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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

2015年5月のつぶやきコーナー 

<Twitter代わりのつぶやきとお知らせのコーナー>
古いつぶやきは、続きを読むにあります。
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Category: つぶやき

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【20000Hit御礼掌編】君に届け、愛の唄 

20000Hit御礼掌編は【奇跡を売る店】シリーズ掌編です。
舞台は京都、奇跡ではなく奇石(貴石)を売る怪しい店の婆さん・玉櫛と、その2階を間借りしている探偵事務所の留守番探偵・蓮を中心に巻き起こる事件の数々(になる予定^^;)を綴る物語をお届けしています。
実は設定の一部を忘れているところもありまして、【サンタクロース殺人事件】を読み返してみたら、結構面白いやん、と自分で楽しんじゃってました。事件よりも人間関係が面白いかも、なんてね(いけません、自己満足は身を滅ぼす)。
さて、今回はあのオカマショウパブ『ヴィーナスの溜息』の連中が、また変なイベントを考えてついたようです。巻き込まれた皆様、あれこれとお許しあれ。結構読み返して確認したつもりだったのですが、何か設定上不味い部分があったかもしれません。ご指摘くださいね!

【登場人物】
リナ・グレーディグ(八少女夕さん【リナ姉ちゃんのいた頃】より)スイスからの交換留学生。超美形の高校生だが、いささかぶっ飛んでいる? 趣味のひとつは意外な買い物。
エス(サキさん【物書きエスの気まぐれプロット】より)パートナーと友人たちに支えられながら、物語の断片をブログで発表している、少し引っ込み思案の女性。
星河智之(TOM-Fさん【あの日、星空の下で】より)京都の某高校の教師で天文研究会の顧問。何故か押しの強い連中に囲まれやすい。
田島祥吾(けいさん【夢叶】より)人気バンド『スクランプシャス』のヴォーカリスト。実は友人以上恋人未満の女性がいる!(くっついちゃえ同盟はまだ解散していません)
リク(limeさん【RIKU】他より)絵描き、かつ幽霊の媒体になりやすい不思議青年。いつの間にかヤバいものに引き寄せられてしまう体質。
釈迦堂蓮もと小児科医、今はオカマショウパブのホールで釈迦堂探偵事務所の留守番探偵。昭光寺というお寺に居候している。
玉櫛『奇跡屋』の女主人。魔女のように怪しい婆さんだが、元は祇園の売れっ子芸妓。
和子(にこ)蓮の元患者。事情があって蓮が引き取って育てている。蓮に懐かない。
大和凌雲大原に住む仏師。蓮の元家庭教師。
シンシア・ミッキー『ヴィーナスの溜息』のおかまさんたち。

【登場する場所】
ヴィーナスの溜息蓮が勤めるオカマショウパブ。
奇跡屋玉櫛が経営する奇石・貴石を売る店。
昭光寺蓮が居候している寺。
龍泉寺【清明の雪】に登場する寺。大広間の天井の絵は知る人ぞ知る『消える龍』。和尚は物の怪遣いという噂あり。

TOM-Fさん、高校生のリナ姉ちゃんがこのツアーに参加するために智之さんにはすでに高校教師になってもらっちゃいました。えっと、不都合があったらお知らせくださいね。どこかでそんな話もあったのかどうか、思い出せなくて。
limeさん、玉ちゃんはしょっちゅう入院してたり病気になっていたような気がしますが、虫垂炎はなかったかしら? 一応ちらちらと確認したのですが、もし既に切っていたら、病名変更します!


20000Hit君に届け、愛の唄

 どうして待ち合わせが京都駅じゃないわけ?
 京都に着いた途端にリナ・グレーディグは思わず悪態をついた。いや、タクシーに乗れば済むのだから、移動の問題はどうでもいい。京都の碁盤の目の中では、バス、タクシー、もしくは自転車さえあればどこへでも行けると聞いている。
問題はこの気温と湿気だ。噂には聞いていたが、本当にひどい。ここは人間の住むところじゃないわ、と思いながら、リナは迷わずタクシーを選択した。

 外国人観光客には慣れているのか、それともホットパンツから伸びるすらりとした脚に目を止めたからか、嫌な顔一つせずに乗せてくれたタクシーの運転手は、リナの渡したメモを見てすぐに車をスタートさせた。とは言え、タクシープールから出るだけでも赤信号につかまっている。さすが国際観光都市・京都。車も人も半端ない。
 シャネルの新作のバッグの中でiPhoneが震えた。三貴からだ。

「無事に着いた?」
「着いたよ。暑くて気持ち悪い」
「どんなに暑くてもタンクトップ一枚になっちゃだめだよ。泊まりはお寺なんだから」
「これってシュギョウって言うんだよね?」
「何言ってるの。網タイツも駄目だよ。まさかホットパンツで行ってないよね?」
 そのまさかだ。網タイツは、蝶と王冠で迷って、結局蝶にした。そもそも、案内書の注意書きに「ホットパンツと網タイツはご遠慮ください」なんて書いてなかったけど?

「リナ姉ちゃん、それは『日本の常識』ってやつなんだよ!」
 沈黙の間を三貴は正確に理解したようだ。
「それから、変な漢字を書いたTシャツとか半被とか、ぺらぺらの着物とか、そんなのは買ってこなくていいからね!」
 え? それこそみんなが喜びそうなのに。
「忍者」とか「侍」とか「天下統一」とか。でも「寿司」に決めてたんだけどな。
 でもどう考えてもこれは、革のホットパンツに網タイツの私を求めているとしか思えないわ。
 リナは改めてチラシを確認した。華やかなショーのワンシーンの写真が掲載されている。一度行ってみたかったのよね。でも未成年だけじゃ行けないじゃない。

 このツアーに問い合わせの電話をしてみたら、向こうで「きゃ~、ガイジンからデンワよ~」という声がして、その後、かなり流暢な英語を話す男性が電話口に出た。
『ええ、六感で味わう京都がコンセプトですから、言語なんてお気になさらずご参加ください。もちろん、私もおりますのでガイドさせていただきます。あ、私、ミッキーと言います』
 リナは電話の向こうの人物に、「犬を飼っている、耳の大きな、世界で一番有名なネズミ」の姿を当てはめた。
『私、高校生なんですけど、一人でも参加できます?』
『え? 未成年ですか? いや、どなたか成人の方がご一緒なら……』
『何とかします。えっと、和菓子も食べれます?』
『もちろん、高級和菓子から抹茶のソフトクリームにチーズケーキ、葛きり、八つ橋、さらに京料理の粋を極めたランチに懐石まで、京都の味を目いっぱい味わっていただきます』
 ひゃっほう。
 アヤノ姉ちゃんに電話して誰か紹介してもらおうっと。確か、キョウトには知り合いの高校教師がいるって言ってたわ。
 そういうわけで、勢いだけで難なく『付添いの成人』をゲットしたリナは、相手が誰かも知らずに単なる興味でこの京都に乗り込んできたのだった。
 そう、Shall We Dance? よ。


 不安な気持ちは分かるけど、一度ロケハンってのに行って、自分の五感全部使って感じた世界を書いてみない?
 コハクの言葉に乗せられてやって来たものの、駅に降り立ったとたんにエスは少しだけ後悔した。やっぱりダイスケに一緒に来てもらうんだった。知らず知らずに手に持ったiPhoneを握る手に力が入った。
 そのエスの傍らを伽羅の匂いが通り過ぎていく。淡い紫色の小紋を着た年配の女性は、改札口の混雑の隙間を泳ぐように抜けていった。結い上げた髪と年齢を疑うような白いうなじ、すらりと伸びた背中をしばらく見送っていたエスは、自分も背を張り一歩を踏み出した。

 京都のイメージをひっくり返すような近代的な駅の建物を出るとバスターミナルだ。蝋燭をモチーフにした京都タワーだけは昔の姿のまま、中途半端にモダンな駅と、不安と期待が半分ずつのエスを見下ろしている。
 iPhoneが震える。
「大丈夫? やっぱりついて行った方がよかったかなぁって、ちょっと心配になってたとこ」
「うん、何だか大丈夫みたい」
「4番と14番はだめだよ。四条通りを通るから」
「コハク、大丈夫だよ。17番か205番に乗るね。調べて来たから」
「とにかく、私とダイスケに定時連絡は入れるのよ」

 結局みんな優しいんだからと思ってエスはバスを待ちながら、もう一度ツアー行程表を確認した。
 それにしても、どうしてこんな変なところで待ち合わせなのかな。
 そう思ったところへ205番のバスがやって来た。知らない町ではないけれど、一人で歩くとなると緊張する。それよりも知らない人たちと一緒だというのが一番の問題だ。でも、コハクがこれを勧めてくれたのには理由がある。

 エスがダイスケと一緒に『現代の仏像作家』という展覧会に行ったときのことだ。その仏像は会場の一番端の目立たない場所にひっそりと佇んでいた。
『へぇ、円空仏みたいだね』
 確かに、円空の仏のように鑿の痕が残る小さな仏像だった。だが、円空仏よりもずっと繊細で控えめな鑿の痕だった。まるでその痕のひとつひとつに祈りが刻み込まれているような気がした。
 作家のプロフィールには何も書かれていなかった。ただ『大和凌雲、大原在住』とだけ。

 その話をいつかコハクにしたのかもしれない。コハクが見せてくれたチラシには『大原に住む仏師・大和凌雲の庵』と書かれていたのだ。
 だから思い切って出かけることにした。あの仏像を彫った人に会えるかもしれない。エスはきゅっと吊り革を握りしめた。
たかがブログに載せる小説だけれど、私にとってはとても大事なものだ。誰もが見ているようで見ていない世界を、私だけが知っている言葉で綴りたい。そして、読んでくれた誰かが静かに心を震わせてくれたら、それはとても幸せなことだ。
 コハクとダイスケが私の背中をいつもそっと押してくれる。


 今日も暑い。まだ6月だというのに、これから梅雨の時期を挟んで彼岸までこの暑さは容赦なくまとわりついてくる。それが京都の夏だ。
 星河智之はワンルームマンションの窓を閉めた。開けても閉めても暑いことには変わりがない。とにかく出かけよう。

 希望通りに高校の教員になったものの、就職先をどこにするかはかなり迷った。できれば星空の綺麗な所で、と思ったが、特に子どもの人口の少ない県などは新任教員の募集人数も限られてくる。それに始めは色んな経験をして自分を高めたいと思った。結果的に、教育実習でも世話になった京都市内の私立高校に教員の席を得た。天文研究部があったというのが一番の理由だ。

 6月、生徒たちは期末試験の追い込みに入っている。部活動は休みだし、既に試験問題を提出してしまった智之は、この土日にマウンテンバイクで大原の方へ出かけてみようと思っていたが、そんな時、新婚ほやほやの大学時代の先輩が飲みに誘ってくれて、奇妙なチラシを見せてくれたのだ。
『星河、なんか悩みでもないか? たとえば、どの子にしようか迷ってるとか』
『僕はいつも悩みだらけですけど、どの子にしようか迷ってるわけじゃないです。でも、なんですか、これ?』
『実はさ、俺の弟、家を出てったって話したろ。それがあまり人に言えたことやなくて、つまりマイナーセクシャリティなんや。それで親と決定的な喧嘩しちゃってさ』
『はぁ』
『でも俺だけはあいつの味方をしてやろうって思ってるんや。時々様子を見に行ってやりたいんやけど、何せ、俺も嫁さんの手前、あんまり夜に出歩けなくてさ。実はこれ、弟の勤めてる店が主催のツアー案内なんや。お前、暇やったらちょっと行って、様子見て来てくれへんか』

 そこで、なんで僕が? と言えないのが智之だった。京都市内で行われるツアーに、京都在住の自分が参加しても何も面白くない。その言葉を呑み込んでしまった途端に、まだ智之が何とも返事をしないうちに、じゃ、俺が申しこんどくからと、先輩が話を決めてしまった。

 しかもこの話はここで終わりではなかった。やっぱり断ろうかとスマホを取り出したその瞬間、ニューヨークにいる幼馴染の綾乃から電話があったのだ。
『あのね、私の知り合いの高校生の女の子、今日本に留学中なんだけど、京都でやってる面白いツアーに参加したいんだって。それで、成人の同行者が必要なのよ。あ、詳細は後でPCに送っとくから、頼んだよ』
 どうやら智之の未来予定表には「このツアーに参加する」ことが定められていたらしい。

 叡山電鉄・修学院の駅から出町柳に出て、京阪電鉄に乗り換える。ふと時計を見たら時間が早すぎることに気が付いて、七条まで乗り過ごした。二駅分歩いて四条まで戻ることにしたのだ。
 たまには街の景色を写真に撮りながら、それに、新しい小説のイメージを練りながら、見慣れた京都の町を歩くのも悪くない。それにこのツアー、後でチラシをじっくり見てみたら、何とも奇妙なツアーなのだ。もしかすると期待していない何かを見ることができるかもしれない。


 京都に来るのは久しぶりだ。成ちゃんを訪ねていったことがあるけれど、それからもう何年経つのだろう。今、スクランプシャスは上昇気流に乗っている。将来に対して何の心配もないと言えば嘘になるけれど、仲間と一緒なら何でも乗り越えていけるような気がしているし、実際のところそうなっていっている。スクランプシャスの四人(瞬も入れたら五人)だけでなく、その周りで支えてくれる友人たちも、今ではスクランプシャスのメンバーと言ってもいい。

 その「メンバー」たちの顔を思い浮かべながら、祥吾は溜息をついた。
『そろそろはっきりさせた方がいいんじゃないの?』
 成ちゃんは人の気持ちを置き去りにして身勝手なことを言う人じゃない。だからこそ、その言葉には重みがあった。
 久しぶりの2日間の休みを何に使うかと言っても、次のアルバムの曲作りの準備をしなくちゃと思っていたので、出かける予定も何も入れていなかった。でも今の状態では迷うばかりかもしれない。

 そこに、まるで「待ってました!」とばかりにあるチラシが目に入ったのだ。
『成ちゃん、これどうしたの?』
『あぁ、それ兄貴が送って来たんだ。最近、変な店に行きつけていて、そこのママから貰ったらしいけど、ま、単に、たまには帰って来いっていうことかなぁ』
 その日付けは、まるで誂えたように、祥吾の2日間の休みに当てはまっていた。

 祥吾は今、鴨川の河原を北に向かって歩いている。集合時間よりもかなり早く着いたので、京都駅から四条河原町まで歩くことにしたのだ。
 体力には自信があったが、これまで歩いた場所とは比べ物にならない熱と湿度が足元から昇ってくる。歩き始めて少しだけ後悔したけれど、鴨川を吹き抜けていく風が少しだけ慰めだ。
 そう言えば、最近、全く未知のものに触れるって経験、なかったかもなぁ。

 実は、先日発売された週刊誌に、祥吾の古くからの友人であり、仕事仲間でもあり(つまり『スクランプシャス』のメンバーと言ってもいい)、そしてとても気になる存在である葦埜御堂奏と、ある大物ミュージシャンの密会、なんて記事がすっぱ抜かれたのだ。いや、もちろん奏は「一般人」ということになっているから、名前は伏せてあったけれど、有名人である奏の兄貴の名前が出ていたのだから伏せたところで意味がない。その兄貴は冷静に否定していたから、多分記事自体はガセなのだろう。けれども、その記事が祥吾の気持ちを波立たせていることは否定できない。

 そんな最中だったから、何かの勢いでこの『京都ミステリーツアー』に申し込んでしまったのだ。
 祥吾はナップザックを背負い直し、気を取り直して歩き始めた。
 その先で、一人の青年が立ち止まってはデジカメで写真を撮りながら歩いている。
 随分と距離が近付いた時、青年のポケットからチラシが落ちて、風に飛ばされて祥吾の足元に絡まった。

「あ、すみません」
 爽やかな声で青年は走り寄って来た。
 祥吾は青年とチラシを見比べながら、しばらくその偶然を噛みしめる。既に『ミステリーツアー』は始まっているらしい。
「もしかして、このツアーの参加者の方ですか?」
「はい。ってことは、あなたも?」
 青年は少しほっとしたような顔をして、慌てて汗を拭いてから手を差しだした。
「良かった。あれこれ事情があって断れなかったんですけれど、変な参加者ばかりだったらどうしようかと思っていたんです。えっと、星河智之です」
 祥吾の方もほっとした。感じのいい青年だ。
「田島祥吾です」
「え。って、あの、まさかスクランプシャスの?」
 何気なく握手を交わしてから、青年は改めて驚いたように祥吾を見た。


