているけれど、時々暴れる。
日本人にとっての神とは、自然界のありとあらゆるもの。
そして、神楽は「荒ぶる神と人間の問答」が基本と聞きました。
内容をよく聞いていると、「いついつのあの干ばつ(洪水)は酷かったじゃないですか。一体あなたは何故われらを苦しめるのか」というようなことを神官が荒ぶる神に問うている。神はそれに答える。「そもそもお前たちは我らに対する畏敬の念を忘れている……云々」
こうした問答が延々と続くものの、やがて人間は神様を家に招いて酒をふるまい、遊んで行ってもらう。懐柔する、というと変な感じですが、まさにそういう場面に展開する。
こうして神楽という形で、村人たちは次の世代に「神(自然)とは時に怒るものであり、畏敬の念を忘れるな。常に備えて心していなさい」あるいは「しかし自然があるからこそ、人間は食べるものを得て生きていけるのだ、感謝を忘れないように」ということを教えているのかもしれません。
高千穂神楽2
高千穂神楽3
(舞う神様たちと祈りを込めて舞う村人たち)

実はこの1週間、ブログを構う気持ちがしょぼ~んとしていて(仕事も忙しかったのですが)、ちょっぴりご無沙汰でした。
石たちが、山が、雨が、自然が人の命を奪う残酷な場面に、しばらく何をする元気も無くなっていたのですね。ぼんやりと何回も災害のニュースを見たりして、泣きそうになっていたり。
小説とか石紀行なんか書いているけれど、私の書くものなんて、何の値打ちがあるのかしら……とか思ったりもして。
DSCN1888_convert_20131030022649.jpg
でも、逆に石たちの写真をいっぱい見て、思い直しました。
それでもやっぱり石が好きだな。津波で何もかも流されてしまった漁師さんが、それでも海に感謝しているみたいに。
どんなことがあっても、人間は森や山や海、大地と共に生きてきたんだし、これからも生きていかなくちゃならないんだ。
けれど、山や海のおそろしさは忘れないようにしなくちゃ、山に入るときは心も身も浄めて入らなくちゃ、と思ったのでした。だからやっぱり、石に会いに行く!

あぁでも、小説を書くことはどうなのかしら。
書くことの意味って……「私が」書くことの意味って……私の書くものなんて、ほんと、どうでもいいような気がするなぁ(あんまりおもしろくないし)……少なくとも一人で書いて一人で読んでいるんで十分だったんじゃないかしら? それをブログで発表する意味って何かしら……いや、いちいち深い意味とか値打ちとか考えていたら、何もできなくなってしまうとか、書くことが好きだからそれでいいんじゃないの、とか、堂々巡りしていた1週間でした。

……こういう時、真は何も言わないし、頼りにならない連れ合いです。この人、放っておいたら永遠に一人でいても平気な人だから、困ります。
いいよ、俺はお前の連れ合いだから、どういう形でも、お前以外の誰にも知られなくても、気にしないけど、って。
ソウルメイトのトカゲくんにも勝る、愛想の無さ。
でもマコトは暴れるかな……書いてくれなきゃ、いないことになっちゃう! お友だちになったみんなに会えなくなるのはいや~って。時々あちこちに出没して騒ぐ仔猫は、きっとさびしんぼうなんですよね。
でも、実は真とマコトは裏表……
何やかやと言いつつ、現実の重みに押しつぶされつつも、何とか頭の中にあった短編を書いています。
……ほんと、どうでもいい呟きでした。

何よりも、少しでも早く行方不明の方々が家族の元へ帰れますように。
捜索に加わる方々がこれ以上の災害に見舞われませんように。
まだまだ続きそうな大雨。これ以上の大きな災害が起こりませんように。

Category: NEWS

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(1)カグラの店 

limeさん
8888Hitのリクエストもあと残りひとつとなりました。
お題はこちらのlimeさんのイラストに物語を、というもの。もちろん、リクエストを下さったのは小説ブログ「DOOR」のlimeさん(*^_^*)
私にはこの金網が「立ち入り禁止区域」=「結界」に見えてしまい、さらに空模様が微妙に不穏。しかも、ねこちゃんは何かにおびえているような感じ→ちょっとホラーもどきを書いてみたくなりました。
いえ、実は私、ホラーはダメなんです。だから、なんちゃってホラーです。
(でも、他人様にはお目にかけられませんが、真シリーズの長編第1作はまさにホラーでした^^;)
都会の片隅にはこんな「謎の場所」があるかもしれない、そしていつも通りかかる、塀ひとつ、金網ひとつ、扉ひとつの向こうには、こんな空間があるのかもしれない。
夏の夜、ちょっと足を止めて、覗いていってくださいませ。

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会った、猫を抱いた少年。幽霊が見えるという霊感少年のようだが。

真シリーズを全く御存じなくても、独立したお話として読んでいただけるようになっています。
少し古そうな印象の描写が出てきますが、時は1970年代ですので、何となく昭和後半バブルへと登り詰めていく波に取り残された都会の片隅をイメージして読んでいただければと思います。
ちなみに、カグラには某京都の石屋の女店主を髣髴させるものがありますが、ずばり、こちらが原型です。

4話構成(いつものように予定^^;)で、1話目は『バッカスからの招待状』もどきの酒場のシーンから始まります。
真って酒が飲めないのに、これも営業のうちと唐沢に連れ回され、結構色んな所に出入りしているんです。



【人喰い屋敷の少年】(1)カグラの店

「人を喰らう屋敷の話かい?」
 狭いカウンターの内側に立つ女主人が、籠もった声で聞き返した。
 煙草を燻らせる太い指の先で、赤いマニキュアが暗い照明の加減で古くこびりついた血の跡のように沈む。大きな体に纏う薄い上衣に、赤や黄、緑、青の幾何学模様が、祈りを籠めた曼荼羅のように揺れていた。

 六本木の調査事務所に勤める相川真は、カウンターに座り、いつものように飲めない酒を舐めていた。
 いずれ宇宙船を飛ばすつもりで物理学と宇宙工学を学んでいた大学を中退して、何の因果か私立探偵の見習いをしている。
 真が水割りを注文しても、女主人が水を少ししか入れないのは嫌がらせだ。真が飲めないことを知っているのだ。上がりのことよりも、酒も飲めないくせに店にやって来る人間を軽蔑することのほうが、彼女には大事であるらしい。
 しかも出された酒を残そうものなら、店から叩き出されて、二度と入れてくれないだろう。

 店内は僅か三畳ほどの広さしかない。天井も低く、カウンターに六人分の席があるだけで、背中と後ろの壁の間を通る時は、身を細めなければならない。客同士は身を寄せ合って、不安定な椅子に座っているので、時に相手の体臭が酒に混じって気が滅入る。
 だが、どれほど背伸びをしても、生まれが卑しい人間は銀座の高級店で飲めば五分で居心地が悪くなるが、劣悪な環境には比較的容易に順応するものだ。

 客は女主人に罵倒され、当たるのかどうか分からないタロット占いのカモとなって高い占い料をふっかけられ、それでも何故か磁石に引きつけられるように否応なしにここへ戻って来る。飲み代だけは恐ろしく安い。
 時折、建物自体が轟音と共に揺れる。ここは、国鉄の高架下の二階に狭苦しい店が何軒も並んでいて、鰻酒場と呼ばれているうちの一軒だった。

 店が開くのは夕方の六時だが、その時間には既にカウンターの椅子は埋まっていることが多い。もっとも長居をする客はいないので、少し待つ気があるなら、安くてそこそこの酒にありつける。
 真は今日、六時前にここにやって来た。
 すれ違うのがやっとという狭い階段の床木をギシギシ言わせながら上ると、すでに開店を待つ男が三人、店の前に立っていた。年齢も背格好も異なっているが、皆がどこかくたびれている。世間に背を向けられているのに、自分の方が世間を足蹴にしていると思っている。

 女主人はカグラと名乗っていた。名前なのか名字なのか、本名なのか通称なのかも分からない。年齢も不詳だ。二十代ということはないだろうが、三十代と言われればそうとも見えるし、還暦だと言われてもそうとも見える。
「お前、まだあの詐欺師のところで働いてるのかい? 全く、そんなふうに人生のいい時を潰しちまうなんて、どうかしてるね。行きつく先は知れてるよ」
 そうかも知れないと思うが、真にもそれなりに事情があるのだ。別にここでこの女主人に話すことでもない。
 真は痩せた指でショートホープの灰を落とした。灰だけは、重く湿った空気をものともせずに、軽やかに舞いながら落ちていく。ただし、行きつく先は安っぽいアルミの棺だ。

 女主人が詐欺師と呼んでいるのは、真の雇い主である唐沢調査事務所の所長のことだ。そして、彼女の言葉は大筋では正しい。
 店の中は、煙草の煙のせいか、あるいは外から流れ込むよどんだ空気のせいか、何となくけぶっていて、霧のたちこめる深い森の中にいるようだった。奥に小さな窓がひとつきりあって、ゆっくりと闇に堕ちていく都会の喧騒とこの店とを区切っている。
 曇った硝子の向こうで、時に赤や青の光が点灯し、揺らいでは消えていった。

 カグラの上衣の模様に重なる曖昧な光が、手元のグラスにも映っている。この琥珀色の液体を飲み切ったら、多分明日は起き上がれない。
「ただ具体的な場所を知りたいだけです」
「行こうってのかい? やめときな。お前みたいな人間は簡単に食われちまうよ」
 そう言われても仕事だから仕方がない。
 唐沢はこの手の依頼が来ると、ニタニタ笑って真の肩を叩く。うちの所員には幽霊だって見つけちゃう優秀な若者がいましてね、と依頼人に縁起でもないことを言うのだ。一体いつから唐沢がそんな風に思い込んでいるのか、真にはよく分からない。

 カグラは無表情だったが唇の端だけを釣り上げた。
「教えてやったら、代わりに何をくれるんだい?」
 真は答えなかった。真をここに連れてきた唐沢所長の助言によると、「決して下手に出てはいけない」のだ。
 あの女と契約をするってのはだな、人間と妖怪が契約書を交わすのと同じだ。異種の世界に住む同士の間で契約なんぞあり得ない。絶対に取引するんじゃないぞ。下手に契約を交そうものなら、命までとられかねないからな。
 真からすれば、唐沢もカグラも同じ穴のムジナ、に見える。

「この人に頼みごとなんて、止めといたほうがいいよ。骨までしゃぶられる。あんた、私立探偵だっけ? 今回はどんな仕事?」
 真の隣に座っている、三十代のくたびれたサラリーマンらしい男が声を掛けてきた。ネクタイも背広も皺がよって張りがない。飲み始めてから半時間もたたないのに、すでに酔いが回っているようだ。あるいは昼間から既に出来上がっていたのかもしれない。「窓さん」と呼ばれているのは、どうせ窓際族だろうと常連たちが決めつけているからだ。
 じろり、とカグラが睨んだ。
「あんた、この店であたしの許可なく喋るんじゃないよ。それ以上口をきいたらおん出すからね」

 言葉と同時に、カグラの指が真の顎に伸びてきた。煙草の煙が真の頬を舐めるように上ってきて、鼻と目に沁みた。薄暗い灯りの下だったが、魔女か殺人鬼を演じる舞台俳優のようにくっきりと縁取られた目が近づいてきて、それ自体が生き物のように光る。
「特別にタダで占ってやろうか?」
「占いはいりません」
「自分の運命を知るのは怖いかい?」
 真は口を噤んだ。

 運命? それはどんなことを指すのだろう? たとえば、異国の女性との間にできた子どもをもてあました父親に、生まれて間もなく捨てられてしまうようなことだろうか。あるいは、叶わぬ恋に精神を病んだ継母に首を絞められてしまうようなことだろうか。または、自分の人生の中にどうしても思い出せない時間を抱えているようなことだろうか。
 十九の秋、崖から転落して生死の境を彷徨った。真にはその数日前からの記憶がない。逆行性健忘だと説明されたが、ぽっかりと抜け落ちた時間の前後で、ここにいる相川真という人間が、過去からちゃんと繋がっている同じひとりの自分なのか、今でも自信がない。

 それとも。思い出したくない何かがその数日にあったのか。だから自分でその時間を脳の中のどこかの引き出しに仕舞い、鍵を掛けた。
 思い出せないけれど、自分の中のどこかにいる真実の自分は、あれが事故だったのかあるいは自殺未遂だったのか、そしていったい自分が何をしたのか、本当はちゃんと知っているのだろう。知っているけれど、思い出したくないのだ。それを思い出す時には、辛うじてこの世界に留まっている自分という存在は、ばらばらに崩れ落ちてしまうに違いない。

