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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨23] 第3章 同居人の恋人たち(1)/第2章あらすじ付  

第2章 あらすじ

同居人・大和竹流が仕事の内容も告げずに出かけて3週間、新宿の調査事務所所長・相川真のところに、警視庁の捜査1課の女刑事・添島麻子刑事から電話がかかってくる。
竹流が怪我をして入院しているというのだ。病院へ行くと、竹流の怪我は真の想像以上に酷いもので、山梨の県道で見つけられてから数日意識がなく、昨日集中治療室から出たばかりなのだという。その上、修復師として『神の手』と言われていた右手まで傷つけられていた。医師はその手が元通りに動かない可能性を告げ『まるでいたぶられたようだ』と言うのだが、当の本人は話をはぐらかして何も言おうとしない。はるかに年上で、自分が頼ってばかりいた相手が傷ついてベッドから離れられないでいる姿など初めて見た真は、いつものように身体の関係だけを続けている銀座のバーのママ・深雪に会ったりしながらも、頭の中では竹流のことでいっぱいになっている。
しかも、竹流の背中には数年前の古い火傷の痕があるという。真は同居してから彼の背中など見たことがなかったことに改めて気づき、さらに竹流が自分に何も話さないでいることに傷ついたり、イライラしたりしてしまうのだった。
竹流の恋人の一人であるブティックのオーナー・室井涼子に入院中の竹流の世話を頼み、何も話そうとしない竹流の怪我の事情を知るための糸口をつかもうと、真は竹流の仲間であるゲイバーのママ・葛城昇を訪ねて事情を聞こうとする。しかし、昇も元ボクサーのイワン・東道も何も知らないという。竹流の仕事仲間たちは、ボスである竹流のためなら何でもするような連中で、真に、自分たちで何とかするから、お前は引っ込んでろと告げるのだった。

…さて、第3章【同居人の恋人たち】を始めたいと思います。
第1章のあらすじは第2章の始めにあります。
ふたつ読んだら、十分に今からでもお話についてくることができますので、よろしければここからでも参戦してみませんか?
長いお話ですが、この第3章はどちらかというと、登場人物を紹介するような章です。
気楽に、お付き合いください。





 この二日間、竹流の許しを得た美和はマンションにやって来て泊り込んでいた。
 美和は意識しているのかいないのかはともかく、Tシャツに半パンツというかなり挑発的な格好でうろうろしていて、風呂上りなどは栗色のソバージュヘアをポニーテールにしてうなじを見せて、平気で真のすぐ横に引っ付いて新聞を覗き込んだり、テレビを一緒に見たりしていた。

 ここ数日はそれなりに仕事も入ってきて、その日真は家出をしている二人の中学生を捜しに高崎まで出掛けて行って、本人たちと会ってきたところだった。高崎までの足取りを確認するのには二日かかったが、中学生もそろそろ金がなくて心細くなっていたところのようだった。
 家にすぐには帰りたくないというので、今日は宝田が預かって、事務所の上の彼のねぐらで面倒を見てやっている。彼らにとって宝田のようなアウトサイダーは、懐くことはできなくても、自分たちの境遇を不幸に思わずに済むきっかけにはなるだろうと思えた。
 明日は彼らを家に帰るようにしてやらなければならない。親の種類によってはかなり骨が折れるのはこれからだった。

 そういうことをぼんやりと考えながらも、美和の素足の脹脛が気になった。これで誘っているつもりはないと言われても困るな、と真は思った。
 それで三日目には事務所を出るとき、ドアに鍵を掛けながら、傍らの美和に言った。
「いくら北条さんがバンコクでも、三日も留守だと心配するだろう。今日は帰って電話を待ったらどうだ?」
 美和はちょっと唇を尖らせるようにして真を見た。
「どこかに行く気なんだ」
 そう言ってから美和はくるりと表情を変えて、にっこり笑った。
「先生って女を口説かないって顔をしていながら、結構怖い人と付き合ってるんですね。絶対騙されてるんだから、気をつけたほうがいいですよ」
 尤も、美和の口調はと言えば、顔の表情とは裏腹で、かなり怒っているように聞こえる。
 それにはまともに答えずに、真は美和をマンションまで送った。どこからそんな話を聞いたのだろうと思ったが、聞きとがめるほどの事でもない。

 そのまま直接深雪の店に行った。
 店に入ると、テーブル席で深雪が視線の厭らしそうな太った中年男の相手をしていた。ちらりとそれを見遣って真がカウンターに座ると、深雪はすぐにカウンターの内に入った。テーブル席を立つタイミングを見計らっていたのだろう。
 カウンターには、明らかに水商売と分かる、派手な服を着た女が一人座っている。深雪よりも年下だろうか、静かに飲んでいる水割りのグラスにかかった手は綺麗で、爪は磨かれているもののマニキュアの色はなかった。美人というよりも、凛とした気配で、背筋を真っ直ぐに伸ばしている。任侠映画に出ていたなら啖呵でも切りそうな、強いムードを感じる。
「どうかしたの。貴方が同じ週のうちに二度も来るなんて」
 山崎の薄めの水割りをいつものように手際よく作って、深雪は優しげな言葉で真に話しかけてきた。
「同居人が入院してて」
「まぁ、どうしたの?」
 彼女は真と同居人の関係をどう思っているのだろうか。聞いたことはないが、世間並みには興味深く見ているのだろう。
「ちょっと事故にあったんだ」
 真は言葉を濁したが、深雪はカウンター席に座る他の客の水割りを作りながら、ちらりと真の顔を見てから、優雅に目を伏せるようにして視線をグラスに戻した。
「それで、この間あんなに荒れてたの?」

