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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨40] 第6章 水死体(2) 18R /昔イラスト第2弾(2) 

大事な人がいなくなってあれこれパニックになってしまったようで、このあたりから真がやたらと過去を思い出しています。今回は、あまり幸せでない方の過去なので、注意付きです。
以前にも出てきた苛めのシーンですが、少し具体的な描写で出てくるのと、昔付き合っていた女とのシーンでいささか18禁表現がありますので、15R/18禁です。
主人公ですが、一応この人にも色々負の感情がありまして、この【海に落ちる雨】は人の心の負の感情もひとつのテーマになっています。だから今回、ちょっと彼の負の感情が出てきますが、許してやってください。
でも、何度も鬼平で申し訳ありませんが、「人は良いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら良いことをする」のです。うちの和尚さん(from【清明の雪】)に言わせると、「100%の善もなければ、100%の悪もない」ということでして。
そして、ミニコラムは、『黒歴史』その2の2ページ目。大和竹流つまりジョルジョ・ヴォルテラと真の息子・慎一の話の300P突破記念コラムの2ページ目^^;(→記事の最後の『続きを読む』)




 過去に網膜が送った全ての情報の中を探しても、その服装や水死体そのものについても、記憶の引き出しに納めるべき段はなかったが、生前よりも随分と膨らんだ顔の口元から延びる髭は、紛れもなく田安隆三のものだった。昨日訪ねていって会えなかった。日常、水死体などに用事はないが、どう見ても昨日今日の死体には見えなかった。つまり、昨日のあの時には、田安はもうこの世にはいなかったということだ。
「手洗いはそこよ」
 辻に教えられた通りの場所を添島刑事が示し、真は指された方へゆっくりと歩いた。何の考えも浮かばず、ただ言われたままに行動していただけだった。頭の中には、もう田安ではなくなってしまっている膨れ上がった物体がただ存在していた。

 朝方の電話で水死体、と聞いて、一瞬、脳の中の思考が細胞ごとにばらばらになった。わざわざ同居人の恋人からかかってきた電話だ。まさか、と思うのが当然だった。一旦そう考えてしまうと、その考えを打ち消すのには相当の時間と努力が必要になった。女刑事の淡々とした声を聞きながら、灰色の細胞の隅のほうでようやく、そんなはずはないと冷静に受け止める部分が分裂した思考回路を纏め上げた。
 安置室の扉が開く前に、添島刑事に水死体は大丈夫か、と聞かれたが、経験がないのでわからない、と思った。そう考えるくらいには余裕を取り戻しているつもりだった。実際、自分でも意外なことに、膨らんだ水死体の異様さには動じなかった。

 だが、その髭を見た途端に、咽元に心臓が上ってきて回転したように感じた。呑み込んで胃に納めようとした塊は、何度も体の中心で拍動した。頭の方へ回る血液は明らかに減少して、滝壺に落ちるように全ての血液が胃へなだれ込んでいった。小中学生の頃、学校に行くと、しばしばこんなふうになって、あとは意識が吹っ飛んでいた。
 あの頃と同じようにすーっと頭が冷たくなったと思った時に、誰かに腕を摑まれて部屋から連れ出された。その腕に血液も神経も集中すると、何とか倒れずに済んだ。手洗い、と言われてどういう意味か理解はできないままだったが、足は別の意志を持っているように扉の中に体を運んだ。開いたままの便器の蓋に手を掛けてその冷たさを感じた瞬間に、一気に嘔気がこみ上げてきた。今朝は何も食べていないので多分ろくなものは出てきていないはずだが、胃液のような液体を吐き出すと、楽になるどころかさらに気分が悪くなった。
 しばらく嘔吐は止まらず、血液の臭いまでしたように思った。胃の中には、もう田安ではなくなってしまっている膨れ上がった物体がまだ残っている気がした。その物体は真の体の中で蠕いて、しわがれた声で話しかけてきた。

 お前は、優しい人間だ。

 その声は腹の中から背骨の細かな関節を伝い、耳の骨にまで直接響いてきた。関節を超えるときに音は増幅し、輪唱する歌のように幾重にも折り重なり、頭に響いてきたときには割れるようなわんわんとした雑音になっていた。眩暈を感じると、その雑音はしばらく遠ざかり、それから輪唱の最後のパーツのように透明になった声が残り、もう一度同じ言葉を繰り返した。それは、確かに真が覚えている田安の声だった。
 あんなにも怪しい老人なのに、普段は厳しく他人を吟味しているのに、あの時彼は本当に真を思いやってそう言ってくれたのだ。

