08 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 10

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

2015年9月のつぶやきコーナー 

<Twitter代わりのつぶやきとお知らせのコーナー>
オリキャラオフ会 in 北海道・作品ラインナップ
【石紀行】31.愛媛松山・白石の鼻~ 海に龍を呼ぶ巨石~
【石紀行】32.高知足摺岬・唐人石巨石群(1)~ここは古代の灯台~
通常の記事は、もうひとつ下から始まります




古いつぶやきは、続きを読むにあります。
-- 続きを読む --
スポンサーサイト

Category: つぶやき

tb 0 : cm 18   

[雨146] 第30章 巷に雨の降る如くに(4)意識と無意識の狭間 

【海に落ちる雨】第4節・最終章(第30章)『巷に雨の降る如くに』 その(4)です。
前回ご紹介したサン・フランチェスコの絵ですが、うちに当時(○十年も前!)アッシジで買った手のひらサイズの絵本があります。ちょっと可愛いでしょ(*^_^*)
サンフランチェスコと鳥2
でも、ほのぼのしている場合じゃありませんね。物語の中では、少しずつ追い詰められていきます。
他のお話もアップしたいのですが、この章の終わりまであと少しなので、5日おき更新を頑張りたいと思います。あ、気が向いたら、人喰い屋敷(これは幽霊屋敷の間違いだったなぁ~)の続きをアップするかも、いや、奇跡を売る店かな(優柔不断だ…・・)。

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

tb 0 : cm 8   

【石紀行】32.高知足摺岬・唐人石巨石群(1)~ここは古代の灯台~ 

駄馬から見上げる唐人石
ここは高知県の足摺岬の突端近くです。
言うのは安し、行くのは大変! という足摺岬。
実は私、龍馬研究会幽霊部員でして、〇十年前などは脱藩の道へも何度か足を運んでいたので、四国は割とよく行ったのです。台風が来て、橋を渡れないなんてことが結構ありましたが。
それでも足摺岬だけは、私にとって未踏の場所。何しろ遠い! と予想がついていたので、今回の旅程はただただ「足摺岬にたどり着く!」という目的のためにひた走るものとなりました。

ここは足摺岬の突端ではありませんで、海は遠くはないのですが、まだ山の中。ここにたどり着く交通手段は車しかないと思われますが、分かれ道はここしかないので、道に迷うことはなさそうです。それに、足摺岬に至る道の途中の分岐点に「唐人駄馬遺跡はこちら」って、しっかり看板がありますし。
で、この広く切り開かれた野っぱらと山の写真は何? 石紀行じゃないの? と思われたかもしれません。
しかし、よく見ると、山の中腹に白い塊がありますよね。あれが唐人石巨石群なのです。そしてこの「野っぱら」は駄馬。「唐人駄馬」というのは「唐人=大陸からやって来た異国人」が切り拓いた「駄馬=広く平坦な場所」という意味です。
駄馬
キャンプもできる感じのいい広場で、幾つかのグループやライダーさんがテントを張っていました。でもあまり人が来ることはなさそう。ここを唐人石の方から見下ろすとこんな感じです。太平洋も見えていて気持ちのいい景色ではあるのですが。
千畳敷岩から見た唐人駄馬
丸で囲んだのは……実はここは巨大なストーンサークルだったそうです。ストーンサークルと言っても、ストーンヘンジのような祭祀用の巨石の組み立てではなく、野生動物が入ってこないように作った柵としてのストーンサークルです。マルタ島にも多くの石垣がありますが、まさにあんな感じだったのでしょう。
駄馬のサークル2
隅っこにの片りんが残っていました。ワゴン車で槇を持ってきていたおじさんに「ストーンサークルってどこですか?」と聞いたら、この広場をぐるりと取り囲んでいる低い塀がそうだと教えてくださいました。確かに、ついつい丸く石が並んでいるものを想像してしましますが……巨大すぎて分からんかった^^;
ここは畑だったのです。駄馬を大きく丸く取り囲む石垣が築かれ、中にも区画を明確にするための石積みがあったようです。古い時代の写真ではこんな感じでした(学術報告から航空写真をお借りしました)。この四角い区画にも石が積まれていたのだとか。
なんと、残念なことに、遺跡とは考えずに切り拓いてしまったのですね。
唐人駄馬古い地図2
そう言えば、韓国の済州島に行った時にも、こんな石垣がありました。話は斉明天皇に戻りますが、かの時代、韓国にあった百済とは親密な関係にあった倭国。石の文化自体は百済との深い関係を物語っているようです。
気を取り直して、あの山の中腹を見上げてみましょう。望遠にして写真を撮ってみたら、あ、人です。石の上に人が乗っていますね! もうここから見ているだけでもワクワクしますが、もちろん、あそこに登りに行きましょう。
唐人駄馬遠景2
足摺岬への道の途中から、この唐人駄馬遺跡までの山道の途中に「唐人石」登り口があります(公園と登り口の間はわずか200mくらい、車道で行けます)。実は先にトイレに行こうと駄馬まで降りてきたのです(トイレは駄馬公園の中にあります。水洗じゃありませんが)。
唐人石登り口
この登り口の近くの道は少し幅広になっているので、10台程度の車が停められるようになっています(停め方によるけど)。案内の看板もありました。
唐人駄馬地図
では、唐人石巨石群、登って行きましょう! と言っても、いつものことですが、遊歩道を素直に登らずにいきなり『南のサークル』の中に踏みこんじゃうのですけれど……
南のサークル
正直なところ、どう見たらサークルなのかよく分からないのですけれど、真中の2つの大きな石を取り囲むように石が丸く並んでいる……そうです。えっと……?
南のサークル中心の石?
中心の石でしょうか? 上から見たらもう少しはっきりと円に見えるのかもしれませんが、歩いている限りは分かりません。しかも石の数も、2つと言われても、もっとあるように見えますし、看板の地図を見ても、サークルのところに書いていある石がそもそも円じゃない……
山の中の石たちを見て歩いていると、「これってサークルかも?」みたいなところにはしばしば出くわします。もちろん、長い年月の間に石が割れたり、あるいは土中に埋まってしまったものもあるでしょうから、以前の形を保っているとは限りませんし、後から現代の者が勝手に名付けた場合もあるので「サークルに見えない!」なんて目くじらを立てても仕方ありません。
要するに、大事なのは「石たちとの触れ合いを楽しみましょう!」ってことですよね(*^_^*)
南のサークルから登っていく
サークルの中、石の中を登って行くと、かなり大きな石がごろごろしていることが分かります。明らかに地面から完全に顔を出しているものもありますが、半分以上が土中にあると思われる石も多くあります。小さな石もありますが、相当に巨大な石もあります。ここはまさに岩山なのですね。そして、駄馬から見上げた石は、そのごく一部だということが分かります。多くの石が木々に覆われる中、地形的にあの部分だけが付き出ていて、あるいは残った石が大きかったために、木々に覆われることなく、下からはっきりと確認できるというわけです。
道なき道を行って遊歩道に出ました。見上げると、そこにはもう千畳敷岩が構えています。駄馬から見た時に人が乗っかっていた岩です。
千畳敷岩見上げる
別方向へ回っていくと……
千畳敷岩見上げる2
遠くから見ても、下から見てもすごいけれど、巨石はやっぱり登ってみなくちゃね!(磐座は、一部を除いて登れませんが……あ、そう言えば登ることができるかの御神体は、思いだしただけでも感動します。語れませんけど)
少し行くと、今度は亀石、というよりも亀頭石が突き出しているのが見えます。
「亀石」と名付けられたものが、この巨石群に2つありますが、こちらは全く「亀頭石」ですね。
だって、「亀石」というとこんな感じですよね。(写真は飛鳥観光協会さんからお借りしました。)
亀石
う~んと、どうして素直に「亀頭石」とか明日香みたいに「マラ石」とか言わないのかしら? まさか、恥ずかしいとか……
亀頭石見上げる
でももちろん、こちらも近づいて見るべきでしょう。
看板2
看板の言うとおり、道を行きます。
岩の隙間を登っていく
こんな岩の隙間を泳ぐように登って行きます(これは来た道を見下ろしたところ)。
すると、すぐに亀頭石がでん、とお目見えです。ある人曰く、岩の形態をよく見ると、しみじみ亀頭だなぁ、と。ふむ。
亀頭石1
失礼ではありますが、登ることもできます(ちょっと先っぽの方は怖いけれど)。上に寝転ぶこともできます。
亀頭石2
確かに立派です! うん。
さて、まだまだ先があります。あの千畳敷岩に登らんと!
亀頭石から見上げる
亀頭石から唐人石の方向を見上げると、これもまた迫力があります。
トリがいる
亀頭石から見た千畳敷岩の上に、また鳥がいました。鳥が乗っている場所は割れていて、今にも落ちそうですね。
日本の巨石の多くが花崗岩で、花崗岩は「節理」に沿って何かの拍子にパン!と割れちゃうのですね。だからよくある「弁慶が割った」とか「鬼が割った」とかいうのは、自然の「摂理」なんですよね。おかげで美しい岩の形や景観を楽しめるのですが、災害の原因にもなる。自然とお付き合いするということは、自然をちゃんと知っておかなければならないということなんですね。
最近の我々日本人、自ら学ぶことなく文句ばかり言っているような気がしますが、わが身を振り返ってももっと自然に対してもっと謙虚になって気をつけなくちゃ。
亀頭石から千畳敷岩へ
亀頭石から岩の隙間の道(ピンク矢印)を通って、向こうに見える千畳敷岩(青い矢印)に行きます。
岩の隙間を行く
こんな岩の隙間を進んでいくって、なんだか秘密の場所に行くみたいでいいですね! 子どものときここに住んでいたら、絶対に秘密基地を作っているなぁ。
最後の難関?2
ここが最後の難関です。何が難関って、この岩の隙間、狭いので、リュックを背負っていると通れなくて。右の低い石がちょうど160センチくらいの女性の胸の下あたりでしょうか。
いや、最後の難関はまだあったか!
千畳敷岩へ1
青矢印が千畳敷岩です。このちょっとスリリングな橋を3つ渡らなければなりません。えぇ、何事も自己責任で参ります。
千畳敷岩へ2
ここは足場が完全に岩の斜面。ここに来るのにヒールで来ない方がいいですね。私たちはいつもフル装備なのですが(靴とステッキ……あ、歳も歳ですからね^^;)、やっぱり軽く来ておられる人も結構いて(観光ついでだったら仕方ないのですが)、気を付けて欲しいなぁと思います。何事も自己責任ですからね。
千畳敷岩、実は結構ななめなのです。もちろん、広々としていて、眺めはいいのですけれど、下は断崖ですから……
千畳敷岩2
もひとつおまけに。ななめ感がよくでていると思いますが……向こうに少し駄馬が見えていますね。
千畳敷岩から唐人駄馬
さっき鳥がいたところからのながめ。駄馬と太平洋が見えています。
千畳敷岩から亀頭石方向
千畳敷岩から亀頭石方向を見ると、森・森・森……そう言えば龍馬脱藩の道をうろついていた頃、よくこんな景色を見ました。高知から愛媛へ抜ける峠ってどこも結構深い山の中で、高いところに出ると、視界の先の先まで青く霞んだ山が連なっていて「ここから出れるのかしら?」とよく思ったものでした。東山魁夷の絵の世界みたいな神秘郷。
千畳敷岩から唐人岩
背中を振り返ると、唐人石が大迫力で迫ります。この光景を見るためだけでも、この四国の際果てまで来たかいがありました! 山の中に木々と巨石、そして空。
右の端に写っている石の表面が平たいのが分かりますでしょうか。これが「鏡岩」です。

