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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

NEWS 2014/9/26 仙台だよ! 

東北新幹線
こちらは、「はやぶさ」と「こまち」がくっついてるとこ。
なんだかかわいい、と思ってしまいました。
こまちって、何だか色からしてこまち、ってかんじですよね(ナンノコッチャ)。
でも、盛岡で切り離されてしまうのね。別れがつらいでしょうに(?)

新幹線の中で仕事していたら、また酔っちまって(最近、三半規管が弱い)、ひどい頭痛で半寝込み状態でお仕事会場に行ったら、余計に気持ち悪くなってしまった……
お仕事会場に向かう途中、神社があったので、土地の神様にご挨拶に行ったら、ねこさんたちに迎えていただきました。
櫻岡大神宮猫2
このねこさんは逃げずに「写真撮りなよ」って感じでした。
7匹くらいいたけれど、後は逃げたりで写真が微妙。
櫻岡大神宮ねこ1
常夜燈のねこ。上にもいるよ。
櫻岡大神宮
行きはお仕事会場まで歩いたけれど、かなり遠かったので、帰りはタクりました。
タクシーの運転手さんに「どこから来たの?」と聞かれたので、「神戸」と答えたら、震災の話になって。運転手さんも危うく津波に飲みこまれるギリギリだったとか。
……街の中は全く普通なのだけれど。
今回の旅では夏休みを後ろにくっつけたので、南三陸にも泊まってきます。
そう言えば、新幹線で福島を通って来たけれど、やっぱり美しい景色でした。
私、埼玉に住んでいた時、何度も福島の酒蔵に行っては飲んだくれていたお酒を買っておりましたが、水もお米も素晴らしいからこそ、あのすばらしいお酒が生まれたんだよなぁ。
広瀬川
そうそう、新幹線の中から、頭の中でヘビーローテーションしてた曲はもちろん……
広瀬~川~流れるき~しべ~思い出は~帰らず~
やっぱり歌っちゃいますよね。
って、あれ? 皆さん、知ってますよね?(いささか不安^^;)
で、上はその広瀬川。そうそう、川って行ってみたら結構普通なんですよね。

Mステで嵐くんのハワイ生中継を見て、仙台のホテルで1人で踊って盛り上がった私でした。
智さまのお声を聴いて、元気も出たので、さて、お仕事の追い込みしなくちゃ!
今週は『人喰い屋敷の少年』、お休みです。来週末も東京出張なので、どうなるかしら。
limeさんの描いてくださったマコト記事は……次にネット繋がる環境になった時に(*^_^*)

関係ないけれど、さっき地元のCMで柴田三兄妹さん(津軽三味線)の曲を聴いた……
さすが、地元! 調べてみたらあった。宮城交通さんでした。

彼らの三味線(超おススメ)を聴きたい方はこちらも。
さ、仕事、仕事。
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Category: NEWS

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【物語を遊ぼう】13.ロケハンと聖地巡礼:後篇 

さて、後編は聖地巡礼です。予定外に長いです(タルコフスキーで盛り上がりすぎて…^^;)。ごめんなさいm(__)m聖地と言えば、ドラマや映画、小説の舞台・ロケ地のこと。そこに行くというのが聖地巡礼なのですね。韓流ドラマに嵌って、雪だるまでチュウのあの公園に行った方も多いに違いない……ファンにとってはたまらない場所、そしてその特別な場所で過ごす時間は至福のひと時、であります。日本では『東京ラブストーリー』愛媛県のど...
【物語を遊ぼう】13.ロケハンと聖地巡礼:後篇


ブログ村のイタリアトーナメントに参加したら、またトラックバック状態になってしまいました……^^;
よろしければ、『聖地巡礼』イタリア珍道中、ご覧くださいませ。
今はlimeさんの描いてくださったマコトと戯れながらお仕事中です(*^_^*)
limeさん-マコト1
らめなんだぁ。私も、お仕事終わらないと、寝れないんら~ がんばるよ~
……こちらのイラストはまたじっくりご紹介させていただきますね!
limeさん、ありがとです!!!!!! 仕事頑張ります!!!!

Category: つぶやき

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【迷探偵マコトの事件簿】(13) マコト、練習中。 

霑ェ・ォ郢晄ァュ縺慕ケ晁肩・シ迢冂onvert_20130824193448_convert_20140414070547(イラスト:limeさん)
マコト、今度は何を始めたのかな?

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったら豹になるつもり。謎のヒーロー番組『半にゃライダー』に憧れている。
タケル:ちょっぴりSなマコトの飼い主。でも本当はとても優しい。


【迷探偵マコトの事件簿】(13)マコト、練習中。

[SCENE1] まずはかっこよく

う~
う、う~~
うぅ~……
ぼくは手をつっぱって、おしりを下げる……うぅ~~
それから、前に出るいきおいで……にゃん!

あれ?
……もういちど。

手をつっぱって、おしりをさげて……うぅ~~
前に出る!……にゃお!

あれ?
……もういちど。

おしりをさげて……うぅ~~
前に!……にゃっ!!

だめだ……
ぼくはがっくり。

やっぱりかわいい声になっちゃう……
ぼく、がお~とか、ばお!とか、かっこよく吠えたいのに。
ちっともうまくいかないの。

しかたがないからテレビを見る。
ガラガラ声のおばちゃんが口の中に何かを放り込んだら、きゅうにいい声で「あぁ~~~♪」って歌いだした。



ぼくはタケルをふりかえった。

ね、あれ買って!

[SCENE2] キックは基本

来たな、かいじん!
ぼくはかいじんにたっくる!
あしをつかまえて……ねこきっく! ねこきっく! ねこきっく!

ふぅ。

でも、イスのあしじゃ、なんだかイマイチやっつけた気がしないなぁ。



ぼくはそ~っと、ソファでねちゃってるタケルのところにいって……
あしをつかまえて……
……ねこきっく! ねこきっく! ねこきっく!

わ! タケルが起きた! 

こ、このあいだ、ね、ねこのきもちってほんに書いてあったよね。
……あ、あ、あ、あいじょうひょうげんってやつ?
ふくざつな、ね、ねこごころにゃの……

か、かいじんだなんて、思ってないよ。

[SCENE3] 秘密兵器のがぷっとぉ!

来たな、かいじん!
こんどはにがさないぞ!
ぼくはがっしりつかまえて……

ぷっ!

あぁ、ちがうんだ。ぷって、おっきく噛みたいんだ!
今日は、宝来センパイに教えてもらった「かぷっと」じゃなくて「がぷっとぉ!」なんだ。

もういっかい!

がっしりつかまえて……

……かぷ。

……

口がつかれた……あごがおっきくあかない……

そうだ、きっと、だんぼーるばこのはしっこは、かみにくいんだ。
それにかいじんは四角くないもん。



ぼくはそ~っとおふとんで寝てるタケルのところに行って……
タケルの手をつかまえて……

がぷっとっ!!

……あ。

おもったより強くかんじゃった。

わ。かいじん、じゃなくて、タケルが起きた~~~
つかまった~~~~
わ~~~~~、ごめんなさい~~~

[SCENE4] 空も飛べるはず

きょうはイスとテーブルの間がいい感じ。
こねこのぼくにはちょっと遠いけれど、きょうはやれる気がする。

でもやっぱり遠いね。
ちょっと手をのばして。
ちょい。
きょりをはかって。

ちょい。
もういっかい、はかって。

……とおいなぁ。
ぜんじんみとうの大ジャンプだ。

もういっかい手をのばしてはかってみる。

……

おりんぴっくに出てたうちむらくんは言ってた!
イメージが大事だって!

そうだ。思いえがくんだ!
かいじんがむこうに逃げたと思えばいいんだ!

まて、かいじん!
ぼくはもういっかい下がって、おしりを引いて……

思いきって……じゃんぷ!



どてっ。

ころん。

……

……ひーろーになる道のりって、とおいんだね……


(『迷探偵マコトの事件簿』(13)マコト、練習中。 了)


そもそもこのお話、しょうもない頭休めが信条だったのに、最近複雑な話になっていたので、またまた初心に還って「しょうもなさ全開」で書いてみました。
それもなぜか昨日から、「吠える練習」をしているマコトが頭の中に陣どちゃって、書いて出してしまわないと、仕事にならない気がしまして^^;
しかも、自分で「かわいい声」とか言っている、結構、自意識過剰? ナルシスト?
ねこって、ナルシストだよね、うん。

最後のは、うちの猫がよくやっていたのですが、いつも落ちてました^^;
ちょっと後ろ足が弱かったからかもしれませんが……そんなに何回も測って、何で落ちる?
しかし、のど飴のコマーシャルを見たマコトに急に振り返って見つめられたタケル……なんだ?って思ったでしょうね。
しかも、のど飴なんてなめたら、余計に可愛い声になるだけかも。

でもね、マコト。
君の前に道はないけれど、君の後ろに道は出来るよ! きっとね。

面白かった~よりも、笑いながらしょうもな~~~って声を期待しちゃう大海でした(*^_^*)

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(4)女の事情と猫を抱いた少年 

limeさんlimeさん天使と男160
あれ? 今回は表紙絵(?)が2枚? その事情は本文で探ってください。
(はい、省エネをしてしまいました。)
さて、『人喰い屋敷の少年』(4)です。
省エネとは書きましたが、実は合わせ技をしたら今回のアップ分が長くなってしまいました。でもどうしても、少年に会いたかったので、7000字の掟(って、なぜ掟?)を破って10000字です。長くてごめんなさい!
何はともあれ、お楽しみくださいませ(*^_^*)
ちなみに第1・2・3話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女(3)人を喰らう屋敷

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会う、猫を抱いた少年。(なかなか会わないなぁ^^;)
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。
田代>7年前、綾の夫・松岡圭吾の失踪事件を調査した班の元刑事。若くして警察に嫌気がさし、今は喫茶店をやっている。
真田>綾の夫・松岡の元同僚の刑事。松岡は、綾と真田の関係を疑っていた。



【人喰い屋敷の少年】(4)女の事情と猫を抱いた少年


 綾はアトリエの鏡の前に座っていた。
 また朝が来た。昨日はベッドにも入らず、アトリエのソファで眠ってしまっていた。

 アトリエと言っても、夫がいなくなってからマンションの一室をそのように使っているだけだ。夫がいる間は、家で絵など描くことはできなかった。
 可哀相に思ってくれた絵の先生が、彼のアトリエを時々使わせてくれたが、夫はその男と綾の関係を疑っていた。

 いや、夫が、妻との関係を疑う男はこの世に数限りなくいたのかもしれない。
 その中でも特に夫の猜疑心を煽っていたのが、夫の同僚だった真田俊克だ。今でも真田とは時々顔を合わす。会話も交わす。手が触れるほどに近くにいることもある。触れたいと願う時もある。

 夫がいなくなってから、朝はいつもひっそりとやって来るようになった。夫の怒鳴る声も聞こえないし、何かを割る音も聞こえない。時々窓の外から鳥の声が聞こえるだけだ。もちろん、車の音や電車の音、何かしら都会にありがちな雑多な音はそこかしこに溢れているはずだが、綾の耳には上手く届かなかった。
 左耳は、夫に何度も殴られたことで聴力を失いかけていたが、そのせいではない。

 カーテンを閉めたままの薄暗い部屋の中には絵具の匂いが籠っていた。この部屋に入るのは久しぶりだったので、昨日、あの探偵事務所から戻ってきて扉を開けた時、しばらく忘れていた匂いに眩暈がした。
 時々、全く絵を描けなくなる時がある。描きたくないし、描くのが怖い。魂が絵の中に表れて、誰かに知られてしまうことを恐れているのだ。

 画家の中には自画像を描く作家も多い。綾には信じられない。自分の顔を描くなど、恐ろしいことだ。
 自分の顔を見つめていると、その顔の奥にいる誰か別の人間の顔が見えるような気がする。よく二重人格とか多重人格の話を耳にするが、人は誰だっていくつかの顔を持っている。ある人に向けている顔だけが全てではない。

 私のこの顔は、昨日の若い探偵にはどんなふうに映ったのだろう。
 夫が失踪してしまった可哀相な妻? あるいは夫の死を願う悪魔のような女? もしかすると、他の男の手を待っている淫乱な女?
 あの若い探偵は、何かを見透かすような目をしていた。印象的なオッドアイ。あの碧の右眼には、この世のものではない何か、人の心の奥の闇も見えてしまうのかもしれない。

 鏡の中に映ったアトリエは、小さな箱庭のようだ。
 綾の背中の先には描きかけの絵がある。
 昨日あの探偵と話をしてから、突然また絵を描きたくなった。

 この頃、誰かがじっと綾を見ている。失踪した夫かも知れない。あるいは別の男かも知れない。もしかすると、綾自身の恐怖心が身体から抜け出して、自分自身を見ているのかもしれない。いや、あるいは、既にこの世のものではない夫が、霊魂となって綾の行く先を見張っているのかもしれない。

 かつて愛した男でも、生きているのか死んでいるのか、その気配を察知するような能力は綾にはない。すでに愛していたかどうかも思い出せないほどに時間が経ってしまったからだろう。あるいは、今関心を寄せている他の男の想いさえも、目の前にいる時でさえ、やはりはっきりと知ることはできない。

 私は知りたいのだ。誰が私を愛しているのか。私は誰を探しているのか。今、私を見つめているのは誰なのか。
 夫が死んでいるのなら、もう探さなくてもいい。

 あの絵には何かが足りない。綾は鏡の中の絵を見つめる。
 綾は、絵の中にいつも天使を描いた。亡くした子どもを思い出しているのかもしれないし、自分の心に蓋をする手段なのかもしれない。
 描かれているのは椅子に座っているあの男。少し若いころのあの男を想いながら描いた。何かを思いつめているような目。私を置いてどこかへ行ってしまうあの人の姿を、ここに留めておきたかった。

