【イラストに物語を】亡き少女に捧げるレクイエム(2)~インフェルノ編~

(イラスト:limeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用・転載はお断りいたします)
「猿もおだてりゃ……」の典型みたいに、続編をつぶやいたら、皆様から絶大なるご支持を頂きましたので(なわけないか!)、ついつい書いちゃいました。笑劇場第2幕(もう3幕目はないよ!)インフェルノ編、しばしお楽しみください(*^_^*)
もうすでに、イラストとは何の関係もなくなっている……(>_<)
第1幕はこちら→【亡き少女に捧げるレクイエム】

「して、人形作家のガブリエルよ、なんでもそちの作った人形はリアルで美しすぎるというので、ちまたでは評判であったらしいな」
「へぇへぇ、閻魔大王殿。それはもう、私の人形のファンもずいぶんとおりまして、某国の政治家から、有名企業の社長さんから、ほんとに可愛がって頂きまして……」
ガブリエルは手もみをしながら閻魔大王に答えた。閻魔大王はガブリエルの手元を見て太い眉を吊り上げるようにして眉間に皺を寄せた。
「ずいぶん儲けたようだな」
「いや~、それほどでも……」
あのMatamoyaテレビの『日曜芸術館』の放映により、人形作家ガブリエルの名前は国内だけでなく国外にまで知られるようになり、ガブリエルのところには金になる仕事が次々と舞い込むようになった。
亡くなった私の妻の人形を、私の娘の人形を、私の猫の人形を、昔の恋人の人形を……。
こうしてガブリエルは仕事を選ぶようになり、これまでのようにこつこつと安い仕事をするのが面倒くさくなり、いつの間にか大金持ち相手の仕事しかしなくなった。
仕事を一つ終えると、どんと懐に金が入ってきた。そうなると、生活は自堕落となり、文字通り飲む・打つ・買う日々が続き、金がなくなったら仕事をして、また飲む・打つ・買う……ついには若い女のところで腹上死してしまった。
「酒の飲み過ぎで店の中で暴れ回り、従業員や客に大怪我を負わせたこともあったそうだな。それに、結果的に儲けた金をギャンブルと女で使い果たし、家のものに迷惑をかけ、あげくに腹上死とは……」
「しかし、私の人形は世界中のみなの慰めとなっておりましたし」
「迷惑をかけた家族のことはどう思っておるのじゃ」
「いや、家族といっても、私の可愛い孫娘が死んじまった後は、ずいぶんと昔に別れた女房についていった息子とその家族が残ってるだけで、あいつらだって私の金のおかげでいい思いもしたってわけでして」
ガブリエルは自分の仕事がいかに素晴らしく、そのおかげでみんなが良い思いをしたのだと、ひたすらに語り続けた。閻魔大王はあごひげを撫でながら聞いていたが、やがて、ばん、と木槌を打ち鳴らした。
「さっきから聞いておると、お前は自慢ばかりしておるが、人に迷惑をかけたことについては何ら反省の気持ちがないではないか!」
閻魔大王の側には裁判官と裁判員が並んでおり、そのうち一人の裁判官は巨大なそろばんを弾いていた。生前に行った善行と悪行の数を数えいてるのだ。皆がそれをのぞき込んで頷き合い、「有罪」「有罪」「有罪」……の札を上げた。
閻魔大王はその札を数え、咆哮のような声で審判を下した。
「ガブリエルは有罪。地獄で反省してまいれ」
「え~? なんで私が……」

じいちゃん、死んじまったかぁ~。
しかも女のところで腹上死だって。ほんと、笑っちゃうよ。
どうなるんか気になるし、閑だし、ちょっとサイバン、見に行こうっと!
