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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

2015年2月のつぶやきコーナー 

<Twitter代わりのつぶやきとお知らせのコーナー>
通常の記事は、もうひとつ下から始まります
【scriviamo!参加作品】青の海 桜色の風
  ローマで実ったはずの恋、でも前途は多難?
【迷探偵マコトの事件簿】(17)マコトの聖バレンタイン
  バレンタインってどんなお魚? ちょっぴり悩むマコトの2月14日。 

2015/2/25
クリスマスローズ2015
何時の間にか、クリスマスローズが咲き始めていた。バタバタしてゆっくり花を見る余裕がなかったけれど、花は時を忘れずにちゃんと咲いてくれるんだなぁ。ボケの花も咲き始めていた。

古いつぶやきは、続きを読むにあります。
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Category: つぶやき

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【石紀行】23.奈良山添村・長寿岩と鍋倉渓~巨石の村の地球と天の川~ 

長寿岩2
山添村石紀行の前篇としてお届けした巨石の聖地・岩屋桝形岩に引き続き、後篇では同じく山添村で見ることのできる「宇宙」をお届けしたいと思います。
まずは、山添村の「地球」? 長寿岩をご覧いただきたいと思います。
前回は少し小さめの写真でしたが、やはりこの迫力は大きな写真で見ていただこうと思います。じっくり見ると、岩の風化跡が大陸のようにも見えますね。てっぺんに乗っかっているのは丁髷ではなく注連縄です。

山添インターを降りてすぐ、ふるさとセンターへの入り口があります。
入っていくと造成地にポン、とこの石が鎮座しているのです。広い空間の中なので、一見はそれほど巨大に見えないのですが、近づいて見たらやはりでっかい。推定重量600t、直径7mです。
長寿岩4
おそらくこれが真正面というのか、近づいた時に最初に見える形でしょうか。
一番丸く見えるのはこの写真の右の方から見た場合なのですけれど、写真に撮って見るまで「でっかい」とは思っても「丸い」とは思いませんでした。
駐車場に車を停めて見ると、まずこんなふうな姿。
長寿岩5
ちょっとぐるりを回ってみましょう。
長寿岩6
案内板の解説を拝見。
『この大きな岩は、平成7年このふるさとセンター建設の造成工事の際出土したもので山添の地が未だアジア大陸東縁部にあったおよそ1億年前に、地下深く(10~20km)でマグマが固まった「花崗岩」です。この花崗岩は、当時の大地の変動(大マグマ活動)を記録しているという大きな地質学的意義を持っています。
この岩はその後の大地の変動によって、幸運にも地表に顔を出してくれた自然の貴重な贈り物と言えます。
どんな硬い石も地表近くでは長い間にはどんどん壊れて砂状になっていきます。長い年月の中で生き抜いたこの丸くてどっしりした姿は、自然が長い時をかけて作ってくれた芸術作品とも言えます。』
長寿岩1
それにしても、表情豊かな巨石ですよね。
どこかで聞いた話では、造成中にはもっと多くの巨石が出てきたそうです。それをダイナマイトで破壊していったわけですが、この石はあまりの大きさに、もし破壊するなら700万くらいかかるというので断念したとのこと。
そのおかげでこの巨石が残ったわけなので、何が幸いするか分かりません。でもこうして地表に出てきたからには、またいつか自然の摂理に従って風化していくのでしょうね。そして、地中にはさらに大きな石がゴロゴロしている……その一部をこうして見ているのだと思うと、この巨石が地球の申し子のように見えます。
そういう意味でも「地球」と言ってよい巨石なのですが……実はそれだけではないのです。
この石にはよく見ると謎の線が……
長寿岩ライン2
2枚目の写真の注連縄の下あたりをアップで撮ってみました。写真中の矢印のところに線があります。2枚目の写真を改めてみると、確かに、右上から左下へ襷がけに線が1本見えます。
長寿岩のライン
このおよそ裏側が4枚目の写真になるのですが、今度は左上から右下に向かって襷がけに線が見えます。繋がっているようです。
まさかこれが赤道とか黄道とか子午線とか言う気じゃないの? って思いましたよね。実はそういう話があるのです。
というのも、今アップでお見せした線は巾が10~20mmくらい。それとほぼ直角に交わるように、もう少し細い線が描かれているようです(5~10mm巾くらい)。
長寿岩ライン3
こちらはかなり見えにくいのですが……
さて、この線についてはあれこれと物議をかもしたことがあったようです。つまり自然のものか、人為的なものか。
1996年の造成時には、この巨石100メートルほどずれた位置の小高い丘の上にあり、「台座」に据えられてあったということなのです。それを工事の邪魔になるのでごろごろと転がしてきたのだと。「台座」がどんなものだったか気になりますが、いちいち工事中の人が写真を撮っていたとは思えないので、想像するしかないのですけれど……

実は、花崗岩には石英や長石による線が浮き出ることはあるようです。だから、これはあくまでも自然のラインだという意見もあります。ただ、ここまで長い直線ができるのかどうかは分かりません。
もしも、もとの位置にあったのなら、この球体が何を表していたのか、分かったでしょうか。あるいは金山巨石群(岐阜県)の巨石に刻みつけられた太陽の観測ラインのように、太陽の動きと関係したものだったでしょうか。

多くの巨石は古い信仰と結びついていますが、その「使い道」の中には太陽観測という側面が含まれいてるようです。春分の太陽が昇る、とか、夏至や冬至の太陽が昇るとか沈むとか、そういう巨石は日本中に点在しています。
古代には今のようなカレンダーは無かったでしょうか。いえ、もしかするともっと実用的なカレンダーを持っていたのではないでしょうか。何よりも大切な農耕のタイミングを知るために、天体の動きを事細かに観測していたと思われます。山や巨石はその太陽観測のために欠かせない装置だったわけです。エジプトのピラミッドや神殿も然り、マヤやアステカのピラミッドにも同じような仕掛けがあります。冬が終わり農耕を始めるタイミングを確認し、その日は祝い=祭り=祀りを行ったのでしょう。
巨石の中には、こうした太陽観測の装置=信仰の対象=祭事の場、となっていたものが多くあったと思います。
そして、後から起こってきた宗教(神道や仏教)がこれらの古い信仰の上に乗っかってきたのですね。
そこに祈る人がいたから、その祈りの気配が残るから、巨石は素晴らしいと思うのです。

さて、この十字ベルト、皆さんはどう思われますか?
実はもっとはっきりとした十字ベルトがあるのです。それは後ほどお見せするとして、次に、山添村の「天の川」を見に行きましょう。
鍋倉渓橋から
車道から不意に見えるこの景色。一瞬「え?」とハンドルをとられそうになります。
実はかなり幅の狭い橋が架かっていて、この橋の上方550m、下方100mにわたって、この石がゴロゴロ……の景色が続いているのです。
そう、ここが山添村の「天の川」、鍋倉渓です。山添インターを降りたら西に向かい、途中「めえめえ牧場」の看板を南へ入ると着きます。道が少ないので、ほとんど迷子になることはありません。
駐車場があって、そこにはこんなカラスが迎えてくれます。
鍋倉渓からす
なぜカラス? なぜ鍋倉? それは謂れを書いた看板を後で読んでみることにしましょう。
鍋倉渓階段2
脇にこんな階段が付いていて、山を登って行きます。
鍋倉渓3
斜面がカーブしているので、上までは見えませんが、本当に、ずっとこんな黒い石がゴロゴロと斜面に転がっているのです。これは花崗岩じゃないみたい? そうです。深成岩ではありますが、解説を読んでみましょう。
「この地点から上方へ550メートル、下方へ100メートル、幅25メートルにわたって巨岩怪石がるいるいと続いています。そしてこの谷を流れ下る水は岩石の下を深く伏流し、岩の間から微かにその水音のみを聞くことができます。
これは地質地形上、特別の条件のもとに生じた極めて珍しい風化現象で、全国的にも学術上の価値が高く評価されています。」
この奇景、自然発生的なものであることは間違いありませんが、岩の川かと思ったら、ちゃんと下には水が流れているようです。確かに上に上がっていくとかなり湿った地面になり、石の下、木々や草の影を流れる水の音がしっかりと聞こえてきました。
鍋倉渓4
「この付近の大和高原地域一帯は、花崗岩質で形成されていますが、その中でこの神野山だけは角閃斑糲岩という深成岩(火成岩の一種)でできており、岩質が非常に硬いために侵襲に耐えてこの山容ができたものと考えられています。」
そう、花崗岩とは違う、もっと硬い石なのですね。水や風による侵襲も受けずに、こうして土がや水が流れ落ちた谷に大きな石が貯まってしまったもののようです。
鍋倉渓1
「伊賀の天狗と神野山の天狗が喧嘩をして投げあった岩だという伝説や、火山の溶岩が流れ出して固まったものだなど、色々な俗説はありますが、この成因は地質時代に山の表面が風化して、次第に細かく土壌化する際に、前記の角閃斑糲岩の特に堅い部分が風化に耐えて溶岩のまま残り、当時の谷底に自然に移動して集まったもので、その後地形の変化に伴って、現在のように浅い谷となり、岩石が昔の谷にそのまま長い列をなして堆積したものと考えられています。そして流れ下る水は一層谷底を深く侵蝕して岩石の下をくぐり、全くの伏流となったものと言われています。」
なるほど、それで天狗だったのですね。ここは三重県の伊賀にも近いのです。伊賀のあたりにもずいぶんと古墳が眠っているようで、このあたりの歴史が10000年以上さかのぼれると言われても、もう驚く気もしなくなってきますね。
鍋倉渓2
少し上方になると、石がやや小さくなります。苔むしている石も増えてきます。
ちなみに、鍋倉というのは地名ではなく、「堆積した岩のそれぞれが黒く煤けた色をしており、鍋の底を連想されるところからこのように呼ばれるようになった」とのことです。
鍋倉渓上方
さらに上になると、かなり土に埋まった部分も出てきます。
鍋倉渓周辺の岩
というのか……掘ったらみんなこんな石ばっかりじゃないの? 
「天の川」に相当する部分の外側もこんな感じで、どうみても表に出てきていないだけで、いくらでも埋まっていそうです。
天狗岩への道
さて、本来ならこんな山は頂上まで登らずにはいられない大海と母ですが、岩屋桝形岩探検で捻挫のまだ癒えぬ足はすっかりお釈迦に。特に階段はきついので、天狗岩までたどり着いて断念しました。
まだその先には、王塚(デネブに相当)や八畳岩(ベガに相当)などもあったのですが、天狗岩(アルタイルに相当)にて引き返してきました。
そうなんです。この「天の川」は天の天の川を写し取り、なおかつ夏の大三角形に相当する巨石まで配置していあるということなのです。…・・・・でもね、すごい石だらけなんですよ。ロマンはあるのだけれど、古代人がそう考えて巨石を配置したというよりも、ちょっと大きい石に名前をつけたら、夜空の星座は幾つか描けそうです。

山添村いわくら文化研究会さんの立札には、「古代人が築いた巨石構造物ではないかと考えられているが、その方法については謎は多い。天の川を地上に映したものと考えられている。」と大胆な言葉も。
そう言えば、かなりエキサイトして読んだ本に、グラハム・ハンコックの『神々の指紋』がありました。眉唾な部分は多くあるにしても「そうかも」と思うと楽しいですよね。あの本の中で、ギザのピラミッドの配置が12000年だったか前のオリオン座の三ツ星の位置関係にぴったり当てはまっている、というのがありましたね。
というわけで、アルタイルに相当する天狗岩です。
天狗岩3
具体的にどれが「天狗岩」なのかよく分からないのですが、この岩の集合体なのでしょうか。
天狗岩2
立札から見て左手には、いかにも荒々しい感じの岩の塊、そして右手にはちょっと面白い岩が。
天狗岩
立札とは反対の側から見ています。石が割れて、間に小さな石が挟まっています。割れてから挟まった(誰かが挟んだ)のか、石が挟まって割れてきたのか……
でもこの「挟み石」というのは巨石にもよくありまして、象徴的に扱われている時があります。

さて、この「天の川」ですが……これを見て「天の川」と呼んだのはいつの時代からなのでしょうか。
この景観がかなり珍しいものであることは疑いようはないのですが、私はこれを「天の川」だと呼び、周囲の石を星座に見立てようとした人々にぜひお会いしたいと思いました。それが古代人でも、現代人でも。
日本人の想像力の豊かさは、こうした「見立て」に生かされていると思うのです。庭園なども、砂で水を表す枯山水などがありますが、日本の文化には多くの見立てが用いられて、狭い空間の中に無限を描いてきました。
日本の巨石にも(無理やりなのもあるけれど)名前を付けてある石が沢山あります。
多くの巨石を何かに見立て、名前を付けて、祀り、崇め、そして楽しむ。これこそ巨石と触れ合う第一歩なのかもしれませんね。
だって、かの世界的ベストセラーにも書いてありましたっけ?
「始めに名前ありき」 (「言葉ありき」です)
名前を付けることは「呪」、つまりこの世に魂を留めおくための祈りなのですから。

もうひとつ山添村の巨石をご紹介するつもりだったのですが、長くなったので記事を改めます。
次回は「もうひとつの十字ベルト」、岩尾神社の御神体にご案内いたします。
鍋倉渓橋より下
「下方100m」にもまだまだ続く鍋倉渓でした。車道から見るだけでも十分に楽しめます(*^_^*)


応援ありがとうごさいます(^^)

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【石紀行】22.奈良山添村・岩屋桝形岩~山そのものが聖地~ 

山添長寿岩4
この丸いものはなに? と思われたことでしょう。もしかして地球?
実際には完全な球体ではないのですが、この向きから見ると真ん丸に見えますね。
さて、この見事な球体の巨石が見られる村、それが奈良県山添村です。
山添村は奈良県の北東にあって、奈良市の東、三重県との県境にあります。そして、ここは石の村としてイワクラ学会さんでもしばしば見学ツアーを開かれているようです。その象徴とも言える巨石がこの石なのですね。
でも、この石のことは次回にじっくりお見せするとして、まずは、この山添村の巨石中の巨石、牛ヶ峰岩屋桝形岩へご案内いたします。

