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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【お知らせ】60000Hitのリクエスト、受け付けます(^^) 

相変わらずの辺境ブログなので、なかなか大きな数には到達しませんが、地味に続けていけているのも、交流してくださる皆様のおかげです。ありがとうございます!
なかなか余裕がなくて、キリ番リクエスト受付をサボっていましたが(なんと500Hit記念の【死と乙女】がまだ後半をアップしていない(@_@))、今回は少し気合いを入れてやってみようと思います。よろしければリクエストくださいませ。

【60000Hitリクエスト】巨石の旅にご一緒しましょう!
・60000Hitから先着4名様
・ご自身のオリキャラ、もしくはご自身(複数可能)
・大海のオリキャラ(猫や物の怪含む)、もしくは大海本人(複数可能)
・観たい巨石:【石紀行】から選ぶ、もしくは何となく地名、おまかせでも可
以上をご指示ください。皆様のオリキャラ(もしくはご自身)を大海のオリキャラ(もしくは大海)が巨石の旅にエスコートします。ただし、猫をオーダーした場合、たどり着けない事もありますので、ご了承ください(^^)/
あ、できれば鍵コメは避けてくださいませね。

大海はしばらく旅に出ていますので(世界で最も大きい巨石、地球の大地を観に)、反応が遅れるかも知れません。ご了承ください。4名様を越えた場合にも、もしかするとお連れすることが出来るかも。
って、そんなにリクエストしてくださるかなぁ。ちょっとドキドキ(@_@) 

追記 2018-9-18
大海は今、夏休みでアメリカにいます。
グランドキャニオン、ホースシューベント、アッパーアンテロープキャニオン、モニュメントバレー、アーチーズと巡り、明日はブライスキャニオンです。その後、ザイオン、バレーオブファイヤー、さらに無理してロウワーアンテロープキャニオンに戻ってグランドキャニオンの夕陽を見て、最後にセドナに寄って帰ります。
毎日移動時間がすごくて、意外に運動量が少ない(^-^;
団体ツアーは人生二度めなので、ちょっと緊張しながら参加中。でも、毎日、巨大な岩や地球の大地に囲まれて超ハッピーです。帰ってからが恐ろしい。

文字の打ち込みがモバイルだと大変で、こそこそご訪問しつつもコメント残せなくてすみません‼
又帰ったらコメント残しに行きますね(^^)/
地球はでかい。
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Category: NEWS

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【石紀行】48.スペイン・モンセラット~聖なる山から溢れるパワー~ 

