FC2ブログ
10 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 12

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨35] 第5章 誰も信じるな(2) 

*行く先々で絡む志穂。代議士・澤田顕一郎に対して何か含むところがあるようで、さらに大和竹流のところに出入りしていた男のことを見張っていたようでもある。何かを知っているようなのだが、真が全面的に協力してくれるなら話す、というだけで、事情がつかめない。
事務所に戻ると、今度は深雪が訪ねてきて…美和のご機嫌を損ねることに…



「こんなところで何をしている?」
「何って、田安の伯父さんに呼ばれたから来たのよ。あなたこそ、何してるのよ」
 真はそう言われて、勝手に侵入したのは自分の方か、と思った。
「田安さんに話があったんだ。ドアが開いたから」
「そう」
 この女が鍵を開けたのか、と納得していると、志穂はカウンターの高いスツールに座った。
「おかしいわね。正午って言ったのに。あの人、時間にうるさいからちゃんと来たのに、もう一時間以上待たされてるのよ」

 真はカウンターの内側から志穂と向かい合っていた。
「もう帰っちゃおうかな」
 志穂は派手な顔つきに似合わないような無邪気な声で呟いて、真のほうをちらりと見た。
 昼間のバーは滑稽なほどに明るく、間が抜けるほどに柔らかな空気に満ちていた。高い窓からは、さっきまではガラスを打つ雨の音が聞こえていたような気がしたが、今は白っぽく明るい陽の気配が降ってきている。遠くに、汽笛の音が重なった。海が近いのだ。

「澤田に、会ったんでしょ」
 真はこの女が何を知っていても、とりあえず驚かないことにした。
「どうして知っている?」
「まぁいいじゃない」
「一体何故、澤田にこだわる? 田安さんに近づいたのも澤田のことでか?」
 志穂は意味ありげに笑った。
「まぁね。言ったでしょ。澤田は仇だって」
「どういう意味か聞かせてくれ」
「今日は低姿勢ね」

 志穂はカウンターの上の灰皿を暫く指先でつついていたが、やがて真の方に顔を上げた。
「聞きたいなら聞かせてあげてもいいけど、代わりに何をしてくれるの」
「何をして欲しいのか聞かせてくれたら考える」
「じゃあ、香野深雪に澤田をどう思っているのか、直接聞いてよ」
「深雪に拘るわけは何だ?」
 志穂は暫く答えずに真を見つめていた。それからふと、視線を逸らし、思い立ったように立ち上がる。
「じゃあ、取り敢えず、ホテルに行かない?」
「ホテル?」
「丁度サービスタイムだし」

 真が何とも答えないでいるうちに、志穂は立ち上がりカウンターの内側に廻ってきて、真の腕を取った。それでも真が動かないでいると、彼女はさらに強く真の腕を引っ張るので、結局一緒に店を出た。
 志穂は薄い青のジャケットのポケットから鍵を取り出して、重い金属の勝手口の扉を閉めた。
「鍵、持っているのか」
「うん、まぁね」志穂は曖昧に答えただけだった。「ほんとに、どうしたのかしらね。何で来たの? 車?」
「いや、電車で」

 さっきの土砂降りは気のせいだったのかと思うほど外は明るくなっていて、太陽の光が足元を間抜けなほどにくっきりと照らし出している。
 志穂は真が逃げないようにとでも思っているのか、腕を摑んだままで、ポケットから別の鍵を出すと真に手渡した。
「運転、してくれるでしょ」
 志穂の車は国産車の軽で、店の近くに停めてあった。

 展開はともかく、何か知っているなら聞き出そうと思ったので、真は言われるままに車に乗り込み、志穂の指示のままに車を走らせた。新橋の近くまで来ると町の中の細い道に入り、一軒のラブホテルの前に出た。
「ここ?」
「何、躊躇ってるのよ。さっさと入ってよ。恥ずかしいでしょ、こんなところに止まってたら」
 それもそうだと思い、とにかく垂れ幕がぶら下がった入り口をくぐった。暗くて狭い半地下の駐車場に車を進めて止まると、志穂はさっさとドアを開けて車を降りる。
 仕方がないので、真もエンジンを切って車を降りた。

