FC2ブログ
04 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 06

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1) 


月刊・Stella ステルラ 4・5月号参加 連作短編/不定期連載小説

おひさしぶりの【百鬼夜行に遅刻しました】です。しかも冬!
でもこのまま季節を待っていたらいつまでたっても終わらないので、もう季節合わせは諦めました。
きっと真夏に冬の話になるんだな。ごめんなさい。
しかも冬の花、予定変更でエリカです。

初めてさんもこれまでのお話は多くないのでよろしければ、お付き合いくださいませ。
→ 連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】
今回のお話には「おさらい」も入っているので、割と入りやすいかもしれません(^^)



<あらすじ>
ニンゲンが亡くなって上手くジョウブツできない時、いったん鬼になる。鬼になって、百鬼夜行に108回参加すればジョウブツできるのだけれど、ルールが沢山あって、試験に合格しなければ本物の百鬼夜行には参加できない。
だからキョウトのゴショには、百鬼夜行学校があるのだ。
でも小鬼のウゾは、いつも試験に遅刻してしまって、これまでに3680回も試験に落ちている!
一体なぜウゾは遅刻してしまうのだろう? そして、ウゾはどうして小鬼になってしまったのだろう?
生と死の間で苦しむ人々を見つめ、花の精たちの助けを借りながら、ウゾは今日も……遅刻している!?
<登場人物>(名前のみを含む……「人」じゃないけど)
ウゾ:小鬼。遅刻の常習犯で、なかなか百鬼夜行本番参加のための試験に合格しない。
もち姫:ウゾが物心ついた時?には傍にいてくれた『知っている』猫。ウゾを見守っている。
サクラちゃん:バイクにはねられて死んでしまった少女の小鬼。イメージはハーマイオニー……
タタラ:百鬼夜行学校の教官。とにかくでかくて怖い。ミドロガイケの竜という噂も?
ダンゴ:ウゾが住むタダスの森のダンゴムシたち。語彙は少ないが、少しずつ学習している?


エリカ

【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1)

 ウゾ、チコク、チコク、チコク、チコク~~~!
 今日も、夕刻、いつもの時間になるとダンゴたちが騒ぎ始めたが、タダスの森のいつもの木のねぐらに、いつもネボウをしているウゾの姿はなかった。それもそのはずで、ウゾはここの所、毎日朝から(実のところ朝は鬼にとっては「夜」の始まりなのだが)、勤勉に出かけていたのである。

 と言っても、真面目に百鬼夜行学校へ登校していたわけではない。そもそも、学校の始業時刻は夜の刻だ。もっともウゾはそんな時間にはものすごく眠くて、とてもとてもずっと起きていて授業に集中するなんてできない。むしろニンゲンにとっての朝、特に午前中の方が、ウゾは元気に過ごすことができるのだ。

 この頃はウゾにも頼もしい味方がいる。
 去年の春、ひき逃げに遭って死んでしまったサクラちゃんだ。ウゾが出会った時、サクラちゃんは自分の死体がどこに埋められているのか分からなくて、ノッペラボウのまま彷徨っていた。危うくジョウブツの期限の七日を越えそうになっていたところを、ウゾと「知っている猫」のもち姫が助けてあげた。だから、本当なら鬼になんてならなくて済んだはずだった。

 でも、サクラちゃんは自分の死体を見つけた時に、どうしてバイクに轢かれちゃったのかを思い出してしまった。この世にやり残したこと、それは病気のお母さんにナカラギの桜の花びらを届けに行くことだった。そんなことをしている間に、期限の七日間が過ぎてしまったのだ。
 期限内にジョウブツできなかったら鬼になる。一度鬼になるとジョウブツはちょっと難しくなる。でも百鬼夜行学校に通って、試験に合格して、本番の百鬼夜行を百八回やり遂げたら、ちゃんとジョウブツできるし、優秀なサクラちゃんならすぐにでも試験に合格しても不思議じゃなかった。

 それなのに、何故かサクラちゃんもウゾと同じで、結構ダメなところがあるのだ。
 まず、ウゾと同じように遅刻の常習犯だった。それに意外に喧嘩っ早くて、成績表にマイナスがついているところがある。
 本当のところ、ウゾはちょっとだけ嬉しい。ウゾがジョウブツできる可能性は結構低そうだし、もしもサクラちゃんが先にジョウブツしてしまったら、ウゾはとってもさびしくなると思う。でも、そのサクラちゃんも遅刻の常習犯だから、やっぱりなかなか試験に合格できそうにないのだ。