今回のタイトルに「古代の灯台」とつけました。実際には根拠ははっきりしていませんし、ここが海からどういう具合に見えるのか、確認していませんので分かりません。
古代、海は重要な交通路でした。しかし「位置確認」の方法は今のようにハイテクではありません。海から帰ってきたとき、何を目印に元の場所にたどり着くのか。緯度や経度という概念もなかったでしょうが、彼らは「地形」を利用していました。
例えば、私の心の故郷のひとつ(心の故郷、多過ぎるかも……)、青森県の岩木山は海からの目印として灯台の役割をしていました。夜は、まぁ、無理ですけれど(いや、でもあの山の9合目以上はすごい岩山なので意外に何か手があったかも?)。
ここ足摺岬では、心の師匠・須田郡司先生の『日本の聖なる石を訪ねて 知られざるパワー・ストーン300カ所』では「白皇山」が灯台の役割を果たしていたであろうと書かれています。そう、山は海からも確認しやすい目印です。
ちなみに、ハトは何故伝書鳩になりうるのか。彼らは地図を覚えているわけでも、緯度や経度を感知する機能を持っているわけでも、太陽を観測しているわけでもないのですが、どんなに長い距離でも、景色の中で目印になるものをインプットしていって、その目印を頼りに飛んでいるらしいと言われています。ハトにとっても山や鉄塔などは恰好の目印、なんですよね。
鏡岩
ところで、鏡岩の平ら面、気になりませんか。これを見るとやはり、尾道・千光寺の「鏡岩」を思い出します。
鏡岩
こちらは何らかの細工も見られるようですが、こうして石を磨くと白く光るのです。太陽がここに当たるとどんな光を照り返すのでしょうか。小さな鏡ひとつでも太陽光を当てると、相当はっきりと光りますよね。
実は、ちょっと不思議な体験をしました。
この帰り道のことです。唐人駄馬遺跡から足摺岬ルートの至るまでの山道の途中で、車に乗っていた我々、同時に「あ!」と声を上げました。視界の隅で何かが光ったのです。山道なのであまりスピードを出していなかったからかもしれませんが、それはかなりはっきりした「光」でした。思わず車を停めると、すぐに光の正体が分かりました。薄暗い森の中です。
灯台の証拠4
これは車道から少し森の中へ入り込んだ場所なのですが、車道を走っている車からもはっきりと見え、思わず車を停めるほどくっきりと光っていました。
でも、近づいていくと、全くただの石なのです。そんなに表面が白いわけでもない。
灯台の証拠2
この岩のすぐ近くにも幾つか同じような岩が他にもあって、さらに大きな岩もありました。でもこの石だけが秋分の2日前の傾きかけた太陽を受けて、真っ白に光っていたのですね。
千光寺の鏡岩も長い年月、木々の中に埋もれていたのです。それが磨いてみたらあの姿。今は風化しているかもしれない石を磨いてみたら「鏡」のように光を跳ね返すかもしれません。
灯台の証拠3
この岩、おむすび型をしていて、見るからに良い感じの石です。大々的に祀られていた石ではなくても、もしかしたら古代の誰かも、この石に照り返す光で「時」を感じていたかもしれません。
この名もなき石との出逢い、それはまるでこの石が、「ほらね、石ってこんなふうに光るんだよ。だからもっと現代人もイメージを膨らませてぼくたちを見て!」って語りかけてくれているようでした。

もしかしたら、古代、ここはもう少し切り拓かれていて、所々に「暦石」があったかもしれませんね。1年間、節季ごとに順番に夕陽に光って、カレンダーの役割を果たすような要の石が、山々の中に並んでいる、もしくは点在しているのです。私たちに語りかけてくれたあの石は「秋分石」だったりして。
もしかしたら、唐人石あたりの山はもっと多くの岩が露出して見えたかもしれません。海から見たら真っ白な岩山だったかもしれないですね。そうしたら、これこそまさに灯台です。鏡岩を中心にして真っ白に輝いて見えたかもしれません。
そもそもここは駄馬があったことからも分かるように、「唐人」が切り拓いた場所。縄文前期時代からの多くの遺物が見つかっています。海に面しているということは、古代には大陸とも交流のある交通の要となる一大集落だったかもしれません。
そんな場所にある唐人石巨石群の「鏡岩」。この名前を頂いているということは、光るはず。そして、これだけ大きな石ですもの、相当遠くからもその光を確認することができたのではないでしょうか。
海と深くつながっていた古代、どんな人々がここに住み、自然の力を借りながら、悠久の時間の中にそれぞれの時を刻んでいたのでしょうか。
タイムマシンがあったら見てみたい! 岩を見上げるだけで想像が膨らみ、ワクワクする、素晴らしい巨石群です。
千畳敷岩を降りる
さて、唐人石巨石群、続きを歩いてみましょう。千畳敷岩から降りるほうがちょっとコワイ……
でも、長くなりましたので、唐人石巨石群最大のパワースポット・再生のエリアについてはその(2)でレポートしたいと思います。
最後に、ちょっとイイ写真?をひとつ。
荒野の?
しばしば巨石の横で「大きさ比べ係」をしているうちのおかーちゃん。齢70をとっくに越えているとは思えませんね……インディ・ジョーンズか、はたまた荒野のガンマン? いや、岩の上の大阪のおばちゃん、ならぬバアちゃんですけれどね。

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 8   

【石紀行】31.愛媛松山・白石の鼻~ 海に龍を呼ぶ巨石~ 

斎灘と三ツ石
『熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな』
これは万葉集にある、額田王が詠んだと伝えられる歌です。
「熟田津(にきたつ)で、船を出そうと月を待っていると、いよいよ潮の流れも良くなってきた。さあ、いまこそ船出しよう」……という意味の歌。斉明7年(661)、朝鮮半島の百済が新羅と唐に侵略され、日本に支援を求めてきたので、斉明天皇は出陣。
額田王は斉明天皇に従って、中大兄皇子らと一緒に熟田津に滞在していました。どうやら、奈良の都を出立して1週間ほどで熟田津に達したのにもかかわらず、2か月もこの土地に滞在。良い潮時を待っていたというのです。
熟田津はこの近くの三津浜あたりという説もあります(他にも有明海の諸富町あたり=佐賀県など、諸説あり)。この辺り、潮の流れは荒く、とても船を出せるような港ではないから熟田津ではないという話もありますし、逆に、だからこそ出航には「潮時」を待つことが必要だったのだからここだ、とも言われている。

何故いきなり熟田津?
松山に来たので、やはりこの古代の出来事に興味を感じずにはいられませんよね。
斉明天皇というのは謎も多き古代の女性天皇。天智・天武天皇の母親ですが、古代の巨石巡りをしていると、時折名前が出てきます。有間皇子の変に際して、蘇我赤兄は斉明天皇の3つの失政を挙げています。 「大いに倉を建てて民の財を積み集めた」、「長く溝を掘って公糧を損費した」、そして「船に石を載せて運び積んで丘にした」というのです。

この頃、古墳時代は既に終焉を迎えており、作られる古墳・墳墓も小さくなっていったと考えられます。
 古墳時代最盛期は5世紀初頭で、大型前方後円墳が作られた時代。6世紀前半の古墳時代後期には主に横穴式石室となり、6世紀の末には終焉を迎えたとされています。斉明天皇は594年生まれの661年没、皇極天皇として642-645年、斉明天皇として655-661年に在位。
しかし斉明天皇は「船に石を載せて運び積んで丘にした」! これはまさに古墳のことですね。

実は彼女は巨石を明日香の都に運ばせ、古墳時代のような巨大な墳墓を復活させたいと願っていたという話があるのです。
 中大兄皇子が造ったとされる斉明天皇の墳墓として、現在有力なのは、牽牛子塚古墳(けんごしづかこふん)=奈良明日香村です。斉明天皇は娘の間人皇女と合葬されたと『日本書紀』に記されいてるので、大きな石をくりぬいて作った2つの石室があるこの墳墓が有力とされます。ちなみに亡くなったのは九州。巨大とは言いませんが、八角形のピラミッド型墳墓……満足いただけたのでしょうか。

以前ご紹介した、あの兵庫県高砂の『石の寶殿』(【石紀行】15.兵庫高砂・生石神社~石が浮いている!~)。
あれも、斉明天皇が切り出そうとした痕である、という説があります。
彼女は自分の墳墓のために、日本中の「素晴らしい石」「珍しい石」「巨大な石」を集めようとしていたのかもしれません。墳墓なのか、権力を示すための要塞だったのか、あるいは古代の天文観測所だったのか。古代には今のようなカレンダーがありませんから、まさに「暦を制するものが国を統べる」時代でした。

何しろ古代の情報網、侮れません。そもそも大陸とも距離をものともせずに、現代よりもある意味では深い関係で行き来があったのですし、「いい石がある」なんて情報は簡単に都に流れてきたのでは……
また、凝灰岩などは、丸太を括りつけたなら、結構水(海)に浮くと言います。あんな巨大なものを運べたのか? えぇ、多分、運べたのです。でもあの石の寶殿は欲張り過ぎましたでしょうかね。
 石の寶殿の謎については他に諸説あり、よろしかったら検索してみてくださいね。

今、日本の考古学世界の常識として、「日本には巨石文明は無かった」とされています。
でも、そもそも巨石文明って何なの? ってことですが、例えばピラミッドやストーンヘンジや、大きな石を組み合わせて何かを作り上げた文明を巨石文明というのなら、古墳や巨大石室は十分立派な巨石文明です。明日香村の石舞台を見たら、石室ではあろうけれど、いわゆる巨大なドルメンですよね。
また、それよりはるか古代から、大きな岩を目印にして、農耕や狩猟・漁猟のためのカレンダーとしての役割を与えたり、また神様が降りる依代としての磐座、あるいは神様そのものとして崇めたりもしてきました。大きな石はそれだけで信仰の対象となっています。
これって、腹を括って、巨石文明と言って欲しい……いえ、ある時代にだけ存在した特別な文明ではなくて、日本人的宗教感覚からすれば、実は現代までも脈々と続いているのかもしれませんね。

文明をある時代で区切って話をすると「巨石文明時代」はなかったということになるかもしれません。「消えた○○文明」とか「忽然と姿を消した○○人」なんて話になるのですが、そもそも文明も民族も、そんなふうに「消失」するものではありませんよね。
時代は連綿と連なり、次へ移っていくのです。インディアンの記した渦巻紋様は「移動」を表すものだと言われています。移動、すなわち永遠。停留することなく、次の時代へ、次の居住地へと流れていっただけなのですよね。
そう考えると、巨大な磐座を見上げて思わず手を合わせてしまう私たち日本人は、もしかすると、今も「巨石文明」の中を漂っているのかもしれません……(「巨石文化」というべきなのかな。文明とは言わない、と識者に怒られそうだし)

熟田津から飛躍しすぎてしまいました。
(一説による)「熟田津」の近くに、この『白石の鼻』があります。
白石の鼻地図
松山から車で半時間ほど。矢印のところですが、なぜ「鼻」なのかというと、岬の突端が突き出しているのです。で、この白石の鼻の海の中に、今回の主役・『三ツ石』があります。
海の中なのですが、干潮の小潮なら渡れるのだとか。今回行ってみて、ぜひとも登りたい! とまた目標を新たにしました。
白石の鼻神社
これが突き出したところ。龍神社という小さなお社があります。
三ツ石
その真正面にあるのが三ツ石です。手前に小さな石が3つ見えます。これは『夏至の三ツ石』と言って、この3つの石の丁度間を夏至の太陽が沈むそうです。そしてその先に石が組み合わされたようなものが見えると思います。あれが『三ツ石』なのです。
『三ツ石』と言っても、石は3つではなく、正確には5つ(+α)の石の組み合わせのようです。
三ツ石x2
丁度、『夏至の三ツ石』の間を合わせてみました。この隙間を夏至の太陽が沈むそうです……そう、巨石ファンの正月と言われている夏至。来年の夏至は年休を取るぞ!(そして尾道の向島に行く!)と決意を新たにして……今はこの景色を楽しみましょう。
三ツ石夕陽を待つ
少し回り込んでいくと、石が3つに見えます。鳥がとまっていますね。この鳥、結局ず~っとそこにいました。でも、時々向きが変わっていたので、オブジェじゃない^_^; 上に乗っかった大きな石の下に少し隙間があるのが分かるでしょうか。
白石の鼻岩場
龍神社の方から観測ポイントに行くには、少し危ない岩場を降りて行かなくてはなりません。崖と岩の塊の間を抜けて観測ポイントに行くのですが、足場を渡してもらわなければ降りていくのは少し大変かもしれません。
さて、この岩の塊、ですが、『亀石』と呼ばれています。こちら側からはあんまり亀に見えませんが、龍神社側から見てみるとこんなふうになります。
亀石2
ちょっと寸足らずにも見えますが、一応「亀」かな。この石の組み立てを見ると、間に岩が崩れないように石が挟まれているのが分かります。そして、調査委員会の方によると、この亀石にも空洞があって、そこを冬至の日の入り1時間前、つまり夏至の日の出1時間後の太陽光線が通過するそうです。
三ツ石待ち遠しい夕陽
こちらが観測ポイント側から見た三ツ石です。あの隙間に、春分と秋分の太陽が沈むというのです(正確には、秋分までの約1週間、春分からの約1週間)。ちょっと雲が気になりますね。アップにしてみます。
白石の鼻1
そう、3つじゃなくて、最低でも5つの石ですね。『三ツ石』という通称のようですが、『白龍石』とも言われてます。白い龍? なぜ、これが龍? と思われるかもしれません。上手く見えたら、きっと海に龍が泳ぐんですよ!
白石の鼻3
先ほどの龍神社側から見るとこのような組み立てになっています。こちらの石については調査委員会さん(後述)が頑張って研究をなさっています。夏至・秋分・冬至・春分……研究のチャンスは年にそれぞれ1回ずつ、しかも天気とは限らないので、何年にもわたる調査が必要なんですね。応援したいと思います。
それにしても見れば見るほど味わい深い造形ですよね。この形自体がすでに芸術です。
白石の鼻夕陽3
ほら、光りが貯まってきましたね! ぼわんと空洞の周りが光を纏っています。あの逆三角形の隙間の上の方に向こう側の石が少し顔を出していますよね。その横に線状の隙間がありますが、太陽はそこに沈むそうです。
三ツ石と夕陽3
先に謝っておきます。引っ張るだけ引っ張って「今回この謎は解かれませんでした。しかし我々は謎に迫る鍵を手にしているのかもしれません」的なアナウンスで終わる番組みたいな展開になっていきますけれど、お許しあれ。
上の写真、空洞を通る光が帯になって、少しだけ海面に伸びているのが分かるでしょうか。えっと……ここを光がまともに通過したらどうなるか! それは皆様の頭の中で想像再生していただけると嬉しいです(>_<)
三ツ石と夕陽2
惜しかったですね。あと少しだったのです。でも今光を放っている夕陽の下には結構厚そうな雲が鎮座していまして、結局この後、あとちょっとで感動的なシーン!の前に、太陽は雲に沈んでしまいました。
白石の鼻夕陽1
上手く光の帯が伸びたら、まるで白い龍が海に横たわるように見えたことでしょう。
少し残念ですが、十分に夕陽と巨石の素晴らしいコラボレーションを楽しませていただきました!
ちなみに、あの空洞に太陽が入っているシーンを真正面から見るには少し低い位置から見るのが良いそうです(ということは海中に入るのね)。縄文海進までは地面に直接落ちる光が見えていたのではないかとも……でも、海に落ちるほうが素敵ですけれど。
そうそう。ね、鳥。ずっといたでしょう? でもちょっと向きが変わっているのですよ。
名残の三ツ石2
名残惜しいですが、そろそろ暗くなってきますので戻ることにします。龍神社の方まで戻ると、波がずいぶん引いていて、ほら、もう少し小潮になったら渡れそうですよね。
三ツ石に渡れるかな?
そうそう、この三ツ石、自然の造形だと思いますか? それとも人工的に組み合わされたもの?
参考に周囲の石たちの様子を見てみましょう。
白石の鼻駐車場側から
これは道路からみた白石の鼻。少し柔らかい岩(茶色っぽい部分)が波で削られていって、コア石(白っぽい)が残されいてくのが分かります。大きなコア石もありますね。
三ツ石もまた、このように残されたコア石でしょう。でも始めから自然にこの形に残されたか?
周囲の景観からはこの部分の岩の残り方は少し唐突ですね。荒い波の中で上段の岩が流されずに残るのは難しそうです。

