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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

❄5 古文書 仏の道 迷悟 

 竹流が仕事を始めてからどのくらい時間がたったのか、真は出掛けることもなく側に座り込んでいた。時々、本堂の内陣の奥を見ると、細いながらも筋肉質なご本尊の腕の上で、光が落ち着く場所を替えている。やがて住職がやってきて、竹流の手元を見ながら感心したように頷いた。それから、真の方を見て問いかけた。
「退屈されておられるなら、私の仕事を手伝って頂けますかな」
 真は一瞬竹流の方を見たが、すぐに住職に向き直り頷いた。
「力仕事くらいしかできませんが」
「大いに結構」
 住職は竹流に向き直った。
「では、お連れさんをお借りしますぞ」
「十分こき使ってやって下さい」
 竹流は微笑むようにそう言うと、またすぐに手元に視線を戻した。
 住職は真を連れて冷えた長い廊下を奥へ進み、一旦建物を出ると、細長い中庭を通って二階建てほどの高さの古い蔵へ誘った。袖口から時代劇に出てきそうな古びた鍵を取り出し、蔵の重い扉を開ける。
 蔵の中から、渇いた重い空気と上方から落ちてくる煙った光が流れ出した。
 一瞬、色々なものが真の五感に触れていった。
「虫干しではありませんがな、時折こうやって開けてやらんと、古い気が籠って、どうなるものやら知れません。それに、私も年をとりましての、あの上に上るのはなかなか骨の折れることになりましての」
 住職は長い木の梯の上方を指した。さして大きくない蔵の中では、階段らしいものはなく、上方の棚へ手を延ばすには細い梯のみしか手段がなかった。棚、と言うよりもメゾネット式の中二階がさらに中三階まであるような造りだった。
「近々、近くの庵で茶会がありましてな、さて、どこに豊臣家から拝領の茶碗をしまったやら。忘れっぽくなって困りますな」
 真は、住職の不安げな記憶に従って、茶碗、茶杓、茶入、水指はもとより、香合や蓋置き、掛軸といったものを上方の棚から探した。しかし、住職の記憶は曖昧どころか、恐ろしいほど正確だった。
「お茶は嗜まれますかの?」
「祖母が、師範なので」
 それを聞いて、住職が茶碗の木箱を開けてくれた。
 豊臣家から拝領と言うので、さぞ派手やかな黄金の茶碗かと思いきや、漆黒の楽茶碗だった。持たせてもらうと、思ったよりも重く、しっくりと手に納まった。もったりとした土の質感が伝わるような茶碗で、濡れているわけではないのに湿度が感じられ、そのしっとりとした湿り気のためか手肌から離れてくれない。じっと見つめていると、蔵の高いところにある小さな明り取りの窓から差し込む光で、漆黒のはずの茶碗に仄かに桜色の光が浮き立った。
「せっかく久しぶりに出してやりましたからの、後で一服差し上げましょう」
 一通り必要なものを出し終えると、住職は真に言った。
「虫干しには随分早いですが、この機会に一度、掛軸と書物の棚を改めましょうかな」
 住職はそう言って、蔵の奥に真を誘った。真は言われるままに、書物の入った重い木箱をいくつか床へ降ろした。
 住職がその箱を開けると、重い空気とともに様々な想いが迸りでた。真は一瞬、一歩後ろへ下がった。何か抗しがたい畏敬の念が湧き起こり、そうせざるを得なかったのだ。
 ふと気が付くと、住職が小さな目で真を見つめていた。
「あなたは、何やら思い悩んでおられるようですな」
 そう言いながら、住職は木箱へ視線を戻し、中の書物を確認しつつ、木の台の上へ出していった。真は穏やかな小さな姿を見つめていた。
「あなたはお若い。これまでの自分、つまり自分に責任のない出自も含めた来し方ゆえに、行く末も決まってしまうように思ってらっしゃいますな。上手くいかないのは、自分の中の何かが悪いのだと思っておられる。起こったことに対して、自分の中に悪い理由を捜して、それに怯えてしまっている」
 真は住職の手元を見ていた。住職の手は大人のものとは思えないほど小さく、刻まれた皺は別の生き物のようにさえ見えた。その手が滑るように動き、書物を分別している。
「しかし、若いものも年老いたものも同じですがの、人間はこれから自分がなっていくものにしかなれんのです。それは、あなただけが決めることができる。自分の信じた通りに行きなされ。本当に間違った道ならば、逃げ道はありませんでしてな。だが、その時は自ずと分かるものでございますよ。それに、大概の場合、よく見れば仏は逃げ道を残しておいてくれております」
 住職の言葉は読経のように淡々と続いた。意味がよく分からない者にもニュアンスだけは汲み取れるほどのゆったりとした言葉は、真にも何かを届けるような気はしたが、理解はできなかった。
「何もかも上手くいかなかったのに、ある場所にはまり込んだ途端に、色々なことが歯車が噛み合ったように動き出すことがございます。仏の世界では、理解できないことは捨て置くことも修行でしてな、意味など自ずと湧き上がってくるまで考えんことです。人の人生というものは、その時その時が点で存在しているものではございません。生まれたときからの流れ、線がございましての、それをきちんと眺めてみれば、ないと思っていた道がちゃんとある。自然に浮き上がるように見えてくるのでございますよ。さて、そこからは歩く勇気が必要でございますがの。何しろ、見えた道が平坦とは限りませんでしてな」
 住職は真に語っているのか、それとも独り言を言っているのか、はっきりしないほどの穏やかな調子で続けた。
「あなたは優しいお人ですな。優しいお人にしか、あのものたちは見えませんでしてな、いや、あなたという人がわかって、あのものたちは姿を現したのでしょう」
 真はようやく息をすることを思い出したような気がした。
「僕は」何かが言葉になりかけて喉で閊えてしまった。「自分の心が、恐怖や悲しみや猜疑心が、形になって現れているだけではないかと思います。精神科医のところに通っていたこともあるし、つまり僕は思い込みの激しい人間で、木の中に顔が見えると言われれば、本当に見えてしまう」