 真がドアに鍵をかけたときには、志穂は既にホテルの入り口に入っていってしまっていた。一体どういうつもりなのか、と思ったが、とにかくついていくしかなさそうだった。
 パネル式の受付で、部屋の写真が並んでいる。空いている部屋のパネルには明かりが点っていて、志穂はそのうちの一つを選んでパネルの下のボタンを押した。見ると、昼時にも関わらず半分ほどの部屋の明かりが消えている。
 三千五百円です、という女の声が小さな窓口の向こうから聞こえた。真は振り返った志穂に急かされるように財布を出した。

 階段を半分上がると、駐車場とは違って比較的綺麗なロビーになっている。エレベーターがあって、四階まで上がった。志穂は口をきかずに、さっき窓口で受け取った鍵を弄んでいる。
 エレベーターを降りると、どう見てもOLとその上司という風情の二人が立っていて、真たちから視線を逸らした。こういう場所は仕事柄それなりに慣れているつもりでも、時々背中が冷たくなるような時がある。皆がある一つの目的のためだけにここに来るからかもしれないが、駅のホームでしばしば吐き気や頭痛に襲われるのとは少し訳が違っていた。もっとも自分とてこういう所をそういう目的で利用することはあるのだから、文句を言うわけにはいかない。

 志穂は先に立ってある部屋の鍵を開けると中に入っていく。
 中には小さな玄関があって、奥に続く扉をもう一つ開けると、左の手前に洗面とトイレらしいドアと、ガラス張りになった大きなバスルームがあった。一段高くなったところに大きなオレンジ色の掛け布団を置いたベッドがある。
「今の香野深雪とはこんな下品なホテルに来ることはないでしょうけど」
 真は黙っていた。志穂はベッドに座って挑発するように脚を組んだ。綺麗な脚を持った女で、今日は短いスカートを履いている。
 深雪が気まぐれでこういうホテルを使いたがることがたまにある。面白がってそういう配信番組を見ながら行為をすることもある。だが、別にこの女にそんなことを伝えてやる必要はなかった。

「このホテルはね、ある男がある女といつも密会に使っていたところ」
 それがどうしたのか、と思った。
「男は雑誌記者で、何年か前から妻が交通事故で寝たきりになってて、八つになる女の子と暮らしていた。妻が事故に逢う前から、男はある女とここで抱き合うような関係で、妻が寝たきりのまま病院で亡くなった日もここで女に会っていた。妻が亡くなってからも、男は女との関係を断ち切れなかった。そして、半年後、自殺したわ」
 座ったら、と言うように、志穂はベッドの隣を指した。真は言われるままに座った。
「男はその時、ある不正融資について調べていた。男が自殺した後で、男の持ち物からフロッピーに入った脅迫文の原稿が見つかった。脅迫文の宛先は表には出なかったけど、政財界のそこそこの人物が幾人かターゲットになっていたようだった。男が寝たきりの妻の治療費で借金を抱えていたのは事実だけど」

 志穂は言葉を切った。真は彼女の横顔がいつになく真面目なのを見て取った。
「君の知り合いか」
「私の上司だったの」
「それだけか」
 志穂は真を見つめた。
「好きだったわ。記者としての基本も心構えも、何もかも教えてもらった。自殺したなんて今でも信じられない。子煩悩でいい父親だったわ」
「その、女というのは、君ではないんだろう」
 真は言葉を選ぶように言った。志穂は返事をしないまま、真から視線を逸らした。
「だから、香野深雪にどういうつもりなのか、聞いてよ」

 真は視線を逸らせたままの志穂の横顔を見た。
「深雪が、その男の恋人だったということか」
「恋人? 不倫でしょ」
「だが、それが澤田と何の関係が」言いかけて、真は留まった。「まさか、脅迫されていた政治家の一人が澤田で、澤田が深雪を使ってその雑誌記者をどうかしたとか、思っているんじゃないだろうな」
「知らないわよ。だから、本人に聞いてよ」

