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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂始章1 邂逅(アレルヤ‐予言)(1) 

 彼は今でも時々その夢を見る。夢というよりは、現実にあった過去の出来事をなぞる、記憶回路の確認作業なのかもしれない。
 彼のように自らを律する力を培ってきた人間に、呑み込めない、あるいは克服できず、仕舞いこむ引き出しのないような出来事は、基本的にはあってはならないはずだった。だからこそ、彼はそれを自分以外の場所に、つまり外側に作り出した。
 それを覗かれることは彼には屈辱的なことだった。だからその場所の鍵は彼だけが持っていた。だが、彼は初めて、その鍵を他人に託した。いや、他人ではない。その男は彼にとって大事な、血縁と言ってもいいほど大事な人間になるはずだ。だからこそ、彼は決心してその鍵をその男に預けた。
 夢の中で、彼は佐渡にあるその建物の中に入り、地下に潜り、そしてまた更に一段下の地面に潜る。空気は薄くなり、息苦しくなっていく。海から浸み込む塩分を含んだ湿度が、足下からじっとりと上ってくる。彼は最後の扉を開ける。
 薄暗い電球の下で、狭い礼拝堂の中、苦悩に満ちたイエス・キリストの絶望の表情が浮かび上がった。


 彼、ジョルジョ・ヴォルテラは、生れ落ちて、まだ意志も何もない時に額に記された神の刻印を、恐らく、世の人間のうちで最も敬虔に受け止めている一人であることを自覚していた。それは、生まれた時には、出生届に記された両親からは捨てられる運命にあったジョルジョが、あの四月二十三日、ドラゴンを打ち倒した聖人の記念日、ヴォルテラの先代の当主がファシズムに抵抗して謀殺された日に生れ落ち、ヴァチカンの最高位にある教皇手ずからの祝福を受けた日から、彼の血の中に染み渡り、決して消すことができなくなった魂のあり方だった。
 年に一度、極めて個人的に、そして密やかに、教皇に謁見するのがヴォルテラの当主、そして次代当主の義務であり、権利でもあった。生れ落ちた時から、ローマを出奔する前年の十五の年まで、ジョルジョは教皇の祝福を受け続けてきた。現世に遣わされた神の御姿である教皇は、戦前そして大戦中、戦後を生き抜き祈り続けたローマ出身の教皇で、幼いジョルジョ・ヴォルテラに会うことを実に楽しみにしてくれていた。教皇だけに許された礼拝堂で、幼いジョルジョを膝に乗せて、教皇は、この子は特別な運命に導かれていると、何度もヴォルテラ当代当主のチェザーレに言ったという。神であり、人であり、そしてまた人と神の子であると。この子に与えられた運命は恐らく苦渋に充ち、彷徨い続けるものだろう、それが故に私はこの子が愛おしいと言葉を下された。
 神は自然にジョルジョ・ヴォルテラの体内に入り込み、染み渡り、ジョルジョが罪を犯すことを知りながらも、それを浄化する力や技、そして赦しを与え続けた。ジョルジョは神に遣わされ、清濁を併せ呑み、むしろ神の国の汚泥の部分を担うヴォルテラの当主としての役割が何であるのか、常に教え諭されながら幼少期を過ごした。どれほど手を穢そうとも、神の名のもとでは、ヴォルテラの当主にはそれが許されるということを知らされた。神の世界には調和があり、決して崩れることのない秩序があり、その調和と秩序を力でもって守るためにヴォルテラの家が存在し、あらゆる負を受け入れるが故に、かえって教皇よりも気高くあるのだと、教皇自らジョルジョに教えた。
 ジョルジョは神を信じ、神を受け入れ、そこから自分が零れることなど一切考えずに、神の兵士として、ただ忠実に生きることを考えていた。その中で、教皇という位の人間と対等に語り、つまり教皇という位の裏の顔を全て担う当代のヴォルテラの主人が、この場所でいかに力を持った存在であるのかということをしっかりと叩き込まれていた。当代の当主に逆らうことは、ジョルジョの中では全く考えられないことであり、それは神を裏切ることがないということと、まさに同義であり、染み渡った血の色合いでもあった。
 学校には行ったが、ほとんどの時間は当代当主チェザーレの腹心、選びぬかれた教育者たちが、次代当主を鍛え上げ、徹底的にあらゆる種類の世の中の真実と向かい合う勉学、帝王学を授けるために費やされた。夜中にはチェザーレ自らが教育の担い手になった。スポーツも芸術もゲームも例外ではなかった。ジョルジョは一通りの遊びを難なくこなす才能を要求され、最低でも十ヶ国語を流暢に話す言語力を要求され、多少の薬物にはびくともしない屈強な身体を要求された。その全てにジョルジョは幼くして既に、当代当主、そして教皇庁を含めた周りの人間たちの全てを納得させるだけの成果を挙げていた。
 だが、その者たちをもっとも満足させ、時には震え上がらせるほどに感動させるのは、この次代当主の天性の美しさだった。神は何を間違えて、この汚泥を担うヴォルテラの家にこれほど完璧に美しいものを落としてしまったのか、と誰もが思った。ジョルジョは自然に周囲の人間たちに纏わりつき、その愛らしさは彼に会う全ての人間を虜にし、時折勉強に疲れて眠ってしまっても、その無垢で美しい寝顔に誰もが暫くの時間を許してやろうと考えた。台所に平気で降りていき、使用人たちとも対等に口をきいた。それだけは誰がいくら注意しても直らなかった。料理番の女性の家に孫娘が生まれた時も、会いに行くといってきかなかった。ローマのヴォルテラの屋敷とは比べ物にならない小さな家にも当たり前のように飛び込んでいって、可愛らしい赤ん坊に対面すると、無邪気に、この子は僕のお嫁さんになってくれるかなぁ、と言った。大慌てをしたのは使用人たちだった。