 住職はほっほっと柔らかく笑った。
「猜疑心や恐怖では、あの子どもの姿はみえませんな」
 真は住職が何を言っているのか、結局よくわからなかった。
 住職は話しながらも、いくつかの書物と巻物を分けていっているように見えた。
「さて、全て目を通したわけではありませんでしてな、あの方が龍の話をなすったので、思い出しましたが、何やらそれにまつわる書物が色々とあったような」
 住職が選びだしたかなりの数の書物や巻物を、別の木の箱に移して、真はそれを広間まで運んだ。と言っても、この文書はどう見てもかなり古い書物で、この住職は外国人の彼がこんな古文書を読めると思っているのだろうかと、不思議に思った。
 だけど、あいつなら読むんだろう。
 床の間の掛軸もすらすら読んでいたし、実際、職業ゆえとは言え、竹流の言語や形態認識の才能は半端ではなかった。
 それは彼が真に勉強を教えてくれるときにも発揮されていた。文字を覚えることに幾らか困難があった真の前に、竹流はすらすらと見たこともない国の文字を幾つも、魔法の呪文のように書き並べて言った。
 文字だと思うと苦しければ、模様だと思えばいい。お前はものを覚えるときに写真を撮るように景色を頭に入れるという才能がある。だから文字を景色にしていまえばいい。意味など後から湧き出してくる。全ての言葉には意味がある。書き言葉と話し言葉の違いはあるが、お前が幼い頃聞いていたアイヌの言葉と同じだ。言葉を学ぶことは思考を学ぶことだ、そして思考を学ぶことで人は形が作られていく。良い言葉を学ぶことは、いつかきっとお前を助けてくれる。
 学校で教えられた言葉は全く意味をなさなかったのに、竹流が勉強を教えてくれるようになって、ルービックキューブの色が縦に横に並び始め、やがて面が出来上がった。だから今では、彼との会話には不自由を感じることはない。真にとっていいことも悪いことも、彼の言葉ならちゃんと理解できるし、真の方からも言葉を返すことができた。それが、他の人が相手だと、突然に意味が分からなくなることがある。
 昼ご飯の準備ができました、と若い僧が住職と真に声を掛けた。住職に言われて、真は竹流を呼びに行った。
 竹流は本堂の脇廊の畳の上で、まだ同じ姿勢で胡座をかいて座っていた。その側にはいくらか手直しの済んだものたちが置かれていて、彼がかなりのスピードで仕事をこなしていることがうかがわれた。その手の中に黄金に光る仏具があり、窓の障子から零れる淡い光を跳ね返し、真の目にまた錯覚を映した。
 住職の説明によると、ここの本尊は金剛界大日如来で、大きな像ではないが、周囲に五智如来の他の四如来を配し、智拳印を結ぶ手、頭に抱いた宝冠、薄い衣にも、古い時代の黄金の名残があった。江戸時代の作とのことで、その時代、すでに仏像製作は絶頂期を越えてはいたというが、それでもこの大日如来は、光明を宇宙全体にあまねく照らし出すようだった。
 その向こうに、竹流の姿が光に照らされて浮かび上がっていた。黄金の仏具に触れる指にはそのまま金が跳ね返り、光にけぶる金の髪、俯いた横顔の輪郭までも光の中に溶け込んで、まるで彼自身の身体から光明が発せられているように見えた。
 これは手の届かないものだと、そう思った。確かなものを握っている手も、正しい言葉を語る唇も、この世界の遍くものを映し出す光を宿した瞳も。
「飯だって」
 声は自分自身の喉を通ってきたものかどうか分からないほどに、耳の外側から響いてきた。
 竹流は一瞬の間を置いて真を見た。それから、手に持っていた黄金の仏具を、滑らかな手の動きで畳の上に広げられた布の上に置き、思いきり伸びをした。
「あー、身体が固まってしまったな」
 のめり込んでしまって、同じ姿勢のまま根が生えるような状態だったのだろう。
「何、手伝ってたんだ?」
 竹流は言いながら立ち上がろうとして、一瞬足が痺れていたのも気がつかなかったのか、多少バランスを崩した。真は思わず手を差し出して、彼の腕を摑んだ。
「大丈夫だ。根を詰めすぎたな」
 言いながら、竹流は真の腕に軽く触れ、そっと逃れた。
「和尚さんが、あんたに見せたいものがあるって」
 広間で食事をしながら、真は住職が出してきた書物の話をした。
「読めるか?」
「多分な。わからなかったら和尚さんに聞こう」
 暫く黙って箸を動かしていたが、そのうち竹流がふと手を止めた。
「ちょっとは落ち着いたか?」
 真は竹流を見た。竹流がまだ怒っているのかどうか、よく分からなかった。
「落ちついたって?」
「気分がだよ」
 真は何とも返事をしなかった。
 午後からも、竹流は目一杯時間を使って修理修復作業に勤しんでいた。
 真は住職に奨められて、午後のお勤めに同席した。本堂の中で、住職の朗々たる読経の声だけが響いた。小さな体とは思えないほどに、彼の声はよく響く。時々、脇廊にいる竹流が手を止めて住職の姿を見つめているのが、真の視界の隅に入った。
 真は目を閉じた。
 緩やかに流れ去るように、本堂も京都も日本も地球も薄れて消えてゆき、宇宙空間に漂った。住職の読経の声と共に、突然に宇宙嵐のような大いなるものの意識の風が身体を吹き抜け、真の意識をはるか彼方へ翔ぶように運んだ。その有機の壮大なる空間の中に身体も意識も溶け出すと、DNAは物凄い勢いで螺旋を駆け戻り、真は自分が、宇宙の中でまだ小さなひとつの細胞だった時に戻るような感覚を覚えた。
 小さなただ一つの細胞が、太古の原始の海で漂っている。一人で孤独を暖めるように、そしてもう一つの小さな細胞を探している。
 あぁ、同じだ、と思った。
 思ったが、それが何と同じなのかよく思い出せなかった。ただ、読経の中に住職の言葉が蘇るようだった。
 人の人生というものは、その時その時が点で存在しているものではございません。生まれたときからの流れ、線がございましての、それをきちんと眺めてみれば、ないと思っていた道がちゃんとある。
 自分の遺伝子の中に残されている単細胞の時代からの記憶。それは途切れることなく、線として今の自分の位置にまで繋がっていることは、自然に了解できた。ただ、その先の道はまだ浮き上がってこない。真は目を閉じて、ただ心を空っぽにするように努めた。


