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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨31] 第4章 同居人の失踪(2) 18禁 

18禁です。ご注意ください。
…でも本音では、大したことないんですけど…逆に期待しないでね…と言う気持ち^^; こういうシーンを楽しむために書いたわけではなく、美和ちゃんとの気持ちの行き来の延長として、会話込みでお楽しみいただければ。
ついでに、これまでこういうシーンを『具体的に』書いたことがなかったのです…つまり、シナリオで言うと、ト書きみたいな感じで、「そして二人はベッドに行く」程度の言葉で書き、翌日「寝乱れたシーツから体を引き離し、ベッドの下のスリッパを探る」みたいな言葉が出てきて、はい、おしまい。
…そういうのしか書かなかったので、ちょっと気合入れたら玉砕したという。その時の参考文献…エッチなシーンに使われる局所や行為を示す単語のあれこれ、というテーマの本を読んで、びっくり! うわぁ、エッチ小説書く人って大変だぁ、と思い、自分にはその想像力がないことが分かりました。考えてみたら、人類、どころか動物がみんなやっている普遍的でなんの変哲もないシーンを、ひたすら手を変え品変え書くわけで、飽きが来ないようにアレンジする能力は半端ではないと思ったのです。と言うことで、官能小説家さんたちをすごく尊敬するに至りました。…つまり、何がいいたいのかと言うと…18禁という言葉に期待しないでくださいね、ということでして。
*風邪をひいてしまい、頭がぼんやりとしていて、更新が遅れてしまいました。咳が止まりません…でも、仕事に行かなくちゃ。
(個人的に、夕さんにごめんなさい^^;)
*実は、ちょっと書き直そうかと思っていたのですが、うん…まぁ、いいか、とそのまま出すことにしました。結局、流れの中で書いているので、ここだけ変えてもなぁ、と。




 マンションの玄関のドアを開けて、薄暗い明かりの中をぼんやりとした足取りのまま靴を脱いで上がり、そのまま右手に折れた廊下を歩いて突き当たりのドアを開け、上着を脱いでソファに放り出した。体がスローモーションのようにだるく、重く動いているのを感じる。
半分で澤田という男が意外にもいい人間だったと思い、半分で何か別のことにかっかしていた。
 それが何だかわからない。真はネクタイを解いて、靴下まで脱いでその辺に放ると、ついでにスラックスのベルトも引き抜いた。それから上着の内ポケットを探って煙草を探し当てると、テーブルの上のライターで火をつけようとした。

 その瞬間に、隣の寝室からの続き扉がものすごい勢いで開いて、美和が飛び込んできた。
「先生!」
 押し殺した悲鳴のように美和は叫んだ。
「……何だ、どうした?」
 思わず咥えた煙草を落としてしまった。あまりの美和の気配に、真は彼女に何事かあったのかと思った。美和はソファを廻って、そのまま躊躇いもなく真の腕に飛び込んでくる。
「何かあったのか」
 美和は顔を上げて真を真正面から見た。真剣な思いつめた表情に、真のほうは酔いも吹っ飛びそうだった。
「何かあったのは先生でしょ。澤田顕一郎に何かされなかった?」
「何かって……」
 真は美和が何を誤解していたのか分かって、ようやく少し笑った。
「夕食をご馳走になっていただけだ」
「それだけ?」
「そう」
「嘘」
「嘘じゃない。そんなに悪い人には見えなかったよ。君の言うとおりだ」
「香野深雪のことじゃなかったの?」真は頷いた。美和は必死、という表情で言葉を繋いでいた。「先生を抱きこもうって話でも? 添島刑事が言ってたみたいな」
「彼のところで働かないかとは言われたよ。勿論、断ったけどね」
「苛められなかったの?」
「苛めるって、そういう話じゃないよ。澤田が君の思っているような悪人なら、ここに帰ってきてないと思わないか?」