 ヴォルテラ当代当主には別の一人息子がいた。リオナルドと名付けられたその息子は物静かで、内に鋼のような強靭な精神を培われ、天性のものとして穏やかに人を惹きつける何かを持っていた。全てに於いてバランスの取れた人物で、それは別の意味でチェザーレの確かな教育を受けていたからだった。リオナルドはひとつ年下の従弟のジョルジョを傍目からも分かるほどに愛していたようで、ジョルジョのほうもいつもリオナルドに甘えるように後ろをついて回っていた。リオナルドの性質を、王を支える腹心にこそ相応しいものであると、その父親は始めから見抜いていたようだった。
 だが、当代当主チェザーレが何故実の子どものリオナルドを差し置いて、不仲の双子の兄の子どもを、その『甥』が生れ落ちたその時から次代当主にと定めたのか、誰もその本当のわけを知らなかった。何より、これまでのヴォルテラの歴史の中で、赤ん坊のときから毎年、教皇との謁見を続けた次代当主は、他に例を見なかった。
 どれほど遊び疲れていても、チェザーレが帰宅するとジョルジョはチェザーレの部屋に行き、勉強の仕上げをして、そのままチェザーレの部屋で眠った。時々ジョルジョが夜中に目を覚ますと、チェザーレは大概はまだ机に就いて仕事をしていたが、時にはジョルジョの髪を愛しげに撫でてくれていることもあった。ジョルジョにはチェザーレが与えてくれる場所が全てだった。
 それが一体、いつ崩れたのか、ジョルジョ・ヴォルテラにははっきりとした自覚はない。
 少しずつ少しずつ、ジョルジョの体の中に呑み込めない澱のようなものが溜まってきていたのか、やはりあの時、あの瞬間に彼の内側に飛び込んできたものなのか。
 時々、ローマの屋敷を抜け出して廃墟のようになった教会、地下に残る古代ローマやエトルリアの遺跡に潜るのはジョルジョの唯一の息抜きのようなものだった。その程度の冒険を禁じるほど、チェザーレは了見の狭い人間ではなかったし、その冒険はある意味ではチェザーレの公認の遊びだった。ジョルジョは入口が塞がれた教会の跡地に潜り込み、こっそりと色々な美術品を見に行った。教会には、その場所が全盛期であったときに装飾に使われた様々の絵画、フレスコ画、モザイク、タペストリー、金銀細工、あらゆるものが残されていた。崩れて壊れかけた破片から蘇る古の香り、それはジョルジョをいつも甘美な気持ちにさせた。
 だが、その日、廃墟となった教会に潜り込んだはずのジョルジョの目に飛び込んできたのは、輝きを取り戻した礼拝堂の金銀、光を蘇らせた絵画、隙間を分からないまでに繋ぎ合わされたステンドグラス、擦れて色を失っていたはずの糸が立ち上がり、もう一度三次元の息吹を取り戻したタペストリーだった。
 そしてそこに、ジョルジョは明らかに降り注ぐ神の光を、何百年もの時を遡った彼方で祈りを捧げる人々の声を聞いた。光を取り戻した教会には、祈りと赦し、そして愛が満ち溢れ、ささやかなドームの天井からは天使が舞い降り、神を称える聖なる歌は、時空を超えて今まさにジョルジョを包み込んでいた。
「おい、小僧、そこを踏むんじゃない」
 突然、だみ声が頭の上から降ってきて、ジョルジョは柱の上の説教台へ上る螺旋階段を見上げた。半ば崩れかかった説教台まで届く梯子には、背を丸めた痩せた男がいて、黒く細長い塊のような身体から突き出た手を説教台の彫刻に残したまま、ジョルジョではなくその足下の床を見下ろしていた。ジョルジョがその男の視線を追いかけるように自分の足下に目を落すと、誰かの墓なのだろう、モザイクが崩れかけながらも祈りの言葉を囁きかけている。
 だみ声の主はひとこと言ったきり、あとはジョルジョに目を向けることもなく、黙々と仕事を続けた。
 ジョルジョは毎日のように屋敷を抜け出すようになった。男は見つけ出せる日もあれば、何日も姿を見せないこともあった。酒臭く、だみ声で話し、ぼさぼさの頭で浮浪者のような格好をして、身体中に薬品や油絵具のにおいを沁み込ませていた。あまりにもしつこくやってくる子どもに、その男は始め全く興味を向けてくれなかったが、そのうち仕事の手元を飽くことなく見つめ続ける目に、ようやく顔を上げた。
「お前もやってみるか」
 男が、ローマで、いやイタリアで随一と言われる修復師だと知ったのはずっと後のことだ。修復学校をトップの成績で卒業し、最高の工房で腕を揮いながら、はずみとは言え女を殺して何年か刑務所に入っていた。刑務所は古い城を改装してあって、その食堂のぼろぼろになったフレスコ画を、男は入所中に頼まれもしないのに修復し始めた。当時を知る元服役囚は、神が降りていたと語った。その姿を見た服役囚たちは、堀の外にいる家族や友人たちに援助を求め、ささやかながらも刑務所の中とは思えないほどの修復材料が集められたという。今では刑務所のその場所は観光地になっていた。
 修復師はエウジェニオという名前で、奇しくもジョルジョ・ヴォルテラを愛してくれた教皇の本名と同じだった。一匹狼で、半端ではない技術を持ち、噂では表に出せないあらゆる芸術品を修復しているらしいと言われていた。弟子を取ることなど全く考えてもおらず、飲んだくれでいい加減な男で、気が向かなければどれほどの金を積まれても仕事を断った。大金が入ると、場末で身体を売る女たちに全て振舞った。修復師が殺してしまった女もまた、身体を売って糊口を凌いでいたので、禊の気持ちだったのかもしれないが、修復師はそのことを誰かに説明したこともなかった。
 ジョルジョが初めて叔父に無断で外泊したのは十一の時だった。修復師は定まった家を持っておらず、その時はローマでも有名な東洋芸術の収集家の屋敷に泊まりこんでいた。収集家はまだ若い四十代の実業家で、ほとんどをアメリカで過ごしているのだと言った。背の高い、黒髪の、精悍な顔つきの男だった。
 いつも修復師が飲んだくれている酒場を突き止めていたジョルジョが、いつもの席で彼を見つけると、修復師は楽しそうに言った。
「坊主、いいものを見せてやろう」
 その時に初めて見た写楽の版画。