『間合いが悪い』を具現化した絵を描いて欲しいという依頼が来たら、玉ちゃんの顔を描けばいい、とリクは思った。
 そもそも、言い出したのは玉城だった。
『リク、非公開寺の天井の龍の絵を見に行かない?』
『玉ちゃんがそんなものに興味があるなんて、意外だね』
『違うんだ。長谷川さん命令で、今度はドラゴン特集の記事を書けっていうからさ。日光東照宮の鳴き龍も見に行って、京都の天龍寺、妙心寺、建仁寺、相国寺、東福寺と見に行って、あ、もちろん、取材費は『グリッド』持ちだったんだけどさ、で、原稿を送ったら、なんかありきたりなんだよね~って言われちゃって。そうじゃなくて、こっそり誰にも見せることなく守られてきた龍はいないのか、なんかぐっと心に響くような記事を書けよって。あの人、無茶言うんだからさ。そもそも日本画自体が俺のテリトリーじゃないっての。で、そこにこれだよ』

 そう言って、玉城は如何にも胡散臭さが漂うチラシを出してきた。何が胡散臭いって、そもそもサブタイトルが胡散臭い。『あなたの悩み、石が解決します』。
『でもさ、ちょっと胡散臭いだろ。だから、一緒に行ってほしいんだ』
 あ、それは気が付いているんだ、とリクは玉城の真剣な顔を見て少しだけ笑った。
『玉ちゃん、胡散臭いものに好かれるものね』
『そりゃリクの方だろ』

 と言って、一緒に申し込んだのに、前日の夜になって情けない声で電話がかかってきたのだ。
『リク~、ごめん~、行けなくなった~。入院しちゃったんだ~』
 あまりの腹痛に病院に駆けこんだら虫垂炎で、緊急手術は必要ではないけれど放っておくと腹膜炎になりかねないから、明日、手術だというのだ。じゃ、僕もキャンセルして付き添ってあげるよと言ったら、付き添いもお見舞もいいから、できれば行ってその龍を見て来て欲しいと頼まれた。
『リクの目で見て感じたことを教えて欲しいんだ。でないと、記事、間に合わないよ』
 玉城の泣き落としに仕方なく一人で奇妙なツアーに参加することになった。

 そうなったらそうなったで、手術前の玉城から鬱陶しいくらいメールが来るのだ。
<< リク、大丈夫? やっぱり心細かったら、止めてもいいよ。
<< 平気。玉ちゃんこそ、大丈夫?
<< (;_:)(;_:)
 似たようなやり取りが何回か繰り返される。そのうち、リクは鬱陶しくなってカバンに放り込んだ携帯の存在を忘れてしまった。いや、忘れるくらい、何かの強い力に支配されてしまったのだ。

 チラシに書かれた集合場所は『奇跡屋』。四条河原町を東に少し入った、高瀬川の川沿いにある、奇石(貴石)を扱う店らしい。
 四条通りの人混みの中をふわふわと歩くリクの脇をすれ違う人々が、皆振り返る。苦手な人混みだが、そんなことよりも今まさに感じている力の出所を確かめたくて仕方がなくなっている。案内のチラシなど見なくても、引き寄せるエネルギーでその場所は直ぐに分かった。

 もっと暗いイメージかと思って近付くと、パワーは恐ろしく強いものの、意外にも陰湿な気配はなかった。重そうな木の扉の前に、リクよりは少し背の高い青年が立っている。マウンテンバイクを脇に立てかけて、ポケットから鍵を取り出したところで、青年はリクの気配に気が付いて振り返った。
「もしかして、ツアーの参加者の方ですか?」
「はい。すみません。早く着きすぎちゃって。主催者の方ですか?」
「関係者ではありますが、主催者ではありません。どうぞ。中に入ってお待ちください」

 リクが一瞬躊躇うような気配を示すと、青年は直ぐにその理由をくみ取ったように見えた。リクには驚きだった。この人は、リクの中の何かを察しているのだ。
「そうですね。この店の中は『気』が強すぎる。中にいられない人もいる。もし暑いのが気にならなければ、鴨川を散歩していてください。僕が後で迎えに行きますから」
 そう言ってから、ふとリクの方に近付いてきた。
 感じのいい人だな、とリクは思った。背丈はリクよりも少し高く、短く刈った髪のために精悍な印象がある。目は微かにグリーンがかった黒だった。

「あの、もしかして躊躇っているなら、今からでもキャセンルしたっていいんですよ。きっと魔女のような婆さんに高い金を吹っかけられて、奇妙な石を買わされたり、変なショウパブで一緒に踊らされたりする可能性が……」
 青年がまるでリクの身を案じるかのように近づいてきたところへ、後ろからよく通る声が飛んできた。
「レン、お前はまたあたしの商売を邪魔する気だね。さっさと鍵を開けな」

 そう言ったのはまさに「魔女のような婆さん」だ。小柄な体に、暑さをものともせずに黒いローブのような服を着ている。リクに狙いを定めたように鋭い目を向けてきたが、青年がまるでリクを救い出すように、リクの肩を抱いて四条通りへ連れていってくれた。
「この先に大きな橋があります。その脇から河原に降りることができますので。本当に、気が変わってキャンセルしたくなったら連絡してください」
 そう言って渡された名刺には『釈迦堂探偵事務所 釈迦堂蓮』という名前と携帯電話の番号が書かれていた。


 全く。一体誰がこんなものを考えたのだろう。いや、分かっている。オカマショウパブ『ヴィーナスの溜息』が季節ごとにぶちかますイベントのひとつだ。
 こうして目の前に集まっている参加者の顔を一通り見てから、改めてツアー案内のチラシに目を遣り、蓮は溜息をついた。
 とは言え、この参加者たちの身を守るのは自分の役目であると自負もしている。
 とにかく、まずは石屋の婆さんが『あんたは何か悩んでるね』『この石を持っていたらあんたの悩みはたちどころに解決するさ』なんて言いながら、市場価格よりも高値で石を売ることを阻止しなければならない。

 しかもうちの昭光寺の和尚の紹介としか思えないが、今からあの『消える龍』で知る人ぞ知る非公開寺の龍泉寺でお茶をするというのだ。お茶と言っても、あの寺は、住んでいる人間の数よりも物の怪の数の方が何十倍も多いといういわくつきの寺だ。ティータイムから物の怪どもと宴会など、その時点でおかしいだろう? 
『物の怪とパーティ』ってまんまじゃないか。
 だが夕食の和久傳さん。これは大いにいいとしよう。俺だって、和久傳さんなんかで一度くらい夕食を楽しんでみたいよ。

 でも、この後はどうだ? そのまま『ヴィーナスの溜息』でどんちゃん騒ぎに入るわけだ。もちろん、『ヴィーナスの溜息』での飛び入りショーに無理矢理参加させられる犠牲者を守るべきだ。いや、中には喜んで参加したいって人もいるかもしれない。『あなたもオカマたちとショータイム!』なんて、どういう呼び込みなんだ?
 いや、それよりもさっきの青年だ。何よりも彼をあの店に集まる狼どもから守ってやらなければ。『ヴィーナスの溜息』は比較的健全で(あくまでも比較的、だ)ショーの質も高いし、男女問わず純粋にショーを楽しみたい客がやって来るが、中にはホンモノのゲイだっている。

 だが、何よりも問題は、泊りがうちの寺ってどういうことなんだ? しかも明日は凌雲先生の庵でランチ? あり得ない。よくも凌雲がOKしたものだ。いや、彼は意外に人嫌いというわけでもないし、それに『ヴィーナスの溜息』の頭脳派・シンシアとは個人的に付き合いもあるようだから、頼まれたのかもしれない。
 それにしても、よくもまぁ、こんなバラエティ豊かな面々が集まったものだ。蓮は自己紹介を終え四人をざっと見渡した。

 この中で一番ぶっ飛んでいるのは、リナ・グレーディグと名乗った高校生だ。いや、高校生には見えない超絶美人だが、さっきどう見ても初対面と思しき高校教師に向かって不遜な笑みを見せていた。その笑顔がチェシャ猫に見えたので「不遜」と感じたのもかもしれない。ツアー参加希望理由のところには「日本のオカマショウパブで踊りたい。日本で一番おいしい和菓子と和食を食べたい。土産にペラペラの着物をいっぱい買いたい」と書いてあった。
 この子は、少なくとも自分が守らなくてもよさそうだ。網タイツのダイナマイトバディにうちの和尚が鼻血を出さないか、あるいはそのあおりを喰らって、明日朝の稽古に力が入りすぎてコテンパンにやられないか(そもそもやられるのは蓮なのだ)、それはいささか問題ではあるが。

 そして、その隣で不安そうに他の参加者に時折目を配っている女性。本名を呼ばないで欲しいと書かれていたので、希望通り「エス」と呼ぶことにする。彼女こそは石屋の婆さんの餌食になりかねないので、何としても守り通さなければと思う。だが、意外に芯のところはしっかりした女性なのかもしれない。参加希望理由のところには「大和凌雲先生の作品が作り出される場所を見たい」と一言だけ書かれていた。
 凌雲の作品を目にする機会など、普通にはないのだと思っていたが、それにしても審美眼の高い女性なのだと思った。一人旅は初めてだと言っていたので、蓮は特に彼女のことは気に掛けることにした。時折不安そうに周囲を見つめる目が誰かに似ていると思ってたが、それが自分の最も身近にいる人間の目だと気が付いて、蓮は不思議な感覚を覚えた。
 今日、和子(にこ)は舟が連れ出している。舟と和子が一緒に出掛けるというと、コースは大体決まっている。鴨川の河原、それから糺の森で遊んで、大原の凌雲のところだ。

 それから男性が二人。もう一人のリクという名前の青年は、後から蓮が鴨川に迎えに行くことになっている。
 一人は京都在住の高校の教師だという星河智之。よくよく事情を確認すると、リナという高校生の付き添いらしい。どう見ても二人は初対面のようだが、まわり回って断れなかったというところか。押しの強い女性が多くなった昨今、草食系の男子にはなかなか住みにくい世の中になっている。いや、肉食・草食という区別さえ、逞しき女性たちが勝手に男たちにレッテルを貼っているに過ぎない。
 でも、人もよさそうだが、頭もよさそうな、好感度の高い男性だ、教師としても人気があるんだろうなと思った。さっそくリナに絡みまくられて困っているようだが、ミッキーや蓮が手助けをしなくても通訳の役割は果たしてくれるようだ。

 そしてもう一人。後から『ヴィーナスの溜息』のメンバーがキャーキャー言っていたので知ったのだが、彼は有名なバンド・スクランプシャスのヴォーカリスト、田島祥吾だった。もっとも、そんな有名人らしい気配はまるでなく、まわりに気を遣いながら、それにすんなりと誰とでも打ち解ける、芸能人とは思えない人懐こい人物だった。時折、ふと溜息をついて遠くを見ている時は、次の仕事のことでも考えているのだろうか。
 確かにこれは人気があるのも頷ける、と蓮は思った。女性ロックバンド『華恋』の笙子もそうだが、道を歩いている時には本当に普通の人なのだ。それがある場面になると一気に天からオーラの波が降ってきて、ステージの上ではそれを身に纏う。

 男性二人は参加希望理由のところに「何となく」と書いてあった。『ヴィーナスの溜息』でさんざん飲み食い踊り歌った後、昭光寺に辿り着いて布団を敷いてから、何故か智之、祥吾と蓮は三人でゆっくりと飲み直すことになった。リクは一人で縁側に座り、庭を眺めている。あまり宴会の輪には入りたがらないようだ。リナはダイナマイトバディで踊り疲れて早々に眠ったらしいし、エスはやはり今日のダイナマイト級の行程に疲れてしまったようだった。

「いや、本当に不思議な一日でしたね」
「一体あのお寺はどういう縁起なんですか? 京都には結構長いこと住んでいますが、初めて知りました」
「僕もよく知らないのです。ただ、あの寺、時々この道だったかと歩いていても、辿り着けない時があるんですよ」
「昼間っから酒を飲んでしまったせいでしょうか、あるいはあのどぶろぐ、何だか妙なものでも入っていたんでしょうかね。何だかこの世のものならざるものと大騒ぎをしてしまったような」
「いや、それもね……あの和尚が既に物の怪の域に入っているという話もありますから」
「それにしても、智之さんのお連れのリナさん、すごいパフォーマンスでしたね」
「『ヴィーナス』のメンバーもタジタジでしたからね」
「いや、連れじゃなくて、ごり押しなんですけど、これからもまた連れて行けって話になったらどうしましょう。一応高校生なので、あまりああいう店は……でも、日本でのいい思い出になったでしょうかね」
 考えてみたら、龍泉寺であの世の物の怪たちとどんちゃん騒ぎをして、『ヴィーナスの溜息』でこの世の物の怪とどんちゃん騒ぎをしたようなものだ。だが、思えばどちらも可愛い物の怪たちなのだ。……個人的な意見だが。
 そう、石屋の婆さんに比べたら……

「そう言えば、祥吾さんは世界のあちこちを歩き回っておられたんですよね。日本なんてちっこくて狭い国だなって感じませんか?」
「うん……正直、そんなふうに感じることもあります。でも今日の方が体験的にはすごかったかも。世界を股にかけたというよりも、あの世とこの世を股にかけたという気がしましたから。何だか、人生って何とかなるんだな、と変に大きな気持ちになりましたよ」
 確かに、どこまでがこの世か分からないものが京都には蠢いている。


 朝方、ほとんど眠れなかった蓮が庭に出てみたら、エスが和子と遊んでいた。一緒に何かを探しているようだ。虫か花か。エスが蓮に気が付いて頭を下げて挨拶をくれる。蓮も頭を下げた。それに気が付いた和子が蓮の方をちらっと見たが、いつものようにぷいと横を向いてしまった。
 何となくどこか似ていると思ったのは間違いでもなかったようだ。二人はずっと昔からの知り合いのように、自分たちが見つけ出した何かを見せ合っている。
 優しい人なんだろうと蓮は思った。

 その景色を、かの不思議な青年、リクがスケッチしていた。
 蓮はリクの傍に近付き、おはようございますと挨拶をする。リクはぺこりと頭を下げた。
 ちらっとスケッチをのぞきこむと、そこには庭の景色と和子の姿が描かれている。色は付いてないものの、まるで鉛筆の濃淡から緑の背景と、和子のスカートの赤が浮き上がってくるようだった。この青年には和子の何かが分かるのかと思って、思わずまじまじと覗き込んでいたら、リクはそのスケッチを蓮に差し出した。
「どうぞ」
「え、あ、ありがとう」
 蓮は絵の中の和子を見つめる。微かに蓮に向かって微笑んでいるように見えるのは、やっぱり気のせいだろうな。彼女はエスに対して微笑んでいたのだ。

 和子の絵の下のページには、昨日龍泉寺で見たあの天井龍が描かれていた。
「龍を見に来たんですね」
 リクは顔を上げた。綺麗な目だと蓮は思った。
「消えるんだそうですね」
 リクの唇が動く様を、蓮はふしぎな気持ちで見つめていた。まるで動かないはずの幻が語っているようだ。
「えぇ。でも早春の一時期、しかも運が重ならないと見られないそうです。それよりも、あの寺自体が本当にこの世に存在するのかどうか……」

 リクは顔を上げて微かな笑みを浮かべた。
「いつもは大概マイナスのエネルギーを感じるんです。でもあの場所は、マイナスのエネルギーは上手く封じ込められて、上にプラスのエネルギーが充ちていた。原因はあの妙な和尚さん、でしょうか。陰陽の全てを丸め込んでいる」
「タヌキ和尚ですね。うちのキツネ和尚とは親戚なんですよ」
 リクは目を丸くして、それから面白そうに笑い、龍の絵に視線を落とした。
「京都、また来たいな。今度は玉ちゃんと一緒に」
 独り言のようだった。

「凌雲先生の庵も、きっと気に入りますよ」
 蓮は少しだけ残念だと思っていた。あの場所に誰か他人が入ってくることに幾分か抵抗があるのだ。もちろん、蓮の知らないところで多くの人間があの場所に出入りしているはずなのだが。
 何かを感じたのか、リクがじっと蓮を見つめ、それからまた庭で遊ぶエスと和子に視線を戻した。

 道場に行ったら、キツネ和尚の前には何とリナがいた。
「あ~、レンさん、オショウサンにケンドー、教えてるヨ」
 って、日本語喋れるんじゃないか。いや、教えてるんじゃなくて、教えて貰ってるんだけど。でもさすがに網タイツじゃないな、って当たり前か。「ケンドー」がすっかり気に入ったのか、「め~ん」「こて~」「どう!」の掛け声も堂に入っている。
 蓮も相手になったが、結構すばしこくて筋がいい。へぇ、あのダイナマイト級の踊りも伊達じゃないな。

