07 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 09

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8月の転校生】(2) 8月の転校生 

コックリさんで、夏休みの誰もいない校舎に忍び込むことが決定した富山享志(タカシ)・聖幹学園中学2年生、責任感溢れる?天然ボケの級長。
さて、時は奇しくも逢魔が時、無事に教室にたどり着けるのか?
そして、教室で彼を待ち受けるものは?





 倉庫部屋から音楽室まではまっすぐな廊下を通る。既に廊下は、足元が暗がりに沈んでいて、果たして自分の足がちゃんとくっついてきてくれているのか、いささか不安な気がした。深部感覚を確かめ、確かにそこにあるよな、と自分に念を押す。
 あれ、でも、戦争で脚を無くした人が、切断した足の感覚ってちゃんとあるのだとか言ってなかったっけ? って、もうどうでもいいよ。どうして今、そんなこと思い出すかな、俺。

 視線を廊下の東側に並ぶ窓の外へ向ける。まだ辛うじて夕闇がこの世界を覆い尽くす前のようだった。
 件の音楽室の前で享志は足を止めた。
 心頭を滅却すれば火もまた涼し。
 誰だっけ? 織田信長に焼き討ちされた時に、火の中で詠んだ歌。でも、やっぱり熱いよな。なんちゃって。
 って、なにも面白くない。怖いと思うから怖いのだ。暗闇ではシーツも幽霊に見える。

 いっそ、覗き込んじゃえ。
 音楽室の扉はもちろん閉まっている。大事なものが置かれている部屋は、長期の休み中はもちろん鍵がかかっている。扉には窓がある。覗き込んだら、真っ暗だった。ピアノがあるし、エレクトーンもある。真夏の光を嫌うだろうから、窓には厚いカーテンが引かれているのだ。

 ……ぽろん。
 って、ピアノの音が? ショパン? 『別れの曲』のできそこないみたいな曲。
 いや、頭の中でなっているだけだ。

 だから、暗闇では自分の足音がショパンの曲に聞こえるんだって! だからいっそ、頭の中で、じゃじゃじゃじゃーん、と大きな音を奏でてみる。
 それからちょっと身震いして、いや武者震いしてから、享志は大きな足音を立てて廊下を走った。足元に何かが絡みつくような気がする。上体が前のめりになる。こけるより先に、足を動かせ!

 教室は二階だった。一気に階段を駆け上がる。
 廊下側は東になるのでもう碧い薄闇だったが、階段室の高い窓からは、かろうじて夕陽の名残の光が見えていた。

 教室だ。
 思わず足元を確認してほっとする。足には何も絡まっていない。
 享志はがらり、と闇を打ち破るような大きな音を立てて扉を開けた。

 ……

 西側になる教室の窓からは夕陽が射していた。いや、さっき階段室で見た時は、既に太陽は沈みかけていて、もっと暗かったような気がしたが、確かに教室には光が射していた。
 そして、窓際の光がまっすぐに射し込む席に、一人の少年が座っていた。

 光にけぶるような明るい髪、オレンジに染まった頬、綺麗な首筋は肩までまっすぐに伸び、そのまま優雅なラインを描いて腕へと繋がっている。どちらかと言えば小柄で、まだ成長を躊躇っているような肩は、細く頼りなく見えた。この学園の制服がまだ少し浮いているように見えるのは、着慣れないからなのだろうか。

 享志が大きな音を立てて扉を開けた時、まだ彼は窓の外を見ていた。
 やがてゆっくりと、享志の方へ首を回す。

 頼む、目と鼻と口がついていますように!

 振り返ったのは、ぞっとするほどに綺麗な子だった。
 目は少し切れ長で、光の加減で色合いまでは分からない。まっすぐ通った鼻筋、薄くて赤く染められたような唇。顔だけを見ていると、一瞬女の子かと思ったが、制服は確かに男のもので、目が慣れてくるとその瞳はむしろ野生の山猫のように鋭い。山猫を実際に見たことはなかったけれど。

 享志はその目に釘付けになっていて、しばらく動けなかった。
「ここのクラスの人?」
 意外にも少年の方から話しかけてきた。鼓膜に触れるよりも早くに頭に直接響いてくるような透き通る声だった。まだ声変わりを迎えていないのかもしれない。

 享志は意表を突かれて、ただ頷いた。
 どう考えても見たことのない子だ。一学年が百五十人ほどしかいない学校なので、同じ学年ならクラスは違っても何となく分かる。下の学年ならいささか自信はないけれど、でもこんな綺麗な子がいたら、女子が放っておかないだろう。

