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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(6)白い猫を抱いた少年 

limeさん
【人喰い屋敷の少年】第6話です。今回は真が『人喰い屋敷』で見かけた白い猫を抱いた少年が正体を現します? でもまだ「オトナには言えない」ことがあれこれあるようで……。少しだけ、事情を覗きに参りましょう。
内容は予定通りに進んでいるのですが、その分を実際に書いて確認するたびに長くなるのは何故でしょう……ゆっくりお付き合いください。

ちなみに第1~5話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女(3)人を喰らう屋敷(4)女の事情と猫を抱いた少年(5)役者は揃った

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会う、猫を抱いた少年。
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。
三上>真の勤め先『唐沢調査事務所』の先輩。真のいいアニキ。
田代>7年前、綾の夫・松岡圭吾の失踪事件を調査した班の元刑事。若くして警察に嫌気がさし、今は喫茶店をやっている。
真田>綾の夫・松岡の元同僚の刑事。松岡は、綾と真田の関係を疑っていた。



【人喰い屋敷の少年】(6)白い猫を抱いた少年


「さぁさぁ、あなたたち、喧嘩は辞めて、勉強の時間ですよ!」
 まるで拡声器を使ったような声は、部屋の壁を反響装置にして響き渡った。
 それまで部屋の中を体育館のようにして走り回っていた子どもたちは、その号令にぴたりと動きを止めて、ばらばらと隣の部屋に移動していく。

 年齢は幼稚園から高校生といったところか、二十人ばかりの子どもたちの動きに均一性はないが、この場所で定められた最低限の秩序を守っているように見えた。上級性は小さい子どもと手を繋いでやったり、中にはむずかる子どもを叱りながら引っ張っていくのもいる。さっきまで大喧嘩をしていたように見えた子どもたちも、肩を並べて、隣の教室のような部屋の大きな机のまわりに納まった。

「いつものことながら、お見事」
 三上が、背の低い小太りの女性に心からの賛辞を贈った。
「全くね、この仕事をしていると、声にだけは磨きがかかるわね」

 真はガラス窓越しに見える、隣の部屋の様子に気を取られていた。部屋と部屋は低いチェストとガラス窓で仕切られている。子どもたちは一斉に教科書やノートを広げ、まだそういう年齢に達しない子どもたちも上級生を見習って、小さなテーブルに大人しく座って、一心不乱に何かを書き始めた。
 これだけの子どもたちの共同生活なのだ。ある種のルールが必要となり、その第一が時間を守ることだというので、勉強時間、遊びの時間、食事など生活に必要な時間、家事や仕事の時間などが明確に分けられているのだという。

「さて、ルカのことね」
 三上に腕を取られるまで、真の視線は一点に釘付けになっていた。
 かなえ養護施設の施設長、そして子どもたちの母親代わりである新庄佳苗は、小柄な体に漲らせた活力と明るさを惜しみなく周囲に振り撒く、そういう顔をしていた。佳苗は真の視線の先を確かめ、納得したように頷いてから、三上と真を彼女の部屋に誘った。


 施設長の部屋と言っても、そこは事務所だった。お世辞にも片付いているとは言い難く、何某かの書類やら子どもたちの作品やら、篤志家からの段ボール箱から出された衣服やおもちゃ、本などが散らかっていた。それらを適当に机や床に移動させて、佳苗は真と三上のためにソファに居場所を作ってくれた。

 かなえ養護施設は多摩ニュータウンの外れにあった。開け放した窓からは、多摩川の向こうから吹いてくる風が抜けて行く。真はふと窓の外を見た。こちらは裏庭になるのだろうか、二十人余りの子どもたちと住み込みの従業員たちの洗濯物が風に大きく揺れている。

 ひとまず三上が作成した報告書に目を通した佳苗は、うん、と頷いた。それは真が唐沢調査事務所で三上が作成しているのを見たもので、ごく簡潔な報告書の一番上に少年の写真がクリップで留めてあったのだ。
 写真の少年は横顔だった。佳苗が真の視線を確かめ、大きく息を吸い込むようにして笑った。
「ルカは写真を撮られるのが嫌いでね、カメラが向いていると思ったらすぐそうやってそっぽを向くのよ」

 それからふうと大きな溜息をついて、一人掛けのソファに凭れた。年季が入って擦り切れたソファはどこから貰ってきたものなのか、古い映画にでも出てきそうな革張りだった。
「そう、まさかとは思っていたけれど、門倉さんのお宅に行っていたのね」
 それから一度三上の顔を見てから、真の方へ視線を向けた。事情を話してあるのかという確認に見えた。

