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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨61] 第11章 再び、若葉のころ(3) 

さて、高校生の真を書いた【続・若葉のころ】、最終回です。
真が少しだけ、竹流の仕事の片鱗を知る、そういう部分になるでしょうか。
というよりも、彼の本音は「この男が人殺しでも多分平気」といったところなのかもしれません。
ある意味、恐ろしいことかもしれませんが、実際にはこれがこの本編の中の真の感覚に繋がっていっているのかもしれません。ここでは善悪は問いませんが、この本編の第4節に出てくるイタリアのゴッドファーザー、じゃなくて竹流の叔父をどう感じるか、皆様のご意見をいずれまたお聞きしたいです。
ひとまずここは、可愛らしい真を楽しむ最後のチャンスかも!
髭を武器に?真をおちょくって遊んでいる竹流をお楽しみください(二度とないシーンですから)(^^)





 あまり躊躇いもせずに、マンションのレセプションで名乗って501号室を呼び出してもらおうとすると、来ることが分かっていて言付けてあったということなのか、レセプションの上品な紳士が呆気なく通してくれた。

 しかし、部屋に上がると、そこには竹流の恋人で、マンションの上の部屋に住んでいる室井涼子が来ていた。
 いつも綺麗にしている大人の女性は、その当時の真には眩しい限りで、言葉もでないまま頭を下げて挨拶をした。彼女が何をしにここに来ているのかもわかっていたし、それはそれで緊張の一因にもなった。
 涼子が、あの頃自分たちの逢瀬の邪魔になる真に対してどう思っていたのかは分からない。しかし、まさかこの高校生がいずれ自分の恋愛の差支えになるなどとは思ってもみなかっただろう。

「帰るわ」
 竹流は、あぁ、とだけ言った。それから真に奥へ行ってろ、と言って、涼子を玄関まで送りに行った。
 その玄関まで行く間も、竹流は涼子の肩を愛おしげに抱いて、今にも口づけそうなくらい近くで彼女に何か話しかけていた。涼子は髭にくすぐったそうな顔をして微笑んでいる。
 真はちらっとその様子を見てから、台所奥のリビングダイニングの方へ行った。

 淡い辛子色のソファに座ると、何だかぐったり疲れてしまい、直ぐに眠気に襲われた。人の気配がひとつ、マンションの部屋から消えていく。その空気をぼんやりと頭の後ろのほうで感じながらも、ふわふわするような心地で意識が遠くなりかかっていたのを、急に身体ごと浮き上がったようになって目を覚ました。

 竹流の顔が間近だった。その青灰色の目は、びっくりするほど優しく真を見つめていて、真は頭の中がひっくり返ったような気がした。いや、何よりもこの髭がいけない。見慣れたはずの顔が、知らない誰かのようで、顔を見るたびに照れてしまうのだ。真は目を逸らして訴えた。
「降ろせって」
「何で?」
「何でって……」
 真は言葉に詰まった。
「今日はいい日だから、いいじゃないか」

 髭だけではない。少し見ない間に竹流は随分日焼けしていて、いちだんと逞しく大人に見えた。
 いや、もちろん初めて会った時から十分に大人だったのだが、ここにいる彼はさらに素晴らしく惚れ惚れとするようないい男だった。同性の相手に惚れ惚れする、というのも妙だが、それが不自然でもないのが不思議だった。

「しばらく帰ってこないんじゃなかったのか」
「そのつもりだったんだけどな、ペルーの山の上で寝ていたら、神のお告げがあって、東京でお前が待っているので帰りなさい、と言うんだ」
「何、馬鹿言ってんだ」
「本当は、お前の顔がちらついて寝られなかったんだけどな」
「嘘つけ」
 真は言ってから、竹流の手から逃れようとした。
「降ろせって」
「うるさいぞ」
 竹流は、かわいい子どもにするように、その頬に頬をくっつけた。
「髭、嫌だって」

 逃れようとすると、余計に面白くなるのか、わざとらしくすり寄せてくる。
「くすぐったいんだって。なんでそんな伸ばしたままにしてるんだ」
「森の中に入ってたからな、剃ってる余裕がなかったんだ」
「帰ってきたら剃りゃあいいじゃないか」
「俺は飛行場から武道館に直行したんだぞ」
 竹流は真を抱いたまま、少し距離を取って、むくれたような顔を作った。真が今の言葉の意味を考えているうちに、竹流の顔が優しい笑顔に変わっていく。