 真は顔を上げた志穂と暫く睨み合うような格好になっていた。だが、次の瞬間、志穂は真に身体を投げ出すようにして首に腕を回し、真の唇に自分の唇を押し付けてきた。真は一瞬何が起こっているのか認識できずに志穂を抱きとめたが、直ぐに彼女の身体を引き離した。
「何のつもりだ」
「あなたも、香野深雪の身体と離れられないんでしょ。その男の気持ちが分かるんじゃないの」
 そう言ってから、志穂は真の胸を確かめるようにシャツの上から触れてきた。
「あの女はそんなにいいの? 男が自分の何もかもを捨てるほどに?」
 真は思わず志穂の手首をつかんだ。
「君が直接深雪に聞けばいいだろう。万が一君の考えていることが事実だとして、俺が聞いても彼女はそうだとは言わないぞ」
 志穂は真を見つめてたままだった。

「あの人は肉親の感情を踏み躙るような女よ。話なんかしたいとは思わないわ」
「肉親?」
「赤の他人なら許せても、肉親だからこそ理解できないし、許せない事だってあるでしょ」
 真は志穂の手首を離した。志穂の言葉の意味を反芻してみたが、理解の向こうだった。
「試しに私を抱いてみたら? 何か分かるかもよ」
 深雪が男を誘うとき、こんなふうに必死な印象はないな、と真は思った。口で生意気を言いながらも、この女は目一杯な感じがしたのだ。
「悪いが、そのつもりでここについてきたわけじゃない」
「でもちょっと期待しなかった?」
「そういう気分じゃない」
「あら、じゃあ、そういう気分なら抱いてくれるの? それとも、大事な人が消えたから、それどころじゃないって事?」 

 真は思わず志穂の腕を掴んだ。
「どういう意味だ?」
 志穂は意味深に笑った。
「ほら、そうやって必死になる。消えたでしょ、あなたの彼氏、病院から」
「どうしてそんなことを知っている?」
「病院で騒いでたからよ」
「見張ってたのか」
「まぁね」
 真は志穂の腕を離さないまま更に聞いた。
「あいつはどこへ行ったんだ?」
「そんなこと知らないわよ。私が見張ってたのは別の男よ」
「そいつは美和がつけていった男か。竹流のところに面会に来ていたという」
 志穂は自分の腕を掴んでいる真の手に手をかけて、振りほどいた。
「あなたの彼氏、と言われて否定もしないと思ったら、今度は秘書さんを呼び捨て。随分仲がいいのね」
「君には関係のないことだ。その男を何故見張っている?」
「私と寝たら教えてあげてもいいわよ」
「馬鹿を言うな」
「教えてくれ、と言うから交換条件を出してるのに、もうちょっと低姿勢になったら?」
 真は志穂とまた暫く睨み合った。

 だが、先に視線を逸らせたのは志穂のほうだった。
「そうね、私は肉親の恋人と寝る趣味なんてないわ」
 そう言って志穂は立ち上がった。
「帰りましょう」
「何を言っている?」
 真は座ったままひとつ前の志穂の言葉の意味を確かめようとした。
「だから、香野深雪に聞きなさいよ。ベッドの上でいい気分になりながらね。あなたがいつもよりもっとあの女を悦ばせてあげたら、話してくれるんじゃないの。もっとも、あなたの方にその余裕があれば、だけど」
 随分な悪態をつきながら、志穂はもう部屋を出て行こうとしていた。真はひとつ息をついて、自分も立ち上がった。

 エレベーターの中でも志穂は口をきかなかった。
竹流に面会に来ていたという男の事を問い詰めたかったが、何もかもを拒否するような志穂の態度を見ては諦めざるを得ないようだった。ロビー階でエレベーターを降りると、志穂は真に歩いてここから出て行けと玄関口を指して、自分は駐車場への階段を降りていった。
 真はそれを見送りながら、諦めてラブホテルの正面口から出た。
 出たところで、入ってこようとした若いカップルとぶつかりそうになった。一人で仏頂面で出てきた男をカップルはどう思ったのか、一瞬意味深にこちらを見たのが気になったが、それどころではない気分だった。