 私は悪い女だろうか。
 あの日、あの男の手が私の肌に触れた時の微かな温度を思い出している。思い出すだけで、肌のその部分がちりちりと痛むように泡立つ。
 やはり小さな天使を描き入れよう。自らへの戒めと永遠に失われた子どもの魂を鎮めるために。


「先輩、また飲み過ぎたんですか?」
 田代はコーヒーの豆を挽き、少しだけ冷ました湯を注ぎ始めた。挽いた豆が湯を吸って膨らみドームを作る。同時にマンデリンの少し癖のあるいい香りが上ってきた。
 刑事をやっていた時にはこの匂いを楽しむ余裕さえなかった。コーヒーはただの眠気覚ましで、それさえも利尿効果を考えると、幾らでも楽しむというわけにはいかなかった。

 喫茶店の中にはジャズが流れていた。それなのに、何故か店の名前は『モーツァルト』だ。田代が警察を辞めてこの店を前のオーナーから引き継いだとき、店名を変えないというのが条件だった。特にこだわりもなかったし、別に店名などどうでもいい。

「あぁ。くそぅ」
「そうやって非番の日は飲んだくれて、挙句に二日酔いで過ごすなんて勿体ない。さっさと嫁さんを貰ったらどうなんです」
「お前はいいよな。こんなクソッタレの仕事にはさっさと見切りをつけて、可愛い嫁さんと二人で楽しく店をやってる」
 田代の横では、お腹が大きくなり始めた小柄な女性がにこにこと笑っている。
 そうだ。女は明るくて、笑顔が可愛くて、些細な事にはこだわらないのがいい。

「真田さんはどんな人が好みなんですか? 私、友達を紹介しようかしら」
 田代の妻がオムライスのデミグラスソースの味を見てから、振り返って尋ねた。彼女の作るオムライスが評判で、この店はそれなりに流行っていた。昼時になればテーブルはほとんどが埋まる。
 だが、この二日酔いの先輩刑事、つまり田代の刑事時代の署の先輩である真田は、今日はオムライスを味わうことはできないだろう。

 二日酔いでわざわざ喫茶店になど来なければいいのに、一人でいるのは寂しいらしい。それとも誰かと待ち合わせているのだろうか。時々、外を窺っている。
 それが「彼女」だったらいいのだが。
「だめだめ。真田さんは好きな人がいるんだよ」
「もしかして、綾さんのこと?」

 二日酔いの頭をカウンターに預けていた真田がむくりと起き上った。
「馬鹿言っちゃいけないよ。あれはただ、放っておけないから気にしているだけだ」
 田代は妻に向かって肩をすくめてみせた。
 そうだ、真田は「彼女」に会いたい一方で、会うことを恐れてもいる。

 それから田代は壁にかかった可愛らしい天使の絵を見つめる。
 四号の小さな絵だが、妻が気に入って、作家に直接交渉して購入したものだった。作家はプレゼントすると言ったのだが、妻はちゃんとした値段で買いたいと譲らなかった。

 天使は蓋の開いたグランドピアノに頬杖をついていて、うっとりと目を閉じている。誰かがピアノを弾いているのだろうか。『モーツァルト』という店名も悪くないと思うのは、この絵を見る時だった。
 控えめに書かれたサインはAya K.

 松岡綾は絵を描くときには旧姓を使っていた。時々、童話の雑誌や何かのデザインのための画を描いている。優しく柔らかな色調の絵は、彼女に似つかわしいとも思うし、一方でまるきり彼女らしくないと思うこともある。
 それもそうだ。元刑事の夫の失踪、そして秘めた恋。複雑な想いの中にいる女の顔が、ひとつとは限らない。

 もうすぐ松岡綾の夫、同様に元刑事の松岡圭吾が失踪して七年だ。七年経って申立てをすれば、綾は自由の身になる。田代は、あの日から時間が止まったままの綾と仕事熱心な元先輩が結ばれてくれたら、と思っていた。

 松岡圭吾が失踪する前、真田は松岡と組んでいた。真田は、口は悪いが仕事熱心で真面目な男だ。最後まで松岡の勝手に振り回されていたが、先輩を立てることも忘れない律儀なところもあった。
 松岡失踪事件を調査したのは田代の班だったので、田代は何度か真田に話を聞いたのだが、真田は多くを語りたがらなかった。

 松岡圭吾には、暴力団の一部と懇ろな関係にあったとか、事件解決の影では金が動いていたり暴力沙汰があったりで、黒い噂が絶えなかった。それでも真田は二年先輩の松岡を立てて、よく尻拭いもしていたようだし、悪く言うことはなかった。先輩後輩の関係ゆえなのか、あるいは綾を挟んで微妙な関係にあったからなのか、そのあたりも当時署内では噂になっていた。

 しかし、警察としても有難くも失踪してくれた松岡圭吾というトカゲの尻尾の在り処をこれ以上追及して、世間への警察の不祥事への関心を煽りたくなかったこともあって、一般的な失踪事件の中にうまく埋もれさせたというのが正解だろう。
 そうした警察内の尻拭いの駆け引きに嫌気がさして、田代は、当時通っていたこの喫茶店のウェイトレスとの結婚を機に、刑事を辞めたのだ。

 真田はようやくコーヒーの香りに気が付いたようで、コップ一杯の水を飲み干してからコーヒーカップを持ち上げた。
「あぁ、うめぇ。お前はどうも鼻持ちならねぇが、お前の淹れるコーヒーは最高だ」
「そりゃどうも。それで、綾さんとは会えたんですか?」
「いや」
「探偵事務所に行こうだなんて、綾さんも一体何がどうしたって言うんでしょうね。ただ待っていればいいものを。あるいは、もしかして松岡さんが生きているんじゃないかって怯えてるんでしょうか」
「本気で松岡を捜したいのかもしれないじゃないか」
「まさか、あの暴力夫を捜すなんてあり得ませんよ。俺はね、先輩、あなたと綾さんが」
「どっちにしても俺の知ったことじゃないさ」

 真田が田代の言葉を遮った。それから何かを気にするように、また店の外を振り返った。
 店は、真田が今も勤務する区内の警察署の近くにある。窓からは通りと川が見えているだけだ。
 田代は、綾があの扉を開けて入って来てくれたらいいのにと思った。

 だが、真田は決して綾に本心を打ち明けたいとは思わないらしい。松岡圭吾はろくでなしの刑事で、失踪してもうすぐ七年。この世から消えるという境界まであと少しだ。そうすれば真田と綾は晴れて結婚することだってできるようになる。
 時々、真田と綾はこの『モーツァルト』で会っている。いや、偶然居合わせる。言葉少なげに向かい合い、たまに目が合ってもまた目を逸らす。別のことに関心があるように振る舞いながら、お互いの存在を誰よりも近くに感じている、そんなふうに田代には見えた。
 大人の恋って難しいものらしい。いや、単なる意地っ張りにも見えるのだが。

 その時、真田が思い立ったようにサングラスを手に取って席を立った。非番の日であっても、署の管轄内で酔っぱらっている姿を見られるのはまずいから、出かける時はサングラスをかけているが、あんなもの役に立つのかと田代は思う。
「帰るんですか?」
「あぁ、悪いけど、つけといてくれ」
 足元が危うい。

 一か月ほど前、田代は松岡綾に誰か探偵を紹介して欲しいと相談された。警察官上がりで探偵業をしている者はそこそこ知っていた。信用できる男を紹介したつもりだったが、後からその男が店にやって来て言った。
 いきなり、死んだ人間と話ができるかと聞かれたぞ。あの女、イカれてるのか。
 オカルトがかった依頼だったので、そちらの方面に明るそうな別の事務所を紹介したのだという。

 もちろん、綾が探偵を探しているということはすぐに真田に伝えたが、真田は知ったこっちゃないという顔だった。気になったので、あれから何度か綾に探りを入れてみたが、実際に彼女が依頼に行ったのかどうかは分からなかった。
 追及してどうしようというのでもない。ただ、綾と真田がもう少しお互いの気持ちを確かめ合うきっかけができればと思っていたのだ。

 それにしても「そっちの方面に明るそうな探偵」がいるというのは驚きだった。
 真田が扉を開けると、扉の上につけたカウベルが鳴った。それを合図にして、外から車の音や風の音、蝉の声などが交じり合って飛び込んでくる。
 外は朝よりもまた温度が上がっているようだった。

 真田の開けた扉が閉まる前に、入れ替わるように二人連れが入ってきた。
 胡散臭い目つきの中年の男と、どこかにまだ少年のような面影を残した若い男だ。
 こういう組み合わせを見ると、つい元同業者ではないかと思ってしまう。だが、胡散臭い中年男は突然にかっと笑った。若い男のほうは肩にぶつかりかけてそのまま去っていった真田を少し振り返ってから、田代の顔を見た。

「カウンター、いいかい?」
 中年男が常連のように話しかけてくる。
「どうぞ」
 警戒していることを相手に察知されるような声を出してしまった。こういう時は、俺もまだまだ客商売に染まり切ってはいないらしいと思ってしまう。

 中年男に促されて、若い男の方もカウンターに座った。
 馴れ馴れしく若い男の肩を抱く中年男の左手には古い大きな傷があった。元同業者ではなくて、あちらさんのほうかもしれない。若い男は顔色を変えない。
 男らしい顔ではあるが、どこかに中性的なムードを持っているように感じるのは、その目と髪の色のせいだろう。いや、どっちかというと、野生の獣のような雰囲気だ。

「松岡綾って知ってるだろ?」
 いきなりの名前に田代は驚いた。若い男が幾分窘めるように中年男の横顔を見る。
「いや、いいんだ。知ってるのは知ってる。あ、俺ぁね、六本木で調査事務所をやってる唐沢ってんだ。こいつは俺の弟子で相川。お、いい匂いだなぁ。デミグラスソース。オムライスか? おい、食おうぜ。可愛い奥さんの作るオムライス、二つ」

 綾の名前と、唐突に現れた探偵。結びつくものはひとつしかない。ではこの目の前にいるのが「そっちの方面に明るい探偵」なのか。

 唐沢という中年男はオムライスの方に夢中になったらしく、お前知ってるか、オムライスってのは日本で生まれた洋食で、大正時代にはその原型があったんだ、とか何とか薀蓄を語り始め、オムライスを出したら、完全に黙り込んですごい勢いでぺろりと平らげ、こりゃアネモネのオムライスにも勝る、奥さん、あんたのソースは最高だ、デミグラスソースの中に優しさや愛情が融け込んでいるとか何とか褒め称え始めた。
 妻はにこにこ笑って客の話を聞くモードになっている。

 繊細からは程遠いこの男に幽霊が見えるとは思えない。むしろこいつは根っからの詐欺師だと田代は思いながら、無言のまままだ半分もまだ食べていない若い男のほうを見つめる。
 可哀相に、こんな男に雇われていたら、さぞ面倒くさいだろうと同情してしまう。だが、なるほど、この若い男なら、幽霊が見えますと言っても、いかにもそれらしい。

「綾さんはあんたたちのところに依頼に行ったというわけか」
 唐沢が相川という若い男の頭をぽかんと叩く。
「あれ、お前何時そんなこと喋ったよ」
 喋ったのはあんただよ、と田代は思ったが何も言わなかった。
 いや、喋ったわけじゃないか。綾の名前が出たのと、この男が調査事務所の者だと言っただけだ。

「まぁ、いいですよ。綾さんのことは俺も心配しているんだ」
「あんた、元刑事だってね。いや、俺らはね、綾さんの旦那のことを調べる羽目になったんだが、当時その松岡圭吾って旦那の失踪を調査してたのがあんただって聞いたからね。いや、もちろん、俺もさ、あれこれ警察の事情は分かるよ、だから細かいことはいいんだ。その旦那の遊びまわっていた場所だけでも教えて貰えたら有難いねぇ」

 やばい男だと思った。田代が警察を辞めているからには、あまり警察にいい思いを持っていないことも計算に入れて、正攻法で来たのだろう。いや、あるいはもと同業者ってこともあるのか? このいかにもあちらさんふうの男が? いや、似たようなものだから区別はつかないか。
 そんなことはともかく、あの時、十分に松岡の行方を探れなかったことには、田代は今でも不完全燃焼な思いを持っているのも確かだった。

「いいですよ。綾さんの不利益にならない範囲でなら喋りますよ。て言っても、松岡圭吾はひとつところで遊ぶような男じゃなかったし、あちらさんたちとの交友関係も随分と深そうでしたけど、特にどの組ってのでもなかった。しかもどんな大悪党を想像してるのかか知りませんけど、警察の人間ってのは多かれ少なかれあんな感じですからね。つまり、ヤクザ者と張り合えるくらいでなけりゃ、やってられませんよ」

「仕事は熱心だったのか」
「えぇ、色んな意味でね」
「嫁さんへの暴力は?」
 田代は一瞬躊躇ったが、答えた。
「あったでしょうね。自分を押さえられないところがありましたから」

 その時、若い男が突然顔を上げた。
「綾さんのほうはどうだったのですか?」
 唐突な問いかけだった。
 田代は意味を考えた。綾が暴力ゆえに松岡から逃げたいと思っていたかどうか、という意味だろうか。

「いえ、つまり、綾さんはご主人を愛していたのかどうかと」
 へぇ、また随分と根本に立ち返った質問だな、と田代は思った。
「さぁ。女性の気持ちはよく分かりませんが」
 そう言って田代はちらりと妻を見た。妻は食後のコーヒーの豆を挽き始めていた。
「愛し合って結婚したのだとしても、暴力ばかり振るわれていて、しかもいきなり失踪、悪事のにおいがプンプンする、とくれば、他の男を頼ったり、結果として好きになってしまうこともあるでしょうね」