名阪道山添インターを降りればそこはもう山添村。西に向かい布目ダムを目指していくと、道の途中でこのような看板が。
山添岩屋枡形入口
ダムの湖には釣り人が沢山やってきていていますので、この少し先に釣り人のための大きな駐車場がありました。でも、この入り口の前に共同墓地があり、その駐車場(と言うほど広くはないのですが数台は停められそう)らしき場所に車を停めさせていただきました。
山添岩屋枡形入口2
この奥……昼間の明るい陽の中でもかなり暗い杉林の中に入っていきます。
山添岩屋枡形参道
「参道」と言っていいようですね。階段がちゃんと作られていて、400段近い階段と山道を登っていきます。
山添岩屋枡形参道2
途中、このように石垣が見えています。また春日神社祠跡、という碑が立っていたりしますので、もとはもしかすると立派な神社あるいは寺社の設えだったのかもしれませんね。さて、先をゆきましょう。
山添岩屋枡形途中の岩
途中には、何か名前を付けてやってくれ! と思うようなこんな巨石が山の斜面に顔を出しています。まるで不時着したUFOのようですね。
山添岩屋枡形参道3
今回は迷うことのない1本道です。途中この分岐道がありますが、ちゃんと道しるべがあります(あと100mと書いてあります。あと300mからは長かった……山道の階段の200mは侮りがたし)。実は道しるべが指している道の上方にも道があるのですが、ここを起点にループになっていることが帰り道で分かりました。
山添岩屋枡形あと100m
いよいよ岩屋が近づくと、このような建物もあります。まだそれほど古くはないように見えますので、もしかすると何かの行事の際には使われるのでしょうか。とは言え、いかにも放置されたあばら屋のようですね。
山添岩屋枡形途中の建物
そのすぐ先に、この迫力のある岩の側面が見えてきます。
山添岩屋側面
正面に回っていきましょう。
山添岩屋
岩屋です。いつものようにうちの母の人物比較で大きさを感じていただければと思います。
巨石の傍の立て看板には……
『牛ヶ峰のこの地には巨石大岩が累積しており、一枚岩の巨石が自然の節理によって分裂したもので、上方に屹立した断崖絶壁には桝の形を切り込み(桝形)、転がり落ちた下方には丈六の大日如来像を線彫し、その底部を岩窟にして護摩壇を設けている(岩屋)。この岩窟をもって岩屋寺とし、入口頭上に本尊とする金剛界大日如来像(室町時代初期)を刻んだものと思われる。』
桝形の方は後でご案内するとしてまずは「岩屋」です。
下の小さいほうの岩で上の大きな岩を支える形となっており、内部に空間ができています。右手の入り口(?)の上あたりに少し平坦になった部分があり、そこに大日如来が線彫されています。
山添岩屋大日如来
大日如来の下に入ってみましょう。背の高い人は分かりませんが、とりあえず立っていられる天井の高さです。
山添岩屋内部2
この空間を寺の内陣に見立てているのですね。内側には護摩壇が設えられています。
山添岩屋内部3A
内部から外を見ても分かると思うのですが、この巨石を支えているのは、下の小さい方の石です。この辺りの岩は花崗岩のようですが、この石は昨今の災害のニュースでも話題になりましたが、ある一定の期間で「割れて」いくものなのですね。下の岩、どう見ても亀裂があるように見えます。実際に、この「岩屋」は山の少し上方にある巨石「桝形」が割れて落ちたもののようです。
山添岩屋中から外
何百年あるいは何千年か先、この小さいほうの岩が割れたら、岩屋の内部の形は変わってしまうのかも……
先にもお見せしましたように、この山にはあちこちに巨石が少し顔を出していますが、これらの巨石と杉の根によって、山の形が保たれているようです。しかし、岩が大きく割れると、地形も大きく変化することでしょう。
今のこの形がいつまでも残るわけではない。でも少なくとも空海の時代よりも前にこの場所はこの形で残り、だからこそ、この巨石を信仰の対象としてきた古の人々がいたのだと感じます。
山添岩屋中から外2
小さな支柱石を回っていくと、反対側の入り口(出口?)になります。こちらは天井がより低く、屈まなければ通れません。向こうが見えていますが、岩屋の前には少し空間があり広場になっています。
ちなみに正面から入って天井を見ると、石の中にハートの模様みたいなのがあります(*^_^*)
石に残るハート
さて、看板を見て「岩屋はともかく桝形? どれ?」みたいな事になるわけですが、何しろ杉林で山の上の方はよく見えません。桝形岩に登っていく道は、岩屋の少し手前にあります。何も印がないので見落とさないように……
私ったら、岩屋の奥をよじ登ろうとしたけれど、それはやっぱり無理でした……^^;(いや、あわよくば上に出れないかとも思って……)
山添岩屋と桝形の間
登っていく途中にはこんなふうにあちこちに巨石が顔を出しています。
名前はないけれど、たとえばこの巨石の向かいにはお地蔵さまがいらっしゃいます。まるで巨石と1対になっているようです。お地蔵さまが巨石を見守っておられるのか、あるいは巨石を拝しておられるのか。このようなお地蔵さまと巨石の対がいくつかありました。
山添岩屋と桝形の間2
上の写真の左端にお地蔵様、見えますでしょうか。
山添岩屋と桝形の間お地蔵さん
桝形までまた少し登らなければならないのですが、つづら折れのように登る道にこうした巨石があるのを見ていると、まるで神社の境内のようだと思いました。
神社の境内って、拝殿・本殿の他に、時に、山の神様の神社とかお稲荷さんとか、厄除け神社とか天満宮さんとか、時には薬師如来さんまで、其々祠や小さな社殿があったりするじゃないですか。まさにあのイメージだったのです。
そして登った先には、また巨石が。
山添桝形の前の岩
でも、これは何だか違うみたい。何か刻まれています。よく見ると、いわゆる寄進者の名簿でした。
見上げると、真上に巨大な石が……そうなんです。肉眼ではそうでもないのですが、巨石の写真って、木々の幹の色と葉の色、巨石に落ちる影などが一体化して、本当に見えにくいのですよね。
山添桝形
そういえば、オルメカの巨石人頭像なども木々に覆われていて見えなくなっていたわけですし(あれって、最初に発見した時、びっくりしただろうなぁ…・・でっかい顔!)、こういう石たちも祀る人がいなくなったら、あるいは山を整備してくれる人がいなくなったら、山の木々に埋もれて、巨石・磐座ファンを嘆かせることになるのかもしれません。いえ、実際にはそうして埋もれている巨石・磐座はたくさんあるのだろうなぁ……
山添桝形2
その脇の道、岩の隙間を登っていくと……桝形岩にまみえることができました。
山添桝形3
この岩の形のどこが桝? って、頭がはてなになっていたのですが、よくよく解説文を思いだすと、なるほど、桝というのはこの巨石に彫られた「あれ」なのね!
山添桝形の部分
丁度祠の上あたり、巨石の真ん中のあたりに四角い切れ込みがありますよね。あの中に「何か大事なもの」が納められていたわけです。経文? 仏様? ……解説文の続きによりますと。
『その昔牛ヶ峰は弘法大師が腰越の宝泉寺にとどまり、この山に大日如来を顕し、密法根本の基を開く霊場とされたと伝えられる。弘法大師が岩屋に大日如来を切り付けて、その時使用した鑿と槌を桝形に納めたと言われる。
桝形は本来仏像を安置する石の厨子、すなわち石龕(せきがん)であったと思われ、代々西村総代の手で保管されている木製の鏡形御正躰は、恐らくこの桝形に安置されていたと考えられる。』
と言うことは、この中に「のみ」もしくは「つち」、もしくは「ご神体」が納められていたということのようです。
でも、あまりはっきりとは書かれていないのですよ。
『明治25年に桝形を開扉し、世に示されてより百周年を迎えた平成2年に、偶然の機会から三重県青山町滝仙寺縁起および青山町史を調査したところ、同寺の本尊・須弥壇その他弘法大師空海縁りの宝物が、天正10年(1582)のころまで、この牛ヶ峰岩屋(岩屋寺)の所蔵であったことが判明した。』
で、明治25年には何が出てきたの?? と私の頭は今でも「はてな」でいっぱいです。多分、何もなかったのですね。どちらかのお宅で保管されているのか……少し巨石探偵の物語を書きたくなってきました。
山添桝形5
横から見ると、見事に綺麗に「割れた」形です。つまり、解説によると、この割れた半分の一部が下にあったあの岩屋だったわけですね。辺りにはほかにももう少し小さな、しかし巨石と言っていいくらいの石が転がっていました。
山添桝形4
ところでこの巨石、どう見ても浮いていますよね……
山添桝形祠の裏
祠の裏を覗かせていただきました。確かに、土との間には隙間があるのです。……いつかまた形が変わることもあるのかも……地球を感じる巨石の側面です。
山添桝形6
こうしてみると、まさに下の岩屋は拝殿、そしてこの巨石が本殿と言うのか、御神体にも思えます。
仏教伝来のずっと前から、こうした巨石は地元の人々の信仰の対象であったと思われますし、仏教や神道はこの原始的な信仰の上に聖地を作ってきたと考えると、やはり巨石や山など、地球そのものの存在を感じさせるものへの信仰は古くから確かにあって、そして時代と共に姿を変えてきたのだと思われます。
山添桝形前の広場
桝形の巨石の前は岩屋の前と同様に開かれた広場のようなになっていて、こちらは陽も当たって明るく清浄な空気が漂っていました。
さて、ここから元来た道を引き返しても良かったのですが、何故かすっかり巨石探索の山道に慣れたわが母は、さらに上へと進んでいきます。後で聞いたら、あの「あと100m」の道しるべの横にあったもう一つの道につながる道があるはずだと思っていたようで、いや、昔の人間、侮れません。
しかし、倒れ掛かる木の枝を払い除けて、少しばかり道なき道をいかなければならないのですが……
山添桝形の裏の石たち
桝形の巨石の上にも、こんなふうに石がゴロゴロ……って、この写真、一体いくつの石が写っているか分かりますか? もう「〇ォーリーを探せ」状態になっていますが、最低でも4つ、もしかすると5つの石を肉眼では確認しています。
山添桝形裏2
陽の加減によっては少しわかりやすいかも。
こんなところを進んで少し登ったら、少しだけ見晴らしがよくなり、下る道が見えました。とはいえ、こちらはあまり人が通っていない様子。ただ、木々には道しるべの黄色いテープ。
山添桝形帰り道
やがてあの100m看板のあった分岐点に戻ってきました。帰りの階段を降りるのが一番辛かった……すっかり捻挫慣れした私の右足は、何度も危機的な痛みに襲われながらも山を下りたのでした。だらだらコースで1時間半くらい。岩屋までは30分くらいでしょうか。
今回は誰にも出会わなかったのですが、降りてきたら、丁度これから登る2人連れの方(年配の女性と息子さん?)に出会いました。「(2つの石の間に)ゼロ磁場のある石」を探しておられるとか……巨石ファン、あれこれと楽しみ方があるようで、奥が深いですね。

さて、後篇では……山添村の天の川?鍋倉渓といくつかの石たちをご紹介します。
お楽しみに!

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【雑記・あれこれ】そう言えば最近野望を抱いたことがなかった…… 

山添町
今週は本当に忙しかった……椅子にほっと座っている時間はあまりなくて……
そんな中、短い時間、自分の椅子に座ったら隣の席の同僚が突然、「私、○○大学の教授選に出ようと思ってたのにな~」
え??????

いえ、別に絶対不可能よ!って言うつもりはないけれど、ここからその道あり? しかも、そんなことを考えている、または努力をしている気配もなかったよ? いや、私が知らないところで準備してたんかな……
それはまさに「野望」ってやつ? 
「野望」というのは、「分不相応な望み。また、身の程を知らない大それた野心」。つまり「世界征服の野望」って感じで使う言葉だから、せめて「大望」と言うべきなのかな?

「野望」というのはどちらかと言うとマイナスイメージの言葉のようですが、でも、もともとは文字通り「野原を見渡す」ってイメージの言葉だから、決して悪い意味ではないような気がするけれど。

いや、それが実現可能な望みかどうかは分からないけれど、ちょっと同僚の言葉に感動したわけですね。私ったら、最近そんな「大それた望みを抱いたことがなかったわ……」
歳をとると、平穏に行きたいと思いがちなのかも。
平穏に行こうとすると、がむしゃらではなくなっていくのかも。

そう言えば、どこかで話題になったような気がしますが(八少女夕さんのとこだったかな?)、「いつも見ていた景色がその人を作る」というのか。
子どものころに見ていた景色が、「野望」を生み、何かに繋がっていくのかも。
子どものころ、あるいは若いころは「野望」だったかもしれないけれど、いつかは「指が届く望み」になるのかも。

歴史上非常に興味深い人物として、坂本龍馬と織田信長がいるのですが(私って、マイナー嗜好なのに、こんなところだけかなりメジャー。ちなみに、インタビューしたい歴史上の人物を選べと言われたら、まずは勝海舟^^;)、この二人の見ていた(かもしれない)景色を見ると、あぁなるほどって思うのです。

坂本龍馬は桂浜から見た太平洋。
若いときにあの景色を見ていたら思いますよね。「いつかこの海の向こうの国と対等に貿易したい」……そのためには鎖国はいかんぜよ、ってことで、討幕に至ったのは結果論。さっさと開国して外国に出て行きたかったんですよね。

織田信長はあの岐阜城からの景色、そして見たかもしれない伊吹山からの琵琶湖の景色。
何というのか…・・「天下が取れるかも!」って思う景色です(って、私だけ?)。どこらへんが?と聞かれると分からないのですけれど、見たらそう思っちゃう……と思う^^; 何だかね、景色が「手に入りそう」なんですよ。

さて、彼らが抱いたのは「野望」だったのかどうか……
結果的に二人とも夢半ばで倒れましたが、もしかすると「野望」に指が届いていたのかも。
関係ないけれど、実は私、龍馬研究会の幽霊部員……脱藩の道も何回か行っておりまして。そして、織田信長は、今後書きたいと思っている時代小説の主人公が慕っている「お館様」(物語自体は信長の死後なのですが)。

さて、私のちいさな野望……
それは、喜望峰で海に向かって江差追分を唄うこと?
これは実現不可能かつ分不相応と言う意味ではまさに「野望」かな?
でも、子どもの頃、私の見ていた景色と言えば……
向かいの小高い丘に続く田んぼと畑。雉が歩いてて、春は蓮華畑、夏はカブトムシとクワガタをとりに行って、秋は稲穂、冬は雪ウサギを作ってもらって(うさぎさん、寒いからって温室に入れてあげたら、いなくなってた!と泣いてたり)……
その景色はもうすっかりなくなっちゃったなぁ……
どうやら、野望を抱くには小さすぎる景色を見て育ったようです^^;

「野望」……「大志」よりもちょっと厳つくて、ちょっと無謀で、ちょっとワルな感じで、でも案外大海原を見渡して抱くでっかい夢にはぴったりの言葉なのかも。
そして、信じていたら、信じることによって高みを目指し努力をするのなら、その「野望」に手が届くのかも。
とりあえず、同僚の野望を応援するかな。


冒頭の写真は、明日行こうと思っている奈良県山添村の「天の川」??
山添村観光協会さんのHPからお借りしました)
日帰りでちょっと石たちと遊んでまいります(*^_^*)

Category: つぶやき

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【雑記・あれこれ】シンプルがいちばん~Life is Beautiful~ 

ある日の夕陽
今日、NHKを見ていたら、昔の少年シリーズの解説番組をやっていました。私がリアルタイムで見たことを覚えているのは『七瀬ふたたび』だけで、後は年代によっては何となく見たことがあるような、無いような。
『時をかける少女』を原作とした『タイムトラベラー』や、『ねらわれた学園』などを原作とした『未来からの挑戦』など、当時同年代の少年少女を惹きつけたドラマが多く放映されていたのですね。
今では、これがアニメなど別の作品になっているのだと思いますが。

今日の番組はその中でも『未来からの挑戦』を取り上げていました。
勇気ある現代の少年と未来から来た少年が、もともとは敵同士だったのに、心を通わせてより大きな敵と闘う、ついでに女の子(紺野美沙子さん)との仄かな恋もあり、というお話。
あらすじ書いちゃうと、「なんだ、それだけ?」で終わる……昔読んでいた・見ていた少年少女向け物語って、ほんと、単純明快過ぎて。
でも、その紹介番組を見ながら思ったのです。

単純な方が伝わる。

未来から来た少年が、最後はもちろん未来に戻るのですが、当然のことながら、現代の少年は「どうしても行くのか?」ってな話になるわけですね。
彼が去ってから、彼が残していったペンダント?から声が……
「それぞれが生を受けた時代で精一杯生きよう」

なんだよ、それだけかよ、なんですけれど……じーんと来ちゃいました。

そう言えば。
山下達郎さんの『クリスマスイヴ』はAメロとBメロしかない。同じフレーズを繰り返して歌詞を乗せているだけ。
先日ご紹介した藤井フミヤさんの『TRUE LOVE』。フミヤさん、初めての作曲だったのでものすごく簡単なコードしか使えなかった、と。
でも、どちらもメガヒットです。
私が大好きな村下孝蔵さんの『夕焼けの町』。故郷を歌っているのだけれど、「すべて貧しいけれど 美しい」という歌詞がある。「美しい」なんてありふれた単純な言葉なのに、胸に響く。

小説を書くときには、「美しいものを、美しいと書いてはいけません。描写をして、美しいという言葉を書かずに美しいということを伝えなくてはならない」。これが小説のお作法、なんでしょうけれど……
本当にそうなのかな。いや、もちろん正しいんだろうけど、描写が過剰になってもけばけばしくなるだけで、かえって伝わりにくくなってしまうことも。