 電車に乗ると一旦新宿まで戻り、車を取って大和邸に向かうことにした。考えてみれば大和邸があるところは結構な田舎なので、電車で行くとなると不自由この上ない場所だった。
 事務所に戻ると、ドアを開けた途端、美和の恨めしそうな声が飛んできた。
「先生~、連絡くらいくれてもいいのに」
「ごめん。何かあったか?」
「大家さんからは連絡ないし、澤田の経歴なんて、資料が多すぎて読みきれません」
 横で宝田までが、美和がどこかから担いできたらしい本の山と格闘している。少年少女向けの推理小説以外の本を広げたことがほとんどなく、細かい字を読むのが苦手な宝田には苦痛な作業だろうと思った。

「悪かった。あ、それと、何年か前に雑誌記者が、不正融資をしている会社や政治家を脅迫していて自殺した事件、なかったかな。詳しく知りたいんだけど」
「いつのことですか」
 そう言えば、いつという部分は聞いていなかった。俺も間抜けだな、と真は思ったが、楢崎志穂の連絡先も知らないし、もう一度会って話したいとも思わなかった。真が黙っていると、美和があきれたように言う。
「わかんないんですか。先生、ちょっと要求が無茶」
 美和の声はいつもの通り勢いが良くて明るく、真をほっとさせた。
「じゃあ、井出ちゃんにでも聞いてくれ。彼なら何か覚えてるかもしれないし」

 井出というのは新聞記者で、政治絡みの事件が専門だ。少し変わった男で、少年事件にも興味を持っていて、時々真のところにネタを仕入れに来る。勿論守秘義務を外すようなことはしないし、そうでなくても簡単にネタを提供するようなことはなく、仕事面ではそれなりに損得勘定をして付き合っているが、実際には時々飲みに誘うことのほうが彼の主目的なのではないかと思う事がある。
「あ、それもそうね。もう一つくらいキーワード、ないんですか」
「遺族は八歳くらいの女の子。母親は交通事故で寝たきりだったのが亡くなっている」
 美和は頷いて、念のためというように手帳に書きとめていた。
「それが、大家さんの怪我と何か関係あるの?」
「さぁ、どうかな。澤田と」一瞬真は躊躇ったが、先を続けた。「香野深雪には関係しているかもしれない」

 さすがに深雪の名前には、美和は複雑な顔をした。
「じゃあ深雪さんに聞けば分かるんじゃないんですか。先生、自分の恋人でしょ」
 宝田が横で頷いている。
「うん、まぁ、そうだけど」
 真が曖昧にしても否定しなかったのが美和の気に障ったはずだが、美和が何か言いかけたのを感じて真がまずかったな、と思ったときにドアがノックされた。
 美和は弾かれたようにドアのところにとんでいって開けた。攻撃を受けずに済んだかとほっとしたのも束の間、ドアのところに立っている女を見て、真はもっとまずい状況になったと思った。
 噂をすれば影、とはよく言ったものだ。

「まぁ、皆様、お揃いなのね」
「深雪」
 真は考えもなしに彼女の名前を呼んでいた。深雪は髪を綺麗に結い上げて、上品な白いスーツを着ていた。和装でも洋装でも、彼女は人の目を引く女だった。色白の肌の中で唇の赤みに一瞬で目を奪われ、やがて優しげな瞳に摑まると抜け出せなくなるような、そういう外観を持っている。
「真ちゃん、会えてよかった。ちょっとお願いがあって」
「うちはボランティアじゃありませんけど」
 被せるように美和が言った。美和が怒っている相手が、深雪ではなく自分であることは、多少女心が分かっていない真でも十分感じられた。
「あら、そんな事じゃないのよ」

 深雪は美和の言い分を完全に無視して真の方を見つめた。
「預かって欲しいものがあるの。今夜いつもの部屋に来てくださる?」
 完全に不味い状況だというのは間違いなかった。真は思わずドアまで行って、深雪の腕を取り、身体ごと抱くようにしてドアの外に出た。
「どうしたんだ、こんなところに来て。電話してくれたら」
「ちょっと近くまで来たから。それにあのお嬢さんに嫌われてるみたいだから、電話を切られてしまいそうだもの」
 そう言いながら、深雪はほとんど真の肩に頭を引っ付けるようにしていた。