モンセラット広場7
今回の石紀行はスペイン旅行記事から抜けておりましたモンセラットの聖山です。ノコギリ山という意味で、ワーグナーのオペラ『パルシファル』ではこの景色が背景になりました。また、ガウディはあのサグラダ・ファミリアのイメージをこの山から得たと言われています。
ここはバルセロナからすると北西に50kmの位置になります。
バルセロナからは色んな現地ツアーも出ているようですし、電車でも行くことが出来ます。私はバルセロナの南の街・タラゴナから入ったので、バルセロナに移動する途中に寄りました。今回の旅の中でバルセロナの街以上に気合いが入っていた場所のひとつです。時間節約のために車をチャーターしてタラゴナからコロニア・グエル教会に行き、その後、モンセラットに寄りました。
車からの景色
この車窓の景色、最初にこの山が見えた時、期待以上のパワーを感じました。いえ、私決してパワースポットにすごくこだわっているわけではないのですが、遠目からも「すごい」と分かる岩山、それがずっと続いているのです。
これって、一度同じような気持ちになったことがあったなぁと思いだしてみたら、万里の長城を初めて見たときでした。あの時も、バスの窓から長城が見えたと思ったら、いつまで経ってもどこまで行っても万里の長城。うわ、ほんとに万里だ、と思ったのですが、この山々もずっと手前からこの景色を堪能できるのですから。
車からの景色2
遠景から見えるこの山々の中に入っていき、山道を登っていきます。登りながら、この岩山が近づいてくると、気持ちが昂ぶってきました。なんか、これって芝居の幕が上がるのを待つような心境ですね。
霊山2
モンセラットに着くと、いきなり観光地の中に放りこまれる感じですが……駐車場も広くて、近くに駅もあります。この駅は登山鉄道の駅のようで、自力で来ようと思ったら、バルセロナから約1時間、鉄道に乗って、登山鉄道に乗り換えてまた20分ほど行くようですね。
モンセラット駅
あれ? なんか写真がすごい斜めってるのはなんででしょう。
この駅のさらに山手側にケーブルカーの乗り場がありました。トップの写真の広場はこの写真を撮った場所からすると右手の方になります。車チャーターの私は、男前の運転手さんと2時間後の待ち合わせの約束をして、もういきなりこの岩に近づきたくて、あまり何も考えずに吸い寄せられるようにケーブルカーの駅の方へ。
ケーブルカー
思った以上に混んでいて並ばなくてはならなかったのですが、よく考えてみたら、この日は日曜日だったのですね。不覚でした。2時間はあっという間なので、ツアーなどで行かれる場合には、曜日によっては目的をはっきりさせておいた方がいいかもしれません。
ケーブルカー2
これは多分、降りていくときに撮った写真ですが、このように真ん中ですれ違うようになっていました。こうしてみるとさほどでもないのですけれど、手前から山を見上げてみると結構な急斜面。約7分、標高972mの山頂まで行き着きます。
ケーブルカー3
上から見下ろすと、広場と教会のあたりはあんなにも小さい。
山の上から広場2
案内板によると、岩にいくつか名前がついているようでした。
案内板
案内板の左上の方の地形が下の写真。岩にものすごく表情があると思いませんか。何だか膝を抱え込んで座る人(カオナシ?)のように見えたり、寄り添う親子のように見えたり、魚のようであったり、白雪姫のこびとたちだったり、人面岩に見えたり、カエルに見えたり。
山の上の岩
ケーブルカーの山上駅から見下ろして広場の方を少し拡大してみると、本当に見事な景色ですね。
山の上から広場
山の上の方には遊歩道があって、いくつかコースがあるようでした。その先には、かつて修道士が住んでいたという祈祷庵があるよう。一部に少し上ってみましたが、ケーブルカーの時間もあるし、余り遊んでいると、教会に入る時間も無くなってしまいます。
山の上2
岩たちに少しでも近づいて、足元に踏みしめて、という目的は果たしたので、早々にケーブルカーの駅に戻りました。
また別のケーブルカーでは(下るのかも)、黒いマリアさまが発見された洞窟(サンタ・コパ)にも行くことが出来るようです。
モンセラット広場1
ケーブルカーから降りて修道院のある広場の方へ向かいます。こちらはベネディクト派の修道院で、後のユリウス2世(当時、ジュリアーノ・デラ・ロヴェーレ)も修道院長を務めたことがあるという由緒正しき修道院。でも、ナポレオンに破壊されて、現在の建物は19世紀から20世紀に再建されたものだとのこと。
こちらは黒いマリアさまで有名なのですが……
モンセラット広場5
例のごとく、大海はもうぼ~っと岩を眺めています。いやもう、いつまでいても、岩を眺めているだけで幸福感溢れる場所です。
モンセラット広場4
こんなに表情豊かな岩たちがあるでしょうか。ガウディがここからものすごいインスピレーションを受けたというのがよく分かります。これを観たら、サグラダ・ファミリアもやっぱり勝てないと思う大自然のものすごさ。いや、サグラダ・ファミリアは人為だからそれはそれですごいんですけれど。
モンセラット広場3
広場からケーブルカーで登った山を振り返ります。いや、すごい。
教会ファザード
アーチを潜って修道院のファザードを見上げて、ふと脇を見ると。
黒いマリアさまの行列
黒いマリアさまをお参りするための長蛇の列が。しかも、教会内の礼拝の時間は見学の列が止まるので、ますます動かない長蛇の列。結局お参りは諦めて、広場に戻って時間までぼ~っと岩を眺めてハッピーだった大海なのでした。
広場の上の岩
まるで生きているようですね。
広場の上の岩3
でこぼこ感もものすごく面白くて、ひとつとして同じ表情の岩はありません。アップにしてみたら、あの上の方の岩の方がでっかく突き出ていたり。ちょっとキノコみたい。
広場の上の岩4
いつまでも居たいけれど、タイムアップです。広場を降りて駐車場の方へ戻る途中に土産物屋さんがずら~~~っと並んでいます。ここに来ると、もう観光地そのものなのですけれど。
広場の上の岩6
時間が合わなくて聴けませんでしたが、少年合唱団が歌っているようですよ。
合唱団写真
名残惜しいのでもう1枚。いつまで観ていても飽きないこの景色。この空間にいること自体が幸せな場所なのでした。
モンセラット広場2
(訪問日:2017/7/16)