「えっと……、君、転校生?」
 少年はもう一度窓の方へ視線を向けた。頷いたようにも見える。
「ここはいい学校だね」
「え、と、そうかな。ま、写真写りのいい学校だけどね」

 なにせ、校内のあちこちで撮られた季節の写真がポストカードになって、購買部で売られていて、カレンダーの写真にもなっている。区の指定樹木がいくつも構内にある。西洋風の校舎は何とかというちょっと有名なイギリスの建築家のデザインだ。古い石の建物で、クリスチャンスクールだけあって、礼拝堂兼講堂は特に気合が入っている。ステンドグラスはシンプルだが並んだ木のベンチに落ちる青や黄の光は幻想的としか言いようがない。パイプオルガンは日本でも有数の大きさのものだと聞いている。

「友だちを苛める人なんかいないんだろうね」
 幸いなことに、確かにそれはいない。多少の派閥的グループはあっても、上品だ。
 そもそも私立の学校で、いいとこの令息とお嬢さんが通っていて、しかも中学の入学試験はかなり難しい。新入生にはキリスト教の愛神愛隣の精神を徹底して教え込む。もちろん、押し付けがましくない範囲で。授業は大らかすぎる気がしなくもないけれど、教育方針は比較的大らかだ。

 この子、友だちに苛められていたんだろうか。
 そうか、きっと前の学校で苛められたりとかして、わけありで通えなくなって、で、転校してきたのだ。例外的に転入生を受け入れることもあるという話は聞いたことがある。あれ、帰国子女の場合だったっけ?

「学校を案内してくれる?」
 何かを思い切ったような歯切れのいい余韻を引いて、少年が言う。
「うん、もちろん」
 享志は力強く頷いた。

 そうだ、きっと辛いことがいっぱいあった子なんだろう。俺が力になってやらなけりゃ。
 急に級長精神を刺激された享志は、今が何時かとか、もう暗いから明日にしようよ、とかいうことは全く思い浮かばなかった。
「どこがいいかなぁ」
「じゃあ、君のとっておきの場所に連れて行って」

 とっておきの場所。
 それは礼拝堂と渡り廊下と、特別な時のための礼拝堂に囲まれた小さな中庭で、真ん中に大きな木が立っていた。名前は知らないがカエデの種類だと思われる。大きな星形の葉が特徴的で、享志はそれを『星の宿る木』と呼んでいた。
 別にすごいロマンチストのつもりはないけれど。

「この校舎を出るのにちょっと手間がいるけど」
 少しだけ少年は微笑んだように見えた。享志はちょっとドキドキした。
 いや、相手は男だからそれは妙な表現なのだが、他に言いようがない。少年は享志に近付いてくる。背は享志より頭半分くらい低かった。体つきは痩せ気味で、近くで見ると髪はやはり淡い色合いで、目は少し緑がかっている。

 享志は少しわくわくするような気持ちで少年を誘った。
「毎朝礼拝があるんだよ。八時半から。讃美歌って歌ったことある? 毎日だから、すぐ覚えるけどね。で、毎週、暗唱聖句があるんだ。言葉を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして主なるあなたの神を愛せよ、とかね」

「毎週木曜日は献金の日だけど、大抵、財布の中の小銭を入れるだけなんだ。イースターとクリスマス礼拝は素晴らしいよ。もっとも、僕もクリスチャンじゃないけれど」

「授業はゆっくりだから、全然問題ないと思うよ。ちょっとゆっくり過ぎるんだけどね。だって、古墳時代を出るだけで五月になっちゃったんだ。世界史はもっとひどい。五月はまだ四大文明だったからね」

 享志は何だか嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、とにかくしゃべり続けていた。振り返ると、享志と足音を重ねるようにして後ろをついてくる少年は、享志をまっすぐ見つめて微かに笑っているように見える。
 何だか初デートみたいだ。

 倉庫部屋の窓から抜け出すとき、手を貸そうと思ったら、少年は首を横に振り、するりと身も軽く窓を潜り抜けた。
 陽が落ちたのか、少しだけ涼しくなっていて、風が吹き抜けて行った。
 礼拝堂は敷地の中心にあるので、どの校舎からもそれほど離れていない。少し薄暗くなった芝生の道を歩く享志の影が、灯された外灯の下で長く伸びる。

「二学期から、さっきいた教室のクラスになるんだろう?」
「どうかな」
 少年は短く答える。声が風にさらわれていく。

「だったら嬉しいけど」
 礼拝堂の裏に抜ける道を歩きながら、享志はそう呟くように言って、自分でちょっと照れてしまった。だから、今度は少しの間黙ったまま歩く。
「中庭なんだけど、考え事をする時にいいんだ。木があって、葉が星の形をしていて、礼拝堂のステンドグラスが暗く沈んで見えて」
 ひとつきりの足音が芝生を踏む。
「こっちだよ」
 そう言って、振り返った時……
 少年の姿はどこにもなかった。
 あたりは突然、暗転したように暗くなり、熱気を含んだ八月の風が中庭の三角の空間に吹き込んだ。




