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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨43] 第7章 父と子(1) 

第2節のスタートです。
第1節で起こったいくつかの出来事……同居人・大和竹流の怪我と失踪、彼のインタヴュー記事の波紋、彼の仲間や恋人たちの複雑な感情、そして真の恋人(一応)・深雪のパトロンである代議士・澤田顕一郎の接近、女刑事・添島麻子が特別な筋から受けている命令、そして深雪の恋人であったという3年半前に自殺した雑誌記者・新津圭一の死の真相は? また新津の死に疑問を抱いている女記者・楢崎志穂は澤田や深雪に疑念を抱いているようである。一方、姿を消した竹流も、新津圭一の自殺の記事を残していた。彼の失踪は新津の事件と関係があるのか? そして竹流と一緒に姿を消している寺崎という竹流の仲間。
第5章までのあらすじはこちらをご覧ください→[雨・番外]limeさんが描いてくださったイラストとあらすじ
そして、第6章。元傭兵でありジャズバーの店長・田安隆三が水死体で見つかる。真は田安が澤田の育ての親であることを聞かされたばかりであり、苦しかった時に『お前は優しい人間だ』と慰めてくれた田安の死にショックを受けていた。

では、第2節を始めたいと思います。
彼を探して旅に出る第2節……それは過去を思い出す旅でもあります。
色々な『謎』の解明は真に任せて、ご一緒に真の心の旅に付き合ってやってくださいませ(^^)
改めて、よろしくお願いいたしますm(__)m





 美和は事務所で新津圭一の事件を見直していたが、半分は上の空だった。
 今日は大学の授業に一時間だけ出てみたが身に入らず、途中で教室を出てしまった。あまりにも堂々と出ていくところを、呆れたように講師が見ていたのも何となく背中に感じたが、どうでもいい気分だった。
 さっきからずっと、添島刑事に呼び出されて行った真の後姿が、めくっている本の上をちらついていた。
 恋人の北条仁が勧めるので、遊びで寝ただけだと思いたかった。

 めくっている本は図書館で頼み込んで借りたもので、一九七六年の一月から二月の新聞記事を綴ったものだった。
 企業倒産件数一万二千六百六、戦後最多。一月二十六日、江夏豊が阪神から南海へ移籍、二月四日、ロッキード事件。
 そんなに大きな事件ではないのだろう。むしろ三面記事を見ることにして、ページを戻ると、不況の文字が躍っている。伊藤忠と安宅の合併の波紋、五百円紙幣を硬貨に変更することを決定。一月三十一日、鹿児島で五つ子誕生、更に戻ると、一月二十九日、昭和四十三年に盗まれたロートレックの『マルセル』を預かっていたと大阪府警へ会社員が届け出ている。
 一月二十七日にも、絵画に纏わる記事が出ている。
 不況の文字の中で、絵画の値段だけが浮いて見えていた。
 新潟の市内の旧家が県に寄贈したレンブラント、フェルメールについて、寄贈者は十九世紀末の優秀な贋作であると説明、鑑定者も数名、確認。全て本物なら数百億の価値。

 変な記事。
 美和はその小さな記事を読みかけていたが、電話が鳴ったので本を閉じた。
「もしもし、相川調査事務所です。……あ、こんにちは」
 添島麻子刑事だった。ちょっと嫌な気分になったが、それを押し込めて挨拶をすると、向こうは穏やかな調子で言葉を返してくる。
「少し前、お宅の所長をお返ししたけど、せっかくパトカーで送ってあげるって言ったのに電車に乗るって帰ったのよ。でもちょっと気分が悪いみたいだったし、気になって連絡したの。帰ったら休ませてあげてくれる?」
 そんなこと何であなたに言われなきゃならないのよ、と思いながらも美和は冷静な声を繕って質問していた。
「何かあったんですか?」
「彼の知り合いが水死体で上がったの。ちょっとショックだったみたいで」
「それって、まさか」
 美和の最悪の想像を一蹴した添島刑事の声は穏やかだった。
「そんなわけないでしょ。今横浜なの。さっき電車に乗ったところだと思うから」
 美和は暫く考えてから、質問した。
「ショックって、水死体がですか? それともその人が死んだから?」
 添島刑事は向こうで暫く間を取っていた。
「両方……かな。それとももっと別のことかも知れないけど」
「別の事?」
「相棒がいないことよ。気をつけてあげて」
 それで電話が切れた。