「もう少しの間だけ、私のこと信じてくれる?」
 小さな声で深雪は呟いた。真は何を言われたのか、意味を考える余裕もなかった。
「じゃあ、九時に」
 深雪はそれでも離れがたいように真の身体にもう一段身を寄せると、直ぐに思い直したように離れた。真は深雪の優雅な後姿を見送って、暫くそこに突っ立っていた。

 頭は色々なことを考えていた。楢崎志穂が言っていたように、深雪に問い詰めるのが一番早いのかもしれない。まだ竹流との直接のつながりは分からないが、手がかりのない今は、何にでもしがみつきたい気分だった。
 だが、身体はそういう全てが言い訳であることを知っている。
 真は気を取り直して事務所の中に戻った。

 デスクの前に戻ったところで、美和が立ち上がり、幾冊かの本を重ねて真の前にバン、と音を立てて置いた。
「自分で読んでください!」
 そう言って美和は自分の机に戻り、バッグを取り上げて出て行こうとする。
「おい、どこに行く気だ」
「井出さんのところと図書館。調べてくれって言ったの、先生でしょ!」
 ドアを勢いよく開け放ったまま、美和はずんずんと出て行ってしまう。さすがにこの日は追いかけないわけにもいかず、真は狭く薄暗い階段の前で美和に追いつくと、彼女の腕を捕まえた。

 美和は本当に怒っているらしく、頬を震わせるようにしてそっぽを向いた。
「何をそんなに怒るんだ。いきなり冷たくするわけにもいかないだろう。しかも、彼女は何か知っているんだ」
「そういう言い訳してあの人と寝るんでしょ。先生なんて最低。昨日の今日でよくそんなことができるわね」
「何も抱きに行くわけじゃない。考えすぎだ」
「でも、結局そうなるわよ」
 叫んで真を睨んでから、急に美和は泣きそうな顔で俯いた。
「……ごめんなさい。私も二股かけてるんだった。何、怒ってんだろう、人のこと言えないよね」
 廊下の壁に押し付けられたような格好になっている美和が、頭をこつんと真の胸にひっつけた。さっきの深雪の頭よりもずっと重い頭だった。
「頭、冷やしてくる」
 美和はそう言って逃げるように階段を下りていった。

 開け広げの彼女の性質はそれで十分美徳だった。真は自分の二股の方がずっと性質が悪いことを知っていた。多分、今夜深雪と会えば抱き合わずにはいられないだろう。それは美和の言うとおりだった。
 事務所に戻ると、宝田が大きな身体でおろおろしていたが、真が机に戻るとその前に駆け寄ってきた。
「先生、その……結局、美和さんとそういうことなんすか」
 真は宝田のごつい顔を見上げた。心配そうな顔を見ていると、君には関係ないとは言えなかった。
「いや、つまり、ちょっと複雑なことになっていて」真は言葉を一旦飲み込み、一息ついてから続けた。「だからちょっと、美和ちゃんについていてやってくれないか」
 とにかくここは宝田も追い払ってしまうことにした。途端に宝田は真面目な顔になり、彼にしては珍しく口籠る事も無く、はっきりと言い切った。
「わかりやした。しかし、先生、そういうことなら深雪さんとはきちっと別れていただきやす」
 真は頷いた。
「いずれね」
「そんないい加減な」
「この件が片付いたらもう会わない。約束するよ」
 そんなことを宝田に約束しても仕方がないのだが、それを聞いて宝田はやっと納得したのか美和を追いかけて出て行った。



少しずつ、『出来事』が積み重ねられていきます。
どうやら糸口が出てきそうな次回。
ちなみに、伏線の中にはヤラセがありますので、ご注意ください^^;
誰も信じるな……特に作者を^m^
関連記事
スポンサーサイト



Category: ☂海に落ちる雨 第1節

tb 0 : cm 0   

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://oomisayo.blog.fc2.com/tb.php/174-75aa659a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)