 午後遅めの時間になって、蔵から出した茶道具を清め終え、炭を熾して湯を沸かし、住職がお茶を点ててくれた。
 身体の小さな住職は、炉の向こうにすっぽりと納まって見えた。
 しかし、お手前は優雅で、まるで神の舞を見るかのように、流れるような手で、大きく穏やかな気配に充ちていた。二帖ほどしかない茶室では、住職が茶を練り始めると、その匂いが立ち篭めるように薫った。
 今朝蔵から出されたばかりの茶碗は、どのような歴史を見つめてきたのだろう。歴史の渦に呑み込まれるような時代、茶室の中では様々な権力や欲望のやり取りが交されていたのだろう。そういうものを全て呑み込んで、茶はこの小さな空間で、今と変わらない震えるほどに心地よい薫りを放っていたのだろうか。
 竹流と並んで濃茶を頂き、服み終えた茶碗を拝見すると、黒地に茶の緑が染み入るような沈んだ耀きを見せる。茶碗を戻し、水指の蓋が閉まると、竹流が拝見を乞うた。三つ鳥居の蓋置きがすっと住職の手に吸い込まれるように片づけられ、茶入が清められて定めの位置に出され、続いて茶杓と仕覆も並んだ。
 茶入は美しい古瀬戸の文彬で、流れる釉薬の灰がかった茶が黒い面に優雅な文様を示していた。仕覆は古いもので、見たところ何かの宝尽くしのようだった。古渡という古い時代の舶載物で、釣石畳金襴と教えられた。
 茶杓は、恥ずかしながら、と住職が説明した。
「若いころ、私が自ら削りましての、その竹はまぁ、見事に美しい竹でございましたが、嵐で倒れましての、どうしても遺したくて削らせて頂きましたのじゃ。今見ても、あの時のしなやかに天に向かって立つ美しい姿が、蘇るようでございますよ」
「では、どのような銘を?」
 竹流が尋ねると、住職が答えた。
「迷悟、と」
 真は、少しの間漢字が思い浮かばずに、考えていた。
「この世にあるものは全て消えゆく定めにございます。その美しい姿を遺したいと思ったのは、やはり迷いの心でございましょう」
 竹流は茶杓を手に取り、しばらく何も言わずに見つめていた。真は、丁寧に茶杓を扱う竹流の手を見つめていた。優雅で綺麗な手は、修復作業を始めると職人の手になる。その手は古いものたちの匂いを沁みこませ、降り積もった年月の残骸は、幾日かは洗っても取れなくなる。
 真は竹流の左薬指に指輪がないことに気が付いた。修復の仕事の時以外は決して外すことのない指輪だ。茶室で指輪を外すという作法を、この異国人はちゃんと知っている。
 代わって薄茶が点てられた。濃茶を口にしたときは、茶の香りばかりが脳髄の奥まで浸み込むようだったが、今度はふと水の味が気になった。何と美味しい茶だろうかと思ったのだ。
「この水は?」
 真が尋ねると、名水点てではございませんが、と言って住職が別の茶碗を持ちだして、水指から水を汲んでくれた。
 口に含むと、身体に染み込み充たされるような霊水だった。
 真が尋ねるように住職を見ると、住職は微笑んだようだった。
「意外ではございましょうがの、広間の脇の水盤の底の水でしてな、朝一番に汲み置きますと、このように香り立つような水でございますのじゃ」
 真は両手に包み込むように持っている茶碗の中の水を、しばらく何とも言わずに見つめていた。

