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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[18] 第2章 同居人の入院(5)(改)(ブログって…) 

注:プチ18禁? 真はしながら考え事ばかりしているので、相変わらずどうでもいいくらいのシーンにも思えますが…一応。

「真ちゃん?」
 深雪が白い肩の上から黒髪を滑らせて、上から真を覗き込んだ。
「今日はずっとだんまりね。あれからずっと来ないから心配してたのよ」

 深雪の綺麗な卵形の顔と、派手ではないのに惹きつけるような唇の形を見つめながら、真は考え事のひとつを反芻していた。
 あの週刊誌の女記者、楢崎志穂に言われたことが気にならないわけではなかったが、深雪に聞きただす気にはなれなかった。深雪も自分も、身体を合わせることで満足しているはずだった。深雪を利用して澤田代議士に近づくことも考えないし、第一その男とはできる限り顔を合わせたくないと思っている。澤田という男の仕事にも過去にも、興味はなかった。

 もちろん、深雪と自分の事を、澤田が知らないとまでは思っていない。
 澤田の顔はポスターやテレビでも何度か見たことはある。目つきは鋭いが顔つきはそれを隠すような穏やかさを湛えているし、女性ファンも多いという噂も聞く。だが、その政治的活動については、真は敢えて知ろうとも思わなかった。自分が澤田を気にして怖がっていると人に思われるのも癪だろうし、誰よりも深雪にそう思われるのは、彼女を抱く男としての沽券に関わると思えた。
 巷では、深雪が澤田のために何人かの男を破滅させたという噂もある。
 本当かどうかもわからないし、実際にそんなことがあるのなら澤田顕一郎の周りには黒い噂が渦巻いていてもいいはずだが、真の知る限り、政治家としての澤田が女を使って何かをしなければならないほど野心があるとか、敵が多いとかいう話は聞かない。
 もっとも、酒の席の戯言なのだとしても、深雪がこの身体で誰かを破滅させることができると言われれば、そうかもしれないと思えた。あるいは、少しばかり世間の覚えのめでたい政治家を追い落とすための、単なる小汚い噂話かもしれない。

「二週間ぶりに店に来て、ホテルに来て、それなのに私の顔も見てくれないの」
 深雪はそう言いながら彼女の方から唇を合わせ、そのまま下半身も深く沈めてきた。
 既に二度ばかりも極めた後で真自身は萎えていたが、まだ彼女の中だった。それを逃がさないように深雪が締め付けてくると、その粘膜の襞のひとつひとつが意識を持って絡みつくように感じて、真の身体はいとも簡単に反応する。
 思わず息を吐き出して声が漏れた。
 考えても仕方がないと思って、真は深雪の腰を強く抱き寄せ、上から覆いかぶさるようにしている彼女の両頬を捕まえて、貪るようにその唇や舌を吸った。

 それでも頭の中に冷めた部分があって、そこで同居人の事を考えていた。
 自分が何に混乱しているのかは明らかだった。
 彼は強く、自分を守ってくれるものだと思っていた。自覚はなかったがそうなのだ。

 東京に出てきたのは十一のときだった。北海道にいたときよりも酷い苛めにあって、何度も学校で倒れた。当時真を息子として育ててくれていた伯父の、個人的な秘書のような仕事をしていた竹流が、いつも渋々真を学校に迎えに来た。何度も怒鳴られたし嫌味も言われた。
 始めのうち、真は自分が東京の言葉が理解できないのだと思っていた。だが、そのうちだんだん人間の言葉が理解できないような気がしてきた。早口でまくし立てるクラスの子供たちの言葉だけではなく、学校の先生が何を言っているのかも分からなくなった。急速に不安になり、人混みや学校の教室で恐ろしい吐き気や頭痛に襲われた。手足が冷たくなっているのを感じたときには、何時も意識が吹っ飛んでいた。
 伯父はいつも優しかった。伯父の友人の斎藤医師もそうだった。それでも真に気を遣って腫れ物を触るように大事にしてくれる大人たちに、敵意は無くても心から甘えることはできなかった。
 あの当時からかなり流暢な日本語を話していた竹流は、それでも腹が立ってくると、日本語とイタリア語とをちゃんぽんにして真を何度も怒鳴りつけていた。だが不思議なことに、彼に何を言われてもその言葉が理解できるし、気を失うこともなかった。真を心配して言ってくれている言葉ではなかったが、裏表の全くない言葉は、本能的に言語以上のものを感じ取る真には、唯一理解できる言葉になった。
 当初竹流は、真の伯父を、彼の大切な人の血縁者を殺した、少なくとも死に追いやった仇だと誤解していたようだし、真のほうも竹流が伯父に危害を加えようとしていると誤解していたのだが、その誤解が解けた後、伯父が失踪してから、伯父への恩義を何かの形で示そうとしたのか、竹流は真と伯父の一人娘の葉子の実質上の保護者を買って出た。
 それからはずっと、その時々で共にした時間の長短は別にして、いつも彼が自分たちを守ってくれていたと感じている。

 その男が傷ついてベッドに横たわっている姿など、これまで一度も見たことがなかった。今朝から何とか保っていた理性は、ここに来て腹の底から湧いてくるような怒りにも似たもので、吹き飛ばされそうになっていた。

