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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(5)役者は揃った 

limeさん
少し間が空いてしまいました。正月休みの間に集中連載、と思っていますが、何しろ普段できないことを片付けようと思ったら「普段できないこと」が多すぎて、まずは『MOZU』のseason2を見ることから始めちゃった^^;
さて、もう話を忘れられているかもしれませんが、もう細かいところはさておき、適当に、ついてきてください。←超無責任^^;
今回で、あれ、そう言えば、みんな怪しいじゃない、ってことに??
ちなみに第1~4話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女(3)人を喰らう屋敷(4)女の事情と猫を抱いた少年

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会う、猫を抱いた少年。(なかなか会わないなぁ^^;)
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。
田代>7年前、綾の夫・松岡圭吾の失踪事件を調査した班の元刑事。若くして警察に嫌気がさし、今は喫茶店をやっている。
真田>綾の夫・松岡の元同僚の刑事。松岡は、綾と真田の関係を疑っていた。



【人喰い屋敷の少年】(5)役者は揃った


 ……えから……抜け出したんだ?
 あの時。確かに誰か聞き覚えのある声がそう言った。

 絵から抜け出した?
 あの少年は誰かの知り合いだったか? あの時あの場所にいたのは「作家」だった。いや、彼は暗闇で見失ってしまった「教授」と「窓さん」を探しているように見えた。
 でもあの声は……

 理屈だけ考えれば、そもそも「作家」は何故あの場所を知っていたのだろう? 有名な『人喰い屋敷』だから? 彼はいつも小説のネタになることを考えている。だからそれに相応しい屋敷には興味があったのかもしれない。カグラの店には幽霊ネタ、怪奇ネタはつきものだ。そんな話を収集しては実地検分をしていたのかもしれない。
 そして、屋敷の中に誰かが隠れ住んでいた気配。
 さらに、一瞬だけ嗅いだ、香水か整髪剤のにおい。

 何かがちらちら見えているのに、全部が見えないもどかしさで、その日は一日中頭が重かった。その上、あの少年の絵が頭の隅にこびりついていて、離れない。
 白い猫を膝に抱いて椅子に座っている少年。しかも場所は幽霊屋敷だ。あの時見かけた少年が、実は絵から抜け出したと言われても不思議ではない。


 真は『人喰い屋敷』を出て、そこから最寄りの駅の近くにある不動産屋を訪ねた。
 三軒目が当たりだった。

 真の希望を聞いて、不動産屋の太った主人は眼鏡の奥から訝しげに真の顔を覗き込んだ。
「全く、世の中には物好きがいるもんだ。お客さんで二人目ですよ」
 真は驚いた顔をしてみせた。
「普通はヤクザと幽霊と自殺は避けるもんだけどね」
 言いながら、主人は台帳をめくる。

「ほら。これが門倉さんのお屋敷の裏の物件。あの屋敷の裏側と隣接している家は三軒ありましてね、うち二軒が貸家です。いや、随分と長いこと空いていましたけどね、つい数か月前に一軒は借り手がついた。お客さんと同じように、どうしても『人喰い屋敷』の隣に住みたいってね」
 主人の手は台帳を確認しながらめくり続けている。

「やっぱり僕のような物好きの学生でしたか」
 真は言葉の端々に北国の訛りを入れていた。北国から来た大学生という役どころだ。
「いや、あの雰囲気は役者か物書き、って感じでしたよ」
 多分大当たりだ。不動産屋の感性がそうそうずれているとは思わない。
「あぁ、これだ。残りの一軒がこちらです」

 物件を見に行きたいと言って、主人と一緒に歩いて『人喰い屋敷』の方へ戻った。道すがら、さりげなく世間話をする。
「どうして『人喰い屋敷』ってことになったんでしょうか」
「人を喰うってのは根も葉もない噂でしょうが、門倉さんちのご夫婦が相次いで亡くなられた後、息子さんが忽然と姿を消しましてね。小学校に上がる前だったかなぁ。いや、忽然と、というのは周囲から見た印象であって、実際にはどこかに引き取られたとか、ちゃんと事情があったと思いますがね」