 しばしば同じ夢を見る。
 真っ白な霧の中で、変色した真鍮の鍵を手にして立っている。目の前には鍵のかかった古い机の引き出しがある。恐ろしくて身が竦むのに、手は見えざるものに導かれるままに、まっ黒な鍵穴に鍵を差し込む。この鍵が合わなければいいと願う。だが、無情にも鍵は抵抗なく回る。冷静だと思っている頭とじっとりと湿った指は、完全に乖離している。かちゃり、と振動が指先から身体全体に伝わってくる。
 その夢の先は見たことがない。
 あの「事故」以来、ふわふわと、実存という幻としてこの世を漂っている。
 これ以上に素敵な運命の話など、あるとも思えないし、あったとしても聞きたいとも思わない。

 カグラの指はしばらくの間、真の顎に触れたままだった。冷たく乾いた手だ。それから唇に触れかけて、すっと離れていった。
「この世から誰にも気が付かれないように消えちまいたいが、死ぬまでの勇気がない奴は幾らでもいる。自ら望んで消えたってのに、それでもあんたは捜すのかい」
「それが仕事ですから」
「ほ。まともなことを言う」
 この店ではまともなことを言ってはいけない、とでも言いたげだった。

「幽霊が見える私立探偵が、死者の幻の影を捜して彷徨う。そいつはいい」
 カウンターの一番奥を指定席にしている「作家」が呟いて、くしゃくしゃの紙を懐から取り出し、ちびた鉛筆でメモを取っている。
「作家」というのは自称で、真はその男の本当の名前を知らない。歳の頃は四十代くらいか。時々呟く言葉が、独り言なのか、あるいは話しかけられたのか、分からないことがある。だが、少なくとも「作家」が「私立探偵」に興味を持っていることは確かのようだ。
 いや、大方の「作家」は「私立探偵」に興味があるに違いない。

「風のない夏の夜、眠れない主人公が船の甲板に出ると、ひとりの男が亡霊のように立って海面を見つめている。振り返った男の顔は、月明かりで真っ青に見える。気味が悪いが目が合ってしまったので、やむを得ず主人公は男に話しかける。暑いですね、何か見えますか。男は淡々とした声で答える。えぇ、先ほど誰か飛び込んだみたいです、自殺でしょうか。それを聞いた主人公は怯えた声を上げる。それは大変だ、誰かに知らせなければ。しかし男は慌てる素振りもない。男の濡れた髪から雫が零れ落ちる。いや、もう遅いようですよ、ほら。男が濡れた手で海を指す。月明りが作る細い波の道に、一人の男が仰向けに浮いている。その顔は……」

 真が煙草を挟んだ手でグラスを持ったまま「作家」の低い声を聞いていると、不意に「作家」が身を屈めるようにして、カウンターの一番端から反対の端に座る真の方を見た。
「あなたは主人公が何を見たと思います?」
 くつくつと「作家」が笑う。真は答えを知っていたが、返事をしなかった。
「馬鹿馬鹿しい。そういう物語の手法だろう? 甲板に立っている男が幽霊であるかのような描写をさんざんしておいて、実は海に浮かんでいる自殺者は主人公自身だったというオチなのさ。叙述トリックの基本形だ」

 酒と煙草で擦れたカグラの言葉が終わるのを待って、「作家」の隣に座っていた「教授」が言った。
「しかし、自分が死んでしまったことに気が付かないなんてことがありますかね」
 何の「教授」かは知らないし、本当に大学で教えている先生という職業なのかは分からない。いかにもロマンスグレイという風体で、おっとりとした声で一本筋が通ったような理屈を言うので、皆がそう呼んでいるだけかもしれない。
「いやぁ、魚も名人に捌かれたら、自分が死んじまったことに気が付かないで泳いでるっていうじゃないか」
 真の隣で「窓さん」が、噛み合うような噛み合わないようなことを言って、またグラスを空けた。後でこっそりと自分のグラスをこの男の前に置いておこうと真は思った。

「教授、幽霊はね、必ずしも自分が死んだということに気が付いているとは限らないものなんだ。魂というのか、ある種の念といったものが残る。例えばあまりにも突然に予期せぬ死が訪れた時。あるいは死を覚悟していたが、取り返しがつかない段階で後悔して、この世に未練を残してしまった時」
「それは物語の世界の話でしょう。現実には霊はあり得ないと思いますよ。例えば幽霊の目撃談にしても、地球の磁場が作る空間の歪みが、人間の視覚のぎりぎりのところで捉えられた結果だと推測されますね。あるいは恐怖心が生み出す脳の錯覚。脳はあまりにも不可解なものを許容できないので、かつて学習し習得した知識に照らし合わせて、何かに変容させて理解する。子どもの頃に読んだ小説や見たテレビに植え付けられたイメージのままの『幽霊』や『宇宙人』、という形に押し込めてしまうのでしょう」

「霊を科学で証明しようという試みはさんざんされているが、さて、どうでしょうね。霊は存在するのか、しないのか。見えなければいないのか、見えなくてもいるのか。ね、探偵さん」
 真はやはり答えずに、琥珀色の液体を舐めた。
 幽霊談義に参加するつもりはなかった。
 カグラが、躊躇っていないで酔っぱらっちまいなというような意地悪な視線を送ってくる。

「だが、生きながら無になることは難しくはないかもしれませんね。幽霊にはなれないが、他人からは死者と見なされることです。例えば誰かがこの世から消えてしまいたいと願った時、存在をなかったことにすることは意外に簡単です。自分を知っているあらゆる人間との接触を断つ。それだけで、その人はある側面からは無になる。他人に認識されてこそ存在する何某とやらは、認識されなくなれば、その何某であることが終わる。人が他人との関係や繋がりを求め、肩書を求めるのは、何某かであることを証明したいからなんです。全ての人間との接触を断ったら、自分が何者であるかを証明することは、結構むずかしいものですからね。不老不死を求めるのは人間の常ですが、自分だけが生き残っても意味がないのはそういうことです。誰からも認識されない何某は無と同じです」

「教授ぅ。俺なんぞ、いつも消えちまいたいと思っていますけどね、でも自分を知る全ての人間の前から消えちまったとしても、一番厄介な自分自身からは逃げられませんよぉ」
「いや、そうでもないかもしれない。不在者の生死が不明になってから七年間たてば、死亡したと同じと見なされる。自分の死亡届が出されたら、もしかすると、自分という楔からも解き放たれるかもしれない。生きながらにして死者となる。戸籍というただ紙切れ一枚の上に名前が書かれているだけのことなのに。なるほど、突き詰めれば人の存在とは紙切れの上の認識の問題なのか。自分が自分を認識する、認識する自分が存在しなくなれば、それが無なのか。他人からは認められなくなった自分は無なのか。では、認識されれば幽霊でも在ることになるのか、はたまた」

「作家」は呟きながらまた紙に何かを書きつけていた。
 存在という哲学的命題と、幽霊の存在を云々することはまるで別の問題だ。霊感があると人に言われる真だが、霊の存在を信じているわけではない。それは信じる、信じない以前の問題だ。在るものは在るし、無いものは無い。それだけのことだ。見えるもの、感じるものを信じるしかない。
 そして、失踪人調査は、幽霊談義とは別のことだ。

 待っていてもどうやら有用な情報は与えられそうにもない。真は諦めて、飲んだくれの「窓さん」の前に、自分のグラスをそっと滑らせた。酒も飲めないくせに来るんじゃないよという視線は感じたものの、カグラは何も言わなかった。
 代金を置いて、小さく皆に会釈をして席を立った。
 釣銭が貰えるはずだったが、カグラは数枚の千円札の上に手を置いたまま、釣銭を数える気配はなかった。

 蒸し暑い。
 古い木の階段は降りる時にもまたぎしぎしと鳴った。幾分か湿気が強くなっているような気がする。
 海が近いので、風向きによっては潮の香りが強くなる。すでに日が落ちていたが、まだ足元には昼間の強い光の名残が残っていた。薄闇にともる街灯の周りに蒸気が集まり、白く煙る輪の中で虫が舞っている。煙草の臭いが染みたシャツが、身体に張り付いていた。

 人を喰らう屋敷。
 よくある噂話だが、都会のどこかには、傍にあるのにそれが何なのか分からないブラックボックスのような場所があるものだ。使う人が少なく用心が悪いので立ち入り禁止になった地下道への入り口、毎日通りかかるのに中に入ったことのない暗い森がある公園、人気はなく、固く閉ざされた扉に聞いたことのない会社名が並んでいる古いビルの長い廊下、いつも門扉に南京錠がかかっていて人の気配がない屋敷。
 結局、場所は分からなかったが、何となくあの辺りかというイメージはあった。だいたい、カグラが正確に場所を知っているとも限らない。あの女主人は、噂話に適当に尾ひれはひれをつけて話していただけかもしれない。
 明日、あの周辺で子どもたちをつかまえて聞いてみれば、多分すぐにでも場所が分かるだろう。

 線路の高架下になっているものの、こちらの方向へ歩いてくる人は僅かだった。
 蒸した空気に電車が行き過ぎる音が絡まる。この上にセミの鳴き声が重ならないだけでもましだと思いながら駅の方向へ歩き始めた時、突然後ろから腕を掴まれた。
「いや、よかった、探偵さん」
 追いかけてきたのは「作家」だった。キャスケット帽子を少しだけ斜めに被り、丈の短い粋なスーツを着ている。それでも何となくくたびれて見えるのは、そのスーツがあまり似合っていないからなのだろう。
「あなた、知りたいんでしょ。人を喰う屋敷の場所」

 真が返事をする前に「作家」は先を続けた。
「どうです。今から行ってみましょうよ」
「今から?」
「幽霊屋敷ですよ。昼間に行ってどうするんです? 折しも季節は夏。蒸し暑く、身体に纏わりつく空気さえ何かこの世のものではないものを孕んでいるようだ。こんな日はぜひ、幽霊に出会ってみたいものですからね」
「作家」の丸眼鏡は大方伊達なのだろう。その奥にある目は、分厚いガラスの向こうで何を考えているのかまるで分らない。

 子どもの肝試しでもあるまいに、と思ったが、ここで断るという選択肢はなさそうだった。
 唐沢は真がこの仕事に一週間も費やしようものなら、あれこれと嫌味を言うだろう。とにかく噂の「人を喰らう屋敷」と依頼された失踪者の関係を明らかにすればそれでいい。
「それで」
 並んで駅のほうに歩き始めてから「作家」が尋ねた。
「もちろん、あなたは幽霊が見えますよね?」

 幽霊が見える私立探偵が、死者の幻の影を捜して彷徨う。
 それが「作家」の求めている題材なのだろうか。
 いや、彷徨うのはごめんだな、と真は思い、少なくとも道連れがいる方が安全には違いないと考えた、その時。
「噂の屋敷に行くのなら、もちろん俺たちも連れてくよなぁ」
 千鳥足の「窓さん」と暑いのにスーツをきちんと着た「教授」までもが追いかけてきた。


(2)夫の死を願う女に続く。




折しも昨夜、近所で子どもたちが懐中電灯を持って、何人かで組になって、ちょっぴり賑やかに歩いていました。
会話の内容からは、どうやら肝試し中。今時、そんなものをやっているのですね。
昔、家の周りが田畑と木立しかなかったころ、近所の子供会で肝試しをしていたことを思い出しました。
確かに、その辺に「出そうな」掘立小屋とか、ありましたもの。

そうそう、これは偶然ですが、limeさんがただ今連載中の『モザイクの月』に出てくる優馬くんにも記憶から抜け落ちた時間がありますが、うちの真にもありまして。
19の時に北海道で崖から転落して死にかけています。これが事故なのか自殺未遂なのか、本人は数日前からの記憶がありません。記憶は強いショックで失われることがありますが、それがどんなショックだったのか、今の真にはわかりません。でも、実は、自分は本当はあの時死んじゃってて、今の自分は実は……なんて思っていたりします。
この謎に真っ向から向かい合うのは、現在連載中の『海に落ちる雨』の次作『雪原の星月夜』(執筆中)。行方不明の女性作家を探す一方で、真っ向から自分を捨てた父親と向かい合う物語になっています。もう真は29かな。
あ、これはまだ先の話ですが。
このお話では真は22歳(多分)。『清明の雪』の後くらいの時系列になります。