 何よりも、蓮は久しぶりにキツネ和尚の餌食にならずにすんだことについては、リナに心から感謝した。無茶苦茶に強い和尚が蓮には本気でかかって来るので、容赦がないのだ。それが今日はリナのお蔭で何となく鼻の下が伸びている。
 でも、今日ももちろん、網タイツで出かけるんだろうな。
 凌雲がリナの網タイツ足に目を奪われないことを願う。


「さてと」
 石屋の婆さんこと玉櫛は、参加メンバーの石を並べながらニタニタしていた。
 まずはリナ・グレーディグの石。八月の誕生石、ペリドットはマグネシウムと鉄を主成分とする珪酸塩鉱物だ。今目の前にある石は緑色が美しい結晶で、マグネシウムと鉄の存在比が4:1程度、微量のニッケルが含まれている。
 かつてエジプト王家に献上された石はトパーズとされていたが、その石が採れたとされる島ではトパーズが採石されたことはなく、実はそれがペリドットではなかったかと言われている。ペリドットは生命力、希望、発展を象徴する。闇を消し去り、悪魔を追い払い、精神を安定させる効能もある。
 ふん、あの娘には出来過ぎた石だが、これはなかなかいい石だ。いつかこの石に相応しい娘になるといい。

 そしてエスという娘の石。三月の誕生石はアクアマリンが有名だが、彼女にはこっちの石が相応しい。ブラッドストーン。細かい粒の石英の結晶が集まった碧玉(ジャスパー)の一種で、鉄に起因する赤色や赤褐色の斑点がある。古代エジプト・バビロニアの時代から護符や印章として利用され、赤い斑点はキリストの血が落ちてできたという伝説もある。困難を乗り越え、勇気や生命力を与えてくれる石だ。 
 さて、越えることが可能かどうかは、本人次第だ。石は勇気をくれるが、未来を切り開くのはあくまでも自分自身なのだ。

 そして田島祥吾の石。あの若者は有名人だという。有名人らしさのない感じのいい青年だが、それだけではこの世間を渡って行けまい。あの男には今、心から支えてくれるパートナーが必要だ。
 九月の誕生石はサファイア。アルミニウムと酸素で構成されているコランダムという鉱物で、不純物として鉄とチタンが含まれているため青くなる。人の意思や組織の礎などを固め、目標を貫徹する意思を持ように支えてくれる石だ。直観力を高め、その時に必要なチャンスを掴む助けになる。
 さて、チャンスはぼんやりしていたらその手からすり抜けていくものだ。目の前にある大事なものを掴みとれるかどうか、お前次第だよ。

 そして星河智之の石。十二月生まれ。十二月の誕生石と言われているものには三種類ある。ラピスラズリ、トルコ石、タンザナイト。だが今の彼に相応しいのはこの石だ。
 玉櫛はタンザナイトを取り上げた。タンザニアの夕暮れ時の空を写し取ったような神秘的なブルー。鉱物的には青色をしたゾイサイトで、ネガティブなエネルギーをポジティブなものに変換する力がある。過去の自分や周囲のしがらみに縛られずに、自分自身の良い部分を高め、新しい力を生み出していく、創造的なエネルギーを持つ石だ。
 もっとも、石はその人間の持つ根源的なパワーに反応するものだ。石だけでは何も変わらない。さて、あの男はどこへ向かうのか、まだ先は長そうだ。

 最後がリクという青年の石。絵描きだと言っていた。
 二月の誕生石はアメジストだ。アメジストは水晶だが、水晶を構成するケイ素の一部が鉄に入れ代わり、鉄を取り囲む酸素の1つの電子が天然放射線によって損失しているために紫色になっている。欠けている部分があるということが、もっとも高貴で神聖なる石の美しい色を生み出しているというのは不思議だ。『愛の守護石』『真実の愛を守りぬく石』は、神話では美少女の生まれ変わりだとされている。
 美少女とはよく言ったものだ。
 この石には、特別に愛よりも癒しの力を願っておいてやろう。あの青年には、自分を守る癒しの力が必要だ。

 そして。
 蓮の奴、私がこの石たちを彼らにタダで渡してやろうとしていることに驚くだろうさ。お前が想像するすべてを覆してやるのが、私の一番の楽しみなのだからね。
 そもそも一部の石を除けば、こうした石たちは決して驚くほど高いものではない。だが、石は持つ者を選ぶ。
 玉櫛は「蓮の石」を机の上に転がした。誕生石とは異なっているが、この石は蓮と引き合っている。
 お前は受け取らないだろう。だがこの石はいつもここでお前を見守っている。

 深いエメラルドグリーンの翡翠が、周囲に漂う光を内側に集めてゆらりと瞬いた。



実は短いお話の予定だったのですが、何故か長くなって今日1日を費やしちゃった。
お楽しみに頂けたなら何よりです。

そう、今回出てきましたが、蓮の石は翡翠なのです。だから前回の短編で翡翠に妙に反応していたのですね。
凌雲は? 翡翠が似合いそうですが、実は彼はやっぱり宝石の王・ダイヤモンドなのですよ。隠しても隠し切れない何かが~?(でも凌雲には裏の石がある)

それはさておき。
相変わらず更新も遅くて、来てくださる方も少ない地味なブログですが、気長にお付き合いくださる皆様に心からお礼申し上げます。支えてもらって続いているんだなぁとしみじみこれを書きながら考えていました。
そして、こちらを書くために、ご参加いただいた5人の皆様が書かれた関連する記事をざっと見渡して改めてびっくり。皆様、すごいパワーで書いていらっしゃっるんだなぁ。
こんな素敵な人たちに構ってもらえて、幸せだな~と改めてしみじみ思いました。

今回ご参加いただいた皆様も、今回は遠慮したけれど次回は寄せて!と言ってくださる方も、静かに見守って下さる方も、これからもよろしくお付き合いくださいませ。
え? 次回? 今度はどんなツアーが? えっと、その場合には皆様、今回は描写を省いた『ヴィーナスの溜息』でのショータイムにバニーちゃんで登場する覚悟をしてきてくださいね!

Category: 奇跡を売る店・短編集

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NEWS 2015/5/27 20000Hit御礼とちっちゃな企画と『石紀行』予告 

大谷資料館1
栃木県にちょっとした仕事がらみで行ってきました。
併せて観光(と餃子)も少し楽しませていただきました。
上の写真は『大谷資料館』……大谷(おおや)石の採石場を博物館として見ることができる場所です。巨石紀行とは少し違いますが、周囲にある岩石の様子を見ていると、やっぱりこれはラインナップに加えるべきだと『石紀行』記事をアップ予定です。
でもここ、最近は全く別の用途があるようで、多くのアーティストがビデオクリップの撮影をしたり、映画の撮影が行われたり、コンサートをしたり、なんて不思議な空間を生かした楽しみ方があるようです。
ナポリの地下遺跡にもこんなところがあるのですが(こちらは採石場というよりも、古い町がそのまま地下に埋まっているのです)、それをふと思い出しました。
名草巨石群(本殿)1
そして、『石紀行』のメインは、こちら足利市の名草巨石群です。写真では分かりにくいのですが、かなり大きな巨石で、ものすごく迫力があります。こちらもぜひお楽しみに!
さらに、栃木ですから、やっぱりここは素通りできません。
三猿
あ、猿だけになっちゃった。言わずと知れた日光東照宮です。
陽明門が平成31年まで修理修復中だそうですが、いや、もうここはどこを見ても見ごたえがありますね。
そんなこんなな旅記事、お楽しみに!

そして。
いつの間にか20000Hitが近づいておりました。
最初、カウンターの置き方が分からなかったので、カウンターを置き始めてから2年足らずですけれど、本当に地味~にゆっくりとですが、こうして1ずつ数字を大きくしてくださった皆様に感謝申し上げます。
思えば、手前勝手なことばかり書いていて(『石紀行』も小説もマイナー路線まっしぐら)、それでもたくさんのコメントもいただいて、続けるモチベーションとなっております。重ね重ねお礼を申し上げます。

企画? 何にも今回は考えていませんでしたが(これ以上今はリクエストを抱えられないので^^; 私ってどうして長くなるのかしら……)、次の22222には何かちゃんとした企画をできるようにしておきたいと思っています(*^_^*)
あ、でも、最初に20000越えの名乗りを上げてくださった数人の方には、もしかするとちっちゃなプレゼントがあるかも?(期待薄?) ダメモトで名乗りを上げてみてください。うふふ……(ぶ、ぶきみ)
数名って(7人くらいまでは数名という説も)、いい加減な点はご容赦ください! かる~い企画なので10人くらいまとめて可能という説も(それを言っちゃおしまいよ)。要するに、かなり越えていても気にせず名乗りを上げてください。
その際にお誕生月を教えていただけると幸いです(あ、ネタバレかも。えっと、変なばぁさんが登場しても気にしないでくださいね!)。あ、ご自身でも、あるキャラのお誕生日月でもいいですよ!

Category: NEWS

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【物語を遊ぼう】19.果てしない物語~『もののけ姫』に学ぶ解決できない謎~ 

今回のテーマは、宮崎駿監督の一言から始めます。
『もののけ姫』のメイキングの番組の中で、だったと思います。既に『もののけ姫』は公開されていたのですが、そのインタビューの中で「自分が何を作ったのか、まだ総括できていない」と仰ったのです。

その時、妙に安心したのを覚えています。そう言えば、宮崎監督はプロットも立てずに書き始めるのだとか。しかも『もののけ姫』では、書き終わっても何を書いたのか(作ったのか)よく分からんと。
宮崎駿作品(ジブリ作品)は、多かれ少なかれハッピーエンドとは言えない要素を含んでいるような気がするのですが、それでも、多くの作品は、起こった事件・出来事の解決はついて、主人公たちは新たな一歩を踏み出していく、または平和な日常を取り戻すという形にまとめられていると思うのです。

でも『もののけ姫』は作られた監督もよく分からんくらいだから、見る方も、何だかモヤモヤが残ったまま観終わった。
私の友人は「怖いから見たくない」と。(ん? 乙事主様が?)
でも、このモヤモヤ=嫌い、ではなくて、「もう1回観たい」「ものすごく気になる」「いや、ものすごく好きかも」「私もこういうことを常々感じている」「私が頭の中に描いている世界はこれと一緒だ」……だったのです。

ジブリの作品はそれぞれに世界があってかなり良いと思うのですが、以前にも書いたように私が一番好きなのは『風の谷のナウシカ』と『もののけ姫』。
『ナウシカ』は漫画の方もいいのだけれど(というのか、漫画の方はどこか『もののけ姫』に繋がっていく世界を感じる)、映画として切り取った部分はよくできていて、しかも映画館で宮崎アニメを観た最初の作品だったので、衝撃が強かったというのがあります。え、と、映画館で馬鹿笑いした後(犬のホームズの話と2本立てだったのです)、馬鹿泣きしていたことは以前にも書きましたっけ。多感な年頃だったので、本当にものすごく感動したのです。多分、台詞を空で言えるくらい何度も観た。最高に好きなシーンは、ナウシカが腐海のお化けカビの胞子を集めて研究している部屋。

一方の『もののけ姫』はかなりトウが立ってから観た作品。でも、先ほども書きましたが、「ものすごく好きかも」なのです。
これについては、先日アップしたミステリー・探偵ものとは真逆の「物語の造り」だなぁと思うわけです。

ミステリーは解決してなんぼです。それがお約束であり、最低限のルールです。もしも探偵自身が犯人であっても(これも実は反則技だと思うけれど……これについては、どんでん返しというよりも、何だか後味が悪い、と思うのは私だけ?)、まだ許そうと思うけれど、探偵もしくは探偵役が「この事件解決できませんでした!」って終わったら、コメントを下さった八少女夕さんの仰る通り、私も暴れます。2時間ドラマならちゃぶ台ひっくり返して、「私の2時間を返せ!」です。

でも『もののけ姫』は「解決できない」「解決には何の興味もない」物語なのです。
ただ、「救いがない」とはちょっと違う。「世界の構造とはこういうものだ」「神とは善悪でも是非でもない、そこにある」という、すごく当たり前のことを描いているように思う。これが救いがないということだ、と言われたらそれまでだけど、最近流行の「ありのまま」の世界は「救い」とかとは無縁だとも思うのです。
キリストの神様は善悪と罪に対する悔い改めを求めます。それが宗教の当たり前の命題です。悔い改めないと救われない、ということになっているようです。
でもこの世界は「自然(じねん)」なのです。日本に一神教が入ってきたとき、Godを神と訳しちゃったので混乱しているような気がしますが、西洋的「神」と原始的「カミ」は別物ですよね。
そもそも日本だけでなく多くの国々に原始からあった「世界の成り立ち」についての考えは「ただそこにある」、です。

(追記)
本居宣長いわく。
「さて凡て迦微(カミ)とは、
古御典等(イニシヘノフミドモ)に見えたる天地の諸(モロモロ)の神たちを始めて、
其(ソ)を祀(マツ)れる社に坐(ス)御(ミ)霊(タマ)をも申し、
又人はさらにも云(ハ)ず、
鳥(トリ)獣(ケモノ)木草のたぐひ海山など、
其余何(ソノホカナニ)にまれ、尋常(ヨノツネ)ならずすぐれたる徳(コト)のありて、
可畏(カシコ)き物を迦微(カミ)とは云なり」

広辞苑でも、神の定義については
「①人間を超越した威力を持つ、かくれた存在。人知を以てはかることの できぬ能力を持ち、人類に禍福を降すと考えられる威霊。人間が畏怖 し、また信仰の対象とするもの。
②日本の神話に登場する人格神。
③最高の支配者。天皇。
④神社などに奉祀される霊。
⑤人間に危害を及ぼし、怖れられているもの。
 イ、雷。なるかみ。
 ロ、虎・狼・蛇など。
⑥キリスト教で、宇宙を創造して支配する、全知全能の絶対者。上帝。」
キリスト教の「神」は⑥なのですね。
(追記終わり)

例えば、エボシの「神殺し」。何でそんな罰当たりなことをするんだ、だから腕を喰われちゃったんだ、と思うかもしれませんが、多分作り手の宮崎監督はその「神殺し」という行為を「悪」とは位置づけていないはず。
身を守る手段を持たない「人間」が、自然という大きな存在と闘う、ある意味では必死の行為だったかもしれません。観るほうがここに善悪を意味づけたら、きっとこの物語の値打ちは無くなってしまう。

シシ神の造形がまた素晴らしい。神は生であり死であり、善とか悪とは無縁だという感覚。人間にとっては(あるいはあの物語の中では他のあらゆる生き物にとっては)、ある側面からは(ある立場からは)「善きもの」であるし、また別の立場からは「悪しきもの」であるし、正直なところ、善悪や白黒はどうでもいい、という感じ。
まさに「奇しきもの」「稀なる力を持つもの」は全て「神」と呼んどこう、と。

日本を始め、様々な国の原始的な宗教は、「(一応)善きもの」と共に、同じくらい大切に「(一応)悪しきもの」を祀っているのですよね。祟りを成すものもちゃんとお祀りするのです。
その根源には梅原猛先生が『隠された十字架』で示されたように「祟りませんように~」ってのがあるとしても、「悪しきもの、災いをもたらすもの、でも何だか分からないけれどすごい力を持つもの、自分にとっては有難くないものだけれど、でもやっぱりすごいパワーを感じるから、取りあえずお祀りしておこうっと!」
津波がやってきてもまた海に出ていく、それは海が「怖いもの」であると同時に「豊かなものをもたらしてくれるから」。そこに善悪の感覚はないですよね。恐ろしい面も恵みをもたらしてくれる面も「有難い」。この両面性、多面性、複雑な同居が「かみ」なのでしょう。
だから、解決はないのです。
どこまで行っても、ただ「あるがままにある」。

「自然(じねん)」「あるがまま」の世界ではありますが、私はエボシの最後の一言、「みんな始めからやり直しだ。ここをいい村にしよう」は微かな光明、救いだと思いました。わが敬愛するカール・セーガン博士の『Science is a candle in the dark, demon-haunted world.』という言葉と同じ。
カールセーガン本

え。救いは求めていないんじゃなかったんだっけ?
いえ、救いはやっぱり物語としては欲しいのですけれど、「救い」としてはっきりしていなくてもいいかな。いや、救われなくても仕方ないかなという気もするし、でもやっぱり最後は救われる物語を書きたいとも思うし、書き手のそういう二面性自体が「解決できない」んです。

というわけで?、私にとっての真シリーズはまさしく『もののけ姫』。
いえ、真がサンと同じように「丸まって寝る」からではありません^^;(丸まって寝るけれどね。これは自然に「身を守る」体勢をとっているから)
そもそも、何も解決しない物語なのです。東洋的自然(じねん)の権化=真と、西洋的キリスト教的良心の権化=ジョルジョ(竹流)とは、あれほどにお互いを求め合っても、最後は相容れない立ち位置であることを暴露して終わっちゃいますし(いや、求め合う心は否定していません、それどころか、一方の命が失われるだけで、彼らの想いはハッピーエンドだったのかもしれません)、わたし的にはハッピーでもアンハッピーでもない、其々の人生を精一杯生きた、というイメージしかありません。