下の段の石は自然のものであった可能性はありそうです。でも、上の段はどうでしょうか。
夏至の三ツ石については自然のままのものを利用したような気がします。いえ、逆にこの3つを残すために、他の石を取り除いたかもしれません。
その間をある季節に太陽光が通るような石の組み合わせは、自然に存在する可能性もあると思います。私がとても好きな岩、向島の岩屋巨石の割れ目にも夏至と冬至の太陽が通過しますが、あれも自然に割れたものでしょうか、割ったものでしょうか。

もしそれが自然の位置関係だったとしても、そのことを知った人々が暦代わりに(あるいは祭祀のために?)これを使ったことは間違いがないでしょう。そして、その時に、少し人工的に手を加えたかもしれません。
この石の組み立てでは、特に上段の石は不自然な組み立てに見えるので、この2つには人の手が加わっているような気がします。下の段は……う~ん、ぜひとも傍に近づいて、上に登って、見て触れて確かめたいですね。
つまり、自然の姿を利用して、それがより効果的に見えるように・使えるように手を加える。これが日本の巨石文明・巨石信仰によく見られる手法かな?
夏至の三ツ石と夕陽
謎を解き明かしたいような、このまま謎で置いておきたいような。
でも、海と石と太陽。いずれにしても、とても魅惑的な組み合わせです。
またいつか。

最後に、この松山・白石の鼻巨石群を調査し、人々に広めようと頑張っておられる調査委員会さんのHPはこちら→松山・白石の鼻巨石群調査委員会。私が見られなかった太陽光が通過する写真もフォトギャラリーに入っています(^^)

あ、実は今回はこの【石紀行】定番の?地域の美味しいご飯と素敵なお宿のコーナーはお休みです。何しろシルバーウィークの宿探し、混迷を極めまして、道後温泉とは言え、何とか泊まった!という感じでしたので……でも、11月始めの福島の旅では乞う御期待ですよ! テレビでもしばしば取り上げられている向瀧さんにも泊まる予定(*^_^*)
さて、次回は高知・足摺岬の唐人駄馬にご案内いたします。巨石の使い方は暦だけではない……次回は灯台です。

Category: 石の紀行文(写真つき)

tb 0 : cm 6   

[雨145] 第30章 巷に雨の降る如くに(3)退路は断たれた 

【海に落ちる雨】第4節・最終章(第30章)『巷に雨の降る如くに』 その(3)です。
小鳥に説教する聖フランチェスコ2
今回登場する回想シーンに、アッシジのサン・フランチェスコ聖堂が出てきます。真は高校3年生、大学入試の後に家庭教師(=大和竹流)におねだりしていたイタリア旅行に連れてきてもらって、アッシジを訪れた時のことです。
サン・フランチェスコ聖堂の中には、聖人の生涯がフレスコ画で描かれていますが(ジョット画)、その中でも最も有名なのがこの「小鳥に説教をする聖フランチェスコ」です。真はこれを見た時、言葉が分からないはずの小鳥にも分け隔てなく(そして辛抱強く)説教をする聖人に竹流を重ね(まともに日本語!を話していなかった、いや、他人とまともにしゃべれなかった自分に言葉を授けてくれたのは彼だと思っていますから)、自分はその中の一番小さな小鳥だと思ったようです。
「あんたの国の神様は優しいね。屋根を外して、鳥も虫も一緒に教会に棲めるようにしたり」
このシーンはまた竹流視点で出てきますが、この物語全体の最後にも前後関係を含めて登場します。
*真がここで言っている屋根のない教会はシエナ郊外の田園地帯に建つサン・ガルガノ教会です。

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

tb 0 : cm 10   

[雨144] 第30章 巷に雨の降る如くに(2)境界線上のキス 

【海に落ちる雨】第4節・最終章(第30章)『巷に雨の降る如くに』 その(2)です。
長い章なので、5日おきくらいには更新しようと(でなければ、ぶちぶちと内容が切れてしまうので)予約投稿にしようと思うものの、手直ししながらだと、なかなか思うようには行きません。でも、がんばってみます。
意味深なタイトルになりましたが、今回は少し真面目です。
そう言えば「これは恋愛じゃない」って言ったみたり、「命を賭けるなら恋がいい」なんて言ったみたり。作者の私もあっち行ったり、こっち行ったりしておりますが、この章はもうはっきり言いましょう。……「これは恋」、多分。

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

tb 0 : cm 8   

【オリキャラオフ会 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!】無事に閉幕~追記あり~ 

オリキャラオフ会第2弾 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!~
offkai.png
オフ会記念写真2
 limeさんのオフ会の記念集合写真イラスト・元記事
  →(企画小説)オリキャラオフ会★後編:『いつかまた』
 設定・参加予定者はこちら【オリキャラのオフ会】また一緒に遊ぼうにゃ~!


皆様の多大なるご支援の賜物で、ようやく大団円を迎えました!
ただPCの前に座っていただけなのに、皆様とご一緒に北海道を満喫したような不思議な満足感に浸っております。
こうして最後にもう一度ラインナップを眺めても、しみじみ、楽しかった~と言いたくなるような、そんな時間を頂きました。改めて感謝申し上げます。
本当はもっとじっくり絡みたかったメンバー、絡み切れなかった部分、もう少し書きたかったけれどというシーン、心残りもいっぱいあるのですけれど、さすがに体力の消耗が激しく(そう、何故か、体力消耗です)、これが限界。またいつの日にか、ゆっくり絡み合いたい(?)と思います!

そうそう、今回ふと思ったこと。人間様たちに囲まれていて、一生懸命ついていこうとしているけれど、マコトはやっぱりねこだなぁ~と、今更当たり前のことにしみじみ感じ入ったのでした。なんかね、盆踊りのシーンが浮かんで、人間がいっぱい踊ってて、マコトは足元で一生懸命真似してそうだけれど、ただ右往左往しているだけに見えるんだろうな~なんて。
みんなが帰った後、ひとりで目玉1号を転がしているマコトが、私の今回のツボです。
あ、去っていく、目玉1号改めモンジロウも……(*^_^*)

何はともあれ、ご参加いただきました皆様、出揃いました下記ラインナップ、そして集合写真(limeさんありがとう!)を眺めながら、過ぎゆく夏を御一緒に見送りましょう。
本当にありがとうございました!!


<追記>
にゃんと! サキさんがもう1作書いてくださいました!!
ラインナップの最後に加えさせていただいておりますので、ぜひともご覧くださいませ(*^_^*)
これで全30話になりました!! 本当に感激です(;_:)(^^)
あ、でも、サキさんにもご指摘いただきましたが、私、期限を切っていませんでしたので、もしかして今からまだ増えることもあるかも? もちろん、大歓迎です(*^_^*)
う~む。しょっちゅうやるのは無理だけれど、来年も夏にやりたいなぁ、なんて、ちょっと思ったりしていることは内緒です。

作品ラインナップ (準備記事含む/公開順)
皆様の作品のラインナップをご確認ください。万が一漏れていたら、お知らせくださいね!
(設定記事にもラインナップを載せておりますが、クリックは面倒なのでこちらにも)
 (オリキャラのオフ会)準備4コマ漫画&キャラの紹介(limeさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(前編)(けいさん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(パイロット国道)(サキさん)
 君との約束 — あの湖の青さのように(1)(八少女夕さん)
 オリキャラオフ会2参加作品 696(足寄国道)(サキさん)
 『背後霊』大海さんちのオリキャラオフ会/また一緒に遊ぼうにゃ~(あかねさん)
 (企画小説)オリキャラオフ会★前編:『能取岬と小悪魔ヒッチハイク』(limeさん)
 【浦河パラレル】(1)上野発夜行列車・パラレル札幌行 (大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.1(ふぉるてさん)
 夢叶 番外 ・ オリキャラのオフ会 in 北海道(後編)(けいさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(2)(夕さん)
 オリキャラオフ会★中編:『そして浦河の牧場へ』(limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.2(ふぉるてさん)
 【小説】君との約束 — あの湖の青さのように(3)(夕さん)
 牧神達の午後(サキさん)
 【浦河パラレル】(2)マコトの知床旅情(大海)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(前編)(TOM-Fさん)
 『花火の音は』(あかねさん)
 【浦河パラレル】(3)カムイミンタラの夕べ(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.3(ふぉるてさん)
 シグナス・ルミナス ブルー ヴァリアブル Append 北海道の夏休み(後編)(TOM-Fさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.4(ふぉるてさん)
 【浦河パラレル】(4)あの列車に乗って行こう (大海)
 (企画小説)オリキャラオフ会★後編:『いつかまた』 (limeさん)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.5(ふぉるてさん)
 オリキャラのオフ会『出逢ったことが奇跡。そして、また逢おう』(かじぺたさん)
 【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇)(大海)
 【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇)(大海)
 オリキャラオフ会 in 北海道 No.6 (完結)(ふぉるてさん)
 いつかまた・・・(オリキャラオフ会)(サキさん) 
(特別番外)
 ノイズ(連作ショートショート)『ぱさ。』(ポール・ブリッツさん)


それでは皆様! また一緒に遊ぼうにゃ~!

Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

tb 0 : cm 0   

[雨143] 第30章 巷に雨の降る如くに(1)姫君降臨 

【海に落ちる雨】第4節・最終章(第30章)『巷に雨の降る如くに』 の幕開けです。
そう言えば学生時代、ありがちなことですが、詩に嵌ったことがありました。その筆頭にあったのがランボーとヴェルレーヌ。この章題はヴェルレーヌの『言葉なき恋唄』の冒頭です。そう言えば、ノートに書いてあるジョルジョ・ヴォルテラ(大和竹流)の物語の何章めかの最終ページはランボーの『永遠』でした。
え? 自分では書かなかったのか? う~ん。どうやら短い言葉でぐっと感動を誘うのは昔から苦手だったようです。ま、長文でも残念ながらそんなに感動的なことは書けないのですけれど。
第30章は、大和竹流の怒涛の独白に至る章です。少し長めなので、ゆっくり参りたいと思います。
あ、プチタイトルはふざけました。ごめんなさい。

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

tb 0 : cm 6   

オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇) 

ついに大団円の最終話をお送りいたします。オフ会に参加してくださった皆様、そして読んでくださった皆様、ありがとうございます!! 思ったよりもずっと長くなって、思ったよりもずっと難産な部分もあって、思ったよりもはるかに楽しく書かせていただきました。
Special Thanks to……八少女夕さん、limeさん、ふぉるてさん、TOM-Fさん、けいさん、サキさん、あかねさん、かじぺたさん、ポール・ブリッツさん。
参加して下さった全てのメンバーに大きな拍手です(*^_^*)
それでは、大海の最終話、おたのしみください。
アップしてからちまちま直したり書き加えたりしているので、読み返したらちょびっと変わっているかもしれません。って、読み返すほどの内容じゃないけど^^;


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(6) I was born to love you(後篇)



8月13日
 おはようにゃ! ちょっとだけキモチわるいにゃ。ナギちゃんとぼく、ふつつかよいだって言われました。でも、らいじょうぶら~。
 えっと、きょうは、みんなでえりもみさきにいきました。えりもみさきについたら、モリシンイチをうたいました。えりもの~はるはぁ~♪
 えりもみさきには、あざらしがいっぱいいました!
 あざらし、おいしい?(タケル註:お前には脂っこすぎるかな。マコト:ひかしぼ~! タケル:なんでそんな単語を知ってるんだ?)
 でもびゅんびゅんすごい風で、ぼく、ころんころん、ころがっちゃいました。だから、まことがぼくをうわぎの中にかくまってくれました。タケルのふくのなかみたいで、あったかかったです。ぼく、ちょっとだけタケルにあいたくなっちゃいました。
 でも、ぼく、だいじょうぶ。ひとりで、おるすばん、がんばります。みんながいるから、だいじょうぶだよ。
(タケル添削:ふつつかよい→二日酔いだよ。お前、北海道に行くと間違えて飲むこと多いなぁ。ダメだぞ。急性アルコール中毒は怖いんだからな! マコト:なめただけなんらよ。でもきをつけるにゃ)


 朝靄が牧草地を覆っている。馬たちの影が微かに見える。緩やかな風が海から流れてくる。真は朝露に湿った草地を踏みながら丘を登った。厩舎の周囲は平らに拓かれているが、その先は随分と起伏にとんだ地形となっているので、牧場の敷地を少し出ると景色は随分と印象が変わる。
 北海道の景色は、夏の一時期、人間に対して奇妙に優しくなるが、短い秋が過ぎると途端に素っ気なくなり、真冬にはまるきり人間を寄せ付けない。それでも、この大きな自然の中で、自然に巻き込まれながら、人々は生きている。自然に対して何かができるとは思っていない。ただその中で、大きなものに合わせながら、生きているのだ。

 東京に住むようになってから、この感覚を忘れていたかもしれないと真は思った。
 ふと顔を上げると、朝の光とも靄ともつかない白い景色の中に人影が見えた。自分が一番乗りだと思っていたので、少し残念だった。
 人影は、その遥かな大自然にカメラを向けている。綾乃だ。彼女は何かを探しているのだろう。何かを探している人の姿というものは神々しいものだと思った。綾乃は構えていたカメラを下ろし、遠くを見つめる。

 写真のことは分からないけれど、きっと、心の底から突き動かされるようにシャッターを切る瞬間というのは、そんなに何度もないのだろう。
 邪魔をしないように引き返そうとしたとき、綾乃が真に気が付いた。
「おはよう」
「おはようございます。早いですね」

「でも牧場の人たちは、私たちがまだ寝ている間にもう起き出して仕事を始めてるじゃない?」
 真は頷いた。
「もっとお役に立ちたかったのに、今日はもう仕事は終わりだし、ちょっと申し訳ない気持ち」
「そんなことないですよ。きっと、彼らは皆さんが来てくれて、非日常な数日が過ごせたことを喜んでいると思います」
「そうだと嬉しい。盆踊りの前にね、お風呂でコトリさんやダンゴさんと話していたんだ。人前で歌うのって苦手だな、って話になったんだけど、今回は誰かのためになら歌えるね、って。お世話になっているこの町の人たちへの感謝と、それから、あの二人のためなら」

 真は綾乃のカメラを見つめた。EOS Kiss Digitalと教えてもらった。真の時代にはない、フィルムが必要ではないカメラだ。
「いい写真が撮れましたか?」
「ううん、まだ。やっぱりこの自然には圧倒されちゃう。その中で生きている人たちが、短い夏の間に弾けようとするエネルギーにも。このフレームにこれをどうやって収めるんだろう、あるいは何を切り取るんだろうって、考えたらシャッターを切れなくなることもある。でも、だからこそ、この場所、この時は二度とないんだなぁって、自分がここに立っているこの時間を何とかして残したい、誰かに伝いたい、そんなふうに強く感じてる」

 それから、綾乃はじっと真の顔を見つめた。
「ね、昨日の夕方……」
 真も綾乃の顔を見つめ返した。
 その時、不意に不思議な感覚に襲われた。何か、自分でないものの思念、存在のようなものが流れ込んできたのだ。いや、あるいは自分自身の内側に湧き起こったのかもしれない。懐かしいような、悲しいような、それでいて穏やかで温かいような、不思議な感覚だった。

 綾乃は「ううん、何でもない」と言って、まるで名残を惜しむように牧草地を見つめた。何かを掴みとろうと前進する女性の横顔は綺麗だなと思った。
 享志の奴、見惚れていたけれど、ちょっと分からなくもない。ま、今回は葉子には内緒にしておいてやろう。
 今日は襟裳岬に行って、それから帯広だね、と綾乃が呟くように言った。

「襟裳岬って、森シンイチの歌でしか知らないわ。北国の岬を見るの初めてだから楽しみ」
「少なくとも、『何もない春』ってことはないです。春になると海の匂いが変わって、短い草が生え始めて、海風に耐えながら伸びていく。何より、突端に立つと、270度見回せる海が広がっている。それから、ゼニガタアザラシもいっぱい見ることができるし」
 綾乃がくすっと笑った。
「ここが好きなんだね」
 真は何だか赤くなってしまった。

「上手く言えないけど、来てよかった」
 真は頷いた。
「いつか、綾乃さんの写真が見たいです。綾乃さんが大切な人にこれを見せたかった、と思えるような写真」
「うん、いつかね」
 そう言ってから、綾乃はふと何かに気が付いたようだった。そして少し困ったような顔をし、それから困惑を振り切るように真を見て、力強い声で言った。
「そうだよね。いつかまた、きっと」


「おはようございます」
 幸生がまだ眠そうな目のままで、台所で朝ごはんの準備をする女性たちのところへやって来た。台所で早朝から働いているのは、いつもの通り、かじぺたさんと奏重と知里(弘志の妻)だ。
「あら、おはよう。昨日はご苦労様でした」
 奏重が返事をして、労うように幸生にコーヒーを淹れてくれた。

「すみません。本当に、力不足で……」
「いいの、いいの。男と女のことだから、何もかも思う通りにはいかないものよ」
「じゃ、やっぱり、昨日のは策略だったんですね?」
 かじぺたさんがニコニコしながら確認した。
「策略ってほどのことでもないんだけれどね。最高に素敵なお祝いをしてあげたいって、ある人から頼まれていたのよ。でも、プロポーズは一大事ですからね。正志さんにしても、意を決してプロポーズするつもりで北海道にやって来たのに、来てみたらこんなにみんなが仲良くなっちゃって、逆に二人きりになるチャンスがないなんて、まぁ、皮肉なことだけれど」
「じゃ、正志君もタイミングを逸しているわけなんですね」

「サクラまで用意しんだけど」
 知里も相槌をうつ。つまり、昨夜の「兄ちゃん、誰にプロポーズだべ」って掛け声はサクラ係の声だったのだが、緊張して歌っていた正志の耳には聞こえていなかったらしい。盆踊りの最中にプロポーズ、そして会場でみんなのサプライズ祝い、という運びだったのに、致し方ない。
「でも、旅が終わりに近づいてきて、追い詰められたらきっと行動に出ますよ。男なんだから」

「いやぁ、最近の男は選べない、言い出せない、自信がない、って感じですからね。やっぱり心配だなぁ」
 幸生は自分を棚に上げて頭を掻いた。
「まぁ、でも、運命ならば時が来るものですよ」
「そういえば、奏重さんも知里さんも大恋愛だったんですよね」
 かじぺたさんが今日のスープを作りながら、やはり笑顔で言った。

「私はただ、自分の出自のことで皆さまに迷惑をかけたってだけで」
 知里の言葉をぴしゃりと奏重が止めた。
「まぁ、何を言うの。あなたはうちの素晴らしい嫁ですよ。私はあなたを誇りに思っているわ」
 先住民族であるアイヌの歴史は決して明るいものではない。それでも弘志と知里は想いを貫いたのだ。そしてその背景には、自分たちも周囲の大反対を押し切って、駆け落ち同然に結ばれたという長一郎・奏重夫婦の歴史がある。

「奏重さんは金沢からこちらに嫁がれたんですよね」
「長一郎さんとは想いを確かめ合うこともなく、一度は別れたんですよ。お義父さまが倒れられて、あの人は浦河へ帰ってしまって、その後何年もお互いに連絡を取り合うこともなかったの。牧場のことではあれこれ大変だったと後から聞いています。私はもう諦めていて、別の方との縁談が決まっていた。そこへあの人が迎えに来てくれたんですよ。長一郎さんは一度結婚されて、その後、奥さんを亡くされていたんだけれど……このまま運命に従っていては、想いを残したまま生涯を送ることになると、意を決して金沢まで迎えに来てくださった。私も、たくさんの人に迷惑をかけたし、ここへ来た当初は、花街生まれの女に馬や男たちの面倒を見れるわけがないと、ずいぶん言われたものです」

「男と女には、ここぞという場面があるものですね。大丈夫、幸生さん、正志君と千絵さん、お似合いですもの。二人はきっと、少しくらい回り道してもちゃんと上手く行くと思いますよ」
 かじぺたさんがにっこり笑った。
「えぇ、後で私がこっそり正志さんに耳打ちしておきましょう。うちのスタッフの一人が、働き者でよく気が付く千絵さんをいたく気に入って、よければ牧場に残ってくれないかなんて言っている、とでも」
 奏重が力強く言った。幸生は、女はやっぱり怖いと思った。


 襟裳岬を回って、帯広の近くでジンギスカンを楽しみ、花火大会の会場に着いた時は既に十勝川河川敷近くの会場にはものすごい人が集まっていた。
 花火大会は6部構成になっていて、デジタルとアナログを組み合わせた素晴らしいショーだった。夜空にレーザー光線が光の演出を繰り出すが、もちろん、花火の素晴らしさには敵わない。独創的な花火師たちの特別な花火の紹介もあり、地元の小学生たちの企画花火があり、みんなのメッセージ付きの花火も上がった。

「さぁ、第5部では、メッセージと共に花火を贈ります。まずは、十勝市のKさん。お父さん、お母さん、結婚25周年おめでとう!」
 尺玉が夜空に上がる。一発ずつだけれど、誰かの想いが夜空に花と拓く。
「帯広市のFさん。今年定年退職になったお父さん、今日まで本当にご苦労様!」
 またひとつ、花火が上がる。皆の拍手が夜空に木霊する。
「和歌山から愛をこめて!」
 その声と一緒に打ち上げられたのは猫型花火だ。会場は特別な花火にどっと沸いた。あれって、駅長のたまだよね? という声が聞こえていた。
「東京都港区Tさんから、高校生トリオへ、さっさと帰ってこい!」
 ハリポタトリオと呼ばれていた三人の高校生は顔を見合わせる。その後、享志はぶっと噴き出した。萌衣は大受けで手を叩いている。真はむすっとしている。 
「帯広市のAさん。みっちゃん、結婚してくれ~!」
 尺玉が空で弾け、どっと観客席の一部で歓声が上がった。

 へぇ、こんなコーナーもあるんだね、と千絵が羨ましそうに正志に囁いた。
 正志は青ざめた顔をしていた。こんなコーナーがあるんだったら、もっと早くに教えてくれていたらよかったのに。しかも、牧場のスタッフの誰かが千絵に懸想しているだなんて!
 そう思った時だった。
「富良野市上田久美子さんから、正志君と千絵ちゃんに感謝をこめて! 幸せになってね!」
 正志は自分の聞き間違えではなかったかと思いながら、呆然と夜空に花咲く花火を見上げていた。隣にいる千絵も今のアナウンスを聞いたはずだ。でも彼女はただ空を、花火を見上げている。
 話しかけていいものか、まだ正志は迷っていた。
 メンバーたちは事情を知っていたのかいないのか、時々正志たちの方を気にしながら、口々に綺麗ね、綺麗ね、と言い合っている。彼らの目から見れば、千絵の横顔は明らかに正志に話しかけてもらうのを待っているというのに。