 ジョルジョは衝撃を受けた。背徳の絵だと思った。そう思ったのに、一枚一枚見るごとに惹き付けられ、目を離すことができなくなった。人間の顔と身体のバランス、指と顔のバランス、目と鼻と口のバランス、全てが出鱈目だった。こんなものは神が整えた秩序に基づいた人間の顔、身体ではなかった。それなのに、その絵にはジョルジョが知らない真実が埋め込まれ、吹き上がり、彼の体の中に確かに居場所を見出したようだった。
「坊主、世界には色んな神がいる。お前が見知っている世界にはない、とてつもないへんてこりんな真実がある。この絵を描いた画家の国にはな、八百万の神がいるらしいぞ。しかも悪魔まで神だ。神というのは『奇しきもの』ということだ。悪魔でも鬼でもみんな神、と呼ぶらしい。面白いだろう。世界は俺やお前が思っているよりも、ずっとでかい」
 その夜、ジョルジョは収集家が喜んで彼の前に広げてくれた東洋の日本という小国で生まれた芸術を、溢れんばかりの『奇しきもの』を飽くこともなく見続け、時間の概念も失い、魂をその小さな国に飛ばし続けた。
 収集家はさらに、ジョルジョに春画を見せてくれた。男と女が睦み合い、あられもなく晒された性器の描写には屈託もなく、女性器に挿しいれられた男性器の大きさなど現実のものとは思えず、しかしそこに施された色彩の細やかなこと、艶やかなこと、着物の模様のひとつひとつの精巧さ、鬢を描いた一本一本の線の踊るような流れ、版画としての技術の高さ、そして最高級の和紙の手触り、全てがジョルジョを魅了し興奮させた。男性同士が絡むものもあり、そのモチーフについてはギリシャの壷にもいくらでも描かれていたので驚きもしなかったが、やはりそこから立ち昇る健全な、あるいはあっけらかんとしたエロスからは、不思議な生命力を感じた。そこには背徳という言葉の付け入る隙など全くなかった。
「この春画という分野には、最高級の技術と素材が使われている。どの国でも助平な絵が一番高く売れる、だからいい材料を使う。分かるか、この手触り。奉書という最高級の和紙だ。百回重ね刷りをしても耐えるという話だ。日本の和紙があればフレスコ画の修復だって、もっと上手くいく」
 その日から数日、ジョルジョは屋敷に戻らなかった。二日目の夜、興奮を醒ますように、収集家の男に身体を任せた。それが背徳であるという概念が、その時なかった。もっとも、男のものを受け入れる準備はジョルジョにはなかったし、収集家もソドミアンというわけでもなかったようで、行為自体がうまくいったわけではなかった。だが誰かとベッドを共にし、性的な興奮を分かち合うという行為は初めての経験だった。ジョルジョと収集家は手と唇でお互いのものを満足させ、裸で抱きあって眠った。
 修復師はその夜も仕事をし続けていた。
 その収集家と、その時は二度と同じような事態に陥らなかった理由は簡単だった。叔父に見つかり、連れ戻され、その収集家にジョルジョが『ヴォルテラの次代当主』であることが知れたからだった。叔父は一度の外泊や火遊びなどで、次代当主を追い込むようなことは何も言わなかったし、しなかった。しかし、その一瞥だけで、収集家もジョルジョも縮み上がるような気持ちになった。『ヴォルテラの次代当主』というのは、まさに全ての理屈も欲望も黙らせる効果がある単語だった。
 だが、ジョルジョは修復師のところに通うことは辞めなかった。そのうち叔父、チェザーレが本当に怒り出すのは時間の問題だと思っていた。認めてもらうために、ジョルジョはこれまで以上に叔父の望む勉強をし、スポーツをこなし、その後で大概は夜中仕事をしている修復師のところに行った。
 真夜中の教会やアトリエに灯された明かりの中で修復をする男の横顔には、鬼気迫るものがあり、そこには確かに神が宿っていた。あるいは悪魔も魅せられていたのかもしれない。時折ジョルジョは、背を丸めて座り込み仕事をしている修復師の背後に、天使や悪魔、あらゆる聖獣や悪魔に従う穢れた獣たちまでもが、同じ空間を分け合うようにして修復師を取り囲み、彼に力を与え、一方ではその手から紡ぎだされるひとつの技にも溜め息を零して魅入っている姿を認めた。
 もっとも修復師はいつも仕事をしているわけではなく、時々は全く飲んだくれているだけの時もあったのだが、そんな時はジョルジョはその酒に付き合うようになった。修復師は酔うと必ず、自分が刑務所に入っている間に亡くなったという母親の話をした。それを聞きながらジョルジョは、修復師が刑務所のフレスコ画を修復していたのは、母親への贖罪と思慕の故だったのだろうと想像していた。ジョルジョも見に行った事があるその刑務所のフレスコ画は、受胎告知の場面だったのだ。
「チェザーレも頑固だが、お前も頑固だな」
 ドットーレ・ビテルリ、ヴォルテラのお抱え医師が頭を掻きながら言った。
「いい加減にしないと倒れるぞ。お前、ほとんど寝てないだろう」
 眠る時間は惜しかった。それにジョルジョはまだ、叔父の期待に応えたいと思っていた。それを疑ったことなど一度もなかった。
 東洋の芸術にも憧れたが、やはりルネサンス期の絵画はジョルジョを幸福にした。ある時、修復師についていった別の収集家の家で、彼はそのジョルジョーネに出会った。
 それは小さな絵だった。美しい天使には、あらゆる穢れのない聖なるものと、零れだすような背徳のエロスが鬩ぎ合い、その目のうちで生き生きと踊っていた。ジョルジョは天使に見惚れ、修復師のいない時もその収集家の家に通うようになった。一枚の絵がこれほどに人を惹きつけるのかと、自分自身ながら驚くような気持ちで絵を見つめ続けた。
 収集家は有名なソドミアンだった。しかし、そんなことはジョルジョーネに魅せられていたジョルジョの意識の中に全く入っていなかった。
「そんなに欲しいなら、その絵を君にあげようか」
 ジョルジョが驚いたように収集家を見ると、収集家は淡々と条件を突きつけてきた。週に二度、半年付き合ったらくれてやると言われた。
 この絵のためなら大した要求ではないと、そのときのジョルジョは思った。初めてその男に抱かれたとき、ジョルジョにはそれが神への背徳だという意識が、やはりあまりなかった。痛みに耐え、行為に慣れることで精一杯だったからかもしれない。それにジョルジョ自身はこれによって快楽を覚えたという記憶がなかった。ただ通り過ぎるのを待ち、男の欲望を満たしてやっただけだった。そんなことくらいでは、ジョルジョの気高い精神も身体も穢されることはなかった。