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Category: ❄清明の雪(京都ミステリー)

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コメント


じっくりと織り込まれていく物語

静謐な空間に、あるはずのない霊水の香りまでただよってくるような、秀逸なシーンですね。
どのシーンも、丁寧に織り込まれている感じがして、しっとりした重みを感じ取れます。

真君、読めば読むほど、なかなか他人には理解できにくい複雑なものを抱えているのがわかります。
そして竹流さんが、彼の危うさを、絶妙な位置でつなぎとめてくれているのも、感じ取れます。

この二人の関係は、きっと一言では語れないし、その時々で変わる微妙かつ繊細なものなのでしょうね。
竹流さんの人物像が、まだはっきりとしないのは、今のところ真くんだけの視点だからであって、実際、書かれていない部分に、じわじわと竹流さんの存在感が滲んできています。
このあと竹流さん視点で描かれることはあるのでしょうか。
あるんなら、それもちょっと楽しみです。

私はけっこう多視点で書いてしまうので、結局物語のラストは誰に占めてもらおうかと、初心者的な悩みをいだいてしまうこともしばしばなんですが。
やはり視点が定まっていると、物語も安定しますね。

個人的に、電車の中で怯える真くんのくだりが好きです。
真くんは、空間を隔てて、人の存在や意識を闇雲に感じ取ってしまう、繊細な精神の持ち主なのですね。
でも、そんな彼の雑踏での苦しさ、すごくわかります。
わたしも10年ほど前に心の病をやりまして、4年ほど、人ごみにはいれませんでした。パニック障害を身をもって体験し、そんな時に、自分を理解し、手を握っていてくれる存在がどれほど大きなものかを、強く感じました。(今はすっかり元気なのですが^^)
頑張れ、負けるな、と彼を応援したくなります。
竹流さんの存在が、真君のなかでこのあと、どんなふうになっていくのか、楽しみに、このあとも読ませていただきますね。
あ、ちなみに私が住んでいたのは、駅で言うと修学院道。大学は、白川通りにある美大です。
詩仙堂が近くにあったのに、結局一度も行けてなかったことを後悔しています。
昔からわたしもいろいろ「感じてしまう」タイプだったので、霊験あらたかな場所が、なんとなく怖かったことも、寺巡りをしなかった理由の一つなのですが、最近ではその時期を超え、あの重厚で静謐な空間の向こうにある、自分が怖いと感じていたものの正体を、じっくり探ってみたいな・・なんて、思うようになりました。
またいつか、京都を散策してみたいです^^