・【石紀行】はもうひとつスペインを巡ります。アンテケラの古墳、お楽しみに。
・【スペイン旅行記】の次回はメスキータです。

Category: 石の紀行文(写真つき)

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【雪原の星月夜-5-】 第2章 霧の港(1) 喪失 

【雪原の星月夜】5回目です。
『霧の港』というのは竹流の店で会員制のバーです。多分各ブースでは世の中が動くような秘密の会話が交わされていることでしょう。真は大東組の若頭・新庄に呼び出されて銀座にあるこの店に向かっているのですが、まだかなり時間が早いので、少し寄り道をしてしまったようです。寄り道をしたのは竹流の元恋人(のひとり)室井涼子のブティックです。
ちらりと予告していましたが、真は今、彼女と微妙な関係なのです。

相変わらず、まだあの人は出てきませんね……でも新宿から銀座に来たので、少し近づいたかしら。彼は今、築地?
本当は1回休憩して息子のお話にするつもりだったのですが、ちょっと事情があってこのまま第2章に入りました。事情というのは、やっぱり【死と乙女】の後半をアップしてからのほうがいいなぁと思ったので。

ところで、プチ予告です。
しばらくキリ番リクエストをしておりませんでしたが、60000Hitでは久しぶりにしようと思っています。
近づいたらまた記事として募集させて頂きますが、今回の趣向は「うちのオリキャラ(もしくは大海)があなたのオリキャラ(もしくはご自身)を巨石への旅にご案内します」です。ただし、エスコート役をネコや某寺の物の怪にしたら、迷子になったりして、たどり着けないかも?
相変わらず辺境中の辺境で、うちのペースだと、60000Hitになるのはまだ随分先になりそうですので、もう少しお待ちくださいませ(*^_^*)

【真シリーズについて】
【雪原の星月夜】の登場人物紹介はこちら→【雪原の星月夜】(真シリーズ)登場人物紹介
万が一、前作【海に落ちる雨】に挑戦したいと考えてくださる方は→左のカラム・カテゴリから選択してくださいね。
【海に落ちる雨】部分読みも可能
【海に落ちる雨】始章:竹流と真の生い立ち
【海に落ちる雨-52-】第9章 若葉のころ:真の中学生の頃。
【海に落ちる雨-59-】第11章 再び、若葉のころ:真が高校生の頃。
『若葉のころ』には真の学生時代が登場、今回の物語で登場する母校の院長(校長)先生や灯妙寺も少し登場。