加減の問題かもしれません。でも決め台詞は結構単純だったりする。
『海に落ちる雨』……相当に複雑で、どうやってこの絡まった糸を解くんだ? って話ですが、解いて最後に残った台詞はごく単純で「○○○○○」。
この一言を言わせるためだけに、よくもまぁこんなに長い話を書いたなと、自分でも感心。
(逆に、某キャラには言いたい。こんなにお膳立てをしなけりゃ、言えなかったのか、と。)

そう言えば、家を建てる時に、積水ハウスの人が言っていた言葉。
床の色とか壁の色は「迷ったら明るい方にしなさい」。
これも単純な真実だなぁと、今しみじみ思う。(あれ、関係ないか……)

シンプルで分かりやすい言葉で、奇をてらうことなく伝える。
なぜなら、大事なことは結構単純だから。
でも、ついつい、捻っちゃうんだよなぁ。
だって、「人生は少しばかり複雑な方が面白い」んだもの。ね。
だから、ここぞという時に、シンプルで力強い言葉をぶつける。
それが大事なのかもしれませんね。

以下は、自作絡みの呟きなので、読み流してくださいませ。

二代目真
「人生は少しばかり複雑な方が面白い」
これは、実はうちのキャラ・真シリーズの素っ頓狂姫、真の従妹の葉子の台詞。
アニキ(実は従兄)の嫁になりたかったけれど、どうやら彼には想い人がいる、それならアニキの親友と結婚して、アニキの想い人とは親友になっちゃえ! って、話をややこしくしてくれた。で、こんなことを言うんですよ。

本編の中にはものすごい数のエピソードが入っていて、もう収拾がつかないように見えていますが、その入れ子式?展開には、一応それぞれに意味があって……
「袖擦り合うも他生の縁」
これが物語の真実です。言ってみたら、これも単純な言葉なんだけれど、物語に起こしてみたら複雑。

今回も、短く終わるつもりが、予定していた内容(もとはシンプルだったのに)を書くだけでも話が膨らんでいくのを止められず、長くなっている『人喰い屋敷の少年』ですが、シンプルどころか、登場人物の数の分だけ複雑になっていく……
そうか、短編では登場する人物の数を少なくしなさい、って言われたことがあったなぁ……だって、袖擦り合うも他生の縁……とか言ってたら、どんどん長くなって短編じゃなくなる……

八少女夕さんのscriviamo!に、複雑の権化みたいな真シリーズの子孫たちの恋物語の続編を書いた。その物語はそもそも単純なシンデレラ物語だったのに、夕さんちの物語の舞台やキャラを絡めさせていただいたら、またどんどん複雑化の気配が……
自分で複雑化のドツボを踏んでいるのだけれど。
このラリーのような競作(共作?)の複雑さはある意味歓迎でもあるのだけれど、発起人の夕さんが大変そう……

そもそも、可哀相な世紀のカップルは、身内に一番の難関を抱えていて(花嫁のパパ)、簡単にくっつきそうにない。くっつくためにはこのパパを懐柔しなきゃならない。
でも、今回、絡んでくれそうな山西サキさんのところのミクは、また困ったことに(困ってないか…・・)、この花嫁のパパと同じ歌手。
花嫁のパパ=2代目真はロック~ポップス歌手ですが、まさにポップスとクラシックの融合でボーカルグループにも属していて、ただ今ツアー中でもうすぐローマにやって来る。何しろすごいおじいちゃんっ子で、その影響でもともと遊びでオペラなんか歌ってたりしてたんです。Nessun dorma~……なんちゃって、ロックコンサートの最中に。
しかも、花嫁のひいおじいちゃん(【死と乙女】の慎一)はそこそこ有名だったピアニスト→指揮者で、もう80代後半のはずですが、非常勤ながらもまだ現役の音楽学校の講師(ローマ在住)かつ若い歌手を育成する歌劇団の支援者。
何だ、この「待ってました!」的な流れは……
と思ったら、またまた妄想が走りだしちゃったよ……
(ちなみに……芸は70からですからね! 朝比奈隆さん・桂米朝さん・13代片岡仁左衛門さんが言ってました……しかも慎一には一代目真の分も長生きしてもらわなくちゃ!)

しょうがないから、もう一度言おうかな。
「人生も物語も、少しばかり複雑な方が面白い」
え? シンプルな方がいいって話だったんじゃないの?
う~ん。
人生の話を書くと、こうなっちゃうんですよね。

何はともあれ、話をまとめますか。
そう、単純でも複雑でも、「Life is beautiful !」
(フミヤさんの歌のタイトルでした(*^_^*))
あるいは、マコトがよくやる手でもいいな。
「何か分かんないけど、なんとかなってるから、ま、いいか!」
マコト1

*文中のヘタな人物イラストは、20年以上も前に描いたらしい、その花嫁のパパ・二代目真。若いころですね。
*最後の可愛いマコトのイラストはlimeさんから頂いたものです(^^) かわいい~

Category: あれこれ

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【迷探偵マコトの事件簿】(17) マコトの聖バレンタイン 

マコトのバレンタイン
(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用は固くお断りします)
limeさんが素敵なイラストを描いてくださいました。バレンタインのプレゼンターのマコトです。
limeさんは本当に才能豊かな、尊敬するブロガーさんです。小説はもちろんですが、イラストでもこうして少しコミカルなものから、深い世界観の溢れるイラスト、それに面白いショート漫画! いつも楽しませていただいております。
そして……このイラストを見れば、やっぱりバレンタインネタで一つ、書くしかないですよね!
いや、間に合ってよかったです!!

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。本当はタケルに甘えたいけれど甘えられない。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。
お手伝いのおばちゃん:タケルが雇っている、ちょっぴり豪快なおばちゃん。


【迷探偵マコトの事件簿】(17)マコトの聖バレンタイン

今日は2月14日。
お手伝いのおばちゃんが、今日はバレンタインだって言ってたよ!
それ、どんなおさかな

「バレンタインはね、女の子が男の子にチョコレートを渡して告白するのよ。でも、もともとはなんだったかしら? たしかキリスト教の……」
なんだ、おさかなじゃないんだ。

おばちゃんはタケルにチョコレート、渡すの?
「私のは義理チョコよ。旦那にも義理チョコだけどね」
おばちゃんは大きな声で笑った。
ふ~ん。で、チョコレートって、どんなおさかな

でも、ギリは知ってるよ!
ちょっとコワいおじちゃんたちが言ってる!
ギリとニンジョウのギリ、だよね!
ギリチョコ? コワいおさかな?

昨日から、ぼくのお気に入りのソファのすみっこは「コワいおさかな」が入っていると思われる、リボンのついたハコでいっぱい
それがこの数日でどんどん増えていくんだ。
ぼく、そこで丸まって寝たいのに……

でも、チョコレートってどんなおさかな、なのかな?
ちょっと開けちゃえ!

リボンの端っこをくわえて……
あ。このリボン、タケルのオンナと同じニオイがする……
う~、このやろう!
ぼくは引っ張ったリボンでぐるぐるになりながら、ハコのフタのはしっこをかじって、開けてみた。

……なに、この黒いの? おさかなじゃないね。
ちょっと なめてみよっと。
ぺろり、ぺろぺろ・……
??????

うえっ。ちっともウマくないや。
こんなまずいもの、タケルにあげるなんて……
これはきっと、くろいアクマの食べものにちがいない!
これを食べたら、タケルがアクマになっちゃうかもしれない!
(半にゃらいだーで、そんなの、あったよ)

えぇい。ぼく、半にゃらいだーのお面持ってるんだぞ!
このやろ、このやろ、このやろっ!
ぼくはコワいおさかな、じゃなくて、くろいアクマをハコから追い出した。
よし、ニンム完了!

あ、このハコ、ちょうどいいなぁ。
ゆーちゅーぶでね、ナベとかティッシュのハコとかにねこが入っててね、カワイイの。
ぼくもハコに入ったら、カワイイかも!

前足から入って……よいしょ。
あれ? ちょっと小さい?
うんしょ、と丸まって……ぎゅっと……
あれ? やっぱり、おしりだけはみ出しちゃう。それから、しっぽも……

う~ん。おしり、はみ出てるけど……、ま、いいか!
眠くなってきちゃった……
タケルが帰って来るまでねちゃお。


それにしても、女というのはどうしてこうもイベントが好きなんだろうか。いや、決して俺もサプライズは嫌いなわけじゃないし、友人、従業員、恋人、家族の誕生日には皆にプレゼントを贈るんだが、それを選ぶのも楽しみのひとつではある。
けれど、国中が騒ぐことでもないような気がする。いや、正直なところ、俺の商売にも御利益があるので、有難いと思わなければならないか。
でも、大体、こんなにたくさん貰ってもどうすることもできない。明日には知り合いの養護施設に持っていくのだけれど。

帰ってみたら、積み上げてあったチョコレートの箱の山が崩れていた。
え? マコト?
俺にとってはちょっとだけ大事な女がくれたチョコレートの箱をこじ開けて、その中にマコトが入っていた……いや、正確には頭と身体の半分は入っているが、おしりとしっぽははみ出ていた。
しかも、開ける時にリボンを引っ張ったらしく、そのリボンが身体に巻きついたままだった。

「こら、マコト!」
マコトはびくん、と頭を上げた。
「他人様が下さった心の籠ったプレゼントになんてことをするんだ!」
マコトはきょとん、として、それから俺が怒っていることを察したのか、跳ね上がるようにして逃げていった。
「食い物を粗末にしちゃいかん、って、じいちゃんも言ってたろ」

その日はちょっとだけ怒っていることにして、わざと目を合わさないようにしてやった。
まぁ、正直、チョコレートを全て食べる気もなかったのだが、やっぱり中身をくちゃくちゃにするのは善くない。甘えさせてはいけないと思い、わざと知らんぷりした。
マコトはそういうことには敏感なので、離れたところから時々俺の方を窺い、しょんぼりしている。
俺は、マコトが箱から放り出したチョコレートを拾い上げ、ブランディを傾けながら美味そうに食ってやった。うん、美味い。

翌日。俺はソファの上のチョコレートを段ボール箱詰めしてもらい、うちの執事に養護施設に届けてもらった。さて、仕事に出かけるか。
マコトはソファの陰から、そっと出かける俺を見送っていた。
しばらく、お灸をすえておくことにしよう。

しかし。
俺はマコトに背を向けてから、思わずにやけてしまった。
おしりははみ出していたけれど、箱に納まったマコトは妙に可愛かった。
しかも、リボンでぐるぐる巻き。
あれはもしかしたら、「プレゼントはあ・た・し」って奴だったのか? よりにもよって彼女からのプレゼントをどんぴしゃで開けたってことは……あいつなりのライバル心かも。
いや、にやけている場合じゃない。

それよりも、動画に撮っておかなったのは失敗だった。
ゆーちゅーぶに投稿し損ねてしまったな。


ぼくはしょんぼり。
タケルはぼくより、オンナのくれたくろいアクマのほうがいいんだ……
でも、ジイチャンも言ってたもんね……
ぼく、食べものをソマツにしちゃったね……

「おや、今日は何だか元気がないわね」
お手伝いのおばちゃんが買い物から帰ってきた。
うん。ぼくね、タケルに怒られちゃったの。

あ、いい匂いだね。わ、新しいニボシだ! ツキジのお店で買ってきたんだね。
……そうだ! おばちゃん! ぼくにそのニボシを1匹ください!
おばちゃんは「???」という顔をしていたけれど、ニボシの袋に向かってぼくがにゃあにゃあ言っていたら、そのうち、ぽんと手を叩いて、ニボシを1匹くれた。

ここのニボシ、おいしいんだよ。ニンゲンはこれをダシにするんだけれど、ぼくはちゃんとみんな食べるよ。食べもの、ソマツにしないもん。

でも、今日はぼく、ニボシを食べないでガマンすることにした。
ぼくはニボシをくわえて、タケルのお仕事机の上にとびのる。
それから、机の上にニボシをそっと置いて。
……だって、くろいアクマより、こっちのほうがずっとおいしいよね。
それから……にくきゅうで、ごめんねのたっち。

それからぼくは、おばちゃんにねこまんまをもらって、おなかがいっぱいになったら、ねこのドアからベランダに出た。
あ、雪だ。……今日はとっても寒いね。
……タケル、早く帰ってこないかな……

今日は寒いから……
特別にいっしょに寝てあげてもいいよ。


「ただいま」
帰って来ても、いつものことだが、マコトは迎えに出てこない。しかも今日はちょっとしょんぼりしているかもしれないし。
俺はプレゼントに、マコトの大すきな猫まんま用特注煮干しを買って帰ってきてやった。ま、よく考えたら、猫に怒るのも大人げないし。

マコトの姿が見えない。まさか、いじけて家出??
いや、もしかすると。俺はいじけている時のマコトがいつも隠れているベッドの下を覗き込んだ。
やっぱりここだ。マコトは、以前少しの間引き取っていて亡くなった大型犬のフジマルが残してくれた丸い玉を、大事に抱いて眠っていた。

……今日は無理矢理、ぎゅ~っとしてやって眠るか。

荷物を置きに仕事部屋に入ったら、机の上に煮干しが1匹、置いてあった。
何でこんなところに煮干しが?

マコトの奴……
……思わず口元が緩んでしまった。
俺は、硬いけれど抜群に美味い煮干しをかじりながら、1日の疲れを癒すべく寝室に向かった。



チョコレートが何かわからなくても、「義理」は知っているマコト^^;
チョコレートはマコトにとっては美味しくないけれど、じいちゃんの言葉「食べ物を粗末にしちゃいかん」を思いだして反省するマコト。
そしてタケルは、なんと、ゆーちゅーぶにマコトの動画アップを狙っているようですね(#^.^#)

猫さんや犬さんを飼っている皆様。
何でこんなところに○○が? という時、それは可愛い彼らからの愛のメッセージなのかも?
(時と場合とモノにもよりますが^^;)

最初に浮かんだのが、煮干しをつまみあげて不思議そうにしているタケル。
マコトにとっては目一杯最高のプレゼントだったようです。って、タケルが買ってくれてるんだけれど^^;
そして、「プレゼントはあ・た・し」も使ってみました。
皆様にも素敵な1日でありますように!
バレンタイン2
出張先でもらったバレンタインのプレゼント。左は高校生のお客さん(というのか……)手作りのクッキー。右は後輩がくれた昔ながらのマドレーヌ。
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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【雑記・たまには】音楽の力~フミヤさんのシンフォニックコンサート~ 

フミヤパンフレット
先日、フミヤさんのコンサートに行ってきました。フミヤさんにはいつも驚かされ、刺激を貰い、慰められ、励まされている私ですが、青春の時代(一応^^;)からもう先が短い現在(多分^^;)まで、最も長く応援している人です。
出会いは、当時母のお友だちの娘さん(中学生)がよく遊びに来ていて、勉強を教えてあげたりしていたのですが、当時の私はアイドルにもテレビにも何の興味もなく、テレビは科学系の番組のみ、クラブに一生懸命な頃でした。その中学生がチェッカーズの大ファンで、ある時、コンサートについて行ったのです……

マイクというものが発明されてから、十分な声量がなくても歌を人に聞いてもらえるようになって(それはそれで「ささやき唱法」というものが生まれてよかったと思うのですが)、少々歌が不味くても「歌手デビュー」ができる時代が来て(って、私どんな古い時代の人間……)。
だから、本当に歌が上手いアイドルなんてほとんどいないと思っていて、知識も興味もなかったのですが、あれ? なんてすごい魅力的な声を出す人だろうと思ったのです。まさに吸い寄せられた感じです。
そこから……コンサートに通うようになり、チェッカーズが解散してからもフミヤさんを追っかけて早30年……が経過します。追っかけて、と言っても、今は年に1度、ライブなどに足を運ぶという感じで、私の中では「お礼参り」。
私の青春時代、しんどかった時代を支えてくれたのが彼ら(彼)の歌でした……

何かの拍子にフミヤさんの音楽活動が取り上げられると、すごく嬉しいし、自分も頑張ろうって気になる。
その彼が昨年からオーケストラをバックに歌っているのです。フルオーケストラです。
大友直人さん、山下一史さんが指揮をしてくださって、各都市のオーケストラが演奏する、クラシックファンにも新鮮なコラボが生まれています。