「しかし、今日は良かったな。何よりも、おじいちゃんに褒められて嬉しかったろ」
「何で?」
「何で? 俺のところじゃなくて、おじいちゃんのところにすっ飛んで来たくせに」
 え? と思って竹流の顔を改めて見た。そんなことを考えていたのか、と思って驚いた。
「俺が仕事を放りだして地球の反対側から帰ってきたのに、おじいちゃんのところに飛んでいくような薄情な奴だが、今日、ここに来たから許してやろう」

 何を言われているのかよく分からなくなってきて、真はとりあえず言葉だけは足掻いた。
「とにかく降ろせって。しかも俺、汗臭いし」
「だめだな」
「それに、そう言いながらあの人といちゃついてたくせに」
 何気なく出てしまった自分の言葉にも驚いたが、真は自分をまともに見つめる竹流の視線に心臓が打つ速度が速まったように感じて、更に驚いた。

「妬いてるのか」
「なんで? 女しか抱かないんだろ。降ろせよ」
 半分焦って脈絡なく真は言った。それを聞いて、竹流はいつもの、可愛いものを見るとからかわずにおれないという悪い虫が出てきたようで、真をようやくソファに降ろしたと思ったら、そのまま真を抱き締めた。またしつこく頬をすり寄せてくる。
「宗旨替えしてもいいな」
「馬鹿言ってるんじゃないって」

 すかさず言ったものの、竹流には全く相手にされていなかったようだ。
 真は自分の耳朶に竹流の唇の感触を覚え、思わず首を縮めた。しばらく触れるか触れないかの距離が保たれたままだったが、やがてその耳の奥の鼓膜に、いやあるいは耳の軟骨を通じて直接三つの小さな骨に伝導するように、竹流の声が穏やかに優しく響いた。

「とにかく、今日は勝てて良かった。意味のある勝ちだった。おじいちゃんも、だから喜んだんだろう。お前が打ち込んだ瞬間、おじいちゃん、跳上がるみたいに立ち上がったからな」
 抱き締められてそう言われると、何だかほっとした。長一郎がそんなふうに自分の闘いを、まるで自身が闘っているかのように見ていてくれたのだと思うと、嬉しかった。

 それに、他人と触れていて、こんなにも穏やかな気持ちになることは他にはない。
 尤も、今日は幾らか勝手が違っている。髭を見てしまうと、見慣れないからか、やはり幾分か緊張するのだ。それは竹流にも伝わっているようで、彼の方は面白そうに、視線を避ける真の目の前に顔を寄せてくる。
 しつこいぞと言いかけて、相手との距離にぞくっとした。相手があまりにも近くにいるので、ますます自分の汗の臭いが気になった。女みたいな気のしかただなと思うと恥ずかしかった。

「シャワー借りてもいいか」
「一緒に入ろう」
「馬鹿言うなって」
 拒否したにも関わらず無視されて、結局一緒に風呂に入った。
 背中を流してもらいながら、真はその日何度目かでほっとしたように思った。

 そうか、勝ったんだと思って、じわじわと嬉しかった。ひとりで闘って勝ったときは、それはその場だけのことだった。それが今日は、仲間たちの顔を一人一人思い出し、立ち合ったライバルの面の向こうの顔を思い出し、何度考えても嬉しかった。
 嬉しいという気持ちを感じるためには、多分心の余裕が必要なのだろうが、それが実際ここで提供されているからなのだろう。

「お前、ここんとこだいぶ打ち込んでたな」真の背中や腕を力いっぱい擦りながら、竹流が話しかけてきた。「筋肉の具合が違う。いい感じだ」
 真は何で自分が照れているのかと思った。
 それから、交代で竹流の背を流している時、彼の脇腹の痣や腕のいくつかのかすり傷の跡に気がついた。いや、かすり傷というほど単純なものには見えなかった。何かがかすっていった跡のようだったが、何、というのもある程度想像の範囲にあった。
 ただ、自分が今までそんなものを見たことがないだけで。

「どうしたんだ」
 真の質問の意味を察したのか、竹流はあっさりと返事をした。
「まぁ、いろいろある。鉄砲玉が飛んできたり、崖から滑ったり」
「鉄砲玉? 何やってたんだ」