【雪原の星月夜・第1節】 第2章 霧の港
(1) 喪失
 

 その日は案の定、夕方まで来客もなく、真は宝田を早めに休ませて、七時には事務所を出た。大東組の新圧に指定された時間までには、まだ少し間があった。

 銀座に出るのは久しぶりだった。
 クリスマスが近いためか、街は夜となってますます煌びやかに見える。どの店もまだ閉店の札を出しておらず、明りの灯った店内では客が買物を楽しんでいる。その華やかな空気にもかかわらず、真には全てが冷えて固まった絵のように思えた。透明な氷に閉じ込められた向こうにある世界は、光を内側に包み込んだまま、真が手を伸ばしても届かないものに映る。

 その一軒の前で真は足を止めた。銀座では小さいながら、上品でセンスのよい服をデザインして売るという店は、夜の世界の女性が、ファッションの相談も含めて愛用している店だった。店の明りはその女性たちのために夜中近くまで灯されていた。髪をアップにまとめ、その一部を肩に垂らした上品な立ち姿の女性が、いかにもどこかの店のママと思われる和服姿の女性と話していた。

 一瞬、店の女性の目が真のほうに向けられ、それから少し驚いたような顔になった。真は会釈も微笑みもせず、ただ目だけで合図を送ったような形になった。
 もしも同業者が真の素行を調べたら、あっさりと不貞行為が調査報告書に並べられることだろう。もしも舞が、夫の浮気に対して何か事を起こそうと思えば、それは簡単なことのはずだった。

「ここ、久しぶりね」
 半時間ほどで接客を終えた室井涼子が、以前待ち合わせに使ったこともあるプチホテルの一室を訪ねてきた。涼子はドア口でコートを脱ぎながら言った。
「あなた、銀座では会いたくないって言ってたのに」
 そんなことを言っただろうかと思いながら、真はそのまま涼子を抱きしめた。それともそう言っていたのは涼子のほうだったのかもしれない。涼子は真に抱かれたまま、その冷たい頬を真にくっつけて、少し驚いたように離れた。
「あなたのほうが冷たい」

 真は十歳ほども年上の女の、歳を経ても変わらない美しい顔を見つめた。
 涼子は、真が中学生の頃に初めて会ったときから、変わっていないように見えた。もちろん、その肌はとっくに若い女のものでなかったし、近くで見れば目元にも明らかに皺がある。それでもそんなものは涼子のマイナスにはなっていないように思えた。

 涼子とは月に一度ばかり会う。いつの間にか、どちらも何も言わないのに、月の始めになると、どちらかからほとんど無言に近い電話を仕事場に掛ける。それだけで十分だった。始めの数度だけ銀座で会ったが、それはお互いにあまり好ましい場所ではなかったため、近頃は涼子の車で少し遠くまで出かけることが多かった。
 このプチホテルの部屋は二人ともが何となく気に入っていた。部屋は狭く、アールデコ調の鏡と机が置かれていて、小振りのダブルベッドもアンティークなつくりだった。天井も高くないため、まるで包み込まれているような気持ちになる。窓のカーテンを開けたことはないが、カーテンは柔らかく淡いブラウンで、時々外の音の気配が伝わるのか、視界の隅で揺れていた。

「怒ってるんじゃないかって思ってたの」
 ベッドに一緒に座ると、涼子が真の顔を見て言った。
「どうして」
「この間、あなたを傷つけたから」
 しばらく真は何を言われているのか分からなかった。涼子のピアスの透明な光に惹かれるように、その耳に口づける。涼子の香水を嗅いだとき、二週間ほど前に会ったときのやり取りを思い出した。

「子どものこと?」
 涼子は頷いた。
「知らなかったの。あなた、何も言わないし、あなたとは月に一度会うだけで、他に接点もなかったし」
 真は涼子の肩を抱いていた手を離し、ベッドに深く座りなおした。
「怒るようなことじゃないよ」
「でも私が無神経だったのは確かだわ」