『もののけ姫』でもサンは「アシタカは好きだ、でも人間を許すことはできない」と言っているし、アシタカは「それでもいい。サンは森で、私はタタラ場で暮らそう」と言ってるし、それでいいんだか、なんだか、分かったような分からんような。結局は相容れないのね、とも取れるけれど、ただ「命ある限りそれぞれの生を、それぞれの場所で生きるしかない」ということのなのかも。

ちなみに真シリーズは『人魚姫』の焼き直しなのです。
人魚姫には一言物申したい。「お魚の王子はおらんかったんか(身の程、身の丈の恋もあったんじゃないの)」って……同じことを真にも言いたい。で、結果的に、無理しちゃって、恋にも破れて、泡になっちゃう。
彼女が幸せだったのかどうか、そこには何の答えもない。でもアンデルセンの原作の最後には「神様に召されて幸せだった」的なラストがくっついている。え~? そうなの~?
いや、でも何かにチャレンジした人生は、ある意味「確かに生きた」のかも。

もうひとつ、大和竹流=ジョルジョ・ヴォルテラの人生なんて、『源氏物語』の焼き直し。
あの物語も、華やかなりし人生の後半の落ちぶれようが(現実の権勢はあっても)何とも言えず、私のツボなんです。そんな物語をモデルにされちゃった竹流=ジョルジョが幸せだったかどうかは分からないけれど、何はともあれ、すごい人生だったと褒めてあげたい。

結局彼らの人生は、探偵物語のようには謎を解決できず、果てしない物語なのです。

ということで……【清明の雪】の和尚さんに最後は任せましょうか。
「正しいかどうかは問題にはなっておりませんでしての。そもそも正しいとは誰に決めることができるのでしょうかな。誰かにとって正しいことが、他の者にとっては正しくはない。今正しいと思われておることが、百年先には大きな間違いでありましょう。しかし、いずれにしても道を歩き出したものは、自ら責任を取るのでございます。大和どの、人は、人とも物とも、出会うべき運命というものがあるわけではございません。出会ってからこそ、運命も拓けるのでございます。この本堂の仏具たちも、あなたに出会い、あなたの手により修復という運命を得たのでございますよ。運命には善いも悪いもございません。善くもあり悪くもある、正しくもあり、間違いでもある」

あるいは、長谷川平蔵に任せましょうか。
鬼平
「人間(ひと)とは、妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事をはたらく。こころをゆるし合うた友をだまして、そのこころを傷つけまいとする。ふ、ふふ・・・・・これ久栄。これでおれも蔭へまわっては、何をしているか知れたものではないぞ」
(池波先生、私、あの世に行ったあかつきには、絶対先生をお探しします。鬼平の最終話の続きを聞かせてくださいね!)

おこがましいけれど、私も【海に落ちる雨】を書き終えた時、まさしく「私って何を書いちゃったんだろ?」と思いました。だから一言。
「何を書こうとしているのか、書いても書いても総括できそうにありません」
(えっと、単に計画性がないのと、総括する能力がないだけなんじゃ……(@_@))

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【物語を遊ぼう】18-2.キャラの魅力~探偵役の造形~ 

前回の記事【今更ながら考える、キャラの魅力】の続きです。
今回はこのミス大賞作品「さよならドビュッシー」のシリーズをヒントに考えてみます。

そもそも記事を書きながら考えていたのは、探偵役のキャラの造形だったのです。
いわゆる成長もののキャラ(主人公)は、前回の記事に載せたような「やっぱりこれが王道」という造形であるべきで、物語の最初と終わりでは、何かが変わっている(「成長している」)べきである、というのを読んだことがあります。
確かに、それに逆らう挑戦的なキャラ(どう考えても嫌われるような凄い悪人とか、逆にどこにも欠点がない完璧な人物とか)が主人公になっても、いまひとつ入り込めないと思うのですが、さて、問題の探偵役。

前回頂いたコメントにもありましたが(色々コメントありがとうございます(*^_^*))、探偵役は「謎解き」という仕事をしなければならないので、キャラとして個性はあるとしても、事件の前後であまり「成長する」ものではないのかもしれません。
しかも、謎解きの導き手としてスマートな推理能力が要求されるので、頭が悪いけれど推理力は抜群、なんてのはなし。たまにちょっと間違えることはあるけれど、「俺たちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない」! 作者の目論み通り、読み手をミスリードしつつ、最後は正しい方向に導いてくれるのが「探偵役」。

一方で、ミステリの中では、1本もの、つまり「続編」を考えないものもありますから(結果的に続編ができることはあるとしても)、主人公が事件に巻き込まれて(自分の身が危ないとか)、やむにやまれず探偵役をするというパターンもあります。この場合は「ドキドキ感」が大事で、読み手は主人公目線で事件に巻き込まれる、わけですね。
これ、時々、ダメだなぁと思うものに出会うことはありませんか? このタイプで主人公目線に立てなかったら(例えば、主人公が事件に巻き込まれる理由が「そんなん自分のせいやん」とか「そんなことあり得ない」とかで、初っ端からシラケられたらおしまいですね)、ミステリの構成としてよくできていても、何だかなぁで終わっちゃったり。
でも、今回はこのパターンについては、ちょっと置いといて。

「謎解き」役の探偵。
事件に巻き込まれているわけではなく、少し上から全体を見渡しながら(けいさんの仰るように「俯瞰して」)、読者に事件を紹介し、一緒に謎解きをしてくれる役割(だから、謎解きの時に「実はこっそりあの時こんなものを見つけていたんですよ」って後出しはなしよ! 時々あるけれど卑怯だ~)。いちいち感情や人生における立場まで事件に振り回されない、という立場です。
彼らの存在は、水戸黄門の印籠。
最後に「この紋所が目に入らぬか~」って、事件を解決してくれるんですよね。実はこの「お決まり」があるからこそ、面白いのであって、読むときにはそこに変則を求めているわけじゃないのですけれど、一味違う何かが欲しいのは書き手の欲ってものでしょうか。

最近のライトミステリというものでも、探偵役の属性には本屋、考古学者、霊能者、聖職者、教師、医者、あれこれあれこれ、何でもありって感じですよね。
で、ふと考えたわけです。うちの真、一応職業も探偵なのですけれど、どんな立ち位置になるのかしら、と。
彼の造形、と言えば。

某アメリカスパイ組織のスナイパー(日本人)と某東側国家政治家の大物の孫娘(ドイツ人とのハーフ)という禁断の恋の結果として出生。育ての親は北海道の競走馬牧場経営者の祖父と東京在住の脳外科医の伯父。
(周辺事情はややこしい。でも本人は結構普通の子ども)
小さい頃は外見のせいもあっていじめられっこで、友だちはコロボックルと馬と犬しかいないという不思議っ子。
(でも、両親がいない分、他の家族からは結構大事にされていた)

成長して、工学部の学生となったものの、あれこれあってバイトをしていた探偵事務所に雇われて、その後、バイト先の所長が事件を起こして服役したため独立、探偵事務所を経営するに至る。
伯父は失踪していて(多分死んでいる)、実の父親には色々な疑いと嫌悪を抱いている。
もと家庭教師で現在の同居人、伯父の失踪後親代わりでもあった男(大和竹流=ジョルジョ・ヴォルテラ)は、絵画修復師でレストランの経営者だけれど、元を正せばヴァチカンの警護組織の由緒正しき家系の御曹司。彼との間には複雑な関係がある(いや、恋愛ではないはず)。

外見。あまり大柄ではないと書いていますが、多分170程度(岡田君と同じくらいか。え?)。クォーターですから髪は明るめの黒茶(って?)。目は左は黒くて(茶黒?)、右は碧(みどり)。すごいイケメンではないけれど、野生のヤマネコみたいに印象的な顔をしている。じっと見てたら食い付かれそう?
病気。ちょっとばかりアスペルガーちっくな部分あり(でも、男の子って多かれ少なかれそんなものなんですけれどね)。できることとできないことに差がありすぎるし、社会性は低い。19の時、崖から落ちて意識不明の重体になっている。脾破裂で脾臓摘出後。頭の方は逆行性健忘を抱えている。

お話ですからね、少しだけ「かっこよく」書いているのです。
全然かっこよくない、ものすごく平凡な探偵のお話を読んでいたって、何だか楽しくないじゃないですか。少なくとも、生理的に受け付けないキャラが主人公だと絶対に読まない。できるならちょっと「美形」の方がいい。もちろん、小説なので見た目は読み手の想像だから、想像の中で自分の美意識の最低ラインはクリアしていなきゃ。そしてやっぱり、どこか「謎めいた部分」「かなりエキセントリックな部分」も欲しいじゃないですか。

つまり。
あり得ないほど複雑な出生の問題を抱えていて、あり得ないほど複雑な相手と絡んでいる。この辺は「物語」だなぁという感じ。凡人にはあんまりすごい事件は起こらないし……
でも、書いている時は、単に父親との親子葛藤に悩み、社会的には落伍者(いじめられっこ、変なものが見える、大学中退、あげく「探偵」などという胡散臭い仕事をしている)、精神的にはかなり過敏な部分があり、恋愛についても問題が大いにあり。
何もすごいことはなくて、結構みんなそんなもんじゃないの? という感じのキャラなんです。

特殊なスーパー能力は何もない……コロボックルや幽霊が見えたって、それで事件を解決できるわけじゃない(幽霊が「私を殺した犯人はあの人なの!」って教えてくれる話なんて読みたくないですよね)。馬と犬の扱いは天下一品だけれど、馬は東京のその辺をうろついていないし、犬がワンワン吠えて犯人を教えてくれる話を書いているわけじゃない。写真のように風景を覚える能力はあるけれど、それで一発事件解決にはならない。
けれど、ちょっとだけ剣道が強くて、シニカルなムードを漂わせつつも、実は精神的に事件には一生懸命のめり込む(ただのツンデレ、もしくは感情を表に出すことが苦手なだけ)。
なぜ事件に首を突っ込むか。「真実を知りたいから」(これもよくある台詞。でも、何であんたが知りたがるのよ! と思うこともある)なんてカッコいいことは全く思っていなくて、真の場合は「仕事だから」。

つまり、彼の場合。
事件に対しては基本は「探偵役」に徹したいけれど、どういうわけか、気が付いたら気持ちが入り込んでしまっている(親子葛藤に敏感だから?→【清明の雪】)、もしくは、実は自分が事件に巻き込まれている(【海に落ちる雨】)。自身の抱える問題(逆行性健忘)については、実はちょっとした「事件」があって、これについては次作【雪原の星月夜】で語られる。
そう、事件の探偵役もするけれど、実は自分自身も事件の輪を思い切り引っ掻き回している、そんな立ち位置。

あ、いっこだけ、特殊技能があった! 三味線が弾ける!(地味だ……)
いいのかなぁ、こんな探偵で……

そんな中、先日、このミス大賞にもなった「さよならドビュッシー」とそれに続く「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」を読みました。
さよならドビュッシー
結果的には自分の中では3作目の「いつまでもショパン」が一番面白かったのですが、それは1作目の「さよならドビュッシー」の「どんでん返し」に最初の部分(火事)で気が付いちゃったからですね。
普通はシリーズものって1作目が一番面白くて(たまに2作目ってこともあるけれど)、だんだんマンネリ化していくのですが(でも、そのお約束展開に安心するのは、私が吉本新喜劇世代だから、かしら。お約束ギャグを待っているのよ)……
ちなみに私、シリーズものは1作目を無事に読み切ったら(1作目の途中で飽きちゃったものもあるので)、大体3作は読んでいます。その後続くかどうかは……だけど。

1作目。「どんでん返し」って何やねん、と興味津々で読み始めたわけでもないのですが、ついつい書き手の立場で読んでしまった。私ならこの書き出し・設定ならこの先の展開はこうする、と思っていたら、内容が大体見えて、そうなると読みながら伏線が出てくるたびに「そうそう」とか思っちゃって。
つくづく、ミステリは読み手に徹しないと面白くないと感じました。しかも3作とも、最初から犯人~裏事情まで読めちゃってたのですが、これは作者さんと私の思考回路が同じ方向性だったから、なのかしら。いや、それはあまりにもおこがましいのだけれど。

3作目はね、スケールが大きかったのです。しかも私の大好きなコンクールという背景で。コンクールのノンフィクションは、すごい昔に中村紘子さんの「チャイコフスキーコンクール」を拝読して以来、なんて面白いんだ! と思っていたのですが、物語にその面白さが生かされていました。
スケールが大きいもの(ハチャメチャじゃなくて)はやっぱり面白いんだなぁと思った次第。
あ、でも、「あとがき」にあるように音楽の分析・描写はすごいのですけれど、ちょっとくどいかなぁと思ったのは私だけ? 申し訳ないけれど、途中から結構飛ばして読んでいました。

でも、結構3作とも色んな意味で面白く拝読したのです。ちなみに、探偵役はピアニスト。
で、ちょっと面白いと思ったのは、毎回(3作とも)、語り手は「探偵」ではないのですよ。
語り手、つまり視点は、別の音楽家(もしくは音楽部の生徒、3作とも別の人物)。
だから探偵の造形はその「別の視点」から描かれていて、探偵役の「スーパーぶり」が鼻につかないようになっているんですね。そう、主人公視点がもしこの探偵にあったら、結構嫌味な感じになるかも、と思う部分が、上手くオブラートに包まれている。
実は、この探偵にもハンデがあるのですけれど、それは欠点というよりも、あくまでも「ハンデ」。ある病気を抱えているのですね。

でも病気の類が小説で書かれると、その人物の欠点ではなくて、書きようによっては美点にしかならない(乗り越えようとする姿が美しい、という)。残念ながら現実の世界では美点というわけにはいかないことの方が多いのですが、物語の中では(物語の中だからこそ)、むしろその姿は更なるスーパーぶりに見えて、ち、なんだよ、かっこいいだけじゃん、って思ってしまうかもしれません。
もし、この探偵役視点で物語が書かれていたら、ちょっとイラッとする部分があったかも……どうせあなたはスーパーマンよね、って(何しろピアニストなのに、ある事情で司法関係にむっちゃ詳しい)。

そう、探偵役って、時々俯瞰の立場に立ちすぎて、自分は何も「手を汚さず」、かっこいいことだけ言って、しかもその能力ときたら妙にピカピカ光る……そんな探偵に感情移入はできない、というより、何だかイラッとする、ってことになったりするんですよね。……いや、そもそも探偵って感情移入されるものではないのでしょう。
そこで必要なのが、ワトソン君なのですよね!
いや、ホームズのワトソンは「道化役」ではなくて、あれはあれでかっこいい役回りですけれど。
(私は最近の映画のワトソン君の立ち位置が結構気に入っています。エキセントリックなホームズも)

こちらのシリーズでは、主人公(視点)は探偵以外の音楽家で、音楽の部分では悩んでいたり、それぞれ色んな立場で事件に巻き込まれて困っていたり。つまり、事件以外の部分では、音楽とも真剣に向かい合わなければならなくて、その分音楽の描写に無茶苦茶力が入っているのです(いや、ちょっと入り過ぎで全部読んでいられないのですけれど)。
ある意味では青春スポ根(いや音楽根か)、語り手のキャラ=主人公にとっては成長もの、と言えるのかもしれません。
そう、彼らが立派にワトソン役を務めているのです。

つまり。
「職業的に刑事でも探偵でもない人物が、行く先々でそんなに事件に巻き込まれるものか」という点はさておいて、ミステリ+青春音楽物語、という図式で何かを補い合っている作品、と言えるのかもしれません。
いわゆる多重構造ですね。一見別々のものをコラボさせる。どんな業界でもこの「コラボ」「化学反応」が今はブームなのかも。組み合わせの妙ですね。

じゃ、うちのは。
ミステリもどき(えぇ、あくまでも「なんちゃってミステリ」です)+主人公の人生物語、この2つがコラボする話、かな。むしろ真の人生の中に、彼がたまたま探偵なので事件が絡むだけ、なのかもしれません。
そういう意味では、まったく同じ作りの【奇跡を売る店】シリーズ。血の繋がらない(しかも性格も可愛くない)病気の子どもを育てている主人公。もともと小児科医で、患者の親とできちゃったため婚約者と別れて、医者もやめて、寺に居候しながら元患者の子どもを育てているというへんちくりんな人生。ショウパブのホールをしているけれど、ついでに昼間はたまたま失踪した叔父が残した探偵事務所で留守番をしているから、事件が持ち込まれる(いや、あれは石屋の婆さんのせいか……)。

考えてみれば、ミステリ・探偵ものは、事件が起こってそれを解決する(それはどんな物語も同じなのかもしれませんが)、というお約束があるので、どこかでステレオタイプになってしまいそう。
ステレオタイプ・王道って、実はやっぱり面白いし、笑えるし、泣けるんですよね。捻っても捻っても、王道には勝てない。だから、本当はステレオタイプでいいのだけれど、書いている方としてはどうしても捻りが欲しい。
だから書き手は一生懸命考えるのかも。「オリジナリティが欲しい!」と。でも、それさえもステレオタイプになっていく今日この頃、実は突飛なことを書くよりも、真面目にわが愛する「探偵」を書きこんでいく、物語の中で動かしていくことが一番大事なんですよね。動いてこそ、周囲の人間にもまれてこそ、キャラは生きていく。

……こうして、感情移入相手ではない探偵役に厚みを持たせる試みは、果てしなく続くのであった。

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【迷探偵マコトの事件簿】(18) マコトの歳時記~風薫る5月~ 

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(イラスト:limeさん)
本当は5月5日に間に合わせるつもりだったのに、少しだけ遅れてしまったけれど、5月のマコトをお届けします。
そう、マコトも男の子ですから、端午の節句にちょっぴりファンタジックな物語を(^^)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】(18)マコトの歳時記~風薫る5月~

おそとの風が気持ちよくなってきた~
ぼくはねこのドアからベランダに出て、風のにおいをかいでみる。
海のにおいがするよ。
それにね、つきじの方からときどき、おさかなのにおいもするの。
ぼくはベランダの手すりのむこうをのぞきこんで、くんくん。
あれ?