 美和はようやく安心したのか、やっと真に抱きついていることに気が付いたようで、顔を赤らめて手をぱっと離した。そして俯いて小さな声で言う。
「心配したの」
「悪かった」
「さぶちゃんと賢ちゃんにあとをつけさせたの」
「あぁ、知ってる」
「帰れって言ったの、先生?」
「俺だ」
「ごめんね」
 真は思わず彼女のポニーテールを外した髪を引き寄せるように撫でた。
「何を言う。心配してくれて有難う」
 美和は少し真のほうへ体重を預けた。それから彼女は顔を上げ、ほっとしたように笑った。
「先生、お酒臭いよ。酔ってるでしょ」
「いや、自分でもこんなに飲めるとは思っていなかった。結構しらふだ」
「ほんと?」

 不意に彼女のその感情を隠さない真っ直ぐな心が愛しいと思えた。時々訳の分からないところへ一人で走っていってしまうが、そのよく表情を変える瞳も、決して裏表を感じさせない感情表現も、愛おしいものに思えた。
 確かに、葉子に似ているのだ。それは性格や外見の事ではない。
 自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳、その明るい気配、少なくとも真が騎士になろうと思ったそのこと自体が、他の誰にでも抱けるような感情ではなかった。
 葉子が常に自分に、兄に対してではない感情を抱いていたのは知っていた。いや、それは真の方だ。本当の兄妹ではないのだから、告白さえしていれば他人の妻になることはなかったのだろう。
 お兄ちゃん、あの時から私には夢があったの。お兄ちゃんのお嫁さんになりたかった。
 彼女が嫁ぐ前の日に真の前に座り、あの誰よりも愛おしい声で言った言葉は、今でも耳の奥に残っている。

 何故急にそんなことを思い出したのかはともかく、真は、今目の前で美和が微笑んで、小さな声でやっぱり酔ってると言った、その桜色の唇が動くのを最後まで見届けてから、今度はそれを逃がしたくないと思って自分の唇で捕まえていた。
 美和はさすがに一瞬びっくりしたようだったが、すぐにそれに応えるように真の唇に吸い付いてきた。気が付くと、お互い夢中になって相手を求めていた。一瞬唇が離れた時、美和が俯いた。それをそのまま唇で追いかけると、美和が確かめるように言った。
「酔った勢いっていうのはいや」
「酔ってないよ」
「嘘。先生、目が据わってるもの。明日になったら、俺何かした? とか聞くんでしょ」
「まさか、ちゃんと覚えてるよ」
 もう一度求めると、今度は美和は逃げなかった。頭の隅で真はやっぱり酔ってるな、と思っていた。言葉は中途半端にしても、正面切って女の子に抱きたいという意思を伝えたのは初めてだった。
「明日、覚えてないなんて言ったら殴るから」
 美和は真が酔っていることを心配しているわけではないようで、真剣に拒否をしているというよりも、どこかでこの状況を楽しんでいるように見えた。真が美和を抱き上げると、彼女はびっくりして叫んで少し手足をばたばたした。そのまま美和がさっき勢いよく開けた寝室へのドアをくぐって、ダブルベッドの上に二人一緒に倒れこんだ。

「やっぱり酔ってる」
「分かった、酔ってる。でもちゃんと分かってる」
 真がそう言うと、美和のほうは暫く確認するように真の顔を見つめていた。そしてそのまま、彼女は真の首の後ろに両手を廻した。
 今度は長いキスだった。
 美和に恋人がいることも、その男に自分がいく分かの恩義があることもちゃんと頭では分かっていた。だが今、突然に抱きたいという衝動に駆られたのが事実だとしても、誰でもよかったわけではない。
 美和だからだ、と思っていた。自分のものが既に熱くなっているのは分かっていたが、深雪を相手にしているときのように、とにかく直ぐにそれを彼女の中に埋めたいとは思わなかった。十分にこうして愛おしく可愛がってキスをしていたいと思っていた。
 葉子にはできなかったことだった。もちろん、昔も今も彼女にそうしたいと思っているわけではなかった。葉子はいつまでも大事な姫君で、そのことは永遠に変わらない。だからと言って、美和が葉子の代わりとは思っていない。

