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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨26] 第3章 同居人の恋人たち(4)/三国志泥人形 

今回から2回分、ベッドの上で美和ちゃんと会話しているだけの真…^^;(18禁なし)
でも、単なる『修学旅行の会話』です。
調査事務所の共同経営者同士(所長と秘書ともいう)、同僚以上、友達以上、でも兄妹未満、恋人未満。
これからたくさんしんどいこともあるけれど、美和ちゃんはいつでも真にとって恋人未満の大事な存在。
多分、真の死後もそれは同じことで……
お互い、結婚は別の人とするんですけれど。
さて、この会話の中で、真という人物を少し紐解いていっています……
会話メインですので、よろしければ楽しんでくださいませ。






「別に何もしないでしょ。いいじゃない」
「そういう問題ではない」
「どうして? やっぱり我慢できなくなっちゃいそう?」
「馬鹿なこと言ってないで、早くベッドで寝なさい」
「やだ」
 子供のように美和がまた膨れるので、真は大袈裟に溜息をついた。
「じゃあ、ここで寝ろ」
 そう言って、とりえずは自分が寝室のベッドで寝ることにした。

 週に二日はマンションに来て家事をしていってくれる高瀬登紀恵が、洗濯して畳んでいってくれた中で、無意識のうちに自分の寝巻きではなく竹流のシャツをひっかけて、いい加減にボタンを掛けると、真は後でソファと代わってやろうと思いながらベッドに潜り込んだ。
 潜り込んでから、ベッドの中に残っている微かな香りにほっとして、あの男の匂いに安心している飼い犬の気分になった。

 簡単には眠れるわけがなかった。美和がここに泊まるようになって、さすがに女の子をソファで寝かすわけにはいかず、自分が何日かソファで横になっていた。眠れなかったのは、他人が近くにいるからだけではなく、ベッドに横になれないからでもなかった。
 今も、美和の挑発よりも、隣に彼の気配のないことに堪えられなくなっているように思えた。寝返りを打つと、ベッドの窪みが変わって、身体を包み込むようにまとわりついてくる。
 まるで悪夢のようだ。
 もう幾日この寝苦しさと闘っているのだろう。涼子のように臆面もなく病院に泊まりこめる立場ならよかっただろうか。だが、彼女のように、ただ傷ついた男の傍にいるだけで満足することはできないだろう。焦っているのはあの男の傍にいることができないからではない。あの男がわけも話さず、一人で何かを抱えたままだからだ。

「先生」
 美和が居間と続きのドアから顔を出した。
「どうした?」
 真は思わず跳ね起きた。
「やっぱり一緒に寝ていい?」
 真はいい加減に着ていた竹流のシャツを調えた。真が返事をする前に、美和はもうベッドの近くまで来ていて、潜り込もうとしていた。
「知ってると思うけど、男はみんな狼だぞ」
 気の利いた言葉も言えず、真はとにかく慌ててそう言った。
「知ってる。すごくいい例が近くにいるから。でも先生は無害なんでしょ」
 自分の付き合っている男をそういうのもどうかと思うが、確かに北条仁はその代表格と言って間違いなさそうだ。いや、そんなことに感心している場合じゃない。
「じゃあ、これは知らなかったかもしれないが、無害そうな男が一番危ない。近所の優しいお兄さんが、幼女暴行の犯人として捕まえられることも多いだろう」

 真としては、慌てたとはいえ、目一杯説得力のあるつもりで言ったが、美和はちょっと考えてから笑い転げてしまった。
 真は仕方なく溜息をつき、真面目な声で言った。
「美和ちゃん、これは絶対良くない」
「そうかなぁ。私は単に一人で寝るのも淋しいと思うだけで。お兄ちゃんがいたらこんな感じかなぁと思っただけなのに」
 それはまさに殺し文句だった。自分がソファに移るという選択枝がぶっ飛んでしまって、真は仕方なく、そのかわり離れているようにと言って美和をベッドに入れてやった。
「ね、本当にいつも大家さんと一緒に寝てるの?」
「寝てるって、隣にいるだけだ」
「別に変だなんて言ってないわよ」
 美和はそう言ってちょっと深く布団に潜り込んだ。人が動く気配が妙に心地よい気分にさせる。眠れるかどうかは別の問題だが。