次回は結界の中、人喰い屋敷に参りましょう(^^)
真って、変な道連れには恵まれているみたいですね^^;
あ、その前に、次回は唐沢調査事務所から始まります(*^_^*)

Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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【真シリーズ短編(1)・人喰い屋敷の少年】目次 

【真シリーズ短編・人喰い屋敷の少年】目次
相川真を主人公とする一連の物語の短編集。時代は昭和の後半。
調査事務所を舞台にした人間模様。あるいは、北海道の牧場を経営する相川の一族と、ローマ教皇に繋がるヴォルテラの一族の運命の交錯を描いた物語の一部。
こちらの短編集は、本編を読まなくても問題無く読めるようになっていますので、お気軽にお楽しみにください。

相川真→出身は北海道の牧場。中学入学前に東京の伯父に引き取られる。
大学で宇宙工学を学んでいたが、色々あって中退。バイトで勤めていた六本木の調査事務所に就職した。
しかし、25の時に事務所が閉鎖されたことを機に独立、あれこれあって新宿で調査事務所を開いている。
詳しい人物紹介はこちら

1.【人喰い屋敷の少年】
 人の気配のない幽霊屋敷。そこでは不思議な少年が目撃されていた。
 行方不明者を捜して屋敷を訪れた私立探偵の相川真が謎に迫る!
 (1)カグラの店
 (2)夫の死を願う女
 (3)人を喰らう屋敷
 (4)女の事情と猫を抱いた少年
 (5)役者は揃った
 (6)白い猫を抱いた少年
 (7)飽和状態~重い夕闇~
 (8)歪み
 (9)秘めごと


Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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【石紀行】6.フランス・カルナックの列石(1) 

そしてようやく、カルナックをご紹介することになりました(^^)この場所に立った時、本当に、本当に幸せだと思いました。まずは、やはり圧倒的なその光景を…でも本当は写真には納まりきらない世界です。途中が森で途切れていますが、木立を抜けるとまだまだこれが続いているのです。何区画にもわたり、途中道路とかに寸断されながら、どこまでもどこまでも。一体どこに行けばこの光景に出会えるのか、まずはGoogle Mapさんにお借り...
【石紀行】6.フランス・カルナックの列石(1)


ブログ村トーナメントの「みんなに知ってもらいたい場所」にトラックバックで参加したら、記事が別個になってしまいました。ややこしくて済みません(@_@)
初めて様、ぜひ上の四角内の色違い部分をクリックして素敵な景色を見に行ってやってくださいませ。
もう一度様も、再びあの景色を・・・・・・・(*^_^*)

Category: つぶやき

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NEWS 2014/8/16 今日から巨石の講習会 

*前記事(『『69回目の終戦記念日』)のコメント欄を開きました。……けいさんのメッセージを拝読して、やっぱり開けておくことにしました……

石の本
写真は、あまりにも愛用しすぎて、ばらばらになってしまった巨石の本^^;

実は、今日から2日間だけ学生に戻ります!?
大阪の某所で『石の聖地を巡る』という講座が開かれるので、2日間、みっちり石のお勉強をしてきます。
磐座、巨石、世界の石、日本の石……先輩先生の講演を聞くのは初めてなので、楽しみにしています。
でも2日間もあるってすごくないですか??
わくわく(^^♪

たかが大阪なのですが、朝が弱い私は、2日目のために初の大阪宿泊。
隣の県ですが、うちから大阪の中心まではそこそこの距離でして、ええい、泊まっちゃえ!と。
でも、明日はどうやら大雨??

さるすべり
老木で弱っていたけれど、何とか今年は少しだけ咲いた百日紅。
来年はもっと花をつけて欲しい。

さて、学校が長期休みなると忙しくてばたばたしちゃいますが、頭の中ではあれこれ進行中。
その一端を……

 8888Hitのリクエスト・limeさんの描いてくださったイラストに物語を書きます(*^_^*)
 私立探偵の相川真は失踪した少年を捜して、ある古い屋敷を訪れる。彼がそこで出会ったのは……

 『死と乙女』再始動です。
 ウィーンの音楽院に通う若者たちの音楽にかけた青春と恋愛の物語です。
 結構パワーを使うこの物語、精神的余裕がなければ書けなくて……夕さん、お待たせしていてすみません(>_<)

 『死者の恋』……今年中には終わらせたいけれど、秋からまた忙しい~
 でも青森の物語を書きたくて書きはじめたので、絶対終わらせるぞ! 目標今年度中!

 『百鬼夜行に遅刻しました』……こちらは1年飛んでいてすみません。 
 冬、春とあと2作。季節に合わせてお送りする予定(V)o¥o(V)
 命の行く末を花に託して問いかけながら、小鬼のウゾくんの秘密に迫る!

 『終わらない歌』シリーズ
 1回4000字くらいの定期的連載にできないかと画策中。
 ロックバンドをベースにした青春の物語です。一応……

そして~~~石紀行は『楯築遺跡』と吉備の古墳、その後、石紀行初の18禁・宮崎県の某所にご案内する予定……

こうして予告編を書くのは楽しいけれど、そして頭の中で物語を遊ばせているのは楽しいけれど、文字に起こしていくって本当に筋トレのようだわ。
……何はともあれ、まずは石のお勉強、行って参ります。
夏休みもないので、せめて土日は楽しむことにします(*^_^*)
たまごかけごはん
脈絡はないけれど、はらっぱで産み落とされるたまご。
……黄身がレモン色なんです(写真よりもホンモノはもっと檸檬色だよ)。 

Category: NEWS

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【雑記・あれこれ】 69回目の終戦記念日(コメント欄開きました) 

心に深く思うことってなかなか言葉にできないですよね。
深く思うのであれば何かを語っておきたい気もするのだけれど、この議論はいつも「安全な場所にいて何も知らないくせに何を言う」と言われそうで、あるいは分かり切ったことを今更何を声高にとか思われそうで、つい口をつぐんでしまう。
考えを突き詰めていくと感情的になってしまったり、怖くなってしまったり、どきどきして眠れないこともあって。
だから、去年もこの日、何か記事を書こうとして結局やめてしまったのですけれど、今年はちょっとだけ書きます。

ちょっと話は紆余曲折しますけれど、例えば肝臓の病気。
感染症(肝炎)、うっ血性心不全による肝うっ血、薬剤やアルコールによる肝障害。
その臓器が病気になる理由は色々あるし、それぞれにはそれぞれの事情、つまり「病因/治療過程」があるのですけれど、終末像は同じ。
肝硬変になって、時には肝癌になって、死ぬ。
行きついた先の組織は同じような「終末の病理像」になっている。
下の写真についてのNHKスペシャルを見た時、戦争の終末像、死亡の病理像はこれなんだと思いました。
焼き場に立つ少年
この写真の中に立つ少年も、被爆して亡くなり兄に背負われて焼き場に来た小さな子供も、そして、このカメラのファインダーの手前に立つアメリカ人のカメラマンも。
さらに、写真には撮られなかったけれども、あの場所にいた全ての人々が背負った死・後悔・病苦。
決して、戦闘機が飛び交っている光景が戦争の「像」じゃなくて、地面の上で小さな子どもまでもが死に、ひとつひとつの残酷な死に苦しんだ心のひとつひとつが「終末の病理像」だった。
「この戦争で310万人が死んだ」のではなく「310万件の死亡事件があった」。
しかもその半数以上が、餓死や病死。
そう言えば、ナポレオンのロシア侵攻も、戦死者の多くは凍死・餓死・病死でしたよね。
そして、空から「敵」を攻撃し、その後上陸して無残な死の光景を見て生涯苦しみ続けた「敵国」の兵士たちも、やはり犠牲者だったのかもしれない。

今年、この番組を文字起こししてくださっている記事を見つけました。
【あなたはこの『焼き場に立つ少年』の写真を見てもまだ戦争はしょうがないと思いますか?】
断りもなく勝手に紹介させていただくのですけれど、改めて読ませていただき、また少し考え込んでしまいました。
人間って愚かだから、また繰り返すかもしれないという怖さがあります。
車の場合は、そもそも走る凶器だから、凶器に足かせをつけるようになりつつある(障害物を認識したら勝手に止まる機能)。
人間の愚かさにつける装置・機能はあるのかな。

戦争の大義名分、戦争・自衛についての様々な議論、そして今大きな話題となっている集団的自衛権・憲法9条解釈の問題。「事」が起こる前であれば、その議論にはどちらの側にも是も非もあるのかもしれません。
でも起こってしまったら、戦争には「言い訳」の隙はありません。多分、どこから来るのか分からない「命令」(時に『神』からの指令、時に『何世代も前から決まっていたこと』)に従い、前頭葉は使わず、脊髄辺りで反射する行為をせざるを得なくなると思うのです。生物としての防御反応が攻撃になることだってある。
結果的に、一方的な加害者も被害者もなく、どちらも悲惨なだけ。
戦争の精神(状態)が怖いのは、自分が被害者になることもだけれど、加害者になることもあるから……
いったん戦争という状況にしてしまったら、誰が誰を責めることができるんだろう。
だから「してしまってはいけない」。そのくらいの叡智は人間にもあると思いたいけれど……

昨日、夜中に何気なくつけたテレビで、東京大空襲の時の消防のドラマをやっていました。
「2時間余りで10万人を殺してしまう、それはどんな精神なのか」
登場人物が呟いていましたが、これは空から爆弾を降らせた敵を恨んでの言葉じゃなくて、戦争というものはそういう精神状態になってしまう(被害者・加害者の区別なく)、という恐怖に対する呟きだったように思いました。
空の上から見たら死は遠くにあるけれど、地上では死は隣に、すぐ頭上にある。
広島・長崎の経験が語るように、そして今も世界のどこかで起こっている戦争が語るように、戦場で戦う兵隊さんたちだけでなく、市井の人々の上にある。
議論をしている時は遠いけれど、次の瞬間には隣にあるのかも知れない。
逆に、空の上からではなく、隣にいる一人の人が相手ならば、無残なことはできないのかもしれない。あるいは、してしまったら悔いることができるのかもしれない。

予備校の時の日本史の先生が、電灯は10~20ワットで世の中は暗く貧しかった、日清・日露で戦争景気にあやかった日本は戦争をしたらまた豊かになると思ってしまった、と言っておられた。
戦争へ向かっていったのは、誰か一人の戦犯のせいじゃなくて、日本の国民が作ってしまった大きな「ムード」だったということを認めておられたのでした。
いつそのムードに巻き込まれてしまうか分からない。だからこそ心していなければならない。
あの時を知る人がすっかりこの日本からいなくなるまで、もうそれほど時間はない。

あれこれ思って出口はないけれど、今日の日だけでなく、思い続けなければならないことなのだと改めて心に刻む今日でした。

……フミヤさん、大好きなので……この有難いコラボを選びました。

コメントをやり取りするには重すぎて、コメント欄を閉じていましたが、けいさんが長いメッセージを下さって、もしコメント欄をもう一度開くなら転記をしてほしいとまで書いてくださったので、やはり開くことにしました。
大海はろくなコメ返ができないかもしれませんが……
けいさん、ありがとうございます。
けいさんのメッセージは、追記にあります。
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Category: あれこれ

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【石紀行】14.岡山総社・番外編~桃太郎の事情~ 

鯉喰神社
こちらは鯉喰神社です。前回の記事で『鯉』には曰くがあることを書きましたが、ここぞ、吉備津彦命(桃太郎のモデル?)が鵜に姿を変えて、鯉に化けた温羅(鬼)を捕食した場所です。
日本の神社には多くの「あなたのことをお祀りしますから祟りませんように」というのがありますが、この鯉喰神社も、命(みこと)の活躍を祀ったというよりも、温羅の魂を鎮めるために作られたものかもしれませんね。
写真では分かりにくいのですが、この神社、すごい狭小地面(三角の土地)に建てられているのです。ビフォーアフターに頼みたくなっちゃうくらい。社務所も何もない、無人の神社です。
でも、結構すごいのは。
鯉喰神社2
備前焼の狛犬じゃありませんか。
一時、陶器に凝っていたことがあって、私の中で徳利・お猪口のベストは備前焼なのです。この手触りで飲む酒、最高です。……って、何の話?