私、一応、某指揮者さんを追っかけていたこともある、クラシック通ではありませんが、クラシックファンの一人ではあります。そもそもは竹宮恵子さんの『変奏曲』に嵌ったのがきっかけでしたが(そう言えば、私が今の職業の中の専門分野を選んだ遠因にもなっていたかも。ものすごい遠因ですけれど)、思えばあの頃、漫画や物語の力は大きかったかも。
びわ湖ホールの友の会会員でもありました(当時、その指揮者さんが御存命の時、音楽監督をされていたのです)。
あまり詳しいわけではありませんが、音を楽しもうって気持ちはいっぱい。
でも、面白いことに、クラシックもチェッカーズも、実はその頃オールディーズなども大好きだったのですが、私の中では同じ畑に咲いている花、って感じだったのです。今や、そこに民謡も絡まっていますが、どれも私の腹の中のリズムにぴったりはまっているわけです(モーツァルトもじょんから節もね)。

その私の中の畑の両端にあったはずのクラシックの世界とフミヤさんのコラボレーション。夢を見るような時間でした。
そうそう、最近は高いところにいたクラシックの世界がポップスの方へ降りてきてくれて、新しい音楽が生み出されるという土壌もできているのですね。私が大好きなIL DIVOもそのひとつの形ですし。
でも、一緒に演奏したらそれでいい、というわけではないですよね。
IL DIVOでも、セバスチャン(唯一のポップス出身)が、オーディションの時、他の3人の歌を聞いて「帰ろう」と思ったって言っていましたし。

本当にフミヤさんはものすごく大変だったと思うのです。だって、フルオーケストラです。バンドじゃありません。少人数のストリングス楽団でもありません。しかもフミヤさんはクラシックの歌い手ではありません。身体を楽器のようにして声を張り上げて歌うということをしてきた人でもありません。
「ただオーケストラをバックに歌えるだけなのかと思っていたら、全然違った」と。

そうなんですよ。オーケストラ。遠い楽器と近い楽器では音が聞こえてくるタイミングがずれていて、どこに合わせていいのか分からないのですね。うちらも三味線の団体演奏の時、いつもこの現象に悩まされます。
「バンドでは電気楽器で音がコードを通してスピーカーから流れているから、きちんとした音が全部同時にリズムと共に流ているけれど、オーケストラは各楽器のタイムラグのためにどこに合わせたらいいのか全然分からない、普通のボーカリストがあそこに立っても歌えないんですよ、驚くくらい」

さらに。舞台を作ること自体にもギャップがあって、特に音響は大変だったそう。生が基本のクラシックに、マイクを使うポップス。どちらが勝っても「気持ちのいい音楽」にならない。
今回のこの試み、もちろん、マイクなど音響の調整も実にうまく行っていたのだと思います。それは舞台監督・音響スタッフさん、そして演奏しながらアドバイスを投げかける大友さん・山下さんの力が大きかったと思います。
スタッフと舞台の上の皆さんが、フミヤさんの声の特性をよく考えてくださって、そこで生まれた調和だったと思います。オーケストラの音が大きすぎず、フミヤさんの声も大きすぎず、見事なバランスで調整してあった。

多分、ポップス・ロックの世界ではそんな微調整は必要ないと思うのですよね。雰囲気・ムード・ノリ・臨場感、そういったものがすごく大切だから、音のバランスよりもどれだけatractiveであるかのほうが優先される。でも、クラシックの、とくにオーケストラはそうはいかない。そもそもホール自体が残響何秒まで計算されて作られているんですから、下手にやるとうるさくてたまらなくなる。そこを繊細に繊細に調整してくださったのですね。

ただ……ファンの贔屓目を100%引いても、フミヤさんはすごかった。
ドキュメンタリー番組でこの舞台裏をやっていたのですよ。フミヤさん、舞台監督らスタッフのところに挨拶に行った時、本当に一人で行ったそうです。
「身一つで来ました」
長年ヴォーカリストとしてやってきているので、自分のスタイルを貫いてきて、もちろんそれを理解してくれて一緒に世界を作り上げてきたバックがいるわけで、通常なら自分のスタッフ(舞台監督、音響・照明チーフ)を引き連れてきて、あれこれ注文をつけてくるのだろうとスタッフは思っていたそうです。
それが本当に一人でやってきた。まるきりの門外漢なので、すべてお任せします、よろしくお願いします、と。

そして……フルオーケストラをバックに、かなり緊張もされていたと思いますが、素晴らしいパフォーマンスだった。
クラシックの歌手のように歌うことが求められていたわけじゃないんです。「フミヤさんの歌」が求められていて、でも一方ではこれまでのようにバンドをバックに歌うように歌ったのではダメだと思われたのでしょう。
マイクを通しているとはいえ、フルオーケストラが目一杯の音を出す瞬間には声が聞こえなくなるのでは、と思っていましたが、声はちゃんと楽器の中に埋もれてしまわずに、聞こえていたのです。
ええ、フミヤさん、もちろん深酒をやめて節制生活されていたそうですし。

言葉のひとつひとつが、本当によく聞こえました。あ、フミヤの歌の歌詞って(もちろん、何度も聞いてきた曲ばかりだけれど)、こんな意味だったんだと、これまでにも何度も私たちを励ましてくれた歌詞だったけれど、また新しい発見と想いを連れてきてくれた。
ポップスの強み、それは「言葉が皆に分かること」だからよりいっそう「言葉を大事に歌うのだ」と。
そして彼は言ってくれましたね。「今回のことで思った。もっと歌が上手くなりたい」
シンプルで、すごい言葉だと思いました。

前半はオーケストラとの調和を探っているようにも感じました。それはそれで、心地よかったのですが、最後の数曲になると、フルオーケストラをバックにしたフミヤさんがものすごく大きく見えた。あ、小さいですけれど^^;
一緒に行った人は、ピアノをずっと習っているクラシック畑の人で、フミヤさんのファンでも何でもない後輩だったのですが(フミヤ初体験)、「藤井フミヤはすごい」と言って、その声を絶賛してくれました。何でみんなすぐにスタンディングオベーションしないの? 2,3回くらいしてもいいくらい良かったんじゃないの、と……いや、普段のコンサート、ずっと立ってるから、座った状態から立つタイミングを掴みかねてるんじゃない?と^^;

ラストの曲、『夜明けのブレス』、最後の部分ではマイクを外して、生声だったのです。これは大友さんの案だったそうです。フミヤの生声を聴衆に聞かせたい、という。
私は実は天井席にいたのです。3階の相当後ろの方。そこまで、一音一音、全て届きました。
前半7曲、後半8曲、それだけを歌った最後の最後に、割れることも掠れることもない明瞭な声でした。

君のことを 守りたい その全てを 守りたい 君を生きる 証にしよう 誰のためでもなく……
(作詞:藤井郁弥、作曲:鶴久政治『夜明けのブレス』)

後半に向けて、どんどん声が伸びていっている気がしましたし、この歳になっても衰えることのない声に、新しいチャレンジに身一つで乗り込んでいく勇気とその努力に、一ファンとして嬉しく誇らしく、そして再び誓ったわけです。
「どこまでもついて行く! チビでデブでハゲでも構わない!」
(チビだけれど、今のところデブでもハゲでもありませんけれど、これはチェッカーズ時代にも彼がコンサートで「俺がチビでデブでハゲのオッサンになってもみんなついてきてくれるのかな」なんて言っていたので)

はい、もちろん、私はもう途中からうるうる泣いていました。
音楽ってやっぱりいいですね。理屈なしに素晴らしいけれど、その背後にある色々なものをひっくるめて、心躍る世界、明日への活力です。
フミヤさん、大友さん、大フィルの皆さま、素敵な時間を本当にありがとうございます。
でもやっぱり最後に、叫ばして下さい。
 フミヤ~、かっこいい~~!!!

あれ? 本当はもうちょっとあれこれ話を膨らますつもりだったのに、フミヤさんでいっぱいいっぱいの記事になってしまった。【雑記】のどのコーナーに入れるか、迷ったのですけれど、何しろ、今更フミヤさんに「アイドル」なんて失礼だと思ったのですけれど、でもやっぱり私にとっては永遠のアイドルなんですよね。
……ということで、今回はお開きです(*^_^*)
文字ばっかりの記事ですみません(>_<)
終わらない歌3
(2代目真を描いた下手な絵……実はイメージモデルはフミヤさんでした。って、そんな下手なもの載せるなって^^;)

今も必ず 世界のどこかに 夜明けの街があり
僕らは繋がり 生きてる 愛するために
(作詞:藤井フミヤ、作曲:藤井尚之『夜明けの街』)

『藤井フミヤシンフォニックコンサートダイジェスト』:発売されたCDとDVDの宣伝ですが、いい感じに超短くダイジェストになっているので、是非一度ご覧ください。

Category: たまにはアイドル

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(6)白い猫を抱いた少年 

limeさん
【人喰い屋敷の少年】第6話です。今回は真が『人喰い屋敷』で見かけた白い猫を抱いた少年が正体を現します? でもまだ「オトナには言えない」ことがあれこれあるようで……。少しだけ、事情を覗きに参りましょう。
内容は予定通りに進んでいるのですが、その分を実際に書いて確認するたびに長くなるのは何故でしょう……ゆっくりお付き合いください。

ちなみに第1~5話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女(3)人を喰らう屋敷(4)女の事情と猫を抱いた少年(5)役者は揃った

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会う、猫を抱いた少年。
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。
三上>真の勤め先『唐沢調査事務所』の先輩。真のいいアニキ。
田代>7年前、綾の夫・松岡圭吾の失踪事件を調査した班の元刑事。若くして警察に嫌気がさし、今は喫茶店をやっている。
真田>綾の夫・松岡の元同僚の刑事。松岡は、綾と真田の関係を疑っていた。



【人喰い屋敷の少年】(6)白い猫を抱いた少年


「さぁさぁ、あなたたち、喧嘩は辞めて、勉強の時間ですよ!」
 まるで拡声器を使ったような声は、部屋の壁を反響装置にして響き渡った。
 それまで部屋の中を体育館のようにして走り回っていた子どもたちは、その号令にぴたりと動きを止めて、ばらばらと隣の部屋に移動していく。

 年齢は幼稚園から高校生といったところか、二十人ばかりの子どもたちの動きに均一性はないが、この場所で定められた最低限の秩序を守っているように見えた。上級性は小さい子どもと手を繋いでやったり、中にはむずかる子どもを叱りながら引っ張っていくのもいる。さっきまで大喧嘩をしていたように見えた子どもたちも、肩を並べて、隣の教室のような部屋の大きな机のまわりに納まった。

「いつものことながら、お見事」
 三上が、背の低い小太りの女性に心からの賛辞を贈った。
「全くね、この仕事をしていると、声にだけは磨きがかかるわね」

 真はガラス窓越しに見える、隣の部屋の様子に気を取られていた。部屋と部屋は低いチェストとガラス窓で仕切られている。子どもたちは一斉に教科書やノートを広げ、まだそういう年齢に達しない子どもたちも上級生を見習って、小さなテーブルに大人しく座って、一心不乱に何かを書き始めた。
 これだけの子どもたちの共同生活なのだ。ある種のルールが必要となり、その第一が時間を守ることだというので、勉強時間、遊びの時間、食事など生活に必要な時間、家事や仕事の時間などが明確に分けられているのだという。

「さて、ルカのことね」
 三上に腕を取られるまで、真の視線は一点に釘付けになっていた。
 かなえ養護施設の施設長、そして子どもたちの母親代わりである新庄佳苗は、小柄な体に漲らせた活力と明るさを惜しみなく周囲に振り撒く、そういう顔をしていた。佳苗は真の視線の先を確かめ、納得したように頷いてから、三上と真を彼女の部屋に誘った。


 施設長の部屋と言っても、そこは事務所だった。お世辞にも片付いているとは言い難く、何某かの書類やら子どもたちの作品やら、篤志家からの段ボール箱から出された衣服やおもちゃ、本などが散らかっていた。それらを適当に机や床に移動させて、佳苗は真と三上のためにソファに居場所を作ってくれた。

 かなえ養護施設は多摩ニュータウンの外れにあった。開け放した窓からは、多摩川の向こうから吹いてくる風が抜けて行く。真はふと窓の外を見た。こちらは裏庭になるのだろうか、二十人余りの子どもたちと住み込みの従業員たちの洗濯物が風に大きく揺れている。

 ひとまず三上が作成した報告書に目を通した佳苗は、うん、と頷いた。それは真が唐沢調査事務所で三上が作成しているのを見たもので、ごく簡潔な報告書の一番上に少年の写真がクリップで留めてあったのだ。
 写真の少年は横顔だった。佳苗が真の視線を確かめ、大きく息を吸い込むようにして笑った。
「ルカは写真を撮られるのが嫌いでね、カメラが向いていると思ったらすぐそうやってそっぽを向くのよ」

 それからふうと大きな溜息をついて、一人掛けのソファに凭れた。年季が入って擦り切れたソファはどこから貰ってきたものなのか、古い映画にでも出てきそうな革張りだった。
「そう、まさかとは思っていたけれど、門倉さんのお宅に行っていたのね」
 それから一度三上の顔を見てから、真の方へ視線を向けた。事情を話してあるのかという確認に見えた。

「ルカは一度あのお宅に引き取られたことがあるの。でも、その時あの子はまだ小学生にもなっていなかったし、多摩から世田谷まで行けたとしても、正確に駅からの道も覚えているかどうか」
 三上がちらっと真を見てから、佳苗の方へ身を乗り出した。
「佳苗姉ちゃん、守秘義務ってのはあるんだろうけれど、もうあの家には誰も住んでいる気配はないし、ルカのためにも話してくれてもいいんじゃないかな。それに、こいつはあらゆる意味で信用できる奴だ。俺が保証するよ」

 三上はそう言って、子どもにするように真の頭に手を置いて、くりくりと撫でた。どういう場面になっても、唐沢と三上にかかると、真はいつまでも小僧の立場だが、それもこの頃ではすっかり慣れてしまった。それでも、唐沢も三上も、方向性は違っていても、真のことをそれなりに認めてくれている(誤解も混じっているが)。そのことが有難かった。
「それに、こいつはルカと話ができると思うけどね」

 その言葉に佳苗が改めて真の顔を見つめた。それは真が怯むほどの真剣な眼差しだった。
 やがて佳苗はまた何度か頷いた。
「私は何時だって三上くんのことは信じてるわよ」
 新庄佳苗は三上が養護施設にいた頃から姉貴分だったのだろう。三上の色々な経歴を分かった上でも、佳苗が三上を(そしてもしかすると唐沢のことも)信頼している気配が伝わってきて、そのことが真を安心させた。

 世間体はあまり良くない仕事をしている自覚はあったが、少数であれ誰か信じてくれる人がいるのだ。
 佳苗は改めて真の顔を見て、そのあとふっと柔らかな表情になると、しっかりと真の方を向いた。子どもと常に向かい合っているこの女性は、子どもと話す時いつもこうしてきちんと真正面から目を見つめるのだろう。あなたに話しかけているのだ、と。

「ルカは1歳になる前にこの施設に来たの。彼の両親は交通事故で亡くなって、どちら側にも彼を引き取ってくれる親戚はいなかった。内気で、なかなか皆と打ち解けなくて、一人で遊んでいることが多かったけれど、優しい子。でも時々妙なことを言うので、皆からは浮いている感じだった」
「妙なこと?」
「庭に友達がいるからおやつをとっとくんだとか、夜中に起きた時亡くなったお母さんに会ったとか」

「お、そりゃ、お前の同類だな」
 三上が茶々を入れる。佳苗は三上を嗜めるような表情を見せたが、真はその内側に言葉以上のものを感じて、この女性を信じる気になった。少なくとも唐沢と三上が、かなえ養護施設からの依頼や相談は一切断らないだけの何かがあるのだ。