 美和のTシャツの下から手を忍ばせると、彼女の肌が冷やりとして気持ちがよかった。そのまま何もつけていない乳房に触れると、少し緊張した美和が唇から逃げようとする。真はそれを追いかけて捕まえ、また舌を絡ませた。指の間で美和の乳首がつんと立つ。じれったいように美和がTシャツを脱いでしまおうとするのを止めて、なおゆっくりと手掌と指で愛撫を続けた。
 唇は美和の柔らかい耳を弄びながら、手はずっと彼女の胸を愛撫している。手の中で美和の昂ぶりが分かるようで、それをいつまでも可愛がっていたいと思った。そのうち真が美和のTシャツを脱がせると、彼女もゆっくりと真のシャツのボタンを外していく。遠慮している気配はなかった。
 美和の乳房は、見慣れている深雪のものとは全く違う。乳首も小さく、まだ子供のようだった。真はそれを口に含んで、始めは舌で転がすように、それから歯を立てて彼女が拒否しないのを随分長く確かめてから強く噛むようにした。美和は小さく声を上げたが、逃げなかった。むしろ真の背に廻した腕でさらに強く真を抱き寄せた。美和のショートパンツを下着ごとずらして脱がせてしまって、その薄めの繁みへ口づけたときも、美和はもうそのつもりだったのか、自分から腰を上げて脱がせやすいようにしてくれたし、先生もちゃんと脱いで、と要求してきた。
 真は一瞬躊躇ったが、そのままシャツもスラックスも下着も脱いだ。その真の体を見て、さすがに美和はちょっと驚いたようだった。

 けれども、その反応は以前りぃさが真に向けたものとは全く異なっていた。
「ハードボイルドの主人公並みだけど、どうしたの」
 真は何故か少しほっとしていた。
「昔、崖から落ちて死に掛かった、その時の傷やら手術の瘢やら」
「いつ?」
「大学に入った年の秋、かな」
「どうして? 常識的な生活してたら崖から落ちないでしょ、普通」
「覚えてないんだ、馬に乗って走ってたことしか」
 デジャヴのように、同じ言葉をりぃさに言った時の事をおぼろげに思い出す。真は僅かに何かに緊張している自分を感じていた。
「事故?」
「だろうな」
「意識が吹っ飛んでたってこと?」
「医者曰く、逆行性健忘だって」
「それって、いつかは思い出すの?」
「どうだろう」
 美和は、真を促すように仰向けにさせると、その上に覆いかぶさるようにして、いつかりぃさがしたように真の傷に触れ、口づけた。けれどもその口付けは温かく、まるで今からでも傷の痛みを吸い取ろうとするようで、慈しむように優しかった。これは美和であって、りぃさではない。りぃさのように、真を死の淵へ連れて行くようなことは決してないだろう。
「古傷って、痛むでしょ」
「そうでもない」

 美和は傷に触れ、それからゆっくりと真自身の昂りに手を添えた。それはずっと硬くなったままだったが、妙なことに焦りはなかった。始めは多少躊躇っていた美和が、指に力を入れてしっかり握ってくる。そして傷に触れるのと同じようにキスをして、緊張しきった先端を軽く口に含んで吸った。
「先生って着痩せするんだ。知らなかった」
 美和の反応は何もかも若々しくて、明るい。
 真が脚を開かせると、美和はさすがに最初だけ少し抵抗したが、真はそれを簡単にねじ伏せてしまうとその茂みの奥に唇で触れ、そのさらに奥へ舌を差し入れた。もう彼女は溢れるほどに濡れていて、あまりにも溢れてくるので後ろのほうまで濡れてしまうのを真が舌で追いかけると、さすがに美和もびっくりして脚を閉じようとした。予想していたので、それを押さえつけてしまい、後ろの方も舌で襞を確かめるように舐めてゆく。
「ずっと、濡れてたの。先生が帰ってきて顔を見たときから」
 そう言って美和は息を吐き出した。真は美和の手を自分のものへ導き、美和はそれを彼女自身のほうへ探らせるようにして、さらに脚を開いて真がやりやすいようにしてくれた。十分に先端だけを濡らすようにして何度も出入りを繰り返し、美和の反応をいちいち確かめながら、少しずつ奥へ入っていく。入口はともかくも、そうしなければ簡単には奥まで行き着けないように狭く、締め付けてくるようで気持ちがよかったこともあるが、このまま直ぐに奥の奥まで味わってしまうのは勿体ないような気さえした。