 美和は机に戻り、さっきの本を開きかけて直ぐにやめた。傘を二つ持って事務所に鍵をかける。宝田は北条の大親分に呼ばれて屋敷に出掛けているし、今日は賢二も姿を見せない。
 階段を下りて外に出ると、まだ雨は降り出していなかったが、泣きそうな空だった。
 美和はぶらぶらと歩いて、新宿駅の東口改札まで来ると、改札から吐き出されてくる人たちがそれぞれの目的地へ散り散りになっていく様子を、ぼんやりと見つめていた。

 まるで中学生の初恋のようだった。
 叶うことが目的でもなく、相手に知らせることが目的でもなく、ただ見つめているだけでよかった、そういう初恋と同じ気配だった。肌を合わせて求め合ってからこういう気持ちになるとは思ってもみなかった。
 相手がいつここに姿を見せるかもわからない、もしかすると現れないかも知れないのに、そんなことはどうでもよかった。ただ会いたい気持ちだけが、時間の長さも辺りの雑多な気配も、気温も音も何もかも消し去ってしまうように、膨れ上がっていた。

 一体、亡くなった人というのは誰なのだろう。大家さんではなさそうだけど、それほど先生がショックを受けるということは? それに相棒がいないからって、何に気をつければいいのだろう。
 何度も改札の前を行ったり来たり、柱に凭れたりしながら、美和は様々な想像と愛しい気持ちを持て余していた。

 今でも、初めて会った時の喫茶店での横顔を思い出す。
 私はいつ先生に恋をしただろう。あの喫茶店なのか、あるいは初めて抱かれたあの夜なのか。いや、そうではないのかもしれない。もっとずっと前、少年の日の彼の写真を見た時なのかもしれない。
 でも、これは片恋だ、と思った。
 どれほど真自身が否定しても、彼はただ一人の人を想っている。
 そう考えてみると、叶いそうにないところまでが初恋に似ている。それに、美和にも付き合っている男がいて、きっと簡単には別れられないだろう。新しい想い人ができても、その男と美和の間にある思いは、決してマイナスの気持ちではない。

 もう何度電車の到着があったのか、また急に膨れ上がった人間の波が押し寄せて、改札から吐き出される。その中に、まるで浮浪者のように生気のない真を見つけた。
 こんなにもたくさんの人が袋に入った米粒のようにひしめいているのに、その中からたった一人の人を見つけ出すことがこれほどに簡単なのは何故だろうと、美和は思った。ずっとその人を想って待っていると、視覚にも超能力が加わるのかもしれない。
 真は忙しげに通り過ぎる人に肩をぶつけられてふらついている。美和は思わず駆け寄りそうになったが、ふと足を止めた。
 何故、そんなにあの人を想っているのだろう。
 言葉で何を言われるよりも、夜中のリビングの真の姿は決定的な何かを美和に思い描かせた。冗談で妄想を核に作り上げた文章教室のトレーニング材料は、今では美和の中で立派なノンフィクションになっていた。
 どんなに追求しても、本人は肯定しないだろうけれど。

「先生」
 真はしばらく、話しかけたのが美和だとは分かっていないような顔をしていた。
「……どうしたんだ」
「迎えに来たの。雨、降りそうだったし」
「何時から、待ってた?」
「少し前。添島刑事が電話くれたの。大丈夫?」
 真は頷いて美和の手から傘を受け取った。
 その一瞬、二人の手が触れた。美和は自分の手の冷たさを感じたが、真の手はその美和の手よりもずっと冷たく、鋭利な氷の刃のようだった。