「君は、何て美しいんだ。この身体に私を埋めていると思うだけで幸福だよ」
 男は行為の間中、ジョルジョの耳の中へ囁き続けた。だが男は徐々に本性を現し始め、行為は激しく苦痛を強いるものへと変わっていった。男は器具を持ち出し、ジョルジョの身体には呑み込めないほどの大きなものを試し、あるいはジョルジョの身体を縛り尿道口に管を入れたり、石鹸水を腸に注ぎ込んだりするようになった。ジョルジョは二ヶ月で音を上げ、いつかその絵を力ずくで奪ってやると宣言して収集家と決別した。
 ちなみに、ローマを出奔する少し前に、ジョルジョは宣言どおりジョルジョーネの天使を戴きに行った。もちろん、力ずくだった。あとになって請求書が送られてきたが、しっかり二か月分は値切って払ってやった。
 そのソドミアンの収集家と決別した後、叔父は何も言わなかったが、ある日、綺麗に着飾った美しい女がジョルジョの部屋にやってきて、ジョルジョとベッドを共にした。豊満な身体とほっそりとした腕を持つ、まだ二十代の女性だった。女は高級娼婦でマリアと名乗り、時に上品に、時に淫らに、まだ少年であるジョルジョを導いた。三日三晩、ジョルジョは女に抱かれ、女を抱き、生まれて初めて性的な快楽を覚えた。女の身体は恐ろしいくらいに優雅で優しく、ジョルジョを締め付ける場所はきつく猥らで、その厚く小さめの口いっぱいにジョルジョを銜えると、若くて際限のない彼の欲望を全て満たしてくれた。
 その三日が過ぎると、突然、ジョルジョはフィレンツェの神学校に放り込まれた。恐ろしく戒律の厳しいところで、もちろん付き添ってきた叔父の腹心たちは、その間も教育の手を抜かなかった。性的な興奮を知ったジョルジョの身体は、実に地獄を見たような状態だった。貞操帯でも嵌めてくれたほうがまだましかもしれないと思うくらいで、眠る時に自慰をすることさえできないほどに疲れ果て、その分昼間、神の前でははしたない想像に苦しみ続けた。
 初めて、今度は快楽に溺れるという背徳の恐怖を味わう破目になり、ジョルジョは身体の芯まで染みとおっていた神の戒律に、自分がいかに忠実な僕であるのかを知った。祈りの場所でジョルジョは襲い来る悪魔と闘わなければならなかった。小さな洞窟のような一人きりの部屋で、何度女の幻を見て、何度自分のものに触れようとしたか分からない。それでもそれが背徳だという意識と戦い続けた。
 食事が咽喉を通らなくなったジョルジョを随分と心配してくれたのは、ジュリオ・カヴァリエーリという名前の二つ年上の修道士だった。穏やかな整った顔つきの、ナポリ出身のジュリオは、浅黒い肌に黒い目をしていて、実に滑らかに神の言葉を取り次いだ。低いバリトンの声で語られる神の言葉は、この若い修道士の将来を確かなものにしているように思えた。
 そんな中であっても、絵との出会いは、いつもジョルジョをあり得ないほど幸福な世界に導いた。疑うことなど考えられなかった神の戒律を追求し、断食の状態でジョルジョは幾つも教会を渡り歩き、祈りを捧げ続けた。
 そして、その日、ついに運命のイコンと出会ってしまった。
 正教の教会に足を踏み入れることは幾らかの躊躇いがあったが、やはりジョルジョは運命に導かれるようにその小さな教会に足を踏み入れた。
 教会、ではなかったのかもしれない。そこはその画家のアトリエだったのだろう。画家は板に鼻を押し付けるほどに引っ付いて、汗を垂らし、目を血走らせながらキリストを描いていた。一歩、画家の絵に近付き、そのキリストの目を見たとき、ジョルジョはこれまで何を見たときよりも驚き、心の臓を鷲摑みにされたような恐怖に奮え、そして己の運命さえ垣間見たような感覚に陥った。
 画家が描いていたのは、磔刑のキリストの表情で、その目には明らかに死の恐怖と神への不信と、彼を裏切った人間たちへの怒りと絶望が籠められていた。
 これこそ、背徳のイコンだった。
 写楽の絵、日本の春画を見たときの衝撃はもちろんだったが、それは異郷の神のもとで成立した芸術だった。だが、これはジョルジョと同じ国の人間が、ジョルジョと同じ神を持つ土壌で描いた絵だったのだ。
 その絵の中に明らかに燃え上がる背徳の火。それを目にした日が、ジョルジョ・ヴォルテラにとって、最後通牒を受け取った日だったのかもしれない。
 画家は振り返り、一瞬、ジョルジョを見て、また板のキャンバスに食いついた。
 そしてジョルジョはこの画家の絵の虜になった。
 少年に過ぎなかったジョルジョに、自分の感情や欲情をコントロールする術など何もなかった。始めのうち、ジョルジョに一瞥をくれるだけだった画家は、そのうちジョルジョをモデルに絵を描くようになった。全てキリストの顔だった。ジョルジョは画家の描いたキリストの苦しむ表情に、自分自身の苦悩を投影し、画家が自分の苦しみを感じ取ってくれているのだと理解し、そして幾度も涙を流した。画家の方もますます苦しみながら絵を描くようになり、ある時、ジョルジョは、それは画家が自分を求めているからだと知った。ジョルジョは己の苦しみを、その本質がただ女への欲情とは思えない、自己の存在における何か根本的な苦悩を、今から苦しみ抜かなければならないのだという事実に震えた。ひどく意地の悪い悪魔が身体のうちに湧き上がり、ジョルジョは画家に言った。
「触れたいなら、触れたらいいよ」
 手に触れさせ、怯える画家の手を肌に引き寄せた。唇を許したが、その次には拒んだ。画家の描くキリストはますます苦渋に満ち始め、ジョルジョは自分が恐ろしく興奮していることを感じた。もう女の身体のことは忘れてしまっていた。その時描かれた全てのイコンのキリストに、ジョルジョは興奮し続けていた。画家はどんどんやつれ始め、その目が精気を失っていくと、イコンの中のキリストの目は光を吸い込んで妖しく光り、苦悩に悶え、神を呪う言葉を吐き出しそうな唇が、今にも動くように思えた。