 田代は、当時調査した記憶を思い起こし、松岡圭吾がよく出入りしていた店を幾つか彼らに教えた。
 奇妙な組み合わせの二人連れの探偵は、食後にコーヒーを注文した。
 若い男はコーヒーを待つ間にふと店内を見回し、何が気になったのか席を立ち、綾の描いた天使の絵に近付いていった。しばらくじっとグランドピアノに頬杖をつく天使を見つめていたが、その後は窓の外を少しの間眺め、やがて気配さえ殺すように静かに元の場所に戻ってきた。
 唐沢と名乗った中年男はこの界隈の美味い店を田代や妻から聞きだしながら、ほとんどずっと喋っていた。田代は、若い男の方が唐沢の煙草に火をつける仕草に、何故か引きつけられた。今時、銀座のホステスでもあんな色気のある仕草を醸し出す女はいない。いや、銀座になど行ったことはないし、何よりその手はしっかりとした骨組みの男のものだったけれど。

 それから唐沢の裏表のわからない、あるいはあると思わせて裏など全くないのかもしれない顔を見て、改めて、よくもこんな上司と付き合っていられるものだと感心した。
 

 唐沢は当てになるようで当てにならない。
 真は今ひとりで、昨夜、例の三人と歩いた道を辿っていた。同じ道なのに、夜と昼ではまるきり顔がちがう。あっけらかんとした強い夏の光のせいで、町の光景は色や形のディテールが飛んでしまい、あまりにも白々しく輝いて見えた。

 そう言えば、子どもの頃は逆のことを思った。昼間に人気のない森の中を歩いた夜、布団の中で考えたのだ。
 今、この時間、あの場所はどんなふうなのだろう。岩や木、土、ひそかに生きる動物たちが微かな息遣いが、夜の闇の中に漂う景色を思い、心は誰もいない密やかな森に遊んだ。

 北海道育ちだが、暑さに弱いというわけではない。それでも真昼間の太陽は身体から生気を奪っていく。
 唐沢が後は自分で頑張れと逃げ出したのは、実はこの暑さのせいだけだとは思いたくないが、そもそも夜人間の唐沢に昼の光はきついのだ。

 真は『人喰い屋敷』の表に立っていた。
 昼の光の中で見ると、人が住まない家はやはり周囲の家から浮き上がっていた。
 黒ずんだ厚い木の門に隅が黒ずんだ木の表札があり、『門倉』という名前が刻まれている。石の門柱は、積み上げられた石の隙間から小さな植物が顔を出していた。塀は細かな石が塗り込められていて、色瓦の屋根が設えてあった。敷地内の木は手入れされていないために、家屋を覆っているように見える。

 真は昨日、「作家」に案内された裏路地を回り、二軒の家に挟まれた細い通路の前に来ると、躊躇いもなくその中に入った。ここで逡巡して周囲をうろうろしては余計に目立つ。それよりは、まるで関係者のように当たり前に振る舞うに限る。
 ここは住宅街で、見知らぬ人間がいればどちらにしても目立つのだから、その時間を短縮するのが賢い。

 裏側から改めて見る『人喰い屋敷』は昨夜見たとおり、塀の一部が金網になっていた。
 ここに来る前に図書館で古い地図を確認したら、もともと裏側の家も含めて『門倉』という屋敷の敷地だったようだ。相続などで土地の一部を手放し、改めて表側と見合った塀を作ろうとして放置されたようだ。金網の一部が切られて、人が潜れるようになっているのは、誰かの悪戯かもしれない。

 あれ。
 昨夜ここを出る時、「作家」は切られた金網を留めた針金を直していたはずだ。
 だが、針金が外され、金網はめくれあがっている。
 誰かがここを通ったのだ。しかもまだ中にいるかもしれない。

 真はめくれ上がった隙間を通り、『人喰い屋敷』の敷地に入った。一瞬何を思ったのか、鳴くのをやめた蝉が、またすぐに煩く騒ぎ始めた。木々が繫っているせいで太陽の熱気は幾分か遮られて、足元には湿気がある。おかげで足音は吸い込まれていった。通り抜けた風が木々を微かに唸らせて、木漏れ日が家屋の壁で模様を変えている。

 家屋はどちらかといえば洋風の作りだった。壁は白い漆喰で、屋根は傾斜がきつく、黄土色の焼き瓦を葺いてある。二階建てで、煙突が立っていた。真は家屋の表に回った。玄関には雨除けの屋根があり、通常の家の二枚分はある扉だ。
 試しに玄関扉を押したり引いたりしてみたが、やはり鍵がかかっていた。
 どの窓にもカーテンが引かれているか、雨戸が閉められている。開いている窓がないか確かめながら、真は木々に覆われている屋敷の周りを歩いたが、やはりどの窓も内側から鍵が掛けられていた。

 時折、何かに気が付いたように、蝉が鳴き止む。風が止まる。真は耳を澄まし、何か動くものがないか確かめる。
 少なくとも、霊魂とか幽霊とか、そういうものの気配はない。

 だが、最後に裏手を向いた角を回った時だった。
 視界の隅に、開いている窓の光景が残ったまま、別のことに気を取られた。

 微かに、生き物が唸る声を聞いたような気がしたのだ。
 いや、それだけなら、紛れ込んだ猫や犬かも知れないと思うのだが、誰かが、あるいは何かが息を呑む気配が重なった。

 その瞬間、白いものが木々の間を素早く駆け抜けるのが見えた。
 真は急いで後を追った。
 と言っても、抜け道となった金網までの距離がそれほどあるわけでもない。真は直ぐに「彼」に追いついた。

「驚かせてごめん。君は、夕べここにいたよね」
 びくり、と背中を震わせた少年が、意を決したようにゆっくりと振り返る。

 髪は真と同じような淡い色で、目の色も明るかった。真を見る目には、怯えというよりも、相手を値踏みするような気配が漂っている。肩には白い猫。猫は真に怯えるように毛を逆立て、少年のシャツを掴んでしがみ付いていた。

 だが、目が合ったのは一瞬だった。猫は素早く少年の肩から飛び降り、金網の隙間を潜って逃げた。そして、すぐに少年も、真から目を離さないように後ずさりし、しゃがんだと思った途端に金網の向こうへ滑り出ていた。

 真は追いかけることをすぐに諦めた。
 何より、開いている窓に興味を引かれていた。
 それに、あの少年にはまた会えるような気がしたのだ。

 窓枠に手を掛けて潜り込んだ先は、洋風の書斎のような部屋だった。不法侵入だがやむを得ない。

 テーブルやソファ、机と思しき家具には全て白い布が掛けられている。昼間だが、夕暮れ時のように暗い。それでも夜ではないので、目は直ぐに慣れた。壁には硝子戸のついた書棚が並んでいる。本はそのまま残されていた。背表紙は読めないが、かなり年季の入った本のようだ。ドアの脇の壁には柱時計。もちろん動いてはいない。
 真はドアノブに手を掛けた。その冷たさに一瞬背筋が緊張した。

 廊下はさらに暗かった。もちろん、人の気配はないし、ネズミや入り込んだ小動物は息を殺しているのか、ひっそりとしている。
 足元は絨毯のようだった。古い黴のような臭いがしている。
 だが空気は籠ってはいない。少なくとも、時折風が通っているようだ。

 扉をひとつずつ確かめた。廊下は階段の裏側で二手に分かれていて、家の裏手側には台所、ダイニングが並び、最後の扉の所まで来ると、玄関が見えた。玄関から真正面に階段があり、真っ直ぐ二階に上がっている。
 薄闇に慣れてきた目でも確認しにくい階段の先をちらりと見てから、真は玄関脇の扉を開けた。

 瞬間に、ふわり、と何かのにおいがした。
 一瞬漂い、消えてしまった。どこかで嗅いだことのあるようなにおいだが、香水か整髪剤か、少し人工的な香りだった。

 そこは小さな部屋だった。ベッドと机、それだけだが、この部屋だけは他の部屋と明らかに違っていた。ベッドにも机にも白い布が掛けられていない。椅子はなく、机の高さが少し低い。子どもの部屋だったのだろうか。
 真はベッドに残された布団を確かめた。皺があり、枕に凹みもある。
 足が何かを踏んだ。拾い上げてみると、スナック菓子の袋だった。
 机の上に暗い影を作っているのは灰皿だ。吸い殻はなかった。

 一旦廊下に出て、玄関の反対側を見ると、最初の扉は応接室のようだった。やはりソファにもテーブルにも白い布が掛けられている。一方の壁に暖炉がある。暖炉の上にも白い布があり、いくつかの置物をまとめて覆っているらしく、でこぼこしていた。

 隣の部屋がリビングだった。ここも同じような状態だったが、一方の壁に何か四角いものが立てかけてあり、やはり白い布が掛けられていたが、隅がめくれあがっていた。
 この部屋は雨戸が閉められておらず、カーテンだけだったので少しだけ明るい。
 どの部屋の白い布もきっちりと中のものを隠しているのに、そのめくれ上がった様子が妙に気になった。

 その布をそっと持ち上げてみた。
 そして思わず息を呑みこんだ。
 二十号ばかりの大きさの絵が額縁に収められている。そこに描かれていたのは少年だった。椅子に座り、膝に猫を乗せている。

 まさにさっき会ったあの少年がそこにいた。
 いや、絵の中の少年はもう少し幼いから、昔の絵なのかもしれない。
 そして、少年が膝の上に抱く猫は、さっき真に唸っていたあの白い猫だった。

(5)役者は揃った、に続く。




またまた遊びすぎちゃった。
遊びついでに(いや、遊ぶために?)2時間ドラマ仕立てに変更しました。
やっぱりミステリーって視点を動かすほうが断然いいですね。
あ、お恥ずかしいことに、ミステリーってほどに上等な出来ではありませんけれど。
さてさて、やっとですよ! 絵のシーンが登場しましたね! なので、大きく掲載。limeさん
あれ、少年、どうしてそんなにシャツがはだけてるのかしら?? これって、limeさんの罠?
改めてアップにしてみて、どきどきしている大海でした。

それから、綾が描いたということにした絵はこちら。
limeさん天使と男400
この絵の事情は、limeさんの妄想落書き:羽根のある君とをご覧ください。でも、綾はこれから天使を描き加えようとしていたようですね。
で、このコップは?? 聖書をモチーフにした絵のように、コップには何か宗教的な意味が?
いや、単なる飲んだくれか?

*どちらの絵も著作権はlimeさんにあります。無断での転用はお断りします。

次回は失踪事件の謎に迫りますね。そしてそこには少年の秘密も(*^_^*)
(あぁ、大したことないのに、誇大広告^^;)



Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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NEWS 2014/9/20 秋の庭で『源氏物語』を想う/カワムラのステーキ! 

秋の庭
秋ですね。すっかり朝夕は涼しく、どころか寒くなっています。
しかし、庭に出ると、まだまだ蚊の大群に襲いかかられます(@_@)
それでも庭は秋の景色に替わりつつあります。
百日紅と空
百日紅はまだまだきれいだけれど、空は高くなって、すっかり秋の準備中。
秋明菊
先日見ていただきました秋明菊もすっかり綺麗に咲き始め……まだまだ蕾もいっぱい。
hagi.jpg
そして、我が家の秋の姫はこの白い萩。
いつも萩が咲くと、『源氏物語』の源氏が女たちのために作った御殿『六条院』を思い出します。
御殿の中に春夏秋冬を作るなんて、しかもそこに女たちを住まわせるなんて、ほんと、なんという贅沢な。
春は紫の上、夏は花散里、秋は秋好中宮、冬は明石の君。
うちも庭の花や木を選ぶときに、春夏秋冬はかなり考えました。どの季節にも花が絶えないように。やっぱり花と女性はいつも美しくありたいものですね(男の目から見てってことではなくて)。

ちなみに、『源氏物語』はこの先の没落が面白いのですね。あのお話も、あのまま栄華の極みで終わらないからこそ、今日まで人々に愛されていたのだと思います。人は喜劇じゃなくて悲劇を(も)求めるのでしょう……
最近は『宇治十帖』が面白いと再評価を受けているようですが、確かに、紫式部が源氏の最期を書けずに(書かずに)章題『雲隠』だけで残して、その先に子世代の物語を続けたというのは、物書きの隅っこにいる私としても興味深いです。
ある研究者によると『宇治十帖』には当時の時代背景や男と女の関係だけではなく、身分についての厳しさも書かれていて面白いそうで。薫が大君や中君に対する態度や言葉遣いと、浮舟(姉二人とは母親が違っていて、母親の身分が低い)に対する言葉には明らかに相手の身分をわけ隔てするものがあるそうです。
つまり、薫は浮舟に執心はしていたけれど、大君の「身代わり」(源氏物語のキーワードですよね)として見ていただけで、相手をどこかでさげすんでいたことが伺われる、のだとか。浮舟が川に身を投げたのは、男女関係のしがらみのしんどさだけではなく、身分までもが生まれながらに定められままならぬ世の中から抜け出したいと思ったからなんでしょうか。
彼女が仏に帰依して、訪ねてきた薫をはねのける最後を、すっきりしないま終わった物語と受け取る向きもあるようですけれど、私は「よくぞ拒否した」と納得したりもして。でも、抜け出す先が仏の道だけなんて、何だか当時の女性は本当に生きにくいものを抱えていたのですね。紫の上も最後は女三の宮に家に入ってこられて、世をはかなんで、源氏の愛も疑って、出家したいと言ったのに源氏に拒否されて。ほんと、ままならない。
でも、今の世の中にも、別の形で、何かままならないものがあるのだろうなぁ。
だから、物語は生まれる。