「親戚かどなたかに?」
「さぁ。挨拶も何もなかったようですからね。何しろね」
 不動産屋の主人は声を潜めた。
「そもそも旦那さんは自殺したって噂でしたよ。あれ、そう言えばお嬢さんもいたかなぁ。いや、もう嫁いでたかな。誰も住まなくなった大きな屋敷ですからね、何となく気味が悪くなって、妙な噂話がくっついたんでしょうな。入り込んでる浮浪者がいるとか、いなくなったはずの少年が歩いてるとか、聞きますけどね」

 浮浪者が入り込んでいるのはともかく、いなくなったはずの少年が歩いているってのは同じレベルで語られることなのか、と思ったが、実際に少年を見た者としては、どちらも極めて現実的な話だった。
 そうだ。あの子は幽霊でも幻でもない。絵から抜け出したわけでもない。確かに存在していた。

 不動産屋が真を連れていったのは、潜り込んだときに通った狭い隙間の両隣にある家の、右側の更に隣だった。
 あの時、この隙間の両隣の家には明かりがついていたから、このどちらかが、最近「誰か」が借りた家なのだ。
 不動産屋が連れて入ってくれた貸し家の二階からは『人喰い屋敷』の敷地が見えていたが、少し斜めから覗く感じになるので、建物の屋根と、手入れがされていない木々が屋敷を覆っているように見えるだけだった。

 昼間なのに、今はひっそりと息をひそめている。
 少し考えます、と言って、現地で不動産屋と別れた。

 真は隙間の両隣の家を確認し、表札が出ていないほうの呼び鈴を押した。
 しばらく、何の気配もなかった。
 一歩下がり、二階の窓を見上げる。カーテンが引かれているが、少しだけ動いたような気がした。
 果たして出て来るか。

 たっぷり十分は家の玄関やら壁を介して、無言のやり取りがあったような気がする。もう一度呼び鈴を押してもいいが、真はただ我慢強く待っていた。
 だが結局その日は、玄関の扉は開かなかった。


「ふ~ん。人喰い屋敷ねぇ。そりゃほとんど音楽室のベートーヴェンの目が動くレベルの話だろ?」
 一旦夕方に事務所に戻ると、先輩探偵の三上司朗がパンをかじりながら報告書を書いていた。

 上から見下ろしてくるほどの長身で面長だが、相手に威圧感を与えることを気にしているのか、いつも少し身を屈めている。依頼人に対するときは勤めて柔らかい言葉で話しているので、ひとまずは取っ付きは悪くないが、時折目元に剣呑な影がある。
 後から他人から聞くことになったらお互い気まずいだろうから先に言っとくけど、俺には前科があるのだと、三上本人が話していたことがある。
 それでも真にとっては、三上は唐沢よりも数段まともな会話ができる相手で、三上も真を弟のように可愛がってくれていた。

 事務員のサクラがいないので、真は奥の流しで三上のために茶を淹れた。
「にしても所長の野郎、人使いが荒い上に、自分はまた競輪か」
 多分、と真は答えて、湯呑みを差し出しながら、三上の報告書を何気なく覗き込んだ。
 依頼人の欄には、かなえ養護施設とある。
「あぁ、これは俺らが施設にいた頃の仲間がまた同じような養護施設をやっているんだが、そこからの依頼なんだ。子どもを預ける親や親戚との揉め事やら、施設を卒業した子どもらがあちこちで起こす揉め事の仲裁やら、つまらない依頼ばかりだけどな」

 三上も唐沢も戦争で孤児になった。彼らは養護施設の先輩後輩の関係だ。彼らの憎まれ口はどこまでが本心か、真にはよく分からない。金にあざとい唐沢だが、つまらない依頼でも、養護施設からの依頼は絶対に断っていない。
「子どもがよく施設を抜け出すんだとさ。ま、子どもだって、いつも施設に閉じ込められて、大勢で揉み合って暮らしていたら、たまには一人で秘密基地に籠りたいこともあるだろうさ。犯罪に繋がらなきゃそれでいい。それでなくても、施設上がりの子どもへの世間の風は、あまり優しくはないからな」