 傘を並べて歩いても、二つの傘の間から雫が零れ落ちた。その小さな隙間は、飛び越えられない次元のずれのように思えた。駅から事務所までの僅かの時間、真は口を開くこともなくただゆっくりと歩いている。美和は話しかける言葉を見つけられなかった。  
 事務所に戻ると、美和は温かいコーヒーを淹れて真に差し出した。真は机ではなく接客用のソファに座ってそれを受け取った。表情は硬くて何かを堪えている。だが、真はやはり何も言わなかった。
 真はコーヒーを飲み終わると、止める美和を振り切るようにして、名瀬弁護士の事務所に出掛けていった。幾つかの仕事を請け負って数時間後に帰ってきたので、美和はその仕事を取り上げて真を休ませようとした。しかし、真は休む間もなく少年院に出掛けて行ってしまった。

 帰ってきた宝田に事情を話し、真の後を追いかけさせて、一人になると、美和は机に座って一息ついた。
 何かをしていないと余計なことを考えてしまいそうだった。
 夕方になって、美和は新津圭一の姉の家に電話をした。当たり前だが、電話に出た相手の声は不審そうで硬かった。
「柏木美和と申します。実は私、新津さんと同じ出版社に勤めてたんですけど、三年近くニューヨークに行っておりまして、先日帰国して初めて亡くなられた事を知ったんです。大変お世話になりましたのに、不義理をしてしまって。それで、ぜひお墓参りをさせていただきたいのですが」
 姉夫婦は多摩川の傍に住んでいた。言葉は丁寧だが、墓参りの件は断られた。
「あ、千惠子ちゃん、どうされていますか。私たち、とても仲良くしていたんですけど」
 姉という人は向こうで暫く黙っていた。それから、父親の事は思い出させたくないので会わないで欲しいと言われた。そのまま電話は切れた。
 不名誉な死に方をした弟の事は忘れてしまいたいのだろう。井出の話では、新津の娘は姉夫婦や親戚に預けられたわけではなく、施設に引き取られたということだったし、姉夫婦はもちろん、世間の噂から切り離された生活を望んでいるということなのかもしれない。

 真は八時には帰ってきて、その電話の事を聞くと、淡々とした声で、そうか、とだけ言った。
「先生、ご飯どうする?」
 真からは、今日はいいという返事が返ってきた。いつもなら、ちゃんと食べないと駄目、と引きずってでもどこかに連れ出すところだが、今日ばかりは美和も力が入らなかった。
「家に送るよ」
 淡々と、美和に有無を言わせぬ気配で真は言った。
 真は美和を北条仁と同棲しているマンションまで送ってくれて、そのまま一人で竹流のマンションに戻ったようだった。言いたいことはいくらでもあったのに、一言も言えないまま、美和は部屋に入った。上着も脱がずに居間のソファの横の床に座りこむ。
 テーブルの上には、仁の残していった煙草の箱がそのまま残っていた。その濃い青の箱に、カーテン越しの鈍い光が僅かに反射している。窓の外からは、アスファルトの湿度をじっとりと抱き込んだタイヤの音が、遠く聞こえている。部屋の内側には、何もかもから切り離されたような静けさがぼんやりと漂っていた。
 傘を渡した瞬間に触れた真の手の、残酷なほどの冷たさを思い出して、気持ちは深く沈んだ。


          * * *

 竹流のマンションに帰りつくと、真はシャワーを浴び、奥のオーディオルームに入ってテレビをつけた。冷蔵庫から出した缶ビールのプルトップを上げながら床に座る。
 この部屋はプライベートな空間で、大きな画面のテレビとオーディオセットが一方の壁を占拠している。別の壁は、寝室への扉以外の場所をレコードとフィルムと本が埋め尽くしていた。他にトレーニング用の器具が幾つか置かれている以外は何もないが、多少雑多な感じがして、ある意味では寛げた。
 真はフロアソファに凭れてビールを一口飲み、髪をタオルで拭きながら、ただテレビ画面を占拠しているだけの漫才番組を眺めていた。