 今度は、竹流は返事をしなかった。真は黙ってその背中を洗っていた。
 多少の傷はともかくとして、綺麗な整った逞しい身体だった。筋肉の張りは皮膚の表面からも窺われるようで、その腕に触れると、この腕でどれほどの女を楽しませているのだろうと考え、複雑な気持ちになった。
 真の保護者として学校に行って以来、竹流は髪を短くしたままで、優雅さを保ったまま、太陽の光で焼けたしっかりとした首筋を後ろから見ると、不意にたまらない感覚が襲ってくるような気がした。

 広い湯船に向かい合って一緒に浸かりながら、竹流はちょっとの間、真を随分優しい目で見つめていた。真は思わず視線を湯の面に落とした。
「あんたが、」真はちょっと考えて言葉を切った。「何やら危なっかしい仕事をしてるのは分かってるつもり、だけど」
「何を言ってる? 俺がやってるのは、仕事じゃなくて趣味だ」
「趣味? 鉄砲玉が飛んでくるようなのが趣味なのか?」

 顔を上げて言うと、竹流が少しばかり、しまったな、という顔をした気がした。
「まぁな」
「何やってるのか教えろよ。何千万の金を動かせるって言ってたけど、普通じゃない」
 今度は竹流は真剣な目で真を見つめていた。
「知ってどうする?」
「どうって、別にどうもしないけど」
「知ったら俺から離れられないぞ。いや、お前を離さないかもしれないぞ」
 真は黙って相手を見ていた。

「しかし、今日は特別、お前の活躍に免じて許しておこう。俺がしているのは泥棒と詐欺だ。たまには怪我もする」
「泥棒?」
「いや、正確には何でもありだな。手を出さないのは、法外なクスリと武器くらいだ。時には今回みたいにトレジャーハンターと未開の土地みたいなところにも出かけることがある。人類の尊い財産をかっぱらったりするわけだ」
 真はまだ呆然と相手を見ていた。
「たまには人ん家から絵画や宝石を盗んでくることもある。別に自分のものにするわけじゃない、もとの持ち主に返すためにな」

 少しだけ言葉を切って、竹流は両手で湯を掬い、顔を洗った。
「ちなみに、人殺しはしない。物については、あるべきところにあるべきだと思っているだけだ。さぁ、これで俺と離れられなくなったわけだ、どうする?」
「どうって」真はちょっと下を向いた。「それ、俺をおちょくってるのか」
「いや、本当のことだ。もしも、お前が」
 竹流は言いかけて、今度は本当にそこで止まり、上がろう、と言って先に風呂から出た。

 真が浴室から出ると、脱衣場で竹流は何故か真にタオルを渡そうとはせず、真の身体を拭いてくれた。
 真は逆らう隙も伺うことができず、ただ任せていた。
 上半身だけでなく下半身まで丁寧に拭かれて、真は思わず自分のものが反応しないかと緊張したが、さすがに緊張の方が強かったのか、心の奮えとは裏腹にそこは大人しくしてくれていた。
 だが、竹流の方は何も言わず、真の顔も見ないまま、真が恥ずかしくなるくらいじっくりと時間をかけて、いや、むしろ真の身体の隅々まで確認するように丁寧に拭いている。足の間、そして後ろのその場所まで来たとき、真は頭の半分で、これは口封じとかいう理由で自分をどうにかしようとしているのだろうか、とも思ったが、女しか抱かないと言っていたし、多分そういうことではないのだろうと、気を取り直した。

 とは言え、緊張から逃れようと語りかけた自分の声は上ずっているようで嫌らしく感じた。
「それって、命に関わったりしないのか」
「そういうこともあるかもな」
 それ以上はその話題は続かなかった。竹流がタオルを洗濯機の上に放り投げたとき、真はやっと緊張から解放された。
 別に竹流の仕事についてどうこう言おうとは思っていなかったし、予想していた以上にひどい話というわけでもなかった。
 むしろ、人殺しだと言われなくてよかったと思った。

 翌日、真が起きた時には、竹流はもう髭を剃り落としていた。一晩で髭面に慣れ始めていたので、また無くなってしまうと、逆にちょっと驚いた。その真の顔を見て、竹流は面白そうに笑った。
「髭も良かったろ。惚れ直したんじゃないのか」
「惚れ直すってのは、もともと惚れてるってことだから、言葉の使い方が変だ」
「惚れてるだろ」
「意味わかんないよ」
 真は話を切り上げたが、竹流はまだおかしそうに笑っている。

