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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨27] 第3章 同居人の恋人たち(5)/本棚紹介(2) 

「先生は誰かほかの人のことを思いながら、別の人を抱いたりできる?」
突然、美和に聞かれていささか困っている真。同居人が入院中で、心配した調査事務所の共同経営者=秘書の美和が、竹流のマンションに泊まり込んでいるのです。
まだまだいちゃいちゃシーン?は続きます。
でも、このふたり、恋人というより、兄妹なんですね……



 真は少しの間、返事をせずに黙って美和を見つめていた。ほんの少し目を伏せた美和は、いつになくしおらしく、愛しく思えた。
「北条さんと何かあったのか」
「別に何もないけど」強がって勢いよく言ってから、責めるように真を見る。「どうなの? 男ってそういうもの?」
「残念なことかもしれないけど、不可能な話じゃないだろうな」
 そう言われて考えてみれば、篁美沙子とはまだ自分が中途半端で、何がどうなっていくのか分からない中で付き合っていた。彼女との行為も、どこか子供っぽい手探りのような部分があって、そういう意味では一生懸命だったかもしれない。
 恋の激しさだけから言えば、多分傍から見れば小松崎りぃさと付き合っている時の真はピークだったろうと思うが、心の中はどうだっただろう。りぃさを想っていたのか、他の誰かを思っていたのか、ただ自分だけの事で精一杯だったのか。
 結局りぃさが自殺してしまったので、もう何も確かめることもできない。りぃさが何を思っていたのか、感じていたのかも分からないままだ。だが彼女の存在は、真自身の心のうちを抉り出すような結果になりそうだった。りぃさがもう少し生きていたら、真はその心とあの時、向かい合わなければならなかったはずだった。

 美沙子でさえ、別れるときに言ったのだ。
 あなたが未来を共有したいのは私じゃない、と。
 あの時、それ以外の部分では美沙子の不満を膨らませていた可能性は否定できないにしても、美沙子との行為の最中には、真は彼女に対してだけ熱くなっていたと思うのに。
 いや、それは言い訳だと真は思った。あの頃はきっと若くて、あまり余裕がなかっただけなのだろう。
本当はあの頃も、誰と寝ても真はいつも他の手を捜していた。それまで全く自覚はなかったが、あの手が自分を抱きとめてくれたとき、その行為の最中に別の誰かの手を求めなくてもいいということが、どれほど幸福で満たされた行為であるかを知った。

 結局、誰かと寝ていても、他の誰かを想っている。可能とか不可能とかではない。ただ、想っていて、捜しているのだ。
 私じゃない、と言った美沙子はそれが誰だと思ったのだろう。りぃさは、知っていただろうか。そして今、深雪はどう思っているだろう。
 駆け落ちしてくれる?
 深雪のあの言葉は、ただ真をからかっていたのだろうか。あるいは、澤田と何かのっぴきならない事態にでもなっているのだろうか。一体、深雪の想いはどこにあるのだろう。彼女は、真が誰を求めているか、感じているのだろうか。
 愛し合っていると信じている相手が、誰か他の人を思っている。それは身体を繋いだときに相手に伝わるものなのか。もしもそうなら、美沙子も、りぃさも、そして深雪もずっとそのことを知っていたのだろうか。

「北条さんに、他の男とデートしたり寝てもいいって言われたことがショックだったのか」
「うーん、ショックっていうのか、先生、それってどう思う?」
「ひとつには、北条さんは君を本当に好きなんだよ。でも君は彼より十六も年下だ。北条さんは何にだって自信のある人だろうけど、好きになった相手が堅気でしかもいいとこのお嬢さんだろう。先行き不安になるはずだ。しかも北条さん自身、先行きを考えたのなんて初めてなのかもしれない。ふたつめは、とは言っても北条さんの性質から言って、他の人と全く付き合わないってことはできないだろう。だから、君が他の人とデートでもしてくれたら気が楽かも知れないと思っている。本当にそうなったら、どう思うかは別の話だけど」
 美和は意外な顔をして真を見た。
「先生って、そんなふうに人の恋愛感情を読めるんだ」
「人のことは簡単な話だ」
「自分の事は難しい?」
「そういうものだろう?」
 美和はまた例のごとく表情を変えて、にっこり微笑んだ。
「私から見たところでは、先生は世界で一番大家さんを愛してる。でも、大家さんは保護者で何よりも男の人で、世間的に許されない感情だと思ってる。だから、ちゃんとした女の人と付き合ってない。深雪さんをそういう世界のプロだと思っていて、恋愛対象じゃなくてセックスの相手にしてる。普通の相手を恋愛対象にしたら、その人を傷つけることが分かったから。大家さんは」美和は一旦言葉を探すように、間を置いてから先を続けた。「先生よりもっと先生のことを愛してる。だけどあの人は大人だから、先生より多分もっと無理してる。女の人たちの事を大事にしてるけど、それは習性としてやってるだけのこと。だから他の女の人が先生を見る目は、ちょっと恐いでしょ。その人たちにとっても他人の恋愛感情は読めるからだよ」