 よくここで映画を一緒に見た。
 どこでどう手に入れてくるのか、古い映画のフィルムで、映写機とスクリーン代わりの白い壁の間を繋ぐ白い光の帯に、真は不思議に穏やかに気持ちになって同居人の映画鑑賞に付き合っていた。たまにはただやたらと絵画や彫刻を映しているいるだけの無声のフィルムもあったのだが、退屈ではなく、心は穏やかでいられた。
 意外にも同居人は涙もろくて、つまらない恋愛映画でも時々感動している。たまには真が感動していると、自分の事は棚に上げて、今泣いてただろうと大騒ぎする。
 同居人のお気に入りは変わった国の映画ばかりで、トルコやソ連やギリシャの監督の作品には、何のことかわからないままつき合わされた。
 何度も見せられて台詞さえも覚えてしまいそうな映画はタルコフスキーの映画で、中でも『アンドレイ・ルブリョフ』は同居人のお気に入りだった。真も、理解できない部分も多くありながら、映画のラストシーンでモノクロがカラーになり、舐めるようにルブリョフのイコンを映すところでは、いつも口が利けないくらい入り込んでいく気がしていた。

 だが今は、しゃべり続ける漫才師のけたたましさの方が救いに思えた。
 腰にタオルを巻いただけだったので、不意に身体が芯から冷えてきた。真は寝室のクローゼットを開けて、竹流がいつも引っ掛けているガウン代わりの着物を、無意識に手に取った。それを着て襟元を掻き合わせるようにし、オーディオルームの床に座りなおす。真の祖母が竹流のために縫った着物は、勿論真には大きすぎるのだが、着心地は滅法良かった。
 しばらくテレビ画面を眺めていたが、映像も音声も光も、何もかもがただの記号であって、まるで意味を成していないことに気が付いた。真は思わず身震いした。 

 テレビを消した途端に襲い掛かってきた静寂に耐え切れず、ビールの空き缶を思い切り音を立ててゴミ箱に放り込み、寝室に戻ってベッドに潜り込んだ。
 眠ったら今日の出来事は忘れてしまおうと思った。何に対してそう思ったのかは自分でも分からなかった。
 目を閉じると、身体ごとベッドの底から深い彼方へ沈んでいくような、あの嫌な感じがする。静かで音は何もなく、誰の気配もない。

 ……水の中に四日間もいて、さぞ寒かったろう。
 突然そう思うと、身体は今まさにその冷たさを感じたように震えた。
 俺はろくな死に方をせん。お前さんは畳の上で死ねるように生きていくほうがいい。
 田安は時々神妙な顔でそう言った。
 水の中よりも火の中のほうがましだろうか。ふと竹流の背中の火傷を思い出してそう思った。
 辛かっただろうに、どうして自分が辛いときには何も言ってこないのか。
 真が辛いときには、何を察したのかずけずけとやって来て、いらないと言っても手を差し伸ばしてくる。恐ろしい夢を見た時には、何も聞かないが、身体を抱き締めてくれる。一種の精神安定剤のようなものだ。それなのに、彼自身がごたついているときには姿を消してしまって、真が手を差し伸べる隙さえ見せてくれない。
 ……今頃、どこで何をしているのだろう。


 真夜中に自分が泣いているので目が覚めた。
 死んだのは田安だ。竹流ではない。だが夢の中では、その区別はつかなかった。深い海の底へ彼の身体が沈んでいく、それを追いかけようとして覗き込んでも、暗いばかりで何も見えない。