 そうこうしているうちに、花火大会はクライマックスに移っていった。
「勝舞花火2015、グランドフィナーレ、この一瞬を共に!」
 始まって2曲目で、ジョン・レノンの『イマジン』と共に夜空にハートが開いた。
 次々と夜空で花咲く花火。クライマックスに向けて会場中の空気が盛り上がっていく。この一瞬、一瞬、千絵や、ここにいるみなと過ごした時間、全てが花火となって夜空で炸裂する。そしてこの一瞬が消え去ってしまったら……何が残るのだろう。
 いや、心の中に開いた花火を消すことなんて、できない。
 正志はついに決心した。「今」でなくて、いつ言うんだ?
「千絵」
 正志は想いをこめて呼びかけた。

 ……
『風が吹いている』の曲に乗って勝舞花火名物の錦冠が夜空を黄金に染め上げる。
 その光の中へレオポルド、マックス、そして昨夜から突然現れたお堅い役人風と超絶色っぽい姉さんは、いくつものジェラルミンケースと大きな思い出を残して消えていった。
 マックスが姿を消す一瞬前、萌衣に「送ったから!」と言ったが、何のことか分からなかった。

「なんとなく、これからもずっと一緒にいるんだと思っていたわ」
 たった今、プロポーズを受けた千絵が呟くように言った。皆が同じ気持ちだった。花火が消え去った空に友を探すように、皆が残された大きな宇宙に瞬く星々を見上げていた。
 それでも、帰るべき場所がそれぞれにある限り、皆、その場所へ帰っていくのだ。

 帰りの渋滞には会場に集まった人々は辟易していただろうが、相川牧場のチャーターしたマイクロバスの中は祝いムードに満ち溢れていた。みんなで歌を歌ったり、あれこれ思い出を語り合ったりしていると、時間などあっという間だった。そう、たったの三日間だったのに、もう「思い出」と呼べるものがあるのだ。
 不思議と満たされた短い時間。それを夢に見ているのか、マコトは真の膝の上で丸まって眠っていた。本当は眠っていなくて、別れの時が近づいていることを感じて寂しくなっているのかもしれない。
 真はバスの窓から夜空を見上げた。

 この空は、あの東京に繋がっているのだろうか。自分の還るべき東京に。
 一抹の不安を感じた時、隣に座る享志の手が、真の膝の上のマコトにすっと伸びてきた。そのまま享志の手がマコトの茶虎の毛を撫でる。
「帰ろうな」
 真はしばらくじっと親友の横顔を見つめ、やがて小さく頷いた。
 マコトにはマコトの、待っている人がいるのだ。


 夜中に眠れなくて岩風呂に行くと、先客がいた。成太郎とレイモンドだ。何となく不思議な組み合わせになったな、と思いながら、真は彼らと挨拶を交した。
 身体を洗っていると、成太郎が背中を流してくれた。
「成太郎さん、ありがとうございます」
 真は改めて礼を言った。
「なんで、こっちこそ、ありがとう。色々吹っ切れなかったこともあったけど、今は、自分をしっかり持って前も向いていようって、そうしたらきっといつかいいことがある、そんな気持ちになれてるんだ。ありがとう」
 成太郎は力強くそう言ってくれた。

 岩風呂は夏の間は開け放って半露天になっている。冬はそれではとても耐えられないので、雪よけを設置できるようになっていた。今は、湯につかりながら満天の星空を見上げることができる。こうして宇宙を見上げていると、次元も時間も、簡単に飛び越えられそうな、そんな気がしてきた。
 そんな次元をお互いに超えて偶然二度も出会うことになったレイモンドとは、不思議な因縁から、また邂逅する時があるような気がしていた。

「俺も、実はいろいろ思い出せないことがあって、時々気持ちが折れそうになることがあったんだが、こうして何度か異次元に誘い込まれて、何だか色んなことが何とかなるような、そんな気持ちになってきている。それに、不思議なことにリーザや詩人とも、もっと絆が深まったような気がするから不思議だ」
「詩人3世さん?」
「そうそう、何で、急に3世何て言いだしたんだろう? 陛下はII世だと言っていたし、目玉は1世? あ、犬のエドワードも1世だっけ? 流行に乗ったってことかな」
「そう言えばリーザさんは、うちのじいちゃんと真のじいちゃんと、相当仲良くなったみたいですよね」
「あれは仲良くなったというのか、ただ呑兵衛同士というだけなのか……」
 レイモンドも相当に飲むが、どちらかというと静かに飲んでいる。リーザは騒ぐわけではないが、老人のうわばみ二人とは完全に意気投合してしまったようで、飲みながら往年の友人のように注ぎ合っていた。
「酒飲みは語り合わずとも分かり合えるんですよね、きっと」
 三人は顔を見合わせて微笑み合った。


 翌朝、目が覚めたら、レイモンドとリーザ、詩人は、あの不思議な翻訳機もろとも消えていた。長一郎がリーザのためにと用意していた一斗樽も忽然と姿を消していた。持ち帰ったのか、飲んでしまったのかは定かではない。
 コトリとダンゴはこのまま北海道をもう少し回ってから帰るそうだ。コトリと握手をして別れた時、少しだけ甘酸っぱい気持ちになった。
 綾乃も去っていった。美瑛にもう一度寄ってからニューヨークに帰るそうだ。いつかきっと写真を見せてもらうという約束は、しっかりと交わした握手で確かめ合った。

 幸生はポチを連れて、来た時と同じように飄々とした感じで去っていった。その後ろ姿を見送っていたら、その後ろを三毛猫がとことこ歩いてた。あ、やっぱり猫がいたんだ! 真がそう思った時、三毛猫は振り返り、まるで挨拶をするように頭を下げて、そしてすっと幸生の肩に飛び乗った。と思ったのだが、飛び乗った時、ふわりと消えた。

 そして、正志と千絵。本当に有難うと何度も言って、レンタカーに乗り込んだ。特に千絵は牧場の女性陣と随分と仲良くなっていたので、この牧場は第二の故郷になるような気がすると言った。
「あ、正志さん、うちのスタッフが千絵ちゃんのこと気に入って、ってのは嘘なのよ。ごめんなさい。でも、私たちはみんな、彼女をとても気に入っていて、家族のような気持ちになっている。幸せにしてあげてね」
 正志は一瞬「え~」という顔をしたが、次には唇をしっかりと引き結んで、力強く頷いた。

 それから、真はかじぺたさんと、ナギ、ミツルと一緒にミズナラのドングリを植えた。
「大きな木になって、どんぐりがたくさん生ったら、きっとまた、ここでみんなで集まろうよね!」
 かじぺたさんがそう言って、ナギ、ミツル、享志、萌衣、そして真を順番にしっかりと抱きしめてくれた。

 そして。
 いよいよ自分たちもこの牧場を去る時が来た。気がかりなのはひとり(?)ここに残るマコトのことだ。マコトは確かにミズナラのドングリを植える時、そこにいたのだが、気が付くと姿が見えなくなっていた。真は弘志に少し待ってもらって、猫を探した。
 皆で泊まっていた大広間に行くと、なんと、目玉1世がぷかぷかと浮いていた。

 あれ、ナギ、忘れていってる。大事そうにしていたのに。
 そう思ってふと見ると、広間の真ん中に紙が落ちている。真はそれを拾い上げた。
 ……
 まさかの肉球文字。
 でも、その下に、ミミズの這ったような文字で「訳」が書かれていた。

 ……ナギ、あんなに大事にしていたのに。でも、マコトのために自分は我慢したのだ。
 そこには、こんなふうに書いてあった。
 マコトへ。ひとりでおるすばん、えらいね。目玉1号をおいていきます。いっしょに遊んでやってね。また遊ぼうね。ミツル、ナギ。(ほんやく:はぞるかどす)
 レイモンドの翻訳機、肉球文字まで翻訳できるようになってたんだ。すごい進化だ。
 ものすごい視線を感じる。真は至近距離から手紙をじっとのぞきこんでいる目玉1号と目が合って、何となく頷き合った。

 うん、マコトを頼むよ。
 まぁ、乗りかかった舟さ、しょうがない。
 目玉1号がそう答えた気がした。

「真、行くよ」
 萌衣が呼びに来た。真は頷いた。
「マコトが心配? あ、ややこしいね。猫のマコト」
「うん。でも、きっと顔を見たらもっと心配になるし、連れて行きたくなっちゃうし、それが分かってるからマコトも出てこないんだ」
「また会えるよ。二度あることは三度あるから」
 それにそもそも、自分たちが無事に帰れるのかどうか、まだ確定したわけではない。
 ……ま、そうなったら、あの男が時空を超えてでも迎えに来てくれるかな。
 そう思った自分が可笑しかった。
 玄関で享志も待っていた。三人は顔を見合わせ、そして牧場の景色を見つめ、何となく三人で輪になって額を突き合わせるようにした。

「また、いつか」
「また、きっと」
「うん」
 弘志が運転するバンに乗って、夕陽にけぶる牧場をふり返ると、真のお気に入りのあの場所に人影が見えた。
 夕陽の中ではっきりとは分からなかったけれど、あの黒い服の女性だと思った。
 その傍らに、とても小さな猫の影が見えていた。
「また一緒に遊ぼうにゃ」
 真はその小さな影に向けてそっと呟いた。


「なんで?」
 上野駅に降り立った途端、そう言ったら、ぽかん、と頭をこつかれた。
「お前、それが早朝からわざわざ迎えに来てやった俺に対する言葉か? あんまり寂しそうな声で電話してくるから、心配してやっていたのに」
「俺、寂しそうな声なんて出してないよ」
「嘘つけ」
 そのやり取りを聞いていた享志と萌衣は、顔を見合わせて肩を竦めた。
「じゃ、真、大和さん、僕たちはここで」
 まるで邪魔しちゃ悪いとでも言うように申し合わせて走り去っていく。

 上野駅のホームの人混みに取り残された真は、しばらく迎えに来た男の後ろ姿をじっと見つめていた。男は真の手から取り上げた鞄を手に、人々の間を泳ぐようにすり抜けていく。金の髪がホームに届く朝の光に白く輝いていた。
 ここは間違いなく元の世界だ。服も髪型も、2015年の世界を見た後では、少しだけ古臭い。それにホームを見遣っても、誰一人、スマホなんて持っていない。
 真はさっきこつかれた自分の頭に触れた。
 男は、真がついてこないので、すぐに立ち止まった。人の波が彼を避けていく。ホームの上の真と男の間に、他に誰もいない、静かな距離が浮かび上がる。
 男は振り返って、呆れたように言った。
「おい、早く来い」
 って、あんたは旦那か、と思ったけれど、その声でようやく身体から六日分の緊張が解けて行き、魔法から解き放たれたように身体が自由になった。
 その真の傍らを、黒い帽子を被った黒い服の女性が、甘く優しい香りを残して通りすぎて行った。


 新学期が始まった日、三人は院長室に呼ばれた。院長の机の上には、なんと、あの謎の発端・「喰われ熊」が置かれている。夏休みの間に北海道から送られてきたというのだ。
「あなたたち、この『マスヒサモト』さんって知ってる?」
「いえ……」
 送り状を見て、萌衣がまず「あ」と言った。真も享志も続いて「あ」と言った。

『増久素』……漢字を見たのは初めてだった。『まっくす』! なんてややこしい。わざわざ漢字の当て字をすることなんて、なかったんじゃないか? ま、外国人が、当て字のハンコを作りたがるみたいなものかもしれないが。
 三人は顔を見合わせて笑った。なんだ、これ、ずっと学院にあった「なぜそこにあるのか分からない謎の熊」だったけれど、時間のループの中で彷徨っていて、今ここに居合わせたのだ。そう、これはマックスが送ってくれたものだったのだ。
 萌衣が「喰われ熊」にやたらと興味を示したので、別れ際に「送ったから」と言っていたのだ。
「あ~、なんかすっきりしたような、かえって謎が深まったような」
 そう言いながらも、三人は、時空を超えて繋がっている彼らを思いながら、爽やかな新学期を迎えた。


「まぁ、奏重さん、わざわざ来てくださったんですか?」
「長一郎さんが出かけているから、久しぶりに私も羽根を伸ばそうと思ったの」
「お忙しいんでしょう?」
「いつもと変わらないわよ」
 上田久美子は奏重を迎え入れて、お茶を淹れた。久美子は今、この富良野で小さなガーデンとカフェを経営している。
 奏重は久美子の亡くなった恋人の写真にまず手を合わせた。久美子は奏重の前に座ると、改めて頭を下げた。
 