 画家が飢えた目でジョルジョを見つめていたある日、ジョルジョは画家に自分のものを触れさせた。画家はジョルジョを床に押し倒したが、その狂った目をジョルジョは恐れもなく見返した。
 画家がその少年を恐れた理由ははっきりしていた。高貴な、本来ならその画家の手に入るようなものではない血が、生れ落ちた瞬間には定められていた運命に従い、この世の神の王国の最高位にある教皇の祝福を受け続けた血が、ジョルジョの頬にも唇にも目にも浮かび上がっていたはずだった。画家は怯え、何もできないまま、その日から狂ったように彫刻を掘り始めた。
 ジョルジョが一週間以上も経ってからその画家のアトリエに行ったとき、画家はもうこれ以上彫れないと思うところに来たのか、未完成なのか完成なのかわからない磔刑のキリストの彫刻を抱いて死んでいた。
 ジョルジョは、その彫刻のキリストの顔に怯えた。
 そこには神を裏切り、神を信じきることができず、苦しみ喘いでいるジョルジョ・ヴォルテラ自身の顔が刻まれていた。それは刻印だった。キリストを装ったこの顔の人間が、この画家を背徳の道へ追い込み、悪魔の囁きを耳に吹きかけ、罪を犯させ、そしてこの画家を殺したのだという、ダイイングメッセージだった。この画家を何よりも恐ろしい罪に追いやり、死に至らしめた犯罪者の顔、その顔を憎しみを籠めて、画家はこの石に刻み込んだのだ。
 正気が保てず修道院に走り帰った。塀を乗り越え、気持ち悪くなり吐き戻してしまったところに、見回りに来ていたジュリオ・カヴァリエーリが通りかかった。
「ジョルジョ、どうしたんだ」
 ジュリオは彼の部屋にジョルジョを連れて行ってくれて、着替えさせ、ベッドに横たわらせてくれた。ジョルジョは震えるままジュリオに抱きつき、その唇に唇を重ね、必死で求めた。ジュリオは驚きもせずにジョルジョを抱きとめ、舌までも求めたジョルジョに抵抗なく応えてくれた。やがて少し落ち着いてジョルジョが離れると、ジュリオはその頭を優しく撫でて言った。
「眠るといい」
「何も聞かないの」
「何を? 君がここに帰ってきてくれたことが嬉しいよ」
 ジョルジョはベッドに横になり、ジュリオに背を向けたまま、修道院の冷たい石の壁を見つめた。
「ジュリオ」
 ジュリオは聞いてるよ、というように髪を撫でてくれる。その手の温もりを感じたとき、ジョルジョの視界からは、壁の染みも小さなひび割れも消え霞んだ。
「魂は、どうしたら救われるんだろう。僕はいつも、自分がどこか欠けているような気がしてならないんだ。どんなに学んでも、どんなに心や身体を鍛えようとしても、僕はいつもどこかが欠けている。時々すっかり空っぽになってしまったような気もしてしまう。その空っぽに悪魔が簡単に棲み付いてしまう」
 ジョルジョは震える声で話しかけた。ジュリオはまだ黙ったまま髪を撫でてくれている。
「本当は、どうやって神を愛したらいいのか分からない。人を愛したらいいのかも分からない。僕はずっと一人だ。神はいつも答えをくれない」
「ジョルジョ、君は多分、とんでもなく沢山のものを持って生まれてしまったんだね。自分で気が付いていないのかもしれないけれど、君は、外から見える姿も心の内も、本当に綺麗なんだよ。人々は自然に君を愛し、君を神の国から遣わされた確かなこの世の王と認めるだろう。それなのに、君はずっと怯えた顔をしている。神に答えを返さなければならないと思うからかい? 僕が知っている神は辛抱強いことが取り柄でね、君が答えに辿り着くまで、君の一生分だって待ってくれると思うよ。君の世界は光に満ち溢れている。君の道の先にはきっと、君の求めるものが待っているはずだよ。怯えないで」
 まさにジュリオ・カヴァリエーリは神に遣わされた僕だった。いつか本当にそんな日が来るのかどうか、ジョルジョには全く見当もつかないままだったが、ジュリオの言葉になら騙されてもいいのかもしれないと思った。
 だが、その日からジョルジョは魘されるようになり、一人になると、あの画家の魂が傍らに立っているように感じて気がふれそうになった。この街にいたらきっとおかしくなってしまうと思い、逃げ出すようにローマのヴォルテラの屋敷に帰った。チェザーレは、神学校を抜け出してしまったことについては何一つ追求せず、まるでジョルジョがずっとそこにいたかのように扱った。
 それからのジョルジョは全く問題行動も起こさず、叔父の与える課題を全て淡々とこなし、ただ本を読み続け、身体を鍛えた。光も何も見えなくなり、日々は諦念の気配に満ちてさえいた。
 ひとつ年上の従兄のリオナルドが、いつも心配そうにジョルジョに話しかけてくれた。大丈夫だと答えても、やはり信用していないのか、リオナルドは、夜中にこっそりチェザーレの部屋から最高級のコニャックやシャンパンを盗み出してはジョルジョのところに持ってきてくれて、二人は床に座り込み、身体を引っ付けるようにしてベッドの陰に隠れるように凭れ、何時間も歴史や古代の遺跡について、時にはサッカーの試合の結果を語り合い、そのまま互いに凭れるようにして眠った。リオナルドがいなかったら、ジョルジョは自分がおかしくなっていたかもしれないと思っていた。チェザーレの姿を見る限り、ヴォルテラの主人というのがいかに孤独な仕事であるのか、十分に感じられたからかもしれない。
 そのことを分かっていたからなのか、あの修復師のところに通うことだけは、チェザーレも咎めなかった。週に二、三度は会いに行き、修復技術の全てを学び、実際に助手として仕事をこなせるようになっていた。修復師はたまに仕事の手を止めて、ジョルジョの手を見つめ、それから何も言わずに元の作業に戻った。時には、言葉なく手を叩かれることもあった。その理由を言葉で教えてくれることはなく、ジョルジョが修復師の求める答えを察してやり直すと、修復師は何も言わず、褒めることもせずに、頷きながらまた自分の作業に専念した。