あ、熱くなっちゃった。

多分私、好きなんです、『源氏物語』が。
好き、というのは、ちょっと語弊があるかもしれません。自分が書く時に、いつまでも目の前に立ちはだかっている壁みたいな感じ。気になって気になって仕方がない。
それはアンデルセンの『人魚姫』も同じ。なんかもう、考えると落ち着かない物語。
前にも書きましたが、だからこの二つが真シリーズの根底には流れているのですね……まるでベースの音みたいに。

『源氏物語』のあれこれ解釈はペチュニアさんも、現代を生きる女の視点から色々書いておられますよ~。面白いです(*^_^*)→ペチュニア日記②
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さて、花に戻ります。
家の庭に嬉しそうに曼珠沙華を山のように植えているのはどうよって思われるかもしれませんが、はい、植えました!
今年、農地を潰したうちの実家の畔から球根を持ち帰りました。だからこの子は引っ越し1年目の初咲きです。今まで、鉢植えのはあったのですけれど、地植えにしたのは初めて。庭に彼岸花(*^_^*) いつか九州で見た白の曼珠沙華もゲットしたい!!!
さて、今年はともかく、これからどんなふうになっていってくれるやら。
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きょうびっくりしたのは、もう椿が咲いている!
これは『炉開き』という品種で、文字通りお茶の炉開きの時期に咲くので、確かに10月には咲くのですけれど、まだ9月だよなぁ。例年になく早いです。
花って、土の温度や日照時間やら色んな自然条件で開花時期は変わりますが……それにしても。

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さて、馬も媛も肥ゆる秋。
食べものの話もしなければなりませんね。
うちの横はずっと長い間農園だったのですが、農園が縮小されてすっかり宅地になりました。
しかし残された農園でいも掘りをしています。子どもたちがにぎやかです(*^_^*)

そして神戸と言えば、神戸牛!
だがしかし! 私まだ、ホンモノの神戸牛を食べたことがないのです。
もちろん、神戸で肉は食べているのですけれど、ホンモノはとんでもなくお値段が高いそうで~~~コースだと10000は出ますし……あぁ、手が届かない。
でも、とりあえず、うちの月1の肉DAYは、カワムラさんのステーキと決まっています。写真が上手くなくてごめんなさい!
こちらは神戸牛でないのですけれど、ほんとにおいしいお肉ですよ! 私、実は逆流性食道炎持ちなので、脂っこい、いわゆる「口の中で溶ける肉」は食べられないのです。だから赤身が一番。
そして、超お勧めなのは、神戸牛のハンバーグ! 肉を切り出したときに隅っこに残る部分を集めて作ったハンバーグです。こちらはまさに口の中で溶ける系。神戸牛オンリーの、今まで食べたことのない味わいのハンバーグですよ!

カワムラさんは銀座にもお店があるようですし、関東の方も是非一度。
あ、この神戸本店には『嵐にしやがれ』の取材も来たんですよ。でも嵐くんたちは来ていないの^^;
ちなみに、隣には店長のお嬢さん(多分)がされているハワイアンのレストランカフェもあって、こちらでもカワムラのステーキが食べれます。こちらのお店はペット(ワンちゃんかな)同伴可。

あ、また熱くなっちゃった。

ということで、今週から怒涛のあれこれ仕事準備(出張とか書きもの系とか発表とか)……ガンバラナクチャ。
来週は仙台だぁ! 半分お仕事。合わせ技で夏休み!
石に会える~~今度は丸森の石です。ついでに初めて出羽三山に行ってみようかと思っています。
語るなかれ~聞くなかれ~の湯殿山と羽黒山。でも、もうひとつの月山はもう15日で山を閉められるんですね(正確には、閉まるのは神社でした。でも山頂を詣でるには神社でお祓いをしないと、って書いてあったけれど?)。早い……

Category: NEWS

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【物語を遊ぼう】16.名作を書き換えよう 



「このお手てにちょうどいい手袋を下さい」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。狐の手です。狐の手が手袋をくれと言うのです。これはきっと木の葉で買いに来たんだなと思いました。そこで、「先にお金を下さい」と言いました。子狐は素直に持ってきた白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子やさんはそれを人差し指の先にのっけて、カチ合わせてみました。
しかし、白銅貨からは何の音も聞こえません。やはり木の葉のお金でした。

子狐が手袋を買いに帽子屋さんにやってくるシーンです。
最後の一文だけは、原作通りではありません。
私ったら、何で狐が本物の白銅貨を持っていたんだろ? って天邪鬼な疑問を抱いておりまして。

さぁ、この先をどうしましょう?


久しぶりに『物語を遊ぼう」シリーズの記事を書くことにしました。
物語を練っている時、行き詰まることってありますよね。あるいは書きたいけれど、ストーリーが全く思い浮かばなくて焦っちゃう。
そんな時に難しい「小説の書き方」のノウハウを考えて思いつめると、ゴルフで言うところのイップス、つまり固まってしまって手が動かなくなってしまうことがありますよね。
実は私もノウハウ本を結構読んでみたことがあるのです。一度は文章教室に行ってみたことも(ひやかしだったので、たった半年しか続かなかったけれど^^;)。
確かにそれが全部できたらすごい小説が書けるよなぁ~っていつも思っていましたが、実際にはノウハウ本を読んだら余計に書けなくなってしまいました……ダメな私。物書きのプロになるような人は、このノウハウをきちんとできる人、なんでしょうね。
そう、高みを目指す人は、この「筋トレ」に耐えなければなりません!(小説を書くのは筋トレ、というのも先生の名言)

でも、そんな高みを目指しているわけではない、一介のアマチュア物書きにも、スランプ、あるいは、書く気が全くしない時もあるのです。


そういう時は気分転換にこういう遊びをしてみてはいかがでしょうか。
いえ、実はこれ、文章教室で教えてもらったのです。あれこれやった中で一番面白かった授業でした。
もっとも、その時に使った「名作」はもっとお堅いものでした。聞いたこともないような、日本純文学で、そもそも元のラストを知らないという作品だったり。

ここで言う書き換えは、登場人物の名前や設定を借りて自由な物語を展開するというタイプの二次創作とは違って、基本的にストーリーの途中まではもとのままで、途中~ラストを変えてしまうというものです。
一応ルールがあって、基本的には物語の途中までは原文のままで設定は変えない(自由枠アリ)、物語の流れに違和感がないようにする(原文の部分~改変部分の継ぎ目に違和感がないように)、などなど、いくつか決まりがありました。
だから自由度は思ったより低かったんですけれど。

でも、ここでは遊びですから、自分が気になっている「あの有名な」物語をいじくってみるのが一番いいですね。
悲劇が気に入らなければハッピーエンドに変えちゃう。
『ごんぎつね』なんて、それにぴったりじゃありませんか。
ごんが死んじゃうなんて! ってきっと皆さまも一度は思ったはず。
逆に、ご都合主義は気に入らないというのなら、「いつまでも幸せには暮せませんでした。なぜなら三年目には王子が浮気を……」ってことにすればいい。(そして昼メロへ……、いや、昼顔? あ、あれは浮気するのは奥さんの方か……)

そういう意味で大きく自由枠を広げて考えると……
「書き換えの名作」と言えば、ディズニーの『リトルマーメイド』ではないでしょうか。
私自身、『人魚姫』の物語については語りたいことがいっぱいあったりしますが……(なぜなら、真シリーズは(『人魚姫』+『源氏物語』)÷2なのです。ちなみに、息子の慎一の時代はロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』、ラストのシリーズになるやしゃ孫の時代は映画の『麗しのサブリナ』)
それはさておき、海の中に暮らす人魚たちの世界という素敵な設定に目をつけたディズニー、でも悲劇的結末は夢の国にとってはNG。それならハッピーエンドにしちゃえ。
実に大胆な書き換えですよね。しかも大成功。楽曲の力も大きいですけれど。
ただ、ラストを大きく変えるときは、少し設定も変更・追加しなければならないことが多いようです。


実はこれ、scribo ergo sumの八少女夕さんが時々提案される企画(神話でタイトル、とか、地名でタイトルとか)に加えていただけないかしら、なんて思ったりもして。
書き換え部分だけでいい、あるいはアイディアだけでもいい、もちろん期限なし、って遊びです。
行き詰まった時にはぜひ、物語で遊んでみてください。


さて、冒頭の『手袋を買いに』の続きを書き換えてみましょう。


帽子屋さんは木の葉のお金と、寒さで震えている子狐の小さな手を交互に見つめました。
今日、帽子屋さんの家には小さな孫が遊びに来ていました。雪遊びで冷たくなってしまった孫の手に、新しい手袋をはめてあげた時のかわいらしい笑顔を思いだしたのです。これから大きくなっていく小さな孫の手は、どんな未来をつかんでいくのでしょう。
それはこの子狐の小さな手も同じです。
帽子屋さんは棚から子供用の毛絲の手袋を取り出してきて子狐の手に持たせてやりました。

やれやれ。
孫に新しい靴を買ってやろうと思っていたのに、しばらくはお預けです。
帽子屋さんは、明日には木の葉に戻ってしまっているに違いない音のしない白銅貨を、亡くなった奥さんの仏壇の前に置きました。
お前、今日は子狐が手袋を買いに来たよ。小さなかわいい手がすっかり冷たくなっていたから、つい新しい手袋をやってしまった。仕方ない、また明日、新しい手袋を編もうかね。
写真の中の帽子屋さんの奥さんはにこにこと笑っていました。

次の朝。
帽子屋さんは仏壇の前を見て驚きました。
何と、昨日子狐が持ってきた白銅貨を置いた場所にあったのは、木の葉ではなく、春を告げる白い花だったのです。
帽子屋さんはお店を開けました。夜のうちに雪は止んでいたのでしょう。もう子狐の足跡はありませんでしたが、向こうの山から子狐とお母さん狐のこーん、こーんと啼く声が聞こえていました。

さあ、新しい手袋を編まなくては。
こうしてまた、帽子屋さんの忙しい一日が始まりました。
春はもうすぐそこまで来ているようです。
(おわり)


あれ? このお話は、どうしてもハッピーエンドになりますね(*^_^*)
春告草=スノードロップ、です。でも、春になったら手袋要らないじゃん、って突っ込まないでね^^;
来年に備えるのです(#^.^#)
本当は「ありがとう」という花言葉の花を思ったのですけれど、カーネーションとかダリアとか、季節も何もかもおかしいし……冬のお話だけど、早春はあり、ということで。

ちなみにちゃんとした「筋トレ」としてやってみる場合には、文体や表現も元の物語に合わせて書くのです。どこから書き換えたのか、分からないくらいに。そうすると、表現なども工夫するようになって、文章のいいトレーニングになります。
ちなみに私、「こころ」でこれをやろうとして玉砕しました^^;

何はともあれ、物語は楽しまなくちゃ! 読むときも、書く時もね。
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この本(ダースベイターの子育て本)は……少し違いますけれど^^;

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(3)人を喰らう屋敷 

limeさん
連休もあと1日。10月と11月に大会やら仕事の集会があるため、三味線三昧(練習場所が遠くて、帰ってきたらばたんきゅう)+お仕事+庭掃除の週末です。
さて、『人喰い屋敷の少年』(3)です。ついに、飲み屋の常連たちと共に屋敷に侵入した真が見たものは?
寄り道ついでに、唐沢所長まで登場しちゃいました。お楽しみくださいませ(*^_^*)
ちなみに第1・2話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会う、猫を抱いた少年。(なかなか会わないなぁ^^;)
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。



【人喰い屋敷の少年】(3)人を喰らう屋敷

 人喰い屋敷、あるいは幽霊屋敷と呼ばれるのだから、もう少しそれらしいものを予想していた。少し傾いた木造の古い日本家屋か、蔦の絡まる鱗屋根の洋館か、映画のセットになりそうなそんな屋敷だとムードがあっていい。
 だが、実際に今、目の前にあるのはそこそこ立派な一軒家ではあるが、洒落た洋館でもなければ、料亭のような日本家屋でもない。建て替えの時期を逸した古い家、というだけのようだ。

 周囲の家屋とのバランスが特に悪いと言うようにも見えない。この辺りは少し裕福な層の人間が暮らしているようだ。両隣の家には灯りがともっているので、この家だけが暗く沈んで見えた。
 敷地は二百坪ばかりありそうで、道路に面した側には大人の背丈ほどの門柱と、車が入る幅のすっかり黒ずんだ木の扉があった。扉はぴたりと閉められている。その先には短いアプローチがあるようで、建物までは少し先に見えている。手入れをされていないためか、庭の木々の枝が暗い空を背景に無造作に伸びていた。
 噂通りの『人喰い屋敷』なら、あの枝が伸びて人を掴み上げるのだろう。

「作家」の手招きで人喰い屋敷を通り過ぎ、一本先の道を曲がり、更に曲がって細い路地に入る。路地にも家が並んでいるが、こちらは表通りよりも幾分か小さ目の家ばかりだった。
 やがて「作家」は、その家と家の僅か六十~七十センチメートルあまりの幅の中に入っていった。

 道のような道でないような隙間の両側には、柵も塀もない。両側の家の壁があるだけだ。他人様の家の敷地ではないのかもしれないが、何のための道だろう。いや、人間のための道と言うよりも猫のための道に見える。隙間に入ってすぐのところに、左手の家の壁に凭れかけるようにして、自転車が停めてあった。

 確かに「作家」の言う通りだ。この東京という町は、いつも見ている風景に溶け込んでいるが、中身の分からないブラックボックスに満ち溢れている。外からは違和感はないが、閉じられた箱のように見える普通の民家も、きっちりと閉められ何の表記もない、誰が使うのか分からないビルや地下街の扉も、見慣れた風景だが、その中身を誰も知らない。
 この家と家の間の隙間は、閉じられた場所に繋がる小さな綻びのようなものかもしれない。普段は誰も入ろうとしない。他人様の土地かも知れないし、昼間にこんなところを見咎められたら、警察に報告されるかもしれない。