 真は、呆気に取られて美和の唇が動くのを見ていた。
「それに、私は仁さんの意見には納得してる。人の恋愛事情は確かによく分かるのよ。先生たちは、一度も寝たことがないわけじゃないんでしょ。よく、男と女の関係は別れ際に分かるって言うけど、別れ際じゃなくても距離でわかるのよ。ふとした何気ない瞬間の身体と身体の距離。先生たちは全然気が付かれてないって思ってるかもしれないけど、本当に近いよ。一度エッチしちゃうと、相手との距離は何かの瞬間、不意に驚くほど近いんだよね」
 美和はそれだけ言って、くるんとまた表情を変えた。
「何ちゃって。分析してみました。ちょっと私の妄想が入ってるけど。仁さんの言うとおり、他人同士の距離を見ていると結構物語になるんだよね」
 真は思わず真実がこぼれそうになるのを、押し留めた。
「文章教室の先生が他人を観察して物語を作れって言うから、試してみたの。文章を書くトレーニングの第一、観察力と感性を磨く」
「文章教室?」
 そう言えば、美和はジャーナリズムを勉強していて、本人は将来写真家になりたいと言っている。澤田教一に憧れていると言っていた。文章教室は大学の勉強の一環なのだろう。
 だが、危ないなと思った。もしも美和の妄想が入っているにしても、文章教室のトレーニングにしても、竹流の感情はどうだか知らないが、ある面からすればかなり真実に近いかもしれない。
「驚かすな」
「あら? 驚くってことは結構いい線いってたってこと? それとも、ほとんどどんぴしゃ?」
 真は思わず美和の頬に手を伸ばした。叩くほどではなく、軽く彼女に触れる。これ以上その話を続けさせたくなかったせいもあるが、ただその一瞬、この可愛らしいものに触れたい気がしたのだ。
 美和はその真の手に自分の手を添えて、明るい、真剣な眼差しで真を見つめている。
 Tシャツを通して美和の乳房が胸に触れているのが分かる。形のいい、幼いほどの硬さだった。自分の身体が反応しているのは分かったが、いつもと違うのは欲情しているというよりも、愛おしい気持ちになっていたことだった。

 先生、不倫しよう。
 美和の唇が動くのを真はただ見ていた。無意識のうちに、美和の頬に触れた手は彼女のうなじに上がり、美和のほうからか真の方からか、唇が触れるところまで近づいた。
「先生と恋愛する人は大変」
 唇で相手の息がはっきりと感じられるところで、美和が囁く。
「どうして」
「大家さんと闘わないといけないから」
「君と恋愛する人も大変だ」
「どうして」
「北条さんに刺されるかもしれないから」
「やっぱり不倫だよね」
 それでも、その時はただの文章教室その一の感性を磨く、いわゆる妄想の域でしかなかった。お互い独身で結婚しているわけでもないが、ある意味不倫という言葉がぴったり当てはまるように思える。それは、感性と言葉の遊びのようなものだったかもしれない。

 やがて唇はゆっくりと相手を確かめ、美和の形のいい薄い上唇と、よく動く下唇を確かめ、そのまま可愛らしい妄想を話す舌を確かめていった。
「酒、飲んでたな」
「だって、もう二十歳すぎてるもん。飲んだっていいじゃない。それに先生が帰って来ないからだよ」
 会話と会話の間に舌を絡めるように口付ける。
「好きでもない男と寝るのは、楽しくないかもしれないぞ」
 美和は意外、という顔をした。
「私、先生のこと、好きよ」
 その美和のくるくるよく変わる表情を見ていると、ふいに安堵感が湧いてきた。自分は今まで女性とベッドを共にして、こんなふうに相手の顔を見つめたことがあっただろうか。相手を、その人としてきちんと見ていなかったかもしれない。心のうちのどこかで、自分の中の何かを否定していたから、相手を見ることができなかったのだろうか。