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Category: ☂海に落ちる雨 始章

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コメント


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クラシックな世界観ですね。
いつの時代なんだろうという感じですが、ジョルジョは大和竹流君っぽい。
ゾクゾクします。

手すき和紙は、実際にヨーロッパの壁画修復に使われていますよね。

読むのが遅くてすいませんが、ゆっくりと読ませて頂いています。

しのぶもじずり #em2m5CsA | URL | 2013/04/23 14:29 [edit]


しのぶさん、ありがとうございます!

このジョルジョの少年時代は1960年代です。彼は1947年生まれ、ヴォルテラの先代がファシズムの抵抗勢力に加担して謀殺された年に、生まれ変わりのように出生しております。多分、世界大戦が終わり、世界は前に進んでいくと思われた頃ですね。ついでに東西冷戦のころ^^;
この話、実は結構昔の話でして、どうしてそういう設定になっているかと言うと、真の息子(慎一といいます)の時代が現代に設定されていたからなんです。それに、ジョルジョ・ヴォルテラの家系と背景からは、どうしてもローマ教皇の年譜に合わせる必要がありまして……
だから、少し前のバブルになるちょっと前、昭和の後半のころを思いながら書いております。実は【海に落ちる雨】ではかなり時代背景をみっちりと感じていただけるようにしているつもりなのですが…違和感がないように書くのが結構大変でして。
印象としては【北の国から】時代でしょうか。
特に、電話。つながらない、伝わらない、もどかしい、という感じを、今更書いてる場合じゃないのかも~とか思いつつ、あのもどかしさが良かったんだよ~という気持ちもあり。
でも、ま、時代は時代として、どんな時代にも変わらないものこそを書けたらいいかな、と思っておりまする。
あ、おっしゃる通り、ジョルジョ=竹流です(^^)
主人公二人と、それぞれの父親(義理含む)との関係が分かるようにという友人の助言により書いたのが、この二つの始章なのです。

そして、そうなんですね。
和紙って本当にすごいですよね。歌舞伎に和紙の着物もでてくるんですが、本当に強い。珈琲も和紙のフィルターだと美味しいし、【清明の雪】でも紙にはかなりこだわったりしておりました(^^)
修復にも欠かせない和紙。
そのうち、紙の話を書くかも????

わたしもまた、ゆっくり遊びに行かせてください。
沢山あって、前からちらちらと読んでいたのですが、結構途中から入ってたりもしたので、ゆっくり最初から読み返してみようと……
軽妙なテンポと、本歌取りっぽい手法が面白くて、いいなぁ、と思って読ませていただいております。

大海彩洋 #XbDIe7/I | URL | 2013/04/23 23:35 [edit]


引き込まれます!