さて、なぜ私がこの鯉喰神社を訪れたかというと、実は日本のストーンサークル「楯築遺跡」を捜していたのです。地図ではよく分からなくて、ナビでも出てこないし。この神社あたりから近そうなので、誰かに聞こう、と。
そこへ、自転車でいかにも地元のおじいちゃん!って感じの人が通りかかり。
「すみません~、楯築遺跡に行きたいんですけれど……」
おじいちゃん、手慣れておられました。落ちた枝を拾って、さらさら、っと地面に地図を書きはじめる。
「わしの家はそこなんだけど、ここいらでしょっちゅう聞かれる」とのことでした。
例に漏れずで、すみません^^;
でも、このストーンサークルのことは次回に。

まずは桃太郎、いや吉備津彦命の神社、吉備津神社に行ってみましょう。
吉備津1
ところでこの界隈には吉備津神社と吉備津彦神社とよく似た名前の二社があります。
で、私は今回時間の都合で吉備津神社にしか行かなかったのですが、これは「片参り」で本当は両方ともお参りするべきだったようです。あらら。
もとは二社とも「大社 吉備津宮」と言われていたのが、大化の改新以後(って、どんな昔の話!)、吉備の国が備前、備中、備後、美作の国に別けられて、その後、吉備津彦神社は備前の一宮、吉備津神社は備中の一宮となったそうです。
今回の旅は出張ついでに1泊伸ばして休みをとっただけだったので、やや下調べも甘かったのと(気持ちは差し上げ岩に向いていて)、思ったよりも自分的見どころが多くて、回り切れなかったのとで、宿題をいっぱい残しました。
幸い、隣の県。またいつか、宿題を片付けに参りましょう!
吉備津2
ということで、吉備津神社の階段を登ります。
入り口は決して大きくはないのですが……
吉備津3
かなり年季の入った門を潜ると、拝殿です。
きびつ
主祭神は大吉備津彦大神。こちらの神社の解説によると「大吉備津彦大神はこの地方の賊徒を平定して平和と秩序を築き、今日の吉備文化の基礎を造られたとされています。古来より、吉備国開拓の大祖神として尊崇され、吾国唯一の様式にして日本建築の傑作「吉備津造り(比翼入母屋造)」の勇壮な社殿、釜の鳴る音で吉凶を占う鳴釜の神事、また桃太郎伝説のモデルなどで知られています」とのこと。
ではまず、「吉備津造り」の社殿を見ましょう。国宝、です。
吉備津神社
何とも迫力のある、しかも優美な姿ですね。
吉備津神社2
でも、この神社の素敵なところは、実はこちら……もう一度拝殿に戻って、右手に回ってみます。
吉備津神社4
何故か、馬さん。
吉備津4
馬さんから後ろを振り返ると……
吉備津回廊2
屋根? いえいえ。全部をお見せできませんが(長すぎて)、こんな回廊なのです。
吉備津6
入り口は小さかったのに、奥行きはすごい神社です。
吉備津回廊3
回廊では所々脇道があり、そのひとつはこんな景色でした。
吉備津あじさい
ピークは少し過ぎていたようですが、見事な紫陽花。
吉備津紫陽花
そして、また別の脇道を行くと……神事の大切な場所なので、カメラは禁。代わりに看板のお写真です。
吉備津7
『鳴釜神事』とは……吉備津彦命 に祈願したことが叶えられるかどうかを釜の鳴る音で占う神事。
吉備津彦命は温羅の首をはねて曝したのですが、温羅は大声をあげ唸り続けたと言います。犬に喰わせて髑髏にしても、神社のお釜殿の釜の下に埋めてみても、唸り声は止むことなく近郊の村々に鳴り響く。すっかり困り果てていた時、命の夢枕に温羅の霊が現れて
『吾が妻、阿曽郷の祝の娘阿曽媛をしてミコトの釜殿の御饌を炊がめよ。もし世の中に事あれば竃の前に参り給はば幸有れば裕に鳴り禍有れば荒らかに 鳴ろう。ミコトは世を捨てて後は霊神と現れ給え。われは一の使者となって四民に賞罰を加えん』
とのお告げ。その通りにすると、唸り声も治まり平和が訪れたそうです。
要するに……和解、の象徴なのでしょうか。きっと、大和朝廷と温羅の戦いには、戦争・和解・敵対・共存の色々な側面があったのでしょうね。
『雨月物語』の中にもこの神事のことが出てくるそうですが、どちらかというとオカルト系?
この阿曽媛の役をする方は、かの鬼ノ城の麓にある阿曽郷の女性だとのこと。

でもちょっと不明なのは……釜からでる音の大小長短により吉凶禍福を判断するわけですが、その答えについては奉仕した神官も阿曽女も何も仰らず、自分の心でその音を感じ判断するそうで。
じゃ、都合よく解釈しちゃいますよね……あるいは、ますます迷っちゃうか……
できれば、白黒、はっきり言って欲しいかも。
おみくじ
本殿の近くにある、巨大おみくじ塔。こちらも大凶・大吉なら分かりやすいけれど、小吉とか末吉とか、どうなのよ?って結果もありますよね。

温羅と桃太郎。伝説・昔話ではあんな感じで一方的だけれど、本当はどうだったのかな。
製鉄をもたらした温羅たちには、地域の人々は感謝していたと思うし、大和朝廷は平定だけではなくて、その技術を欲したと思うので、やはり平和的解決も試みられたんじゃないのかな。
温羅のお城も桃太郎の神社も、今では昔を偲ぶだけですが、壮大なロマンですね。
石に地域の歴史がこれほどに密着している場所、もしかするとちょっと珍しいかも。
そもそもほかの地域の石って、もう何時からどんな歴史がって、分からないことも多いのですが、こちらは「鬼の差し上げ石」自体の歴史は不明でも、それにまつわる周囲の村の歴史がとても興味深い場所でした。

やっぱり忘れられませんね。
お宿の御主人の言葉。「ここらの人間は温羅が好きなんだ!」
ここら、はどの範囲かは??
このあしもり荘さんのある場所、まさに温羅の住まわったあたりなんですよ。
機会がありましたら、ぜひ!

そう、今回お世話になったのは、総社の温泉旅館・あしもり荘さん。
あわい
田舎のおうち造り(?)のこじんまりとした旅館ですが、お湯はつるつるでしたよ。
お部屋はこじんまり。両側の窓を開けると風が通るので冷房はいらない、ということ。
あわい2
そして毎度お楽しみのお食事タイムです。
あわい夕1
まずはオードブル。
あわい夕2
見た目も涼やかな冬瓜の冷製スープ。
あわい夕3
特別なわざびで頂くお刺身。醤油はいりません。
あわい夕4
なすび。
その他、地元の牛さんのしゃぶしゃぶ、蛸飯などもあり、岡山ならではの地産地消メニュー、味わってまいりました(*^_^*)
あしもり荘さん、ありがとうございました(*^_^*)

お腹がいっぱいになったところで、今回はお開きです。
次回は、日本のストーンサークル・楯築遺跡と周囲の古墳にご案内いたします。
石紀行・ちょっと寄り道の旅でした(*^_^*)

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【迷探偵マコトの事件簿】(12) トモダチのわすれもの 

『迷探偵マコトの事件簿』、事件を解決しているのではなく、いつも自分が事件を起こしているマコトですが、今回はお盆にちなんで亡き人を想う物語をお送りいたします。
登場人物は(いや、登場犬物かも)こちらをご参照ください→(5)ちょっと切ない事件簿
重要なアイテムとして登場するのはオニキス。石です。まるで『奇跡を売る店』シリーズのようですね。
オニキスオニキスペンダントトップ2
まっくろなオニキスが、こんなふうにアレンジされているものをイメージしています。

大事な人を想う時間となれば幸いです。

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったら豹になるつもり。飼い主のタケルがお仕事で忙しいので、いつもひとりでお留守番をしている。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。でも本当はとても優しい。
トモダチ:亡くなった老犬。飼い主が死んでしまって取り残され、最期を看取るためだけにタケルが引き取っていた。



【迷探偵マコトの事件簿】(12)トモダチのわすれもの

[SCENE1] ぼくの「おもいでだま」

タケルは今日もおでかけ。ぼくはひとりでおるすばん。
でもね、ぼくこの頃ちょっとだけだいじょうぶなんだ。
タケルにはないしょだよ。
あのね、ぼく、宝物があるの。

このあいだ、ベッドの下で見つけたんだ。
銀の籠みたいな飾りの中に、まっ黒な、まあるい玉。
ころころ転がしてみたら、ふしぎなことが起こったんだ!

とっても懐かしい匂いがするんだよ。
会ったことないけど、ママの匂いってこんなのかなぁ?
ねこまんまを作ってくれてるタケルの後ろ姿がうかんだりもするの。
いっしょに『半にゃライダー』見てるような気持ちになったり。
モノレールに、ぼくとタケルがならんで乗って、お空に手をふってるとこが見えたり。
センパイといっしょに布団基地にもぐっている感じがしたり。
それからね、トモダチにも会えたんだ!
トモダチのおっきなお背中の上で、ぼく、上がったり、下がったり、落っこちたり。

これ、まほうの玉なのかも。
ぼく、タケルにも見つからないように、こっそりベッドの足のすみっこに隠してるの。
だって、もしこれを見たら、タケルもきっとほしくなると思うんだ。
でも、これはきっと、がんばってひとりでおるすばんしてるぼくへの神さまからのプレゼントだよね。

とくにきれい好きのおばさんにはみつからないようにしなくちゃ。
捨てられちゃったら大変だもの。
だからいっぱい転がしたあとは、またこっそりベッドの足のすみっこに、おばさんにぜったい見えないようにかくしておくの。

ぼくは今日もころころ、まあるい黒い玉をころがしてみる。
ころころ、ころころ、ころころころころ。
ころころ、ころころころ、ころころ。
そうしたら、ぼく、さみしくないんだ。
ママの匂い……タケルの匂い……布団基地の匂い……トモダチの匂い……

トモダチ、今はお空にいるのかな。
ぼくは前足でまっくろの玉をなでてみる。
なでてみたら、あったかいトモダチを思い出すよ。
トモダチのせなかで、上がったり、下がったり、下がったり、上がったり……
ぼく、これ「おもいでだま」って呼んでるんだ。

……あれ?
ぼくはびっくりして飛びのいた。
今、何か見えたね?
ぼくはじっと「おもいでだま」を見て、それから辺りを見回す。
なにもいない。

……ぼくはゆっくり近づいて前足でちょんちょんしてみた。
「おもいでだま」は、周りを囲む銀のかざりできらきら、きらきら。
きっと光がはんしゃしたから、何か変なものが見えたんだね。

でも……
いっしゅん、おじいちゃんと小さい女の子が見えたんだ。
もしかして、おばけ?
それとも、うちゅうじん?
でも、カッパ寿司のこまーしゃるに出てるのとはちがって、ふつうのおじいちゃんと女の子だったから、うちゅうからきたのでも、立体ほろぐらむでもないよね。

と、その時。
とつぜん、おへやのドアが開いた。

わ!
ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。
おなかの下にかくして、知らん顔をする。

……タケルだ。
み、見つかったかな?
ぼく、おじいちゃんと女の子のおばけ?にびっくりしてて、タケルが帰ってきたの、気が付かなかったよ。

でも、時すでにおそし、だった。
タケルはぼくの首っこをつかまえて、抱き上げた。
ぼくは床を見下ろす。
床の上では「おもいでだま」がぽつん、と光っていた。
真ん中は黒く、まわりは銀できらきら。

……タケルに見つかっちゃった。ぼくの宝物。
ぼくはちらっとタケルを見る。
タケルは「おもいでだま」をつまみ上げる。不思議そうにそれを見つめて……ポケットにしまっちゃった!

ぼくはがっくり。
そうだよね、タケルだってやっぱり欲しいよね。
でも、ぼくの宝物だったのに……

それからタケルはぼくを車に乗っけた。車の後ろには釣り道具。
わぁ、海に行くんだね!
「おもいでだま」は取られちゃったけれど、海に行くのならいいや。
そのかわり、おさかないっぱいとってね!