「七年前、門倉さんのご夫婦が、子ども引き取りたいと言ってこられたの。何度も面会をして、おうちにも伺って、あちらにあの子を短期間泊まりに行かせたりしながら、様子を見ていた。門倉さんのご夫婦はうち以外にも幾つも養護施設を回っておられて、真剣に考えておられるようだったし、その中でどうやらルカのことが随分と気に入ったようだった。あの子も嫌がる様子がなかったし、門倉さんが迎えに来られたら自分から出て行ったりしていたから、すっかりお互い気に入ったのだろうと、養子縁組の話を進めたの。それから半年くらいだったかしら。あの子は戻ってきた」

「戻ってきた?」
 三上はその言葉に引っかかったようだった。
「そう。文字通り、突然戻ってきたの。ある朝、施設の扉の前に立ってたのよ。慌てて門倉さんのお宅に連絡を入れたけれど、誰も出ない。それで確認したら、ご夫婦とも亡くなったのだと」

「親戚とかから連絡はなかったのですか?」
「えぇ。どういう事情だったのか確認しても、親戚は弁護士がいたはずだから大丈夫だと思っていたって。親戚と言っても、それほど近い親戚ではないらしくて、細かいことは何も分からないというの。あの子は何も話さないし……もっとも、あの子はその時まだたった6歳だったのだから」

「その弁護士とは話をされたのですか?」
 三上は主導権をすっかり真に預けてくれたらしい。隣で黙って話の成り行きを聞いている。
「養子縁組の時に間に立ってくださった弁護士の先生がいたので、その人のことかと連絡してみたけれど、事務所を閉めておられて、その後の連絡先も分からなかった。他人の家の事情をどこまで調べていいものか迷って、唐沢くんに相談したら、ルカの様子はどうなんだって聞くから、特に変わった感じはないと答えたら、ルカに実害がないのなら他人様の家の事情だから放っておいたらいいと言われたんだけれど」
 唐沢の言いそうなことだ。誰かのためになるわけでもない、一文の得にもならない話は受けたくなかったのだろう。

「実際にルカくんの様子はどうだったのですか?」
「そうね……ひどく傷ついている様子でもなかったし、あの子がいつも一人で遊んでいるのは前と同じだし、よくぼーっとしているけれど、それもずっと変わらなかったし、学校ではちゃんと勉強もしているようだし、成績もそんなに悪くないわ。良くもないけれど」
「さっき妙なことを言うと仰っておられましたが、それも変わりませんか?」

 佳苗は驚いたような顔をして真を見た。
「あら、いいえ」
 それから三上の顔を一度見てから、真に視線を戻した。
「言われるまで気が付かなかった。確かに、門倉さんのお宅から戻ってからは、あの子は妙なことを言わなくなったわね。いえ、そもそもそれまで彼が言っていたことは、子どもにはよくある、現実と幻想の世界の行き来なのかと……」
 佳苗は真の顔の変化には敏感に反応した。

「誤解しないでね。子どもが大人には見えないものを見るとか、そういうことを否定しているのではないのよ。子どもにとっては確かにそこにあるのだし、その世界が大人には見えないだけで勘違いでも何でもなくて、本当にあるのだとしても私は驚かないわ。そして、成長すると多くの人間がその世界との縁を切っていくことも」

 真はしばらく考えを巡らせていた。それからゆっくりと言葉を区切るようにして確認した。
「門倉さんの家に娘さんはおられませんでしたか?」
 不動産屋は「お嬢さんもいたんじゃなかったか」と言っていた。
「会ったことはなかったけれど、子どもが家を出て寂しくなったので養護施設の子どもの里親になろうと思ったと言っておられたから、ご結婚でもなさったのかと」

「養子縁組の際に、相手方の戸籍などは確認されますか?」
「そこまでの権限はないのよ。ただ、相手方がどのような人間かは調べることはある」
 そう言って、ちらっと佳苗が三上を見た。つまりそこで調査事務所が関係するというわけだ。唐沢と三上が、ほとんど金にならない養護施設からの依頼を断らないのは、自分たちの出自と佳苗との人間関係によるものだろう。

「でも、門倉さんの場合は、間に弁護士さんが立っておられたから、唐沢くんに頼むまでもないだろうと」
「もし写真か何かで弁護士の先生の顔を見たら、その人かどうか判別できますか?」
「これでもかなり記憶力はいいのよ。一度ならず会った人の顔はまず忘れないんだけれど、七年前のことだから、いささか自信はないけれど」
「その遠い親戚と弁護士以外に、門倉家の関係者にお会いになられたことは?」
「いいえ」

「三上さんに依頼された内容を確認してもよろしいですか?」
「えぇ。この半年ほど、時々あの子が施設を抜け出しているの。始めは慌てたのだけれど、いつもきちんと帰って来ていて、でも、どこに行ったのかは言おうとしない。何度か途中までつけていくことはできたけれど、いつも見失ってしまって。だから唐沢くんにお願いしたの」

 真は今度は三上に向き直った。
「彼が誰かに会っていたようなことは?」
 三上は首を横に振った。
「道の途中では誰にも会っていないが、さすがに門倉家の敷地内までは踏み込んでないからな」
「ひとりでバスや電車には乗れますか? つまり、個人的に管理しているお金があるのかということですが」
「学校までの定期はあるわ。小銭くらいのお金は持っているから、切符くらいは買えると思う」

 真は頭の中で一通り確認してから、改めて佳苗に聞いた。
「ルカくんと話せますか?」
 佳苗は頷いた。
「彼が望むなら」
 自分でルカに話しかけてみると告げて、真は一人で席を立った。佳苗と三上を施設長室に残して部屋を出ていきかけた時、ふと気になって確認した。

「猫を見ませんでしたか?」
「猫?」
「ルカくんが白い猫を連れていたことは?」
「いいえ、ないわよ」


 施設長室を出て、木の廊下を音を立てながら歩いていく廊下の途中で、少年は教室側とは反対の廊下の窓枠に凭れて立っていた。開け放した窓からは、蝉の声が順番を争うように重なり合って滑り込んでくる。夏の日は長く、高い気温は陽の傾きをものともせずに体温を上昇させるのに、彼の周りだけは涼やかに見えた。

 風が華奢な身体を包み込んでいる。髪が一瞬ふわりと舞いあがり、透明で柔らかな頬に光の影を作った。
 施設長の話からすると、彼はせいぜい十二歳ということになるが、顔つきはもう少し大人びていた。だが、少し成長が遅いのか、身体は未熟なまま、時間の中のどこかで止まってしまっているように見えた。

「やぁ、また会えたね。ルカ、それにシャーロック。多分すぐにまた会えるような気がしていたんだ」
 ルカはじっと真を見つめていた。そして薄く紅を引いたようにも見える唇を開いた。
「やっぱり、シャーロックが見えるんだね?」
 それは真が思っていた以上にはっきりとした声だった。少なくとも彼は幻でも幽霊でもない。……当たり前のことだけれど。真は頷いた。

 ルカは肩にあの時の猫を抱えるように抱いていた。猫はじっと真を値踏みするように見つめている。真っ白で少し長めの毛、そして水色に近いブルーの瞳。
 ルカの手がそっと猫の毛を撫でたように見えた。
「誰にも見えないのかと思ってた」
「でも、猫を見たという人もいたよ」
「見えるふりをしたり、嘘を付いたりしているんだ。その方が面白いから。本当に見えているんじゃない」
「そうかもしれない」

 真は頷き、ルカから数メートルの距離をおいて立ち止まった。
「君と話すことができるだろうか」
 ルカはじっと真を見つめていたが、その時間は覚悟していたよりも短かった。少年は逃げるようでもなく、徐に真に背を向けて歩き出した。それは真を拒否をしているのではなく、待っているような緩やかな歩みだった。
 真は意識して肩の力を抜き、少年の速度に合わせてゆっくりと後を追いかけた。


「君の隠れ家?」
 尋ねると、ルカは木の上を見上げた。
 裏庭の洗濯物は丁度取り入れられるところだった。女性職員が二人掛かりでシーツやタオル、大量の衣服を大きなかごに納めていっている。ルカはまだ物干し竿の上ではためいているシーツをするりと躱すように歩いていった。真は職員に会釈をして脇を通り抜けた。

 その先に、ニュータウンを見渡すことができる場所があり、それほど高くはない木が幾つか並んでいた。
「でも、一緒には登れない」
 確かに、枝振りは木登りには最適だが、二人の人間を収容するには手狭すぎるようだ。二人は一緒に草地に座った。白い猫は彼らの間に納まった。

「君がつけたの?」
 ルカは一瞬何を聞かれたのか分からないような顔をしたが、真の視線の先が白い猫の上にあるのを見て、そっとその背中を撫でた。
「違う。あの子がそう呼んでたんだ」
「君の友だち?」
 ルカは返事をしなかった。

 それは門外漢にどう話せばいいのか迷っているように見えたし、真を信用していいのかどうか値踏みしているようでもあった。あるいは、そもそも人と話すことが得意というわけではないのかもしれない。少年のころの真と同じように。
 彼にとっての核心の部分には、まだ他人を入れたくないということなのだ。

「シャーロックというのはいい名前だね。きっと君の友だちのご家族の誰かがホームズのファンだったんだろうな」
 真はそう言ってから、自分の方も口を噤んだ。
 相手が話さないままでいると、時々饒舌になっている。自分でも意外で、ふと気が付いた瞬間に気恥ずかしくもなる。もっとも、この仕事を始めるまでは、特別な人間以外とはほとんど話すことがなかったのだから、仕方がない。

「ひとつだけ聞いてもいいかい?」
 ルカはやはり答えない。でも、拒否をしているわけではなさそうだ。
「君が門倉さんのお宅に行ったのは、誰かに会うためだったのかな?」
 返事はない。
「でも、よく道を覚えていたね?」
 ルカは突然顔を上げ、何かを言いたげに真の顔を見た。

 よく見ると、真と同じように少し髪の色が淡く、目の色は黒というよりも鳶色のような色合いだった。綺麗な子だな、と改めて思った。
 取調べみたいでいやな聞き方をしていると思ったので、逆に真の方が目を逸らした。
 それからしばらく、何も話さないまま黙ってニュータウンの街並みを見ていた。ルカが時々シャーロックの背を撫でる。真はそのルカの白い手を見つめる。時々目が合うけれど、ルカは話し始めようとはしなかった。

 やがて、捜しに来た三上にそろそろ行こうと呼びかけられて真が立ち上がった時、ルカが真を見上げた。
「また来る?」
 縋るような目だった。真は頷いた。
「明日?」
 その切羽詰った日を確認した理由は何だったのだろう? だが、真は敢えて聞かなかった。問い詰めてもルカは返事をしないと思った。だから、代わりにはっきりと頷いた。
「明日」
 ルカも小さく頷いた。

(7)飽和状態~重い夕闇~に続く。



次回はルカが語り始めます。そして、『人喰い屋敷』に潜んでいる亡霊が活動を始める?

Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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【物語を遊ぼう】17.もう一度見たい、あのドラマ~『人間・失格』と『ダイヤモンドの恋』~ 

近頃は古い作品もあれこれDVD化されて、懐かしいドラマや映画を見ることができるようになっていますね。You Tubeなんかでも思わぬ作品がアップされていたりして。
実は、ある週末、急に思い立って『人間・失格~たとえばぼくが死んだら~』(1994)全12話を観てしまったのです。
人間失格
1990年代と言えば、丁度私がKinKi Kidsのふたりに嵌ったころ。彼らはまだ10代の初々しい盛りで、特に剛くんの演技には泣かされまくっていました。ちなみに私、特別にJさんチームに嵌っているわけではないのですが(いえ、某5人組のリーダーには惚れておりますが、これは結果論……たまたま惚れ込んだ人がJさんだった、ってのはありますが)。

実は私、もともとテレビっ子ではありませんでして、有名なドラマのほとんどを知りません。小さい頃、好きなアニメとか仮面ライダー、松竹新喜劇(寛美さん(*^_^*))などは一生懸命見たけれど、学生の頃はテレビから離れていたのですね。
それがある時、何の拍子かKinKi Kidsのふたりが出演していた『若葉のころ』(1996 ) を見て、「なんだ、この初々しいキラキラの少年たちは……しかもこのやるせない、胸を締め付けるようなドラマ展開は何なの?」とすっ転び、逆もどりする感じで『人間・失格』を見た記憶があります。


最近物議をかもした(といっても見ていないのでよく分かっていない)『明日ママがいない』の野島伸司さんの作品で、いじめ、自殺、倒錯愛、復讐、というどろどろのストーリー。
登場人物はイケていない人ばかり。赤井英和さん演じるお父さんは、貧しいながら必死で息子を有名男子校に入れて、教室まで入ってきて「息子を頼みます~」なんて生徒たちの前でやっちゃうKY盲目親爺。息子を信じられなくなったり仲直りしたり、そして自殺した息子の死に疑問を抱き、ついに体罰と苛めの事実を知ると復讐に駆られてしまう(煽る奴がいるからですが)。
櫻井幸子さん演じる新米教師は、自分のクラスに苛めがあるとは思わず、生徒の言動に流され、挙句に仮面の奥に非道な狂気を宿した社会科教師に恋をして、生徒が大変なことになっているのに仕事よりも恋に揺れている。
加勢大周さん演じる写真部の顧問であり社会科教師は、生い立ち故の孤独から歪んだ性癖を持ち、同じく孤独な生徒・留加(光一くん)への想いを愛情と思い込み、留加が赤井さんの息子・誠(剛くん)との友情を深めようとすることに危機感を抱いて、彼を追いこんでいく(その策略の結果、生徒たちに追い込まれて、誠は屋上から飛び降りる)。
留加の母親は、高校生の時に留加を産んだものの自分では育てず、今は妻子ある男性の世話になっている少女のように可憐で弱い女(を演じているのかも)。中学生の留加を引き取った後もどう扱えばいいのか分からず、留加の孤独を理解できない。
留加は積極的にずっと苛めに加担しているわけではないけれど、誰か(自分?)を傷つけずにはいられない、一方で友情を求めてもいるのにどう表していいのか分からない。
生徒たちは、いじめられる側がいじめる側になったり、無視したり、残酷にもなる一方で、犯した罪には震え、親の期待に応えたいと思ったり親を守ろうとしたり、傷つきやすく脆い。教師たちは自分の都合を優先し、どこかで言い訳をし続けている。

そう、誰に感情移入したらいいのか分からないくらい、残念な人たちばかりなのだけれど、それはもしかすると、その残念な人物たちの一人一人の中に「もしかして自分も似たようなところがあるのかも」という曖昧な不安を感じさせられるからなのかも。いや、社会科教師はかなりおかしいけれど……それでも、おかしい奴も含めて全ての登場人物の「事情」をここまで書かれちゃうと、感情移入はともかく、妙に納得して、逆に居心地が悪い……


昔のドラマって、今放映したら怒られそうな「そこまで言っちゃうか……」という話が結構あったような気がします。臭いものに蓋をしなければならなくなった昨今の社会情勢、残念な内容・人物を反面教師として自分なりに善いものを選び取り判断する能力(想像力)が失われた現代においては、番組を作る人たちも大変ですよね。

逆に妙にエキセントリックな人物をわざと描くドラマが多くみられますが(しかも何か能力が高くて、ある意味ではスーパーマン。現実にはそんなスーパーマン、いないけれどね)、内容にドロドロ感はあまりなくて、それがまるで「痛快」と感じさせるような作りになっている。現実感がない、というのが今の時代のドラマや映画のキーワードなのかも。
それを考えると、賛否両論あるものの、この作品は現実感がありすぎて怖いドラマです。

でもね、この情けない新米教師が、学校を「寿退職」という名の解雇に追い込まれた時、挨拶する壇上から訴えるラストは、やっぱり泣けちゃいますね。自分を含めたここにいる全ての心無い人間が誠を殺したのだ、みんなは他者を傷つけることで生きている実感を持とうとしているのではないか、そして、みんなかけがえのない命なのだから、自分をもっと愛して、自分を愛するように友達を愛して、と。当たり前のことを言っているのに、空々しく聞こえないのは、それまでの部分があまりにも重いから。教師たちは刺激的な演説?に生徒たちを講堂から帰そうとするけれど、最後まで逆らってその場に残り話を聞こうとした10人余りの生徒たちに、微かに希望が残るのです。


「もう一度見たいあのドラマ」というタイトルにしましたが、「もう一度見るにはしんどいドラマ」という副題をつけておかなければならない気がしてきました。しんどいのは、どこか身につまされるから。こんなこと言われたって、じゃあどうしたらいいのか答えもでなくて、見ていると苦しい。でも、いつまでもどこか片隅に残っていて、ふと思い出しては気になって仕方がない。

そんな行き詰ったものよりも、現実感の薄い痛快さが好まれる昨今、逆にその非現実感が現実の残酷な事件へ繋がっていっているのじゃないかと思うこともあります。そして、スーパーマンではない残念な人物が足掻いているドラマの中に「希望」を探す力が求められているのかもしれない、と思ったりしたのでした。

とは言え、痛快・非現実ドラマ(ストーリー)は頭の休憩にはもってこいなんですよね。あまりにもリアルに残念な人物を見ていると、悲しくなって疲れちゃう、ってのも事実。
本当は『若葉のころ』も見たいけれど、12話分見たら、また悲しくなっちゃうので(これもまた、残念な連中がいっぱい登場)、しばらくは休憩です。
いやしかし! 赤井さんとKinKiのふたりの銭湯入浴シーンは萌えますよ!(夕さん、limeさん、TOM-Fさん……あれ、TOM-Fさんはそっち系はないか…・・って、どっち系?)