「香野深雪って澤田代議士の愛人なのかなぁ。澤田代議士って愛人がいるような人じゃないと思ってたけど」
 唐突に美和が話しかけてきた。内容が内容だけに真は驚いたが、あくまでも冷静に答えた。
「それはよくわからない。どこかの悪趣味な週刊誌ネタで、全く根拠もないんだろう。澤田を、知っているのか」
 美和が澤田について何か知識を持っているのかも知れないと思った。自分が見ないようにしてきた、世間が知っている当たり前の澤田の姿についてだ。
「うん。ずっと昔だけど、祖父の土地を売ることになって、その時色々と世話になったって言ってた。今ではその土地、新幹線が走ってるけど。その時父は選挙に出てて、澤田代議士が応援に来てくれてたみたい。私は握手して地方新聞に載ったの」
 何気なく聞いたのに、随分個人的な思い出話で真はさらに驚いた。
 半分は美和がやはり地方の実力者の血縁だということを確認したからだったが、意外なつながりだと思った。
「先生、あんまり関わらないほうがいいと思います。他に女の人なんていくらでもいるじゃない。何も深雪さんじゃなくても」
 急に真面目な声で美和が言った。
 それがそういうわけにもいかないのだ、と真は心の中で思っていた。深雪を身を焦がすほどに愛しているわけではないが、彼女の身体とは離れられないと思う。そう考えれば、自分は随分あさましい男だと思えた。

「ね、先生、初体験っていつ?」
 ついさっきまでしんみりとした調子で話していたのに、美和は唐突にどこかの悪趣味な雑誌のインタビューのような質問を投げかけてきた。
「お前、何だか話をそういう方向へ向けてないか?」
「知っててもいいでしょ。優秀な秘書としては」
 薄暗いフロアライトの灯りの中でも、美和の悪戯っぽい目が潤むように光って見えていた。多分、この娘は、すべてに対して大真面目なのだろう。冗談で何かを言っているわけではないのかもしれない。
「知らなくてもいいだろう」
「はーん、何かやましいことしてるんだ」
「してない」
 やましいといえば、やましい部分はある。だがそれは、美和に対してではなかった。
「年上の人?」
 少し間をおいて、美和が真摯な声で聞いてくる。女というのはこういう時、本気でなくとも演出して可愛らしさを装うことができる人種だ。だが、美和に関して言えば、もう慣れてしまったからなのか、少しも嫌な気がしないのが不思議だった。
 多分、美和には裏表がないからなのだろう。

「俺の話なんか追求しても面白くないぞ」
「うん。でも聞きたい。何か、修学旅行のときこうやって友達と布団潜ってエッチな話とかしたの、思い出すなぁ」
「修学旅行って、高校のか?」
 何てませてたんだ、と思って聞き返すと、美和はあっさりと答えた。
「中学だよ。高校生はだんだん体験に真実味が入ってくるから、皆でそんな話はしないのよ。中学生はまだちょっと夢物語じゃない? 先生も修学旅行の時、そうじゃなかった? 男ってやらしいからそんな話ばっかりしてたんでしょ」
「修学旅行は行ってないから知らないな」
「え?」美和が未確認生命体でも見たように、高い声を上げた。薄明かりの中で慣れてきた目は、相手の顔をほぼ認識できるようになっている。「どうして?」
「さぼったんだ。行きたくなくて」
「どうして?」
 どうして、を二度繰り返して、美和はびっくり一杯の顔を見せた。修学旅行って楽しいのにどうして、と問いかけている顔だった。
「人と一緒にいるのが苦痛だったからかな」
「中学も高校も?」
「中学のときは本当に熱を出した。もっとも熱が出ないかな、と期待してたけど。高校のときは本当にさぼった」
「小学校の時はさすがに行ったんだよね?」
「小学校は学校自体、ほとんど行ってない。行っても結局、保健室だった」
「どうして?」
 また、『どうして』が続いた。
「苛められててしょっちゅう気を失ってたからな、簡単に言うと登校拒否だ。中学の半分も」