 一緒に灯妙寺の離れに行くと、祖父の手料理が待っていた。釣りをする剣道の生徒からもらった新鮮な魚の刺身に、祖母の手作りの幾種類もの佃煮、季節の野菜の天麩羅、その他シンプルながら豪勢な食事が並んだ。
 前日の試合の話も含めて話題は尽きることなく、長一郎と竹流は気分よく酒を飲み続けていた。年齢も民族も性質も違うこのふたりが、一体どうしてこんなに馬が合うのかは謎だった。
 祖母の奏重は、お酒につき合うことのできない未成年の子供たちに、いつまでも待ってても埒が空かないから、先に寝るように言った。葉子は直ぐに、そうする、と言って部屋に上がった。真は一瞬どうしようかと思ったが、確かに待っていてもする事も無いので、奏重の言う通りに二階の部屋に上がろうとした。

「竹流さんと寝るでしょ」
 勿論、同じ部屋で、という意味で祖母は言ったに違いないが、真は一瞬びくっとした。それから、自分が何を狼狽えたのかと思った。
「もうそろそろあっちも切り上げさせないとね。長一郎さん、明日も早朝練習の生徒さんが来るのに」

 真は耳が熱くなったような気がして俯いた。
 祖母が今でも夫のことを名前で呼ぶことに、真はずっと何の違和感もなかったが、ある時、日本の夫婦では珍しいと聞いてから、奏重が夫の名前を呼ぶたびに、真も意識するようになっていた。そのことは少し自慢でもあったのだが、何故意識をするようになったのかと思うと、少し気恥ずかしかった。

 時計を見ると、もう一時を回っている。
 部屋に入ると、布団がふたつ並んでいて、真は心なしか二組の布団がひっつき過ぎかな、と思った。それが祖母の微妙な感情の結果であるような気がして、後ろ暗く不安な気もしたし、あるいは自分の考えすぎかとも思ったりした。
 とにかく、一方の布団に潜り込んで、ややこしいので竹流が上がってくる前に寝ようとしたが、どういったわけか眠れなかった。

 しかし、それほど時間も置かずに竹流が部屋に入ってきて、酔っぱらっていたせいもあってか、空いているほうの布団ではなく真の寝ている布団の方に潜り込んできた。真はびっくりして跳ね起きようとしたが、そのまま後ろから抱き締められた。
「酔ってるのか」
「うん、日本酒は気分がいいとついつい飲み過ぎて、しかもよく回る」

 酒にべらぼうに強く、もちろん幼少の頃から色んな意味で鍛えられているので、酒くらいではめったに酔わない竹流が、長一郎と飲んでいると気分がいいのか、時々こうやってかなりでき上がってしまうことがある。
「あっちで寝ろって」
「うるさい」
 そう言って、また抱き締める手に力を入れてくる。その抱き締めてくる手が、真の下腹部に触れそうな位置にあって、真は思わずぎくっとした。
「朝、片一方の布団で寝た気配が無かったら、おばあちゃんがびっくりするよ」
「そうかな。多分納得するだろ」
「何を?」

 しばらく何ともいえない間があって、それから竹流は寝ぼけたようなもにょもにょとした声で、真の背中から肩越しに言った。
「おばあちゃんは、何か理解してくれている気がする」

 何をこいつは言ってるんだ、と思ったが、その後は全く反応がなかった。
 結局そのまま竹流が寝てしまったので、真はどうしようもなくなってしまった。この腕から逃れて、別の布団に入ろうとも思ったが、あまりにもしっかり抱き締められていて離してくれなかったので、諦めた。
 それから、少しの間自分でも定まらないことをあれこれと考えていたが、何ひとつ収まりがつかなかった。

 子どもの運動会やお稽古事の発表会に、親が忙しい仕事の都合をつけて、何としてでも来てくれる、というような経験のない真にとっては、それがどれほど子どもにとって大事なのかということについて、何の根拠も感慨も持てなかった。
 もちろん、祖母はいつも来てくれたし、時々は祖父や大叔父たちも来てくれたが、他の子どもたちが若い両親に囲まれているのを見ると、心臓の真ん中にぽっかりと穴が開いたようになってしまうので、自分だけが違うということをまともに考えないようにしてきた。