しょっぱなから、ジョルジョ少年を取り巻く世界と彼の内なる苦悩に、気持ちを掴まれました。
彼が竹流なんですね。
いやあ、この少年期。かぜん、竹流という人物に興味が湧きました。
そういえば、彼のことはわからないことだらけでしたから。
大変な運命を背負って、生まれてきたのですね。
感受性の強さゆえの苦悩が、伝わってきて苦しい。
画家との、危うい駆け引きのくだりが、なんともく~~っときました。
子供ならではの無鉄砲さと残酷さと好奇心と本能と。
これは、普通の人生を歩むはずがない。
このあと、どんなふうに成長し、真と出会うのか。ワクワクです。

lime #GCA3nAmE | URL | 2013/04/25 18:01 [edit]


limeさん、ありがとうございます

実は、この始章は、全編を書き終えて、後から書いたものなんです。友人が、この話は二人の生い立ちが分からないと、理解に苦しむかも、と言うアドバイスをくれたので、書いてみました。もっとも、これを読んでから本編に入るか、本編を読んでから入るかでは、印象がずいぶん違うんだろうなぁと言われましたが…

特に、竹流のほうは、頭にはあったのですが、こんなにも具体的に書く日が来るとは思っていなかったので、彼の幼少期を書くのは結構楽しい作業だったのです。別の友人はこれを読んで、竹流さんって凄絶な幼少期だったのね、と一言。はい…本当にね。
多分、全編の中で、一番か二番に『筆が走った』章だったと思います。
このお話、人と人との関係が濃密で濃厚で、息苦しい感じがするかもしれませんが、その中でも特に、色々な形の親子(疑似親子含む)関係が出てきます。竹流の場合には、叔父であるチェザーレとのどうしても離れられない関係を読み取っていただければ、と思います(^^)
色々な部分を深く読み取ってくださるlimeさんが満足していただけるかどうか…かなり心配ですが、今しばらく竹流=ジョルジョの苦悩に付き合ってやったくださいませ。
このヨーロッパ大河ドラマ、私が見て育った映画の影響としか思えません…^^; すぐ影響を受けて、お恥ずかしい限りです^^;

大海彩洋 #XbDIe7/I | URL | 2013/04/25 22:04 [edit]


この重量感がある文章がすごいですね。
私はライトな書き方ですからね、こういうのを書けるのは尊敬しますね。いや、本当に凄いです。
歩く足音や、風景が広がってくる文章はかなりのものだと思います。また読ませていただきますね~~。

LandM #- | URL | 2013/11/15 05:18 [edit]


LandMさん、ありがとうございます(^^)

すみません^^;
そうなんですよ。もともと、ノートに余白を作らないでどこまで書けるか、なんて遊びを高校生の時からやっていた私は、結構字を詰めてしまう癖がありまして……
最近は反省して、できるだけ空白も作るようにしているのですけれど……
中身も重量感があったらいいのですけれど、見せ掛けだけだったりするので^^;
LandMさんのライトさもすごいと思います。散文をどこまで詩的にできるか、省けるものを極力省くというのは、わたしにとってもっとも難しい作業なので、ここまでシンプルにできるのがすごい、と思いながら拝読しております。
この、【海の落ちる雨】は本編を書き終わってから書き足したので、気合が入っていました^^;
読んでいただいてお褒め頂くと、ちょっと嬉しくなります。
でも、まさか次にここに来ていただけたとは…・・驚きと、ちょっと恥ずかしい気もしています。
よろしければ、ちょっと片目をつぶりながらお付き合いいただけると嬉しいです。
(結構とんでもない話なので…) 
いつもありがとうございます(*^_^*)

彩洋→LandMさん #nLQskDKw | URL | 2013/11/16 04:38 [edit]


こんばんは

とうとうこちらのお話を読ませていただきます。
まずは始章ということで、竹流=ジョルジョの
少年時代のお話なのですね。
このお話は本編に入るまでに二人の生立ちがわかっていたほうが
理解が深まるのでは、というお友達の助言があって執筆されたとの
ことですが、なるほどとそれも納得させられるような、
なんとも複雑なジョルジョの内面をうかがわせます。

竹流の西洋的叡智、これまでは言葉でぼんやり理解していた
だけだったのですが、このお話を読むと思っていた以上に
その洗礼は深くて濃くて拭い難いものだったのだなと。
よりいっそう竹流→真という構図が禁忌的なものに感じられてきました。
竹流にとって西洋的叡智は、もう自分と一心同体化した
血よりも近しいものなのですね。
これをのちにゆさぶることに真は、竹流には脅威だっただろうな〜‥‥(^^;)
と改めて。

脅威といえば、写楽の版画。
それに伴う日本という小国の八百万の神という概念。
このとき受けた衝撃は、のちに真に出逢う際の
「下地」になったのかな〜なんて勝手に想像しちゃいました。
出鱈目なのにそこには「答え」があったというような。

性に関しても、背徳を感じたときとそうじゃなかったときが
彼のなかではきっちり線引きされていて、
そのあたりにも、日本の春画の背徳と、ギリシャの壷の健全なエロスとの
対比を感じさせられました。
うん、こうして見てみると、小さいころからやはり竹流は、自分の
感情や行動を徹底的に言葉にし具象化しようとする素地が
培われてるなと感じさせられました。

思ったのですが、真も竹流も「父性的なもの」にすごく縛られているように
感じます。
これは、自分に父親がいないので、わたしがそういった部分を投影している
だけなのかも^^
でもそれだけに、この二人の「父的なもの」へ対する慟哭とかが
引き込まれます。