ぼくはふと、せのびをして下の方をみおろしてみた。
タケルがね、ぼくが落っこちないように、でもちょっとだけ遠くが見えるように、ねこのタワーを置いてくれてるの。
そのてっぺんから見たら、したのほうで、何かひらひらしてる。
くろいのと、あかいのと、あおいの。

わ~!! タケル~~~!!!

ぼくはあわててねこタワーを飛び下りて、ねこのドアから家の中にもどる。
タケルはおべんきょうの本を読んでいるとこ。
ぼくはソファの下から、にゃあにゃあ呼んでみた。

あのね、タケル、あのね! おさかなが下のお空でおよいでる~~!!

タケルはふしぎそうにぼくを見た。
ぼくがうしろをふり返りながらベランダに行くと、タケルがついてくる。
ぼくはねこのタワーにのぼって、てっぺんでにゃあにゃあ。
「あぁ、あれはこいのぼりだ。そうか、おまえも男の子だったな」

こいのぼり?
それ、おいしいの?

それでね! タケルはぼくにもこいのぼりを買ってくれたの!
わ~、ぺっちゃんこのひらひら~。目がおっきい~!
くんくん。
……においはないね。
かぷっと。
……おいしくないね。

「食べるものじゃないよ。これは男の子が元気に大きく育つようにって、おまじないみたいなものだから。よし、これでいい」
マンションのベランダだから、ちょっと小さいめなんだって。
ねこにはちょうどいいよね。

くろいのと、あかいのと、あおいの。
3匹ならんでひらひら~
てっぺんでカラカラカラ~ってかざぐるまが回ってる!
わ~いい! ぼくのこいのぼり~!!
おっきくなるおまじない~!

「ちまきは食べられないから、そうだ、せいくらべをしようか」
……せいくらべってなに?

タケルは今度はおしごとのえのぐを持ってきて、まっ白いカベにお絵かきをはじめた。
ちゃいろと白。ちゃいろと白。ちゃいろと白。
わ、耳! それから小さいあたま、おせなか、おしっぽ!
……これ、ぼく?

それからタケルはぼくを絵のよこに並ばせて、しっぽの長さをはかった。
それから、しっぽの絵の上に、数字を書いた。
「これは今日の日付。少し大きくなったら横に並んでみる。そうしたら、どのくらい大きくなったか分かるだろう?」

ぼくは毎日、こいのぼりを見上げる。
低いお空で風にひらひら~
ときどきツキジのおさかなのにおい。

夜中になったら、ぼくはそうっと起きて、ベッドから飛び降りる。
ぼくはまだちっさいから、ベッドのすみっこのおふとんにつかまりながら、だけど。
それから、リビングのカベに行って、昨日のぼくと並んでみる。
しっぽをまっすぐに伸ばして。
う~っと伸びてみて、後ろをふり返ってみる。

わ。
ぼく、昨日のぼくより、1ミリくらいおっきくなってるよね!
ぼくはとってもまんぞく。
1日に1ミリ。3日で3ミリ。365日で365ミリ。
そうしたら、ぼく、ヒョウになれるね!

ぼくはねこのドアからこっそり外に出てみる。
<やぁ、マコト、今夜も来たね!>
大きいお父さんのコイがぼくに呼びかける。
うん、ぼく、来たよ!
大きいお父さんがぼくを背中にのっけてくれる。

しゅっぱつしんこう~!
ぼくは、お星さまがいっぱいのお空にまいあがる。
お母さんのコイと、子どものコイもいっしょにお空をさんぽ。
わぁ、おそらにも、地上にもお星さまがいっぱい!
お空から見たら、海もキラキラ光ってる! おさかなが光ってる!

あのね、お父さん、ぼく、今日1ミリだけおっきくなってたよ!
365日くらいしたら、ぼく、ヒョウになってると思うんだ。
ヒョウになったら、もうお父さんのおせなかに乗れないけど、ぼくね、おっきくなってヒョウになったら、タケルをおせなかに乗っけてあげて、いっぱい走るんだ。

お父さんは<がんばれ!>というように、大きくしっぽを動かした。
ぼくも1ミリだけおっきくなったしっぽをふってみた。
おそらには風のにおい。
海からは、まほうみたいにキラキラがのぼってくる。
おおきな風はまあるいちきゅうをぐるっと回って、またぼくのところにかえってくる。

ぼくはいつの間にかすやすや………
ねる子は育つから、ぼく、いっしょうけんめいお休みするね。

かぜかおる5月。
ぼくはちきゅうみたいにまあるくなって眠る。
ヒョウになって、タケルをのっけて、地平線のずっと向こうまで走っていく夢をみながら。




イラストはlimeさん(小説ブログ「DOOR」)に頂きました。著作権はlimeさんにあります。無断の転用はお断りいたします。

ちょっとファンタジーな物語をお送りしてみました。
というのも、なぜか頭の中で「せいくらべ」の歌詞がぐるぐるしていまして。
猫ってどうやって背比べするのかな? なんて間の抜けたことを考えていたら、こんな話に。
えぇ、何の捻りもありません^^; 
ちなみに、猫の大きさは「体高」(前肢 肩付近の高さ)、「体長」(横から見て胸から尻まで)、「全長」(横から見て頭部の先端から尾の先端までの長さ)で測るようですが、なんか尻尾を測ってるのが可愛い気がして。
よく考えたら、尻尾だけ測っても何の役にも立ちそうにありませんが、ま、どうせ、昨日と比べて1ミリ伸びてるとか言っている(しかも、ちょっと背伸びしてるし)マコトには、体格測定なんて何の意味もありませんが^^;

参考歌詞:「せいくらべ」「365歩のマーチ」??
歌の通りなら、「3歩進んで、2歩下がる」……(マコト、ショックで寝込みそう)

ちなみに「せいくらべ」の2番って、壮大な歌詞だったんですね。

童謡って時々、最後まで聞いたらすごい歌詞ってのがありますよね。「ぞうさん」も2番まで聞いたら、あぁ、これってすごい親子愛の歌だったのね、と思うし。

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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【物語を遊ぼう】18-1.今更ながら考える、キャラの魅力 

ミステリーとキャラの関係についてちょっと考えていたら、最近は「キャラミステリー」なんて呼び方もされる分野があるそうで……でも、よく見てみたら、単に本の表紙がイラスト付きで本屋で手に取ってもらいやすい、一見ライトノベルっぽいミステリーのこと……(なのかな?)
いわゆるライトノベルにおける「萌え系」「仮想世界もの」とは少し違っている、軽めのミステリーというもののようですが。

でも、よく考えてみたら、古くからミステリー界(探偵界?)には魅力的なキャラが沢山いたし(ポアロ、コロンボ、ホームズ、明智小五郎、金田一耕助……)、ちょっと渋みがある独特なキャラたちだけれど、ある年代の者にとっては十分に「萌え系」かつ「キャラミステリー(私の中では「キャラを楽しむミステリー」という意味合い)だったのですね。

なぜこんなことを考えているのかというと。
ミステリーって筋立てが一番で、上手い組み立てのミステリーを読むと惚れ惚れするなぁと思うのですが、ものすごく後から読み返したときに、どんな話だったか、犯人は誰だったか、ちっとも覚えていないということがあったり(酷い時は、途中まで読んでから、あれ、これ、前にも読んだわ、ってことが……。もしかすると、私の記憶力がひどすぎるだけ?)。

一方で、どこかに引っかかるキャラが登場しているとそれはしっかり覚えていたりします。ストーリーかキャラか、って以前にも記事に書いたことがありますが(【物語を遊ぼう】14.物語はストーリーかキャラか)、結局忘れられないのは「キャラ」なんですよね。

もちろん、読み手によって、感動のポイント、記憶の回路に違いがあると思うので、皆が皆、同じとは思いませんが、私はどうもキャラで記憶する、という回路なんだなぁと。
書き手としては、ストーリーテラーでありたい、と思うのだけれど。

キャラが立っている、という言葉はあまり好きではないので、素直に魅力的と表現したいと思いますが、魅力的なキャラってどんなものか、ちょっとググっただけでもいっぱい出てきます。
大筋をまとめると。

・完璧な人間ではなく、欠点があること。逆に、普段はダメダメでも何か1つすごい能力があって、最後にすごい力を発揮する。(ちなみに、その能力は「そんなんありか~?」という超人的・意外性のあるものがいい。ありきたりではインパクトがなさすぎるし、読んだときの爽快感がない。そしてその「そんなんありか?」の違和感を感じさせないための裏付けを書けるかどうかが作者の力量?)
・「萌える」要素があること。男性だと「メイド」「妹」「巫女」? 女性だと「王子様」「美少年」「一匹狼」?、状況設定では「ツンデレ」「幼馴染」「同窓会」「同性愛要素(友情でもいい)」……?
・ギャップがあること。例えば、外見と中身にギャップがある。または「凡人」(読者が親近感を覚える部分)と「超人」(読者が理想とする何かがあること)の部分を併せ持っている。この「隙間」に物語が生まれ、葛藤が描かれる。
・読み手が、キャラとの間に人間関係を築いていけるような人物、つまり「成長」「変化」ののりしろが必要。

いずれも「さもありなん」ですが、ここで心配なのは、あまりにもステレオタイプだと「またか」ってことにならないのかってことですよね。すごい能力をもっている人物が欠点・不幸な病気を背負っている、とか、ドジで平凡な女の子(でも眼鏡を外したらけっこう可愛い)が健気に頑張る、なんて、何だか食傷気味になってしまわないかしら、と。
でも、以前、逆に「徹底的に嫌われる人間を主人公にする」という挑戦をしたとしか思えない小説を読んだことがありますが、やっぱりその人物には全く魅力を感じず、感情移入もできず、読後感もいまひとつだった。

う~ん。あまりにも突飛なことを考えず、ステレオタイプも悪くないのかも。
凄い美形でなくても書き手にとって「美」の要素があって、悩みは多いけれど健気に頑張っていて、ちょっとツンデレで感情はあまり表に出さないけれど想いは深くて、時々熱血漢になったりして、ついでにどこかに水戸黄門の印籠要素を持っている。
あるいは、もう「とにかく可愛いから許しちゃえ!」キャラを書きたいときは、人間だと腹が立つだけだから、猫にしちゃうとか。
……そんなキャラでいいよね。

結局は、記憶に残っているキャラ=お気に入りのキャラも、そんなに突飛な人物ではなくて、「(性格は別にして?)健気に頑張っている」ステレオタイプのキャラなんですよね。
やっぱり、書いている自分が「萌える」ことができるキャラでないと、ね。

Category: 物語を遊ぼう(小説談義)

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【8888Hitリクエスト・短編】人喰い屋敷の少年・(7)飽和状態~重い夕闇~ 

limeさん
【人喰い屋敷の少年】第7話です。間が空いてしまってごめんなさい。
多重視点って書き慣れていないので(長編ではあるのだけれど、シーンがコロコロ変わる短編ではあまりなくて)、右往左往してしまいました。今回は特に真視点のないままになりそうだったのですが、それではちょっと主役の面目が?と思って、ねじ込んじゃった。
やっぱりサービスシーンは必要だよね、と思ったけれど、何のサービスもなかった。『水戸黄門』における由美さんの入浴シーンみたいなサービスシーン、やっぱりお話には必要な気がしてきた。

今回は色んな人物がそろそろ動き始めようとしているようです。それも、探偵がうろうろし始めたから、みたいですね。裏で糸を引いているのは誰か、そう、もちろんあの人?

ちなみに第1~6話はこちら→(1)カグラの店(2)夫の死を願う女(3)人を喰らう屋敷(4)女の事情と猫を抱いた少年(5)役者は揃った(6)白い猫を抱いた少年
*冒頭のイラストの著作権はlimeさんにあります。

登場人物
相川真>大学を中退し、唐沢調査事務所に勤めている私立探偵見習。子どもの頃の遊び相手はコロボックルという不思議青年。3年ほど前に崖から落ちて生死の境をさまよってから、ますます霊感に磨きがかかっているという噂もあり。
カグラ>真の上司・唐沢が出入りする三畳酒場の女主人。本人がホラーのような存在。
作家>カグラの店の常連。本当に小説家かどうかは不明。真を観察して小説のネタにしようとしているらしい。
教授>カグラの店の常連。何の教授か、本当に教授か不明。おっとりとした声で理屈を言うのでそう呼ばれている。
窓さん>カグラの店の常連。いつも酔っ払っているサラリーマン。
松岡綾>真の依頼人。7年前に失踪した夫・松岡圭吾の生死を知りたいという。
ルカ>「人を喰らう屋敷」で真が出会った、白い猫を抱いた少年。
唐沢>真の勤め先『唐沢調査事務所』の所長。戦時中は十代、その後アメリカにも長く住んでいた、傭兵あがりのおっちゃん。ギャンブルと酒と女が好き。ちゃらんぽらんだが、どこか憎めない。
三上>真の勤め先『唐沢調査事務所』の先輩。真のいいアニキ。
田代>7年前、綾の夫・松岡圭吾の失踪事件を調査した班の元刑事。若くして警察に嫌気がさし、今は喫茶店をやっている。
真田>綾の夫・松岡の元同僚の刑事。松岡は、綾と真田の関係を疑っていた。



【人喰い屋敷の少年】(7)飽和状態~重い夕闇~


「ねぇ、シャーロック。あの人のことを信じてもいいと思う?」
 白い猫は何も答えずにじっと少年の顔を見つめている。
 ルカは猫の背中を撫でていた。いつも「あの子」がしていたように。
 正直なところ、少し混乱していた。「味方」がいるとは思ってもみなかったのだ。

 味方? ルカは自分が思いついた言葉を少し不思議な気持ちで反芻した。
 これまで、他人に対して味方とか敵とか、そういう言葉を当てはめて考えてみようとは思っていなかった。大人がズルいとか悪いとまでは思っていないが、信じるに値するとまでは思っていない。だから、ルカにとってそこにいる人たちはただ「そこにる」だけで、それ以上の意味はあまりなかったのだ。

 でも、あの人はちょっとだけ、これまで会った人たちと違っていた。
 ルカはもう一度白い猫の背中を尾まで撫でた。白い猫の背中は夕陽の中でも真っ白のままで、穢れも染みのひとつもなかった。
「お前のこと、ちゃんと見える人がいるなんて」

 先生たちはルカのこの奇妙な能力について、非難はしないし否定もしないが、ルカを信じているようにはみえない。子どもには一時的にそういう時期があるのだと思っていて、ルカを傷つけないようにしてくれているのだろう。
 ルカがまだ小さい時は、周りはただ話を合わせていてくれているだけのようだったが、そのうちに他の子どもたちがルカのことを少し気味悪く見るようになり、やがてルカの方が学習した。
 こういうことはあまり他人に言わない方がいいのだということを、だ。

 でも、あの探偵はシャーロックとちゃんと視線が合っていた。
 思いがけず門倉家で会った時にも、ルカはそれを感じたのだ。
 ルカ、とドアの外から雅美先生の声が聞こえる。もう七時なのだ。この施設の朝食と夕食はどちらも七時と決まっていた。