 真があまりにもゆっくりと焦らすようにするので、美和は急かすように腰を突き上げてくる。真が意地悪をするように引くと、美和の表情がむくれたようになった。その可愛らしい口から何か卑猥な言葉を引きだしてみたくなって問いかける。
「どうしたの」
「……深雪さん、いつもいいって言う?」
 思わぬ言葉に真のほうが驚く。
「いきなり、どうしたんだ」
「ちょっと気になったの。続けていいよ」
 ふてくされたようにそっぽを向くのを、真は軽く戻して唇にキスをした。
「深雪のことを気にすることはないだろう」
「だって、プロだもん」
「プロ? まさか、そりゃ君よりは場数を踏んでいるだろうけど、別にそれで金を取っているわけじゃない」
「でもいいんでしょ」
「それは今、関係ないだろう」
「私もそう思うわ。でも、気にしちゃう」
 真は半分まで美和の中に収まっていた自分のものをさらに奥へ入れる。美和はきゅっと目をつぶった。
「美和ちゃん」
「何よ」
「普通ね、女の子はこういう状態でそんなにしゃべらない」
「普通じゃないもん」

 本当に愛しいと思った。真は美和の脚を抱えるようにして、最後は少し勢いをつけて彼女の一番奥まで突いた。締め付けてくる美和の内側は、まだ少女のもののように狭く感じた。深雪の中のように襞がまとわりついて締め付けるたまらない気配はなく、ただ懸命に自分を受け入れてくれているようで、愛しい気持ちは募った。北条仁と関係を重ねているだろうに、随分と幼く感じる。
 それでも何度も繰り返し奥まで動いていると、少しずつ広がっていくように思った。そのまま美和を抱きかかえるようにして、真は座る姿勢になった。美和は脚を開いたまま座った真の上半身に身体を預けた。美和の顔を見ると、額にいくらか汗を滲ませて、唇を半開きにし、それから照れたような優しい目で笑う。
 そう言えば、自分の方も、こんなふうに女の子と会話をしながら抱き合うことを楽しむなんてことは、まるでなかったような気がした。もしかしたら少しばかり、自分と美和の間に運命でもあるのだろうかと誤解もしたくなる。
 そう考えると、この子はなんて可愛いのだろうと思い、その気持ちをどう表そうかと考え、唇を吸った。舌を吸いながら下半身を突き上げると、さすがにこのときばかりは美和も娼婦のようにのけぞって真にしがみついた。美和自身も腰を上下させながら動いて、あまりにも夢中になっていたのか、真のものが彼女の中から吐き出され、彼女の身体が後ろへ倒れそうになるのを真が慌てて抱きとめる。

 美和はもう一度照れたような顔になる。若くて奔放なヤクザの情婦なのだから、もっと場慣れしている娘なのだろうと思っていたが、それは意外な顔だった。
 何かを確かめるような気持ちで後ろを向かせて、もう収拾がつかないほどに濡れている部分へ後ろから攻めようとすると、やはり美和は抵抗した。嫌なのか、と聞くと、後ろからは苦手、と彼女は言った。
 北条仁とどのようなセックスをしているのかと気にしている自分が滑稽だと思いながら、真は美和の抵抗を無視した。脚を開かせてお尻を抱えると半分まで埋まっていたものをさらに奥へつき、美和の抵抗がないことを確認すると、彼女が昇り詰める寸前まで攻め続ける。きつくて気持ち良かったが、美和が震えて逃げようとしたので、さすがにその体勢は長くは続けられなかった。
 大丈夫かと尋ねると、うん、と小さく答える。
 愛しいと思う気持ちが込み上げるままに、もう一度顔を見つめ合いながらさらに心も体も高まっていくのを確認する。それでも、どこかにかすかに理性は残っていた。
 真が一旦彼女の中から出ようとすると、美和が締め付けてくる。
「待ってくれ」
「何」
「ゴム、つけるよ」
 身体を離そうとすると美和の腕が真を抱きとめた。
「美和ちゃん」
 窘めるように真が呼びかけたのを完全に無視して、美和は真を抱き締める。その必死とも思える力に真は少しばかり驚いていた。フェイントを食らった真は逆に美和にベッドに押し付けられる形になり、美和は上になって真を迎え入れた。
「だめだって」
「ここ、いつもそんなもの置いてあるの? 大家さんが使ってて?」
「まさか、あいつ、そんなもの使わないだろう」
「じゃあ先生が使うの?」
「とにかく離せって」
 美和が真を締め付けたまま、一瞬黙りこみ口調を変えて続けた。
「いいよ」
 真はその潤んだ瞳を見つめ返していた。
「このままして」
「だから、それは駄目だ」
「深雪さんの時もつけるの?」
「彼女は子供ができないんだ、だから……」