見当違いな解釈ばかりかもしれないですが……
序章からすごく引き込まれます。
感想いつも長くてすみません(笑)

canaria #- | URL | 2016/06/24 20:17 [edit]


canariaさん、ありがとうございます(^^)

canariaさん、まさか引き続き読んでいただけるとは、ありがとうございます!!
えっと、こちらは……ちょっとブラックなお話で、『清明の雪』が白い話なら、黒い話と対比しております。舞台もあちこちに飛びますが、メインは東京なので、もっと現実味のある世界ですが、人物たちもさらにリアルな感じになっているかなと思います。とはいえ、たかが私の書くものなので、読んでいただくに耐えうる内容なのか、しかもやたらと長いので、途中でお疲れになって離脱される方もありそうな……適度に流しながら無理をなさらないように、でも読んでいただけるのはとてもうれしいです。

我が友人のアドバイスはなかなかいつも的を射ておりまして、うん、私もこの二人の幼少期からの話は頭の中で決めてあったのですが実際に文字に起こしてみると、結構楽しい作業になって、書きながらわくわくでした。
が!今読み返してみたら、なんちゅうわかりにくい! こうしてcanariaさんが読んでくださるので、過去を振り返ってみて、ちょっとぞっとしました。よくぞ皆さん、読んでくださっている!
読みにくくてほんと、すみません(;_;)

神の兵士のジョルジョの立ち位置、がわかるようにと書いていたのですが、この子自身が神の子のような面もあって、そういう「神々しさ」と内面の空洞の孤独さが伝わったらいいなぁと思いました。自分の内面の孤独にぴったりと当てはまるものは、内面に取り入れたら中から食い破ってくるようなやばいやつで、でも求めずにはおられない、そういう感じかもしれません。
真はきっと何にも考えていませんけれど、それだけに、竹流の方が何もかもつらかったでしょうね……だから真死語の話は『Eroica』なのですね。一人の、戦いきった英雄の物語。他人からは英雄に見えなくても……

> これをのちにゆさぶることに真は、竹流には脅威だっただろうな〜‥‥(^^;)
そうなんです! うん、ただただラブラブになり得ないのは、この脅威のせいなんですね。そこが実はすごく大事で、でもどうしようなくて。この物語の世界の根源のところにその「畏れ」があるのだと思います。うん、ほんとに、二人を的確に理解してくださって、とてもうれしいです。
竹流には日本のあのデフォルメはすごい世界だったでしょうね……うん、確かにそれが真を理解する時の素地になってるかも。いや、理解というのでは無くて、彼にとっては「頭で割り切れない、なんだかものすごいもの」の象徴だったのかもしれませんね。感性は鋭い子供だったので余計に感じてしまったのだと思います。
幼少時の彼は時々なんだか危ないこともしちゃっていますが、何しろこのヴォルテラの家の性質上、少々苦いものも飲み込まなくてはならないので、後で何とでも納められるものであるうちは、ヴォルテラの当主も何も言いません……
実は、このおじちゃん=現当主との関係性がこのお話のキーポイントであったりします。ボディブロー的に効いてくるので、竹流も、真も、結局親の手からは逃げられなかった、のかもしれないなぁ。ここにも多重構図。
実は、二人とも「父性的なもの」に縛られているというご指摘にどきっとしました。いや、この先にかなりはっきりとそういう描写も出てくるのですが、ここまででそれを感じてくださったのはすごいなぁと。二人とも父親不在なのではなく、圧倒的に影響力のある「父」という存在に振り回されちゃっているのですが、これはもう、本当に、この先をお楽しみください!としか言い様がなく……(ドキドキ(O_O))

canariaさんのおっしゃるとおり、デタラメなのに答えがそこにある……それって結構な怖いことですよね、こんなのが答えでいいのか? でも逆らえない、という……多分「答え」って数学的にきっちり収まるものとは限らないんでしょうけれど、竹流にとってはこれまでは大脳皮質を使って理解する・解明するものだったのに、いきなり大脳辺縁系にずどんと答えが来ちゃって、それは「ああなってこうなって、だからこうなのだ」じゃなくて「それか!」と一気に分かってしまうもの。でも、その強烈さに戸惑っちゃうんですよね。
性に関しては、皆さん、「え?」と思われてもあまり触れずに流してくださっていたと思うのですが、こうして初っぱなのこの部分で読み解いてくださってありがとうございます。はい、まさに、彼にとっては自分の身が真っ白であると感じていられるうちは何をしてもされても大丈夫だったのですね。この先の展開の中で、理屈無く暴力的なものがいかに恐ろしいかということに接するわけですが、本当に、人間の欲深さや衝動性って怖いなぁと。
あ、でも、春画のあの迫力は……いや、あれだけデフォルメしちゃったら、かえってもしかして健全なのかしら? あれって、その場面をのぞき見する小娘とかも描かれていたりして、その物語性が春画のすごいところかも。うちにも何冊か本がありますが、いや、あの配色は見事ですよね。芸術の粋を集めてここに力を入れちゃった過去の芸術家とその絵をみたいばっかりに金を惜しげも無く供出した支援者に感謝しなくちゃならないかも。あれで日本画の技術は高められていったと言っても過言では無いかも……芸術って金がかかりますものね。
あ、余談でした^^;

全然見当違いどころか、ドキドキしながらコメントを拝読いたしました。
あ~、私もはやくIIのコメをかきに行こうっと!
コメント、そして読み始めてくださって、本当にありがとうございます!!

彩洋→canariaさん #nLQskDKw | URL | 2016/06/26 07:30 [edit]

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