 太陽は大きく傾いていたが、夏の闇はまだ地球の自転の角度からずれていて、ここには届いていないようだ。四人部屋だが、今ここにはルカしか残っていない。皆食事までの時間を共同スペースで過ごしているのだろう。
 白い壁、その壁に張り付くように置かれた二つの木枠の二段ベッド、今日取り替えられたばかりの白いシーツと枕カバー、窓際に置かれた四人分の机、ランドセルや鞄、靴入れ、机の上の教科書。

 ルカは二段ベッドの上段で膝を抱えた。ベッド柵に小さな蜘蛛が歩いていた。ルカはそっと手を差し伸べた。蜘蛛はルカの手を避けるようにして、ベッド柵から飛び降りた。
 蜘蛛の糸がふわっと風に煽られて、黄金に照り輝いた。
 あの子がいたからあの家の子どもになった。あの子が一人ぼっちで困っていると思ったから、友だちになろうと思った。

 ルカは一歳の時に『かなえ養護施設』に来た。もちろんその頃のはっきりとした記憶はない。他の子どもたちと自分が少し違うと思ったこともなかったし、両親がいないことを寂しいと思うこともなかった。ルカには友だちがたくさんいたからだ。後で気が付いたことだが、少しだけおかしいのは、その友だちが他の誰にも見えないことだった。
 施設の他の子どもたちがルカのことを少し変だと思っていることに気が付いたと同時に、どうやら友だちの方もルカ以外の人には会いたくないらしいと感じたので、それからはあまり施設のみんなに友だちの話はしないようにした。

 七年前、門倉の「お父さん」と「お母さん」がルカに会いに来た。ルカには二人がとても歳をとっているように見えた。彼らは小さな男の子を連れていた。ルカと同い年くらいの男の子だった。
 どうして「お父さん」も「お母さん」も佳苗先生たちもこの子のことを紹介してくれないし、話題にもしないんだろうと思ったが、すぐにその事情は呑み込めた。

 きっとこの子は「友だち」なのだ。この子も他の友だちと同じように、ルカ以外の人間とは話をしたくないに違いない。だから黙っていることにした。
 ルカにしか見えない友だち。
 それが死者たちだと気が付いたのはもっとずっと後になってからだったが、その時はただ新しい友だちがルカを必要としていると感じたので、門倉の家に行き、いつの間にかルカは門倉の子どもになっていた。

「お父さん」も「お母さん」も優しかったし、友だちとの秘密の時間は楽しかった。だからルカは何の疑問も感じずに門倉の家に馴染んでいた、はずだった。
 あの女の人が戻って来てから、少しだけ様子がおかしくなった。

 いや、初めからおかしかったのだ。何故なら新しい両親はルカに別の名前を与えた。だからルカは混乱した。彼らがルカに与えた名前は、友だちの名前だったからだ。
 どうして「お父さん」と「お母さん」は友だちの名前で僕を呼ぶのだろう?
 ルカはその疑問をいつものように飲み込んだ。これは聞いてはいけないことだ。大人に質問したり確認したりしてはいけないことがあることを、ルカはもうずっと前から知っていた。

 あの女の人はルカのことを友だちの名前で呼ぶことはなかった。「お父さん」と「お母さん」の前では呼んでいたかもしれないが、彼らのいない時、彼女はまるでルカのことが見えないように振る舞った。
 それでも、あの人がじっとルカのことを見ていることは分かっていた。
 彼女は絵を描いた。それはルカの顔であり、あの子の顔でもあった。ルカは自分が「ルカ」なのか、あの子なのか、時々分からなくなった。

「ルカ」
 雅美先生の声が聞こえる。ルカは我に返り、慌てて二段ベッドの梯子を半分まで降りた。それからシャーロックに、待ってて、と話かけ、梯子から飛び降りた。ルカの髪は、窓から差し込む光で、蜘蛛の糸と同じように金に光った。
 明日、あの探偵が訪ねて来る。彼が「味方」だという確信はない。もしかすると大人たちがやって来て、本当のことを覆い隠してしまうかもしれない。

 ルカは決心した。
 今夜、あの家に行こう。あいつがあの子を殺した証拠は、僕がきっと探し出す。


 綾はその扉を開けるべきかどうか、躊躇っていた。
 細い廊下はずっと果ての方まで続いている。その先の小さな窓からは夕陽が紅の光を注ぎ込んでいるが、長い廊下のこの場所までは届かない。油をしみ込ませた黒ずんだ木の廊下は、時折ガタガタと振動する。電車が脇を通っていくのだ。

 黒い廊下の染みが足元から昇って来て、綾の白いワンピースを染め変えてしまった。ゆらめく衣が微かに素足に触れている。生暖かい風が両脚の隙間を撫でていく。綾はふるっと身震いした。
 街は確かに動いている。だがこの廊下だけが異次元に繋がる別の空間に変わってしまったのか、今ここには誰の気配も感じられない。

 でも、この小さな扉の向こうには真実を知る者がいる。
 綾の前で扉は固く閉ざされている。もう何十年も一度も開かれたことがない、沈みこんだ暗い影の塊のように見える。鈍い銀色のドアノブに触れたら、きっと氷のように冷たいのだろう。
「綾さん」
 誰かが綾に呼びかけている。
「松岡綾さん」
 綾は顔を上げる。

 重い音をたてて扉が開く。向こうから、能面のような顔をした白い影が綾に近付いてくる。
 この影はついに罪人の襟首を捕まえに来た。私は、捕まってしまう前にどうしても知りたいのだ。あの時、あの人が「彼」を殺してくれたのかどうか。今でもあの人が私を愛してくれているのなら、きっと私は少しだけ救われる。
「綾さん」
 影がもう一度呼んだ。

 そう、この影は知っているのだ。私があの子を殺してしまったことを。何故なら私はそのことをこの影に打ち明けてしまったのだから。
 影に腕を掴まれそうになって、綾は慌ててその手を振り払った。

 階段を駆け下りながら、綾はあの占い師の言葉を思い出していた。
 ほらごらん。『悪魔』が逆位置で出ている。どう解釈するかはお前次第だが、これだけは言っておくよ。お前が求める愛を与えてくれる男はいない。何故ならお前の方は与えていないからだ。お前は、男が他の誰かよりもお前のことを愛しているかどうか比べようとする。だが、本当に愛する者は、その愛を何かと比べたりはしない。自分の全てをかけて愛するから、比べようがないのだ。

 綾は答えた。
 私は決して断罪されることや死ぬことを恐れているわけではないの。でも愛を確かめずには、生きていくことができない。
 占い師はもう一枚、カードをめくった。

 それなら、死者を呼び出して聞いてみるかい。探偵を雇うんだね。お前の夫は元刑事だったんだろう。昔の知り合いに、そんな仕事をしている連中がいないか、聞いてみるんだね。探偵に会ったら必ず聞くんだよ。「死者の口寄せができるか」ってね。肝要なのはそのところだ。
 占い師がテーブルに残したカードは、正位置の『死神』だった。

 夏の太陽は傾くまでには時間がかかるのに、傾いてしまってから姿を消すまでの時間は意外に短い。一瞬に闇に閉ざされようとする街を綾は急いでいた。影は長く、駅の階段を夕闇に沈めている。人々の顔はその影で全く実体がないまでにかき消されていく。山手線のホームに続く階段を上り切った綾の白いワンピースの裾は、黒い影と残照の茜を纏いながら風に身を任せていた。

 あの探偵はもしかすると死神なのかもしれない。誰かが彼の元へ私を誘ったのだ。
 山手線は東京の街を巡っている。闇に沈もうとする街の景色は、少しずつ色を失って行く。幾つものホームが並び賑やかな光を纏う街も、大きな木々に覆われる森のある街も、静かに家路を辿る人を受け入れる街も、ゆっくりとモノトーンに落ちていく。

 そのどこかの駅で、綾は不意に他の乗客に押し出されるようにしてホームに降り立った。
 降り立った途端に、時間が逆戻りした。あるいは乗っていたのは、過去へ戻る電車だったのか。足は自然に人の流れを追いかけて、ホームの階段を上っていく。

 綾はいつの間にか、もう長く訪れたことのない道を歩いていた。
 この道は七年前から綾にとって存在しない道だったのに、今もこうして現実のものとして確かにここにある。
 やがて綾は立派な門構えの一軒の家の前に立ち止まる。
 薄闇の中で街灯がジジと音を立て、幾匹もの蛾が作る影が淡く踊っている。
 固く閉ざされた門。門の向こうには、すっかり手入れされなくなった木々が屋敷を覆って、一塊の黒い魔物のように見える。

『人喰い屋敷』という名前に相応しい家だ。
 ここで、一緒に死ぬこともできたのに。
 綾はそっと門に手を触れ、軽く押してみた。ぎっと木が擦れるような音がしたが、門はびくともしなかった。
 その音に重なるように、声が聞こえた。

「綾さん」
 一瞬、あの影が追って来たのかと思った。やはり逃げきれないということなのかもしれない。
「お嬢さん、門倉綾さん」
 綾ははっと顔を上げた。
「やはりあなたですか」

 恐る恐る振り返ると、街灯の下に男が立っていた。夏というのに、まるで暑さを感じないようにきちんとスーツを着て、背を真っ直ぐに伸ばしている。風の中に微かに整髪剤の香りが漂っていた。
 一体、何故この男がこんなところに。
 男が一歩近づいてきた時、綾は一歩下がり、その背中に閉ざされた木の扉の気配を受け止めた。背中に何か重いものが圧し掛かってくる。

 綾はその重さを振り切るように、駅とは反対の方向へ走り始めた。
 死神はあの探偵ではなく、別の男だったのか。
 男は追いかけてはこなかった。だが、別の死神が綾の背中にぴったりと貼り付いていた。


 そろそろ日が暮れる。いい加減に非番の日に飲み歩くのは止めにしないと、普段の仕事にも差し支えるようになる。何より、そのうち本物のアル中になって身体を壊すに違いない。
 真田は駅前の商店街で買ってきた、コロッケと串揚げの茶色い紙袋を見て溜息をついた。

 田代の言う通り、嫁でももらって落ち着くのがいいのかもしれない。いや、こんなくたびれた、見かけはすっかり中年の刑事のところに嫁に来る奇特な女性はいないだろう。
 それに、俺も年甲斐もなく溜息なんぞつくようになったかと思うと、我ながらジジ臭くなったものだと感じた。まだまだ若いと思っていたが、十年も若い世代が新しく入ってくるようになると、時間の流れを嫌でも感じさせられる。

 嫁か……
 真田の脳裏には一人の女性の顔が浮かんでいる。
 哀れな女だと思う。彼女はいつも愛を求めていた。愛だけを求めていて、身体が傷つく事よりも、愛されていないと感じることに恐怖を覚えているようだった。愛さているという実感を得ることだけが、彼女を生かしていたのかもしれない。

 真田にとって、彼女はあくまでも先輩刑事の妻だった。だが、時には哀れという感情の中身がぶれることもある。人の心ほど確認し難いものは無い。今でも、これが恋か愛かと聞かれたら、憐憫以上の何もでもないと答えることはできる。だが憐憫が愛情ではないという分類もできない。
 愛情は複雑な成分でできている。純粋さではなく、憎しみや嫉妬も、その中には入りこんでいるのだから。

 ただひとつだけ分かっていることがある。
 このことが片付かないと、自分の中で踏ん切りがつかない。
 真田はポケットの中身を探りながら、アパートの階段を上りかけた。錆びた鉄製の階段に、低く傾いた夏の夕陽が作る長い複雑な影が交錯する。
 鍵を探していた手が、ポケットの底に小さな穴を探り当てた。

 こんな小さな綻びがやがては大きくなって、大事なものをとり零していくんだろうな。
 最近は全く酒が抜けきったことのない頭を振って、ポケットの穴という現実的なものから哲学めいたことを思いついた自分に感心していたら、階下から呼び止められた。

「ちょっと、真田さん」
 アパートの大家のおばさんだ。寮を出た時に、結婚して引っ越した他の刑事から紹介された。口が堅いから安心だと言われたのだが、本当にそうなのか、真田は基本的に他人を信用していないので、自分からはあまり話しかけないようにしている。
 むろん、アパートの他の住人には「特に愛想の悪い奴」と思われない程度に挨拶をする。目立たないことが肝要で、警察官であることを知らさないようにしているが、さすがにこの大家だけは知っていた。

 大家は太ってはいるものの機敏な動きで真田の傍までやって来た。
「今日あんたを訪ねて人がやって来たよ」
「俺を?」
 大家は二度頷いた。
「刑事を調べようなんて、変な探偵事務所もあるもんだね」

 大家の方では、刑事である真田に協力したい気持ちは大いにあるのだろう。戦利品を自慢するように、スカートのポケットから名刺を取り出した。
 真田は思わず舌打ちした。

 いつかはやって来ると思っていたが、ついに俺のところまでたどり着いたとなると、そうそう悠長にもしていられない。
 真田は田代の喫茶店にやって来た二人連れを思い出した。若い探偵だけならともかく、あの中年の方はどう見てもきな臭い顔をしていた。いい加減さを纏っていたものの、あの顔の下からは獣の臭いがしていた。百戦錬磨、あらゆるやばいことを潜り抜けてきたという顔つきだ。

 名刺を受け取り、大家に礼を言って背を向けてから、真田は胸の前で名刺をくしゃりと握り込んだ。
 探偵などという胡散臭い連中に物事を引っ掻き回される前に、何としてでも先輩を見つけ出したい。たとえそれが遺体であっても。
 それは決して、綾のためではなかった。

 門倉家の屋敷。『人喰い屋敷』などという奇妙な噂を振り撒いた奴が誰かは分かっている。そいつが「犯罪現場」に人を近付けないために振り撒いた噂だ。
 敷地内に入り込んでみたことはあるものの(それで十分不法侵入で罪なのだが)、いくらなんでも現役の刑事が窓を割って家に侵入するというわけにもいかないと思っていた。だが、あそこには絶対に何かがある。

 松岡圭吾。
 その男に真田はけりをつけなければならなかった。


「やはり来ましたね」
 真は意識して肩の力を抜いた。開け放した窓から風が吹き込んで来るが、決して気持ちのいい風ではない。じっとりと熱気と湿気を含んだ風だ。それでも重く湿った風が木々の葉をこする音は、少しだけ気温を下げてくれる。
 だが、その音が気持ちまでも落ち着かせてくれるわけでは無い。
 隣接する門倉家の木々のざわめくような音だ。不安と緊張の色を帯びている。

「そんなに怖い顔をなさらずに、ね、座りましょうよ、探偵さん。そうそう、冷たいお茶でもいかがですか」
「お構いなく」
 和室の床に薄い絨毯を敷いて、そこにテーブルと椅子を置いてある。
 まだ外はほんのりと明るかったが、既に陽は落ちていて、部屋の中で相手の表情を見分けるのは難しかった。テーブルの白い布に、スタンドの灯りが作ったオレンジの光の輪がぼんやりと反射して、あたりに濃淡の深い影をいくつも浮かび上がらせていた。
 真が座ると、相手の男は満足したような顔になり、自分も椅子を引いた。

 唐沢の「教育」は徹底していた。出先で出された飲食物は絶対に口にするな、というのだ。唐沢がそう言うのにはもちろん理由がある。毒でも盛られていたら、ということだ。もちろん、世の中にそうそう他人に毒を盛ろうという連中がいるとは思えないが、唐沢はニヤニヤ笑って下品な一言を付け加えることを忘れない。
 女だったら毒じゃなくても睡眠薬だけでも、何をされるか分からないだろ。いや、男だからって、お前は気を付けた方がいい。お前を眠らせてやっちまおうって奴は、俺が知ってるだけでも片手では足りないからな。
 まったくあのおっさんは。

「さて、探偵さん、我々が情報を共有することはとても有意義なことだと思いませんか」
 事実はある程度分かったつもりだった。だが目的は何だ?
 真は相手をじっと見つめた。他意はないのだが、こうしてじっと相手を見つめるだけで、相手は「怖い顔」だと言う。真には自覚はない。

「まずは、探偵さんがここを突き止めた理由をお聞きしましょうか」
「僕が確認したいのは、どの時点からあなたが関わっているのかということです」
「先に俺は探偵さんの名推理を聞きたいですね。迷探偵の謎解きシーン。今度の作品に使えそうだ」
 そう言いながら、すっとアルミの灰皿が差し出した。真は動かなかった。

「僕の方の理由は簡単です。あなたは、門倉さんの屋敷に入る裏道を知っていた。それも、普通の通行人には分からないような道を。僕が『人喰い屋敷』の話をした途端に、待っていたように僕を案内した。もしやと思って駅前の不動産屋に当たりをつけてみたら、門倉さんのお屋敷の隣の家を指定して借りたという人物がいた。写真で確認したわけではありませんが、印象はあなたに一致した。そして最後に、三上さん、先日カグラの店に一緒に行った僕の先輩ですが、彼は古くからのあの店の常連だ。でもあなたたちはお互いを知らなかった」
 相手は嬉しげに手を叩いた。

「大いに結構。では、もうひとつ答えてください。今日はここに来るまでにどちらを回ってこられましたか」
 別に手の内を見せたら損をするというものでもない。
「養護施設、それから病院へ」
 いつも着崩した背広姿だが、今日は家で寛いでいたのか、明治の大作家のような和服姿だった。普段被っているスキャット帽は、壁際の衣桁のフックに掛けられている。しかし、トレードマークのような丸眼鏡と、その奥の他人を観察する目だけはいつもと同じだった。

 真の答えに満足したのか、「作家」はにたりと笑った。
「では隠しっこなしにしましょう。俺がシナリオを書いたんですよ。いや、シナリオというほどのものでもないか。少しばかり指でつついてみたら、後は転がり出した、とでも言いましょうか。それでね、探偵さん、俺はじっとあの男が尻尾を出すのを待っていたんですよ」

【人喰い屋敷の少年】(8) に続く。



田代の喫茶店『モーツァルト』に綾の絵が掛けられていました。サインはAya「K」だったのですね。
さて、次回は「作家」の語りを聴きましょう。
そして、一人で夜の屋敷に真実を掘り起こそうとやってきたルカの身に危険が?