 自分には親がいないということをいじける理由にする前に、真は諦めてしまっていたのだ。
 だから昨日、竹流の姿を応援席に見つけた時、真は嬉しいという感情に初めて出会ったような気がして、すっかり混乱してしまっていたのだろう。だが、親のようだと決めつけてしまうには、自分の気持ちはもっと透明で、もっとどろどろしていて、もっと複雑な色合いをしていた。

 真は竹流の腕の中で向きを変え、その胸に自分の方からしっかりひっつくようにした。そうすると、竹流は起きたわけではなかったのだろうが、逞しい腕で真の背中と頭を抱き締めるようにした。
 この男が詐欺と泥棒を働いていも、もしかして人殺しでも構わないと思っている。
 俺、やっぱりちょっとおかしいのかな、と思った。

 これが恋愛感情だとは思わなかった。もちろんつき合っている篁美沙子に対しての感情も、恋愛感情かどうか定かではないところがあったし、そういうものが自分の中できちんと区分けされて分類できるという気もしなかった。
 しかし、美沙子と会って別れ際に離れたくないと強く思うことはなかったのに、この男といると、不思議と離れたくないと思った。別に特別な行為をするわけでもないのに、どうしてそうなのか、わからなかった。


 この自分の中にある何か特別な感情を、あの頃真は持て余していた。まだ自分自身というものを掴み所なく頼りなく思っていた年代の真にとって、自分が異性ではなく同性の相手に興味を抱いていること自体が不可解で不安だった。もちろん、女性に興味がないわけではなかった。涼子を見て時々は自分が熱くなるような気もしていたし、美沙子と会えばいつでも夢中でセックスをした。

 ただ、考えてみれば、異性同性関係なく、人間そのものと深く関わることをどこかで怖がっていたのも事実で、美沙子とも身体を重ねるだけで、心から向き合えていなかったのかもしれない。もしも、心で求めるような深い感情があれば、彼女は離れていったりはしなかっただろう。
 だとすれば、やはり特別な感情を、もしかすれば北条仁が言うような特別な恋愛感情に近いものを、彼に対して抱いていたのだと言われても、否定する根拠もなかった。

 ただ、ひとつだけはっきりと自覚していることがある。
 あの頃、真は自分が恐ろしく幸せだったと、今でもちゃんとわかっているのだ。






この【海に落ちる雨】にはあともうひとつ、完全に独立した章(過去)があります。
第3節に出てくるのは、『わかってください』という章題の同居に至る過程。
もちろん、あの名曲、涙で文字がにじんでいたなら、分かってください~ってやつです。

高校を卒業する前に、いささか箍が外れてしまったこの二人ですが、イタリア旅行の後(そう、【幻の猫】のあとフィレンツェ→ローマ→アッシジとちょっとややこしいことに……)、いったん会わなくなります。
そして、大学1年生の秋、真が浦河の崖から落ちて死にかかって(実は死んじゃって、後は幽霊じゃないかという一部のうわさもあり??)、以後はつかず離れず……
その頃の話が【清明の雪】です。(真、大学3年生、ちょうど中退する時です)
それから何とか頑張っていた真が、妹の結婚を機に、ちょっと壊れそうになる。
付き合った相手が悪かったんでしょうか。妹の結婚相手、そして親友である富山享志の従姉と恋愛関係になり、自殺未遂の一歩手前までいくようになり、体を壊して入院。
それから大和竹流と同居に至るまでの過程を書いています。

またお楽しみに。

次回から、新潟の贋作事件に戻ります。
どんどん怪しい奴が出てきますが、真と一緒に竹流につながるヒントを探してやってください。
どの糸が彼に繋がっているのか……

次回、第12章『絵と女の来歴』です。


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Category: ☂海に落ちる雨 第2節

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コメント


可愛い若葉時代

ここまできましたよ^^
真の高校生時代の話は、とくに可愛らしくて好きですね。
竹流と、なかよく猫のようにじゃれてる時間は、なんともホッとします。
全話の剣道の試合の話といい、改めて考えると、真は実は、愛情に恵まれているんじゃないかと、ちょっと思ってしまいました。
養母などの、拭えない辛い過去はあったにせよ、このころ真の周りにいた人の愛情は、もしかしたら、人間が一生のうちに得ることが困難な、本当の愛情だったのかも。
両親が揃っていても、愛情に飢えている子供が多い時代です。
この祖父母、そして、妹、なにより竹流。こんなに濃厚な人たちが、真を守ってくれたんですよねえ。
私、おばあちゃん、好きだなあ^^
さりげない思いやりが、ビンビン感じられます。