『そんなふうに殺気を漂わせていてはいけない。自分が許せないからか? 哀しいことは泣いてしまうのがいいのだよ。お前は父親とは違う人間だ。幻想に摑まれてはいけない』

 父親との接点は考えたことがなかった。懐かしむとか求めるとか、そういう感情を一切抱いたことがなかった。少なくとも自分はそうだと、今の今まで思い込んでいた。
 昨日、自分は何故田安に会いたいと思ったのか。
 澤田と田安の接点を知ったからかもしれないが、その澤田の口から、父親代わりという言葉が出たからなのだ。小さなキーワードだった。

 初めて田安に会ったとき、彼はアサクラタケシのねぇ、と呟いた。その名前が何か特別な名前であることを直感的に感じながら、恐ろしくて聞き返せなかった。何故、祖父もおじたちも、真が次男の武史の子供であることを敢えて隠しはしないのに、父親に会わせてくれようとしないのか、あるいは会えないのか、その理由を説明してくれたことはなかった。
 父が恋しいわけではなかった。恋しいと思う感情が湧き出すほどに、その人を具体的に思い描くことができなかった。
 そして何よりも、父の仕事が何か得体の知れないものであることを気配として察知して以来、恋しいと思ってはならない相手になった。 
 自分の中の得体の知れない血が、いつかとんでもないことをしてしまうのではないか、そんな恐怖がいつも付きまとっていた。


          * * *

 中学生の時も、学校で苛めにあっていた。
 小学生の苛めとは本質的に違っていて、大人の身体に近付いて体力を身に付けた『いじめっ子』たちのやり方は、肉体的な苦痛を強いる暴力へと姿を変えていた。
 体格も大きく力のある柔道部の上級生に何度も呼び付けられて殴られた。
 彼らが真の何を気に入らなかったのかはわからないが、真は小学生の時から苛められていたのと同じ理由だろうと思っていた。自分の髪と瞳の色が他の子供たちと少し異なっていたことと、もともと他人と話すのが苦手だった上に、東京に出てきてから言葉が上手く理解できなくなっていて、あまり他人と口を利いたり打ち解けたりしないので、生意気だと思われていたせいだろうと、そう思っていた。

 殴られても始めは本当には恐ろしいと思っていなかった。そういう態度が余計に彼らの気に障ったのかもしれなかった。
 真は実際、自分自身には武器があることを知っていた。
 赤ん坊の真を北海道に連れて行って育ててくれた祖父は、何度も熱を出して死にそうに見えた子供を鍛えなければと思ったのか、厳しく躾け、剣道を教えてくれた。祖父はその当時、北海道ではかなり有名な猛者だったし、子供だからといって真に対して一切手を抜かなかった。お蔭で真も自分の腕にそれなりの自信もあった。だが人一倍厳しい祖父は、それを喧嘩に使うことなど勿論許さないはずだった。もし殺されても相手に手を出すなと言いそうだった。それに真自身、子供の頃から唯一信頼し尊敬できる大人だった祖父を、失望させたくはなかった。

 だが、ある時我慢と恐怖の限界を越えてしまった。
 相手はいつも複数だったが、その時はいつもより人数も多く、何か新しい苛め方を思いついたのか、にたにたと笑っていた。その顔を見たとき、既に真は身体が硬直するような恐怖を覚えていた。
 コンテナのような造りのクラブの部室に連れ込まれて、あっという間に押さえつけられて裸にされた。日本人ではないようだから、身体の隅々まで違いをよく調べてやる、と言って、彼らは笑いながら下着まで剥ぎ取った真の足を開かせて、前と肛門まで懐中電灯で照らして、笑いながら写真を撮り、そのうち真の身体に落書きを始めた。力強い幾人もの手で押さえつけられたままで、口の中には何か異物の気配があり、息を吸うのもままならず、叫ぶことも噛み付くこともできなかった。

 女のものと一緒だ、と大笑いをしながら誰かが言った。そういう落書きを後ろの孔の周りにしていたようだった。それから、頭は床につけられたまま、腹ばいにされて腰を抱えられた。
『ゴムとゼリーつけてやったほうがいいんじゃないのか』
 興奮した声が唾を呑み込むような卑猥な響きを伴っていた。息苦しい姿勢のまま、何の話かと思うまもなく、いきなり肛門に何か硬いものを突っ込まれた。
 叫んだはずだが、喉には何かがつっかえている。肛門に突っ込まれたものは、更に奥深くに押し込まれ、身体を押し広げるように激痛が滲みこんできた。
 涙と涎が零れだす感じがした。逃げようとしたはずだが、頭は足で床に押さえつけられ、両手の自由は完全に奪われていた。後ろに突っ込まれたのは大人のための玩具らしく、彼らはそれを抜き差ししながら、卑猥な声を上げていた。