[SCENE2] 大事な人が帰って来る日

でも、タケルは釣りに行く前に、花屋さんに寄って、お花を買った。
あれ? 海じゃないの? どこ行くの?
たどり着いたのは、海じゃなくて山。
四角い石がいっぱい並んでた。

いい匂いのする木を燃やしたにおい。
石の前には、お花とか、お菓子とか、おいてある。
タケルはバケツに水を入れる。
キラキラ、水が光ってバケツの中に落ちていく。
タケルはバケツを持って、たくさんの石の中のひとつに向かった。

ぼくはトコトコ、ついて行く。
タケルは石の周りの草を抜いたり、石のくぼみをきれいに水で洗ったりしておそうじをする。ぼくは小さな虫が飛んでいるのを見て追いかける。
マコト、おはかで虫をいじめちゃだめだ。
……おはか?
ぼくは言われた通り、虫を追いかけるのをやめて、タケルといっしょに草をぬくお手伝い。
それからタケルは、石のくぼみに水を入れて、お花を入れた。
きれいだね。
それから細いムラサキの棒に火をつける。けむりが風に流れる。
タケルは何も言わないで、じっと四角い石を見つめていた。
ぼくもよこに座って、タケルを見てから石を見上げる。
字が書いてある。ねこには読めないけれど、きっと大事なことが書いてあるんだね。

おぼん、なんだよ。
死んだ人が、帰って来てくれるんだ。だから、今日はお迎えに来たんだよ。
ふ~ん。
死んだ人って、お空に行っちゃって、もう帰ってこないのかと思ってた。

それからやっと海に行く!
海は「おもいでだま」の銀のキラキラよりももっとキラキラしてた。
風が吹いてる。太陽はとってもあつい。キラキラって海の上で光る。
いっぱいいっぱい光る。
海の上をお船がすべってく。
タケルはイスに座って、ぼうしをかぶって。でも今日はどうしたわけか釣りばりの先っちょにエサのミミズをつけないんだ。
エサがなくてもおさかながとれるのかなぁ。
タケルはエサの代わりに、ビンから水を海にこぼした。
おさかなが集まって来るのかな?
ビンには『田酒』って書いてあるよ。たんぼのおさけ?

いつも海に釣りに来たら、おさかなが釣れるまで、ぼくは待ってるの。
タケルからちょっとはなれたところで影ふみごっこ。
ぼくは自分のしっぽを追いかける。
それからトリさんの影を追いかける。
しっぽにも、トリさんにもぜんぜん追いつかない。
くるくる、くるくる。目が回ったらきゅうけい。

時々人が通りかかると、ぼくはあわててタケルのところへ飛んでもどる。
タケルのかげからそっと人が通り過ぎるのを確かめて、いなくなったらまたタケルからちょっとはなれて、くるくる、しゅわっ。くるくる、くるくる。
車の音が聞こえたら、またタケルのところへ飛んでもどる。
タケルのかげからそっと車の音が聞こえなくなるのを待つ。
海の音だけになったら、またタケルからちょっとはなれて、くるくる、くるくる。

でも今日は、タケルはつり針にエサをつけないで釣り糸をたれる。
それから、思い出したようにポケットからぼくの「おもいでだま」を出してくれた。
ぼくの前に置いてくれる。
わぁ、タケル、ありがとう!
ぼく、タケルが取っちゃったのかと思った。

だからぼく、今日は「おもいでだま」をころがす。
ころころ、ころころ、ころころころ。
海に落っこちないように、タケルから少し離れたところで、ころころころ。
人が通りかかったら、いそいで「おもいでだま」に乗っかって、見つからないようにかくす。
だって、だれかにとられちゃったらたいへんだもの。

ころころ。ころころ。ころころころ。
海の風がとっても気持ちいいけれど、ちょっと暑くなってくる。
タケルは釣りをしているというよりも、何か考えごとをしているみたい。
遠く遠く、海の向こうのほうを見てる。
ぼくはころころ、ころころ、ころころころ。

その時。

ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。

……


[SCENE3] 探しびと・探しもの

またあのおじいちゃんと女の子だ。
女の子は、おじいちゃんとつないでいた手をはなして、ぼくのほうへ走ってきた。
ぼくは目をまん丸にして女の子を見上げる。
白いワンピースとむぎわらぼうし。風とははんたいの方向に、スカートがひらひらゆれている。
女の子は近付いてきて、じっとぼくを見る。

そして、がっかりしておじいちゃんのことろへもどっていった。
ぼくはじっと様子をうかがう。
あの人たちも「おもいでだま」が欲しいんだ。
これはぼくのだから、だれにもあげない。
おじいちゃんと女の子がいっしょにちかづいてきた。
ぼくはもっとしっかり、「おもいでだま」にはりつく。

……もし、その玉を見せてもらえませんかの。
おじいちゃんがぼくに話しかけてきた。
ぼくは目を合わさないようにしてうずくまる。

……おじいちゃん、この子はねこだよ。フジマルじゃないよ。ぜんぜんちっさい。
……しかし、わしがフジマルにつくってやった玉とそっくりだ。もしかしたら、フジマルの玉かもしれない。
ちがうよ。これ、ぼくのだ! フジマルのじゃない。
だいたいフジマルって、だれだよ!

……もし、ちいさいねこさん、実はわれわれはフジマルとはぐれてしまっておるのです。われわれはフジマルを迎えに来たのだが、見つからない。われわれとフジマルを引き合わせてくれる目印は、わしがフジマルに作ってやったオニキスの玉だけなのですよ。もしかして、フジマルをご存じじゃありませんかね。

フジマルなんか知らない!
これ、ぼくのだ。ぼくが見つけた「おもいでだま」。
タケルがいない時も、これがあったら、ぼく、さみしくないんだ。
ころころ、ころがしたら、タケルが近くにいるみたいだし、会ったこともないけれどママの匂いがするし、それに布団基地とかトモダチのこととか思い出して、ぼく、さびしくてもがんばれるんだ。
だから、神様からぼくへのごほうびなんだ。
だから、これ、ぼくのなんだ。

……フジマルはまだこの世をさまよっておるのです。いつまでもフジマルが三途の川にやってこないので、われわれはこの世にフジマルを探しに来たのですが、そばにいたとしても目印がなければ魂を見つけることができない。われわれはお盆の間しかこの世に来ることはできない。だから、時間が限られているのです。

何のことか分からないよ!
あっち行って!
ぼくの「おもいでだま」、取らないで!

タケルは今日、おさかなをつかまえるつもりじゃなかったみたい。
少しの時間、海を見たかっただけなのかも。
いつもよりもずっと早くに釣りはおしまい。
お盆だからね、殺生はいけないんだ。ちょっと海にご挨拶をしにきただけだよ。今日はお前も、缶詰でいいかな。
うん、ぼく、カンヅメもきらいじゃないよ。

タケルが作ってくれたカンヅメのねこまんまを食べて、ぼくは「おもいでだま」をころころしてから、タケルを見上げた。
タケルは「おもいでだま」をつまみ上げて、ベッドの上のぼくのお気に入りの場所に置いてくれた。
ぼくは「おもいでだま」を抱いてねむる。
今日はトモダチの夢を見るんだ。

…………

あれ。ここはどこだろ。
ぼく、夢の中かなぁ。
知らないおうちだ。
……誰かいる。……おうちの中を歩いてる。
おばけ?
あ、そうか。夢の中だもんね。
ぼくはまっくらな家の中を歩きまわっている影の正体を見ようと、じっと目をこらした。
何か探してるみたい。
くんくんと鼻先を鳴らすような音がしている。

……!

トモダチだ!
ぼくを上に乗っけてくれてた大きなからだが見えた!
ぼくはあわてて隠れた。
なんでだろ。ぼく、何だか見つかっちゃいけない気がしたんだ。
トモダチはずっとくんくんと音を立てながら、何か探してる。
それから顔をあげて、悲しそうな顔をした。

トモダチはいっしょうけんめい、おへやの中で何かを探して。
それから家の外に出て行った。
お部屋の中に黒い大きなハコ。いい匂いの木の燃えカス。
そのハコの前に写真がかざってある。
トモダチと、あのおじいちゃんと女の子。
……ここはトモダチの家だったんだ。
今はもうだれも、住んでいないみたい。

写真の中のトモダチはくびわをしていて、そこにあの「おもいでだま」が埋め込まれていた。
ぼくはトモダチを追いかけて庭に出てみた。
トモダチはお庭にある小さな小屋の中に入って、ごそごそ、中を探している。
……犬小屋なんだね。そこには、下手くそな字でなまえが書いてあった。

……ぼくは目をさました。
どきどきしてた。
タケルはすやすやと眠っている。
お部屋はまっくらで、ぼく以外、だあれもいないみたいだった。
ぼく、「おもいでだま」をぎゅっとにぎりしめた。
トモダチ、これを探してるんだ。
トモダチの名前は、フジマルっていうんだ。

でもこれ、ぼくが見つけたんだから、ぼくんのだ。
ぼく、これがあったら、ひとりでおるすばん、がんばるもん。
だから、これ、……ぼくんのだ。

ぼくは「おもいでだま」をベッドの足のうらにかくした。
だれにも見つからないように。
ぼくがころころしなくなったので、タケルはちょっと不思議そうだったけれど、何も言わなかった。

それから毎日、ぼくは探しものをしているトモダチの夢をみた。
トモダチは探しものが見つからなくて、とても悲しそうだった。
でもぼくは、やっぱりこれ、返したくないんだ。

それから何日かたって、タケルはもう一度、石のいっぱいあるところに行った。
今日でお盆はおしまいだから、お見送りに行くんだって。
ぼくはとぽとぽついて行く。
……ねぇ、タケル。ここにはタケルのだいじな人がいるの?
タケルは何も言わないまま、帰りにまた海に連れて行ってくれた。


[SCENE4] あったかいキモチ

タケルはじっと海を見ている。
それから思い出したようにポケットから何か出して来て、ぼくの前においた。
あ。「おもいでだま」。
かくしてあったのに、持ってきちゃったの?
見つかったら、取られちゃう! 
ぼくはあわてて「おもいでだま」の上に乗っかった。

周りを見たら、少しはなれたところでじっとぼくを見ているおじいちゃんと女の子と目が合っちゃった。
……やっぱり、あれ、フジマルのだよ!
女の子が言った。
ちがうもん! ぼくんだもん。……ぼくんのだ。
ぼくにポケットがあったら、うまく隠せるのに!
ぼくは「おもいでだま」を隠したおなかにきゅっと力を入れた。

……もし、ちいさいねこさん。われわれは今日でもうあの世へ帰らなければならないのです。もしフジマルに会ったら、われわれがずっと三途の川の向こうで待っていると、お伝えください。
ぼくは耳をふさいだ。

その時。ふいにタケルがぼくの頭をなでた。
……でも、俺にはまだお前がいるんだな、マコト。
タケルは遠く、海の向こうを見ている。
タケル、だれか大事な人をお見送りしたの?
その人はまた遠くへ帰っちゃったの?

ぼくをなでてくれるタケルの手があったかい。
ぼくはタケルといっしょに海を見る。キラキラ、キラキラ。
波は上がったり、下がったり、下がったり、上がったり。
まるでトモダチの背中みたいにぼくを運んでくれる。

……トモダチ、おじいちゃんと女の子が遠くに帰っちゃったら、ひとりぼっちなんだ。
ひとりぼっちで、ずっと探さないといけないんだ。
これがないと、おじいちゃんと女の子に会えないんだ……
ぼく、ぼく、トモダチの大事なものをとっちゃったんだ……
でも、ぼく……

……まだ間に合う?

ぼくはタケルに言った。
あのね、トモダチんちに行きたいんだ! それでね、ぼく、この「おもいでだま」をトモダチに返さなくちゃ! でないと、トモダチがね、だいじな人に会えなくなっちゃうんだ! ぼくのイジワルのせいで、トモダチが悲しんでるんだ! だから……!
今日でおぼんがおわっちゃうんだ!
トモダチの大事な人たちが、行っちゃうよ!

……でも、ぼく、ねこだから、タケルにうまく説明できない……

ぼくはいぬのまねをしてみたり、「おもいでだま」をころころしてみたり、あれこれやってみた。タケルはふしぎそうにぼくを見ていたけど、そのとき「おもいでだま」がきらって光ったんだ。
タケルはひかりの中をじっと見ていた。
そして、あ、という顔をして「おもいでだま」を拾い上げ、太陽にかざしてゆっくり回しながら何かを確かめると、ぼくを車に乗っけて走り始めた。

……そこは夢で見たとおりの家だった。
トモダチはひとりぼっちでさみしそうに家の庭にすわっていた。
タケルがぼくの前に「おもいでだま」を置いてくれた。
トモダチがぼくを見た。
……ごめんね。きっと怒ってるよね。
でも、ぼく、ちゃんとあやまって、これを返さなきゃ。

ぼくはころころと「おもいでだま」をころがして、トモダチの前に行った。
……あのね、ぼくね、えっとね……ぼく、ぼく……
ぼくはトモダチを見上げた。
……ほんとうにごめんなさい! これがあったから、ぼく、さみしくなかったんだ。だから、ぼくのものにしたかったの。言えなくて、かくしちゃってて、ごめんなさい!