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/03/23 10:00 [edit]


limeさん、ありがとうございます

この物語にコメントや感想を頂けることは、何よりも嬉しいです。
limeさん、本当に本当にありがとうございます。
そして、あまり情緒的でない私の文章から、色々なことを探っていただいて、とても有難くて嬉しいです。

この物語は学生の頃、京都の水の話を聞いたときに原型ができていたのですが、形になったのは10年以上たってから。もちろん、それからまたずいぶん時が経っているので、本当に古い話になっておりますが、いまでも、道先案内にも書いた通り、好きなものをてんこ盛りにした物語なのです。
至らぬところがいっぱいあるのは承知の上なのですが……

京都の地下には巨大な水瓶がある。
この言葉を聞いたのが物語の出発点で、水にまつわることなら何でも入れちゃおうという、欲張りな展開でして、このお茶室のシーンも、短いながら気合を入れて?書いておりました。
書いていたころ、お茶を習っていまして、あのお濃茶の香りをかいだとき、思ったんです。
あぁ、これは確かに、歴史の中でこの空間が政治的にも重要で駆け引きにも使われ、そして芸術となり、人生を賭けるものにもなったのがわかるな、と。お茶碗ひとつと国ひとつの値段が同じというのはどうかと思うけれど、この香りは確かに五臓六腑に染み入る…と。日本人でよかった、と思う瞬間でもありました。
名水点て、お稽古ではあったのですが、実際にお茶会で出会ったことはなくて。でも、このお茶を点てる水のために、お茶人がいかに心を砕くかということを考えると、感動してしまうのです。

これからも水にまつわる物語があれこれ登場します。
ふたりの物語、そして龍や子どもの物語と並行して、水の物語としてもお楽しみいただければ、本当に嬉しいです。

そして、limeさんが、私のあまり色気のない物語から、本当に色々思いめぐらしてくださって、読み取ってくださって、無茶苦茶嬉しく思います。
この二人の関係は、もうどう書けばいいのかわからなくて、実は最初BLのカテゴリに入れるかとまで思ったくらい濃厚なのですが(否定はできない関係であったこともあるのですが、それは関係性の一部・一時期でしかなくて)、やっぱりちょっと違うし、一言では言い難い。
その答えは多分、【海に落ちる雨】の中にある程度書いたんですが、あれだけ書いてもまだ足りない…そんな気がしています。で、核が見えるのは【雪原の星月夜】かもしれません…申し訳ないぐらい、長い話です。
【海…】は私の友人に、痛いとまで言われまして、確かに書いている私も痛かったので、本当にブログで出すものかどうかと、思ったのですが…今でも少し迷いながらです。

> この二人の関係は、きっと一言では語れないし、その時々で変わる微妙かつ繊細なものなのでしょうね。
これを読んで、ちょっとうれしくて泣きそうでした。
そうなんです。
多分、竹流が【星】の中で、久しぶりにパニックになっている真(もう結婚しているのに)の手を洗ってやりながら(実は、亡くなった馬の墓を掘り返そうとしていて…)言う言葉…それがこのlimeさんが感じてくださったもの、そのものです。
春が来れば春のようにお前を思う、夏には夏のように、秋には秋のように、そして冬が来れば冬のように、ただいつでもお前を思っている…それだけではだめか?…と。
この二人が答えにたどり着けるのかどうか、辿りつけたのかどうか、結末を知っている私にも分かりません。
真が亡くなった後でも、竹流の人生は続いていて、彼は亡くなるその時まで真を思っていましたけれど、ずいぶん歳をとってから(そして真の息子の慎一の巣立ち?を見送ってから)ある人に言っているんですね。
彼がもうどこにもいない、そのことにようやく思い至って、やっと救われたような気がする、と。

limeさんが本当に深いところに気が付いてくださったが嬉しくて、小ネタ出しをしてしまいました。
さて、問題は、いったいいつ、そこに行きつくか、なんですが^^;
そのうち、創作ノートならぬ、真が亡くなってからの竹流=ジョルジョ・ヴォルテラの物語を出せる日が来るかな…実はもう大昔に書いていまして。なぜ、そっちを先に書いちゃったのか、自分でもよく分かりません。あくまでも出発点は真のほう、なんですが。