『すげぇ。こいつ、感じてるんじゃないの。ここ、ひくついてるぜ』
 誰かの一言で、皆がまた笑い始めた。下品で粗野で不潔な人間たちだった。
 もちろん、感じるはずなどなかった。大体、感じるというのがどういうものなのか、その時の真はまだ知らなかった。ただ、足が痺れて、頭の中ではフラッシュが焚きつけられたような旋光が何度も飛び散った。
『ちびってやがるんじゃないのか。扱いて、白い方、ちびらせてやれよ』

 誰かの汚らしい手が、真の性器をつかみ扱き始めた。真は痛みのあまりに叫んだつもりだったが、声は咽喉元にまで詰め込まれた何かで閊えて、ただ唸っただけだった。その閉塞感は耳の中で、籠に閉じ込められた虫の断末魔の羽音のように反響していた。
『あぁ、俺、たまんなくなってきた』
 その声がぞっとするくらい近いところから聞こえてくる。
『女よりいいらしいぜ。むっちゃ締まりがいいんだってよ。突っ込んでやれよ』
 後ろの中心から硬い玩具が抜き取られ、尻を押さえつけられ、もう少し温度のある硬い別の感触がひきつった部分にあてがわれた瞬間、激痛と恐怖と屈辱と、そしてついに怒りとが一気に吹き上がった。何かの拍子に一瞬、腕が自由になった。
 その瞬間、思い切り暴れて、手の届くところにあった長い棒を摑んだ。それが何だったのかはもう記憶にない。

 殺さなければ、いつか殺される。こいつらは殺されても仕方がないことをしている。こんな下品な奴らを殺したって平気だ。真は口の中で呟いていた。
 大勢が逆転したのを知ったときの彼らの恐怖に引きつった顔が、今も忘れられない。あの時、もしも手に触れたのが野球のバットで、もしも給食の車が通りかからなければ、きっと彼らを殺してしまっていた。
 結局その事件で学校には行けなくなった。伯父は相手の親が何か言ってきたと学校から呼び出されたが、逆に完全に切れて、ようやく息子を苛めていたやつの正体が分かった、徹底的にそいつらの責任と学校の責任を追及すると言って、知り合いの有名弁護士の名前を出して全面対決の構えを見せた。学校が事件を隠そうという姿勢に変わった時には、伯父はたまたま一年ほどアメリカに留学する話があったのに飛びついて、真と葉子を連れてカリフォルニアに移った。
 伯父は真を赤児のように抱き締めて、一緒に泣いてくれていた。日本に帰ってからは、結婚するつもりだった昔の恋人が経営している私立の学校に真を編入させてくれた。そこからは、環境は随分と変わった。

 それでも時々、手の中にあの時彼らを叩き続けた感触が蘇った。被害者として殴られていた痛みにも震えるほどの恐怖がこみ上げてくるが、加害者として殴っていた時の感触はそれにも増して忘れようのないものだった。
 あの時、殴っている間に思い出していたのは、赤ん坊の時の不気味な記憶だった。
 覚えのないアパートの部屋で、美しい女性が赤ん坊の自分を抱いていたが、泣き出した赤ん坊を見ると、その人は形相を変えて小さな首を絞めた。

 真は上級生たちを叩きのめしながら、まさに今、その女にも復讐をしているのだと思っていた。
 そもそもあの女が悪いのだ。あの女が俺をこんなふうにしたのだ。だから、あの女を殺さなくてはならない。
 これまでも、夢の中で食い込んでくる指の気配で、何度も目を覚ましたことがある。
 それが本当の記憶なのか、誰かがそのような昔話をしているのを聞いて、自分の中で作り上げられた幻想なのか、今となってははっきりしない。だが、殺さなければ殺されるという感情を真の中に残したのは事実だった。

 その女性が伯父の妻で葉子の母親で、真の実父が捨てた女だということを知ったのも中学生の時だった。
 彼女は、真の父に捨てられた後、精神が不安定になっていた。
 伯父の功は、もともと憧れていた女性だったこともあって哀れに思ったのだろう。当時付き合っていた女性と別れて、その女と結婚した。だが、引き取った赤ん坊が、よりにもよって自分を捨てた男の子供で、文学部の同人誌に書かれるほどの大恋愛の末に生まれた赤ん坊であることを、その女は知っていた。
 もちろん、彼女なりに乗り越えようと必死だったはずだった。
 けれども、神経質で過敏な赤ん坊の泣き声は、その女を追い込んでしまった。