実は、大海の通っていた学校がモデルの聖幹学園。
敷地は本当に妙に広くて、山の中。校舎は洋風の石造りで、年季と趣に溢れた学校でした。
大筋、享志が解説する通りの学校、毎朝の礼拝は暗唱聖句と讃美歌とお話。
でも、私は決して「いいとこの子」ではありません^^; ただの農民。

そして、学校にはなぜか七不思議ってのがありますよね。
うちにもあったような気がしますが、細かいことは覚えていません。
メインロッカー前の階段が、確か12段だったと思うけれど、夜中に13段になっているとか、そんな他愛のない話もあったような。

次回が最後です。『転校生、ふたたび』……はい、『七瀬、ふたたび』をもじりました。
って、古い??
若かりし日の多岐川由美さん……あれれ、また歳が……




関連記事
スポンサーサイト

Category: (1)8月の転校生(完結)

tb 0 : cm 4   

コメント


あれ・・・・・・享志、
本来の目的を忘れてないか。笑。

本当に天然ですね。

ヒロハル #- | URL | 2013/12/09 21:15 [edit]


ヒロハルさん、ありがとうございます(^^)

享志、本当にいい奴なんですが、いいやつて、どこか鈍感なんですよね。
鷹揚というのか。なんでもソツなくこなすというのか……
で、本来の目的は忘れる…^^;
今、ちょっと幽霊に恋をしているかも?(というのか、アクマに魅せられ状態??)
この天然さは書いていて楽しいです。
主人公たちがかなり繊細系なので、脇で遊んでいます(*^_^*)
その3で、さて、ヒロハルさんに納得していただけるラストかどうか……
天然度、さらに爆発です^^;
コメントありがとうございます(*^_^*)

彩洋→ヒロハルさん #nLQskDKw | URL | 2013/12/10 08:27 [edit]


2話読みましたー。
え、え、この美少年は幽霊!??
享志くんドキドキしちゃってw淡い恋心かしら(*ノェノ)キャー

この学校は大海さんが通ってた学校がモデルなのですね!いいなぁ。とても素敵な学校です( ´∀`)bグッ!
私が通っていた学校はもうボロボロでした……。
床の板?パネル?みたいなのは剥がれまくりで;夜はコウモリとかGとかが走り回ってました;;

えー!次で終わりですか∑(゚Д゚)ガーン
もっと享志くん見てたい気もしますが(笑)また最終話読みにきます!

たおる #- | URL | 2015/07/26 22:06 [edit]


たおるさん、ありがとうございます(^^)

たおるさん、読んでくださってありがとうございました!
はい、このお話はまぁ、【学園七不思議シリーズ】の入り口物語みたいなもので、ものすごくあっさりと終わっちゃうのです。しかも、何の怖さもない、ホラーではなくて、ホラという触れこみの物語です。
さて、どこまでが本物の幽霊で、どこからが幽霊じゃなかったのか。それとも?
そうそう、これは淡い恋ですね。後に享志は自分で認めてますので、うん、まさに享志の初恋の「彼」の登場です。真の方から見たら、享志は「今まで見たことのない超絶天然ボケ」というわけなのですけれど(^^)
こちらはたった3回で終わってしまいますが、こちらは読み切り連作なので、このまま次作『図書館の手紙』に続いていきます。まだまだ享志が活躍しますので(あれ? あんまり活躍はしていないかも?)またお時間がありましたらお楽しみくださいませ。

そうそう、この学校、私が通っていた私立の学院がモデルなのです。女子高だったのですが、それを男女共学にして、そして立地や建物ののイメージはそのままに使っています。この真シリーズの関連作品ではあちこちに登場しています。もう○十年も前の記憶を辿りながら、楽しく書いております(^^)
でも、たおるさんの学校もすごい。Gはともかく、コウモリも?? あ、でもうちの学校にも、でかいナメクジとか、かなり特異な生き物がいたなぁ(ナメクジは嫌いです……)

あぁ、でも、たおるさんにホラーの書き方を学ばなくちゃ、という気がしてきました。
コメントありがとうございました!!

彩洋→たおるさん #nLQskDKw | URL | 2015/07/28 01:39 [edit]

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://oomisayo.blog.fc2.com/tb.php/281-abef0973
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)