 美和の目に、一瞬これまでと違う表情が宿った。深雪という同じ女性への同情と、それを利用している男への怒りだったのかもしれない。
「先生の馬鹿」
「分かったよ、じゃあ外に出すから」
「いや」
「いやって、おまえ」
 まるで非難するように美和が真の胸を叩いた。
「できたら責任とってよ」
「責任って……」
「仁さんと決闘してでも、責任とってよ」
 真は暫く黙っていた。後で思い出しても、このとき酔っ払っていたのかしらふだったのか分からない。けれども、このまま美和の気持ちを受け止めてやりたいと思った。
「わかった」
 短くそれだけ言うと、真は身体の位置を入れ替えて、美和の頭を抱きしめると激しく動き始めた。誰かに対する罪悪感は異常な興奮に繋がるような気配がある。美和も同じだったのか、二人で狂ったように動きながら求め合い、腰をぶつけ合って愛し合った。美和が奇妙な声を上げてわめき始めても、真は動きを止めなかった。最後には二人ともがほとんど同時に訳が分からなくなって昇りつめてしまった。
 美和の中に出してしまうと、彼女の中でゆっくり搏動するように嵩りを小さくしていく自分のものの気配をたまらない余韻の中で確認して、まだそれを美和の中に埋めたまま、口付けを交し合った。美和は真を離そうとはせず、その粘膜はまだ痙攣するように真を締め付けていた。

 美和は泣いているようだった。
「どうしたんだ」
「ううん、大丈夫。びっくりしたの」
「何故?」
「すごくよかったの」
 真は唇で美和の唇と舌を吸うようにしながら、その髪を撫でていた。まだ彼女の中に入ったままだったが、心地よくてもう少しの間このままにしておきたい気がした。
「後悔しない?」
「俺が? それとも君が?」
「先生だよ」
「しない」
 真は適当ではなく真実そう思って答えた。
 美和はいつになくまじめな顔で真を見つめ、小さく頷いた。それから、真の背中に腕を回して力を入れた。
 真は黙ったまま美和を抱き返した。

 だが、美和の小さな抵抗を無視して彼女の中から出て、枕もとのティッシュを取って後始末をしているうちに、すっと冷めていく何かが襲い掛かってくるような気がした。
 その感覚に、真自身驚いた。
 真は愛おしい気持ちを片手に抱いたまま、頭ではもう別のことを考え始めていた。美和を可愛いと思う気持ちとは別のところに何か大事なものがあって、思い出したいような忘れていたいような妙な感覚だった。そもそも、深雪を相手にしているときには愛おしいという感情は乏しく、自分が溜まったものを吐き出してしまえば後は素面にもどって当然だったが、今、明らかに愛おしいと思って抱いた女に対しても、全く同じような気分に襲い掛かられたのだ。男が射精してしまえば一気に冷める、というメカニズムは理解していたが、それが今自分の感じているものなのか、というと半分あたっていて、半分ずれていた。
 四六時中、一分の隙もなく、ただずっと抱かれていたいと思った時が確かにあったからだった。そういう感覚を、自分の腹の奥のほうがそのまま記憶している。真は目を閉じて、息を吐き出した。
 それでも美和が背に抱きついてくると、真は当たり前のように抱き返した。

