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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨34] 第5章 誰も信じるな(1) 

第4章あらすじ

 恋人(というよりセフレ)である銀座のバーのママ・深雪のパトロンという噂のある代議士・澤田顕一郎から呼び出された真は、赤坂の料亭で会うことになった。澤田は竹流の怪我と何か関係しているかもしれないと、女刑事・添島麻子、雑誌記者・楢崎志保からにおわされている真は、探りを入れるつもりで乗り込む。もちろん、深雪とのことでちくちくいたぶられる可能性もあるのだが…と思いつつ行ってみると。
 話の内容は予想もしないことだった。
 真に、澤田のもとで働かないかという勧誘だったのだ。それも、澤田は真の実の父親、相川武史(世間ではアサクラタケシという名前で通っている)の大学の先輩であり、真の出生の事情、伯父・功が真を引き取ったことも知っていた。澤田は、自分のもとに来ることが真の安全を保障することになると告げる。しかも、ジャズバーの経営者・元傭兵の田安隆三は澤田の育ての親だという。
 話の内容には警戒しながらも、澤田のペースに巻き込まれて飲んでしまった真は、過去の話にいささかセンチメンタルになっていたことも手伝って、心配して真の帰りを待っていた美和とセックスをしてしまう。もちろん、美和のことは可愛いと思っていたので、勢いではなかったつもりなのだが、事が終わってしまうと自分の中で何かが冷めていることに気が付く。
 そこへもう一人真のことを心配していた竹流からの電話。何も話してくれない竹流に対してイラついていたにも関わらず、声を聞いているうちに恋しさがこみあげて来てしまう真に、竹流が『この件が終わったら、俺のところに来るか(=仲間として仕事をする、あるいは自分の全てを話すというニュアンス)』と言い、最後に『誰も信じるな』と告げる。
 美和は、真と電話の相手(=大家さん、つまり大和竹流)の間には割り込めないことを感じながら、真と初めて会った時のことを思い出していた。
 そして翌朝、二日酔いの真のもとへ、病院から竹流が姿を消したという電話がかかってきた。


さて、第5章です。
だんだんわけが分からなくなってきたと思いますが、適当に、適当に端折りながら読んでください。
こういう訳の分からない話は、気に入ったところだけ読むという方法があります^^;
って、そんなことをお勧めしてどうするんだって話ですが……




 病院までの道は渋滞だった。真はイライラしながらハンドルを何度も叩いた。暗い灰色の空からは、重くなった空気に溜めきれなくなった水滴がぱらついて落ちてきていた。
 雨だな。
 夜中の彼の声が耳に残っていた。甘い、耳元に口付けるようなハイバリトンの声が、電話だけに何倍も強調されて、耳のどこかに残っている。

 話をしたばかりだ。俺のところに来るか、とそう言われた。
 いや、多分すぐに戻ってくるのだろう。ちょっと出掛けただけに違いない。
 そう打ち消しながら、すぐにまた打ち消した。病院の中をうろうろしているとは思いがたい。少なくとも、病院からは姿を消しているのだ。さらわれたにしても自分から消えたにしても、良くない事態であることは間違いがない。
 車の流れは、天候のせいもあるのか、完全に止まっているようだった。
 渋滞の車の中にうずもれている間に、雨は突然激しさを増してきた。ワイパーは、始めは間歇的に動かしていれば済んだが、すぐに常時動かさなければ前が見えなくなった。そしてすぐに、雨は車自体を叩き潰す気ではないかと思うくらいの激しさになり、ワイパーの勢いを上げると、同じ勢いで気持ちがさらに焦ってきた。
 真は次の曲がり角で地下鉄の入り口を見つけると、脇道に逸れた。狭い道ながら、車がすれ違えることが分かると、駐車違反くらいは構わないと思って車を乗り捨てた。
 とにかく病院だった。
 雨が叩きつける中を、真は地下鉄の入り口に走りこんだ。


 担当の看護師が申し訳ないというようにあれこれ言葉を並べる中を、真は急いで病室に行ってみて確信した。布団は綺麗に畳まれていたし、何よりもあんなに目立つ男が誰の目にも留まらずに連れさらわれる可能性は低そうに思えた。ナースステーションの前を通らずに外に出るとなると非常口しか手はないが、開けられた形跡はなかった。常時ナースステーションに誰かがいたという保障はないが、本人の意思でなければ出て行くのはそこそこ困難に思える。
 真は警察に届けましょうか、という病院側の申し出に、暫く考えていたが、後でどうしてすぐに知らせなかったかと問い詰められるのも億劫だと思い、警視庁捜査一課の添島という刑事に知らせてもらうように頼んだ。もっとも、どうしてあなたが自分で連絡をしてこないのか、と言われそうだが、それはこらえてくれと思った。