 真はついこの間深雪に会ったときのことを思い出してみたが、確かに竹流が入院していると聞かされて病院に行った日のことだ。深雪に泣かれたことをふと思い出し、真は答えに窮した。それでも、深雪があの時、真の尋常ならぬ気配を感じていながらあっさりと受け流してくれたことは、ありがたいと思っていた。
「ちゃんとご飯、食べてたの?」
 何故かみんなが同じ心配をする。それほど一人では飯も食べられないという印象を世間に植え付けているのだろうか、それともあの雑誌のインタビューのせいか。
 そう思ってから、何だって同居人が入院していることと自分が荒れていることが結び付けられたんだろう、と思ったが、敢えて聞くのも妙な気がした。

「うちのうるさい秘書が何かとお節介で」
 何気なく言ってしまったが、不意に深雪が僅かながら複雑な顔をしたことには気が付いた。
「ネクタイピンの彼女ね」
「ネクタイピン?」
 聞き返しながら、真は思い当たる節をすぐに探し当ててしまった。
 三ヶ月ほど前、確かに深雪のホテルにネクタイピンを忘れた。それがよりにもよって美和が真の誕生日にと買ってくれたもので、せめて一週間に一度くらいはつけてね、と例の可愛らしい調子で言うので、決まって金曜日にはつけていたものだった。
 普段からネクタイをして仕事をするわけでもなかったが、金曜日は必ず名瀬弁護士の事務所に行くので、その時はスーツにネクタイという格好をするため、丁度よかったのだ。
 そのネクタイピンが、土曜日の夕方、そろそろ帰ろうと片付け始めたデスクの上に置かれて、美和が拗ねたように言った。
 もう忘れないで下さいね。
 すぐに深雪が届けに来たのだろうと思ったが、次に深雪に会ったのは金曜日ではなかったので、そのまま聞くのを忘れていた、そのネクタイピンだった。

「あの時は、用心棒みたいな人があとをつけてきたのよ」
 深雪は幾らか面白そうに笑って言った。
 多分ネクタイピンを受け取った美和は、宝田に深雪のあとをつけさせたのだろう。だから美和は深雪の事を知っていたのか。少し聞き込めば、深雪の素性くらいすぐに分かっただろう。
 それに不器用な宝田の尾行では、素人だって気が付いただろう。それでも、宝田のような一見その道の男に見える人間にあとをつけられて、動じなかった深雪はたいしたものだと思った。

「姉さん、私、そろそろ行くわね」
 カウンターの二つ向こうの席に座っていた女が立ち上がった。座っていた時にはわからなかったが、かなり背が高い。スリットの入ったスカートから覗く脚は優雅で美しい。女は意味深な視線を真に向け、その後で深雪に微笑みかけた。
「今日はお店?」
「ううん、例のボランティアよ」
 深雪はわざわざその女を見送りに店の外まで出て行った。
 深雪の友人関係や仕事上の付き合いをいちいち確認するのはどうかと思っている。それではまるで自分が深雪の恋人で、深雪を束縛する権利のある男だと考えていることになる。真にも独占欲がないわけではないし、付き合っている女が他の男とセックスをしたり、いやそれどころかさっきのような太った中年男に膝をさすられたり、あるいはただ親しげに話しかけたりしている場面であっても、見ているのはあまり気持ちのいいものではない。たとえ、商売でそういうことをしているのだと知っていても、しかも真自身が彼女の恋人でも何でもなくても、誰か他の男に触れさせたいとは思わなかった。だが、今の真にそこまでの権利も覚悟も何もない。

 深雪のほうも、真が彼女を占有する権利のある男だとは思ってもいないだろう。金を持っているわけでもないし、彼女の仕事にプラスになるわけでもない真の存在は、深雪にとって一体何だろう。深雪に言い寄る、金を持った社会的にもステータスのある男と違うのは、せいぜい若いということくらいに違いない。あるいは真がいつも感じているように、身体の相性がいいということを、深雪も感じているだけなのかもしれない。セックスがいいということは、時には他の何よりも大事な瞬間がある。
 それとも、何か特別な事情があるのか、あるいは少し年下の男を、たまには弄んでみたいだけなのかもしれない。

 だから、その夜いつものように深雪の住むホテルで求め合った後で、彼女がこう言った時、真はやはり自分は弄ばれているのかと思った。
「ねぇ、真ちゃん、もしも私がどうしてもって言ったら、駆け落ちしてくれる?」
 こうして何人の男を、この真剣で美しい瞳で手玉に取ってきたのだろうか。それなのに、深雪がしな垂れかかるように身体を預けてくると、たまらないほど甘美な気分になった。
 澤田代議士はこの女に手玉に取られているのだろうか、それとも手玉に取っているのだろうか。どちらにしてもあの男の利害に真が関わることはないだろうから、こうして無事でいられるのだろうが、風向きが変われば分からない。
「それとも、澤田が怖い?」
 真の心情を見透かしたように、深雪がさらりと言った。

 深雪の口から澤田の名前が出たのは実は初めてだった。それだけに真はかなり動揺した。それは繋がった身体の部分を通して深雪に伝わったはずだった。今の自分の動揺を深雪はどう思っただろう。
 真は返事もせずに、何かを封じ込めるように笑っていく深雪の顔を見つめていた。
「いやね、そんな顔しないで。冗談よ」
 深雪は澤田という男から逃げたがっているのだろうか。
けれども、その男から深雪を奪ってやるだけの力と金と、そして何よりも愛情が自分にないことくらい、真は重々承知していた。

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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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