さて、本編はまだ、竹流の行方がわからないようですね。
贋作の話がどう竹流につながるかも、楽しみに読ませてもらいます。

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/08/14 18:29 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

あぁ、ずいぶん来てくださいました。
何だか、最近、読み返してみて、粗い文章だなぁとうだうだな気持ちになっています。
このあたり、本当にうだうだして書いてたなぁ、と言うかすかな記憶が(古すぎて、思い出せない^^;)…
読みにくいと思うのですが、ありがとうございます(^^)

> 真の高校生時代の話は、とくに可愛らしくて好きですね。
> 竹流と、なかよく猫のようにじゃれてる時間は、なんともホッとします。
そうなんですよ。高校時代は一番かわいかったと思います。
周囲に愛されていたという無自覚の自覚があったんですね。
中学時代は尖っていたのですが、なぜか高校で子ども返りしているというのか。
…多分、竹流がいちばんやさしかった時ですね。
それからあの天然の級長とも結構打ち解けて、じいちゃんとばあちゃんが無理して傍にいてくれて…

実は、真の家族関係をあれこれ考えていた時、最初はあまりイメージがつかめなかったんです。
どういう家族構成は決まっていたのですが、全体のムードと言うのか…
それが、横溝正史の作品で、当時なら白子と苛められていそうなハーフの子ども(だったかな?記憶違いかも)が家族に大事にされていて、あ、そうか、きっと家族はそのいじめられっこを守るんだよな、とすっきりして、今のようになりました。
ただ、大事にされ過ぎて、ちょっと極端になっちゃってるんですが…・・
竹流は多分、相川家の人間がみんな好きなんですよ。おじいちゃん、おばあちゃん、おじちゃんx2、妹、従妹、などなど。で、真の従妹(アイヌの女性とのハーフ)に、真個人だけじゃなくて、相川の家系と大和竹流の間に運命を感じると言われて妙に喜んじゃっています。

> 養母などの、拭えない辛い過去はあったにせよ、このころ真の周りにいた人の愛情は、もしかしたら、人間が一生のうちに得ることが困難な、本当の愛情だったのかも。
さすがlimeさん。本当によく気が付いてくださいました(^^)
この物語の要でもあります。本当に逆にこの蜜月みたいな時があったのが、後で辛くなっちゃうんですね…
結果的に…竹流に対しては、求めすぎちゃったのかもしれません。(そして、逆もまた…)
より多く愛した者がしんどいというのは、恋愛だけでなく人間関係の鉄則みたいなもので。

おばあちゃん。金沢の芸妓の私生児ですが、それこそ三味線一丁で放浪していた時代のおじいちゃんと出会って、恋に落ちたものの、じいちゃんは父親の危篤で北海道に帰ってしまって。
結果的に、じいちゃんは一度は家のために結婚するのですが、その女性(真のお父ちゃん代わりの伯父ちゃん・功さんのママ)が亡くなって、やっぱりいても立ってもいられなくて、金沢に会いに行ってしまう。
奏重さん(ばあちゃん)は他のひととの結婚が決まってたんですが、かっさらってきちゃったんです。
さて、ばあちゃん。金沢の花街の人なんですが、北海道に来て(田舎ですから)あれこれ言われて辛かったんでしょうけれど、すべて跳ね除け、今や、馬も牛も人も犬も大体同じ、と言う感覚で牧場を守っているスーパーウーマンです。まさに、酸いも甘いも知っているからこそ、うちの孫はもしかして男に…と思っても動じなかったんですね。

あ、長くなっちゃった。
じいちゃん・ばあちゃん話に力が入っちゃった^^;
コメントありがとうございました(*^_^*)

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2013/08/14 22:11 [edit]