「この間は、正志さんと千絵さんのために素敵な企画をしてくださってありがとうございました。幸生君にもすっかりお世話になって」
 実は、幸生は久美子の高校の後輩だったのだ。この企画を相談すると、力になりますよ、と言ってくれた。
「いいえ。あれはあなたのお手柄よ。あなたが思いついてくれたあのツアー、好評だったし、何よりも思わぬ出会いを私たちに届けてくれた。お礼を言わなければならないのは私の方よ。私ね、長一郎さんのあんなに幸せそうな顔は久しぶりに見た。真を失ってから、ずっと心から笑ったことがなかったんじゃないかと思うのよ。あれから、ようやく遠出をする気になったみたいで、久しぶりに京都で一太郎さんや神戸のお友達といっしょにゆっくりするみたいだから。働きづめだったのだから、少しは羽根を伸ばしてもらわないとね」

 長一郎本人は、京都競馬場に用事がある、いや、栗東(トレーニングセンター)にも用事がある、と出かける直前まで言っていた。素直に、友だちに会いたい、祇園で飲みたい、と言えばいいのにと奏重は思った。祇園には、彼らの昔なじみの芸妓・玉櫛がいるから、多分昔と同じように彼女にやり込められながら、三人で語り明かすのだろう。

 奏恵はあの不思議な日々のことを久美子に話した。
 久美子は目を丸くしながら聞いていた。そして、神様って本当にいるんですね、と呟いた。
「でも、正志君のプロポーズがツアー最終日のぎりぎりになってしまって、さすがに私たちもちょっと焦ったけれど、結果的にちゃんと皆でお祝いさせてもらえて本当に良かった。これで、私たちも、あなたと亮介くんに少しだけ恩返しができたわ」
 久美子は「恩返しなんて、こちらがすることなのに」と言いながら小さく首を横に振った。

 実は、久美子と亡くなった恋人との出会いも、相川厩舎だった。夏の期間、あの牧場で一緒にバイトをしていて、二人は恋に落ちたのだ。
「先日、二人から結婚式の招待状が届いたんです。横浜に行くのはまだ少し辛いけど、行って来ようと思います。亮介さんのご両親にもちゃんとご挨拶をしてきます」
「それがいいわ。そしてあなたも、また前を向いて、できれば新しい素敵な恋をしてほしい。亮介くんもきっとそれを願っているわ。彼はそういう人だった」
 久美子と奏重は、写真立ての笑顔の男性を見つめた。
 ガーデンを彩るハーブの匂いを運んで、風が窓から吹き込んできた。


8月31日
 なぎしゃんから、まいにちおてがみ、来ます。みつるしゃんもときどき、おてがみをくれます。なぎしゃんのおてがみをよんでいたら、めだまイチゴウがうきます。ときどき、いそぽがあそびに来てくれるから、いっしょにめだまイチゴウであそびます。いそぽに会えない日は、ぼくはひとりでボクジョウのみまわりをします。はすきーたちとおにごっこもします。
 ぼくはまいにち、ジイチャンといっしょにどんぐりにお水をあげます。
 ……みんながいるあいだは、とってもたのしかったです。みんなはかえっちゃったけど、でも、ぼく……へっちゃら。
 ぜんぜん、さびしくなんかないです。

「マコト!」
 風が声を運んでくる。マコトは耳をぴんと伸ばした。
「マコト!」
 マコトは転がしていた目玉1号を床に置いたまま、じいちゃんが作ってくれた猫タワーをよじ登って、窓際のカウンターから外を見た。
 金色の髪が牧草地を吹き渡る風に光っている。マコトが顔を出すと、その人は立ち止まり、笑顔になってもう一度名前を呼んだ。
 マコトはタワーを駆け下りた。そして部屋のドアの方へ走って行きかけて立ち止まり、少し考えるような顔をしてから、チェストの陰に隠れた。
 廊下を駆ける足音が大きくなってくる。扉が開く。マコトは頭を引っ込める。
「マコト? 隠れてるのか?」
 そう言いながら足音が近づいてくる。
「そうか、怒ってるんだな。悪かったよ。ほら、出ておいで」
 マコトの方へ手が伸びてくる。大きくて暖かくて優しい手。チェストの陰に隠れて、マコトはじっとその手を見つめる。そして……かぷっと噛みついた。
 噛みつかれた手は、そんなことはものともせずにマコトをつかまえて抱き上げ、髭面の頬を思い切りすり寄せた。
「ただいま、マコト」
「……みぃ」

 
 目玉1号はやれやれ、という顔をした。そしてふわりと浮き上がり、開け放たれた窓のほうへ漂っていく。そして「じゃ、俺は帰るぜ」というようにちらりと振り返り、渡世人のように向かい風を躱しながら牧場を横切っていった。
 牧場に、夏休み最後の日の夕陽が落ちようとしていた。
 草を食んでいた馬たちが顔を上げ、ご苦労さんというように目玉1号を見送った。
 僅かに地中から芽を出し始めていたミズナラの木の傍には、コロボックルが立っていて、目玉1号に大きく手を振った。
 目玉1号は一度不意に立ち止まった。いや、浮き止まった。そして夕陽を見つめ、シニカルに「ふん」と鼻息をつき、彼の帰りを待っているはずの主のところへの長い旅路についた。


8月31日のにっきのつづき。
 ……タケル、あのね、えっとね。……それからね。
 ぼく、まいにち、たのしかったよ。だからべつに、まってなんかなかったからね。
 それでね、えっとね。
 あのね…………おかえりなさい。
(マコトのなつやすみにっき。おしまい)


お疲れ様でした~~~
目玉1号、実はただの発泡スチロールなのに、えらい活躍でした。
ナギからはメールじゃなくてお手紙? だって、肉球文字を打ち込めるPCはなさそうだし。

あ、夕さん、勝手に「上田久美子さん」、お借りしました(この名前、私の小学校時代からのペンフレンドと1文字違いなんですよ)。しかも勝手に、千絵の病院で亡くなった久美子さんの恋人の名前を作っちゃいました。不都合があるようでしたら、お知らせくださいね!
「上田久美子、だれ?」って方はこちらをどうぞ→【君との約束 — 北海道へ行こう】(夕さん作品)

さて、全部で29話(ふぉるてさんちがもうひとつあるのかな? ということで、先にひとつ足しておきました)……思わぬ一大イベントになりました。
おかげで、今月のStella合併号記事を落としてしまいました。サキさん、本当にごめんなさい……(>_<)
そして、楽しいひと時を、皆様、本当にありがとうございました!!!
次回? それはもう……風に任せましょう。
でも、また北海道においでね!(だから、私は関西人だって……)

*勝毎花火大会2015はこちら→勝毎花火大会2015クライマックス
埼玉にいる時、一度連れて行ってあげるよと言われていて実現しなかったのは長岡の花火でしたが、やっぱりこんな感じで。
「○○さんから△△さんへ、日頃の感謝を込めて10号玉いっぱ~つ!」
いいなぁ~(*^_^*)

Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

tb 0 : cm 14   

オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇) 

何ということか、終わらなかった。何はともあれ、あまりにも長すぎるので、前後編に分けました。盆踊りに熱が入ってしまった。残りはわずかなのですが、後日談を少し入れなきゃいけないので、今回は前篇ということで。
さっさと終わらせてStellaの原稿を書こうと思ったけれど、断念しました。サキさん、ごめんなさい!(もしかしたら土壇場で足掻くかも)
気になるのは、真が少しマコト化していることです……(=^・^=)


オリキャラオフ会 in 北海道@また一緒に遊ぼうにゃ~!
【浦河パラレル】(5) I was born to love you(前篇)



8月11日のにっきのつづき。
 おびひろにあずけてるおうまさんは、ばんばと言って、ものすごくものすごくおっきなおうまさんでした! おしりなんか、すっごい、ば~~ん!!!ってかんじで、ぼく、たべられそうになって、きをうしないそうになりました。
 とってもむかし、ホッカイドウではたけやぼくそうちをたがやすときに、かつやくしたおうまさんです。なぎとぼくはならんで、ぽか~ん、としていました。
 おうさまとまことは、ばけんをかいました。いっぱいあたったから、とうもろもろ~をかってかえることにしました。
 ちゅうしゃじょうにもどったら、くるまのまわりに人がいっぱい、いました。
 くるまのなかでは、目玉がいっぱいぷかぷかしていました。まことが「これはふうせんなんです」といっしょうけんめいおはなししました。ぼくのにくきゅう目玉もぷかぷか、ういていました! わ~い。なぎはてじながとってもじょうずです。
(タケル添削:馬は草食動物だから猫は食べないよ。マコト:そうなの? でもまちがえてのみこんじゃうかも!)


「なんと、素晴らしい馬だ。この堂々たる体躯は、牧場にいる馬たちとは全く違うではないか」
 パドックもレースも、馬たちのごく近くまで行って見ることができる。仕事をさせてもらえなくていささか不満そうだった陛下、ことレオポルドも、この魅力的な重量馬を身近で見て大喜びだった。いや、そもそもこの人は馬や人が大いに好きなのだろう。
「この馬たちは、いわゆる現代の競走馬とは全く種類が違います。重種馬で、体重も800から1200kgくらいあります。以前は農耕馬として北海道開拓時代に活躍していたのですが、戦後はモータリゼーションが進んでその数は減っていきました。昔から農耕馬のたちの『草ばんば』という競走は各地で行われていたのですが、今ではすっかり廃れていて、こんなふうに観光地化して何とか維持できているのはこの帯広競馬場くらいだとか」

 実際の真の時代とこの2015年でもまた事情は変わっているのだが、酪農専業農家が一頭だけこうした馬を飼育しているというのは、昔からよくあることだ。もっともそうした多くの馬は競馬に出すために飼育されているわけでは無く、一歳頃に市場に売りに出すことを目的としている。乳牛と違って、あまり質の良くない飼料を与えても問題はなく、現金化もしやすいというメリットがあるようだ。
 相川牧場はいわゆる酪農業というわけでは無く純粋な馬産農家だが、創業時からばんえい種を一頭育てていた。現在の馬が、偶然良い馬で、ばんえい競走馬となり得ると判断したため、一歳で売りには出さず、この帯広競馬場の傍の厩舎に預けているのだという。

 マコトとナギは馬たちに釘付けだ。家猫にしては珍しく競走馬を多く見ているマコトでも、この馬の迫力は目を奪われるだけのものがあるのだろう。目玉づくりを通してナギとはいつの間にか意気投合しているのか、ナギに大人しく抱かれている。
 すると、観光客が「かわいい~、一緒に写真撮ってもらってもいい?」と話しかけてくるのだ。つまり美少年と美猫、というマニア垂涎の構図、ということらしい。

「レースはばん馬が騎手と重量物を積載した鉄製のそりを曳いて、200メートルのコースを進みます。途中に障害が二か所。最初の障害は低くて大したことはありませんが、二つ目の障害は高くて、ここを重いそりを曳いて登るのは大変です。何度も停まったり、引き返して勢いをつけて再度やり直したり。普通の競馬と違って、そりの後ろがゴールラインを一番に越えた馬が勝ちです。賭けますか? 賞金は安いので、一攫千金はありませんけれど」
「おぉ、そうしよう。そなたはどの馬が強いかわかるのか」

「ばん馬はよく分かりません。速く走るかどうかは分かるけれど、障害を越える力があるかどうか、耐久力はどうか、それに騎手との相性、サラブレッドの競走馬よりも検討する要素が多すぎるし、八百長だってレース場に乱入する客もいるんです」
「八百長なのか!」
「さぁ、でも、鼻先は一番でゴールラインを切ったのに、そこで全く動かなくなる馬もいるんです。そうしているうちに他の馬が横をのろのろ歩いてゴールしてしまって、結局一番ビリになるなんてことも。ただ速く走ることを目的とするレースとは少し訳が違う」
「それは面白い。何とも人間臭いレースだ」

 走るコースの真横で馬たちを見ることができるというので、レオポルドは喜んで観覧席からコースの真横の地面に降りた。まさに、馬たちが重いそりを曳いて目の前を走っている……走っているというのか、歩いているというのか。
 レオポルドはさすがに今日はアイヌの衣装を着ることを躊躇っていたが(さすがに何となく浮いていることには気が付いたらしい)、かといって牧場で支給された作業衣はいまひとつだったらしく、結局女性陣があれこれアレンジして、往年のロックスターのような格好になってしまった。競馬を楽しみに来た観光客は何か特別な撮影でもあるのかと思ったらしく、テレビカメラの存在を確認している。