 成績や試験に合格することが何なの。リッシンシュッセよりも大事なのは「ジツ」よ。
 サクラちゃんは鬼にしかできない、鬼にしか分からないことが世の中にいっぱいあるという。そして色んな妖怪、もののけ、式神、幽霊、お化け、妖精、猫、キツネにタヌキ、そんな連中と知り合いになって、まるで優秀な記者のように「シンジツ」の追及に余念がない。

 そんなサクラちゃんのおかげで授業の取捨選択は上手く行っている。サクラちゃんは、ウゾにとって出席するべき授業と少々サボっても問題のない授業をきっちりと確認してくれた。もちろん、百鬼夜行学校の授業はどれもとても大事な内容ばかりで、本当ならすべての授業に出席するべきだ。
 でも、こう見えてウゾは結構長い年月学校に通っている。本番の百鬼夜行のための仮免許試験には遅刻ばっかりして合格できないでいるが、一度は聞いたことのある授業が結構あったのだ。



 季節はすっかり冬になっていた。
 キョウトの冬は厳しい。底冷えがする。ただ気温が低いというよりも、足元に氷でも埋まっているのじゃないかしらと思うような冷え方なのだ。

 ゴショ近くの神社の井戸の中に住んでいる齢千余年というオバケガエルは、確かにキョウトの地下には巨大な水瓶が埋まっているのだという。その水瓶から少しずつ水を地上に送り出してくれているのが、水瓶の主・マンネンガエルだ。
 ニンゲンたちはこの水瓶の水によって生かされていることを十分には理解していない。

 その日の朝、ウゾの棲むタダスの森にはうっすらと霧が漂っていた。
 ウゾはえいっと起き上り、オニ体操を始めた。ニンゲン界ではボンオドリ、ふぉーくダンス、らじお体操、それにヨウカイ体操などなるものが時として流行するが、全てはオニ体操の影響だ。オニ体操こそが本家本元なのだ。一日の始まりに体操をして、身体をほぐし、自然界から鋭気を取り入れ、その日の無事を祈るのだ。
 それからウゾは今日もまた、あの暗い森の中に出かけた。

 サクラちゃんはバイクに轢かれた時にはまだ生きていた。でも、ひき逃げ犯はすぐに救急車を呼ぶこともせずに、サクラちゃんの身体を運び、森の中で首を絞めて殺してしまった。サクラちゃんは暗い土の下に埋められていたのだ。
 サクラちゃんの記憶はその辺のところ曖昧で、首を絞められる前に死んでいたような気がする、というのだが、何よりもすぐに救急車を呼んでくれていたら、サクラちゃんは助かったかも知れないのだから、首を絞めても絞めなくても、酷いことには違いはない。

 何よりも小さな子どもを不案内な森の中、人目のつかない土の下に埋めてしまったことは、死者への冒涜で、鬼からすると何よりも残酷極まりないことだった。そのせいでサクラちゃんは目も口も耳も塞がれて、死んでしまった自分を見つけることができなくなり、ジョウブツへの道を閉ざされようとしていたのだ。

 ウゾはサクラちゃんのお母さんに約束をした。必ずサクラちゃんをひき殺した犯人を見つけて償わせるから、と。お母さんは、サクラちゃんを殺したひき逃げ犯を呪って、自分はジョウブツもできずにこの世で苦しみ続ける本当の悪鬼になろうとしていたのだ。
 サクラちゃんには、ひき逃げした犯を捜してあげるね、とは伝えていない。お母さんと約束をしたことも。

 丁度、サクラちゃんはこの冬の間、学校以外にキョウト中の花や木の根の面倒を見るという大事な仕事に追われていた。これは百鬼夜行学校の鬼教官・タタラが、規則破りをしたサクラちゃんとウゾに課した罰則なので、本当はウゾも手伝わなければならない。でも、何かを察しているらしいサクラちゃんが、彼女のものすごい人脈(?)を生かして、あっという間に仕事を片付けてしまうので、ウゾの出る幕がないというのが現実だ。

 サクラちゃんはちょっとしたことも見落とさないようにと、一生懸命、花たちの面倒を見ている。花たちがサクラちゃんに心を開いていくのがウゾにもよく分かる。
 何故なら、ウゾには花たちと話ができるという特別な力があるからだ。
 もちろん、花たちは気難しいので、気が向かなければ答えてもくれないけれど。