……

おへんじがない。きっとトモダチ、怒っちゃってるんだ。
ぼく、わがまましてたんだもんね。

そのとき……

ぽん。
トモダチのおっきな手が、ぼくのちっちゃい頭にやさしく乗っけられた。
それから、その手は、そっと、とっても大事そうに「おもいでだま」の上に乗っけられた。

きらっ!!!
わぁ!
突然、「おもいでだま」から虹いろの光が飛び出した!
あたりは光色に染まって、太陽が落っこちてきたみたいだった。
フジマル!
ひかりの中からあの女の子が走ってくる! おじいちゃんもいっしょだ!
フジマル!
トモダチが立ち上がった。わん! って吠えて、大きなしっぽをせいいっぱい振った。

わん! わん、わん!
フジマル! フジマル!

……わぁ、よかった。
お盆が終わる前にみんながまた会えて。トモダチがひとりぼっちじゃなくなって。
おじいちゃんと女の子と、トモダチはお互いを抱きしめあった。
それからぼくを振り返る。
……ねこさん、ありがとう。
……ううん。あのね……ぼく、いじわるしてて、ごめんなさい。
……なに、こうして無事にフジマルに会えたのだから、もういいんだよ。ちいさいねこさん、本当にありがとう。
そう言って、三人でいっしょに光の輪の中へ歩き始めた。
ぼくはじっとその背中を見送った。

ばいばい、トモダチ。ばいばい、ぼくの「おもいでだま」。

と、その時だった。
光の中から、ころころころころころ……
あれ、「おもいでだま」だ!
ころころころころ、「おもいでだま」は転がってきて、ぼくの前で止まった。
ぼくは返ってきた「おもいでだま」をじっと見つめる。

……ありがとう、小さいともだち。これ、だいじにしておくれね。
「おもいでだま」から、トモダチの声が聞こえたような気がした。

あのね、ぼく、分かったんだ。
さびしくてもがまんできるのは、またちゃんとタケルがぼくのところに帰って来てくれるって分かってるからなんだ。
またちゃんと会えるから、なんだね。
だからぼく、ちょっとくらいさびしくてもがまんする。

ぼくは時々窓からお空を見上げる。
あ、ほら、トモダチがいるよ! 真っ白な雲になって、ぼくを見てくれてるんだね。

それでもやっぱりさびしい時は、ぼくは「おもいでだま」をころがす。
ころころ、ころころ、ころころころ。
楽しいこと、幸せなこと、だいじな人へのキモチ、そんなのがいっぱいつまってる。だからころがすたびに、あったかい場面が転がり出してくる。
ママの匂い、トモダチの匂い、タケルの匂い、それからぼくとタケルがいっしょにいる時のキモチ、トモダチのあったかいキモチ。

……ころころ、ころころ。ちょん、ちょん。
……ころころ、ころころ、ころころころ。ちょん。
転がしてから手を乗っけてみたら、ぼくはちょっとだけ強くなった気がした。



オニキス。その漆黒の色は迷いのない信念の象徴。
辛い時、苦しい時もあきらめず、前に進むための忍耐力や意思の強さを与えてくれる石。

(『迷探偵マコトの事件簿』(12)トモダチのわすれもの 了)


註) 『田酒』:青森県のお酒。
少しずつ、マコトもオトナになっていっているんですね。

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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[雨119] 第23章 喪失(6) 

【海に落ちる雨】第23章最終話です。
これにて、蓮生家の話はいったんおしまいです。後日談が最後に少し出てきますが、それは後のお話として。
この蓮生家のエピソード、明治の終わりから大正にかけてのちょっとレトロな時代を引きずった、横溝正史か江戸川乱歩かって昭和なイメージを感じていただけたら、と思っております。

ここに、話好きのおばちゃん(でもどこかに排他的な内面も隠し持っている)が少女の頃に隠し読んでいた雑誌の話が出てきます。外見的イメージは竹久夢二の表紙絵だけれど、このエピソードのイメージは、退廃的・耽美的な世界を追及していたかの雑誌なのです。家の押入れの中に潜ませていたあの雑誌、などをイメージしていただければと思います。




 目覚めは境界線を明らかにしてやってきた。
 珍しく夢も見ずに眠ったようだ。隣の部屋で、草薙はまだ鼾をかいている。
 真は部屋から直接廊下に出て、風呂に行き、ゆったりと湯に浸かった。喉の奥で、会津磐梯山は宝の山よ、と歌ってみた。耳の奥に反響する声は、真自身の声ではなく、以前その歌を歌っていた男のものだった。
 真が部屋に戻った時、草薙は浴衣のまま煙草を吸って、テレビで天気予報を見ていた。
「久しぶりにいい天気のようだが、夕方にはまた降るらしい」
 その声には、複雑な要素は何も残されていなかった。

 朝食を済ませ、仁に倣って甘い菓子を買ってから、真は吉川家を訪ねた。
 草薙は蓮生の昔話になど興味がないといって、近くの酒蔵に日本酒を味見しに行ってしまった。
 その後姿を見送りながら、真は改めて、何故彼が自分に付き合ってここまで来たのだろうと不思議に思った。
 自分自身の父親のことには興味がないと言った。竹流の依頼を受けたことはあったにしても、損得を抜きにしてアフターケアをするなんてのは契約に入っていないとも言っていた。それなのに、あの男に簡単に死んでもらっては困ると言い直し、真に付き合ってここまで来た。
 こうして少しの時間だが共に過ごしてみると、真や竹流に対する敵意があるようには思えなかった。もっとも好意であるという保証もないのだが。

 不思議な男だと思った。人は細胞に刻まれた遺伝子の神秘よりも、己の力で生き抜いてきたというエネルギーによってこそ、姿も心も決まるものなのかもしれない。
 草薙は、ナンニという黒人の子どもを国に帰さずに面倒をみている。法に適ったことをするならば、その子どもを、本国へ強制送還された両親の元へ戻してやるべきだろう。だが、飢えて病気になって死ねというのか、と真に言った草薙の目には、深いところから込み上げる叫びが込められていたような気がした。
 親はあの子どもを日本に連れてきたものの、足手まといになったからか、見捨てたようだと言っていた。子どもは両親の元に帰るよりも、草薙の手元に残ることを選んだのだろうか。ナンニという少年の目には、あの違法とも思える暗いバーの闇の中でも、恐れがなかった。

 真が登校拒否でまともに学校に通えず、行ってもしばしば気を失ったり逃げ出したりしていた小学生の頃、叔父の弘志が真を養子にしたいと言っていることを聞いた。
 もともとは、真が『蕗の下の人』を弘志に紹介した時に、このままでは危ないと思った弘志自身が、真を東京にいる長兄のところへ送り込んだようなものだった。弘志は、その結果として真が慣れない都会暮らしにさらに心を病んでしまったのだと思い、責任を感じていたのだろう。
 アイヌ人の女性と結婚した弘志は、結婚当初は自分たち自身の子どもを持つことを躊躇っているような気配があった。彼ら夫婦の間にどのようなやり取りがあったのかは分からないが、彼らは自分たち自身の子供を持つよりも、真を養子にして北海道に引き取ることこそ、自分たちの役割であると決めたようだった。

 一方で伯父の功は、真が北海道に戻ることに強く反対していた。牧場に戻れば真は再び自分だけの世界に閉じこもってしまう。馬や犬、目に見えない伝説の小人とばかり話し、社会と折り合うことを辞めてしまうと心配した。
 真は、自分が東京での生活にも学校という環境にも馴染めないことが原因で、東京の伯父にも、北海道の叔父にも迷惑をかけているのだと感じて、混乱した。
 夏休みに北海道の牧場へ戻ると、親戚たちが真のために色々と心配して、どうすればこの子どもに一番良いのかと話し合い、心を砕いてくれていた。だが、真は大人たちが心配すればするほど不安になり、自分が無力だと感じ、耳を塞いで蹲りたくなり、また一方でひどく苛立っていた。

 夏の終わりに、伯父の功に誘われた竹流が牧場にやって来た。
 竹流は例のごとく、巧みな話術で皆を引きつけ、初対面であろうとも誰に対しても優しく親しげに心を配った。問題児である真の処遇を巡って袋小路にはまり込んでいる大人たちは、ようやくほっとしたようだった。
 竹流は彼らを安心させる一方で、真の様子に対しても敏感だった。
『生きていたら、幸せなことと苦しいことと、どっちが多いの』
 牧場の端まで馬を駆って辿り着き、彼方に海の見える崖の近くで馬たちを休ませたとき、真は隣に立つ男にそう尋ねた。

 竹流は真の方を見て、至極当然、という表情で答えた。
『苦しいことに決まっているだろうが。俺が見たところ、人生の時間の九十パーセント以上は苦行に費やされるものだ。だが、自分でその道を決断し誠実に進むなら、幸福や喜びはどうとでも感じることができるはずだ。たとえそれが人生の一パーセントの時間であっても、無限の時間になり得る。お前が子どもだからといって、自分にとって本当に必要な道を選び取る能力がないなどとは思わない』
 竹流は、長一郎やおじ達が何を相談しているのかを知っていたのだろう。
 結局、東京で功と葉子と生活を続けることを選んだのは、真自身だった。選択した道はある意味では悲惨な部分もあった。それでも後悔していないのは、あの男がまだ子どもだった真の目を真っ直ぐに見て話してくれたからだ。

 ナンニという少年の目を見たとき、あてもない闇に取り残されたはずなのに、真っ直ぐに世界に視線を向けているのを感じた。それは、あの子どもが、あの時の真と同じように、信頼できる大人を常に身近に感じているからなのだろう。
 草薙という男は、人情に厚いとか優しいとかいう言葉は似合わないが、彼自身や他人が思うよりも人好きなのかもしれない。
 竹流が残した言葉を思い出した。彼は誰も信じるなと言っていたが、あるいは、信じる相手を間違えるなと言いたかったのかもしれない。信じなければ前に進むことができないことなど、彼自身はよく知っているはずだった。

「まぁまぁ、よくお越しくださいましたね」
 吉川弥生は本当に話好きの女性だった。真を座敷に通す間も、真が聞きもしないのに、あれこれと昨夜の旅館のことを話した。旅館の経営者は弥生の遠い親戚ということだが、真が聞いた印象では、血縁と言ってもほとんど無関係に近い縁戚のようだった。
 座敷の机の上には、古い雑誌が幾冊も積まれてあった。

 弥生が茶を淹れに席を離れている間に、真は古い座敷の中を見渡した。
 北前船を扱っていた蓮生家の番頭の家というのは、一般から見れば十分に格式のある家柄なのだろう。古いが、天井や床の間の柱に使われた木々にも風格が感じられた。欄間には、波を乗り越える千鳥があしらわれている。朝の光で、白い壁に小さな千鳥が細長い影となって写し取られていた。
「遠慮なさらずにご覧下さいね」
 弥生は、真が持ってきた菓子と茶を盆に載せて戻ってきた。

 真は礼を言って、雑誌を取り上げた。
 A五版サイズの雑誌の表紙には、昭和の始めを思わせるレトロな少年や少女の絵が描かれている。元々は抑揚のない派手やかな色だったのだろうが、今ではセピアに沈んでいた。いずれもまだあどけない子どもたちが、時には猫や鳥といった愛玩動物と一緒に描かれている。
 試しに一冊を広げてみると、中は意外にも小さな文字が詰まっていて、印刷の擦れも手伝って、極めて読みにくいものだった。

「今だから平気で広げられますけどね、子どもの頃は恥ずかしかったですよ」
 真は意味が分からずに弥生を見た。
「恥ずかしい?」
「大人の世界をのぞき見るっていうんですかね。ちょっといけないものを読んでいるという興奮があって、夜こっそり布団の中で電気をつけて読んだものでしたから。嫁に来るときにも、実家に残して誰かが見たら恥ずかしいんで、長持の奥に忍ばせて持ってきたんですよ。捨てるのも惜しい気がしましてね」
 弥生は、平然とした顔で艶話をしていた北条仁と真を同類と思っているのだろう。無遠慮に楽しげに話している。

 表紙からは子ども向けの本に見えるが、実際には何かをカムフラージュしていたのかもしれない。どの時代にも、特定の時期の子どもたちの成長に何某かの意味合いを添える種類の本があるものだ。
「でも、ここに書かれているのは、民話や伝承だと言っておられませんでしたか?」
「伝承って、結構艶っぽいものが多いんですよ。夜這いの話も随分入っていましたからね。昔は、どこそこの子どもは土地の違う血が入ってるなんて、当たり前みたいに噂になっていたりもしましたしね。ここに書かれた話が、誰か知っている人の話だとか想像すると面白かったものですよ」