 仕事中の涼子が、真と視線が合っただけでここにやって来た理由がやっとわかった。いつもの涼子なら、真が自分の生活や仕事に差し障ることを許容しない雰囲気があったし、逆に真のプライベートにも踏みこむことはなかった。
 真はこのホテルに入ったとき、涼子が来るかどうか、むしろ来ないだろうとさえ思っていた。
「無神経だったのは俺のほうだ」
「それにあれは、何となくその時の気分で言っちゃっただけだから、もう忘れて」

 しばらくの間、二人とも黙り込んだ。もともと抱き合おうと思って涼子の店の前を通ったわけではなかったし、涼子のほうもすぐに店に戻るつもりのようだ。コートを脱いだだけで、上着を脱ぐ気配はなかった。
「誰から聞いたんだ」
「この間久しぶりに葉子ちゃんに会ったの。それで」

 真は何故か涼子にあの事を吐き出してしまいたい気持ちになった。腹の奥に隠してある何かを出し切ってしまうことはもちろんできない。だが僅かだけ、ここで涼子に打ち明けてもどれほどの罪になるというのだろうか。
 だが、真は決してそんなことはできない自分という人間を嫌と言うほど知っていた。
「あれは俺が悪かったんだ。それに、人に話すようなことでもないと思っていたし。気にさせてごめん」

 涼子は真の顔を見ないまま、少し笑ったようだった。哀しい、というよりは感情のない静かな笑いだった。
 女の表情には、表面からは全くわからない理由が潜んでいる事がある。真はそれを涼子から、竹流の恋人の一人として彼のマンションで初めて会ったときから今この瞬間に至るまで、教えられてきたのだ。

「どうしてあなたが謝るの。それに、私もあんなこと言うべきじゃなかった。単にセックスが気持ちよかったからそんな気分になったりしたのかもしれない。少し酔ってたし。でも何だか変よね。今まで愛していると思っていた男と寝て、確かにそういうことは頭を掠めなかったといえば嘘になるけど、一度もそんな気持ちになったことはなかった。つまり、ちょっと歳を取ってセンチメンタルになりやすくなってるだけなの。こういうことってタイムリミットがあるじゃない。それで何だか最近落ち着かなくなったり、一人で泣いてしまったり、更年期には早いけど、そういうのに近いのかもしれないわ。誤解しないでね。あなたを愛しているわけじゃないし、負担をかけるつもりもないの。あなたが嫌なら、いつでも、こういうことをやめてもいいんだし」

 真は返事をせずに手を組み、額をつけた。
 涼子は、真に対してやはり少し大人の女でいようとする。もちろん、涼子が真を愛していないというのは本当だろう。今でも涼子は、真の以前の同居人を愛している、その気配はいつでも、ベッドの中ででも伝わってきていた。
「別れるつもりはないよ。あなたのほうが嫌になったら身を引く」

 涼子はこういうものの言い方が嫌いだと言ったことがあった。物事の決定権を女に譲っているのは優しさだと誤解しているような言い方、悪者になりたくなくて自分からは別れないという男の厭らしさ、それが時々涼子の気に障るのだろうが、これまでもあまり幸福とは言いがたい、つまり未来を描けない恋しかしていない彼女は、それを自分の非だとわかっているだけに、たまらない気持ちになることがあるのだろう。

「あと一年もしたら私も四十になるの。きっとこれからも時々あんなふうに、セックスをしているときに子どもが欲しいって言い出すかも、それどころか、もしかしたら安全日だって嘘をつくかもしれない。そうしたらあなたは重荷に感じることになるわ。早くこういうタチの悪い年増女とは別れたほうがいいと思わないの」
 真はただ首を横に振った。

 真は涼子に対して後ろめたさを覚えていた。あの日、竹流と一緒にローマに発つ前日、涼子に何も告げずに東京を離れたことに対して、あるいはもっと根本的なことで、涼子の竹流への深くて苦しい想いを知りながら、その男を奪っていってしまったことに対してなのかもしれない。
 だが、涼子と別れられないのは、後ろめたさだけが理由ではなかった。今でも、涼子は真には手の届かない憧れの女性であり、ベッドの中でもこれほどに懸命に愛したいと願う相手はいなかった。ただ、心がついていっていないだけなのだ。そして真の全ての感情や想いを、涼子が何もかも感じとって知っているということを、語り合わなくても真にはわかっているような気がしていた。