 子どもの頃、ゼニガタアザラシを見ようと襟裳岬に連れてってもらい、何をどうしていたのか、足をとられて海で溺れかけた。水は冷たく、暗く、ただ恐ろしかった記憶しかない。以後、できる限り水には近付かないようにしていた。中学生のとき、伯父が失踪し、子どもだけで住んでいるのは良くないと竹流に言われた時、何があっても葉子は自分が守るから、祖父に何も言わないで欲しいと頼んだ。竹流のスパルタ教育はそれまでも大概だったが、そこから一段とエスカレートした。水泳に限らず、水からは逃げ回っていた真に、今度こそは逃げられないぞと脅してきた。何度も溺れかけながら、結局泳げるようになった。
 それでも、今でも水は時々恐ろしい。特に夜に海を見ると、大きな闇が全てを呑み込もうとしているように見える。

 その水は田安を呑み込んだのだ。
 思わず身体を起こした時、手の上に落ちた冷たい水滴に身体の芯から凍りついた。
 勘違いしたまま、会いに行けばよかった。
 信じられないことだが、ぼろぼろ涙が出てきた。こんなに声が出るほどに泣いているのを、もしも誰かに見られるような事があればどう思われるだろう。何よりも自分がどうなっているのか、わけが分からなかった。
 自分自身の嗚咽に重なるように電話の呼び出し音が鳴ったときも、耳の中で反響して、現実の音かどうかよく理解できなかった。ようやく我に返ったとき、電話は一旦切れた。

 呆然と枕もとの子機を見つめていると、しばらくしてもう一度呼び出し音が鳴った。この際、脅迫電話でもいいと思った。
「……先生?」
 電話に出ると、向こうも長い間黙っていたが、ようやく呼びかけてきた。美和だった。
「ごめんね。寝てた? ……気分悪そうだったし、ちょっと心配になって」
 不意に、傘を渡してくれたときに触れた美和の冷たい手を思い出した。美和は、多分随分長く改札口で真を待っていてくれたのだ。
 あの時、どうして抱き締めてしまわなかったのだろう。
 混乱してわけがわからなくなっていた。

「先生、ほんとに大丈夫?」
 何も答えないでいると、美和がもう一度問いかけた。いつもの景気のいい明るい声ではなかった。
「夢」
「え?」
 声が擦れて後半は言葉にならなかったので、美和が聞き返してきた。
「夢ばかり見て……」
 もうそれ以上は声にならなかった。
「行くわ。先生、風邪ひくから、ちゃんとあったかくしててね」
 そう言って慌てたように電話は切れた。真は暫く子機を握っていたが、やがてホルダーに戻した。

 少し落ち着くと美和が来る前に全て泣いてしまっておこうとまで思ったが、もう涙は出てこなかった。美和が来るということに安堵している俺は卑怯者かもしれないと思った。ただ、理屈もなく誰かに傍に居てほしかったのだ。
 ベッドから出て、着物の帯を締めなおし、それから居間に行ってカウンターの後ろの棚からコニャックを出した。グラスに注いでいると、いつの間にか手が震えているのに気がついた。
 とにかく一気にあおった。
 ぼんやりと突っ立っていると、また何が何だか分からなくなってきた。

 美和がやってきたのは思ったよりも早く、真は玄関で彼女を迎え入れたとき、そのソバージュの髪が濡れているのに気が付いた。
「雨、降ってたのか」
 聞くまでもなく、ドアの向こうからかなり派手な雨の音が聞こえていた。
「うん」
「夜中に、申し訳ない」
 幾分か冷静になっているつもりだった。
「ううん」
 美和は部屋に上がって、それから彼らは一緒にオーディオルームの床に座ってフロアソファに凭れた。一度抱き合ったといえ、そうは簡単にベッドには入れなかった。結局美和はフィルムを探して、当たり障りのないところでジョン・フォードの『我が谷は緑なりき』を出してきた。
 言葉もなく身体を寄せ合うようにして映画を見た。気丈な母親が炭坑夫の集会で自分の夫は炭坑主とつるんでなどいないと啖呵を切るシーン辺りで、真は美和の肩に思わず寄りかかった。眠れるとは思っていなかったが、そのふりをしてしまいたかった。
 美和は真の頭を黙って抱くようにしてくれた。