 確かにかなり見世物っぽいが、何かの撮影ではない。だが、後で車に帰った時はもっと驚いた。車に人だかりができていたのだ。中を見て仰天した。目玉がいっぱい浮いている。真は「これはお祭りに使う風船なんですよ」と周囲の人に説明したが、納得されていたかどうかは不明だ。マコトは大喜びしていた……ようだけれど。
 相川厩舎が預けていた馬は、結局、蹄鉄の具合が悪かっただけのようで、真たちの用事もすぐに済んでしまった。だから結果的にレオポルドと真、そしてナギは(マコトも?)、レースを楽しんで、結構な賞金を得た。

 そもそも真は競馬の予想をしたら結構読みが当たるのだが(もちろん、それは超能力ではなく、馬を見る目の問題だ。もっとも高校生の身分で馬券は買わない)、今日は何故か勘が冴え渡り、ことごとく予感が的中した。
 真は傍らに立つナギを見た。ナギも真を見上げた。何となく、お互いに波長が合う感じがした。
「ぼく、浮かすことしかできないけど」
 ナギが不明なことを言った。
「僕も、変なものが見える程度だけれど」
 真も不明なことを返した。それから二人で何となく微笑み合った。
 マコトがにゃあとナギの腕の中で鳴いた。ま、いいんじゃない? とでも言っているようだ。もっとも、通常の競馬ほどには配当金も大きくはないので、少し豪華な食事にありつけるかどうか、という程度だったのだが、彼らは大いに満足した。

 ナギはマタタビ何とかで一生懸命マコトを手なづけようとしていたが、成功しなかったようだ。でも、目玉作戦は成功している。いや、目玉については作戦ではなく、単なる結果論だったのかもしれない。もともとマコトは、レイモンドのペンダントを狙っていたようだが、今はナギの目玉に夢中らしい。
 レオポルドは馬主や騎手たちに話しかけ、馬のことをあれこれと聞いている。一国の王とは思えないほど気さくに誰にでも話しかけているが、やはりそのオーラは只者ではないことを語っている。生まれというのは、どういう環境に置かれても隠せないものらしい。
 それにしても、仕事をさせてもらえないと拗ねていたのが、ようやく機嫌が直ったようだ。

「なんだ」
「いえ、失礼かもしれませんが、楽しんでいただけて良かったと思って」
「余は、本当は『労働』がしたかったのだ」
「馬の糞を片づけたり、草を刈ったり、飼料を運んだり、それはやっぱりあなたのすることじゃないと、みんなそう感じたんだと思います」
「だが、世の中の人々がどのような仕事をしているのか、それを知り、体験することは国王として大事なことなのだ」
「でも、世の中の人は、あなたにそんなことを求めているわけじゃないんだと思います。あなたにはあなたの仕事がある」
 それはナンパじゃないけど、と真は心の中で付け足した。いや、一国の王にとって、それこそが大事なのかしれない。丈夫な跡継ぎを産んでもらう女性を探すことは、たやすいことではあるまい。
 レオポルドはしばらくじっと真を見ていたが、やがてばん馬たちのほうへ視線を戻した。

「ところで、そなた、馬を操るのが上手いな。いや、これはオヤジギャグではないぞ」
 真は始め理解できなかった。じっと考えてようやく何のことか分かったものの、一瞬迷った。笑うべきかどうか? レオポルドは昨日の宴会で「ダジャレ」「オヤジギャグ」なる単語を覚えたらしい。
「朝方、馬を走らせておったろう。見事であった。鞍がなくても乗れるのか」
「えぇ。でも、競走馬は鞍をつけるところからがトレーニングで、つまり鞍をつけられないような馬は競走馬にはなれません。だから、あれは反則です」
「そなた、グランドロンに来る気はないか? 聞けば、時空を彷徨っているという話ではないか。馬丁、いや、いずれは余の参謀になってくれるのもよい」
 彷徨っているつもりはない。必ず帰ると信じている。

「マックスさんはあなたの参謀ではないのですか?」
「あれはあれで一国の主なのだ」
 昨日はかじぺたさんをリクルートしていたし、女性陣にはことごとく声を掛けていたし、一体この人は何をしに来たんだろうと思った。でも、ここが真の知っている北海道ではないのだとしても、こうして皆がこの町に来てくれたことには、お互いに何かの縁があるのだろう。
「でも、僕にも仲間がいますから」
 レオポルドは今度はナギを見た。ナギがにこっと笑った。
「僕にもミツルがいるから」


8月12日
 おはようにゃ! きょうのあさごはんは、きのう、おびひろでかってきたとーもろもろこしのすーぷでした! よーぐるとはてづくりです。ぼく、とーもろもろはたべないけど、だんごちゃんが、ねこまんまをつくってくれました! わ~い。
 きのうはおっきいおうまさんを見にいったあと、ボクジョウにかえっていそぽとあそびました。えどわーどアニキとあーさーアニキとぽちもいっしょです。

 よるはみんなでおうたのおけいこをしました。ぼく、おうた、じょうずになりました。ゆきおしゃんはおしえるのがとってもじょうずです。そーらんぶしのおけいこもしました。ぼくもおどりました。
 それからあしたのぼんおどりのときにきていくユカタをじゅんびしました。おうさまが、きんいろがいいといいました。それをみて、ゆきおしゃんが、おうさまにへんなうたをおしえました。おうさまは、みんながよろこぶならと言って、おうたをおぼえました。
 お・れ! おうさま、すごいです!

 きょうはぼんおどり! わ~い。
 ばあちゃんとちさとちゃんとかじぺたさんは朝からタキダシのおてつだいに出かけました。ゆかたのじゅんびもしました。おうさまのきんきんきらきらゆかたもできあがりました。じいちゃんといちたろーじいちゃんと、せいたろーとまことは、たいことしゃみせんのウチワをしました。ぼくもオハヤシのおけいこをしました。
 おしごとがおわったら、みんないっしょにおふろに行きました。ぼくは行きません。ぬれるのきらいです。でも、おおうたはだいすき。
 いま~ とみとか~ めいよならば~
 いらないけど~ つばさがほしい~にゃ
 わ~い。でも、ぼく、さいきん、ときどきうきます。つばさがはえたのかにゃ?
 みつるしゃんが、とびそうになるぼくのしっぽをつかまえたので、まちがえてぱんちしちゃったこともありました。やっぱり、つばさがはえたにゃ!
(タケル添削:ウチワじゃなくて、打ち合わせ? マコト:ウチワワセ!) 


「よく考えたら、僕らここでは何歳よ? どうして20歳になってから来なかったんだろ~」
 と間抜けなことを抜かしている享志を放っておいて、真は幸生と萌衣と一緒に音響のセッティングを手伝いに行った。萌衣がキーボードで伴奏をすることになっていたので、幸生が起こした楽譜を二人で確認している。

 櫓にはすでに成太郎と一太郎、それに長一郎と奏重も上がっている。櫓の周りには四方に向かって提灯を釣ったワイヤーが伸びていて、広場の周囲に屋台が並んでいる。テーブルと椅子、それからもうひとつ、特設ステージがあって「我こそは」と思う者が芸を披露する。まだ挨拶も済んでいないのに、すでに出来上がっているような賑やかさだ。
 そしていよいよ開演。町長の挨拶などそこそこにして、今年の特別な祭りが始まった。珍しい客人が来ているというので、今年の参加者は特別に多い。何でも隣町からやって来た人たちも随分いるらしい。

 酔っぱらって踊り始めたら収拾がつかなくなるというので、ステージでの出しものが優先だ。皆が興味津々で「相川牧場の特別な客たち」の芸を見に集まっている。
 もちろん、トップバッターはレイモンド、リーザ、詩人の大道芸だ。リーザは既に飲んでいるはずだが、全くもって酔っぱらっているという気配がない。見事なナイフ捌きを見せて、一躍、町の老若男女のスターになっていた。おもちゃのナイフを使って、子どもたちのためにさっそく屋台風即席ナイフ投げ教室の始まりだ。

 それから、レオポルドが金色の浴衣を着てステージに上がると、みんな大盛り上がりだった。サンバのリズムが会場を謎の熱気の渦に巻き込んでいく。幸生の演出と指導は大したものだ。
 バックダンサーには、マックスとダンゴを中心とした厩舎のスタッフと、いつの間にリクルートしたのか、近所のおばちゃんたちの特別参加だ。マックスとダンゴは、人柄なのか、おばちゃん・おじちゃんたちの人気者になっている。ダンゴはともかく、マックスはまさか、こんな年齢層が高い人たちの相手をすることになるとは、と思っているかもしれないが、それはそれで結構楽しそうだ。
 バックダンサーにコトリと綾乃は加わっていないが、千絵とかじぺたさんは巻き込まれたようだ。千絵は練習の始めこそ少し恥ずかしそうだったが、踊り始めると、何てことはない、結構うまい。彼女が参加すると聞いたからか、正志も彼女を気遣いながらの参加だ。
 でも。目が泳いでいる。こんなことしてる場合じゃないんだよ! とでも言いたそうだ。

 周りを見ると、「マツケンが来てくれたんだべ~」と泣きだす老人までいる。勘違いでも、ちょっとぼけていたんだとしても、そう思えて幸せになってもらえるなんて、レオポルドも嬉しいだろうなと思った。何しろ、ステージから降りたとたん、レオポルドは老人たちに握手攻めになった。スターなのか、王なのか、何しろその凛々しく自信に満ちた姿がレオポルドらしくて微笑ましい。
 彼自身が仕事をするよりも、牧場のスタッフと意見を交換し話をするだけで皆に不思議な安心感を与えている、彼はそういう存在なのだ。

 それから、即席合唱団の登場となった。
 皆で並んでも、どうやらレオポルドの金色浴衣が目立ちすぎるようだ。ステージでは照明が当たるので余計にそう思える。羽織袴を身に付けた幸生が指揮者として登場した時も、ちょっと「しまった」という顔をしているのが可笑しかった。女性陣が上手く千絵を正志の隣に並ばせるのに成功していた。
 一礼をして顔を上げると、配られた歌詞カードを手に、いつの間にかみんなステージの周りに集まってくれていた。萌衣が幸生と目を合わせ、キーボードで前奏を弾きはじめた。

『翼をください』は有名すぎるほど有名なナンバーなので、意外にも『マツケンサンバ』に湧いていた年配の人々も、大きな声を合せて一緒に歌ってくれる。一番の歌詞の時点では、まだ恥ずかしそうに歌っていたメンバーも、その人々の様子を見て、二番に移った時には自然と目を見合わせて、自信を持って前を見つめた。
 今 富とか名誉ならば
 いらないけど 翼がほしい
 子供のとき夢見たこと
 今も同じ 夢に見ている

 たった二日間だけれど、協力し合って仕事をした。それぞれができることをし、できないことを補い合った。大自然の風を感じて、自分のちっぽけさを思った。心の中に持っていたグダグダは簡単には解決できないけれど、前を向こうと決めた。何より、気が付くと、仲間ができていた。
 ふと足元を見ると、何となく、マコトとエドワードI世、アーサーが浮いている。ポチはさすがに浮いている様子はないが、ちょっと慌てたような顔をして真を見た。ミツルが隣のナギをつつく。ナギは「あ」という顔をしたが、どうしようもなかったらしい。
 ま、世間は手品と思っているから、猫と犬が多少浮いていてもいいか。『翼をください』の演出だと思ってくれるに違いない。

 二曲目の『TRAIN TRAIN』からは会場を巻き込んでノリノリになった。既に謎の踊りを始めている人々もいる。「本当の声を聴かせておくれよ」と何となく皆が正志の顔を見るのだが、正志の方は次のソロで頭がいっぱいのようだ。隣の千絵のことを気にしているようだが、緊張とのバランスが取れないでいるらしい。
 彼は、自分が何故次の曲の冒頭のソロを任されたのか、よく分かっていないようだ。もちろん、営業ではカラオケ盛り上げ役などもしているようだし、鬱憤を晴らすのにたまにカラオケボックスでシャウトすることもあるというから、決して下手ではないのだが、もっと他に上手い人がいるじゃないか、何で俺が、とまでは頭が回っているのかどうか。他の事に気を取られていて、幸生の「お願いしますね、正志さんしかいないんですよ」という慇懃ながら、秘かな命令に逆らえなかった、というところだろうか。

 曲は途切れなくよどみなく、次の曲へ移っていくように編曲されていて、萌衣が冒頭の雷サウンドをキーボードで再現してみせると、いきなり正志の出番だった。
 くそ真面目すぎて、自分の気持ちに一生懸命過ぎて、千絵の気持ちが不安で、みんなの気持ちにまだ気が付いていない。いや、千絵は絶対にOKなのに、それを思う余裕もないらしい。でも、それが正志らしい。
 I was born to love you
 With every single beat of my heart
 Yes, I was born to take care of you
 Every single day of my life