 確かに、盆踊りもそもそも夜這文化の一つの表れだともいうし、民謡も色気のある唄が多いのは事実だ。夜這文化の中には、夫婦二人の子どもを残すということよりも、村という集団の中に強い血を入れることのほうが重要だと考えられた可能性が示唆されているともいう。現代と違って、人の行き来が困難であった時代には、生物学的な種としての生存の可能性を真剣に探る必要があり、古い時代の人間たちはそういう必然を、本能的に選び取ってきたのだろう。
 こうした物語の中に、蓮生家の話がゴシップ的に混ぜこまれていたのだろうか。

 真は雑誌をめくり、所々にある挿絵を頼りに物語の内容をつかんでいった。
 挿絵は、表紙の可愛らしい少年少女の絵とは、趣が違っていた。あまり漫画風ではなく、時にはかなりホラーがかった絵も混じっていた。それに、ポルノとまでもいかないが、幾らか際どい絡みの絵まである。挿絵の幾つかはかなり手が抜かれていたが、一部には奇妙に丁寧に描かれたものがあった。そうした写実的な絵のほとんどは、怪奇的なものか艶っぽいものだ。
 子どもというものは、こういう際どい何かを少しずつ自分の中に取り入れて、消化していく必要があるのだろう。学校で教えられる表向きの学問とは別に、人生を渡って行くための指南が必要なのだ。

 ふと、自分の心も体も持て余していた中学生の頃を思い出して、背中が冷たくなった。愚かなことに身売りまでしてやろうと思ったのは、つまり男が女や子どもを買うという事実を知ったのは、真を呼び出しては殴っていた連中のたまり場で見た写真や雑誌だった。彼らは真にその本を見せて、お前もこういう格好似合うんじゃないのか、お前なら男を誘えるんじゃないか、とからかった。屈辱的だと思う半分で、そういう本が存在しているということ自体には幾何かの興味を感じたのも事実だった。

 ポルノ雑誌とはその後しばらく縁がなかったが、唐沢調査事務所には、食傷気味になるほどにその手の雑誌が積まれていた。時に真が事務所のソファで寝ていると、唐沢が雑誌とティッシュケースを真に渡して、若い男が健全に寝ているなんて勿体ない、社会勉強だからちゃんと読んで正しく使用するようにと言った。
 少年の頃にあった羞恥は、大人になってしまうとほとんど消えてしまったが、あるいは形を変えて心の中に居座っているのかもしれない。
 今、この雑誌を見ていると、そういう羞恥のようなものが、つまり子どもが大人になる瞬間に味わった痛みのようなものが蘇ってくる気がした。

 そして、真の手は、思わぬ挿絵のページで完全に停止した。
 その挿絵は、怪奇ものでも艶絵でもなかったのに、奇妙に精巧に描かれていた。もちろん、精巧だから手が止まったわけではなかった。それが、幾度も見た絵と同じ構図で同じ女性が描かれていたからだ。
 線のみで描かれた少女は、レースを編んでいた。手は丁寧に描かれ、まるでそこだけが実際に生きて動いているようにさえ感じられる。真は思わず息を飲み込み、その挿絵の物語の最初のページを探した。
 文字は古い字体で、随分読みにくいものだった。

「あら」
 弥生は真の手元を見て、それから少し間を置いてから付け加えるように言った。
「それは面白いお話でしたねぇ」
「覚えておられるんですか」
「娘の頃は、そういうありそうな陰謀物語に惹かれましたからね。女学生の頃は、こういうものを読みながら大人に近づいた気がして、友達同士で哲学者や作家気取りになったこともありましたっけねぇ」
 最初のページには物語の題名が、本文よりも幾らか大きめの字で書かれていた。
 真は思わず弥生の顔を見た。弥生はその真の顔を、説明を求めているのだと思ったようだった。

「日露戦争の後、ロシアは革命の時代になりましたでしょう。殺されたはずの皇帝一族や有力な貴族たちの末裔が、いつかは自分たちの繁栄を取り戻そうと願いつつ、虎視眈々とチャンスを窺いながら生きながらえているなんて話は、ワクワクするものでしたからね。ほら、源義経がジンギスカンになって生きていたなんて話みたいで」
『青い血』
 題名にはそうあった。これがどういう取材の元に書かれた物語なのか、少なくとも弥生やその時代の少年や少女たちは、これがただのお話と思って読んでいたことだろう。いや、今でさえ、ありそうな歴史小説のひとつとして捉えているのかもしれない。

「皇女の一人が遠い異国に匿われていて、必ずその血を存続するようにという使命を与えられていた。お姫様が国を逃れたとき、一枚の絵を持っていたんですよ。その絵にはレースを編んでいる女性が描かれていて、その女性が編んでいるレースの模様に光を当ててよく見ると、宝の地図が浮かび上がるっていうんですよ。いつか自分たちが再び権力を握る日のために、財宝のありかを書いた地図を潜ませた絵が世界中あちこちにあるんだってことでしてね。でもお姫様は故郷や家族が懐かしくてずっと泣いていて、しかもお国のほうはもう大変なことになっていて誰も彼女を迎えになどやって来ない。お姫様を匿っていた人は、お姫様の相手になるような人をたくさん連れてきて、血を残そうとするんですけどね、お姫様はずっと使命を果たせなくて、結局異国人の子どもを産んで、そのまま亡くなってしまって、古い家の地下に埋められてしまう。お姫様が持ってきた絵は、そのままどこかに消えてしまうんですけどね、物語の最後ではその絵が隠されている場所から、時々、すすり泣くような声が聞こえるんだっていうんですよ」

 弥生が物語のあらましを話している表情を、真は緊張して見つめていた。
 弥生の頭の中で、この物語が蓮生家の蔵の下から見つかった白骨死体と結びついていない、とは言えないだろう。もしも、『絵』というピースが彼女の想像の中でかみ合ってしまえば、物語が真実であったい可能性を詮索したくなるに違いない。
 だが、真の緊張を察したのかどうか、弥生は話好きで気のいいのおばさんの域に留まっていた。
 彼女にはあくまでもこれは『物語』なのか。この女性が、県庁の会議室にかかっている絵を見るチャンスは、恐らく生涯ないだろうから、彼女が真実に気付く可能性は薄いのかもしれない。

 いや、この女性は知っているのかもしれない。
 蓮生家の歴史は吉川家の歴史と重なっているのではないか。昨日真が雑誌の話を持ち出したとき、弥生は一瞬返事を躊躇ったような気配だった。彼女は歴史の証言者となることを拒否しているのかもしれない。
 仁ならば上手くかわすか、それともあっさりと相手の内側に入り込んで、弥生の気持ちを聞きだすのだろう。だが、そういうことは、真にはできそうにもなかった。
 弥生は『青い血』の物語からあっさりと離れていき、他の面白そうな物語を紹介してくれた。
 真は話を合わせながら彼女の心情を読み取ろうとしてみたが、一見開け広げに見える女性の内側はまるで次々と打ち寄せる波のようで、核心は全く見えなかった。

 そして何冊目かの本を広げたとき、黄ばんだ古い新聞記事が押しつぶされるように挟まっているのを見つけた。もう二十年近くも前の記事だ。
 弥生もそれには確かな記憶があったわけでもないようだった。真と一緒に記事を覗き込み、複雑な顔をした。
 日露戦争勝利の裏で密かな取引、さる新潟の旧家と軍部、ロシアの関係、と見出しされた小さな記事。ロシア皇帝から託された宝はある家の蔵に隠されたが、事実は闇に葬られようとしている。
 詳しいことは何も書かれていない。そしてもう一枚はその一か月後の小さな訃報だった。

 下蓮生の当主の焼身自殺。
 この記事に書かれた、自殺をした当主というのは、年齢からは恐らくあのボケた老人の父親なのだろう。「父親が何か四角いものを預かっていた」と老人が話していたその人は、火に焼かれて死んでいた。
 あの老人は、もしかして自分の父親を焼いた火を見ていたのだろうか。父親の死で語り手を無くして隠された蓮生家の秘密。だから、今回もまた、蓮生が封じ込めているものを、火の力で焼き払ってしまえると思ったのか。

 想像力豊かだった少女の弥生の頭の中で繋がっていたかもしれない二つの新聞記事。
 しかし、彼女はそれを記事としては残しても、記憶の中には残さなかったのか、あるいはこれは継げていはいけない符号だと感じて、静かに雑誌のページの中に閉じ込めてしまったのかもしれない。
 弥生はその二つの記事については何も言わず、お茶が冷めましたね、と言って席を立った。真はその後姿を見送り、その日付をもう一度確かめた。どちらも、澤田が記者を辞めた後のものだった。
 途中で何冊かの雑誌の最後のページを見た。
 奥付けの編集者の名前の中に、村野耕治の名前があった。真はまるで親しい知人の名前を新聞記事の中に見つけた時のように、しばらくその名前に見入っていた。

(第23章 了)






<第24章予告>
「竹流が、今どこにいるのか、知っているのですか」
「いいえ。彼とは佐渡で別れました」
「佐渡に何をしに?」
「契約の手形を受け取りに行ったまでです」
「契約?」
 真は呟いて、それからようやく浮かしかけていた腰を椅子に戻した。
「一体、この一連の出来事の中で、あなたの役割は何なのですか」
「あなたの推理を聞いてから、お答えしましょう。全て話すのは面倒な部分もありますから」

いよいよ竹流の足跡に近づく真。
その前に、もしかして忘れられているかもしれない、もう一人行方をくらましている真の恋人(一応)・深雪の足跡も明らかになります。
核心に近づく第24章『宝の地図』、お楽しみに!

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

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【石紀行】14.岡山総社・鬼の差し上げ岩~岩屋巨石群(2) 

登っていく
それではこの小さな山の中を歩いてみましょう。鬼の差し上げ岩の裏へと登っていくと、こんな道が続いています。
岩屋地図
駐車場の小さなトイレの前の箱の中に無造作に入れてある案内図がこちら。地図では平坦に見えますが、一応高低差も書かれていて、1周回って40分の道程ということのようなのですが……なぜか私たちはいつも人の倍はかかっている。迷子になったせいもあるけれど、今回は2時間??
それは、やっぱり石と戯れる時間が長いからではないかと思います。休憩したり、座ったり、触ったり、景色を楽しんだり。
さて、まず最初に現れるのは『鬼の餅つき岩』と立札があるこんな岩が木立の間に現れます。
もちつき1
小さくはないけれど、巨大でもない。これが鬼の餅つき岩、なんて誇大広告じゃありませんか。
でもこの岩の前に立っていても景色は開けない。
そう、巨石を巡るようになって分かったこと。それは、「まずは登れ。そこに巨石があるから」
写真では分かりにくいですが、少し「よいしょ」と登る感じの高さ。
もちつき2
この岩に登ってみたら、こんな世界でした。
もちつき3
どんなふうに餅をついたのか? 洗濯岩じゃないの?とかあれこれ思いつつ、二股に割れた巨大な岩の上を恐る恐る歩いてみる。
もちつき500
端っこは結構すとんと落ち込んでいて、落ちたら間違いなく怪我をします。
位置的には鬼の差し上げ岩の丁度上あたりに思えるのですが、形態的には別の岩。
餅つき4
この岩からの景色はこんな感じで、風が気持ちいい。でもちょっと天気が悪くない?
と思いながらもしばらく岩と戯れ、次なる岩へ。
少し歩いたらすぐに『鯉岩』の立札が見えます。
鯉岩1
鯉?????
鯉岩2
鯉岩3
各アングルから確かめました。結論→鯉には見えん。
ところで、後程ご案内しますが、「鯉」には意味があります。
この近くに鯉喰神社というのがあるのですが、そこには温羅と吉備津彦命の壮絶な戦いの伝説があります。
この戦い、なかなか勝負がつかず、命は天からの声に従い温羅を追い詰めます。温羅は矢尽き刃折れて自分の血で染まった川へ逃れたのです。すぐに命は鵜になって、鯉となった温羅を捕食して勝利した、それを記念して「鯉喰神社」が祀られたというわけです。もちろん、鯉喰神社はこの山の中ではなく平野の方にあるのですけれど。
鬼の温羅が姿を変えたのだと思うと、この岩も鯉に見える?