 毎日、ウゾはサクラちゃんが埋められていた森へ行く。現場百回、という言葉があるが、ウゾは一千回だって通うつもりだ。
 犯人捜しを始めてからウゾにも分かったことがある。鬼だったら、魔法のような特別な力を使って犯人なんてすぐに分かるかというと、全然そんなことはないということだ。
 シンジツに辿り着くためには、鬼だって、ニンゲンだって沢山頑張らなければならないのだ。

 現場に百回行っても新しいことはなかなか見つからないけれど、毎日毎日通っていると、その場所にだけある特別な何かを感じるようになっていく。
 ここにはサクラちゃんの匂いが残っている。そしてそれに重なるように、もうひとつ、微かな匂いがある。
 花の匂いなのか、それとも別の匂いなのか、複雑すぎてウゾにはよく分からない。

 森に向かう途中、ウゾはいつもナカラギの桜の並木道に立ち寄る。
 キョウト植物園の近く、カモガワ沿いに並ぶナカラギの桜たちは、春ならばいつもやさしくウゾに挨拶をしてくれる。でも冬のこの時期、桜たちは忙しく身を護っているので、ウゾに気が付く余裕がない。

 ニンゲンは、花たちは咲いている時が一番美しく、一番働いていると思っているかもしれないが、実際には花以外の時期の方がその中身は美しい時もあるし、もっともっと頑張っている時もある。彼らが一番忙しいのは花を開く少し前だ。
 今はまだ蕾は固い。代謝を低くして、じっと耐えるのもまた大変なのだ。ウゾはそれぞれの木の邪魔をしないようにゆっくりと様子をうかがいながら歩いていた。

「あれ?」
 その時。
 ウゾは目を閉じて鼻をヒクヒクさせた。まだ匂いを秘めているナカラギの桜たちの気配の中に、別の花の匂いを見つけたのだ。
 匂いは、川沿いに並ぶ桜の木々のずっと先の方からほんのわずかに香るだけだ。ともすれば冬の風に巻かれて、川に沈んでしまったり、山の彼方へ吹きあげられてしまう。ウゾでなければ気が付かなかっただろう。
 冬に咲く花は少ない。だから近付く前からウゾにはある程度予想がついていた。
 案の定、橋を渡って少し歩いた先に咲いていたのは、エリカの花だった。

 その花の前に、一人の女性が立っていた。
 女性というよりも、まだ少女だ。ニンゲンで言うなら十代の半ば、高校生くらいだろか。白い肌は透き通るようだったが、少し血管の浮いた頬は幾分か荒れていた。ゆるく三つ編みになった淡い茶色の髪が、右の肩に触れて震えていた。痩せた細い身体で、ふんわりとした白いワンピースのようなものを着ていなかったら、本当に消えてしまいそうなほど頼りない。

 少女はすっと細い手を伸ばして、エリカの花に触れた。その指先が微かに光る。
 ようやくヒガシヤマから顔を出した太陽の光が跳ね返ったのだと思ったが、ウゾが見た光は、まるで蛍のようにぽわんと光っては消えて、また弱い光を放っては消え入った。

 ウゾは、エリカの花の精かしらと思った。少女は幻のように美しかったからだ。花の精も色々な姿を見せるので、ウゾにもつかみどころがない。
 ほんの微かに、ウゾの知っている何かの匂いが鼻の側を通っていった。ウゾは、その匂いを追いかけるように、少女の細い腕へと視線を移動させた。
「あ」
 ウゾは思わず声をあげてしまった。

 少女の腕からは異質な細い管が伸びていた。それを目にしたとき、ウゾはしまった、と思った。
 その時にはもう少女と目が合ってしまっていた。
 ウゾは彼女に近づきすぎていた。まさか少女が鬼を見ることができるとは思っていなかったのだ。いや、花の精ならウゾを認めても不思議ではない。一方で、普通の人間なら鬼を見ることはない。

 やばい。こんなところでニンゲンに見咎められるなんて! 罰則どころの騒ぎじゃない。
 もう遅いのは分かっていたけれど、ウゾはくるりと踵を返して、脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、待って!」
 後ろから少女の頼りない声が追いかけてきたが、とても立ち止まることなんてできなかった。



連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1)→つづく

短めになっちゃった。しかも思い切り「出だし」のみ。
あまり先にならないように更新したいと思います(*^_^*)
この冬で、サクラちゃんの死の事情が判明し、春ではウゾの秘密がついに明かされる! かな?
スポンサーサイト



Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

tb 0 : cm 6