 伯父が失踪した後で、その女が長く入院していたサナトリウムで末期の癌に侵されていると知ったとき、真は自分がその女よりも初めて優位に立っていることを感じた。
 自分は生きていて、女は明らかに死に向かっていた。今や、その女の運命さえも自分が握っていると感じた。
 今の自分は首を絞められるばかりのか弱い存在ではない、それどころかその女を救ってやる広い心と力を持っているのだと思い、自分の部屋のベッドの上で布団に潜ってうずくまり、ずっと笑っていた。
 そう、あの女についに復讐するときが来たのだ。ゆっくりと真綿で首を絞めていく、その復讐を始めるときが来たのだ。

 興奮して、知らず知らずのうちに性器を擦り、肛門に唾液で濡らした指を挿れ、何度も自慰をした。思いつく限りの呪いの言葉を口にしながら限りないほど昇り詰め、その後は窓から胃液を吐き続け、寒くなって震えるようにベッドに戻り布団を被ると、そこに深い闇があった。

 自然の世界には完全な闇はない、と教えてくれたアイヌの老人は、ただ一つ、人の心の中にだけは完全な闇があると言った。
 それが今まさに自分の心の中にあった。その女の孤独で無惨な死を思い描いて興奮していた自分が恐ろしくて、いや、ただ何もかもが恐ろしくて、その女のために自分の身を犠牲にしようと考えた。
 あの闇を、自らが作り上げた美しい物語で覆い隠してしまいたかった。自分の首を絞めた女のために、天使のような心を持った赤ん坊は成長して、女の病を治療するために自らの貞操と羞恥を売りに出した。

 だから、滝沢基に身を任せたのだ。
 しかし滝沢は、真が考えていたほどには酷い人間ではなかった。真自身は何をされてもよかったし、できるだけひどく扱われたいと願っていた。そういう自分の犠牲が、あの心の闇を浄化するための儀式であるとさえ思っていた。だから、ベッドの上では滝沢に教えられるままに何でもした。だが、どう思い返してみても、ファインダーを間に挟んでいないときには、むしろ優しく扱われたという記憶しかない。それが金に変わったとき、本当は声に出して泣き叫びたかったのに、うめき声一つ上げることができなかった。

 そして、本当に女が死んでしまったとき、どれほど否定しても湧きあがってきたのは、安堵の気持ちだったのだ。もう恐ろしい夢を見なくても済む、と思い、自分の心に黒い空洞が開き、そして真は生まれて初めて、心の闇を吐き出すかのように泣き叫んだ。
 その時、何も聞かず、何も言わずに真を抱いていてくれたのは、今の同居人だった。狂ったように泣き叫び、自分自身を傷つけようとした真を、彼はただ一晩中抱き締めてくれていた。彼があの日、偶然傍にいてくれたのか、自分が彼を訪ねて行ったのか、もう記憶にない。

 だが、誰かの死を願うという心の闇は、再度真の内に湧き上がった。それは、妹(実際には従妹)の結婚相手、すなわち唯一の友人の、従姉に対してだった。
 幸いにも妹の葉子は、真の首を絞めた女の娘だったにも関わらず、その人にあまり似ていないようだった。赤ん坊のときから葉子自身、一度もその女に抱かれたこともなく育ててもらえなかったことが、親子の類似点を消してしまったのかもしれなかった。葉子をずっと大事に思っていたし、高校生のときから付き合っていた篁美沙子と別れた後、一時は本当に彼女に告白したい衝動に駆られたりもした。

 だが、できなかった。
 葉子は本当に『大事な人』だった。妹としても恋人としても姫君としても、誰よりも大事な人だった。だからこそ、穢れた心を抱いたままの自分では、最後の一歩は永遠に踏み出せなかった。手を伸ばせば数センチで彼女の手があったのに、その手に届かなかったあの秩父の山奥の流星の降る秋の夜空の下で、あの恋は恋のまま永遠に残った。

 葉子の花嫁姿を見た日、彼女の夫となった男の従姉と、迷いもなくベッドを共にした。そして、狂ったように彼女にのめりこんでいった。
 小松崎りぃさは自殺願望に縛られた女性だった。いつも一緒に死んでくれる相手を探していた。りぃさと初めてベッドを共にした日、彼女は真の身体に残る事故の傷跡を見て、真の『死に掛かった』過去に対して恍惚とした表情を浮かべ、その傷跡に触れ口づけた。彼女にとって真は一緒に死んでくれるのに相応しい、最高のパートナーに思えたのかもしれない。