 美和にこんなことを話しているのは不思議だが、緊張感から逃れられるのは悪くなかった。それから、この体験は当時から知っている人間は別にして、誰にも話したことがなかったのに、と思い至った。自称親友を宣言してくれていた、今では妹の夫になっている富山享志は、院長や功から聞かされて事情を知っていたかもしれないが、真自身の口から話したことはない。五年間付き合った篁美沙子との間でも、この件は話題になったことがない。それなのに、今自分は何だってこんなにもするりと、こんな話を五歳も年下の小娘に話しているのだろう。
「人生で一度も修学旅行に行ってないの? そんな人初めて見た」
 そう言ってから、美和は真剣な表情をした。
「でも、結構辛い過去、だよね? 変なこと聞いてごめんなさい」
 そうしんみりと言われると、急に愛おしい気分になった。
 美和の美徳は、こうして簡単に人に同感して、素直に謝ってくれたりする点だった。だからつい口が滑ってしまったのか、と思い、急に言い訳しておきたくなった。
 このままでは極めて不幸な、同情に値する傷を背負った悲しく情けない男になってしまう気がした。
「高校の時はそんなに不幸な学校生活ではなかったんだ。クラブもそれなりに楽しかったし、一人だけどお節介な友人がいたし、ただ人と一緒に寝泊りができなかっただけで」
「それでさぼったの?」
 真は返事をしなかった。一体何を話しているのかと自分でも思った。
「何かもったいないような、でも先生らしいような」
 美和はいつの間にか近くにいて、楽しげに笑った。
「それで不良家出少年少女の気持ちが分かるんだ。学校に行きたくない、親と話したくない、友だちも信じられない、自分自身のことも嫌になっちゃう……」美和はそれだけ呟いて、ふと真面目な顔になった。「どんな体験も役に立つのね」
 美和の感想はいかにも彼女らしくて前向きで気持ちがいい。

「でもどうして人と一緒に寝泊りができないの? 女の人とは一緒に夜を過ごすでしょ」
「緊張して眠れないのかな。自分でもよくわからない。女の人のところにも、泊まってくることはない」
 美和は意外という顔をして、ついに真のすぐ側まで寄ってきた。
「ふーん、じゃあエッチだけして帰るんだ。それは女にとっては極めて嫌な男よね」
 と言われても仕方がない。それから美和は意味深な顔をして真を見つめる。
「という事は、完全に大家さんは別格なわけね。大家さん、先生が無意識に引っ付いてくるって」
それから急に美和は何かに思い当たった顔をする。
「って、大家さんはそのこと、知らないの? つまり、先生が大家さんにだけは違うってこと」
 知っていれば、美和にマンションに泊まってもいいなどと言わなさそうに思える。それとも、知っていてわざとだろうか。
「知らないだろうな。でも、そういう言い方は変だろう」
「何で?」
「あいつは、俺が小学生の時からの知り合いで、単に今さら緊張感がないだけで」
「そういう話には聞こえなかったけど。でも、どうして大家さんにそう言わないの?」
「言っても仕方ないだろう? あいつを気分良くさせたって仕方ないし、それにそう言うと、自分は馬か犬並だって思うかもしれないし」
 美和は今度こそ真に完全に引っ付いていた。 
「先生、今の言い方はかなり難解よ。先生が大家さんにだけ安心してるって事が、大家さんを気分良くさせるってことでしょ。馬か犬並みってのは、先生が一緒に寝てて安心してるのは馬とか犬だけってことでしょ。つまり先生にとっては、最上級の大家さんへの褒め言葉と愛情と感謝ってことだよね。しかも先生は大家さんからの愛情を目一杯感じているわけだ。少なくとも、先生がそうだってことを大家さんが知ったら気分良く思うだろうなって感じるくらいに」
 一人解説が終わると、美和はにっこりと笑った。
「ずっと前、仁さんが言ってた。保護者とか同居人とか言ってるけど、あれは肌を合わせたことのない人間同士の距離じゃないって」
「何の話だ」
「何って、先生と大家さんの話に決まってるでしょ」
 真は溜息をこぼした。
「北条さんは、人間同士の感情を全部恋愛モードで量ってるからな」
「でも、当たらずとも遠からずよ」

 美和は完全に真に身体を引っ付けた状態で、というよりも身体を半分乗りかからないばかりの距離で、真に擦り寄っていた。化粧っけはもともとないので、普段の顔とそう変わらない、子供っぽい表情が随分愛しげに見える。
 思えば、年下の女の子とこうやってベッドの中で個人的な会話を交わしている状況など、今まで一度もなかった。付き合った女性は、今思ってみればことごとく年上だったし、会話よりもその行為ばかりに集中していた気がする。
「で、話をはぐらかしたでしょ。何時が初体験ですか? そういう学生時代なら結構奥手だった?」
 美和は屈託なく無邪気な表情を崩さなかった。
 はぐらかしたって、って自分ではぐれていってたんじゃないのか、と思った。どうやってこの話を切り上げさせようかとも思ったが、話が途切れるとまずいことになるかもしれないとも考える。
 こういうのが修学旅行の夜の会話というのなら、一生に一度くらいは味わっておいてもいいのかもしれないと、ふと変な気分になった。美和の魔力というと奇妙な表現だが、この娘は本当に不思議な力を持っている。もちろん、真にとって、ということなのかもしれない。
「十五の時かな」
「じゅうご? 先生こそ、ませてるじゃない」
「そうだ。だからあんまり近づくと恐いぞ」
「別に恐くないけど、意外。年上? どういう関係の人? その人とは何回くらいしたの?」
 矢継ぎ早に聞いてくるので適当に答えておくことにした。
「年上。知り合いの人の女。何回したかは覚えてないけど、片手のうち」
「他人の恋人と寝たの?」
「そうしろって言われたんだ」