軽い気持ちで天国から様子を覗きに来たガブリエルの孫娘・ハレルヤは、傍聴席で裁判の成り行きをじっと聞いていた。
あ~あ、あれがうちのじいちゃんかぁ。かっこ悪いな~。見てらんないよ。
ふ~ん、あれからけっこう悪いことしてたんだんぁ。
でもまぁ、しょせん悪行ったってたいしたことないし、小物感溢れてるけどね。
閻魔大王に答えているガブリエルの必死の保身が可笑しくて、最初は笑っていたのだが、一生懸命に自分自身を弁護しているガブリエルがちょっと哀れで泣けてきた。
この程度じゃ、そうそう地獄行きまではないよね。今地獄って混み合ってるらしいし。
でも、じいちゃんたら、ちょっと態度が悪いなぁ。
反省してます、とかしおらしく言ったら心証もいいのに。
ま、天国に来たら、ちくちく苛めちゃおうっと。
なんせ、私のほうが天国じゃパイセンだしね!
ところが、審判はまさかの有罪。ハレルヤも「地獄行き」の決定には驚いて、思わず飛び出してしまった。
「ちょっと待ったあ~」
閻魔大王と裁判官・審判員が皆、何事と顔を向けた。
「やだなぁ、えんまっち。こんな小物のじいさんなんて地獄に落としたら、けつの穴ちっさいって、笑われちゃうよ~」
と、ハレルヤがいつものタメ口を叩くと、ごほん、と裁判官の一人が咳払いをした。
「それにさ、エロくってバカなじいちゃんだけど、こう見えて結構いいところもあるんだよ。ま、あたしの人形、服脱げかけってのはちょっとアウトなんだけど。でもさ、えんまっちだって、あの人形、気に入ったって言ってたじゃん。特にほら、この肩のところとか、胸のタ・ニ・マとか。厳つい顔に似合わず、結構好き者なんだからっ!」
言い繕っているうちに墓穴を掘るということはよくある話だが、今度は閻魔大王がむっとした顔をした。
もっとも、ハレルヤはそんな空気は読まない。
「娘よ、もう有罪と決まったのだ。ここはお前の来るところではない。次の審議があるから、出て行きなさい。我々は忙しいのだ」
裁判官がさっさと追い出そうとしたので、ハレルヤは慌てた。
「あのさ、この人、ほんと、ダメじじいなんだよ。一人でなんもできないし、いくらなんでも地獄は可哀想だと思うんだよね。だから、じいちゃんを地獄に落とすんなら、あたしも付いてく!」
「おい、ハレルヤ」
後ろから、ガブリエルがこそこそとハレルヤの服を引っ張った。ハレルヤの可愛らしい胸の谷間がちらっと裁判官の目に入った。
ハレルヤはガブリエルの腕を押しやった。
「じいちゃんったら、引っ張ったら脱げるじゃん。大丈夫だって。ここは『孫娘よ、お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに心を打たれたぞ。お前に免じてガブリエルの地獄行きは免除してやろう』って話になるのが相場なんだから!」
あ~、私って、結構いい女なのよね~。
ハレルヤがそう思った途端、閻魔大王の声が裁判所内に響き渡った。
「孫娘・ハレルヤよ。お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに打たれたぞ!」

「で、なんだってあたしもいっしょに地獄なのよ! それなら共に地獄に落ちてやるがいい! だって! あ~、なんべん思い出しても腹立つ~。ちょっと、アオおにっち、熱ずぎるったら! 冬は42度くらい、夏は39度くらいにしてって言ったでしょ!」
「アネキこそ、もうちょっと苦しそうにしてもらわないと、バレちまいますぜ」
「あ、そうか! いい湯だな~じゃダメだったんだ! あ~、熱い~、苦しい~!!」
ハレルヤは苦しむ演技を適当に続けてから、釜茹での五右衛門風呂から地獄の官吏・青鬼に向き直った。
「でもさ、うちのじいちゃん、役に立ってるっしょ。あれでも、生きてるときから世界一の人形作ってたんだから」