 それから数えられないほどセックスをしながら自殺ごっこを繰り返した。彼女が本気だったのか遊びだったのか、ただ不安だったのか、今でも真には分からなかった。
 どこで手に入れてきたのか、警察官からかっぱらったと言っていた手錠や赤い紐でベッドに括り付けられ、町で手に入れたという法律すれすれの薬を飲んだり吸ったりして淫蕩な行為にふけった。りぃさが望むので、彼女を縛り、肌に食い込んだロープの隙間から突き出す乳首をちぎれるほどに強く噛み、言われるままに彼女の前で自慰をした。何の抵抗もなく、何の後悔もなかった。

 彼女の理論は不思議に説得力があった。
『普通、食物連鎖の中では増えすぎた生物は、食べるものが減って滅びるのよ。どうして人間はこんなに増えているのかしら。きっと他の生物たちは人間が地球を汚しながらたくさん蔓延っているのを見て、何とかしなくちゃって思っているわ』
 その言葉には反論することはできなかった。人間に、そして自分に引き返す道がないことは、真も理屈では分かっていた。時々、りぃさは真の身体の下、腕の中で昇り詰めながら涙を流していた。気持ちいいと呟いていたが、本当はそういうことではないということを、真はよく分かっていた。

 ただりぃさを救いたいと願っていた。彼女を救う方法が一緒に死ぬことなら、それも仕方がないと思っていた。
 だが、りぃさの細い指で、あるいは紐やベルトで首を絞められるたびに、いつも身体の中のどこかで何かが悲鳴を上げていた。それを聞かないふりをし通した。

 りぃさが自殺をしたと聞かされた時、襲ってきたのは悲しみではなく、安堵の気持ちだったのだ。いつも使っている薬の量を間違えた、と聞かされたが、本当かどうかは分からない。どこかでりぃさの死を願っていた自分が、彼女を呪い殺したのかもしれないと思ったとき、その自分の心の闇が恐ろしくて耳も心も閉ざした。今度こそどうなってもいいと思い、ふらふらになっていた。

 その時、当時勤めていた調査事務所の先輩の三上が、事務所の爆発事故で下半身不随になった。
 三上はいつも真を気に掛けてくれていて、兄貴のように面倒を見てくれていた。真は、三上が二階の窓から爆風と炎で吹き飛ばされ、表通りに落ちるのを、まともに見てしまった。
 事故は田安隆三を真に紹介した胡散臭い唐沢所長の保険金詐欺によるものだったが、その予兆は以前からあって、もしも真が女にうつつを抜かしてさえいなければ、十分に気が付いて三上を救えていたかもしれなかった。
 それだけに、もっと自分を許せなくなった。

 あの頃、どこかにこの自分自身を沈めてしまいたかった。不安定な気持ちをぶつけるのに、田安の射撃場は思った以上の効果を示した。
 だが、その時田安が言ったのだ。

 お前は優しい人間だ。そんなふうに殺気を漂わせていてはいけない。自分が許せないからか? 哀しいことは泣いてしまうのがいいのだよ。お前は父親とは違う人間だ。幻想に摑まれてはいけない。





以下コラムです。
続きを読む


さて、またまた昔の手書き記事を載せちゃいます。
この話、ジョルジョが真の死後ローマに帰って、ヴォルテラというめんどくさい家を継いでいるのですが、独り身で通すのもややこしく、若~い嫁を貰っているのです。で、この嫁、実はもう本当に気の強い女性でして、年の離れた政略結婚の相手、しかも自分の父親の敵かもしれない男が嫌で、で浮気をしてしまうのですねぇ…
そうなんです。この話、『源氏物語』の本歌取り、と以前にちょっと告白しましたが、まさに女三の宮の下りです。
ただ…やがてこの夫婦、結構いい夫婦になるんですけど…
子どもはできません。

大和竹流の子どもの件につきましては、別ページをご覧くださいませ(^^)→これからお世話になります:大和竹流

eroica2
さて、実は、真の嫁である相川舞は、この頃とはかなり設定が変わっておりますので、ここの最後の段落に書かれていることの半分は現在では生きていない設定です。
多少の設定の変化はあるのですが、大筋ほとんど変わっていないにも関わらず、真の嫁だけはずいぶん変わったイメージになりました。それは、竹流の心の嫁(珠恵)の存在が変えたのですけれど。
ちなみに、上のずいぶん可愛い竹流は、記事中に書かれている通り、アンタッチャブルの見過ぎです(^^)
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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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