 淡々と返事をしていた中に、ふと不思議な感覚が蘇った。
 その知り合いというのは、真がある事情で金が欲しくてモデルをしていた写真家だった。むしろその写真家のほうと数ヶ月、濃密な時を過ごした。ベッドを共にした回数よりも遥かに深い時間が、カメラの向こうと手前にあった。思い出すと妙な感覚が蘇る。
「懐かしい?」
「いや、別に」
 その女性に対して某かの感慨を持っていたという記憶はなかった。多分、向こうもそうだろう。
「男の人は初めての相手ってどうでもいいのかな」
「どうかな。人にもよるし、相手にもよるんじゃないかな」
 美和は真の顔のすぐ側でうつ伏せになって頬杖をついている。
「じゃあ、ちゃんと付き合った人は?」
 まったく、女の子はどうしてこういうことを知りたがるのだろう。
 そう思ったが、美和の単純で素直な興味の向け方にはまるきり厭味がない。
「高校のときの同級生かな」
「事務所開く前に付き合ってた人は違うの? 先生が体壊すくらいだったって」

 美和は意外に物知りだと思った。多分北条仁が何か言ったのだろう。だが、事務所を開く前に付き合っていた女、小松崎りぃさのことは今でもきちんと解決できていないし、それだけに今ここで美和に話せることはなかった。
 真が黙っていると、何かを察したのか、美和は案の定、深追いをしてこなかった。好き勝手なことを言っているくせに、こういうところでは敏感に他人の感情を汲み取る。
「でも、先生って、高校生のときにちゃんと彼女がいたんだね。なんかちょっと意外だなぁ。どのくらい付き合ったの?」
 さらりと話題を戻した美和についていくように、真は答えた。
「五年、かな。俺は、ずっと変わらないって思ってたけど」
答えてから、これも一種の誘導尋問だな、と気が付いたが、小松崎りぃさの話よりはずっとましな話題だった。
「変わらないって、結婚したいと思ってたの?」
「したいと言うよりも、そうなっていくんだろうと思ってたんだ」
「どうして別れたの?」
「振られたんだ。別れる時はあっけないものだったな」
「どうせ先生が優柔不断だったんじゃないの? 結婚したいってハッキリ言わなかったんでしょ。女はやっぱり、他の男には目もくれるな、俺について来い、俺だけを見てろって言って欲しいときがあるわ。あんまりしょっちゅうだとむかつくかもしれないけど」
 美和の言うことは、かなりいい線をついていた。
「今でもその人の事、思い出す?」
「そうだな。たまには思い出すかな」
「一番エッチした回数多いのはその人?」
 何を聞くのやら、と思った。
「そりゃあ、まぁ、付き合った年数が長いからな」
「もしかしてまた会ったら、焼けぼっくいに火が、なんて事になりそう?」
「それは、向こうがないだろう」
「先生は? 今でもその人の事、好きなの?」
「それはどうかわからないけど、俺は別に嫌いになって別れたわけじゃないから」
 そう返事して真は美和のほうを見つめた。適当な質問をしているわけではなく、何か引っかかっているような、心配事でもあるような印象を受けたのだ。
「何かあったのか?」
 真が声のトーンを変えて聞くと、美和は一瞬黙り込み、それからふいと俯いた。
「別に」
 美和の一番の美徳は、隠し立てのできない素直な感情だった。一度言葉を切ったものの、美和は結局、しんみりと続けた。
「先生は誰かほかの人のことを思いながら、別の人を抱いたりできる?」





どうでもいい会話、次回も続きます(^^)
おまけは三国志人形。
よくあることですが、一時三国志に嵌りまして。きっかけはNHKの人形劇。
DVDは全部揃えています。
NHKの人形劇と言えば、本当によくできていましたよね。三国志は最高でしたが、プリンプリンも結構良かった(^^) ひょっこりひょうたん島がキングかもしれませんね。
私は素直に孔明さまファンです。
この三国志人形は、友人が上海に住んでいる時に遊びに行って購入したもの。
本体は泥人形/土人形です。
向かって左から、趙雲、孔明、劉備です。
三国志
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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# |  | 2013/04/13 19:33 [edit]

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