「ルカは一度あのお宅に引き取られたことがあるの。でも、その時あの子はまだ小学生にもなっていなかったし、多摩から世田谷まで行けたとしても、正確に駅からの道も覚えているかどうか」
 三上がちらっと真を見てから、佳苗の方へ身を乗り出した。
「佳苗姉ちゃん、守秘義務ってのはあるんだろうけれど、もうあの家には誰も住んでいる気配はないし、ルカのためにも話してくれてもいいんじゃないかな。それに、こいつはあらゆる意味で信用できる奴だ。俺が保証するよ」

 三上はそう言って、子どもにするように真の頭に手を置いて、くりくりと撫でた。どういう場面になっても、唐沢と三上にかかると、真はいつまでも小僧の立場だが、それもこの頃ではすっかり慣れてしまった。それでも、唐沢も三上も、方向性は違っていても、真のことをそれなりに認めてくれている(誤解も混じっているが)。そのことが有難かった。
「それに、こいつはルカと話ができると思うけどね」

 その言葉に佳苗が改めて真の顔を見つめた。それは真が怯むほどの真剣な眼差しだった。
 やがて佳苗はまた何度か頷いた。
「私は何時だって三上くんのことは信じてるわよ」
 新庄佳苗は三上が養護施設にいた頃から姉貴分だったのだろう。三上の色々な経歴を分かった上でも、佳苗が三上を(そしてもしかすると唐沢のことも)信頼している気配が伝わってきて、そのことが真を安心させた。

 世間体はあまり良くない仕事をしている自覚はあったが、少数であれ誰か信じてくれる人がいるのだ。
 佳苗は改めて真の顔を見て、そのあとふっと柔らかな表情になると、しっかりと真の方を向いた。子どもと常に向かい合っているこの女性は、子どもと話す時いつもこうしてきちんと真正面から目を見つめるのだろう。あなたに話しかけているのだ、と。

「ルカは1歳になる前にこの施設に来たの。彼の両親は交通事故で亡くなって、どちら側にも彼を引き取ってくれる親戚はいなかった。内気で、なかなか皆と打ち解けなくて、一人で遊んでいることが多かったけれど、優しい子。でも時々妙なことを言うので、皆からは浮いている感じだった」
「妙なこと?」
「庭に友達がいるからおやつをとっとくんだとか、夜中に起きた時亡くなったお母さんに会ったとか」

「お、そりゃ、お前の同類だな」
 三上が茶々を入れる。佳苗は三上を嗜めるような表情を見せたが、真はその内側に言葉以上のものを感じて、この女性を信じる気になった。少なくとも唐沢と三上が、かなえ養護施設からの依頼や相談は一切断らないだけの何かがあるのだ。

「七年前、門倉さんのご夫婦が、子ども引き取りたいと言ってこられたの。何度も面会をして、おうちにも伺って、あちらにあの子を短期間泊まりに行かせたりしながら、様子を見ていた。門倉さんのご夫婦はうち以外にも幾つも養護施設を回っておられて、真剣に考えておられるようだったし、その中でどうやらルカのことが随分と気に入ったようだった。あの子も嫌がる様子がなかったし、門倉さんが迎えに来られたら自分から出て行ったりしていたから、すっかりお互い気に入ったのだろうと、養子縁組の話を進めたの。それから半年くらいだったかしら。あの子は戻ってきた」

「戻ってきた?」
 三上はその言葉に引っかかったようだった。
「そう。文字通り、突然戻ってきたの。ある朝、施設の扉の前に立ってたのよ。慌てて門倉さんのお宅に連絡を入れたけれど、誰も出ない。それで確認したら、ご夫婦とも亡くなったのだと」

「親戚とかから連絡はなかったのですか?」
「えぇ。どういう事情だったのか確認しても、親戚は弁護士がいたはずだから大丈夫だと思っていたって。親戚と言っても、それほど近い親戚ではないらしくて、細かいことは何も分からないというの。あの子は何も話さないし……もっとも、あの子はその時まだたった6歳だったのだから」

「その弁護士とは話をされたのですか?」
 三上は主導権をすっかり真に預けてくれたらしい。隣で黙って話の成り行きを聞いている。
「養子縁組の時に間に立ってくださった弁護士の先生がいたので、その人のことかと連絡してみたけれど、事務所を閉めておられて、その後の連絡先も分からなかった。他人の家の事情をどこまで調べていいものか迷って、唐沢くんに相談したら、ルカの様子はどうなんだって聞くから、特に変わった感じはないと答えたら、ルカに実害がないのなら他人様の家の事情だから放っておいたらいいと言われたんだけれど」
 唐沢の言いそうなことだ。誰かのためになるわけでもない、一文の得にもならない話は受けたくなかったのだろう。