こんなふうに、もう一度見たいけれど、その内容の重さゆえに(DVDなど)見る手段はあるけれど見るのが辛いドラマもありますが、見たいのにどうしても見ることができないドラマもあるのですね。


そう、本当に見たいのです。でも、ビデオ化もDVD化もされていないし、その予定もないそうです。実は先日、VHSを整理していたら、そのドラマの一部(録画していた)が出てきて、思わずビデオデッキを繋いじゃいました。あぁ、全部残っていたら良かったのに……

2005年にNHKで夜に放映されていたドラマで、確か25分くらいの番組を平日毎日やっていて、数週間で終わり、というやつじゃなかったかと思うのです。同じころにやっていた『ロッカーのハナコさん』はDVD化されているのですけれど、放映が終わって5年以上経っても番組の掲示板がオープンになっていて、DVD化を望むって声が出ていました。確か、その時のNHKの人のお返事は、NHKの地方局(奈良?)の版権なので、勝手にDVD化できない、というようなニュアンスだったような。

内容は地味だったのですけれど、見ているうちにボディブローのように効いてくる。あ、ドロドロ系ではなく、超爽やか系です。
『ダイヤモンドの恋』というドラマで、浅野温子さん主演。
ダイヤモンドの恋
41歳のジュエリーデザイナー(離婚歴あり)で、仕事も年下の男との恋も娘との生活も順調だったキャリアウーマンが、更年期障害をきっかけに仕事が上手く行かなくなり、恋人の裏切りにも遭い、解雇に追いやられてしまう。それでも更年期障害だなんて認めたくない……故郷の奈良(桜井市)で父親(宍戸錠さん)が経営する旅館に戻り、地元の遺跡発掘の手伝いをすることになって、以前カルチャーセンターの講師に来ていた考古学者(吉田栄作さん)と再会。奈良の美しい景色を舞台に、ゆっくりと恋を育てていく物語なのです。
別れた元亭主、海外に住んでいたのに突然帰国してきた娘、考古学者の婚約者?との恋のバトル、診療所の女医などとのエピソードも語られて、少しずつ前を向いていく姿が描かれています。古の土器やら発掘物のスケッチをしながら、デザイナーとして再生していく過程もあり、そして、東京に一時戻った主人公と奈良にいる考古学者が同じ月を見ながら電話で話すシーンが何とも……王道過ぎて……ほろりとしてしまうのです。

今やアラフォーの恋物語は珍しくなくなったけれど、当時はそんな題材はなかったんですよね。更年期障害の女性の物語、というのは相当の冒険だと思ったけれど、テーマ曲の『しあわせ』を聞くと、爽やかな空を見上げているような気持ちになりました。

最後の部分。しあわせ 永遠はないということ 続かないと気付くこと その分だけ自分を懸けて愛せること……にはっとさせられます。


そう、実は、拙作『ローマのセレンディピティ』の主人公・詩織がジュエリーデザイナーで考古学教室にも出入りしている、というのはここからのパクリです。だって、再放送してくれないし、DVDも出してくれないんだもん。

あぁ、本当に琴線に触れる物語って、見ることが叶わなくても、いつまでも心の中で輝いているのですね。いえ、時には、輝いているわけではないのに、ずしんと腹の底に残るものもある。
拙作では、『清明の雪』は暗闇から這い出した時に見る晴れ渡る空のような輝きを、『海に落ちる雨』は腹の底に重く残る忘れられない暗い真実と最後に残る一筋の光明を、目指していたような気がします(一応ね^^; 目指していただけかもしれませんが……)。

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【scriviamo!参加作品】青の海、桜色の風 

アーモンド2
Scriviamo!はscribo ergo sumの八少女夕さん主催の文字通り「一緒に書こうよ!」企画です。
毎年この季節の恒例行事になっていますが、皆さんの素晴らしい作品の数々に、今年は腰が引けていました。賑わっているマンハッタン系には参加する気合が湧かず(想像力が貧困で……)、とは言え他に何も思いつかなくて悶々……。あれこれ迷っている時に、ふと冬の庭に出てみると、何本かあるアーモンドの小さな木が、蕾をつけてじっと春を待っていました。
早く咲かないかなぁ→そう言えばアーモンドって夕さんの書かれている街(作品中ではPと記される)の近くでも綺麗なんだよな~→咲かせちゃう?→じゃ、書くか。でもPに行きそうなキャラってうちにいるかな? あ、ローマに住んでるのがいた。

というわけで、書き始めたらやっぱり起承転結が欲しくなって、最初の予定の倍の長さになってしまいました。でもscriviamo!参加作品なので、前後編に切るのもまだっるこしいし、一気にアップいたします。
シンデレラストーリーその後。身分違いを乗り越えてやっと想いが通じ合った(多分)恋人たち。でも前途は多難のようです。独立した恋愛掌編としても読んでいただけますが、含みがかなりあり、関連文献を読めば2倍楽しめる?

関連文献
【Infante323黄金の枷】:八少女夕さんの素晴らしい設定の物語。独創的な設定に対する夕さんの細やかな解説には目をみはるばかり。このトップ記事にある用語解説は必読。小説中にもあれこれたくさんの気になる背景が語られていて実に面白いのです。
【ローマのセレンディピティ】:拙作「真シリーズ」の子孫の物語ですが、真シリーズとは独立した恋愛小説としてお楽しみいただけます。身分違いの恋を描く、シンデレラストーリー。続きを書く気がなかったので独立カテゴリにしておりませんでしたが、前・中・後編となっております。

登場人物
相川詩織:身分違いの恋を成就させたはずのシンデレラ。しかし相手は複雑な組織の御曹司で、どうやら簡単には物事が進まないよう。
コンスタンサ:P街に住む少女。黄金の腕輪をした「星のある子どもたち」の一人。
ロレンツォ:詩織の婚約者だが、身辺事情が複雑で恋人と過ごす時間がない。


【青の海 桜色の風】

 詩織は託された箱を手にしっかりと持ったまま、その場に立ち止まって、ぐるりと百八十度あまりを見回した。
 青、青、青。
 実際にその絵が占める面積よりもずっと広く遠く、青が連なって見える。青の単色で描かれているのに、なんと豊かな色彩なんだろう。見つめていると吸い込まれそうだ。 アズレージョという、上薬をかけて焼かれたタイルだ。

 これが駅なんて、信じられない。
 高い窓から射し込む光が波を揺らめかせる。近づいてみると、青の濃淡がより豊かな色彩を纏って動き始めた。なんて穏やかな、その一方で心を震わす青なのだろう。
 色彩とは不思議だ。世界は色に溢れているのに、何色もの色が相殺し合って死んでしまうこともあれば、こうしてただの一色で描かれていても色が踊り出すこともある。
 何だか訳も分からないままに涙が滲んできた。ずっとずっと緊張していた糸が不意に緩んだ瞬間だった。

「アイカワシオリさんですか?」
 詩織は自分の背中から掛けられた声に振り返った。
 光に溶け込むように、一人の女性が立っていた。いや、女性というよりもまだ少女と言っていいのかもしれない。こちらの人はみんな少し日本人よりも年かさに見えるから、その分を差し引いても十三歳くらい、それ以上でも十五歳になったかどうかというところだろうか。
 光に透き通るように見えた髪は、少し光源の位置が変わるとヘーゼルナッツのような色合いで、そのハシバミ色の瞳と上手く釣り合っていた。卵型の綺麗な顔、三日月のような眉、紅くて形のいい唇。……一瞬、天使かと思った。

「あ、はい」
「コンスタンサと言います。あなたを案内するように言われて来ました、ドンナ・アントニアの使いの者です」
 この人に渡すのかしら、と思いながら手にした箱を差し出しかけた時、少女が首を横に振った。
 彼女が光輝いて見えた理由は直ぐに分かった。その細い腕に金の腕輪が光っていたのだ。腕輪の金が天からの光に染められて、それ自体が光源のように光り輝く。腕輪には赤い星が二つ、その金の光を吸い込むように沈みながら、少し悲しげに瞬いていた。

 こんなに輝いているのだから、きっと皆がこの少女に見入っているだろうと思ったのに、誰も気に止める様子もなく、立ち止まることもない。まるでそこにこの愛らしく美しい少女が存在していないかのように。
 私、おとぎの国に来たのかしら。
 少女はそれ以上何も言わずに歩き始めた。その背中が影に吸い込まれていく。
 ローマからずっと誰かが詩織を見張っている。この街Pに着いてからもずっと誰かの視線を感じる。詩織は諦めたように息を吐きだし、腕に抱えた箱をもう一度大事に抱え直して、後を追いかけた。


 あの秋の日から詩織の周囲は大きく変化していた。
 身分違いの叶わぬ恋だと諦めてローマを離れようした途端の、空港での突然のプロポーズ。世話になったヴォルテラ家の人々からはどんな非難を受けるかと思ったのに、まるで娘のように迎え入れてくれたこと。それに何よりも驚いたのは、揺るぎない次代当主として周囲に認められていた長男のロレンツォと、帰還した放蕩息子・次男のサルヴァトーレの次期当主交代劇の顛末だった。

 何しろ、ヴォルテラの家系は、もう何時とも知れない時代から教皇の警護団を勤めており、その外堀を強固に護る性格上、裏社会とのやり取りまで含めて相当の覚悟と犠牲の上に成り立っている組織だった。
 その性質はひとつの家系というよりも、まさに血の契りを交した組織と言ってよく、次代当主が必ずしも「ヴォルテラの血脈である」必要はなかったのだが、一度交された契約が反故にされた例は過去に一度もなく、今回の次期当主交代劇はヴォルテラの組織にとっては自らの存在意義を揺るがすほどの一大事、裏を返せば教皇庁にとってはヴォルテラに対して歴史上初めて、忠誠と信頼を問いただす機会となってしまった。

 次期当主と認められ、教皇の御傍に近付くことを既に許され、いくつも機密事項に通じていたロレンツォがその職務を「放棄」することは、教皇とヴォルテラの現当主・次期当主(新旧含めて)が納得しているからと言って、簡単に済む手続きではなかった。何しろ前例がないのだ。
 ただ一度、現当主の祖父にあたるジョルジョ・ヴォルテラがその職務を放棄しようとしたことがあった。だがその時、ある意味では「凄まじい力」が働いて、結果的に彼はローマに戻ってきたという。

 恐ろしいことに、これまでの不文律の慣習を頑なに護る強硬派が、職務を放棄しようというロレンツォの存在自体を亡きものにしようとしている、という噂さえあった。「組織を抜けようとする」からには、それ相応の犠牲を要求するべきだというのだ。もちろん、ヴォルテラの組織の側も教皇庁の側も、多くの者は、心の内では穏やかに事が進むことを願っており、何とか周知と納得を引き出したいと思っているはずだった。

 とは言え、そんなことは日本からやって来た小娘としか「組織」に認識されていないはずの詩織には、全く届いてこない事情だった。いや、もしかすると、この「小娘」がヴォルテラの次期当主を籠絡した魔性の女だと勘違いされている可能性もあり、詩織の周りでも、はっきりとは目に見えないものの、何かが蠢く気配が見え隠れしていた。

 そういう事情で、ロレンツォの計画通り、すぐにあの共同工房のあるアパートに住むというわけにはいかなかった。
 詩織はしばらくの間これまで通りにヴォルテラ家に住み込み、新しいジュエリー工房に勤め始めた。これまでと違っていたのは、屋敷の中で使用人として働くことはなく、通勤には自転車ではなく、運転手つき車が用意されたことだった。週末の考古学教室への出入りは叶わなかった。生活はいつも誰かに見張られていた。

 ロレンツォはしばらく辛抱してくれとだけ言い、ようやく想いを確かめ合った恋人同士とは思えないほど、同じ屋敷に住みながらも、現実に彼と会える時間はほとんどなかった。
 そんな時間が長くなると、会えない時間が愛を育てるというのは嘘だ、と思うほどに気持ちは後ろ向きになった。この恋が実ったのは夢か勘違いだったのかとさえ思う時もあった。

 シンデレラストーリーには恋が成就した後の部分は「いつまでも幸せに暮らしました」としか書かれていないが、そもそもそんなはずはないじゃないか、と詩織は思った。シンデレラは確かにお城から招待状が貰えるくらいの家系に生まれていたようだが、やはりお妃になるには身分の違いは問題となっただろうし、どれほど優しく美しくても、それまで家政婦のようにみすぼらしい恰好で働いていた娘に十分な教養があったとは限らず、お城での礼儀作法を教える教育係とかからは苛められたに違いなかった。


 それに、詩織には何よりも大問題があった。
 父親だ。メンバーの全員がすでに五十歳にもなろうという歳だが、カリスマバンドとも言われている『Breakthrough』のヴォーカリストで、年に一度は、それぞれ異なる四か国からメンバーを集められたヴォーカルグループの一員としても活動している有名人ではあるが、そんなことは詩織にとって問題ではなかった。

 頑固で感情を隠すことのない直情的な性格の父親は、いくつかの因果の結果、ヴォルテラ家にいい感情を持っていないようだった。そこへ来て、よりにもよって三人の子供たちの中で一番可愛がっていた詩織が、事もあろうにヴォルテラの次代当主と恋に落ちたということに、激怒しないわけがなかった。

 それまで何ひとつ父親に逆らったことのなかった詩織が、初めて反旗を翻してジュエリーデザイナーとしてイタリアで勉強したいと言った時もひと悶着あったのだが、それはまだ激震とまでは行かなかった。いつか日本に帰ってくるものだと信じていたからだ。
 ところが、今回はまるで事情が違っていた。

 本来ならこの恋に自ら決着をつけて日本に戻るはずだった飛行機に、詩織は乗らなかったのだ。正確には、すでに動き始めようとしていた飛行機から無理やり下ろされたのだが、そんなことは父親の知ったことではない。レコーディングの予定をずらしてまで成田に迎えに行こうとしていた父親が、連絡を受けてどれほど怒り狂ったかということは、詩織の想像に難くなかった。

 そのままローマ行の飛行機に乗って娘の奪還に来そうだった父親を、家族もバンドメンバーも必死で止めたのだろう。
 有難いことに彼らのスケジュールはタイトだった。多分、怒りをライブにぶつけている父の声は、その年齢とは思えないくらいいつも以上に刺激的でかっこよく、ファンを魅了したのだろう。
 こっそりネットで調べてみると、日本国内のライブにも拘らず、その評判は海外メディアにも取り上げられるほどに上々で、すでに幾度目かのワールドツアーの話も浮上しているようだった。