【清明の雪】は実はもともと、竹流視点と真視点が行ったり来たりしていたのですが、ややこしいので竹流視点をバッサリ切ったんです。それでこの長さ、というのがびっくりですが。
どうせ、竹流のあれこれは【雨】の中に出てくるので…

> 私はけっこう多視点で書いてしまうので、結局物語のラストは誰に占めてもらおうかと、初心者的な悩みをいだいてしまうこともしばしばなんですが。
すごく分かります。多視点の良さもありますよね。ミステリーはどっちがいいのか、これもよく議論されていますが、ドキドキを煽るときには、多視点のほうがよいのでは、と思ったりします。
だって、知らぬは主人公ばかりなり、ってことになると、知らないまま終わりそうなことも^^;

limeさんにも色々おありだったんだろうな、ということは書いておられるお話の中からよく分かる気がします。いえ、色々あったことが、今のlimeさんがお書きになる物語のエッセンスになっていて、みなさんが共感してlimeさんの物語の世界を愛しているんだろうな、その理由が、このコメントの中に書いてくださったご経験を読んで、すごく納得できました。
私は幸いそこまでの事態にならずにやっておりますが、時々大きな街に出ると、ドキドキして怖くなることがあります。出張でよく東京にいくのですが、ものすごく心拍数があがる…^^;
高所恐怖症もあって、高い建物を見るだけで不安になるのもあるのですが。
でも、友人と東京の街散歩をしてからは、それぞれの町にそれぞれの顔があることが分かって、ちょっとましになりました。

それから…limeさんと私は時期はずれているかもしれませんが、ほとんどニアミスのような場所に棲息していたようです。私はその白川通りの美大の前の信号を渡って、西に通りを入って北にちょっとだけ、数分(もかからないかも)くらいのところに住んでいました!
詩仙堂は、私のお散歩エリアでして。
この物語の架空のお寺、幾つかのお寺のイメージを組み合わせていますが、メインのモデルは詩仙堂…だったりするんです。
そして「感じてしまう」タイプだったということも…私にも色々ありまして…お聞きしてちょっと嬉しいです。チャンスがあったら、ぜひ一緒にあの辺りを散策したいです(*^_^*)

あら、嬉しさのあまり、長くなり過ぎた。

大海彩洋 #XbDIe7/I | URL | 2013/03/25 00:20 [edit]


3,4,5を数回読み返しました。
きっとこれは、分けて読むべきお話ではなく、流れに乗ってどんと読むべきなのだろうと思いながら。きっと、夜寝る前にでも読んでいたら、眠れないのだろうと。それでもここで一休みしてしまいました。(そんな私なんです。苦笑)

真と竹流のつながりの深さは今に始まったわけではなく、なのですね。後世につながるということは、前世もあったのですかね。大海さん、前世バージョンあります? そんなことを勝手に想像してしまってすみません。

和尚さんの言葉が染み入りますねぇ。人生どんなことにも間違いはないのだと改めて思います。そして、足元を見れば、道がそこにあるということも。一歩を踏み出すのは自分なんですけどね。物書きの世界がそこにあって、ほんのつい最近足を踏み入れてしまった自分ですが、この道も良いもんだなあなどと思ってしまっていたりして。しかし平坦ではないっ(><) 和尚さんについて行きたい・・・

もうひとつ。水について。水の万能は面白いと思います。熱くもなれば、冷たくもなる。全てを与えれもくれるし、全てを奪うこともある。真が水について尋ねてくれたのがちょいツボでした。

けい #- | URL | 2013/08/04 10:54 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

> 3,4,5を数回読み返しました。
え…(;_:) 嬉しいですが、お忙しいのにすみませんm(__)m
しかも、数回も読み返していただけるような内容かどうか、ちょっと申し訳なく思いましたが……実は、かなり気合を入れて書いて、気合を入れて校正したので、自信はないけれど、読んでくださる方がそんな風に読んでくださったのをお聞きして、本当に嬉しいです。
この作品は、私がノートに真のシリーズを書いていて、十年以上放置して、再度ひっくり返して書き始めたものです。多分、これがなかったら、続きの作品はなかったと思うものです。
(以前書いていたものは、とても今更他人様にお見せできるものではありません…高校生の頃ですから、若さと勢いと読んでくれたみんなの愛情があったから許される、無茶な設定^^;)
一度完成した後、何年もかけて推敲して、たくさんシーンを削って、今の形になりました。
その割には大したことのない内容で、お恥ずかしいのですが、その時の「伝えたい」気持ちを如何に削らないようにするか、結構苦心した覚えがあります。