新宿東口。この小説にもちょっとした『聖地』(参照→物語を遊ぼう13:ロケハンと聖地巡礼)がありまして……
友人にこの新宿東口をその一つに数えていただき、大変うれしかったのです。
もう一つは、番外編(これは日の目を見ないかもしれませんが、何かのおまけにキー付きで出てくるかも)に登場の新宿ガード下。
時代が少し古いので、今の東口とは違うかもしれませんが、通った際には、美和と真の少し悲しい雨のシーンを思い出してやってください(*^_^*)

*コラムにありました【終わらない歌】のコーナーは別カテゴリに移動しました。
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Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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コメント


長い長い物語

真のひ孫、そしてやしゃまご。
本当に・・・本当に長い長い物語になるのですね。
もうすでに、こんな先までお話は進んでいるのでしょうか。
私はもう、初代真が死んでしまうというのがすでに辛くって、その先まで考えられないのですが。
それでも物語は続くのですね。よし、どこまでもついていきます。ずっと前教えてもらった38章(だっけ)は、すでにもう真はいないのかなあ・・・。(真が気になる^^;)

さて、やっと第7章に入ります。(遅)
美和ちゃんによって、なんとか気持ちを支えられてる真ですが。まだあっさりと竹流は帰ってこなさそう。
もう!早く帰ってきなさい、と、すでに説教体制^^;。真は弱ってくると、溶けてなくなっちゃいそうで、心配です。

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/07/01 18:29 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

いやいや、とんでもありません。
実は、真が死んでしまうところが書けなくて、先に息子とか曾孫の話を書いていたのです^^;
(息子は、亡くなった父親・真の影を追い続けている養父・ジョルジョとの葛藤に悩みまくるピアニスト、ひ孫はあれこれ悩めるロックンローラー……あれれ?)
あ、逆に過去にさかのぼって、真のパパの話も書いたなぁ。戦後ですよ! 東西冷戦時代。
それはともかく、もう亡くなっている世界は書けても、亡くなるところ、となるとなかなか力が出ません。
でも【海に落ちる雨】を書き終えた時、あぁ、やっぱり書いてあげなくちゃと思ったのです。
最後までちゃんと始末をつけて、ちゃんと書くのが私の仕事だわ、と。
【雨】はある意味では岐路の物語なので、結構後半は辛いのですが、今のところは淡々と公開予定。
これがないと、次の【星月夜】に続かないし……【星月夜】では結婚していますけれど(^^)
真の死は、まだその次の作品になると思います。
なので、まだまだ、まだまだ、生きていますし、頑張りますよ(^^)
一生懸命、不器用に生きた人なので、それが伝われば、と思います。
もちろん、しんどい・辛いばっかりではなくて、ちゃんと幸せ・楽しいもあったので、それは普通に楽しんでいただけるといいなぁと思います(^^)

【雨】を書き終えた時、読者は私以外には一人しかいなくて、それが二人に増えて(どちらもリア友)、それでもまだ一番の読者かつファンは私、なんて状態で。いえ、今でも多分一番の読者・ファンは自分自身なのですが。
でも少しだけ、応援してくれる人が増えて、とてもとても嬉しいのです。
これを書く力に変えて!とか思っています。

竹流は竹流で、大変なことになっているので(なかなか出てきませんが)……
美和ちゃんは、これから二転三転、していくのですが、まずは、第3節から登場の美和の恋人・仁をお待ちくださいませ。この物語(真シリーズ)の第三の男です。
美和は、多分永遠に小さな恋人、だし、作者にとっては大事な語り部です。

弱ってくると溶けてなくなる……確かにそうなんですよね……
でも、意外に雄なんです。それがまた怖くもあるのですが。
じわじわお付き合いいただけると嬉しいです(*^_^*)
いつもありがとうございます(*^_^*)

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2013/07/02 01:53 [edit]

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