 多少は酔っているのだろうし、きっと明日は二日酔いには違いなかった。いつものように飲みすぎて頭痛がしてこないだけ今日はましだった。だが、冷静になってきて目を閉じるとほんの少し廻っている。考え始めると気持ちが悪くなってきた。
 傍らで美和はうとうとしているようだった。気持ちがよくて眠くなったのだろうと思い、その顔を見つめているとほっとするものがあった。
 美和は本当はどういうつもりだったのだろう。周期的に絶対妊娠することはないと確信していたのか、それとも本気でそうなってもいいと思っていたのか、それともただその時の快楽に酔った衝動だったのか。もし本当にそうなってもいいと思っていたのなら、それは北条仁に対する何かのレジスタンスなのか、あるいはもっと別のものだろうか。
 美和なりに不安なのはよくわかった。北条仁はいい男だが、堅気ではない。彼女も極道の妻になる決意まではできていないだろう。だから自分に乗り換えたのかもしれない。
 そういう見方をするのは、美和に対して酷いことかもしれないが、普通の感覚として理解はできることだった。北条一家が仁の父親の代で家業を畳むつもりでいたことは知っているが、もしもこの先仁が父親の希望通り堅気になったとしても、今までのしのぎの方法を全て放棄することはできないだろう。それに、美和の実家が彼らの関係を了承するわけはない。そういう意味では、真も決して、美和の家族が望む理想的な娘の相手ではないのだろうが、良識の範囲の中には留まっているはずだ。

 嫌なことを考えている、と思った。
 眠っている女の子の顔をこんなにじっと見つめるのは初めてのことだ。その感情のあれこれを、是非の感覚は別にしても、考えているのも初めてだった。それに何よりも自分が、結婚などという現実的な内容を前提に考えを巡らせていることに、真自身は驚いてもいた。
 だが多少冷めた頭の中では、別の部分で澤田顕一郎のことを考えていた。澤田が今日何を言おうとしていたのか、ただ本当に勧誘するだけのつもりだったのか。
 澤田は田安隆三の事を知っていた。それも父親の代わりに学資を出してくれていたという。それどころか、真の実父のことも知っていた。ただ伝聞としてではない、同じ時代に同じ大学で、同じ倶楽部で会話さえ交わした間なのだろう。
 しかも、真の出生時のことを知っている。
 真自身に何の記憶もない、何の感慨も持てない時間と空間を、今日初めて会った、しかも今、真が内容はともかく付き合っている女のパトロンかもしれない他人が体験しているのだ。
 その他人は、まるで父親のように、守ってくれるような事を言った。

 馬鹿げている、と思った。もしも澤田が本気で真を雇おうとしているのだとしても、きっととてつもない損得勘定があるのだ。
 何より、自分にそれほどの『値段』がつけられているとは思えない。
 今自分に価値があるとすれば、同居人のことだろうか。それは十分にあり得る話だ。
 真は今になって、澤田をもう少し問い詰めてこなかったことを後悔した。しかし、澤田はあまり竹流の話題には興味を示さなかった。それは演技だったのだろうか。
 酔っていたのかもしれないが、どこかであの男を悪い人間ではないように思い始めていた。それは、もしかすると父や母の話をしていたからなのだろうか。とすれば、真自身に生みの親への思慕があるということなのか。
今まで考えたことのない感情だった。
 煙草を吸おうと思って、真は身体を起こした。美和は起きる気配はなかったが、少し大きめの息をした。

 真が美和の耳にそっと口づけた瞬間、暗闇を裂くように電話の呼び出し音がした。
 真は慌ててベッドから出ると、枕もとのガウンを引っ掛けて、隣の居間に行った。ほとんど無意識の行動だった。
 ベッドの脇には子機もある。それなのに、同居人はいつも夜中の電話を隣の居間で取った。真を起こさないように気遣っているのかもしれないが、夜中の電話のほとんどは竹流の母国からの電話で、途中から激昂してくると隣室で眠っている真が目を覚ましてしまうほどの勢いで話している。別に寝室で話していても、真には理解できない国の言葉だ。
 それでも聞かせたくないと思っているのかもしれない。
 今同居人はいないが、鳴っていると迷惑なので、この電話に出るしかなかった。
 日本語でいいや、と思って声を出そうとすると、がさがさの咽に張り付いたように上手く声が出てこなかった。
「もしもし」
 耳の中で反響する自分自身の声は随分愛想がなかった。
「……無事か? 美和ちゃんが心配してたんで、どうしたかと思ってね」
 真は思わず受話器を握りなおした。