Category: ★短編(1)人喰い屋敷の少年

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【雑記・バトン】創作系バトン~何でも便乗~ 

ブックカバー
最近、ブログのお友だちのところでバトンを見かけると、つい手を出してしまうのは、何か行き詰っているから? 自分では忙しいからかと思っていたけれど、このゴールデンウィーク、あれこれ書けるかと思ったら一向に進まず。すぐに手近なこと(ご飯作るとか、仕事やライブのついでに買い物に行くとか、妙に洗濯をしてみるとか、庭で寛ぐとか)に逃げているのは、これっていわゆる「スランプ」? 単にやる気がないだけという気もするけれど。
というわけで(何のわけ?)、八少女夕さん、サキさんに引き続き、バトン大臣・TOM-Fさん(この呼び方、完全に定着したなぁ~)から、私もバトンを(勝手に)頂きました。

あ、トップのかわいらしいピアノとねこさんのデザインのものはブックカバーとクリップ。西宮の兵庫県芸術文化センター近くにある音楽に拘ったショップで見つけました。ブックカバーの栞がピアノになっているのが可愛い。クリップはト音記号とピアノとねこ。


1 あなたのユーザー名とその由来を教えてください。

えっと。何だかこれって改めて聞かれると、ちょっと恥ずかしいなぁ。大ファンであるあの人とあの人の名前の音を組み合わせて、適当に漢字を当てはめただけなのです。えっと、誰って……某5人組AのO氏と、某5人組NのO氏です。
本名とは何の所縁もありません。

2 小説を書くにあたって一番得意なジャンルは?

うぅむ。得意、と言われるとちょっと困りました。そもそも常に手探り状態なので。TOM-Fさんと同じく闇鍋小説か? いや、闇焼きそば小説かも(絡まって解けない、生焼けかもしれないけれど確認できない、食べてお腹を壊す?)。深みに嵌るのは結構好きかもしれません。
得意というのではないけれど、ストーリーが浮かんでくるときは自然にミステリー仕様になっています。もちろん、謎解きなんて上等なものは書けないので、あくまで「ミステリー風」ですけれど。これはおそらく、人生で最初に嵌ったシリーズものが「少年探偵団」つまり明智小五郎シリーズだったからからですね。

3 主人公の性別はどちらが得意? また、書きやすい性格も教えてください。

これもまた、得意かというと困るのですけれど、比較的男性が主人公になっていることが多いです。これは単に、女は面倒くさいから。同性を主人公にすると、生々しくなって困るという部分もあるし、あれこれと言い訳がましくなってしまうから。
同じ理由で、自分と同じ職業の人間を主人公にした物語も書けない。
書きやすい性格は、あまり意識したことがありません。でも直情型の熱血漢が主人公になることはないなぁ。

4 執筆した中で一番思い入れのある作品は?

『海に落ちる雨』かな。長かったので(って、理由はそれだけか?)。
書いていた時間も長かったけれど、推敲する時間も長かったし、今でもアップしながらあれこれ手を加えています。第4節と第5節は、ある小説がきっかけで何だか無性に腹が立っていて(その小説が悪いわけじゃないんだけれど)、憑りつかれたように書いていた。しんどかった記憶があります。読んでもらうのもしんどいだろうなぁと思うけれど、あのエネルギーはもう簡単には湧き出さないなぁ。

もうひとつは『Eroica』。文字通り、ベートーヴェンの第3番交響曲をテーマにした、ジョルジョ・ヴォルテラと義理の息子・シンイチの、ローマ~ウィーンが舞台の壮絶な親子葛藤物語。これはノートに鉛筆書きのものなので(10冊ほどある、未完)、いつかデジタル化する日が来るのかどうか。
いや、あの頃は若かった。随所にロマン・ロランとトルストイの影響が……

5 自作キャラで一番好きな子は?

これ、答えなきゃダメ?
 にゃ?(ぼく?)
……じゃ、そういうことで(ま、確かに、時々頭の中であの猫は走り回っているなぁ~。あ、次回のオフ会幹事ですね。もうすぐ皆様の元へ、ホタテから招待状が届きますよ! って、シジミの次はホタテの陰謀か?)。

いや、好きというのは難しいのです。好きかどうかというと、一言では答えられないので、困る部分もあって。かの2人も、好き嫌いのレベルは越えているし、書く時には思い入れは深いために、かなりめんどくさいキャラになっていますから。
そういう意味では書いていて「好きだわ~」と思うのは北条仁と唐沢。要するに竹で割った系の身も蓋もないのが、実は好きなのかも。 

6 小説を書くときに特に意識することは?

う~ん。あまり意識していることはないけれど、自分の文章の癖が分かっているので、とりあえず書いた後、その引っかかりがないように文を手直ししています。大雑把にいうと、語順みたいなもの。でも自分でも気が付かないことがあるので、読みにくい文章だなぁと思われているかも。なので、最近は出来るだけ文章を短くするようにしています。
マコト? あれはもう幼稚園児の頭ですから、文章も言葉もむちゃくちゃだぁ。

7 執筆に行き詰まった場合の対処法は?

これはまぁ、私と全く同じ方の回答をコピーしようかしら。
『書かない(書けよ!)』(TOM-Fさん、失礼いたしました)
でも、最近は書けなくても少しでも書こう(なにしろ、老い先短いから?)、と思うようになっているのですけれど、定年退職まではまだまだ遠いなぁ~

8 いつか書いてみたいストーリーは?

「チーム・書く書く詐欺」の一員として胸を張って再び宣言。
時代小説。私には珍しい女性が主人公のもので、時代は戦国時代。といっても、戦国時代のドンパチ(?)とはちょっと方向性が違っていますが、ファーストシーンは天正10年6月1日、本能寺の変と決めているので、あまりにも書き古されたことだけに、ちょっと臆しているのです。信長はあんなエキセントリックな人じゃなく、当時としては普通のことをした武将、でもちょっとだけ時代飛び越えた理解力・感覚のある人として書きたいのですが、物語の冒頭で死んでしまうので、実は主人公との絡みは回想以外ではなし。「お前もわしも人に理解できぬものがよう分かるゆえに苦しむ」という言葉を残して。
信長に見いだされ、お館様に憧れた主人公の少女(はじめはちょっと年増女にしようと思ったのだけれど、それでは読むほうがつまらないだろうと…・・)の恋と冒険はちょっと「それはないやろ」って部分もあるかもしれませんが(恋の相手は敬虔な伴天連さん、冒険の連れ合いは麻疹で死にかかって復活した子どもと人買いに連れ去られていたアイヌの子ども、舞台は京都~岐阜県伊吹山から蝦夷まで)、歴史小説じゃなくて時代小説ですから、何でもありってことで。
あ、力が入っちゃった。

9 小説の構想で何か参考にするものはありますか?

参考にする、という意識はなく、何かの本を読んでいる時に湧いてきます。小説じゃなくて、別の種類の本のことが多い。
でも『清明の雪』は、京都の旅記事にも書きましたが、某寺の法堂の天井の龍を見ている時に、まさに天井から降って来たなぁ……「飛び回りたい~」って(えっと、そんな話だったか?)。そこに万葉集のあの歌があって、「よし、書くぞ」ということになったのでした。

10 どんな場面を書いている時が一番楽しいですか?

それはもう決まっています。キラキラシーンのちょっと手前です。
キラキラシーンとは……このシーンを書くために私はこれを書いているのだというシーン。そのシーン自体を書く時にはかなり力が入りすぎていて、ちょっと頭がスパークしていることが多いので、その一歩手前が一番わくわくする感じで楽しいと感じているのです。
あとは格闘シーン。これはもうかなり楽しい。あ、エロシーンも格闘シーンと同じノリで書いていますので、残念ながら色気と湿っぽさがなくて、ボクシングの試合か!って感じに……(あぁ、残念……)

11 書いてみたい一場面を教えてください。

・マコトがアニキ(トニー:真シリーズの方では竹流の親友猫。茶虎の逞しい猫、竹流とはタメ、真のことは弟と思っている)と出会って、ちょびっとタケルから親離れするシーン(BGMは平原綾香さんの『スマイル・スマイル』)……マコトシリーズの一応のラストになる予定。あ、これは「書いてみたい」じゃなくて「いつか書かなきゃ」か(終わらせたくないのね。でも、いつかは旅立たなくちゃ……)。
・同居中の真と竹流のいちゃいちゃシーン(絶対に書かないな。殴られそう……「そんなシーン、もともとあるか!」と真が申しております)。

そうそう、「この曲が合うシーンを書きたい」ってのは結構あるのかもしれません。特に、慎一シリーズを書いている時は、先に曲があって、それに見合ったシーンを紡いでいっています。でもあれは、先にストーリーがちゃんとあるので、そこに曲とシーンをはめ込んでいくのですけれど。(だからアップするのに時間がかかるのね)
真シリーズに関しては、書きたいシーンは基本的に書くので、「書いてみたい」はないかも。でも、夕さんと同じで『「ち。この場面、必要なんだけれど面白くないんだよな」と思いつつイヤイヤ書いていること』、あるなぁ~

12 お疲れさまでした。指名、フリー、地雷、お好きなコースを選んでください。

じゃあ、地雷で。って、地雷ってなに?
じゃ、地雷絡みで、ものすごく先のシーンのちら見せでもしようかしら。
これは『海に落ちる雨』の続編『雪原の星月夜』から、葛城昇のバーで、竹流のボディガード・東道と真の会話しているとこ。

***
「あの時はまだ抜け出せる道があったように思う。だが、今度は勝手が違う。下手をすると命を取られかねない」そう言って東道は真を正面から見据えた。「知ってるか。何を考えてやがるのか、竹流の奴はこの間から、カンボジアの地雷撤去のために、どこぞかのトラクター会社に馬鹿にならん寄付をして、何やら地面を掘り返して地雷を爆破しちまうような頑丈な掘削機を作るようなことを考え始めた。ボランティア精神に目覚めたのか、神様のお告げで何か言われたのか知らんがな。修復のほうも、小僧を何人もタダで食わせてやりながら、仕事を覚えさせている。お前があいつのマンションを出て行って以来、まるで菩薩様にでもなったみたいだ。あいつはお前に暴力を振るう自分に我慢がならないんで、どこかでバランスを取ろうとしたのかもしれんがな、今はただ善人であるためにどうするか、それだけを考えているように見える。昇はそれが、そういう欺瞞的なあいつの姿が、たまらないんだろうよ。だから、新庄の暴力にのめり込んだのかもしれん」
***

一体何が起こったのか? ……まじめにアップしないと追いつかないですね。
頑張ります。さっきこのシーンを探すのに『雪原』を読み返していたら(第1節だけで228,489文字だって!)、いや、結構いい話だわ(そこそこエロいし……乱暴だけど)と思ったのでした。今度、一部をチラ見せアップしようかしら。



お付き合いくださり、ありがとうございます。
バトンついでに、進捗状況などを……『続きを読む』に畳みました(^^)
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Category: 小説・バトン

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【雑記・旅】そうだ、京都、行こう。(4)~2015春の特別公開・その2~ 

さて2日目の京都です。今回は西方面を攻めてみることにしました。
京都でもなかなか行きにくいお寺というのがいくつかあって、その理由が「やたらと広いので何を目指していったらいいのかよく分からない」系のお寺なのです。多くの塔頭が立ち並んでいて、どこからどこまでなのかよく分からないという……それが妙心寺や大徳寺、相国寺といったあたりでしょうか。しかも、何だか妙に広くて、どこかの寺院のお庭を見たような気がするけれど、よく覚えていなくて、あれ? ここにも龍がいる(法堂が似たような感じ)、ってなことになって。
そんな妙心寺と、近くにある仁和寺、大徳寺にも特別公開の場所があったので行ってきました。
仁和寺金堂
まずは仁和寺です。光孝天皇・宇多天皇により完成されたこのお寺は、後に宇多天皇が退位・出家し住房とされたので、お住まいとなった御殿(御室御所)があります。出家してもこんな御殿にお住まいとは……(あぁ、下々のつぶやきですね)
春には御堂桜が綺麗です。

今回の特別公開は、こちらの金堂と経蔵。
金堂(国宝)は応仁の乱で焼けてしまった金堂を再建するために、慶長年間造営の御所大内裏の紫宸殿を、寛永年間に下賜され移築したもの。特別公開では内部の阿弥陀三尊を拝することができます。この建物自体が宮殿建築ですので、少し寺院とは趣の違うところがあるようで、なかなか興味深く拝観することができます。例えば、蔀戸(しとみ)などは、いかにも御所の宮殿という感じですよね。
仁和寺金堂_0002
こちらは特別公開の場所で頂ける新聞からお借りした写真です。阿弥陀三尊の背部の壁にも浄土図が描かれていて、仏像に残る色彩からも、元がどれほどに極彩色の空間であったかがうかがい知れます。
ところで、京都の人が「戦後」という時、第二次世界大戦ではなく応仁の乱を指す、という話があります。京都の中にいると本当にそんな感じがするときがあります。「何かが焼けた」のは、ほとんど応仁の乱ですものね。

そして経蔵。文字通り、お経を仕舞っておく書棚のある図書室のようなものでしょうか。
仁和寺経蔵
中身を見たいでしょ? 写真はNGですが、今年の特別拝観のちらしはこちらの内部がアップで写っていました。
特別拝観ちらし_0002
真中より上方のあたりに、昔の薬屋さんの薬入れみたいに四角い箱みたいなのがいっぱい並んでいますが、それぞれお経を仕舞う引き出しのようになっているのです。そこには「いろはにほへと」ならぬ漢字がひとつひとつ書かれていて(意味はあまりないのかも。夫とか婦、悪、羊、何でもありでした)、目印になっているよう。
これは二人がかりで回すことができて、ひと回しするとここに収められたお経を皆唱えたのと同じ功徳があるとされているのです。が、こちら、これまで回されたことがないとか(そういう儀式がこのお寺には伝わっていないから?)。ついでに、引き出しの中も謎らしい……(開けてみたい、と思う私の横で、やはり庶民な参拝客が見張りに立っているお姉さんに「誰もいない時にちょっと開けてみたくならない?」って聞いていました^^; いや、共感するわぁ、庶民の下世話な勘繰り)
堂内の壁にも何やら物語が描かれています。

あ、ところで、値段が見えました?
そうなんです。特別公開、高いんですよね。1か所で800円。今回6つ回ったので、それだけでも結構な額になります。でも、昔1000円だったような気がするんです(バブル時代?)。文化財保護のためのカンパだと思うことにしました。
いつも巨石ばかり見ているので(タダ)、何だか久しぶりにお金使う旅行だね~と母としみじみ。
仁和寺御殿
仁和寺の御殿は、平安絵巻を髣髴させるような渡り廊下が素敵です。

さて、車で行くほどの距離でもないかとてくてく歩いて妙心寺へ。
でも考えてみたら、妙心寺の中が広くて、結構な距離でした。
妙心寺三門
こちらが特別公開の三門(裏側、本殿から見たところ)。またまた梯子のような急な階段をあの上層まで登るわけです。
三門の中に上がれるのはとても有難いのですけれど、何よりもこの階段がちょっとスリル^^;
内部はやはり極彩色の世界。観世音菩薩と十六羅漢が並び、飛天、鳳凰、龍が描かれています。こちらの十六羅漢中で羅睺羅(ラーフラ、お釈迦様の実子で弟子)だけが振り返ったような姿となっていますが、これは背後にある本殿、すなわちお父様がおられる方を見ているのだとか。
妙心寺・三門