 だが、夜に紛れた酔っぱらいの「冒険者」たちの逡巡は、一瞬のうちに風に飛ばされてしまったようだ。
 一旦足を止めて奥を窺った「教授」も、「作家」の後に続いて隙間に入っていく。こんな盗人まがいの行動をとる時にも、まっすぐ伸ばした背中は変わらなかった。何か思うところでもあるのか、「作家」の行動を見張っているかのようにぴったりと離れない。

 真は「窓さん」と顔を見合わせた。「窓さん」の顔は暗がりの中ではよく見えなかったが、白い歯が浮かび上がってへらへら笑っているように見えた。危機感も恐怖感も消してくれる、何とも有難い酔っぱらいの顔だ。
 結局先に「窓さん」が細い道に入っていった。酔っぱらっていたためか、自転車に軽く接触して音を立てる。小さな音だったが、真は思わず両脇の家の二階の窓を見上げた。
 明かりはついているが、家人が動く気配はなかった。

 三人の背中は既に見えなくなっていた。
 まるで、秘密基地への近道を知っている仲間について行く子どものようだと思った。
 子どもの頃の真にも、秘密の場所は幾つもあった。春の始め、北海道の凍てついた大地から花が初めに小さな芽を出す場所、氷の下の水の音が最初に聞こえる場所、秋に初めに赤くなる木も、コロボックルたちがいつも呼び止めてくれる繁みも、友達だったアイヌの老人と真だけの秘密だった。

 だが、ここは東京の町の中だ。そして相手は自然でも幻の小人でもなく、人間という更に不可解な生き物なのだ。
 松岡綾の夫の行方不明と、噂の人喰い屋敷の関係は確かなものではない。ただ綾の口から『人喰い屋敷』と言う言葉が出たことと、真がこの言葉を聞いた記憶とが結びついただけだ。
 幽霊屋敷と噂される家屋敷がこの都内にどれくらいあるのかは定かではないが、ひき逃げ車両を追跡する場合よりは件数は格段に少ないことは確かだろうし、綾自身が確かな場所を知らないと言うのなら、ひとつずつ当たってみるしかない。

 真が三人を追って隙間を入っていくと、真っ暗な先は行き止まりになっていた。左右に「道」が分かれている。道と言っても、家と家の裏側同士が向かい合った、さらに細い隙間のようなものだ。隣接する建物との距離に関係しているのか、何か元々の土地の形によるのか、あるいは建築法や消防法に関係する理由なのかもしれない。
 先を行った三人は、左側の狭い通路に立っていた。ここが丁度『人喰い屋敷』の裏手になるのだろう。

 もともとしっかりとした塀があったようだが、壊しかけて何かの事情でやめたのか、塀の一部が崩されていて、代わりにその部分にだけ味気ない緑色の金網のフェンスが設えてあった。
 いや、色に気が付いたのは「作家」が手にした小さな懐中電灯のお蔭だった。闇の中で、緑色の金網だけが現実のものとして浮かび上がる。

「作家」は「教授」に懐中電灯を預けて、フェンスの前に屈み、何か作業を始めた。すぐに「教授」から懐中電灯を受け取り、身を屈めてフェンスの先に入っていく。フェンスの一部は始めから切られていたのか、捲れあがって、人一人通れるようになっていた。
「教授」は躊躇う様子もなく、そのまま身を屈めて隙間を潜り、「作家」について行く。「窓さん」も、何かを確かめるように真を振り返ったが、そのまま続いた。

 真は一旦辺りを見回した。と言っても、背中側には少し小さな民家の壁があるだけで、真の左右に伸びる狭い通路の先は、暗がりに塞がれていてどこへ続いているとも知れない。できれば昼間に来たかったと思ったが、案内人である飲み屋の常連が活動できる時間は、夜に限られているのだろう。
 結局、真も『人喰い屋敷』の敷地へ足を踏み入れた。

 敷地内は自発的な明かりはひとつもなく、暗闇の中で建物の位置が分かる程度で、背が高く、手入れされずに繁った木々で覆われていた。空と木々は黒の色合いの差だけで境界が示される。先に入った「作家」と「教授」の姿は見えなかったが、「窓さん」が何かにぶつかっているような気配だけが伝わってきた。
「作家」が持つ懐中電灯の明かりが微かに揺らめいて遠ざかっていく。

 真は目を閉じた。開けていても閉じていても、闇の気配は同じだったが、見ようと思わない分だけ聴覚が冴え渡る。そして、いわゆる第六感というやつも。
 湿気を含んだ風の声。足元で小さく渦を巻いている。建物の方からは何の気配も感じない。ただ隣家の家から水音が聞こえる。それから微かに赤ん坊がむずかるような声。遠くを行く車の音。じりじりと、虫か何かが唸っているような声もする。

 先を行った三人の足音は湿った地面に吸収されているらしく、気配さえはっきりしない。
 時々、カタカタと何かを揺するような音が混じるので、その音だけが自分の他にも誰かがこの空間にいることを確認する手段だった。彼らのうちの誰かが建物への侵入を考えているのかもしれない。

 真は目を開けた。すでに懐中電灯の明かりは視界から消えていた。
 そして一歩を踏み出そうとしたその時。
 微かにではあるが、はっきりとした声が聞こえた。
 はっきりと、というのは語弊がある。声が壁や何かに遮られていない、というだけのことだった。何を言っているのかは聞き取れない。だが確かに人の声だった。
 しかも複数の。
 先を行った三人が会話をしていると思わなかったのは、その一方の声が聴き覚えのない声だったからだ。いや、声と言うよりも気配、かもしれない。

 思わず足音を忍ばせていた。地面には枯れて落ちた葉が腐葉土としてクッションの役割を果たしていた。枝でも踏まない限り、音は吸収されてしまう。まるで自分の存在さえ危うい暗がりの中を、真っ黒な建物へ向かって歩いていく。家屋は巨大な壁にしか見えなかった。
「……えから……抜け出したんだ?」

 確かにそう聞こえた。低く押さえ込んだ声が、自分の知っている誰かの声かどうか、判別はできなかった。だが、その瞬間、真の足が枝を踏み割った。
 息を呑む気配は自分のものだったのか、会話をしている誰かのものだったのか、ぱたりと声が止み、がさがさと何かを掻き分けるような音がした。この闇の中に紛れ込んで初めて聞く、大きな音だった。それにしても一瞬先には闇に吸い込まれてしまい、逃げ去るような湿った足音もすぐに静寂に飲み込まれた。

 追いかけようとした訳でもないが、真は会話の聞こえていた方に歩いた。速く歩こうにも足元が不安で探りながらしか進めない。家屋の角を曲がろうとして、誰かにぶつかりかけた。
「おや、これは探偵さん」

 声は「作家」のものだった。いつもの少し神経に触る高めの声を、幾分か押さえている。手に懐中電灯を持っているはずだったが、明かりを消していた。
「建物はどこも施錠されているみたいですね。しかも暗すぎて、肝試しにもならないようだ」
「作家」は辺りを気にするような素振りを示した。
「あの二人はどこに行ってしまったんでしょうね。下手にうろうろすると食われるかもしれないのに」

 真は闇に慣れ始めた目で「作家」の横顔を確かめた。ふと見やると、隣家の二階の窓がここから見えている。カーテンを通して微かに漏れる光だけでも、暗がりでは道しるべのようだった。
 その時、確かに何かに気を取られた、あるいは何か大事なことを感じ取ったのだが、真の思考と言葉を止めたのは、唐突に目に入った二つの光だった。いや、「作家」の目がその方を向いているような気がして、その暗闇の方を見たのだ。
 黄金に光るような二つの光。じっとこちらを窺っている。

 シャーロック。
 囁くような声が、微かに聞こえた。
 若い、いや、まだ子どもの声だ。
 瞬間に、二つの光は、がさりという枝をかき分けるような音と共に、闇の中へ掻き消えた。

「聞きましたか? どうやら、少年と猫が出たようだ」
「作家」が真の耳に囁きかける。耳にかかった息が湿っぽく、耳の中の細かな産毛まで逆立った。さっき誰かと一緒でしたかと聞きかけて、真は少し考え、言葉を呑み込んだ。


「人喰い屋敷ぃ? 行ってみたのか? 出たのか?」
 唐沢は昨夜のギャンブルが好調だったのか、機嫌がよかった。
 朝まで事務所で飲んでいたらしく、真が出勤した時にはテーブルには焼酎の瓶、倒れたグラス、床にもゴミが散らかっていて、当の唐沢は接客用のソファから落ちそうになりながらも、器用な格好で高いびきをかいていた。
 はっきりとした歳は知らないが、戦争中に十代だったというから、四十代の半ばは過ぎているかどうかというところだろう。とはいえ、外観からは全く年齢不詳で、若くも見えるし、こうして酔っ払って寝ていると、より歳をとっているようにも見えた。

 エロ本にも煙草のヤニにも慣れたが、酒の臭いだけには慣れることができそうもない。真は直ぐに窓を開けた。
 起き出した唐沢に、コップに入れたあまり冷えていない水を渡す。それから、ソファにぐったりともたれかかって、聞いているのか聞いていないのか分からない唐沢に、昨日の依頼人の報告を済ませた。

「出ませんよ。そもそも何も感じませんでした」
「おぉ、お前さんの妖怪レーダーには何も引っかからなかったってぇわけだな」
「何ですか、妖怪レーダーって」
「出たら、髪の毛がぴぴぴ、って……」

 ゲゲゲの鬼太郎じゃあるまいし、しかも妖怪じゃなくて幽霊屋敷じゃなかったか。どっちでもいいけれど(いや、その道の識者にとっては妖怪と幽霊はまるで別物だろうけれど、真にとってはどうでもいい)、俺は妖怪や幽霊の探知機ではない。それに、人を喰うのなら、幽霊じゃなくて、もしかしたら妖怪が正解かもしれない。
 唐沢は大きな欠伸をして、首の後ろを掻いた。それから立ち上がり、真面目な顔をして立ったままの真に近付いてくる。

「で、どうよ? 美人だったのか、その依頼人」
「所長の好みかどうかは分かりません」
「お前の好みのタイプか?」
「特に好みのタイプはありません」
「お前さ、この間紹介したミサキちゃんとはどうだったのよ。あの子、いいだろ? 胸もむちむちばーんで、如何にもあげまんって感じでよ」
「別にどうもしません」
「ホテルには行ったんだろ? 良かったか?」

 真は返事をせずに、肩を抱こうとする唐沢をするりと躱した。唐沢とはまともに向かい合って話さないほうがいい。そもそも九十パーセントくらいは真をからかっている。
「ミサキちゃんは良かったって言ってたぞ。あっちの相性は悪くないようじゃないか。だがよ、俺はね、お前がどう思ってるかってのが大事なわけよ」

 唐沢の雑言・暴言は完全に無視して、真は書棚から地図の本を取り出した。
 使い込まれてぼろぼろになっているが、この事務所には年代ごとの東京都内の詳細な地図帳が、図書館並みに揃っている。問題はこの乱雑な放り込まれ方だ。
 もっとも、真もそろそろこの無秩序の秩序に慣れ始めていた。乱雑だが、下手に片付けたら余計に場所が分からなくなる。この乱雑な突っ込まれ方の中にも、ちゃんとルールがあるのだ。事務所の人間以外の誰かには、絶対に分からない秩序だ。

「お前はさ、ああいうダイナマイト系の明るい子と付き合うべきなんだよ。けど、お前、薄幸な美人に騙されるタイプだからな」
 時々、唐沢がまともなことを言っているような気がするのだが、大抵は一瞬のことだ。
 しかも、この酒臭くて崩れたおっさんのどこがいいのか、街に集まる女の子たちは唐沢のことを結構頼りにしているようなのだ。唐沢が真に女の子を紹介するのは日常茶飯事のようになっているのだが、いちいち女の子たちは唐沢に結果を報告する。後からあれこれ言われるのが煩わしくて、高校生の時から付き合っていた彼女と別れてからは、何回かに一度は唐沢の言うままに付き合うようになっていた。
 もっとも恋愛に必要不可欠とされる面倒な過程は大概かっ飛ばしているので、大方は直ぐにふられる。女というものは鋭くて、真にその気がないことがすぐに分かるのだ。

「しかし、あのおっかない彼氏に見つかったら、いつか刺されるかもなぁ」
 真は無視した。

 唐沢が「彼氏」と言ったのは、真の元家庭教師で、父親が失踪してから真と妹の親代わりをしてくれている男のことだ。何かを知っているのか、いや、適当に言っているだけだろうが、真の「彼氏」だと勘違いしている。かく言う真の方も、「彼氏」ではないと訂正したのは最初の数回だけだった。大体、唐沢は真の話など全く聞いていないので、何度も訂正するのが面倒臭くなってしまった。
 何より、真のすることにいちいち小うるさい「彼氏」が、唐沢の事務所に勤めていることを、気に入らないにしても止めようとはしない。唐沢は多分、その「彼氏」が唐沢のことをそれほど嫌っていないことを知らないだろう。

「人喰い屋敷を調べてんのか?」
 地図を机に広げた途端、背中から唐沢に覗き込まれる。
 もちろん、真はこの先の唐沢の言葉に期待していた。これもこの事務所に勤め始めてから真が獲得した処世術、あるいは事務所の秩序だった。
「そんなことはね、俺に聞きゃあいいのよ。歩く辞書と言われるこの俺様に」

 歩く辞書ではなくて、歩く情報網兼ハッタリというのが正解だ。
「幽霊屋敷って東京にどのくらいあるんです?」
「二十三区内では確かに認定されたのは三軒だな。それらしい空き家は随分あるが、幽霊が出たとか人が消えたとか確認されたのは意外に少ないだろ。世田谷の人喰い屋敷は中でもぴか一だ」
 そのあたりは話半分に聞いておく。聞いておいて自分で言うのもなんだが、大体どうやって三軒なんて断定できるんだろう。
 もっともらしい数字なのだが。