 三上は安物のボールペンを置いた。彼自身の過去に重なるものがあったのかも知れない。
「で、その悪徳刑事の出入りしていた店を当たってみたのか」
「えぇ。でも、失踪に繋がりそうな際立った情報はありませんでした」
「何だ、その含みは?」
 三上は言葉の裏、人の表情を読むのが得意だった。

「つまり、怪しいと思えば何でも怪しい、そういうことか?」
「えぇ。単に仕事熱心だったとも取れるし、全てが行き過ぎだったようにも取れる。暴力団とも取引以上の関係にあったようですし、誰かが彼を殺して海に沈めていたとしても、驚きません。冤罪を生んでいた可能性もあるくらい、取り調べも辛辣だったようですし、金や暴力で色々なものを捻じ伏せていたという話でした。彼のことを良く言う人間はいなかった。生きているか死んでいるかを確かめるには、彼を殺したと誰かが名乗り出てくれない限り、無理そうです。つまり、生きていないことを証明できる確率は限りなく低い」

 三上は真の淹れた濃すぎる茶をすすった。それから、精悍な顔つきに似合わない犬のような目を細めて聞いた。
「じゃ、どうする? 金を返すか」
「もちろん、そのつもりですけど」
「まだ何か引っかかるのか?」
「何だか、騙されているような気がして」
「その美人の奥さんにか? さては、愛人と共謀して、実は彼女が夫を殺していた……で、あたかも自分は無関係だということを示したいがために、調査を依頼した、ってか」

 三上がにやにや笑って立ち上がり、机の向こう側から真の方へ回ってきた。
「どう思う? 役者は揃っているのか」
「多分。パズルがうまく嵌らないだけです」
 三上はまだにやにや笑っている。それから自分が作っていた報告書を真の目の前でひらひらさせた。

 その報告書に添えられた写真を見て、真は思わず三上の手から報告書を奪った。
「三上さん、これ……」
「さて、お前さんを騙しているのは誰だろうな」
 真はじっと写真を見つめた。横顔で分かりにくいが、確かに彼だ。
「行くか。キーパーソンはおそらくその女に間違いはないだろうが、まずは外堀を埋めるさ」


「おや、今日は保護者と一緒に飲みに来たのかい。相変わらずのねんねだね」
 古い木の床で椅子を引く音は、ガタガタと建物が揺れる音に紛れた。奥の小さな窓で、曖昧な黄色や赤が揺らめいているのも、いつもの光景だった。そこだけが、薄暗い店内で唯一色づいて見える。

 その一番奥の席から「作家」が軽くグラスを上げて、二人に挨拶をした。
「うちの弟をあんまり苛めないでくれよ」
 三上がカグラにそう言って、ウィスキーのロックと薄い水割りを注文した。
「ふん。飲めもしないのにちょろちょろされると目障りなんでね」

 今日は「作家」の他に、見知らぬサラリーマンらしき二人連れが座っていて、三上と真が座ると、六席のカウンター席は後一席を残すのみとなった。
「ところで最近、うちの所長は来てるかい?」
「あの詐欺師の顔なんぞ見たくもないね」
「ま、同じ穴のムジナって奴だからな。似た者同士はお互いをなかなか認められないものさ」
「けっ」

 カグラは煙草の灰をアルミの灰皿に落としながら三上を睨み付けた。
 派手で下手な化粧だと思うが、照明の下では舞台の登場人物のように際立って見える。
「で、また『人喰い屋敷』の話でもしに来たのかい?」
「どうやら『人喰い屋敷』には、老若男女問わず、人を惹きつけてやまない事情が色々とあるようだからな」