いよいよ、全編で最も、書いている私が萌えた電話のシーン。
これこそがラブシーンと思って書いたのですが……それも竹流の一言が。
あんたは中学生か高校生?というこの電話切りたくない会話をお楽しみください。
風邪で、ミニコラムをつける元気がないので、シンプルに。
次回は、今日の夜、更新しようと考えております。
この回が1日遅れたので^^;
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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コメント


NoTitle

次回が、例の電話のシーンなのですね。
それも楽しみです。
でもちょっと、ここにもコメ。

可愛らしい二人ですね~。ほんと、なんで真は美和ちゃんとくっつかなかったのか。
まだ、真の奥さんになる人は知らないけど、美和ちゃんなら健全で楽しい家庭が築けたと思うのに。(え、真の結婚が破綻したわけじゃなかったですかね^^;勝手にそんな想像を・・・)←すいません、ヤキモチです。

それにしても、このシーンのためにちゃんと文献を読む大海さんがツボでした。
私もこういうシーンを書いたことがないのでわからないのですが、そういえば、各部名称が、わからない・・・。
一度だけ、BL作家さんと話す機会があったのですが、「もう、今どこに手があって、足があるのかわからなくなる。一話書いただけで疲れるので、Hシーンは嫌い!」と、言っていました(笑)ああ、そうだろうなあ・・・。
本当に、大変だと思います。
大海さん、お疲れ様。とっても可愛いラブシーンだったと思いますよ。

さて、次回も、楽しみです^^

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/05/27 19:50 [edit]


limeさん、再びありがとうございます!

美和ちゃんと真のシーンにコメントいただいて……・嬉しいやら、ちょっと恥ずかしいやら(*^_^*)
いやもう、もうちょっとさらっと書こうかと思ったのですが、実は、エッチなシーンで、いささか具体的に(行為を文字にして)書いても、こんなほんわかムードになるのもありなんじゃないのか、というプチチャレンジ?
そもそも今後この話に、ほんわか18/禁xRは多分出てこないので、ここで楽しんでおいていただこうと……
まぁ、美和ちゃんらしい会話を楽しんでいただくのが、ここでは正解ですね(^^)

それから、実は…仕事柄、望まない妊娠問題が気になるもので、真と美和にこれは語らせとこうと。するってことは覚悟がいるよ的なニュアンス。このあともう一度二人のシーンが出てくるのですが、ちゃんとしてます。
えーっと、そんなところで主張するなって気もするのですけれど、恋愛小説でなかなか書いていない気がして(最近はそうでもないのかな)。ま、ある意味、しらける詳細ですものね。
しかも後始末!?シーンの男の身勝手な感じ。真が身勝手なのか、男が身勝手なのかはともかく、ここに幻想を抱いても仕方ないだろうと思ったりもして。
……などなど、具体的なあれこれを書いたりするから、友人からは恋愛小説ではなくドキュメンタリー風と言われるのだわ……^^;

文献……始めは好奇心で見ますが、正直、その圧倒的な想像力に最後は屈服します。そんな表現があったのか!的な、目から鱗、どころか、目ごと落ちそうな世界なんです。
BL作家さんの叫び……しみじみ感じ入りますね!
BLも官能小説の部分、つまりエッチしーんがしっかりしていないと編集者にも読者にも受け入れられないようですから、大変ですよね。BLというカテゴリの中身が広がっているとはいえ、そのシーンは絶対的に評価の対象になって、そこがまずいとBL小説として成り立たないのでしょうから。しかも、本当に画一的になりがちなシーンを、どうやって料理するか、もう頭と筋力(文章を書く筋力)の勝負ともいえそうです。
本当に、お察し申し上げます……と思います。普通の小説の中に、時々こうやって書いているのは気楽でいいのだと、しみじみ。

真の結婚、破綻はしておりませんが(破綻する前に亡くなった、というのか)、まぁ、微妙な夫婦だったかもしれません。
【雨】の次回作、【星月夜】をまたいずれ、読んでやってくださいませ(^^)

と、とりあえず、今は、電話ラブラブシーンをお楽しみくださいませね(^^)
これも、携帯のない時代を知らないと、なかなか伝わりにくいニュアンスなのだけれど。
BGMは、レイニーブルーで。

大海彩洋 #nLQskDKw | URL | 2013/05/28 07:34 [edit]

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