「で、その奇妙な依頼をした女は、元刑事の旦那が死んでいるかどうかを知りたいってんだろ。刑事の名前は何だって? 松岡圭吾。そんなのはちょっと調べりゃ分かるのよ。じゃ、行くか」
 また唐沢が大欠伸をした。ぼさぼさの髪をそのままに、よれよれのポロシャツの腰の隙間から手を差しいれて背中を掻き、ベルトを締め直しただけで、真を促して事務所を出る。
 この男の辞書に「身だしなみ」という言葉はないらしい。

 依頼料のことは適当に誤魔化しておいた。唐沢が起きる前に引き出しの奥の方に隠したが、今度は事務員の女の子が見つけてしまうかもしれない。もっとも、この事務所には金銭の価値が本当に分かる人間はいないのだ。貧しい方向へも裕福な方向へも、感覚が麻痺している。

 唐沢が最初に向かったのは江戸川区の警察署だった。いつものように、入口の警察官に知り合いのように手を挙げて、自分の家のようにすたすたと中に入っていく。何故呼び止められないのか、真は何時も不思議なのだが、あまりにも自然で毒気を抜かれるのかもしれない。
 唐沢と真が入口のドアを潜ってから署長室のソファに座るまで、僅かに五分余りだった。受付で唐沢が署員に何を耳打ちしたのか、真は何も知らない。

「松岡圭吾……あぁ、確かに」
 署長は椅子の座りが悪そうに見えた。
 唐沢に確認したところで、なに、いつもちょっと面倒をみてやっているんだと言うに違いない。そら恐ろしい男だと思う面もあるのだが、表面的にはだらしなく人懐こく、そして『脅し』にしても底は浅そうだった。だからこそ、相手も適当にあしらって適当に情報を提供して、さっさと追い払ってしまうのが得策と思っていられるのだろう。
 そのあたりの加減が上手いのだ。本気で脅迫はしない。

 もちろん、こういう場所に来れば、真のほうも、警察はちゃんと失踪人調査をしたのか、などと確認するような、余計な口を挟まない。ここは唐沢に任せるに限る。
「何でもろくな刑事じゃなかったそうだな。あんたたちも大変だよなぁ」
「前の署長の時代の話だ。松岡を捜しているのかね」
 署長の声は幾分か緊迫していた。唐沢が何を言い出すのか、さすがに用心している。

「いや、捜しているんじゃないんだな。そいつの奥さんがね、多分そろそろいい人でもできたんだろうねぇ。ま、あと一年も経たないうちに死んだことにできるんだから放っときゃいいはずなんだが、もしもだよ、新しい男と懇ろに暮らしてて、万が一生きていた元旦那が帰って来たらさ、どんな修羅場になるか分かったもんじゃないだろ。怯えてるんだよ。だからね、知りたいのは生きてるか死んでるかだけなんだ。ま、事件が起こるまでは動けないってのはわかるけどさ、ここは人助けと思って、いや、事件を未然に防ぐ正義の警察官としてだね、ちょっとヒントをくれないかなぁ。可哀相な女なんだよ」

 話を聞きながら真は改めて感心していた。なるほど、そういうことなのかもしれない。唐沢は真から話を聞いただけだが、女の心情を読めない真とは違って、あっさりと松岡綾の本音を言い当てているのかもしれない。
 真は綾の憔悴した化粧っ気のない顔を思い出した。
 いや、憔悴していたのか、あるいは内側では夫とは別の男との恋に身を焼いていたのか。

「ま、確かに」
 署長は何かを思い出すふうだった。
「松岡圭吾は別の署で私の部下だったこともある。奥さんは美人だったよ」
 唐沢はどこまで知っていてここに来たのか。綾の住所からだけではなかったに違いないと真は思うのだが、唐沢の勘働きというやつはちゃらんぽらんに見えて実に鋭い。これがギャンブルにも活かされているのだろう。

「これは噂だがね、奥さんの浮気を疑って、よく酒を飲んでは暴力をふるっていたようだった。当時松岡が組んでいた真田って奴と奥さんの浮気も、疑っていたことがあるようだ。ヤクザ相手にも恐喝まがいのことをしていたようだから、殺されてドラム缶に詰められて東京湾に沈められていたとしても、誰も驚かんよ」
「松岡が遊びまわっていた場所はわかるか?」
「あぁ、それなら田代に聞きゃ、分かるだろう」

 田代と言うのは、当時、松岡圭吾失踪の調査をした刑事だという。一応の調査はされたようだが、結局所在が掴めず、一方で誰もが「あの男ならヤクザの手で東京湾に沈められていても当然」と思っていたので、ある程度のところで手を打ったのかもしれない。
 田代は刑事を辞めて、新宿で喫茶店をやっていた。

(4)女の事情と猫を抱いた少年、に続く。




遊びすぎちゃった。本題から離れないように、でもちょっぴり唐沢の紹介も兼ねて(本編では刑務所の中なので、あまり登場できないし^^;)、遠回りしています。こんな道草も楽しんでいただければと思っている間に、だんだん長く……(あぁ、いつものことね、と思ってくださってありがとうございます!)←先に言っとく(#^.^#)
でも、一応「承」には入りました。
limeさん、何だか長くなっていてすみません……(@_@)

今の時代なら、臓器を切り出して跡形もなく、ってことなんでしょうけれど、この時代はまだドラム缶で東京湾^^;
書類や本の整理も、PCなどなくて、ね。ワープロはあったかな。

次回は、『人喰い屋敷』の中にまで侵入します(*^_^*)

Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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NEWS 2014/9/13 栗の渋皮煮を作りました:追記あり 

渋皮煮1
先日、兵庫県篠山市に行ってきたのですが、訪問したお宅で栗をいただきました。
で、重曹を買ってきました。もちろん、栗の渋皮煮を作るためです!
とは言え、最後に作ったのはもう何年も前(5年以上?)。
では早速。
渋皮煮2
熱湯を少し冷まして、しばらくつけておきます。
皮が軟らかくなったら、外側の鬼皮をむきます。
渋皮煮3
この時に、渋皮を一緒に削っちゃうと、煮た時に皮がめくれちゃうのですね。
(でも、どうしてもいくらか削ってしまうので、半分は結構ボロボロに……)
乾燥すると割れやすいので、いつも水(湯)に浸かっている状態で作業をしていきます。
で、これを重曹を入れて煮る!→20分ほど煮たら、栗を洗う(黒い筋を取ったりして表面を掃除)→また重曹を入れて煮る→洗う→3回目からは重曹は入れないで煮る→(以下同文)
煮汁が薄く澄んでくるまで繰り返したら(3~4回?)、こんな感じに。
渋皮煮5
やっぱりいくらか崩れちゃう(~_~;)
そして、これに砂糖を加えて1時間、ことことことこと、蛍火で煮ます。
栗1kgに対して300~700gの砂糖を使います(この砂糖の量にビビってはいけないけれど、長く持たせるのなら必要かな)。甘いほうが渋皮煮っぽいけれど、甘みは好みで。
まずは予定の半量の砂糖で煮て、いったん冷まします。
この冷ますのが大事。冷ますことで味が沁み込む。でも冷蔵庫はNG。
渋皮煮6
あはは~~~(*^_^*) 酷い崩れ方^^;
そうなんです、最初の段階で皮を破いちゃうと、傷が広がっていってこんなことに。
でもね、下の方は結構形をキープしています。
それに、ボロボロでも美味しいのです。この手間暇が最上のソース。
ちなみに、こんなに栗がお汁から顔を出しちゃダメ! いつも浸かっている状態に保つのです。
(ちょっと写真用に汁を減らしたところを撮っております)

そして、明日の朝(って、もう今日だけど)、残りの砂糖を加えてもう一度煮ます。また1時間。
最後にブランデーを入れて出来上がる、予定。
半分は実家に持って帰ります。

でもですね、今回いろんなレシピを見たら、お醤油とかみりんとかを使っているのもあるんですね。
隠し味、って感じなのかな。みりんはなんかいいような気がするので、入れてみます(^^)
( お醤油を入れたら、甘みが引き立つんですって! 今度するときは入れてみよう。何年後かな?)
コニャックは今ないから、アルマニャックで……パンチがありすぎるかなぁ?
(竹流のマンションに行けば、いつでもあるのに(@_@))

<追記>
さて、食べるよ。
お皿は有田焼の季節揃い皿。秋なので柿です。
有田焼1
でも、このお皿の素敵なところは裏。
有田焼2
現在の作家さんの作品ですが、素敵ですね。
で、渋皮煮を載せます。柿に栗。組み合わせも好いようで。
渋皮煮7
なのになぜ? お皿が逆だった^^; さっき気が付いたけれど、もう写真を撮った後だった。
でも、ムードだけは……^^;

Category: NEWS

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NEWS 2014/9/9 昨日の月(中秋の名月)/夢の話 


昨日は中秋の名月でしたね。旧暦の8月15日のお月様。蚊に咬まれながら(ただ今トピックスですね^^; 蚊取り線香つけてたんですけれど)楽しみました。
もちろん、お花とおだんごも一緒です。
9月の花
本当は薄、と思ったのですが、花入れが小さくて入らなかったので、猫じゃらし。
月見だんご
お団子は、やはり月をあしらった柄のお皿に入れて(ひとつ食べられちゃった^^;けど、お皿の模様が見えるので)。
あ、お皿、小さすぎますね。間に合わせなもので。

さて、そんな夜。
仕事の書きものをしながら、何となくテレビをつけていて、そしてそのまま居間のソファで寝てしまったのでした。
そして、草木も眠る丑三つ時。
meigetu2.jpg
私はなにやらSFチックな夢を見ている。どうやら視点(聴覚視点?)は「少女」のなかにあって、誰かと一緒にいるところを敵に襲撃された模様。あぁ、これは夢だわとちゃんとわかっているけれど、特に「目を覚まさなきゃ」とは思わず成り行き任せ。
夢の中ではものすごく声がはっきりしている。言葉が明瞭で、声を発している時には確かに自分の位置は「少女」の中だけれど、視界は神様視点。暗い森の中にいるみたい。

が。
突然コマーシャル。
あれ? 夢じゃないの?
まだ夢うつつで目を開け、テレビの方を振り返った(テレビに背を向けて寝ていたのです)。
コマーシャルが終わった時、まさに夢の続きがテレビの中で展開していた。
声はそのままだけれど、「夢の中」で見ていた画面とは絵柄は全然違う。何より、テレビに映っていたのはアニメ。
私が脳内で見ていた画像はアニメではなかったし、服装も違っていた。

不思議。耳で聞こえていたものを、脳が夢として別の画像をこしらえていたのですね。
起きているわけじゃないんです。多分REM睡眠状態。または金縛り状態。
じゃ、やっぱり寝ている人の耳元であれこれ言ってみたり、あるいは睡眠学習にしても、効果がある……かもしれないんですね。とはいえ、すぐ忘れちゃうんでしょうけれど。
いまどうしても覚えられない曲がいくつかあるので、エンドレスで寝ながらリピートしようかな。
夢の中の映像では、すごい演奏家になっている……かもしれないし(何の役にも立たない?? でも、いいイメージトレーニングになるかも)。

そう言えば、人間の聴覚って、最初に獲得し、最後まで残る感覚だと言いますものね。胎児でも、もう三途の川を渡りかけていても。だから呼びかけたら、ちょっと戻ってくる。
ずいぶん前に聞いた話。
病院で。長患いで亡くなりかけた家族の横で祈祷をしているお祖母ちゃんがいて、お祖母ちゃんが「たぁ~!」とかいうと、もう止まりかけた心臓の脈拍が速くなって……また徐々にゆっくりになって……お祖母ちゃんが「たぁ~っ!」……脈が速くなる……またゆっくりになる……「たぁ~!」……
お祖母ちゃん、もうゆっくり寝かせてあげようよ。気持ちはわかるけれど。
でも……最後まで聞こえているんだね。きっと。

ということで(?)、小説ブログ「DOOR」のlimeさん主催の夢研究クラブへの参加記事でした。
(あ、途中からは、夢の話じゃなくて、センス(感覚)の話になってる^^;)

最後は素敵な夏~秋の花で締めくくりたいと思います。
さるすべり2
数年間、花をほとんどつけなかった我が家の百日紅(やや老木)。去年少し手入れしからか、単なる気紛れか、今年はまずまず綺麗に咲いてくれました。
shumeigiku.jpg
こちらは秋明菊。株がだいぶ大きくなってきたので、毎年花数が増えていって、夏の終わり、あるいは秋の始めの庭を彩ってくれています(*^_^*)

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NEWS 2014/9/7 マコト「初めてのおつかい」!? 

ねこ
テレビ画面を撮った写真の割には綺麗に見えますね。こちら岩合さん出演のねこ歩きの番組に登場している津軽のねこちゃんです。ついに『ねこ歩き』が日本に来た!と思ったら、なんと津軽。津軽を選んでいただいたことにとても感動しております。

さて、猫絡みの話です。
何とうちのマコトが初めてのおつかい、ならぬ、初めて他所様の番組に主要登場猫物として出演させていただきました!
あ、「初めて」は誤解でした。えっと、半にゃライダーの前座は勤めたことがあるのですよ!
でも、こんな重要な役どころは初めて!
『茜いろの森』のあかねさんが、仲間を集めて楽しいショートストーリー『ポチとマコトとユキの冒険』を書いてくださったのです。

あかねさんは『フォレストシンガーズ』シリーズを始めとする膨大な数の作品をアップされているブログ作家さん。ちょっと辛口の視点で世界を切り取っていく、人間観察力の豊かさがにじみ出る、そんな作品を書かれています。
大海は音楽関係の物語を書いておられるという点でも、とても親近感を覚えております。
(そして某球団ファンという点でも^^;)

でも、マコトったら、せっかくユキちゃんにラブコールを送ってもらったのに、タケルのことばかり考えている……^^;
あかねさんには見抜かれていたいたようです。
マコトの本音……大きくなったら豹になりたいのは「タケルを守りたい」からなんですね。

そう言えば、寝込んでいるタケルのために、しっぽで魚を釣ろうとしていたなぁ……その時はなんと海に落ちてしまって、小説ブログ「DOOR」のlimeさんちのオフィス天道の皆様に助けていただきました(^^)(『マコト、行方不明になる』
何はともあれ、夢が叶う冒険の物語、続きがありそうなので、これからもまた楽しみ。
あかねさん、ありがとうございます!