おお。なんかここにまた違った真がいました。
嬉しいことと楽しいことと、なにより、一人じゃない真。
このときはぐっすりと寝ていたのかな。

家族関係って、大なり小なり複雑だと思うんですけれど、結局根のところは一つで、結局深くつながっているのだと思うんです。世代がどうあれ。

竹流と相川家の相性も面白いですね。絶対にどこかでつながっている。過去に。将来つながると大海さんは教えてくださっていますが、その時は、戻った、なのではと思ったり・・・

真にもスポーツとか、仲間とか、友達がいて良かったと。そして、褒められた経験と頭なでなでの経験があって良かったなあと。竹流のん?なスキンシップ?もありましたが・・・

Keiko #- | URL | 2014/04/15 16:38 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

けいさん、なんだかいっぱい読んでくださって、ありがとうございます!
しかも楽しい(?)「若葉のころ」(^^)
真は高校生の時が一番かわいかったし、ちょっと子供っぽかったかもしれません。
小学校の時は本当に何もしゃべらない子で、中学生の時は逆にませてて。
で、義理の母親の死をきっかけに、重いものから解放されたんですね。人の死による平穏ってことでは、真自身後ろめたいものは引きずっていますが、本当に、赤ちゃん返りしちゃったみたいな感じで。
だから、気持ち悪いくらいに素直。生まれ変わった時、最初に見たのが「竹流」なので、アヒルの子どもの刷り込みと一緒で、「あ、ママだ」って感じ?
竹流の方は、おちょっくていますね。完全に。ん?なスキンシップも含めて(^^)
このころは余裕綽々でしたから、超上から目線で、かわいいかわいい、って頭撫でて、何をするのもちょっと過剰なくらいで。でも、そうしているうちに本気になっていたのかも……(いろんな方向へ……)

> 家族関係って、大なり小なり複雑だと思うんですけれど、結局根のところは一つで、結局深くつながっているのだと思うんです。世代がどうあれ。
わ~、本当にありがとうございます。実はこのお話の要はそこなのです。
実は、これは大きな家族のお話。物語に家族が出てこないのはものすごく苦手なのです。
背景が分からない話というのか。で、あれこれ説明したりするので、ものすごく読みにくい話を書いてしまうのですけれど……でも、これがないと、なんだか本当に気持ち悪くて。
そして、そのつながりを書くのが楽しいのです。

> 竹流と相川家の相性も面白いですね。絶対にどこかでつながっている。過去に。将来つながると大海さんは教えてくださっていますが、その時は、戻った、なのではと思ったり・・・
はい、本当に!
実は、真の従妹になるのですが、相川家三兄弟(真のパパとおじちゃんたち)の末っ子がアイヌの人と結婚していて、そのお嬢ちゃんが、北海道の牧場で、ある日竹流に言うんですね(後朝の、かなりきわどい場面なのですけれど、もう平気になっている相川家)。
「うち(相川の家)とあなたには、ものすごく古い縁を感じる」って。
だから、何があっても、何をしても、竹流も含めてファミリーなんだって。
実は、真のじいちゃんは、竹流の事を多分、わが子と同じに扱っていたと思います。
そして、実は、チェザーレのおっちゃんも……その縁の一端かもしれません。
そう、そうなんですよ~。ありがとうございます。因果は巡っているのですね~~
そう感じていただいて、ものすごく嬉しいです。
出会って拓けた運命ですけれど、どこかDNAの奥深くに書いてあったに違いない(まさに、プラチナデータ!)。

> 真にもスポーツとか、仲間とか、友達がいて良かったと。そして、褒められた経験と頭なでなでの経験があって良かったなあと。竹流のん?なスキンシップ?もありましたが・・・
そう言えば、友達はひとりだったかもしれませんが、結構仲間はいたのかもしれません。
この人、一部の先輩には可愛がられたのかも。それに、何も言わないけれど、結構面倒見は良くて(見捨てない。自分のことはすぐ見捨てるのに)、後輩からは慕われたかもしれません。
だから、今の事務所の仲間たちからは、大事にされてるんですね。
その心は……「放っておけないオーラ」を出しているからなんですけれど(^^)
竹流のん?なスキンシップ……この人、やるとなったら限度を知らないからなぁ^^;
コメント、ありがとうございます!!

コメント有難うございます。次回の回想章も、ぜひ、お楽しみください!
ところで、けいさん、ですよね?(Keikoさん?)

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2014/04/15 22:14 [edit]

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