「ねぇ、先生」
「うん?」
 呼びかけられたとき、まだ真は美和の柔らかな唇の感触を味わっていた。
「私が今日あとをつけていった人って、大家さんの仲間じゃないよね?」
「仲間?」
 急に現実的な話題になったのと、美和の口から出た『仲間』という意味深な言葉に、真は我に返った。
「だって、大家さんって何か危ないお仕事してるでしょ」
「どうして?」
「あの添島っていう女刑事さん、何となく大家さんを見張ってる気がするし、それにいつか会ったゲイバーのママ、単なるその道の人には見えなかったもの」
 全く、これも妄想の一環なのかもしれないが、美和の感性には時々どきっとする。
「それに、あの男の人、何だかどっかで会った気がするんですよね」
 実は美和が一番気にしているのは、その男のことのようだった。
「でも、なんて言うのかなぁ、絶対この人に会ったっていう確信じゃなくて、何かそういう気がするだけで、この人のこと、何か知ってるような気がする感じ。あー、何だか気持ち悪い」
 わけの分からない言語になりながら美和が呟いて、暫くして、まあいいか、と言いながらまたくるっと表情を変えた。頭の中に湧き出したことを口に出さずには放っておけない、彼女の美徳でもあり悪徳でもあるように思える。

 自分からいい雰囲気を壊しておいて、美和は気を取り直したように真に身体を寄せてきた。とは言え、真のほうは一瞬盛り上がった気分が、少しばかり削がれたようになっていた。
 美和の話題が、竹流のところに訪ねてきたという男の事になったからだが、それと一緒に不意に、今日マンションにかかってきた二本の不可解な電話を思い出したのだ。
 考えてみれば、もしかして楢崎志穂の言うとおり、澤田の目的が深雪との関係を問いただすことではなくて、真自身のことだったとしても、このチャンスに自分の『愛人』を寝取った男を呼び出してちくちくいたぶってみたくなっただけかもしれない。澤田が寛容に間男を見逃してくれているなどと、どうして思っていたのだろう。たまたま今まで忙しくてそんな余裕がなかっただけかもしれない。
 それに、もう一本の電話。
 竹流のあの怪我の訳を知っている誰かが掛けてきた。
 そして、不意にあの重い右手を思い出した。本人は何も言わないし、あんなふうに誤魔化していつも通り振舞っているが、あの右手は。

 明日、医師に状況を確かめようと思っていると、美和が不意に真の下半身に触れてきた。びっくりして美和を見ると、美和はちょっとむっとした顔をした。
「先生なんて嫌い」
「何で」
 美和はぷい、と向きを変えてベッドの向こうの端に行ってしまった。さっきまで興奮していた何かが急に冷めたのは事実だが、嫌われるようなことなのだろうか。
「美和ちゃん」
「ちゃんつきで呼ばないで」
「何言ってるんだ」
 いつも『美和ちゃん』じゃないか、何が悪いんだと思った。若い女の子の瞬間に変わる感情に、どうもついていけない。
「深雪さんのところに行ったら。あの人とは、すごくいいんでしょ」
「何の話だ」
「先生は、年上でちょっと怪しくて危険な香りがして、セックスが上手な女が好きなんでしょ」
 どうやら他の事を考えていたのが悪かったらしい。とは言っても、先に話題を逸らしたのは美和のほうだ。
「先生は絶対に騙されてるんですからね。って言うか、何かに利用されようとしてるんですよ。あの人は絶対恐い女なのよ。でないと、さぶちゃんにつけられて何のリアクションも無いなんてあり得ない。さぶちゃんの顔見て、普通なら恐いはずよ」
「それは宝田君に失礼だろう」
 確かに宝田三郎は顔は恐いが、あんなに気が弱いのに、と思った。それに、あの事務所の惨状を見て、明日彼が大慌てするのを考えると申し訳ないような気がした。
「事実を言ってるんです。それに何だって挑戦状を叩きつけるみたいにタイピンを私のところに届けに来るのよ。私は先生の恋人じゃないし、そんな厭味をされる覚えはないわ。大家さんにならともかく」
「だから、それは誤解だ」
「嘘つき」
 一体何を怒られているのか分からないままだったが、どうしようもないので放っておくことにした。