> 真と竹流のつながりの深さは今に始まったわけではなく、なのですね。後世につながるということは、前世もあったのですかね。大海さん、前世バージョンあります? そんなことを勝手に想像してしまってすみません。
お……前世は考えていませんでした^^;
あやかしは出てきますが、前世とか生まれ変わりとかいうのは出てこない話で、そもそも、この二人が出会ったことで、この先の人脈が出来上がり、血脈としていずれ家系が結ばれる、という話でありまして。
出会ったのが、奇跡とは思っていますが、それは特別な二人が出ったというより、出会いは全ての人にとっていつも奇跡であり、結ばれる(結婚という意味ではなくて)ことも奇跡と思っていて、それを意味のあるものにするかどうかはその人次第だと思っているのです。
まさに、「出会ってこそ運命は拓かれた」というのがテーマのひとつなので……
【海に落ちる雨】の始章で、二人の運命の繋がり、その黎明が伝わるといいなぁと思います。
この始章、かなり気合が入っています。
多分、本編分くらい…

そう言えば、昔、友人と書いていた壮大なるファンタジー『アンケセナーメン・その生涯』(かのツタンカーメンの奥さんを主人公にした、『百億の昼と千億の夜』(萩尾望都)とか『地球へ…』(竹宮恵子)風の、神様まで巻き込んだ物語がありまして。
二次創作ふうにあちこちから借りてきた人物、友人が書いていた作品に出てきた人物、ついでに自分たちもまきこんで、オールスター総出演でしたが、その中では、真は『神の子三兄弟』の次男。
世界を維持するべく悩む長男・キース(from『地球へ…』)と世界を変革し切り開こうとする三男・天照狼(この作品のオリジナルキャラ。最後はこの神が世界を統べる…予定だった)の板挟みで、人間界とも深いつながりを持つ役柄でした。
細かいことは覚えていませんが、兄貴のことが好きで心配で、ものすごい力を持つ弟にも翻弄され(でも心配もしている)、その力のぶつかり合いによって振り回される人間界にもつながりがあり(それが竹流…^^;)、ひたすら悩んでおった気がする。結局、悩む役なのか…

もう、大海の大好きな兄弟葛藤の醍醐味満載の設定でしたね。
これはちょっと違う形で、この真のシリーズに入り込んでいます。
真のお父ちゃんが三兄弟で、それぞれ異なる性質の三兄弟。私は浦河の牧場を継いでいる奔放な三男・弘志(アイヌ人の女性と結婚、真にはいい兄ちゃん)を贔屓にしております(^^)

> 和尚さんの言葉が染み入りますねぇ。
わ~、嬉しいです。
この作品のもう一つの目的は、和尚さんLOVEの人を増やすこと!?
その辺の人が薀蓄を垂れていると、ウザったいけれど、和尚さんという人ならいいだろうと。
そして、この和尚さん、常識的なようでいて、結構人間臭いところも味噌です。
さらに、【海に落ちる雨】でも、最後の最後に、重大な役割で出てきます。
和尚さんの言葉から、色んなことを感じていただけて、すごく嬉しいです。
そう、物書きの世界もそうですね。
ということで、みんなで歩こう、いばらの道!?

> もうひとつ。水について。水の万能は面白いと思います。熱くもなれば、冷たくもなる。全てを与えれもくれるし、全てを奪うこともある。真が水について尋ねてくれたのがちょいツボでした。
はい。本当に、けいさん、ありがとうございます。
まさにこれは、水がテーマの話です。ほとんど、水しか目的はないくらいです。
そして、それは善悪とか、利益・不利益ではなく、もうそこにあるとしか言いようがないものです。
どこかで、また素敵な和尚さんがつぶやいておりますが、「善くもあり、悪くもある」というもの。
決めるのは人のこころであり、あるいは、人には決められない、ただ「そこにあるもの」だろうという考え。
人間の力で何とかできるようなものではない(そこから受ける被害を最小限にする努力は必要だけど)、という気がしています。
これは以前からずっと思っていて、『もののけ姫』を見た時、あ、同じことを言っている、よかった、と思ったのです。(けいさんの、田島くんの…アシタカの声(^^) うふふ、とか思っていました)
神にも、善悪はない。人間にとって、善いか悪いかでは決めることができない、という思想。
だから、あの映画は、私にとって、今でも心に寄り添っている物語です。

ところで、和尚さんの弟が伏見の杜氏です。【夢叶】の126で伏見の酒、飲んでる~とまた一人、ツボに嵌っていた大海でした。

コメント、ありがとうございます。私にとって、お返事にも力が入る【清明の雪】でした^^;