「実際にルカくんの様子はどうだったのですか?」
「そうね……ひどく傷ついている様子でもなかったし、あの子がいつも一人で遊んでいるのは前と同じだし、よくぼーっとしているけれど、それもずっと変わらなかったし、学校ではちゃんと勉強もしているようだし、成績もそんなに悪くないわ。良くもないけれど」
「さっき妙なことを言うと仰っておられましたが、それも変わりませんか?」

 佳苗は驚いたような顔をして真を見た。
「あら、いいえ」
 それから三上の顔を一度見てから、真に視線を戻した。
「言われるまで気が付かなかった。確かに、門倉さんのお宅から戻ってからは、あの子は妙なことを言わなくなったわね。いえ、そもそもそれまで彼が言っていたことは、子どもにはよくある、現実と幻想の世界の行き来なのかと……」
 佳苗は真の顔の変化には敏感に反応した。

「誤解しないでね。子どもが大人には見えないものを見るとか、そういうことを否定しているのではないのよ。子どもにとっては確かにそこにあるのだし、その世界が大人には見えないだけで勘違いでも何でもなくて、本当にあるのだとしても私は驚かないわ。そして、成長すると多くの人間がその世界との縁を切っていくことも」

 真はしばらく考えを巡らせていた。それからゆっくりと言葉を区切るようにして確認した。
「門倉さんの家に娘さんはおられませんでしたか?」
 不動産屋は「お嬢さんもいたんじゃなかったか」と言っていた。
「会ったことはなかったけれど、子どもが家を出て寂しくなったので養護施設の子どもの里親になろうと思ったと言っておられたから、ご結婚でもなさったのかと」

「養子縁組の際に、相手方の戸籍などは確認されますか?」
「そこまでの権限はないのよ。ただ、相手方がどのような人間かは調べることはある」
 そう言って、ちらっと佳苗が三上を見た。つまりそこで調査事務所が関係するというわけだ。唐沢と三上が、ほとんど金にならない養護施設からの依頼を断らないのは、自分たちの出自と佳苗との人間関係によるものだろう。

「でも、門倉さんの場合は、間に弁護士さんが立っておられたから、唐沢くんに頼むまでもないだろうと」
「もし写真か何かで弁護士の先生の顔を見たら、その人かどうか判別できますか?」
「これでもかなり記憶力はいいのよ。一度ならず会った人の顔はまず忘れないんだけれど、七年前のことだから、いささか自信はないけれど」
「その遠い親戚と弁護士以外に、門倉家の関係者にお会いになられたことは?」
「いいえ」

「三上さんに依頼された内容を確認してもよろしいですか?」
「えぇ。この半年ほど、時々あの子が施設を抜け出しているの。始めは慌てたのだけれど、いつもきちんと帰って来ていて、でも、どこに行ったのかは言おうとしない。何度か途中までつけていくことはできたけれど、いつも見失ってしまって。だから唐沢くんにお願いしたの」

 真は今度は三上に向き直った。
「彼が誰かに会っていたようなことは?」
 三上は首を横に振った。
「道の途中では誰にも会っていないが、さすがに門倉家の敷地内までは踏み込んでないからな」
「ひとりでバスや電車には乗れますか? つまり、個人的に管理しているお金があるのかということですが」
「学校までの定期はあるわ。小銭くらいのお金は持っているから、切符くらいは買えると思う」

 真は頭の中で一通り確認してから、改めて佳苗に聞いた。
「ルカくんと話せますか?」
 佳苗は頷いた。
「彼が望むなら」
 自分でルカに話しかけてみると告げて、真は一人で席を立った。佳苗と三上を施設長室に残して部屋を出ていきかけた時、ふと気になって確認した。

「猫を見ませんでしたか?」
「猫?」
「ルカくんが白い猫を連れていたことは?」
「いいえ、ないわよ」


 施設長室を出て、木の廊下を音を立てながら歩いていく廊下の途中で、少年は教室側とは反対の廊下の窓枠に凭れて立っていた。開け放した窓からは、蝉の声が順番を争うように重なり合って滑り込んでくる。夏の日は長く、高い気温は陽の傾きをものともせずに体温を上昇させるのに、彼の周りだけは涼やかに見えた。

 風が華奢な身体を包み込んでいる。髪が一瞬ふわりと舞いあがり、透明で柔らかな頬に光の影を作った。
 施設長の話からすると、彼はせいぜい十二歳ということになるが、顔つきはもう少し大人びていた。だが、少し成長が遅いのか、身体は未熟なまま、時間の中のどこかで止まってしまっているように見えた。