ところで、こちらの法堂にも有名な龍が描かれています。狩野探幽が描いたとされ、どの方向から見ても自分を見ているように見えるのですね。以前に見たので、今回は時間の都合で端折らせていただきましたが、実はこの龍が『清明の雪』の発想のもとになったのです。

次に、大徳寺に向かいます。
大徳寺
こちらにも三門(金毛閣)があるのですが公開はなし。こちらの山門は、かの利休切腹の原因となったことで有名ですね(利休がこの楼上に自分の木像を置いて秀吉の逆鱗に触れた。秀吉が潜る門の上に乗っているということで。私の脳内イメージは、あくまでも秀吉は労働者=庶民、利休は武士、なんですよね。精神的な意味で)。
ちなみに、後ろから見たら大徳寺の三門と妙心寺の三門の外観がものすごく似ているので、何だか写真を見ていたらどっちがどっちか分からなくなっちゃった。

今回の特別公開は本坊。修行生活の場ということで、入った途端に竈がずらっと並んでいる台所仕様。襖絵84面は全て狩野探幽の筆。狩野派は工房的な絵の描き方をしていたので、探幽一人で描いたというのは大変珍しいとのこと。
大徳寺方丈
もちろん、撮影NGなので、戴いたパンフレットからです。そう言えば、大徳寺って時代劇の撮影によく使われていますよね。こういうのを見ていると趣がありますね。しかも入口(勝手口)から方丈に至るまでの板敷の間などは雰囲気がありました。
目玉は唐門です。このお庭の向かいにあるのですけれど、反対側からじっくり見ることができます。
日光東照宮にもありますが「日暮らし門」です。日暮らし門、というのはあまりの美しさに眺めているうちに日が暮れてしまう、という意味ですが、本当に美しいですね。この一番下に足と羽根の先だけ見えているのですけれど、屈んで覗き込んだら、見事な孔雀が彫り出されています。龍に鯉、獅子など色も鮮やか。
大徳寺唐門_0003
折り目が残っていてごめんなさい。頂いた新聞の写真が一番綺麗だったので……
そしてもう一つの見どころが、法堂の天井の龍。
大徳寺法堂2
こちらも狩野探幽筆の見事な龍です。鳴き龍ではないそうですが、それにしてもこういう天井の龍は本当に見事ですよね。どうやって描いたんだろうと、そのシーンを想像しては感動しちゃいます。システィーナ礼拝堂の絵を描いたミケランジェロも、自分の顔の皮が後ろに垂れ下がるような思いをしたと書いてありましたっけ。

さて、本当は東福寺三門にリベンジしたかったのですが、三門って「みんな違ってみんないい」とは思うものの、1日にいくつも見ると、どれがどれだったっけ? という感じになってしまって分からなくなる、というのでまたの機会にということにしました。
で、目的のひとつ、志明院へ。毎年こちらでは交通安全のお守りとキーホルダー用のお守りをお返しして、新しく戴いてきます。
丁度石楠花の季節だったので、今年も昨年のような素敵な景色がと思ったのですが(⇒【そうだ、京都、行こう。(1)】)、なんと今年はあの桃源郷の石楠花はひとつも咲いていないとのことなのです。
うちの家でも、昨年主役だった花が、今年はほとんど咲かないなぁということがあります。志明院のある山は岩山で、土が薄くて栄養が少なく、大きな木が育たないので、比較的低い木が優勢になります。特殊な植生になるのです。そういうことが関係しているのかどうか分かりませんが、人の手が加わらない自然の植生であるからこそ、年によって違う顔を見せるのかもしれません。逆に、時折この世のものとは思えない景色を生み出すのですね。

それでも、毎年ご訪問してお参りして、自然の舞台(清水さんよりずっと小さいですが、この自然の中にある舞台は素晴らしいですよ)で風の匂いを嗅いで、鴨川の源流と言われる水の音、鳥の声を聴いて、奥さまや住職さんとお話をしして、また来年の再会を約束する、不思議で有難い時間です。
そうそう、今年はご住職さんのエッセイを読ませていただきました。
ご住職さんは、その昔、まだ小学生の時に奥深い雲ヶ畑のお寺にご家族で引っ越してこられました。小学校までは遠い道のり(車ではそれほどでないのですけれど、確かに集落までものすごく離れている)で、木々に覆われた道は昼間でも暗い。ちょっと遅くなったら、まさに魑魅魍魎が出没しそうな道を歩いて帰らなければならないのです。
ある時、お寺に「お兄さん」が泊まっていて「小学校まで遠いのに偉いなぁ。でも頑張っていれば必ず良いことがある」(というようなこと……記憶が不鮮明でごめんなさい)と言ってくれたそうです。
この「お兄さん」こそ、若き日の司馬遼太郎先生だったと。

司馬遼太郎先生は『街道をゆく』の中で、この雲ヶ畑と志明院のことを書いておられますが、その中に「この橋から先は、まさに魑魅魍魎の住まう世界」(すみません、こちらもうろ覚えで)と書かれている、その橋を渡るとき、いつも私は「またこの橋を渡った。ここからは人智の及ばぬ世界」と思ってしまいます。司馬先生はこの世の不思議を愛する敬虔な心をもって「魑魅魍魎」と呼ばれたのですね。

あ。文字ばかりになりましたね。では、最後に八起庵さんをご紹介いたします(⇒八起庵HP)。
こちらのお店は鶏料理の店。私がまだ学生の時から、時々お邪魔しているお店です。とはいえ、学生の時はたま~に贅沢したくなってランチを食べるのが精一杯でしたけれど(あの頃、ランチは2300円でした)。
まず、鶏のスープ! これが絶品なのです。ひとつひとつの料理もとても美味しいのですが、何より最後の鴨南蛮と、これ以上食べれないよと思っても「別腹」の卵かけご飯が、もう……(^^♪
鴨南蛮
お土産に買って帰った鴨南蛮セットです。九条葱に細麺。お店で出てくるのは少し小さめの器で、山椒のピりリ感がたまりませんが、家で食べてもおいしい(*^_^*)
わらび餅とアイス
卵(有精卵)と新発売のたまごアイスも購入。三年坂で購入したわらびもちも美味しかった。

というわけで? 1泊2日の京都小旅行記事、文字ばかりになってすみません。
特別公開は5月10日まで。お時間がありましたらぜひお訪ね下さい。もちろん、冬でも、来年でも。特に三門はお勧めです。ひとつでも是非!
最後までお読みくださって、ありがとうございます。

Category: 旅(あの日、あの街で)

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【雑記・旅】そうだ、京都、行こう。(3)~2015春の特別公開・その1~ 

昨年、京都の旅記事(⇒【そうだ、京都、行こう。(1)】)でご紹介しました石楠花の見事なお寺・志明院さんに、今年もお邪魔いたしました。毎年3月~4月ごろ、清明の季節には訪ねるのですが、もう何年目になるでしょうか。
今年は諸事情で津軽遠征を取りやめたので、代わりに京都行きを1泊2日の小旅行にしました。って、泊りがけで行くような距離じゃないのは重々承知しておりますが……たまにはね。長く京都に住んでいた私には「京都に泊まる」なんて通常はないのですが(たまに飲みに行って帰れなくなるという事態が予想される時は泊まる^^;)、おかげさまでゆったりと時間を使うことができました。

目的は2つ。ひとつは志明院さんに行くこと、もうひとつは春の特別公開をいくつか見ること。おまけは、清水寺に行ったことがないという母に清水の舞台を見せること、と、八起庵さんの鳥料理を食べること。
母の清水寺に行ったことがない、というのは本当かどうか定かではありませんが、というのも、村の旅行とかでしばしば京都には来ているのですが、たいていバス旅行で、一緒に行った人が三年坂や二年坂でお店につかまって時間切れになってしまうからだというのです。
東寺1
さて、旅は東寺からスタートです。新幹線から見える五重塔は、京都タワーと並んで京都のランドマークになっていますね。
東寺は私の大好きなお寺で、特に講堂の立体曼荼羅は何度行っても震えるくらいに感動してしまいます。隙間から差し込む光に細やかな塵が煌めいている時も、静かに瓦屋根に触れる雨の音が聞こえる時も、いつもあの素晴らしい御仏が迎えてくれるのですから。

あ、帝釈天が男前だとか、そういう理由ではないんですよ……いや、でもついつい目が行ってしまいますね。口コミでも「日本一イケメンの仏像」だとも? ぜひ、ご確認ください。⇒東寺のHP
どうでもいいことですが、好きすぎると物語に登場させるのが悪い癖で、大和竹流が初めて京都に来て、この講堂で黙って大日如来を見上げて涙を流していた姿を見て、お茶屋の女将さんがこの男はんの面倒を見ようと思った、というエピソードの舞台になりました。

お庭の新緑が美しいですね。黄色い菖蒲が池に映るのもすがすがしいです。五重塔の前では、ヒラドツツジも見事に咲いています。
東寺2
さて、春の特別公開はこの五重塔の初層内部です。写真NGなので、文字ばかりの記事になりますがご容赦ください。
もう○十年ほども昔に、一度入ったことがあったのですが、記憶がもう曖昧になっていました。もともとはもっと極彩色の空間だったといいますが、柱に描かれていたであろう御仏などは劣化してよく分かりません。それでも四尊の如来、八尊の菩薩が大きな心柱を中心に四方八方をあまねく見守ってくださっているという心地になりますね。この超免震構造の塔を支える心柱は大日如来を表しているそうです。
東寺金堂
こちらは金堂です。「仏」のおられる場所、つまり本殿です。中には薬師三尊がいらっしゃいますが、この薬師如来さんは少し変わった形、つまりよくあるような薬壺を持っていらっしゃらないのです。古い様式だということです。
そしてその北側にあるのが「法」を表す講堂。伽藍の中心にあり、ここにかの立体曼荼羅があります。東寺の中心に、宇宙の中心で万物を照らず大日如来が安置されており、弘法大師空海が最も大事とされた場所です。
更に北側には「僧」の修行・生活の場、食堂(じきどう)があります。これで、仏法僧。
東寺ヒラドツツジ
御影堂(大師堂)の脇に見事に真ん丸なヒラドツツジが咲いていました。うちのヒラドツツジもこれを目指していたんだけれど……う~む。
うちの子↓(でも、他人から見たら不細工でもうちの子が一番かわいいんだ!)
ヒラドツツジ白

このあと東福寺の特別拝観に行こうと思ったら、駐車場がないみたいで断念。今回の特別公開では三門を攻めようと思っていたのですが、いきなり躓いちゃいました。そう、京都の町中は車を置いてタクシーやバスもしくは徒歩で動くのが正解。でも、今回は(も)志明院までたどり着くには自家用車以外の方法は困難(タクシーだとものすごく値が張りそう)なので、車で来たのですね。
そこで仕方なく、先にお宿に車を預けて、目的地のひとつ、黒谷さんと清水さんに向かうことにしました。
壇王法林寺
その前に、京阪三条を降りたらすぐそばに檀王宝林寺がありましたので、特別公開の猫さんに会いに行くことにしました。こちらのお寺、招き猫で有名。しかも、御開祖の袋中上人が明に行くことを切望して琉球まで行き、許可を得られずに琉球で滞在・布教することになった関係で、琉球との関係が深く、当時としては珍しい琉球漆器なども展示されていました。こちらのお寺、以前の書院の襖に描かれていたものが屏風に仕立て直されて、「源氏物語絵巻」など大変貴重なものまで見つかっているそうです。
でも私のお目当ては麝香猫さん。尻尾が何故かミツマタだけれど、ふさふさの猫さんでした。こちらの麝香猫さんはお見せできないので、代わりに猫さんのお守りを。えっと、決して猫のためのお守りではないと思うのですけれど、マコトが喜びそう。
だんのうさんお守り

次に向かったのが黒谷さんで親しまれている金戒光明寺。こちらの山門が公開だったのです。
金戒光明寺
京都守護職となった会津藩の本陣となり、新撰組発祥の地とも言われる黒谷さん。境内はお墓だらけ。会津藩士のみならず苗字無き雑兵や婦人も祀られているそうです。
ところでこちらの山門。東山の裾野にあり、上がってみたら景色がとても素晴らしい。といっても、「文化財保護のため」内部はもちろん、そこから見る景色も撮影NGなので、ご想像ください。しかも梯子のような階段を登らなくてはならないので、高所恐怖症の私にはちょっと辛い。ただ、この上に極楽が……と思うので頑張って登るのでした。
初めて「三門」なるものに登ったのは、知恩院さんでした(知恩院・三門)。その楼上にこんな極楽浄土(に至る道)があるのかとまだ若かった私も感動しきりでした。

いつもは見上げて潜るだけの門ですが、上がってみると、天井の低い空間に宝冠釈迦牟尼仏像(通常は仏像の後ろは光背ですが、三門の仏様は丸い輪っかみたいなのを背負っておられ、これを宝冠といいます)や十六羅漢像(お釈迦様のあ弟子さんたち)がずらりと並んでおられます。
天井・柱・壁は極彩色で描かれた迦陵頻伽(かりょうびんが=顔は天女で身体は鳥。素晴らしい声で鳴き、生きている間に見ることがあれば極楽浄土へ行けると言われる)や天女、飛龍(龍になる前の子ども。羽根が付いていて、荒波を潜り抜けて立派な龍になる)が極彩色で描かれていて、まさに極楽浄土。
天井には立派な龍が描かれています。飛龍もですが、水にまつわるものが多く描かれているのは、火災から守るためなのですね(いや、実際には役に立たないとしても……)。

ちなみに、三門? 山門?
もともと寺院は山にあることが多かったので(お寺には〇○山って山号を持っているところが多くありますよね)、山にあるお寺の門、という意味で通常、山門と呼ばれているのですが、ここに仏教的な意味合いを被せると三門となります。
「空門(くうもん)=一切は空と悟ること」「無相門(むそうもん)=あらゆる変化に惑わされない」「無願門(むがんもん)=欲望の対象となるほどに価値のあるものは何もない」という、悟りに通ずる三つの解脱の方法・境地を表わす門(三解脱門:さんげだつもん)を意味しています。
扉がないのは、あらゆる人に開かれているとしているからです。

清水寺2
さて、清水寺まで降りてきました。この舞台の上にいる人々の3分の2は絶対に外国人です。中国人らしき人々が一番で、他にヨーロッパ系の人も沢山。しかも、随求堂の胎内巡り(真っ暗闇の中を壁を伝って歩くところ)にも入ってみたら、後からやってきた異国の集団がやかましすぎて、全然有難くなかった……五感を研ぎ澄まして……なんてとても無理で。
三年坂までの道は、ここどこの国?状態です。いや、もう、日本語が聞こえないよ~。しかも、皆さん、どこかで着物(浴衣)を着せてもらって散策されていました。この日の気温は29度。帯はかなり本格的に結んであったので、暑かったろうなぁ~
帰りに、お約束通り七味を買って、お香のお店で白檀のお香を買って、わらびもちも買って、1日目の行程を終えました。

今回の宿泊は『晴鴨楼』さん。川端五条近くの大正レトロな雰囲気の素敵なお宿です。玄関からサロン~喫茶室まで窓を開け放つと風が通って、いかにも京都の風情です。
晴鴨楼2
泊まったお部屋は本館で(新館もある)、もちろん古い建物ではありますが、雰囲気はとても素敵でした。全体の造りが、京都らしく入り組んでいて、他にもずいぶん泊まっている人がいたと思うのですがとても静かでしたよ。川端通りが近いので少し車の音は聞こえてきますが。
晴鴨楼1
一方で、水回りは新しくしてあって、洗面所もお手洗いも、部屋のお風呂も綺麗でした。大浴場もあって、京都のこじんまりお宿にしてはなかなかの大きさで(高野槇かしら?)、大変気持ちのいいお風呂でした。
晴鴨楼3
晴鴨楼4
どれも小さく見えますが、お魚などはかなりの厚みがあります。特に鰆は随分と厚いのにしっかり味も浸みていて、とても美味しくいただきました。デザートもボリュームがあって、女将さんがつけられたという梅酒もおいしかった(*^_^*)
あ、でもやはり外国人率、こちらでも高かったですね。ヨーロッパ人風(スペイン語かイタリア語か、ラテン系の言葉っぽいのが一瞬聞こえたので)若い男性2人連れが大浴場から出てきたので、うん、日本の裸の付き合いもなかなかワールドワイドになってきたと思ったのでした。
あさごはん
朝ごはんまで美味しくいただいて、コーヒーもお部屋に届けていただいて、さて、2日目の京都散策に出かけます。

Category: 旅(あの日、あの街で)

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