ということで、便乗して『迷探偵マコトの事件簿』秘話、などを。
いえ、もう今更、秘話なんてないのですけれど。
この物語の登場人物は、ほぼこの2人(1人と1匹)。舞台は築地の竹流のマンション~築地界隈の海。
竹流と猫1
イラストはlimeさん……大海お気に入りの1枚です。
このイラストをもとに書かせていただいた掌編は、大和竹流のお話になっておりましたが、やっぱりこれはタケルとマコト、なんですよね、ほんとは。
注目すべきは、近づいておきながらちょっとビビっているマコトです。
しっぽは下向き、右後ろ脚~腰が引けている^^;
ほんとはデレデレしたいんだけれど、ツンデレなねこのマコト。

物語はファンタジーですので、ネコっぽくないとか、細かいことは突っ込まないでくださいね^^;
でも、皆様に萌えていただけるよう、これからも頑張ります!
マコトは皆様に可愛がっていただいてすっかり喜んじゃって、時々(勝手に)コメントを書きに行くようにもなりました。本当はあかんたれでヒトシミリ(人見知りの間違い)のねこなのですけれど……

ちなみに、大海イチオシの萌えシーンは。
老衰でもう間もなく……という老犬・トモダチもといフジマルがあまりご飯を食べないので心配して自分のご飯を分けてあげようとするところ。ねこのごはんはいらないみたい、ってがっかりしているマコトに、自分で書きながらキュン、でした(バカ丸出し)。(『ちょっぴり切ない事件簿』

そもそも本編(真シリーズ)がそれなりに真面目なお話なので、どこかではっちゃけたい!という気持ちがこんな作品を作ってしまいました。
タケルの造形は、本編の竹流よりも優しくて、ちょっと暇そう^^; 本編の竹流(絵画修復師、ギャラリーのオーナー、ついでにレストラン・バーのオーナー、たまにトレジャーハンター)は忙しそうですから。
そしてマコトの造形は、真とま反対のような、被っているような。ま反対なのだけれど裏表の関係なのです。真だって本当は甘えたいときもあるのですけれど、絶対に甘えませんから、マコトになったらたまには甘えられるかな。一緒にモノレールに乗ったり、ね。

本編の方は、なかなかとっつきが悪いのですけれど、少しでもとっついていただこうと、短編集というカテゴリを作りました。
本編を読まなくてもついて行ける、ミニミステリーです。
1作目は『人喰い屋敷の少年』
……limeさんからの8888リクエストを出汁にして始めちゃいました……すみません
でも、今でもやっぱり、お勧めは『清明の雪』かな。18禁ではありませんよ(#^.^#)

ちなみに。
わがPCのデスクトップはこちらのイラスト(左からリク、真、春樹 by limeさん)(*^_^*) 
不思議青年の集い?? どこかでまた共演することも??
いや、ボケばっかりだから、話が前に進まないかも……だれかツッコミが必要。
てことは、あの人とあの人とあの人か…… 
なんて、よけいなこと、いっぱいでした。
何はともあれ、あかねさん、そしてlimeさん、ありがとうございます!!
春樹・リク・真300

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(2)夫の死を願う女 

limeさん
少し間が空いてしまいました。この頃少し「スランプ」なのでしょうか。いちいち引っかかって前に進まないのです。集中力もないし、やたらと眠いし。もしかして「幽霊」の仕業か? 「人喰い屋敷」の呪いか?
なんて冗談はさておき、『人喰い屋敷の少年』(2)です。順番を入れ替えたので、章題が予告とは変わっています。
お楽しみくださいませ(*^_^*)
ちなみに第1話はこちら→(1)カグラの店

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会った、猫を抱いた少年。(まだ出会っていませんね^^;)



【人喰い屋敷の少年】(2)夫の死を願う女

 その依頼人がやって来たのは土曜日の午後だった。
 所長の唐沢は昼過ぎには飲みに出て行ってしまったし、先輩探偵である三上は他の依頼の件で出かけている。事務員の女の子は土曜日は休んでいることが多い。

 調査事務所にとって駅から徒歩八分というのは極めて好立地だ。
 あまりにも駅に近いと、別に見られているわけではなくても、何となく人目が気になって入りにくい。かといって駅から遠すぎると、たどり着くまでに事務所の扉を開ける決心が鈍る。
 もっとも、この事務所に辿り着いた依頼人は、どう見ても戦前からあると思われるビルの大きな亀裂には足を止めるだろう。

 その日、留守番を預かっていた真は、誰もいない部屋で窓を開けたまま、事務机に肘をついてぼんやりと外を眺めていた。
 外、と言っても特別な景観があるわけではない。大通りから一本だけ入った道に面しているビルの二階で、見えるのは向かいのビルの古めかしい外壁と窓だけだ。
 真正面に見えるのは、喫茶アネモネという赤い文字で、少しだけ腰の曲がったオーナーの姿が薄暗いガラス窓の向こうでよたよたと歩いていた。還暦も過ぎたお祖母さんだが、オムライスが滅法美味いのと、孫娘が可愛いと言うので、唐沢のお気に入りだ。

 じりじりと熱を上げる道路の照り返しが窓に昇ってくる。一人の部屋でクーラーは贅沢だと思い窓を開けていたのだが、さすがに暑い。
 扇風機を回そうと立ち上がりかけたところ、重い木の扉がノックされた。
 真が扉を開けた時、ほっそりとした色白の女性が一歩後ろに下がり、驚いたような顔をした。
 もちろん、ここに来た目的が他にあるわけではないだろう。それでも彼女の気持ちは分からなくもない。調査事務所という場所には、扉をノックしてからでも引き返そうかと思わせる何かがあるのだ。

 束ねられた長い髪は艶を失っているように見えたが、頬にかかるほつれ髪は彼女の顔をより白く輝かせていた。地味な服装に化粧っ気のない顔。それでも一度見たら忘れられない女性だと真は思った。
 女性は松岡綾と名乗った。

 たいていの依頼人は真のような若い探偵に訝しげな顔をする。こんな若僧に大事な話をして大丈夫か、という不安からだろう。だが綾はそういう気配を見せなかった。憔悴したようにも見えるその気配から、真は浮気調査の可能性は低いと見た。
 浮気調査を依頼しに来る女性は、もっと明確な目的を持った顔をしていることが多い。少なくとも、依頼をする時点で何かを吹っ切っているからだ。

 真は慌ててテーブルに放置されたエロ雑誌を片付けた。唐沢があちこちに放り出しているので、こうした雑誌が散らかっているのが見慣れた景色になってしまっているが、来客の存在でその異常さに気が付く。
 それから、窓を閉めてクーラーの電源を入れ、依頼人を招き入れて、奥の冷蔵庫から麦茶を出し、小さなガラスのコップに注いだ。
 事務員はサクラという名前の若い女の子で、昼間はこの事務所で、夜は小さなスナックで働いていると言っていた。髪の毛を染めて、化粧は派手だった。間延びした喋り方をして、いつも億劫そうに座っているだけだが、それでもこんなちょっとしたことをしてくれる人間がいないだけで、結構面倒なものだと思う。

 真が麦茶の入ったコップを持って戻ってきたとき、綾は来客用のソファに座り、ぼんやりと向かいのビルの『アネモネ』という文字を見つめていた。
 真は、これに書き込んでくださいと言って、綾に依頼書とペンを渡した。綾はしばらくじっと依頼書を見つめていたが、重いものでも持ち上げるようにペンをとり、身を屈めるようにして書き込んでいった。

 松岡綾。二十七歳。住所は江戸川区。職業は空欄だった。依頼内容の部分に来て彼女の手が止まる。真が、そこは私が書きますからと言うと、重労働を終えたかのようにほっとした顔になった。
 それから少しの間は沈黙が続いていた。

 こんな時、熟練の探偵ならうまく相手の気持ちを和らげるのだろうが、真はいつまでたっても話を切り出すのが苦手なままだった。時々こうして留守番をしているが、飛び込みの依頼人がやって来ることは滅多にないので、自ら苦手を克服しようという気持ちにもならない。いつも唐沢や三上がどんなふうに話を切り出していたかと考えても、うまく思い出せなかった。
 やがて綾の方が真の視線と沈黙に屈したようだった。

「この人が生きているのかどうか知りたいのです」
 綾は表情を変えずにそう言って、小さな擦り切れたバッグから写真を出した。
 細く白い手には指輪はなかった。
 写真には、今よりも少し幼い顔をした綾と三十代くらいの男が並んで写っていた。男は背が高く、いささか目つきがきな臭い。写真だからそう見えると言うのではなく、ある独特の職業の人間が持つ顔つきだった。

 真は彼女の言葉を依頼書に書き込みながら、ふと顔を上げた。
「あの……失踪人を捜すということではなくて?」
 綾は一瞬、不意打ちを受けたような顔をした。真の質問の意味を即座に理解したのは、彼女自身も普通の依頼ではない、何か事情を抱えていることを自覚していたからなのだろう。
 綾はしばらく注意深く真の顔を見つめ、やがてはっきりと頷いた。
「死んでいたらそれでいいのです」

「生きていたら?」
 綾は視線を漂わせたが、返事をしなかった。
 昔の恋人の消息を知りたいとか、生き別れた家族のことを知りたいとか、そういう依頼はありがちだ。だがこれほど明瞭に生死を問う依頼は滅多にない。何か特別な事情が見え隠れしていた。

 失踪人調査の場合に気を付けなければならないのは、依頼人と失踪人の関係と捜索の理由だった。後で何が起こってもこちらは責任を持たないと突っぱねることができるか、確認が必要な場合も多々あるからだ。場合によっては、探し当てた後から修羅場になることもある。
「この方のお名前と、あなたとの御関係をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
 というより、話してくれなければ前に進まない。綾は少し間を置いて答えた。

 小さな間だったが、彼女の逡巡の理由が複雑であるという気配を漂わせていた。
「松岡圭吾。私の夫です」
 真は、膝の上におかれた綾の左の薬指をもう一度確かめた。
 もちろん、結婚指輪をしない女性もいる。だが、彼女の場合は、何か強い意志を持って外しているように思えた。
「あの、これは皆さんにお聞きするとこなので、お気を悪くなさらないでください。どういう事情にしても、警察には届けられたのでしょうか」

 綾はじっと真の顔を見つめた。吸い込まれそうなまっ黒な瞳だ。オッドアイのために人の目を見るのが苦手な真も、思わず見つめ返していた。
「届けてはおりません。私からの届けは必要なかったものですから」
「どういう意味ですか?」
 他の誰かが届けたということか。真は写真の中の松岡圭吾という男の顔をもう一度見た。独特の職業の人間が持つ、きな臭い顔つき。

「夫は刑事でしたから」
 やはりそうか。面白いことに、対極にいるはずのヤクザと刑事は大体同じような顔つきをしていて、写真などで見ると職業がどちらか言い当てるのは難しい。
 いずれにしても、探偵事務所にとってはどちらでも同じだ。あまり有難い相手ではない。
 真はペンを置いた。
「では、探偵事務所が介入する余地はないと思うのですが」

 綾は口の中で何かを呟いたように見えた。言葉を選んだのかもしれない。
「夫が失踪してもうすぐ七年です」
 綾の頬は相変わらず、固く閉ざされた氷のように白いままだった。
「失踪する前に関わっていた事件は解決しています。夫が失踪した理由は別にあるのです。そして、当時警察は真剣に行方を捜していたとは思いません」
「どうしてそう思うのですか」

「夫は、良い刑事ではありませんでしたから」
 言葉を吟味してそう言ったようだが、綾は真の顔を見て、もう一度考え、付け加えた。真が意味を解していないような顔をしていたからだろう。
「捜査の仕方が強引でした。裏では良くない人たちとのつながりがあって、詐欺や恐喝まがいのこともしていたようです」
「それで」
 真は一旦言葉を切った。依頼書に書かれた細い文字が、筆で薄く書かれた仮名文字のように、頼りなく流れていくように見えた。

「もしも生きていたとしても、七年経って失踪宣言の審議申立てをして認められれば、あなたは法律上は自由の身になれるんじゃありませんか。わざわざ今、生死を確認しなければならない理由はなんですか?」
 もう少し綿で包んだような言い方をしろと所長の唐沢には言われる。女にそんな口のきき方をしていたら、嫌われて何もしゃべってもらえなくなるぞ、と言うのだ。
 かく言う唐沢は相手によって言い方を変えていて、女性相手には優しい話し方をしているが、相手が相手ならどちらがやくざかと思うような口のきき方だ。

 いや、唐沢自身、まともな調査事務所を経営している、まっ当な探偵というわけではない。彼が裏で何をやっているのか、真はあえてその辺には触れないようにしているが、博打と女に金を注ぎ込んでいながら、時折従業員に給料と言う名前の破格の小遣いをくれるからには、正攻法で探偵業だけをしているとは思えない。
 綾の夫といい勝負なのだろうが、公僕ではないゆえに見逃されているようなものだ。
 だが、唐沢が探偵として極めて優秀な事だけは確かだ。表向きは実に真っ当な仕事をしていて、いくつかの弁護士事務所や保険会社からは最後の砦だと思われていた。