次に現れるのは八畳岩。
八畳岩
登ってみると……
八畳岩500
どうでしょう。この大きさと、見晴らし。蚊にもめげず、すっかりくつろいでしまいました。
八畳岩から
でも天気悪いよ?
更に少し歩くと次の巨石『屏風岩』が現れます。
う~ん。こちらの方が鯉に見えるような。屏風にしては分厚くない?
屏風岩
横に回ってみます。
屏風岩500
更に少し下って見上げる。
屏風岩2
うん。やっぱり屏風というよりは潜水艦みたいですね。あるいは、戦艦大和?

さて、道々にはあちこちに観音様(三十三観音)がおられます。少しご紹介しますね。
岩屋・道の神様
地蔵さん1
お地蔵さん3
お地蔵さん4
お地蔵さん2
屏風岩3
最後のは『馬頭観音』です。
この馬頭観音を南に曲がってすぐ、大きな岩がごろごろしている場所があります。
『汐差岩』という名前は、やはり登ってみてなるほど、と思います。
汐差岩1
遊歩道から見上げるとこんな感じ。もちろん、登ってみます。
汐差岩3
汐差岩500
確かに、波が重なって迫る海のように見えます。なかなか写真では分かりにくいのですが……
汐差岩4
下に降りてみると、こんな感じなのです。
方位岩500
そのまま下を歩いていると、この『方位岩』の立札が見えます。
この大きな岩が方位岩?
『方位岩』とは色々なところで見かけますが、要するにその石を基準にして方位を確認する、たとえば、この石とどこかを結んだら夏至の太陽が昇る、というような石ですね。大きな地図で見たら何かわかるのかしら?
先ほどの『汐差岩』の上を歩いていると、この岩の上にも登れるのですが、この岩の上には不思議な四角の石が。
これ、だったりするのかしら?
傍にはくりぬいたような窪みが?
方位岩1

さて、この辺りで雲行きが怪しくなってきました。もともと曇っていたし、午後からは雨予報だったのですが、少し早めに雨がやって来たようです。
ここで、先を急いでいたのもあってちょっと上がり処を間違えてしまって、道を下ってしまったようなのですね。肝心の岩切観音を見損ねてしまったのでした。
結局駐車場に戻った時には雨がじゃじゃ~。
迷子にならなければぼんやりしていなかったのか、あるいは他のところでくつろぎ過ぎたのか。
でもきっとまたいつか。

こうしてみると、この石たちがこの辺りに住まわっていた人々の歴史に関わってくるのは平安期以降、山岳仏教の広がりと関係しているように思いますし、そこに新しいものが加わり(三十三観音はいつからあるのかしら?)、積み重ねられてきたものと思われます。
でもあの鬼の差し上げ岩だけは、やはりもっと早くから人々の目にとまっていたのではないかと思うのです。
それくらいにダイナミックで圧倒的な石でありました。

さて、次回は、吉備津神社と周囲の古墳へご案内いたします。
大和朝廷側の言い分も聞かなくちゃね。
もちろん、お約束の、宿泊旅館のお食事画像つき!
鬼
でも、やっぱり吉備の国の人たちは鬼が好き、みたいですね。
こちらはその吉備津神社前の売店で出迎えてくれる鬼さん。
水売ってるし……(*^_^*)

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【8888Hitリクエスト第2弾】センス~闇の声~(後篇) 


遅くなりましたが8888Hitリクエスト第2弾『センス~闇の声~』後篇をお届けいたします。
こちらは『憩』のけいさんからのリクエスト。前篇はこちらです→『センス~闇の声~前篇』


けいさんの【夢叶】から、伝説のバンド(とは言わないか。まだ現役の還暦バンド)の作詞家・奏ちゃん(すでに50代!)をお借りして、展開するお話となっております。
なお、こちらに登場する相川真は、初代相川真の曾孫です。別人ですので、お間違えのないように!(あ、登場してなかった。名前だけです^^;) 初代との違いは、この2代目の方は相当にぶっ飛んでいます。言動も性格も。

そして、この後篇のテーマソングはこちらです。

晩年(と言っていいのか)の彼の歌声には鬼気迫るものがありましたね。

The show must go on !
このmustは「しなければならない」というよりも「どうしたってそうなってしまうんだ」という必然、命の定めの残酷さのように聞こえるのです。……堂本光一さんのEndless SHOCKでは舞台というshowは「続けなければならない」ニュアンスでしたけれど、人生・命というshowは「(Whatever happens)続いていってしまう」ものなのですね。
痛々しいけれど(My soul is pained like wings of butterflies)……I can fly, my fraieds! なんです。

死と闇。重いテーマで、なかなか追いつないけれど、いつも身近に感じていることを精一杯書いてみました。
悲しみよりも愛が、ガウスの加速器で皆様の元に届きますように。
けいさん、リクエスト、ありがとうございました(*^_^*)

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Category: (0)センス~闇の声~

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【石紀行】14.岡山総社・鬼の差し上げ岩(1) 

今回は岡山総社市の鬼の差し上げ岩にご案内いたします。
この地に残る伝説・昔話と言えば、かの桃太郎伝説ですが、桃の絡んだ鬼退治のお話は日本の至る所にあって、その中で「黍(吉備)団子」とのコラボで見事に現在の地位(?)を勝ち得たのが岡山県ということになりましょうか。
黍団子の原型は15世紀ごろには記述があるそうですが、桃太郎のお話に黍団子のエピソードが盛り込まれたのは元禄以降だとか。それまではとう団子だったとも。
桃太郎侍(あ、桃太郎違い)
何はともあれ、この地は「桃太郎伝説」を紐解くにぴったりの条件がそろっていたようです。
それが大和朝廷と吉備国の対立。第7代孝霊天皇の第3皇子彦五十狭芹彦命(吉備津彦命)と稚武彦命兄弟の吉備国平定の話が「鬼退治」となったわけですね。
「鬼」とは大和朝廷にまつろわぬ民。吉備の国には「温羅(うら)」という鬼がいたという伝承があります。
温羅は古代吉備国の統治者で、出雲地域より飛来して吉備に入り、鬼ノ城を拠点として吉備地方を支配、製鉄技術を伝えたと言います。そもそものルーツは百済の国だったとも。
tataraba.png
製鉄と言えば『もののけ姫』を思い出しますね。タタラ場でもっとも有名なのは島根県ですが、この中国地方は古代には大陸に開かれた土地。百済や新羅から多くの人々がやってきて、多くの技術を伝えた。中でも製鉄と米、塩を作る技術はその最たるものだったと言えます。お米も大陸から伝わる前は、粟とか稗だったのですものね。

以下、宿泊した「あしもり荘」の支配人さんのお言葉。
「この地域には、温羅祭りというのがあってものすごく盛り上がるが、桃太郎祭りは盛り上がらない。ここの人間は温羅が好きなんだ。温羅は宝をもたらして、この鬼ノ城から吉備の国の集落を守ってきた。それを大和朝廷が……」
なるほど。
伝承では「温羅の支配に苦しんだ吉備の国の人々が、大和朝廷に陳情に来たので、追討命令を下した」ってことになっているけれど、まさに歴史は勝者が書きかえるってことなのかも。

さて、その大和朝廷と温羅の戦いはかなり壮絶だったようですが、温羅も殺されても生首だけで生きていて(これもどこかで聞いた話だ……美輪さんの声が~)、唸りを上げていたとも。
こういう話にはあれこれ利権やら正義やらが錯綜していて、どちらかが一方的に悪いとか良いとかもなく、また戦いも常に敵対していたというわけでもなく、和解もあったりして。
さて、この大和朝廷側の遺構・遺跡・神社はまた次の記事に譲るとして、まずは「鬼」の世界にご案内したいと思います。
鬼の城
こちらは鬼ノ城。温羅が鬼城山(標高400m)に築城したと言われる古代山城です。
鬼城山は南に向かっては何も遮るものがないので、遠く四国まで見えるという要所です。この山の8~9合目を取り囲むようにした石積の城壁・土塁の長さは、約2.8km、面積は約30ヘクタール。
鬼の城の遠景
古代の城、と言えば東北地方に見られる城柵と、九州・瀬戸内海沿岸・大阪湾沿岸に築かれた山城があります。当時の城は居住区というよりも軍事施設。そして、山城の中で、築城時期が不明で記録が全く残されていない城のひとつがこの鬼ノ城です。
西門や角楼周辺は復元されていて、土塁も古代の版築工法で作られました。壁となる部分に型枠を作り、内部に土を入れて一層ごとに突き固めるやり方。出来上がった土塁はまるでミルフィーユです。
版築工法
鬼の城3
上は復元された土塁。そして下はやはり復元された西門。
鬼の城2

前置きが長くなってしまいましたが、こんな背景のある土地に今回ご案内する巨石があるのです。
鬼ノ城には小規模ながらビジターセンターがあって、お手洗いも綺麗で、沢山のハイカーさんたち、家族連れが休憩していました。お弁当などをゆっくり食べることができます。
ちなみに、私たちも宿泊したあしもり荘で頂いたおにぎりを食べました。美味しかった(^^)
このビジターセンターからさらに車で10分弱、3kmほど山の中に入っていくと、目的の岩屋・新山一帯にたどり着きます。
ようやく、本日の主役の登場です。
鬼の差し上げ岩500
まずはこの迫力ある巨石の集合体をご覧ください。
鬼の差し上げ岩6
ぎゅっとフレームの中に詰め込むと、その迫力が分かります。
ちょっとアングルを変えてみると、上にいささか不安定に乗っかっている岩が件の「差し上げ岩」だということが分かります。
差し上げ岩
横に回っていきます。ちょっと人間の大きさと比べてみましょう。
鬼の差し上げ岩8
側面から見るとこんな感じ。
鬼の差し上げ岩3
10鬼の差し上げ岩
後に回るとこんな感じです。
鬼の差し上げ岩4
そうなんです。後ろに回ると、かなり不安定な状態にあることが分かります。
実は、今年の4月に落石事故があったようで、周囲を「立ち入り禁止」のテープで囲われていたのです。
ちょっと岩の方から元来た道、岩屋寺(無人の寺)を振り返って見ると。
立ち入り禁止
テープが見えますでしょうか。
ということは、大海はもちろん立ち入り禁止の中におります。
というよりも、こんな大きな岩に何かあったら、立ち入り禁止の外にいても危ない立地なので、意味はないという気がします。巨石の旅、結構スリルのある場所、多いですから……
というわけで、さらに岩に近づいてみましょう。
鬼の差し上げ岩5
この朽ち果てたような祠。何を祀っているかというと。
磨崖仏
見えにくいと思いますが、この磨崖仏です。
差し上げ岩の中
祠の脇の穴から奥を見るとこんな感じ。さすがに奥までは行かなかったのですが、ちょっと後悔。
そしてこちらは手前の岩です。
鬼の差し上げ岩9
ちょっとエロチックなこの形は、陰石でしょうか。
陰石の中
いわゆる子宮をイメージした空間なのかもしれません。
鬼の差し上げ岩11
ちょっと立ち入り禁止の枠の外から写真を撮ってみました。差し上げ岩を支えている下の石に何か線が見えませんか?
アップにしてみます。
鬼の手形2
鬼の手形
そう、これは「鬼の手形」というわけです。
伝承の温羅が岩を「差し上げた」という伝説が残るこの岩。
日本にある巨石の多くは磐座や山岳信仰の聖地であったと思われ、自然の造形のままの姿が残されているようなのですが、時には「動かしたんじゃないか」と思われる跡があったりします(岐阜県の金山巨石群など)。二つに割れた岩の間から夏至の太陽が昇ると言われると、人工的に割ったのではないかと思ったりもします(尾道・岩屋巨石)。
それをこんな風に「ほら、鬼の手の跡があるでしょ。だから鬼がやったんだよ」と言われると、「なるほど! そうだよね」なんて思いたい大海なのでした。この不思議さを、ユニークな形で表した手形。いかがでしょうか。

とは言え、実際にはこの土地は、平安時代に山上仏教が栄えた土地。
巨石の多くはこうした宗教と結びついていて、大和朝廷と温羅が闘った古代ロマン溢れる時代よりも少し後の話になるのかもしれません。
でも、巨石は古代からそこにあったはず。
やはり温羅がここで祈りを捧げていたかもしれませんね。

さて、次回はこの山にある他の岩たちをご紹介します。
その前に。追記にて、迷子になった私たちの苦難?を記録しております。
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Category: 石の紀行文(写真つき)

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