 しかも、昼過ぎには状況はさらに明確になった。真が一度車を取りに病院を離れている間に、男が頼まれたと言って入院費を置いて行ったという。
 病院に張り付いていなかったことを後悔したが、その男が本当に頼まれただけなら、情報が得られるとは限らない。いや、今の竹流の状況に協力している人間なら、どうあってもうまく逃げられただろう。

 夜中の電話では、これからいなくなるような気配はなかった。来てくれるならそれでいい、と待ってくれているような言葉で電話を切ったのに、一体どういうつもりなのか。身体が多少は回復するのを待っていただけなのか、それとも新たな事態になって病院でじっとしている場合ではなくなったのか。
 看護師が、でもまだ少し熱があったのに、と呟くように言った言葉が頭に残っていた。何よりも身体の状態が心配だった。不自由な右手が何よりも気がかりだった。

 一旦事務所に戻ったが、じっと座っていることはできずに、真は町の中に出た。あてがあるわけではなかったが、新宿の東口の雑多な界隈を通り抜け、とにかく電車に乗ろうと思った。
 頭は忙しく働いていたつもりだが、動きは曖昧だったのか、何度も人にぶつかられた。いつもなら気持ちが悪いほどの人混みも全く意識の中に入ってこなかった。
 そもそも一体どこにこの『事件』の始まりがあるのか、見えなかった。知らない間に忍び寄るように日常の暮らしの中にまとわりついてきたようなものだ。
 日常の暮らし、と言っても、同居人や自分の生活が通り一遍のものとは思っていない。家族と平和に暮らす日常ではないし、同居人に至っては仕事も怪しい。

 ホームに立っていると、電車の警笛が頭の中を貫いた。
 誰も信じるな。
 警笛が、電話の同居人の言葉を向こうから投げかけてきたように思った。


 深雪と付き合い始めたのは一年以上も前のことだ。知り合ったきっかけも、ちょっとした事件でたまたま話を聞いただけで、別に誰かが何かを仕組んだようには思わない。
 澤田など、深雪のパトロンらしいとは噂されるが、現実にはどうだかわからない。第一、真自身が接触したのはつい昨日のことだ。たまたま真の父親の事を知っているからと言ってその点が怪しいとうわけではない。

 澤田が田安隆三と知り合いだからと言って、田安が怪しいわけでもない。いや、人物は怪しいが、田安が真に何か他意を抱いているなら、もうとっくにそういう片鱗を見せていてもいいはずだ。彼と知り合ったのは、そもそも真がまだ大学生のときだった。だが、田安は真と深雪とのことも知っているはずなのに、澤田の父親代わりに学費を出していたなど、初めて聞く話だ。

 田安のところに出入りしている楢崎志穂という女を見かけるようになったのは、この半年くらいの間のことだ。聞いたことはないが、田安とは随分前からの知り合いのように思える。澤田を恨んでいるようだが、だからといって手伝ってやる義理はない話だった。

 竹流の周りにいる人間で、あの添島という女刑事は、もう随分前から竹流を気に掛けていたように思ったが、蓋を開けてみればただ彼の女の一人というだけのことだった。国際警察機構に属していたことがある女で、その頃から竹流とは知り合っていたようだし、付き合いは長いのだろうが、竹流をあんな目に遭わせるようなことはないだろう。

 だが、女たちは皆、澤田の名前を口にするか、澤田の関係者だ。一人は澤田の『愛人』と言われている、一人は澤田に恨みでもあるようだし、一人は澤田の『目的』を知りたいという。
 添島刑事は、澤田が真に接触してくるはずだし、ある人がそれを気に掛けていると言った。ある人、というのは、以前一度外務省絡みの事件で知り合った相手だった。と言っても真にとってはそれほど特別な事件だったわけではなく、ただ真が請け負った失踪人調査の対象になった家出少年が、外務省の某高官の息子だったということだけなのだが、この少年はコンピューターのいわゆるおたくで、父親のところから何かとんでもないものを『盗み出していた』らしい。その先のことは真の耳にも目にも入ってこないので、実際に何があったのかは知らない。だが、その少年を見つけたら、直ぐに連絡をしてくるようにと言われた先が、その人のところだった。添島刑事が『特別な番号』といったのはそのことだ。
 内閣調査室の河本、と名乗った。本名かどうかは知らない。