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2013/08/04 14:15 [edit]


皆様の感想、なかなか的を射ていますね

こんにちわ。
この章を読むと同時に他の方のコメントをじっくり拝見しました。
皆様、なかなか的を射た感想を書いていらっしゃいますね。
この物語をよく読みこんでいるように感じました。
そこへいくと、私などはまだまだ浅く、物語の内容まで深く読み取ることが出来ないようです。
この作品は自分が書いたことのないジャンルなだけに新鮮ではありますが、的確にコメントできなくてごめんなさいね。

広い静かなお寺の中の描写や、蔵の中の描写、住職の言葉など、ひとつひとつが映像のように目の前に浮かびます。

真君はまだ若いのですが、古文書とか古いお茶わんなどにも関心があるようですね。
美味しい水で点てたお薄を飲むシーン、私も茶道をやっているので、じんときました。
それにしても竹流の落ち着きは、本当の大人という感じがします。

さやか #QOvcH0So | URL | 2015/06/13 14:38 [edit]


さやかさん、ありがとうございます(^^)

さやかさん、おはようございます。またこのややこしい、読みにくいお話にお付き合いくださり、ありがとうございます。
こちらにコメントを下さる皆様方は、私よりもすごい大先輩(あ、実年齢は違うと思いますが)で、しかも百戦錬磨のつわものさんたち?なので、いいところを一生懸命探してくださって、素敵なコメントを下さる方が多くて……本当に励ましになっております。皆様、こだわりのある書き手さんだったりもしますし、小説を書く時の独自のノウハウを持っておられて、その練り込み方は私など足元にも及ばないので、本当に書いた私がびっくりするような深い読みをしてくださるのです。
あ、でも、さやかさんもお気になさらずに……というのも、皆さんはミステリー書きだったり、長編作家さんたちなので、こういうごてっとしたお話に慣れていらっしゃるんだと思うのです。だから、こんな風にややこしいお話にもついてきてくださって。
きっとさやかさんは切れ味鋭い短編書きさんでいらっしゃるので、視点が違っておられると思うのです。なので、皆さんのコメントにビビらずに(いや、ごめんなさい……表現が微妙ですね^^; 作者の私も皆さんのコメントにビビることが……え? なんでそれが分かったの~?なんてこともあって)、ゆったりとお付き合いくださいませ。
そうそう、自分が書いたことのない分野って、結構読むのは大変だったりしますよね。そんな中で読んでくださって、本当にありがとうございます。あれこれと謎解きっぽい部分はもう適当に無視していただいて、雰囲気だけ(そして観光案内部分だけ)楽しんでいただけたら、と思います。そういう感じでも楽しんでいただけるお話だったらいいなぁと思っております。
和尚さん(住職さん)はなぜか人気者になっておりまして(物の怪遣い?)、最後まで本当に怪しいのか普通の人なのかよく分からないのですけれど、この雰囲気をお楽しみにください。薀蓄を語っているような、でも結構いい加減なような、というのがミソです(^^)

裏話ですが、真のばあちゃんは、もともと金沢の芸妓の家の出身なんです。じいちゃんは北海道の牧場経営の一族の人ですが、実は津軽に馬を売りに行ったりしていて三味線弾きでもあり……若い頃やんちゃをしていまして、世紀の恋?で結ばれたのですが、孫の真はばあちゃんからもじいちゃんからもあれこれ教えられています。でも、古文書は全く興味ないかも……^^; 竹流が日本の古いものには何でも興味を示すので(修復師ですから、その関係で)ついついつられて、かもしれませんね。
竹流は、はい、この人も多面性のある人ですが、色々なものを抱えているので、一筋縄ではいきません。でもこのお話の中では「すごくかっこいい!」とみんなに思ってもらえるようにと書いていました。そうそう、他でも書いていましたが、「みんな、竹流に惚れてくれ~」って気持ちです。

あかねさんもお茶をなさっているのですね! 私も今はやめてしまったのですが、うちの家には炉を切ってあって、お釜から、一通りお道具が揃っています。静かにお茶をたてる時間、お道具を楽しむ感覚、とても好きです。このお話の中にはそういう京都とか日本の文化への想いを籠めているつもりなんです。お茶のシーン、楽しんでいただけてとても嬉しいです。
本当に、読んでくださってありがとうございます。でもコメントのことは気になさらず、一言でも本当に嬉しいのですから!
コメント、ありがとうございました(*^_^*)

彩洋→さやかさん #nLQskDKw | URL | 2015/06/14 11:19 [edit]

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