 彼の右手。
 聖堂の宇宙を蘇らせていたという敬愛する修復師を神様だったと言い、いつか自分の手でもあの宇宙を蘇らせるのだと言っていた、その右手。付き合っていた女の子と別れ、大学も辞めて行き先を失っていた真のために、錆びついた刀剣を磨いてくれていた手。ギャラリーや大和邸のアトリエで、彼が過去の作家たちの仕事を讃えながら、そこからその作品を愛した人々の心までも蘇らそうとしていた、その尊い右の手。

 それが動かないかもしれないと、淡々と語った医者に罪はないのに、その言葉に爆発しそうな何かが突き動かされた。
 いつの間にか三度硬くなった自分自身を、深雪を組み敷くようにして彼女の中に埋め、真は狂ったように彼女の内側を擦った。形の上では深雪の白い豊かな乳房を揉み乳首を噛みながら、心のうちでは別の何かに対する炎に似たものが燃え上がっていた。
 どこのどいつかは知らないが、必ず彼をあんなにした償いをさせてやる。

「……真ちゃん」
 喘ぐように深雪が真を呼んだ。その声は遠くの木霊のように彼方にあって、今の真自身のいる場所とは次元自体が異なっているようで、真の意識には直接届かなかった。
 何て名前だっけ? 竹流の仲間がやっている店、ゲイバーだったことだけは覚えている。彼の仲間なら何か知っているのだろう。あの調子では竹流自身が何か話してくれるとは思えないが、自分たちのボスを信頼して大事にしているあの仲間たちが、何も知らないわけがない。
「痛いわ……」
 不意に切羽詰った悲鳴のような声が耳に飛び込んできて、真は我に返った。

 これではまるで深雪に対して殺意があるようだと気が付いた。
 殺意? 俺に人が殺せるのだろうか。田安にはそんなことはあり得ないと言ったが、今はできるような気がしていた。姿形も見えない誰かに対して自分が今抱いているものは、明らかに殺意だった。同じだけ、いやそれ以上の傷を相手にも負わせてやらなければ気が済まなかった。
 多分、彼の仲間たちも同じ思いを抱くだろう。

 ふと気が付くと、深雪の身体が小刻みに震えていた。強すぎるほどに噛んでいた深雪の乳首を歯の間から自由にして、真は幾分か驚いて深雪を見つめた。
 深雪は下ろしたままの長い髪を白い枕の上に広げ、薄っすらと目に涙を溜めていた。
「ごめん」
 何人もの男をたぶらかし身体で商売をしてきた女だと、頭のどこかで思っていた。それがまるで幼い子どものように震えている。真はしばらくの間、真っ白になった感情を持て余していた。

 冷静に考えてみれば、セックスをしながら人を殺すことを考えていたのだ。その殺意のようなものが、繋がった身体を通して深雪に伝わったのかもしれない。真は薄い口紅が残っている唇に口づけ、まだ硬いままの自分自身をゆったりと動かしながら、もう一度ごめんと言った。深雪はするりと腕を真の背中に回してきた。
 抱き締め合っていると、不思議と安心した。それでも、頭はどこかで他のことを考えていた。

 そうだ。葵……そんな名前だった。『ママ』の名前も確か同じだ。





以下ブログについてのつぶやき……

友人が、携帯で読みにくい(というよりも、全部が入りきらない…いまどきずいぶんレトロな携帯を使っているようで。買い換えなさい、と言っておりますが。彼女はでももうすでに全編読んでいるので、たぶん差支えないはずだけど)、というので1回分を短くして連載してみているけれど……
やはり、細切れにすると、かえって読みにくい気もする。
特に、同じシーンなのに途中で切れてしまったとき。

でも、確かに長すぎるのも迷惑な気もするし。
皆さんはどうやって長さを決めておられるのだろうか…
あちこちのぞかせていただいたけれど、本当に色々。
自分が読んでいて、読みやすいと思うのも色々。
長さってことじゃないのかなぁ、と思ったり。

紙ベースで読むことしか想定していなかったので、本当に迷惑なほどの長文。
それをブチ切りにしてブログに載せようということ自体に無理があるのかしら。
かろうじて、改段落だけは増やして、間に1行、なんてのも多発させています。
でも、ま、乗りかかった船ということで、終わりまではいきつこうと思う。

きっと、誰もfollowしてくださっていないのだろうとは思いつつ。
ちょっと海にボトルの中の水を一生懸命注ぎ込んでいる気分^^;
ある方のブログで、1回目の連載の時にはまったく読んでもらっていなかったけれど、懲りずに2回目をしていたら、そのうちコメントを下さる方が増えてきた、と書かれていた。
また別の方も、最初はさみしかった、と書かれていた。

結局は継続、なのかな。
プロあるいはマスターって、続けることができた人がなれるものだというし。
そう考えたら、ちょっと頑張ろうと思えてきた。
プロを目指しているわけではないのですが、マスターはいいかも。

そもそもこの話、【海に落ちる雨】って、まさにそんな題だわ。
海に落ちる一粒の雨はだれにも気がついてもらえない、という。
出所につきましては、また次回に書きたいと思います。
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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