 真と血のつながりのある、つまり実の父親である相川武史は、真が生まれて直ぐに日本を出て行っている。詳しいことは何も知らない。最近彼が真に対して態度を変えたような気配もない。つまり、会いたがったり、接触してくるようなことだ。彼がどこか異国で特別な仕事をしていることで、時々自分の身辺で微妙な出来事があるように思うこともあるが、何かが突然変わったわけでもない。
 
 竹流が『誰も信じるな』と言った『誰も』は、他にも候補者がいるのだろうか。
 竹流が出掛けたのは三週間前のことだ。彼が出掛けるのはしょっちゅうのことで、いつでも楽しげに仕事に出て行く。今回唯一ムードが違ったのは、いつもに比べてちょっとばかり嫌そうに出て行ったことくらいだ。
 彼の仕事は大概、美術品もしくは歴史的遺物に絡んだことだ。今では古い日本画、襖絵・屏風絵や版画修復の専門家の一人に数えられているが、もともとルネサンス期の芸術品、そして聖堂にあるどんなものでも修復する手を持っていると聞いている。彼自身はロシアやギリシャ正教のイコンに造詣が深いようで、大和邸のアトリエに並ぶイコンを見ると圧倒される。まさに聖堂の中にいるようなものだった。
 それらと関係のないような仕事を竹流がするとは思えないが、嫌々出かけたということは、そういった本来の仕事とはかけ離れたことなのか。大体、そういうことと、澤田や内閣調査室だの米国の国家機構だのは関わらないような気がする。

 それなら、やはり竹流の実家の問題なのか。
 竹流自身は何も話さないので、全て伝聞に過ぎないが、ローマのヴォルテラ家は表向きには銀行家つまり金貸し業で、世界の有名都市にいくつかのホテルを持っている事業家だが、実際には国家や大きな組織に情報を売っている組織だと聞いていた。特にソ連と中東の情報には通じていて、そもそもヴォルテラの家はイタリアのファシズムを早々に終わらせた一翼を担っていたという由緒正しい経歴を持つ。国の栄華は最早落日となっているが、あの家は始めからそんなものには目もくれず、独自の道を歩んでいる。冷戦の前にはソ連の情報に最も詳しい人間の一人だと言われたが、既に矛先を中東に向けているとも聞く。さらに警備会社を持っていて、一般家庭の警備ではなく、国家や部族のような大きな組織の警備をしているとも聞く。その後ろについているのは、世界に最大のネットワークのひとつを持っているヴァチカンであるらしいとも。いや、表の顔は全て隠れ蓑であり、ヴォルテラの本質はむしろ教皇庁との関係で成立しているとも聞いている。

 とは言え、それが澤田と接点があるようには思えない。
 だが、竹流は澤田の事を知っていて、彼の元で働かないかといわれたのか、と聞いた。
 国の親分が動いている気配はないと、竹流の仲間が言っていたし、やはり澤田と何か関係があるのだろうか。

 落ち着け、と真は自分に言い聞かせた。『事件』ならば何かが起こったのだ、何かが起こっているのだ。
 ひとつは誰かが竹流を暴行した。勿論、それだけで十分『事件』なのだが、絡み付いている出来事を思い出さなくてはならない。

 出来事と言えば、事務所が荒らされた。さんざん引っ掻き回してあったが、真の仕事に直接関わりあることを探っていたわけではないように思えた。
 持っていかれたのはフロッピーとテープ類、ビデオだ。
 誰かが、何かを探している。
 マンションにその誰かが現れないのは、あのマンションが簡単には入り込めない造りで、しかも竹流が二重三重のセキュリティをかけているからだろう。
 では、大和邸は。
 もう一度行ってみるかと思った。高瀬も帰ってきているかも知れない。