さて本日のちょっとコラムは本棚の紹介その(2)です。
そして次回予定の【物語を遊ぼう】のプチ予告でもあります。
吾輩猫1
これ、わかりますでしょうか?
全てのページがこんなことになっております。下がくっついちゃってるんですね。
決して、間違い/乱丁ではありません。
昔の本、カット本です。このくっついたページをペーパーナイフで切りながら読むのです。
萌えませんか? 本好きはきっと萌えると思います(^^)
しかし、もったいないのでまだサラのまま置いています。
この本の表紙は下をご覧ください。
吾輩猫2
そう、夏目漱石『吾輩は猫である』の初版本の復刻版なのです。
この芸術とも言える本装丁、次回はこれをテーマに【物語を遊ぼう】をお送りいたします(*^_^*)



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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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コメント


ネコ科の美和ちゃん

なんとなく、そんなイメージの女の子ですね。
けっこう、こういうタイプは好きです^^
ちょっと似たタイプの娘をRIKUという話の中で書いたんですが、この美和ちゃんほど複雑で可愛らしくはなかったですね。(うちのはただのKYちゃんだったな)

やはり、こういう男女の間の、肉体的な欲求を通しての感情は、とても複雑で人間臭くて、そして愛らしいです。
真くんと寝る女性には、いつもちょっと妬いちゃうんですが(笑)美和ちゃんは、なんだかいいですね。
キスしてても、妹的な存在だというのが、納得できる。
それはそれで、もっと隠微なイメージなんですが。
どうせならもう少し、真くんを、やり込めてくれても良かったかな^^(S)

真くんは、ちっともおっさん臭くないですよ。
すごく純粋で、真っ直ぐで。
いや、このあともっと、変わっていくのでしょうか。
いろいろ、興味深々です。
ああ、最新更新あたりが、なにか気になる。でも、じわじわいきます!

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/05/20 21:36 [edit]


limeさん、ありがとうございます!

確かに、ネコ科かもしれません。女って基本ネコ科、多いかもしれませんが…
そうなんですね、自由奔放系。自分はちょっと変わっていると思っていて、同級生と話していてもあんまり楽しくない(女子会には絶対行かない系)。でも、所詮、気の小さいところも、真面目なところもあって、ヤクザに気に入られて付き合っちゃってるけど、揺れ動いている。
でも、揺れ動いていることをあまり人には知られたくない。見栄張ってから、びびる。
そんな女の子なんですね。
そして、真とのシーンでは、ものすごく背伸びしていたと思います。
これから、美和が啖呵切ります(真のパパに…??)ので、お楽しみに(^^)
そう、そういう熱いとこも持ってるんですよね。
もしも、中高生のままの自分たちが真の傍にいたら…という発想から生まれたキャラ。

> 真くんと寝る女性には、いつもちょっと妬いちゃうんですが(笑)美和ちゃんは、なんだかいいですね。
いやいや、何だか照れます^_^;
そう、美和の使い方/読み方はただひとつ。
自分が美和になっている状態、で読んでください。
立場は明らかにミーハーです。もう、美和ちゃんはあれこれ妄想しながら、上司を観察しているのですから。
こんな職場、楽しいだろうなぁ…^^;

> ちょっと似たタイプの娘をRIKUという話の中で書いたんですが、この美和ちゃんほど複雑で可愛らしくはなかったですね。(うちのはただのKYちゃんだったな)
これは楽しみです。まだ白昼夢だけど…RIKU、前評判良いので(あ、私にとっての前評判で、みなさんにとっては後ですね^^;)、楽しみなんですが……早くいきつきたい~

> やはり、こういう男女の間の、肉体的な欲求を通しての感情は、とても複雑で人間臭くて、そして愛らしいです。
うん、私もそう思います。
なんか、勘違いしちゃうんですよね。体を繋げちゃうと、すごく愛し愛されている気持ちになって。
でも、結構勘違いなんですが^^;
ただ、その時の二人の思いは本物なんでしょうね。そしてそう、limeさんのおっしゃる通り、人間臭いんですよね。この人間臭さがドラマになるんでしょうね……

> 真くんは、ちっともおっさん臭くないですよ。
> すごく純粋で、真っ直ぐで。
ありがとうございます!
読み直しながらアップしていっているのですが、limeさんとこの麗しい主人公と違って、なんか生々しい男だなぁと思っておりまして……^^;
でも嬉しいです(^^)

> ああ、最新更新あたりが、なにか気になる。
うふふ…これは別のコメ返へ……(そして我慢できずに?参戦してくださって、ありがとうございますm(__)m)

大海彩洋 #nLQskDKw | URL | 2013/05/21 22:22 [edit]

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