 だが、いずれローマにやって来るはずの父とロレンツォの対決は、多分避けて通れないものだ。
 何重にも気が重くて、吐きそうになる。
 父のことはともかく、詩織は自分の気持ちに自信が無くなって来ていた。取り残されているような感覚は日ごとに強くなっていった。本来なら一番身近で守ってくれてもいいはずの恋人の顔は、この数週間全く見ることがなかった。


 コンスタンサはすたすたと石畳の道を進んでいく。随分と起伏に富んだ街であるらしく、通りを吹き抜けていく風にも揺らぎがある。時刻は十五時過ぎ。まだ陽は高いところにある。
「通り道ですから、大聖堂をお見せしなさいと言われています」

 コンスタンサの英語はゆっくりで聞き取りやすく、とても綺麗な音として聞こえる。少女から大人の女性へと変わりゆく中にいる、不思議な緊張感と不安が声の中に光と影を生み出している。詩織よりもずっと幼いのに、もう何かを憂えているように見えた。

 大聖堂の高台に登ると、P街の景色を印象付ける赤茶色の屋根屋根、優雅な貴婦人のようなD川、向こう岸に並ぶワイナリーなどが見渡せた。
 少し冷たい風が気持ちいい。
 大きな開かれた海に近い街は風の色も違うんだなと思いながら、コンスタンサの後について大聖堂の正面に回る。薄く黄味がかかった石造りの大聖堂は、強固な要塞のようにも見えた。

 大聖堂の中も、思った以上に簡素だった。大理石の柱なのだろうから、見かけ以上には豪勢なものなのだろうが、高い天井と飾り気のない柱は、むしろ冷たいほどに静かだ。その中で黄金や細かな彫刻に飾られた祭壇は、厳かに存在を際立たせていた。

 祭壇では丁度婚礼が行われていた。後姿の花嫁のヴェールが、天使の羽根のように空気を孕んでいる。祭壇の飾りよりも、何の装飾もない真っ白なヴェールの方が、誇らしげで光に満ちているように見えた。
 祈りの声が詩織の耳をくすぐる。ふと隣を見ると、コンスタンサもじっと花嫁のヴェールを見つめていた。それも、心を打たれるような寂しげな表情で。

 不意にため息が零れた。別にウエディングドレスに憧れているわけでもないし、プロポーズがあったからと言ってそうそう楽観しているつもりはない。いや、それどころか、そろそろ「勘違い」に気が付きなさいという神の配剤が働いているのかもしれない。試されているのだ。お前は本気で、ヴォルテラの次期当主をその椅子から引き摺り下ろす気なのかと。相手の立場を危うくしても、貫く気があるのかと。

 気が付くと、隣でコンスタンサが祈りを捧げていた。その髪の上で光が踊っている。
 詩織も静かに目を閉じた。
 好きというだけでは済まないものがあることは分かっていた。彼がどれほど望んでも、市井の住人としての生活が簡単に始まるわけではないことも。

「明日、時間がある時にでも回廊と博物館を見学してください。素晴らしいアズレージョもご覧いただけますから」
 コンスタンサの言葉にうなずきながら、中世の町並みの中へ入っていく。上から見ると立ち並ぶ赤茶色の屋根の色に目を奪われて気が付かないが、こうして通りを歩いてみると、はがれかけた壁の塗料や黒ずんだ色合いに、年月の重みと決して華やかではない生活の気配が滲み出る。

 歩いているうちにも、背中からも街のどこかの窓からも視線を感じる。このところ、少し過敏になり過ぎだと詩織は思った。
 そのうち、コンスタンサがある扉の前で立ち止まった。ドアノッカーを叩く。
 すぐに扉が内側から引き開けられた。

 視線だけで促されて中へ入ると、そこは不思議な空間だった。
 小さく殺風景な部屋だ。窓は道に向けてひとつきりで、光は高い建物に遮られてようやく部屋の全体を薄く染める程度だった。目が慣れてくると、壁側に簡素な棚があり、いくつかの靴が並べられているのが見て取れる。
 真ん中に作業台らしきものがあり、扉を開けた背の低い白髪の老人はちらりと詩織の方を見ると、無言のまま視線を詩織の手の中の箱の方へ向けた。

「あ」
 詩織は思わず声を出して、その箱をおずおずと老人に差し出した。
「これを、ローマのヴォルテラ家の奥様から言付かってきました」
 老人は無言で受け取り、詩織を見上げ、それからじっと詩織の足元を見た。数は少ないが靴を置いているからには、靴屋なのかもしれない。

 詩織の靴はヴォルテラ家の使用人として働いていた頃に買ったものだ。履きやすいからと古くなっても履き続けている代物で、踵も低いし、お世辞にもお洒落とは言い難い。靴屋にじっと見つめられると恥ずかしくなってきた。
 ふと、自分の傍に立つコンスタンサの靴を見やると、彼女の靴はお洒落というわけではなかったが、彼女の形のいい足にしっくりと馴染んで心地が良さそうだった。

『あんた、箱の中身を知っているのかね?』
 唐突にポルトガル語で聞かれたので、詩織は一瞬言葉の意味を掴み損ねた。
「いいえ。ただ、ドンナ・アントニアの使いの方に渡すようにと言われただけです」
 老人は目を細めて穏やかな声で言った。
『では、四日後にもう一度箱を取りに来なさい』


 四日後、ということはそれまでの三日間も何をして過ごそうか。もちろん、大聖堂の回廊や教会、博物館を見て回るのは楽しいだろう。川辺を歩いたり、対岸のワイナリーに行ってポートワインを楽しむのもいい。
 でも、こうして見張られている中で動くのは、何となく気が重い。
 コンスタンサにホテルへの道を案内してもらいながらも、知らない街での三日間に正直ため息が漏れた。その溜息をどう受け取ったのか、コンスタンサがようやく笑顔を見せた。

「三日間、何か計画されていますか?」
「いいえ。突然の出発だったので、何も考える時間がなくて」

 つい二日前のことだ。
 ヴォルテラ家の奥方・エルヴィエールから、Pという街に行き、ドンナ・アントニアの使いという人にこの箱を渡して、その後、相手の言う通りの期日を待って再び箱を受け取って来て欲しいと言われたのだ。
 何か秘密の使いを頼まれたような気もして、中身を聞くこともなくやって来た。開けてはいけないとも言われなかったが、何となく開けてはならないような気がして、自分が何のために派遣されたのかは知らない。飛行機も列車もホテルも、全て予約済みで必要なものは向こうに揃えてあるからというので、箱と身の回りのもの以外ほとんど何も持たずにやって来た。

「それなら、私に付き合っていただけますか?」
「でも、学校とか、あるいはお仕事とか……」
「学校は丁度お休みですから」
 そう言えば今は春期休暇の時期だ。

 微笑んでいるコンスタンサの表情には、ほんの少し翳りがある。若い娘には色々と用事があるだろうし、気を遣ってもらうのはあまりにも悪いからと断ろうと思ったものの、その翳りがほんの少し気になった。
 それに、本当にあてがなかったのだ。
「じゃあ、お願いします」

 ホテルはさっき待ち合わせた駅よりも少し北だというので、通り道にある教会を訪ねてみることになった。教会の近くに素敵な本屋さんがあるので行ってみませんか、と誘われて、詩織はもちろん、と返事をした。
 外観はシンプルな建物だったので、中に入った途端にデジャヴを覚えて驚いた。
「普通の本屋さんなの?」
「はい。1881年創業の老舗なんですよ。でも、古本屋じゃありません」
 確かにガイドブックなど、新しい本も並んでいる。骨董屋ではなく、普通の本屋のようだ。

 それにしてもなんと見事な内装だろう。ネオゴシック様式で、天井まで届く壁いっぱいの見事な書棚を見上げていくと、天井には幾何学的な木の装飾が施されている。その装飾と一体化するように中央に階段が設えてあり、うねる様なカーブを描きながら二階へと誘う階段は、どこか未知の世界へと続くようだ。途中で左右に別れ、また合流する階段の木の手すりや赤い床は、二階の天井部分のステンドグラスで微妙に色合いを変えている。
 決して広い空間ではないが、まさに完成された映画のワンシーンを見るようだった。

 デジャヴの理由は直ぐに分かった。
 初めてヴォルテラの図書室に入れてもらった時のことを思いだしていたのだ。本を手渡してくれようとして、初めてロレンツォの指が触れた時のことを。
 いや、もしかすると、こうして数日間とは言えヴォルテラの屋敷から出されたのは、それなりの訳があるのかもしれない。少し頭を冷やして考えてみなさい、ということなのか。この旅の終わりには、答えを出すことを求められているのか。

 少しずつ諦めていくことも、あるいは考えなくてはならないのかもしれない。お伽噺はそう簡単には成就しないということを。
 詩織は首を横に振った。せめて、自分を見失わないようにしよう。私は分不相応な恋をしているのだ。
 本屋や図書館に入ると籠ってしまうのが詩織の悪い癖だ。思わず本の背表紙を追いかけながら、装飾の図版や写真集を探してしまう。コンスタンサにゆっくりしてくださっていいですよ、と言われて、その言葉に甘えることにした。

 二階に上がり、気になる本をチェックしている時、何気なく手摺から階下を見下ろし、そこにいるコンスタンサの顔が目に入った。
 詩織は思わず目を逸らした。見てはいけないものを見てしまった気がした。

 彼女は誰かと目と目で語り合っていた。いや、相手の男性も何か言いたげに彼女をじっと見つめていたので、誰か、というのは不適切な表現だ。
 背が高くブルネットの巻き髪を短く刈った青年は、本屋の従業員のようだった。二人の表情は言葉よりもずっと雄弁だった。少なくとも、恋に惑っている詩織には明らかだった。しかも、その恋は、詩織と同じように、ままならぬ何かを抱えている。

 光を受けたコンスタンサの顔の半分を支配する翳が、そのことを表していた。
 まだ若いのに、そんなに惑うような恋をしているのだろうか。少なくとも、あの年であれば恋愛には翳りなどなく、未来は光に満ちていてもよさそうなのに。


 初日に見損ねた大聖堂の回廊と、回廊にある小部屋、博物館、そして街の中に点在する教会を訪ね歩き、ワイナリーを訪れて試飲をしたり、この街の名物料理を楽しんだりしながら二日間が過ぎて行った。
 D川の景色は心を揺さぶるものだった。昼間の光の元では、そう遠くはない海の青を連れてきて輝き、夕陽が沈む時刻には太陽の橙を孕んで沈むように揺れさざめいた。街の各所に見られるアズレージョのタイルの青もまた、見る時間によって無限の色彩を放っていた。

 コンスタンサは年に似合わず名ガイドだった。その上、彼女の学校での専攻は美術で、ジュエリーデザイン工房で働いている詩織の仕事に随分と興味を示してくれて、自然と会話は弾んだ。
 コンスタンサは美しいだけではなく、聡明で利発な少女だった。始めは緊張していたのか受け答えも硬く聞こえたが、会った翌日には彼女の本来の性質なのか、人好きのする暖かいムードを惜しみなく詩織にも向けてくれた。二人はすっかり打ち解け、まるで歳の離れた親友同士、あるいは姉妹のように感じ合っていた。

 ある時、コンスタンサが詩織の左手の薬指の小さなダイヤを見て、一瞬視線を逸らし、それからまた顔を上げた。
「シオリは結婚しているの?」
「ううん。……約束はしているけれど、まだどうなるのか分からないの」
「どうして? 愛し合っているんですよね」
「うん。でも、思うようにはいかなくて。始めはね、二人が想いあっているのかどうかも分からなくて、やっと気持ちが通じたと思ったけれど、そもそも猫の子どもが間違えて人間の王子様に恋をしたようなものなのよ。今は話をする時間も持てなくて、だんだん本当に信じていいのかどうか分からなくなってきて」

「それって、いわゆる身分違いですか?」
「大きな括りでは、そうかな」
「でも、信じ続けなきゃだめですよ。障害があっても、魂が呼び合っているのなら。だって、お互いの心が一番大事なんですから」
 表情にはあの不安な翳りがあったが、いつになく熱を帯びた強い口調だった。

 あなたにも心から想う人がいるのね。
 詩織は声には出さなかった。あの本屋で交わされていた視線が、必ずしも恵まれた恋人同士のものではないということは、同じように必ずしも報われるとは限らない恋をしている詩織には、直感で理解できたのだ。
 彼女は命がけの恋をするには幼いだろうか。いや、ロミオとジュリエットだって、恋に落ちた時、彼女と変わらない歳だったのだ。

 コンスタンサの表情に同じような翳りを見たのは、その時だけではなかった。詩織が今度ローマに遊びに来ないかと言った時、コンスタンサは一瞬顔色を変え黙り込んだ。
 彼女の細い指が、詩織が初めて見た時に天使の持ち物かと思った黄金の腕輪に触れていた。微かに震えるような指先を見て、詩織はその腕輪のことを何度も聞きかけては呑み込んだ声を、また飲み込んだ。

 その腕輪はどうやって外すの?
 ジュエリーデザイナーの詩織には単純な疑問だった。まるで継ぎ目のない完璧な形は、それ故にこの少女をどこかに繋ぐ解けない鎖にも見えた。

 コンスタンサは小さな声で、街を出たことがないし、きっと両親が許してくれないから、と言った。詩織は何だか申し訳ない気がして、不用意な発言を謝罪した。そして、小さなメモに、いつかロレンツォと住む約束をしている、ローマの下町の修復工房の住所を書いた。
 自分が書いた住所をしばらくじっと見つめ、詩織は小さく頷いた。信じなきゃ。そう言ったコンスタンサの声が耳の中に残っていた。詩織は顔を上げ、コンスタンサの手を取ると、その掌に小さなメモを握らせた。
「じゃあ、これはお守りね。いつかきっとここを訪ねてきて。十年後でも、二十年後でも、きっと待ってるから」

 そう、いつかきっとこの場所に住み、あの賑やかな工房の人々と暮らし、ロレンツォにとっては運命と言える修復の仕事を見守りながら生きて行くのだ。
 コンスタンサの言う通り、信じなければ夢は叶わないはずだから。

 それにしても、相変わらず、どこを歩いていても、バスや路面電車に乗っていても、常に付きまとう視線があって、時には少しナーバスにもなった。
 三日目になって、詩織は、コンスタンサの方もその視線を気にしている気配を感じた。
 そして、ふと違和感を覚えた。
 もしも、この「視線」が詩織に向けられているものなら、コンスタンサが気付いた時点で詩織に何か注意を促すだろうと思った。その時、初めて、もしかしてこの街に入ってから、ローマにいる時よりも強く、複雑に感じるこの気配は、自分だけではなくコンスタンサに向けられているものもあるのではないかと疑った。


 そして明日は約束の箱を受け取りに行こうという前日。
 二人はD川を遥かに遡り、上流に咲くアーモンドの花を見に行く約束をしていた。待ち合わせは駅だったが、そろそろ出かけようかという刻限になって、コンスタンサがホテルのロビーから電話をかけてきた。
「お部屋まで迎えに行きます」
 いつものように明るい声だった。

 しかし、いくら待ってもドアがノックされることはなかった。始めはエレベーターが混んでいるとか、部屋を間違えたとか、あるいは化粧室かどこかに寄っているのかと思ったが、それにしても遅すぎる。
 何か事件にでも巻き込まれたのだろうか。ロビーからここまでの僅かな時間に?
 連絡するにも彼女の電話番号さえ知らない。部屋で待っていた方がいいのかどうかも分からない。詩織は出かける準備を整えて部屋を出ようとドアに向かった。

 その時、ドアの下の隙間からすべり込ませたと思われるメモが目に入った。
 詩織は急いでメモを拾い上げた。二つ折りになった白い便箋を開くと、細く頼りなげな、しかしはっきりとした意志の強い文字が並んでいた。

シオリ、一緒にアーモンドを見に行けなくてごめんなさい。後生ですから、今は絶対に私を探さないで。たった三日間一緒に過ごしただけなのに、シオリは私にとって一番大事な友だちになりました。いつかきっとローマに、シオリに会いに行きます。