 それを聞いて「作家」が見知らぬサラリーマン二人に席を替わってもらい、三上の隣にやって来た。
「あなたも探偵さん?」
 丸眼鏡の奥から「作家」がいつものように相手を値踏みする視線を三上に送る。三上は軽く牽制するように、のらりくらりと躱す。
「えぇ、こいつの兄貴分です」

 あれ、と思った。「作家」と三上は初対面だったのか。
 この店には三上も何度も足を運んでいる。だが、確かに最近三上はここに来ていないし、思えば「常連」と認識していた連中も、よく考えてみたら、ここ最近よく見かける顔、ということだ。
 飲み屋は客の層が常に移り変わっている。変わらないのは唐沢くらいだ。

「それで、探偵さん、何か進展がありましたか。あなたの事件」
「えぇ。幾つか面白いことが。でも、まだ人を消す方法は分かりませんが」
「おや、そんな、最も簡単なところで躓いていましたか」
「簡単?」
「作家」はくつくつと笑った。
「探偵さん、自分を消したいと思ったことは?」

 一瞬、真はグラスを握った手に力を入れていた。氷の冷たさが硬質なガラスを通じて骨に沁みた。
「お前、本気で消え去ろうとした過去のある人間に聞くのは酷ってもんだよ。そうだろ」
 カグラがカウンターの向こうから真の方に身を乗り出した。肩にかかった黒いショールの上に、微かに暗い光が揺れている。
「おや、探偵さんにはそんな過去が?」

「おい、婆さん。あんまり余計なことを言うと、その鼻をへし折るぞ」
「おぉ、怖い。あんたは冗談じゃすまないから怖いよ」
 それでも、カグラは三上が前科者だとは言わない。知っていても最後の一線を越えないルールは守っている。
 真は黙ったまま薄い水割りを舐めた。カグラが作った水割りに更に三上が水を足してくれた、極薄だ。酒というよりも水に近い。

 脇腹の手術創とその時にぶつけた頭のどこかがぎりぎりと痛む。これを笑い飛ばせるようになれば、自分ももう少しこの世を上手く渡って行けるようになるに違いないが、あの事故と一緒に葬った何か大事なことがどうしても思い出せないまま、ぽっかりと空いた空洞を抱えて生きている。

「じゃあ、こう考えましょうよ。もし自殺以外の方法で自分の存在を消そうとしたら、どうするのが適切か」
「簡単さ。自分を知っている全ての人間との接触を断つ」
「さすが、アニキ探偵さん。その通りですよ。自分を何某と定めている全てのしがらみを捨てれば、自分は何某ではなくなる。誰も『あなたは何某ですね』と証明してくれなければ、それだけでいいんですからね。そして、ここでひとつ、疑問が生じる」

「作家」は言葉を切った。三上の大きな体を間に挟んでいても、「作家」の舌なめずりが聞こえたような気がした。
「なぜ、そうまでして自分を消さなければならなかったのか」
 三上がぐっとロックを飲み干した。
「大方、借金取りに追われてどうにもならなくなっていたんじゃないのか」
「おやおや、本当に、発想が貧困ですね。あなたはどうです。探偵さん」

 真は答えなかった。カグラがちらりと「作家」を睨み付けたような気がした。だが、「作家」は全く意に介さないようで、ゆったりとした芝居がかった声で言った。
「愛ですよ。愛ゆえに、人は間違いを犯す。自分の犯した犯罪を闇に葬るため、あるいはこれから犯すかもしれない犯罪から逃れるため、自分を消す人間だっているかもしれませんよ」
 真は思わず握りしめていたグラスから「作家」の方へ視線を移した。「作家」が幾分か身を屈めて真を覗き込んでいた。

 その時、丁度、最後の席を埋める客が扉を開けた。
 そして、その瞬間、真はあの『人喰い屋敷』の部屋で嗅いだ、香水のようなにおいを吸い込んでいた。

(6)白い猫を抱いた少年、に続く。



さて、見事に役者は揃いました。あとはだらっとお楽しみください。

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Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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