「やぁ、また会えたね。ルカ、それにシャーロック。多分すぐにまた会えるような気がしていたんだ」
 ルカはじっと真を見つめていた。そして薄く紅を引いたようにも見える唇を開いた。
「やっぱり、シャーロックが見えるんだね?」
 それは真が思っていた以上にはっきりとした声だった。少なくとも彼は幻でも幽霊でもない。……当たり前のことだけれど。真は頷いた。

 ルカは肩にあの時の猫を抱えるように抱いていた。猫はじっと真を値踏みするように見つめている。真っ白で少し長めの毛、そして水色に近いブルーの瞳。
 ルカの手がそっと猫の毛を撫でたように見えた。
「誰にも見えないのかと思ってた」
「でも、猫を見たという人もいたよ」
「見えるふりをしたり、嘘を付いたりしているんだ。その方が面白いから。本当に見えているんじゃない」
「そうかもしれない」

 真は頷き、ルカから数メートルの距離をおいて立ち止まった。
「君と話すことができるだろうか」
 ルカはじっと真を見つめていたが、その時間は覚悟していたよりも短かった。少年は逃げるようでもなく、徐に真に背を向けて歩き出した。それは真を拒否をしているのではなく、待っているような緩やかな歩みだった。
 真は意識して肩の力を抜き、少年の速度に合わせてゆっくりと後を追いかけた。


「君の隠れ家?」
 尋ねると、ルカは木の上を見上げた。
 裏庭の洗濯物は丁度取り入れられるところだった。女性職員が二人掛かりでシーツやタオル、大量の衣服を大きなかごに納めていっている。ルカはまだ物干し竿の上ではためいているシーツをするりと躱すように歩いていった。真は職員に会釈をして脇を通り抜けた。

 その先に、ニュータウンを見渡すことができる場所があり、それほど高くはない木が幾つか並んでいた。
「でも、一緒には登れない」
 確かに、枝振りは木登りには最適だが、二人の人間を収容するには手狭すぎるようだ。二人は一緒に草地に座った。白い猫は彼らの間に納まった。

「君がつけたの?」
 ルカは一瞬何を聞かれたのか分からないような顔をしたが、真の視線の先が白い猫の上にあるのを見て、そっとその背中を撫でた。
「違う。あの子がそう呼んでたんだ」
「君の友だち?」
 ルカは返事をしなかった。

 それは門外漢にどう話せばいいのか迷っているように見えたし、真を信用していいのかどうか値踏みしているようでもあった。あるいは、そもそも人と話すことが得意というわけではないのかもしれない。少年のころの真と同じように。
 彼にとっての核心の部分には、まだ他人を入れたくないということなのだ。

「シャーロックというのはいい名前だね。きっと君の友だちのご家族の誰かがホームズのファンだったんだろうな」
 真はそう言ってから、自分の方も口を噤んだ。
 相手が話さないままでいると、時々饒舌になっている。自分でも意外で、ふと気が付いた瞬間に気恥ずかしくもなる。もっとも、この仕事を始めるまでは、特別な人間以外とはほとんど話すことがなかったのだから、仕方がない。

「ひとつだけ聞いてもいいかい?」
 ルカはやはり答えない。でも、拒否をしているわけではなさそうだ。
「君が門倉さんのお宅に行ったのは、誰かに会うためだったのかな?」
 返事はない。
「でも、よく道を覚えていたね?」
 ルカは突然顔を上げ、何かを言いたげに真の顔を見た。

 よく見ると、真と同じように少し髪の色が淡く、目の色は黒というよりも鳶色のような色合いだった。綺麗な子だな、と改めて思った。
 取調べみたいでいやな聞き方をしていると思ったので、逆に真の方が目を逸らした。
 それからしばらく、何も話さないまま黙ってニュータウンの街並みを見ていた。ルカが時々シャーロックの背を撫でる。真はそのルカの白い手を見つめる。時々目が合うけれど、ルカは話し始めようとはしなかった。

 やがて、捜しに来た三上にそろそろ行こうと呼びかけられて真が立ち上がった時、ルカが真を見上げた。
「また来る?」
 縋るような目だった。真は頷いた。
「明日?」
 その切羽詰った日を確認した理由は何だったのだろう? だが、真は敢えて聞かなかった。問い詰めてもルカは返事をしないと思った。だから、代わりにはっきりと頷いた。
「明日」
 ルカも小さく頷いた。

(7)飽和状態~重い夕闇~に続く。



次回はルカが語り始めます。そして、『人喰い屋敷』に潜んでいる亡霊が活動を始める?

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Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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