 詩織はメモを握りしめた。


 これから何をするべきなのか分からなくなって、詩織はベッドに潜り込んだ。
 ヴォルテラの予約した部屋は、詩織一人にはどう考えても勿体ない、落ち着かないくらいに広い部屋だった。王侯貴族も泊まるというホテルに宿泊するのは、どう見ても庶民丸出しの、ろくな靴も履いていない自分には不釣り合いだと思ったが、こんなところでヴォルテラの意向に反するのは無駄な労力だった。

 いつかきっと、と誓ったけれど、空を見上げて高みを望むことは容易いが、現実の地面を一歩進むのは難しい。
 訳も分からないうちに泣けてきた。コンスタンサの境遇についてもっと聞いてやるべきだったのではないかと思った。

 でも、彼女は絶対に言わなかっただろう。その強い意志は彼女の表情からも小さな手の動きからも読み取れた。だから、詩織も聞かなかったのだ。聞かないことが彼女にとっても最善であると思ったからこそ。でも、いなくなってしまうくらいなら、聞いて励ますことくらいはできたかもしれないのに。
 いや、自分だって、もしかしてヴォルテラの事情を詳しく知っていたとしたら、誰かにべらべらと喋ることはできない。それと同じことだ。

 彼女は何かを選び取ったのだ。あの本屋に行って、コンスタンサと視線を合わせていた青年に聞けば分かるだろうか。いや、あの青年はもしかして、もうそこにいないかもしれない。だめだ。私が何かをすれば、もしかしたらコンスタンサに迷惑が掛かるかも知れない。例えば彼女を探すような素振りを見せてはいけない。

 ぐるぐると思考が巡っている時、ドアベルが鳴った。無視してベッドに潜っていたが、もしかしてコンスタンサが、と思ったら、裸足でドアまで走っていた。
 しかし、ドアアイの円の中には、知らない男性が立っていた。
「ドンナ・アントニアの使いのものです」
 コンスタンサを探しに来たのだ。詩織は一気に緊張した。

 だが、相手に気取られてはいけない。詩織は息を吸い込んで吐き出してから、ドアを開けた。
 三十代くらいのそれほど大柄ではない穏やかな表情の男が立っていた。いでたちはいかにもホテルのボーイか運転手といったところだ。
「何か御用でしょうか」
 聞かれてもしらばっくれてやる。私にだってそのくらいの芝居はできる。
「あなたをアルト・ドウロ地方の、今一番アーモンドの花が美しい村までお連れするようにと、ドンナ・アントニアから言付かって参りました」
 

 疑問はサンタクロースの袋に納まらないくらいにある。もしかしたら誘拐かも知れない。そもそもドンナ・アントニアが誰かも知らないし、あるいはそんな人はこの世に存在していなくて、何かの記号か割符なのかもしれない。
 ただ、幾らかやけになっていた。もしかしてこれが誘拐でも、どこからかずっと詩織を見張っているヴォルテラの誰かが助けてくれるんだろう。

 鬱陶しいくらいに見張っていたんだから、こんな時くらい役に立ってよね。
 いや、でも、もしかしたらヴォルテラにとって詩織は邪魔な小娘かも知れないのだ。それならそれで、相手の本性を見抜いてやる。

 詩織はぶつぶつとあれこれ口の中で呟きながら、窓の外を景色が変わっていくのを見つめていた。上着のポケットの中に忍ばせた、小さく折り畳んだコンスタンサの手紙を掌で握りしめる。
 私たちは同士なのだ。そんな思いが不思議と湧き上がってきた。

 市街を一歩出ると、そこはもう長閑な田舎の景色だった。
 何だか懐かしい、と思った。どこまでも続く緑の丘の重なりはタペストリーのようで、トスカナの田舎を思い出させた。そして不思議だ、と思った。いつの間にかあの国が私の懐かしい場所になっているなんて。
 詩織は目を閉じた。

 私の懐かしい景色は日本ではなくなっているんだろうか。それはそれで妙に寂しく感じられた。両親や姉、弟は何時だって懐かしい。頑固で煩い父親だけど、その愛情もよく知っている。賑やかな東京の街だって、生まれ育った景色は何時でも帰りたい場所なのに。
 今私は、何だかとてもふわふわしていて、頼りがない。
 その時、不意に車が止まった。
 詩織は目を開けた。

 一瞬、桜並木だと思った。
 低い石垣の傍に車は止まっていた。その先には、青い空を背景に、緑の草地に遥か先まで並ぶ桜色の木々。車を降りると、風が耳元を掠めて行った。
 ちらりと運転手を見ると、どうぞ、とでもいうように石垣の先に入ってもよさそうな素振りをしたので、緑の草地に踏み込んだ。

 そうだ。桜のはずがない。近付いてみると、桜よりもずっと力強く空を目指して伸びているような枝振りに、少し大振りの、幾らか濃い色合いの花が咲いていた。その色合いには、儚さも迷いもなかった。枝の張りにも、何かの大きな力が宿っているように見えた。
 懐かしいと思うノスタルジアよりも、先へと手を伸ばす希望が漲っている。

 そう。私は自分で選んだんだ。帰ろうと思えばいつだって帰れたんだから。
 唐変木で女の気持ちなんて絶対に分かっているとは思えないし、か弱い私の腕で掻き分けられる障害かどうかは確かめもしなかったけれど、それでも一緒に生きて行こうと決めたんだから。

 詩織は息を吸い込んだ。一度叫んだら、すっとするに違いない。
 私は世界に名を知られるヴォーカリストの娘なんだから、あの丘の向こうにまで届くほどの声が出せるはず。
「ロレンツォのばか~! へのへのもへじ~!」
 あぁ、すっきりした。

 へのへのもへじとはどういう意味だ。
 風が木霊を連れて戻ってきた。
 木霊? 空耳にしては随分とはっきりした声だ。しかも、木霊のくせに、質問が返って来てる?
 ぱちん、と枝を踏み割る音がして、詩織は驚いて振り返った。

「こんなところで何をしている?」
「……そ、そっちこそ」
 久しぶりに会う恋人同士にしてはそっけない言葉を交わしてから、何となく並んで歩きだした。それにしても、一体どうしてこんなところに忽然と現れたのだろう?

 詩織は、いつもと変わらず無表情な恋人の横顔をちらりと見た。黒に近い鳶色の髪と青灰色の瞳。それでも、この瞳に時々驚くほどに優しい色が降りてくることを、詩織は知っていた。
 でも、キスまではいいから、せめて手を繋ぐとか、肩を抱き寄せるとか、無いわけ?

「どうせまたトトの奴の策略だな。あいつは兄をからかうことしか頭にないらしい」
「サルヴァトーレが何かしたの?」
「よく分からんが、本当なら自分が行きたいのだがどうしても行けない、他に信頼できる人間がいないから、P街のボアヴィスタ通りのどこぞの屋敷に重大な手紙を届けろとか、本屋の青年をどこぞに連れて行けだとか、他にもあれこれ頼まれてきた。挙句に今朝はホテルに電話がかかってきて、この村に迷子がいるから拾いに行けと」

 振り返ってみたら、さっきの運転手の車は忽然と消えていた。
 もしかして。詩織はロレンツォの言葉にドキドキした。本屋の青年とコンスタンサのために、あの策士のサルヴァトーレが動いていたのなら。ことの顛末は何も分からないし、実際にコンスタンサとあの本屋の青年が何に困っていたのかを詩織は何も知らないのだ。
 コンスタンサの手紙にあったように、今詩織が彼女にしてやれること何もない。
 それでも、彼女の翳りの中に宿っていた強い光のようなものを、詩織は心から信じた。

「どうやって来たの?」
「列車とヒッチハイクだ」
「どうやって帰るの?」
「何とかなるだろう」
 そう言ってからロレンツォはポケットから何かを出してきた。鼈甲飴?
「Rebucados da Regua。砂糖と蜂蜜、レモンから作られた飴だ」
 ポケットからアメチャン……って、大阪のおばちゃんじゃないんだから、と呟きながら鼈甲色の飴を受け取る。そして、このむっつりとした男がどんな顔で飴を買ったのだろうと思うと、何だか少しだけ可笑しくなった。
 そう言えば朝から何も食べていなかった。
 糖分が頭に届くと、少しだけ元気が出てきた。

「今、色々と大変なんでしょ」
「そうでもない。ある程度は予想していたことだ。組織というものは思ったよりも頭が固いことが分かったが」
「怖い噂もあったから……」
「私が殺されるとか?」
 詩織は驚いてロレンツォを見上げた。そんなにあっさりと言わないで、と思った。だが、ロレンツォはふっと優しい顔をして笑った。笑い、とまでは分かりにくかったけれど。

「だが、一方で組織というものは噂よりもずっと寛容でもある。お前が心配するようなことは何もない。まだしばらくはトトを補佐してやることは必要だが」
 本当に、私は何もできないなと思った。
「工房にも行けていないんでしょ」
「数か月もすれば仕事を始められる。修復を待つ絵は、百年単位の時間を待ってくれていたんだ。百年前の修復師が百年後の私たちに託した時間だ。そして私たちはまたさらに百年後の修復師にその時間を託す。数か月など物の数でもない」
 詩織はただ頷いた。
「私を待つのに疲れたのか?」
 詩織がロレンツォを見上げ、首を横に振った。

 このアーモンドの花たちだって、咲いている時間は本当に短いけれど、ちゃんと実を結んで、そして散ってもまた花の時期をずっと待っているのだ。
 それにしても、ヴォルテラの次期当主だった男が、列車とヒッチハイクだなんて。いや、この人はこれから先、何があろうとも、ただのローマ市民として生きていくことを選択したのだ。お兄ちゃん大好きのサルヴァトーレが聞いたら、予定外だと言って拗ねるかも知れないが。

「ところで、さっきは一体何を叫んでいたんだ?」
「えっと、つまり、日本では伝統的に青い海に向かって叫ぶの。海のばかやろ~って」
「そんなことをして何になる?」
「うん、と……青春?」
 ロレンツォには全く意味が通じなかったらしい。

 村の方へ歩きながら、途中で牧場から戻るトラックに拾ってもらい、駅まで連れて行ってもらった。ぎりぎりP街への最終列車に間に合い、革のかたいシートに並んで座ると、ようやくほっとした。相変わらず誰かの視線は感じるけれど、もういいかと思えた。しばらくこの状況は変わらないのだろうから、慣れるしかない。
 何だか今日は疲れた。これくらいはいいよねと、眠ったふりをして、ロレンツォの腕に寄りかかった。

 膝の上に置いた手に、そっと大きな手が重ねられた。
 ずっと傍にいてくれ。
 それは、ただ桜色の風の音かもしれなかった。それでも、重ねた手のぬくもりだけは、今、確かにここに在った。


 翌日、ロレンツォと一緒に、例の箱を受け取りに行った。
 背の低い老人はじろりとロレンツォを見上げ、それからゆっくりとした英語で詩織に聞いた。何だ、話せるんじゃない。
「あんた、本当に箱の中身を聞いていないのかい?」
「え……と、はい」

 ふん、と鼻で息を鳴らし、詩織に箱を手渡すと、老人は顎だけで開けてみなさいと促した。箱は持ってきた時よりも少し軽くなっている気がした。
 詩織はロレンツォを見上げ、誰かに怒られやしないかとドキドキしながら箱を開けた。これは詩織などには開けることが許されない、秘密の箱だと思っていたのだから。

「……」
 声が出なかった。

 箱の中に入っていたのは、花嫁が履く真っ白の靴だった。
 パールが混じったようにほんの少しの光でも吸い込んで純白に輝く靴は、ごくシンプルで飾りのひとつもなかったが、上質の革で作られていることは直ぐに分かった。しかも、詩織がこれまで履いたことのある一番ヒールの高い靴の、倍の高さがあった。一体これは……

「履いてみるといい」
「……私の靴?」
「あんた以外の誰の靴だというのだ」
 狐につままれたような心地で、言われるままに靴にそっと足を入れてみた。

 未知の高さのヒールだったにもかかわらず、靴はまるで吸い付くように詩織の足に馴染んだ。試しに数歩、歩いてみたが、ふかふかの絨毯の上を素足で歩いているようで、ヒールの高さを全く感じなかった。
 そう言えば。少し前に、ロレンツォの母親が、自分の服と靴を作るついでだからと、詩織の分も採寸し粘土で足の型を取らせていた。じゃあ、あの箱に入っていたのは……

「ふん、歩き方は式の日までに練習した方がよさそうだがな」
 それから老人は作業台の上に置いてあったもう一つの靴を取り上げた。それは日常に履くためのブラウンの革靴で、やはり飾りも何もなかったし、作り手が分かるようなロゴマークのひとつもなかった。
「この靴はこれから花嫁になる女性へのプレゼントだ。あんたの靴はひどすぎる。女性なら、せめて後一センチは高い靴を履くべきだ」

「おじいさんが作ってくださったんですか?」
「いや、わしではない。わしはただの仲介人だ」
 老人は余計なことは何も話さなかった。


 ウェディングシューズの箱にはカードが添えられていた。
 それを読んで、詩織は泣き出してしまった。

 花嫁のために姑が最高の靴を贈るのは、ヴォルテラの風習だった。靴を贈ることで、「あなたをこの家に迎え入れます、あなたの足でこの地を踏みなさい」という気持ちを表すのだという。

 ふと、唯一の小さな明かり取りとなっている窓を見やる。薄暗い闇や翳りの中にも必ず光が届くのだ。その小さな明かりを見失わないように、しっかりと地面を踏みしめながら歩いていこう。
 そして、その頼りない光は、この素敵な街で出会ったあの少女にも必ず幸せが舞い降りて、いつかきっと再会できるような予感を運んできた。


あなたを待たせて不安にさせていることを許してくださいね。でも、遠からずあなたを迎える準備が整うことでしょう。あなたが私の娘になってくれることは、この上ない喜びです。私たちは、幾世代もの時を経て、魂と血が呼び合ったことを知っているからです。この先の未来を、誇りと愛を持って共に歩いてゆきましょう。私の新しい娘へ、この靴とたくさんのキスを贈りますXXXXXXXXXXXXXXX
追伸。結婚式と新婚旅行が前後することを私は嫌いません。しばらくその唐変木を預かってくださると嬉しいわ。妻としてのあなたの最初の仕事は、彼の辞書に休暇という単語を書き加えることになりそうです。

(「青の海 桜色の風」了)


夕さんちの登場人物を使わせていただくことで、何か設定にひびが入っていはいけないと思い、名前と靴だけ登場していただきました。えぇ、靴はもちろん、あの方が作って下さったのですよね。
組織的には何となく根底が似ており、ヴォルテラとは何らかの接点があるのかもしれない、なんて勝手にあれこれ想像を巡らし、誰が作ったとも知られていはいけない靴をこっそり掠め取らせていただきました。
「星のある子どもたち」の中には、絶対に○○○○した子もいるだろうなぁ、真実を知らされた時にはもう恋に堕ちていて、他の誰かと出会っても心動かされない子だっていただろうし、監視人さんたちに見張られながらも必死で恋心を守り通した子も。で、監視人たちは、それに対してどうしたのかしら。ペナルティはなんだろう? その辺はもう夕さんの頭の中にしかないと思うので、さらりと流しました。
で、トトは一体何をしたのか? あるいは兄貴はトトに使われているふりをしてなにをやらかしたのか? そんなことしていいのか? その辺はもう、見て見ぬふりで。
「意外に組織は寛容」とロレンツォも言っておりますし……何卒お手柔らかに^^;

作品中に登場した本屋はレオ・イ・イルマオン
詩織の泊まっているホテルは夕さんが記事にも書かれていたその名もInfante Sagres
いえ、もちろん私、P街のモデルのあの街に行ったこともないのですけれど。
あ、リスボンには一度行ったことがあります。
アーモンド3
どう見ても桜に見えるけれど、アーモンド。

あ、それから……
「こんなところで何をしている?」「そっちこそ」
という会話は、初代ジョルジョ(竹流)と初代真が、冬の襟裳岬で交わした会話でもあります。
その会話が聞けるのは、『雪原の星月夜』……『雨』の次作です。先はまだまだ長い道のりだね。

Category: 掌編~詩織・ロレンツォ~

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