「それは、依頼の際に必要な事でしょうか」
「はい。あなたがそのようにおっしゃることの中に失踪の理由があるのなら、知っておかなければ捜すことはできません」
「捜さなくていいのです。ただ死んでいるのかどうか知りたいのです」
「同じことではありませんか? 捜さなくて死んでいるかどうかだけ確認することはできません」
 そう、ただひとつ、その「死」が殺人で、犯人が確かに殺したと言うなら別だが。

 この依頼はいささか裏がありそうだ。唐沢は金になると思えば食いつくが、金にもならないのにただ面倒だと知れば、うまくあしらって依頼を諦めさせる。真にはそのような芸当はできそうにもないが、引き受けて最初に聞き込みをする相手が警察というのは、どう考えても上手くない。綾が怒って帰ってしまうならそれもいいと思った。
 だが、綾はもう一度バッグを開け、細い手で厚い封筒を出してきた。
「こういう調査にいくらかかるのか想像がつかなかったものですから」

 唐沢なら、この時点でこの人の手を握るだろう。
 真はじっと綾の黒い瞳を見つめた。張り詰めたような鋭い緊張が見て取れる。もう何年も思いつめていたことが分かる。何かに追い籠められてここに来たことも理解できる。それだけに何とかしてあげたいと思わなくもないが、刑事の失踪となると話は別だ。

 だが真は、綾の切羽詰ったような表情に負けてしまった。
「これは多すぎます。とりあえず、手付金として三万円を頂きます。この調査が簡単に済んでしまうものなら、追加料金は頂きませんので」
 どう見ても封筒の中には百万ほどの現金が入っていた。身なりからもそれほど裕福なご婦人と言うわけでもなさそうだったので、この金には彼女の決心が見て取れた。
 ようやく綾はほっとしたような顔をした。そして、やっと秘密を打ち明ける気になったようだった。
「夫は人食い屋敷に食われたのかもしれません」


 カグラの店には一癖も二癖もある人間たちが集まる。
 真は何時の間にか連れだって歩いている連中を確認した。

 前を歩くのは、酒を飲んでいても歩いていても背筋をつっと伸ばして、如何にもダンディな「教授」。
 いつも髪をきちんと撫で付け、綺麗に髭を剃っている。そして、時に重大な宇宙の真理を計算しているように宙を見る。暑さなど感じないかのようにネクタイを締め、スーツを着崩さない。

「教授」の斜め前を歩いているのが「作家」。
 時折振り返り、真の歩みを確かめている。着崩した背広姿でポケットに手を突っ込んでいるのは、少し世間を斜めから見ているというパフォーマンスなのか。もう少し古い時代なら、作務衣か着物姿も似合いそうだが、やや長めの髪をキャスケット帽に無造作に収め、ずれた丸眼鏡をそのままにしている。

 そして、真の後ろからついてくるのが酔っぱらって千鳥足の「窓さん」。
 サラリーマンだと言っていたが、ニックネームから察するに窓際に追いやられているのか。靴はぼろぼろで、一応背広姿ではあるものの、外したネクタイがポケットから半分はみ出していた。たまにふらついて、電信柱に何か話しかけている。

 妙なことになったものだ。
 カグラの店は新宿の外れにあった。新宿から小田急線に乗り、世田谷の某所までやって来て、「作家」が知っているという「人を喰らう屋敷」、有り体に言えば幽霊屋敷に、飲み屋の客同士が連れだって向かっている。

 幽霊談義はカグラの店での毎日の話題のひとつだ。
 店の独特の雰囲気がそうさせるのかもしれないが、何より、お互いの職業も住んでいる場所も明かそうとしない客たちが酒を飲みながら会話をしようとするなら、何か特別な話題が必要となる。
 だが、天気の話は一分あれば十分だ。政治と経済の話は三畳ばかりの狭く安っぽい飲み屋では野暮すぎる。カグラの店に集まる連中は皆、政治を憎んでいるように見えるし、世間が上昇気流に乗っていても、あの店はいつも不景気な顔をしている。

 だから、皆、好んで噂話をする。
 噂と言っても、有名人の話ではない。誰にも関係がなさそうな、嘘と言えばそうとも聞こえ、真実だと言えばそのようにも聞こえる、そんな噂話だ。それも大袈裟で嘘っぽいほどいい。誰も真実を突き止めようとはしないはずだからだ。
 おそらくそんな中で『人食い屋敷』の話を聞いたのだ。

 カグラの店での真の位置づけは『オカルト系実体験が豊富な霊感探偵』というところらしい。
 もちろん、真自身が自分のことをそのように言ったわけではない。真を連れ回すことを趣味にしているとしか思えない所長の唐沢が、あることないこと吹聴するのだ。しかも、具合の悪いことに、真自身が持っている「オーラ」とやらがそれを真実らしく脚色しているらしい。

 目は右が深い森のような碧、左は深い闇のような黒だった。髪の色は幾分か明るい。真自身は会ったこともないが、母親はドイツ人とのハーフだと聞いている。
 その一方、育ったのは北海道の沿岸部で、まわりの大人たちは漁師か牧場関係者ばかりだった。言葉は荒く北国訛り、お蔭で東京に出て来てから人と話すことに抵抗があり、自ずと無口になってしまった。
 あれこれが絡まって、独特のムードがあると思われていて、それがオカルト探偵もどきの噂に真実味を与えてしまっているというわけだ。

 だが、探偵業務に役立つ霊感など、通常では考えにくい。少なくとも、真自身、調査の際に霊感が役立った例など全くない。しかも、見えざるものが見えたところで、お祓いができるなど人の役に立つことなど何ひとつなく、ただ感じるだけなのだ。そもそも真自身はこれが特殊な能力だとも思わないし、自分でもただの勘違いか精神病の一種ではないかと感じている。

 多くの飲み屋では、皆がある「役割」を演じているものだ。いつの間にか現実の姿とは少しずれた人物像を作り上げている。つまり、真の役割は、表の生活の中で話題にしたら怪訝な顔をされるような話のブラックボックス、というわけだ。話を放り込むのもよし、拡張させるのもよし、場合によっては吸収して消し去ってくれるかもしれない、という期待が込められていたりする。
 だから、カグラの店では、真を見れば皆、幽霊・オカルト話を始めるという始末だった。

 そういうわけで、依頼人の松岡綾が『人食い屋敷』の話をしたとき、「どこかで聞いた話」だと思ったのも当然だった。しかも、その「どこか」の選択肢は恐ろしく狭かった。
 綾自身はその屋敷がどこにあるのか、まるで知らないと言った。

 それじゃあ、なぜ、食われたなどと思うのです?
 真が聞くと、綾はまたじっと真の顔を見つめ、答えた。
 夫は私をその屋敷に連れて行って、「食わせる」つもりだったようですから。
 妙なことをずいぶんとあっさりとした顔で言うものだと思ったが、真はそんなこともあるのかもしれないと当たり前のように確認した。
「食わせる」というのは、屋敷にですか。
 綾は唇の端を少し上げて微笑んだ。真が、何がおかしいのかという顔をしたことにすぐに気が付いたようで、真面目な顔で答えた。
 いえ。驚かれたり呆れたりなさらないから。

 思えばおかしな女だと思った。まるで生死とか常識とか社会通念とか、そういうものを越えている。もっとも、真にとっては幽霊が事件を起こすよりも、現実の人間のすることの方が恐ろしい。
 綾が帰った後、彼女の座っていた場所には大金の入った封筒が残されていた。慌てて追いかけたが、あの細い身体は人混みに紛れて見つからなかった。
 後で返そうとあの封筒を引き出しに無造作に突っ込んできてしまったが、唐沢の目に触れていないことを願うしかない。出所を確認もせずに、懐に仕舞うに違いないからだ。

「屋敷の場所って、カグラさんが教えてくれたのですか?」
 真が聞くと「窓さん」がけたけた笑った。
「カグラさん、って、あのばあさんにさん付けはねぇよ」
「作家」が含み笑いをしているのか、背中が幾分か揺れていた。彼は歩みのスピードを緩め、真に並ぶ。

「ねぇ、探偵さん、この東京という大きな都市にはね、妖怪が闊歩していた江戸時代、あるいは新しい時代を築くために大事な何かを地中深くに埋めてしまった明治時代、あるいは摩訶不思議な熱気に煽られた大正時代から確かに続いている、不可侵の秘密がそこかしこに残されているんだ。あるいは、一般人民に知られることはまかりならない戦前・戦中の秘密もね。そういったものはどこにあると思います?」
 そう言うや、「作家」が立ち止まる。「教授」も足を止めた。

「たとえばこの何の変哲もない家。しかし、我々はこの家の中で何が行われているのか分からない。例えば七年間、少女が閉じ込められているかもしれない。少女はもしかすると自分が閉じ込められているということを知らないかもしれない。人生とはそんなものだと思っているかもしれない。ねぇ、教授」
「作家」が「教授」に流し目を送った。「教授」は「作家」が適当に示した家を検分するように見つめている。背丈はほぼ似ている二人だが、声のトーンがまるで違っていた。何かを探るような、いささか神経に触るような声で話す「作家」に比べると、「教授」の声はいつも穏やかで催眠術でもかけようとしているかのようだ。

「確かに、江戸時代の長屋のように、隣の怒鳴り声までも聞こえてくるような作りではありませんからね。ところで」
「教授」がいきなり真のほうを振り返った。表情は淡々としたままだ。少し離れた街灯からの明かりで、顔の半分だけが白く、残りの半分は暗く沈んでいる。
「あなたは何故、人食い屋敷を訪ねようとなさっているのですか」
「作家」がくつくつと笑った。
「教授、それはだめですよ。探偵にはね、守秘義務ってやつがあるんだ。我々はせいぜい彼にくっついて行って、謎解きの一端を覗き見るだけだ。ね、探偵さん」

「しゅひぎむぅ? 何の話ぃ?」
 酒臭い息が頬にかかった。「窓さん」が真の肩に手を掛けて話しに加わってくる。
「さて、探偵はどんな依頼を受けたのか。それすらも明らかにされずに始まる探偵小説もまた面白い」
「ではあなたはこれをネタに何か物語を書こうという訳ですか」
 責めるようでもなく、変わらずに淡々とした声だった。

「いやいや、俺はね、幽霊が見えると言う探偵さんに興味があるだけなんだ。しかもターゲットは噂の『人食い屋敷』。実はね、カグラに話を聞いてから、周辺を歩いてみたことがあるんですよ。それで、何を見たと思います?」
「お化け!」
「窓さん」が真の肩に置いた手に力を入れてくる。これだけ酔っぱらっているのに、話の脈絡がそれなりに合っているのが不思議だ。

「作家」は肯定も否定もせずに、唇の端を吊り上げて笑った。そして、意味深に三人の顔を見回し、秘密の話を打ち明けるように声を潜める。
「幽霊なのか、生霊なのか、いずれにしてもこの世にあり得べからざるものだ。実はね、今は誰も住んでいないはずの屋敷なのに、少年が目撃されているのですよ。青白い顔の少年が白い猫を抱いて屋敷の庭を歩いている。近所の小学生が塾の帰りに見たそうですよ。いや、もしかすると少年は悪い奴に拉致されて、閉じ込められているのかもしれない。あるいは殺されて庭に埋められているのか。そして、夜になったら魂だけが庭を彷徨っている」

「あなたが少年を見たわけではないんですよね」
 真には、人からは霊感と思われているものがあるかもしれない。だが、それは在りもしないことには騙されないという方向へ働く。胡散臭い話には、生きた人間の思惑が働いているものだ。
「作家」は真の顔をじっと見つめた。
「そう。俺には幽霊は見えませんからね。だが、猫はいたんですよ。白い猫」

 そして「教授」と「窓さん」の顔をじっと見て付け加えた。
「もっとも、俺が見たものが実存する猫かどうかはわからない。しかし、あの屋敷にはね、きっと秘密があるんだ。さあ、探偵さんの事件を覗き見しに行こうじゃありませんか」

 全く、幽霊話と宇宙人目撃話には尾ひれはひれがやたらとくっつくものだ。そのうち誘拐されたとかいう体験談まで加わってくるに違いない。
 もちろん、宇宙人に誘拐されるなどあり得ない。だが脳がそれを「記憶」することはあるだろう。例えばその話を百回も聞けば、実際に起こった出来事だと錯覚することはあり得る。幽霊も、そこにいると思えば「いる」。人間がそれを信じれば「実存する」かもしれない。逆に存在を信じなければ「いない」。実在する人間であっても、全ての人の記憶から消えれば、あるいは目の前から姿を消してしまって「いない」ということになれば、その人の存在は末梢される。

 夫の生死だけが知りたいという人妻。彼女は本当に人食い屋敷が夫を食ったと思っているのか。
 カグラの店で「教授」と「作家」が交わしていた会話が何故か気になった。
 真が心の中でため息をついた時、先を歩く「作家」と「教授」、そして「窓さん」の足が止まった。
「ほら、着きましたよ」

(3)人を喰らう屋敷 に続く。




少し分かりやすくしようと順番を入れ替えたりあれこれしていたら、少し間が空いてしまいました。
集中連載短編は1週間くらいの間にさっさと終わらせたいのですけれど、いざアップする段になると、あれこれ迷いが生まれて、うだうだしている間にまた悩みが深くなり。
未熟者につき、ご容赦ください。
変な道連れたちと、ついに屋敷にやってきました。
4回の起承転結で終わらせようと思っていたのに、まだ「起」から抜け出せない。
頭の中の構図は綺麗に4回分だったのですけれど。

では、ようやく次回、結界の中『人喰い屋敷』に入りましょう(^^)

Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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