「あなたの車が、今でも時々、マンションの駐車場に停まっている。朝まで」
 真はようやく顔を上げて涼子を見つめた。涼子の声は奇妙なほど優しくて綺麗だったが、顔には表情がなかった。
「それなのにあなたが私と寝るのは、私が可哀想だからなのよね。私も、あなたと別れたいのに、自分が可哀想で、それに身体を温めてくれる人が欲しくて、あなたに甘えてしまう。あなたは私が傷つけるようなことを言っても、黙って受け入れようとする。奥さんが流産したことは私に話すようなことじゃないんでしょうけど、あなたは顔色も変えず、何も不幸など感じていないような顔で同じようなペースで私と会う。私が子どもが欲しいって言ったとき、あなたは責めもせず、慌てる様子もなく、真剣に考えているような顔をした。葉子ちゃんは、あなたが子どもが生まれてくるのを待ち望んでいたって言ってたわ。何も言わないけど、葉子ちゃんの家に行って、姪っ子の寝顔を幸せそうな顔で見ていて、享志くんが聞いたら、女の子がいいって答えたって、あなたがそんなことを言うなんてちょっと驚いたって話していた」

 真はいきなり力任せに涼子を抱き寄せた。涼子は息を止め、しばらく固まっていた。それから急に腕の中で力を抜き、小さな声でごめんなさい、と言った。
 上手く涼子に伝えることはできない。あの日、涼子は安全日だと言っていた。それはただセックスの前に避妊具をつけなくてもいいという、いつものメッセージに過ぎないと思ってベッドに入った。もちろん避妊具を介して触れ合うよりもよかったし、涼子も直接真を受け入れるほうがずっと感じていることは、涼子に埋めた部分からいつでも確かに伝わってきていた。
 あの日、昂ぶりが最大限に達しそうになっている真の耳元で子どもが欲しいわと涼子が囁いたとき、真は実は驚きもしなかった。ただ一瞬だけ動きを止め、真にとっては誰よりも官能的で憧れ止まない女性の目を見つめ、激しくこの女を求め、そのまま涼子の中に自分自身を吐き出し、その後もずっと彼女の中に深く身体を沈めていた。

 結婚した当初、飲み屋かどこかで、子どもを作るにはこれまでのような中途半端な覚悟ではいけない、真剣にセックスをしないと駄目だ、射精した後も動かずに最後の一滴までも女に吸い尽くしてもらうようにするんだぞ、と子作りの秘訣を、子どもが七人いるという酔ったオヤジから説教を受けたことがあった。
 舞と抱き合っていたときにはそんなことを真剣に考えたことはなかったが、あの時涼子を抱きしめたまま離したくないと思い、ふとそのオヤジの言葉を思い出していた。

 子どもを失ったことが真の感情に影響していなかったのかどうか、それは今でもよくわからない。涼子に対する憐れみなのか、ただ生物の雄の本能として子孫をできるだけ沢山残そうというホルモンが働いただけだったのか。
「ちょっと情緒不安定なの。精神科にでも行ったほうがいいみたい」
 そう言うと、涼子はお店に戻らなくちゃ、と言って立ち上がった。

 出て行きかけて涼子は不意に立ち止まった。そしてやはり感情の読み取れない表情のままで振り返り、真の顔を見た。
「今でも会って、朝まで一緒にいるのは何故? 奥さんを裏切るのがわかっていて、どうして結婚なんかしたの?」
 真は答えなかった。答えるための言葉も、自分が本当は何をどのように感じているのかについての確かな心の内の声も、自分自身の中に用意されていなかった。

Category: ☆雪原の星月夜 第1節

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