 真は大和邸の方向とは逆に向いていることに気が付いて、電車を降りた。降りてみると、田安のジャズバーがある東京湾の近くだった。
 何となく気になり、思い立って田安のところに行くことにした。田安にも話を聞きたかったし、丁度いいと思った。本当に澤田代議士と田安がそんなに親しい間柄なら、真が香野深雪と付き合っていることを知っていたのに、どうして何も言わなかったのだろう。
 もっとも、他人の情事にいちいち意見を言うような人ではない。
 それとも、澤田と田安は二人して、あるいは深雪も一緒に、自分を見張っていたのかと思った。
 まさかね。俺も随分偉くなったものだ。

 真は駅を出て、小雨になった湿っぽい空気の中を田安のバーへの道を歩きながら、色々と嫌な想像を打ち消した。
 だが、深雪はともかく、田安も澤田も真の父親の事を知っている。田安は終戦からずっと傭兵をして世界中の戦地を歩いてきた男だという。父とは立場は違うのだろうが、接点があったのだろう。
 もし本当に誰かが真の中の遺伝子を欲しがっているのだとして、そんなものが何になるのだろう。父が息子を愛おしいと思っている気配は全くないし、万が一そうだとしても、今更澤田や田安が真の父親に何かを要求したところで仕方がないように思える。万が一にも父が息子を愛おしいと思っていたとしても、彼は自分の立場と仕事をわきまえているだろう。息子が犠牲になるのを助けるために、彼自身に課せられた立場や義務を棄てるようなウェットさを持ち合わせている男ではない。

 ジャズバーの表は、勿論こんな時間に開いているわけがなかった。
 巨大な倉庫が並ぶ埠頭から少し離れたところだが、回りには何を扱っているのか分からない会社の事務所や倉庫が並んでいて、その中で田安の店は、外見こそ周辺と同じように地味な気配に沈んでいる。他に店らしいものはないし、賑やかな界隈ではない。それなのに意外にも客は少なくない店だった。もっとも、どういう目的の人間たちが集まってくるのかと言えば、真っ当とは思いがたい。
 真は勝手口に回りドアを叩いてみたが、返事はなかった。代わりに、それほど遠くないところから汽笛の音が聞こえてきた。

 考えもなく来てみたが、真昼間だし寝ているのかもしれない。
 田安はこの上の階の倉庫のような部屋に住んでいるが、小さな窓があるだけの部屋で、外から人の気配が窺えるわけでもない。
 もう一度勝手口を叩いてみたがやはり返事はなく、真は諦めるしかないかと思いつつ、何気なくドアノブに手をかけた。

 抵抗なく、ドアノブは廻った。
 真は怪訝に感じつつドアを開けて中に入った。酒類の箱が積み上げられた物置兼廊下を少し進むと、カウンターの内側に出る。真はカウンターへ入る潜り口の向かいにある鉄の階段を登って、田安の住む部屋に上がった。
 靴音が高く反響して、空洞のような空間に広がる。
 階段を上がると小さな踊り場のようになっていて、ドアが一つきりある。
 それをノックしたが、返事はやはりなかった。まさかと思ってドアノブをまわそうとしてみたが、こちらはさすがに鍵がかかっていた。
 たまたま勝手口の鍵を掛け忘れたのだろうか。
 そう思いながら階段を下りて、一応カウンターの内を覗いた。地下への落とし扉は閉じられていて、中に人のいるサインはない。
「何だ、あなただったの」
 突然の声に真は驚いた。店の中に立っていたのは楢崎志穂だった。





さて、第5章が始まりました。
あらすじ、第3章までは長かったのに、4章が短いのはエッチしていただけだから?
何だかちょっと変な気分。
会話には、結構いろいろな情報(伏線ではなく人物の)が含まれていたのに…

以下、再掲。

このシリーズの読み方指南。竹流の立場から見たら、こんな感じです。

(真の年齢・状況) → (竹流の立ち位置)
小学生(高学年)~中学生 → 野生の生き物手懐け期
高校生          → 猫かわいがり期
大学受験~入学までの1か月 → 道踏み外し期
              (『海に落ちる雨』に出てきます)
大学生~崖から落ちるまで → 突き放し・遠くから見守る・立て直し期(同上)
崖から落ちて~同棲まで  → 迷い道期 (『清明の雪』はここ)
同棲期    → 第2次猫かわいがり期(『海に落ちる雨』はここ)
       猫だと思っていたら、いつの間にか猫が山猫になっていたけど…
               
この先は……かなり辛い部分がある時期ですので、またいずれ。

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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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