「ほんとに、ガブリエル先生の鬼からくり人形は、ホンモノと区別が付きませんや。えんま野郎にも区別がつかんでしょうな。おかげで、俺らも仕事をさぼることができるし、それに俺たちだって好きで人間を苛めてたわけじゃありませんからね。針はイタそうだし、釜茹では熱そうだし、汚物とか煮え湯を飲ませるのって、俺らも臭いし熱いんすよ。いや、ほんと、アネキに、あんたらには矜恃ってもんがないの! っていわれたときに、あっしら、目が覚めましたぜ。人間を責めるのもそろそろ飽きてましたしね、このまま閻魔大王に使われ続けるのも、いい加減癪ってもんでして」
「だっしょ~。あたしと付き合ってたら、絶対楽しいんだってば!」
ガブリエルはせっせと鬼たちのからくり人形を作り続けていた。閻魔大王が地獄を覗いたときに、ちゃんと働いていると見せかけることができるように。おかげで、鬼たちは地獄に落ちた人間たちを責めるという終わりのない苦役から解放されて、余暇を過ごすことができるようになった。それほどにガブリエルの人形は完璧だったのだ。
彼がやがて、かのお茶の水博士として転生し、世界的にも有名なロボットを作り出すことになるとはまだ誰も知らない。
「実はさ~、結構、天国って退屈だったんだよね~。だって、ぶりっこもいい加減、肩こるしさ。ほんと、ここ来て、良かったよ! アオおにっちとかアカおにっちと遊んでる方が楽しいじゃん。地獄良いとこ、一度はおいで~ってさぁ」
釜茹で風呂で歌うといい感じに響いた。
「あ~、あたしっていい声だな~。アイドルデビューしよっかな。ね、どう思う?」
「いいんじゃないっすか。じゃ、俺、ヲタ芸、練習しますよ」
あれから、ガブリエルと共に地獄に落とされたハレルヤだったが、今や地獄は彼女にとって巨大なアミューズメントパークだった。
適度な温度に調節された五右衛門風呂は、地球の恩恵をそのまま生かした天然温泉。針地獄の針や刀は全部角が丸められ、上を歩いたら足裏マッサージとなり、実に健康的だ。ノコギリで身体を切られるという責め苦の場合は、鬼たちのマジックショーの腕を磨くために素晴らしい実地訓練になった。煮え湯や汚物を飲まされる責め苦の場合は、むろん、最近腕を上げたキイロおにっちシェフの作った極上スープだ。巨大な石などで押しつぶされる責め苦の場合は、ちょうどいい具合に重さが調節されて、指圧効果をもたらすでこぼこも付け加えられた。
閻魔大王や裁判官が時々上の方から見張っているので、苦しそうにしなければならないのだが、その演技が一番上手くできた者にはヘルアカデミー賞が贈られて、地獄一の美男美女とハーレム状態の楽しい時間を過ごせることになった。鬼たちとは本物の鬼ごっこをすることもできて、コミュニケーションスキルのアップにも繋がったし、1年に1度の大会の商品もなかなか豪華だった。
「やっぱ、辛い環境も自分の力で変えて、楽しく生きなくちゃね!」
「アネキ、もう死んでますぜ!」
「あ、忘れてた! そうそう、とっくに死んでた!」
青鬼とハレルヤが天を見上げるようにして大笑いをしている時、遙か彼方、空の雲の彼方から、閻魔大王が地獄の様子をのぞき込む気配があった。
「あ、アネキ、ヤバい! 熱いふり!」
すかさずハレルヤは大げさな演技をした。
「うわ~、熱いよぅ~、お母ちゃ~ん!」
「いいっすね~、ヘルアカデミー賞にノミネートされますぜ!」
まもなく、このとんでもない娘を地獄に落としてしまったことを後悔する日が来るとは、閻魔大王も未だ気がついていないに違いない。
余談ですが、ハレルヤはマタモヤと韻を踏んだつもり(^_^;)
……お粗末様でした(>_<)
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Category: イラストに物語を
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