「兄ちゃん、誰にプロポーズだべ」という会場の声に一気に曲が盛り上がった。もっとも、緊張しているのか、飲んでしまったからなのか、正志の耳には届いていなかったらしい。
 知らぬは本人ばかりなり、とはまさにこのことだ。でも、ポロポーズを前にした男の気持ちって、そんなものかもしれない。
 それでも、正志は大役を果たした。合唱は大盛り上がりのダンスに繋がり、曲の途中からは成太郎が櫓に駆けあがって、ドラムさながらに太鼓を打ち鳴らした。

 You are the one for me
 I am the man for you
 真はふと周囲のメンバーを見回した。そう、みんな誰かのために一生懸命に歌いながら、誰かを想っている。
 I wanna love you
 I love every little thing about you
 真は信じた。きっと帰れる。そして、生きていく。大事な人のために、この鼓動のひとつひとつを重ねながら。真は足元で一所懸命、にゃあにゃあ言っているマコトを抱き上げ、一緒に歌った。お前も、一人でお留守番、頑張ってるもんな。

 そのままリズムはソーラン節に重なっていく。真も成太郎を追いかけて櫓に上がった。成太郎が目で合図をくれる。アドリブのクィーンと民謡のコラボレーションだ。櫓上の太鼓と三味線のバトルに皆が大喝采をくれる。成太郎のリズムに合わせていたら、安心して三味線を叩くことができた。やがて奏重が櫓に上がると、村のスターの登場に一層の盛り上がりを見せた。北海盆歌から始まって、ソーラン節へ。

 ソーラン節の踊りは昔と随分違っていると真は思った。普段は札幌など街に出て行ってしまっている若者が帰って来て、ハードな踊りを披露する。その影響なのか、盆踊りもバージョンアップしたのかもしれない。それでも、メンバーたちは彼らに引けを取らないくらいに実に見事に踊っている。というよりも、みんな自分なりにアレンジしているようだ。多分、自然に個性が出てしまうのだろう。

 傍らでは成太郎が太鼓を叩きながら徐々にヒートアップしていくのが分かる。飛び散る汗も風に吹かれて一瞬で乾いていく。成太郎には何か抱えているものがあると、初めの日のセッションした時から分かっていた。何もかもが解決したりはしないだろう。でも、今日の成太郎には何を吹っ切ろうとする力強さを感じる。そしてそれは否応なしに人を惹きつける。
 まだまだ、自分にはそれだけのものがない。それでも今、この時にできることをここにぶつけようと思った。

 ナギの目玉が浮き始めた。手品だと皆に説明してあるが、みんな素面だったら、そんな言い訳が通じるとは思えない。でも、今日はマコトに倣って言ってみよう。
 ま、いいか!
 櫓の上から見ていると、皆の様子が微笑ましかった。

 マックスとダンゴは意気投合している。幸生とポチ、エドワードⅠ世とアーサーは見事なコラボで踊っている。マコトは一生懸命みんなを追いかけているように見える。時々浮いているけれど、まあ、いいか。ダンゴが千絵を誘い、時々正志をけしかけているのだが、どうやら伝わっていない。千絵が照れ隠しなのか、ナギの手を引っ張って踊りに加わった。ミツルが少し面白くない顔でその様子を見送っている。千絵がミツルを手招きしたが、ミツルは顔を伏せて答えなかった。

 そこへ、また珍客が登場した。くすんだ赤の袖の膨らんだ上着に灰色の胸当て、マントという妙ないでたちの男と、大きくデコルテの開いたアプリコット色のドレスを着た妙に色っぽい女性だ。レオポルド、マックスと何事か語り合ったと思ったら、周囲に「ドン引き」の気配が湧き出す。マックスに何か嫌疑でも持ち上がったのだろうか。やがて何か折り合いがついたのか、新参者も一緒に踊りの輪に参入した。
 ことに色っぽい女性は、町の人たちを大いに沸かせた。リーザとのダンスバトルは一週間ばかり語り草になることだろう。老人たちが鼻血を出さないか、子どもたちの教育上どうなのか、櫓の上から見ていても心配になるくらいだったが、その踊りは藝術的にも満点だった。
 アップテンポばかりでは疲れるので、と、時折バラードが混じると、詩人の竪琴が大活躍だった。皆の写真を撮りながら踊りの輪を外れていた綾乃が、レオポルドに誘われて輪の中に入ると、一層の盛り上がりを見せた。

 踊りの輪を見つめる人々もいる。その中に、真は黒衣の女性を見つけた。あの人、誰なんだろう? じっとずっと傍にいるような気がする。まるで事の成り行きを見守っているかのようだ。もう一度ふと顔を上げるともう姿は見えなくなっていた。
 そう言えば。ふと思い出した。
 札幌駅で待ち合わせたかじぺたさんのことだ。浦河に着いて車を降りようとしたら、かじぺたさんと犬たちが消えてしまっていたのだ。もっと驚いたことに、牧場に着くと、そこには既にかじぺたさんと犬たちが待っていた。あれは何だったのかな?
 うん、もう、ま、いいか!

 真は時々、長一郎に替わってもらって櫓を降り、皆の様子を見ながら広場を歩いた。唄はまだしも、踊るのは得意じゃない。享志を探すと、すでに村のスタッフの一員のようにして働いている。店番を頼まれたのか、いつの間にか焼きそばを焼いているのだ。全く、級長はどこに行っても級長だなと思うと、少しほっとした。
 コトリは踊りには加わらず、やはり踊らずに飲んでいるレイモンドと時々言葉を交わしながら、皆を見守っている。真と目が合うと、「座る?」というように隣の椅子を指した。
 真はレイモンドと会釈を交した。同じオッドアイ同士、というと変だが、二度目の異世界での邂逅ともなると、妙に親近感がある。

「踊らないんですか?」
「君こそ」
「あんまり得意じゃないので」
「でも三味線と唄は平気?」
「あれは、まぁ、習性みたいなものなんです」
「私も、歌はみんなと一緒に何かがしたいって思えたから参加したけれど、踊りは見ている方がいいかな」
 そう語り合っているところへ、レオポルドが近付いてきた。
「その方ら、座っている場合ではないぞ。このような時に踊らぬとは、かえって場を白けさせて良くないものだ。なに、旅の恥はかき捨てというではないか。余の命令だ。踊りなさい」

 だからと言って(手当たり次第に?)ナンパはどうかと思うよ、王様、と真は思ったが、彼の言うことは一理あるような気がした。もう二度と会えないかもしれない人たちだ。そしてもう二度と見ることのない、真の知らない浦河の記憶だ。
 真は立ち上がり、コトリに手を差しだした。
「踊っていただけますか」
 コトリは少し意表を突かれたような顔をしていたが、やがてそっと真の手に手を重ねて立ち上がった。
「喜んで」
 レオポルドはそれを見て、満足そうに踊りの輪に戻っていった。


「踊らないの?」
 ミツルはドキッとした。さっきまでみんなのためにキーボード演奏をしていた萌衣だ。茶虎猫を腕に抱いている。一生懸命踊りについて行こうとしてたが、誰かに蹴られそうなマコトを輪の中から救出したらしい。犬たちも踊り疲れたのか、幸生と一緒にテーブルに戻り、食べものをもらっている。
 レイモンドの胸のペンダントは、ついこの間までマコトのターゲットだったが、マコトは今度は目玉に夢中だ。代わりに、エドワードⅠ世とアーサーがじっとペンダントを注視している。ポチは少し大人びているようで、あるいは何か事情を察知しているのか、ペンダントのことは見て見ぬふりをしている。

「みんな、ナギと踊りたいみたいだし」
「そうなの?」
 そんなことはないんじゃない、というような響きが籠っていた。ミツルは顔を上げた。
「萌衣さんは踊らないんですか?」
「そんなに歳は違わないんだし、そもそもここじゃ一体自分がいくつなのか分からないし、萌衣、でいいよ。ね、綿菓子食べようか」
 子ども扱いなのか、と思ったが、萌衣は単に自分が食べたかったらしい。一つの綿菓子を二人で分け合ったら、甘くて暖かい気持ちになった。

「級長はまたあんなふうに人から頼まれて嫌とも言えずに焼きそばなんか焼いちゃってるし、相川君はここじゃ忙しそうだし、私もちょっと置いてけぼりな感じなの。あ、かじぺたさんに、ここにいる間は名前で呼びなさいって言われたんだ。享志と真、ね」
「恋人、とかじゃないんですか?」
「え? 誰が誰と?」
 萌衣はミツルを見て微笑んだ。
「級長、じゃなくて享志は、真の妹と付き合ってるの。真にはちゃんと彼女がいるよ」
「え? そうなんですか。そんなふうには見えないなぁ」
「うん、大事にしているのかどうかは不明だけれど」

「萌衣さん……萌衣は?」
「私? う~ん、今は誰かと付き合うとかよりも、もっと色んなことをして、色んなことを知りたいって思ってるの」
「でも三人、仲が良さそうですよね」
「うん、仲間だもの。信頼してる。ミツル君、じゃなくて、ミツルだって、ナギくんととても仲がいいじゃない。彼のこと、とても心配して見守ってるし。それと一緒かな」
「え? 僕は……ナギに腹立てたり、イライラするばっかりで。だってあいつ、天然すぎて勝手なことばっかりするのに、みんなナギがすることは何でも許しちゃうんだ」
「何か分かるなぁ~。うちも天然の妹がいて、時々イラッとするんだよね。でも、ナギくんを一番許して、一番心配してるのはミツルだよね。見てたら分かるし、みんなもちゃんと分かってるよ。なんてのか、みんな、ナギくんが可愛いから構うってのもあるけど、ミツルに、たまにはナギくんのことは置いといて、自分も楽しみなよって言いたいんじゃないかな。それに、ナギくんもミツルのこと大好きだからこそ、いつもミツルを追いかけてちゃいけないって、自分で何とかしようと思っているのかもね」

「真さんにもそう言われました。あ、そう言えば、萌衣はコロボックルがいるって信じる?」
「って、真が言ったの?」
「いや、あの、ナギの目玉1号がなくなって、捜したらコロボックルが遊んでたって。いや、そうナギが言ってて、えっと……真さんは、寂しい時に現れるって。残念ながら、僕は見えないんだけど」
「きっといるよ。寂しい時だけじゃなくて、幸せな時にだって現れるのかも」
 そう言うと、萌衣は立ち上がった。

「ね、踊ろうか」
「え? 僕は……」
「ミツルの歌、結構良かったよ。きっとリズム感、いいんだと思う。君自身は知らないだけで」
 萌衣はそう言って、マコトを膝から下ろして立ち上がった。
 ミツルはしばらく萌衣を見上げていたが、やがて自分は立ち上がり、逆にもう一度萌衣を座らせた。萌衣が「踊りたくないの?」とでもいうように心配そうにミツルを見上げると、その隣でマコトも心配そうにミツルを見上げていた。

「僕から誘わせてよ。……あの、僕と踊っていただけますか?」
 萌衣はにっこりと笑った。
「もちろん」
 テーブルの上では、マコトと並んで立っていたイソポが手に持っていた目玉1号をぽんと蹴った。マコトとイソポ、エドワードⅠ世とアーサー、ポチは目玉1号を追いかけながら会場を走り回った。頭上にはいくつもの目玉が浮いている。マコトが作った肉球目玉も浮いている。その様子を櫓の上から、一匹の猫が見守るように見下ろしていた。


8月12日のにっきのつづき(みだれたにくきゅうもじのなぞをとけ!?)
 あ~いわずぼ~んとぅ~らぶゆ~\(^o^)/
 ぼくまちがえて、なぎくんといっしょにぶどうジュースをのんじゃいました~。
 うぃずえぶりしんぐるびーと おぶまいは~~~と!
 しかも、おわらないにゃ~。まだつづくのだにゃ~~~(ばたんきゅ~)
(もうあきらめたにゃ。つづくにゃ。でも次回は本当に最終回だにゃ)
-- 続きを読む --

Category: 番外編・オリキャラオフ会in浦河

tb 0 : cm 14   

[雨142] 第29章 赤い糸(3)嵐の前夜 

【海に落ちる雨】第4節・第29章『赤い糸』 その(3)です。これで第29章は終わりです。
北条仁が京都の病院を訪ねてきます。あの人のことですから、当然、好き勝手なことを言って帰るのですが、会話の中で大和竹流の隠れた本心が垣間見えます。この男、まだ懲りていません……

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物
-- 続きを読む --

Category: ☂海に落ちる雨 第4節

tb 0 : cm 8